(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0011】
<1:回転電機の全体構成>
図1を参照しつつ、本実施形態に係る回転電機1の全体構成の一例について説明する。なお、
図1ではフレーム、巻線、及びシャフトなどの図示は省略されている。
【0012】
図1において、回転電機1は、固定子鉄心2と、回転子鉄心3と、永久磁石4を有する。回転電機1は、モータとして使用されてもよいし、発電機として使用されてもよい。
【0013】
固定子鉄心2は、全体が略円筒形状に形成され、図示しない筒状のフレームの内周に設けられている。回転子鉄心3は、全体が略円筒形状に形成され、図示しないシャフトの外周に固定されるとともに、上記固定子鉄心2の内周面に対して径方向に対向するように配置される。固定子鉄心2及び回転子鉄心3は、それぞれ略円環状の薄板電磁鋼をシャフトの軸方向(
図1中の紙面直交方向)に積層して形成される。
【0014】
図1に示す例では、固定子鉄心2は、図示しない巻線が巻回される複数のティース(この例では36本)を内周部に有している。また、回転子鉄心3は、複数の永久磁石4の配置に応じて周方向(回転方向)の複数箇所に形成された複数の磁極部5(この例では12箇所)を外周部に有している。これにより、本実施形態の回転電機1は、いわゆる12P36S(12極36スロット)のスロットコンビネーション構成となっている。但し、回転電機1のスロットコンビネーション構成は上記以外でもよい。
【0015】
<2:回転子鉄心における各磁極部の構成>
図2を用いて、各磁極部5の構成の一例について説明する。
図2は、回転子鉄心3において周方向に隣合う3つの磁極部5を拡大して示している。この
図2において、各永久磁石4は、軸方向に垂直な方向の断面(以下、軸直交断面という)において例えば略矩形形状に形成されている。そして、軸直交断面において外周側に向けて開いた態様の略V字状に配置された一対の永久磁石4が、回転子鉄心3の外周部に複数対埋め込まれている。つまり、回転子鉄心3はいわゆるIPM型(Internal Permanent Magnet)である。そして、回転子鉄心3のうち略V字状に配置された一対の永久磁石4の間に挟まれた領域(V字の内周角領域)が磁極部5に相当する。
【0016】
なお、回転子鉄心3の固定子鉄心2と対向する外周側面のうち、一対の永久磁石4の間に挟まれた領域の面(後述の円弧面5a)を磁極部という場合もあるが、本実施形態では円弧面5aの径方向内側の領域である一対の永久磁石4の間に挟まれた内部領域も含めて磁極部という。
【0017】
そして、各磁極部5における一対の永久磁石4は、N極の磁極部5では磁束が互いに向かい合うように、S極の磁極部5では磁束が互いに離れ合うような磁化方向に着磁されている。例えば、
図2中の左側に位置する磁極部5は、一対の永久磁石4が互いに磁束が向かい合うようにそれぞれ着磁されているため、N極の磁極部である。そして、複数の磁極部5は、周方向に隣接する磁極部5どうしが互いに逆の極性となるように、周方向に等間隔に配置されている。
【0018】
なお、上記「等間隔」は厳密な意味ではなく、設計上、製造上の公差、誤差等が許容される。すなわち、「実質的に等間隔」という意味である。
【0019】
各磁極部5は、軸直交断面における形状が回転子鉄心3の最大外径部分の円周である外周円11とは異なる曲率の円弧形状となる円弧面5aを有している。また、回転子鉄心3は、隣合う磁極部5の間に周方向の幅が所定の寸法となるように形成された突起部6を有している。以下、これら円弧面5aと突起部6について順に詳述する。
【0020】
<3:各磁極部の円弧面について>
図2において、外周円11は、図示しないシャフトの回転軸上に位置する中心OCを中心とする半径Rの円周である。回転子鉄心3は、最大外径部分が外周円11上に位置する(言い換えれば内接する)ように形成されている。つまり、回転子鉄心3の最大外径は2Rである。
【0021】
