(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第3ステップの前記走行モータの状態を判断する処理においては、前記第1ステップで収集した温度情報と前記第2ステップで算出されたRMS値が前記境界線を越えた回数を計数し、その計数値が予め設定した所定回数よりも大きいか否か判定し、計数値が予め設定した所定回数よりも大きい場合に異常を知らせる情報を出力することを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用走行モータの異常検知方法。
前記第3ステップの前記走行モータの状態を判断する処理においては、前記境界線を越えた回数の変化率を算出し、当該変化率が予め設定した所定値よりも大きいか否か判定し、変化率が予め設定した所定値よりも大きい場合に異常を知らせる情報を出力することを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両用走行モータの異常検知方法。
【背景技術】
【0002】
電気車(電動車)においては、長期間の運用により駆動用誘導電動機の部品が劣化もしくは故障したり塵埃の付着等により冷却能力が低下したりした場合、異常発熱を起こして機能停止に陥り、列車の運行に支障を来たすおそれがある。また、駆動用誘導電動機が故障してから修理すると、メンテナンスコストが高くなってしまう。
そこで、従来、電気車の駆動用誘導電動機の冷却能力が低下したことを把握してメンテナンス要求を行うようにした異常検知技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示されている電気車の駆動用誘導電動機の異常検知技術は、VVVF(可変電圧可変周波数制御)方式のインバータ装置により駆動される誘導電動機を使用している電気車において、トルク電流指令値とトルク電流実際値とに基づいて誘導電動機の2次抵抗補正値を算出して2次抵抗を補正し、補正後の2次抵抗値および基準2次抵抗値と誘導電動機のロータの材質によって決まるロータ温度係数とに基づいて、誘導電動機のロータ温度を推定し、推定温度がメンテナンスが必要となる設定温度を超えた場合にメンテナンスを促すとともに、誘導電動機の過負荷を防止するため、電流値を補正したり、一時的に誘導電動機を開放したりするものである。
【0004】
一方、測定したデータを分析して装置の状態を判定する技術として、実車データを蓄積するためのデータ蓄積部と、シミュレーションデータを特異値分解して第1の特徴量を求めるとともに実車データを特異値分解して第2の特徴量を求めるSVD処理部とを設け、第1の特徴量を第1のマハラノビス距離に変換して第1のマハラノビス距離に基づいて電車制御装置の状態を判定するための異常判定しきい値を設定し、第2の特徴量を第2のマハラノビス距離に変換し、第2のマハラノビス距離と異常判定しきい値とを比較した結果に基づいて電車制御装置の状態を判定するようにした発明がある(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されている電気車の駆動用誘導電動機の異常検知技術は、誘導電動機のロータ温度を推定し、推定温度と一定に設定されたしきい値との比較により異常発生を検知するため、誘導電動機の重大な故障の発生を未然に防止することができるものの、異常を検知するためのしきい値は設計上許容される最大温度により設定されるため、あまり低く設定することができない。
【0007】
一方、鉄道車両用の駆動用誘導電動機(以下、走行モータと称する)は、外気温度や乗車率等によって発熱の仕方に差異があり、走行モータにかかる負荷が低い場合には、粉塵等の付着により走行モータの冷却性能が低下した場合でも、推定温度が異常を検知するためのしきい値に達しないことがある。したがって単純に上記特許文献1に開示されている異常検知技術により電動機の温度を監視するだけでは、異常の発生を早期に検知することが困難であるという課題がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、鉄道車両の機器モニタリングデータを利用して、外気温度や乗車率等の条件の差異に影響されずに、走行モータの異常の発生を高い精度で検知することができる異常検知方法を提供することを目的とする。
