(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱重合する工程が、第一重合と第二重合を含み、前記第一重合の温度が(τ1)−25℃〜(τ1)−15℃であり、前記第二重合の温度が(τ2)−10℃〜(τ2)+30℃である、請求項5に記載の歯科用ミルブランクの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体(A)、加熱重合開始剤(B)及び無機充填材(C)を含有し、前記加熱重合開始剤(B)が、10時間半減期温度(τ1)が50〜75℃である単官能性重合開始剤(b−1)及び10時間半減期温度(τ2)が80〜120℃である多官能性重合開始剤(b−2)を含有することを特徴とする。
【0011】
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0012】
本発明の効果が発現する要因としては、以下のように考えられる。まず低温で歯科用硬化性組成物を加熱することで単官能性重合開始剤(b−1)からラジカルが発生し、歯科用硬化性組成物がある程度硬化する。その後一気に昇温し高温で加熱することで、多官能性重合開始剤からラジカルが発生し、残りのモノマーが反応して硬化が進行する。この際、単官能性重合開始剤(b−1)で低温重合したことにより半硬化物となり、ある程度強度のある状態となり、後の高温での加熱重合の際のクラック発生を抑制するものと推察される。さらに、高温重合の際に多官能性重合開始剤(b−2)を用いることで、1分子の開始剤から2つのポリマー鎖が生長することとなり、分子量の向上によるポリマー強度の向上、及び分岐ポリマーとなることで立体反発によってポリマー鎖同士の距離が大きくなり重合収縮が起こりにくくなった、つまり収縮応力抑制によってクラックが発生しにくくなったものと考えられる。
【0013】
重合性単量体(A)
本発明で用いられる重合性単量体(A)は、歯科用コンポジットレジン等に使用される公知の重合性単量体が何ら制限無く用いられるが、一般には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。ラジカル重合性単量体の具体例としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。なお、本発明において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。
【0014】
(メタ)アクリル酸エステル系及び(メタ)アクリルアミド誘導体系の重合性単量体の例を以下に示す。
【0015】
(I)一官能性(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリルアミド誘導体
メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−( ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、10−メルカプトデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
(II)二官能性(メタ)アクリル酸エステル
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10− デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルアクリレート(2,2−ビス4−〔3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(2,2−ビス4−〔3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン(通称Bis−GMA))、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称UDMA)、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−1,5−ペンチルジメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
(III)三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステル
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキサヘプタン等が挙げられる。
【0018】
また、これらの(メタ)アクリル酸エステル系及び(メタ)アクリルアミド誘導体系の重合性単量体の他に、カチオン重合可能な、オキシラン化合物、オキセタン化合物も好適に用いられる。
【0019】
前記重合性単量体(A)は、いずれも、それぞれ1種単独で又は2種以上を併用することができる。また、本発明で用いられる重合性単量体(A)は液体状であることが好ましいが、常温で液体状である必要は必ずしも無く、重合性単量体(A)を無機充填材(C)に接触させる工程の環境下で液体であればなんら差し支えない。さらに、固体状の重合性単量体(A)であっても、液体状の、その他の重合性単量体と混合溶解させて使用することができる。
【0020】
加熱重合開始剤(B)
本発明で使用される加熱重合開始剤(B)は、一般工業界で使用されている加熱重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。
【0021】
前記加熱重合開始剤(B)は、10時間半減期温度が50〜75℃の単官能性重合開始剤(b−1)及び10時間半減期温度が80〜120℃である多官能性重合開始剤(b−2)を含有する。
【0022】
ここで、10時間半減期温度とは、加熱重合開始剤の半減期が10時間となる温度のことを表し、半減期とは、加熱重合開始剤の濃度が初期値の半分に減少するまでの時間を表す。
【0023】
10時間半減期温度が50〜75℃の単官能性重合開始剤(b−1)
単官能性重合開始剤として用いられる加熱重合開始剤の例としては、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、ジクミルパーオキサイド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジサクシニックアシッドパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキサイドパレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0024】
10時間半減期温度が80〜120℃の多官能性重合開始剤(b−2)
多官能性重合開始剤として用いられる加熱重合開始剤の例としては、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジーt−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等が挙げられる。
【0025】
