(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力軸と同心に配置されるサンローラと、前記サンローラの外周側に前記サンローラと同心に配置され、出力軸に連結されるリングローラと、前記サンローラの外周面と前記リングローラの内周面に転がり接触する複数の中間ローラと、を備える摩擦ローラ式減速機であって、
前記サンローラは、前記入力軸の軸方向に並設された一対のサンローラ素子を有し、
前記サンローラ素子の転がり接触面と前記中間ローラの転がり接触面は、前記サンローラ素子同士の対向側端面から軸方向反対側の外側端面に向かって、前記入力軸の中心線までの半径距離が長くなる傾斜面であり、
一方の前記サンローラ素子は、前記入力軸に対して軸方向に移動可能、且つ回転不能に支持された可動サンローラ素子であり、
他方の前記サンローラ素子は、前記入力軸に対して軸方向に移動不能、且つ回転不能に支持された固定サンローラ素子であり、
前記可動サンローラ素子の前記固定サンローラ素子側と反対側の軸方向外側端面に対向して配置され、前記入力軸の回転を前記可動サンローラ素子に伝達し、前記可動サンローラ素子の外周面と前記入力軸の外周面に摺動可能なローディングディスクを有し、
前記可動サンローラ素子の軸方向外側端面と、前記軸方向外側端面に対面する前記ローディングディスクの片側端面との間に、トラクション油の供給によって、前記可動サンローラ素子を前記固定サンローラ素子に接近させる軸方向力を発生する主油室が形成され、
前記可動サンローラ素子と前記固定サンローラ素子との間に、トラクション油が供給され、前記入力軸の回転によって前記主油室に発生する遠心油圧を低減させる軸方向力を発生するキャンセラ油室が形成された摩擦ローラ式減速機。
前記入力軸は、前記主油室に連通する第1油路と、前記キャンセラ油室に連通する第2油路とが個別に設けられている請求項1又は請求項2に記載の摩擦ローラ式減速機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サンローラ素子に軸方向力を付与する機構としては、上記した
図10(A),(B)や
図11に示すローディングカム機構のようなトルク感応式や、バネによる固定押付式の機構が多く採用される。ローディングカム機構の場合、伝達トルクの低トルク領域における最低限の軸方向力を確保するために、バネとローディングカムとを組み合わせて用いる形式が多い。
このローディングカム機構は、いかなる運転条件であっても、設計時に決められたトラクション係数に基づいて通過トルクに比例した軸方向力を発生させるため、ロバスト性が高い。しかし、ローディングカム機構のような機械式ローディングデバイスにおいては、使用温度や通過トルク等の運転条件の変化に応じてトラクション係数の変更ができない不利がある。
自動車用途の摩擦ローラ式減速機は,使用温度や通過トルク等の運転条件が常に変化し、トラクション面のグロススリップ発生限界となる限界トラクション係数も常に変化する。トラクション係数が限界トラクション係数を超えた場合、トラクション面にはグロススリップが発生し、特に通過動力等が過酷となる条件下では、焼付き等の破損を生ずるおそれがある。
そこで、上記の機械式ローディングデバイスにおいては、運転時のトラクション係数が、常に変化する限界トラクション係数を超えないように、相当の余裕を見込んで設計トラクション係数を決定している。
【0007】
一般に、トラクション油のトラクションカーブ(横軸をクリープ、縦軸をトラクション係数とした特性カーブ)において、設計トラクション係数をトラクションカーブが比例関係にある領域内に定めている場合が多い。この比例領域内では、トラクション係数が高いほど軸方向力が減少するため、動力伝達効率が向上する。そのため、トルク感応型の機械式ローディングデバイスにおいては、上記の通りグロススリップ発生限界に対して十分な余裕を見込む必要があるため、動力伝達効率の向上には改善の余地があった。
【0008】
また、動力伝達効率を改善するためには、運転条件に応じて、伝達トルクだけでなく、運転時のトラクション油の温度や、その他の要因を加味して軸方向力を任意に調整できる油圧式を採用することが好ましい。
しかしながら、油圧式ローディングデバイスを採用した場合、回転速度に依存した遠心油圧が発生する。この遠心油圧は、回転速度の2乗に比例し、トラクション油の質量に比例した軸方向力を発生させる。その影響により、特に、低トルク、高回転速度の領域において、トラクション面に必要な押付力以上に遠心油圧が作用して、押付力の過剰による動力伝達効率の低下が発生する場合がある。