【0008】
なお、上記特許文献2に開示されている発明は、実車データを取得し蓄積する点および実車データとしてモータの電流値を選択する点、取得したデータを統計的に分析する点で本発明と類似するものの、異常検知の対象が走行モータではなく、電車制御装置の異常を検知するものであるとともに、シミュレーションデータを使用するようにしているため事前にシミュレーションを行う必要がある点や、分析の際にマハラノビス距離を用いて判定している点で、以下に説明する本発明とは異なる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る鉄道車両用走行モータの異常検知方法は、
鉄道車両に搭載されたデータ収集システムによって収集された走行モータの推定温度情報および走行モータの電流値情報を受信し記憶する第1ステップと、
記憶された走行モータの電流値情報に基づいて、所定時間におけるRMS値(累積電流値の二乗平均平方根)を、走行モータごとに算出する第2ステップと、
少なくとも前記RMS値および該RMS値の2乗を説明変数としかつ走行モータの推定温度を従属変数として重回帰分析により回帰線を算出し、算出した回帰線と前記第1ステップで収集した推定温度情報および電流値情報を用いて走行モータの状態を判断する処理を行う第3ステップと、を含むようにしたものである。
【0010】
上記方法によれば、走行モータの電流値情報を収集して所定時間におけるRMS値を算出し、RMS値およびRMS値の2乗を説明変数として重回帰分析の手法によって回帰線を算出し、算出した回帰線と収集した走行モータの推定温度情報および電流値情報とを用いて走行モータの状態を判断するため、乗車率等の条件の差異に影響されずに、走行モータの異常の発生を高い精度で検知することができる。
【0011】
ここで、望ましくは、前記第3ステップにおいては、前記回帰線を、前記第1ステップで収集した温度情報および前記第2ステップで算出されたRMS値をパラメータとして標本をプロットしたグラフにおける集団を内包する位置まで、平行移動して前記
走行モータの状態の判定のための境界線を設定するようにする。
このように、集団を内包する位置に境界線を設定し、設定された境界線と収集した温度情報および電流値情報とを用いて走行モータの状態を判断するため、走行モータの異常の発生をより高い精度で検知することができる。
【0012】
また、望ましくは、前記第3ステップの前記走行モータの状態を判断する処理においては、前記第1ステップで収集した温度情報と前記第2ステップで算出されたRMS値が前記境界線を越えた回数を計数し、その計数値が予め設定した所定回数よりも大きいか否か判定し、計数値が予め設定した所定回数よりも大きい場合に異常を知らせる情報を出力するようにする。
このように、温度情報およびRMS値度が境界線を越えた回数を計数し、当該計数値が予め設定した所定回数よりも大きいか否か判定して異常を知らせる情報を出力することにより、比較的簡単な処理により異常の発生の有無の判定を行うことができるとともに、判定結果および報知の信頼性を高めることができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記第3ステップの前記走行モータの状態を判断する処理においては、前記境界線を越えた回数の変化率を算出し、当該変化率が予め設定した所定値よりも大きいか否か判定し、変化率が予め設定した所定値よりも大きい場合に異常を知らせる情報を出力するようにする。
【0014】
このように、境界線を越えた回数の変化率を算出し、変化率が予め設定した所定値よりも大きいか否か判定して異常を知らせる情報を出力することにより、回数のみに基づいて判定する場合に比べて、より迅速に異常の発生を検知して報知することができる。
【0015】
