特許第6805933号(P6805933)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805933
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20201214BHJP
【FI】
   H02J7/00 302C
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-69875(P2017-69875)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-174626(P2018-174626A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 直樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 成晶
(72)【発明者】
【氏名】種村 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】戸村 修二
【審査官】 高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−183658(JP,A)
【文献】 特開2016−213947(JP,A)
【文献】 特開2013−094058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 − 7/12
H02J 7/34 − 7/36
H01M 10/42 −10/48
H02M 3/00 − 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池を正側端子と負側端子に接続し電池からの電力を出力する接続状態と、電池を正側端子または負側端子から切り離し正側端子と負側端子を短絡するスルー状態とが、ゲート信号によって切り換えられる電池回路モジュールを、正側端子および負側端子を介して複数直列接続した電池回路モジュール群と、
各電池回路モジュールに対応して設けられ、ゲート信号を一定時間ずつ遅延させて伝達する複数の遅延回路と、最上流側の遅延回路にゲート信号を供給するとともに、最下流側の遅延回路から出力されるゲート信号を受け取り、各遅延回路における遅延時間の合計に基づいてゲート信号の周期を設定するコントローラと、を含み、ゲート信号を電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに対して一定時間ずつ異ならせてそれぞれ供給する、制御回路と、
を有する、電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電源装置であって、
制御回路は、ゲート信号の周期を各遅延回路における遅延時間の合計に等しく設定する、
電源装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電源装置であって、
制御回路は、
最下流の電池回路モジュールに供給されるゲート信号をトリガとして、最上流側の電池回路モジュールにゲート信号を供給する、
電源装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電源装置であって、
制御回路は、
遅延時間の合計をタイマによって計測する、
電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電池回路モジュールを備えた電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な電源装置が知られており、例えば、ハイブリッド車両や電動車両における走行モータの駆動に用いられる電源装置では、電池の電圧を昇圧コンバータで昇圧してインバータに入力している。
【0003】
特に、特許文献1には、バッテリ等の電池からの直流電圧をスイッチング素子のスイッチングによりDC/DC変換して、走行モータに出力するDC/DCコンバータと、DC/DCコンバータの損失特性に基づいてスイッチング素子のスイッチング周波数を設定する周波数設定手段と、この設定された周波数に基づきスイッチング素子をスイッチング制御する制御手段とを備えた電源装置が記載されている。この電源装置によれば、DC/DCコンバータの損失を小さくするスイッチング周波数を設定することにより、DC/DCコンバータを効率良く駆動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−116280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電源装置において、スイッチング素子やDC/DCコンバータに用いられる昇圧用リアクトルは、必要とされる電流容量や出力電圧に応じて設計される。また、それを収納する筐体も、使用する部品の大きさに応じて設計される。このため、スイッチング素子や昇圧用リアクトル、また、これらに関係する周辺部品等は、必要とされる電流容量や出力電圧に基づいて毎回、設計する必要がある。
【0006】
