特許第6806388号(P6806388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6806388口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物、およびこれを用いた口内炎の予防および/または治療用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6806388
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物、およびこれを用いた口内炎の予防および/または治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/44 20170101AFI20201221BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20201221BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20201221BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20201221BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 36/63 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 36/47 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   A61K47/44
   A61K9/08
   A61P1/02
   A61P29/00
   A61P31/04
   A61K47/10
   A61K45/00
   A61K31/047
   A61K36/899
   A61K36/185
   A61K36/63
   A61K36/47
   A61K47/46
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-229561(P2019-229561)
(22)【出願日】2019年12月19日
【審査請求日】2019年12月19日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】315019229
【氏名又は名称】株式会社ハニック・ホワイトラボ
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】浦井 薫子
(72)【発明者】
【氏名】和田 幸子
(72)【発明者】
【氏名】浦井 康孝
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−142112(JP,A)
【文献】 BMC Complementary and Alternative Medicine,2017年,Vol.17,313 pp.1-8
【文献】 Molecules,2012年,Vol.17,pp.12603-12611
【文献】 Journal of Ethnopharmacology,2007年,Vol.109,pp.486-492
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00 −36/9068
A61K 9/00 − 9/72
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンおよびセラックと、
エタノールと、
を含有し、
前記ロジンの含有量が組成物の全量に対して1重量%以上15重量%以下であり、
前記セラックの含有量が組成物の全量に対して35重量%以上45重量%以下であり、
前記エタノールの含有量が組成物の全量に対して49重量%以上53重量%以下であり、
ロジン、セラックおよびコパールの合計含有量が組成物の全量に対して45重量%以上55重量%以下であり、コパールが含まれる場合のコパールの含有量が組成物の全量に対して0重量%超8重量%以下である、口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物。
【請求項2】
コパールをさらに含有する、請求項1に記載の口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物。
【請求項3】
前記コパールの含有量が組成物の全量に対して0重量%を超えて6重量%以下である、請求項2に記載の口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物。
【請求項4】
薬効成分および/または保湿成分を含む副成分をさらに含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物。
【請求項5】
