(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本開示のラジアルフォイル軸受を詳しく説明する。
【0017】
図1は、本開示のラジアルフォイル軸受が適用されるターボ機械の一例を示す側面図である。
図1中、符号1は回転軸、符号2は回転軸の軸方向の一方側の先端に設けられたインペラ、符号3は本開示に係るラジアルフォイル軸受である。なお、
図1では省略してラジアルフォイル軸受を一つしか記載していないが、通常は回転軸1の軸方向にラジアルフォイル軸受が二つ設けられている。したがって、本実施形態においてもラジアルフォイル軸受3が二つ設けられている。
【0018】
回転軸1には、ラジアルフォイル軸受3が取り囲むように設けられている。すなわち、回転軸1は、ラジアルフォイル軸受3に挿通されている。回転軸1のインペラ2とラジアルフォイル軸受3との間には、スラストカラー4が設けられている。このスラストカラー4の軸方向両側には、スラスト軸受5が配置(挿通)されている。インペラ2は、静止側となるハウジング6内に配置されており、ハウジング6との間にチップクリアランス7が設けられている。
【0019】
図2は、本開示のラジアルフォイル軸受3を示す正面図である。
図3は、本開示のラジアルフォイル軸受3に蓋体50を取り付けた状態を示す正面図である。
ラジアルフォイル軸受3は、回転軸1を取り囲むように設けられて、該回転軸1を支持する軸受である。ラジアルフォイル軸受3は、トップフォイル9と、中間フォイル10と、バックフォイル11と、軸受ハウジング12(ハウジング)と、を備える。軸受ハウジング12は、回転軸1が挿通される挿通孔12aを有する。なお、本開示の挿通孔12aが形成された軸受ハウジング12は、円筒状となっている。
【0020】
なお、以下の説明においては、挿通孔12aを基準に各部材の位置関係を説明することがある。具体的に、「軸方向」とは、挿通孔12aが延びる方向(回転軸1が挿通される方向)を言う。また、「径方向」とは、挿通孔12aの径方向(すなわち挿通孔12aの中心軸(
図2及び3の符号O参照)に直交する方向)を言う。また、「周方向」とは、挿通孔12aの内周面に沿った周方向(すなわち挿通孔12aの中心軸周りの方向)を言う。
【0021】
軸受ハウジング12は、径方向におけるラジアルフォイル軸受3の最外部を構成する円筒状の部材である。軸受ハウジング12の挿通孔12aには、バックフォイル11、中間フォイル10、トップフォイル9が収容されている。具体的に、バックフォイル11は挿通孔12aの内周面に支持され、中間フォイル10はバックフォイル11に支持され、トップフォイル9は中間フォイル10に支持されている。なお、本開示の軸受ハウジング12は、挿通孔12aを備える円筒状の部材である。しかし、挿通孔12aを有すれば、軸受ハウジング12は、円筒状以外の部材(例えば角柱状の部材)であってもよい。
【0022】
図4は、本開示のトップフォイル9を展開した模式図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
トップフォイル9は、
図4(a)に示すように、周方向を長辺とし、軸方向を短辺とする略矩形状の金属箔である。このトップフォイル9は、
図2に示すように、円筒状に巻かれて、回転軸1の外周面に対向して配置されている。
【0023】
トップフォイル9の長辺方向における一方の短辺には、
図4(a)に示すように、長辺方向の一方側に突出する一つの凸部21aと、凸部21aの短辺方向両側に形成された二つの凹部22aとを有してなる第1の凹凸部23aが形成されている。すなわち、トップフォイル9の長辺方向における一方の短辺は、長辺方向に突出する一つの凸部21aと、凸部21aの短辺方向両側に延接する段差とを備える。
【0024】
また、トップフォイル9の当該一方の短辺と反対の他方の短辺(長辺方向における他方側に位置する短辺)には、短辺方向において離隔する二つの凸部21bと、当該二つの凸部21bの間に位置する一つの凹部22bと、を有してなる第2の凹凸部23bが形成されている。あるいは、トップフォイル9の長辺方向の他方側に位置する短辺には、長辺方向の上記一方側に窪む凹部22bと、凹部22bの短辺方向両側に位置する段差とを備える。
【0025】
第2の凹凸部23bの凹部22bは、第1の凹凸部23aの凸部21aに対応して形成されている。また、第1の凹凸部23aの凹部22aは、第2の凹凸部23bの凸部21bに対応して形成されている。つまり、凹部22bの短辺方向の間隔の最小値が、凸部21aの短辺方向の幅の最大値より大きい。本開示の凹部22bの長辺方向の間隔(窪み深さ)と、凸部21aの長辺方向の間隔(長さ)は、長辺方向において一定である。
