【課題を解決するための手段】
【0008】
本件出願人は、上記課題を解決すべく先の出願(特願2016-111302)において振動測定方法を提案した。この振動測定方法(以下、「先願の方法」等と呼ぶ。)は、被検査物体に弾性波を励起する工程と、前記被検査物体の表面の測定領域にストロボ照明を行う工程と、前記弾性波の位相と前記ストロボ照明のタイミングを制御することにより、該弾性波の互いに異なる少なくとも3つの位相において前記測定領域各点の前後方向の変位を一括測定する工程と、前記少なくとも3つの位相における前記測定領域各点の前後方向の変位に基き、該測定領域における欠陥を検出する工程とを含んでいる。
【0009】
先願の方法では、時間波形が連続な周期関数で表される振動を測定対象とする。測定の際は、振動している対象物体の測定領域全域をレーザ光によって一括して照明する。照明は、レーザ光を所定の点灯時間幅tsで振動の位相と同期して点灯させ(ストロボ照明)、この位相同期点灯を多数回の周期に亘って繰り返すことによって行う。
【0010】
照明された対象物体の表面から反射された光(物体光)と、対象物体に照射しない光(参照光)を同一の面に導き、そこで両光を干渉させて撮影することで、干渉像が得られる(参照光法)。物体光と参照光の光路の相対的長さを変化させ、干渉像の各画素の輝度変化を測定することにより、各画素に投影されている物体光と参照光の光位相差を求めることができ、この光位相差から物体の各点における変位を求めることができる。この時求められる変位は、ストロボ照明された振動の位相時刻における変位である。ストロボ照明と振動の位相時刻の関係をシフトさせることで、異なる位相時刻での変位を計測することができる。振動が単一の周波数成分を持つものである場合、3点以上の位相時刻での変位を計測すれば、最小二乗法による近似によって元の振動の時間波形を再現でき、振動の振幅と位相を算出することができる。振動が、単一周波数ではなく第n次の高調波成分を含むものであった場合は、[2n+1]点以上の位相時刻で変位を求めることで、第n次の高調波成分の振幅と位相を求めることができる。
【0011】
このような測定を行う際、一回の点灯時間幅tsの間で振動による変位が生じると、得られる画像のコントラストが低下する。よって、コントラストの高い測定結果を得るためには、レーザ光の点灯時間幅tsは振動が近似的に静止していると見なせるほど短くする必要がある。一方、点灯時間幅tsをあまりに短くすると光量(の積算値)が低下してしまい、SN比が低下する。期待するコントラストに対する適切な点灯時間幅tsは振動振幅aの大きさによって異なるため、適切な点灯時間幅tsは測定したい振動に合わせて検討する必要があるが、通常は振動周期の1/8〜1/50程度とされる(非特許文献1、非特許文献2)。
【0012】
先願の方法を用いた測定では、測定領域が大きくなると各点における照度、すなわち単位面積あたりの光量が低下し、SN比が低下する。そこで、本発明者は、先願の方法を改良し、対象物体の測定領域が大きくなっても、コントラストの高い測定を行い、且つ、各点における照度を低下させることなくSN比の高い測定を行うことができる振動測定方法及び装置を検討した結果、本発明に想到した。
【0013】
上記事項を踏まえて成された本発明に係る第1の振動測定方法は、
a) 対象物体に振動を励起する工程と、
b) 前記対象物体の
表面の測定領域の一部の領域にレーザ光を照射し、該照射領域を前記測定領域内で移動させることにより、前記測定領域の各点において前記振動の位相と同期した時刻に、照明時間幅を前記振動の周期の1/3以下としたレーザ光を照射する工程と、
c) 前記測定領域の各点について、前記レーザ光を前記照射領域に照射する前に分割して取り出した参照光と、前記照射により前記点から反射してくる物体光の干渉光を測定する工程と、
d) 前記測定領域の各点について、前記参照光と前記物体光の相対的光路長を前記レーザ光の波長に応じた距離だけ変化させることにより、該点の
、前記表面の面外方向の変位を測定する工程と、
e) 前記測定領域の各点
の、前記振動の1周期内の相異なる3点以上の時刻における
、前記表面の面外方向の変位に基き、前記測定領域全体の振動の状態を決定する工程と
