(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(シート)
本発明は、繊維層と、繊維層上にコート層を有するシートに関する。ここで、繊維層は、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを60質量%以上含む層である。また、シートのヘーズは20%以下であり、シートのコート層側の表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角は70度以上である。シートのコート層側の表面とは、コート層の一方の面であり、繊維層が積層されている側の面とは反対側の面である。
【0015】
図1は、本発明のシートの構成を説明する断面図である。
図1に示されているように、本発明のシート10は、繊維層12と、繊維層12の少なくとも一方の面上にコート層14を有する。
図1では、繊維層12の一方の面上のコート層14を積層したシート10を示しているが、本発明では、繊維層12の両面にコート層14を積層してシート10を構成してもよい。また、繊維層12とコート層14は接した状態で積層されていることが好ましい。なお、本発明のシート10は、コート層14上にさらに他の層を有していてもよい。
【0016】
本発明のシートは、上記構成を有するため、撥水性及び耐水性に優れている。ここで、撥水性に優れているとは、水接触角が70度以上であることをいう。耐水性は、シート表面に水を滴下した後に、水滴跡が残るか否かで評価することができ、水滴跡が残らないものは耐水性に優れていると言える。本発明のシートは、撥水性及び耐水性の両方を備えている点に特徴がある。なお、本願明細書において、撥水性及び耐水性の評価は、シートのコート層側の表面における評価である。
さらに本発明のシートは、繊維層に繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを含有しているため、透明性に優れている。シートの透明性はシートのヘーズによって評価することができる。また、本発明では、繊維層が微細繊維状セルロースを60質量%以上含有するため、機械的強度も高い。すなわち、本発明のシートは透明性及び機械的強度も兼ね備えている点にも特徴がある。
【0017】
本発明のシートのコート層側の表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角は70度以上であればよく、75度以上であることが好ましく、80度以上であることがより好ましい。シートの水接触角を上記範囲内とすることにより、シートの撥水性をより効果的に高めることができる。
【0018】
本発明のシートが有するコート層とは、繊維層の表面を被覆する層であり、薄膜層である。具体的には、繊維層の厚みをT
1とし、コート層の厚みをT
2とした場合は、T
1/T
2の値が2以上であることが好ましい。T
1/T
2の値は、5以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。また、T
1/T
2の値は、200以下であることが好ましい。T
1/T
2の値を上記範囲内とすることにより、シート全体の機械的強度を高めることができ、透明性にも優れたシートを得ることができる。
【0019】
繊維層の厚みは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。繊維層の厚みは、1mm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
また、コート層の厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。コート層の厚みは、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。なお、上記コート層の厚みは、繊維層の一方の面に設けられたコート層の厚みである。両面にコート層が設けられている場合には、各面のコート層が、それぞれ上記範囲を満たすことが好ましい。
【0020】
コート層は両面に設けてもよい。この場合、各面のコート層の厚みは同じもよく、カールを制御することを主な目的として、各面のコート層の厚みを異なるものとしてもよい。
【0021】
本発明のシートのヘーズは、20%以下であればよいが、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることが特に好ましい。また、シートのヘーズの下限値は、特に限定されないが、たとえば0.1%とすることができる。シートのヘーズ値は、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。
【0022】
本発明のシートの全光線透過率は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。また、シートの全光線透過率の上限値は、特に限定されないが、たとえば99.9%とすることができる。シートの全光線透過率は、JIS K 7361に準拠してヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)で測定される値である。
【0023】
本発明のシートは、繊維層とコート層の密着性に優れている。具体的には、シートのJIS K 5400に準拠したクロスカット試験において、繊維層100マス中の剥離数が10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。
なお、JIS K 5400に準拠した密着性の評価方法は、具体的には下記の通りである。まず、シートの繊維層側の表面に1mm
2のクロスカットを100個入れ、セロハンテープ(ニチバン社製)をその上に貼り付け、1.5kg/cm
2の荷重で押し付けた後、90°方向にはく離し、剥離したマス(1mm
2四方マス)の数を数える。このマスの数を100マス中の剥離数とする。
【0024】
本発明のシートの引張弾性率は5GPa以上であることが好ましく、7GPa以上であることがより好ましく、10GPa以上であることがさらに好ましい。シートの引張弾性率は、JIS P 8113に準拠して測定される値であり、温度23℃、相対湿度50%における引張弾性率である。引張試験機としては、L&W社製、Tensile Tester CODE SE−064を用いることができる。なお、本願明細書においてシートの引張弾性率が高いことは、シートの機械的強度に優れることをいう。
【0025】
本発明のシートは、耐水性にも優れている。耐水性は、シートのコート層側の表面に、蒸留水1mLを滴下し、滴下後30秒後に、滴下した水滴をキムワイプ(日本製紙クレシア社製)で拭き取り、シート表面に水滴の跡が残っているか否かで評価することができる。本発明においては、上記評価方法においてシート表面に水滴の跡が全く残っていないことが好ましい。
【0026】
また、本発明のシートのコート層側の表面の蒸留水滴下1時間後の水接触角は70度以上であることが好ましい。本発明では、蒸留水滴下後1時間経過した場合であっても高い水接触角を維持することができる。このことからも、本発明のシートが耐水性に優れていることがわかる。
【0027】