【0026】
第2の凹凸部23bの凹部22bは、第1の凹凸部23aと第2の凹凸部23bとが重なるようにトップフォイル9を円筒状に巻いた際、凹部22b内を凸部21aが通り抜けるように形成されている。同様に、第1の凹凸部23aの凹部22aは、トップフォイル9を円筒状に巻いた際、該凹部22a内を凸部21bがそれぞれ通り抜けるように形成されている。
【0027】
凹部22b、22aを通り抜けた凸部21a、21bは、
図2に示すように、それぞれ軸受ハウジング12側(径方向外側)に引き出される。すなわち、挿通孔12aの内周側(すなわち径方向内側)に配されたトップフォイル9を軸方向から見ると、凸部21aと凸部21bが交差している。また、トップフォイル9の凸部21aは、軸方向において、2つの凸部21bの間に位置する。軸受ハウジング12側には、挿通孔12aの内周面に、軸方向の一方の端面12bから他方の端面12bに連続する第1溝13が形成されている。
【0028】
図5は、本開示の軸受ハウジング12の第1溝13における要部の模式図であって、(a)は分解斜視図、(b)は平面図、(c)は断面図である。
軸受ハウジング12には、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、第1溝13の両端部に連通する第2溝14がそれぞれ形成されている。第2溝14は、軸受ハウジング12の軸方向における両端面12bにそれぞれ形成されており、軸受ハウジング12の内周縁から径方向外側に向かって延伸している。
【0029】
第1溝13には、周方向において互いに対向する内面のそれぞれに第3溝15が形成されている。第3溝15は、第1溝13の全長に亘って形成されている。第3溝15の断面形状は、U字状(半円弧状)である。第3溝15は、第1溝13の径方向における開口端、すなわち、軸受ハウジング12の内周面(挿通孔12a)よりも深い位置(径方向外側)に形成されている。この第3溝15には、
図2に示すように、凹部22b、22aを通り抜けた凸部21a、21bが挿入される。
【0030】
第1溝13及び第2溝14には、
図5(a)に示すように、嵌挿具16が嵌め込まれている。嵌挿具16は、
図5(a)〜
図5(c)に示すように、第1溝13に収容される棒状(四角柱状)の基部17と、基部17に形成されて第2溝14に係合する一対の折曲片18と、基部17に形成されて折曲片18と径方向における反対の側に突出する二つの隔壁片19と、を有する。
【0031】
基部17は、その上面(隔壁片19側の面)が第1溝13の開口よりも僅かに沈み込んだ状態(径方向外側に位置する状態)で第1溝13に収容される。折曲片18は、軸方向において第2溝14の底面に当接している。また、折曲片18は、径方向において軸受ハウジング12の外周面から突出していない。折曲片18は、軸方向両側において軸受ハウジング12と当接することで、嵌挿具16の軸方向における移動を抑制する。
【0032】
隔壁片19は、
図5(b)、(c)に示すように、基部17を、軸方向においてほぼ三等分する二つの位置にそれぞれ形成されている。隔壁片19は、
図5(c)に示すように、第1溝13の開口位置と同じ高さ、若しくは、第1溝13の開口位置よりも少し突出する程度の高さを有する。隔壁片19は、基部17の上面を略三分割することで、軸方向において三つの係合溝20を形成している。
【0033】
凹部22b、22aを通り抜けた凸部21a、21bは、それぞれ三つの係合溝20に係合する。さらに、その先端部が、
図2に示すように、第3溝15に挿入される。凸部21a、21bが、第3溝15に挿入されることで、周方向におけるトップフォイル9の移動(回転)が抑制される。つまり、トップフォイル9の周方向の両端は、軸受ハウジング12若しくは軸受ハウジング12に取り付けられた部材と当接する。その結果、トップフォイル9の周方向の両端には、抗力が作用する。
【0034】
また、トップフォイル9は、周方向の両端に向かうにつれ、軸受ハウジング12の挿通孔12aに楔状(円筒状に巻かれたトップフォイル9の接線方向に沿う傾斜状)に近づいている。言い換えれば、トップフォイル9の周方向の両端に向かうにつれ、トップフォイル9と、挿通孔12aの内周面との間隔は次第に狭くなっている。同様に、トップフォイル9は、周方向の両端に向かうにつれ、後述の中間フォイル10に楔状に近づいている。言い換えれば、トップフォイル9の周方向の両端に向かうにつれ、トップフォイル9と中間フォイル10との間隔は次第に狭くなっている。また、凸部21a、21bが、係合溝20に係合することで、軸方向におけるトップフォイル9の移動が抑制される。
【0035】