このような影響を排除するために、主油室と隣り合う位置に、主油室に作用する遠心力をキャンセルするキャセラ油室を設ける場合がある。その場合、主油室は通常、2個のサンローラ素子同士の軸方向外側に配置される。しかし、上記主油室を設けた上でキャンセラ油室を更に設けようとすると、摩擦ローラ式減速機の軸方向長さが大きくなることが避けられない。その結果、摩擦ローラ式減速機のレイアウトの自由度が損なわれ、車両への搭載性が低下するおそれがある。
【0009】
そこで本発明は、油圧式ローディングデバイスを採用した場合でも遠心油圧の影響を受けずに高い動力伝達効率が得られ、しかも減速機自体の軸方向長さを短縮でき、車両への搭載性を低下させることがない摩擦ローラ式減速機及びこれを用いた減速機ユニットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記構成からなる。
(1) 入力軸と同心に配置されるサンローラと、前記サンローラの外周側に前記サンローラと同心に配置され、出力軸に連結されるリングローラと、前記サンローラの外周面と前記リングローラの内周面に転がり接触する複数の中間ローラと、を備える摩擦ローラ式減速機であって、
前記サンローラは、前記入力軸の軸方向に並設された一対のサンローラ素子を有し、
前記サンローラ素子の転がり接触面と前記中間ローラの転がり接触面は、前記サンローラ素子同士の対向側端面から軸方向反対側の外側端面に向かって、前記入力軸の中心線までの半径距離が長くなる傾斜面であり、
一方の前記サンローラ素子は、前記入力軸に対して軸方向に移動可能、且つ回転不能に支持された可動サンローラ素子であり、
他方の前記サンローラ素子は、前記入力軸に対して軸方向に移動不能、且つ回転不能に支持された固定サンローラ素子であり、
前記可動サンローラ素子の前記固定サンローラ素子側と反対側の軸方向外側端面に対向して配置され、前記入力軸の回転を前記可動サンローラ素子に伝達し、前記可動サンローラ素子の外周面と前記入力軸の外周面に摺動可能なローディングディスクを有し、
前記可動サンローラ素子の軸方向外側端面と、前記軸方向外側端面に対面する前記ローディングディスクの片側端面との間に、トラクション油の供給によって、前記可動サンローラ素子を前記固定サンローラ素子に接近させる軸方向力を発生する主油室が形成され、
前記可動サンローラ素子と前記固定サンローラ素子との間に、トラクション油が供給され、前記入力軸の回転によって前記主油室に発生する遠心油圧を低減させる軸方向力を発生するキャンセラ油室が形成された摩擦ローラ式減速機。
(2) 上記の摩擦ローラ式減速機と、
前記主油室と前記キャンセラ油室のそれぞれにトラクション油を個別に供給する油圧供給部と、
前記摩擦ローラ式減速機の運転条件を検出する運転条件検出部と、
検出された前記運転条件に応じて前記主油室の油圧を増減させる圧力制御部と、
を備える減速機ユニット。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、油圧式ローディングデバイスを採用した場合でも遠心油圧の影響を受けずに高い動力伝達効率が得られ、しかも減速機自体の軸方向長さを短縮でき、車両への搭載性を低下させることがない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<摩擦ローラ式減速機の基本構成>
図1は本発明の摩擦ローラ式減速機の一部断面斜視図、
図2は
図1に示す摩擦ローラ式減速機の要部拡大図である。
摩擦ローラ式減速機100は、動力を発生するモータ(不図示)に接続される入力軸11と、出力軸13とが同心に配置され、入力軸11から入力される回転動力を出力軸13に減速しながら伝達する。この摩擦ローラ式減速機100は、入力軸11と同軸上に配置されるサンローラ15と、リングローラ17と、複数(本構では一例として3個)の中間ローラ19と、ローディングディスク24とを備える。リングローラ17は、リングローラホルダ21によって出力軸13と連結される。また、中間ローラ19は、サンローラ15の外周面とリングローラ17の内周面に転がり接触し、揺動ホルダ25、キャリア27を介してハウジング20に支持される。
【0014】
中間ローラ19は、中間ローラ19の中心軸上に延設される支持軸22の両端部が、転がり軸受23を介して揺動ホルダ25に支持される。揺動ホルダ25は、支持軸22を入力軸11と平行にした状態で、軸方向に関して移動可能にキャリア27に支持される。キャリア27は、上記構成の中間ローラ19を支持する複数の揺動ホルダ25を、円周方向に沿って等間隔の配置位置で支持する。
【0015】
