(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る遠心圧縮機、及びターボチャージャの一例について
図1〜
図13を用いて説明する。
【0019】
(全体構成)
本実施形態に係るターボチャージャ10は、
図8に示されるように、タービンユニット20、遠心圧縮機30、及びタービンユニット20と遠心圧縮機30とを連結する連結ユニット40を備えている。そして、タービンユニット20は、自動車のエンジン(図示省略)の排気通路12の途中に配置され、遠心圧縮機30は、このエンジンの吸気通路14の途中に配置されている。
【0020】
タービンユニット20は、ハウジング24を備え、遠心圧縮機30は、ハウジング50を備え、連結ユニット40は、ハウジング24とハウジング50とを連結するハウジング44を備えている。
【0021】
さらに、ターボチャージャ10は、ハウジング24、ハウジング44、及びハウジング50の内部を通る回転軸42を備えている、そして、この回転軸42の軸方向(図中矢印E方向:以下単に「軸方向」)の一端側から他端側へ、ハウジング24、ハウジング44、及びハウジング50は、図示せぬ固定具を用いて互いに固定され、この順番で並んでいる。
【0022】
〔遠心圧縮機〕
遠心圧縮機30は、
図8に示されるように、ハウジング50と、インペラ32とを備えている。ハウジング50は、内部が空洞とされ、このハウジング50の内部に、インペラ32が配置されている。そして、インペラ32は、回転軸42の軸方向の他端側の部分に固定されている回転軸部34と、回転軸部34から延びる複数のインペラ翼36とを有している。
【0023】
また、ハウジング50においてインペラ32に対してインペラ32の軸方向の外側(ハウジング44側とは反対側)の部分には、吸気通路14を流れる空気(気体の一例)を、インペラ32に導く導入路52が形成されている。さらに、ハウジング50においてインペラ32に対して回転軸42の径方向(図中矢印D方向:以下単に「径方向」)の外側の部分には、空気をハウジング50の外部に流出させて吸気通路14に排出させる渦巻き状の渦巻き流路54(所謂スクロール流路)が形成されている。
【0024】
なお、遠心圧縮機30の構成については、詳細を後述する。
【0025】
〔連結ユニット〕
連結ユニット40は、
図8に示されるように、ハウジング44を備えている。そして、このハウジング44は、回転軸42を回転可能に支持する支持部44Aを有している。
【0026】
さらに、ハウジング44は、支持部44Aへ供給されるエンジンオイルを、ハウジング44の内部に流入させる流入口(図示省略)と、このエンジンオイルをハウジング44の内部から排出させる排出口(図示省略)とを有している。
【0027】
この構成において、ハウジング44の内部へ流入したエンジンオイルは、支持部44Aに供給され、回転軸42を滑らかに回転させるようになっている。
【0028】
〔タービンユニット〕
タービンユニット20は、
図8に示されるように、ハウジング24と、タービンロータ22とを備えている。ハウジング24は、内部が空洞とされ、このハウジング24の内部に、タービンロータ22が配置されている。そして、タービンロータ22は、回転軸42の軸方向の一端側の部分に接合されているロータハブ28と、ロータハブ28から延びる複数のタービン翼26とを有している。
【0029】
また、ハウジング24において、タービンロータ22に対して径方向の外側(回転軸42の回転中心C1側とは反対側)の部分には、排気通路12を流れる流体の一例としての排気ガスをハウジング24の内部へ流入させるスクロール流路46が形成されている。さらに、ハウジング24においてタービンロータ22に対して軸方向の外側(ハウジング44側とは反対側)の部分には、排気ガスをハウジング24の外部に流出させて排気通路12に排出させる排出流路58が形成されている。
【0030】
(全体構成の作用)
次に、ターボチャージャ10の作用について説明する。
【0031】
スクロール流路46からハウジング24の内部へ流入した排気ガスによって、タービン翼26が押されることで、タービンロータ22は回転する。タービンロータ22の回転力は、回転軸42を介してインペラ32に伝達される。なお、ハウジング24の内部でタービンロータ22を回転させた排気ガスは、排出流路58から排出流路58に排出される。
【0032】
