特許第6806027号(P6806027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806027
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】正帯電性トナー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20201214BHJP
   G03G 9/093 20060101ALI20201214BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20201214BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   G03G9/097 375
   G03G9/093
   G03G9/097 371
   G03G9/087 325
   G03G9/087 331
   G03G9/08 381
【請求項の数】10
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-203623(P2017-203623)
(22)【出願日】2017年10月20日
(65)【公開番号】特開2019-78802(P2019-78802A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2019年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】駒田 良太郎
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−053155(JP,A)
【文献】 特開2018−185426(JP,A)
【文献】 特開2018−124495(JP,A)
【文献】 特開2018−120054(JP,A)
【文献】 特開2018−097052(JP,A)
【文献】 特開2018−185466(JP,A)
【文献】 特開2007−121664(JP,A)
【文献】 特開2007−121663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08−9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のトナー粒子を含む正帯電性トナーであって、
前記トナー粒子は、各々、トナー母粒子と、外添剤とを備え、
前記トナー母粒子は、結着樹脂を含有するトナーコアと、前記トナーコアの表面を覆うシェル層とを有し、
前記外添剤は、複数のシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子は、各々、前記シェル層の表面に存在し、シリカ基体の表面が表面処理剤で処理されて構成され、
前記表面処理剤は、分子内にカルボキシル基を有する第1処理剤を含み、
前記トナーコアと、前記シリカ粒子の各々とは、前記シェル層内の共有結合により、互いに結合され、
前記共有結合は、第1アミド結合と、第2アミド結合とを有し、
前記シェル層は、ビニル樹脂を含有し、
前記ビニル樹脂は、下記式(1−1)で表される構成単位と、下記式(1−2)で表される構成単位と、下記式(1−3)で表される構成単位とを含み、
下記式(1−1)で表される構成単位に含まれるアミド結合が、前記第1アミド結合であり、
下記式(1−2)で表される構成単位に含まれるアミド結合が、前記第2アミド結合であり、
前記正帯電性トナー1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量が、ガスクロマトグラフィー質量分析法による測定で、0.10μmol以上100μmol以下である、正帯電性トナー。
【化1】
式(1−1)において、R11は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。式(1−1)において、2つの酸素原子と結合している炭素原子の未結合手は、前記結着樹脂を構成する原子に接続される。
【化2】
式(1−2)において、R12は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。式(1−2)において、2つの酸素原子と結合している炭素原子の未結合手は、前記第1処理剤を構成する原子に接続される。
【化3】
式(1−3)において、R13は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
【請求項2】
前記シリカ粒子の疎水化度が、60%以上である、請求項1に記載の正帯電性トナー。
【請求項3】
前記表面処理剤は、第2処理剤をさらに含み、
前記第2処理剤は、疎水化剤である、請求項2に記載の正帯電性トナー。
【請求項4】
前記第1処理剤は、分子内にカルボキシル基を有する反応性シリコーンオイルであり、
前記第2処理剤は、分子内にアルキル基を有するアルコキシシランである、請求項3に記載の正帯電性トナー。
【請求項5】
前記表面処理剤は、第3処理剤をさらに含み、
前記第3処理剤は、分子内にアミノ基を有するアルコキシシランである、請求項4に記載の正帯電性トナー。
【請求項6】
前記結着樹脂は、酸価が5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である樹脂を1種類以上含む、請求項1〜5の何れか一項に記載の正帯電性トナー。
【請求項7】
複数のトナー粒子を含む正帯電性トナーの製造方法であって、
表面に第1カルボキシル基を有するトナーコアを、準備する工程と、
表面に第2カルボキシル基を有するシリカ粒子を、準備する工程と、
ビニル樹脂を含むシェル層形成用液を、調製する工程と、
第1温度で前記トナーコアと前記シェル層形成用液とを混合して、トナー母粒子を作製する工程と、
第2温度で前記トナー母粒子と前記シリカ粒子とを混合する工程と、
を含み、
前記ビニル樹脂は、下記式(1−3)で表される構成単位を含み、
前記第1温度は、前記ビニル樹脂に含まれる複数のオキサゾリン基のうちの一部のオキサゾリン基と前記第1カルボキシル基とが反応してアミド結合が形成される温度以上であり、
前記第2温度は、前記ビニル樹脂に含まれる複数のオキサゾリン基のうちの残りの一部のオキサゾリン基と前記第2カルボキシル基とが反応してアミド結合が形成される温度以上である、正帯電性トナーの製造方法。
【化4】
式(1−3)において、R13は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
【請求項8】
前記シリカ粒子を準備する工程は、シリカ基体の表面を表面処理剤で処理する工程を含み、
前記表面処理剤は、分子内にカルボキシル基を有する第1処理剤を含む、請求項7に記載の正帯電性トナーの製造方法。
【請求項9】
前記第1処理剤は、分子内にカルボキシル基を有する反応性シリコーンオイルであり、
前記表面処理剤は、分子内にアルキル基を有するアルコキシシランと、分子内にアミノ基を有するアルコキシシランとをさらに含む、請求項8に記載の正帯電性トナーの製造方法。
【請求項10】
前記トナーコアは、酸価が5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である樹脂を1種類以上含む、請求項7〜9の何れか一項に記載の正帯電性トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正帯電性トナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疎水化処理と正帯電化処理とが施されたシリカ粒子を外添剤粒子として用いることが提案されている(例えば、後述の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−321690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリカ粒子がトナー母粒子の表面から脱離することがある。例えば現像装置内においてトナーがストレスを受けると、シリカ粒子が脱離し易い。そして、シリカ粒子が脱離すると、トナーの帯電安定性が低下することがあり、トナーの耐熱保存安定性が低下することがある。また、シリカ粒子が脱離すると、画像形成装置の構成部材の表面が汚染されることがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、帯電安定性と耐熱保存安定性と耐付着性とに優れる正帯電性トナー及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る正帯電性トナーは、複数のトナー粒子を含む。前記トナー粒子は、各々、トナー母粒子と、外添剤とを備える。前記トナー母粒子は、結着樹脂を含有するトナーコアと、前記トナーコアの表面を覆うシェル層とを有する。前記外添剤は、複数のシリカ粒子を含む。前記シリカ粒子は、各々、前記シェル層の表面に存在し、シリカ基体の表面が表面処理剤で処理されて構成されている。表面処理剤は、分子内にカルボキシル基を有する第1処理剤を含む。前記トナーコアと、前記シリカ粒子の各々とは、前記シェル層内の共有結合により、互いに結合されている。前記共有結合は、第1アミド結合と、第2アミド結合とを有する。前記シェル層は、ビニル樹脂を含有する。前記ビニル樹脂は、下記式(1−1)で表される構成単位と、下記式(1−2)で表される構成単位と、下記式(1−3)で表される構成単位とを含む。下記式(1−1)で表される構成単位に含まれるアミド結合が、前記第1アミド結合である。下記式(1−2)で表される構成単位に含まれるアミド結合が、前記第2アミド結合である。前記正帯電性トナー1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量が、ガスクロマトグラフィー質量分析法による測定で、0.10μmol以上100μmol以下である。
【0007】
【化1】
【0008】
式(1−1)において、R11は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。式(1−1)において、2つの酸素原子と結合している炭素原子の未結合手は、前記結着樹脂を構成する原子に接続される。
【0009】
【化2】
【0010】
式(1−2)において、R12は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。式(1−2)において、2つの酸素原子と結合している炭素原子の未結合手は、前記第1処理剤を構成する原子に接続される。
【0011】
【化3】
【0012】
式(1−3)において、R13は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
【0013】
本発明に係る正帯電性トナーの製造方法は、複数のトナー粒子を含む正帯電性トナーの製造方法である。詳しくは、本発明に係る正帯電性トナーの製造方法は、表面に第1カルボキシル基を有するトナーコアを、準備する工程と、表面に第2カルボキシル基を有するシリカ粒子を、準備する工程と、ビニル樹脂を含むシェル層形成用液を、調製する工程と、第1温度で前記トナーコアと前記シェル層形成用液とを混合して、トナー母粒子を作製する工程と、第2温度で前記トナー母粒子と前記シリカ粒子とを混合する工程とを含む。前記ビニル樹脂は、下記式(1−3)で表される構成単位を含む。前記第1温度は、前記ビニル樹脂に含まれる複数のオキサゾリン基のうちの一部のオキサゾリン基と前記第1カルボキシル基とが反応してアミド結合が形成される温度以上である。前記第2温度は、前記ビニル樹脂に含まれる複数のオキサゾリン基のうちの残りの一部のオキサゾリン基と前記第2カルボキシル基とが反応してアミド結合が形成される温度以上である。
【0014】
【化4】