本実施形態では上述した第1の凹凸部23a及び第2の凹凸部23bがトップフォイル9に設けられているが、本開示はこの構成に限定されない。トップフォイルの周方向両端に第1の凹凸部と第2の凹凸部が設けられ、第1の凹凸部が凸部と凹部を少なくとも1つずつ備え、第2の凹凸部が凸部と凹部を少なくとも1つずつ備え、第1の凹凸部と第2の凹凸部とが重なるようにトップフォイルを円筒状に巻いた状態で、第1の凹凸部の凸部が第2の凹凸部の凹部を通過し、第2の凹凸部の凸部が第1の凹凸部の凹部を通過していてもよい。この場合、第1溝13や嵌挿具16の構造は、第1の凹凸部や第2の凹凸部が備える凸部及び凹部の数に合わせて適宜変更すればよい。また、第1の凹凸部や第2の凹凸部が備える凸部及び凹部の数を、本実施形態における数より増やしてもよい。例えば、第1の凹凸部が2つの凸部と3つの凹部を備え、第2の凹凸部が3つの凸部と2つの凹部を備えてもよい。
【0036】
本実施形態の第1溝13には2つの第3溝15が設けられているが、本開示はこの構成に限定されず、他の構成を用いてもよい。例えば、第3溝15に代えて、トップフォイルの周方向両端を係止するための突出片が、第1溝13の開口端に設けられてもよい。
【0037】
図4(b)に戻り、トップフォイル9は、第1の凹凸部23aを形成した側(一方の短辺側)と第2の凹凸部23bを形成した側(他方の短辺側)とに、これらの間の中央部に比べて薄厚(薄肉)な薄肉部24が形成されている。これら薄肉部24は、
図2に示すように、その外周面(軸受ハウジング12側の面)が中央部の外周面より凹み、薄肉となっている。薄肉部24の周方向の長さLは、
図2に示すように、第1溝13と、バックフォイル11の端部の山部11cの一つ分までに対応する長さとされている。本開示においては、軸受ハウジング12に配されたトップフォイル9は、外周面側に段差を備え、当該段差を介し薄肉となる。また、薄肉部24は、トップフォイル9の周方向の両端から最も近い山部11cを越える周方向位置まで延在している。
【0038】
図2に示すように、軸受ハウジング12の軸方向の両端面12bには、挿通孔12aの内周縁(内周面)から径方向外側に向かって延伸する一対の係合溝25が複数対形成されている。つまり、軸受ハウジング12の軸方向における端面12bは、軸受ハウジング12の内周面まで延在する凹部を備える。本開示の係合溝25は、軸受ハウジング12の端面12bを、周方向にほぼ3分割する位置に、それぞれ形成されている。そして、これら係合溝25には、後述する係合部材30(係合ピン)が係合している。なお、本実施形態では、3対の係合溝25のうちの2対の係合溝25の間に、第1溝13が配置されている。また、係合溝25の一対は、径方向において第1溝13と対向している。
【0039】
本実施形態の係合溝25は、挿通孔12aの内周縁(内周面)から軸受ハウジング12の外周縁(外周面)に亘って形成されているが、本開示はこれに限定されない。例えば、係合溝が、挿通孔12aの内周縁(内周面)から、軸受ハウジング12を構成する板部材の厚さ方向(径方向)における中間位置まで形成されていてもよい。すなわち、係合溝が軸受ハウジング12の外周縁に到達していなくともよい。
【0040】
バックフォイル11は、軸受ハウジング12の挿通孔12aの内周面に配置されている。バックフォイル11は、中間フォイル10及びトップフォイル9を弾性的に支持するフォイル(薄板)である。このようなバックフォイル11としては、例えばバンプフォイルや、特開2006−57652号公報や特開2004−270904号公報などに記載されているスプリングフォイル、特開2009−299748号公報などに記載されているバックフォイルなどが用いられる。本実施形態では、バックフォイル11としてバンプフォイルを用いている。
【0041】
本開示のバックフォイル11は、挿通孔12aの内周面に沿って配置された3つ(複数)のバックフォイル片11aによって構成されている。バックフォイル片11aは、フォイル(薄板)が周方向に波板状になっている。3つのバックフォイル片11aは、軸方向から見たとき、全体として略円筒状になるよう湾曲している。つまり、バックフォイル片11aは、挿通孔12aの内周面に支持される。本開示では、バックフォイル片11aの3つが全て同じ形状・寸法に形成されている。したがって、これらバックフォイル片11aは、挿通孔12aの内周面を周方向において略3分割して配置されている。
【0042】
