特許第6806492号(P6806492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 豊生ブレーキ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6806492-車両用ドラムブレーキ 図000002
  • 特許6806492-車両用ドラムブレーキ 図000003
  • 特許6806492-車両用ドラムブレーキ 図000004
  • 特許6806492-車両用ドラムブレーキ 図000005
  • 特許6806492-車両用ドラムブレーキ 図000006
  • 特許6806492-車両用ドラムブレーキ 図000007
  • 特許6806492-車両用ドラムブレーキ 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806492
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】車両用ドラムブレーキ
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/09 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   F16D65/09 S
   F16D65/09 H
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-161508(P2016-161508)
(22)【出願日】2016年8月19日
(65)【公開番号】特開2018-28376(P2018-28376A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2019年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005670
【氏名又は名称】豊生ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】新谷 覚
(72)【発明者】
【氏名】森 浩二
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 豊
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−054666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、
前記一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されたパーキングレバーと、
前記バッキングプレートに形成された貫通穴を通して導入され、前記パーキングレバーの先端部に一端部が連結されたパーキングブレーキケーブルと、
前記一対のブレーキシューの他端部がそれぞれ当接されるアンカーと、を備える車両用ドラムブレーキであって、
前記パーキングブレーキケーブルの長手方向に沿って形成され、前記パーキングブレーキケーブルを長手方向に沿って摺動可能に案内する、円筒状の鋼管により構成されたケーブル案内部と、
前記ケーブル案内部の一端部側に設けられ、前記アンカーに固定される第1固定部と、
前記ケーブル案内部の他端部側に設けられ、前記バッキングプレートの前記貫通穴が形成された部分に固定される第2固定部と、を含むケーブル案内部材を備える
ことを特徴とする車両用ドラムブレーキ。
【請求項2】
バッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、
前記一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されたパーキングレバーと、
前記バッキングプレートに形成された貫通穴を通して導入され、前記パーキングレバーの先端部に一端部が連結されたパーキングブレーキケーブルと、
前記一対のブレーキシューの他端部がそれぞれ当接されるアンカーと、を備える車両用ドラムブレーキであって、
前記パーキングブレーキケーブルの長手方向に沿って形成され、前記パーキングブレーキケーブルを長手方向に沿って摺動可能に案内するケーブル案内部と、
前記ケーブル案内部の一端部側に設けられ、前記アンカーに固定される第1固定部と、
前記ケーブル案内部の他端部側に設けられ、前記バッキングプレートの前記貫通穴が形成された部分に固定される第2固定部と、を含むケーブル案内部材を備え、
前記バッキングプレートの一部には、絞り加工によって局所的に突設されたアンカー固定部が形成され、
前記アンカーは、前記第1固定部を介して前記アンカー固定部に固定されている