すなわち、電源装置は、求められる仕様(必要とされる電流容量や出力電圧)に基づいて毎回新たに設計する必要があり汎用性が低かった。また、昇圧のためのDC/DCコンバータが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電源装置は、電池を正側端子と負側端子に接続し電池からの電力を出力する接続状態と、電池を正側端子または負側端子から切り離し正側端子と負側端子を短絡するスルー状態とが、ゲート信号によって切り換えられる電池回路モジュールを、正側端子および負側端子を介して複数直列接続した電池回路モジュール群と、各電池回路モジュールに対応して設けられ、ゲート信号を一定時間ずつ遅延させて伝達する複数の遅延回路と、最上流側の遅延回路にゲート信号を供給するとともに、最下流側の遅延回路から出力されるゲート信号を受け取り、各遅延回路における遅延時間の合計に基づいてゲート信号の周期を設定するコントローラと、を含み、ゲート信号を電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに対して一定時間ずつ異ならせてそれぞれ供給する、制御回路と、を有する。
【0008】
また、制御回路は、ゲート信号の周期を各遅延回路における遅延時間の合計に等しく設定するとよい。
【0009】
また、制御回路は、最下流の電池回路モジュールに供給されるゲート信号をトリガとして、最上流側の電池回路モジュールにゲート信号を供給するとよい。
【0010】
また、制御回路は、遅延時間の合計をタイマによって計測するとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構成が簡素であり、所望の出力電圧に容易に対応することができ、汎用性が高い電源装置を得ることができる。そして、遅延回路による遅延時間の合計値をコントローラにおいて把握できるため、各電池モジュールに対し、適切なタイミングでゲート信号を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態における電源装置の概略ブロック図である。
図2】電池回路モジュールの概略構成図である。
図3】電池回路モジュールの動作を説明するタイムチャートである。
図4】電池回路モジュールの動作説明図であり、(a)は第1のスイッチング素子がON、第2のスイッチング素子がOFFした状態を示し、(b)は第1のスイッチング素子がOFF、第2のスイッチング素子がONした状態を示す。
図5】電源装置全体の動作を説明するタイムチャートである。
図6】遅延回路をスルーする切り換え回路を設けた例を示す図である。
図7】通常時のゲート信号の遅延の様子を示す説明図である。
図8】1つの電池回路モジュール10が異常でゲート信号の供給を止めた場合のゲート信号の遅延の様子を示す説明図である。
図9】1つの電池回路モジュール10が異常でゲート信号の供給を止めた場合のゲート信号の遅延の様子を示す説明図である。
図10】ゲート信号の遅延の様子を示す説明図である。
図11】ゲート信号の出力タイミングを説明するタイミングチャートである。
図12】電池回路モジュールの変形例を説明する概略構成図である。
図13】電池回路モジュールへのゲート信号の供給経路の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
「全体構成」
実施形態における電源装置1について説明する。図1は、電源装置1のブロック図を示している。図1に示すように、電源装置1は、複数の電池回路モジュール10(10a,10b,10c,・・・,10e)と、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eにゲート信号を出力して電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eをONOFF駆動する制御回路11とを備えている。
【0014】
電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eは、その正側端子+OTが負側端子−OTに順次接続されることで直列接続されており、電池回路モジュール群100を構成している。最上流側の電池回路モジュール10aの正側端子+OTが、電池回路モジュール群100の正側出力端子+OUTに接続され、最下流側の電池回路モジュール10eの負側端子−OTが電池回路モジュール群100の負側出力端子−OUTに接続されている。
【0015】
電池回路モジュール10は、複数の電池セルが直列接続された電池Bを有する。電池Bの正極は、チョークコイルL、第2のスイッチング素子S2を介し、正側端子+OTに接続されており、電池Bの負極は負側端子−OTに接続されている。正側端子+OTと負側端子−OTの間には第1のスイッチング素子S1が配置されている。また、チョークコイルLと第2のスイッチング素子S2との接続点と電池Bの陰極との間にはコンデンサCが配置されている。
【0016】
従って、第2のスイッチング素子S2をON、第1のスイッチング素子S1をOFFにすると、正側端子+OTと、負側端子−OTの間に、電池Bとコンデンサの両方が並列接続された直流電源となる(接続状態)。一方、第2のスイッチング素子S2をOFF、第1のスイッチング素子S1をONにすると、電池Bが切り離され正側端子+OTと、負側端子−OTが短絡され、この電池回路モジュール10は、スルー状態になる。なお、電池B、チョークコイルLおよびコンデンサCによってRLCフィルタを形成して電流の平準化を図り、電池Bの劣化を抑制している。