バックフォイル片11aは、径方向内側に突出する山部11cと、山部11cから見て径方向外側に突出する谷部11bと、が周方向において交互に形成されている。谷部11bは、軸受ハウジング12と対向する平坦部を有し、この平坦部は、挿通孔12aの内周面に当接可能である。また、山部11cは、中間フォイル10(中間フォイル片10a)に当接可能である。このように、バックフォイル片11aは、山部11cにより、中間フォイル片10aを介してトップフォイル9を弾性的に支持している。なお、バックフォイル片11aの周方向両端は、いずれも谷部11bとなっている。
【0043】
図6は、本開示のラジアルフォイル軸受3の要部を拡大した斜視図である。
図7は、本開示のラジアルフォイル軸受3の要部を平坦化した模式図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
バックフォイル片11aは、
図6及び
図7(a)に示すように、軸方向の両端縁に切欠26をそれぞれ備える。これらの切欠26は、バックフォイル片11aの谷部11bに形成されている。
【0044】
切欠26は、バックフォイル片11aの周方向両端の間の周方向位置(本開示では周方向におけるバックフォイル片11aの中央位置)に形成されている。すなわち、バックフォイル片11aには、軸方向の両端縁の当該周方向位置において、軸方向に凹みが存在する。この切欠26は、
図6に示すように、軸受ハウジング12の係合溝25に対応する位置、すなわち係合溝25と重なる位置に配置されている。言い換えれば、切欠26は、軸方向及び周方向において係合溝25と同等の位置に配置されている。また、切欠26の幅(周方向の幅)は、係合溝25の幅(周方向の幅)より小さく形成されている。つまり、切欠26の周方向両端は、係合溝25の周方向両端の間の周方向位置に位置する。
【0045】
図2に戻り、中間フォイル10は、トップフォイル9とバックフォイル11との間に配置されている。中間フォイル10は、本開示では、挿通孔12aの内周面に沿って配置された3つの中間フォイル片10aによって構成されている。中間フォイル片10aは、
図7(a)に示すように、展開形状が略矩形状に形成されている。3つの中間フォイル片10aは、軸方向から見たとき、
図2に示すように、全体として略円筒状になるよう湾曲している。本開示では、中間フォイル片10aの3つが全て同じ形状・寸法に形成されている。したがって、これら中間フォイル片10aは、挿通孔12aの内周面を周方向において略3分割して配置されている。
【0046】
中間フォイル片10aの外形は、
図7(a)に示すように、バックフォイル片11aの外形と略等しい大きさを有する。この中間フォイル片10aは、
図7(b)に示すように、バックフォイル11の山部11cの頂部に接する平面部10bと、平面部10bによりも径方向外側に窪む(突出する)凹部10cと、を有する。すなわち、この凹部10cは、トップフォイル9から離隔している。凹部10cは、
図7(a)に示すように、中間フォイル片10aの周方向両端の間の周方向位置(本開示では周方向における中間フォイル片10aの中央位置)に形成されている。
【0047】
本開示の凹部10cは、平面部10bよりも径方向外側に位置し周方向に沿って平坦な底部と、当該底部の周方向両端に位置し平面部10bに向かって径方向内側に延伸するテーパ部と、を有する。一対のテーパ部の間隔は、径方向外側から内側に向かうに従い拡大している。
図6に示すように、周方向における凹部10cの底部の幅は、周方向におけるバックフォイル片11aの谷部11bの平坦部の幅より長くなっている。なお、山部11cと谷部11bがともに一つのピークを持って周期的に形成される場合は、本開示における谷部11bの周方向の幅は、山部11cのピークと谷部11bのピークの径方向位置の中間の径方向位置における、バックフォイル片11aの山部11cと谷部11bの周方向間隔のうち小さい方の間隔であるとする。
【0048】
中間フォイル片10aの厚みは、バックフォイル片11aよりも薄い。中間フォイル10の剛性は、バックフォイル11の剛性の半分以下である。中間フォイル片10aは、
図6に示すように、軸方向の両端縁に切欠27(第2の切欠)をそれぞれ備える。これらの切欠27は、中間フォイル片10aの凹部10cに形成されている。切欠27は、中間フォイル片10aの周方向両端の間の周方向位置(本開示では周方向における中間フォイル片10aの中央位置)に形成されている。すなわち、中間フォイル片10aには、軸方向の両端縁の当該周方向位置において、軸方向の凹みが存在する。
【0049】
本開示の切欠27は、平面部10bと平面部10bとの間に形成された凹部10cの底部の一部が、軸方向における中間フォイル片10aの中央部に向かって切り欠かれて形成されている。切欠27は、軸受ハウジング12の係合溝25及びバックフォイル片11aの切欠26に対応する位置、すなわち係合溝25及び切欠26と周方向に重なる位置に形成されている。言い換えれば、切欠27は、軸方向及び周方向において係合溝25及び切欠26と同等の位置に配置されている。切欠27の幅(周方向の幅)は、係合溝25の幅(周方向の幅)よりも小さく、切欠26の幅(周方向の幅)と同じに形成されている。これら係合溝25と切欠26と切欠27には、係合部材30が係合している。