【0015】
式(1−3)において、R13は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る正帯電性トナーは、帯電安定性と耐熱保存安定性と耐付着性とに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について説明する。なお、粉体に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から平均的な粒子を相当数選び取って、それら平均的な粒子の各々について測定した値の個数平均である。粉体には、例えば、トナー母粒子と、外添剤と、トナーとが含まれる。トナー母粒子は、外添剤が設けられていない状態のトナー粒子を意味する。
【0018】
粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。また、粉体の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、ベックマン・コールター株式会社製「コールターカウンターマルチサイザー3」を用いてコールター原理(細孔電気抵抗法)に基づき測定した値である。
【0019】
酸価及び水酸基価の各々の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本工業規格)K0070−1992」に従い測定した値である。また、数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。また、ガラス転移点(Tg)及び融点(Mp)は、各々、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて測定した値である。また、軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した値である。
【0020】
化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の構成単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0021】
帯電性の強さは、何ら規定していなければ、摩擦帯電し易さに相当する。例えばトナーは、日本画像学会から提供される標準キャリア(アニオン性:N−01、カチオン性:P−01)と混ぜて攪拌することで、摩擦帯電させることができる。摩擦帯電させる前と後とでそれぞれ、例えばKFM(ケルビンプローブフォース顕微鏡)でトナー粒子の表面電位を測定し、摩擦帯電の前後での電位の変化が大きい部位ほど帯電性が強いことになる。
【0022】
帯電安定性に優れる正帯電性トナーとは、第1〜第3の特性を有する正帯電性トナーを意味する。第1の特性は、正帯電性トナーの帯電量分布がシャープであるという特性である。第2の特性は、正帯電性トナーを用いて画像を形成し始める際に正帯電性トナーの帯電量を所望の帯電量に維持できるという特性である。第3の特性は、正帯電性トナーを用いて画像を連続して形成した場合に正帯電性トナーの帯電量を所望の帯電量に維持できるという特性である。
【0023】
本実施形態に係る正帯電性トナーは、静電潜像の現像に好適に用いることが可能な静電潜像現像用トナーである。本実施形態に係る正帯電性トナーは、1成分現像剤を構成してもよいし、キャリアと共に2成分現像剤を構成してもよい。正帯電性トナーが1成分現像剤を構成する場合には、正帯電性トナーは、現像装置内において現像スリーブ又はトナー帯電部材と摩擦することで、正に帯電する。トナー帯電部材は、例えば、ドクターブレードである。正帯電性トナーが2成分現像剤を構成する場合には、正帯電性トナーは、現像装置内においてキャリアと摩擦することで、正に帯電する。キャリアは、複数のキャリア粒子を含む。
【0024】
本実施形態に係る正帯電性トナーは、例えば、電子写真装置(画像形成装置)において画像の形成に用いることができる。以下、電子写真装置による画像形成方法の一例について説明する。
【0025】
まず、画像データに基づいて、感光体ドラムの感光層に静電潜像を形成する。次に、形成された静電潜像を、正帯電性トナーを用いて、現像する(現像工程)。現像工程では、現像装置が、現像スリーブ上の正帯電性トナーを、感光体ドラムの感光層へ供給して、電気的な力で静電潜像に付着させる。このようにして静電潜像が現像され、感光体ドラムの感光層にはトナー像が形成される。続いて、トナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写した後、加熱により未定着トナー像を記録媒体に定着させる。その結果、画像が記録媒体に形成される。
【0026】
[正帯電性トナーの基本構成]
本実施形態に係る正帯電性トナーは、次に示す構成(以下、「基本構成」と記載することがある)を備える。詳しくは、本実施形態に係る正帯電性トナーは、複数のトナー粒子を含む。トナー粒子は、各々、トナー母粒子と、外添剤とを備える。トナー母粒子は、トナーコアと、シェル層とを有する。トナーコアは、結着樹脂を含有する。シェル層は、トナーコアの表面を覆う。外添剤は、複数のシリカ粒子を含む。シリカ粒子は、各々、シェル層の表面に存在する。トナーコアと、シリカ粒子の各々とは、シェル層内の共有結合により、互いに結合されている。
【0027】
このように、本実施形態では、トナーコアと、シリカ粒子の各々とは、シェル層内の共有結合により、互いに結合されている。これにより、正帯電性トナーがストレスを受けた場合であっても、シリカ粒子がシェル層の表面から脱離することを防止できる。
【0028】
シリカ粒子の脱離を防止できれば、トナー粒子の流動性が低下することを防止できる。よって、耐熱保存安定性に優れる正帯電性トナーを提供できる。例えば、本実施形態に係る正帯電性トナーを高温環境下において長期にわたって保存した場合であっても、トナー粒子が凝集することを防止できる。
【0029】
シリカ粒子の脱離を防止できれば、画像形成装置の構成部材の表面がシリカ粒子又はトナー母粒子で汚染されることを防止できる。例えば、現像スリーブの表面の汚染を防止できる。また、感光体ドラムの感光層の汚染を防止できる。また、本実施形態に係る正帯電性トナーを用いて2成分現像剤を構成する場合においてシリカ粒子の脱離を防止できれば、キャリア粒子の表面がシリカ粒子又はトナー母粒子で汚染されることを防止できる。これらのことから、耐付着性に優れる正帯電性トナーを提供できる。なお、現像スリーブの表面の汚染を防止できれば、現像ムラの発生を防止できる。また、感光体ドラムの感光層の汚染を防止できれば、転写ムラの発生を防止できる。
【0030】
キャリア粒子の表面の汚染を防止できれば、キャリアの帯電付与能が低下することを防止できる。また、キャリア粒子の表面の汚染を防止できれば、シリカ粒子がキャリア粒子の表面でストレスを受けることを防止できるため、シリカ粒子の帯電特性がキャリア粒子の表面で低下することを防止できる。このことによっても、キャリアの帯電付与能が低下することを防止できる。キャリアの帯電付与能の低下を防止できれば、正帯電性トナーの帯電安定性が低下することを防止できる。よって、帯電安定性に優れる正帯電性トナーを提供できる。したがって、本実施形態に係る正帯電性トナーを用いて画像を形成すると、長期にわたって連続して画像を形成した場合であっても、形成された画像において、かぶりの発生を防止でき、画像濃度の大きな変動を防止できる。
【0031】
シリカ粒子は、各々、シリカ基体の表面が表面処理剤で処理されて構成されている。「シリカ基体」は、粒子状に形成されていることが好ましい。「シリカ基体」には、表面処理が全く施されていなくてもよいし、本実施形態における表面処理剤以外の表面処理剤による表面処理が施されていてもよい。「本実施形態における表面処理剤以外の表面処理剤」は、公知の表面処理剤のうち後述の第1〜第3処理剤を除く表面処理剤を意味する。
【0032】
本実施形態における表面処理剤は、第1処理剤を含む。第1処理剤は、分子内にカルボキシル基を有する。シリカ基体の表面が第1処理剤で処理されることで、トナーコアとシリカ粒子の各々とがシェル層内の共有結合により互いに結合され易い。以下、シェル層に含まれるビニル樹脂の化学構造を説明しながら、トナーコアとシリカ粒子の各々とを結合するシェル層内の共有結合(以下、「特定の共有結合」と記載する)を説明する。なお、特定の共有結合の存否については、後述の実施例に記載の方法又はそれに準ずる方法で確認できる。
【0033】
特定の共有結合は、第1アミド結合と、第2アミド結合とを有する。シェル層は、ビニル樹脂を含有する。一般的に、ビニル樹脂は、ビニル化合物の単重合体又は共重合体である。ビニル化合物は、ビニル基(CH2=CH−)とビニリデン基(CH2=C<)とビニレン基(−CH=CH−)とのうちの少なくとも1つの官能基を分子内に有する。ビニル基などの官能基に含まれる炭素二重結合(C=C)が開裂して付加重合反応が起こると、ビニル化合物が高分子(ビニル樹脂)となる。
【0034】
本実施形態では、ビニル樹脂は、下記式(1−1)で表される構成単位(以下、「構成単位(1−1)」と記載する)と、下記式(1−2)で表される構成単位(以下、「構成単位(1−2)」と記載する)と、下記式(1−3)で表される構成単位(以下、「構成単位(1−3)」と記載する)とを含む。構成単位(1−1)に含まれるアミド結合[C(=O)−NH]が、第1アミド結合である。構成単位(1−2)に含まれるアミド結合[C(=O)−NH]が、第2アミド結合である。以下、構成単位(1−1)と構成単位(1−2)と構成単位(1−3)とを含むビニル樹脂を「特定のビニル樹脂」と記載する。
【0035】
【化5】
【0036】
式(1−1)において、R11は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。アルキル基には、直鎖状アルキル基と、分岐鎖状アルキル基と、環状アルキル基とが含まれる。置換基を有してもよいアルキル基の一例としては、フェニル基が挙げられる。好ましくは、R11は、水素原子、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基を表す。また、式(1−1)において、2つの酸素原子と結合している炭素原子の未結合手は、結着樹脂を構成する原子に接続される。
【0037】
【化6】
【0038】
式(1−2)において、R12は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。アルキル基には、直鎖状アルキル基と、分岐鎖状アルキル基と、環状アルキル基とが含まれる。置換基を有してもよいアルキル基の一例としては、フェニル基が挙げられる。好ましくは、R12は、水素原子、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基を表す。また、式(1−2)において、2つの酸素原子と結合している炭素原子の未結合手は、第1処理剤を構成する原子に接続される。
【0039】
【化7】
【0040】
式(1−3)において、R13は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。アルキル基には、直鎖状アルキル基と、分岐鎖状アルキル基と、環状アルキル基とが含まれる。置換基を有してもよいアルキル基の一例としては、フェニル基が挙げられる。好ましくは、R13は、水素原子、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基を表す。
【0041】
