特許第6806517号(P6806517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6806517アルカリ土類金属の製造装置及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806517
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】アルカリ土類金属の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/20 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   C22B26/20
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-199544(P2016-199544)
(22)【出願日】2016年10月7日
(65)【公開番号】特開2018-59177(P2018-59177A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将治
(72)【発明者】
【氏名】松井 克己
(72)【発明者】
【氏名】宇田 哲也
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/050450(WO,A1)
【文献】 中国実用新案第203683627(CN,U)
【文献】 特開昭58−141349(JP,A)
【文献】 特開平06−136466(JP,A)
【文献】 特開2013−119646(JP,A)
【文献】 特開2002−212647(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104674016(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器と、
前記反応器内に配置され、アルカリ土類金属の原料を収容する第1の容器と、
前記反応器を加熱するヒータと、
前記反応器に接続され、前記反応器内にアルカリ土類金属に対して不活性な不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、
前記反応器に接続され、前記反応器内を真空状態に減圧する真空発生手段と、
前記反応器内に配置され、前記真空発生手段により形成された真空状態で前記ヒータにより加熱されて気化したアルカリ土類金属を冷却して、表面にアルカリ土類金属を蒸着させるコレクタと、
前記反応器内において前記コレクタの下方に配置され、前記コレクタの表面に蒸着したうえで前記ヒータによって昇温されたことにより融解されたアルカリ土類金属を回収する第2の容器と、を備えるアルカリ土類金属の製造装置。
【請求項2】
請求項1記載のアルカリ土類金属の製造装置であって、
前記反応器は鉛直方向に沿って立設され、
前記第1の容器は前記反応器内の下方に配置され、
前記第2の容器は前記第1の容器の上方に配置されていることを特徴とするアルカリ土類金属の製造装置。
【請求項3】
請求項2記載のアルカリ土類金属の製造装置であって、
前記コレクタを昇降するための昇降駆動装置を備えていることを特徴とするアルカリ土類金属の製造装置。
【請求項4】
反応器内を真空状態に減圧し、反応器内に配置された第1の容器に収容されたアルカリ土類金属の原料をヒータによって加熱して原料からアルカリ土類金属を気化させる加熱工程と、
前記反応器内に配置されたコレクタを冷却することによって、前記加熱工程により前記原料から気化したアルカリ土類金属を前記コレクタの表面に蒸着させる蒸着工程と、
アルカリ土類金属に対して不活性なガスを反応器内に供給して前記不活性なガスの雰囲気の非真空状態を形成するとともに、前記コレクタの冷却を終了し、前記蒸着工程により前記コレクタの表面に蒸着したアルカリ土類金属を前記ヒータによって昇温させて融解し、融解したアルカリ土類金属を前記反応器内において前記コレクタの下方に配置された第2の容器に回収する回収工程と、を備えるアルカリ土類金属の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ土類金属の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高純度のアルカリ土類金属、特に高純度の金属カルシウムは、レアメタル及びレアアースの還元剤、合金の添加剤その他種々の用途に供され、需要が増加している。