なお、シートのヘーズ、全光線透過率、引張弾性率、および耐水性などの各物性や、繊維層とコート層の密着性は、繊維層およびコート層の組成、厚み、形成方法などをそれぞれ適切に選択することにより調整することが可能である。
【0028】
(繊維層)
繊維層は、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを含む。繊維層に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、繊維層の全質量に対して、60質量%以上であればよく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
<微細繊維状セルロース>
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
【0030】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0031】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0032】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0033】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0034】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0035】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0036】
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0037】
<化学的処理>
微細繊維状セルロースは、セルロース原料を解繊処理することによって得られる。また、本発明では、解繊処理前にセルロース原料に化学的処理を施し微細繊維状セルロースに置換基を付加することが好ましい。微細繊維状セルロースに付加される置換基は、イオン性置換基であることが好ましく、アニオン性置換基であることがより好ましい。アニオン性置換基としては、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある。)、カルボキシル基及びスルホン基から選択される少なくとも1種の置換基を挙げることができる。中でもアニオン性置換基は、リン酸基及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基であることがより好ましい。
【0038】
本発明で使用する微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース1g(質量)あたりアニオン性置換基を0.1mmol/g以上3.5mmol/g以下有することが好ましい。上述したようなアニオン性置換基を上記割合で有する微細繊維状セルロースは、静電反発効果により超微細化することができる点で好ましい。
【0039】
<化学的処理一般>
セルロース原料の化学的処理の方法は、微細繊維を得ることができる方法である限り特に限定されない。化学的処理としては、例えば、酸処理、オゾン処理、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル)酸化処理、酵素処理、セルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理などが挙げられる。
【0040】
酸処理の一例としては、Otto van den Berg; Jeffrey R. Capadona; Christoph Weder;
Biomacromolecules 2007, 8, 1353-1357.に記載されている方法を挙げることができる。具体的には、硫酸や塩酸等により微細繊維状セルロースを加水分解処理する。高濃度の酸処理により製造されるものは、非結晶領域がほとんど分解されており、繊維の短いもの(セルロースナノクリスタルとも呼ばれる)になるが、これらも微細繊維状セルロースに含まれる。
【0041】
オゾン処理の一例としては、特開2010−254726号公報に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維をオゾン処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系懸濁液を粉砕処理する。
【0042】
TEMPO酸化の一例としては、Saito T & al. Homogeneous suspensions of individualized microfibrils from TEMPO-catalyzed oxidation of native cellulose. Biomacromolecules 2006, 7 (6), 1687-91に記載されている方法を挙げることができる。具体的には、繊維をTEMPO酸化処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系懸濁液を粉砕処理する。
【0043】
酵素処理の一例としては、WO2013/176033号公報(WO2013/176033号公報に記載の内容は全て本願明細書中に引用されるものとする)に記載の方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維原料を、少なくとも酵素のEG活性とCBHI活性の比が0.06以上の条件下で、酵素で処理する方法である。
【0044】
セルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理としては、国際公開WO2013/073652(PCT/JP2012/079743)に記載されている「構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸またはそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物」を使用する方法を挙げることができる。
【0045】
<アニオン性置換基導入>
微細繊維状セルロースはアニオン性置換基を有することが好ましい。中でも、アニオン基は、リン酸基、カルボキシル基及びスルホン基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
【0046】
<置換基の導入量>
アニオン性置換基の導入量は特に限定されないが、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.5mmol/g以上であることが特に好ましい。また、アニオン性置換基の導入量は3.5mmol/g以下であることが好ましく、3.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.0mmol/g以下であることが特に好ましい。アニオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0047】