前記副成分の含有量が組成物の全量に対して1重量以下である、請求項に記載の口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物。
【請求項6】
前記薬効成分が、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、消炎鎮痛剤、抗生物質、ビタミン剤、生薬および漢方製剤からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項またはに記載の口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物。
【請求項7】
前記保湿成分が、グリセリン、小麦胚芽油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ホホバ油、ヒマシ油および植物抽出成分からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項のいずれか1項に記載の口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物からなる、口内炎の予防および/または治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内粘膜に塗布して被膜を形成することにより、口腔内の傷や炎症の悪化を抑制または治癒させるための、抗炎症作用および抗菌作用を有する口腔内粘膜被覆用液状組成物、並びにこれを用いた口内炎の予防および/または治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から創傷の保護や刺激を防ぐ目的で、皮膚上に被膜を形成させて保護する皮膚保護剤として、液体絆創膏や液体包帯などが提案されている。液体絆創膏の被膜形成剤には、ニトロセルロースやオクチルシアノアクリレートなどが用いられ、溶媒には酢酸エチルやエチルエーテルなどが使用されている。酢酸エチルやエチルエーテルは人体に対して毒性を有するので、このような液体絆創膏を口腔内で使用することは好ましくない。また、被膜により外部からの刺激から保護することはできるが、被膜形成剤そのものに抗炎症作用があるものではなく、抗炎症作用を有する薬効成分を添加するものであった。
【0003】
最近、口腔内の炎症治療剤としては、パッチ状の口内炎治療薬が提案されている〔アフタッチ(登録商標)、帝人ファーマ−佐藤製薬製:(非特許文献1参照)〕。この口腔内治療薬は、トリアムシノロンアセトニド等の薬効成分をカルボキシビニルポリマー等の親水性樹脂に混合し、パッチ状に成形したものを患部に貼付して、薬剤の徐放性効果を狙ったものである。
【0004】
また、軟膏状にして口腔内の患部に塗布する軟膏状の口内炎治療薬も提案されている〔オルテクサー(登録商標)口腔用軟膏0.1%、ビーブランド・メディコーデンタル社製、日本ジェネリック社販売:(非特許文献2参照)〕。この軟膏はゲル化可能な基剤中に、消炎性ステロイド薬であるトリアムシノロンアセトニドを添加したものである。
【0005】
さらに、ロジンの抗菌性に着目した口腔ケア組成物も提案されている(特許文献1および特許文献2参照)。また、従来、口腔内に適用された場合に唾液によって粘着性の被膜を形成し、唾液で流されることなく長時間に亘って確実に患部に滞留する口腔用滞留型基剤として、低級アルコールに可溶で水に不要または難溶の造膜性高分子物質(エチルセルロース、ポリ酢酸ビニルなど)と粘着付与樹脂(ロジン系樹脂またはセラック系樹脂など)とをアルコール溶剤に溶解して液状またはペースト状に形成した粘着性被膜形成可能な口腔用滞留型基剤に関する発明が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−66523号公報
【特許文献2】特表2009−514789号公報
【特許文献3】特開昭62−142112号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「口内炎治療薬・アフタッチ」、最近の新薬2007年版、薬事日報社発行、285−286頁
【非特許文献2】「オルテクサー(登録商標)口腔用軟膏0.1%」添付文書 2017年12月改訂(第2版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の口腔内で使用するパッチ状の口内炎治療薬は、トリアムシノロンアセトニドを主成分とするもので、その形状は直径約7mm、厚さ1.1mmの円形状の固形物である。この円形状の固形物のパッチを患部に貼るときは、指で押さえて付着させるが、痛くて苦痛を感じるばかりでなく、厚みがあるために舌で触るとすぐに取れてしまう。また、舌触りが悪くかなり違和感があり、物を食べたり水を飲んだりするとすぐに剥がれてしまうという欠点があるなど、子供には不向きである。入院患者や老人等ではこのパッチを誤飲する可能性が高く、食道粘膜に付着して重い合併症を併発させる可能性がある。
【0009】
