(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来の発光装置よりも太陽光に近い演色性に優れた光を発する発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]〜[6]の発光装置を提供する。
【0008】
[1]ピーク波長が411nm以上かつ421nm以下の光を発する発光素子と、前記発光素子の発する光の前記ピーク波長よりも長波長側にピーク波長を有する蛍光を発する蛍光体と、を有し、前記発光素子のみの発光スペクトルと前記蛍光体のみの発光スペクトルが、71nm以上かつ81nm以下の重なり代を有して重なり、前記重なり代は、前記発光素子のみの発光スペクトルにおけるピークの高さの0.1%の高さの点のうちの長波長側の点と、前記蛍光体のみの発光スペクトルにおける最も高いピークの高さの0.1%の高さの点のうちの短波長側の点との波長の差である、発光装置。
【0009】
[2]前記重なり代が71nm以上かつ79nm以下である、上記[1]に記載の発光装置。
【0010】
[3]前記重なり代が73nm以上かつ75nm以下である、上記[2]に記載の発光装置。
【0011】
[4]色温度が5000〜6500Kの光を基準光としたときの演色評価数Rf、RgがそれぞれRf≧97、99≦Rg≦102を満たす光を発する、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の発光装置。
【0012】
[5]前記蛍光体が、445nm以上かつ490nm以下のピーク波長を有する蛍光を発する第1の蛍光体、491nm以上かつ600nm以下のピーク波長を有する蛍光を発する第2の蛍光体、及び601nm以上かつ670nm以下のピーク波長を有する蛍光を発する第3の蛍光体を含む、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の発光装置。
【0013】
[6]前記第1の蛍光体として、2種のアルカリ土類ハロリン酸塩蛍光体を含み、前記第2の蛍光体として、β−サイアロン蛍光体及びCa固溶α−サイアロン蛍光体を含み、前記第3の蛍光体として、CASON蛍光体及びCASN蛍光体を含む、上記[5]に記載の発光装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の発光装置よりも太陽光に近い演色性に優れた光を発する発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施の形態〕
(発光装置の構成)
図1は、実施の形態に係る発光装置1の垂直断面図である。発光装置1は、凹部10aを有するケース10と、凹部10aの底部に露出するようにケース10に含まれるリードフレーム11と、リードフレーム11上に搭載された発光素子12と、リードフレーム11と発光素子12の電極を電気的に接続するボンディングワイヤー13と、凹部10a内に充填され、発光素子12を封止する封止樹脂14と、封止樹脂14中に含まれる粒子状の蛍光体15とを有する。
【0017】
ケース10は、例えば、ポリフタルアミド樹脂、LCP(Liquid Crystal Polymer)、PCT(Polycyclohexylene Dimethylene Terephalate)等の熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂からなり、射出成形又はトランスファー成形により形成される。ケース10は、光反射率を向上させるための二酸化チタン等からなる光反射粒子を含んでもよい。
【0018】
リードフレーム11は、例えば、全体またはその表面がAg、Cu、Al等の導電材料からなる。
【0019】
発光素子12は、典型的にはLED素子やレーザーダイオード素子である。
図1に示される例では、発光素子12はボンディングワイヤー13によりリードフレーム11に接続されるフェイスアップ型の素子であるが、フェイスダウン型の素子であってもよいし、導電バンプ等のボンディングワイヤー以外の接続部材によってリードフレームに接続されてもよい。
【0020】
発光素子12の発する光のピーク波長が長すぎると、発光装置1の発光スペクトルの短波長域(紫の波長域)の発光強度が弱くなるため、発光装置1の発光スペクトルを太陽光に近づけることが困難になる。このため、発光素子12の発する光のピーク波長が421nm以下であることが好ましい。
【0021】
