(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水性インク全量に占める前記自己分散黒顔料の固形分重量(S)と、前記樹脂分散顔料の固形分重量(R)との比が、S:R=1:0.45〜0.56である請求項1記載のインクジェット記録用水性インク。
前記自己分散黒顔料の平均粒子径が、前記樹脂分散顔料の平均粒子径の1.05倍〜2.00倍である請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インク。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、「色相角」とは、例えば、a
*、b
*を平面上に表したL
*a
*b
*表色系色度図での角度を表し、つぎのように定義される。
a
*≧0、b
*≧0(第一象限)では、色相角=tan
−1(b
*/a
*)
a
*≦0、b
*≧0(第二象限)では、色相角=180°+tan
−1(b
*/a
*)
a
*≦0、b
*≦0(第三象限)では、色相角=180°+tan
−1(b
*/a
*)
a
*≧0、b
*≦0(第四象限)では、色相角=360°+tan
−1(b
*/a
*)
【0011】
本発明において、樹脂分散顔料の色相角は、例えば、後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0012】
本発明の水性インクについて説明する。本発明の水性インクは、着色剤と、水と、を含む。
【0013】
前記着色剤は、自己分散黒顔料と、色相角が180°〜270°である樹脂分散顔料と、を含む。
【0014】
前記自己分散黒顔料は、例えば、カーボンブラックの粒子にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性基及びそれらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。前記自己分散黒顔料は、例えば、特開平8−3498号公報、特表2000−513396号公報、特表2008−524400号公報、特表2009−515007号公報、特表2011−515535号公報等に記載の方法によってカーボンブラックが処理されたものを用いることができる。前記処理を行うのに適したカーボンブラックとしては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」、「MA100」及び「#2650」等があげられる。前記自己分散黒顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・コーポレーション社製の「CAB−O−JET(登録商標)200」、「CAB−O−JET(登録商標)300」、「CAB−O−JET(登録商標)400」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW−2」及び「BONJET(登録商標)BLACK CW−3」;東洋インク製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」;等があげられる。
【0015】
前記樹脂分散顔料は、例えば、顔料分散用樹脂(樹脂分散剤)によって、水に分散可能なものである。前記樹脂分散剤としては、一般的なものを用いてよい。前記樹脂分散顔料は、前記樹脂分散剤によりカプセル化されたものであってもよい。
【0016】
前述のとおり、前記樹脂分散顔料は、色相角が180°〜270°である。前記樹脂分散顔料の色相角が180°〜270°であることで、彩度C
*がより小さく、黒等の無彩色の水性インクとして好適に利用可能な水性インクを得ることができる。
【0017】
前記樹脂分散顔料の色相角は、210°〜270°であることが好ましい。色相角が210°〜270°である前記樹脂分散顔料としては、例えば、アントラキノン系顔料であるC.I.ピグメントブルー60(P.B.60)、銅フタロシアニン系顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3(P.B.15:3)等があげられる。
【0018】
表1に、前記自己分散黒顔料の原料として用い得るカーボンブラックの0.002重量%水分散液、P.B.60の0.003重量%水分散液及びP.B.15:3の0.002重量%水分散液のL
*、a
*、b
*及び色相角を示す。また、
図1に、それらのa
*、b
*を平面上に表したグラフを示す。なお、表1における平均粒子径は、例えば、固形分量が0.02重量%〜0.04重量%となるように希釈して、(株)堀場製作所の動的散乱式粒度分布測定装置「LB−550」を用いて、散乱光強度を粒子径基準として算出可能であり、これ以降において同様である。
【0020】
図1において、原点(a
*=0,b
*=0)を中心とした点対称の位置にある顔料は、補色の関係となる。したがって、
図1において、原点を中心として、前記自己分散黒顔料の原料として用い得るカーボンブラックと点対称に近い位置にあるP.B.60及びP.B.15:3の少なくとも一方を、樹脂分散顔料として用いれば、前記自己分散黒顔料のみを含む水性インクと近い液色を持つ水性インク、すなわち、彩度C
*がより小さく、黒等の無彩色の水性インクとして好適に利用可能な水性インクを得ることができる。これらの中でも、補色の観点からは、前記カーボンブラックとより点対称に近い位置にあるP.B.60が好ましい。
【0021】
前記水性インク中において、前記樹脂分散顔料の沈降速度は、前記自己分散黒顔料の沈降速度よりも遅い。これにより、前記自己分散黒顔料の沈降を抑制可能である。この沈降抑制のメカニズムの詳細は不明であるが、前記樹脂分散顔料の樹脂分散剤が、前記自己分散黒顔料の沈降を抑制しているように推定される。ただし、このメカニズムは推定に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0022】
