(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0034】
《発明の実施形態1》
以下では、まず始めに、圧縮機に設けられた磁気軸受装置について説明し、その後、本発明に係る実施形態として、当該磁気軸受装置に設けられたギャップセンサの校正について説明する。なお、以下の説明において、「ギャップセンサの校正」とは、ギャップセンサの出力をギャップ(後述)に変換する変換式を構築することをいう(以下、他の実施形態でも同様)。
【0035】
〈圧縮機の構成〉
図1は、実施形態1に係る圧縮機(1)の構成例を示す。この圧縮機(1)は、いわゆるターボ圧縮機である。
図1に示すように、圧縮機(1)は、ケーシング(2)、圧縮機構(3)、電動機(4)、回転軸(5)、ラジアルタッチダウン軸受(6)、スラストタッチダウン軸受(7)、及び磁気軸受装置(10)を備えている。
【0036】
−圧縮機構等−
ケーシング(2)は、両端が閉塞された円筒状に形成されている。ケーシング(2)は、円筒軸線が水平向きとなるように配置されている。ケーシング(2)内の空間は、壁部(2a)によって区画されている。ケーシング(2)では、壁部(2a)よりも右側の空間が圧縮機構(3)を収容する圧縮機構室(S1)を構成している。また、ケーシング(2)では、壁部(2a)よりも左側の空間が電動機(4)を収容する電動機室(S2)を構成している。そして、ケーシング(2)内を軸方向に延びる回転軸(5)が圧縮機構(3)と電動機(4)とを連結している。回転軸(5)は、浮上体の一例である。なお、以下の説明では、回転軸(5)を浮上体(5)と記載する場合もある。
【0037】
圧縮機構(3)は、流体(この例では冷媒)を圧縮するように構成されている。この例では、圧縮機構(3)は、羽根車(3a)と、インレットガイドベーン(3b)とを備えている。羽根車(3a)は、複数の羽根によって外形が略円錐形状となるように形成されている。この羽根車(3a)は、回転軸(5)の一端に固定されている。また、インレットガイドベーン(3b)は、前記流体の吸入量の制御を行う弁である。インレットガイドベーン(3b)は、流体(冷媒)の吸入口に設けられている。
【0038】
電動機(4)は、回転軸(5)を回転駆動するように構成されている。電動機(4)は、例えば、IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)によって構成される。より具体的には、電動機(4)は、固定子(4a)と回転子(4b)とを備えている。固定子(4a)は、円筒状に形成されてケーシング(2)内に固定されている。この固定子(4a)には、回転磁界を発生させるコイル(4c)が設けられている。また、回転子(4b)は、円柱状に形成され、固定子(4a)の内周に回転可能に設置されている。回転子(4b)には、複数の永久磁石(図示を省略)が設けられ、それぞれの永久磁石は、回転子(4b)を軸方向に貫通している。これらの永久磁石には、例えば、焼結磁石が用いられる。また、回転子(4b)の中心部には、軸孔が形成されている。その軸孔には、回転軸(5)が固定され、回転子(4b)の軸心と回転軸(5)の軸心とは同軸上に存在する。
【0039】
−タッチダウン軸受−
この圧縮機(1)には、ラジアルタッチダウン軸受(6)、及びスラストタッチダウン軸受(7)の2種類のタッチダウン軸受が設けられている。ラジアルタッチダウン軸受(6)、及びスラストタッチダウン軸受(7)は、磁気軸受装置(10)が非通電であるとき(すなわち、回転軸(5)が浮上していないとき)に、回転軸(5)を支持するように構成されている。例えば、ラジアルタッチダウン軸受(6)は、回転軸(5)に接触してそれを支持することで、回転軸(5)と磁気軸受装置(10)との接触(より正確には、回転軸(5)と後述のラジアル磁気軸受(21)が備える磁気軸受コア(61)との接触)を防止する。すなわち、ラジアルタッチダウン軸受(6)は、補助軸受の一例である。同様に、スラストタッチダウン軸受(7)は、磁気軸受装置(10)が非通電であるときに、回転軸(5)に接触してそれを支持することで、回転軸(5)と、磁気軸受装置(10)(より正確には、後述のスラスト磁気軸受(22)が備える磁気軸受コア(61))との接触を防止する。すなわち、スラストタッチダウン軸受(7)も、補助軸受の一例である。
【0040】
−磁気軸受装置−
磁気軸受装置(10)は、1つまたは複数(この例では、3つ)の磁気軸受を備えている。具体的に、本実施形態における磁気軸受装置(10)は、2つのラジアル磁気軸受(21)と、1つのスラスト磁気軸受(22)とを備えている。また、磁気軸受装置(10)は、1つ又は複数(この例では、10個)のギャップセンサ(31,32)、及び制御器(40)も備えている。
【0041】
この磁気軸受装置(10)が備える磁気軸受(21,22)は、複数の電磁石を有している。各磁気軸受(21,22)は、各電磁石の合成電磁力(F)によって被支持体(回転軸(5)の軸部や円盤部(5a))を非接触に支持するように構成されている。これらの磁気軸受(21,22)では、電磁石に流れる電流を制御することによって、それらの電磁石による合成電磁力(F)を制御すれば、被支持体の位置を制御することができる。そのため、磁気軸受装置(10)には、制御器(40)によって制御される、電磁石用の電源(図示は省略)が接続される。以下では、ラジアル磁気軸受(21)、スラスト磁気軸受(22)のそれぞれについて詳しく説明する。
【0042】
−ラジアル磁気軸受−
図2は、ラジアル磁気軸受(21)の構成例を示す横断面図である。なお、横断面図とは、回転軸(5)の軸心に直交する断面を意味している(以下、同様)。また、
図3は、ラジアル磁気軸受(21)の構成例を示す縦断面図である。ここで、縦断面図とは、回転軸(5)の軸心に平行な断面を意味している(以下、同様)。このラジアル磁気軸受(21)は、ヘテロポーラ型のラジアル磁気軸受であり、それぞれ2つの電磁石(71〜78)によって構成された第1〜第4電磁石群(51〜54)を4組備えている。
【0043】
この例では、ラジアル磁気軸受(21)は、磁気軸受コア(61)、及び8つのコイル(65)を備えている。磁気軸受コア(61)は、例えば、複数の電磁鋼板が積層されて構成される。磁気軸受コア(61)は、バックヨーク(62)と8つのティース(63)とを有している。バックヨーク(62)は、円筒状に形成されている。8つのティース(63)は、バックヨーク(62)の内周面に沿うように所定間隔(この例では、45°間隔)で周方向にそれぞれ配列されている。これらのティース(63)は、それぞれがバックヨーク(62)の内周面から径方向内方へ向けて突出し、それぞれの内周面(突端面)が、回転軸(5)の被支持部(軸部)の外周面と所定のギャップを隔てて対向する。
【0044】
8つのコイル(65)は、磁気軸受コア(61)の8つのティース(63)に、被覆導線がそれぞれ巻回されることによって形成されている。これにより、ラジアル磁気軸受(21)には、8つの電磁石(以下、第1〜第8電磁石(71〜78)とする)が形成されている。具体的には、第1電磁石(71)、第2電磁石(72)、第7電磁石(77)、第8電磁石(78)、第3電磁石(73)、第4電磁石(74)、第5電磁石(75)、及び第6電磁石(76)が
図2における時計回り方向に、この順に配列されている。
【0045】
ラジアル磁気軸受(21)では、これらの第1〜第8電磁石(71〜78)によって、回転軸(5)の被支持部(軸部)を吸引するように電磁力を発生させる。詳しくは、このラジアル磁気軸受(21)では、第1〜第8電磁石(71〜78)が、2つの電磁石を1単位として磁束を形成するようになっている。ここでは、第1電磁石(71)と第2電磁石(72)の組を第1電磁石群(51)、第7電磁石(77)と第8電磁石(78)の組を第4電磁石群(54)、第3電磁石(73)と第4電磁石(74)の組を第2電磁石群(52)、第5電磁石(75)と第6電磁石(76)の組を第3電磁石群(53))と、それぞれ、呼ぶことにする。ラジアル磁気軸受(21)では、第1〜第4電磁石群(51〜54)の各単位で磁束を形成する。
図2に、第4電磁石群(54)の磁束を例示する。
図2に示した磁束から分かるように、それぞれの電磁石群を1つの電磁石と見なしても全く差し支えはない。なお、このような磁束は、具体的には、第1〜第8電磁石(71〜78)のそれぞれを構成するコイル(65)の巻回方向及び各コイル(65)に流れる電流の向きを適宜定めることで実現できる。
【0046】
また、このラジアル磁気軸受(21)では、
図2から分かるように、第1および第2電磁石群(51,52)は、回転軸(5)の被支持部(軸部)を挟んで互いに対向し、第1および第2電磁石群(51,52)の合成電磁力(F)によって回転軸(5)の被支持部を非接触に支持するように構成されている。また、第3および第4電磁石群(53,54)も、回転軸(5)の被支持部(軸部)を挟んで互いに対向し、第3および第4電磁石群(53,54)の合成電磁力(F)によって回転軸(5)の被支持部を非接触に支持するように構成されている。なお、第3および第4電磁石群(53,54)の対向方向(
図2では、右肩下がり方向)は、平面視において、第1および第2電磁石群(51,52)の対向方向(
図2では、右肩上がり方向)と直交している。
【0047】
−スラスト磁気軸受−
図4は、スラスト磁気軸受(22)の構成例を示す平面図である。また、
図5は、スラスト磁気軸受(22)の構成例を示す縦断面図である。
図4、及び
図5に示すように、スラスト磁気軸受(22)は、第1電磁石(71)及び第2電磁石(72)を有している。また、本実施形態の回転軸(5)には、その他端部(羽根車(3a)が固定された一端部とは反対側の端部)に円盤状の部分(以下、円盤部(5a)という)がある。円盤部(5a)は、スラスト磁気軸受(22)の電磁力が作用する部分である。すなわち、円盤部(5a)は、回転軸(5)の被支持部である。そして、スラスト磁気軸受(22)では、第1電磁石(71)と第2電磁石(72)とは、回転軸(5)の被支持部である円盤部(5a)を挟んで互いに対向し、第1及び電磁石(71,72)の合成電磁力(F)により回転軸(5)の被支持部(円盤部(5a))を非接触に支持する。以下、スラスト磁気軸受(22)の具体的な構成を説明する。
【0048】