また、前記第3ステップの重回帰分析による回帰線の算出においては、さらに外気温度を説明変数として含んで算出するようにしてもよい。重回帰分析による回帰線の算出において外気温度を説明変数として含むことによって、より精度の高い異常検知を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉄道車両の機器モニタリングデータを利用して、外気温度や乗車率等の条件の差異に影響されずに、走行モータの異常の発生を高い精度で検知することができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る鉄道車両用走行モータの異常検知方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る鉄道車両用走行モータの異常検知方法は、走行中の列車において取集した温度データ等に基づいて、各電動車の走行モータの状態を把握し、走行モータが異常発熱を起こす早い段階で異常の発生を検知するものである。そこで、異常検知に必要なデータの収集システムおよび該システムにより収集されたデータに基づいて走行モータの状態を判定し報知する走行モータの異常検知システムの構成について、
図1を用いて先ず説明する。
【0019】
図1には、走行中の列車からデータを収集するシステム10および収集されたデータに基づいて走行モータの異常を検知する異常検知システム20の概要が示されている。
図1に示されているように、1編成の列車の各車両A,B,C……には、数両に1台の割合で走行モータ11および駆動用VVVFインバータ12が搭載された電動車(図では車両B)が連結されており、VVVFインバータ12にはコントローラ(制御装置)CNTが設けられている。本実施形態におけるデータ収集システム10は、列車に設けられているデータ伝送路13を利用して、各電動車のVVVFインバータ12……から温度データを収集可能な構成としている。
【0020】
また、収集するモータ温度は温度センサによる実測値でも良いが、モータの温度を検出するための温度センサを設置する箇所は環境条件が過酷であり、そのような箇所に設置した場合、センサの信頼性や耐用年数に難がある。一方、本実施形態における電動車のVVVFインバータ12は、コントローラCNTがソフトウェア処理によってトルク電流指令値とトルク電流実際値とに基づいて誘導電動機の2次抵抗補正値を算出し、補正後の2次抵抗値および基準2次抵抗値を比較することにより誘導電動機のロータ温度の推定を行うように構成されている。
【0021】
本実施形態においては、コントローラCNTが推定したモータの温度データを、当該車両に設けられている伝送端末装置14Bによって所定周期(例えば10秒)で取得し、データ伝送路13を介して例えば先頭車両(1号車)に設けられている中央端末装置15へ伝送するように構成することとした。
【0022】
さらに、VVVFインバータ12のコントローラCNTは、モータに流す電流値の大きさを把握しているので、伝送端末装置14BはコントローラCNTからモータの電流値情報も取得して、データ伝送路13を介して中央端末装置15へ伝送する。
中央端末装置15は、データ伝送路13を介して収集した温度データおよびモータの電流値情報を、電動車識別情報(号車情報)と共に例えばハードディスクや半導体メモリのような記憶装置を備えた記録装置16に格納し、無線通信機能を有する送信ユニット17が地上側装置20へ収集データを定期的に送信するように構成されている。
記録装置16には、当該列車の識別情報(編成番号)が格納されており、中央端末装置15が収集データを送信する際には、収集した温度データおよびモータの電流値データと共に列車の識別情報と電動車識別情報を送信する。なお、記録装置16は、サーバーであっても良い。
【0023】
走行モータの異常検知システム20は、車上側のデータ収集システム10の送信ユニット17から送信された収集データを受信するデータ受信部21と、受信した収集データを記憶するハードディスクや半導体メモリのようなデータ格納部22を備える。また、走行モータの異常検知システム20は、受信したデータ(温度データおよび電流値データ)を分析して異常検知の判定基準となるしきい値としての境界線を算出する境界線算出部23と、算出された境界線と収集されたデータとを比較して走行モータの異常状態を判定する判定処理部24と、判定結果を記憶する結果格納部25と、アラート(警報)情報を外部の携帯情報端末30等へ送信するアラート発信部26を備える。
【0024】