リングローラ17は、ハウジング20に対して軸方向に関して固定される。また、中間ローラ19は、キャリア27と揺動ホルダ25との軸方向移動によって、軸方向に関して移動自在に支持される。
【0016】
ローディングディスク24は、略円筒状に形成され、円筒の軸方向一端部24aがサンローラ素子35の軸方向外側の外周面を覆い、円筒の軸方向他端部24bが入力軸11の基端側大径部11aを覆って配置される。また、円筒の軸方向中央には径方向内側に向かって突出する環状のフランジ部24cが形成される。フランジ部24cの軸方向一方の端面は、サンローラ素子35の外側端面45に対面する。
【0017】
<摩擦ローラ式減速機の各部の詳細>
次に、摩擦ローラ式減速機100の各部の構成を順次説明する。
サンローラ15は、
図2に示すように、入力軸11の中心線Axに沿った方向(以下、軸方向とも称する)に並設された一対のサンローラ素子35,37を有する。サンローラ素子35,37は、軸方向に対面し合う対向側端面41,43の間に隙間を設けた状態で、互いに入力軸11と同心に配置される。
【0018】
サンローラ素子35,37の転がり接触面35a,37aは、サンローラ素子同士の互いに対向する対向側端面41,43から軸方向反対側の外側端面45,47に向かって、入力軸11の中心線Axまでの半径距離が長くなる傾斜面にされている。また、中間ローラ19のサンローラ素子35,37との転がり接触面19aも同様に、軸方向中央から軸方向端部に向かって半径距離が長くなる曲面形状にされている。
【0019】
図3は
図2に示すA−A線の断面図である。
サンローラ素子35は、軸方向外側の内周面35bにスプライン溝を有し、入力軸11は、サンローラ素子35の内周面35bに対面する外周面51にスプライン溝を有する。サンローラ素子35は、これらスプライン溝の係合によって、回転方向に固定され、軸方向移動が可能な状態で入力軸11に支持される可動サンローラ素子である。一方、サンローラ素子37は、軸方向外側の内周面37bのスプライン溝と、入力軸11におけるサンローラ素子37の内周面37bに対面する外周面53のスプライン溝との係合によって、回転方向に固定された状態で入力軸11に支持される固定サンローラ素子である。
【0020】
入力軸11のサンローラ素子37よりも軸方向外側の外周には、止め輪48が固定される。コッター52は、サンローラ素子37の外側端面47に当接した状態で入力軸11に固定される。コッター52は、径方向外側がコッターカバー54によって保持される。止め輪48は、コッターカバー54を軸方向に規制する。よって、サンローラ素子37はコッター52と止め輪48によって軸方向移動が規制される。
【0021】
また、ローディングディスク24は、軸方向一端部24aの内周面26にスプライン溝を有し、サンローラ素子35は、軸方向外側の外周面に形成されたスプライン溝を有する。ローディングディスク24は、これらスプライン溝の係合によって、回転方向に固定され、サンローラ素子35に対する軸方向相対移動が可能となっている。
【0022】
ローディングディスク24は、軸方向他端部24bの内周面も同様にスプライン溝を有し、入力軸11の基端側大径部11aに形成されたスプライン溝と係合する。
【0023】
上記構成により、入力軸11からの回転トルクは、スプライン溝を介してサンローラ素子35,37に伝達される。また、サンローラ素子35,37の軸方向内側の内周面は、図示しない凹部と凸部とが係合するいんろう部を有する。これらスプライン溝といんろう部とが協働して、サンローラ素子35,37と入力軸11との高精度な同軸が確保される。
【0024】
本構成においては、入力軸11からの回転トルクは、2個のサンローラ素子35,37に分割して流れ、3つの中間ローラ19を介して、1つのリングローラ17に伝達される。つまり、入力軸11から中間ローラ19への動力伝達経路は2系統存在する。第1の経路は、入力軸11からスプライン溝を介してローディングディスク24に伝達され、ローディングディスク24からスプライン溝を介してサンローラ素子35に伝達され、サンローラ素子35の転がり接触面35aから中間ローラ19に伝達される経路である。第2の経路は、入力軸11からスプライン溝を介してサンローラ素子37に伝達され、サンローラ素子37の転がり接触面37aから中間ローラ19に伝達される経路である。
【0025】
摩擦ローラ式減速機100においては、動力伝達を直接担う、サンローラ15、リングローラ17、中間ローラ19、ローディングディスク24の4要素のうち、1要素は軸方向に固定し、3要素は軸方向に可動に設置されていることが好ましい。2要素以上が軸方向に拘束されている場合、主油室89(