【0003】
従来、高純度カルシウムの製造方法として、ルツボに装入したカルシウムの原料を加熱して昇華させ、昇華容器内の側壁に蒸着させて第1回目の昇華精製を行い、回収した第1回目の昇華精製されたカルシウムを再度加熱して第2回目の昇華精製を行い、昇華容器内の側壁に蒸着させて高純度のカルシウムを回収する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5290387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された高純度カルシウムの製造方法は、昇華容器内の側壁にカルシウムが蒸着するので、側壁に蒸着したカルシウムを回収するために、カルシウムが空気に曝される可能性がある。カルシウム等のアルカリ土類金属は僅かな空気と接触した場合でも容易に酸化物、窒化物に反応し、品質を劣化させる。
【0006】
そこで、本発明は、アルカリ土類金属が空気に曝されることを防止し、品質の劣化を抑制できるとともに、精製効率の向上を図ることができるアルカリ土類金属の製造装置及び製造方法を提供することを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]〜[3]のアルカリ土類金属の製造装置、及び、[4]のアルカリ土類金属の製造方法を提供する。
[1]反応器と、前記反応器内に配置され、アルカリ土類金属の原料を収容する第1の容器と、前記反応器を加熱するヒータと、前記反応器に接続され、前記反応器内にアルカリ土類金属に対して不活性な不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、前記反応器に接続され、前記反応器内を真空状態に減圧する真空発生手段と、前記反応器内に配置され、前記真空発生手段により形成された真空状態で前記ヒータにより加熱されて気化したアルカリ土類金属を冷却して、表面にアルカリ土類金属を蒸着させるコレクタと、前記反応器内において前記コレクタの下方に配置され、前記コレクタの表面に蒸着したうえで前記ヒータによって昇温されたことにより融解されたアルカリ土類金属を回収する第2の容器と、を備えるアルカリ土類金属の製造装置。
[2][1]記載のアルカリ土類金属の製造装置であって、前記反応器は鉛直方向に沿って立設され、前記第1の容器は前記反応器内の下方に配置され、前記第2の容器は前記第1の容器の上方に配置されていることを特徴とするアルカリ土類金属の製造装置。
[3][2]記載のアルカリ土類金属の製造装置であって、前記コレクタを昇降するための昇降駆動装置を備えていることを特徴とするアルカリ土類金属の製造装置。
[4]反応器内を真空状態に減圧し、反応器内に配置された第1の容器に収容されたアルカリ土類金属の原料をヒータによって加熱して原料からアルカリ土類金属を気化させる加熱工程と、前記反応器内に配置されたコレクタを冷却することによって、前記加熱工程により前記原料から気化したアルカリ土類金属を前記コレクタの表面に蒸着させる蒸着工程と、アルカリ土類金属に対して不活性なガスを反応器内に供給して前記不活性なガスの雰囲気の非真空状態を形成するとともに、前記コレクタの冷却を終了し、前記蒸着工程により前記コレクタの表面に蒸着したアルカリ土類金属を前記ヒータによって昇温させて融解し、融解したアルカリ土類金属を前記反応器内において前記コレクタの下方に配置された第2の容器に回収する回収工程と、を備えるアルカリ土類金属の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
[1]記載のアルカリ土類金属の製造装置によれば、まず、真空発生手段により形成された真空状態でヒータにより加熱されて気化したアルカリ土類金属をコレクタにより冷却して、コレクタ表面にアルカリ土類金属を蒸着させる。次に、不活性ガス供給手段により不活性ガスが供給された非真空状態で、ヒータによりコレクタ表面に蒸着したアルカリ土類金属を昇温し融解する。そして、融解したアルカリ土類金属を、コレクタ下方に配置された第2の容器に重力により落下させて回収する。
【0009】
従って、当該製造装置によれば、アルカリ土類金属の原料を当該製造装置内に収容してから製造されたアルカリ土類金属を第2の容器に回収するまで、製造装置内でアルカリ土類金属が空気に曝されることを防止して、品質の劣化を抑制したアルカリ土類金属を製造することができる。また、製造されたアルカリ土類金属は第2の容器に回収され、空気に曝される面積が小さくなるので、回収後の品質の劣化を抑制することができる。