ことを特徴とする車両用ドラムブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドラムブレーキに関し、特にパーキングブレーキを作動させた場合に、バッキングプレートの変形を抑制する構成から成る車両用ドラムブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されたパーキングレバーと、バッキングプレートに形成された貫通穴を通して導入され、パーキングレバーの先端部に一端部が連結されたパーキングブレーキケーブルと、一対のブレーキシューの他端部がそれぞれ当接されるアンカーと、を備える車両用ドラムブレーキが知られている。たとえば、特許文献1から3に記載の車両用ドラムブレーキがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−182762号公報
【特許文献2】特開2005−344833号公報
【特許文献3】特開平9−303443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用ドラムブレーキでは、たとえばパーキングブレーキが作動させられた場合に、タイヤが回転しようとする力いわゆる連れ回り力がブレーキシューを介してアンカーで受け止められることによって生じるバッキングプレートの変形、特にアンカー固定部におけるバッキングプレートの変形が問題となる。上記特許文献1から3の車両用ドラムブレーキでは、たとえば補強部材をバッキングプレートと一体成型してアンカー固定部の周囲に設けることによって、バッキングプレートの板厚を厚くすることなくバッキングプレートの剛性を確保してバッキングプレートの変形を抑制する構造になっている。
【0005】
しかしながら、車両用ドラムブレーキでは、バッキングプレートの中央部に車軸管のハブやベアリングが取り付けられるため、ハブおよびベアリングの取り付けにかかる面積をバッキングプレートに確保する必要がある。さらに、車両用ドラムブレーキでは、パーキングブレーキを作動させるための操作力をパーキングレバーに伝達するパーキングブレーキケーブルが設けられ且つそのパーキングブレーキケーブルを案内するための案内部がバッキングプレートに設けられる。そのため、バッキングプレートの剛性を確保するためにたとえば補強部材をバッキングプレートのアンカー固定部の周囲に設けて、さらにパーキングブレーキケーブルを案内するための案内部をバッキングプレートに設ける場合には、パーキングブレーキケーブルの案内部は、省スペースでの絞り加工によって急な角度で立ち上げられる斜面を有して形成される。これにより、省スペースでの絞り加工によるバッキングプレートの板厚の減少や急な角度での立ち上げによって、バッキングプレートの剛性を確保することが困難になる可能性があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、パーキングブレーキケーブルを案内するための案内部をバッキングプレートに備え、パーキングブレーキが作動させられたときの連れ回り力がブレーキシューを介してアンカーで受け止められることによって生じるバッキングプレートの変形を抑制する車両用ドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の要旨とするところは、(a)バッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、前記一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されたパーキングレバーと、前記バッキングプレートに形成された貫通穴を通して導入され、前記パーキングレバーの先端部に一端部が連結されたパーキングブレーキケーブルと、前記一対のブレーキシューの他端部がそれぞれ当接されるアンカーと、を備える車両用ドラムブレーキであって、(b)前記パーキングブレーキケーブルの長手方向に沿って形成され、前記パーキングブレーキケーブルを長手方向に沿って摺動可能に案内する、円筒状の鋼管により構成されたケーブル案内部と、(c)前記ケーブル案内部の一端部側に設けられ、前記アンカーに固定される第1固定部と、(d)前記ケーブル案内部の他端部側に設けられ、前記バッキングプレートの前記貫通穴が形成された部分に固定される第2固定部と、を含むケーブル案内部材を備えることにある。
【0008】
また、第2発明の要旨とするところは、(a)バッキングプレートに拡開可能に配設された一対のブレーキシューと、前記一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されたパーキングレバーと、前記バッキングプレートに形成された貫通穴を通して導入され、前記パーキングレバーの先端部に一端部が連結されたパーキングブレーキケーブルと、前記一対のブレーキシューの他端部がそれぞれ当接されるアンカーと、を備える車両用ドラムブレーキであって、(b)前記パーキングブレーキケーブルの長手方向に沿って形成され、前記パーキングブレーキケーブルを長手方向に沿って摺動可能に案内するケーブル案内部と、(c)前記ケーブル案内部の一端部側に設けられ、前記アンカーに固定される第1固定部と、(d)前記ケーブル案内部の他端部側に設けられ、前記バッキングプレートの前記貫通穴が形成された部分に固定される第2固定部と、を含むケーブル案内部材を備え、(e)前記バッキングプレートの一部には、絞り加工によって局所的に突設されたアンカー固定部が形成され、(f)前記アンカーは、前記第1固定部を介して前記アンカー固定部に固定されていることにある。