本発明の歯科用硬化性組成物は、例えば、重合性単量体(A)と加熱重合開始剤(B)とを混合し、重合性単量体含有組成物を得た後、前記重合性単量体含有組成物に、無機充填材(C)を混合して得ることができる。また、本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体(A)、加熱重合開始剤(B)及び無機充填材(C)を混合して得ることができる。
【0026】
歯科用硬化性組成物に配合される加熱重合開始剤(B)の配合量は、重合性単量体(A)100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、0.3〜3重量部がより好ましく、0.5〜2重量部がさらに好ましい。加熱重合開始剤(B)の配合量が少なすぎると、未重合モノマーが残り強度低下を招く恐れがあり、多すぎると重合硬化物の変色のリスクがある。
【0027】
加熱重合開始剤(B)中、単官能性重合開始剤(b−1)の配合量は、20〜70重量%が好ましく、30〜60重量%がより好ましい。また、加熱重合開始剤(B)中、多官能性重合開始剤(b−2)の配合量は30〜80重量%が好ましく、40〜70重量%がより好ましい。さらに、加熱重合開始剤(B)中、単官能性重合開始剤(b−1)の配合量が20〜70重量%であり、かつ多官能性重合開始剤(b−2)の配合量が30〜80重量%であることが好ましく、単官能性重合開始剤(b−1)の配合量が30〜60重量%であり、かつ多官能性重合開始剤(b−2)の配合量が40〜70重量%であることが好ましい。
【0028】
無機充填材(C)
本発明で用いられる無機充填材(C)としては、歯科用コンポジットレジンの充填材として用いられている公知の無機粒子がなんら制限なく用いられる。具体的には、例えば、各種ガラス類{二酸化珪素(石英、石英ガラス、シリカゲル等)、珪素を主成分とし、各種重金属とともにホウ素及び/又はアルミニウムを含有する}、アルミナ、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、シリカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、二酸化チタン(チタニア)、ヒドロキシアパタイト等の従来公知の物が使用できる。また、これら無機粒子に重合性単量体を予め添加してペースト状にした後、重合硬化させ、粉砕して得られる有機無機複合粒子(有機無機複合フィラー)を用いても差し支えない。これらの無機粒子は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明における無機充填材(C)として用いられる無機粒子は、形態に特に制限が無く、例えば、破砕状、板状、鱗片状、繊維状(短繊維、長繊維)、針状、ウィスカー、球状等各種形状のものが用いられる。これらの形状の一次粒子が凝集した形態でも構わなく、異なる形状のものが組み合わさったものでもよい。なお、本発明においては、前記形状を有するよう何らかの処理(例えば、粉砕)を行なったものであってもよい。
【0030】
本発明では、異なった材質、粒度分布、形態を持つ2種以上の無機粒子を、混合又は組み合わせて用いることもあり、また、本発明の効果を損なわない範囲内で、意図せずに、無機粒子以外の粒子が不純物として含まれていてもよい。
【0031】
以下に、本発明における無機充填材(C)の好ましい態様を挙げる。
【0032】
ある好適な実施態様において、無機充填材(C)としては、平均粒子径が0.10μm以上1.0μm未満の範囲にある無機粒子(サブミクロンフィラー)(C1)を含有することが好ましい。サブミクロンフィラー(C1)は、粒径範囲が0.05〜5.0μmにあることが好ましい。なかでも、平均粒子径が0.10μm以上0.50μm以下の範囲にある無機粒子がより好ましく、平均粒子径が0.10μm以上0.30μm以下の範囲にある無機粒子がさらに好ましく、前記粒径範囲を有し、かつ平均粒子径が0.10μm以上0.30μm以下の範囲である無機粒子が特に好ましい。この範囲の平均粒子径を持つ無機粒子(C1)の歯科用硬化性組成物への適用は、機械的強度と審美性(耐摩耗性、滑沢性)を適度に兼ね備えた歯科用補綴物を与える歯科用ミルブランクを与えることができる。前記サブミクロンフィラー(C1)を含有する歯科用硬化性組成物におけるサブミクロンフィラー(C1)の無機充填材(C)中の含有量は、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい。
【0033】
なお、本明細書において、無機粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法又は粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.10μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.10μm未満の超微粒子の粒子系測定には電子顕微鏡観察が簡便である。前記0.10μmはレーザー回折散乱法によって測定した値である。
【0034】
レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100:島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。
【0035】
電子顕微鏡観察は、具体的に例えば、粒子の透過電子顕微鏡(日立製作所製、H−800NA型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Macview(株式会社マウンテック))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、その粒子と同一の面積をもつ円の直径である円相当径として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0036】
また、前記粒径範囲を有するサブミクロンフィラー(C1)において、無機粒子が球状粒子である場合は、上記の観点からより好ましい。球状とは、略球状まで含み、必ずしも完全真球である必要はない。一般には、走査型電子顕微鏡を用いて粒子の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子を任意に30個選び、それぞれの粒子について最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で徐した均斉度を求めた際に、その平均値(平均均斉度)が、0.6以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましい。
【0037】