特定のビニル樹脂は、構成単位(1−3)を含む。構成単位(1−3)は、未開環オキサゾリン基を含む。未開環オキサゾリン基は、環状構造を有し、強い正帯電性を示す。また、未開環オキサゾリン基は、カルボキシル基と反応すると、開環してアミド結合を形成する。これらのことから、特定のビニル樹脂においてオキサゾリン基の開環割合を制御することで、正帯電性トナーの耐熱保存性、電荷減衰特性、及び帯電立ち上がり特性を高めることができる。詳しくは、特定のビニル樹脂においてオキサゾリン基をある程度開環させることによって、正帯電性トナーの耐熱保存性を高めることができる。また、特定のビニル樹脂において未開環オキサゾリン基を残し過ぎないことで、正帯電性トナーの電荷減衰特性を高めることができる。また、特定のビニル樹脂において未開環オキサゾリン基をある程度残すことで、正帯電性トナーの帯電立ち上がり特性を高めることができる。より具体的には、本実施形態では、正帯電性トナー1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量が、ガスクロマトグラフィー質量分析法による測定で、0.10μmol以上100μmol以下である。なお、正帯電性トナー1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量は、後述の実施例に記載の方法又はそれに準ずる方法で、求めることができる。
【0042】
好ましくは、表面処理剤は、第2処理剤をさらに含む。第2処理剤は、疎水化剤である。シリカ基体の表面が疎水化剤で処理されれば、シリカ基体の表面が疎水化されるため、トナー粒子の表面が疎水化され易い。そのため、表面処理剤が第2処理剤をさらに含む場合においてシリカ粒子の脱離を防止できれば、トナー粒子の表面の疎水性を長期にわたって維持することができる。よって、高温高湿環境下においてもトナーの帯電安定性が低下することを防止できる。より好ましくは、シリカ粒子の疎水化度が60%以上である。シリカ粒子の疎水化度が60%以上であれば、トナー粒子の表面の疎水性が長期にわたって維持され易い。シリカ粒子の疎水化度は、後述の実施例に記載の方法又はそれに準ずる方法で、求めることができる。
【0043】
好ましくは、表面処理剤は、第3処理剤をさらに含む。第3処理剤は、分子内に窒素原子を有する。シリカ基体の表面が第3処理剤で処理されれば、シリカ基体の表面が正帯電化されるため、トナー粒子の表面が正帯電化され易い。そのため、表面処理剤が第3処理剤をさらに含む場合においてシリカ粒子の脱離を防止できれば、正帯電性トナーの帯電安定性をさらに高めることができる。
【0044】
[正帯電性トナーの好ましい製造方法]
本実施形態に係る正帯電性トナーの好ましい製造方法は、トナーコアの準備工程と、シリカ粒子の準備工程と、シェル層形成用液の調製工程と、トナー母粒子の作製工程と、外添工程とを含む。なお、同時に製造されたトナー粒子は、互いに略同一の構成を有すると考えられる。
【0045】
<トナーコアの準備工程>
トナーコアの準備工程では、表面に第1カルボキシル基を有するトナーコアを作製する。公知の粉砕法又は公知の凝集法によりトナーコアを製造すれば、トナーコアを容易に製造できる。
【0046】
何れの方法でトナーコアを製造する場合であっても、使用する結着樹脂は、酸価が5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である樹脂を1種類以上含むことが好ましい。これにより、表面に第1カルボキシル基を有するトナーコアが得られ易い。
【0047】
<シリカ粒子の準備工程>
シリカ粒子の準備工程では、表面に第2カルボキシル基を有するシリカ粒子を作製する。
好ましくは、シリカ基体の表面を表面処理剤で処理する。より具体的には、まず、表面処理剤をシリカ基体の表面に付着させる。シリカ基体を表面処理剤へ浸漬してもよいし、流動層中のシリカ基体へ表面処理剤を噴霧してもよい。流動層中のシリカ基体へ表面処理剤を噴霧する場合には、転動流動層コーティング造粒装置(例えば、岡田精工株式会社製「スピラコータ」)を用いることが好ましい。次に、表面処理剤が表面に付着したシリカ基体を所定の温度で熱処理する。このようにして、表面に第2カルボキシル基を有するシリカ粒子が作製される。
【0048】
表面処理剤は、第1処理剤を含み、好ましくは第1処理剤と第2処理剤とを含み、より好ましくは第1処理剤と第2処理剤と第3処理剤とを含む。第1処理剤は、分子内にカルボキシル基を有する反応性シリコーンオイル(以下、「カルボキシル変性シリコーンオイル」と記載する)であることが好ましい。カルボキシル変性シリコーンオイルとしては、カルボキシル変性シリコーンオイル(2−1)と、カルボキシル変性シリコーンオイル(3−1)と、カルボキシル変性シリコーンオイル(4−1)とが挙げられる。第1処理剤は、カルボキシル変性シリコーンオイル(2−1)、カルボキシル変性シリコーンオイル(3−1)、又はカルボキシル変性シリコーンオイル(4−1)であってもよい。第1処理剤は、カルボキシル変性シリコーンオイル(2−1)とカルボキシル変性シリコーンオイル(3−1)とカルボキシル変性シリコーンオイル(4−1)とのうちの少なくとも2つを含んでもよい。
【0049】
カルボキシル変性シリコーンオイル(2−1)は、下記式(2−1)で表される。下記式(2−1)において、R21〜R29は、各々独立に、置換基を有してもよいアルキル基を表す。R21〜R29は、各々独立に、好ましくはアルキル基を表し、より好ましくは炭素数が1以上5以下のアルキル基を表す。n21及びn22は、各々独立に、1以上の整数を表す。n21及びn22は、各々独立に、好ましくは1以上100以下の整数を表し、より好ましくは10以上100以下の整数を表す。X1は、R−COOHを表す。Rは、置換基を有してもよいアルキル基を表す。
【0050】
市販品のカルボキシル変性シリコーンオイル(2−1)を用いる場合には、例えば、信越化学工業株式会社製「X−22−3701E」を用いることができる。信越化学工業株式会社製「X−22−3701E」に含まれるカルボキシル変性シリコーンオイル(2−1)では、R21〜R29の各々がメチル基を表す。
【0051】
【化8】
【0052】
カルボキシル変性シリコーンオイル(3−1)は、下記式(3−1)で表される。下記式(3−1)において、R31〜R37は、各々独立に、置換基を有してもよいアルキル基を表す。R31〜R37は、各々独立に、好ましくはアルキル基を表し、より好ましくは炭素数が1以上5以下のアルキル基を表す。n31は、1以上の整数を表す。n31は、好ましくは1以上100以下の整数を表し、より好ましくは10以上100以下の整数を表す。X1については、前述のとおりである。
【0053】
市販品のカルボキシル変性シリコーンオイル(3−1)を用いる場合には、例えば、信越化学工業株式会社製「X−22−3710」を用いることができる。信越化学工業株式会社製「X−22−3710」に含まれるカルボキシル変性シリコーンオイル(3−1)では、R31〜R37の各々がメチル基を表す。
【0054】
【化9】
【0055】
カルボキシル変性シリコーンオイル(4−1)の化学式は、カルボキシル変性シリコーンオイル(3−1)の化学式と類似する。詳しくは、カルボキシル変性シリコーンオイル(4−1)の化学式では、前述の式(3−1)におけるR37がR−COOHを表す。
【0056】
市販品のカルボキシル変性シリコーンオイル(4−1)を用いる場合には、例えば、信越化学工業株式会社製「X−22−162C」を用いることができる。信越化学工業株式会社製「X−22−162C」に含まれるカルボキシル変性シリコーンオイル(4−1)では、R31〜R36の各々がメチル基を表す。
【0057】
第2処理剤は、分子内にアルキル基を有するアルコキシシラン(以下、「アルキルアルコキシシラン」と記載する)であることが好ましい。アルキルアルコキシシランは、下記式(5−1)で表される。下記式(5−1)において、R51は、置換基を有してもよいアルキル基を表す。アルキル基には、直鎖状アルキル基と、分岐鎖状アルキル基と、環状アルキル基とが含まれる。R51の炭素数は1以上5以下であることが好ましい。R52、R53、及びR54は、各々独立に、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表し、好ましくはアルキル基を表し、より好ましくは炭素数が1以上5以下のアルキル基を表す。
【0058】
市販品のアルキルアルコキシシランを用いる場合には、例えば、信越化学工業株式会社製「KBM−3033」を用いることができる。信越化学工業株式会社製「KBM−3033」に含まれるアルキルアルコキシシランでは、R51がn−プロピル基を表し、R52とR53とR54との各々がメチル基を表す。
【0059】
【化10】
【0060】
第3処理剤は、分子内にアミノ基を有するアルコキシシラン(以下、「アミノアルコキシシラン」と記載する)であることが好ましい。アミノアルコキシシランは、下記式(6−1)で表される。下記式(6−1)において、R61及びR62は、各々独立に、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表し、好ましくは水素原子を表す。R63は、置換基を有してもよいアルキレン基を表し、好ましくはアルキレン基を表し、より好ましくは炭素数が1以上5以下のアルキレン基を表す。R64、R65及びR66は、各々独立に、置換基を有してもよいアルキル基を表し、好ましくはアルキル基を表し、より好ましくは炭素数が1以上5以下のアルキル基を表す。
【0061】
市販品のアミノアルコキシシランを用いる場合には、例えば、信越化学工業株式会社製「KBE−903」を用いることができる。信越化学工業株式会社製「KBE−903」に含まれるアミノアルコキシシランでは、R61とR62との各々が水素原子を表し、R63がプロピル基を表し、R64とR65とR66との各々がエチル基を表す。
【0062】
【化11】
【0063】
このような表面処理剤が表面に付着したシリカ基体を所定の温度で熱処理すると、シリカ基体の表面には、下記式(5−2)で表される官能基(以下、「官能基(5−2)」と記載する)と下記式(6−2)で表される官能基(以下、「官能基(6−2)」と記載する)とが結合する。これにより、カルボキシル変性シリコーンオイルがシリカ基体の表面近傍に存在し易い。よって、表面に第2カルボキシル基を有するシリカ粒子が得られ易い。
【0064】
詳しくは、熱処理を行うと、アルキルアルコキシシランに含まれるアルコキシ基(より具体的には、OR52基、OR53基、及びOR54基)が加水分解されて水酸基となる。加水分解で生じた水酸基のうち、一部は、互いに結合されてシラノール結合を形成するが、残りの一部は、シリカ基体の表面に存在する水酸基と反応(脱水反応)する。そのため、シリカ基体の表面には官能基(5−2)が結合する。下記式(5−2)において、R51は、前述したとおりである。xは、1以上の整数を表す。xは、好ましくは1以上100以下の整数を表し、より好ましくは10以上100以下の整数を表す。
【0065】
【化12】
【0066】
また、熱処理を行うと、アミノアルコキシシランに含まれるアルコキシ基(より具体的には、OR64基、OR65基、及びOR66基)が加水分解されて水酸基となる。加水分解で生じた水酸基のうち、一部は、互いに結合されてシラノール結合を形成するが、残りの一部は、シリカ基体の表面に存在する水酸基と反応(脱水反応)する。そのため、シリカ基体の表面には官能基(6−2)が結合する。下記式(6−2)において、R61〜R63は、前述したとおりである。yは、1以上の整数を表す。yは、好ましくは1以上100以下の整数を表し、より好ましくは10以上100以下の整数を表す。
【0067】
【化13】
【0068】