本実施形態のスラスト磁気軸受(22)は、具体的には、2つの磁気軸受コア(61)と、2つのコイル(65)とを備えている。2つの磁気軸受コア(61)は、それぞれが円環状に形成されている。磁気軸受コア(61)は、回転軸(5)の被支持部(円盤部(5a))の軸方向両側に所定のギャップを隔てて配置されている。また、磁気軸受コア(61)の端面には、円周溝が全周に亘って形成されている。2つのコイル(65)は、2つの磁気軸受コア(61)の円周溝にそれぞれ収容されている。これにより、スラスト磁気軸受(22)では、2つの電磁石(以下、第1及び電磁石(71,72)とする)が構成されている。
【0049】
このように第1及び電磁石(71,72)が構成されたスラスト磁気軸受(22)では、第1及び電磁石(71,72)のそれぞれのコイル(65)に流れる電流を制御することにより、これらの電磁石(71,72)の合成電磁力(F)を制御できる。第1及び電磁石(71,72)合成電磁力(F)を制御できれば、第1及び電磁石(71,72)の対向方向(すなわち、回転軸(5)の軸方向であり、
図5では、左右方向)における回転軸(5)の被支持部(円盤部(5a))の位置を制御することができる。なお、本実施形態では、コイル(65)の巻回方向およびコイル(65)に流れる電流の向きは、
図5に示した矢印の方向に磁束が発生するように設定されている。
【0050】
−ギャップセンサ−
この圧縮機(1)には、
図1に示すように、ラジアルギャップセンサ(31)とスラストギャップセンサ(32)の2種類の変位センサが設けられている。この例では、ラジアルギャップセンサ(31)、及びスラストギャップセンサ(32)は、何れも渦電流式の変位センサである。各ギャップセンサ(31,32)は、回転軸(5)の被支持部とタッチダウン軸受(6,7)との間のギャップ(g)を検出するように構成されている。例えば、後に詳述するように、ラジアルギャップセンサ(31)は、被支持体(この例では、回転軸(5)の被支持部である軸部)を挟んで互いに対向する電磁石群の対(例えば、第1および第2電磁石群(51,52)の組)に対応して設けられている。
【0051】
−ラジアルギャップセンサ(31)−
この例では、ラジアルギャップセンサ(31)は、各ラジアル磁気軸受(21)に4つずつ設けられている。つまり、圧縮機(1)には、8つのラジアルギャップセンサ(31)が設けられている。これらのラジアルギャップセンサ(31)は、ラジアルタッチダウン軸受(6)と、回転軸(5)の被支持部(軸部)とのギャップ(g)を検出するものである。このラジアルタッチダウン軸受(6)は、浮上体(5)の位置制御(後述の浮上制御と同義)における位置の基準となる基準物である。この例では、各ラジアル磁気軸受(21)では、互いに対向する2つのラジアルギャップセンサ(31)が、回転軸(5)を挟んで互いに対向位置(詳しくは対称位置)に配置されている。この配置により、これらの2つのラジアルギャップセンサ(31)は、第1電磁石群(51)と第2電磁石群(52)の対向方向(以下、X方向)のギャップ(g)をそれぞれ検出する。ここで、X方向は、ラジアル磁気軸受(21)の径方向であって、
図2では、右肩上がり方向である。また、残りの2つのラジアルギャップセンサ(31)も回転軸(5)を挟んで互いに対向位置(詳しくは対称位置)に配置されている。これらの2つのラジアルギャップセンサ(31)は、第3電磁石群(53)と第4電磁石群(54)の対向方向(すなわち、X方向と直交する径方向(以下、Y方向と呼ぶ)であり、
図2では、右肩下がり方向)におけるギャップ(g)をそれぞれ検出する。
【0052】
−スラストギャップセンサ(32)−
圧縮機(1)には、2つのスラストギャップセンサ(32)が設けられている。これらのスラストギャップセンサ(32)は、スラストタッチダウン軸受(7)と、円盤部(5a)の表面とのギャップ(g)を検出する。このスラストタッチダウン軸受(7)は、浮上体(5)の位置制御(後述の浮上制御と同義)における位置の基準となる基準物である。該ギャップ(g)を検出するため、これらのスラストギャップセンサ(32)は、この例では、スラスト磁気軸受(22)における、第1及び電磁石(71,72)の対向方向(すなわち、回転軸(5)における軸方向(以下、Z方向と呼ぶ)であり、
図5では、左右方向)にギャップセンサ軸(後述)が向くように配置されている。より詳しくは、これらのスラストギャップセンサ(32)は、回転軸(5)の円盤部(5a)(被支持部)の一方の面(すなわち同一の面)に面して配置されている。また、これらのスラストギャップセンサ(32)同士は、回転軸(5)を挟んで対称となるように配置されている。
【0053】
−制御器−
制御器(40)は、マイクロコンピュータと、それを動作させるためのソフトウエアを格納したメモリディバイス等を用いて構成されている。この制御器(40)は、被支持体(この例では、回転軸(5)の被支持部)が非接触に支持されるように、1つまたは複数の磁気軸受(21,22)を制御する。より具体的は、制御器(40)は、各磁気軸受(21,22)の電磁力を制御することによって、回転軸(5)の位置の制御(以下、浮上制御という)を行う。この浮上制御を実現するため、本実施形態の制御器(40)は、2つのラジアル磁気軸受(21)の浮上制御を行うラジアル制御部(41)と、スラスト磁気軸受(22)の浮上制御を行うスラスト制御部(42)とを含んでいる。
【0054】
なお、浮上制御を行うには、第1〜第8電磁石(71〜78)の各コイル(65)に流れる電流の大きさを把握する必要がある。そのため、磁気軸受装置(10)には、ラジアル磁気軸受(21)、及びスラスト磁気軸受(22)のそれぞれが備えているコイル(65)に流れる電流の大きさを検出する電流センサ(8)が設けられている(
図1参照)。
【0055】
−ラジアル制御部(41)−
ラジアル制御部(41)は、X方向及びY方向のそれぞれにおける回転軸(5)の浮上制御を行う。具体的に、ラジアル制御部(41)は、浮上制御において、X方向及びY方向の各方向について、回転軸(5)とラジアルタッチダウン軸受(6)とのギャップ(g)と、予め定められた指令値(g*)との差分値(e)がゼロに収束するように、第1〜第4電磁石群(51〜54)を構成するそれぞれのコイル(65)に電流(制御電流(id))を流す。本実施形態の磁気軸受装置(10)では、各コイル(65)に流した電流は、電流センサ(8)によって検出できる。
【0056】
この浮上制御に際しては、回転軸(5)(軸部)におけるギャップ(g)を求める必要がある。具体的に、ギャップ(g)を求めるには、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(例えば電圧や電流)をギャップ(g)に変換する必要がある。ところが、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(以下、出力信号(v)とする)の大きさと、ギャップ(g)との間には、一般的には非線形の関係があるので、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号に対して何らかの処理を行わないと正確なギャップ(g)を求めることができない。そこで、本実施形態では、予めギャップセンサの出力信号(v)をギャップ(g)に変換する変換式を求めておいて、浮上制御の際にその変換式を用いてギャップ(g)を求めている。なお、一般的に、ギャップセンサ(31,32)から出力されたばかりの信号は、増幅器(後述の
図6におけるセンサアンプ参照)で増幅された後に浮上制御に利用されるが、本明細書では、増幅器で増幅された後の信号を、ギャップセンサ(31,32)の「出力信号(v)」と呼ぶことにする。
【0057】
図6に、ラジアル磁気軸受(21)における、位置制御の概念を示す。同図に示すように、本実施形態では、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)は、所定の変換式によって変換され、その変換結果が浮上制御においてギャップ(g)として取り扱われる。このような変換式は、非線形性を有する式となる。例えば、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)の大きさと、ギャップ(g)との関係は、2次式で近似することができる場合がある。
【0058】
また、前記の非線形性は、ラジアルギャップセンサ(31)毎に異なっている。すなわち、ラジアルギャップセンサ(31)における出力信号(v)の大きさとギャップ(g)との関係には個体差がある。そのため、例えば、全てのラジアルギャップセンサ(31)に共通の前記変換式を用いてギャップ(g)を求めると、回転軸(5)の正確な位置を把握できず、正確な浮上制御を行えない。そこで、本実施形態では、ラジアルギャップセンサ(31)毎に、前記変換式の構築(すなわち「ギャップセンサの校正」の実施)を行っている。この校正の原理や手順については後に詳述する。
【0059】
−スラスト制御部(42)−
スラスト制御部(42)は、Z方向における回転軸(5)の浮上制御を行う。具体的に、スラスト制御部(42)は、浮上制御において、Z方向について、回転軸(5)とスラストギャップセンサ(32)とのギャップ(g)と、予め定められた指令値(g*)との差分値(e)がゼロに収束するように、第1及び電磁石(71,72)を構成するそれぞれのコイル(65)に電流(制御電流(id))を流す。第1及び電磁石(71,72)の各コイル(65)に流した電流の大きさは、電流センサ(8)によって検出できる。
【0060】
スラスト磁気軸受(22)においても浮上制御に際して、回転軸(5)におけるギャップ(g)を求める必要がある。すなわち、スラスト磁気軸受(22)用のスラストギャップセンサ(32)でも、出力信号(例えば電圧や電流)をギャップ(g)に変換する必要がある。スラストギャップセンサ(32)の出力信号(ここでも出力信号(v)とする)の大きさと、ギャップ(g)との間にも、ラジアルギャップセンサ(31)の場合と同様に、非線形の関係がある。例えば、スラストギャップセンサ(32)の出力信号(v)の大きさと、ギャップ(g)との関係も2次式で近似することができる場合がある。
【0061】
また、前記の非線形性は、スラストギャップセンサ(32)毎に異なっている。すなわち、スラストギャップセンサ(32)における出力信号(v)の大きさとギャップ(g)の関係には個体差がある。そのため、例えば、全てのラジアルギャップセンサ(31)に共通の前記変換式を用いてギャップ(g)を求めると、回転軸(5)(より具体的には円盤部(5a))の正確な位置を把握できず、正確な浮上制御を行えない。そこで、本実施形態では、予めスラストギャップセンサ(32)の出力信号(v)をギャップ(g)に変換する変換式を構築(すなわち「ギャップセンサの校正」を実施)しておいて、浮上制御の際にその変換式を用いてギャップ(g)を求めている。