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、車両用ドラムブレーキは、前記パーキングブレーキケーブルの長手方向に沿って形成され、前記パーキングブレーキケーブルを長手方向に沿って摺動可能に案内する、円筒状の鋼管により構成されたケーブル案内部と、前記ケーブル案内部の一端部側に設けられ、前記アンカーに固定される第1固定部と、前記ケーブル案内部の他端部側に設けられ、前記バッキングプレートの前記貫通穴が形成された部分に固定される第2固定部とを含むケーブル案内部材が備えられている。これにより、前記車両用ドラムブレーキの前記ケーブル案内部材は、前記パーキングブレーキケーブルを摺動可能に案内する前記ケーブル案内部の一端を前記アンカーに固定する前記第1固定部と、前記ケーブル案内部の他端を前記バッキングプレートの前記貫通穴が形成された部分に固定する前記第2固定部とによって固定されているので、前記バッキングプレートの剛性が前記ケーブル案内部材によって高められる。そのため、パーキングブレーキが作動させられたときのたとえば連れ回り力(回転力)が前記ブレーキシューを介して前記アンカーで受け止められることによって生じる前記バッキングプレートの変形を抑制することができる。
【0010】
第2発明によれば、車両用ドラムブレーキは、前記パーキングブレーキケーブルの長手方向に沿って形成され、前記パーキングブレーキケーブルを長手方向に沿って摺動可能に案内するケーブル案内部と、前記ケーブル案内部の一端部側に設けられ、前記アンカーに固定される第1固定部と、前記ケーブル案内部の他端部側に設けられ、前記バッキングプレートの前記貫通穴が形成された部分に固定される第2固定部と、を含むケーブル案内部材を備え、前記バッキングプレートの一部には、絞り加工によって局所的に突設されたアンカー固定部が形成され、前記アンカーは、前記第1固定部を介して前記アンカー固定部に固定されている。これにより、絞り加工によって局所的に突設された前記アンカー固定部は、突設にかかる隆起の高さすなわち絞り加工による絞り深さが前記第1固定部の厚さ分だけ小さくなるように形成されている。さらに、前記ケーブル案内部を有する前記ケーブル案内部材が前記バッキングプレートとは別部材で形成されているので、前記アンカー固定部は、前記ケーブル案内部を設けることなく形成されている。そのため、前記アンカー固定部を形成するための絞り加工による立ち上がりの角度が緩やかにすることができ、前記バッキングプレートの成形性が高められるとともに、応力集中を緩和させた形とされて前記バッキングプレートの剛性を高められるので、パーキングブレーキが作動させられたときのたとえば連れ回り力(回転力)が前記一対のブレーキシューを介して前記アンカーで受け止められることによって生じる前記バッキングプレートの変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明が適用される一実施例のケーブル案内部材を備えた車両用ドラムブレーキを示す正面図である。
図2】アンカーおよびケーブル案内部材の要部を拡大して示す図であり、図1に示すII−II視断面図である。
図3】本発明が適用される一実施例のケーブル案内部材を拡大して示す図であり、ケーブル案内部材の正面図を示す。
図4】本発明が適用される一実施例のケーブル案内部材を拡大して示す図であり、ケーブル案内部材の側面図を示す。
図5】アンカーおよびケーブル案内部材の要部を拡大して示す図であり、図1に示すV-V断面図である。
図6】従来の車両用ドラムブレーキにおいて、アンカーおよびアンカーが固定させられるバッキングプレートの要部を拡大して示す図である。
図7】本発明の他の実施例におけるケーブル案内部材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の一実施例である車両用ドラムブレーキ10を示す正面図であり、リーディングトレーリング型の車両用ドラムブレーキ10を示す。この車両用ドラムブレーキ10は、たとえば図示しない車両の車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置等の非回転部材に一体的に固設された円板形状のバッキングプレート16を備えている。また、車両用ドラムブレーキ10には、そのバッキングプレート16の左右の外周部に円弧形状の凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能にバッキングプレート16の中心線C1に対して略対照的に配設され、バッキングプレート16に拡開可能に設けられた一対のブレーキシュー20、22が備えられている。