(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両などに搭載される回転機は、ハウジング内に回転可能に配置された回転子(ロータ)と、ハウジング内で回転子の径方向に対向配置された固定子(ステータ)とを備えている。
【0003】
固定子は、円環状の固定子コアと、固定子コアの周方向に配列された複数のスロットに巻装された固定子巻線とを備えている。この固定子巻線は、それぞれ電気的位相の異なる三相(U相,V相,W相)の相巻線を備えている。この相巻線の構造の一例として特許文献1が公知となっている。
【0004】
図7に基づき説明すれば、特許文献1の相巻線には大小の導体セグメント50A,50Bが採用されている。この導体セグメント50A,50Bは、逆U字状のヘアピン形状に形成され、一対の直線部51A,51Bと直線部51A,51B間のターン部52A,52Bとを備え、前記スロットに直線部51A,51Bが挿入収容される。
【0005】
ターン部52A,52Bの略中央には、突出状に折曲形成された頭頂部53A,53Bが形成されている。また、両ターン部52A,52Bにより固定子巻線の軸方向の一端部にリング状のコイルエンドが形成される。このコイルエンド部では、前記周方向に隣接するターン部52A,52Bの頭頂部53A,53B同士が軸方向に重なり合っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スロット挿入時に導体セグメント50A,50Bは、固定子コアの軸方向に沿って二段に重ねられ、下段の頭頂部53Bが上段の頭頂部53Aと重ねられて隠れた状態のまま押圧され、頭頂部53Bに圧力が加えられる。
【0008】
このとき導体セグメント50A,50Bは、導体を絶縁被膜で覆った角線により構成されている。ところが、スロット挿入時の圧力により頭頂部53Aに頭頂部53Bが押圧されるため、絶縁被膜が押し広げられて損傷し、その絶縁性が確保できないおそれがある。また、頭頂部53A,53B同士が重なっていると、それぞれの空気に触れる表面積が減少し、固定子巻線の放熱性が悪化するおそれもある。
【0009】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、回転機の固定子コアに巻装される固定子巻線の損傷および放熱性悪化を抑えることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、回転機の固定子コアの周方向に配列された複数のスロットに巻装され、それぞれ電気的位相の異なる三相の相巻線を備えた回転機の固定子巻線の構造であって、
前記各相巻線は、導体を絶縁被膜で被覆して構成され、前記各スロットに収容されるスロット収容部と、前記固定子コアの周方向の異なる前記スロットに収容されたスロット収容部同士をそれぞれ外部で接続するターン部と、を備え、
前記ターン部は、延伸方向の長さの相違する長ピッチターン部と短ピッチターン部とを備え、
前記両ピッチターン部は、前記固定子コアの端面から最も離間する位置に頭頂部が形成され、
前記周方向に隣接する同相の両ピッチターン部の頭頂部を除く部分は、前記固定子コアの軸方向に沿って重なっている一方、
前記周方向に隣接する同相の両ピッチターン部の頭頂部は、前記固定子コアの径方向に位置ずれしていることを特徴する。
【0011】
(2)本発明の一態様において、
前記両ピッチターン部の頭頂部は、前記径方向の相反する方向に折曲されていることを特徴とする。
【0012】
(3)本発明の他の態様において、
前記各ピッチターン部の縦断面は、縦長の長方形状に形成され、
前記両頭頂部の上下面を構成する前記縦断面の短辺部が重なっていないことを特徴とする。
【0013】
(4)本発明のさらに他の態様において、
前記各頭頂部は、それぞれの前記ターン部の一箇所を前記端面から離間する方向に折曲することで形成されていることを特徴とする。
【0014】
(5)本発明のさらに他の態様において、