【0017】
第1のスイッチング素子S1および第2のスイッチング素子S2は、電界効果トランジスタとしてのMOS−FETである。第1のスイッチング素子S1および第2のスイッチング素子S2は、制御回路11からのゲート信号によってスイッチング動作される。なお、スイッチング動作可能な素子であれば、MOS−FET以外のスイッチング素子を使用することもできる。
【0018】
電池回路モジュール10には、制御回路11が接続されており、制御回路11から出力されるゲート信号が各電池回路モジュール10に供給される。このゲート信号は、各電池回路モジュール10において、第1のスイッチング素子S1および第2のスイッチング素子S2の一方をオン、他方をオフする。
【0019】
制御回路11は、コントローラ12を有しており、このコントローラ12が最上流側の電池回路モジュール10aに供給するためのゲート信号を出力する。制御回路11は、各電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eに対応して、遅延回路13(13a,13b,13c,・・・,13e)を有しており、各遅延回路13a,13b,13c,・・・13eによって遅延したゲート信号が、対応する電池回路モジュール10b,10c,・・・,10eに供給される。
【0020】
従って、各電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eにおける、第1のスイッチング素子S1および第2のスイッチング素子S2のスイッチングのタイミングは、遅延回路13a,13b,13c,・・・の遅延時間ずつ遅れることになる。
【0021】
そして、最下流側の遅延回路13eから出力されたゲート信号は、コントローラ12に入力されるようになっている。従って、コントローラ12は、自己の出力したゲート信号がすべての遅延回路13によって遅延された合計の遅延時間を把握することができ、これに基づいて、次のゲート信号を出力することができる。また、遅延時間の合計をゲート信号の周期に容易に一致させることができる。
【0022】
「電池回路モジュール10の動作」
次に、電池回路モジュール10の動作について図2、3を参照して説明する。図2は、電池回路モジュール10の概略構成図を、図3は電池回路モジュール10の動作に関するタイムチャートをそれぞれ示している。また、図3において、符号D1は、電池回路モジュール10aを駆動するゲート信号の矩形波を、符号D2は、第1のスイッチング素子S1のONOFF状態を示す矩形波を、符号D3は、第2のスイッチング素子S2のONOFF状態を示す矩形波を、符号D4は、電池回路モジュール10aにより出力される電圧Vmodの特性をそれぞれ示している。
【0023】
電池回路モジュール10の初期状態、すなわち、ゲート信号が出力されていない状態(ゲート信号がOFFの状態)では、第1のスイッチング素子S1はON状態、第2のスイッチング素子S2はOFF状態となっている。そして、制御回路11からゲート信号が電池回路モジュール10aに入力されると、電池回路モジュール10はPWM制御によってスイッチング動作する。このスイッチング動作は、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とが交互にONOFFすることによって行われる。
【0024】
図3の符号D1で示すように、制御回路11からゲート信号が出力されると、このゲート信号に応じて、電池回路モジュール10aの第1のスイッチング素子S1および第2のスイッチング素子S2が駆動される。第1のスイッチング素子S1は、ゲート信号の立ち上がりに応じて、ON状態からOFF状態に切り替わる。また、第1のスイッチング素子S1は、ゲート信号の立ち下がりから僅かな時間(デッドタイムdt)遅れて、OFF状態からON状態に切り替わる(符号D2参照)。
【0025】
一方、第2のスイッチング素子S2は、ゲート信号の立ち上がりから僅かな時間(デッドタイムdt)遅れて、OFF状態からON状態に切り替わる。また、第2のスイッチング素子S2は、ゲート信号の立ち下がりと同時に、ON状態からOFF状態に切り替わる(符号D3参照)。このように、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とは交互にONOFF動作する。
【0026】
なお、第1のスイッチング素子S1がゲート信号の立ち下がり時に僅かな時間(デッドタイムdt)遅れて動作することと、第2のスイッチング素子S2がゲート信号の立ち上がり時に僅かな時間(デッドタイムdt)遅れて動作することは、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とが同時に動作することを防止するためである。すなわち、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とが同時にONして短絡することを防止している。この動作を遅らせているデッドタイムdtは、例えば、100nsに設定しているが、適宜設定することができる。なお、デッドタイムdt中はダイオードを還流し、その還流したダイオードと並列にあるスイッチング素子がONしたときと同じ状態になる。