さらに、車両用ドラムブレーキ10は、その一対のブレーキシュー20、22の一端部間すなわち図1における上端部間に配設されたホイールシリンダ26と、一対のブレーキシュー20、22の前記一端部間に張設されて、一対のブレーキシュー20、22のそれぞれの前記一端部を互いに接近する方向に常時付勢させてホイールシリンダ26に当接させるリターンスプリング24と、一対のブレーキシュー20、22の前記一端部間に架け渡された長手板状のストラット28とを備えている。さらに、車両用ドラムブレーキ10には、一対のブレーキシュー20、22の他端部すなわち図1の下端部間にリベット32により位置固定に設けられたアンカー30と、一対のブレーキシュー20、22の前記他端部間に張設されて一対のブレーキシュー20、22の前記他端部をアンカー30に常時当接させるスプリング32とを備えている。上記中心線C1は、図1の正面視において、ホイールシリンダ26の長手方向の中央、アンカー30の長手方向の中央およびバッキングプレート16の中心を通る線である。図1に示す矢印Fは、前進走行中における車両用ドラムブレーキ10が設けられた図示しない車輪(タイヤ)の回転方向、すなわちパーキングブレーキが作動させられた状態における連れ回り力(回転力)の発生方向を示している。
【0014】
一対のブレーキシュー20、22は、何れもバッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し、かつ、図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ36、38と、それらの円弧形状を成すシューウェブ36、38の外周側端縁に沿ってブレーキシュー20、22の断面が略T字状を成すように一体的に固設された円弧形状のシューリム40、42と、それらシューリム40、42の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング44、46とを備えてそれぞれ構成されている。
【0015】
一対のブレーキシュー20、22は、シューウェブ36、38の長手方向の中央付近に配設されたシューホールドダウン装置48、50によってバッキングプレート16側に向かって押圧されていて、拡開可能にバッキングプレート16に配設されている。
【0016】
ブレーキシュー20の前記一端部には、バッキングプレート16側に正面視で一部が重なる状態で、平板状のパーキングレバー60の基端部が取付軸62により取付軸62まわりに回動可能に連結されている。パーキングレバー60の先端部には、パーキングブレーキケーブル66の一端部が連結されている。
【0017】
パーキングブレーキケーブル66は、たとえばパーキングブレーキペダル、パーキングブレーキレバー等の図示しないパーキングブレーキ操作装置が操作されることによって発生する操作力すなわち張力をパーキングレバー60に伝達するものである。つまり、パーキングブレーキが作動させられた状態とは、図示しないパーキングブレーキ操作装置の操作によってパーキングブレーキケーブル66を介してパーキングレバー60に操作力が加えられた状態をいう。具体的には、パーキングブレーキが作動させられた状態とは、ブレーキ操作装置の操作力がパーキングブレーキケーブル66を介してパーキングレバー60に伝達させられたことによって、パーキングレバー60の先端部がバッキングプレート16の中心側へ回動させられて取付軸62を介してブレーキシュー20の前記一端部が外周側へ移動させられると同時に、ブレーキシュー20の前記一端部とブレーキシュー22の前記一端部との間に掛け渡されたストラット28に押されてブレーキシュー20が外周側へ移動させられることにより、ブレーキシュー20およびブレーキシュー22の一端部が拡開させられて、シューリム40、42の外周面に固着されたライニング44、46が図示しない回転ドラムに当接させられた制動状態をいう。
【0018】
図2は、アンカー30およびアンカー30が固定させられるバッキングプレート16の要部を拡大して示す図であり、図1に示すII−II視断面図である。図2に示すように、バッキングプレート16には、バッキングプレート16の一部が局所的に突設されたアンカー固定部16aが形成されている。アンカー固定部16aは、たとえば絞り加工によってバッキングプレート16に平行な局所的な平坦面に成形されている。アンカー固定部16aには、複数(本実施例では2個)のリベット32でアンカー30およびケーブル案内部材70が固定されている。具体的には、アンカー30は、複数のリベット32でケーブル案内部材70に設けられた後述する第1固定部74を介してアンカー固定部16aに固定されている。また、アンカー30は、図1に示すように、正面視においてアンカー30の両側面30aに一対のブレーキシュー20、22の前記他端部、具体的には一対のブレーキシュー20、22に備えられたシューウェブ36、38の他端部がそれぞれ当接するようにアンカー固定部16aに固定させられる。ここで、アンカー30がアンカー固定部16aに固定させられた状態において、図2に示すように、シューウェブ36、38の高さ位置とシューウェブ36、38がそれぞれ当接させられるアンカー30の両側面30aの高さ位置とが合うように、アンカー固定部16aは隆起させられている。