を含む。
【0014】
本発明に係る第1の振動測定方法では、対象物体に振動を励起しつつ(工程a))、該対象物体の測定領域の一部の領域(照射領域)にレーザ光を照射し、該照射領域を測定領域内で順次移動させる(工程b))。すなわち、測定領域をレーザ光で走査する。このとき、測定領域内の各点におけるレーザ光の照明時間は前記振動の周期の1/3以下とし、その照射時刻は、該振動の位相と同期した時刻とする。測定領域内の全ての照射点における照射位相時刻(振動の1周期内における位相位置)は必ずしも同一でなくてもよく、各点で異なる照射位相時刻であってもよい。
【0015】
このような測定領域の走査を、各点について前記振動の周期の1周期内の相異なる3点以上の照射位相時刻で行う(工程e))。各点におけるレーザ光の照明時間を振動の周期の1/3以下としたのは、このためである。本発明に係る振動測定方法では、測定領域の一部にレーザ光を照射し、これを該照射領域内で移動させるため、例えば前記振動の周期と同じ周期で走査する場合、点灯時間幅が前記振動の周期の1/3以上であるレーザ光源を用いつつ該測定領域の各点における照明時間幅を該振動の周期の1/3以下とすることができる。さらに、前記測定領域の1/3以下の領域にレーザ光を照射してこれを該測定領域内で移動する場合には連続光を発するレーザ光源を用いることもできる。
【0016】
このようなレーザ光照射による測定領域の走査の間、レーザ光を前記照射領域に照射する前に分割して取り出した参照光と、照射により対象物体から反射してくる物体光の干渉光を測定し(工程c))、これら参照光と物体光の相対的光路長を前記レーザ光の波長に応じた距離だけ変化させることにより、各点の
、前記表面の面外方向の変位を測定する(工程d))。これは従来行われている参照光法による変位測定法である。この方法では、変位の絶対距離を測定することができる。
こうして測定した、測定領域の各点における
前記表面の面外方向の変位に基き、測定領域全体の振動の状態を決定することができる(工程e))。
【0017】
対象物体の測定領域内に何らかの欠陥が存在する場合、その領域内の各点の
前記表面の面外方向の変位は、その欠陥の箇所において不連続的に変化する。本発明を用いて上記のように対象物体の測定領域における振動の状態を検出することにより、該測定領域内における欠陥を検出することができる。
【0018】
この方法を
図1により具体的に説明する。この例では、全測定領域A中の一部の領域である幅Wlの領域(照射領域)Pに照射して、その照射領域Pを1次元的に移動させる(走査する)。まず、振動周波数fvと走査周波数fsが同じである場合を考える。この時、照明エリアである照射領域Pの長さWlと測定領域Aの長さWmの比Wl/Wmを例えば1/8にすることで、測定領域Aの各点における点灯時間幅Tlは振動周期Tvの1/8となる。この走査の間、光源は連続点灯させることができるので、全測定領域Aを一括して振動周期Tvの1/8の時間幅だけパルス状に照射する従来技術の場合に比べ、8倍の高輝度化が可能である。
【0019】
このようなライン走査照明を用いて、従来技術と同様に光干渉計測を行い、振動による変位を計測する。さらに、走査と振動子の位相関係をシフトさせて3点以上の振動の位相時刻における変位を計測し、測定領域内の各点における振動の位相と振幅を求める。以下、振動子そのものの振動の位相時刻を「振動子位相時刻」と表現し、これを基準とする。本方法では、各点における照明が開始される振動子位相時刻(初期位相時刻と呼ぶ)が異なるが、求めた振動の位相を各点の初期位相時刻で補正することによって、全ての点で同一の振動子位相時刻での振動状態を算出することができる。
【0020】
次に、振動周波数fvと走査周波数fsが異なる場合について考える。この時、走査周波数fsは、測定対象の振動周波数fvの1/N(Nは2以上の整数)であればよい。これは、高い周波数の振動を測定したいが、用いる走査機構の走査可能な周波数の上限が振動周波数に満たない場合に有効である。例えば、振動周波数と走査周波数の比fv/fs=5の時には、Wl/Wm=1/40とすることで、Tl/Tvを1/8にすることができる。このように、ライン走査の時には、照明エリアと測定領域の長さの比を適切に設定することで、各点における点灯時間幅を制御することができる。