【0050】
図8は、本開示の係合部材30を拡大した正面図である。
係合部材30は、
図8に示すように、軸受ハウジング12に取り付けられ、切欠26及び切欠27を通り、該切欠27を通った中間フォイル10(中間フォイル片10a)の内周側(径方向内側)において、周方向における切欠27の形成範囲W外まで延伸している。本開示の切欠27は、周方向においてバックフォイル11(バックフォイル片11a)の切欠26と同じ形成範囲Wを有するため、係合部材30は、周方向における切欠26の形成範囲W外まで延伸していると言える。なお、本開示の係合部材30は、一つの板状の部材で構成される。
【0051】
言い換えれば、係合部材30は、切欠26及び切欠27を通った状態で軸受ハウジング12に取り付けられ、中間フォイル10(中間フォイル片10a)の内周側(径方向内側)において、挿通孔12aの周方向における切欠27の形成範囲W外まで延伸している。
なお、本実施形態の係合部材30は、バックフォイル11及び中間フォイル10のいずれとも異なる部材である。
また、本実施形態の係合部材30は、一体的に形成された部材である。つまり、係合部材30は、係合溝25の周方向一方側の面と対面する第1部位と、係合溝25の周方向他方側の面と対面する第2部位と、前記第1部位及び前記第2部位とを接続する第3部位とを備える。また、本実施形態の係合部材30は、くびれ部を備える。つまり、係合部材30には、径方向内周側から径方向外周側に向かうに従い、係合部材30の周方向幅が縮小する部位と拡大する部位とが形成されており、これらの部位によって前記くびれ部が形成されている。本実施形態において、切欠26及び切欠27は、径方向において係合部材30の前記くびれ部に相当する位置に配置されている。
【0052】
係合部材30は、軸受ハウジング12の係合溝25に係合する係合部31と、切欠26及び切欠27を挿通(あるいは嵌挿)する挿通部32と、中間フォイル10(バックフォイル11)の内周側に対向する返し部33と、を備える。係合部31は、係合溝25の周方向両端の内面25aにそれぞれ当接している。係合溝25の内面25aは、周方向において間隔をあけて対向し、且つ径方向に平行に延伸している。係合部31は、係合溝25の内面25aのそれぞれに、径方向において所定幅で接触する矩形枠状に形成されている。また、係合部31の周方向の一方側で内面25aと対向する部分と、係合部31の周方向の他方側で内面25aと対向する部分との間には、周方向に空隙となる領域が存在する。また、係合部31は、内面25aからR(湾曲形状)をつける等して滑らかに離隔している。すなわち、係合部31の矩形枠の角部は、湾曲形状となっている。
【0053】
挿通部32は、矩形枠状の係合部31の上部から径方向内側に向かって平行に延伸している。挿通部32は、係合部31から2つ形成されており、互いに離隔している。また、挿通部32と係合部31は、R(湾曲形状)をつける等して滑らかにつながっている。また、挿通部32は、軸方向において中間フォイル片10a及びバックフォイル片11aと当接する。返し部33は、径方向内側に向かって平行に延伸した挿通部32の先端部から、周方向において互いに相反する方向に曲げられて形成されている。つまり、係合部材30は、周方向において相反する方向に延伸する一対の返し部33を備える。一対の返し部33は、中間フォイル10の凹部10cに収容され、凹部10cの開口位置(上端、径方向内側端部)よりも径方向外側に位置している。
【0054】
言い換えれば、本開示の係合部材は、軸受ハウジング12に取り付けられた係合部と、この係合部に接続されると共に切欠26及び切欠27を通過して配置される挿通部と、この挿通部に接続されると共に周方向の少なくとも一方側に突出して切欠27の形成範囲W外まで延伸している返し部と、から構成されてもよい。
【0055】
本開示の係合部材30は、中間フォイル10(バックフォイル11)の内周側(周方向内側の面)において、切欠27(切欠26)の形成範囲Wよりも広い範囲に亘って延伸している。具体的には、一対の返し部33の相反する方向に延伸する両端部間の幅をW1とすると、W1>Wの関係を有する。なお、挿通部32の幅(周方向の幅)をW2とすると、W1>W>W2の関係を有する。また、係合部31の幅(周方向の幅)をW3とすると、W3>W1>W>W2の関係を有する。なお、W3はW1より小さくてもよい。また、W1は、バックフォイル11の谷部11bより広い範囲に亘って延伸している。また、係合部材30は、平面部10bより径方向内側に突出していない。また、係合部材30の板状の部材の厚みをTとして、W1−W2+2T>W2が成り立っている。