【0019】
アンカー固定部16aは、略台形状断面に形成されており、バッキングプレート16の一部が絞り加工により隆起させられて立ち上げられた基部16b、16cと、基部16bと基部16c結ぶように形成され且つバッキングプレート16の面方向に対して略平行な平板状に形成された平板部16dと、を有している。基部16bは、バッキングプレート16の外周側の立ち上げ部を示している。図2に示す角度θbは、基部16bの隆起にかかる立ち上がりの角度θbを示す。基部16cは、バッキングプレート16の中心側の立ち上げ部を示している。図2に示す角度θcは、基部16cの隆起にかかる立ち上がりの角度θcを示す。基部16cには、図2に示すように、ケーブル案内部材70と干渉しないように逃げ部16eが形成されている。平板部16dには、リベット32でアンカー30およびケーブル案内部材70が固定される。
【0020】
図3および図4は、本発明が適用される一実施例のケーブル案内部材70を拡大して示す図である。図3はケーブル案内部材70の正面図を示し、図4はケーブル案内部材70の側面図を示す。図3および図4に示すように、ケーブル案内部材70は、バッキングプレート16と別部材で形成されており、パーキングブレーキケーブル66を案内するケーブル案内部72と、アンカー30に固定される第1固定部74と、バッキングプレート16に固定される第2固定部76と、を含んで形成されている。
【0021】
ケーブル案内部72は、パーキングブレーキケーブル66の長手方向に沿って形成されており、パーキングブレーキケーブル66を長手方向に沿って摺動可能に案内するように形成されている。ケーブル案内部72は、パーキングブレーキケーブル66の直径よりも充分に大きい内径を有する円筒状の鋼管により構成されている。パーキングブレーキケーブル66は、ケーブル案内部72の円筒内部を摺動可能に案内させられる。たとえば図示しないブレーキ操作装置の操作力がパーキングブレーキケーブル66に加えられる際に、ケーブル案内部72は、パーキングレバー60の先端部に連結されたパーキングブレーキケーブル66の一端部をバッキングプレート16および平板部16dと略平行な状態で案内するように、そのケーブル案内部72のバッキングプレート16からの高さが設定されている。第1固定部74は、ケーブル案内部72の一端部側に設けられている。第1固定部74には、板状部材から曲成されたものであり、図3に示すように平面視において、一対のリベット32を挿通させる一対の挿通穴74aが形成されている長手状のアンカー側部分74bと、アンカー側部分74bの一端からアンカー側部分74bの長手方向に対して直角を成す方向に延びてケーブル案内部72の一端部を支持するケーブル案内部側部分74cとから略L字形状で形成されている。第1固定部74のケーブル案内部側部分74cは、図4に示すように円筒状に形成されているケーブル案内部72の外周面に沿うように曲成されており、たとえば溶接でケーブル案内部72の一端部側の外周面に固設される。第2固定部76は、ケーブル案内部72の他端部側に設けられている。図3および図4に示すように、第2固定部76は、長手状の板状部材から成り、長手方向の略中央にケーブル案内部72が板厚方向に貫通させられている。第2固定部76は、たとえば溶接でケーブル案内部72の他端部に固設される。さらに、第2固定部76には挿通穴76aが設けられており、ケーブル案内部材70をバッキングプレート16に固定するための図示しない固定ボルトが挿通穴76aに挿通させられる。
【0022】
図5は、アンカー30およびケーブル案内部材70の要部を拡大して示す図であり、図1に示すV−V視断面図である。図5に示すように、パーキングブレーキケーブル66は、ケーブル案内部72に案内されてバッキングプレート16に形成されたケーブル貫通穴80を通して導入される。ケーブル案内部72の他端部に固設された第2固定部76は、挿通穴76aを挿通する図示しない固定ボルトによりバッキングプレート16のケーブル貫通穴80が形成された部分すなわち後述の基部16gに固定されている。ケーブル貫通穴80は、ケーブル案内部72の直径よりも大きい直径で形成されている。図5に示すように、アンカー固定部16aの立ち上がりの方向とは反対方向へバッキングプレート16の一部が略三角形状の2辺に相当する断面で突出するように隆起された突出部16fを、バッキングプレート16は有している。ケーブル貫通穴80は、突出部16fのうちのバッキングプレート16の外周側に位置する局所的に平坦な基部16gに形成されている。図5に示すように、ケーブル案内部72は、貫通穴80を通して導入されるパーキングブレーキケーブル66を案内して、さらにパーキングブレーキケーブル66の一端部をパーキングレバー60の先端部にバッキングプレート16および平板部16dと略平行な状態でパーキングブレーキケーブル66を案内するように湾曲して形成されている。
