(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、1)樹脂組成物、2)微多孔膜、並びに、3)セパレータ及び二次電池、に項分けして詳細に説明する。
【0013】
1)樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、下記重合体(A)及び重合体(B)を含有する樹脂組成物であって、重合体(A)の含有量が、重合体(A)と重合体(B)の合計に対して1〜80重量%のものである。
重合体(A):熱変形温度が170℃以上の脂環構造含有重合体水素添加物
重合体(B):重合体(A)に対して非相溶性の重合体であって、熱変形温度が170℃未満の重合体
【0014】
〔重合体(A)〕
本発明に用いる重合体(A)は、熱変形温度が170℃以上の脂環構造含有重合体水素添加物である。
脂環構造含有重合体水素添加物は、分子内に、脂環構造を有する重合体であって、環状オレフィンを単量体として用いて重合反応を行って得られた重合体の水素化物である。
重合体(A)が有する脂環構造としては、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、耐熱性等に優れる樹脂組成物が得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。脂環構造を構成する炭素原子の数は、特に制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。脂環構造を構成する炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性の特性が高度にバランスされ好適である。
【0015】
重合体(A)中の、全繰り返し単位に対する脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。重合体(A)中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと、重合体(A)は耐熱性に劣る傾向がある。
重合体(A)中の脂環構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、適宜選択される。
【0016】
重合体(A)の熱変形温度は170℃以上であり、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上である。
熱変形温度は、JIS K7206に準拠して測定した値である。
重合体(A)の熱変形温度が170℃以上であることで、メルトダウン温度がより高い微多孔膜が得られ易くなる。
脂環構造含有重合体水素添加物の熱変形温度は、例えばその立体規則性を高めることにより高くすることができる。
【0017】
重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、通常1,000〜1,000,000、好ましくは、2,000〜500,000である。重合体(A)の重量平均分子量が上記範囲内であることで、成形加工性と耐熱性とのバランスにより優れた樹脂組成物が得られ易くなる。
重合体(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、通常4.0以下であり、好ましくは3.5以下である。このような分子量分布を有する重合体は、成形加工性により優れる。
重合体(A)の重量平均分子量(Mw)や分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算値である。
【0018】
重合体(A)は、環状オレフィンを単量体として用いて開環重合反応や付加重合反応を行い、得られた重合体を水素添加反応に供することにより製造することができる。
開環重合反応、付加重合反応、水素添加反応の反応条件等は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。
【0019】
より耐熱性に優れる樹脂組成物が得られ易いことから、重合体(A)としては、結晶性を有するものが好ましい。「結晶性」とは、測定条件等を最適化することにより、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができるという性質をいい、重合体鎖の立体規則性により定まる性質である。
重合体(A)が結晶性を有するとき、その融点は、好ましくは180〜350℃、より好ましくは200〜320℃、特に好ましくは220〜300℃である。
【0020】
結晶性を有する重合体(A)(以下、「重合体(α)」ということがある。)としては、国際公開第2012/033076号パンフレットに記載のシンジオタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素添加物、特開2002−249553号公報に記載のアイソタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素添加物、特開2007−16102号公報に記載のノルボルネン開環重合体水素添加物等の公知のものを用いることができる。
【0021】
