特許第6806174号(P6806174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許68061741,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806174
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/20 20060101AFI20201221BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20201221BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
   C07C17/20
   C07C19/08
   !C07B61/00 300
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-27023(P2019-27023)
(22)【出願日】2019年2月19日
(65)【公開番号】特開2020-132562(P2020-132562A)
(43)【公開日】2020年8月31日
【審査請求日】2020年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茶木 勇博
(72)【発明者】
【氏名】仲上 翼
(72)【発明者】
【氏名】串田 恵
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103709009(CN,A)
【文献】 国際公開第2017/104828(WO,A1)
【文献】 石川延男,小林義郎,フッ素の化合物 −その化学と応用,株式会社講談社,1979年,pp.80-91
【文献】 The Journal of Organic Chemistry,1963年,Vol. 28, No. 2,pp. 494-497
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/20
C07C 19/08
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)の製造方法であって、
2−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(HCFC−142)及び1−クロロ−1,2−ジフルオロエタン(HCFC−142a)の少なくとも一種の含塩素化合物をフッ化水素と接触させることにより1以上のフッ素化反応を行う工程を含み、HFC−143、塩化水素及びフッ化水素を含む反応ガスを得る、HFC−143の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素化反応は、0〜2MPaGの圧力条件で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素化反応は、触媒存在下、気相で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記フッ素化反応は、150〜600℃の温度条件で行う、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素化反応における前記含塩素化合物と前記フッ化水素との接触時間W/Foが0.1〜100g・sec/ccである、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記フッ素化反応における前記含塩素化合物に対する前記フッ化水素のモル比が20以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記フッ素化反応における前記含塩素化合物に対する前記フッ化水素のモル比が40超過である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記触媒は、少なくとも一部がクロム系触媒である、請求項3〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記フッ素化反応は、触媒存在下、液相で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記触媒は、少なくとも一部がアンチモン系触媒である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法により得た前記反応ガスに含まれる1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)を脱フッ化水素反応に供する工程を有する、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,1,2−トリフルオロエタン(CHFCHF;以下、「HFC−143」と表記する)に代表されるフルオロエタンは、各種冷媒を製造するための原料として知られている。例えば、HFC−143は、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)の原料として知られている。
【0003】
HFC−143などのフルオロエタンの製造方法としては、従来種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、水素化触媒の存在下、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等の水素化反応により、HFC−143を製造する技術が提案されている。また、特許文献2には、1,1,2−トリクロロエタン(HCC−140)から2−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(HCFC−142)を製造する技術が開示されており、副生成物としてHFC−143が微量混在することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−287044号公報