このような球状のサブミクロンフィラー(C1)としては、シリカ粒子、周期律表第2族、同4族、同12族、及び同13族からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物粒子、又は、周期律表第2族、同4族、同12族、及び同13族からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子と、ケイ素原子と、酸素原子とを含む複合酸化物粒子であることが好ましい。これらの具体例としては、非晶質シリカ、石英、クリストバライト、トリジマイト、アルミナ、二酸化チタン、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、シリカジルコニア、シリカチタニア、シリカチタニア酸化バリウム、シリカアルミナ、シリカチタニアナトリウムオキサイド、シリカチタニアカリウムオキサイド、シリカジルコニアナトリウムオキサイド、シリカジルコニアカリウムオキサイド、シリカバリウムオキサイド、シリカストロンチウムオキサイド等の粒子が挙げられる。球状粒子としてより好適には、シリカ粒子、周期律表第4族の金属の酸化物粒子、及び周期律表第4族の金属原子と、ケイ素原子と、酸素原子とを含む複合酸化物の粒子であり、X線造影性を有し、より耐摩耗性に優れた歯科用ミルブランクが得られることから、さらに好適には、シリカジルコニアの粒子である。サブミクロンフィラー(C1)は市販品を使用できる。また、サブミクロンフィラー(C1)の製造法としては、例えば、特開昭58−110414号公報に記載されている。また、球状のサブミクロンフィラーとして、ヒドロキシアパタイトを用いることもできる。
【0038】
なお、前記サブミクロンフィラー(C1)は、比表面積が好ましくは5〜25m
2/gである。本明細書において、比表面積は、比表面積BET法により、通法に従って測定することができる。
【0039】
また別の好適な実施態様において、無機充填材(C)が、平均粒子径1.0nm以上0.10μm未満の範囲にあり、比表面積が30〜500m
2/gの範囲にある無機粒子(C2)(以下、無機超微粒子(C2)ともいう。)を含有することが好ましい。無機超微粒子(C2)の平均粒子径は5.0nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。無機超微粒子(C2)の平均粒子径は50nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがさらに好ましい。無機超微粒子(C2)の比表面積は40m
2/g以上であることがより好ましく、50m
2/g以上であることがさらに好ましい。また、無機超微粒子(C2)の比表面積は400m
2/g以下であることがより好ましく、200m
2/g以下であることがさらに好ましい。また、無機超微粒子(C2)の平均粒子径は5.0nm以上50nm以下であることがより好ましく、10nm以上40nm以下であることがさらに好ましい。無機超微粒子(C2)の比表面積は40〜400m
2/gであることがより好ましく、50〜200m
2/gであることがさらに好ましい。無機超微粒子(C2)としては、平均粒子径が5.0nm以上50nm以下の範囲にあり、比表面積が40〜400m
2/gの範囲にある無機超微粒子がより好ましく、平均粒子径が5.0nm以上50nm以下の範囲にあり、比表面積が50〜200m
2/gの範囲にある無機超微粒子あるいは平均粒子径が10nm以上40nm以下の範囲にあり、比表面積が40〜400m
2/gの範囲にある無機超微粒子がさらに好ましく、平均粒子径が10nm以上40nm以下の範囲にあり、比表面積が50〜200m
2/g範囲にある無機超微粒子が特に好ましい。このような無機超微粒子(C2)は、いわゆるナノ粒子(超微粒子フィラー)といわれるが、透明性、研磨滑沢性により優れた歯科用ミルブランクを与えることができる。前記無機超微粒子(C2)を含有する歯科用硬化性組成物における無機超微粒子(C2)の無機充填材(C)中の含有量は、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい。
【0040】
かかるナノ粒子(C2)としては、歯科用コンポジットレジン等に使用される公知の無機超微粒子が何ら制限なく使用される。好ましくは、シリカ(例えば、火炎熱分解法で作製されるシリカ)、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物粒子、又はこれらからなる複合酸化物粒子(例えば、シリカ/アルミナ複合酸化物、シリカ/ジルコニア複合酸化物)、燐酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フッ化イットリウム、フッ化イッテルビウム、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム等の粒子が挙げられる。好ましくは、火炎熱分解法で作製されるシリカ、アルミナ、チタニア、シリカ/アルミナ複合酸化物、シリカ/ジルコニア複合酸化物の粒子である。無機超微粒子(C2)は市販品を使用することができ、市販品としては、例えば、日本アエロジル社製、アエロジル(登録商標)OX−50、アエロジル(登録商標)50、アエロジル(登録商標)130、アエロジル(登録商標)200、アエロジル(登録商標)380、アエロジル(登録商標)MOX80、アエロジル(登録商標)R972、アエロジル(登録商標)RY50、アエロキサイド(登録商標)Alu C、アエロキサイド(登録商標)TiO
2 P 25、アエロキサイド(登録商標)TiO
2 P 25S、VPZirconiumOxide 3−YSZ、VPZirconiumOxide 3−YSZ PHが挙げられる。また、該無機超微粒子の形状は特に限定されず、適宜選択して使用することができる。
【0041】
また、前記超微粒子フィラー(ナノ粒子)(C2)が凝集してできた凝集粒子(C3)も本発明において好適に用いることができる。機械的強度に優れるミルブランクを与えることができる点から、凝集粒子(C3)の平均粒子径は、1.0〜20μmの範囲にあることが好ましく、2.0〜10μmの範囲にあることがより好ましい。本発明の別の好適な実施態様として、無機充填材(C)が、前記無機超微粒子(C2)が凝集した凝集粒子(C3)を含み、該凝集粒子(C3)の平均粒子径が1〜20μmである実施態様が好ましい。前記凝集粒子(C3)を含有する歯科用硬化性組成物における凝集粒子(C3)の無機充填材(C)中の含有量は、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい。
【0042】
通常、市販の超微粒子フィラーは凝集体として存在しているが、水もしくは5重量%以下のヘキサメタ燐酸ナトリウム等の界面活性剤を添加した水(分散媒)300mLに無機酸化物粉体10mgを添加し、30分間、出力40W、周波数39KHzの超音波強度で分散処理するとメーカー表示の粒子径まで分散される程度の弱い凝集力しか有しない。しかしながら、本発明における凝集粒子(C3)は、かかる条件でもほとんど分散されない粒子同士が強固に凝集したものである。
【0043】
凝集粒子(C3)を構成する超微粒子フィラー(C2)としては、平均粒子径が1.0nm以上0.10μm未満である限り、歯科用硬化性組成物等に使用される公知の超微粒子フィラーが何ら制限なく使用され、超微粒子フィラー(C2)として前記したものが挙げられる。好ましくは、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物粒子、又はこれらからなる複合酸化物粒子、燐酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フッ化イットリウム、フッ化イッテルビウム等の粒子が挙げられ、これらの超微粒子フィラー(C2)は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0044】
