(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂粒子は、個数平均一次粒子径が80nm以上150nm以下である複数の小径粒子と、個数平均一次粒子径が350nm以上450nm以下である複数の大径粒子とを含む、請求項1に記載のインクジェット記録用白色インク。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態について説明する。なお、粉体に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、相当数の粒子について測定した値の個数平均である。
【0011】
また、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0012】
本実施形態に係るインクジェット記録用白色インク(以下、単に「白色インク」と記載することがある)は、記録媒体に記録される。記録媒体への白色インクの記録方式は、凸版印刷方式、凹版印刷方式、平版印刷方式、孔版印刷方式、電子写真記録方式、又は熱転写記録方式であってもよいが、インクジェット記録方式であることが好ましい。インクジェット記録方式としては、例えば、サーマル方式、ピエゾ方式、連続方式、又はバブル方式が挙げられる。
【0013】
本実施形態に係る白色インクは、記録媒体に白色画像を記録する目的で使用されてもよいし、白色でない記録媒体の色を消す目的で使用されてもよいし、有色画像の透過性を下げる目的で使用されてもよい。何れの場合であっても、本実施形態に係る白色インクは、インクジェット記録装置の記録ヘッドから記録媒体へ向かって吐出されることが好ましい。記録媒体としては、例えば、普通紙、コピー紙、再生紙、薄紙、厚紙、光沢紙、又はOHPシートを使用できる。記録媒体は、プラスチック製、金属製、ガラス製、又はセラミックス製であってもよい。記録媒体は、繊維を用いて加工されたもの(例えば布地)であってもよい。記録媒体は、シート状部材であってもよいし、フィルムであってもよい。
【0014】
白色インクは、社会通念上「白」と呼称される色を記録媒体に記録する。より具体的には、本実施形態では、下記測定方法で測定されたインクの明度(L
*)が下記式(1)を満たし、且つ下記測定方法で測定されたインクの色度(a
*,b
*)が下記式(2)及び(3)を満たす場合、そのインクを白色インクとみなす。
70≦L
*≦100・・・式(1)
−3.5≦a
*≦1.0・・・式(2)
−5.0≦b
*≦1.5・・・式(3)
<測定方法>
記録媒体(セイコーエプソン株式会社製「エプソン純正写真用紙<光沢>」)の表面に対し、duty100%のソリッド画像を記録する。分光光度計(X−Rite社製「Spectrolino」)を用い、下記測定条件で、記録媒体に記録されたインクの明度(L
*)及び色度(a
*,b
*)を測定する。
(測定条件)
光源:D50
観測視野:2°
濃度測定条件:DIN NBフィルター
White Base:absolute
フィルター:No
測定モード:Reflectance
(duty)
duty(インクの付与量)は、下記式で表される。下記式において、「実記録ドット数」は、単位面積当たりの実記録ドット数を意味する。dutyが100%であるとは、画素に対する単色インクの付与量が最大であることを意味する。
duty(単位:%)=100×(実記録ドット数)/(画像解像度)
【0015】
[白色インクの基本構成]
本実施形態に係る白色インクは、次に示す構成(以下、「基本構成」と記載することがある)を備える。詳しくは、本実施形態に係る白色インクは、水性媒体と、水性媒体に分散された複数の樹脂粒子とを含む。樹脂粒子の個数平均一次粒子径が、250nm以上350nm以下である。樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線が、第1ピークと第2ピークとを有する。樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線において、第1ピークのピーク粒子径が80nm以上150nm以下の範囲内に存在し、第2ピークのピーク粒子径が350nm以上450nm以下の範囲内に存在する。樹脂粒子は、各々、スチレン−アクリル酸系樹脂を含有する。乾燥状態のインクジェット記録用白色インクのBET比表面積が、10m
2/g以上50m
2/g以下である。
【0016】
一般的に、樹脂粒子の粒子径が大きいほど、所望の白色度を有する画像が得られる傾向がある。しかし、樹脂粒子の粒子径が大きいほど、樹脂粒子が水性媒体中において沈降する傾向があるため、白色インクの保存安定性が低下する傾向がある(後述の比較例23参照)。また、樹脂粒子の粒子径が大きいほど、記録媒体に対する樹脂粒子の定着強度の確保が難しい傾向があるため、白色インクの定着性が低下する傾向がある(後述の比較例23参照)。このように、樹脂粒子の粒子径を変更しただけでは、保存安定性と定着性とに優れ、且つ所望の白色度を有する画像を形成可能な白色インクを提供できない。本発明者は、このような考察を踏まえ、白色インクについて鋭意検討した。そして、前述の基本構成を備える白色インクが保存安定性と定着性とに優れ、且つ所望の白色度を有する画像を形成可能であることが分かった。
【0017】
詳しくは、前述の基本構成を備える白色インクでは、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線が、第1ピークと第2ピークとを有する。また、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線において、第1ピークのピーク粒子径が80nm以上150nm以下の範囲内に存在し、第2ピークのピーク粒子径が350nm以上450nm以下の範囲内に存在する。このように、本実施形態では、樹脂粒子は、複数の小径粒子と複数の大径粒子とを含む。小径粒子は、第1ピークを構成し易い。大径粒子は、第2ピークを構成し易い。
【0018】