インペラ32は、回転軸42を介してタービンロータ22の回転力が伝達されることで回転する。そして、回転するインペラ32は、導入路52によって、吸気通路14から導かれた空気を圧縮し、圧縮した空気を径方向の外側へ流す。さらに、径方向の外側へ流された圧縮空気は、渦巻き流路54を流れて吸気通路14に排出される。渦巻き流路54から排出された圧縮空気は、燃焼用の圧縮空気としてエンジンに供給される。
【0033】
(要部構成)
次に、遠心圧縮機30について説明する。
【0034】
遠心圧縮機30は、
図8に示されるように、ハウジング50と、ハウジング50の内部に配置されているインペラ32と、ハウジング50の内部に配置されている整流板80(
図1、
図5参照)とを備えている。
【0035】
〔インペラ〕
インペラ32は、前述したように、回転軸部34と、回転軸部34に基端部が接続されている複数のインペラ翼36とを有している。インペラ翼36は、回転翼の一例である。なお、
【0036】
回転軸部34は、軸方向の外側(ハウジング44とは反対側)に向かうに従って徐々に細くなっている。
【0037】
また、インペラ翼36は、
図1に示されるように、回転軸部34から径方向の外側へ湾曲しながら延出している。そして、夫々インペラ翼36は、
図2に示されるように、インペラ翼36の先端側(空気が流入する側)の部分で軸方向の外側を向く先端縁36Aと、先端縁36Aの端部に接続され、インペラ翼36の基端側へ向かう湾曲した湾曲縁36Bと、を有している。さらに、夫々のインペラ翼36は、湾曲縁36Bの端部に接続され、端面が径方向の外側(回転軸42の回転中心C1側とは反対側)を向く基端縁36Cを有している。
【0038】
この構成において、回転するインペラ32は、インペラ翼36の先端縁36A側から流入する空気を圧縮し、圧縮した空気(圧縮空気)をインペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側へ流すようになっている。
【0039】
〔ハウジング〕
ハウジング50には、
図2に示されるように、吸気通路14を流れる空気をインペラ32に導く導入路52と、インペラ32が配置されている圧縮路70と、拡散流路56(所謂ディフューザ流路)と、渦巻き状の渦巻き流路54とが形成されている。
【0040】
圧縮路70は、インペラ翼36の湾曲縁36Bを径方向の外側から囲むように形成されている。そして、圧縮路70を構成する壁面70Aと、インペラ翼36の湾曲縁36Bとの間には、隙間72が形成されている。
【0041】
拡散流路56は、インペラ翼36の基端縁36Cを径方向の外側から囲むように形成されている(
図1参照)。そして、拡散流路56は、回転するインペラ32によって圧縮されて径方向の外側へ流された圧縮空気を渦巻き流路54に導くようになっている。
【0042】
渦巻き流路54は、拡散流路56を径方向の外側から囲むように形成されている(
図1参照)。また、渦巻き流路54の流路断面は、円形状とされている。
【0043】
導入路52は、ハウジング50において、インペラ32に対して軸方向の外側の部分の導入部60に形成されている。換言すれば、導入部60に形成されている導入路52が、インペラ翼36へ空気を導くようになっている。
【0044】
導入路52は、
図1に示されるように、軸方向から見てインペラ翼36の先端縁36Aを囲むように形成され、軸方向に延びている。そして、導入路52は、
図2に示されるように、インペラ翼36側に形成され、軸方向の外側へ向かうに従って流路断面が大きくなる漏斗状の漏斗路68と、漏斗路68から軸方向の外側に延びる円柱状の流入流路66とを有している。具体的には、流入流路66は、回転軸42の回転中心C1(以下「回転中心C1」)を中心とする円柱状とされている。
【0045】
また、流入流路66は、
図1、
図8に示されるように、軸方向から見て、インペラ翼36に空気が流入する流入範囲Fと比して大きくされている。ここで、インペラ翼36において空気が流入する流入範囲F(以下単に「流入範囲F」)とは、回転するインペラ翼36の先端縁36Aが描く円形の内側の範囲(
図1、
図8の流入範囲F)である。
【0046】
〔整流板〕
整流板80は、板状であって、
図1、
図5に示されるように、流入流路66に配置され、ハウジング50の導入部60と一体的に成形されている。また、整流板80は、軸方向に延び、整流板80の板面が軸方向に沿っている。そして、整流板80は、一対の突出部82と、一対の突出部82を連結する連結部86とを含んで形成されている。