一方、発光素子12の発する光のピーク波長が短すぎると、発光素子12の発光スペクトルのピークと蛍光体15の発光スペクトルのピークとの間のスペクトルの谷が大きくなって発光装置1の発光スペクトルを太陽光に近づけることが困難になる。このため、発光素子12の発する光のピーク波長が411nm以上であることが好ましい。
【0022】
封止樹脂14は、例えば、シリコーン系樹脂やエポキシ系樹脂等の樹脂材料からなる。
【0023】
蛍光体15は、発光素子12の発する光を励起源として蛍光を発する蛍光体であり、発光素子12の発する光のピーク波長よりも長波長側にピーク波長を有する蛍光体から構成される。蛍光体15は、発光装置1が発する光の演色性を高めるため、異なる波長域の蛍光を発する複数種の蛍光体から構成されることが好ましい。
【0024】
例えば、蛍光体15は、445nm以上かつ490nm以下のピーク波長を有する蛍光を発する青色系の蛍光体、491nm以上かつ600nm以下のピーク波長を有する蛍光を発する黄色〜緑色系の蛍光体、及び601nm以上かつ670nm以下のピーク波長を有する蛍光を発する赤色系の蛍光体を含むことが好ましい。
【0025】
445nm以上かつ490nm以下のピーク波長を有する蛍光を発する青色系の蛍光体としては、例えば、アルカリ土類ハロリン酸塩蛍光体を用いることができる。アルカリ土類ハロリン酸塩蛍光体の主な組成を以下の表1に示す。
【0027】
アルカリ土類ハロリン酸塩蛍光体は、付活剤であるEuやアルカリ土類金属であるCa、Sr、BaやMgの濃度を変えることにより発光スペクトルを変化させることができる。
【0028】
また、491nm以上かつ600nm以下のピーク波長を有する蛍光を発する黄色〜緑色系の蛍光体としては、例えば、Ca固溶α−サイアロン蛍光体、β−サイアロン蛍光体、ケイ酸塩蛍光体、窒化物蛍光体、LSN蛍光体、YAG蛍光体、又はLuAG蛍光体を用いることができる。これらの蛍光体の主な組成を以下の表2に示す。
【0030】
YAG蛍光体、LuAG蛍光体は、Gd、Gaや付活剤であるCeの濃度を変えることにより発光スペクトルを変化させることができる。
【0031】
また、601nm以上かつ670nm以下のピーク波長を有する赤色系の蛍光体としては、CASN蛍光体、SCASN蛍光体、又はCASON蛍光体を用いることができる。これらの蛍光体の主な組成を以下の表3に示す。
【0033】
CASN蛍光体、SCASN蛍光体、CASON蛍光体は、付活剤であるEuやアルカリ土類金属であるSr、Caの濃度を変えることにより発光スペクトルを変化させることができる。
【0034】
蛍光体15を構成する蛍光体の組み合わせやそれらの濃度比は、発光装置1の発光スペクトルが太陽光に近くなるように、例えば色温度が5000〜6500Kである朝から昼までの太陽光を基準光としたときの演色評価数Rf、Rgが100に近くなるように調整される。
【0035】
後述するように、発光装置1においては、発光素子12のみの発光スペクトルと蛍光体15のみの発光スペクトルが、71nm以上かつ81nm以下の重なり代を有して重なる。この場合に、色温度が5000〜6500Kの光を基準光としたときの発光装置1の発する光の演色評価数Rf、RgがそれぞれRf≧97、99≦Rg≦102を満たすように、蛍光体15を構成する蛍光体の組み合わせやそれらの濃度比が調整されることが好ましい。
【0036】
上記の演色評価数Rf、Rgは、北米照明学会(IES)によって定められた光の演色性の新しい評価方法「TM−30−15」において用いられる演色評価数である。
【0037】
Rfは色の忠実度を表すパラメータであり、99種の色についての試験により得られるため、国際照明委員会(CIE)によって定められた演色評価数(CRI)で用いられる平均演色評価数Raよりも高い精度で色の忠実度を評価することができる。Rfの上限は100であり、100に近いほどテスト光の色が基準光(太陽光等)の色に近いことを示す。
【0038】
Rgは従来の評価方法にはなかった色の鮮やかさを表すパラメータである。Rgが100に近いほど、テスト光の色の鮮やかさが基準光(太陽光等)の色の鮮やかさに近いことを示す。Rgは100より小さい値も大きい値もとり得る。
【0039】
発光素子12のみの発光スペクトルと蛍光体15のみの発光スペクトルは、71nm以上かつ81nm以下の重なり代を有して重なる。ここで、重なり代は、発光素子12のみの発光スペクトルにおけるピークの高さの0.1%の高さの点のうちの長波長側の点と、蛍光体15のみの発光スペクトルにおける最も高いピークの高さの0.1%の高さの点のうちの短波長側の点との波長の差である。