【0056】
係合部材30は、蓄勢状態で係合溝25の内面25aに当接している。本開示の係合部材30は、一枚の板バネ(弾性部材)を略C形(瓶形)に折り曲げて形成されている。係合部材30の係合部31は、周方向において僅かに縮められた状態で、係合溝25に係合している。これによって、係合部31には、周方向に開こうとするスプリングバックが作用している。これにより、係合部31と係合溝25の内面25aとの間に摩擦力が発現し、係合部材30が軸受ハウジング12に保持されている。なお、本開示の「蓄勢状態」とは、弾性圧縮状態を意味している。
【0057】
図3に戻り、軸受ハウジング12の軸方向の両端面12bには、蓋体50がそれぞれ取り付けられている。蓋体50は、係合部材30の係合部31を収容している係合溝25の少なくとも一部を覆っている。蓋体50は、係合部31の少なくとも一部と軸方向で対向している。本開示の蓋体50は、軸受ハウジング12の周方向に沿う円環板状に形成されている。蓋体50の内周縁の径は、軸受ハウジング12の内周縁の径よりも大きく、蓋体50の外周縁の径は、軸受ハウジング12の外周縁の径よりも小さい。
【0058】
蓋体50は、係合溝25の近傍において軸受ハウジング12に形成されたネジ孔52(
図2参照)にネジ51によってネジ止めされている。本開示の蓋体50は、軸受ハウジング12の端面12bを、その周方向にほぼ3分割する位置に、それぞれネジ止めされている。上記構成によれば、軸受ハウジング12の端面12bに、係合部材30を収容している係合溝25を覆う蓋体50が取り付けられているため、係合部材30が軸受ハウジング12から軸方向に外れるのを抑制することができる。なお、蓋体50の軸受ハウジング12への取付方法は特に限定されない。
【0059】
次に、このような構成からなるラジアルフォイル軸受3の作用について説明する。
回転軸1が停止した状態では、トップフォイル9はバックフォイル11(3つのバックフォイル片11a)によって中間ファイル10(3つの中間フォイル片10a)を介して回転軸1側に付勢されることで回転軸1に密着している。なお、本実施形態では、トップフォイル9の両端部が薄肉部24となっているので、これら薄肉部24では回転軸1を締め付ける力(局所的なプリロード)、薄肉部24がない場合と比べ緩和される。
【0060】
そして、回転軸1を
図2中の矢印P方向に始動させると、最初は低速で回転を始め、その後徐々に加速して高速で回転する。すると、
図2中矢印Qで示すように、トップフォイル9、中間フォイル10、バックフォイル11のそれぞれの一端側から周囲流体が引き入れられ、トップフォイル9と回転軸1との間に流入する。これにより、トップフォイル9と回転軸1との間に流体潤滑膜が形成される。
【0061】
この流体潤滑膜の膜圧は、トップフォイル9に作用し、該トップフォイル9に接する中間フォイル10を介してバックフォイル片11aの個々の山部11cを押圧する。すると、バックフォイル片11aは中間フォイル10に押圧されることにより、その山部11cが押し広げられ、これによってバックフォイル片11aは軸受ハウジング12上をその周方向に動こうとする。すなわち、バックフォイル片11a(バックフォイル11)は、中間フォイル10を介してトップフォイル9を弾性的に支持するため、トップフォイル9から荷重を受けた際にはその周方向に変形することで、トップフォイル9や中間フォイル10の撓みを許容し、これを支持する。
【0062】
ここで、
図8に示すように、バックフォイル片11aには、軸方向の端縁に形成された切欠26に、係合部材30が挿通されている。係合部材30は、軸受ハウジング12の係合溝25に係合しており、この係合部材30が切欠26に挿通されることで、周方向におけるバックフォイル片11aの回転が抑制される。したがって、バックフォイル片11aの個々の山部11cは、係合部材30が係合している切欠26を挟み周方向に変形する(動く)。
【0063】
係合部材30の挿通部32は、バックフォイル片11aと当接しており、軸方向におけるバックフォイル片11aの移動も抑制している。さらに、係合部材30は、
図8に示すように、切欠26を通ったバックフォイル11の内周側において、挿通孔12aの周方向における切欠26の形成範囲W外まで延伸している。つまり、係合部材30には、切欠26を通ったバックフォイル11の内周側に返し部33が形成されており、これが径方向におけるバックフォイル片11aの抜け止めとなっている。よって、バックフォイル片11aの脱落が抑制される。