【0010】
さらに、当該製造装置は、コレクタ表面にアルカリ土類金属を蒸着させる反応器内の温度状態と、コレクタ表面に蒸着したアルカリ土類金属を融解させる反応器内の温度状態とを、簡易な構成で形成し、精製効率の向上を図ることができる。
【0011】
[2]記載のアルカリ土類金属の製造装置によれば、製造装置のコンパクト化を図ることができ、特に水平方向に複数の製造装置を並列させることで省スペースで生産量の増加を図ることができる。
【0012】
[3]記載のアルカリ土類金属の製造装置によれば、第1の容器内の原料からアルカリ土類金属を気化させる場合、コレクタを反応器内の上方に移動させ、ヒータからコレクタまでの距離を長くしてコレクタによる冷却効率を高め、ヒータからコレクタまでの温度差を大きくし、コレクタ表面にアルカリ土類金属を蒸着させる。また、コレクタ表面に蒸着したアルカリ土類金属を融解させる場合、コレクタを第2の容器近傍まで移動させ、コレクタ表面に蒸着したアルカリ土類金属に対する加熱効率を高めるとともに、第2の容器に落下する融解したアルカリ土類金属が第2の容器から飛散することを防止する。
【0013】
従って、当該製造装置によれば、精製したアルカリ土類金属を効率的に回収することができるとともに、原料加熱からカルシウムの回収までの1サイクルに要する時間の短縮化を図ることができる。
【0014】
[4]記載のアルカリ土類金属の製造方法によれば、製造装置内でアルカリ土類金属が空気に曝されることを防止して、品質の劣化を抑制した、アルカリ土類金属を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るアルカリ土類金属の製造装置の概要図。
図2】本発明の実施形態に係るアルカリ土類金属の製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[製造装置]
図1に示されるように、本実施形態のアルカリ土類金属の製造装置10は、反応器20と、ヒータ50とを備える、カルシウムを精製する装置である。尚、本実施形態の製造装置10は、カルシウムを精製する装置であるが、カルシウムに限定されず、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属を精製することができる。
【0017】
反応器20は、略有底円筒状の反応器本体22と、上蓋部24とから構成され、鉛直方向に沿って立設される。反応器20は、カルシウムの原料を収容する有底円筒状の第1の容器30、精製されたカルシウムを回収する有底円筒状の第2の容器40、及び有底円筒状のコレクタ60を内部に備える。
【0018】
反応器本体22は上端に径方向外側に張り出した環状のフランジ26aを有する。上蓋部24はフランジ26a上に載置される環状のフランジ26bを有する。反応器20は、フランジ26aの内径より大きい内径と、フランジ26aの外径より小さい外径を有する環状の耐熱ガスケット14aにより、フランジ26aを有する反応器本体22とフランジ26bを有する上蓋部24との間が封止されている。
【0019】
上蓋部24には、反応器20より小径の有底円筒状のコレクタ60が昇降可能に貫通した開口が設けられ、上蓋部24の開口はガスケット14bによりコレクタ60との間が封止されている。
【0020】
また、上蓋部24には、図示しない真空ポンプ等の真空発生装置と真空発生装置に接続する真空発生管路とから構成される真空発生手段16と、図示しないアルゴンガス供給源とアルゴンガス供給源に接続する不活性ガス供給管路とから構成される不活性ガス供給手段18が接続されている。尚、真空発生手段16及び不活性ガス供給手段18の製造装置10に対する接続位置は、上蓋部24に限定されず、反応器本体22に接続するように変更してもよい。
【0021】
また、本実施形態では、不活性ガス供給手段18を介して供給される不活性ガスとしてアルゴンガスが用いられるが、アルカリ土類金属との反応により品質劣化を防止する観点から、窒素以外の不活性ガス、例えばヘリウムガスを用いることができる。
【0022】
第1の容器30は、反応器20内の下方に配置され、カルシウムの原料を収容する部材である。第1の容器30は、カルシウムの製造終了後、凝固したカルシウムによって反応器本体22の底部に固着して取り外し困難となることを防止するために、図示しない井桁あるいは板状の窒化珪素等の部材の上に載置されている。