【0047】
一対の突出部82は、
図1に示されるように、軸方向から見て、回転中心C1を挟んで互いに反対側に夫々配置され、流入流路66の壁面66Aにおいて、壁面66Aの周方向の一部から流入流路66側に突出している。また、夫々の突出部82には、軸方向から見て、突出端である先端84Aが基端84Bに対してインペラ32(インペラ翼36)の回転方向(時計方向:図中R1方向)の下流側となるように傾く傾斜面84が形成されている。そして、この傾斜面84の先端84Aは、流入範囲Fに達している。本実施形態では、軸方向から見て、先端84Aと、流入範囲Fの外縁F1とが接している。
【0048】
夫々の傾斜面84は、
図2、
図5に示されるように、突出部82の厚さ方向(板厚方向)から見て、矩形状とされている。また、夫々の傾斜面84は、軸方向において流入流路66の一端66Bから他端66Cまで形成されている。
【0049】
連結部86は、一方の突出部82における軸方向の外側の部分と、他方の突出部82における軸方向の外側の部分とを連結するように形成されている。また、連結部86における軸方向の長さは、突出部82における軸方向の長さと比して短くされている。例えば、連結部86における軸方向の長さは、突出部82における軸方向の長さの1/4とされている。
【0050】
さらに、
図1に示されるように、軸方向から見て、流入範囲Fの外縁F1と傾斜面84の接点S1(本実施形態では先端84A)と、傾斜面84の基端84Bとを結ぶ線分を線分B1とする。また、接点S1と、回転中心C1と結ぶ線分B2とする。そうすると、本実施形態では、線分B1と線分B2との成す角度K1は、126度である。
【0051】
なお、本実施形態では、軸方向から見て、線分B1と線分B2との成す角度K1が、126度であったが、角度K1については、90度以上、180度未満であればよい。
【0052】
また、本実施形態では、軸方向から見て、傾斜面84の先端84Aは、流入範囲Fの外縁F1と接していたが、傾斜面84の先端84Aが、流入範囲Fに達していればよい。傾斜面84の先端84Aが、流入範囲Fの内部に位置している場合には、基端84Bから、流入範囲Fの外縁F1と傾斜面84との交点までの長さを100とした場合に、傾斜面84の基端84Bから先端84Aまでの長さが、120以下であれば好ましい。
【0053】
(作用)
次に、本第1実施形態に係る遠心圧縮機30の作用について、本第1実施形態に対する第1比較形態に係る遠心圧縮機100、及び第2比較形態に係る遠心圧縮機120と比較しつつ説明する。先ず、遠心圧縮機100、120の構成を説明し、その後、遠心圧縮機100の作用、遠心圧縮機120の作用、及び遠心圧縮機30の作用を、この順で説明する。なお、遠心圧縮機100、120の構成については、遠心圧縮機30と異なる部分を主に説明する。
【0054】
−比較形態に係る遠心圧縮機の構成−
比較形態に係る遠心圧縮機100の流入流路66には、
図9、
図10に示されるように、整流板は設けられていない。なお、遠心圧縮機100の他の構成については、遠心圧縮機30と同様である。
【0055】
比較形態に係る遠心圧縮機120の流入流路66には、
図11、
図12、
図13に示されるように、平板状の整流板122が設けられている。整流板122の板面は、径方向を向いており、整流板122は、軸方向から見て、回転中心C1上に配置されている(
図11参照)。また、整流板122の軸方向の長さは、一定である(
図12、
図13参照)。なお、遠心圧縮機120の他の構成については、遠心圧縮機30と同様である。
【0056】
−遠心圧縮機の作用−
先ず、遠心圧縮機100において、インペラ32に流入する空気の流量が少ない場合について説明する。この場合には、遠心圧縮機100の圧力比の流量に対する相対的な大きさは、インペラ32に流入する空気の流量が大きい場合と比して、大きくなっている。
【0057】
図10に示されるように、回転するインペラ32は、導入路52を軸方向に沿ってインペラ32側へ流れ、インペラ翼36の先端縁36A側から流入する空気(矢印L1)を圧縮し、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流す。ここで、前述したように、遠心圧縮機100の圧力比の流量に対する相対的な大きさは、インペラ32に流入する空気の流量が大きい場合と比して、大きくなっている。
【0058】