【0062】
〈ギャップセンサの校正〉
−概要−
以下では、代表でラジアルギャップセンサ(31)の校正の方法を説明する。本実施形態では、ラジアルギャップセンサ(31)におけるギャップ(g)と、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)とを関連づけるための条件である拘束条件を3つ以上設定する。そして、これらの拘束条件を用いて、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)をギャップ(g)に変換する変換式を構築する。より詳しくは、まず、本実施形態では、所定の軌跡で回転軸(5)(以下、浮上体(5)とも呼ぶ)の軸部を動かす。また、軸部を動かしている最中には、複数のラジアルギャップセンサ(31)が互いに拘束される、前記ギャップ(g)と前記軌跡との幾何学的な関係式に、複数のラジアルギャップセンサ(31)のそれぞれから読み取った出力信号(v)の値を適用して前記拘束条件(具体的には後述の式(8’))を3つ以上設定する。そして、最終的には、それらの拘束条件を用いて前記変換式を構築する。
【0063】
−校正の原理−
以下では、2つのラジアルギャップセンサ(31)を同時に校正する例を用いて、校正の原理を説明する。なお、以下では、説明の便宜のため、一方のラジアルギャップセンサ(31)をギャップセンサ(i)と呼び、もう一方のラジアルギャップセンサ(31)をギャップセンサ(j)と呼ぶことにする。また、これらのギャップセンサ(i,j)からの出力信号(ここでは電圧を検出するものとする)を、それぞれ、出力信号(v
i)、出力信号(v
j)とし、ギャップセンサ(i)、ギャップセンサ(j)のそれぞれに対応するギャップ(g)の検出値(前記変換式で求めた値の意味である)を、それぞれ、ギャップ検出値(g
i^)、ギャップ検出値(g
j^)とする。
【0064】
また、本実施形態では、これらの出力信号(v
i,v
j)からギャップ検出値(g
i^,g
j^)への変換式は、以下の式(1’)及び式(2’)のように定義されたものする。すなわち、本実施形態では、ラジアルギャップセンサ(31)の非線形性を2次式で近似しているのである(式(1’)及び式(2’)を参照)。
【0065】
g
i^ = f
i(p
i,v
i) ・・・・・・・・・(1)
= a
i×v
i2 + b
i×v
i + c
i ・・・(1’)
g
j^ = f
j(p
j,v
j) ・・・・・・・・・(2)
= a
j×v
j2 + b
j×v
j + c
j ・・・(2’)
ただし、式(1)におけるf
i(p
i,v
i)や、式(2)におけるf
j(p
j,v
j)は、変換式の関数の構造である。また、p
i=(a
i,b
i,c
i)やp
j=(a
j,b
j,c
j)は、変換式においては定数である。p
i=(a
i,b
i,c
i)やp
j=(a
j,b
j,c
j)は、ギャップセンサ(i,j)の「校正」によって決定されるべきパラメータ(以下、未知パラメータという)である。
【0066】
図7に、回転軸(5)(すなわち浮上体)の軸部の位置と、各ギャップセンサ(i,j)との位置関係を示す。ここで浮上体(5)の基準位置(x=y=0)とは、浮上体(5)の軸心が、ラジアルタッチダウン軸受(6)の軸心(中心)に位置していることを意味するものとする。また、「ギャップ基準長」とは、浮上体(5)が所定の基準位置にあるときのギャップ(g)を意味している。本実施形態の「基準位置」は、回転軸(5)の軸心とラジアルタッチダウン軸受(6)の軸心が一致する位置である。勿論、「基準位置」は、この例には限定されない。「基準位置」は、何らかの既知の位置(座標)であれば良く、その位置の座標をx=y=0と定めればよい。
【0067】
図8は、浮上体(5)が基準位置にあるときのその外周と、ギャップセンサ軸との交点へ、浮上体(5)の位置ベクトルを平行移動させた図である。一般的にギャップセンサ(31,32)には、ギャップの検出感度に関して指向性がある。ここでは、該検出感度の指向性が最大となる方向に平行で、かつギャップセンサ(31,32)においてターゲットに向き合う面の中心を通る直線を「ギャップセンサ軸」と定義する。また、一般的に浮上体(5)の直径は、ギャップ(g)に比べて十分大きい。そのため、近似的には、
図8のように、浮上体(5)が基準位置にある時の該浮上体(5)の外周と、ギャップセンサ軸との交点へ、浮上体(5)の位置ベクトルを平行移動させた後に、浮上体(5)の位置ベクトルをギャップセンサ軸へ射影したベクトルが、ギャップ基準長との差(変化ベクトル)である。また、
図9には、2つのギャップセンサ(i,j)の位置関係(すなわち、幾何学的な関係)を示す。ここでは、
図9に示すように、ギャップセンサ(i)は、X軸方向のギャップ(g)を検出するように設置されている。また、ギャップセンサ(j)は、ギャップセンサ(i)に対して、Z軸(X軸及びY軸に直交する軸)を中心として、X軸から角度θだけ回転した位置に設置されている。
【0068】
ラジアル磁気軸受(21)において浮上体(5)が移動する際の軌跡は、所定の媒介変数(s)を用いて表現することができる。例えば、浮上体(5)をラジアルタッチダウン軸受(6)の内周に沿わせた公転運動をさせると、浮上体(5)の軌跡は、
図9に示すように円周となる。その円周上の位置(座標)は、X軸からの角度を媒介変数(s)として表現できる。したがって、ギャップセンサ(i)における実際のギャップ(g
i)、ギャップセンサ(j)における実際のギャップ(g
j)、及び浮上体(5)の中心(ここでは軸心)の軌跡(x(s),y(s))との間の幾何学的な関係は、以下の式のように示すことができる。
【0069】
g
i = g
0i - e
iT[x(s) y(s)]
T ・・・・・・・・・(3)
= g
0i - [1 0][cos(s) sin(s)]
T
= g
0i - cos(s) ・・・・・・・・・・・・(3’)
g
j = g
0j - e
jT[x(s) y(s)]
T ・・・・・・・・・(4)
= g
0j - [cosθ sinθ][cos(s) sin(s)]
T
= g
0j - cos(s)cosθ - sin(s)sinθ ・・・(4’)
ただし、これらの式において、Tは、転置行列を意味する。また、これらの式において、g
0iは、ギャップセンサ(i)におけるギャップ基準長である。同様に、g
0jは、ギャップセンサ(i)におけるギャップ基準長である。また、e
iは、
図9の座標系における原点からギャップセンサ(i)の方向へ向かう単位ベクトルである(
図8、
図9参照)。また、e
jは、
図9の座標系における原点からギャップセンサ(j)の方向へ向かう単位ベクトルである。ここで、各ギャップセンサ(i,j)のギャップ検出値(g
i^,g
j^)がギャップ(g
i,g
j)と一致するもの(すなわちg
i^=g
i, g
j^=g
j)として、式(1)〜式(4)をまとめると、以下の式(5)のようになる。
【0071】
特に、本実施形態では、浮上体(5)の軌跡が円周であることから、式(5)は以下のように書き換えることができる。
【0073】
ここで、式(5’)から媒介変数(s)を消去する。具体的には、まず、式(5’)において、cos(s)とsin(s)について解くと、以下の式(6’)を得る。
【0075】
そして、式(6’)に対して、cos
2(s)+sin
2(s)=1を用いて媒介変数(s)を消去すると、以下のような方程式を得ることができる。
【0076】
h(a
i,b
i,c
i,a
j,b
j,c
j,v
i(t),v
j(t))=0 ・・・・・・・(7’)
この方程式の左辺は、未知パラメータa
i,bi,c
i,a
j,b
j,c
jについての6元2次多項式である。各項の定数は、時々刻々のギャップセンサ(i,j)からの出力信号v
i(t),v
j(t)によって決定される数値、又は、時間に明示的に依存しない数値である。なお、より一般には、以下のような方程式(式(7))を得ることができる。この方程式の左辺は、多項式展開することも可能である。
【0077】
h(p
i,p
j,v
i(t),v
j(t))=0 ・・・・・・・(7)
以上のように、ギャップセンサ(i,j)の出力信号(v
i,v
j)をギャップ(g)に変換する変換式の構造と、ギャップセンサ(i,j)の配置と、浮上体(5)の軌跡とが決定されれば、式(7)の各定数とギャップセンサ(i,j)の出力信号(v
i,v
j)との関係も決まる。本実施形態では、浮上体(5)の位置が互いに異なる複数の時刻t
1,…,t
k,…, t
Nにおいて、ギャップセンサ(i,j)の出力信号(v
i,v
j)を取得することによって、以下のような連立方程式(式(8’))を得ている。この連立方程式を解けば、式(7)の各定数とギャップセンサ(i,j)の出力信号(v
i,v
j)との関係を定めることができる。なお、これらの連立方程式を解くには、独立な方程式の数が、未知パラメータの数以上あればよい。
【0078】
h(a
i,b
i,c
i,a
j,b
j,c
j,v
i(t
1),v
j(t
1))=0
・・・
h(a
i,b
i,c
i,a
j,b
j,c
j,v
i(t
k),v
j(t
k))=0
・・・
h(a
i,b
i,c
i,a
j,b
j,c
j,v
i(t
N),v
j(t
N))=0
・・・(8’)
これらの連立方程式を解くには、式(8’)の左辺を並べたN次元ベクトルのノルムを評価指標として、例えば、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムを用いることが考えられる。具体的には、このノルムがゼロに近づくように、未知パラメータを探索的に決定することで該未知パラメータを特定するのである。この校正の原理は、勿論、スラストギャップセンサ(32)の校正にも適用できる。
【0079】
なお、連立方程式を解く方法は、遺伝的アルゴリズムには限定されない。例えば、方程式の形式に応じて、例えば、最急降下法やモンテカルロ法など種々の方法を適用できる。また、変換式の定義(ここでは、非線形性を近似するために用いる数式を決定すること意味する)や浮上体(5)の動かし方を、複数通り用意しておいて、それぞれに応じて式(7)の各定数と、ギャップセンサ(i,j)の出力信号(v
i,v
j)との関係を求めるようにしてもよい。