前記各ピッチターン部の頭頂部は、前記一箇所をそれぞれ径方向の反対側に折曲して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回転機の固定子コアに巻装される固定子巻線の損傷および放熱性悪化を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る回転機の巻線構造を説明する。本実施形態の巻線構造は、主に平角線を用いた分布巻きの回転機の巻線形状に関する。まず、
図1に基づき本実施形態の巻線構造の適用可能な回転機の一例を説明する。
【0018】
この回転機1は、車両などに搭載されて電動機や発電機として使用され、有底筒状のハウジング部材10a,10bの開口部同士を接合させたハウジング10と、ハウジング10に軸受11を介して回転自在に支承されて複数の磁極を有する回転軸13と、回転軸13に固定された回転子(ロータ)14と、回転子14に対向配置されてハウジング10に固定された固定子20とを備えている。
【0019】
固定子20は、
図2および
図3に示すように、円筒状に形成された固定子コア(固定子鉄心)30と、固定子コア30の周方向Rに配列された複数のスロット31と、スロット31に巻装されてそれぞれ電気的位相の異なる三相(U相・V相・W相)の相巻線からなる固定子巻線40とを備えている。
【0020】
固定子コア30は、円環状の複数の電磁鋼板を軸方向(
図2中のL方向)に積層して一体形成されている。この固定子コア30は、円環状のバックコア33と、バックコア33から径方向(同W方向)の内方に突出して周方向(同R方向)に所定距離を隔てて配列された複数のティース34を備え、隣接するティース34間にスロット31が形成されている。このスロット31の個数は、回転子14の磁極数(8磁極)に対し、固定子巻線40の一相あたり2個の割合で形成され、スロット倍数が「2」に設定されている。すなわち、「8×3×2=48」となり、スロット数は48個となされ、48個のスロット31が周方向Rに順番に繰り返し2個づつ配置されている。ここではU相のスロットをU1,U2と呼び、V相のスロットをV1,V2と呼び、W相のスロットをW1,W2と呼ぶ。
【0021】
≪構成例≫
つぎに前記巻線構造の適用された固定子巻線40について説明する。この固定子巻線40を構成する相巻線は、スロット31に挿入収容されるスロット収容部61C(
図3参照)と、周方向Rに配置された異なるスロット31に挿入収容されたスロット収容部61C同士をスロット31外部で接続するターン部62A,62B(
図2参照)とを備えている。この固定子巻線40は、複数の略U字形状(略ヘアピン形状)に形成された大小の導体セグメント60を固定子コア30の軸方向Lの一端側からそれぞれスロット31に挿入し、同他端側に延出した一対の開放端部を互いに反対側に捻った後、該開放端部同士を溶接などの手段で接合することで所定のパターンで電気的に接続されている。
【0022】
ここでは基本となる大小の導体セグメント60として、
図4に示す導体セグメント60A,60Bが採用されている。この導体セグメント60A,60Bは、二層構造の絶縁被膜が施された角線からなり、
図5に示すように、縦断面が縦長長方形状に形成され、縦長長方形状の導体68と、導体68の外面を被覆する絶縁被膜69とを備えている。この絶縁被膜69は、内層69aおよび外層69bの二重絶縁被膜となっている。
【0023】
また、導体セグメント60A,60Bは、
図4(a)(b)に示すように、それぞれ互いに平行な一対の直線部61A,61Bと、それぞれ直線部61A,61Bの一端同士を連結する前述のターン部62A,62Bとを備え、スロット31に挿入収容された直線部61A,61Bによりスロット収容部61Cが構成されている。この導体セグメント60Aと導体セグメント60Bとは、ターン部62A,62Bの延伸方向長さが相違している。
【0024】