なお、上記境界線算出部23および判定処理部24の機能は、CPU(マイクロプロセッサ)のような演算装置、ROMやRAMなどの記憶装置、キーボードのような入力装置および表示装置のような出力装置を備えたパーソナルコンピュータと、その記憶装置に記憶されるプログラムとによって実現することができる。かかるパーソナルコンピュータのハードウェア構成自体は自明であるのでその図示は省略する。
次に、走行モータの異常検知システム20における境界線算出処理とモータ異常検知判定処理の詳細を、本発明を開発するに至った過程とともに説明する。
【0025】
本発明者らは、本発明の走行モータ異常検知システムの開発に先立って、走行中の列車における走行モータの推定温度を、約半年にわたってVVVFインバータのコントローラから取得する試験を行なった。
図2(A)に、通常の営業列車における試験で得られた走行モータの推定温度の日毎の最大値の推移を、横軸に日をとって示す。また、
図2(B)に、走行モータの推定温度の日毎の最大値の頻度を、横軸に推定温度をとって示す。
【0026】
図2より、モータの推定温度の最高値は150℃であり、その最高値および設計上許容される最大温度により設定されるしきい値との比較により、走行モータの異常を検知することは可能であることが分かる。しかし、最高推定温度は外気温度やモータの負荷すなわち乗車率や走行条件(車両速度等)等によって大きくばらつくため、実績最大推定温度の150℃をしきい値とする異常検知方式は感度が低いと考えられる。
そこで、次に、統計的分析を行うため、走行モータの推定温度の他に、外気温度や乗車率、モータ電流値、車両速度を走行中の列車から取得する試験を行なった。なお、乗車率は、従来から空気バネに設けられている車体重量を測定する重量計の測定値から換算する方式があるので、それを利用して取得した。
【0027】
図3に、上記試験で得られた各データの1日の推移を、横軸に時間をとって示す。
図3からは、走行モータの推定温度と他の測定項目との明確な相関は見て取れない。
本発明者らは、走行モータは電気エネルギーを回転エネルギーに変換する装置であり損失の一部が熱として発生してモータの温度が上昇すると考えられることから、モータの電流値が重回帰分析における説明変数として有力な候補であると予想し、上記試験で取得したモータ電流値(瞬間値)と推定温度との関係を示すグラフを作成した。そのグラフを
図4(A)に示す。
図4(A)からは、推定温度と電流値との間に相関は見られない。
【0028】
そこで、次に、ある時間での累積モータ電流値のRMS(二乗平均平方根)をとり、それと推定温度との関係を示すグラフを作成した。そのグラフを
図5(A)〜(D)に示す。
図5のうち、(A)は0.5時間の累積電流値のRMS、(B)は1時間の累積電流値のRMS、(C)は2時間の累積電流値のRMS、(D)は3時間の累積電流値のRMSをそれぞれ横軸にとって示したものである。また、各グラフにおける相関係数R
2を計算したところ、(A)のグラフの相関係数R
2は0.568、(B)のグラフの相関係数R
2は0.716、(C)のグラフの相関係数R
2は0.777、(D)のグラフの相関係数R
2は0.692であった。これより、2時間の累積電流値のRMSとモータ推定温度との相関が最も良いことが分かる。
なお、RMS値を算出する累積時間は一義的に決まるものではなく、車種(車体構造)や使用するモータ(誘導電動機)の種類(仕様)、走行条件等によって異なると考えられるので、最適な値は試験を行なって決定すればよい。
【0029】
図6に、前記試験で得られたモータ電流値(瞬間値)から計算した2時間の累積電流値RMSの1日の推移を、他の測定項目(推定温度、外気温度、乗車率、モータ電流値、車両速度)の1日の推移と共に示す。推定温度と2時間RMS値とを比較すると、上昇と下降の全体的な傾向は一致しており、相関があることが見て取れる。
次に、本発明者らは、前記試験で得られたデータに対して、モータ推定温度を従属変数(目的変数)とし、説明変数としてモータ電流の2時間RMS値IRMSとRMS値の2乗IRMS
2と外気温度Taとを選択して重回帰分析を実施した。
【0030】
上記3つの説明変数であるIRMSとIRMS
2とTaを用いた重回帰式は、次式
従属変数(モータ推定温度)=a+b×IRMS
2+c×IRMS+d×Ta ……(1)
で示される。