【0023】
尚、井桁あるいは板状の窒化珪素等の部材は、反応器20の材料又は第1の容器30の材料の含有物が反応する場合、例えば、反応器20の材料がインコネルで、第1の容器30の材料がチタンであり、インコネルに含まれるNiとTiが942℃以上で液体化(合金化)して合金を生成する場合でも、反応器20と第1の容器30が固着することを防止し得る。
【0024】
第2の容器40は、反応器20内において第1の容器30とコレクタ60との間でコレクタ60の鉛直方向下方に配置され、精製されたカルシウムを回収する部材である。第2の容器40の外径は、第2の容器40と反応器本体22の内側面との間に間隙を形成するように、第1の容器30の外径より小さく形成されている。また、第2の容器40は、第1の容器30の上に載置された図示しないグレーチングにより、第1の容器30との間に間隙を有するように、第1の容器30上に載置されている。
【0025】
コレクタ60は、反応器20よりも小径な有底円筒状の部材であり、反応器20の側内面から離間して配置され、図示しないアクチュエータ等の昇降駆動装置により反応器20内の上方から下方の第2の容器40近傍までの間を昇降可能な部材である。
【0026】
また、コレクタ60には、コレクタ60外部から内部に貫通し、冷媒をコレクタ60内部に供給可能な制御弁を備えた冷媒供給管路62と、供給された冷媒をコレクタ60外部に排出可能な図示しない制御弁を備えた冷媒排出管路とが設けられ、冷媒供給管路62及び冷媒排出管路に空気を流通させることによりコレクタ60が冷却される。尚、冷媒は、空気に限定されず、水等の流体を用いてもよい。
【0027】
コレクタ60の鉛直方向端部において、ドロッピングガイド保持部材64が当該端部から重力方向(鉛直方向下向き)に延出し、ドロッピングガイド保持部材64の鉛直方向端部において、融解したアルカリ土類金属の落下を補助する円錐状のドロッピングガイド66が設けられている。また、コレクタ60とドロッピングガイド66との間のドロッピングガイド保持部材64には、複数枚の板状部材からなるリフレクタ68が設けられている。
【0028】
反応器20、第1の容器30、第2の容器40、コレクタ60の材料として、SUS材、ニッケル合金(例えばインコネル(登録商標))、SS材、モリブデン、チタン、窒化珪素、白金、それらを主成分とする合金等が使用できるが、耐熱性、高温での耐久性、機械加工性、回収するカルシウムの純度に対する影響の観点から、モリブデン、チタン、白金、それらを主成分とする合金が好ましい。また、反応器20、第1の容器30、第2の容器40、コレクタ60の材料は、同一の材料に限定されず、異なる材料であってもよい。
【0029】
ヒータ50は、第1の容器30の周囲に配置され、第1の容器30を加熱する部材、例えばSiCヒータである。本実施形態では、ヒータを反応器20の外部に配置したが、第1の容器30を加熱することができれば、例えば、反応器本体22の側内面と側外面との間に内在するように配置を変更してもよい。
【0030】
本実施形態では、反応器20は、装置のコンパクト化の観点から、鉛直方向に沿って立設された円筒状の部材であることが好ましいが、第2の容器40が反応器20内において第1の容器30とコレクタ60との間に配置されず、かつコレクタ60の鉛直方向下方に配置されれば、鉛直方向に立設される円筒状部材に限定されず、例えば鉛直方向に立設される矩形筒状、L字状部材等の複雑な形状の反応器に形成されてもよい。
【0031】
また、本実施形態では、第2の容器40の外径は、第1の容器30の外径より小さく形成されているが、第1の容器30と反応器本体22の内側面との間に間隙が形成できれば、第1の容器30と第2の容器40の外径を同一にしてもよい。
【0032】
[アルカリ土類金属の製造方法]
図2を用いて、本実施形態のアルカリ土類金属の製造方法を説明する。図2は、本実施形態のアルカリ土類金属の製造方法を説明する図であり、(a)は加熱・蒸着工程を、(b)は回収工程を示す。
【0033】
(準備工程)
まず、カルシウムの原料を充填した第1の容器30と、第2の容器40とを、反応器20内の下部に装入した後、反応器本体22の開口を閉塞するように上蓋部24を載置して、反応器20を封止する。そして、反応器20を製造装置10に装置し、真空発生手段16及び不活性ガス供給手段18を接続する。
【0034】