【0027】
そして、この動作によって、電池回路モジュール10は、図3の符号D4で示すように、ゲート信号がOFF時(すなわち、第1のスイッチング素子S1がON、第2のスイッチング素子S2がOFF)では、コンデンサCが電池回路モジュール10aの正側端子+OTから切り離されて正側端子+OTには電圧が出力されない。この状態を、図4(a)に示す。図4(a)に示すように、電池回路モジュール10の電池B(コンデンサC)をバイパス(スルー状態)している。
【0028】
また、ゲート信号がON時(すなわち、第1のスイッチング素子S1がOFF、第2のスイッチング素子S2がON)では、コンデンサCが電池回路モジュール10の正側端子+OTに接続されて正側端子+OTに電圧が出力される。この状態を、図4(b)に示す。図4(b)に示すように、電池回路モジュール10におけるコンデンサCを介して電圧Vmodが正側端子+OTに出力されている。
【0029】
ここで、ゲート信号のデューティー比は、電源装置1に対する出力電圧要求によって決定され、決定されたデューティー比のゲート信号が生成される。出力電圧要求は電源装置1から電力を使用するシステム側からの要求である。
【0030】
「制御回路11の動作」
図1に戻り、制御回路11による電源装置1の制御について説明する。制御回路11は、電池回路モジュール群100の全体を制御する。すなわち、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eの動作をそれぞれ制御して電源装置1としての出力電圧を制御する。
【0031】
上述したように、制御回路11は、矩形波のゲート信号を出力するコントローラ12と、コントローラ12から出力されるゲート信号を、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eに遅延させて順次出力する遅延回路13a,13b,13c,・・・,13eとを備えている。
【0032】
コントローラ12は、電池回路モジュール群100において直列接続されている電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eのうちの最上流側の電池回路モジュール10aにゲート信号を供給する。
【0033】
遅延回路13a,13b,13c,・・・,13eは、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eに対応してそれぞれ設けられている。遅延回路13aは、コントローラ12からのゲート信号を、一定時間遅延させて隣接する電池回路モジュール10bに出力するとともに、遅延回路13bに出力する。この結果、コントローラ12から出力されたゲート信号は、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eに順次遅延されて供給される。
【0034】
なお、遅延回路13a,13b,13c,・・・,13eは、電気的な回路構成としては制御回路11に含まれるものであるが、ハード構成としては電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eと一体化して構成することが好ましい。図1において、例えば、一点鎖線Mで示すように、遅延回路13bと電池回路モジュール10bとを一体化(モジュール化)して構成するとよい。
【0035】
図1において、コントローラ12から最上流側の電池回路モジュール10aにゲート信号を出力すると、電池回路モジュール10aが駆動されて、図4(a)、(b)に示すように、電池回路モジュール10aにおける電圧が正側端子+OTに出力される。また、コントローラ12からのゲート信号は、遅延回路13aに入力されて、一定時間遅延された後、隣接する電池回路モジュール10bに入力される。このゲート信号により電池回路モジュール10bが駆動する。
【0036】
一方、遅延回路13aからのゲート信号は、遅延回路13bにも入力されて、遅延回路13aと同様に、一定時間遅延されて、次に隣接する電池回路モジュール10cに入力される。以下、同様に、ゲート信号は遅延されて下流側の電池回路モジュールにそれぞれ入力される。そして、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eは、順次駆動されて、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eの電圧が各正側端子+OTに順次出力される。
【0037】