前記自己分散黒顔料及び前記樹脂分散顔料の沈降速度は、それらの密度、平均粒子径等により調整可能である。例えば、前記自己分散黒顔料の密度を、前記樹脂分散顔料の密度よりも高くすることで、前記樹脂分散顔料の沈降速度を、前記自己分散黒顔料の沈降速度よりも遅くできる。また、例えば、前記自己分散黒顔料の平均粒子径を、前記樹脂分散顔料の平均粒子径よりも大きくすることで、前記樹脂分散顔料の沈降速度を、前記自己分散黒顔料の沈降速度よりも遅くできる。
【0023】
例えば、前記自己分散黒顔料の密度は、前記樹脂分散顔料の密度の1.05倍〜1.88倍、1.07倍〜1.78倍、1.11倍〜1.58倍である。また、例えば、前記自己分散黒顔料の密度と、前記樹脂分散顔料の密度との差は、0.18g/cm
3〜0.77g/cm
3、0.25g/cm
3〜0.55g/cm
3である。前記自己分散黒顔料の密度は、例えば、1.8g/cm
3〜2.1g/cm
3である。前記樹脂分散顔料の密度は、例えば、1.3g/cm
3〜1.6g/cm
3である。
【0024】
例えば、前記自己分散黒顔料の平均粒子径は、前記樹脂分散顔料の平均粒子径の1.05倍〜2.00倍、1.07倍〜1.75倍、1.08倍〜1.49倍である。また、例えば、前記自己分散黒顔料の平均粒子径と、前記樹脂分散顔料の平均粒子径との差は、5nm〜100nm、7nm〜70nm、9nm〜51nmである。前記自己分散黒顔料の平均粒子径は、例えば、135nm〜210nm、135nm〜175nm、135nm〜155nmである。前記樹脂分散顔料の平均粒子径は、例えば、80nm〜150nm、100nm〜126nm、104nm〜120nmである。
【0025】
前記水性インク全量に占める前記自己分散黒顔料の固形分重量(S)と、前記樹脂分散顔料の固形分重量(R)との比は、S:R=1:0.26〜0.80である。前記自己分散黒顔料の沈降抑制の観点から、前記比は、S:R=1:0.45〜0.56であることが好ましい。前記固形分重量(R)は、顔料のみの重量であり、樹脂分散剤の重量は含まない。前記固形分重量(S)及び前記固形分重量(R)は、S:R=1:0.26〜0.80となるように適宜調整すればよく、前記固形分重量(S)が、例えば、1.0重量%〜7.0重量%、3.0重量%〜5.0重量%、3.5重量%〜4.5重量%であり、前記固形分重量(R)が、例えば、0.26重量%〜5.6重量%、0.78重量%〜4.0重量%、0.91重量%〜3.6重量%である。
【0026】
前記固形分重量(S)と前記固形分重量(R)との和(S+R)は、例えば、4重量%〜11重量%、5重量%〜8重量%、5重量%〜6重量%である。
【0027】
前記水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。前記水性インク全量における前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0028】
前記水性インクは、さらに、水溶性有機溶剤を含んでもよい。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、インクジェットヘッドのノズル先端部におけるインクの乾燥を防止する湿潤剤及び記録媒体上での乾燥速度を調整する浸透剤があげられる。
【0029】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール等のポリエーテル;アルキレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン;等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0030】
前記水性インク全量における前記湿潤剤の配合量は、例えば、0重量%〜95重量%、5重量%〜80重量%、5重量%〜50重量%である。
【0031】
前記浸透剤は、例えば、グリコールエーテルがあげられる。前記グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル及びトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記浸透剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
前記水性インク全量における前記浸透剤の配合量は、例えば、0重量%〜20重量%、0重量%〜15重量%、1重量%〜6重量%である。
【0033】
前記水性インクは、さらに、アニオン性界面活性剤を含んでもよい。前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム塩、スルホコハク酸塩等があげられ、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製の「LIPOLAN(登録商標)」シリーズ、「LIPON(登録商標)」シリーズ、「SUNNOL(登録商標)」シリーズ、「LIPOTAC(登録商標)」シリーズ、「ENAGICOL(登録商標)」シリーズ、「LIPAL(登録商標)」シリーズ、「LOTAT(登録商標)」シリーズ等;花王(株)製の「EMAL(登録商標)」シリーズ、「LATEMUL(登録商標)」シリーズ、「VENOL(登録商標)」シリーズ、「NEOPELEX(登録商標)シリーズ」、NS SOAP、KS SOAP、OS SOAP、「PELEX(登録商標)」シリーズ等;三洋化成工業(株)製の「サンデット(登録商標)」シリーズ及び「ビューライト(登録商標)」シリーズ等;東邦化学工業(株)製の「アルスコープ(登録商標)」シリーズ、「ネオスコープ(登録商標)」シリーズ、「フオスフアノール(登録商標)」シリーズ等;東京化成(株)製のヘキサデシル硫酸ナトリウム及びステアリル硫酸ナトリウム等;等があげられる。
【0034】