重合体(α)としては、シンジオタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素添加物(以下、「重合体(α1)」ということがある。)が好ましい。後述するように、本発明においては、重合体(B)として、重合体(A)に対して非相溶性の重合体が用いられるが、重合体(α1)と相溶性の重合体はほとんど知られていない。このため、重合体(A)として重合体(α1)を使用することで、種々の公知の重合体の中から重合体(B)を選択することができる。
【0022】
重合体(α1)の立体規則性の程度は特に限定されないが、耐熱性等に優れる樹脂組成物が得られ易いことから、立体規則性の程度がより高いものが好ましい。
具体的には、ジシクロペンタジエンを開環重合して、次いで、水素化して得られる繰り返し単位についてのラセモ・ダイアッドの割合が、51%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。
ラセモ・ダイアッドの割合が高いものほど、すなわち、シンジオタクチック立体規則性の高いものほど、高い融点を有するジシクロペンタジエン開環重合体水素添加物となる。
ラセモ・ダイアッドの割合は、
13C−NMRスペクトル分析で測定し、定量することができる。具体的には、1,3,5−トリクロロベンゼン−d3/オルトジクロロベンゼン−d4の混合溶媒(体積比:2/1)を溶媒として、200℃でinverse−gated decoupling法を適用して
13C−NMR測定を行い、オルトジクロロベンゼン−d4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルの強度比からラセモ・ダイアッドの割合を決定することができる。
【0023】
重合体(α1)は、ジシクロペンタジエンを主たる単量体として開環重合を行い、得られる開環重合体中に存在する炭素−炭素二重結合の少なくとも一部を水素化(水素添加)することにより得ることができる。
【0024】
ジシクロペンタジエンには、エンド体及びエキソ体の立体異性体が存在するが、本発明においては、そのどちらも単量体として用いることができる。また、一方の異性体のみを単独で用いてもよいし、エンド体及びエキソ体が任意の割合で存在する異性体混合物を用いてもよい。本発明においては、重合体(α1)の結晶性が高まり、耐熱性により優れる樹脂組成物が得られ易くなることから、一方の立体異性体の割合を高くすることが好ましい。例えば、エンド体又はエキソ体の割合が、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。なお、合成が容易であることから、エンド体の割合が高いことが好ましい。
【0025】
重合体(α1)を製造する際、単量体として、ジシクロペンタジエンのみを用いてもよいし、ジシクロペンタジエンと共重合可能な他の単量体を用いてもよい。他の単量体としては、ジシクロペンタジエン以外のノルボルネン類や、環状オレフィン類、ジエン類等が挙げられる。
他の単量体を用いる場合、その使用量は、単量体全量中、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0026】
重合体(α1)を合成する際に用いる開環重合触媒は、ジシクロペンタジエンを開環重合させ、シンジオタクチック立体規則性を有する開環重合体が得られるものであれば、特に限定されない。好ましい開環重合触媒としては、下記式(1)で示される金属化合物を含有するものが挙げられる。
【0028】
式(1)中、Mは周期律表第6族の遷移金属原子から選択される金属原子であり、R
1は3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基、又は−CH
2R
3(R
3は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基である。)で表される基であり、R
2は置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基であり、Xはハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基及びアルキルシリル基から選択される基であり、Lは電子供与性の中性配位子である。aは0又は1であり、bは0〜2の整数である。
【0029】
Mは、周期律表第6族の遷移金属原子(クロム、モリブデン、タングステン)であり、モリブデン又はタングステンが好ましく、タングステンがより好ましい。
【0030】
R
1の、3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基の炭素数は、特に限定されないが、通常、6〜20、好ましくは6〜15である。
前記置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
また、3,4,5位の少なくとも2つの位置に存在する置換基が互いに結合し、環構造を形成していてもよい。
3,4,5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基としては、無置換フェニル基;4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−メトキシフェニル基等の一置換フェニル基;3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基等の二置換フェニル基;3,4,5−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリクロロフェニル基等の三置換フェニル基;2−ナフチル基、3−メチル−2−ナフチル基、4−メチル−2−ナフチル基等の置換基を有していてもよい2−ナフチル基;等が挙げられる。