市販の超微粒子フィラーから、本発明で用いる凝集粒子(C3)を作製する方法として、凝集力をさらに高めるために、そのフィラーが融解する直前の温度付近まで加熱して、接触したフィラー同士がわずかに融着する程度に加熱する方法が好適に用いられる。またこの場合、凝集粒子の形状をコントロールするため、加熱前に凝集した形態を作っておくことがある。例えば、フィラーを適当な容器に入れて加圧したり、一度溶剤に分散させた後、噴霧乾燥等の方法で溶剤を除去する方法が挙げられる。
【0045】
また、超微粒子フィラーの凝集粒子(C3)の作製方法として好適な別の方法は、湿式法で作製されたシリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等を用い、これを凍結乾燥や噴霧乾燥等の方法で乾燥し、必要に応じて加熱処理することで容易に、粒子同士が強固に凝集した凝集粒子を得ることが出来る。ゾルの具体例としては、日本触媒社製シーホスター(登録商標)、日揮触媒化成社製OSCAL(登録商標)、QUEENTITANIC、日産化学社製スノーテックス(登録商標)、アルミナゾル、セルナックス(登録商標)、ナノユース(登録商標)等が挙げられる。該超微粒子フィラーの形状は特に限定されず、適宜選択して使用することができる。
【0046】
さらに、前記凝集粒子(C3)として、特開2008−115136号公報に記載されている、シリカ系微粒子の表面を、少なくともジルコニウム、ケイ素及び酸素からなる複合酸化物で被覆してなる非晶質の無機酸化物微粒子(フィラー)も好適に用いることができる。
【0047】
また別の好適な実施態様としては、無機充填材(C)が、平均粒子径が1.0nm以上0.10μm未満の範囲であり、比表面積が30〜500m
2/gの範囲にある無機超微粒子(C4)と、平均粒子径が0.2〜2.0μmの範囲にあり、粒径範囲が0.10〜10μmである無機粒子(C5)とを含むハイブリッド型無機粒子(C6)を含有することが好ましい。このように、無機超微粒子(C4)と平均粒子径0.2〜2.0μmの無機粒子(C5)の両者が配合(混合)された組成は、ハイブリッド型無機粒子(C6)と言われ、より優れた機械的強度を有する歯科用ミルブランクを与えることができる。無機充填材(C)中の前記ハイブリッド型無機粒子(C6)の含有量は、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、実質的に100重量%がさらに好ましい。
【0048】
ハイブリッド型における無機超微粒子(C4)は、前記超微粒子フィラー(C2)と同様のものが用いられる。一方、無機粒子(C5)は、平均粒子径が0.2μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることがより好ましい。また、無機粒子(C5)は、平均粒子径が2.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましい。さらに、無機粒子(C5)は、粒径範囲が0.1μm以上10μm以下の範囲にある無機粒子が好ましく、0.1μm以上5.0μm以下の範囲にある無機粒子がより好ましい。また、無機粒子(C5)としては、平均粒子径が0.2〜2.0μmの範囲にあり、かつ粒径範囲が0.1〜5.0μmの範囲にある無機粒子、又は平均粒子径が0.4〜1.5μmの範囲にあり、かつ粒径範囲が0.1〜10μmの範囲にある無機粒子がより好ましく、平均粒子径が0.4〜1.5μmの範囲にあり、かつ粒径範囲が0.1〜5.0μmの範囲にある無機粒子がさらに好ましい。無機粒子(C5)としては、かかる平均粒子径、粒径範囲を有するもので、かつ前記サブミクロンフィラー(C1)で例示されるような組成を有する無機粒子が用いられる。
【0049】
ハイブリッド型無機粒子(C6)における無機超微粒子(C4)と無機粒子(C5)の重量比(無機超微粒子(C4)/無機粒子(C5))は、1/1〜1/20が好ましく、1/3〜1/10がより好ましい。
【0050】
かかるハイブリッド型無機粒子(C6)の具体例としては、以下の組み合わせが挙げられる。例えば、超微粒子フィラー(C4)の具体例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の無機酸化物微粒子、又はこれらからなる複合酸化物微粒子が好ましく、この中でも、商品名アエロジルに代表される高分散性シリカや、商品名アエロキサイドに代表される高分散性のアルミナ、チタニア、ジルコニアがより好ましい。また、これらと組み合わせる無機粒子(C5)としては、前出の、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ランタンガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、長石、ムライト、石英、パイレックス(登録商標)ガラス、シリカガラス等が好適に用いられる。
【0051】
また、本発明においては、無機充填材として、予め表面処理が施された無機粒子を用いることができる。表面処理を施すことで、得られるミルブランクの機械的強度が向上する。また、無機充填材を加圧成形し、得られた無機粒子の凝集体(無機充填材成形体)を、後述の重合性単量体に接触させて、無機粒子の凝集間隙に該重合性単量体を侵入させる際に、無機粒子表面と重合性単量体とのなじみが良くなり、凝集体間隙に、重合性単量体が浸入しやすくなるというメリットもある。なお、ハイブリッド型無機粒子(C6)に表面処理剤で表面処理を施す場合は、ハイブリッド型における無機超微粒子(C4)と無機粒子(C5)のそれぞれに表面処理を施した後、混合してハイブリッド型無機粒子としてもよく、該無機超微粒子(C4)と無機粒子(C5)を混合したものに表面処理を施してもよい。
【0052】
かかる表面処理剤としては、公知の表面処理剤を用いることができ、有機ケイ素化合物;有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物;及びリン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する酸性基含有有機化合物を用いることができる。表面処理剤を2種以上使用する場合は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理層としてもよいし、表面処理剤層が複数積層した複層構造の表面処理層としてもよい。また、表面処理方法としては、特に制限なく公知の方法を用いることができる。
【0053】
有機ケイ素化合物としては、R
1nSiX
(4-n)で表される化合物が挙げられる(式中、R
1は炭素数1〜12の置換又は無置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1〜4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nは0〜3の整数であり、但し、R
1及びXが複数ある場合にはそれぞれ、同一でも異なっていてもよい)。
【0054】