このため、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流れた空気は、渦巻き流路54側へ流れる空気(矢印L2)と、逆方向に折り返す空気(矢印L3)とに分かれる(剥離する)。逆方向に折り返す空気(矢印L3)は、インペラ翼36とハウジング50との間の隙間72を通って導入路52側へ流れる。
【0059】
さらに、導入路52側へ逆流した空気は、
図9、
図10に示されるように、流入流路66の壁面66Aに沿って、インペラ32の回転方向(図中R1方向)に回転しながら螺旋状に流れ(矢印L4)、流入流路66から流出する。
【0060】
なお、インペラ32に流入する空気の流量が大きい場合には、遠心圧縮機100の圧力比は、インペラ32に流入する空気の流量が小さい場合と比して、小さく、インペラ32の大きさも流量と適合してくる。このため、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流れた空気が逆方向に折り返すことはない。
【0061】
次に、遠心圧縮機120において、インペラ32に流入する空気の流量が少ない場合について説明する。この場合には、遠心圧縮機120の圧力比の流量に対する相対的な大きさは、インペラ32に流入する空気の流量が大きい場合と比して、大きくなっている。
【0062】
図12に示されるように、回転するインペラ32は、導入路52を軸方向に沿ってインペラ32側へ流れインペラ翼36の先端縁36A側から流入する空気(矢印M1)を圧縮し、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流す。ここで、前述したように、遠心圧縮機120の圧力比は、インペラ32に流入する空気の流量が大きい場合と比して、大きくなっている。
【0063】
このため、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流れた空気は、渦巻き流路54側へ流れる空気(矢印M2)と、逆方向に折り返す空気(矢印M3)とに分かれる(剥離する)。逆方向に折り返す空気(矢印M3)は、インペラ翼36とハウジング50との間の隙間72を通って導入路52側へ流れる。
【0064】
さらに、導入路52側へ逆流した空気は、
図11に示されるように、流入流路66の壁面66Aに沿って、インペラ32の回転方向(図中R1方向)に回転しながら螺旋状に流れる(矢印M4)。ここで、流入流路66には、平板状の整流板122が配置されている。このため、流入流路66の壁面66Aに沿って螺旋状に流れる空気は、整流板122に当たり(に案内され)、軸方向から見て、回転中心C1側へ流れる(矢印M5)。
【0065】
さらに、回転中心C1側へ流れた空気は、軸方向に沿ってインペラ32側へ流れる空気(矢印M1)を、軸方向から見て、回転中心C1側に押圧(加圧)する。そして、インペラ32側へ流れる空気は、回転中心C1側に寄せられる。このため、遠心圧縮機120では、遠心圧縮機100を用いる場合と比して、インペラ32に流入する空気の圧力は高くなる。
【0066】
なお、インペラ32に流入する空気の流量が大きい場合には、遠心圧縮機120の圧力比は、インペラ32に流入する空気の流量が小さい場合と比して、小さく、インペラ32の大きさも流量と適合してくる。このため、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流れた空気が逆方向に折り返すことはない。
【0067】
次に、遠心圧縮機30において、インペラ32に流入する空気の流量が少ない場合について説明する。この場合には、遠心圧縮機30の圧力比は、インペラ32に流入する空気の流量が大きい場合と比して、大きくなっている。
【0068】
図2に示されるように、回転するインペラ32は、導入路52を軸方向に沿ってインペラ32側へ流れ、インペラ翼36の先端縁36A側から流入する空気(矢印N1)を圧縮し、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流す。ここで、前述したように、遠心圧縮機30の圧力比は、インペラ32に流入する空気の流量が大きい場合と比して、大きくなっている。
【0069】
このため、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流れた空気は、渦巻き流路54側へ流れる空気(矢印N2)と、逆方向に折り返す空気(矢印N3)とに分かれる(剥離する)。逆方向に折り返す空気(矢印N3)は、インペラ翼36とハウジング50との間の隙間72を通って導入路52側へ流れる。