<リン酸基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースはリン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有していることが好ましい。
【0048】
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「化合物A」という。)を反応させることにより行うことができる。このような化合物Aは、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aの粉末や水溶液を添加してもよい。
【0049】
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
【0050】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0051】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0052】
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0053】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0054】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を下記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0055】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントインなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすく、ヒドロキシル基を有する繊維原料と水素結合を作りやすいことから尿素が好ましい。
【0056】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料に対する化合物Bの添加量は1質量%以上300質量%以下であることが好ましい。
【0057】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0058】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、150℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0059】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0060】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
【0061】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0062】
<リン酸基の導入量>
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.5mmol/g以上であることが特に好ましい。また、リン酸基の導入量は3.5mmol/g以下であることが好ましく、3.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.0mmol/g以下であることが特に好ましい。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0063】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0064】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、
図2に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、
図2に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0065】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0066】
<カルボキシル基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、たとえば上述したTEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によって処理することで、カルボキシル基を導入することができる。
【0067】
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。
【0068】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0069】
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0070】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0071】
<カルボキシル基の導入量>
カルボキシル基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.5mmol/g以上であることが特に好ましい。また、カルボキシル基の導入量は3.5mmol/g以下であることが好ましく、3.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.0mmol/g以下であることが特に好ましい。カルボキシル基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0072】
<カチオン性置換基導入>
本実施形態においては、イオン性置換基としてカチオン性置換基が微細繊維状セルロースに導入されていてもよい。例えば繊維原料にカチオン化剤およびアルカリ化合物を添加して反応させることにより、繊維原料にカチオン性置換基を導入することができる。
カチオン化剤としては、4級アンモニウム基を有し、かつセルロースのヒドロキシル基と反応する基を有するものを用いることができる。セルロースのヒドロキシル基と反応する基としては、エポキシ基、ハロヒドリンの構造を有する官能基、ビニル基、ハロゲン基等が挙げられる。カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルトリアルキルアンモニウムハライド或いはそのハロヒドリン型の化合物が挙げられる。
アルカリ化合物は、カチオン化反応の促進に寄与するものである。アルカリ化合物は、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩などの無機アルカリ化合物であってもよいし、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物およびその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等の有機アルカリ化合物であってもよい。カチオン性置換基の導入量の測定は、たとえば元素分析等を用いて行うことができる。