【0031】
R
1の、−CH
2R
3で表される基において、R
3は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基から選択される基を表す。
R
3の、置換基を有していてもよいアルキル基の炭素数は、特に限定されないが、通常1〜20、好ましくは1〜10である。このアルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
前記置換基としては、フェニル基、4−メチルフェニル基等の置換基を有していてもよいフェニル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシル基;等が挙げられる。
R
3の、置換基を有していてもよいアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ベンジル基、ネオフィル基等が挙げられる。
【0032】
R
3の、置換基を有していてもよいアリール基の炭素数は、特に限定されないが、通常、6〜20、好ましくは6〜15である。
前記置換基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
R
3の、置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基等が挙げられる。
これらの中でも、R
3で表される基としては、炭素数が1〜20のアルキル基が好ましい。
【0033】
Xのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
Xの、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基としては、それぞれ、R
3の、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基として示したものと同様のものが挙げられる。
Xのアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
また、式(1)で示される金属化合物が、2以上のXを有するとき、これらは互いに結合し、環構造を形成していてもよい。
【0034】
R
2の、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基としては、それぞれ、R
3の、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基として示したものと同様のものが挙げられる。
【0035】
Lの電子供与性の中性配位子としては、周期律表第14族又は第15族の原子を含有する電子供与性化合物が挙げられる。その具体例としては、トリメチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ルチジン等のアミン類;等が挙げられる。これらの中でも、エーテル類が好ましい。
【0036】
式(1)で示される金属化合物としては、フェニルイミド基を有するタングステン化合物(式(1)中のMがタングステン原子で、R
1がフェニル基である化合物)が好ましく、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体がより好ましい。
【0037】
式(1)で表される金属化合物の合成方法は特に限定されない。例えば、特開平5−345817号公報に記載される方法等の従来公知の製造方法を採用することができる。
金属化合物の合成後、反応液をそのまま開環重合反応の触媒液として用いてもよいし、結晶化等の公知の精製処理により、金属化合物を単離、精製した後、得られた金属化合物を開環重合反応に供してもよい。
【0038】
開環重合触媒は、式(1)で示される金属化合物のみからなるものであってもよいし、式(1)で示される金属化合物と有機金属還元剤を組み合わせたものであってもよい。式(1)で示される金属化合物と有機金属還元剤を組み合わせて用いることで、重合活性が向上する。
有機金属還元剤としては、炭素数1〜20の炭化水素基を有する周期律表第1、2、12、13、14族の有機金属化合物が挙げられる。
前記有機金属化合物としては、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、フェニルリチウム等の有機リチウム;ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド等の有機マグネシウム;ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛等の有機亜鉛;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムイソブトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド、イソブチルアルミニウムジイソブトキシド等の有機アルミニウム;テトラメチルスズ、テトラ(n−ブチル)スズ、テトラフェニルスズ等の有機スズ;等が挙げられる。
これらの中でも、有機アルミニウム又は有機スズが好ましい。
【0039】
開環重合反応は、通常、有機溶媒中で行われる。用いる有機溶媒は、開環重合体やその水素添加物を、所定の条件で溶解もしくは分散させることが可能であり、かつ、開環重合反応や水素添加反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。