次に、前記試験により10秒周期で取得した約半年分の実測値を用いて、重回帰分析により統計的処理を実施することによって、上記式(1)における定数aおよび係数b,c,dを決定した。その結果、次のモデル式
モータ推定温度=-19.702+0.001×IRMS
2+1.683×IRMS−0.025×Ta ……(2)
が得られた。なお、上記式(1)における定数aおよび係数b,c,dの値は、最小二乗法で回帰線を算出して決定しても良いが、重回帰分析機能を有する種々のソフトウェアが市販されているので、それを利用して得ることもできる。
上記モデル式(2)より、外気温度Taの項の係数は0.025と小さく、この項は無視してもそれほど大きな誤差は生じないことが分かる。
【0031】
図4(B)は、推定温度と2時間RMS値との関係を示す
図5(C)のグラフに、上記モデル式の外気温度Taの項を省略した式で表わされる回帰線Dを表わしたものを模式的に示したものである。本発明では、この回帰線Dをほぼ上方あるいは該回帰線Dと直交する方向へ、集団すなわち全ての標本(実測値)を包含する位置まで平行移動させ、これを異常検知の判定の際の境界線(しきい値)Eとすることとした。さらに、実績の最大値に基づくしきい値線Fを設けて、回帰線Dとしきい値線Fの最小値から構成される境界線を設けても良い。また、上記平行移動の量は一義的に決まるものではなく、車種(車体構造)や使用するモータ(誘導電動機)の種類(仕様)、走行条件等によって異なるので、最適な値は試験を行なって決定すればよい。
【0032】
なお、
図4(B)は、標本(実測値)をモータ推定温度と累積モータ電流値RMSと外気温度をパラメータとする三次元座標上にプロットしたグラフに式(2)で表わされる線を示したものを、モータ推定温度および累積モータ電流値RMSをパラメータとする二次元座標に投影したものとみなすことができる。これより、式(2)における外気温度Taの項を省略しない式で表わされる回帰線を三次元座標上に表わしたものを、集団を包含する位置まで上方へ移動して、境界線を決定することも可能であることが分かる。
【0033】
本発明者らは、前記分析結果および試験結果から、以下に説明するような走行モータの異常検知方法を開発した。
図7は、
図1に示す走行モータの異常検知システム20の境界線算出部23および判定処理部24によって実行される処理の手順を示すフローチャートである。なお、以下に説明する処理は、検知対象の列車が複数の電動車を備える場合、電動車(走行モータ)ごとに実行してもよいし、車種や線区毎にまとめて実施してもよい。
【0034】
図7に示すように、走行モータの異常検知システム20は、先ず、評価対象の車両(列車)が営業開始から1年以内のものであるか否か判定する(ステップS1)。営業開始から1年以内の判定を行うのは、正常な状態の走行モータの稼動による実績データを判断の基礎データとして取得するとともに、通年(全季節)のデータを取得しておくのが望ましいためである。なお、本実施例の異常検知方法は、走行モータの劣化による異常の発生を早期に検知するためのものであるので、通年のデータを取得できれば、営業開始から1年以内の車両についてのデータ取得に限定されるものでない。
【0035】
上記ステップS1で、営業開始から1年以内のものである(Yes)と判定すると、ステップS2へ移行して、しきい値となる境界線の算出処理を開始し、起動から4時間以上経過しているか否か判断する。そして、4時間以上経過していない(No)と判定すると境界線の算出のための計算をしないで当該処理を終了する。
図3のグラフからも分かるように、4時間程度経過しないとモータの温度が安定しないためである。
ステップS2で、起動から4時間以上経過した(Yes)と判定すると、ステップS3へ移行して、営業走行中であるか否か判断する。そして、営業走行中でない(No)と判定すると境界線の算出のための計算をしないで当該処理を終了する。判断の基礎データとして、営業走行中の実績データを用いているためである。
【0036】
また、ステップS3で営業走行中である(Yes)と判定すると、ステップS4へ進んでしきい値となる境界線の算出処理を開始し、先ず走行モータの電流値の2時間RMS値を算出する。続いて、算出されたRMS値を用いて重回帰分析の手法により、