具体的には、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等〕、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等〕等が挙げられる。なお、本発明において「(メタ)アクリロキシ」との表記は、メタクリロキシとアクリロキシの両者を包含する意味で用いられる。
【0055】
この中でも、重合性単量体と共重合し得る官能基を有するカップリング剤、例えば、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12〕、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12〕、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が好ましく用いられる。
【0056】
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート等が挙げられる。
【0057】
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート等が挙げられる。
【0058】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物等が挙げられる。
【0059】
リン酸基を含有する酸性基含有有機化合物としては、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0060】
また、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有する酸性基含有有機化合物としては、例えば、WO2012/042911号に記載のものを好適に用いることができる。
【0061】
上記の表面処理剤は、1種単独を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、無機充填材と重合性単量体との化学結合性を高めて硬化物の機械的強度を向上させるために、重合性単量体と共重合し得る官能基を有する酸性基含有有機化合物を用いることがより好ましい。
【0062】
表面処理剤の使用量は、特に限定されず、例えば、無機充填材(C)100重量部に対して、0.1〜50重量部が好ましい。
【0063】
ここで、無機充填材(C)の配合量は、重合性単量体(A)100重量部に対して、100〜400重量部が好ましく、150〜300重量部がより好ましい。
【0064】
本発明で用いる歯科用硬化性組成物には、前記成分以外に、目的に応じて、光重合開始剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、着色剤、顔料、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤等をさらに添加することも可能である。
【0065】
重合性単量体(A)と加熱重合開始剤(B)を含有する重合性単量体含有組成物を製造して、無機充填材(C)を混合して本発明の歯科用硬化性組成物を製造する場合、前記重合性単量体含有組成物と無機充填材(C)の接触方法は特に限定はないが、簡便で好ましい方法は、1)前記重合性単量体含有組成物の中に、無機充填材(C)成形体を浸漬すること、又は、2)前記重合性単量体含有組成物及び無機充填材(C)を混錬することである。
【0066】
前記1)の接触方法として、具体的には、無機充填材(C)を所望の大きさのプレス用金型に充填し、上パンチと下パンチを用いて一軸プレスにより加圧することで、無機充填材(C)成形体を得ることができる。この無機充填材(C)成形体を、重合性単量体含有組成物の中に浸漬することによって、毛細管現象により、単量体が徐々に成形体の内部に浸透することができる。
【0067】
このとき周囲の環境を減圧雰囲気下に置くことは、液体状の単量体の浸透を促すことになるため、好ましい。また、減圧操作の後に常圧に戻す操作(減圧/常圧の操作)を複数回繰り返すことは、単量体を成形体内部に完全に浸透させる工程の時間短縮のためには有効である。このときの減圧度は、単量体(A)の粘度や無機充填材(C)の粒子径により適宜選択されるが、通常は100ヘクトパスカル(10kPa)以下、好ましくは0.001〜50ヘクトパスカル(0.0001〜5kPa)、より好ましくは0.1〜20ヘクトパスカル(0.01〜2kPa)の範囲である。また、真空下(1×10
-8〜1×10
-1Pa)であってもよい。
【0068】
また、浸漬以外の方法としては、金型でプレス成形した状態で、そのまま、圧力をかけて重合性単量体含有組成物を金型中の無機充填材成形体に送り込む方法も考えられる。この方法をとると、重合硬化の工程も該金型中でそのまま引き続いて行うことが可能である。かかる加圧条件としては、好ましくは2MPa以上、より好ましくは10MPa以上、さらに好ましくは20MPa以上である。
【0069】
さらに、重合性単量体(A)を無機充填材(C)成形体内部に隙間無く浸透させる方法として、見かけ上、重合性単量体(A)が含浸した無機充填材(C)成形体を、一定時間加圧条件に置く方法がある。即ち、重合性単量体(A)が含浸した無機充填材(C)成形体を、重合性単量体(A)と共に、CIP装置等を用いて加圧条件下に置くことが望ましい。かかる加圧条件としては、好ましくは20MPa以上、より好ましくは50MPa以上、さらに好ましくは100MPa以上が望ましい。またさらに、加圧を解除して常圧に戻し、再び加圧するという、加圧/常圧を繰り返して行うとさらに好ましい。
【0070】
また、重合性単量体含有組成物の粘性は浸透速度に影響を与え、通常は粘度が低いほど浸透が早い。好ましい粘度範囲(25℃)は10Pa・s以下、より好ましくは5Pa・s以下、さらに好ましくは2Pa・s以下であるが、重合性単量体(A)の選択は粘度以外にも、機械的強度や屈折率も加味して行う必要がある。また、重合性単量体含有組成物を溶剤で希釈して用いて、後の減圧操作で溶剤を留去する方法をとることもある。また、温度を好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上であり、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下の範囲に上げることで重合性単量体組成物の粘度を下げて、浸透を早めることもできる。
【0071】
重合性単量体含有組成物を無機充填材(C)成形体に接触させる時間は、無機充填材(C)の種類、成形体のサイズ、単量体の浸透程度、接触方法等によって一概には決定されず、適宜、調整することができる。例えば、浸漬によって接触させる場合は、通常1〜120時間であり、減圧下での浸漬の場合は、通常0.5〜12時間であり、加圧下で接触させる場合は、通常0.2〜6時間である。
【0072】
前記2)の接触方法として、具体的には、本発明は重合性単量体含有組成物及び無機充填材(C)を混錬して得られるペースト状のコンポジットレジンから製造することも可能である。この際、必要に応じて真空脱泡等の処理を行うこともできる。
【0073】