【0023】
図6は、従来の車両用ドラムブレーキ100において、アンカー102およびアンカー102が固定させられるバッキングプレート104の要部を拡大して示す図であり、本実施例における図2に示される視断面図の対応している。図6に示すように、従来の車両用ドラムブレーキ100には、アンカー102を固定させるアンカー固定部104aがバッキングプレート104の一部を隆起させて形成されている。アンカー固定部104aは、たとえば絞り加工によって形成される。アンカー固定部104aには、アンカー102がリベット106で固定されている。
【0024】
図6に示すように、アンカー固定部104aは、略台形状断面に形成されており、バッキングプレート104の一部が隆起させられて立ち上げられた基部104b、104cと、基部104bと基部104c結ぶように形成され且つバッキングプレート104の面方向に対して略平行な平板状に形成された平板部104dと、を有している。基部104bは、バッキングプレート104の外周側の立ち上げ部を示している。図6に示す角度θb0は、基部104bの隆起にかかる立ち上がりの角度θb0を示す。基部104cは、バッキングプレート104の中心側の立ち上げ部を示している。図6に示す角度θc0は、基部104cの隆起にかかる立ち上がりの角度θc0を示す。図6に示すように、従来の車両用ドラムブレーキ100は、ケーブル案内部材70を備えておらず、バッキングプレート104の面方向に対して略平行な平板状に形成されたケーブル案内部104eを基部104cに形成することによって、パーキングブレーキケーブル108を案内している。たとえばパーキングブレーキが作動させられて図示しないブレーキ操作装置の操作力がパーキングブレーキケーブル108に加えられる際に、ケーブル案内部104eは、パーキングブレーキケーブル108の一端部を図示しないパーキングレバーの先端部にバッキングプレート104のアンカー固定部104aと略平行な状態で案内するように、そのケーブル案内部104eのバッキングプレート104からの高さが設定されている。平板部104dには、リベット106でアンカー102が直接固定されている。
【0025】
図2および図6に示すように、本実施例では、車両用ドラムブレーキ10にケーブル案内部材70を備えることにより、アンカー固定部16aの基部16cに平板状のケーブル案内部72を形成する必要が無くなるとともに、ケーブル案内部材70の厚さ分だけアンカー固定部16aの隆起の高さすなわち絞り加工による絞り深さが従来のアンカー固定部104aの絞り深さよりも浅くなるように形成されている。そのため、本実施例の車両用ドラムブレーキ10に形成された基部16cの隆起にかかる立ち上がりの角度θcは、従来の車両用ドラムブレーキ100に形成された基部104cの隆起にかかる立ち上がりの角度θc0と比べて緩やかになっている。アンカー固定部16aにケーブル案内部72を形成しないことにより、アンカー固定部16aは、たとえば簡素な絞り加工により成形することができるので、バッキングプレート16の成形性が向上することになる。さらに、アンカー固定部16aが絞り深さが浅くなるように且つ基部16cの隆起にかかる立ち上がりの角度θcが緩やかになるように形成されることにより、絞り深さが深く且つ角度θcが大きく急な傾斜で形成される場合と比べて、バッキングプレート16は応力集中が緩和された形状で形成されることになる。
【0026】
このように、本実施例の車両用ドラムブレーキ10は、パーキングブレーキケーブル66の長手方向に沿って形成され、パーキングブレーキケーブル66を長手方向に沿って摺動可能に案内するケーブル案内部72と、ケーブル案内部72の一端部側に固設され、アンカー30に固定される第1固定部74と、ケーブル案内部72の他端部側に固設され、バッキングプレート16の貫通穴80が形成された部分に固定される第2固定部76とを含むケーブル案内部材70が備えられている。これにより、車両用ドラムブレーキ10のケーブル案内部材70は、パーキングブレーキケーブル66を摺動可能に案内するケーブル案内部72の一端をアンカー30に固定する第1固定部74と、ケーブル案内部72の他端をバッキングプレート16の貫通穴80が形成された部分に固定する第2固定部76とによって固定されているので、バッキングプレート16の剛性がケーブル案内部材70によって高められる。そのため、パーキングブレーキが作動させられたときのたとえば連れ回り力(回転力)が一対のブレーキシュー20、22を介してアンカー30で受け止められることによって生じるバッキングプレート16の変形を抑制することができる。
【0027】