このように、官能基(5−2)と官能基(6−2)とは、各々、シラノール結合を含む。また、前述の式(2−1)、(3−1)、及び(4−1)で示されるように、カルボキシル変性シリコーンオイルは、分子内にシラノール結合を有する。これらのことから、官能基(5−2)とカルボキシル変性シリコーンオイルとの間には分子間相互作用が働き易く、官能基(6−2)とカルボキシル変性シリコーンオイルとの間には分子間相互作用が働き易い。よって、カルボキシル変性シリコーンオイルは、シリカ基体の表面近傍に存在し易い。それだけでなく、官能基(5−2)と官能基(6−2)とが立体障害となってカルボキシル変性シリコーンオイルがシリカ基体の表面から遠ざかることを防止する。このことによっても、カルボキシル変性シリコーンオイルは、シリカ基体の表面近傍に存在し易い。
【0069】
表面処理剤が表面に付着したシリカ基体を熱処理する温度(熱処理温度)は、前述の脱水反応(より具体的には、アルコキシ基の加水分解によって得られた水酸基と、シリカ基体の表面に存在する水酸基との反応)が起こる温度以上であることが好ましい。例えば、熱処理温度は、150℃以上500℃以下であることが好ましい。表面処理剤が表面に付着したシリカ基体を熱処理する時間(熱処理時間)は、前述の脱水反応が完了するために必要な時間以上であることが好ましい。例えば、熱処理時間は、30分間以上5時間以下であることが好ましい。シリカは一般的に耐熱性に優れるため、高温下で熱処理を行ってもシリカの化学構造は変化し難いと考えられる。
【0070】
得られたシリカ粒子では、官能基(5−2)がシリカ基体の表面に結合する。そのため、疎水性の強いシリカ粒子が得られ易い。例えば、疎水化度が60%以上のシリカ粒子が得られ易い。シリカ粒子の疎水化度が高いほど、得られるトナー粒子の疎水性が強くなる傾向がある。しかし、シリカ粒子の疎水化度が高いほど、シリカ粒子の酸価が低くなる傾向があるため、シリカ粒子がトナーコアに結合され難くなる傾向がある。例えば、得られたシリカ粒子では、疎水化度が60%以上80%以下であることが好ましい。
【0071】
<シェル層形成用液の調製工程>
シェル層形成用液の調製工程では、シェル層を形成するためのビニル樹脂(形成用ビニル樹脂)を含む溶液を調製する。形成用ビニル樹脂は、構成単位(1−3)を含む。形成用ビニル樹脂の溶液としては、例えば、株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)WS−300」又は「エポクロスWS−700」を使用できる。エポクロスWS−300は、2−ビニル−2−オキサゾリンとメタクリル酸メチルとの共重合体(水溶性架橋剤)を含む。共重合体を構成するモノマーの質量比は、(2−ビニル−2−オキサゾリン):(メタクリル酸メチル)=9:1である。エポクロスWS−700は、2−ビニル−2−オキサゾリンとメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルとの共重合体(水溶性架橋剤)を含む。共重合体を構成するモノマーの質量比は、(2−ビニル−2−オキサゾリン):(メタクリル酸メチル):(アクリル酸ブチル)=5:4:1である。2−ビニル−2−オキサゾリンは、下記式(1−4)で表される化合物(以下、「ビニル化合物(1−4)」と記載する)においてR14が水素原子である場合のビニル化合物に相当する。
【0072】
【化14】
【0073】
式(1−4)において、R14は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基を表す。アルキル基には、直鎖状アルキル基と、分岐鎖状アルキル基と、環状アルキル基とが含まれる。置換基を有してもよいアルキル基の一例としては、フェニル基が挙げられる。好ましくは、R14は、水素原子、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基を表す。
【0074】
<トナー母粒子の作製工程>
トナー母粒子の作製工程では、第1温度でトナーコアとシェル層形成用液とを混合する。第1温度は、オキサゾリン基と第1カルボキシル基とが反応してアミド結合(より具体的には、第1アミド結合)が形成される温度以上である。これにより、シェル層が形成される。よって、トナー母粒子の分散液が得られる。得られた分散液に対して固液分離と洗浄と乾燥とを行えば、複数のトナー母粒子が得られる。
【0075】
詳しくは、まず、トナーコアとシェル層形成用液とを混合して、分散液を得る。ここで、シェル層を構成する材料(シェル材料)は、分散液中において、トナーコアの表面に付着する。トナーコアの表面に均一にシェル材料を付着させるためには、分散液中においてトナーコアを高度に分散させることが好ましい。分散液中においてトナーコアを高度に分散させるために、分散液に界面活性剤を含ませてもよいし、強力な攪拌装置(例えば、プライミクス株式会社製「ハイビスディスパーミックス」)を用いて分散液を攪拌してもよい。
【0076】
次に、分散液を攪拌しながら、分散液の温度を所定の昇温速度で第1温度まで上昇させる。その後、分散液を攪拌しながら、所定の時間にわたって分散液の温度を第1温度に保つ。前述したように、第1温度は、オキサゾリン基と第1カルボキシル基とが反応して第1アミド結合が形成される温度以上である。そのため、分散液の温度を所定の温度に保っている間に、形成用ビニル樹脂に含まれる複数のオキサゾリン基の一部と第1カルボキシル基との反応が進行すると考えられる。
【0077】
第1温度は、50℃以上100℃以下の範囲から選ばれる温度であることが好ましい。第1温度が低すぎると、オキサゾリン基と第1カルボキシル基との反応が進行し難いことがある。また、第1温度が低すぎると、シェル材料がトナーコアの表面において硬化し難いことがある。第1温度が高すぎると、分散液においてトナーコアの分散性が低下することがある。分散液においてトナーコアの分散性が低下すると、分散液においてトナーコア同士が凝集し易くなるため、トナーコアの表面に均一にシェル材料を付着させることが困難となる。
【0078】
分散液(トナーコアとシェル層形成用液とを含む分散液)は、塩基性物質と開環剤とのうちの少なくとも1つをさらに含むことが好ましい。塩基性物質及び開環剤の各々の量を変更することで、未開環オキサゾリン基の量を変更することができる。より具体的には、分散液における塩基性物質の量が多いほど、未開環オキサゾリン基の量が多くなる傾向がある。分散液が塩基性物質をさらに含むことで、第1カルボキシル基が塩基性物質で中和され易くなるため、オキサゾリン基の開環反応が抑制され易い、と考えられる。分散液における開環剤の量が多いほど、未開環オキサゾリン基の量が少なくなる傾向がある。開環剤がオキサゾリン基の開環反応を促進するためである。塩基性物質は、例えば、アンモニア、又は水酸化ナトリウムであることが好ましい。開環剤は、例えば、酢酸であることが好ましい。
【0079】
所定の昇温速度は、例えば、0.1℃/分以上3.0℃/分以下の範囲から選ばれる速度であることが好ましい。所定の時間は、例えば、30分間以上4時間以下の範囲から選ばれる時間であることが好ましい。回転速度が50rpm以上500rpm以下という条件で、分散液を攪拌することが好ましい。これにより、オキサゾリン基と第1カルボキシル基との反応が進行し易い。
【0080】
<外添工程>
外添工程では、第2温度でトナー母粒子とシリカ粒子とを混合する。第2温度は、オキサゾリン基と第2カルボキシル基とが反応してアミド結合(より具体的には、第2アミド結合)が形成される温度以上である。そのため、第2温度でトナー母粒子とシリカ粒子とを混合することで、形成用ビニル樹脂に含まれる複数のオキサゾリン基のうち第1カルボキシル基と反応しなかったオキサゾリン基の一部が、第2カルボキシル基と反応する。このようにして、複数のトナー粒子を含むトナーが得られる。
【0081】
第2温度は、20℃以上であることが好ましく、より好ましくは20℃以上50℃以下の範囲から選ばれる温度である。第2温度が低すぎると、オキサゾリン基と第2カルボキシル基との反応が進行し難いことがある。第2温度が高すぎると、トナー母粒子に含まれる低融点材料(例えば、結着樹脂、又は離型性)が溶融することがある。一般的に、オキサゾリン基とカルボキシル基との反応については室温においても緩やかに進行することが知られている。そのため、第1温度が20℃以上50℃未満であっても、オキサゾリン基と第1カルボキシル基とが反応して第1アミド結合が形成される、と考えられる。しかし、第1温度が20℃以上50℃未満であれば、シェル材料がトナーコアの表面において硬化し難いことがある。そのため、第1温度は、50℃以上100℃以下の範囲から選ばれる温度であることが好ましい。一方、外添工程では、モノマーを硬化させないため、第2温度を20℃以上50℃以下の範囲から選ばれる温度とすることができる。
【0082】
外添工程では、第2温度でトナー母粒子とシリカ粒子と他の外添剤粒子(シリカ粒子以外の外添剤粒子)とを混合してもよい。
【0083】
[正帯電性トナーを構成する材料の例示]
<トナーコア>
トナーコアは、結着樹脂を含有する。トナーコアは、着色剤と電荷制御剤と離型剤とのうちの少なくとも1つをさらに含有してもよい。
【0084】
(結着樹脂)
トナーコアでは、一般的に、成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。
【0085】
結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(具体的には、水酸基価、酸価、ガラス転移点、又は軟化点)を調整できる。例えば、結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなる。
【0086】
結着樹脂は、酸価が5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である樹脂を1種類以上含むことが好ましい。これにより、結着樹脂の酸価が5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下となり易い。結着樹脂の酸価が低すぎると、オキサゾリン基と第1カルボキシル基との反応が進行し難いため、第1アミド結合が形成され難いことがある。結着樹脂の酸価が高すぎると、高温高湿環境下で画像を形成した場合にトナーの帯電量が低下することがある。樹脂の酸価は、後述の実施例に記載の方法又はそれに準拠した方法で測定される。
【0087】
酸価が5mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂とスチレン−アクリル酸系樹脂とが挙げられる。以下、ポリエステル樹脂とスチレン−アクリル酸系樹脂とを順に説明する。
【0088】
(結着樹脂:ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、1種類以上のアルコールと1種類以上のカルボン酸との共重合体である。ポリエステル樹脂を合成するために使用されるアルコールとしては、例えば以下に示す2価アルコール又は3価以上のアルコールを使用できる。2価アルコールとしては、例えば、ジオール類又はビスフェノール類を使用できる。ポリエステル樹脂を合成するために使用されるカルボン酸としては、例えば以下に示す2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸を使用できる。
【0089】
ジオール類の好適な例としては、脂肪族ジオールが挙げられる。脂肪族ジオールの好適な例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、α,ω−アルカンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。α,ω−アルカンジオールは、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、又は1,12−ドデカンジオールであることが好ましい。
【0090】
ビスフェノール類の好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0091】