【0080】
−本実施形態における校正手順−
以上の校正の原理に基づく実際の校正手順を、ラジアルギャップセンサ(31)を例にして説明する。この校正手順は、例えば、別途用意したパーソナルコンピュータ(以下、説明の便宜のため校正装置とよぶ)等に組み込んだプログラムとして、その一部乃至全部を実現できる。
図10に、実施形態1における校正手順をフローチャートで示す。なお、以下では、2つのラジアルギャップセンサ(31)を校正する例であり、手順の説明に際して、必要に応じて、出力信号等に従前の〈校正の原理〉の説明で用いた符号(例えばv
i等)を付す。
【0081】
前記フローチャートにおけるステップ(St11)では、所定の軌跡で回転軸(5)(浮上体)を動かす。具体的には、前記校正装置から制御器(40)(詳しくはラジアル制御部(41))に所定の信号を送ることで、ラジアル磁気軸受(21)の各電磁石群(51〜54)によって回転軸(5)をラジアルタッチダウン軸受(6)に押し付け、更に回転軸(5)を押し付ける方向を徐々に変化させる。これにより、回転軸(5)の軸部の外周面とラジアルタッチダウン軸受(6)の内周面とが接触しつつ、その接触位置を変えながら回転軸(5)が移動する。具体的には、本実施形態では、回転軸(5)の中心の軌跡が、ラジアルタッチダウン軸受(6)の中心をその中心とする円周となるように、前記接触位置を変化させている。
【0082】
ステップ(St12)では、前記校正装置は、少なくとも一つの校正対象のラジアルギャップセンサ(31)を含む、複数のギャップセンサの組み合わせを決定し、これらラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)の計測を開始する。ギャップセンサの組み合わせには特に限定はない。例えば、X方向用の一方のラジアルギャップセンサ(31)と、Y方向用の一方のラジアルギャップセンサ(31)との組み合わせを採用することが考えられる。このようにして選択されたラジアルギャップセンサ(31)のうちの少なくとも1つが「校正」の対象、すなわち変換式の構築の対象である。
【0083】
ステップ(St13)では、ステップ(St12)で選択した各ラジアルギャップセンサ(31)について、所定の時刻(t)における出力信号v
i(t)、及び出力信号v
j(t)を取得する。なお、これらの変数の後ろに付与されている「(t)」は、それぞれの変数の値が時刻tにおける値であることを示している(以下、他の実施形態についても同様)。そして、ステップ(St14)では、ステップ(St13)において取得した出力信号(v
i(t),v
j(t))を用いて、1つの連立方程式(式(8’)参照)の定数を決定する。すなわち、方程式を1つ構築する。ステップ(St15)では、前記連立方程式(式(7’)参照)を解くことができるだけの式(方程式)を構築できたか否かを確認する。例えば、必要数の方程式を構築できていない場合にはステップ(St13)に戻り、更に方程式を構築する。このとき、ステップ(St13)では、従前のステップ(St13)の実行時とは相異なる回転軸(5)の位置(具体的には相異なる時刻)において、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i(t),v
j(t))を取得する。
【0084】
一方、前記連立方程式(式(7’)参照)を解くことができるだけの数の方程式を構築できたとステップ(St15)で判断した場合には、ステップ(St16)の処理を行う。ステップ(St16)では、得られた連立方程式の左辺値のノルムを最小化するように、例えば遺伝的アルゴリズムを用いて未知パラメータ(すなわち、p
i=(a
i,b
i,c
i)やp
j=(a
j,b
j,c
j))を最適化する。そして、その最適化によって得られた解を前記未知パラメータと決定する。ここのようにして未知パラメータが全て決定されると、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)をギャップ(g)に変換する変換式が構築されたことになる。
【0085】
校正対象となっているラジアルギャップセンサ(31)に対応する変換式は、制御器(40)を構成する前記メモリディバイスに、例えば前記プログラム内の関数やテーブル(例えば配列変数)といった形で格納する。これにより、校正対象となっているラジアルギャップセンサ(31)の校正作業は終了である。ただし、更に、校正の必要があるラジアルギャップセンサ(31)が残っている場合には、ステップ(St11)に戻って、校正の必要があるラジアルギャップセンサ(31)について、校正作業を継続する。
【0086】
〈本実施形態における効果〉
以上のように、本実施形態では、磁気軸受に設けられたギャップセンサを容易に校正することが可能である。また、本実施形態では、例えば、リニアライズ回路をギャップセンサ毎に設けるようなコストアップに繋がる対策を行うことなく、正確なギャップを検出することが可能になる。しかも、本実施形態では、複数のギャップセンサを同時に校正することも可能であり、効率的な校正が可能である。
【0087】
なお、本実施形態では2つのギャップセンサを校正する例を説明したが、3つ以上のギャップセンサを同時に校正することもできる。その場合、式(6)における逆行列が定義できなくなるが、疑似逆行列にて代用すればよい。
【0088】
また、回転軸(5)(浮上体)を動かす際の軌跡は円周状でなくてもよい。例えば、回転軸(5)を放物線上において動かしたり、回転軸(5)を自由落下させたりしてもよい。軌跡を示す媒介変数(s)は、各々の軌跡の場合において適切な方法で消去できる。
【0089】
また、スラストギャップセンサ(32)についても同様に、幾何学的な関係式を適宜定めれば、ラジアルギャップセンサ(31)と同様に、複数のスラストギャップセンサ(32)のそれぞれから読み取った出力を適用して前記拘束条件を3つ以上設定できる。すなわち、ラジアルギャップセンサ(31)の例と同様に、スラストギャップセンサ(32)についても、前記原理に基づいて、変換式を構築することができる。スラストギャップセンサ(32)を校正する際に回転軸(5)(円盤部(5a))を動かす軌跡としては、例えば、回転軸(5)を、該回転軸(5)の軸方向に自由落下させることが考えられる。
【0090】
《発明の実施形態2》
発明の実施形態2でも、ギャップ(g)とギャップセンサ(31,32)の出力とを関連づけるための条件である拘束条件を3つ以上設定するとともに、前記拘束条件を用いて、ギャップセンサ(31,32)の出力をギャップ(g)に変換する変換式を構築する。具体的に、実施形態2では、前記拘束条件を3つ以上設定するに際して、回転軸(5)(浮上体)が、該回転軸(5)の可動範囲における上限又は下限の位置にある場合に、ラジアルギャップセンサ(31)やスラストギャップセンサ(32)の出力信号(電圧や電流)が極小値乃至は極大値となることを利用する。以下でも、ラジアルギャップセンサ(31)を例にして、校正の原理、及び校正の手順を説明する。
【0091】
〈校正の原理〉
例えば、実施形態1と同様に、回転軸(5)を円運動させたと仮定する。このように、回転軸(5)の軌跡が既知である場合には、ラジアルギャップセンサ(31)における出力信号(v)が極大値となるときの回転軸(5)の位置や、極小値となるときの回転軸(5)の位置が既知である。すなわち、ギャップセンサ(31,32)の出力信号(v)が極大値のときのギャップ(g)や、極小値のときのギャップ(g)も既知である。例えば、実施形態1と同様に回転軸(5)を公転運動させると、出力信号(v)が極小値となるのは、ラジアルギャップセンサ(31)の位置において、回転軸(5)とラジアルタッチダウン軸受(6)とが接している時である。このときのギャップ(g)は、ゼロと考えてよい。一方、公転運動の際に、出力信号(v)が極大値となるのは、ラジアルギャップセンサ(31)と回転軸(5)との間のギャップ(g)が最大の時(ラジアルギャップセンサ(31)と回転軸(5)が最遠状態のとき)である。このときのギャップ(g)は、回転軸(5)の直径(既知の値)と、ラジアルタッチダウン軸受(6)の内径(既知の値)とから算出することができる。
【0092】
ここで、ギャップセンサ(i)の出力信号(v
i)が極大値の時のギャップ(g)をギャップ(g
i_Max)とし、出力信号(v
i)が極小値の時のギャップ(g)をギャップ(g
i_Min)とする。同様に、ギャップセンサ(j)の出力信号(v
j)が極大値の時のギャップ(g)をギャップ(g
j_Max)とし、出力信号(v
j)極小値の時のギャップ(g)をギャップ(g
j_Min)とする。また、ギャップセンサ(i)の出力信号(v
i)の極大値をv
i_Maxとし、ギャップセンサ(j)の極大値をv
j_Maxとする。また、また、ギャップセンサ(i)の出力信号(v
i)の極小値をv
i_Minとし、ギャップセンサ(j)の極小値をv
j_Minとする。そして、この例でも、それぞれのギャップセンサ(i,j)におけるギャップ検出値(g
i^,g
j^)が実際のギャップ(g
i,g
j)と一致するものと仮定(g
i^=g
i,g
j^=g
j)すると、既述の式(1’)、及び式(2’)から以下の関係式を得ることができる。
【0093】
g
i_Max = a
i×v
i_Max2+ b
i×v
i_Max + c
i ・・・・(9)
g
i_Min = a
i×v
i_Min2+ b
i×v
i_Min + c
i ・・・・(10)
g
j_Max = a
j×v
j_Max2+ b
j×v
j_Max + c
j ・・・・(11)
g
j_Min = a
j×v
j_Min2+ b
j×v
j_Min + c
j ・・・・(12)
式(9)と式(10)とに基づいて未知パラメータ(b
i,c
i)について解き、また、式(11)と式(12)に基づいて未知パラメータ(b
j,c
j)について解くと、それぞれの未知パラメータは、a
i、又はa
jによって表現できる。a
i、又はa
jによって表現した未知パラメータ(b
i,c
i)や未知パラメータ(b
j,c
j)を式(1’)、及び式(2’)に、それぞれ代入することで、未知パラメータは、a
iとa
jの2つとなる。すなわち、各ラジアルギャップセンサ(31)に関する2つの未知パラメータを消去することができる。このように、本実施形態では、最適化アルゴリズム(実施形態1参照)によって決定すべき未知パラメータの数が減るのである。そのため、本実施形態では、最適化を行うための演算アルゴリズム(実施形態1を参照)が簡略化されるとともに、計算時間を短縮することが可能になる。