電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eが順次駆動される状態を図5に示す。図5に示すように、ゲート信号に応じて、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eが、一定の遅延時間を持って上流側から下流側に次々と駆動されている。図5において、符号E1は、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eの第1のスイッチング素子S1がOFF、第2のスイッチング素子S2がONして、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eが正側端子+OTから電圧を出力している状態(接続状態)を示している。また、符号E2は、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eの第1のスイッチング素子S1がON、第2のスイッチング素子S2がOFFして、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eが正側端子+OTから電圧を出力していない状態(スルー状態)を示す。このように、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eは、一定の遅延時間を持って順次駆動される。
【0038】
図5を参照して、ゲート信号やゲート信号の遅延時間の設定について説明する。ゲート信号の周期Fは、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eの遅延時間を合計することによって設定される。このため、遅延時間を長く設定すると、ゲート信号の周波数は低周波になる。逆に、遅延時間を短く設定すると、ゲート信号の周波数は高周波になる。また、ゲート信号を遅延する遅延時間は、電源装置1に求められる仕様に応じて適宜設定することができる。
【0039】
ゲート信号の周期FにおけるON時比率G1、すなわち、周期FのうちのON時間の比率は、電源装置1の出力電圧/電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eの合計電圧(電池回路モジュール電池電圧×電池回路モジュール数)により算出することができる。すなわち、ON時比率G1=電源装置出力電圧/(電池回路モジュール電池電圧×電池回路モジュール数)となる。なお、厳密には、デッドタイムdtだけON時比率がずれてしまうので、チョッパ回路で一般的に行われているようにフィードバックまたはフィードフォワードでON時比率の補正を行う。
【0040】
電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eの合計電圧は、上述したように、電池回路モジュール電池電圧×接続状態の電池回路モジュール数によって表すことができる。電源装置1の出力電圧が、一つの電池回路モジュール10の電池電圧で割り切れる値であれば、電池回路モジュール10が通過(スルー状態)から接続に切り替わる瞬間に、他の電池回路モジュールが接続から通過(スルー状態)に切り替わるので、電池回路モジュール群100の全体の出力電圧に変動はない。
【0041】
しかし、電源装置1の出力電圧が、電池回路モジュール10aの電池電圧で割り切れない値であれば、電源装置1の出力電圧と、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eの合計電圧とは整合しない。換言すると、電源装置1の出力電圧(電池回路モジュール群100の全体の出力電圧)が変動してしまう。ただし、このときの変動振幅は1つの電池回路モジュール分の電圧であり、また、この変動周期は、ゲート信号の周期F/電池回路モジュール数となる。ここでは、数十個の電池回路モジュールを直列接続しているので、電池回路モジュール全体の寄生インダクタンスは大きな値となっており、この電圧変動はフィルタされて結果的には電源装置1の出力電圧を得ることができる。
【0042】
「具体例」
次に、具体例について説明する。図5において、例えば、電源装置1としての所望の出力電圧が400V、電池回路モジュール10の電池電圧が15V、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10e数が40個、遅延時間が200nsであるとする。なお、この場合は、電源装置1の出力電圧(400V)が、電池回路モジュール10の電池電圧(15V)で割り切れない場合に相当する。
【0043】
これらの数値に基づくと、ゲート信号の周期Fは、遅延時間×電池回路モジュール数により算出されるので、200ns×40個=8μsとなり、ゲート信号は125kHz相当の矩形波になる。また、ゲート信号のON時比率G1は、電源装置出力電圧/(電池回路モジュール電池電圧×電池回路モジュール数)により算出されるので、ON時比率G1は、400V/(15V×40個)≒0.67となる。
【0044】
これらの数値に基づいて、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eを順次駆動すると、電源装置1として、図5中、符号H1で示す矩形波状の出力特性が得られる。この出力特性は、390Vと405Vとの間で変動する電圧出力特性となる。すなわち、ゲート信号の周期F/電池回路モジュール数により算出される周期で変動する出力特性となり、8μs/40個=200ns(5MHz相当)で変動する出力特性となる。この変動は、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eの配線による寄生インダクタンスでフィルタリングされるので、符号H2で示すように、電源装置1としては、400Vの電圧が出力される。