【0073】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、置換基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行うことができる。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0074】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0075】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0076】
<解繊処理>
イオン性置換基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0077】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶媒を使用することができる。好ましい極性有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0078】
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0079】
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
【0080】
上述した方法で得られたリン酸基を有する微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース含有スラリーであり、所望の濃度となるように、水で希釈して用いてもよい。微細繊維状セルロース含有スラリーは後述する方法でシート化され、繊維層が形成される。
【0081】
<繊維層の密度>
繊維層の密度は、1.0g/cm
3以上であることが好ましく、1.2g/cm
3以上であることがより好ましく、1.4g/cm
3以上であることがさらに好ましい。また、繊維層の密度は、2.0g/cm
3以下であることが好ましい。繊維層の密度は、繊維層の坪量と厚さから、JIS P 8118に準拠して算出される。繊維層の坪量は、JIS P 8124に準拠し、算出することができる。なお、繊維層が微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む場合は、繊維層の密度は、微細繊維状セルロース以外の任意成分を含む密度である。
【0082】
本発明においては、繊維層は非多孔性の層である点にも特徴がある。ここで、繊維層が非多孔性であるとは、繊維層全体の密度が1.0g/cm
3以上であることを意味する。繊維層全体の密度が1.0g/cm
3以上であれば、繊維層に含まれる空隙率が、所定値以下に抑えられていることを意味し、多孔性のシートや層とは区別される。
また、繊維層が非多孔性であることは、空隙率が15体積%以下であることからも特徴付けられる。ここでいう繊維層の空隙率は簡易的に下記式(a)により求めるものである。
式(a):空隙率(体積%)=[1−B/(M×A×t)]×100
ここで、Aは繊維層の面積(cm
2)、tは繊維層の厚み(cm)、Bは繊維層の質量(g)、Mはセルロースの密度である。
【0083】
<他の成分>
繊維層に含まれる他の成分としては、例えば親水性高分子や有機イオン等が挙げられる。親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体などを挙げることができる。有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。中でも、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドは好ましく用いられ、ポリエチレンオキサイドは特に好ましく用いられる。
テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn−プロピルオニウムイオン、テトラn−ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
【0084】
(コート層)
コート層は、上述した繊維層の少なくとも一方の面側に積層される。コート層は、撥水性を有し、その表面の蒸留水滴下30秒後の水接触角が70度以上である。コート層は、上記のような水接触角を発揮し得る層であるため、疎水性層又は撥水性層と呼ぶこともできる。
【0085】
コート層の繊維層が積層されている面とは反対側の面(露出面)の表面は平滑であることが好ましい。コート層は後述するように塗布により形成される塗布層であることが好ましい。このため、コート層を形成する際には、コート層を形成する塗布液は均一塗布されることが好ましい。このように、均一で平滑な層を表面層として設けることにより、本発明のシートの透明性、撥水性及び耐水性を高めることができる。
【0086】
コート層を繊維層の一方の面上にのみ形成する場合は、繊維層がカールする面の反対面にコート層を形成することが好ましい。すなわち、繊維層がトンネル状の弧を描くようにカールする場合は、その弧の外側面にコート層を積層することが好ましい。コート層を上記構成となるように積層することにより、シート全体にカールが発生することを抑制することができる。
後述するように、繊維層は基材上に塗工・乾燥・剥離することにより形成されることが好ましいが、この場合、繊維層の剥離面(基材接触面)は一方の面より、より平滑な面が得られる。この剥離面は、基材上に拘束された状態で乾燥されるため、剥離した際に収縮しやすく、この結果、繊維層は剥離面とは反対側に凸部がくるようにカールし易い傾向がある。このため、繊維層のカールを制御する目的で、繊維層の剥離面側とは反対側の面に、コート層を形成することが好ましい。なお、剥離面は平滑であるため外観上も好ましい形態となる。
【0087】
コート層の坪量は0.1g/m
2以上であることが好ましく、0.5g/m
2以上であることがより好ましい。また、コート層の坪量は90g/m
2以下であることが好ましく、45g/m
2以下であることがより好ましい。コート層の坪量を上記範囲内とすることにより、より効果的に撥水性及び耐水性を高めることができる。
【0088】
コート層は、上記条件の水接触角が70度以上の層であれば、含有される成分は特に制限されるものではないが、コート層は、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種を含む層であることが好ましい。中でも、コート層は、ケイ素含有化合物及びフッ素含有化合物から選択される少なくとも1種を含む層であることがより好ましい。ケイ素含有化合物は、コート層の強度を高めることができるため好ましく用いられる。また、フッ素含有化合物は、コート層の撥水性をより効果的に高めることができる。
【0089】
コート層に含まれるケイ素含有化合物は、例えば、オルガノシラン化合物の縮合物であることが好ましい。オルガノシラン化合物は、有機ケイ素化合物であり、シロキサン結合を含む有機ケイ素化合物である。オルガノシラン化合物は、繊維層上に塗布されることにより、空気中等の水分と加水分解した後、乾燥により脱水・縮合され、含酸素ケイ素膜を形成する。このため、被覆したオルガノシラン化合物は、コート層中ではオルガノシラン化合物の加水分解・脱水縮合物として存在する。