【0094】
〈本実施形態における校正手順〉
以上の校正の原理に基づく実際の校正手順を、ラジアルギャップセンサ(31)を例にして説明する。この校正手順も、実施形態1と同様に、例えば、別途用意したパーソナルコンピュータ(本実施形態でも、説明の便宜のため校正装置とよぶ)等に組み込んだプログラムとして、その一部乃至全部を実現できる。
図11に、実施形態2における校正手順をフローチャートで示す。以下の説明は、2つのラジアルギャップセンサ(31)を校正する例であり、校正手順の説明に際して、必要に応じて、出力信号等に従前の〈校正の原理〉の説明で用いた符号(例えばv
i等)を付す。
【0095】
本実施形態のフローチャートにおけるステップ(St21)では、実施形態1のステップ(St11)と同様の処理が行われる。すなわち、校正装置からラジアル制御部(41)に所定の信号を送ることによって、回転軸(5)の中心の軌跡が、ラジアルタッチダウン軸受(6)の中心を中心とした円周となるように回転軸(5)を動かす。また、ステップ(St22)では、前記校正装置が、少なくとも一つの校正対象のラジアルギャップセンサ(31)を含む、複数のラジアルギャップセンサ(31)の組み合わせを決定し、これらラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)の計測を開始する。
【0096】
ステップ(St23)〜ステップ(St25)では、選択した各ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(ここでも出力信号(v
i,v
j)とする)の極大値及び極小値を探索する。すなわち、これらのステップでは、回転軸(5)とラジアルギャップセンサ(31)とが最接近の状態、及び最遠の状態となったときの出力信号(v
i,v
j)を取得する。具体的に、ステップ(St23)では、回転軸(5)を公転運動させている最中の各ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i,v
j)を一定期間、所定の周期でサンプリングし、サンプリングして得た値を前記メモリディバイスに保存する。この例では、各ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i,v
j)は、公転運動を開始してからの経過時間(時刻)と対にされて前記メモリディバイスに保存されている。なお、サンプリング期間は、回転軸(5)が、それぞれのラジアルギャップセンサ(31)と最接近の状態となる位置、及び最遠の状態となる位置を通るように設定する。
【0097】
ステップ(St24)では、前記メモリディバイスに保存されている、各ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i,v
j)の値を調べることによって、各ラジアルギャップセンサ(31)において出力信号(v
i,v
j)が極大値となっていた時刻、及び極小値となっていた時刻を調べる。また、ステップ(S24)では、それらの時刻に対応する出力信号(v
i,v
j)の値(すなわち極大値、及び極小値)を前記メモリディバイスから取得する。ステップ(St25)では、各ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i,v
j)の極大値、及び極小値と、それぞれに対応するギャップ(g)の値をもとにして前記拘束条件を設定する。そして、それらの拘束条件に基づいて、各ラジアルギャップセンサ(31)に対応する変換式に含まれる2つの未知パラメータを消去する。
【0098】
ステップ(St26)では、ステップ(St22)で選択した各ラジアルギャップセンサ(31)について、所定の時刻(t)における出力信号v
i(t)、及び出力信号v
j(t)を取得する。ただし、ここで取得する値は、極大値以外、かつ極小値以外の値である。なお、このステップ(St26)では、実際に各ラジアルギャップセンサ(31)から出力信号(v
i,v
j)を取得してもよいし、前記メモリディバイスに保存されている値を用いてもよい。
【0099】
ステップ(St27)では、ステップ(St26)において取得した時刻(t)における出力信号(v
i(t),v
j(t))を用いて、1つの連立方程式(式(8’)参照)の定数を決定する。すなわち、方程式を1つ構築する(すなわち、前記拘束条件を設定する)。次に、ステップ(St28)では、前記連立方程式(式(7’)参照)を解くことができるだけの式(方程式)を構築できたか否かを確認する。例えば、必要数の方程式を構築できていない場合にはステップ(St26)に戻り、更に、方程式を構築する。このとき、ステップ(St26)では、従前のステップ(St26)の実行時とは相異なる回転軸(5)の位置(具体的には相異なる時刻)において、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i(t),v
j(t))を取得する。
【0100】
一方、前記連立方程式(式(7’)参照)を解くことができるだけの数の方程式を構築できたとステップ(St28)で判断された場合には、ステップ(St29)の処理が行われる。このステップ(St29)では、実施形態1の例と同様にして、例えば、遺伝的アルゴリズムを用いて未知パラメータを最適化する。そして、その最適化によって得られた解を前記未知パラメータと決定する。ここのようにして、未知パラメータが全て決定されると、ラジアルギャップセンサ(31)の出力をギャップ(g)に変換する変換式が構築されたことになる。
【0101】
校正対象となっているラジアルギャップセンサ(31)に対応する変換式は、制御器(40)を構成する前記メモリディバイスに、例えば前記プログラム内の関数やテーブル(例えば配列変数)といった形で格納する。これにより、校正対象となっているラジアルギャップセンサ(31)の校正作業は終了である。ただし、更に、校正の必要があるラジアルギャップセンサ(31)が残っている場合には、ステップ(St21)に戻って、校正の必要があるラジアルギャップセンサ(31)について、
図11のフローチャートで示した校正作業を継続する。
【0102】
〈本実施形態における効果〉
以上の校正手順では、実施形態1と同様の効果を得られる。また、本実施形態では、未知パラメータを求めるアルゴリズムが簡略化される。そのため、本実施形態の校正手順では、実施形態1の校正方法よりも、計算時間を短縮することが可能になる。すなわち、本実施形態では、ギャップセンサ(31,32)の校正をより容易に行うことが可能になる。
【0103】
なお、本実施形態の校正方法も、スラストギャップセンサ(32)に適用できる。スラストギャップセンサ(32)でも、スラストタッチダウン軸受(7)と回転軸(5)とが接している時に、出力信号(vi,vj)が最大値又は最小値となるので、この事実を校正に利用できる。スラストギャップセンサ(32)を校正する際に回転軸(5)(円盤部(5a))を動かす軌跡としては、例えば、回転軸(5)を、該回転軸(5)の軸方向に自由落下させることが考えられる。
【0104】
また、ギャップセンサ(31,32)の出力信号(v
i,v
j)が極大値や極小値となる位置を基準とする代わりに、何れかの電磁石群(51〜54)におけるギャップ(g)が極大値や極小値となる位置を基準としてもよい。具体的には、何れか1つの電磁石群(51〜54)によって、回転軸(5)がラジアルタッチダウン軸受(6)に接触するように吸引した状態(すなわち、当該電磁石群(51〜54)と回転軸(5)とのギャップ(g)が極小値である状態)における出力信号(v
i,v
j)を用いて校正を行うのである。このように、電磁石群(51〜54)と回転軸(5)とのギャップ(g)が極小値である場合にも、校正の対象となっているギャップセンサ(31,32)と回転軸(5)との間のギャップを容易に計算できる。
【0105】
《発明の実施形態3》
発明の実施形態3でも、ギャップ(g)とラジアルギャップセンサ(31)の出力とを関連づけるための条件である拘束条件を3つ以上設定するとともに、前記拘束条件を用いて、ラジアルギャップセンサ(31)の出力をギャップ(g)に変換する変換式を構築する。以下でもラジアルギャップセンサ(31)を例にして、校正の原理、及び校正の手順を説明する。
【0106】
〈校正の原理〉
−概要−
この例では、回転軸(5)の可動範囲における上限又は下限の位置を通る軌跡で回転軸(5)を動かしつつ、回転軸(5)が前記上限又は前記下限の位置に存在することを検出する位置検出センサ(後述)を用いて、回転軸(5)が前記上限又は前記下限の位置にあるときのギャップセンサ(31,32)の出力を読み取り、読み取ったギャップセンサ(31,32)の出力と、前記上限又は前記下限の位置情報とによって前記拘束条件を3つ以上設定して変換式を構築する。その際、本実施形態では、位置検出センサとして、校正対象のギャップセンサとは別のギャップセンサを用いる。
【0107】
−校正の詳細−
以下の説明では、校正対象のギャップセンサ(31,32)をギャップセンサ(i)とし、位置検出センサとしてギャップセンサ(31,32)をギャップセンサ(j)とする。すなわち、この例では、所定のギャップセンサ(i)を、別のギャップセンサ(j)の出力信号(v
j)を用いて校正するのである。ここでは、ギャップセンサ(i,j)は、
図9のように取り付けられているものとする。また、本実施形態でも、各ギャップセンサ(i,j)の出力信号(v
i,v
j)からギャップ検出値(g
i^,g
j^)への変換式は、式(1’)と同じ形式(すなわち2次式)であるものとする。ただし、本実施形態でも、実施形態2で説明した手法によって、未知パラメータ(b
i)と、未知パラメータ(c
i)とが、予め消去、又はa
iによって表されるものとする。すなわち、本実施形態では、a
iのみが未知パラメータであるものとする。
【0108】
そして、本実施形態でも校正時には、回転軸(5)を実施形態1と同様にして、ラジアルタッチダウン軸受(6)の内周に沿わせて公転運動をさせる。この公転運動中における回転軸(5)(浮上体)の軌跡は、媒介変数(s)を用いて次のように表すことができる。
【0109】
x(s)=cos(s), y(s)=sin(s)
また、各ギャップセンサ(i,j)の位置におけるギャップ(g
i,g
j)と、軌跡[x(s),y(s)]との間の幾何学的な関係は、式(3’)、及び式(4’)で表すことができる。そして、式(4’)からギャップ(g