また、前述の基本構成を備える白色インクでは、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が、250nm以上350nm以下である。前述したように、本実施形態では、樹脂粒子が小径粒子と大径粒子とを含む。そのため、樹脂粒子の個数平均一次粒子径は、小径粒子の個数平均一次粒子径と小径粒子の含有量と大径粒子の個数平均一次粒子径と大径粒子の含有量とに依存する。より具体的には、小径粒子の個数平均一次粒子径が小さいほど、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が小さくなる傾向がある。また、小径粒子の含有量が大径粒子の含有量に比べて極端に多ければ、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が小さくなり易い。大径粒子の個数平均一次粒子径が大きいほど、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が大きくなる傾向がある。また、大径粒子の含有量が小径粒子の含有量に比べて極端に多ければ、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が大きくなり易い。
【0019】
本実施形態に係る白色インクを用いて記録媒体に記録を行うことは、小径粒子と大径粒子とを含む白色インクを用いて記録媒体に記録を行うことを意味する。そして、小径粒子と大径粒子とを含む白色インクを用いて記録媒体に記録を行うと、記録媒体の印字面では、隣り合う大径粒子の間に小径粒子が存在可能である。これにより、隣り合う大径粒子の間に存在する隙間の少なくとも一部分が小径粒子で埋められ易い。よって、小径粒子及び大径粒子のうちの一方のみを含む白色インクを用いて記録媒体に記録を行う場合に比べ、記録媒体に対する樹脂粒子の定着強度を確保できる。したがって、定着性に優れる白色インクを提供できる。
【0020】
小径粒子の個数平均一次粒子径が大きすぎる場合には、小径粒子が前述の隙間に存在し難いため、白色インクの定着性が低下することがある(後述の比較例5及び6参照)。大径粒子の個数平均一次粒子径が大きすぎる場合には、前述の隙間が大きくなり易いため、白色インクの定着性が低下することがある。小径粒子の個数平均一次粒子径と大径粒子の個数平均一次粒子径とが共に大きすぎる場合には、白色インクの定着性の低下が顕著となる(後述の比較例21及び22参照)。また、大径粒子の含有量が小径粒子の含有量に比べて極端に多い場合には、前述の隙間における小径粒子の占有率を確保し難いため、白色インクの定着性が低下することがある(後述の比較例13及び14参照)。このように、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が大きすぎる場合には、白色インクの定着性が低下することがある(後述の比較例13及び14参照)。
【0021】
前述したように、本実施形態に係る白色インクでは、樹脂粒子は、大径粒子だけでなく小径粒子をも含む。そのため、樹脂粒子が大径粒子を含むが小径粒子を含まない場合に比べ、水性媒体中における樹脂粒子の沈降を防止できる。よって、保存安定性に優れる白色インクを提供できる。
【0022】
大径粒子の個数平均一次粒子径が大きすぎる場合には、大径粒子が水性媒体中において沈降し易いため、白色インクの保存安定性が低下することがある(後述の比較例17、18、21、及び22参照)。また、大径粒子の含有量が小径粒子の含有量に比べて極端に多い場合には、水性媒体中における大径粒子の沈降量が多くなり易いため、白色インクの保存安定性が低下することがある(後述の比較例13及び14参照)。このように、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が大きすぎる場合には、白色インクの保存安定性が低下することがある(後述の比較例13及び14参照)。
【0023】
前述したように、本実施形態に係る白色インクでは、樹脂粒子は、小径粒子だけでなく大径粒子をも含む。そのため、樹脂粒子が小径粒子を含むが大径粒子を含まない場合に比べ、所望の白色度を有する画像が形成され易い。
【0024】
大径粒子の個数平均一次粒子径が小さすぎる場合には、所望の白色度を有する画像が形成されないことがある(後述の比較例19及び20参照)。小径粒子の個数平均一次粒子径と大径粒子の個数平均一次粒子径とが共に小さすぎる場合には、形成される画像の白色度の低下が顕著となる(後述の比較例15及び16参照)。また、小径粒子の含有量が大径粒子の含有量に比べて極端に多い場合には、所望の白色度を有する画像が形成されないことがある(後述の比較例9及び11参照)。このように、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が小さすぎる場合には、所望の白色度を有する画像が形成されないことがある(後述の比較例9〜12参照)。
【0025】
ここで、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線は、粒度分布測定装置(より具体的には、株式会社堀場製作所製「LA−950」、又はマイクロトラック・ベル株式会社製「マイクロトラック(登録商標)UPA150」)を用いて、求めることができる。粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−950」)は、レーザー回折/散乱法を測定原理とする。粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「マイクロトラックUPA150」)は、動的光散乱法を測定原理とする。
【0026】
また、本発明者は、第1ピークのピーク粒子径が小径粒子の個数平均一次粒子径及び小径粒子の体積中位径D
50の各々の0.95倍以上1.05倍以下であることを確認している。本発明者は、第2ピークのピーク粒子径が大径粒子の個数平均一次粒子径及び大径粒子の体積中位径D
50の各々の0.95倍以上1.05倍以下であることを確認している。好ましくは、小径粒子の個数平均一次粒子径が80nm以上150nm以下であり、且つ大径粒子の個数平均一次粒子径が350nm以上450nm以下である。好ましくは、小径粒子の体積中位径D
50が80nm以上150nm以下であり、且つ大径粒子の体積中位径D
50が350nm以上450nm以下である。
【0027】
前述の基本構成を備える白色インクでは、樹脂粒子は、各々、スチレン−アクリル酸系樹脂を含有する。スチレン−アクリル酸系樹脂の屈折率は、比較的高く、例えばアクリル酸系樹脂の屈折率に比べて高い。そのため、本実施形態に係る白色インクを用いて記録を行うと、スチレン−アクリル酸系樹脂粒子を含まずアクリル酸系樹脂粒子を含む白色インクを用いて記録を行う場合に比べて、形成される画像の白色度を高めることができる(後述の比較例24参照)。
【0028】
前述の基本構成を備える白色インクでは、乾燥状態の白色インクのBET比表面積が、10m