また、非特許文献2に記載の口腔内で使用する軟膏状の口内炎治療薬は、トリアムシノロンアセトニドを主成分とするもので、この軟膏を患部に塗るには指や綿棒を使うが、なかなか付着しにくいことから、特に子供には不向きである。さらに、付着した軟膏はねっとりしたざらざら感があり不快な感じがするだけでなく、味も違和感がある。さらに、舌などが触れると取れてしまうことから、持続時間も短い。また、塗った後しばらくは食べ物や飲み物を控えなくてはならないという欠点がある。
【0010】
特許文献1に記載の歯周病菌増殖抑制剤は、ロジン、ロジン加工物質等を歯周病や歯肉炎の発症に関与している口腔内細菌に対する抑制剤としてチューインガム、キャンディ、歯磨きまたは洗口液等の口腔用組成物に添加するものである。なお、その添加量は、0.001〜1重量%と非常に微量である。特許文献1に記載のチューインガムの主体はガムベースおよび糖類であって、口腔内に長時間残留するものの、口腔内の粘膜に付着するほどの粘着性は有していない。むしろ歯や口腔内の粘膜に付着しない材料を選定して使用している。ロジン、ロジン加工物質についても、上述したようにその添加量はごく微量であるため、製品の粘着性にはほとんど関与していない。特許文献1に記載のキャンディの主体もグラニュー糖および水あめであり、これも歯や口腔内の粘膜に付着しない材料を選定している。ロジン、ロジン加工物質についても、その添加量はごく微量であるため、製品の粘着性にはほとんど関与していない。特許文献1に記載の歯磨きの主体は第2リン酸カルシウム等の研磨剤およびグリセリンであり、この製品の材料についても、歯や口腔内の粘膜に付着しないものを選定している。特許文献1に記載の洗口液は水およびエタノール溶液を主体とするものであり、これに微量のロジン、ロジン加工物質が添加されているに過ぎない。したがって、この洗口液は液状組成物であるものの、口腔内の粘膜に被膜を形成する能力は備えていない。
【0011】
特許文献2に記載の口腔ケア組成物は、齲歯、歯肉炎および他の歯周病に関与する細菌に対する抗菌剤として木樹脂またはその抽出物もしくはその誘導体を含む組成物を使用している。そして木樹脂としてはロジンまたはコロホニウムを使用しているが、その使用の実態は、この抗菌剤をチューインガム、歯磨き剤、洗口剤にごく微量添加している。その添加量は請求の範囲では1〜10,000ppm(すなわち、0.0001〜1%)と限定しており、実施例の洗口液では0.01〜0.001%、練り歯磨きでは0.1〜0.001%と極めて微量である。また、実施例の製品である洗口剤は、ロジン酸0.1%アルカリ水溶液に多量のエタノールおよび水を加えて調製しているため、口腔内の粘膜に粘着して被膜を形成する能力はまったくない。また、練り歯磨きについても、シリカ、二酸化チタン等の研磨剤、グリセリン、キサンタンガム等の増粘剤を加えて製造しているが、ロジンの量は0.001%と微量であり、粘着材または被膜形成材としてはまったく機能していない。また、製品の歯磨き剤自体も口腔内の粘膜に付着しないようにその材料を選定している。
【0012】
さらに、本発明者らの検討によれば、特許文献3に記載の口腔用被膜形成可能な滞留型基剤は速乾性の点で問題があることが判明した。これは、エチルセルロースやポリ酢酸ビニルといった造膜性高分子物質の含有量が比較的多いことによるものと推測されている。
【0013】
本発明は、上述したような従来の口腔ケア製品とは異なり、口腔内の粘膜に付着して速乾性・持続性に優れた被膜を形成し、傷や炎症を生じている患部などを覆うことで外部の刺激から保護し、傷や炎症の悪化を防止し、治癒させるための口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、ロジンおよびセラック(並びに場合によってはさらにコパール)を所定の含有量で溶媒中に含有する組成物を口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物として用いることで、上記の課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明の一形態に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物は、ロジンおよびセラックと、溶媒とを含有するものである。そして、当該組成物は、前記ロジンの含有量が組成物の全量に対して1重量%以上15重量%以下であり、前記セラックの含有量が組成物の全量に対して35重量%以上45重量%以下であり、ロジン、セラックおよびコパールの合計含有量が組成物の全量に対して45重量%以上55重量%以下である点に特徴を有している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の口腔ケア製品とは異なって、上述したような課題を解決し得る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一形態は、ロジンおよびセラックと、溶媒とを含有し、前記ロジンの含有量が組成物の全量に対して1重量%以上15重量%以下であり、前記セラックの含有量が組成物の全量に対して35重量%以上45重量%以下であり、ロジン、セラックおよびコパールの合計含有量が組成物の全量に対して45重量%以上55重量%以下である、口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物である。