前記水性インク全量における前記アニオン性界面活性剤の配合量は、例えば、5重量%以下、3重量%以下、0.1重量%〜2重量%である。
【0035】
前記水性インクは、さらに、ノニオン性界面活性剤を含んでもよい。前記ノニオン性界面活性剤は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、日信化学工業(株)製の「オルフィン(登録商標)E1010」、「オルフィン(登録商標)E1004」等があげられる。
【0036】
前記水性インク全量における前記ノニオン性界面活性剤の配合量は、例えば、5重量%以下、3重量%以下、0.1重量%〜2重量%である。
【0037】
前記水性インクは、さらに、定着性向上を目的に、前記樹脂分散剤とは別に、樹脂を含んでもよい。
【0038】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース等があげられる。
【0039】
前記水性インクは、例えば、前記自己分散黒顔料と、前記樹脂分散顔料と、前記水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0040】
つぎに、本発明のインクジェット記録装置について説明する。
【0041】
本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部及びインク吐出手段を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とする。
【0042】
図2に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインクカートリッジ2と、インク吐出手段(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0043】
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記水性ブラックインクが、本発明のインクジェット記録用水性インクである。本例では、4つのインクカートリッジ2のセットを示したが、これに代えて、水性イエローインク収納部、水性マゼンタインク収納部、水性シアンインク収納部及び水性ブラックインク収納部を形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジを用いてもよい。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0044】
ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0045】
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008−246821号公報参照)。
【0046】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。
図2において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0047】
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。インクジェット記録装置1において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置1内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。また、これらの態様においては、4つのインクカートリッジ2に代えて、ボトル形状の4つのインクボトルを用いてもよい。この場合、前記インクボトルには、外部から内部にインクを注入するための注入口が設けられていることが好ましい。
【0048】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、記録用紙Pが、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。記録用紙Pは、インクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入される。導入された記録用紙Pに、インクジェットヘッド3から吐出される水性インクにより所定の記録がされる。本発明によれば、顔料の沈降が抑制されることで、インクジェットヘッド3における吐出不良が抑制される。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。本発明によれば、黒色が、自己分散黒顔料のみを含む水性インクを用いた場合の無彩色に近く、濃度ムラの抑制された記録物を得ることが可能である。
図2においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0049】
図2に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドを採用する装置であってもよい。
【0050】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に水性インクをインクジェット方式により吐出して記録するインクジェット記録方法であって、前記水性インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とする。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【実施例】
【0051】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0052】
〔顔料分散液1の調製〕