2/g以上50m
2/g以下である。一般的に、記録媒体へ吐出された白色インクは、記録媒体の印字面において乾燥することで、印字面に定着される。これにより、乾燥状態の白色インクのBET比表面積が10m
2/g以上50m
2/g以下であれば、印字面に定着された状態の白色インク(以下、「定着状態の白色インク」と記載する)のBET比表面積が大きくなり易い。よって、定着状態の白色インクの表面からの散乱強度を高めることができる。このことによっても、形成される画像の白色度を高めることができる。なお、乾燥状態の白色インクでは樹脂粒子が凝集していると考えられるため、乾燥状態の白色インクは樹脂粒子の凝集体に相当すると考えられる。同様に、定着状態の白色インクにおいても樹脂粒子が凝集していると考えられるため、定着状態の白色インクは樹脂粒子の凝集体に相当すると考えられる。
【0029】
乾燥状態の白色インクのBET比表面積が小さすぎる場合には、定着状態の白色インクのBET比表面積が大きくなり難いため、定着状態の白色インクの表面からの散乱強度を高めることが難しい。よって、形成される画像の白色度が低下することがある(後述の比較例1、2、5、及び6参照)。乾燥状態の白色インクのBET比表面積が大きすぎると、樹脂粒子の凝集体同士が互いに接着し易いため、白色インクの保存安定性が低下することがある(後述の比較例3、4、7、及び8参照)。
【0030】
乾燥状態の白色インクのBET比表面積を高める方法としては、例えば、樹脂粒子の分散液を高圧乳化法で処理することが挙げられる。高圧乳化法による処理(高圧乳化処理)に使用する装置は、例えば、高圧乳化装置(より具体的には、双日マシナリー株式会社製「nano3000(登録商標)」)、又は湿式微粒化装置(より具体的には、吉田機械興業株式会社製「ナノベィタNanoVater(登録商標)」)であることが好ましい。
【0031】
樹脂粒子の分散液は、小径粒子と大径粒子と水性媒体とを含み、好ましくは界面活性剤をさらに含む。水性媒体は、水を含有することが好ましく、例えばイオン交換水又は純水を含有することが好ましい。界面活性剤は、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、又は両性界面活性剤であってもよいが、アニオン界面活性剤であることが好ましい。アニオン界面活性剤は、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムであることが好ましい。
【0032】
高圧乳化処理における圧力及び温度を変更することで、乾燥状態の白色インクのBET比表面積が所望の値となり易い。より具体的には、高圧乳化処理における圧力(処理圧)が高いほど、乾燥状態の白色インクのBET比表面積が大きくなり易い。処理圧が低いほど、乾燥状態の白色インクのBET比表面積が大きくなり難い。例えば、処理圧は、好ましくは80MPa以上200MPa以下であり、より好ましくは80MPa以上120MPa以下である。また、高圧乳化処理における温度(処理温度)が高いほど、乾燥状態の白色インクのBET比表面積が大きくなり易い。処理温度が低いほど、乾燥状態の白色インクのBET比表面積が大きくなり難い。例えば、処理温度は、好ましくは80℃以上150℃以下であり、より好ましくは100℃以上120℃以下である。
【0033】
樹脂粒子の分散液を高圧乳化法で処理すると、大径粒子の方が小径粒子よりも粗面化され易い、と考えられる。小径粒子の分散液と大径粒子の分散液との各々を高圧乳化法で処理した後、処理後の小径粒子と処理後の大径粒子とを混合して樹脂粒子を作製してもよい。
【0034】
ここで、BET比表面積は、BET法で求めた比表面積を意味する。BET法は、粒子表面への気体分子の吸着量に基づいて粒子の比表面積を測定する方法の一種である。比表面積とは、単位質量あたりの表面積を意味する。BET法で比表面積を求める場合には、まず、圧力Pと圧力Pにおける粒子表面への気体分子の吸着量(体積)Vとの関係を調べる。次に、圧力Pと吸着量Vとの関係と、BET式(Brunauer,Emmet and Teller’s equation)とに基づき、単分子吸着量Vm(粒子表面への気体分子の吸着量(質量))を求める。単分子吸着量Vmと気体分子の吸着断面積Amとに基づき、粒子の比表面積を求める。乾燥状態の白色インクのBET比表面積は、後述の実施例に記載の方法又はそれに準ずる方法で、求めることができる。
【0035】
[白色インクの好ましい製造方法]
まず、樹脂粒子を作製する。より具体的には、所定の溶剤に、スチレン−アクリル酸系樹脂を重合によって合成可能なモノマー又はプレポリマーを加える。得られた混合液を攪拌しながら、混合液の温度を所定の時間にわたって所定の温度に保つ。好ましくは、窒素雰囲気下において混合液の温度を所定の温度に保つ。混合液の温度を所定の温度に保っている間に、モノマー又はプレポリマーが反応(例えば乳化重合反応)する。このようにして、樹脂粒子が得られる。
【0036】
所定の溶剤は、水性媒体を含む。水性媒体は、水を含有することが好ましく、例えばイオン交換水又は純水を含有することが好ましい。水性媒体は、親水性を有する有機溶媒をさらに含有してもよい。
【0037】
所定の溶剤は、重合開始剤と重合停止剤と界面活性剤とをさらに含有することが好ましい。重合開始剤は、水溶性を有することが好ましく、例えば過酸化水素又は過硫酸カリウムであることが好ましい。重合停止剤は、例えば、t−ドデシルメルカプタンであることが好ましい。界面活性剤は、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、又は両性界面活性剤であってもよいが、アニオン界面活性剤であることが好ましい。アニオン界面活性剤は、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムであることが好ましい。スチレン−アクリル酸系樹脂を重合によって合成可能なモノマー又はプレポリマーについては、後述の[白色インクに含有される材料]で説明する。
【0038】
混合液を所定の温度に保つ時間(保持時間)と混合液を攪拌する速度(攪拌速度)とのうちの少なくとも1つを調整することで、得られる樹脂粒子の粒子径を所望の値に調整できる。例えば、保持時間が長いほど、大径粒子が得られる傾向がある。保持時間が短いほど、小径粒子が得られる傾向がある。攪拌速度が速いほど、小径粒子が得られる傾向がある。攪拌速度が遅いほど、大径粒子が得られる傾向がある。得られる小径粒子は、80nm以上150nm以下の体積中位径D