【0018】
ロジンに齲蝕原因菌、歯周病原因菌に対する抗菌作用や抗炎症作用があることについては、上述した先行技術文献にも記載されているように公知である。しかしながら、口腔内の炎症や傷などを外部からの刺激から保護すると同時に抗炎症作用や抗菌作用を持続させるために、ロジンを含む被膜でその傷口や炎症部位を被覆することは知られていなかった。本発明者らによる検討の結果、ロジンの抗炎症作用はその含有量が0.1重量%よりも多い場合に発揮されることが確認された。したがって、本発明に係る組成物を口腔内で使用する場合には、徐々に溶解および浸透することを考慮して、その10倍存在すれば上述の効果が発揮されるものと仮定して、ロジンの含有量の下限値を1重量%と設定した。
【0019】
また、ロジンは松ヤニから得られた樹脂成分であることから、ロジンのエタノール溶液は被膜を形成する性質を有している。しかしながら、ロジン単独の溶液で被膜を形成した場合、被膜の持続性が短いという問題がある。また、この場合には粘膜への刺激が強く、口腔内での被膜によるごわごわした感触があり、使用時に不快感があるという問題もある。さらに、ロジンは一般に固形状のガムロジンとして市販されているが、口腔内粘膜被覆用の組成物に使用する場合にはエタノール等の溶媒に溶解して使用する必要がある。ここで、ロジンのエタノール溶液を製造するには、ロジンをエタノールに投入して撹拌しながら溶解させるが、ロジン溶液の濃度が数重量%であれば数分間の撹拌で十分であるものの、濃度が高くなると数時間を要する場合もある。また、ロジンには刺激性があるため、ロジンの量を多くすると患部を刺激して痛みを生じることがあることから、ロジンの濃度を上げすぎることは好ましくない。さらに、エタノール溶媒に溶解したロジンの濃度を上げすぎると、患部に塗布してできた被膜の表面がざらつき、舌触りが悪くなり不快感を与えるばかりでなく、被膜の表面がひび割れて剥がれやすくなるという問題がある。
【0020】
一方、セラックは、被膜形成のビヒクル(基材)としてはロジンより優れた性能を有していることから、ロジンに加えてセラックをさらに配合することで、基材の配合がより好ましいものとなっているものと考えられる。セラックは通常、20〜50%のエタノール溶液として市販されている。したがって、市販の溶液にエタノールを添加することでこれよりも低濃度のセラック溶液を容易に得ることができる。また、50%よりも高い濃度のエタノール溶液を得るためには、40℃前後の温浴でエタノール分を蒸発させることで、または市販の溶液に乾燥粉末セラックを添加することで調製が可能である。
【0021】
以上のような知見に基づき完成された本発明に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物は、樹脂成分としてのロジンおよびセラック並びにそれらの溶媒を主成分として含有する点に特徴がある。そして、当該溶媒としては、エタノールが好ましく用いられる。
【0022】
また、本発明に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物において、上述した樹脂成分であるロジンの含有量は、組成物の全量に対して1重量%以上15重量%以下であり、好ましくは1重量%以上10重量%以下である。また、同様に樹脂成分であるセラックの含有量は、組成物の全量に対して35重量%以上45重量%以下であり、好ましくは35重量%以上40重量%以下である。そして、ロジン、セラックおよびコパールの合計含有量は、組成物の全量に対して45重量%以上55重量%以下であることが必須であり、好ましくは47重量%以上51重量%以下である。ここで、本発明に係る組成物においてコパールの含有は必須ではないが、コパールを含有しない場合にはロジンおよびセラックの合計含有量が上記の規定を満足するものとする。このような特徴を備えた本発明に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物を口腔内の粘膜に塗布すると、エタノール等の溶媒が蒸発し、樹脂の被膜が形成される。なお、本発明に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物における溶媒の含有量は、55重量%以下となる。
【0023】