成形方法として、コンポジットレジンを金型に流し込み、プレス成形することにより所望する形状に加工することが挙げられる。さらに、重合硬化の工程も該金型中でそのまま引き続いて行うことが可能である。かかる加圧条件としては、好ましくは2MPa以上、より好ましくは10MPa以上、さらに好ましくは20MPa以上である。昇圧完了と共に加熱することにより、重合硬化してミルブランクを得ることができる。
【0074】
次に、重合性単量体(A)加熱重合開始剤(B)を含有する歯科用硬化性組成物の重合硬化を行う。
【0075】
重合硬化は、加熱重合によって行うことができ、その条件は公知の方法に従って行なうことができる。なかでも、本発明ではクラックの発生を抑えて、水中での長期間保存後においてもより機械的強度の高いミルブランクを得る観点から、第一加熱重合を行なった後に、第一加熱重合の温度より高い温度で第二加熱重合することが好ましい。
【0076】
第一加熱重合の温度は、単官能性開始剤(b−1)の半減期温度(τ1)−25℃〜(τ1)−15℃が好ましい。第二加熱重合の温度は、第一加熱重合の温度より高い温度であり、かつ多官能性開始剤の半減期温度(τ2)−10℃〜(τ2)+30℃が好ましい。第一加熱重合の重合時間は、1〜30時間が好ましく、2〜10時間がより好ましい。第二加熱重合の重合時間は、2〜50時間が好ましく、3〜30時間がより好ましい。
【0077】
また、重合硬化の際、歯科用硬化性組成物を、窒素ガス等の不活性雰囲気下や、減圧環境下で重合させることで、重合率を高め、機械的強度をより高めることができる。
【0078】
かくして、本発明の製造方法により、歯科用ミルブランクが得られる。得られたミルブランクは、必要に応じて所望の大きさに切断、切削、表面研磨が施されて製品として出荷される。本発明により得られる歯科用ミルブランクは、従来の一般的な歯科用ミルブランクと比較して重合時にクラックが発生することなく、高い機械的強度を実現できる。また、本発明の歯科用ミルブランクは、水中での保存安定性に優れ、水中に一ヶ月保存後において、水中に保存前と比べて、曲げ強さの低下率が15%以下であるものが好ましい。
【0079】
本発明の歯科用ミルブランクのサイズは、市販の歯科用CAD/CAMシステムにセットできるような適当な大きさに加工されることが望ましい。望ましいサイズとしては、例えば、一歯欠損ブリッジの作成に適当な40mm×20mm×15mmの角柱状、インレーやオンレーの作成に適当な17mm×10mm×10mmの角柱状、フルクラウンの作成に適当な14mm×18mm×20mmの角柱状、ロングスパンブリッジや義歯床の作製に適当な、直径100mm、厚みが10〜28mmの円盤状等があげられるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0080】
本発明のミルブランクから製造される歯科用補綴物としては、例えば、インレー、アンレー、オンレー、ベニア、クラウン、ブリッジ等の歯冠修復物の他、支台歯、歯科用ポスト、義歯、義歯床、インプラント部材(フィクスチャー、アバットメント)等が挙げられる。また、切削加工は、例えば、市販の歯科用CAD/CAMシステムを用いて行うことが好ましい。かかるCAD/CAMシステムの例としては、シロナデンタルシステムズ社のCERECシステム、クラレノリタケデンタル社のカタナシステムが挙げられる。
【0081】
また、本発明で得られるミルブランクは、歯科用途以外の用途にも用いることができ、例えば、封止材料、積層板成形材料等の電子材料用途、一般的な汎用の複合材料部材、例えば、建築用、電化製品、家庭用品、玩具類の部品としても用いることができる。
【0082】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0083】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0084】
重合性単量体(A)
UDMA:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
Bis−GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(2,2−ビス[4−〔3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン)
【0085】
加熱重合開始剤(B)
単官能性重合開始剤(b−1)
BPO:ベンゾイルパーオキサイド(τ1=73.6℃、日油社製)
AIBN:2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(τ1=65℃、シグマアルドリッチ社製)
パーブチルZ:t−ブチルパーオキシベンゾエート(τ1=104.3℃、日油社製)
ジクミルパーオキサイド:(τ1=115℃、シグマアルドリッチ社製)
多官能性重合開始剤(b−2)
パーヘキサV:n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート(τ2=104.5℃、日油社製)
パーヘキサC:1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(τ2=90.7℃、日油社製)
パーヘキサHC:1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(τ2=87.1℃、日油社製)
パーテトラA:2,2−ビス(4,4−ジーt−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(τ2=94.7℃、日油社製)
【0086】
無機充填材(C)
OX 50:微粒子シリカ(平均一次粒子径0.04μm、BET比表面積50m
2/g、日本アエロジル社製)
Si−YbF
3:フッ化イッテルビウム球状充填材(平均一次粒子径0.10μm、シリカコーティング、Sukgyung社製)
UF2.0:バリウムガラス(平均一次粒子径2.0μm、ショット社製)
NF180:バリウムガラス(平均一次粒子径0.180μm、ショット社製)
【0087】
〔重合性単量体含有組成物の製造例1〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてBPO0.5重量部及びパーヘキサV0.5重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−1)を調製した。
【0088】
〔重合性単量体含有組成物の製造例2〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてBPO0.5重量部及びパーヘキサC0.5重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−2)を調製した。
【0089】
〔重合性単量体含有組成物の製造例3〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてBPO0.5重量部及びパーヘキサHC0.5重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−3)を調製した。
【0090】