【0064】
中間フォイル片10aにもバックフォイル片11aと同様に、切欠27が形成され、係合部材30が挿通されている。このため、中間フォイル片10aも脱落が抑制される。中間フォイル片10aは、トップフォイル9からバックフォイル片11aへ荷重を伝える際、トップフォイル9およびバックフォイル片11aと共に撓むが、このとき中間フォイル片10aとトップフォイル9やバックフォイル片11aとの間で「滑り」が生じる。すなわち、回転軸1の軸振動により流体潤滑膜に圧力変動が生じると、トップフォイル9に圧力変動が伝達し、当該「滑り」が生じる。この「滑り」が摩擦によるエネルギー散逸を引き起こし、膜圧変動を減衰させるので、回転軸1の軸振動が抑制される。
【0065】
また、回転軸1の軸振動による変動荷重(負荷と除荷の繰り返し)がバックフォイル片11aに作用し、荷重が除荷側になったとき、バックフォイル片11aは、軸受ハウジング12の挿通孔12aの内周面から僅かに浮き上がる。このとき、係合部材30の返し部33が、バックフォイル片11a(中間フォイル片10a)に引っ掛かり、バックフォイル片11aと一緒に係合部材30が持ち上げられる。ここで、係合部材30は、軸受ハウジング12の係合溝25の内面25aに当接しているため、係合部材30と係合溝25の内面25aとの間で「滑り」が生じ、これが摩擦によるエネルギー散逸を引き起こし、減衰として寄与する。
【0066】
このように、上述の本実施形態によれば、挿通孔12aを有する軸受ハウジング12と、挿通孔12aの内周面に配置され、挿通孔12aが延びる軸方向における端縁に切欠26を備えるバックフォイル11と、軸受ハウジング12に取り付けられ、切欠26を通り、該切欠26を通ったバックフォイル11の内周側において、挿通孔12aの周方向における切欠26の形成範囲W外まで延伸している係合部材30と、を備える、という構成を採用することによって、バックフォイル11の軸受ハウジング12からの脱落を抑制することができる。
【0067】
以上、図面を参照しながら本開示の1つの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0068】
例えば、係合部材30として、
図9〜
図12に示すような変形例を採用し得る。なお、以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0069】
図9に示す係合部材30Aは、一枚の板バネを2つ折りにした後、その折り目側を巻いた構成を有している。この係合部材30Aは、外形が(挿通孔12aの軸方向視で)四角形に巻かれた係合部31aと、係合部31aの1つお角部から延伸する一対の挿通部32aと、一対の挿通部32aの先端部から相反する方向に曲げられた一対の返し部33aと、を備える。本変形例では、係合部材30Aの、係合溝25の周方向一方側の内面25aに当接する部位と、周方向他方側の内面25aに当接する部位との間に、周方向に空隙となる領域が存在する。また、当該部位の径方向外側は連結されており、径方向内側は離隔している。つまり、軸方向に直交する断面において、空隙となる領域の径方向内側が解放されている。また、上記2つ折りの折り曲げられた先端側は、曲げられ、径方向内側に向かい挿通部32aに近接する。この構成によれば、係合部31aが二重に巻かれているため、上記実施形態よりも係合溝25の内面25aに対するスプリングバックを大きくすることができる。すなわち、弾性圧縮状態で係合溝25に配置された係合部31aの、係合溝25の内面に対する付勢力を、上記実施形態よりも向上させることが可能である。
【0070】
図10に示す係合部材30Bは、一枚の板バネを2つ折りにしないで形成した構成を有している。この係合部材30Bは、板を四角形(またはコ字状)に折り曲げた係合部31bと、板同士の周方向の重なりを持たない挿通部32bと、挿通部32bの先端部から周方向外側に曲げられた返し部33bと、を備える。つまり、本変形例の係合部材30Bにおいても、係合溝25の周方向一方側の内面25a当接する部位と、周方向他方側の内面25aに当接する部位との間に、周方向に空隙となる領域が存在する。また、当該部位の径方向外側は連結されており、径方向内側は離隔している。つまり、軸方向に直交する断面において、空隙となる領域の径方向内側が解放されている。また、返し部33bは、挿通部32bの径方向内側位置から、挿通部32bの径方外側から内側に延伸する方向に対し、鈍角をなす方向に延伸している。この構成によれば、返し部33が一つになる。
【0071】