さらに、本発明に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物において、エチルセルロース、ポリ酢酸ビニルおよび硝酸セルロースの含有量(これらの複数が含まれる場合には合計含有量)は0.5重量%未満であることが好ましい。また、より好ましくは、エチルセルロース、ポリ酢酸ビニルおよび硝酸セルロースを含む造膜性高分子物質(ロジン、セラックおよびコパールを除く)の含有量が0.5重量%未満である。これは、上述した成分の含有量が0.5重量%以上であると、口腔内に形成された被膜の速乾性が低下する虞があるためである。本発明に係る組成物の適用時には、組成物が乾燥するまで口を開けておく必要があることから、速乾性の悪化は使用者の苦痛を増加させてしまう。なお、上記成分の含有量は、好ましくは0.45重量%以下であり、より好ましくは0.3重量%以下であり、さらに好ましくは0.2重量%以下であり、特に好ましくは0.1重量%以下であり、最も好ましくは0重量%(非含有)である。なお、造膜性高分子物質とは、乾燥工程で物体表面に薄膜を形成できる高分子を意味する。
【0024】
本発明に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物は、樹脂成分であるコパールをさらに含有することが好ましい。本発明に係る組成物によれば、ロジンの配合によって被膜の表面がざらつく場合があるが、コパールをさらに含有することで形成される被膜の表面をいっそう滑らかにすることができ、ごわごわ感を低減させることができるという利点がある。コパールの含有量は特に制限されないが、コパールは独特の樹脂臭を有していることや、コパールの配合量が多すぎるとごわごわ感が逆に大きくなる場合もあることから、コパールの含有量は組成物の全量に対して0重量%を超えて10重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上8重量%以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物は、本発明の作用効果に悪影響を及ぼさない限り、副成分をさらに含有してもよい。このような副成分としては、例えば、薬効成分や保湿成分が挙げられる。これらの副成分の含有量は、組成物の全量に対して1重量%以下であることが好ましい。
【0026】
副成分として含有されうる薬効成分としては、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸等の抗炎症剤、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤、トリアムシノロンアセトニド、酢酸デキサメタゾン等の消炎鎮痛剤、セファクロル、アモキシシリン、エリスロマイシン、カナマイシン等の抗生物質、ビタミンB1、ビタミンE等のビタミン剤、および、トウキ、ケイヒ、ウコン、カンゾウ等の生薬または漢方製剤等からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0027】
また、副成分として含有されうる保湿成分としては、グリセリン、小麦胚芽油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ホホバ油、ヒマシ油および植物抽出成分からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。さらには、酸化チタンや雲母チタンなどのチタン含有成分を副成分として添加してもよい。
【0028】
本発明に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物は、樹脂成分としてのロジンおよびセラック並びにそれらの溶媒を主成分として含有している。このため、当該組成物を口腔内の粘膜上に発生した炎症部分に刷毛等によって塗布すると、およそ20秒間以内に被膜を形成して炎症箇所を覆うことができる。このため、外部からの刺激を防ぐことができる。その結果、患部の痛みを和らげ、患者の負担を少なくすることができる。しかも、本発明に係る組成物に含まれるロジンは抗炎症性の成分を含んでいることから、炎症箇所の拡大を防ぐことができる。さらには、本発明に係る組成物の被膜は患部を被覆保護することから、炎症箇所の治癒を促進することができる。
【0029】
また、ロジンは、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)のT細胞マイトジェン(コンカナバリンA)応答性増殖を抑制するとともに、PBMCからの5種のサイトカイン(免疫システムの細胞から分泌されるたんぱく質:IL−6、IL−10、TNF−α、IFN−γおよびIL−17)の産生を濃度依存的に阻害することが判明した。
【0030】
本発明に係る組成物は食品添加物として用いられる成分を主成分として用いていることから、飲み込んでも安全である。また、被膜を誤って飲み込んでも自然に溶解して食堂の粘膜等に付着することがなく、合併症等が発生する虞はない。
【0031】