図4)に発生した軸方向力が、上記4要素のいずれかの支持部材で拘束されるため、リングローラ17のトラクション面に法線方向力が十分作用しなくなる。つまり、トラクション面では、軸方向力がトラクション面に対する法線方向力に変換されてしまい、主油室89で発生した軸方向力は、リングローラ17のトラクション面に法線方向力として作用するためである。
【0026】
本構成の摩擦ローラ式減速機100においては、リングローラ17は軸方向に固定、中間ローラ19は軸方向に可動、サンローラ15の一方のサンローラ素子35は軸方向に可動、他方のサンローラ素子37は軸方向に固定、ローディングディスク24は軸方向に可動に設置されている。つまり、リングローラ17とサンローラ素子37の2要素が軸方向に固定されている。しかし、リングローラ17は、リングローラ17と中間ローラ19とのトラクション面が、2部品の軸方向移動が可能な形状に形成されている。そのため、軸方向の拘束という観点からいえば、リングローラ17は軸方向に可動とみなせる。よって、本構成においては、サンローラ素子37以外には軸方向力の拘束が生じない。
【0027】
図4に示すように、サンローラ素子37は、対向側端面43の外周部からサンローラ素子35に向けて軸方向に突出する内側円筒部55が形成される。サンローラ素子35の対向側端面41側の外周面57が内嵌される。内側円筒部55の内周面55aとサンローラ素子35の外周面57は、それぞれ滑らかな円筒面で形成され、軸方法への円滑な相対移動が可能となっている。
【0028】
サンローラ素子35の外側端面45とローディングディスク24のフランジ部24cとの間に画成される円環状の隙間は、サンローラ素子35をサンローラ素子37に接近させる軸方向力を発生する主油室89となる。また、サンローラ素子35の対向側端面41とサンローラ素子37の対向側端面43との間の環状の隙間は、キャンセラ油室91となる。
【0029】
そして、
図1に示すように、入力軸11は、主油室89に連通する第1油路93と、キャンセラ油室91に連通する第2油路95とが個別に設けられる。第1油路93は、入力軸11のハウジング20側(
図1の左側)となる基端側に形成され、第1油路93には第1油圧供給部97が接続される。第2油路95は、入力軸11の先端側(
図1の右側)に形成され、第2油路95は、出力軸13の軸心に形成された出力軸油路94(
図2)と接続される。この出力軸油路94には、第2油圧供給部99が接続される。第1油路93は、入力軸11に沿った油路から径方向に延びる分岐油路93aを介して主油室89に接続される。第2油路95は、入力軸11に沿った油路から径方向に延びる分岐油路95aを介してキャンセラ油室91に接続される。
【0030】
第2油路95は、出力軸13の先端に設けられ、入力軸11の先端を支持するニードル軸受111(
図2)にトラクション油を供給する分岐油路113(
図2)にも接続される。つまり、第2油路95は、潤滑用の油を供給する油路と共通に形成され、油路構造を簡単化している。
【0031】
第1油圧供給部97と第2油圧供給部99は、それぞれ油圧ポンプ等により構成される。油圧ポンプは電動式でもよく、ポンプ軸と駆動ユニットのいずれかの回転軸とを、本構成の摩擦ローラ式減速機100と機械的に結合させた機械式であってもよい。第1油圧供給部97は、第1油路93を通じて主油室89にトラクション油を供給して主油室89の油圧を調整する。第2油圧供給部99は、第2油路95を通じてキャンセラ油室91の油圧を調整する。
【0032】
主油室89とキャンセラ油室91は、オイルシール等のシール部材61によって外部と仕切られている。したがって、主油室89への油圧力の付与時にトラクション油が漏洩することはない。同様に、キャンセラ油室91からもトラクション油が漏洩することはない。
【0033】
図5は主油室89とキャンセラ油室91の部分拡大断面図である。
主油室89に充填されたトラクション油には、入力軸11の回転速度に依存した遠心油圧CFが生じる。この遠心油圧CFは径方向外側ほど大きくなる。主油室89に生じる遠心油圧CFは、サンローラ素子35に必要以上の軸方向力を付与して、動力伝達効率を低下させる要因となる。
【0034】
本構成の遊星ローラ式減速機においては、主油室89と同様に、トラクション油が充填され、遠心油圧CFが発生するキャンセラ油室91を設けてある。キャンセラ油室91のトラクション油は、入力軸11の回転によって遠心油圧を生じ、主油室89から発生する遠心油圧を相殺する。これにより、完全ではないが主油室89の遠心油圧をゼロに近い状態にしている(キャンセルさせる)。これら主油室89とキャンセラ油室91とは、入力軸11の径方向外側に画成された円環状の空間である。主油室89とキャンセラ油室91とが円周方向に連続した空間であるため、バランス良く軸方向力を発生でき、円周方向に分散配置された場合よりも大きな軸方向力が得られる。