有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素類;ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン等のエ−テル類;これらを組み合わせた混合溶媒;等が挙げられる。
これらの中でも、有機溶媒としては、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、エーテル類が好ましい。
【0040】
開環重合反応は、有機溶媒中、単量体と、式(1)で示される金属化合物と、必要に応じて有機金属還元剤とを混合することにより開始することができる。
【0041】
開環重合反応に用いる式(1)で示される金属化合物の量は、(金属化合物:単量体)のモル比が、通常1:100〜1:2,000,000、好ましくは1:500〜1,000,000、より好ましくは1:1,000〜1:500,000となる量である。前記金属化合物の量が多すぎると、反応後に金属化合物を除去するのが困難になるおそれがあり、少なすぎると十分な重合活性が得られない場合がある。
【0042】
有機金属還元剤を用いる場合、その使用量は、式(1)で示される金属化合物1モルに対して、0.1〜100モルが好ましく、0.2〜50モルがより好ましく、0.5〜20モルが特に好ましい。有機金属還元剤の使用量が少なすぎると重合活性が十分に向上しない場合があり、多すぎると副反応が起こりやすくなるおそれがある。
【0043】
重合反応系には、活性調整剤を添加してもよい。活性調整剤を用いることで、開環重合触媒を安定化したり、開環重合反応の反応速度や重合体の分子量分布を調整したりすることができる。
活性調整剤は、官能基を有する有機化合物であれば特に制限されない。活性調整剤としては、含酸素化合物、含窒素化合物、含リン有機化合物等の従来公知の活性調整剤が挙げられる。
活性調整剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。添加する活性調整剤の量は、特に限定されないが、通常、式(1)で示される金属化合物に対して0.01〜100モル%の間で選択すればよい。
【0044】
また、重合反応系には、開環重合体の分子量を調整するために分子量調整剤を添加してもよい。分子量調整剤としては、α−オレフィン類、芳香族ビニル化合物、酸素含有ビニル化合物、ハロゲン含有ビニル化合物、窒素含有ビニル化合物、非共役ジエン、共役ジエン等が挙げられる。
分子量調整剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。添加する分子量調整剤の量は目的とする分子量に応じて適宜決定すればよいが、通常、ジシクロペンタジエンに対して、0.1〜50モル%の範囲で選択すればよい。
【0045】
重合温度は特に制限はないが、通常、−78〜+200℃の範囲であり、好ましくは−30〜+180℃の範囲である。重合時間は、特に制限はなく、反応規模にも依存するが、通常1分間から1000時間の範囲である。
【0046】
前記開環重合反応により、シンジオタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体を得ることができる。開環重合反応の後に行う水素添加反応において、反応条件を適切に設定すれば、通常、水素添加反応により開環重合体のタクチシチーが変化することはないため、このシンジオタクチック立体規則性を有するジシクロペンタジエン開環重合体を水素添加反応に供することにより、目的の重合体(α1)を得ることができる。なお、開環重合体のシンジオタクチック立体規則性の度合いは、開環重合触媒の種類を選択すること等により、調節することができる。
【0047】
開環重合体の水素添加反応は、水素化触媒の存在下で、反応系内に水素を供給することにより行うことができる。水素化触媒としては、オレフィン化合物の水素化触媒として公知の均一系触媒や不均一触媒を用いることができる。
【0048】
均一系触媒としては、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウム等の、遷移金属化合物とアルカリ金属化合物の組み合わせからなる触媒;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドリドカルボニルビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリジンルテニウム(IV)ジクロリド、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の貴金属錯体触媒;等が挙げられる。
【0049】
不均一触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム等の金属触媒;ニッケル/シリカ、ニッケル/ケイソウ土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/ケイソウ土、パラジウム/アルミナ等の、前記金属をカーボン、シリカ、ケイソウ土、アルミナ、酸化チタン等の担体に担持させてなる固体触媒が挙げられる。
【0050】