加水分解・脱水縮合反応に用いられるオルガノシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の4官能オルガノシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルトリメトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン等の3官能又は2官能のアルコキシシラン、及び、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン等の水素化アルコキシシラン、ヘキサメチルジシロキサンを挙げることができる。これらの化合物は、単独又は2種以上の混合物として用いることができる。中でも、オルガノシラン化合物は、ヘキサメチルジシロキサン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランであることが好ましく、コート層の均質性が良化するという観点から、4官能オルガノシランであることが好ましく、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランであることがより好ましい。特に、オルガノシラン化合物としてテトラメトキシシランを用いた場合、コート層を設けることにより、コート層を設ける前よりもシート全体のヘーズを低下させることができ、シートの透明性をより効果的に高めることができる。
【0090】
フッ素含有化合物は、1つの化合物中に少なくとも1つのフッ素原子を有する化合物である。フッ素含有化合物は1つの化合物中に2つ以上のフッ素原子を有するものであることが好ましく、2つ以上のフッ素原子を有するフッ素含有樹脂であることがより好ましい。
【0091】
フッ素含有化合物としてフッ素含有樹脂を用いる場合、フッ素含有樹脂は非晶質、結晶質のいずれのものを用いてもよい。透明性を向上させる観点からは、非晶質のフッ素含有樹脂であることが好ましい。フッ素含有樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(FA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン(ETFE)、ビニリデンフロライド(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、又は下記一般式(1)で表される単位を構成単位として有する重合体又は共重合体を挙げることができる。
【0093】
フッ素含有化合物としてフッ素含有樹脂を用いる場合、繊維層に含まれる微細繊維状セルロースとの密着性を高めるため、フッ素含有樹脂の末端基又は側鎖に、カルボキシル基やアルコキシシリル基を有することが好ましい。フッ素含有樹脂は、末端基にカルボキシル基やアルコキシシリル基を有することがより好ましい。
また、フッ素含有樹脂中のフルオロ基の一部をヒドロキシル基に置換させることも、微細繊維状セルロースとの密着性改善に有効である。
【0094】
また、密着性改善の観点から、コート層を形成する塗布液(コート層形成用組成物)中には、フッ素含有樹脂と微細繊維状セルロースの両方と共有結合を形成する化合物を添加してもよい。このような化合物としては、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、アルコキシシリル基、シラノール基及びオキサゾリン基から選択される少なくとも1種を分子内に2つ以上含有する化合物が好ましく、イソシアネート基を分子内に2つ以上含有する化合物が特に好ましい。なお、このような化合物の一部はコート層中にも検出される。
【0095】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体を含むことがより好ましい。中でも、アクリル樹脂は、シリカ粒子及び/又はシラノール基を有する化合物と(メタ)アクリル酸エステル重合体との複合体であることが好ましく、このような複合体は密着力向上の観点から好ましく用いられる。ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体は、アクリルモノマーと、ウレタン構造やエポキシ構造が共重合した共重合体であることが好ましく、アクリルモノマーと、ウレタン構造やエポキシ構造がグラフト重合した共重合体であることがより好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体は、(メタ)アクリル酸エステルと他のモノマーとが共重合してなる共重合体であってもよい。アクリル樹脂が(メタ)アクリル酸エステル共重合体である場合、共重合体中の(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーのモル分率は、50モル%以下であることが好ましい。
なお、本願明細書において「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸であることを示す。
【0096】
また、密着性改善の観点から、コート層を形成する塗布液(コート層形成用組成物)中には、アクリル樹脂と微細繊維状セルロースの両方と共有結合を形成する化合物を添加してもよい。このような化合物としては、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、アルコキシシリル基、シラノール基及びオキサゾリン基から選択される少なくとも1種を分子内に2つ以上含有する化合物が好ましく、イソシアネート基を分子内に2つ以上含有する化合物が特に好ましい。なお、このような化合物の一部はコート層中にも検出される。
【0097】
(積層体)
本発明は、シートの上にさらに無機膜(以下、無機層ともいう)を積層した積層体に関するものであってもよい。無機層は、コート層側に積層されることが好ましい。
【0098】
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、またはこれらの混合物が好ましい。
【0099】
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
【0100】
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
【0101】
無機層の厚みは、特に限定されないが、例えば、防湿性能の発現を目的とする場合は、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。無機層の厚みは、透明性、フレキシブル性の観点からは、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることがさらに好ましい。
【0102】
(シートの製造方法)
本発明は、シートの製造方法に関するものでもある。本発明のシートの製造工程は、繊維幅が1000nm以下の微細繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程と、繊維層の少なくとも一方の面にコート層形成用組成物を塗布する工程と、を含む。上記製造工程で得られるシートのヘーズは20%以下であり、シートのコート層側の表面の蒸留水滴下30秒後の接触角は70度以上である。