【0045】
そして、最上流側の電池回路モジュール10aのコンデンサCには、接続状態の場合に電流が流れるため、図5中符号J1で示すように、コンデンサ電流波形は矩形波になる。
電池BとコンデンサCはRLCフィルタを形成しているので、電源装置1にはフィルタリングされて平準化された電流が出力される(図5中、符号J2参照)。
【0046】
このように、全ての電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eにおいて電流波形は同様であり、また、全ての電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eから均等に電流を出力することができる。
【0047】
「コントローラ12の動作」
本実施形態において、最下流側の遅延回路13cからのゲート信号は、コントローラ12に入力される。従って、コントローラ12は、遅延回路13eからのゲート信号の入力タイミングから、ゲート信号を最上流側の遅延回路13aに向けて出力してから、最下流側の遅延回路13eからゲート信号が出力されるまでに時間、すなわち、制御回路11にある遅延回路13a,13b,13c,・・・13e全体での合計としての遅延時間を把握することができる。そして、ゲート信号の受信に応じて次のゲート信号を出力することができる。
【0048】
遅延回路13は、個体差や温度ドリフトによって、遅延時間に±5%程度のばらつきが生じるといわれる。本実施形態の構成によれば、遅延時間のばらつき、変動によらず、次のゲート信号の出力タイミングを設定することができ、適切なゲート信号出力タイミング制御が行える。
【0049】
図6は、ゲート信号の遅延の様子を示している。このように、コントローラ12から出力されたゲート信号が遅延回路13a,13b,・・・13eにより順次対応する電池回路モジュール10に供給される。これによって、各電池回路モジュール10における第1のスイッチング素子S1および第2のスイッチング素子S2のスイッチングが制御される。なお、図6では、ゲート信号の前半をON(接続)、後半をOFF(スルー)に設定したが、これによっても図5に示した場合と同様の制御が行われる。
【0050】
そして、コントローラ12は、最下流側のゲート信号を受信するため、制御回路11内の遅延回路13における合計の遅延時間を把握できる。すなわち、ゲート信号を出力してから、最下流側のゲート信号としてコントローラ12に戻るまでの時間をタイマなどで計測すれば、制御回路11内の全遅延回路13a,13b,・・・13eの遅延時間の合計を把握することができる。そこで、この遅延時間の合計によりゲート信号の周期および出力タイミングを制御することで、ゲート信号の周期を遅延時間の合計に一致させることができる。すなわち、タイマなどによって、遅延時間の合計値を把握した場合に、次のゲート信号の出力タイミングおよび1周期の時間を把握した遅延時間の合計値に応じて調整する。例えば、ゲート信号をタイマ(カウンタ)を用いて発生しているのであれば、そのカウントアップの値を変更すれば1周期の時間を変更することができ、カウントアップのタイミングでゲート信号を出力すればよい。なお、カウンタのクロックの周期は通常遅延時間の合計値に比べ十分小さいので追従がある程度遅れても問題はない。また、遅延回路13における遅延時間は大きく変動するものではなく、毎回このような処理を行う必要はなく、またズレがある程度以上になった時点で調整してもよい。
【0051】
また、コントローラ12のデジタルインプット機能などを用い、最下流側のゲート信号が立ち上がる(ゲート信号が入力される)タイミングをトリガとして検出し、すぐに次のゲート信号を出力させることも好適である。
【0052】
すなわち、図7に示すように、コントローラ12は、その動作周期を規定するシステムクロックなどを用い、最下流側のゲート信号の立ち上がりをトリガとして、ゲート信号許可フラグを立ち上げる。そして、許可フラグがONである許可状態において、次のシステムクロックの立ち上がりでゲート信号を出力する。これによって、最下流側のゲート信号を受け取り、すぐにゲート信号を出力することができる。従って、コントローラ12からの出力を必要以上に遅らせることなく、また最下流側の電池回路モジュール10へのゲート信号の出力が終了した後、ゲート信号を出力することができ、ゲート信号の周期を遅延時間の合計と一致させることができる。そして、ゲート信号を出力してから受け取るまでの時間をタイマで計測することで遅延時間合計を計測できるため、これに基づいてゲート信号の周期を遅延時間の合計と一致させることができる。なお、システムクロックは、数10−数100MHzであり、遅延回路13の遅延時間合計は数100ns程度(数MHz)であるため、ある程度のズレは許容される。
【0053】
「異常電池回路モジュール10の除外」