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0092】
2価カルボン酸の好適な例としては、芳香族ジカルボン酸、α,ω−アルカンジカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、又はシクロアルカンジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸は、例えば、フタル酸、テレフタル酸、又はイソフタル酸であることが好ましい。α,ω−アルカンジカルボン酸は、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、又は1,10−デカンジカルボン酸であることが好ましい。不飽和ジカルボン酸は、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、又はグルタコン酸であることが好ましい。シクロアルカンジカルボン酸は、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸であることが好ましい。
【0093】
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
【0094】
(結着樹脂:スチレン−アクリル酸系樹脂)
スチレン−アクリル酸系樹脂は、1種類以上のスチレン系モノマーと1種類以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体である。スチレン−アクリル酸系樹脂を合成するために使用されるスチレン系モノマーとしては、以下に示すスチレン系モノマーを好適に使用できる。また、スチレン−アクリル酸系樹脂を合成するために使用されるアクリル酸系モノマーとしては、以下に示すアクリル酸系モノマーを好適に使用できる。
【0095】
スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、アルキルスチレン、ヒドロキシスチレン、又はハロゲン化スチレンが挙げられる。アルキルスチレンは、例えば、α−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、又は4−tert−ブチルスチレンであることが好ましい。ヒドロキシスチレンは、例えば、p−ヒドロキシスチレン、又はm−ヒドロキシスチレンであることが好ましい。ハロゲン化スチレンは、例えば、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、又はp−クロロスチレンであることが好ましい。
【0096】
アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが挙げられる。
【0097】
(結着樹脂:他の樹脂)
結着樹脂は、ポリエステル樹脂及びスチレン−アクリル酸系樹脂とは異なる樹脂(他の樹脂)をさらに含んでもよい。他の樹脂は、ポリエステル樹脂及びスチレン−アクリル酸系樹脂とは異なる熱可塑性樹脂(他の熱可塑性樹脂)であることが好ましい。他の熱可塑性樹脂は、例えば、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂、オレフィン系樹脂、ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、又はウレタン樹脂であることが好ましい。スチレン系樹脂は、例えば、前述の(結着樹脂:スチレン−アクリル酸系樹脂)に記載のスチレン系モノマーの単重合体又は共重合体であることが好ましい。アクリル酸系樹脂は、例えば、前述の(結着樹脂:スチレン−アクリル酸系樹脂)に記載のアクリル酸系モノマーの単重合体又は共重合体であることが好ましい。オレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン樹脂、又はポリプロピレン樹脂であることが好ましい。ビニル樹脂は、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、又はN−ビニル樹脂であることが好ましい。これら各樹脂の共重合体(すなわち、前述の樹脂中に任意の構成単位が導入された共重合体)も、他の熱可塑性樹脂として使用できる。例えば、他の熱可塑性樹脂は、スチレン−ブタジエン系樹脂であってもよい。
【0098】
(着色剤)
着色剤としては、正帯電性トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。正帯電性トナーを用いて高画質の画像を形成するためには、着色剤の量が、100質量部の結着樹脂に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0099】
トナー母粒子は、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
【0100】
トナー母粒子は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有していてもよい。
【0101】
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種類以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを使用できる。
【0102】
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種類以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を使用できる。
【0103】
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種類以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを使用できる。
【0104】
(離型剤)
離型剤は、例えば、正帯電性トナーの定着性又は耐高温オフセット性を向上させる目的で使用される。トナー母粒子のカチオン性を強めるためには、カチオン性を有するワックスを用いてトナー母粒子を作製することが好ましい。
【0105】
離型剤は、例えば、脂肪族炭化水素ワックス、植物性ワックス、動物性ワックス、鉱物ワックス、脂肪酸エステルを主成分とするワックス類、又は脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスであることが好ましい。脂肪族炭化水素ワックスは、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスであることが好ましい。脂肪族炭化水素ワックスには、これらの酸化物も含まれる。植物性ワックスは、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスであることが好ましい。動物性ワックスは、例えば、みつろう、ラノリン、又は鯨ろうであることが好ましい。鉱物ワックスは、例えば、オゾケライト、セレシン、又はペトロラタムであることが好ましい。脂肪酸エステルを主成分とするワックス類は、例えば、モンタン酸エステルワックス、又はカスターワックスであることが好ましい。1種類のワックスを単独で使用してもよいし、複数種のワックスを併用してもよい。
【0106】
(電荷制御剤)
電荷制御剤は、例えば、正帯電性トナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。正帯電性トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルに正帯電性トナーを帯電可能か否かの指標になる。トナー母粒子に正帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナー母粒子のカチオン性を強めることができる。
【0107】
<シェル層>
シェル層は、特定のビニル樹脂を含有する。特定のビニル樹脂は、構成単位(1−1)と、構成単位(1−2)と、構成単位(1−3)とを含む。構成単位(1−1)と、構成単位(1−2)と、構成単位(1−3)とは、何れも、ビニル化合物(1−4)に由来する。特定のビニル樹脂は、ビニル化合物(1−4)以外のビニル化合物(他のビニル化合物)に由来する構成単位をさらに含んでもよい。他のビニル化合物は、スチレン系モノマーとアクリル酸系モノマーとからなる群より選択される1種類以上のビニル化合物であることが好ましい。例えば、他のビニル化合物が(メタ)アクリル酸アルキルエステルである場合には、特定のビニル樹脂は、下記式(1−5)で表される構成単位をさらに含む。
【0108】
【化15】
【0109】
式(1−5)において、R15は、水素原子、又はメチル基を表す。他のビニル化合物がアクリル酸アルキルエステルである場合には、R15は、水素原子を表す。他のビニル化合物がメタクリル酸アルキルエステルである場合には、R15は、メチル基を表す。R16は、置換基を有してもよいアルキル基を表す。アルキル基には、直鎖状アルキル基と、分岐鎖状アルキル基と、環状アルキル基とが含まれる。好ましくは、アルキル基は、炭素数が1以上8以下のアルキル基である。より好ましくは、R16は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、2−エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、又はヒドロキシブチル基を表す。
【0110】
シェル層の厚さが小さすぎると、正帯電性トナーの耐熱保存安定性が低下することがある。シェル層の厚さが大きすぎると、正帯電性トナーの低温定着性が低下することがある。例えば、シェル層の厚さは、10nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0111】
<外添剤>
(シリカ粒子)
シリカ粒子の酸価が低すぎると、オキサゾリン基と第2カルボキシル基との反応が進行し難いため、第2アミド結合が形成され難いことがある。シリカ粒子の酸価が高すぎると、高温高湿環境下で画像を形成した場合にトナーの帯電量が低下することがある。
【0112】
シリカ粒子の量は、100質量部のトナー母粒子に対し、0.5質量部以上10.0質量部以下であることが好ましい。シリカ基体は、個数平均1次粒子径が10nm以上50nm以下である粒子形状を有することが好ましい。シリカ基体の個数平均1次粒子径が小さすぎると、シリカ基体に対する表面処理の実施が困難となることがある。また、シリカ基体の製造が困難となることもある。シリカ基体の個数平均1次粒子径が大きすぎると、シェル層の表面領域において、他の外添剤粒子の付着スペースを確保できないことがある。
【0113】
(他の外添剤粒子)
外添剤は、他の外添剤粒子をさらに含んでもよい。他の外添剤粒子は、金属酸化物を含む粒子であってもよく、樹脂粒子であってもよい。金属酸化物は、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウムであることが好ましい。樹脂粒子が含有する樹脂は、例えば、前述の(結着樹脂)に記載の熱可塑性樹脂、又は架橋樹脂であることが好ましい。架橋樹脂は、熱可塑性樹脂を合成可能な1種類以上のモノマーと架橋剤との重合体であることが好ましい。
【実施例】
【0114】
本発明の実施例について説明する。表1に、実施例又は比較例に係るトナーの構成を示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表2に、実施例又は比較例におけるトナー母粒子の構成を示す。表2において、「WS−300」は、株式会社日本触媒製「エポクロスWS−300」を意味する。株式会社日本触媒製「エポクロスWS−300」の固形分濃度は、10質量%である。「WS−700」は、株式会社日本触媒製「エポクロスWS−700」を意味する。株式会社日本触媒製「エポクロスWS−700」の固形分濃度は、25質量%である。