次に、真空発生手段16により反応器20内を真空状態に減圧した後、不活性ガス供給手段18を介してアルゴンガスを供給して、反応器20内をアルゴンガス雰囲気にするアルゴンガス置換を行う。その後、アルゴンガス置換を2回繰り返す。
【0035】
そして、アルゴンガス置換の後、真空発生手段16により反応器20内を真空状態、例えば50[Pa]に減圧した後、コレクタ60内の冷媒供給管路62に空冷用空気を供給し、コレクタ60の冷却を開始し、コレクタ60の冷却状態を維持する。
【0036】
(加熱・蒸着工程)
ヒータ50による第1の容器の加熱を開始し、第1の容器30内の原料をカルシウムの沸点にまで真空状態を維持しながら加熱する。ヒータ50は、例えば、5[℃/min]の昇温速度で反応器20の下部を加熱し、原料からカルシウムを気化させる。
【0037】
コレクタ60の冷却状態は継続しているので、原料から気化したカルシウムはコレクタ60により冷却され、コレクタ60の表面にカルシウム(蒸着物D)が蒸着する(図2(a))。特に、鉛直方向に沿って立設された反応器20内において、第1の容器30が反応器20内の下方に、コレクタ60が反応器20の上方に設けられることによって、第1の容器30内の原料を加熱した場合、第1の容器30からコレクタ60までの距離が長くなる。従って、コレクタ60の冷却効果が高まり、反応器20内は、圧力一定の真空状態で、高温の上方と低温の下方の温度差を大きくすることができるので、より高純度のカルシウムをコレクタ60の表面に蒸着することができる。
【0038】
第1の容器30内の原料の温度がカルシウムの沸点まで到達した時点で、反応器20内の圧力が非真空状態になるまで、不活性ガス供給手段18を介してアルゴンガスを反応器20内に供給するとともに、冷媒供給管路62への冷媒供給を終了する。
【0039】
尚、コレクタ60の材料が高温で酸化するTi等である場合、酸化物(例えば、Tiの場合、酸化チタン)を生成してコレクタ60が劣化するので、酸化を防止するために、冷媒供給管路62を利用して、アルゴン、窒素等の不活性ガスをコレクタ60内部に供給し、冷媒排出管路の制御弁を閉止して、コレクタ60内部を不活性ガス雰囲気にする。また、冷媒供給管路62を利用せず、当該不活性ガスを供給する管路をコレクタ60に接続し、不活性ガスをコレクタ60内部に供給し、コレクタ60内部を不活性ガス雰囲気にしてもよい。
【0040】
(回収工程)
ヒータ50による原料加熱は継続され、冷媒が冷媒供給管路62に供給されていないことから、コレクタ60は次第に昇温され、コレクタ60表面の温度がカルシウムの融点に到達する。回収工程では、図2(b)に示されるように、蒸着工程によりコレクタ60の表面に蒸着した蒸着物Dをアルゴンガス雰囲気の非真空状態で融解し、反応器20内においてコレクタ60の鉛直方向下方に配置された第2の容器40に、融解した融解物Mを回収する。
【0041】
第2の容器40がコレクタ60の鉛直方向下方に配置されているので、ヒータ50によって加熱されたアルゴンガスによって、コレクタ60の表面のカルシウムである蒸着物Dが加熱され融解すると、カルシウムの融解物Mが重力により第2の容器40に落下し、精製されたアルカリ土類金属を容易に回収することができる。
【0042】
そして、コレクタ60の表面温度が当該融点を超えた時点で回収工程を終了し、カルシウムの精製を終了する。
【0043】
尚、図2(a)に示されるように、コレクタ60は反応器20の側内面から離間して配置されているので、カルシウムが反応器20の側内面に蒸着することを抑制できる。従って、コレクタ60表面の蒸着物Dが融解した融解物Mを第2の容器40に落下させ、精製されたカルシウムを効率的に回収することができる。
【0044】
さらに、コレクタ60は反応器20内の上部から第2の容器40までの間を、昇降駆動部材により昇降可能な部材である。第1の容器30内の原料からカルシウムを気化させる場合、コレクタ60を反応器20内の上方に上昇させ、第1の容器30からコレクタ60までの温度差を大きくし、コレクタ60表面に高純度のカルシウムの蒸着物Dを蒸着させる。そして、コレクタ60表面の蒸着物Dを融解させる場合、コレクタ60を第2の容器40近傍まで降下させ、第2の容器40に落下する融解物Mが第2の容器40から飛散することを防止する。従って、精製されたカルシウムを効率的に回収することができる。
【0045】
本実施形態によれば、原料の加熱から精製されたカルシウムの回収まで、カルシウムを空気に曝すことなく製造装置10内でカルシウムを製造でき、酸化物、窒化物の生成を防止し、品質の劣化を抑制できる。