50を有することが好ましい。得られる大径粒子は、350nm以上450nm以下の体積中位径D
50を有することが好ましい。
【0039】
次に、得られた樹脂粒子を用いて、前述の高圧乳化処理を行う。このようにして、白色インクが得られる。高圧乳化処理後の液に他のインク成分を加えることで、白色インクを製造してもよい。他のインク成分については、後述の[白色インクに含有される材料]で説明する。また、高圧乳化処理後の液に対して濾過を行ってもよい。
【0040】
[白色インクに含有される材料]
以下、白色インクに含有される材料について、具体的に説明する。
前述したように、白色インクは、水性媒体と、水性媒体に分散する複数の樹脂粒子とを含む。白色インクは、他のインク成分をさらに含有してもよい。
【0041】
<水性媒体>
水性媒体は、水を含有することが好ましい。水は、純水又は超純水であることが好ましく、より好ましくは滅菌処理された純水又は超純水である。滅菌処理された純水又は超純水を使用すれば、白色インクにおいてカビ及びバクテリアが発生することを長期にわたって防止できる。純水には、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、又は蒸留水が含まれる。滅菌処理には、例えば、紫外線照射、又は過酸化水素添加が含まれる。
【0042】
<樹脂粒子>
樹脂粒子は、スチレン−アクリル酸系樹脂を含有し、好ましくはスチレン−アクリル酸系樹脂のみを含有する。スチレン−アクリル酸系樹脂は、一種類以上のスチレン系モノマーと一種類以上のアクリル酸系モノマーとを含む混合モノマーの重合物である。より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂は、一種類以上のスチレン系モノマーと一種類以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体(縮合重合体)であってもよいし、一種類以上のスチレン系モノマーと一種類以上のアクリル酸系モノマーと一種類以上の他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0043】
好ましくは、混合モノマーにおいて、スチレン系モノマーの含有量が、アクリル酸系モノマーの含有量よりも多い。これにより、スチレン−アクリル酸系樹脂の屈折率が高くなり易いため、形成される画像の白色度を容易に高めることができる。より好ましくは、スチレン−アクリル酸系樹脂の質量平均分子量が、2500以上4000以下である。
【0044】
スチレン系モノマーは、例えば、スチレン、アルキルスチレン、ヒドロキシスチレン、又はハロゲン化スチレンであることが好ましい。アルキルスチレンは、例えば、α−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、又は4−tert−ブチルスチレンであることが好ましい。ヒドロキシスチレンは、例えば、p−ヒドロキシスチレン、又はm−ヒドロキシスチレンであることが好ましい。ハロゲン化スチレンは、例えば、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、又はp−クロロスチレンであることが好ましい。このようなスチレン系モノマーのプレポリマーを使用することもできる。例えば、このようなスチレン系モノマーのダイマーを使用することもできる。
【0045】
アクリル酸系モノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルであることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸オレイル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、又は(メタ)アクリル酸ベンジルであることが好ましい。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルは、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルであることが好ましい。このようなアクリル酸系モノマーのプレポリマーを使用することもできる。例えば、このようなアクリル酸系モノマーのダイマーを使用することもできる。
【0046】
好ましくは、小径粒子が含有するスチレン−アクリル酸系樹脂と、大径粒子が含有するスチレン−アクリル酸系樹脂とでは、同種のモノマーが互いに同一の化学構造を有する。より具体的には、小径粒子に含有されるスチレン−アクリル酸系樹脂が第1スチレン系モノマーと第1アクリル酸系モノマーとを含む第1混合モノマーの重合物であり、且つ大径粒子に含有されるスチレン−アクリル酸系樹脂が第2スチレン系モノマーと第2アクリル酸系モノマーとを含む第2混合モノマーの重合物である場合には、第1スチレン系モノマーと第2スチレン系モノマーとが同一の化学構造を有することが好ましく、第1アクリル酸系モノマーと第2アクリル酸系モノマーとが同一の化学構造を有することが好ましい。これにより、所望の効果(より具体的には、保存安定性と定着性とに優れ、且つ所望の白色度を有する画像を形成可能な白色インクを提供できるという効果)が得られ易い。また、小径粒子と大径粒子とを容易に作製できる。
【0047】
他のモノマーは、前述のスチレン系モノマー及び前述のアクリル酸系モノマーでないモノマーである。他のモノマーは、例えば、前述のスチレン系モノマー及び前述のアクリル酸系モノマーでないモノビニルモノマー(他のモノビニルモノマー)であってもよいし、ジビニルモノマーであってもよい。他のモノマーがジビニルモノマーを含んでいれば、樹脂粒子が機械的強度を有し易い。
【0048】
他のモノビニルモノマーは、例えば、エチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルトルエン、又は塩化ビニリデンであることが好ましい。ジビニルモノマーは、例えば、ジビニルベンゼン、(メタ)アクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、1,3−ブタン−ジオールジ(メタ)アクリル酸エステル、又は1,6−ヘキサンジオールジメタクリル酸エステルであることが好ましい。
【0049】
<他のインク成分>
白色インクは、浸透剤、界面活性剤、多価アルコール、及びpH調整剤からなる群より選択される少なくとも1つをさらに含有することが好ましい。
【0050】
(浸透剤)