図4(B)における回帰線Dを前述したモデル式を使用して算出し、その回帰線Dを平行移動して中央の集団を内包する境界線Eを決定し(ステップS5)、該境界線情報を記憶装置に格納して処理を終了する(ステップS6)。さらに、実績データの最大値に基づいて、
図4(B)に示されているしきい値線Fも決定して記憶しても良い。
【0037】
一方、最初のステップS1で、評価対象車両が営業開始から1年以内でない(No)と判定すると、ステップS7へ移行して判定処理を開始し、先ず起動から4時間以上経過しているか否か判断する。そして、4時間以上経過していない(No)と判定すると境界線の算出のための計算をしないで当該処理を終了する。
ステップS7で、起動から4時間以上経過した(Yes)と判定すると、ステップS8へ移行して、営業走行中であるか否か判断する。そして、営業走行中でない(No)と判定すると境界線の算出のための計算をしないで当該処理を終了する。
【0038】
また、ステップS8で営業走行中である(Yes)と判定すると、ステップS9へ進み、走行モータの電流値の2時間RMS値を算出する。
その後、ステップS10へ進んで、算出された値とステップS6で記憶装置に格納した境界線情報とを比較して、境界線を越えた回数を計数する(ステップS11)。そして、境界線を越えた回数(カウント値)が所定の回数以上であるか否か判定する(ステップS12)。ここで、境界線を越えた回数(カウント値)が所定の回数以上である(Yes)と判定すると、ステップS13へ移行してアラートを発信(もしくはアラームを発報)してから、ステップS17へ進んで判定結果を記憶装置に格納して当該処理を終了する。
【0039】
また、ステップS12で、境界線を越えた回数(カウント値)が所定の回数以上でない(No)と判定すると、ステップS14へ進んでカウント値の変化率(前日比)を算出し、算出された変化率が所定のしきい値以上であるか否か判定する(ステップS15)。そして、算出された変化率がしきい値以上である(Yes)と判定すると、ステップS16へ移行して、アラートを発信してから、ステップS17へ進んで判定結果を記憶装置に格納して当該処理を終了する。変化率が所定値以上であるか否かの判定(ステップS15)を行うことで、境界線を越える回数が少なくても急に回数の変化率が大きくなった場合にはアラートを発信して注意を促すことができる。
【0040】
図8(A)にステップS12の判定のイメージを、
図8(B)にステップS15の判定のイメージを、横軸に日付をとって示す。
走行モータが故障する前であっても、走行モータの劣化が進むと発熱量が増加して温度が上昇し、境界線を越える回数が次第に多くなる。また、走行モータの劣化が進むと、回数の変化率が次第に高くなると予想される。
図7に示す走行モータの異常検知処理のフローチャートでは、
図8(A)に示すように境界線を越える回数が次第に多くなって所定回数をオーバーするか、
図8(B)に示すように回数の変化率が急に高くなって所定値をオーバーすると、アラートを発信するため、走行モータの故障の予兆を的確に捉えて異常の発生を報知することができる。
【0041】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、
図7のフローチャートでは、ステップS12で境界線を越えた回数が所定の回数以上であると判定したとき、またはステップS15で回数の変化率がしきい値以上であると判定したときにアラートを発信しているが、ステップS12で境界線を越えた回数が所定の回数以上であると判定しかつステップS15で回数の変化率がしきい値以上であると判定したとき(論理積条件成立時)にアラートを発信するようにしてもよい。
【0042】
また、上記実施例の走行モータの異常検知方法では、境界線を算出する際に、重回帰分析で外気温度を説明変数に含んで算出したモデル式において外気温度の項を省略して回帰線を決定するとしたが、外気温度を説明変数に含んだモデル式に基づいて回帰線を決定してもよい。さらに、重回帰分析における説明変数に車両速度を含めて回帰線を算出し境界線を決定するようにしてもよい。
また、上記実施例の走行モータの異常検知方法では、重回帰式(1)を使用して係数を決定する際に、モータ温度としてVVVFインバータのコントローラが算出した推定温度を使用しているが、温度センサを用いて実測したモータ温度を使用するようにしても良い。