j)が極小値となる媒介変数(s)の値(ここではs
Nとする)を求めると以下のようになる。
【0110】
s
N=θ
また、一般に、出力信号(v
j)とギャップ(g
j)は、単調増加の関係にあるので、ギャップ(g
j)が極小値となる時にギャップセンサ(j)の出力信号(v
j)も極小値となる。したがって、媒介変数(s)=s
Nの場合は、出力信号(v
j)が極小値であるときのギャップセンサ(j)の出力信号(v
iN)に対応する。ここでも、実際のギャップ(g
i)とギャップ検出値(g
i^)とが一致するものとすると、式(1’)により、以下の式を、それぞれ得ることができて、a
iが求まる。
【0111】
g
i = g
i0 - cos(s
N)=g
i0- cosθ
g
i^ = a
iv
iN2 + b
i(a
i)v
iN+ c
i(a
i)
上式にg
i = g
i^の関係を適用すると、以下の式を得ることができる。
【0112】
g
i0 - cosθ = a
iv
iN2 + b
i(a
i)v
iN+ c
i(a
i) ・・・・(13)
上式において、v
iN、b
i、c
iは、既知の値であるので、左辺の値を求めれば、a
iの値を定めることができる。すなわち、式(13)の左辺の値を求めれば、変換式を構築することができる。式(13)の左辺の値を定めるために、本実施形態では、校正の対象となっていないラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)を利用する。具体的に本実施形態では、まず、校正の対象となっていないラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)が極大値、又は極小値となる時の位置が特定できるように、回転軸(5)(浮上体)を動かす。そして、校正の対象となっていないラジアルギャップセンサ(31)を、回転軸(5)が該回転軸(5)の可動範囲の上限又は下限の位置に存在することを特定する位置検出センサとして利用する。可動範囲の上限又は下限の位置に存在するか否かは、出力信号(電圧や電流)が極小値乃至は極大値となることを、前記拘束条件を設定する際に利用すれば判断できるので、位置検出センサとして利用するラジアルギャップセンサ(31)は、校正が済んでいないものであってもよい。
【0113】
回転軸(5)の可動範囲の上限又は下限の位置に存在することが検出できれば、回転軸(5)の外径やラジアルギャップセンサ(31)の内径を勘案することで、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)におけるギャップ(g)も求めることができる。すなわち、前記拘束条件を設定できるのである。そして、前記拘束条件を設定できると、例えば、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムを用いて、未知パラメータを探索的に決定することで該未知パラメータを特定できる(すなわち、変換式を構築できる)。
【0114】
〈本実施形態における校正手順〉
以上の校正の原理に基づく実際の校正手順を、ラジアルギャップセンサ(31)を例にして説明する。この校正手順も、実施形態1と同様に、例えば、別途用意したパーソナルコンピュータ(本実施形態でも、説明の便宜のため校正装置とよぶ)等に組み込んだプログラムとして、その一部乃至全部を実現できる。
【0115】
本実施形態では、前記拘束条件を3つ以上設定するに際して、「校正」の対象となっていないギャップセンサ(31,32)を利用して回転軸(5)(浮上体)の位置を特定し、その位置情報等を利用して前記拘束条件を設定する。また、本実施形態でも、回転軸(5)(浮上体)が、該回転軸(5)の可動範囲における上限又は下限の位置にある場合に、ラジアルギャップセンサ(31)やスラストギャップセンサ(32)の出力信号(電圧や電流)が極小値乃至は極大値となることを、前記拘束条件を設定する際に利用する。
図12に、実施形態3における校正手順をフローチャートで示す。以下では、2つのラジアルギャップセンサ(31)に着目して校正する例である。校正手順の説明に際して、必要に応じて、出力信号等に従前の〈校正の原理〉の説明で用いた符号(例えばv
i等)を付す。
【0116】
本実施形態のフローチャートにおけるステップ(St31)でも、実施形態1のステップ(St11)と同様の処理が行われる。すなわち、校正装置からラジアル制御部(41)に所定の信号を送ることによって、回転軸(5)の中心の軌跡が、ラジアルタッチダウン軸受(6)の中心を中心とした円周となるように回転軸(5)を動かす。この動かし方によれば、校正の対象となっていないラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(出力信号(v
j)とする)が極大値となる時の位置や、極小値となる時の位置を特定することができる。勿論、回転軸(5)(浮上体)を動かす際の軌跡は円周状でなくてもよい。例えば、回転軸(5)を放物線上において動かしたり、回転軸(5)を自由落下させたりしてもよい。要は、校正の対象となっていないラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
j)が極大値、又は極小値となる時の位置が特定できるように、回転軸(5)(浮上体)を動かせばよいのである。
【0117】
また、ステップ(St32)では、前記校正装置は、少なくとも一つの校正対象のラジアルギャップセンサ(31)を含む、複数のラジアルギャップセンサ(31)の組み合わせを決定し、これらラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(vi,vj)の計測を開始する。ステップ(St33)では、回転軸(5)を公転運動させている最中の各ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i,v
j)を一定期間、所定の周期でサンプリングし、取得した値を前記メモリディバイスに保存する。この例では、各ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i,v
j)は、公転運動を開始してからの経過時間(時刻)と対にされて前記メモリディバイスに保存される。
【0118】
ステップ(St34)では、メモリディバイスに保存された、校正対象となっていないラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
j)を調べ、校正対象となっていないラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
j)が極小値となっていた時刻を調べる。また、その時刻に対応する、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i)を前記メモリディバイスから取得する。
【0119】
そして、ステップ(St35)では、変換式を構築するための未知パラメータ(ここではa
i)を算出する。具体的には、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
i)が、式(13)の左辺の値(g
i0 - cosθ)に対応し、式(13)の左辺の値は、校正対象となっていないラジアルギャップセンサ(31)(すなわち位置検出センサ)の出力信号(v
j)を用いて求めることができる。すなわち、校正対象となっていないラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v
j)が極小値又は極大値であり場合には、回転軸(5)の位置を特定できるので、校正対象となっているラジアルギャップセンサ(31)と回転軸(5)とのギャップ(すなわち、式(13)の左辺の値)も算出できる。これにより、3つ以上の前記拘束条件を設定でき、これらの拘束条件を用いることで、変換式を構築するための未知パラメータ(ここではa
i)を算出することができる。このようにして未知パラメータが求まると、校正対象となっているラジアルギャップセンサ(31)の校正作業は終了である。ただし、更に、校正の必要があるラジアルギャップセンサ(31)が残っている場合には、ステップ(St31)に戻って、校正の必要があるラジアルギャップセンサ(31)について、校正作業を継続する。
【0120】
〈本実施形態における効果〉
以上の校正手順では、実施形態1と同様の効果を得られる。また、本実施形態では、未知パラメータを求めるアルゴリズムが簡略化される。そのため、本実施形態の校正手順では、実施形態1の校正方法よりも、計算時間を短縮することが可能になる。すなわち、本実施形態では、ギャップセンサ(31,32)の校正をより容易に行うことが可能になる。
【0121】
なお、本実施形態では2つのギャップセンサを校正する例を説明したが、3つ以上のギャップセンサを同時に校正することもできる。その場合、式(6)における逆行列が定義できなくなるが、疑似逆行列にて代用すればよい。
【0122】
また、本実施形態でも、ギャップセンサ(31,32)の出力信号(v
i,v
j)が極大値や極小値となる位置を基準とする代わりに、何れかの電磁石群(51〜54)におけるギャップ(g)が極大値や極小値となる位置を基準としてもよい。具体的には、何れか1つのの電磁石群(51〜54)によって、回転軸(5)がラジアルタッチダウン軸受(6)に接触するように吸引した状態(すなわち、当該電磁石群(51〜54)と回転軸(5)とのギャップ(g)が極小値である状態)における出力信号(v
i,v
j)を用いて校正を行うことも可能である。このように、電磁石群(51〜54)と回転軸(5)とのギャップ(g)が極小値である場合にも、回転軸(5)の外径やラジアルギャップセンサ(31)の内径を勘案することによって、校正の対象となっているギャップセンサ(31,32)と回転軸(5)との間のギャップを容易に計算できる。
【0123】
また、本実施形態の校正方法もスラストギャップセンサ(32)に適用できる。スラストギャップセンサ(32)でも、スラストタッチダウン軸受(7)と回転軸(5)とが接している時に、出力信号(vi,vj)が最大値又は最小値となるので、これを回転軸(5)の位置特定に利用できる。スラストギャップセンサ(32)を校正する際に回転軸(5)(円盤部(5a))を動かす軌跡としては、例えば、回転軸(5)を、該回転軸(5)の軸方向に自由落下させることが考えられる。
【0124】
《発明の実施形態4》