〔重合性単量体含有組成物の製造例4〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてBPO0.5重量部及びパーテトラA0.5重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−4)を調製した。
【0091】
〔重合性単量体含有組成物の製造例5〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてAIBN0.5重量部及びパーヘキサV0.5重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−5)を調製した。
【0092】
〔重合性単量体含有組成物の製造例6〕
Bis−GMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてBPO0.5重量部及びパーヘキサV0.5重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−6)を調製した。
【0093】
〔重合性単量体含有組成物の製造例7〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてBPO1重量部及びパーヘキサV2重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−7)を調製した。
【0094】
〔重合性単量体含有組成物の製造例8〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてBPO0.1重量部及びパーヘキサV0.1重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−8)を調製した。
【0095】
〔重合性単量体含有組成物の製造例9〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてBPO0.5重量部及びパーブチルZ0.5重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−9)を調製した。
【0096】
〔重合性単量体含有組成物の製造例10〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてBPO1重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−10)を調製した。
【0097】
〔重合性単量体含有組成物の製造例11〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてパーヘキサV1重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−11)を調製した。
【0098】
〔重合性単量体含有組成物の製造例12〕
UDMA70重量部及びTEGDMA30重量部に、加熱重合開始剤(B)としてジクミルパーオキサイド1重量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(m−12)を調製した。
【0099】
〔無機粒子の製造例1〕
100重量部のOX 50をエタノール500重量部に分散し、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン7重量部と水5重量部を加えて室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、無機粒子(c−1)を得た。
【0100】
〔無機粒子の製造例2〕
100重量部のSi−YbF
3をエタノール500重量部に分散し、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン4重量部と水5重量部を加えて室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、球状の無機粒子(c−2)を得た。
【0101】
〔無機粒子の製造例3〕
80重量部のUF2.0及び20重量部のNF180をエタノール300重量部に分散し、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5重量部及び酢酸0.15重量部、水5重量部を加えて室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、無機粒子(c−3)を得た。
【0102】
[実施例1]
前記製造例で得た表面処理された無機粒子(c−1)4.5gを、14.5mm×18mmの長方形の穴を持つプレス用金型の下パンチ棒の上に敷いた。タッピングにより無機粒子(c−1)の粉末をならし、上パンチ棒を上にセットし、テーブルプレス機を用いて一軸プレス(プレス圧38.3MPa、時間は2分間)を行った。上パンチ棒と下パンチ棒を金型から外して、該粉末が凝集したプレス成形体を取り出した。該プレス成形体の大きさは、14.5mm×18mm×15mmの直方体であった。該プレス成形体を、重合性単量体組成物(m−1)に浸漬した。室温で24時間暗所に静置した後、浸漬した状態のまま減圧して脱気した(10ヘクトパスカル、10分間)。減圧を解除して、重合性単量体が含浸された成形体を取り出し半透明の重合性単量体含浸成形体を得た。この半透明の重合性単量体含浸成形体を目視で確認すると、内部に気泡の存在は認められなかった。次いで、重合性単量体が含浸された該成形体を熱風乾燥機を用いて55℃で4時間加熱した後、110℃で7時間加熱処理を行ってミルブランクを得た。
【0103】
[実施例2〜6]
重合性単量体組成物(m−1)の代わりに、重合性単量体組成物(m−2)〜(m−6)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例1と同様な、気泡や欠陥の無い直方体のミルブランクを実施例2〜6として得た。
【0104】
[実施例7]
無機粒子(c−1)及び無機粒子(c−2)の混合粉末11gを24mm×33mmの長方形の穴を持つプレス用金型の下パンチ棒の上に敷いた。タッピングにより該混合粉末をならし、上パンチ棒を上にセットし、テーブルプレス機を用いて一軸プレス(プレス圧38.9MPa、時間は5分間)を行った。上パンチ棒と下パンチ棒を金型から外して、該粉末が凝集したプレス成形体を取り出した。該プレス成形体の大きさは、24mm×33mm×11.5mmの直方体であった。該プレス成形体を、重合性単量体組成物(m−1)に浸漬した。30℃で24時間暗所に静置した後、浸漬した状態のまま減圧して脱気した(10ヘクトパスカル、10分間)。減圧を解除して、重合性単量体が含浸された成形体を取り出し半透明の重合性単量体含浸成形体を得た。この半透明の重合性単量体含浸成形体を目視で確認すると、内部に気泡の存在は認められなかった。次いで、重合性単量体が含浸された該成形体を熱風乾燥機を用いて55℃で4時間加熱した後、110℃で7時間加熱処理を行ってミルブランクを得た。
【0105】
[実施例8]