上述した樹脂成分であるロジンの含有量は、組成物の全量に対して1重量%以上であることが必須である。これは、ロジンの抗菌効果は0.1重量%から認められているものの、徐々に溶解および浸透して効果を発揮することを考慮したものである。一方、ロジンの含有量の上限値は、組成物の全量に対して15重量%以下である。ロジンの含有量が15重量%を超えると、形成された被膜の表面がごわごわになって舌触りが悪くなったり、ひび割れが生じて剥がれやすくなったりするという問題もある。また、製造上の観点から、セラックのエタノール溶液(通常は濃度50%の溶液)にロジンを溶解させて本発明に係る組成物を調製しようとする場合、ロジンの含有量が15重量%を超えると溶解に1日以上を要して生産性が低下するという問題もある。
【0032】
樹脂成分であるロジン、セラック(および、コパールを含有する場合にはさらにコパール)の合計含有量は、組成物の全量に対して45重量%以上、55重量%以下であることが必須である。ここで、当該合計含有量が45重量%未満であると、形成された被膜の粘膜への付着性や持続性が悪化して剥がれやすくなるという問題がある。また、溶媒の含有量が相対的に増加する結果、粘膜への刺激性が強くなる場合もある。一方、上記合計含有量が55重量%を超えると、被膜の表面が硬くなってごわごわ感が強くなり、また、速乾性が悪くなるという問題もある。上記合計含有量が55重量%以下であれば、本発明に係る組成物はおよそ10〜20秒程度で乾燥するが、この程度が実用上の限界である。合計含有量が55重量%を超えると乾燥時間は長くなり、合計含有量が例えば60重量%の場合には乾燥に数分間を要する。本発明に係る組成物の適用時には、組成物が乾燥するまで口を開けておく必要があることから、速乾性の悪化は使用者の苦痛を増加させてしまうのである。
【0033】
上述したように、本発明に係る組成物におけるロジンの含有量は、組成物の全量に対して1重量%以上15重量%以下であることが必須である。そして、本発明に係る組成物におけるセラックの含有量は、組成物の全量に対して35重量%以上45重量%以下とした。その結果、被膜の表面の感触を滑らかにし、弾力性があり、持続性の高い被膜の形成が可能となる。なお、本発明に係る組成物を塗布することにより形成される被膜は味がほとんどせず、舌などが触れても容易には取れず、また、塗布後に飲み物や食べ物を控える必要もない。
【0034】
上述したように、本発明に係る組成物がコパールをさらに含有する場合には、ロジン、セラックおよびコパールの合計含有量が45重量%以上55重量%以下である。このような構成とすることで、溶媒であるエタノール等の含有量が55重量%以下となり、刺激性を低下させることができる。なお、ロジン、セラックおよびコパールを含む組成物によって形成される被膜は、水に溶けにくいため水に触れても容易には剥がれず、口腔内の動きの激しい部分に塗布された場合であっても数時間の持続性を有するという利点がある。また、動きの少ない歯茎などに塗布された場合には、6時間以上の持続性を有する被膜を形成することが可能である。
【0035】
本発明に係る組成物は、口内炎をコーティングすることによりこれを保護して炎症を抑える効果のみならず、被膜が長時間口腔内に残っていることから、ロジンが徐々に唾液に溶け出すことで、ロジンの有する抗菌性により口腔内細菌である齲蝕原因菌や歯周病原因菌の増殖を抑制することができる。あるいは、持続的な経口投与型、または経皮吸収による体内への新しい投与型の薬剤としても利用可能である。すなわち、本発明の他の形態によれば、本発明に係る口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物からなる、口内炎の予防および/または治療用医薬組成物もまた、提供される。
【実施例】
【0036】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0037】
[液状組成物の調製例]
下記の手法により、実施例および比較例の液状組成物を調製した。各実施例および各比較例における各原料の配合量を下記の表1に示す。また、各実施例および各比較例における各構成成分の配合量を下記の表2に示す。なお、表1および表2に記載の実施例および比較例は、原則として樹脂の濃度が小さいものから順に配置されている。
【0038】
(実施例1)
ガムロジン(LAWTER ARGENTINA S.A.製)10.0重量%、ラックコート50EDS(50%セラックエタノール溶液)(日本シェラック工業株式会社製)80.0重量%、コパールHJ−01(30%コパールエタノール溶液)(株式会社岐阜セラック製造所製)3.3重量%、エタノール(99.5)今津1級(無水エタノール)(今津薬品工業株式会社製)6.7重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0039】
(実施例2)
ガムロジン8.0重量%、ラックコート50EDS 80.0重量%、コパールHJ−01 6.7重量%、エタノール(99.5)今津1級5.3重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0040】
(実施例3)