水素添加反応は、通常、不活性有機溶媒中で行われる。不活性有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂環族炭化水素類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。
不活性有機溶媒は、開環重合反応に用いた溶媒と同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、開環重合反応液にそのまま水素化触媒を添加して、水素添加反応を行ってもよい。
【0051】
水素添加反応の反応条件は、用いる水素化触媒によっても異なるが、反応温度は通常−20〜+250℃、好ましくは−10〜+220℃、より好ましくは0〜+200℃である。反応温度が低すぎると反応速度が遅くなりすぎる場合があり、反応温度が高すぎると副反応が起こる場合がある。
水素圧力は、通常0.01〜20MPa、好ましくは0.05〜15MPa、より好ましくは0.1〜10MPaである。水素圧力が低すぎると反応速度が遅くなりすぎる場合があり、水素圧力が高すぎると高耐圧反応装置等の特別な装置が必要になる。
反応時間は、所望の水素化率が達成されるのであれば特に限定されないが、通常0.1〜10時間である。
水素添加反応後は、常法に従って、目的の重合体(α1)を回収すればよい。
【0052】
水素添加反応における水素化率(水素化された主鎖二重結合の割合)は、特に限定されないが、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。水素化率が高くなるほど、得られる重合体(α1)の耐熱性が良好なものとなる。
【0053】
本発明において、重合体(A)は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
〔重合体(B)〕
本発明に用いる重合体(B)は、前記重合体(A)に対して非相溶性の重合体であって、熱変形温度が170℃未満のものである。
本発明において、非相溶性とは、ある重合体と混合して樹脂組成物や樹脂成形体にしたときに、海島構造を形成する性質をいう。重合体(B)が重合体(A)に対して非相溶性の重合体であることで、微多孔膜において、重合体(A)が有する優れた耐熱性(高い熱変形温度を有すること)と、重合体(B)が有する比較的低い温度で流動する特性がそれぞれ十分に生かされる。この結果、得られた微多孔膜からなるセパレータは、高いメルトダウン温度と低いシャットダウン温度を有する。
【0055】
また、本発明においては、用いる重合体(B)は重合体(A)と非相溶性であって、重合体(A)の水に対する表面張力と、重合体(B)の水に対する表面張力の差〔(重合体(A)の水に対する表面張力)−(重合体(B)の水に対する表面張力)〕が、2mN/m以上であるものが好ましく、3mN/m以上であるものがより好ましい。
表面張力の差が2mN/m以上であることで、重合体の混合物がより海島構造をとりやすくなる。
【0056】
重合体(B)の熱変形温度は170℃未満であり、好ましくは165℃以下、より好ましくは160℃以下である。
重合体(B)の熱変形温度が170℃未満であることで、シャットダウン温度がより低い微多孔膜が得られ易くなる。
熱変形温度が低い重合体は、分子量を低くしたり、その立体規則性を低くしたりすることにより効率よく得ることができる。
【0057】
重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、通常1,000〜1,000,000、好ましくは、2,000〜500,000である。
重合体(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、通常4.0以下であり、好ましくは3.5以下である。
【0058】
重合体(B)は、重合体(A)に対して非相溶性の重合体であって、熱変形温度が170℃未満のものである限り、特に限定されない。
重合体(B)としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等の単量体の単独重合体や共重合体等のポリオレフィン系重合体が挙げられる。
重合体(B)の具体例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ポリブテン等が挙げられる。
これらの中でも、高密度ポリエチレン又はポリプロピレンが好ましい。
本発明において、重合体(B)は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、重合体(A)の含有量が、重合体(A)と重合体(B)の合計に対して1〜80重量%のものである。重合体(A)の含有量が少なすぎるときは、微多孔膜をセパレータとして使用したときに、メルトダウン温度が低くなり、重合体(A)の含有量が多すぎるときは、微多孔膜をセパレータとして使用したときに、シャットダウン温度が高くなる。
【0060】
本発明の樹脂組成物を微多孔膜の成形材料として用いる場合、樹脂組成物は、通常、溶剤(以下、「孔形成用溶剤」ということがある。)を含有する。
孔形成用溶剤は、微多孔を形成するために用いられる。孔形成用溶剤を含有する樹脂組成物を成形して樹脂シートを成形した後、その樹脂シート中の孔形成用溶剤を除去することにより、樹脂シート内に微多孔が形成される。
孔形成用溶剤の沸点は、通常、120〜600℃、好ましくは150〜500℃である。この範囲の沸点を有する孔形成用溶剤を用いることで、微多孔を効率よく形成することができる。