白色インクが浸透剤を含有していれば、記録媒体の印字面に対する白色インクの濡れ性を高めることができるため、記録媒体に対する白色インクの浸透性を高めることができる。浸透剤は、アルカンジオールとグリコールエーテル類とからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。白色インクにおける浸透剤の含有量は、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0051】
アルカンジオールは、炭素数が4以上8以下の1,2−アルカンジオールであることが好ましい。より具体的には、アルカンジオールは、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、及び1,2−オクタンジオールからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくは、アルカンジオールは、炭素数が6以上8以下の1,2−アルカンジオールである。より具体的には、アルカンジオールは、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、及び1,2−オクタンジオールからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。炭素数が6以上8以下の1,2−アルカンジオールを用いれば、記録媒体に対する白色インクの浸透性をより一層高めることができる。
【0052】
グリコールエーテル類は、グリコール類の片末端又は両末端の水酸基(−OH基)が低級アルキル基で置換された化合物であることが好ましい。より具体的には、グリコールエーテル類は、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくは、グリコールエーテル類は、トリエチレングリコールモノブチルエーテルである。トリエチレングリコールモノブチルエーテルを用いれば、画質の向上を図ることもできる。
【0053】
(界面活性剤)
白色インクが界面活性剤を含有していれば、記録媒体の印字面に対する白色インクの濡れ性を高めることができるため、記録媒体に対する白色インクの浸透性を高めることができる。界面活性剤は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、又は両性界面活性剤であってもよいが、ノニオン界面活性剤であることが好ましい。ノニオン界面活性剤は、アセチレングリコール型界面活性剤とポリシロキサン型界面活性剤とからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。白色インクにおける界面活性剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上5.00質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以上0.50質量%以下である。
【0054】
アセチレングリコール型界面活性剤は、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、及び2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。市販のアセチレングリコール型界面活性剤としては、例えば、日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」、「オルフィンSTG」、「オルフィンY」、「サーフィノール(登録商標)82」、「サーフィノール104」、「サーフィノール465」、「サーフィノール485」、及び「サーフィノールTG」を挙げることができる。
【0055】
ポリシロキサン型界面活性剤は、例えば、ポリエーテル変性シロキサンであることが好ましい。市販のポリシロキサン型界面活性剤としては、例えば、ビックケミー・ジャパン社製「BYK(登録商標)−347」及び「BYK−348」を挙げることができる。「BYK−347」及び「BYK−348」は、各々、ポリエーテル変性シロキサンを含有する。
【0056】
(多価アルコール)
白色インクが多価アルコールを含有していれば、白色インクの乾燥を防止できるため、記録ヘッドが目詰まりを起こすことを防止できる。白色インクにおける多価アルコールの含有量は、好ましくは0.1質量%以上30.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上20.0質量%以下である。
【0057】
多価アルコールは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,2,6−ヘキサントリオールからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0058】
(pH調整剤)
白色インクがpH調整剤を含有していれば、白色インクのpHを容易に調整できる。白色インクにおけるpH調整剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上10.00質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下である。pH調整剤は、第三級アミンであることが好ましい。より具体的には、pH調整剤は、トリエタノールアミンであることが好ましい。
【0059】
(その他の添加剤)
白色インクは、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、及び酸素吸収剤からなる群より選択される少なくとも1つをさらに含有することが好ましい。定着剤は、例えば、水溶性ロジンであることが好ましい。防黴剤は、例えば、安息香酸ナトリウムであることが好ましい。安息香酸ナトリウムは、防腐剤としても機能し得る。酸化防止剤は、例えば、アロハネート類であることが好ましい。
【実施例】
【0060】
本発明の実施例を説明する。以下、まず、樹脂粒子A〜Hの各々の作製方法を説明し、樹脂粒子A〜Hの各々の物性値の測定方法を説明する。次に、樹脂分散体P−01〜P−32の各々の調製方法を説明し、樹脂分散体P−01〜P−32の各々の物性値の測定方法を説明する。続いて、水性インクWA−01〜WA−08及びWB−01〜WB−24の各々の製造方法、評価方法、及び評価結果を説明する。なお、複数の粒子を含む粉体に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、相当数の粒子について測定した値の個数平均である。誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。