【0117】
【表2】
【0118】
表3に、実施例又は比較例におけるシリカ粒子の構成及び物性を示す。表3において、「X−22−3710」は、信越化学工業株式会社製「X−22−3710」を意味する。「X−22−162C」は、信越化学工業株式会社製「X−22−162C」を意味する。「X−22−3701E」は、信越化学工業株式会社製「X−22−3701E」を意味する。「KBM−3033」は、信越化学工業株式会社製「KBM−3033」を意味する。「KBE−903」は、信越化学工業株式会社製「KBE−903」を意味する。
【0119】
【表3】
【0120】
以下では、まず、実施例又は比較例における結着樹脂の合成方法を説明した後、得られた結着樹脂の物性値の測定方法を説明する。次に、実施例又は比較例におけるシリカ粒子(より具体的には、シリカ粒子PS−1〜PS−6の各々)の製造方法を説明した後、得られたシリカ粒子の物性値の測定方法を説明する。続いて、実施例又は比較例に係るトナー(より具体的には、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−6の各々)の製造方法を説明した後、得られたトナーの物性値の測定方法、評価方法、及び評価結果を順に説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。
【0121】
[結着樹脂の合成方法]
温度計(より具体的には、熱電対)、窒素導入管、脱水管、精留塔、及び攪拌羽根を備えた4つ口フラスコ(容量:5L)を油浴にセットした。フラスコに、1250gのプロパンジオールと、1720gのテレフタル酸と、3gのジオクタン酸錫(II)(エステル化触媒)とを入れた。窒素をフラスコに導入しながら、油浴を用いてフラスコ内の温度を220℃まで上昇させた。窒素雰囲気下においてフラスコの内容物を攪拌しながら、15時間にわたってフラスコ内の温度を220℃に保った。フラスコ内の温度を220℃に保っている間に、フラスコの内容物が反応した(縮合重合反応)。
【0122】
フラスコ内の温度を220℃に保ちながら、フラスコ内の圧力を8.0kPaまで下げた。窒素雰囲気下においてフラスコの内容物を攪拌しながら、且つフラスコ内の圧力を8.0kPaに保ちながら、フラスコ内の内容物の軟化点(Tm)が所望の温度になるまでフラスコ内の温度を220℃に保った。フラスコ内の温度を220℃に保っている間に、フラスコの内容物がさらに反応した(縮合重合反応)。このようにして、ポリエステル樹脂(Tm:88℃)を得た。
【0123】
[結着樹脂の物性値の測定方法]
<結着樹脂の酸価の測定>
「JIS K0070−1992」に記載の方法に準拠して、得られた結着樹脂(より具体的には、ポリエステル樹脂)の酸価を測定した。詳しくは、20gのポリエステル樹脂(測定試料)を三角フラスコに加えた。三角フラスコに、100mLの溶剤と、数滴のフェノールフタレイン溶液(指示薬)とを加えた。溶剤は、アセトンとトルエンとの混合液[アセトン:トルエン=1:1(体積比)]であった。三角フラスコを水浴中で振り混ぜて、測定試料を溶剤に溶解させた。三角フラスコ内の液を、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を用いて、滴定した。滴定結果から、下記式に基づいて、酸価(単位:mgKOH/g)を算出した。ポリエステル樹脂の酸価は11mgKOH/gであると算出された。
酸価=(B×f1×5.611)/W1
【0124】
上記式において、「B」は、滴定に用いた0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量(mL)を示す。「f1」は、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクターを示す。「W1」は、測定試料の質量(g)を示す。「5.611」は、水酸化カリウムの式量56.11×(1/10)に相当する。
【0125】
ファクター(f1)は、次に示す方法で、算出した。0.1mol/L塩酸の25mLを、三角フラスコに加えた。三角フラスコに、フェノールフタレイン溶液を加えた。三角フラスコ内の液を、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液を用いて、滴定した。中和に必要な0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液の量から、ファクター(f1)を算出した。
【0126】
[シリカ粒子の製造方法]
<シリカ粒子PS−1の製造>
温度計、攪拌羽根、及び冷却機を備えた4ロフラスコ(容量:2L)に、50gの親水性フュームドシリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)90G」、個数平均1次粒子径:約20nm)を入れた。窒素をフラスコに導入して、フラスコ内の気体を窒素で置換した。フラスコの内容物を攪拌しながら、水をフラスコ内へ噴霧した。その後、攪拌を維持した状態で、2gのカルボキシル変性シリコーンオイル(信越化学工業株式会社製「X−22−3710」)と3gのアルキルアルコキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBM−3033」)と5gのアミノアルコキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBE−903」)とをフラスコ内へ噴霧した。フラスコ内の温度を250℃まで上昇させた後、2時間にわたってフラスコ内の温度を250℃に保った。フラスコ内の温度を250℃に保っている間に、脱水反応が起こった。より具体的には、親水性フュームドシリカ粒子(シリカ基体)の表面に存在する複数の水酸基のうち、一部の水酸基とアルキルアルコキシシランの加水分解物とが反応し、残りの一部の水酸基とアミノアルコキシシランの加水分解物とが反応した。その後、冷却機をフラスコから取り外した。フラスコ内の温度を250℃に保ちながら、フラスコ内から窒素とアルコールとを除去した。このようにして、複数のシリカ粒子PS−1を含む粉体を得た。
【0127】
<シリカ粒子PS−2〜PS−6の各々の製造>
信越化学工業株式会社製「X−22−3710」の代わりに信越化学工業株式会社製「X−22−162C」を用いた。このことを除いてはシリカ粒子PS−1の製造方法に従い、シリカ粒子PS−2を得た。
【0128】
信越化学工業株式会社製「X−22−3710」の代わりに信越化学工業株式会社製「X−22−3701E」を用いた。このことを除いてはシリカ粒子PS−1の製造方法に従い、シリカ粒子PS−3を得た。
【0129】
信越化学工業株式会社製「X−22−3710」の配合量を5gとした。このことを除いてはシリカ粒子PS−1の製造方法に従い、シリカ粒子PS−4を得た。
【0130】
カルボキシル変性シリコーンオイルをフラスコ内へ噴霧しなかった。信越化学工業株式会社製「KBM−3033」の配合量を5gとした。これらを除いてはシリカ粒子PS−1の製造方法に従い、シリカ粒子PS−5を得た。
【0131】
親水性フュームドシリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)90G」、個数平均1次粒子径:約20nm)をシリカ粒子PS−6とした。
【0132】
[シリカ粒子の物性値の測定方法]
<シリカ粒子の疎水化度の測定>
メタノールウェッタビリティ法で、シリカ粒子(より具体的には、シリカ粒子PS−1〜PS−6の各々)の疎水化度を求めた。詳しくは、常温(25℃)の大気雰囲気下で、ビーカー(容量:100mL)に25mLのイオン交換水と0.1gの測定対象(シリカ粒子)とを入れ、スターラーを用いてビーカーの内容物を回転速度100rpmで10分間にわたって攪拌した。ビーカーに所定量のメタノールを毎分2mLの速度で加えた。ビーカーの内容物を回転速度200rpmで30秒間にわたって攪拌して、測定対象の全てがビーカーの底に沈殿しているか否かを目視で確認した。測定対象の全ての沈殿が確認されるまで、メタノールの添加と攪拌とを繰り返した。測定対象の全ての沈殿が確認されたら、下記式を用いて測定対象の疎水化度を算出した。算出結果を表3に示す。
測定対象の疎水化度(%)=100×メタノール滴下量/(メタノール滴下量+イオン交換水の量)
【0133】
[トナーの製造方法]
<トナーTA−1の製造>
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−20B」)に、80.0質量部のポリエステル樹脂と、9.0質量部のエステルワックス(日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP−3」)と、9.0質量部のカーボンブラック(三菱化学株式会社製「MA100」)とを入れた。ミキサーの内容物を回転速度2000rpmで4分間にわたって混合した。
【0134】
得られた混合物を、二軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて、材料供給速度8kg/時、軸回転速度130rpm、且つ設定温度(シリンダー温度)110℃の条件で、溶融混練した。得られた溶融混練物を冷却した。冷却された溶融混練物を、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)」)を用いて、設定粒子径2mm以下の条件で粗粉砕した。得られた粗粉砕物を、粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミル RS型」)を用いて、微粉砕した。得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて、分級した。このようにして、体積中位径(D50)6μmのトナーコアを得た。得られたトナーコアでは、軟化点(Tm)が89℃であり、ガラス転移点(Tg)が48℃であった。
【0135】
温度計、及び攪拌羽根を備えた3つ口フラスコ(容量:1L)に300mLのイオン交換水を入れた。フラスコを水浴にセットして、水浴を用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。フラスコに所定量のオキサゾリン基含有高分子水溶液(株式会社日本触媒製「エポクロスWS−300」、固形分濃度:10質量%)を加えた後、フラスコの内容物を1時間にわたって回転速度200rpmで攪拌した。フラスコに300.0gのトナーコアを加えた後、フラスコの内容物を1時間にわたって回転速度200rpmで攪拌した。なお、オキサゾリン基含有樹脂の配合量がトナーコアの配合量に対して1質量%となるように、オキサゾリン基含有高分子水溶液の配合量を決定した。
【0136】
フラスコに、300mLのイオン交換水と6mLのアンモニア水(濃度:1質量%)と0.2mLの酢酸とを順に加えた。フラスコの内容物を回転速度150rpmで攪拌しながら、昇温速度0.5℃/分でフラスコ内の温度を60℃まで上昇させた。フラスコ内の温度を60℃に保った状態で、フラスコの内容物を回転速度100rpmで1時間にわたって攪拌した。その後、フラスコ内の温度を常温まで冷却した。このようにして、トナー母粒子の分散液を得た。
【0137】
得られたトナー母粒子の分散液を、ブフナー漏斗を用いて、吸引濾過した。得られたウェットケーキ状のトナー母粒子をイオン交換水に再度分散させた。得られた分散液を、ブフナー漏斗を用いて、吸引濾過した。このような固液分離処理を5回にわたって繰返し行った。
【0138】