孔形成用溶剤としては、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。
孔形成用溶剤の含有量は、樹脂組成物全体に対して、通常、20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜60重量%である。
【0061】
本発明の樹脂組成物は、重合体(A)と重合体(B)が分離状態にある限りにおいて、相溶化剤を含有してもよい。相溶化剤を含有する樹脂組成物を用いることで、重合体(A)からなる島部分の分散性に優れる微多孔膜が得られ易くなる。このような微多孔膜は、安全性により優れるセパレータの材料として適する。
相溶化剤としては、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム等のゴム系重合体やその水素添加物が挙げられる。
本発明の樹脂組成物が相溶化剤を含有するとき、その含有量は、重合体(A)と重合体(B)の合計に対して、通常、0.1〜10重量%である。
【0062】
本発明の樹脂組成物は、無機充填剤を含有してもよい。無機充填剤を含有する樹脂組成物を用いることで、シャットダウン温度が高いセパレータが得られ易くなる。
無機充填剤としては、シリカ、アルミナ、ゼオライト、マグネシア、チタニア等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物が無機充填剤を含有するとき、その含有量は、重合体(A)と重合体(B)の合計に対して、通常、1〜50重量%である。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、さらに他の添加剤を含有していてもよい。
添加剤としては、酸化防止剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤等が挙げられる。
これらの含有量は、目的に合わせて適宜決定することができるが、樹脂組成物全体に対して、通常、20重量%未満、好ましくは10重量%以下である。
【0064】
本発明の樹脂組成物は、重合体(A)、重合体(B)、及び、必要に応じて、溶剤や添加剤を溶融混練することにより得ることができる。
溶融混練の方法は特に限定されない。例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の溶融混練機を用いて、混錬を行うことができる。
混練温度は、好ましくは200〜400℃、より好ましくは240〜320℃である。また、混練するに際しては、各成分を一括に添加して混練してもよいし、数回に分けて添加しながら混練してもよい。
【0065】
2)微多孔膜
本発明の微多孔膜は、本発明の樹脂組成物を用いて形成されたものであって、重合体(B)中に、重合体(A)が分散してなる海島構造を有するものである。
【0066】
本発明の微多孔膜における海島構造は、重合体(A)と、重合体(A)に対して非相溶性の重合体である重合体(B)を組み合わせて用いることにより形成される。この海島構造を形成しやすいことから、重合体(A)としては、重合体(α1)が好ましい。
【0067】
重合体(A)からなる島部分の形状は特に限定されないが、通常は、円形又は楕円形である。
島部分の平均径は、通常、0.05〜100μm、好ましくは、0.1〜50μmである。
島部分の平均径は、微多孔膜を電子顕微鏡で観察して任意に選択した複数の島をそれぞれ同面積の円に置き換え、その円の直径を測定し、それらの平均値をとることにより算出することができる。
【0068】
微多孔の形状は、特に限定されないが、通常は、円形又は楕円形である。
微多孔の平均径は、通常、0.01〜1μm、好ましくは、0.05〜0.3μmである。
微多孔の平均径は、微多孔膜を電子顕微鏡で観察して任意に選択した孔をそれぞれ同面積の円に置き換え、その円の直径を測定し、それらの平均値をとることにより算出することができる。
【0069】
微多孔膜の膜厚は特に限定されない。微多孔膜の膜厚は、通常、5〜100μm、好ましくは10〜50μmである。
【0070】
本発明の微多孔膜の製造方法は特に限定されない。例えば、孔形成用溶剤を含有する樹脂組成物を成形材料として使用して、フィルム押出機によりシート状に成形した後、得られた樹脂シートを揮発性溶剤に接触させて樹脂組成物中に含まれていた孔形成用溶剤を抽出除去し、次いで、揮発性溶剤を揮発除去することにより、樹脂シート中に微多孔が形成されてなる微多孔膜を得ることができる。
【0071】
成形前の樹脂(成形材料)の形状は、微多孔膜を製造することができるものであれば、特に限定されない。例えば、ペレットや粉末などが挙げられる。
【0072】
揮発性溶剤としては、揮発性の溶媒であって、30℃において孔形成用溶剤と任意の割合で混和し、重合体(A)及び重合体(B)を溶解しないものであれば、特に限定されない。
揮発性溶剤の沸点は、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。
孔形成用溶剤として流動パラフィン等の炭化水素系溶媒を使用する場合、揮発性溶剤としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、2−メチルペンタン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0073】
孔形成用溶剤を抽出除去する際の処理方法は特に限定されない。例えば、樹脂シートを揮発性溶剤に浸漬させることで孔形成用溶剤を抽出除去することができる。