発明の実施形態4でも、ギャップ(g)とラジアルギャップセンサ(31)の出力とを関連づけるための条件である拘束条件を3つ以上設定するとともに、前記拘束条件を用いて、ラジアルギャップセンサ(31)の出力をギャップ(g)に変換する変換式を構築する。以下でもラジアルギャップセンサ(31)を例にして、校正の原理、及び校正の手順を説明する。
【0125】
〈校正の原理〉
この例でも、回転軸(5)の可動範囲における上限又は下限の位置を通る軌跡で回転軸(5)を動かしつつ、回転軸(5)が前記上限又は前記下限の位置に存在することを検出する位置検出センサ(後述)を用いて、回転軸(5)が前記上限又は前記下限の位置にあるときのギャップセンサ(31,32)の出力を読み取り、読み取ったギャップセンサ(31,32)の出力と、前記上限又は前記下限の位置情報とによって前記拘束条件を3つ以上設定して変換式を構築する。その際、本実施形態では、位置検出センサとして、コイル(65)に流れる電流の大きさを検出する電流センサ(8)を用いる点が従前の実施形態と異なる点である。すなわち、本実施形態では、式(13)の左辺の値を求める際に、電流センサ(8)を用いて回転軸(5)が、該回転軸(5)の可動範囲における上限又は下限の位置に存在することを特定する。
【0126】
具体的に、本実施形態では、コイル(65)においてギャップ(g)に応じてインダクタンスが変化することを利用し、回転軸(5)が前記上限又は前記下限の位置に存在することを電流センサ(8)によって検出する。詳しくは、本実施形態では、ギャップ(g)がコイル(65)に流した電流の振幅に比例し、コイル(65)に印可されている電圧に反比例するという事実を利用する。具体的に本実施形態では、回転軸(5)を前記軌跡で動かすためにコイル(65)に印可される電圧に、「所定の振幅を有した電圧」を重畳するとともに、重畳した電圧の振幅と、電流センサ(8)で検出した電流の振幅との比を調べることで、回転軸(5)の可動範囲における上限又は下限の位置に存在することを特定するのである。
【0127】
このとき、印可する「所定の振幅を有した電圧」は、具体的には、回転軸(5)を浮上制御に影響しないような電圧とする。ここで、「影響しないような電圧」とは、その電圧によって回転軸(5)が動いたとしても、その動きがギャップセンサ(31,32)で検出できない程度に収まるような電圧を意味する。なお、「所定の振幅を有した電圧」としては、例えば、浮上制御のために印可する電圧(ここでは前記軌跡を実現するための電圧)よりも高周波の電圧を有した正弦波やパルスを印可することが考えられる。
【0128】
以上のようにして回転軸(5)の可動範囲における上限又は下限の位置に存在することを特定できると、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)におけるギャップ(g)を特定できる。すなわち、前記拘束条件を設定できる。そして、前記拘束条件を設定できると、例えば、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムを用いて、未知パラメータを探索的に決定することで該未知パラメータを特定できる(すなわち、変換式を構築できる)。
【0129】
〈本実施形態における校正手順〉
以上の校正の原理に基づく実際の校正手順を、ラジアルギャップセンサ(31)を例にして説明する。この校正手順も、実施形態1と同様に、例えば、別途用意したパーソナルコンピュータ(本実施形態でも、説明の便宜のため校正装置とよぶ)等に組み込んだプログラムとして、その一部乃至全部を実現できる。
【0130】
本実施形態でも、前記拘束条件を3つ以上設定するに際して、電流センサ(8)を利用して回転軸(5)(浮上体)の位置を特定し、その位置情報等を利用して前記拘束条件を設定する。また、本実施形態でも、回転軸(5)(浮上体)が、該回転軸(5)の可動範囲における上限又は下限の位置にある場合に、ラジアルギャップセンサ(31)やスラストギャップセンサ(32)の出力信号(電圧や電流)が極小値乃至は極大値となることを、前記拘束条件を設定する際に利用する。
図13に、実施形態4における校正手順をフローチャートで示す。なお、以下では、2つのラジアルギャップセンサ(31)に着目して校正する例である。
【0131】
本実施形態のフローチャートにおけるステップ(St41)でも、実施形態1のステップ(St11)と同様の処理が行われる。すなわち、校正装置からラジアル制御部(41)に所定の信号を送ることによって、回転軸(5)の中心の軌跡が、ラジアルタッチダウン軸受(6)の中心を中心とした円周となるように回転軸(5)を動かす。この動かし方によれば、回転軸(5)が所定の電磁石群(51〜54)に対して最接近の状態であるかどうか、更には最遠の状態であるかどうかを特定することができる。勿論、回転軸(5)(浮上体)を動かす際の軌跡は円周状でなくてもよい。例えば、回転軸(5)を放物線上において動かしたり、回転軸(5)を自由落下させたりしてもよい。
【0132】
また、ステップ(St42)では、前記校正装置は、第1〜第4電磁石群(51〜54)の中から何れか1つの電磁石群を選択する。選択する電磁石群は任意であるが、例えば、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)のギャップ検出方向と直交する方向に電磁力を発生させる電磁石群を選ぶことが考えられる。そして、ステップ(St42)では、「所定の振幅を有した電圧」を、選択した電磁石群(51〜54)に印可する(以下、「所定の振幅を有した電圧」を「印可電圧」とも呼ぶ)。ステップ(St43)では、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)を選択する。なお、本実施形態では、複数のラジアルギャップセンサ(31)を同時に校正することが可能である。したがって、このステップ(St43)では、複数のラジアルギャップセンサ(31)を校正対象として選択してもよい。そして、ステップ(St43)では、選択したこれらラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(vi,vj)の計測を開始する。
【0133】
ステップ(St44)では、回転軸(5)を公転運動させている最中の各ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(vi,vj)、コイル(65)への「印可電圧」、及び電流センサ(8)の検出値(電流値)を一定期間、所定の周期でサンプリングし、サンプリングして得た値を前記メモリディバイスに保存する。ここで、サンプリングする「印可電圧」や「電流値」は、何れも位置検出センサとして機能する電磁石群に係るものである。この例では、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(vi,vj)等のメモリディバイスに保存される値は、公転運動を開始してからの経過時間(時刻)と関連づけられて前記メモリディバイスに保存されている。なお、サンプリング期間は、ステップ(St42)で選択された電磁石群と、回転軸(5)とが最接近の状態となる位置、及び最遠の状態となる位置を、回転軸(5)が必ず通るように設定する。
【0134】
ステップ(St45)では、前記メモリディバイスに保存された、印可電圧、及び電流センサ(8)の検出値(電流値)の値を読み出して、重畳した電圧の振幅と、電流センサ(8)で検出した電流の振幅との比を算出する。また、ステップ(St45)では、算出した比が極小値となっていた時刻を調べる。また、ステップ(St45)では、比が極小値となっていた時刻に対応する、それぞれのラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(vi,vj)を前記メモリディバイスから読み出す。
【0135】
ステップ(St46)では、ラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(vi,vj)から検出値への変換式の中の未知パラメータを算出する。この算出には、ステップ(St45)において読み出したの出力信号(vi,vj)の値に加え、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)におけるギャップ(g)が必要である。校正対象のラジアルギャップセンサ(31)におけるギャップ(g)は、このときに回転軸(5)と、ステップ(St42)で選択された電磁石群とが最接近していることを利用して求めることができる。このようなステップ(St46)の処理により、3つ以上の前記拘束条件が設定され、未知パラメータが求められるのである。このようにして未知パラメータが求まると、校正対象となっているラジアルギャップセンサ(31)の校正作業は終了である。ただし、更に、校正の必要があるラジアルギャップセンサ(31)が残っている場合には、ステップ(St41)に戻って、校正の必要があるラジアルギャップセンサ(31)について、校正作業を継続する。
【0136】
〈本実施形態における効果〉
以上の校正手順では、実施形態1と同様の効果を得られる。また、本実施形態では、未知パラメータを求めるアルゴリズムが簡略化される。そのため、本実施形態の校正手順では、実施形態1の校正方法よりも、計算時間を短縮することが可能になる。すなわち、本実施形態では、ギャップセンサ(31,32)の校正をより容易に行うことが可能になる。しかも、本実施形態では、複数のギャップセンサを同時に校正することも可能であり、効率的な校正が可能である。
【0137】
なお、本実施形態の校正方法もスラストギャップセンサ(32)に適用できる。スラストギャップセンサ(32)でも、スラストタッチダウン軸受(7)と回転軸(5)とが接している時に、出力信号(vi,vj)が最大値又は最小値となるので、これを回転軸(5)の位置特定に利用できる。スラストギャップセンサ(32)を校正する際に回転軸(5)(円盤部(5a))を動かす軌跡としては、例えば、回転軸(5)を、該回転軸(5)の軸方向に自由落下させることが考えられる。
【0138】
《発明の実施形態5》
発明の実施形態4でも、ギャップ(g)とラジアルギャップセンサ(31)の出力とを関連づけるための条件である拘束条件を3つ以上設定するとともに、前記拘束条件を用いて、ラジアルギャップセンサ(31)の出力をギャップ(g)に変換する変換式を構築する。以下でもラジアルギャップセンサ(31)を例にして、校正の原理、及び校正の手順を説明する。
【0139】
〈校正の原理〉
−概要−