【0035】
主油室89には、
図1に示す第1油圧供給部97から第1油路93を通じて油圧が付与される。キャンセラ油室91には、第2油圧供給部99から第2油路95を通じて油圧が付与される。第1油路93では、分岐油路93aを通じて主油室89に油圧が付与される。また、第2油路95は、分岐油路95aを通じてキャンセラ油室91と連通している。
【0036】
サンローラ素子35,37への軸方向力は、主油室89の油圧をキャンセラ油室91の油圧より大きくし、主油室89の油圧とキャンセラ油室91の油圧との差を生じさせることで付与される。つまり、サンローラ素子35には主油室89から外側端面45に軸方向力が付与される。また、キャンセラ油室91で発生する遠心油圧は、サンローラ素子35の対向側端面41に軸方向力を付与する。
【0037】
主油室89の遠心油圧によりサンローラ素子35に向けて作用する軸方向力と、キャンセラ油室91の遠心油圧による軸方向力とは逆向きの力である。そのため、主油室89で発生した遠心油圧は、キャンセラ油室91で発生した遠心油圧によってキャンセルされる。
【0038】
図6(A),(B)はサンローラ素子35の軸方向位置を主油室89の油圧によって変更する様子を示す説明図である。
図6(A)に示すように、主油室89の油圧が低い場合には、サンローラ素子35には、ローディングディスク24から離間する向きに必要最小限の軸方向力が作用する。そのため、サンローラ素子35,37の転がり接触面35a,37aと、中間ローラ19の転がり接触面19aとにそれぞれ作用する法線力は、転がり接触面間に存在するトラクション油をガラス遷移圧力以上にする最低限の力にされる。
【0039】
つまり、この場合の主油室89の油圧は、後述するトラクション面の面圧がガラス遷移圧力を超えるのに必要な最低限の力をサンローラ素子35に付与する。ここで、ガラス遷移圧力とは、加圧流体のせん断応力が急激に上昇する圧力である。一対のローラ間の動力をトラクション面で伝達するためには、ローラ間に存在するトラクション油の圧力をガラス遷移圧力以上にする必要がある。一般に、このガラス遷移圧力は、ローラ間の接触点平均圧力で、概ね0.8GPa以上となる。
【0040】
一方、
図6(B)に示すように、第1油圧供給部97(
図1参照)が第1油路93を通じて主油室89の油圧を増加させると、サンローラ素子35をローディングディスク24から軸方向に離間させる軸方向力Fが発生する。この軸方向力Fによって、サンローラ15、中間ローラ19、リングローラ17(
図1参照)がそれぞれ弾性変形して、サンローラ素子35が軸方向に移動する。
【0041】
つまり、この状態では、傾斜面からなる転がり接触面19a及び転がり接触面35a,37aの当接面が、中間ローラ19の軸方向外側、つまり、入力軸11の径方向外側に移動して、各転がり接触面19a,35a,37aにおける法線力が増加した状態となる。
【0042】
この場合、主油室89の油圧の大きさに応じて、サンローラ15と中間ローラ19とリングローラ17はそれぞれ弾性変形する。そして、2つのサンローラ素子35,37は、その弾性変形に追従するために、互いに近接する方向、即ち、主油室89が広がる方向に変位する。
【0043】
また、サンローラ素子35の軸方向変位に応じて、キャンセラ油室91の容積変化分のトラクション油が第2油圧供給部99の駆動により調整される。この調整により、キャンセラ油室91の静的な油圧が一定に維持される。
【0044】
ここで、キャンセラ油室91は、主油室89と共に回転するため、キャンセラ油室91に主油室89と同程度の遠心油圧が発生する。
【0045】
キャンセラ油室91に発生した遠心油圧による軸方向力は、サンローラ素子35に伝達される。このようにして、キャンセラ油室91に作用する遠心油圧は、主油室89に作用する遠心油圧の殆どをキャンセルする。そのため、サンローラ素子35は、主油室89に発生する遠心油圧に影響されずに、正確に軸方向に位置決めされる。
【0046】
また、第1油圧供給部97によって主油室89の油圧を減少させると、再び
図6(A)に示すようにサンローラ素子35がローディングディスク24に向けて互いに接近する方向に変位し、各転がり接触面19a,35a,37aの法線力が減少する。
【0047】