この浸漬処理を行うときの揮発性溶剤の温度は特に限定されないが、通常、10〜80℃、好ましくは20〜60℃である。
浸漬処理の時間は、特に限定されないが、通常、30秒から1時間、好ましくは1〜30分である。
【0074】
揮発性溶剤を揮発除去する方法は特に限定されない。例えば、常圧下又は減圧下で樹脂シートを加熱することにより揮発性溶剤を揮発除去することができる。
樹脂シートの加熱条件は特に限定されないが、例えば、20〜150℃で、30秒から24時間である。
【0075】
樹脂シート(揮発性溶剤の揮発除去前のものをいう。)又は微多孔膜(揮発性溶剤の除去後のものをいう。)(以下、これらを合わせて「樹脂シート等」という。)に対しては、延伸処理や熱固定処理を施してもよい。
【0076】
延伸処理とは、未配向状態の長鎖高分子を一軸または二軸方向に引き延ばし、分子を延伸した方向に配向させる処理をいう。延伸処理を行うことで、より強度に優れる微多孔膜が得られる。延伸処理法としては、特に限定されない。例えば、一軸延伸法、二軸延伸法、斜め延伸法等が挙げられる。延伸処理を行う際の樹脂シート等の温度は、通常、100〜140℃、好ましくは110〜120℃である。
延伸倍率は、面倍率で好ましくは10倍以上、より好ましくは15〜400倍である。
【0077】
熱固定処理は、長手方向、幅方向に張力をかけてフィルムを張った状態で所定の熱を加える処理をいう。熱固定処理をすることで、熱収縮率が小さい微多孔膜が得られる。
熱固定処理における樹脂シート等の温度は、通常、100〜140℃、好ましくは110〜120℃である。
熱固定処理の時間は、通常、1〜60秒である。
【0078】
本発明の微多孔膜は、本発明の樹脂組成物を用いて形成されたものであり、二次電池のセパレータとして好適に用いられる。
【0079】
3)セパレータ及び二次電池
本発明のセパレータは、本発明の微多孔膜からなる。したがって、本発明のセパレータは、高いメルトダウン温度と、所望のシャットダウン温度を有する。
本発明のセパレータのメルトダウン温度は、通常、260℃超であり、シャットダウン温度は、通常、170℃以下である。
メルトダウン温度とシャットダウン温度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0080】
本発明のセパレータを構成する重合体(A)(脂環構造含有重合体水素添加物)は、電気絶縁性や耐薬品性に優れる。このため、本発明のセパレータは、短絡が生じにくく、また、化学反応による劣化が起こりにくい。
さらに、本発明のセパレータは、上記のように、高いメルトダウン温度と、所望のシャットダウン温度を有する。
上記特性を有することから、本発明のセパレータは極めて安全性に優れ、かつ、実用性にも優れるものである。
【0081】
本発明の二次電池は、本発明のセパレータを備えるものである。また、通常、本発明の二次電池は、正極、負極、電解質成分を有する。
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折る等して電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板等を設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型等、何れであってもよい。
【0082】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。以下において、「部」及び「%」は特に断りのない限り、重量基準である。
【実施例】
【0083】
実施例及び比較例において、各種物性の測定は、下記の方法に従って行った。
(1)脂環構造含有重合体の分子量(重量平均分子量及び数平均分子量)
テトラヒドロフランを溶媒として、40℃でゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を行い、脂環構造含有重合体の分子量を標準ポリスチレン換算値として求めた。
システム:東ソー社製、HLC−8220
カラム:東ソー社製、Hタイプカラム
(2)脂環構造含有重合体の水素添加反応における水素化率
1H−NMR測定により、脂環構造含有重合体の水素添加反応における水素化率を求めた。
【0084】
(3)脂環構造含有重合体水素添加物の融点
示差走査熱量計を用いて10℃/分で昇温して熱重量分析を行い、脂環構造含有重合体水素添加物の融点を測定した。
(4)脂環構造含有重合体水素添加物のラセモ・ダイアッドの割合
1,3,5−トリクロロベンゼン−d3/オルトジクロロベンゼン−d4の混合溶媒(体積比:2/1)を溶媒として、200℃で
13C−NMR測定を行い、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルの強度比に基づいて、脂環構造含有重合体水素添加物のラセモ・ダイアッドの割合を決定した。
【0085】
(5)熱変形温度
HDT試験機(東洋精機社製、6M−2)を用いて、JIS K 7206に従い、荷重50N、昇温速度50℃/時間の条件でビカット軟化点を測定し、これを熱変形温度とした。
(6)表面張力
自動接触角計(協和界面科学社製、DropMaster DM500型)を用いて、溶媒として水(イオン交換水)を用いたときの接触角を測定し、表面張力を求めた。
【0086】
(7)シャットダウン温度