【0061】
[樹脂粒子の作製方法]
<樹脂粒子Aの作製>
まず、温度計と攪拌羽根と窒素導入管とを備えた3つ口フラスコ(容量:2L)に、80.0質量部のスチレンと、5.0質量部のメタクリル酸と、15.0質量部のメタクリル酸メチルと、4.0質量部のα−メチルスチレンのダイマーと、14.0質量部のt−ドデシルメルカプタンと、0.8質量部のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと、1.0質量部の過硫酸カリウムと、200.0質量部のイオン交換水とを入れた。フラスコに窒素を導入しながら、且つフラスコの内容物を攪拌しながら、フラスコ内の温度を80℃まで上昇させた。窒素の導入と攪拌とを継続しながら、6時間にわたってフラスコ内の温度を80℃に保った。フラスコ内の温度を80℃に保っている間に、フラスコの内容物が反応した(乳化重合)。この反応の収率は98%であった。このようにして、樹脂粒子Aを得た。
【0062】
<樹脂粒子B〜Hの各々の作製>
材料の配合量を表1に示す値に変更したことを除いては樹脂粒子Aの作製方法に従い、樹脂粒子B〜Hの各々を作製した。
【0063】
表1に、実施例又は比較例における樹脂粒子A〜Hの構成を示す。表1において、「St」はスチレンを意味し、「MA」はメタクリル酸を意味し、「MMA」はメタクリル酸メチルを意味し、「D−AMS」はα−メチルスチレンのダイマーを意味する。「TBM」はt−ブチルメルカプタンを意味し、「LAS」はドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを意味し、「KPS」は過硫酸カリウムを意味し、「DI水」はイオン交換水を意味する。
【0064】
【表1】
【0065】
[樹脂粒子の物性値の測定方法]
<体積中位径D
50の測定>
粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−950」)を用いて、樹脂粒子(より具体的には、樹脂粒子A〜Hの各々)の体積中位径D
50を求めた。測定結果を表2に示す。
【0066】
樹脂粒子は、シャープな粒度分布を有していた。詳しくは、樹脂粒子Aは、約80nmの粒子径を有するスチレン−アクリル酸系樹脂粒子のみを実質的に含んでいた。樹脂粒子Bは、約350nmの粒子径を有するスチレン−アクリル酸系樹脂粒子のみを実質的に含んでいた。樹脂粒子Cは、約150nmの粒子径を有するスチレン−アクリル酸系樹脂粒子のみを実質的に含んでいた。樹脂粒子Dは、約450nmの粒子径を有するスチレン−アクリル酸系樹脂粒子のみを実質的に含んでいた。樹脂粒子Eは、約60nmの粒子径を有するスチレン−アクリル酸系樹脂粒子のみを実質的に含んでいた。樹脂粒子Fは、約500nmの粒子径を有するスチレン−アクリル酸系樹脂粒子のみを実質的に含んでいた。樹脂粒子Gは、約155nmの粒子径を有するスチレン−アクリル酸系樹脂粒子のみを実質的に含んでいた。樹脂粒子Hは、約80nmの粒子径を有するアクリル酸系樹脂粒子のみを実質的に含んでいた。
【0067】
<質量平均分子量Mwの測定>
ゲルろ過クロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC−8020GPC」)を用いて、下記条件で、樹脂粒子(より具体的には、樹脂粒子A〜Hの各々)の質量平均分子量Mwを求めた。測定結果を表2に示す。
(測定条件)
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultiporeHZ−H」(4.6mmI.D.×15cmのセミミクロカラム)
カラム本数:3本
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
サンプル注入量:10μL
測定温度:40℃
検出器:IR検出器
なお、検量線は、東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンから、F−40、F−20、F−4、F−1、A−5000、A−2500、及びA−1000の7種とn−プロピルベンゼンとを選択して作成された。
【0068】
<BET比表面積の測定>
全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製「Macsorb(登録商標)HM MODEL−1208」)を用いて、樹脂粒子(より具体的には、樹脂粒子A〜Hの各々)のBET比表面積を求めた。測定結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
[樹脂分散体の調製方法]
<樹脂分散体P−01の調製>
高圧乳化装置(双日マシナリー株式会社製「nano3000(登録商標)」)に、20.0質量部の樹脂粒子Aと、20.0質量部の樹脂粒子Bと、0.3質量部のラウリル硫酸ナトリウムと、360.0質量部のイオン交換水とを入れた。得られた分散液に対し、前述の高圧乳化装置を用いて、処理温度100℃、処理圧80MPa、且つパス回数1回という条件で、高圧乳化処理を行った。このようにして、樹脂分散体P−01(固形分濃度:10質量%)を得た。
【0071】
<樹脂分散体P−02〜P−32の各々の調製>
樹脂粒子の種類及び配合量と高圧乳化処理における処理温度及び処理圧とを各々表3に示す値に変更したことを除いては樹脂分散体P−01の調製方法に従い、樹脂分散体P−02〜P−16の各々を調製した。
【0072】
樹脂粒子の種類及び配合量と高圧乳化処理における処理温度及び処理圧とを各々表4に示す値に変更したことを除いては樹脂分散体P−01の調製方法に従い、樹脂分散体P−17〜P−30の各々を調製した。
【0073】
高圧乳化処理を行うことなく、樹脂分散体P−31及びP−32を各々調製した。詳しくは、40.0質量部の樹脂粒子Dと360.0質量部のイオン交換水とを混合して、樹脂分散体P−31を調製した。樹脂粒子Hを用いたことを除いては樹脂分散体P−31の調製方法に従い、樹脂分散体P−32を調製した。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
[樹脂分散体の物性値の測定方法]
<個数平均一次粒子径の測定>