【特許文献2】国際公開第2015/082812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される方法でHFC−143を製造する場合、原料のCTFEが高価であるという問題がある。また、特許文献2はもとよりHCFC−142を製造する方法を開示しており、副生成物として微量混在するHFC−143の有機物中の選択率は僅か1.9%と小さい。
【0006】
本開示は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、目的生成物であるHFC−143を安価に且つ従来法よりも効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、例えば、以下の項に記載の発明を包含する。
1.1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)の製造方法であって、
2−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(HCFC−142)及び1−クロロ−1,2−ジフルオロエタン(HCFC−142a)の少なくとも一種の含塩素化合物をフッ化水素と接触させることにより1以上のフッ素化反応を行う工程を含み、HFC−143、塩化水素及びフッ化水素を含む反応ガスを得る、HFC−143の製造方法。
2.前記フッ素化反応は、0〜2MPaGの圧力条件で行う、上記項1に記載の製造方法。
3.前記フッ素化反応は、触媒存在下、気相で行う、上記項1又は2に記載の製造方法。
4.前記フッ素化反応は、150〜600℃の温度条件で行う、上記項3に記載の製造方法。
5.前記フッ素化反応における前記含塩素化合物と前記フッ化水素との接触時間W/Foが0.1〜100g・sec/ccである、上記項3又は4に記載の製造方法。
6.前記フッ素化反応における前記含塩素化合物に対する前記フッ化水素のモル比が20以上である、上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
7.前記フッ素化反応における前記含塩素化合物に対する前記フッ化水素のモル比が40超過である、上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
8.前記触媒は、少なくとも一部がクロム系触媒である、上記項3〜7のいずれかに記載の製造方法。
9.前記フッ素化反応は、触媒存在下、液相で行う、上記項1又は2に記載の製造方法。
10.前記触媒は、少なくとも一部がアンチモン系触媒である、上記項9に記載の製造方法。
11.上記項1〜10のいずれかに記載の製造方法により得た前記反応ガスに含まれる1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)を脱フッ化水素反応に供する工程を有する、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示のHFC−143の製造方法によれば、安価且つ従来法よりも効率的なHFC−143の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示のHFC−143の製造方法は、2−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(HCFC−142)及び1−クロロ−1,2−ジフルオロエタン(HCFC−142a)の少なくとも一種の含塩素化合物をフッ化水素と接触させることにより1以上のフッ素化反応を行う工程を含み、HFC−143、塩化水素及びフッ化水素を含む反応ガスを得る、ことを特徴とする。
【0010】
上記特徴を有する本開示のHFC−143の製造方法によれば、安価且つ従来法よりも効率的なHFC−143の製造方法を提供することができる。
【0011】
本開示の製造方法では、原料化合物として2−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(HCFC−142)及び1−クロロ−1,2−ジフルオロエタン(HCFC−142a)の少なくとも一種の含塩素化合物を用いる。これらの含塩素化合物はいずれもCTFEと比べて安価に入手可能であるため、HFC−143の製造方法を低コスト化できる。これらの含塩素化合物の中でも、その含塩素化合物の合成が容易であるという観点からHCFC−142が好ましい。
【0012】
本開示の製造方法は、上記含塩素化合物をフッ化水素と接触させることにより1以上のフッ素化反応を行う工程を含み、HFC−143、塩化水素及びフッ化水素を含む反応ガスを得る、ことを特徴とする。
【0013】
フッ化水素によるフッ素化反応は、気相反応であってもよいし、液相反応であってもよい。また、HFC−143を得るまでに要するフッ素化反応は、使用する含塩素化合物に応じて1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0014】
気相反応の場合、後述する反応温度領域において、含塩素化合物とフッ化水素とが気体状態で接触できればよく、含塩素化合物の供給時には、含塩素化合物が液体状態であってもよい。
【0015】
例えば、含塩素化合物が常温、常圧で液状である場合には、含塩素化合物を、気化器を用いて気化させてから予熱領域を通過させ、フッ化水素と接触させる混合領域に供給することによって、気相状態で反応を行うことができる。また、含塩素化合物を液体状態で反応装置に供給し、フッ化水素との反応領域に達した時に気化させて反応させてもよい。
【0016】
また、フッ化水素としては、反応器の腐食や触媒の劣化を抑制できるという理由から、無水フッ化水素を使用することが好ましい。
【0017】