各磁極部5の外周側面である円弧面5aは、軸直交断面における形状が回転子鉄心3の外周円11の半径Rよりも小さな曲率半径rの円弧形状となるように形成されている。円弧形状の中心OAは、上記中心OCと磁極部5の周方向における中心位置P1とを結ぶ直線上において、中心位置P1から曲率半径rだけ径方向内側に位置する。
【0022】
なお、上記外周円11や円弧面5a等における「円」は厳密な意味ではなく、設計上、製造上の公差、誤差等が許容される。すなわち、「実質的に円」という意味である。
【0023】
回転子鉄心3は、上記のように円弧面5aの曲率半径rが外周円11の半径Rよりも小さく設定されることで、各磁極部5において外周側に膨らみ磁極部5相互間において内周側に凹んだ形状(いわゆる花弁形状)となる。また、磁極部5の円弧面5aは、当該磁極部5の周方向における中心位置P1において外周円11上に位置している。つまり、磁極部5の円弧面5aは、中心位置P1で外周円11に内接している。これにより、固定子鉄心2と回転子鉄心3とのギャップdの大きさは、磁極部5の周方向中心位置Pにおいて最小となり、磁極部5の周方向両側に向けて徐々に増大する。その結果、ギャップdの大きさを最適化して磁束密度分布を正弦波状に近似させ、コギングトルクを低減することが可能となる。
【0024】
次に、円弧面5aの曲率半径rの設定手法の一例について説明する。
図3に、外周円11と円弧面5aの曲率半径比に対する誘起電圧とコギングトルクの変化曲線の一例を示す。この
図3において、横軸は外周円11の曲率半径Rに対する円弧面5aの曲率半径rの比r/Rに対応する。また縦軸は、誘起電圧とコギングトルクのそれぞれについて、外周円11と円弧面5aで曲率半径が同じ場合(つまり比r/R=100%)における最大値を1とした場合に対する変化値の割合を正規化して示した数値に対応する。
【0025】
この
図3に示す例では、曲率半径比r/Rの増加に対して誘起電圧とコギングトルクのいずれも増加するよう変化する。しかし、誘起電圧は曲率半径比r/Rが約50%以上で約90%以上の高い値を維持していることに対し、コギングトルクは曲率半径比r/Rが100%から少しでも減少すると急激に低下する傾向がある。
【0026】
ここで一般的な回転電機1の設計においては、その回転電機1の特性上、誘起電圧は低下させずにできるだけ高い値(例えば約90%以上)に設定することが望ましい。また、コギングトルクは回転子(回転子鉄心3)の回転に伴って生じるトルクの脈動である。回転電機1においては、コギングトルクが大きいと回転子の滑らかな回転が阻害され、効率や回転制御の精度が低下する可能性がある。また、コギングトルクは騒音や振動の原因となりうる。このためコギングトルクは、できるだけ低い値(例えば約10%以下)に抑えることが望ましい。以上から、
図3に示す例においては、外周円11に対する円弧面5aの曲率半径比r/Rを最小値X1と最大値X2の間(50%前後)に設定することが望ましい。本実施形態では、
図2に示すように、円弧面5aの曲率半径rは外周円11の半径Rの約50%となるように設定されている。
【0027】
<4:各磁極部間の突起部について>
図4は、2つの磁極部5の間に位置する1つの突起部6を拡大して示している。この
図4において、回転子鉄心3は複数の突起部6を有しており、各突起部6は周方向に隣合う磁極部5の間にそれぞれ位置している。突起部6は、磁極部5同士の中間位置において円弧面5aに対して径方向外側に向けて突出しており、当該突起部6の外周側の表面6aが外周円11上に位置する。
【0028】
各突起部6は、周方向の両側に円弧面5aとの角度θが鋭角となる側面6bを有することで、軸直交断面における形状が略矩形状となるように形成されている。なお、突起部6の断面形状は上記矩形以外にも、例えば台形や円弧等でもよい。
【0029】
各突起部6は、周方向において、周方向に隣り合う一対の永久磁石4A,4Bと一対の永久磁石4C,4Dとの間に配置される。具体的には、各突起部6は、周方向の位置が、一方側の永久磁石4Bの最も外周側となる角部P2と他方側の永久磁石4Cの最も外周側となる角部P3との間となるように配置される。そして、突起部6の周方向幅W2は、一方側の永久磁石4Bの角部P2と他方側の永久磁石4Cの角部P3との間の周方向の距離W1に対して所定の割合となるように設定されている。