【0021】
上記例は測定領域をライン状の照射領域により1次元的に走査するものであるが、微小照射領域により2次元的に走査するようにしてもよい。
【0022】
また、上記事項を踏まえて成された本発明に係る第2の振動測定方法は、干渉光を得るための方法としてスペックルシェアリング法を用いた方法であり、
a) 対象物体に振動を励起する工程と、
b) 前記対象物体の
表面の測定領域の一部の領域にレーザ光を照射し、該照射領域を前記測定領域内で移動させることにより、前記測定領域の各点において前記振動の位相と同期した時刻に、照明時間幅を前記振動の周期の1/3以下としたレーザ光を照射する工程と、
c) 前記対象物体から反射してくる物体光を2分割した両光束に角度差をつけて干渉させることにより得られる干渉光を前記測定領域の各点について測定することにより、該照射領域内の近接した2点間の
、前記表面の面外方向の相対的
な変位を測定する工程と、
d) 前記測定領域の各点におけ
る、前記振動の1周期内の相異なる3点以上の時刻における近接した2点間の
、前記表面の面外方向の相対的
な変位に基き、前記測定領域全体の振動の状態を決定する工程と
を含むものである。
【0023】
上記いずれの方法においても、変位測定を行う、位相に同期した時刻の数は最低3であるが、位相に同期した時刻の数を[2n+1](nは2以上の自然数)以上とし、これにより前記測定領域の各点
における前記表面の面外方向の変位から対象物体に励起された弾性波のn次の成分(第n高調波成分)を検出することが好ましい。対象物体に欠陥が存在する場合、その場所において生じる前記の不連続的変化には高調波成分も多く含まれ、欠陥が小さいほどその割合が高くなるため、これを検出することにより、欠陥検出の精度をより高めることができる。
【0024】
上記第1の振動測定方法(参照光法)を実施するための本発明に係る振動測定装置は、
a) 対象物体に振動を励起する励振部と、
b) レーザ光源と、
c) 前記レーザ光源からの光を前記対象物体の表面の測定領域の一部の領域に照射し、該照射領域を該測定領域内で移動させる走査部と、
d) 前記励振部と前記レーザ光源と前記走査部を制御することにより、前記測定領域の各点に順次、前記振動の位相と同期した時刻に、照明時間幅を前記振動の周期の1/3以下としたレーザ光を照射する照射制御部と、
e) 前記測定領域の各点について、前記レーザ光を前記照射領域に照射する前に分割して取り出した参照光と、前記照射により該点から反射してくる物体光の干渉光を測定する干渉光測定部と、
f) 前記測定領域の各点について、前記参照光と前記物体光の相対的光路長を前記レーザ光の波長に応じた距離だけ変化させることにより、該点の
、前記表面の面外方向の変位を測定する変位測定部と、
g) 前記測定領域の各点
の、前記振動の1周期内の相異なる3点以上の時刻における
、前記表面の面外方向の変位に基き、前記測定領域全体の振動の状態を決定する振動状態決定部と
を備えるものである。
【0025】
また、上記第2の振動測定方法(スペックルシェアリング法)を実施するための本発明に係る振動測定装置は、
a) 対象物体に振動を励起する励振部と、
b) レーザ光源と、
c) 前記レーザ光源からの光を前記対象物体の表面の測定領域の一部の領域に照射し、該照射領域を該測定領域内で移動させる走査部と、
d) 前記励振部と前記レーザ光源と前記走査部を制御することにより、前記測定領域の各点に順次、前記振動の位相と同期した時刻に、照明時間幅を前記振動の周期の1/3以下としたレーザ光を照射する照射制御部と、
e) 前記対象物体から反射してくる物体光を2分割した両光束に角度差をつけて干渉させることにより得られる干渉光を前記測定領域の各点について測定することにより、該照射領域内の近接した2点間の
、前記表面の面外方向の相対的
な変位を測定する変位測定部と、
f) 前記測定領域の各点におけ
る、前記振動の1周期内の相異なる3点以上の時刻における近接した2点間の
、前記表面の面外方向の相対的な変位に基き、前記測定領域全体の振動の状態を決定する振動状態決定部と
を備えるものである。