次に示す方法で、樹脂粒子(より具体的には、樹脂分散体P−01〜P−32の各々に含まれる樹脂粒子)の個数平均一次粒子径を測定した。詳しくは、透過電子顕微鏡(TEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「H−7100FA」)を用いて、樹脂粒子を倍率1000000倍で観察して、100個以上の樹脂粒子のTEM写真を撮影した。得られたTEM写真の中から、100個の樹脂粒子のTEM写真を任意に選択した。任意に選択されたTEM写真について、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて、樹脂粒子の円相当径を測定した。測定された円相当径の個数平均値を算出した。算出された個数平均値を樹脂粒子の個数平均一次粒子径とした。算出結果を表5及び表6の「平均粒子径」に示す。
【0077】
<ピーク粒子径の測定>
粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−950」)を用いて、樹脂粒子(より具体的には、樹脂分散体P−01〜P−32の各々に含まれる樹脂粒子)の体積基準の粒度分布曲線を測定した。得られた粒度分布曲線に基づいて、ピーク粒子径を求めた。測定結果を表5及び表6に示す。
【0078】
樹脂分散体P−01〜P−30の各々では、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線にはピークが2つ現れた。現れたピークは、何れも、シャープであった。一方、樹脂分散体P−31〜P−32の各々では、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線にはピークが1つだけ現れた。現れたピークは、何れも、シャープであった。
【0079】
<乾燥状態のインクのBET比表面積の測定>
200gの樹脂分散体(より具体的には、樹脂分散体P−01〜P−32の各々)を容器に入れ、その容器を恒温槽(設定温度:50℃)内に静置した。恒温槽の内圧を10mmHgにまで下げた。これにより、樹脂分散体が乾燥し、乾燥状態の樹脂分散体(粉末)を得た。得られた粉末の1gを測定用サンプルとした。全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製「Macsorb HM MODEL−1208」)を用いて、測定用サンプルのBET比表面積を求めた。求められたBET比表面積を乾燥状態のインクのBET比表面積とした。測定結果を表5及び表6の「BET比表面積」に示す。
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
[水性インクの製造方法]
<水性インクWA−01の製造>
容器に、50.0質量%の樹脂分散体P−01と、10.0質量%のグリセリンと、5.0質量%の1,2−ヘキサンジオールと、0.1質量%の界面活性剤(ビックケミー・ジャパン社製「BYK−348」)と、0.3質量%のトリエタノールアミンと、イオン交換水(残量)とを入れた。攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーター BL−600」)を用いて容器の内容物を回転速度400rpmで攪拌し、容器の内容物を均一に混合した。得られた液を、メンブランフィルター(孔径:10μm)を用いて、濾過した。このようにして、水性インクWA−01を得た。
【0083】
<水性インクWA−02〜WA−08及びWB−01〜WB−24の製造>
樹脂分散体P−02〜P−08を用いたことを除いては水性インクWA−01の製造方法に従い、各々、水性インクWA−02〜WA−08を得た。樹脂分散体P−09〜P−32を用いたことを除いては水性インクWA−01の製造方法に従い、各々、水性インクWB−01〜WB−24を得た。
【0084】
[水性インクの評価方法]
<白色度の評価>
まず、水性インク(より具体的には、水性インクWA−01〜WA−08及びWB−01〜WB−24の各々)を、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製「PX−045a」)専用のカートリッジの黒色インク室に充填した。次に、カートリッジを前述のインクジェットプリンターに装着した。続いて、インクジェットプリンターを用いて、duty100%のソリッド画像を記録媒体(セイコーエプソン株式会社製「クリアプルーフフィルム」)に記録した。反射濃度計(X−Rite社製「SpectroEye(登録商標)」)を用いて、下記測定条件で、記録媒体に記録された水性インクの明度(L
*)及び色度(a
*,b
*)を測定した。
(測定条件)
光源:D50
観測視野:2°
濃度測定条件:DIN NBフィルター
White Base:absolute
フィルター:No
測定モード:Reflectance
【0085】
評価基準を以下に示す。評価結果を表7及び表8に示す。
良好:下記式(1)〜式(3)の全てを満たした。
不良:下記式(1)〜式(3)のうちの少なくとも1つを満たさなかった。
70≦L
*≦100・・・式(1)
−3.5≦a
*≦1.0・・・式(2)
−5.0≦b
*≦1.5・・・式(3)
【0086】
<定着性の評価>
学振式摩擦堅牢度試験機(テスター産業株式会社製)を用いて、不織布による擦り試験を行った。詳しくは、荷重200gfをかけながら、前述の<白色度の評価>で得られた印字物の印刷面において不織布(旭化成株式会社「ベンコット(登録商標)M−3II」)を500回にわたって往復移動させた。その後、印刷面の状態を目視で観察した。
【0087】
評価基準を以下に示す。評価結果を表7及び表8に示す。
優良:擦り試験の前後において印刷面の状態に変化は確認されなかった。
良好:印刷面には擦った跡が確認された。印刷面を手で触れても、画像は剥がれなかった。
やや不良:印刷面を手で触れると、画像が剥がれた。
不良:印刷面を手で軽く触れただけでも、画像が剥がれた。
【0088】
<保存安定性の評価>
まず、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」に記載の方法に準拠して、25℃における水性インク(より具体的には、水性インクWA−01〜WA−08及びWB−01〜WB−24の各々)の粘度を測定した。このようにして、保存前の粘度を求めた。
【0089】
次に、水性インクを容器に入れ、その容器をオーブン(設定温度:60℃)内で1週間にわたって保存した。容器をオーブンから取り出し、容器内の温度が25℃に戻るまで容器を静置した。その後、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法)」に記載の方法に準拠して、25℃における水性インクの粘度を測定した。このようにして、保管後の粘度を求めた。そして、下記式を用いて粘度の変化率を求めた。