【0070】
さらに、導入路52側へ逆流した空気は、
図1に示されるように、流入流路66の壁面66Aに沿って、インペラ32の回転方向(図中R1方向)に回転しながら螺旋状に流れる(矢印N4)。ここで、流入流路66には、一対の突出部82が形成された整流板80が配置されている。そして、この突出部82には、傾斜面84が夫々形成されている。これにより、流入流路66の壁面66Aに沿って螺旋状に流れる空気は、傾斜面84に当たり(に案内され)、軸方向から見て、傾斜面84に沿って流れる(矢印N5)。
【0071】
さらに、傾斜面84に沿って流れる空気は、軸方向に沿ってインペラ32側へ流れる空気(矢印N1)を、回転軸42の周方向で、インペラ32の回転方向の下流側に押圧(加圧)する。そして、インペラ32側へ流れる空気は、傾斜面84の傾斜方向に押圧される(寄せられる)。このため、遠心圧縮機30では、遠心圧縮機100を用いる場合と比して、インペラ32側へ流れ、インペラ32に流入する空気の圧力は高くなる。
【0072】
ここで、インペラ32側へ流れる空気がインペラ32の回転方向の下流側に押圧されることで、インペラ32側へ流れる空気の流れ方向は、流れ方向の下流側が流れ方向の上流側に対して、インペラ32の回転方向の下流側となるように、回転中心C1に対して傾斜する。そして、この空気が、インペラ32に流入して圧縮される。
【0073】
なお、インペラ32に流入する空気の流量が大きい場合には、遠心圧縮機30の圧力比は、インペラ32に流入する空気の流量が小さい場合と比して、小さく、インペラ32の大きさも流量と適合してくる。このため、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流れた空気が逆方向に折り返すことはない。
【0074】
−サージング限界−
次に、遠心圧縮機30、100、120のサージング限界について説明する。
先ず、遠心圧縮機30、100、120を用いて、サージング限界を求めた。なお、整流板80を備える遠心圧縮機30と、整流板122を備える遠心圧縮機120とについては、同様の結果が得られた。
【0075】
図6に示すグラフの縦軸は遠心圧縮機30、100、120によって圧縮された空気の圧力比を示し、横軸はインペラ32に流入する空気の流量〔g/sec〕を示している。ここで、圧力比とは、遠心圧縮機30、100、120の出口における圧力P2と入口における圧力P1との比P2/P1である。なお、圧力P1及び圧力P2は、圧力センサにより実測された値であり、空気の流量は、流量計により実測された値である。
【0076】
図6に示すグラフ中の実線G1は、インペラ32の回転数を一定にし、遠心圧縮機30、120において、インペラ32に流入する空気の流量を変えた場合の、空気の流量と圧力比との関係を示している。
【0077】
これに対して、破線J1は、インペラ32の回転数を実線G1と同様の回転数にし、遠心圧縮機100において、インペラ32に流入する空気の流量を変えた場合の空気の、流量と圧力比との関係を示している。
【0078】
そして、空気の流量を徐々に少なくし、サージングが発生する空気の流量と圧力比とを求めた。つまり、サージングが発生するまで空気の流量を少なくした。遠心圧縮機30、120については、最も空気の流量が少ない点g1でサージングが発生し、遠心圧縮機100については、最も空気の流量が少ない点j1でサージングが発生した。なお、サージングについては、ハウジング50に振動計を取り付けて、振幅が予め定められた閾値に達した場合に、サージングの発生と判断した。
【0079】
遠心圧縮機30、120を用いて測定した実線G2については、実線G1と比して回転数を高くし、実線G3については、実線G2と比して回転数を高くした場合を示している。そして、実線G2においては、最も空気の流量が少ない点g2でサージングが発生し、実線G3においては、最も空気の流量が少ない点g3でサージングが発生した。
【0080】
これに対して、遠心圧縮機100を用いて測定した破線J2については、遠心圧縮機30、120の実線G2と同様の回転数とし、破線J3については、遠心圧縮機30、120の実線G3と同様の回転数とした場合を示している。そして、破線J2においては、最も空気の流量が少ない点j2でサージングが発生し、破線J3においては、最も空気の流量が少ない点j3でサージングが発生した。