本実施形態では、多数の電池回路モジュール10を直列接続して用いる。いずれかの電池回路モジュール10において異常が発生した場合には、当該電池回路モジュール10を除外したいという要求がある。このような場合、スイッチング素子S1をON、スイッチング素子S2をOFFの状態に固定することで、当該電池回路モジュール10を除外することができる。なお、異常の内容によっては、スイッチング素子S1をOFF、スイッチング素子S2をON固定としてもよい。スイッチング素子S1のOFF固定異常、スイッチング素子S2のON固定以上の場合には、スイッチング素子S1をOFF、スイッチング素子S2をONに固定することで当該電池回路モジュール10を除外するとよい。また、異常の検出は、外部の異常検出部によって行い、検出結果を制御回路11に供給すればよいが、制御回路11において異常検出機能を有してもよい。そして、制御回路11が異常が検出された電池回路モジュール10を選択して除外する。
【0054】
ここで、本実施形態では、図8に示すように、各遅延回路13に対応して切り換え回路14を有している。そして、この切り換え回路14を切り換えることで、対応する遅延回路13をバイパス(スルー)することができる。これによって、この遅延回路13での遅延時間をほぼ0、すなわち無視できる程小さくすることができる。なお、切り換え回路14は通常のマルチプレクサを利用することができる。
【0055】
この除外の動作について、図9−11に基づいて説明する。この例では、15個の電池回路モジュール10、遅延回路13を有している。
【0056】
図9は、平常時の状態を示している。コントローラ12から出力されたゲート信号が最上流側の電池回路モジュール10と、遅延回路13に供給される。そして、ゲート信号は下流側に隣接する遅延回路13および電池回路モジュール10に供給されることが繰り返されることによって、順次伝播される。そして、最下流側の遅延回路13からのゲート信号がコントローラ12に入力される。
【0057】
このようにして、各電池回路モジュール10に1つの遅延回路13の遅延時間に応じて遅延したゲート信号が供給される。
【0058】
この例では、ゲート信号のデューティー比が57%に設定されている。従って、電池回路モジュール群100において、接続されている電池回路モジュール10が9つ、8つの状態を交互に繰り返すことになる。従って、電池回路モジュール群100の出力電圧としては、9×モジュール電圧、8×モジュール電圧の状態が交互に繰り返される。そして、接続/スルーの状態が下流側にスイープされ、接続されている電池回路モジュール10の位置が下流側に移動する。
【0059】
ここで、1つの電池回路モジュール10に異常が発生し、当該電池回路モジュール10に対するゲート信号の供給を停止した場合を図10に示す。このように、異常が発生した電池回路モジュール10については、スルーに固定される。この場合、ゲート信号は各遅延回路13を下流側に向けて伝播するが、異常が発生した電池回路モジュール10からは電圧が出力されない。従って、異常が発生した電池回路モジュール10が本来(ゲート信号が供給された)スルーの場合には、9×モジュール電圧、8×モジュール電圧の状態が交互に繰り返されるが、異常が発生した電池回路モジュール10が本来(ゲート信号が供給された場合)接続の場合には、8×モジュール電圧、7×モジュール電圧の状態が交互に繰り返されることになる。従って、出力電圧が、ゲート信号のデューティー比に応じた2期間で1つの電池回路モジュール10の電圧だけ異なることになる。
【0060】
本実施形態では、上述のように切り換え回路14を有している。従って、図11に示すように、異常が発生した電池回路モジュール10にゲート信号を供給せず当該電池回路モジュール10をスルーとする場合には、これに対応する遅延回路13もスルーする。従って、図10の場合のように、ゲート信号が供給されない異常が発生した電池回路モジュール10に対応する遅延時間が生じない。従って、本来接続であった時間がスルーに変わることがない。従って、ゲート信号の1周期の中における出力電圧の変化を防止できる。
【0061】
また、この図11の例では、ゲート信号が伝播する遅延回路13の数が15→14に減少する。従って、遅延時間の合計が変化するため、ゲート信号の1周期の時間もこれに合わせて変更することが好適である。また、出力電圧を変更前の状態に維持するためにゲート信号のデューティー比も微調整するとよい。すなわち、図9の状態では、デューティー比は、8.5/15であるが、図11の状態では、8.5/14とすることで、出力電圧を維持することが可能となる。
【0062】
「実施形態の効果」
以上説明したように、電池回路モジュール群100を駆動する場合、最上流側の電池回路モジュール10aに出力したゲート信号を、下流側の電池回路モジュール10bに一定時間遅延して出力して、さらに、このゲート信号を一定時間遅延して下流側の電池回路モジュールに順次伝達するので、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eは、一定時間遅延しながら、接続状態の期間において順次電圧をそれぞれ出力する。そして、これらの電圧が合計されることによって、電源装置1としての電圧が出力されることになり、所望の電圧を得ることができる。このため、昇圧回路が必要なくなり、電源装置1の構成を簡素化することができ、小型化、低コスト化することができる。また、構成が簡素化されるので、損失が発生する部分が減少して昇圧効率が向上する。さらに、複数の電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eから略均等に電圧を出力しているので、特定の電池回路モジュールに駆動が集中することもなく、電源装置1の内部抵抗損失を低減することができる。