【0103】
<微細繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程>
微細繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程は、微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工する工程又は、微細繊維状セルロース含有スラリーを抄紙する工程を含む。中でも、多孔性の繊維層を得る観点から微細繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程は微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工する工程を含むことが好ましい。
【0104】
<塗工工程>
塗工工程は、微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成された微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離することにより、シート(繊維層)を得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。塗工するスラリーの濃度は特に限定されないが、0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0105】
塗工工程で用いる基材の質は、特に限定されないが、微細繊維状セルロース含有スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
【0106】
塗工工程において、微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量の微細繊維状セルロース含有シートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したもの用いることができる。
【0107】
微細繊維状セルロース含有スラリーを塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
【0108】
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、微細繊維状セルロース含有スラリーを容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0109】
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m
2以上100g/m
2以下、好ましくは20g/m
2以上50g/m
2以下になるようにスラリーを塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れた繊維層が得られる。
【0110】
微細繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程は、基材上に塗工した微細繊維状セルロース含有スラリーを乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0111】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上120℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
【0112】
乾燥後に、得られた微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離するが、基材がシートの場合には、微細繊維状セルロース含有シートと基材とを積層したまま巻き取って、微細繊維状セルロース含有シートの使用直前に微細繊維状セルロース含有シートを工程基材から剥離してもよい。
【0113】
<抄紙工程>
微細繊維状セルロースを含む繊維層を得る工程は、微細繊維状セルロース含有スラリーを抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
【0114】
抄紙工程では、微細繊維状セルロース含有スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。スラリーの濃度は特に限定されないが、0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
【0115】
微細繊維状セルロース含有スラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0116】
本発明において使用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
【0117】
<コート層を形成する工程>
コート層を形成する工程においては、繊維層の少なくとも一方の面にコート層形成用組成物を塗布する。塗布工程において使用できる塗工機としては、例えば、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。
【0118】
コート層形成用組成物は、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物及びアクリルモノマーから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。中でも、コート層形成用組成物は、ケイ素含有化合物及びフッ素含有化合物から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。ケイ素含有化合物は、コート層の強度を高めることができるため好ましく用いられる。また、フッ素含有化合物は、コート層の撥水性をより効果的に高めることができる。
【0119】
コート層形成用組成物がアクリルモノマーを含む場合は、アクリルモノマーのプレ重合体が含まれてもよい。プレ重合体は、アクリルモノマー1種から構成されるものであってもよく、2種以上を組み合わせて構成されるものであってもよい。また、プレ重合体は、アクリルモノマーと、ウレタン構造やエポキシ構造が共重合された共重合体であってもよい。
【0120】
アクリルモノマーとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジベンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートプロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート等を挙げることができる。中でも、アクリルモノマーはペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレートから選択される少なくとも1種であることが好ましい。アクリルモノマーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0121】