【0046】
[実施例]
内径130[mm]、全長650[mm]で材質インコネルの反応器20と、内径118[mm]、深さ50[mm]で材質チタンの容器30と、内径106[mm]、深さ50[mm]で材質チタンの容器40と、外径35[mm]、全長410[mm]で材質チタンのコレクタ60と、反応器20の外部で容器30,40の周囲に配置されたSiCヒータのヒータ50と備えた製造装置10(図1)を用いて、表1に示される組成のカルシウム原料から高純度のカルシウムを製造した。
【0047】
まず、反応器20内の下部に井桁部材を載置し、表1に示された原料200[g]を充填した第1の容器30を井桁部材の上に載置し、次いで第1の容器30の上にグレーチングを載置し、そしてグレーチング上に高純度カルシウム回収用の第2の容器40を装入した。
【0048】
次に、上蓋部24を反応器本体22に載置して反応器20を封止した。そして、反応器20内を50[Pa]に減圧した後、アルゴンガスを供給して、反応器20内をアルゴンガス雰囲気に置換し、同様の置換作業を2回繰り返した。
【0049】
次に、反応器20内を真空状態(50[Pa])に減圧した後、コレクタ60内の冷媒供給管路62に空冷用空気を供給し、コレクタ60の冷却を開始し、コレクタ60の温度を170[℃]に維持した。
【0050】
次に、コレクタ60を反応器20の上部に上昇させた状態で、SiCヒータ50を起動させ、第1の容器30内の原料をカルシウムの沸点(798[℃];100[Pa]時の沸点)にまで、5[℃/min]の昇温速度で加熱した。その結果、コレクタ60の表面に高純度カルシウムの蒸着物が蒸着した。
【0051】
第1の容器30内の原料の温度がカルシウムの沸点まで到達した時点で、反応器20内が非真空状態(0.1[MPa])になるまでアルゴンガスを反応器20内に供給してアルゴンガス雰囲気を形成するとともに、空冷用空気の供給を停止することでコレクタ60の冷却を終了した。また、冷媒供給管路62を利用してコレクタ60内部にアルゴンガスを供給し、冷媒排出管路の制御弁を閉止して、コレクタ60内部にアルゴンガス雰囲気にした。
【0052】
続いて、コレクタ60を第2の容器40の近傍に降下させ、コレクタ60の表面に蒸着した蒸着物Dが融解した融解物Mを、ドロッピングガイド66を介して落下させ、コレクタ60の鉛直方下方に配置された第2の容器40に回収した。
【0053】
そして、コレクタ60の温度が上昇して、コレクタ60の表面温度がカルシウムの融点(842[℃])を超えた時点で、SiCヒータ50による加熱を終了し、高純度カルシウムの製造を終了した。
【0054】
この結果、純度99.9[wt%]のカルシウムを198[g]回収することができた。尚、コレクタ60は反応器20の側内面から離間して配置されているので、蒸着したカルシウムが反応器20の側内面に蒸着することを防止できた。また、原料の加熱から高純度カルシウムの回収まで、カルシウムを空気に曝すことなく製造装置10内で高純度カルシウムを製造でき、酸化物、窒化物を生成せずに、品質の劣化を抑制できた。
【0055】
高純度カルシウムの窒化物を生成し、蛍光体の原料として用いた場合、Fe、Co、Niが低濃度、例えば20ppm以下の品質が要求されるが、表1より当該品質を満たすことができる。
【0056】
【表1】
【0057】
さらに、第1の容器30、第2の容器40及びコレクタ60の材料を表2のように変えた以外は上記実施例と同じ条件で、第1の容器30、第2の容器40及びコレクタ60の材料が回収された高純度カルシウムに与える影響を観察した。表2は、第2の容器40に回収した高純度カルシウム中の代表的な微量成分を示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2により、第1の容器30、第2の容器40及びコレクタ60の材料として、回収した高純度カルシウム中の微量成分のうち、Fe、Co、及びNiが20ppm以下であるMo及びTiが好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0060】
10…製造装置、 16…真空発生手段、 18…不活性ガス供給手段、 20…反応器,30…第1の容器,40…第2の容器, 50…ヒータ, 60…コレクタ, 66
…ドロッピングガイド, D…蒸着物, M…融解物。
図1
図2