【0063】
また、ON時比率G1を調整することによって、所望の電圧に容易に対応することができ、電源装置1としての汎用性を向上することができる。特に、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eに故障が発生して、使用困難な電池回路モジュールが発生した場合でも、その故障した電池回路モジュールをスルー状態に固定することで除外して、正常な電池回路モジュールを使用して、ゲート信号の周期F、ON時比率G1、遅延時間を再設定することによって、所望の電圧を得ることができる。すなわち、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・,10eに故障が発生しても所望の電圧の出力を継続することができる。
【0064】
さらに、ゲート信号を遅延する遅延時間を長く設定することによって、ゲート信号の周波数が低周波になるので、第1のスイッチング素子S1および第2のスイッチング素子S2のスイッチング周波数も低くなり、スイッチング損失を低減することができ、電力変換効率を向上することができる。逆に、ゲート信号を遅延する遅延時間を短くすることによって、ゲート信号の周波数が高周波になるので、電圧変動の周波数が高くなり、フィルタリングが容易になって、安定した電圧を得ることができる。また、電流変動をRLCフィルタによって平準化することも容易になる。このように、ゲート信号を遅延する遅延時間を調整することによって、求められる仕様、性能に応じた電源装置1を提供することができる。
【0065】
そして、最下流側の遅延信号をコントローラ12に入力するため、遅延回路13a,13b,13c,・・・の合計の遅延時間を把握することができ、ゲート信号の周期、出力タイミングを適切なものに維持することができる。
【0066】
さらに、異常が発生した電池回路モジュール10について除外することが可能であり、電源装置1はそのまま使用でき、除外した電池回路モジュール10に対応する遅延回路13をスルーすることで、出力電圧の揺れを防止できる。
【0067】
「変形例」
次に、電池回路モジュール10の構成の変形例について説明する。図12に示すように、電池回路モジュール10の構成として、図1に示す電池回路モジュール10のチョークコイルLと電池Bとの配置位置(接続位置)を入れ替えてもよい。また、第2のスイッチング素子S2を、第1のスイッチング素子S1に対して正側端子+OTの反対側に配置してもよい。すなわち、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とのスイッチング動作により電池B(コンデンサC)の電圧を正側端子+OTに出力できるのであれば、電池回路モジュール10における各素子、電気部品の配置を適宜変更することができる。
【0068】
また、電池Bの電圧出力特性が優れている場合、すなわち、電源電流がコンデンサ電流と一致して、出力波形が矩形波となっても電源回路において問題がないときには、RLCフィルタを省略してもよい。また、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の配線による寄生インダクタンスを利用していたが、配線による寄生インダクタンスを利用する代わりに、必要なインダクタンス値を担保するためにインダクタンス部品を実装してもよい。
【0069】
さらに、上記実施形態では、図13(a)に示すように、コントローラ12からのゲート信号を、遅延回路13に出力する前に、電池回路モジュール10に出力していたが、図13(b)に示すように、ゲート信号を、遅延回路13で遅延した後に電池回路モジュール10に出力してもよい。この場合、遅延回路13から出力される遅延されたゲート信号が、電池回路モジュール10aおよび遅延回路13bにそれぞれ出力される。遅延回路13b,13c,・・・においても同様の制御を行う。この制御によっても、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・を一定時間遅延しながら順次駆動することができ、コントローラ12において、合計の遅延時間を把握して、次のゲート信号を出力することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 電源装置、10(10a,10b,10c,・・・,10e) 電池回路モジュール、11 制御回路、12 コントローラ、13(13a,13b,13c,・・・13e) 遅延回路、14 切り換え回路、100 電池回路モジュール群、B 電池、C コンデンサ、L チョークコイル、+OT 正側端子、−OT 負側端子、S1 第1のスイッチング素子、S2 第2のスイッチング素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13