熱機械的分析装置(セイコー電子工業社製、TMA/SS6100)を用いて、10mm(TD)×3mm(MD)の試験片を、荷重2gで試験片の長手方向に引っ張りながら、5℃/分の速度で室温(20℃、以下にて同じ)から昇温し、融点付近で観測された変曲点の温度をシャットダウン温度とした。このシャットダウン温度が170℃以下のものを「○(good)」、170℃を超えるものを「×(bad)」と評価した。
(8)メルトダウン温度
上記熱機械的分析装置を用い、10mm(TD:Transverse Direction)×3mm(MD:Machine Direction)の試験片を、荷重2gで試験片の長手方向に引っ張りながら、5℃/分の速度で室温から昇温し、溶融により破膜した温度をメルトダウン温度とした。このメルトダウン温度が260℃を超えるものを「○(good)」、260℃以下のものを「×(bad)」と評価した
【0087】
〔製造例1〕
内部を十分に乾燥した後、窒素置換したガラス製耐圧反応容器に、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)のシクロヘキサン溶液(濃度75%)40部(ジシクロペンタジエンの量として30部)を仕込み、さらに、シクロヘキサン738部及び1−ヘキセン2.0部を加え、全容を攪拌しながら、50℃に加熱した。
一方、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体1.1部を56部のトルエンに溶解した溶液に、ジエチルアルミニウムエトキシド/n−ヘキサン溶液(濃度19%)4.6部を加えて10分間攪拌し、触媒溶液を調製した。
反応器の内容物を攪拌しながら、この触媒溶液を反応器内に加えて開環重合反応を開始させた。その後、全容を50℃に保ちながら、5分毎にジシクロペンタジエンのシクロヘキサン溶液(濃度75重量%)40部を9回添加した(ジシクロペンタジエンの合計添加量270部)後、さらに50℃で2時間反応を継続した。
次いで、反応液に少量のイソプロパノールを加えて、重合反応を停止させた後、重合反応溶液を多量のイソプロパノール中に注ぎ、開環重合体を析出させた。析出した重合体を濾過により回収した。得られた開環重合体を減圧下40℃で20時間乾燥した。
重合体の収量は296部(収率99%)であった。また、この重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ14,200及び27,000であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は1.90であった。
【0088】
続いて、得られた開環重合体60部とシクロヘキサン261部を耐圧反応容器に加えて攪拌し、重合体をシクロヘキサンに溶解させた後、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.039部をトルエン40部に溶解した水素化触媒溶液を添加し、水素圧4MPa、160℃で5時間水素添加反応を行った。得られた反応液を多量のイソプロピルアルコールに注いでポリマーを完全に析出させた。析出物を濾取し、これをイソプロピルアルコールで洗浄後、60℃で24時間減圧乾燥して、ジシクロペンタジエン開環重合体水素添加物を27.2部(収率98%)得た。
得られたジシクロペンタジエン開環重合体水素添加物の水素化率は99%以上、ラセモ・ダイアッドの割合は85%であり、融点は265℃であった。
【0089】
実施例及び比較例で用いた樹脂成分の物性を以下に示す。
・ジシクロペンタジエン開環重合体水素添加物(製造例1)(以下、「COP」と省略することがある。)
熱変形温度:263℃、表面張力:34mN/m
・高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、HF560)(以下、「HDPE」と省略することがある。)
熱変形温度:122℃、表面張力:31mN/m
・ポリプロピレン(プライムポリマー社製、F−300SP)(以下、「PP」と省略することがある。)
熱変形温度:162℃、表面張力:29mN/m
【0090】
〔実施例1〕
二軸押出機(東芝機械社製、TEM−37BS)を用いて、COP60部及びHDPE40部を、樹脂温度270℃で混練した。その際、流動パラフィンを、その量が樹脂組成物全体の50%となるようにサイドフィーダーから供給した。
得られた樹脂組成物をフィルム押出機(GSIクレオス社製)に投入し、これをギヤポンプ及びTダイを通過させ、厚さ50μmの樹脂シートに成形した。
得られたシートをn−ヘキサン溶液に3分間浸漬させ、流動パラフィンを除去した。その後シートの四辺を固定したまま120℃で30秒加熱して熱固定し、微多孔膜を得た。これを試験片として使用して、シャットダウン温度及びメルトダウン温度を測定した。
【0091】
〔実施例2〜5、比較例1〜4〕
実施例1において、樹脂成分を第1表に記載のものに変更したことを除き、実施例1と同様にして、樹脂組成物、及び微多孔膜を得、シャットダウン温度及びメルトダウン温度を測定した。
【0092】
【表1】
【0093】
第1表から以下のことが分かる。
実施例1〜5で得られた微多孔膜は、シャットダウン温度が低く、メルトダウン温度が高いものである。したがって、この微多孔膜からなるセパレータは安全性に優れる。
一方、比較例1、3で得られた微多孔膜は、メルトダウン温度が低く、比較例2、4で得られた微多孔膜はシャットダウン温度が高いものであった。したがって、これらの微多孔膜からなるセパレータは安全性に劣る。