【0081】
また、他の回転数においても実線G1〜G3及び破線J1〜J3と評価の作業を行い、遠心圧縮機30、100、120においてサージングが発生する空気の流量と圧力比とを求めた。
【0082】
そして、グラフ中の実線H1が、遠心圧縮機30、120を用いた場合のサージング限界線H1(以下「限界線H1」)であり、グラフ中の実線H2が、遠心圧縮機100を用いた場合のサージング限界線H2(以下「限界線H2」)である。
【0083】
遠心圧縮機30、120では、グラフ中の限界線H1よりも右側(流量が大きい側)の領域でサージングが発生することがない。また、遠心圧縮機100では、グラフ中の限界線H2よりも右側(流量が大きい側)の領域でサージングが発生することがない。
【0084】
ここで、限界線H1と限界線H2とを比較すると、限界線H1が限界線H2と比して図中左側(空気流量が少ない側)に位置している。これにより、空気の流量が少ない場合に、遠心圧縮機30、120では、遠心圧縮機100と比して、サージングの発生が抑制されていることが分かる。
【0085】
次に、インペラ32の回転数をそのままにして空気の流量を少なくすると、サージングが発生する理由について説明する。
【0086】
空気の流量が少なくなると、前述したように、インペラ翼36の基端縁36Cから径方向の外側の拡散流路56へ流れた空気は、渦巻き流路54側へ流れる空気と、逆方向に折り返して導入路52側へ流れる空気とに分かれる(
図2、
図11、
図12参照)。換言すれば、一方向に流れる空気が剥離しながら渦巻き流路54側へ流れる空気と、導入路52側へ流れる空気とに分かれる。この空気の剥離に起因して、拡散流路56の近傍でサージングが発生する。
【0087】
ここで、遠心圧縮機30、120では、遠心圧縮機100と比して、サージングの発生が抑制されている理由について考察する。
【0088】
前述したように、遠心圧縮機30、120では、遠心圧縮機100と比して、インペラ32側へ流れる空気の圧力は高くなる。このように、インペラ32側へ流れる空気の圧力が高くなることで、拡散流路56で逆方向に折り返す空気の流量は少なくなる。このため、遠心圧縮機30、120では、遠心圧縮機100と比して、サージングの発生が抑制されている。
【0089】
−コンプレッサ効率−
次に、遠心圧縮機30、100、120のコンプレッサ効率について説明する。
先ず、遠心圧縮機30、100、120を用いて、コンプレッサ効率を求めた。なお、コンプレッサ効率η〔%〕は、式(1)で表される。
【0090】
η={(P2/P1)
(κ−1)/κ−1}/{(T2/T1)−1}・・式(1)
【0091】
ここで、前述したように、P1は、遠心圧縮機30、100、120の入口における空気の圧力であり、P2は、遠心圧縮機30、100、120の出口における圧力である。また、T1は、遠心圧縮機30、100、120の入口における空気の温度であり、T2は、遠心圧縮機30、100、120の出口における温度であり、κは、遠心圧縮機30、100、120に流入する空気の比熱比である。なお、圧力P1及び圧力P2は、圧力センサにより実測された値であり、温度T1及び温度T2は、温度センサにより実測された値である。
【0092】
図7に示すグラフの縦軸は遠心圧縮機30、100、120のコンプレッサ効率〔%〕を示し、横軸はインペラ32に流入する空気の流量〔g/sec〕を示している。
【0093】
図7に示すグラフ中の実線Q1は、遠心圧縮機30において、インペラ32に流入する空気の流量を変えた場合のコンプレッサ効率であり、最も空気の流量が少ない点q1でサージングが発生した。また破線Q2は、遠心圧縮機100において、インペラ32に流入する空気の流量を変えた場合のコンプレッサ効率であり、最も空気の流量が少ない点q2でサージングが発生した。また、一点鎖線Q3は、遠心圧縮機120において、インペラ32に流入する空気の流量を変えた場合のコンプレッサ効率であり、最も空気の流量が少ない点q3でサージングが発生した。
【0094】
前述した
図6に示すグラフの説明と同様に、
図7に示すグラフからも分かるように、遠心圧縮機30、120のサージング限界は、遠心圧縮機100のサージング限界と比して、空気の流量が小さい側である。
【0095】
コンプレッサ効率については、サージングに対する性能が同様である、遠心圧縮機30と遠心圧縮機120とで比較する。
【0096】