前記製造例で得た表面処理された無機粒子(c−3)6.5gを、14.5mm×18mmの長方形の穴を持つプレス用金型の下パンチ棒の上に敷いた。タッピングにより無機粒子(c−3)の粉末をならし、上パンチ棒を上にセットし、テーブルプレス機を用いて一軸プレス(プレス圧38.3MPa、時間は2分間)を行った。上パンチ棒と下パンチ棒を金型から外して、該粉末が凝集したプレス成形体を取り出した。該プレス成形体の大きさは、14.5mm×18mm×15mmの直方体であった。該プレス成形体を、重合性単量体組成物(m−1)に浸漬した。室温で24時間暗所に静置した後、浸漬した状態のまま減圧して脱気した(10ヘクトパスカル、10分間)。減圧を解除して、重合性単量体が含浸された成形体を取り出し半透明の重合性単量体含浸成形体を得た。この半透明の重合性単量体含浸成形体を目視で確認すると、内部に気泡の存在は認められなかった。次いで、重合性単量体が含浸された該成形体を熱風乾燥機を用いて55℃で4時間加熱した後、110℃で7時間加熱処理を行ってミルブランクを得た。
【0106】
[実施例9]
重合性単量体組成物(m−1)25重量部に、無機粒子(c−3)75重量部を混合混錬して均一にしたものを真空脱泡し、ペースト状の歯科用硬化性組成物を調整した。次いで、該歯科用硬化性組成物を14.5mm×14.5mm×18mmの長方体型の金型に流し込みプレス真空引きにより酸素を除外し、50MPaでプレス成形し、プレス成形体を得た。該成形体を55℃で4時間加熱した後、110℃で7時間加熱処理を行ってミルブランクを得た。
【0107】
[実施例10]
重合性単量体組成物(m−1)の代わりに、重合性単量体組成物(m−7)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例1と同様な、重合性単量体含浸成形体を得た。次いで、重合性単量体が含浸された該成形体を熱風乾燥機を用いて60℃で7時間加熱した後、130℃で12時間加熱処理を行ってミルブランクを得た。
【0108】
[実施例11]
重合性単量体組成物(m−1)の代わりに、重合性単量体組成物(m−8)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例1と同様な、重合性単量体含浸成形体を得た。次いで、重合性単量体が含浸された該成形体を熱風乾燥機を用いて55℃で2時間加熱した後、90℃で3時間加熱処理を行ってミルブランクを得た。
【0109】
[比較例1〜4]
重合性単量体組成物(m−1)の代わりに、重合性単量体組成物(m−9)〜(m−12)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例1と同様な、気泡や欠陥の無い直方体の重合性単量体含浸成形体を得た。この半透明の重合性単量体含浸成形体を目視で確認すると、内部に気泡の存在は認められなかった。次いで、重合性単量体が含浸された該成形体を熱風乾燥機を用いて55℃で4時間加熱した後、110℃で7時間加熱処理を行った。
【0110】
[試験例1]
各実施例及び比較例で得られたミルブランクのクラックの発生を以下の方法により評価した。製造したミルブランク表面のクラックの有無を拡大顕微鏡(倍率×10)を用いて評価した。また、超音波探傷を用いて、内部のクラックの有無を評価した。下記表1、2中の「重合時のクラック発生」の数値は、10個作製したミルブランクのうち、クラックが発生したミルブランクの数を表す。
【0111】
[試験例2]
各実施例及び比較例で得られたミルブランクの曲げ強さを以下の方法により測定した。すなわち、製造したミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(1.2mm×4mm×14mm)を作製し、#1000研磨紙で研磨した。該試験片について、万能試験機(インストロン社製)を用いて、クロスヘッドスピードを1mm/minに設定して、支点間距離12mmで3点曲げ試験法により曲げ強さを測定した。その後、該試験片は、37℃の水中に1ヶ月間浸漬し、万能試験機(インストロン社製)を用いて、水中に浸漬する前と同様に、3点曲げ試験法により曲げ強さを測定した。37℃の水中に1ヶ月間浸漬した後の曲げ強さは200MPa以上であれば好適とされる。
【0112】
[試験例3]
各実施例及び比較例で得られたミルブランクの色調安定性を以下の方法により測定した。製造したミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(10mm×10mm×1mm)を作製した。該試験片の綺麗な平滑面を#1000研磨紙、#2000研磨紙、#3000研磨紙、ラッピングフィルムの順に乾燥条件下で研磨した。その試験片を37℃で水中保管し、所定日保管したところで取り出し、測色装置(分光測色計CM−3610d、コニカミノルタ社製、光源D65/2)を用いて色調測定を行った。色調安定性(ΔE*)は以下の式に従って求めた。ΔE*<1.0が好適である。
ΔE*=[(ΔL*)
2+(Δa*)
2+(Δb*)
2]
1/2
(式中、ΔL*、Δa*、Δb*はL*a*b*表色系(JIS Z 8781−4:2013)における水中に保管する前後の明度指数L*、色座標a*、b*の差を表す。)
【0113】
各試験の測定結果を下記表1、2に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
実施例1〜5において、歯科用硬化性組成物の加熱重合時に、クラックの発生は確認されなかった。一方で、比較例1において、多官能性重合開始剤(b−2)の代わりに単官能性重合開始剤(b−1)に含まれない単官能性重合開始剤を、単官能性重合開始剤(b−1)とともに用いたものはクラックが発生した。また、比較例3の、多官能性重合開始剤(b−2)のみを使用した場合においても、加熱重合時にクラックの発生が確認された。
【0117】
実施例1〜5と比較例2の対比より、本発明の歯科用重合性組成物から製造されたミルブランクは37℃水中で一ヶ月浸漬した後でも200MPaを超えており、機械的強度が優れることが明らかになった。また、実施例1〜5と比較例2の対比より、本発明の歯科用重合性組成物から製造されたミルブランクは優れた色調安定性を有していた。
【0118】
実施例6において、重合性単量体(A)の種類を変えた場合でも、重合時にクラックの発生はなく、機械的強度及び色調安定性に優れたミルブランクを得ることができた。
【0119】
実施例7において、異なる2種の無機充填材(C)を用いた場合でも、重合時にクラックの発生はなく、機械的強度及び色調安定性に優れたミルブランクを得ることができた。
【0120】
実施例8により得られたミルブランクの機械的強度は非常に優れており、37℃水中で一ヶ月浸漬した後でも240MPaを超えていた。
【0121】
実施例8と9の対比から、ミルブランクの製造方法によらず、本発明の歯科用重合性組成物を用いることで、重合時にクラックの発生はなく、機械的強度及び色調安定性に優れたミルブランクを得られることが確認できた。
【0122】
実施例10及び11において、加熱重合開始剤(B)の量および重合温度が変わった場合でも、重合時にクラックの発生はなく、機械的強度及色調安定性に優れたミルブランクを得ることができた。
【0123】
以上の結果より、本発明の歯科用重合性組成物を用いることによって、重合時のクラック発生のリスクが低く、機械的強度に優れ、高い審美性を再現する歯科用ミルブランクが得られることが明らかになった。