【0040】
なお、重なり代を、発光素子12のみの発光スペクトルの高さがゼロになる点のうちの長波長側の点と、蛍光体15のみの発光スペクトルの高さがゼロになる点のうちの短波長側の点との波長の差と定義せず、上記のように定義したのは、バックグラウンドノイズの影響を抑えるためである。
【0041】
発光素子の発光スペクトルと蛍光体の発光スペクトルの波長域が近いと、蛍光体が発した蛍光を発光素子が吸収してしまうため、通常は、発光素子の発光スペクトルと蛍光体の発光スペクトルの波長域は、ある程度離される。しかしながら、本実施の形態では、演色性を向上させるため、重なり代が71nm以上かつ81nm以下となるまで発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの波長域を敢えて近付けている。
【0042】
発光素子12が蛍光体15の蛍光を吸収することによる発光スペクトルの変化を考慮して、例えば、蛍光が吸収されやすい青色系の蛍光体(例えば445nm以上かつ490nm以下のピーク波長を有する蛍光を発する蛍光体)の蛍光体15における配合比を大きくすることができる。
【0043】
図2(a)は、発光素子12のみの発光スペクトルA、蛍光体15のみの発光スペクトルB、及び発光素子12の発する光と蛍光体15の発する蛍光の混合光のスペクトルCの例を示す。
【0044】
図2(a)に係る発光素子12はピーク波長が405nmの光を発する発光素子であり、蛍光体15は、組成の異なる2種のアルカリ土類ハロリン酸塩蛍光体、Ca固溶α−サイアロン蛍光体、β−サイアロン蛍光体、CASON蛍光体、及びCASN蛍光体で構成される。
【0045】
ここで、
図2(a)に示されるように、発光素子12の発する光のピークの高さ、蛍光体15の発する蛍光の最も波長の短いピークの高さ、発光素子12の発する光のピークと蛍光体15の発する蛍光の最も波長の短いピークとの間に形成される混合光のスペクトルの谷の高さをそれぞれI1、I2、I3とする。
【0046】
I1とI3の比の値であるI1/I3、及びI2とI3の比の値であるI2/I3が小さいほど、発光素子12の光と蛍光体15の蛍光の混合光のスペクトルにおける、発光素子12の発する光のピークと蛍光体15の発する蛍光の最も波長の短いピークとの間に形成される谷が浅くなる。
【0047】
図2(b)は、
図2(a)における、発光素子12のみの発光スペクトルAと蛍光体15のみの発光スペクトルBの重なり部分を拡大した図である。
【0048】
図2(b)中の点P1は、発光素子12のみの発光スペクトルAにおけるピークの高さI1の0.1%の高さ(点線L1)の点のうちの長波長側の点であり、その波長は472nmである。
【0049】
図2(b)中の点P2は、蛍光体15のみの発光スペクトルBにおける最も高いピークの高さI2の0.1%の高さ(点線L2)の点のうちの長波長側の点であり、その波長は407nmである。
【0050】
このため、
図2(a)、(b)の発光素子12のみの発光スペクトルAと蛍光体15のみの発光スペクトルBの重なり代は65nmである。
【0051】
なお、発光装置1の構成は、発光素子12と蛍光体15を有するものであれば、上述の
図1に示される構成に限られない。
【0052】
(実施の形態の効果)
上記の実施の形態によれば、従来の発光装置よりも太陽光に近い演色性に優れた光を発する発光装置を提供することができる。
【実施例】
【0053】
演色性が高くなる発光装置1の構成を求めるためのシミュレーションの結果を以下に示す。本実施例における演色評価数はいずれも色温度が5000〜6500Kの光を基準光としたときの値とする。
【0054】
まず、組成の異なる2種のアルカリ土類ハロリン酸塩蛍光体、Ca固溶α−サイアロン蛍光体、β−サイアロン蛍光体、CASON蛍光体、及びCASN蛍光体で構成される蛍光体15を用意した。次の表4に、蛍光体15に含まれる蛍光体の配合比(質量比)を示す。各蛍光体の配合比は、全ての合計が100質量%になるように選択される。
【表4】
【0055】
次に、ピーク波長が385nmの光を発する発光素子12の発光スペクトルと、蛍光体15の発光スペクトルをそれぞれ測定した。
【0056】
次に、測定により得られた発光素子12の発光スペクトルをピーク波長が395〜430nmとなる範囲でシフトさせることにより、発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの重なり代を変化させ、発光素子12の発する光と蛍光体15の発する光の混合光である発光装置1の発する光の演色評価数R1〜R8、R1〜R8の平均値である平均演色評価数Ra、特殊演色評価数R9〜R15、及び演色評価数Rfh,1〜Rfh,16、Rf、Rg、相関色温度(CCT)、色度座標Cx、Cyの値を算出した。