粘度の変化率[単位:%]=100×[(保管後の粘度)−(保管前の粘度)]/(保管前の粘度)
【0090】
評価基準を以下に示す。評価結果を表7及び表8に示す。
良好:粘度の変化率が10%未満であった。
不良:粘度の変化率が10%以上であった。
【0091】
[水性インクの評価結果]
表7に、水性インク(より具体的には、水性インクWA−01〜WA−08及びWB−01〜WB−08の各々)の評価結果を示す。表8に、水性インク(より具体的には、水性インクWB−09〜WB−24の各々)の評価結果を示す。
【0092】
【表7】
【0093】
【表8】
【0094】
水性インクWA−01〜WA−08(より具体的には、実施例1〜8に係る水性インク)は、各々、前述の基本構成を備えていた。詳しくは、水性インクWA−01〜WA−08は、各々、水性媒体と、水性媒体に分散された複数の樹脂粒子とを含んでいた。樹脂粒子の個数平均一次粒子径が、250nm以上350nm以下であった。樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線が、第1ピークと第2ピークとを有していた。樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線において、第1ピークのピーク粒子径が80nm以上150nm以下の範囲内に存在し、第2ピークのピーク粒子径が350nm以上450nm以下の範囲内に存在していた。樹脂粒子は、各々、スチレン−アクリル酸系樹脂を含有していた。水性インクWA−01〜WA−08では、各々、乾燥状態のインクの各々のBET比表面積が、10m
2/g以上50m
2/g以下であった。表7に示すように、水性インクWA−01〜WA−08は、各々、所望の白色度を有し、定着性に優れ、保存安定性に優れた。
【0095】
一方、水性インクWB−01〜WB−24(より具体的には、比較例1〜24に係る水性インク)は、各々、前述の基本構成を備えていなかった。詳しくは、水性インクWB−01及びWB−02の各々では、乾燥状態のインクのBET比表面積が10m
2/g未満であり、白色度が低下した。
【0096】
水性インクWB−03、WB−04、WB−07、及びWB−08の各々では、乾燥状態のインクのBET比表面積が50m
2/g超であり、保存安定性が低下した。
【0097】
水性インクWB−05及びWB−06の各々では、乾燥状態のインクのBET比表面積が10m
2/g未満であった。また、水性インクWB−05及びWB−06の各々では、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線において、第1ピークのピーク粒子径が150nm超であった。水性インクWB−05及びWB−06の各々では、白色度が低下し、定着性が低下した。
【0098】
水性インクWB−09〜WB−12の各々では、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が250nm未満であり、白色度が低下した。
【0099】
水性インクWB−13及びWB−14の各々では、樹脂粒子の個数平均一次粒子径が350nm超であり、定着性と保存安定性とが低下した。
【0100】
水性インクWB−15及びWB−16の各々では、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線において、第1ピークのピーク粒子径が80nm未満であり、第2ピークのピーク粒子径が350nm未満であった。水性インクWB−15及びWB−16の各々では、白色度が低下した。
【0101】
水性インクWB−17及びWB−18の各々では、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線において、第1ピークのピーク粒子径が80nm未満であり、第2ピークのピーク粒子径が450nm超であった。水性インクWB−17及びWB−18の各々では、保存安定性が低下した。
【0102】
水性インクWB−19及びWB−20の各々では、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線において、第1ピークのピーク粒子径が150nm超であり、第2ピークのピーク粒子径が350nm未満であった。水性インクWB−19及びWB−20の各々では、白色度が低下した。
【0103】
水性インクWB−21及びWB−22の各々では、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線において、第1ピークのピーク粒子径が150nm超であり、第2ピークのピーク粒子径が450nm超であった。水性インクWB−21及びWB−22の各々では、定着性と保存安定性とが低下した。
【0104】
水性インクWB−23では、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線にはピークが1つだけ現れた。また、水性インクWB−23では、乾燥状態のインクのBET比表面積が10m
2/g未満であった。水性インクWB−23では、定着性と保存安定性とが低下した。
【0105】
水性インクWB−24では、樹脂粒子の体積基準の粒度分布曲線にはピークが1つだけ現れた。また、水性インクWB−24では、乾燥状態のインクのBET比表面積が10m
2/g未満であった。また、水性インクWB−24は、複数のアクリル酸系樹脂粒子を含んでいた。水性インクWB−24では、白色度が低下した。
【0106】
なお、本発明者は、記録媒体(セイコーエプソン株式会社製「クリアプルーフフィルム」)の代わりに記録媒体(セイコーエプソン株式会社製「エプソン純正写真用紙<光沢>」)を用いた場合であっても、水性インクWA−01〜WA−08の各々の明度(L
*)が前述の式(1)を満たすことを確認している。また、本発明者は、記録媒体(セイコーエプソン株式会社製「クリアプルーフフィルム」)の代わりに記録媒体(セイコーエプソン株式会社製「エプソン純正写真用紙<光沢>」)を用いた場合であっても、水性インクWA−01〜WA−08の各々の色度(a
*,b
*)が前述の式(2)及び(3)を満たすことを確認している。つまり、本発明者は、水性インクWA−01〜WA−08の各々が白色インクであることを確認している。