含塩素化合物を反応領域で気化させる方法については特に限定はなく、公知の方法を広く採用することが可能である。例えば、ニッケルビーズ、ハステロイ片などの熱伝導性が良好で、フッ素化反応における触媒活性が無く、且つ、フッ化水素に対して安定な材料を反応管内に充填して、反応管内の温度分布を均一にし、含塩素化合物の気化温度以上に加熱し、ここに液体状態の含塩素化合物を供給して気化させ、気相状態としてもよい。
【0018】
フッ化水素を反応器に供給する方法としては特に限定はなく、例えば、含塩素化合物と共に、気相状態で反応器に供給する方法を挙げることができる。フッ化水素の供給量については、含塩素化合物(1モル)に対するフッ化水素のモル比が20以上であれば好ましく、その中でも30以上が好ましく、40以上(特に40超過)がより好ましい。当該モル比の上限は限定的ではないが、エネルギーコストや生産性の観点から60程度とすることが好ましい。
【0019】
上記モル比に設定することにより、含塩素化合物の転化率、及びHFC−143の選択率の双方を、従来法よりも効率的な(良好な)範囲内に維持することができる。特に、含塩素化合物1モルに対してフッ化水素を40モル以上(特に40モル超過)で供給する場合に、HFC−143の選択率を、極めて高くすることができる。
【0020】
なお、本明細書において、「転化率」とは、反応器に供給される含塩素化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガス(=反応ガス)に含まれる、含塩素化合物以外の化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味するものとする。
【0021】
また、本明細書において、「選択率」とは、反応器出口からの流出ガス(=反応ガス)に含まれる、含塩素化合物以外の化合物の合計モル量に対する当該流出ガスに含まれる目的化合物(HFC−143)のモル量の割合(モル%)を意味するものとする。
【0022】
なお、気相フッ素化反応では原料化合物としての含塩素化合物は反応器にそのまま供給してもよく、又は窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈して供給してもよい。
【0023】
フッ素化反応を触媒存在下、気相で行う場合には、公知の気相フッ素化触媒を、広く採用することができ、特に限定はない。例えば、クロム、アルミニウム、コバルト、マンガン、ニッケル、及び鉄の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、ハロゲン酸化物、無機塩及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、含塩素化合物の転化率を向上させるために、CrO、Cr、FeCl/C、Cr/Al、Cr/AlF、Cr/C、CoCl/Crなどのクロム系触媒を使用することが好ましい。酸化クロム/酸化アルミニウム系触媒は、米国特許第5155082号明細書に記載されているもの、つまり、酸化クロム/酸化アルミニウム触媒(例えば、Cr/Al)や、これにコバルト、ニッケル、マンガン、ロジウム、及びルテニウムのハロゲン化物を複合したもの等を好適に使用できる。つまり、気相反応の場合には、少なくとも一部がクロム系触媒であることが好ましい。
【0024】
触媒金属は、一部又は全てが結晶化したものを用いてもよく、非晶質を用いてもよく、結晶性は適宜選択することができる。例えば、酸化クロムは、様々な粒子径のものを商業的に入手可能である。また、粒子径や結晶性を制御するため、硝酸クロムとアンモニアから水酸化クロムの沈降させた後、焼成させることで調製してもよい。上記触媒は単独で使用してもよく、その混合物を用いてもよい。また、担体として、種々の活性炭、酸化マグネシウム、酸化ジルコニア、アルミナ等を使用できる。これらの触媒は、フッ素化反応に使用する前に無水フッ酸、含フッ素化合物等を用いてフッ素化処理に供してよく、特に無水フッ酸でフッ素化処理することが好ましい。
【0025】
使用する反応器の形態は特に限定されるものではなく、公知の反応器を広く使用することが可能である。例えば、触媒を充填した管型の流通型反応器を用いることができる。また、触媒の不存在下に反応を行う場合には、例えば、空塔の断熱反応器、フッ化水素と出発物質との気相混合状態を向上させるための多孔質又は非多孔質の金属や媒体を充填した断熱反応器等を用いてもよい。それ以外にも、熱媒体を用いて除熱及び/又は反応器内の温度分布を均一化した多管型反応器等を用いることも好ましい。
【0026】
空塔の反応器を使用する場合、内径の小さい反応管を用いて伝熱効率を良くする方法では、例えば、含塩素化合物の流量と、反応管の内径の関係は、線速度が大きくかつ伝熱面積が大きくなるようにすることが好ましい。
【0027】
気相フッ素化反応における反応温度は、反応器中の温度として、150〜600℃が好ましく、200〜500℃がより好ましく、230〜400℃がさらに好ましい。反応温度を200℃以上に設定することにより、目的物の選択率を向上させることができる。また、反応温度を600℃以下とすることにより、反応により炭化物が生成し、該炭化物が反応管壁や充填剤に付着及び/又は堆積することにより反応器を徐々に閉塞してしまうリスクを低減することができる。但し、かかるリスクが想定される場合には、反応系中に酸素を同伴するか、あるいは一旦、反応を停止して酸素あるいは空気を流通させることにより、反応管内に残存する炭化物を燃焼除去することができる。
【0028】
気相フッ素化反応における反応圧力については、含塩素化合物とフッ化水素とが気相状態で存在できる圧力であれば特に限定されるものではなく、常圧下、加圧下、減圧下のいずれでもよい。例えば、減圧下又は大気圧(0MPaG)下で実施することができ、原料が液体状態にならない程度の加圧下で実施することもできる。通常、圧力条件としては0〜2MPaGの範囲が好ましく、0〜1MPaGの範囲がより好ましい。
【0029】