図7に示すグラフで分かるように、遠心圧縮機30において最も空気の流量が少ない点q1でのコンプレッサ効率は、遠心圧縮機120において最も空気の流量が少ない点q3でのコンプレッサ効率と比して、高い。
【0097】
ここで、遠心圧縮機30のコンプレッサ効率が、遠心圧縮機120のコンプレッサ効率と比して、インペラ32に流入する空気の流量が少ない場合に、高い理由について考察する。
【0098】
図3(A)には、遠心圧縮機30のインペラ翼36に対する、空気の流れが示され、
図3(B)には、遠心圧縮機120のインペラ翼36に対する、空気の流れが示されている。
【0099】
具体的には、
図3(A)(B)には、
図4に示す矢印U1方向(径方向)からインペラ翼36を見た場合の、インペラ翼36の湾曲縁36Bが示されている。
【0100】
先ず、
図3(A)に示す図面について説明する。
図3(A)に示すベクトルR1は、インペラ32(インペラ翼)が、回転することで受ける空気の流れ方向と速度を示したベクトルである。さらに、ベクトルX1-1は、遠心圧縮機30において、インペラ32に流入する空気の流量が小さい場合における、インペラ翼36側に流れる、見かけの空気の流れ方向(
図2の矢印N1)と速度を示したベクトルである。そして、ベクトルX1-1は、軸方向に沿っている。また、ベクトルX1-2は、遠心圧縮機30において、インペラ32に流入する空気の流量が小さい場合における、インペラ翼36側から相対的に見た空気の流れ方向と速度を示したベクトルである。このベクトルX1-2は、径方向から見て、ベクトルX1-1に対して傾斜している。この理由は、前述したように、螺旋状に流れて、突出部82の傾斜面84に沿って流れる空気(
図1の矢印N5)が、軸方向に沿ってインペラ32側へ流れる空気(
図1の矢印N1)を、インペラ32の回転方向の下流側に押圧するからである。
【0101】
このため、遠心圧縮機30のインペラ32に流入する空気の流量が小さい場合には、ベクトルR1と、ベクトルX1-2とを考慮し、
図3(A)に示すベクトルW1となる。ここで、径方向から見たインペラ翼36の先端部の傾斜方向をV1とすると、ベクトルW1と、傾斜方向V1との成す角度は、角度α1となる。
【0102】
次に、
図3(B)に示す図面について説明する。
図3(B)に示すベクトルR1は、
図3(A)と同様で、インペラ32(インペラ翼)が、回転することで受ける空気の流れ方向と速度を示したベクトルである。さらに、ベクトルX1は、遠心圧縮機120において、インペラ32に流入する空気の流量が小さい場合における、インペラ翼36側に流れる空気の流れ方向(
図12の矢印M1)と速度を示したベクトルである。ベクトルX1は、前述したベクトルX1-1と同様である。なお、遠心圧縮機120においては、螺旋状に流れて、整流板122に沿って流れた空気(
図11の矢印M5)は、軸方向に沿ってインペラ32側へ流れる空気(
図11の矢印M1)を、回転中心C1側に押圧(
図11参照)するが、インペラ32の回転方向には押圧しない。これにより、遠心圧縮機120においては、押圧後の空気の流れ方向と、矢印M1の空気の流れ方向とが同様となる。
【0103】
このため、遠心圧縮機120のインペラ32に流入する空気の流量が小さい場合には、インペラ翼36に対する空気の相対流れ方向と速度を示したベクトルは、
図3(B)に示すベクトルW2となる。そして、ベクトルW2と、傾斜方向V1との成す角度は、角度α2となる。
【0104】
ここで、遠心圧縮機120では、遠心圧縮機30と異なり、インペラ翼36側に流れる、空気の相対流れ方向は、径方向から見て、軸方向(回転中心C1)に対して傾斜しない。このため、
図3(A)(B)に示されるように、角度α2は、角度α1と比して大きくなる。これにより、遠心圧縮機120を用いる場合は、遠心圧縮機30を用いる場合と比して、インペラ翼36の背面で空気が剥離して、渦が発生しやすくなる(
図3(B)参照)。
【0105】
この渦に起因して、遠心圧縮機120のコンプレッサ効率は、遠心圧縮機30のコンプレッサ効率と比して、低くなる。換言すれば、遠心圧縮機30のコンプレッサ効率は、遠心圧縮機120のコンプレッサ効率と比して、高くなる。
【0106】
(まとめ)
以上説明したように、本実施形態に係る遠心圧縮機30、及び比較形態に係る遠心圧縮機120では、比較形態に係る遠心圧縮機100と比して、サージングの発生が抑制される。また、遠心圧縮機30のコンプレッサ効率は、遠心圧縮機120のコンプレッサ効率と比して、高くなる。
【0107】