この例では、所定の軌跡で回転軸(5)を動かし、その際に回転軸(5)に作用している力と、回転軸(5)の位置との関係を示す運動方程式に基づいて、前記拘束条件を3つ以上設定する。詳しくは、回転軸(5)を「既知の初期位置」に移動させるとともに、「既知の力」を加えて、「既知の初速度」で回転軸(5)を動かし、前記運動方程式に基づいて、前記拘束条件を3つ以上設定する。
【0140】
−校正の詳細−
具体的に、本実施形態では、「既知の初期位置」として、回転軸(5)の可動範囲における最高位置を採用している。ここで、「最高位置」とは、前記可動範囲において回転軸(5)の位置エネルギーが最も高い位置である。また、「既知の力」としては、重力を利用している。そして、「既知の初速度」は、ゼロである。すなわち、本実施形態では、回転軸(5)を、該回転軸(5)の可動範囲における最高位置から自由落下させる際の運動方程式を利用する。回転軸(5)を自由落下させることで、回転軸(5)の自由落下開始からの時間に基づいて、回転軸(5)の位置を特定できる。以下では、如何にして、運動方程式によって回転軸(5)の位置を特定するかを詳しく説明する。
【0141】
ここでは、回転軸(5)の位置の原点は、ラジアルタッチダウン軸受(6)の中心と一致し、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)は、鉛直上方に取り付けられているものとする。このとき、回転軸(5)がタッチダウンベアリングの最上点(回転軸(5)の最高位置)でラジアルタッチダウン軸受(6)に接触して静止しているとき、回転軸(5)の鉛直方向の位置、及び回転軸(5)の速度は以下の式で表せる。
【0142】
y(t=0) = g
TD ・・・・(14)
dy/dt(t=0) = 0 ・・・・(15)
ここで、上式における「t」は、自由落下を開始した時からの経過時間である。g
TDは、ラジアルタッチダウン軸受(6)の内径から浮上体(5)の外径を差し引き、その結果を2で除した値である。回転軸(5)が自由落下を開始すると、回転軸(5)には、鉛直下方の重力のみが作用する。したがって、浮上体(5)における鉛直方向の運動方程式は、以下のようになる。ただし、以下の式において、mは、浮上体(5)の質量である。
【0143】
m×d
2x/dt
2 = -m×gr
・・・・(16)
ここで、式(16)を積分し、積分定数を式(14)、及び式(15)から決定すると、時間tに対する鉛直方向の浮上体(5)の位置は以下のようになる。ただし、grは、重力の加速度である(以下同様)。
【0144】
y(t) = g
TD - gr×t
2/2
この式を用いれば、回転軸(5)の位置を特定できる。このように、回転軸(5)の位置を特定できるということは、その位置に対応する時間における各ラジアルギャップセンサ(31)のギャップ(g)も算出できるということである。換言すると、回転軸(5)の位置を特定できるということは、前記拘束条件を設定できるということである。本実施形態では、拘束条件の設定は、具体的には以下のように行う。
【0145】
まず、ギャップセンサの出力信号(v)からギャップ検出値(g^)への変換式を、式(1’)と同様に出力信号(v)の2次多項式で定義したとする。この時、回転軸(5)が自由落下を開始してからラジアルタッチダウン軸受(6)に到達するまでの相異なる任意の3つの時刻t1,t2,t3を選ぶ。そうすると、その時の回転軸(5)の位置は、それぞれ、y(t1)=g
TD-gt
12/2,y(t2)=g
TD-gr×t
22/2,y(t3)=g
TD-gr×t
32/2である。また、それぞれの時刻(t1,t2,t3)に対応する出力信号(v)は、v
1,v
2,v
3であったとする。また、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)のギャップ基準長(回転軸(5)の位置がラジアルタッチダウン軸受(6)の中心であるときのギャップ長)をg
0とする。また、ギャップ検出値(g^)がギャップ(g)と一致すると仮定(g^=g)する。以上から、互いに異なる3つの時刻t1,t2,t3について、以下の3つの式が得られる。
【0146】
g
0 - (g
TD - gr×t
12/2) = av
12 + bv
1 + c
・・・・(17)
g
0 - (g
TD - gr×t
22/2) = av
22 + bv
2 + c
・・・・(18)
g
0 - (g
TD - gr×t
32/2) = av
32 + bv
3 + c
・・・・(19)
これらの式(17)〜(19)により、前記拘束条件を設定できたことになり、未知パラメータa,b,cを求めることができる。未知パラメータが求まれば、変換式を構築(すなわち「校正」)ができたことになる。
【0147】
〈本実施形態における校正手順〉
以上の校正の原理に基づく実際の校正手順を、ラジアルギャップセンサ(31)を例にして説明する。この校正手順も、実施形態1と同様に、例えば、別途用意したパーソナルコンピュータ(本実施形態でも、説明の便宜のため校正装置とよぶ)等に組み込んだプログラムとして、その一部乃至全部を実現できる。
【0148】
以下の説明では、では、ラジアル磁気軸受(21)の第3電磁石群(53)と第4電磁石群(54)の対向方向(すなわちY方向)が重力の作用方向とする(
図2参照)。また、回転軸(5)の最高位置(回転軸(5)の可動範囲において回転軸(5)の位置エネルギーが最も高い位置)は、第3電磁石群(53)に吸引されて磁気軸受コア(61)に接している位置とする。
【0149】
図14に、実施形態5における校正手順をフローチャートで示す。
図14に示すステップ(St51)では、第3電磁石群(53)を構成する第5及び第6電磁石(75,76)の各コイル(65)に電流を流すことで所定の電磁力を発生させているのである。つまり、ステップ(St51)では、回転軸(5)に鉛直上方の力をかけて回転軸(5)を引き上げている。ここで、第3電磁石群(53)とラジアルタッチダウン軸受(6)の中心とを結ぶ線が、第3電磁石群(53)によって生ずる電磁力の作用線と一致しているものとすると、回転軸(5)は、ラジアルタッチダウン軸受(6)内の最上点でラジアルタッチダウン軸受(6)に接触して静止する。すなわち、ステップ(St51)では、回転軸(5)をその最高位置に移動させているのである。ステップ(St52)では、第5及び第6電磁石(75,76)の各コイル(65)への通電を停止し、回転軸(5)を重力によって自由落下させる。
【0150】
ステップ(St53)では、回転軸(5)が自由落下する間、第5及び第6電磁石(75,76)への通電を停止してからの時刻と、校正対象のラジアルギャップセンサ(31)の出力信号(v)を、連続的にサンプリングして、取得した出力信号(v)とそれに対応する時刻とを互いに関連づけて、前記メモリディバイスに格納する。
【0151】
ステップ(St54)では、自由落下中は、回転軸(5)にかかる力が重力のみであることを利用して、自由落下時の運動方程式を解き、前記積分定数を、通電停止時の回転軸(5)の位置(具体的には、ラジアルタッチダウン軸受(6)内の最上点)の座標値によって決定する。
【0152】
ステップ(St55)では、まず、ステップ(St53)においてサンプリングされている、自由落下中の3点以上の時刻を選択する。時刻の選択が終わると、前記メモリディバイスに格納されている出力信号(v)の値と、出力信号(v)のそれぞれに対応する時刻との関係を、自由落下時の関係式(式(17)〜(19)参照)に当てはめる。具体的には、時刻から、式(17)〜(19)の各左辺の値を算出する。また、その時刻に対応する出力信号(v)から、式(17)〜(19)の各右辺を構成する。これにより、3つ以上の前記拘束条件を設定できたことになる。このように、3つ以上の前記拘束条件が定まると、式(17)〜(19)の連立方程式を解くことで、未知パラメータ(式(17)〜(19)の右辺を参照)を求めることができる(ステップ(St56)参照)。全ての未知パラメータが求まると、校正対象となっているラジアルギャップセンサ(31)の校正作業は終了である。
【0153】
〈本実施形態における効果〉
以上の校正手順では、実施形態1と同様の効果を得られる。また、本実施形態では、未知パラメータを求めるアルゴリズムが簡略なので、本実施形態の校正手順では、実施形態1の校正方法よりも、計算時間を短縮することが可能になる。すなわち、本実施形態では、ギャップセンサ(31,32)の校正をより容易に行うことが可能になる。しかも、本実施形態では、複数のギャップセンサを同時に校正することも可能であり、効率的な校正が可能である。
【0154】
なお、「既知の力」としては、ラジアル磁気軸受(21)が備える電磁石(71〜78)の電磁力を利用してもよい。勿論、一般的に、浮上体(5)には重力が常に作用するので、電磁石(71〜78)の電磁力を利用する場合の運動方程式においては重力も勘案する必要がある。
【0155】
また、「既知の初期位置」も例示であり、回転軸(5)の可動範囲における最高位置には限定されない。例えば、重力方向と、回転軸(5)を初期位置に移動させるための電磁石群(51〜54)の電磁力の作用線とがずれている場合には、その電磁石群(51〜54)に最接近した位置を「既知の初期位置」とすることが考えられる。
【0156】
また、本実施形態の校正方法もスラストギャップセンサ(32)に適用できる。例えば、スラストタッチダウン軸受(7)と回転軸(5)とが接している時に、回転軸(5)が最高位置となるように、磁気軸受装置(10)が配置されている場合(例えば、回転軸(5)の軸方向が重力の作用方向と一致する場合)には、回転軸(5)を軸方向に自由落下させて、上述の校正方法を実施することが考えられる。
【0157】
《その他の実施形態》
なお、各実施形態で説明した校正手順は、前記のように独立した校正装置(パーソナルコンピュータ)に実装する代わりに、磁気軸受装置(10)内にソフトウエアといった形で組み込んでもよい。磁気軸受装置(10)に組み込む場合には、例えば、制御器(40)内に、該制御器(40)が実行するプログラムとして実装することが考えられる。
【0158】
また浮上体(5)の位置制御(浮上制御)における位置の基準となる基準物は、ラジアルタッチダウン軸受(6)やスラストタッチダウン軸受(7)には限定されない。例えば、ラジアルギャップセンサ(31)やスラストギャップセンサ(32)を基準物とすることが考えられる。この場合は、例えば、ギャップセンサ(31,32)の先端と回転軸(5)の間の距離がギャップ(g)である。