気相フッ素化反応における反応時間については、特に限定的ではないが、通常、反応系に流す原料ガスの全流量Fo(0℃、0.0MPaGでの流量:cc/sec)に対する触媒充填量W(g)の比率:W/Foで表される接触時間を0.1〜100g・sec/cc程度、好ましくは5〜50g・sec/cc程度とすればよい。なお、この場合の原料ガスの全流量とは、原料とする含塩素化合物とフッ化水素との合計流量に、更に不活性ガス、酸素などを用いる場合には、これらの流量を加えた量である。
【0030】
一方、フッ素化反応を触媒存在下、液相で行う場合には、公知の液相フッ素化触媒を、広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、ルイス酸、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属酸化物、IVb属の金属ハロゲン化物、及びVb属の金属ハロゲン化物からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0031】
より具体的には、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化錫、ハロゲン化タンタル、ハロゲン化チタン、ハロゲン化ニオブ、ハロゲン化モリブデン、ハロゲン化鉄、フッ化クロムハロゲン化物、及びフッ化クロム酸化物からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0032】
更に具体的には、SbCl、SbCl、SbF、SnCl、TaCl、TiCl、NbCl、MoCl、FeCl、及び塩化物塩とフッ化水素から調製されたSbCl(5−y)、SbCl(3−y)、SnCl(4−y)、TaCl(5−y)Fy、TiCl(4−y)Fy、NbCl(5−y)Fy、MoCl(6−y)、FeCl(3−y)(ここで、yは、下限として0.1以上、上限としては、それぞれの元素の価数以下である。)等の触媒が好ましい。これらの触媒は、1種を単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。これらの中でも少なくとも一部がアンチモン系触媒であることが好ましく、特に五塩化アンチモンが好ましい。
【0033】
これらの触媒は、不活性になった場合には、公知の手法によって容易に再生可能である。触媒を再生する方法としては、塩素を触媒と接触させる方法が採用できる。例えば、液相フッ素化触媒100gあたり、約0.15〜25g/hrの塩素を液相反応に加えることができる。
【0034】
液相フッ素化反応における反応温度は、反応系中の温度として、50〜200℃が好ましく、80〜150℃がより好ましい。反応温度を80℃以上に設定することにより、目的物の選択率と生産性を向上させることができる。液相フッ素化反応における圧力は気相反応の場合と同様に0〜2MPaGの範囲が好ましく、0〜1MPaGの範囲がより好ましい。
【0035】
気相でのフッ素化反応及び液相でのフッ素化反応ともに、反応器としては、公知のものを広く使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)、インコロイ(INCOLLOY)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0036】
本開示の製造方法によりHFC−143、塩化水素及びフッ化水素を含む反応ガスを得た後は公知の各種の分離方法によりHFC−143を得ることができる。フッ化水素は、フッ素化反応にリサイクルすることもできる。また、得られたHFC−143は、必要に応じて精製処理を施した後に各種用途に用いることができる。例えば、HFC−143を脱フッ化水素反応に供して1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)を製造してもよい。この点、本開示は、前述の本開示の製造方法により得た反応ガスに含まれる1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)を脱フッ化水素反応に供する工程を有する、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)の製造方法の発明も包含する。
【0037】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示はこれらの例に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき、本開示の実施形態をより具体的に説明する。但し、本開示は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0039】
実施例1
酸化フッ化クロム触媒を下記手順により調製した。先ず特開平5−146680号公報に記載されている方法に沿ってCrxOyで示される酸化クロムを調製した。詳細には、5.7%硝酸クロム水溶液765gに10%アンモニア水を加え、これにより生じた沈殿をろ過により回収して洗浄した後、空気中で120℃、12時間乾燥させて水酸化クロムを得た。この水酸化クロムを直径3.0mm、高さ3.0mmのペレット状に成形した。このペレットを窒素気流中400℃で2時間焼成して酸化クロムを得た。得られた酸化クロムの比表面積(BET法による)は約200m/gであった。次に、この酸化クロムにフッ素化処理を施して酸化フッ化クロム触媒を得た。詳細には、酸化クロムにフッ化水素を含むガスを流通させて200〜360℃まで段階的に温度を上げながら加熱し、360℃に到達した後、フッ化水素により2時間フッ素化して酸化フッ化クロム触媒を得た。
【0040】
得られた酸化フッ化クロム触媒12gを、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。
【0041】