主油室89の油圧を増減調整することで、各転がり接触面19a,35a,37aの法線力が増減し、これにより、各転がり接触面19a,35a,37aにおけるトラクション係数を、より限界トラクション係数に近づけることができる。
【0048】
上記構成の摩擦ローラ式減速機100によれば、主油室89に供給する油圧力を、動力を発生するモータ(不図示)からの伝達動力、摩擦ローラ式減速機100が伝達する伝達トルク、軸の回転速度、トラクション油の温度等、各種の運転条件に応じて適宜調整できる。このため、各ローラのトラクション係数を、動的に限界トラクション係数に近づけられ、その結果、各ローラに過剰な法線力が生じにくくなり、動力伝達効率の向上と、耐久寿命の向上が図れる。
【0049】
また、上記構成の摩擦ローラ式減速機100は、第1油圧供給部97からトラクション油の圧力が主油室89に供給されることで、一対のサンローラ素子35,37がそれぞれ軸方向に接近する方向の軸方向力が発生する。そして、主油室89に発生する遠心油圧が、キャンセラ油室91からの軸方向力によってキャンセルされる。つまり、サンローラ素子35,37を接近させる軸方向力を、主油室89に生じる遠心油圧の影響をキャンセルしつつ発生させることで、サンローラ素子35,37に適切な法線力を生じさせることができる。更に、前述の
図10(A),(B)や
図11に示すような、従前から用いられていたローディングカム機構を不要にできる。
【0050】
本構成の摩擦ローラ式減速機100によれば、ローディングカム機構を用いず、しかも、サンローラ素子35,37同士の間の隙間をキャンセラ油室91として利用して、遠心油圧の影響を受けずに軸方向力を発生させている。これにより、摩擦ローラ式減速機100を、動力伝達効率の高い構成にでき、しかも、従来よりも軸方向サイズを短縮でき、よりコンパクトで軽量な構成にできる。
【0051】
<減速機ユニットの構成と作用>
次に、上記構成のサンローラ素子35を、主油室89からの軸方向力により駆動し、トラクション面の法線方向の法線力を、遠心油圧の影響を受けることなく、伝達トルクに比例して増減させる減速機ユニットの構成とその作用について説明する。
【0052】
一般に、本構成の摩擦ローラ式減速機100のようなトラクションドライブにおいては、トラクション面にグロススリップが発生することは、動力伝達面の損傷を伴うため回避する必要がある。トラクションドライブに使用されるトラクション油は、動力伝達点の温度、伝達トルク等に依存して、伝達可能なトルクの大きさが決定される。
【0053】
ここで、伝達可能な最大トルクは、トルク作用点までの半径距離によらない接線力として考えると、下記(1)式で表現される。
【0055】
Ftmax:伝達可能な最大接線力
Fc:法線力
μmax:限界トラクション係数
【0056】
図7は駆動ローラと従動ローラに作用する法線力と接線力との関係を示す説明図である。
駆動ローラ71から従動ローラ73へ負荷される法線力Faは、その反力として従動ローラ73から法線力Fcを生じさせる。この法線力Fcに応じたトラクション面の接線力Ftは、トラクション係数μと法線力Fcの積として求められる。そこで、各ローラを駆動制御する場合には、伝達したいトルク(接線力Ft)に対して、運転時のトラクション係数μが限界トラクション係数μmaxを超えないように法線力Fcを調整する。しかし、限界トラクション係数μmaxは、上記したように、動力伝達点の温度、伝達トルク等の運転条件によって変動する。
【0057】
図8はトラクション油の温度に対するトラクション係数の特性カーブを示すグラフである。図中に実線で示すように、限界トラクション係数はトラクション油の温度に応じて増減する。従前のローディングカム機構のような機械式ローディングデバイスにおいては、トラクション係数が常に一定値となるため、トラクション油の温度が変化しても、設計トラクション係数が限界トラクション係数を超えないように設定される(破線参照)。しかし、トラクション油の温度によっては、設計トラクション係数と限界トラクション係数との差Δμが特に大きくなる領域がある。差Δμが大きい場合、法線力Fcを過剰に発生させることになり、動力伝達効率の低下や耐久寿命の低下を招くことになる。
【0058】
そこで、本構成の摩擦ローラ式減速機100は、運転条件の変動に応じて、主油室89からサンローラ素子35への軸方向力を発生させ、法線力Fcの増減調整を可能としている。そのため、一点鎖線で示すように調整後(修正後)のトラクション係数を、常に限界トラクション係数μmax近くに設定でき、動力伝達効率の向上や耐久寿命の向上に寄与できる。
【0059】