例えば導体セグメント60Aのターン部62Aは7スロットピッチの長さに形成され、導体セグメント60Bのターン部62Bは5スロットピッチの長さに形成されている。この導体セグメント60Aのターン部62を「長ピッチターン部62A」と呼び、導体セグメント60Bのターン部62を「短ピッチターン部62B」と呼ぶことができる。
【0025】
両ピッチターン部62A,62Bは、共に各直線部61A,61Bのそれぞれの一端に折曲された立ち上がり部66A,66Bから昇り勾配に形成された斜行部65A,65Bと、それぞれの斜行部65A,65B間の一箇所を上方向(固定子コア30の軸方向Lの端面30aから離間する方向)に折曲形成した頭頂部63A,63Bとを備えている。
【0026】
この頭頂部63A,63Bは、固定子コア30の径方向Wの相反する方向に折曲されている。すなわち、頭頂部63Aが
図4(c)中のP方向に折曲されている一方、頭頂部63Bが同Q方向に折曲され、固定子コア30の軸方向Lに沿って重なり合わないようなっている。
【0027】
≪挿入収容方法≫
以下、導体セグメント60A,60Bのスロット31への挿入収容方法を説明する。
図3中のU1,U2は、三相の相巻線中のU相巻線が収容されるU相スロットを示し、導体セグメント60Aは一方の直線部61AがU相スロットU1の内周側の1層目に挿入され、他方の直線部61AがU相スロットU1から周方向Rに7スロットピッチ離れたU相スロットU2の内周側から2層目に挿入される。
【0028】
また、導体セグメント60Bは、一方の直線部61BがU相スロットU2の内周側の1層目に挿入され、他方の直線部61BがU相スロットU2から周方向Rに5スロットピッチ離れたU相スロットU1の内周側から2層目に挿入される。
【0029】
この作業をV相スロットV1,V2およびW相スロットW1,W2にも同様に行う。すなわち、導体セグメント60A,60Bは、周方向Rに隣接して2個ずつ繰り返し配置されたV相スロットV1,V2およびW相スロットW1,W2の1層目と2層目とに順番に挿入される。このとき導体セグメント60A,60Bは、各相スロットU,V,Wの1層目・2層目に周方向Rに1周するように挿入される。
【0030】
その後、導体セグメント60A,60Bは、U相スロットU1,U2・V相スロットV1,V2・W相スロットW1,W2の3層目と4層目について同様に周方向Rに1周するように挿入される。この作業は、U相スロットU1,U2・V相スロットV1,V2・W相スロットW1,W2の5層目と6層目にも行われ、これにより全相スロットU,V,W内に合計6本の直線部61A,61Bが径方向Wに1列に整列した状態で収容される。
【0031】
そして、各スロット31から固定子コア30の他端側に延出した一対の直線部61A,61Bの開放端部を、他端部側の端面30bに対して斜行するように互いに周方向R反対側に捻ることで略半磁極ピッチ分の長さの捻り部(図示省略)が形成され、該捻り部の先端同士を溶接などで溶接して所定パターンで電気的に接続される。
【0032】
すなわち、導体セグメント60群が直列に接続され、スロット31の内周側から「N(N=1以上の自然数)」層目に収容されたスロット収容部61Cと、他のスロット31の内周側から「N+1」層目に収容されたスロット収容部61同士が電気的に接続される。
【0033】
これにより
図6に示すように、固定子コア30のスロット31に沿って周方向Rに波巻きに巻装された3本の相巻線41U,41V,41Wを備えた固定子巻線40が形成される。このとき各層の1周目と2周目・3周目と4週目・5周目と6周目などは図示省略の異形セグメントにより接続される。したがって、それぞれ4本の並列巻線U1〜U4,V1〜V4,W1〜W4が並列接続された相巻線41U,41V,41Wの巻線端を星型に結線された固定子巻線40が形成される。
【0034】
このような作業の結果、固定子コア30に巻装された固定子巻線40の軸方向Lの一端部側では、端面30aからスロット31の外部に複数のターン部62A,62Bが突出し、リング状のコイルエンド45(
図1および