すなわち、本開示の係合部材は、切欠26及び切欠27を通った状態で軸受ハウジング12に取り付けられ、中間フォイル10(中間フォイル片10a)の内周側において、挿通孔12aの周方向の一方側のみに延伸している構成であってもよい。例えば、上記実施形態では一対の返し部33が用いられているが、返し部33が1つのみ設けられる構成でもよい。
【0072】
図11(a)に示す係合部材30Cは、H形の一枚の板バネを折り曲げた構成を有している。なお、
図11(b)は、
図11(a)のA矢視図(底面図)である。この係合部材30Cは、折り返し部31c1,31c2を有する係合部31cと、係合部31cから上側(径方向内側)に延伸する一対の挿通部32cと、一対の挿通部32cの先端部から相反する方向に曲げられた一対の返し部33cと、を備える。つまり、本変形例の係合部材30Cは、返し部33cと、返し部33cから径方向外側に向かい延設する部位を備える。また、該径方向外側に向かい延設する部位から、互いに周方向に離隔する側に延設する部位を備える。また、当該周方向に離隔する側に延設する部位の係合溝25の内面25aに近い位置から径方向内側に延設する部位を備える。該内面25aに近い位置から径方向内側に延設する部位は、径方向内側で終端する。また、該返し部33cから径方向外側に向かい延設する部位は、軸方向の一方の側が周方向に連結されている。折り返し部31c1は、H形の板バネの左右の折り返し部である。折り返し部31c2は、H形の板バネの両脚部の折り返し部である。この構成によれば、係合部31において折り返し部31c1,31c2の二方向のスプリングバックが作用する。
【0073】
図12に示す係合部材30Dは、一枚の板バネから切り抜いた構成を有している。この係合部材30Dは、四角形中実の係合部31dと、係合部31dの上部(径方向内端)から延伸する挿通部32dと、挿通部32dの先端部から相反する方向に延伸する一対の返し部33dと、を備える。この構成によれば、係合部材30Dをプレス加工等によって形成可能になるため、係合部材30Dの成形が容易になる。
【0074】
また、例えば、上記実施形態では、係合部31の幅(周方向の幅)が、挿通部32の幅(周方向の幅)よりも大きい構成を例示した。しかし、係合部31の幅(周方向の幅)と挿通部32の幅(周方向の幅)が同じT形の係合部材30を採用してもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、中間フォイル10を備えるラジアルフォイル軸受3を例示した。しかし、中間フォイル10が無く、係合部材30がバックフォイル11にのみ引っ掛かる構成であってもよい。
【0076】
すなわち、本開示の係合部材は、中間フォイルが設けられない場合において、切欠26を通った状態で軸受ハウジング12に取り付けられ、バックフォイル11(バックフォイル片11a)の内周側(径方向内側)において、挿通孔12aの周方向における切欠26の形成範囲外まで延伸していてもよい。この場合、係合部材の返し部は、バックフォイル11の谷部11b内に収容されてもよいし、周方向において谷部11bに相当する範囲内にのみ配置される構成でもよい。
言い換えれば、本開示の係合部材は、中間フォイルが設けられない場合において、軸受ハウジング12に取り付けられた係合部と、この係合部に接続されると共に切欠26を通過して配置される挿通部と、この挿通部に接続されると共に周方向の少なくとも一方側に突出して切欠26の形成範囲外まで延伸している返し部と、から構成されてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、蓋体50を備えるラジアルフォイル軸受3を例示した。しかし、例えば、係合溝25の内面25aに、係合部材30の軸方向の抜けを抑制するアリ溝等が形成されている場合には、蓋体50がなくてもよい。
【0078】
また、例えば、係合溝25の内面25aに、摩擦を調整するコーティングがされていてもよい。このコーティングとしては、銅コーティングを用いることができる。
【0079】
また、上記実施形態では、例えば、
図2に示すように、軸受ハウジング12の軸方向の両端面12bには、挿通孔12aの内周縁から径方向外側に向かって延伸する一対の係合溝25が形成されている構成について例示したが、係合溝25は、軸受ハウジング12の軸方向の片方の端面12bにのみ形成される構成であってもよい。また、当該片方の端面12bにのみ蓋体50が取り付けられる構成であってもよい。
【0080】
すなわち、バックフォイル11や中間フォイル10を適切に保持できるのであれば、バックフォイル11の切欠26、中間フォイル10の切欠27、及び係合部材30が、軸方向一方側のみに設けられ、他方側に設けられない構成であってもよい。