より詳しくは、本構成の摩擦ローラ式減速機100は、常温時(例えば0℃〜100℃の範囲)では、最低限必要な押付力を付与して一定のトラクション係数μcを得、高温時(例えば100℃を超える温度)と低温時(例えば0℃未満の温度)では、主油室89からサンローラ素子35への軸方向力を発生させてトラクション係数を低減させ(低減されたトラクション係数をμ1,μ2で示す)、グロススリップの発生を抑制すると共に,特に常温領域での効率向上を実現する。上記の常温限界(高温、低温)の各温度は、油種、運転条件、装置構成に応じて予め定めておけばよい。
【0060】
本構成の摩擦ローラ式減速機100は、運転条件の変動に応じて、主油室89からサンローラ素子35への軸方向力を発生させ、法線力Fcの増減調整を可能としている。そのため、トラクション係数μを、常に限界トラクション係数μmax近くに設定でき、動力伝達効率の向上や耐久寿命の向上に寄与できる。
【0061】
次に、主油室89の油圧を制御する具体的な減速機ユニットの構成とその作用について説明する。
図9は減速機ユニットの概略的なブロック構成図である。
減速機ユニット200は、前述した第1油圧供給部97、第2油圧供給部99を含む摩擦ローラ式減速機100と、トラクション油の温度を検出する油温センサ75と、コントローラ79と、記憶部81と、を備える。
【0062】
第1油圧供給部97、第2油圧供給部99は、コントローラ79からの指令に基づいて、
図1に示す入力軸11に形成された第1油路93、第2油路95にトラクション油を供給する。これにより、主油室89の油圧が増減駆動されると共に、キャンセラ油室91に生じる遠心油圧によって、主油室89に生じる遠心油圧がキャンセルされる。
【0063】
油温センサ75は、図示はしないが、
図1に示すサンローラ15の近傍に配置され、トラクション面付近のトラクション油の温度を検出する。油温センサ75は、好ましくは、サンローラ素子35,37の転がり接触面35a,37aに近い外表面に配置される。また、油温センサ75は中間ローラ19側に配置してもよい。
【0064】
油温センサ75からの出力信号は、コントローラ79に入力される。また、コントローラ79には、摩擦ローラ式減速機100に接続される不図示のモータの駆動状況を表す信号(例えば、回転速度信号、モータ駆動電流やモータ駆動電圧を表す駆動信号等)の伝達トルク情報が入力されてもよい。油温センサ75や各種の伝達トルク情報を出力する情報出力手段は、摩擦ローラ式減速機100の運転条件を検出する運転条件検出部として機能する。
【0065】
なお、トラクション面の面圧を、トラクション油の油圧を測定する適宜な油圧測定手段から推定し、推定されたトラクション面の面圧を、上記した運転条件の一つして扱うことも可能である。
【0066】
コントローラ79に接続される記憶部81は、検出された運転条件に対応する主油室89の油圧設定値が登録された駆動テーブルを記憶する。コントローラ79は、入力された運転条件に基づいて記憶部81の駆動テーブルを参照して、限界トラクション係数に近いトラクション係数が得られる油圧設定値を求める。コントローラ79は、主油室89の油圧が、求めた油圧設定値となるように、サンローラ素子35を軸方向に駆動させる駆動信号を第1油圧供給部97に出力する。
【0067】
第1油圧供給部97は、コントローラ79からの駆動信号に基づき、図示しない油圧モータを駆動して、トラクション油を主油室89に供給する。これにより、主油室89の油圧が所望の圧力に調整され、トラクション面の法線力Fcが過剰にならず、且つ、限界トラクション係数を超えない範囲に設定される。このように、上記の第1油圧供給部97と、コントローラ79は、主油室89の油圧を増減させる圧力制御部として機能する。また、主油室89に生じる遠心油圧は、キャンセラ油室91に生じる遠心油圧によってキャンセルされる。
【0068】
本構成の減速機ユニット200によれば、経時的に変動する運転条件に応じて、限界トラクション係数を超えず、且つ、限界トラクション係数にできるだけ近いトラクション係数となるように、主油室89の油圧が調整される。この主油室89の油圧は、遠心油圧に影響されることはない。これにより、摩擦ローラ式減速機の動力伝達効率を向上させ、小型化軽量化が図れる。
【0069】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
例えば、サンローラと入力軸との間の動力伝達手段は、角スプライン、ボールスプライン、インボリュートスプライン以外にも、キーとキー溝等、入力軸とサンローラとの同軸確保しつつ、動力伝達も可能で、且つ軸方向の相対移動を妨げないものであれば、任意の手段が適用可能である。