ガムロジン6.0重量%、ラックコート50EDS 80.0重量%、コパールHJ−01 13.3重量%、エタノール(99.5)今津1級0.7重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0041】
(実施例4)
ガムロジン10.0重量%、ラックコート50EDS 80.0重量%、エタノール(99.5)今津1級10.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0042】
(実施例5)
ガムロジン10.0重量%、ラックコート50EDS 70.0重量%、コパールHJ−01 16.7重量%、エタノール(99.5)今津1級3.3重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0043】
(実施例6)
ガムロジン10.0重量%、ラックコート50EDS 76.0重量%、コパールHJ−01 3.3重量%、エタノール(99.5)今津1級10.7重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0044】
(実施例7)
ガムロジン1.0重量%、ラックコート50EDS 80.0重量%、コパールHJ−01を40%エタノール溶液にまで濃縮した液15.0重量%、エタノール(99.5)今津1級4.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0045】
(実施例8)
ガムロジン3.0重量%、ラックコート50EDS 80.0重量%、コパールHJ−01を40%エタノール溶液にまで濃縮した液10.0重量%、エタノール(99.5)今津1級7.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0046】
(実施例9)
ガムロジン6.0重量%、ラックコート50EDS 80.0重量%、コパールHJ−01を40%エタノール溶液にまで濃縮した液2.5重量%、エタノール(99.5)今津1級11.5重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0047】
(比較例1)
ガムロジン33.3重量%、ラックコート50EDS 66.7重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0048】
(比較例2)
ガムロジン30.0重量%、ラックコート50EDS 60.0重量%、エタノール(99.5)今津1級10.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0049】
(比較例3)
ガムロジン10.0重量%、ラックコート50EDSを70%エタノール溶液にまで濃縮した液71.4重量%、エタノール(99.5)今津1級18.6重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0050】
(比較例4)
ガムロジン33.3重量%、コパールHJ−01 66.7重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0051】
(比較例5)
ガムロジン25.0重量%、ラックコート50EDS 50.0重量%、エタノール(99.5)今津1級25.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0052】
(比較例6)
ガムロジン10.0重量%、ラックコート50EDS 50.0重量%、コパールHJ−01 40.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0053】
(比較例7)
ガムロジン17.0重量%、ラックコート50EDS 80.0重量%、エタノール(99.5)今津1級3.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0054】
(比較例8)
ガムロジン8.0重量%、ラックコート50EDS 64.0重量%、コパールHJ−01 1.7重量%、エタノール(99.5)今津1級26.3重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0055】
(比較例9)
ガムロジン10.0重量%、ラックコート50EDS 60.0重量%、エタノール(99.5)今津1級30.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0056】
(比較例10)
ガムロジン10.0重量%、ラックコート50EDS 50.0重量%、エタノール(99.5)今津1級40.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0057】
(比較例11)
ガムロジン5.0重量%、ラックコート50EDS 30.0重量%、エタノール(99.5)今津1級65.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0058】
(比較例12)