図2参照)が形成される。また、固定子巻線40の軸方向Lの他端部側では、端面30bからスロット31の外部に複数の前記捻り部および端末接合部が突出し、リング状のコイルエンド46が形成される。
【0035】
このときコイルエンド45の周方向Rに隣接する同相の相巻線のターン部62A,62Bについてみれば、固定子コア31の周方向R全域で長ピッチターン部62Aの内周側に短ピッチターン部62Bが配置され、斜行部65A,65B同士が前記軸方向Lに沿って二段に重なり、斜行部65Bが斜行部65Aの下側に隠蔽される。
【0036】
ただし、頭頂部63A,63B同士は、固定子コア30の径方向の相反するP,Q方向に折曲されているため、同軸方向Lに沿って重ならない。したがって、
図4(c)に示すように、頭頂部63Aの下側に頭頂部63Bが隠れることがなく、両頭頂部63A,63Bが位置ずれした状態で現れる。これによりU相巻線41U,V相巻線41V,W相巻線41Wのそれぞれの頭頂部63A,63B同士の衝突が回避される。このような本実施形態の巻線構造によれば、次の効果が得られる。
【0037】
(1)すなわち、スロット挿入時に導体セグメント60A,60Bは、軸方向Lに沿って二段に重ねた状態で頭頂部63Aが押圧される。このとき頭頂部63A,63Bは、径方向の相反するP,Q方向に折曲されているため、両頭頂部63A,63Bが位置ずれした状態となる。
【0038】
したがって、
図4(d)に示すように、頭頂部63Aの絶縁被膜69の下面63aと頭頂部63Bの絶縁被膜69の上面63bとが重なることがなく、該両面63a,63bが離間する。
【0039】
その結果、スロット挿入時に頭頂部63Aが押圧されても、頭頂部63Aの下面63aが頭頂部63Bの上面63bに衝突することが無く、頭頂部63A,63Bの絶縁被膜69の損傷が回避される。これにより固定子巻線40の損傷および絶縁被膜69の絶縁性悪化が防止され、この点で製品の歩留まりが向上し、生産性を高めることができる。
【0040】
(2)特許文献1の巻線構造によれば、ターン部52A,52Bの二カ所を上方に折曲することで頭頂部53A,53Bが形成されている。これに対して本実施形態の巻線構造は、ターン部62A,62Bの一箇所を上方に折曲することで頭頂部53A,53Bが形成されている。
【0041】
この構成によれば、頭頂部63A,63Bの折曲角度が特許文献1の頭頂部53A,53Bと比較して鋭角的となり、折曲時に絶縁被膜69が大きく伸ばされるおそれがある。
【0042】
この状況下、スロット挿入時に頭頂部63Bが頭頂部63Aに押圧されると絶縁被膜69に損傷が生じやすく、絶縁被膜69保護の必要性が特に高い。この点につき、本実施形態の巻線構造は、前述のように頭頂部63A,63B間の当たりを回避し、絶縁被膜69の損傷回避を図っている。
【0043】
(3)前述のように頭頂部63A,63B同士は、軸方向Lに沿って重なることがなく、位置ずれが生じている。これにより空気中と接触する固定子巻線40の表面積が増加して放熱性が向上する。この点で回転機1の効率性の向上に貢献できる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。例えばターン部52A,52Bの二カ所を折曲して頭頂部63A,63Bを構成してもよい。この場合にも頭頂部63A,63Bを径方向の相反するP,Q方向に折曲すれば、同軸方向Lに沿って重なることが無く、絶縁被膜69保護および放熱性向上の効果を得られる。
【解決手段】回転機の固定子巻線は三相の相巻線を備える。この相巻線は、導体を絶縁被膜で被覆して構成され、スロットに収容されるスロット収容部と、周方向の異なるスロットに収容されたスロット収容部同士をそれぞれ外部で接続するターン部62A,ターン部62Bとを備えている。ターン部62A,62Bは、固定子コアの端面から最離間の位置に頭頂部63A,63Bが形成され、その両サイドに斜行部65A,65Bが形成されている。周方向に隣接する同相のターン部62A,62Bは、斜行部65A,65Bが軸方向に沿って重なっている一方、頭頂部63A,63Bが径方向に位置ずれしている。