三菱化学(株)製のカーボンブラック「#2650」40gを、イオン交換水200gに混合して、ビーズミルにて粉砕した。これにカルボキシル基剤を添加して、加熱撹拌を行い、酸化処理した。ついで、得られた液を溶剤にて数回洗浄した後、水中に注ぎ、再度水洗を繰り返した後、フィルターにてろ過処理し、表2に示す顔料分散液1を得た。この顔料分散液1に含まれるカーボンブラックの平均粒子径を、(株)堀場製作所製の「LB−550」を用いて測定したところ、155nmであった。
【0053】
〔顔料分散液2〜4の調製〕
顔料(P.B.60)20重量%、スチレン−アクリル酸共重合体の水酸化ナトリウム中和物 7重量%(酸価175mgKOH/g、分子量10000)に、純水を加え全体を100重量%とし、撹拌混合して混合物を得た。この混合物を、0.3mm径ジルコニアビーズを充填した湿式サンドミルに入れ、6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータにより取り除き、孔径3.0μmセルロースアセテートフィルターでろ過することにより、表2に示す顔料分散液2を得た。なお、スチレン−アクリル酸共重合体は、一般に顔料の分散剤として用いられる水溶性のポリマーである。また、顔料種、成分割合、分散処理時間を適宜変更した以外は同様にして、表2に示す顔料分散液3及び4を得た。なお、表2の脚注において、P.R.122は、C.I.ピグメントレッド122を示す。
【0054】
[実施例1〜12及び比較例1〜8]
水性インク組成(表2)における、顔料分散液1〜4を除く成分を、均一に混合しインク溶媒を得た。つぎに、顔料分散液1及び顔料分散液2〜4のいずれか(比較例1では、顔料分散液1のみ)に、前記インク溶媒を加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、表2に示す実施例1〜12及び比較例1〜8のインクジェット記録用水性インクを得た。なお、表2の脚注において、自己分散黒顔料、P.B.60、P.B.15:3及びP.R.122の水分散液の色相角は、下記方法により求めた。
【0055】
(色相角の求め方)
自己分散黒顔料の0.002重量%水分散液、P.B.60の0.003重量%水分散液、P.B.15:3の0.002重量%水分散液及びP.R.122の0.004重量%の水分散液について、それぞれ、セル長10mmで純水をリファレンスとして(株)島津製作所製の分光光度計UV3600を用いて色測定を行い、L
*値、a
*値及びb
*値を求めた。これらの数値は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化されたL
*a
*b
*表色系(CIE1976(L
*a
*b
*)表色系)に基づくものである(JIS Z 8729参照)。このa
*値及びb
*値から、前述の色相角の定義式により、色相角を求めた。
【0056】
実施例1〜12及び比較例1〜8の水性インクについて、(a)沈降評価及び(b)液色目評価を、下記方法により実施した。
【0057】
(a)沈降評価
50mL遠沈管に、40mLの実施例及び比較例の水性インクを入れ、日立工機(株)製の微量高速遠心機CF16RXII及びアングルローター:T6AP31を用いて、6000rpm、10分間の遠心処理を行い、その後、遠沈管の底部から2mLの水性インクを取り出して、粘度を測定し、遠心処理前の初期粘度からの粘度上昇率を算出した。前記粘度は、東機産業(株)製の粘度計TVE−25形を用いて、25℃で測定した値である。なお、顔料固形分重量が4重量%(前記初期粘度が4mPa・s程度)となるように顔料分散液1〜4を水で希釈した水性インクにおける前記粘度上昇率は、下記のとおりであり、前記粘度上昇率が低い程、顔料の沈降が生じにくい水性インクであると判断できる。
粘度上昇率
顔料分散液1(自己分散黒顔料) 30%
顔料分散液2(P.B.60) 12%
顔料分散液3(P.B.15.3) 10%
顔料分散液4(P.R.122) 12%
【0058】
沈降評価 評価基準
AA:粘度上昇率が、26%未満
A :粘度上昇率が、26%以上29%未満
B :粘度上昇率が、29%以上
【0059】
(b)液色目評価
実施例及び比較例の水性インクを、それぞれ、顔料の固形分重量が0.002重量%となるように希釈し、セル長10mmで純水をリファレンスとして前記分光光度計UV3600を用いて色測定を行い、L
*値、a
*値及びb
*値を求めた。これらの数値は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化されたL
*a
*b
*表色系(CIE1976(L
*a
*b
*)表色系)に基づくものである(JIS Z 8729参照)。このa
*値及びb
*値から、下記式により彩度C
*を算出し、下記評価基準に従って評価した。なお、下記式からわかるように、彩度C
*は、実施例及び比較例の水性インクのa
*値及びb
*値からa
*=0及びb
*=0までの距離にあたるものであり、彩度C
*が小さい程、黒等の無彩色の水性インクとして好ましいと判断できる。
C
*={(a
*2)+(b
*2)}
1/2
【0060】
液色目評価 評価基準
AA:C
*が、10未満
A :C
*が、10以上20未満
B :C
*が、20以上
【0061】
実施例1〜12及び比較例1〜8の水性インク組成及び評価結果を、表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示すとおり、実施例1〜12では、沈降及び液色目の評価結果が良好であった。S:R=1:0.45〜1:0.56を満たす実施例2〜4、6、8〜10及び12では、特に沈降の評価結果が優れていた。また、自己分散黒顔料としてP.B.60を用いた実施例1〜6では、特に液色目の評価結果が優れていた。一方、樹脂分散顔料を用いなかった比較例1、及び、S:Rが0.26未満又は0.80を超える比較例2〜7では、沈降の評価結果及び液色目の評価結果のいずれか又は双方が悪かった。また、色相角が180°〜270°ではないP.R.122を樹脂分散顔料として用いた比較例8では、液色目の評価結果が悪かった。