【0070】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 入力軸と同心に配置されるサンローラと、前記サンローラの外周側に前記サンローラと同心に配置され、出力軸に連結されるリングローラと、前記サンローラの外周面と前記リングローラの内周面に転がり接触する複数の中間ローラと、を備える摩擦ローラ式減速機であって、
前記サンローラは、前記入力軸の軸方向に並設された一対のサンローラ素子を有し、
前記サンローラ素子の転がり接触面と前記中間ローラの転がり接触面は、前記サンローラ素子同士の対向側端面から軸方向反対側の外側端面に向かって、前記入力軸の中心線までの半径距離が長くなる傾斜面であり、
一方の前記サンローラ素子は、前記入力軸に対して軸方向に移動可能、且つ回転不能に支持された可動サンローラ素子であり、
他方の前記サンローラ素子は、前記入力軸に対して軸方向に移動不能、且つ回転不能に支持された固定サンローラ素子であり、
前記可動サンローラ素子の前記固定サンローラ素子側と反対側の軸方向外側端面に対向して配置され、前記入力軸の回転を前記可動サンローラ素子に伝達し、前記可動サンローラ素子の外周面と前記入力軸の外周面に摺動可能なローディングディスクを有し、
前記可動サンローラ素子の軸方向外側端面と、前記軸方向外側端面に対面する前記ローディングディスクの片側端面との間に、トラクション油の供給によって、前記可動サンローラ素子を前記固定サンローラ素子に接近させる軸方向力を発生する主油室が形成され、
前記可動サンローラ素子と前記固定サンローラ素子との間に、トラクション油が供給され、前記入力軸の回転によって前記主油室に発生する遠心油圧を低減させる軸方向力を発生するキャンセラ油室が形成された
摩擦ローラ式減速機。
この摩擦ローラ式減速機によれば、主油室の油圧の増減により、可動サンローラ素子への軸方向力を増減する際、一対のサンローラ素子間のキャンセラ油室に生じる遠心油圧により、主油室に生じる遠心油圧が低減される。これにより、サンローラ素子、中間ローラ、リングローラの各転がり接触面に作用する法線力を、遠心油圧の影響を受けることなく変更でき、運転時のトラクション係数を限界トラクション係数に正確に近づけることができる。
【0071】
(2) 前記主油室と前記キャンセラ油室は、前記入力軸の径方向外側に画成された円環状の空間である(1)に記載の摩擦ローラ式減速機。
この摩擦ローラ式減速機によれば、主油室とキャンセラ油室とが円周方向に連続した空間であるため、バランス良く軸方向力を発生でき、円周方向に分散配置された場合よりも大きな軸方向力が得られる。
【0072】
(3) 前記入力軸は、前記主油室に連通する第1油路と、前記キャンセラ油室に連通する第2油路とが個別に設けられている(1)又は(2)に記載の摩擦ローラ式減速機。
この摩擦ローラ式減速機によれば、入力軸を通じて主油室とキャンセラ油室に油圧が付与されるため、油圧力を供給する油路が煩雑化しない。また、第1油路と第2油路が個別に設けられているため、第1油路の油圧によらず、キャンセラ油室の油圧を調整できる。
【0073】
(4) 一対の前記サンローラ素子の一方は、前記対向側端面の外周部から他方の前記サンローラ素子に向けて円筒状の外径側円筒部が軸方向に突出して形成され、
前記キャンセラ油室は、前記外径側円筒部の内周面に、他方の前記サンローラ素子の外周面が内嵌されて画成された(1)〜(3)のいずれか一つに記載の摩擦ローラ式減速機。
この摩擦ローラ式減速機によれば、サンローラ素子同士の間にキャンセラ油室が画成されるため、スペース効率を高めた構成にでき、軸方向長さを短縮できる。
【0074】
(5) (1)〜(4)のいずれか一つに記載の摩擦ローラ式減速機と、
前記主油室と前記キャンセラ油室のそれぞれにトラクション油を個別に供給する油圧供給部と、
前記摩擦ローラ式減速機の運転条件を検出する運転条件検出部と、
検出された前記運転条件に応じて前記主油室の油圧を増減させる圧力制御部と、
を備える減速機ユニット。
この減速機ユニットによれば、ローラの軸方向移動に遠心油圧による影響が及ぶことを防止でき、また、運転条件によって限界トラクション係数が変化しても、この限界トラクション係数に運転時のトラクション係数を近づけることができる。これにより、動力伝達効率と耐久寿命を共に向上させることができる。
【0075】
(6) 前記運転条件は、前記転がり接触面におけるトラクション油の温度、前記摩擦ローラ式減速機を通過する伝達トルクのいずれかを含む(5)に記載の減速機ユニット。
この減速機ユニットによれば、トラクション油の温度や伝達トルクの変動に応じて、常に適正なトラクション係数に調整できる。