また、アクリルモノマーとしては、単官能のアルキル(メタ)アクリレートを上述した多官能アクリルモノマーと併用することも好ましい。単官能のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸n−ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等を挙げることができる。
【0122】
コート層がフッ素含有化合物として、フッ素含有樹脂を含む場合は、コート層形成用組成物には、フッ素含有樹脂の構成単位であるモノマーが含まれることが好ましい。
また、コート層がケイ素含有化合物を含む場合は、コート層形成用組成物はオルガノシラン化合物を含むことが好ましい。コート層がオルガノシラン化合物を含む場合は、構造単位としてテトラメトキシシランが含まれることが好ましい。
【0123】
塗布後には、硬化工程を設けることが好ましい。硬化工程としては、熱硬化工程を設けることがより好ましい。熱硬化工程においては、例えば、25℃以上300℃以下で10秒以上10時間以下加熱することが好ましい。熱硬化工程においては、例えば、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。また、硬化をより促進させるため、室温で1日から1週間程度、養生させることがより好ましい。
【0124】
硬化工程においては、光硬化工程を採用してもよく、熱硬化工程と光硬化工程を同時に行ってもよい。この場合、光硬化工程では、300nm以上450nm以下の紫外線を、10mJ/cm
2以上8000mJ/cm
2以下の範囲で照射することが好ましい。
【0125】
(用途)
本発明のシートは、光学特性に優れるため、光学フィルムとして好ましく用いることができる。具体的には、シートは、フレキシブルディスプレイ、タッチパネル、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイ、LED素子として用いることができる。また、表示素子、照明素子、太陽電池もしくは窓材、またはこれらのためのパネルもしくは基板としても用いることができる。本発明のシートは、シリコン系太陽電池、色素増感太陽電池などの太陽電池用基板として用いることもできる。基板としての用途においては、バリア膜、ITO、TFT等を積層してもよい。
【0126】
さらに本発明のシートは、自動車、鉄道車両、航空機、住宅、オフィスビル、工場等の窓材、グレージング、内装材、外板、バンパー等の自動車、鉄道車両、航空機の材料、パソコンの筐体、家電部品、包装用資材、建築資材、土木資材、水産資材、その他工業用資材との構造材として用いることもできる。また、本発明のシートは包装フィルムとしても好適である。
【実施例】
【0127】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、以下において、実施例1〜5及び9はそれぞれ、参考例1〜5及び9と読み替えるものとする。
【0128】
<実施例1>
(微細繊維状セルロース懸濁液Aの調製)
リン酸二水素ナトリウム二水和物265g、及びリン酸水素二ナトリウム197gを538gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬」という。)を得た。
【0129】
針葉樹晒クラフトパルプ(王子ホールディングス株式会社製、水分50質量%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を含水率80質量%になるようイオン交換水で希釈し、パルプ懸濁液を得た。このパルプ懸濁液500gにリン酸化試薬210gを加え、105℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社製、DKM400)で時折混練しながら質量が恒量となるまで乾燥させた。ついで150℃の送風乾燥機で時折混練しながら1時間加熱処理して、セルロースにリン酸基を導入した。このときのリン酸基の導入量は、0.98mmol/gであった。
【0130】
なお、リン酸基の導入量は、セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024:コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、
図2に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
【0131】
次いで、リン酸基を導入したセルロースに5000mlのイオン交換水を加え、撹拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12以上13以下になるまで少しずつ添加して、パルプ懸濁液を得た。その後、このパルプ懸濁液を脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
【0132】
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、固形分濃度が1.0質量%のパルプ懸濁液にした。このパルプ懸濁液を、高圧ホモジナイザー(NiroSoavi社製、Panda Plus 2000)を用いて処理し、セルロース懸濁液を得た。高圧ホモジナイザーを用いた処理においては、操作圧力1200barにてホモジナイジングチャンバーを5回通過させた。さらに、このセルロース懸濁液を湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて処理し、微細繊維状セルロース懸濁液を得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、245MPaの圧力にて処理チャンバーを5回通過させ、微細繊維状セルロース懸濁液Aを得た。微細繊維状セルロース懸濁液Aに含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、5nmであった。
【0133】
(繊維シートBの作製)
微細繊維状セルロース懸濁液Aにおいて、微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.5質量%となるよう濃度調整を行った。その後、微細繊維状セルロース懸濁液100質量部に対して、含酸素有機化合物として親水性高分子であるポリエチレンオキサイド(和光純薬社製:分子量100万)の0.5質量%水溶液を20質量部添加した。次いで、シート坪量が80g/m
2になるように懸濁液を計量して、市販のアクリル板に展開(キャスト)して、50℃のオーブンにて乾燥して繊維シートB(繊維層)を得た。このときの繊維シートBの厚みは53μm、繊維シートBの密度は1.51g/cm
3であった。
【0134】
(シートCの作製)
繊維シートBの一方の面上に、コート層形成用組成物としてテトラエトキシシラン化合物含有溶液(ニットボーメディカル社製、MOKUTO−G(固形分濃度18質量%、溶媒:ブタノール))をバーコーターにて塗布し、100℃で15分乾燥させた。このようにして繊維シートB上にコート層を設けたシートCを得た。このときのコート層の乾燥塗布量は4.8g/m
2、コート層の厚みは5μmであった。
【0135】
<実施例2>
(シートDの作製)