得られたトナー母粒子をエタノール水溶液(濃度:50質量%)に分散させた。これにより、トナー母粒子のスラリーが得られた。連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)を用いて、熱風温度45℃且つブロアー風量2m3/分の条件で、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた。このようにして、複数のトナー母粒子PT−1を含む粉体を得た。
【0139】
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−10B」)に、100.0質量部のトナー母粒子PT−1と、1.8質量部のシリカ粒子PS−1と、1.5質量部の導電性酸化チタン粒子(チタン工業株式会社製「EC−100」)とを入れた。回転速度3000rpm、ジャケット温度20℃、且つ処理時間5分間の条件で、ミキサーの内容物を混合した。このようにして、多数のトナー粒子を含むトナーTA−1を得た。
【0140】
<トナーTA−2の製造>
次に示すことを除いてはトナー母粒子PT−1の製造方法に従い、トナー母粒子PT−2を製造した。詳しくは、オキサゾリン基含有樹脂の配合量がトナーコアの配合量に対して5質量%となるように、オキサゾリン基含有高分子水溶液の配合量を決定した。また、酢酸をフラスコに加えることなく、トナー母粒子の分散液を得た。このようにして、トナー母粒子PT−2を得た。トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−2を用いたことを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTA−2を得た。
【0141】
<トナーTA−3の製造>
次に示すことを除いてはトナー母粒子PT−1の製造方法に従い、トナー母粒子PT−3を製造した。詳しくは、オキサゾリン基含有樹脂の配合量がトナーコアの配合量に対して9質量%となるように、オキサゾリン基含有高分子水溶液の配合量を決定した。また、酢酸をフラスコに加えることなく、トナー母粒子の分散液を得た。このようにして、トナー母粒子PT−3を得た。トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−3を用いたことを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTA−3を得た。
【0142】
<トナーTA−4〜TA−6の各々の製造>
シリカ粒子PS−1の代わりにシリカ粒子PS−2〜PS−4を用いたことを除いてはトナーTA−2の製造方法に従い、各々、トナーTA−4〜TA−6を得た。
【0143】
<トナーTA−7の製造>
次に示すことを除いてはトナー母粒子PT−1の製造方法に従い、トナー母粒子PT−4を製造した。詳しくは、オキサゾリン基含有樹脂の配合量がトナーコアの配合量に対して5質量%となるように、オキサゾリン基含有高分子水溶液の配合量を決定した。また、酢酸の配合量を0.2mLから2.0mLに変更した。このようにして、トナー母粒子PT−4を得た。トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−4を用いたことを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTA−7を得た。
【0144】
<トナーTA−8の製造>
次に示すことを除いてはトナー母粒子PT−1の製造方法に従い、トナー母粒子PT−5を製造した。詳しくは、株式会社日本触媒製「エポクロスWS−300」の代わりに、株式会社日本触媒製「エポクロスWS−700」(固形分濃度:25質量%)を用いた。オキサゾリン基含有樹脂の配合量がトナーコアの配合量に対して2.0質量%となるように、オキサゾリン基含有高分子水溶液の配合量を決定した。このようにして、トナー母粒子PT−5を得た。トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−5を用いたことを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTA−8を得た。
【0145】
<トナーTB−1の製造>
次に示すことを除いてはトナー母粒子PT−1の製造方法に従い、トナー母粒子PT−6を製造した。詳しくは、オキサゾリン基含有樹脂の配合量がトナーコアの配合量に対して0.7質量%となるように、オキサゾリン基含有高分子水溶液の配合量を決定した。また、酢酸の配合量を0.2mLから0.5mLに変更した。このようにして、トナー母粒子PT−6を得た。
【0146】
トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−6を用いた。また、シリカ粒子PS−1の代わりにシリカ粒子PS−5を用いた。これらを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTB−1を得た。
【0147】
<トナーTB−2の製造>
次に示すことを除いてはトナー母粒子PT−1の製造方法に従い、トナー母粒子PT−7を製造した。詳しくは、オキサゾリン基含有樹脂の配合量がトナーコアの配合量に対して0.5質量%となるように、オキサゾリン基含有高分子水溶液の配合量を決定した。また、酢酸の配合量を0.2mLから0.5mLに変更した。このようにして、トナー母粒子PT−7を得た。トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−7を用いたことを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTB−2を得た。
【0148】
<トナーTB−3の製造>
次に示すことを除いてはトナー母粒子PT−1の製造方法に従い、トナー母粒子PT−8を製造した。詳しくは、オキサゾリン基含有樹脂の配合量がトナーコアの配合量に対して12.0質量%となるように、オキサゾリン基含有高分子水溶液の配合量を決定した。また、酢酸をフラスコに加えることなく、トナー母粒子の分散液を得た。このようにして、トナー母粒子PT−8を得た。トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−8を用いたことを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTB−3を得た。
【0149】
<トナーTB−4の製造>
トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−7を用いた。また、シリカ粒子PS−1の代わりにシリカ粒子PS−5を用いた。これらを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTB−4を得た。
【0150】
<トナーTB−5の製造>
次に示すことを除いてはトナー母粒子PT−1の製造方法に従い、トナー母粒子PT−9を製造した。詳しくは、オキサゾリン基含有高分子水溶液と酢酸とをフラスコに加えることなく、トナー母粒子の分散液を得た。このようにして、トナー母粒子PT−9を得た。トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−9を用いたことを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTB−5を得た。
【0151】
<トナーTB−6の製造>
トナー母粒子PT−1の代わりにトナー母粒子PT−6を用いた。また、シリカ粒子PS−1の代わりにシリカ粒子PS−6を用いた。これらを除いてはトナーTA−1の製造方法に従い、トナーTB−6を得た。
【0152】
[トナーの物性値の測定方法]
<未開環オキサゾリン基の量の測定>
トナー(より具体的には、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−6の各々)に関して、トナーに含まれる未開環オキサゾリン基の量を測定した。詳しくは、標準物質に基づく検量線を用いて、以下に示す条件で、GC/MS法による定量分析を行った。測定結果を表4に示す。
【0153】
(GC/MS法)
測定装置として、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製「GCMS−QP2010 Ultra」)及びマルチショット・パイロライザー(フロンティア・ラボ株式会社製「FRONTIER LAB Multi−functional Pyrolyzer(登録商標)PY−3030D」)を用いた。カラムとしては、GCカラム(アジレント・テクノロジー社製「Agilent(登録商標)J&W ウルトライナートキャピラリGCカラム DB−5ms」、相:シロキサンポリマーにアリレンを入れてポリマーの主鎖を強化したアリレン相、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm、長さ:30m)を用いた。
【0154】
(ガスクロマトグラフ)
・キャリアガス:ヘリウム(He)ガス
・キャリア流量:1mL/分
・気化室温度:210℃
・熱分解温度:加熱炉「600℃」、インターフェイス部「320℃」
・昇温条件:40℃で3分間保持した後、40℃から速度10℃/分で300℃まで昇温し、300℃で15分間保持した。
【0155】
(質量分析)
・イオン化法:EI(Electron Impact)法
・イオン源温度:200℃
・インターフェイス部の温度:320℃
・検出モード:スキャン(測定範囲:45m/z〜500m/z)
【0156】
[トナーの評価方法]
以下に示す方法で、特定の共有結合の存在を確認した。また、かぶり濃度と、画像濃度の変化率と、現像剤の凝集度と、電荷減衰定数αと、転写効率とを評価した。
【0157】
<特定の共有結合の存在の確認>
まず、20mgのトナー(より具体的には、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−6の各々)を1mLの重水素化クロロホルムに溶解させた。得られた溶液を試験管(直径:5mm)に入れた。試験管をフーリエ変換核磁気共鳴装置(FT−NMR)(日本電子株式会社製「JNM−AL400」)に入れた。試料温度20℃且つ積算回数128回の条件で、1H−NMRスペクトルを測定した。化学シフトの内部基準物質としては、テトラメチルシランを使用した。得られた1H−NMRスペクトルにおいて、化学シフトδが6.5付近に三重線のシグナルが確認されれば、特定の共有結合が存在すると推定した。結果を表4に示す。
【0158】
<かぶり濃度の測定>
ボールミルを用いて、100質量部のキャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa500ci」用キャリア)と10質量部のトナー(より具体的には、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−6の各々)とを、30分間にわたって、混合した。このようにして、評価対象を得た。
【0159】
複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa500ci」)の現像装置の収容部に、評価対象を入れた。また、複合機のトナーコンテナに、トナー(より具体的には、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−6の各々)を入れた。このようにして、評価機を準備した。
【0160】
温度10℃且つ湿度10%RHの環境下で、評価機を用いて、画像(印字率:5%)を普通紙(A4サイズ)に4000枚連続で印刷した。次に、温度10℃且つ湿度10%RHの環境下で、評価機を用いて、評価画像(印字率:20%)を普通紙(A4サイズ)に500枚連続で印刷した。このようにして、500枚の評価画像を得た。評価画像は、各々、ソリッド画像部と、白紙部(印字の無い領域)とを含んでいた。
【0161】