この反応管を大気圧(0.0MPaG)下で150℃に維持し、無水フッ化水素(HF)ガスを118mL/min(0℃、0.0MPaGでの流量)の流速で反応器に供給して1時間維持した。その後、CHFCHCl(HCFC−142)を2.4mL/min(0℃、0.0MPaGでのガス流量)の流速で供給した。この時のHF:HCFC−142のモル比は50:1、接触時間W/Foは6g・sec/ccであった。
【0042】
反応開始から1.5時間後、HCC−142の転化率は31%、HFC−143の選択率は2%であった。
【0043】
実施例2
反応温度を240℃にした以外は実施例1と同様にしてHFC−143を合成した。
【0044】
反応開始から2.5時間後、HCFC−142の転化率は18%、HFC−143の選択率は12%であった。
【0045】
実施例3
反応温度を280℃にした以外は実施例1と同様にしてHFC−143を合成した。
【0046】
反応開始から2.5時間後、HCFC−142の転化率は34%、HFC−143の選択率は20%であった。
【0047】
実施例4
反応温度を330℃にした以外は実施例1と同様にしてHFC−143を合成した。
【0048】
反応開始から1.5時間後、HCFC−142の転化率は57%、HFC−143の選択率は8%であった。
【0049】
実施例5
無水フッ化水素(HF)ガスを57.4mL/min(0℃、0.0MPaGでの流量)の流速で反応器に供給し、反応温度を200℃にしたこと以外は実施例1と同様にしてHFC−143を合成した。この時のHF:HCFC−142のモル比は24.3:1、接触時間W/Foは12g・sec/ccであった。
【0050】
反応開始から2時間後、HCFC−142の転化率は12%、HFC−143の選択率は1%であった。
【0051】
実施例6
反応温度を240℃にした以外は実施例5と同様にしてHFC−143を合成した。
【0052】
反応開始から3時間後、HCFC−142の転化率は18%、HFC−143の選択率は12%であった。
【0053】
実施例7
無水フッ化水素(HF)ガスを35mL/min(0℃、0.0MPaGでの流量)の流速で反応器に供給し、反応温度を280℃にしたこと以外は実施例1と同様にしてHFC−143を合成した。この時のHF:HCFC−142のモル比は15:1、接触時間W/Foは19g・sec/ccであった。
【0054】
反応開始から2時間後、HCFC−142の転化率は35%、HFC−143の選択率は8%であった。
【0055】
実施例8
反応温度を365℃にした以外は実施例7と同様にしてHFC−143を合成した。
【0056】
反応開始から2時間後、HCFC−142の転化率は58%、HFC−143の選択率は12%であった。
【0057】
実施例9
無水フッ化水素(HF)ガスを63mL/min(0℃、0.0MPaGでの流量)の流速で反応器に供給し反応温度を240℃にしたこと以外は実施例1と同様にしてHFC−143を合成した。この時のHF:HCFC−142のモル比は21:1、接触時間W/Foは11g・sec/ccであった。
【0058】
反応開始から19時間後、HCFC−142の転化率は41%、HFC−143の選率は21%であった。
【0059】
実施例10
無水フッ化水素(HF)ガスを64.7mL/min(0℃、0.0MPaGでの流量)、HCFC−142を1.3mL/min(0℃、0.0MPaGでのガス流量)の流速で反応器に供給したこと以外は実施例9と同様にしてHFC−143を合成した。この時のHF:HCFC−142のモル比は50:1、接触時間W/Foは11g・sec/ccであった。
【0060】
反応開始から2時間後、HCFC−142の転化率は54%、HFC−143の選択率は26%であった。
【0061】
実施例11
無水フッ化水素(HF)ガスを61.9mL/min(0℃、0.0MPaGでの流量)、HCFC−142を4.1mL/min(0℃、0.0MPaGでのガス流量)の流速でそれぞれ反応器に供給したこと以外は実施例9と同様にしてHFC−143を合成した。この時のHF:HCFC−142のモル比は15:1、接触時間W/Foは11g・sec/ccであった。
【0062】
反応開始から2時間後、HCFC−142の転化率は25.4%、HFC−143の選択率は16%であった。
【0063】
実施例11の結果から、モル比を低く設定したことによりHFC−143の収率が低下したことから、モル比は20以上、好ましくは40以上(特に40超過)、更に好ましくは50以上とすることによりHFC−143の収率が向上することが分かる。
【0064】
実施例12
反応圧力を0.6MPaGとしたこと以外は実施例10と同様にしてHFC−143を合成した。この時のHF:HCFC−142のモル比は50:1、接触時間W/Foは11g・sec/ccであった。
【0065】
反応開始から2時間後、HCFC−142の転化率は60%、HFC−143の選択率は29%であった。
【0066】
実施例12の結果から、圧力を0.6MPaGまで上げることで、転化率及び選択率を向上させることができることが分かる。
【0067】
実施例13
無水フッ化水素(HF)ガスを150mL/min(0℃、0.0MPaGでの流量)、HCFC−142を3mL/min(0℃、0.0MPaGでのガス流量)の流速で反応器に供給したところへ、全流量に対し1%のOを同伴させてHCFC−142のフッ素化反応を行った。反応温度は240℃とした。この時のHF:HCFC−142のモル比は50:1、接触時間W/Foは4.7g・sec/ccであった。
【0068】
反応開始から15時間 HCFC−142の転化率は47%、HFC−143の選択率は20%であった。
【0069】
実施例14
反応温度を260℃にした以外は実施例13と同様にしてHFC−143を合成した。
【0070】
反応開始から2時間後、HCFC−142の転化率は57%、HFC−143の選択率は32%であった。
【0071】
実施例15
反応温度を280℃にした以外は実施例13と同様にしてHFC−143を合成した。
【0072】
反応開始から2時間後、HCFC−142の転化率は67%、HFC−143の選択率は28%であった。