換言すると、遠心圧縮機30では、遠心圧縮機120と比して、サージングに対する性能を維持した上で、コンプレッサ効率を高くすることができる。
【0108】
また、突出部82は、板状であり、傾斜面84は、軸方向に延びている。このため、傾斜面が軸方向に対して傾斜している場合と比して、インペラ32側に流れる空気の流量が大きい場合に、インペラ32側への空気の流れを阻害するのを、抑制することができる。
【0109】
また、傾斜面84は、軸方向において、流入流路66の一端66Bから他端66Cまで形成されている。このため、傾斜面が、軸方向において、流入流路66の一部に形成されている場合と比して、インペラ32側へ流れる空気を、効果的に押圧し、コンプレッサ効率を高くすることができる。
【0110】
また、ターボチャージャ10においては、インペラ32に流入する空気の流量が少ない場合に、遠心圧縮機30におけるコンプレッサ効率が高くなることで、圧縮空気をエンジンに効率よく供給することができる。
【0111】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る遠心圧縮機、ターボチャージャの一例について
図14を用いて説明する。なお、第1実施形態と同一部材等については、同一符号を付してその説明を省略し、第1実施形態と異なる部分を主に説明する。
【0112】
図14に示されるように、第2実施形態に係る遠心圧縮機150の整流板152には、連結部は形成されておらず、突出部82だけが形成されている。つまり、第2実施形態に係る遠心圧縮機150では、一対の突出部82が、回転軸42の回転中心C1を挟んで反対側に夫々配置されている。
【0113】
なお、遠心圧縮機150の作用については、第1実施形態と同様である。
【0114】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る遠心圧縮機、ターボチャージャの一例について
図15を用いて説明する。なお、第2実施形態と同一部材等については、同一符号を付してその説明を省略し、第2実施形態と異なる部分を主に説明する。
【0115】
図15に示されるように、第3実施形態に係る遠心圧縮機200には、突出部82が、1個形成されている。
【0116】
なお、遠心圧縮機200の作用については、第2実施形態と同様である。
【0117】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る遠心圧縮機、ターボチャージャの一例について
図16を用いて説明する。なお、第2実施形態と同一部材等については、同一符号を付してその説明を省略し、第2実施形態と異なる部分を主に説明する。
【0118】
図16に示されるように、第4実施形態に係る遠心圧縮機250には、突出部82が、3個形成されている。そして、3個の突出部82は、回転軸42の周方向に互いに同様の間隔を空けて配置されている。
【0119】
なお、遠心圧縮機250の作用については、第2実施形態と同様である。
【0120】
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態に係る遠心圧縮機、ターボチャージャの一例について
図17を用いて説明する。なお、第2実施形態と同一部材等については、同一符号を付してその説明を省略し、第2実施形態と異なる部分を主に説明する。
【0121】
図17に示されるように、第5実施形態に係る遠心圧縮機300の突出部302は、軸方向から見て、インペラ32の回転方向の上流側が凸となるように、湾曲している。
【0122】
なお、遠心圧縮機300の作用については、第2実施形態と同様である。
【0123】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、整流板80とハウジング50とは、一体であったが、別体であってもよい。
【0124】
また、上記実施形態では、突出部82は、板状であったが、例えば、軸方向から見て三角形状であってもよく、傾斜面が形成されていればよい。この場合には、突出部82が板状であることで奏する作用は、奏しない。
【0125】
また、上記実施形態では、特に説明しなかったが、突出部82(傾斜面84)が漏斗路68まで延びていてもよい。
【0126】
また、上記実施形態では、特に説明しなかったが、インペラ翼については、所謂全翼だけでなく、全翼と、全翼に対して軸方向の長さが短い所謂半翼とが、周方向に交互に形成されていてもよい。