【0030】
次に、突起部6の周方向幅W2の設定手法の一例について説明する。
図5に、突起部6の周方向幅比に対する負荷電流の変化曲線の一例を示す。この
図5において、横軸は上記角部P2,P3間の距離W1に対する突起部6の周方向幅W2の比W2/W1に対応する。また縦軸は、同じ負荷状態において流れる負荷電流について、突起部6を設けていない場合(つまりW2/W1=0%)における最大値を1とした場合に対する変化値の割合を正規化して示した数値に対応する。
【0031】
この
図5に示す例では、突起部6の周方向幅比W2/W1が約55%の場合に負荷電流が最小値を取り、そこから突起部6の周方向幅比W2/W1が増減するに伴って負荷電流が増加するように変化する。このような負荷電流における放物曲線状の変化は、リラクタンストルクと漏れ磁束量の変化に起因している。
【0032】
ここでリラクタンストルクとは、各磁極部5において固定子鉄心2側の磁界から径方向に受ける引力と斥力の周方向分力により生じるトルクである。回転子鉄心3が上述のように花弁形状(r<R)に形成されている場合、突起部6の周方向幅比W2/W1を小さくすると、各磁極部5におけるインダクタンスの突極比が減少し、リラクタンストルクが低下する。これにより、同じ負荷状態に対して回転電機1に流れる電流(負荷電流)が増加し、損失が増加(効率が低下)する。
【0033】
一方、突起部6の周方向幅比W2/W1を大きくすると、回転子鉄心3が上述の花弁形状(r<R)に形成されている場合であっても、q軸磁束を増加させて突極比とリラクタンストルクを増加できる。しかしながら、突起部6の周方向幅比W2/W1を大きくしすぎると、突起部6と隣接する磁極部5との間で漏れ磁束量が増加してしまい、磁石トルクが減少(負荷電流が増加、効率が低下)する。
【0034】
以上から、
図5に示す例においては、突起部6の周方向幅比W2/W1を約50%〜約60%に設定することが望ましい。この範囲では、負荷電流の放物曲線状の変化が最小値近傍となるからである。これにより、磁石トルクとリラクタンストルクとの合成トルクが最大となり、負荷電流が最小となるように、突起部6の幅W2を最適化できる。本実施形態では、
図4に示すように突起部6の周方向幅比W2/W1が約55%となるよう設定されている。
【0035】
<5:回転子鉄心の製造方法>
以上説明した外形である回転子鉄心3の製造方法の一例を説明する。例えば、半径Rの円筒状の回転子鉄心の外周面(軸直交断面形状が外周円11と同一の形状である外周面)の周方向複数箇所を円弧状に切り欠く(言い換えると円弧状の凹部を形成する)ことが考えられる。このときに切り欠かれる部分である切り欠き部(凹部)Y1,Y2を、
図4にハッチングで示す。これにより、切り欠かれた結果の形状が外周面と異なる曲率の円弧形状となった円弧面5aが形成されると共に、磁極部5間の切り欠かない部分に上記外周面の一部を構成する複数の突起部6を形成することができる。
【0036】
具体的には、例えば、回転子鉄心3を構成する各電磁鋼薄板に対し、円形状の外周縁部から上記切り欠き部Y1,Y2に相当する部分が例えば打ち抜き加工等によって削除され、それらの電磁鋼薄板が軸方向に積層されることで、回転子鉄心3が製造される。
【0037】
<6:実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態の回転電機1によれば、回転子鉄心3の磁極部5が、軸直交断面における形状が回転子鉄心3の外周円11とは異なる曲率の円弧形状である円弧面5aを備える。これにより、回転子鉄心3と固定子鉄心2とのギャップdの大きさを最適化して磁束密度分布を正弦波状に近似させ、コギングトルクを低減することが可能となる。その結果、高効率化や回転制御の高精度化が可能となると共に、騒音や振動についても低減できる。したがって、回転電機1の性能が向上する。
【0038】