シートCのコート層を設けていない面上に、テトラエトキシシラン化合物含有溶液(ニットボーメディカル社製、MOKUTO−G)をバーコーターにて塗布して100℃で15分乾燥させた。このようにして繊維シートBの両面にコート層を設けたシートDを得た。このときの片面のコート層の乾燥塗布量は4.8g/m
2、各コート層の厚みは5μmであった。
【0136】
<実施例3>
(シートEの作製)
シートCの作製において、テトラエトキシシラン化合物含有溶液の塗布量を変更して、コート層の乾燥塗布量を1.9g/m
2、コート層の厚みを2μmとした以外は、実施例1と同様にして、シートEを得た。
【0137】
<実施例4>
(シートFの作製)
シートCの作製において、テトラエトキシシラン化合物含有溶液を、テトラメトキシシラン(東京化成工業社製)のメチルエチルケトン溶解物(濃度15質量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、シートFを得た。このときのコート層の乾燥塗布量は4.8g/m
2、コート層の厚みは5μmであった。
【0138】
<実施例5>
(シートGの作製)
シートCの作製において、テトラエトキシシラン化合物含有溶液を、ヘキサメチルジシロキサン(東京化成工業社製)のメチルエチルケトン溶解物(濃度15質量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、シートGを得た。このときのコート層の乾燥塗布量は4.8g/m
2、コート層の厚みは5μmであった。
【0139】
<実施例6>
(シートHの作製)
シートCの作製において、テトラエトキシシラン化合物含有溶液を、末端基にカルボキシル基を有する非晶質フッ素樹脂(旭硝子社製、CTL−809A)をフッ素系溶剤(旭硝子製CT−so1v80)で希釈した溶液(濃度8質量%)に変更し、バーコーターにて塗布した後、50℃で20分、80℃で60分、200℃で60分、順次乾燥した以外は、実施例1と同様にして、シートHを得た。このときのコート層の乾燥塗布量は4.8g/m
2、コート層の厚みは5μmであった。
【0140】
<実施例7>
(シートIの作製)
シートHの作製において、末端基にカルボキシル基を有する非晶質フッ素樹脂含有溶液を、末端基にアルコキシシラン基を有する非晶質フッ素樹脂(旭硝子社製CTL−809M)をフッ素系溶剤(旭硝子製CT−so1v80)で希釈した溶液(濃度8質量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、シートIを得た。このときのコート層の乾燥塗布量は4.8g/m
2、コート層の厚みは5μmであった。
【0141】
<実施例8>
(シートJの作製)
シートCの作製において、テトラエトキシシラン化合物含有溶液を、フルオロ基の一部をヒドロキシル基で置換したフッ素樹脂(AGCコーテック社製、オブリガードPS309R)100質量部と、イソシアネート系硬化剤(AGCコーテック社製オブリガードPS用硬化剤)10質量部の混合液をメチルエチルケトンで希釈した溶液(濃度15質量%)に変更した以外は、実施例1と同様にして、シートJを得た。このときのコート層の乾燥塗布量は4.8g/m
2、コート層の厚みは5μmであった。
【0142】
<実施例9>
(シートKの作製)
シートCの作製において、テトラエトキシシラン化合物含有溶液を、ポリウレタンがグラフト重合したアクリル樹脂であるウレタンアクリル樹脂(大成ファインケミカル社製、アクリット8UA−347A)100質量部と、イソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ社製、TPA−100)9.7質量部の混合溶液に変更し、バーコーターにて塗布した後、100℃で60分乾燥した以外は、実施例1と同様にして、シートKを得た。このときのコート層の乾燥塗布量は4.8g/m
2、コート層の厚みは5μmであった。
【0143】
<比較例1>
コート層を設けず、繊維シートBのみからなるシートを得た。
【0144】
<比較例2>
微細繊維状セルロース懸濁液Aにおいて、微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.5質量%となるよう濃度調整を行った。その後、微細繊維状セルロース懸濁液100質量部に対して、含酸素有機化合物として親水性高分子であるポリエチレンオキサイド(和光純薬社製:分子量100万)の0.5質量%水溶液を20質量部、25℃で固体の油性成分であるアルキルケテンダイマー(星光化学社製、AKD1602)を10質量部、それぞれ添加した。次いで、シート坪量が80g/m
2になるように懸濁液を計量して、市販のアクリル板に展開(キャスト)して、50℃のオーブンにて乾燥し、繊維シートLを得た。このときの繊維シートL厚さは53μm、繊維シートLの密度は1.51g/cm
3であった。
【0145】
(測定)
実施例及び比較例で作製したシートについて、水接触角、耐水性、ヘーズ、全光線透過率、引張弾性率、密着性をそれぞれ以下の方法で測定した。その結果を表1に記載する。なお、水接触角、耐水性は、コート層側の表面を測定した(コート層を設けない場合は繊維層表面を測定した)。
【0146】
(水接触角)
JIS R 3257に準拠し、動的水接触角試験機(Fibro社製、1100DAT)を用い、シート表面に蒸留水を4μL滴下し、滴下後30秒後の水接触角を測定した。
【0147】
(耐水性)
シート表面に、蒸留水1mLを滴下し、滴下後30秒後に、滴下した水滴をキムワイプ(日本製紙クレシア社製)で拭き取り、シート表面の状態を下記基準で評価した。
○:シート表面に水滴の跡が全く残っておらず、耐水性が非常に良好である。
×:シート表面に水滴の跡が残っており、耐水性が劣る。
【0148】
(ヘーズ)
JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて、測定した。
【0149】
(全光線透過率)
JIS K 7361:1997に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて、測定した。
【0150】
(引張弾性率)
JIS P 8113に準拠し、引張試験機(L&W社製、Tensile Tester CODE SE−064)を用いて、温度23℃、相対湿度50%における引張弾性率を測定した。
【0151】
(密着性)
JIS K 5400に準拠し、シートの繊維層側の表面に1mm
2のクロスカットを100個入れ、セロハンテープ(ニチバン社製)をその上に貼り付け、1.5kg/cm
2の荷重で押し付けた後、90°方向にはく離した。はく離したマス数により、繊維層とコート層の密着性を評価した。
【0152】
【表1】
【0153】
表1から明らかなように、実施例で得られたシートは、水接触角が大きく、かつ耐水性にも優れていた。また、実施例で得られたシートは、ヘーズが小さく、透明性に優れたシートであった。さらに実施例で得られたシートは、繊維層とコート層の密着性にも優れるものであった。なお、全ての実施例において得られたシートの強度が十分であることが確認できた。
一方、比較例1で得られたシートは、水接触角が小さく、耐水性にも劣るものであって。また、比較例2で得られたシートは、水接触角は大きいものの耐水性に劣っていた。さらに比較例2で得られたシートは、ヘーズが大きく透明性が不十分であった。