マクベス反射濃度計(X−Rite社製「RD914」)を用いて、評価画像の各々の白紙部の反射濃度を測定した。下記式に基づいて、かぶり濃度(FD)を算出した。このようにして、得られた評価画像すべてに対して、かぶり濃度(FD)を求めた。そして、かぶり濃度(FD)の平均値を求め、求められた平均値を評価値とした。
FD=(白紙部の反射濃度)−(未印刷紙の反射濃度)
【0162】
かぶり濃度(FD)の評価基準を以下に示す。評価結果を表4に示す。
優良:評価値が0.005以下であった。
普通:評価値が0.005超0.010以下であった。
不良:評価値が0.010超であった。
【0163】
<画像濃度の変化率の測定>
前述の<かぶり濃度の測定>で使用した評価機を用いて、画像濃度の変化率を測定した。詳しくは、温度23℃且つ湿度50%RHの環境下で、評価機を用いて、第1評価画像を普通紙(A4サイズ)に印刷した。第1評価画像は、ソリッド画像部と、白紙部(印字の無い領域)とを含んでいた。マクベス反射濃度計(X−Rite社製「RD914」)を用いて、第1評価画像のソリッド画像部の反射濃度(ID:画像濃度)を測定した。このようにして、初期の画像濃度を得た。
【0164】
次に、温度23℃且つ湿度50%RHの環境下で、評価機を用いて、画像(印字率:5%)を普通紙(A4サイズ)に5000枚連続で印刷した。その後、温度23℃且つ湿度50%RHの環境下で、評価機を用いて、第2評価画像を普通紙(A4サイズ)に印刷した。第2評価画像は、ソリッド画像部と、白紙部(印字の無い領域)とを含んでいた。マクベス反射濃度計(X−Rite社製「RD914」)を用いて、第2評価画像のソリッド画像部の反射濃度(ID:画像濃度)を測定した。このようにして、連続印刷後の画像濃度を得た。そして、下記式に基づいて、画像濃度の変化率を算出した。
(画像濃度の変化率)=100×(連続印刷後の画像濃度)/(初期の画像濃度)
【0165】
画像濃度の変化率の評価基準を以下に示す。評価結果を表4に示す。
優良:画像濃度の変化率が80%以上120%以下であった。
不良:画像濃度の変化率が80%未満又は120%超であった。
【0166】
<現像剤の凝集度の測定>
前述の<かぶり濃度の測定>で使用した評価機を用いて、現像剤の凝集度を測定した。詳しくは、現像装置を、評価機から取り出して、1時間にわたって恒温装置(設定温度:50℃)内に静置した。現像装置を恒温装置内に静置した状態で、外部モーターを用いて現像装置内での攪拌を1時間にわたって行った。現像装置内での攪拌は、外部モーターによって制御されることで、評価機の駆動速度に合わせて行われた。その後、現像装置から評価対象を取り出した。
【0167】
取り出された評価対象のうちの10gを、200メッシュ(目開き75μm)の質量既知の篩上に載せた。評価対象を載せた篩の質量を測定することにより、篩上の評価対象の質量(篩別前の評価対象の質量)を求めた。パウダーテスター(登録商標、ホソカワミクロン株式会社製)に前述の篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で60秒間、篩を振動させた。このようにして、評価対象を篩別した。篩別後、篩を通過しなかった評価対象の質量を測定した。篩別前の評価対象の質量と、篩別後の評価対象の質量と、下記式とに基づいて、現像剤の凝集度(単位:%)を求めた。なお、下記式における「篩別後の評価対象の質量」は、篩を通過しなかった評価対象の質量であり、篩別後に篩上に残留した評価対象の質量である。
現像剤の凝集度=100×篩別後の評価対象の質量/篩別前の評価対象の質量
【0168】
現像剤の凝集度の評価基準を以下に示す。評価結果を表5に示す。
優良:現像剤の凝集度が2%以下であった。
良好:現像剤の凝集度が2%超3%以下であった。
不良:現像剤の凝集度が3%超であった。
【0169】
<電荷減衰定数αの測定>
トナー(より具体的には、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−6の各々)の電荷減衰定数αは、静電気拡散率測定装置(株式会社ナノシーズ製「NS−D100」)を用いて、JIS(日本工業規格)C 61340−2−1−2006に準拠した方法で測定された。詳しくは、測定セルに試料(トナー)を入れた。測定セルは、凹部(内径:10mm、深さ:1mm)が形成された金属製のセルであった。スライドガラスを用いて試料を上から押し込み、セルの凹部に試料を充填した。セルの表面においてスライドガラスを往復移動させることによって、セルから溢れた試料を除去した。試料の充填量は0.04g以上0.06g以下であった。
【0170】
試料が充填された測定セルを、温度32℃、湿度80%RHの環境下で12時間静置した。接地させた測定セルを静電気拡散率測定装置内に置き、コロナ放電によって試料にイオンを供給して、試料を帯電させた。帯電時間は0.5秒間であった。そして、コロナ放電が終了してから0.7秒が経過した後、試料の表面電位を連続的に測定した。測定された表面電位と、式「V=V0exp(−α√t)」とに基づいて、電荷減衰定数(電荷減衰速度)αを算出した。式中、Vは表面電位[単位:V]、V0は初期表面電位[単位:V]、tは減衰時間[単位:秒]をそれぞれ示す。
【0171】
電荷減衰定数αの評価基準を以下に示す。評価結果を表5に示す。
優良:電荷減衰定数αが0.030未満であった。
不良:電荷減衰定数αが0.030以上であった。
【0172】
<転写効率の測定>
複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa5550ci」)の現像装置の収容部に、評価対象を入れた。また、複合機のトナーコンテナに、トナー(より具体的には、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−6の各々)を入れた。このようにして、評価機を準備した。
【0173】
温度32℃且つ湿度80%RHの環境下で、評価機を用いて、画像(印字率:5%)を普通紙(A4サイズ)に1万枚連続で印刷した。この連続印刷は、トナーを補給しながら、行われた。連続印刷の後、消費トナーの質量と回収トナーの質量とを各々測定した。消費トナーは、トナーコンテナにセットされたトナーのうち、トナーコンテナから排出されたトナーである。回収トナーは、消費トナーのうち、普通紙に転写されなかったトナーである。そして、下記式に基づいて、転写効率(単位:質量%)を算出した。
転写効率=100×(消費トナーの質量−回収トナーの質量)/(消費トナーの質量)
【0174】
転写効率の評価基準を以下に示す。評価結果を表5に示す。
優良:転写効率が90%以上100%以下であった。
良好:転写効率が80%以上90%未満であった。
不良:転写効率が80%未満であった。
【0175】
[トナーの評価結果]
表4と表5とに、トナーの評価結果を示す。表4において、「未開環量」には、トナー(より具体的には、トナーTA−1〜TA−8及びTB−1〜TB−6の各々)1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量を記す。また、「特定の共有結合の存在」には、1H−NMRスペクトルにおいて化学シフトδが6.5付近に三重線のシグナルが確認されたか否かを記す。三重線のシグナルが確認された場合には「確認」と記し、三重線のシグナルが確認されなかった場合には「確認できず」と記す。
【0176】
【表4】
【0177】
【表5】
【0178】
トナーTA−1〜TA−8(より具体的には、実施例1〜8に係るトナー)は、各々、前述の基本構成を備えていた。詳しくは、トナーTA−1〜TA−8は、各々、複数のトナー粒子を含んでいた。トナー粒子は、各々、トナー母粒子と、外添剤とを備えていた。トナー母粒子は、結着樹脂を含有するトナーコアと、トナーコアの表面を覆うシェル層とを有していた。外添剤は、複数のシリカ粒子を含んでいた。シリカ粒子は、各々、シェル層の表面に存在し、シリカ基体の表面が表面処理剤で処理されて構成されていた。表面処理剤は、分子内にカルボキシル基を有する第1処理剤を含んでいた。トナーコアと、シリカ粒子の各々とは、特定の共有結合により、互いに結合されていた。正帯電性トナー1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量が、ガスクロマトグラフィー質量分析法による測定で、0.10μmol以上100μmol以下であった。
【0179】
表4と表5とに示すように、トナーTA−1〜TA−8の各々を用いて画像を形成すると、連続印刷後においても、かぶり濃度(FD)を所望値以下に抑えることができ、転写効率を所望値以上とすることができた。また、トナーTA−1〜TA−8の各々を用いて画像を形成すると、画像濃度の変化率を所望の範囲内に抑えることができた。また、トナーTA−1〜TA−8の各々を含む2成分現像剤を高温下で所定の時間保存しても、現像剤の凝集度を所望値以下に抑えることができた。また、トナーTA−1〜TA−8の各々では、電荷減衰定数αを所望値以下に抑えることができた。
【0180】
トナーTB−1〜TB−6(より具体的には、比較例1〜6に係るトナー)は、各々、前述の基本構成を備えていなかった。詳しくは、トナーTB−1では、表面処理剤が第1処理剤を含んでおらず、特定の共有結合の存在を確認できなかった。トナーTB−1を用いて画像を連続して形成すると、かぶり濃度(FD)が所望値を超え、画像濃度の変化率が所望の範囲を下回った。また、トナーTB−1を含む2成分現像剤を高温下で所定の時間保存すると、現像剤の凝集度が所望値を超えた。
【0181】
トナーTB−2では、トナー1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量が0.10μmol未満であった。トナーTB−2を用いて画像を連続して形成すると、かぶり濃度(FD)が所望値を超え、画像濃度の変化率が所望の範囲を下回った。
【0182】
トナーTB−3では、トナー1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量が100μmol超であった。トナーTB−3では、電荷減衰定数αが所望値を超えた。
【0183】
トナーTB−4では、表面処理剤が第1処理剤を含んでおらず、特定の共有結合の存在を確認できなかった。また、トナー1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量が0.10μmol未満であった。トナーTB−4を用いて画像を連続して形成すると、かぶり濃度(FD)が所望値を超え、画像濃度の変化率が所望の範囲を下回り、転写効率が所望値を下回った。また、トナーTB−4を含む2成分現像剤を高温下で所定の時間保存すると、現像剤の凝集度が所望値を超えた。
【0184】
トナーTB−5では、トナー1gに含まれる未開環オキサゾリン基の量が0.00μmolであり、特定の共有結合の存在を確認できなかった。トナーTB−5を用いて画像を連続して形成すると、かぶり濃度(FD)が所望値を超え、画像濃度の変化率が所望の範囲を下回り、転写効率が所望値を下回った。また、トナーTB−5を含む2成分現像剤を高温下で所定の時間保存すると、現像剤の凝集度が所望値を超えた。
【0185】
トナーTB−6では、シリカ基体の表面が表面処理剤で処理されておらず、特定の共有結合の存在を確認できなかった。トナーTB−6を用いて画像を連続して形成すると、画像濃度の変化率が所望の範囲を下回り、転写効率が所望値を下回った。また、トナーTB−6を含む2成分現像剤を高温下で所定の時間保存すると、現像剤の凝集度が所望値を超えた。また、トナーTB−6では、電荷減衰定数αが所望値を超えた。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明に係るトナーは、例えば複写機、プリンター、又は複合機において画像を形成するために用いることができる。