【0057】
ここで、演色評価数R1〜R8、平均演色評価数Ra、及び特殊演色評価数R9〜R14はCIE及びJIS(日本工業規格)により定められた値であり、特殊演色評価数R15はJISにより定められている。また、演色評価数Rfh,1〜Rfh,16、Rf、及びRgは、IESにより定められた値であり、色度座標Cx、CyはCIEにより定められた値である。
【0058】
図3(a)、(b)、(c)に、例として、それぞれ発光素子12のピーク波長が405nm、414nm、430nmであるときの発光スペクトルを示す。
【0059】
以下の表5、6に、シミュレーションにより算出した、発光素子12のピーク波長ごとの発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの重なり代、混合光のスペクトルの演色評価数Rf、Rg、Rfh,1〜Rfh,16、分光放射束比I1/I3、I2/I3の値を示す。
【0060】
表5、6の「波長」は発光素子12のピーク波長を意味し、「なし」は、発光素子12の発光スペクトルを含まず、蛍光体15の発光スペクトルのみを含むことを示す。
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
図4は、発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの重なり代と混合光の演色評価数Rf及びRgの関係をプロットしたグラフである。発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの重なり代が71nm以上かつ81nm以下の範囲で混合光の演色評価数Rf、RgがそれぞれRf≧97、99≦Rg≦102を満たす。
【0064】
また、発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの重なり代が71nm以上かつ79nm以下の範囲で混合光の演色評価数Rf、RgがそれぞれRf≧97、99≦Rg≦101を満たす。
【0065】
また、発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの重なり代が73nm以上かつ75nm以下の範囲で混合光の演色評価数Rf、RgがそれぞれRf≧97、Rg=100を満たす。
【0066】
以下の表7、8に、シミュレーションにより算出した、発光素子12のピーク波長ごとの混合光のスペクトルの平均演色評価数Ra、演色評価数R1〜R8、特殊演色評価数R9〜R15、相関色温度(CCT)、色度座標Cx、Cyの値を示す。
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
なお、本実施例では、発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの重なり代を変化させるため、発光素子12の発光スペクトルをシフトさせたが、発光素子12の発する光のピーク波長が411nm以上421nm以下の範囲にあれば、蛍光体15の発光スペクトルをシフトさせた場合及び発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの両方をシフトさせた場合であっても、発光素子12の発光スペクトルと蛍光体15の発光スペクトルの重なり代と発光装置1の発する光の演色評価数の関係は同様である。
【0070】
すなわち、発光素子12の発する光のピーク波長が411nm以上421nm以下の範囲にあるならば、発光素子12の発する光の波長や蛍光体15の発する蛍光の波長に依らず、演色評価数Rf、Rgを大きくするためには、重なり代が71nm以上かつ81nm以下であることが好ましく、71nm以上かつ79nm以下であることがより好ましく、73nm以上かつ75nm以下であることがさらに好ましいと言える。
【0071】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記の実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0072】
また、上記の実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。