また、本実施例の車両用ドラムブレーキ10によれば、バッキングプレート16の一部には、絞り加工によって局所的に突設されたアンカー固定部16aが形成され、アンカー30は、第1固定部74を介してアンカー固定部16aに固定されている。これにより、絞り加工によって局所的に突設されたアンカー固定部16aは、突設にかかる隆起の高さすなわち絞り加工による絞り深さが第1固定部74の厚さ分だけ小さくなるように形成されている。さらに、ケーブル案内部72を有するケーブル案内部材70がバッキングプレート16とは別部材で形成されているので、アンカー固定部16aは、ケーブル案内部72を設けることなく形成されている。そのため、アンカー固定部16aを形成するための絞り加工による基部16cの立ち上がりの角度θcを緩やかにすることができ、バッキングプレート16の成形性が高められるとともに、応力集中を緩和させた形とされてバッキングプレート16の剛性を高められるので、パーキングブレーキが作動させられたときのたとえば連れ回り力(回転力)が一対のブレーキシュー20、22を介してアンカー30で受け止められることによって生じるバッキングプレート16の変形を抑制することができる。
【実施例2】
【0028】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、前述の実施例1と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0029】
図7は、本発明の他の実施例におけるケーブル案内部材110を示す図である。本実施例では、ケーブル案内部材110は、一枚の板状部材をたとえばプレス加工により折り曲げて成形された一体の部品である。ケーブル案内部材110には、パーキングブレーキケーブル66を案内するケーブル案内部112と、ケーブル案内部112の一端部側に設けられ、アンカー30に固定される第1固定部114と、ケーブル案内部112の他端部側に設けられ、バッキングプレート16の貫通穴80が形成された部分に固定される第2固定部116と、を含んでいる。
【0030】
ケーブル案内部112は、パーキングブレーキケーブル66の長手方向に沿って形成されており、パーキングブレーキケーブル66を長手方向に沿って摺動可能に案内するように形成されている。ケーブル案内部112は、一部を除き略コの字状の断面で形成されている。たとえば図示しないブレーキ操作装置の操作力がパーキングブレーキケーブル66に加えられる際に、ケーブル案内部112は、パーキングレバー60の先端部に連結されたパーキングブレーキケーブル66の一端部をバッキングプレート16および平板部16dと略平行な状態で案内するように、そのケーブル案内部112のバッキングプレート16からの高さが設定されている。第1固定部114は、ケーブル案内部112の一端部側に設けられている。第1固定部114は、平板状に形成されており、リベット32を挿通する挿通穴114aが設けられている。第2固定部116は、ケーブル案内部112の他端部側に設けられている。第2固定部116は、ケーブル案内部112を形成する向かい合う面がそれぞれ折り曲げられて形成されている。第2固定部116は、ケーブル貫通穴80が形成された基部16gにそれぞれ当接するように形成されている。さらに、第2固定部116には挿通穴116aが設けられており、ケーブル案内部材110をバッキングプレート16に固定するための図示しない固定ボルトが挿通穴116aに挿通させられる。
【0031】
このように、本実施例のケーブル案内部材110によれば、パーキングブレーキケーブル66の長手方向に沿って形成され、パーキングブレーキケーブル66を長手方向に沿って摺動可能に案内するケーブル案内部112と、ケーブル案内部112の一端部側に固設され、アンカー30に固定される第1固定部114と、ケーブル案内部112の他端部側に固設され、バッキングプレート16の貫通穴80が形成された部分に固定される第2固定部116とを含んで構成されている。これにより、ケーブル案内部材110は、板状部材を折り曲げて成形されているので、軽量化を図ることができるとともに、第1固定部114はアンカー30に固定され、第2固定部116はバッキングプレート16の貫通穴80が形成された部分に固定されるケーブル案内部材70によって、バッキングプレート16の剛性が高められているので、バッキングプレート16の変形を抑制することができる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0033】
例えば、前述の実施例においては、ケーブル案内部材70は、溶接によって第1固定部74および第2固定部76をケーブル案内部72に固定させていたが、必ずしもこれに限らず、たとえば固定ボルトを用いた固定装置によって第1固定部74および第2固定部76をケーブル案内部72に固定させてもよい。
【0034】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0035】
10:車両用ドラムブレーキ
16:バッキングプレート
16a:アンカー固定部
20、22:ブレーキシュー
30:アンカー
60:パーキングレバー
62:取付軸
66:パーキングブレーキケーブル
70:ケーブル案内部材
72:ケーブル案内部
74:第1固定部
76:第2固定部
80:貫通穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7