また、本実施形態では特に、磁極部5の円弧面5aの曲率半径rは、回転子鉄心3の外周円11の半径Rよりも小さく設定される。これにより、回転子鉄心3を、各磁極部5において外周側に膨らみ磁極部5相互間において内周側に凹んだ形状とすることができる。その結果、回転子鉄心3と固定子鉄心2とのギャップdの大きさを磁極部5において小さくしつつ磁極部5相互間では増大させて最適化することが可能となるので、コギングトルクを低減できる。
【0039】
また、本実施形態では特に、曲率半径rの半径Rに対する割合r/Rは、曲率半径rと半径Rが等しい場合に比べて、コギングトルクが所定の割合(例えば10%)以下に低減され、且つ、誘起電圧の低下が所定の割合(例えば10%)以内に収まるように、設定される。これにより、誘起電圧の低下を抑制しつつ、コギングトルクを大幅に低減することができるので、回転電機1の性能を向上できる。
【0040】
また、本実施形態では特に、磁極部5の円弧面5aは、当該磁極部5の周方向における中心位置P1において外周円11上に位置する。これにより、回転子鉄心3と固定子鉄心2とのギャップdの大きさを磁極部5の周方向中心位置P1において最小としつつ磁極部5の周方向両側に向けて徐々に増大させて最適化することが可能となるので、コギングトルクの低減効果を高めることができる。
【0041】
また、本実施形態では特に、回転子鉄心3が複数の磁極部5の間に外周側の表面6aが外周円11上に位置する突起部6を有する。これにより、q軸磁束を増加させて突極比を増大できるので、リラクタンストルクを増大でき、効率の低下を抑制できる。
【0042】
また、本実施形態では特に、突起部6は、周方向の両側に磁極部5の円弧面5aとの角度θが鋭角となる側面6bを有する。これにより、突起部6の断面形状を略矩形状とすることができるので、突起部6の幅を精度良く設定できる。また、突起部6を台形状とする場合に比べて、永久磁石4の外周側端部との間の漏れ磁束の量が増加する可能性を低減できる。
【0043】
また、本実施形態では特に、永久磁石4のV字状配置により各磁極部5における磁束の集中効果を高め、磁石トルクを増大できる。また、突起部6を一方側の永久磁石4Bの最も外周側となる角部P2と他方側の永久磁石4Cの最も外周側となる角部P3との間に配置することにより、永久磁石4B,4Cの角部P2,P3と磁極部5の円弧面5aとの間の隙間を小さくでき、永久磁石4B,4Cの角部P2,P3近傍における漏れ磁束の量を低減できる。
【0044】
また、本実施形態では特に、突起部6は、一方側の永久磁石4Bの角部P2と他方側の永久磁石4Cの角部P3との間の周方向の距離W1を100%とした場合に、周方向の幅W2が50%〜60%となるように形成されている。これにより、磁石トルクとリラクタンストルクとの合成トルクが最大となり、負荷電流が最小となるように、突起部6の幅W2を最適化することが可能となる。
【0045】
また、回転子鉄心3は、円筒状の回転子鉄心の外周面を切り欠いて複数の円弧面5aを形成すると共に、切り欠かない部分を残して複数の円弧面5aの間に複数の突起部6を形成することによって、製造される。このような回転子鉄心3の製造方法によれば、回転子鉄心3の製造を容易化できる。
【0046】
なお、以上の説明において、「垂直」「平行」「平面」等の記載がある場合には、当該記載は厳密な意味ではない。すなわち、それら「垂直」「平行」「平面」とは、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実質的に垂直」「実質的に平行」「実質的に平面」という意味である。
【0047】
また、以上の説明において、外観上の寸法や大きさが「同一」「等しい」等の記載がある場合は、当該記載は厳密な意味ではない。すなわち、それら「同一」「等しい」とは、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実質的に同一」「実質的に等しい」という意味である。
【0048】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。その他、一々例示はしないが、上記実施形態や各変形例は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。