ガムロジン50.0重量%、エタノール(99.5)今津1級50.0重量%を撹拌機にてよく混合溶解し、均一な溶液の組成物を得た。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
[液状組成物の性能評価]
上述した各実施例および各比較例において調製された液状組成物について、人体の口腔内の粘膜に対する刺激性、塗布された被膜の感触、塗布された被膜の速乾性および持続性について、5名の評価パネルを用いた官能試験を行った。
【0062】
(1.口腔内面膜に対する刺激性の比較試験)
被験者5名に対して、口腔内粘膜である下唇裏側の唾液を拭き取った後に液状組成物を塗布したときの刺激の程度を下記の0〜2の3段階で評価して、5名の結果の平均値を算出した。また、平均値として1.5未満であれば実用上問題ないものと判断した。結果を下記の表3に示す:
刺激性:
ほとんど刺激を感じない=0
わずかに刺激を感じる=1
刺激を感じる=2。
【0063】
(2.口腔内に形成された被膜の感触(ごわごわ感)の比較試験)
被験者5名に対して、口腔内粘膜である下唇裏側の唾液を拭き取った後に液状組成物を塗布し、被膜が形成されるまで乾燥させた。その後、被膜表面の下や口腔内の感触、すなわち、被膜表面のつっぱり感やごわごわ感を下記の0〜2の3段階で評価して、5名の結果の平均値を算出した。また、平均値として1.5未満であれば実用上問題ないものと判断した。結果を下記の表3に示す:
ごわごわ感:
まったくごわごわしない=0
少しごわごわした感じがある=1
ごわごわして気になる=2。
【0064】
(3.被膜の速乾性の比較試験)
被験者5名に対して、口腔内粘膜である下唇裏側の唾液を拭き取った後に液状組成物を塗布し、10秒後に被膜の乾燥度を指先でチェックした。さらに20秒後に改めて乾燥度を指先でチェックし、下記の0〜2の3段階で評価して、5名の結果の平均値を算出した。また、平均値として1.5未満であれば実用上問題ないものと判断した。結果を下記の表3に示す:
速乾性:
10秒以内で指先のべたべた感がなくなる=0
20秒以内で指先のべたべた感がなくなる=1
20秒を経過しても指先のべたべた感がなくならない=2。
【0065】
(4.被膜の持続性の比較試験)
被験者5名に対して、下唇裏側および上歯茎外側に液状組成物を塗布した。次いで、1時間ごとに被覆物が残留しているか否かを確認した。この際、1時間目のチェック後に水を飲むか軽くうがいをした。また、2時間目のチェック後に食事をした。さらに、3時間目以降は水および食事の摂取は自由とした。
【0066】
そして、被覆物がすべて剥がれた時間を記録した。この際、例えば1時間目のチェック時に剥がれていれば1時間と記録し、2時間目のチェック時には残留していたが3時間目のチェック時に剥がれていれば3時間と記録し、7時間目のチェック時に剥がれていれば7時間と記録し、その際に剥がれていなければ一律8時間として記録した。記録が終了した後、5名の結果の平均値を算出した。そして、下唇裏側については平均値として2.0時間以上であれば実用上問題ないものと判断した。また、上歯茎外側については平均値として5.0時間以上であれば実用上問題ないものと判断した。結果を下記の表3に示す。なお、表3に示す不可評価基準を満たさない結果を「▲」で示している。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示す結果から、溶媒の濃度が高くなると刺激性が悪化する傾向にあることがわかる。例えば、比較例8〜11にその傾向が顕著に現れた。一方、溶媒の濃度が低過ぎて樹脂の濃度が高過ぎると、速乾性が悪化する傾向にあった(例えば、比較例1〜3)。
【0069】
被膜表面の感触については、ロジン濃度が高くなると悪化する傾向にあった。比較例4、比較例5、比較例12などにその傾向が見られた。
【0070】
コパールを添加すると被膜表面の感触が改善された。このことは、例えば実施例4と比較例11との対比から明らかである。
【0071】
セラックの添加は、被膜の感触、速乾性、持続性を改善した。このことは、セラックを添加しなかった比較例4および比較例12において、感触、速乾性、持続性のすべての点で劣っていたことから明らかである。
【要約】
【課題】従来の口腔ケア製品とは異なり、口腔内の粘膜に付着して速乾性・持続性に優れた被膜を形成し、傷や炎症を生じている患部などを覆うことで外部の刺激から保護し、傷や炎症の悪化を防止し、治癒させるための口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物を提供する。
【解決手段】ロジンおよびセラックと、溶媒とを含有し、前記ロジンの含有量が組成物の全量に対して1重量%以上15重量%以下であり、前記セラックの含有量が組成物の全量に対して35重量%以上45重量%以下であり、ロジン、セラックおよびコパールの合計含有量が組成物の全量に対して45重量%以上55重量%以下である、口腔内粘膜被覆用抗炎症性液状組成物である。
【選択図】なし