【実施例】
【0021】
図1は、本発明が好適に適用された助触媒10の一粒子を模式的に示している。助触媒10は、コア12と、その表面に固着されたシェル14とにより構成され、コア12の周囲にシェル14が外殻状に担持された所謂コアシェル構造を有している。助触媒10は、たとえば内燃機関からの排ガス中に含まれる有害成分である一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および窒素酸化物(NO
x)を浄化させる三元触媒コンバータである自動車排ガス浄化用触媒装置の多孔質セラミックで構成されたハニカム形状の図示しない本体部材の複数の挿通穴の内周面に設けられた触媒相に、白金等の主触媒の粉末と共に担持される。
【0022】
シェル14の主成分であるセリアジルコニアは、排ガス中の酸素濃度が運転条件などにより変動することによって白金の効率が悪くなるのを抑制するために、前記触媒相の周囲の酸素が過剰な時は酸素を吸蔵し、前記触媒相の周囲の酸素が不足した時は酸素を放出する酸素吸蔵放出能(OSC)を有する酸素吸蔵放出材として機能する。OSC量とは、酸素を貯蔵供給する能力の量すなわち酸素放出量(L/mol)である。
【0023】
助触媒10のコア12は、正方晶の結晶構造を有するジルコニア(ZrO
2)を主成分として構成されている。また、そのコア12の表面に固着されたシェル14は、セリア(CeO
2)が焼成によってジルコニアと反応したセリアジルコニアを主成分として構成されている。シェル14の主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=25:75〜60:40であり、そのシェル14に含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、10から20重量%の範囲である。
【0024】
これにより、助触媒10は、1000℃耐久後においても40(m
2/g)以上の比表面積を備えるものとなり、還元ピーク温度Tczが低く、セリウム利用率が高くなっている。
【0025】
助触媒10は、そのコア12のジルコニア粒子の平均一次粒子径D50(nm)を比較的小さなナノオーダの所定範囲内たとえば5〜50nmに調整することにより、そのセリアジルコニアのCe1mol当たりのOSC量(L/mol)が、従来のコアシェル構造のセリアジルコニア材やセリアとジルコニアとが均一に固溶された均一固溶体のセリアジルコニア材のCe1mol当たりのOSC量(L/mol)よりも高くなって、Ce利用率(セリウムの利用率)が好適に高くされている。
【0026】
以下において、本発明者等が成分およびその割合を変更した複数種類の試料について行った実験例を説明する。先ず、その実験例において用いられた、助触媒の性能を評価するための測定方法を説明する。
(コアの平均一次粒子径の測定)
コアの平均一次粒子径の測定は、TEM(日本電子株式会社製の電界放出型透過電子顕微鏡:型式JEM−2100F)による観察時に撮像された50個のコア粒子の直径の測定値の平均値である。
(助触媒の還元特性(TCD変化曲線)の測定)
マイクロトラック・ベル株式会社製の触媒分析装置(BELCAT−A)において、昇温還元法(TPR:Temperature−programmed reduction)を用いてアルゴンで希釈した5%水素ガス(5%H
2/Ar)を還元ガスとして用いて室温から800℃までの上昇過程での、助触媒からの酸素放出量を示す還元ガスの熱伝導度の経時変化(TCD)特性を測定して、酸素放出特性を評価した。
図4は、上記の還元ガスの熱伝導度の経時変化曲線(TCD変化曲線)の一例を示す図である。
(固溶していないCeの量の測定)
上記の還元ガスの熱伝導度の経時変化曲線(TCD曲線)のうち、500℃から600℃の範囲でピークを示す曲線と800℃付近でピークを示す曲線とを分離し、それら2曲線の面積をそれぞれ算出して、面積比を算出し、固溶していないCeの量を算出した。
(比表面積の測定)
測定対象の助触媒試料たとえば800℃で焼成された粉末を、さらに1000℃−12時間の耐久焼成を行い、その耐久焼成後の粉体の比表面積を、マウンテック社製の比表面積測定装置(Macsorb HM model−120)を用いて測定した。
(結晶性の評価)
測定対象となる助触媒試料の粉末X線回折(XRD)を行い、その回折パターンで発生するピークに基づいて結晶性を評価した。
図5は上記回折パターンの一例を示している。
(Ce利用率)
先ず、マイクロトラック・ベル株式会社製の触媒分析装置(BELCAT−A)において、試料(助触媒)を石英ガラス管内に設置し、5%水素/アルゴン雰囲気下で昇温速度10℃/minで800℃まで昇温還元し、熱伝導度検出器(TCD)によってガス組成変化をモニタリングすることで試料からの酸素放出挙動を示すTPR曲線を検出し、その検出されたTPR曲線と任意に引かれた基準線(ベースラインBL)とによって囲まれた800℃までの面積すなわち試料から放出された酸素放出量を求めて算出した。つまり、助触媒におけるCe1mol当たりのOSC量(L/mol)とは、助触媒10の試料中のCe1mol当たりの酸素放出量すなわち800℃まで昇温還元した時に助触媒の試料から抜けた酸素量である。次いで、また、下記の(1)式から、Ce1mol当たりのOSC量に基づいて試料(助触媒)のCe利用率(%)が算出される。なお、(1)式の6.2(L/mol)は、全てのCeが有効に使用された時のCe1mol当たりのOSC量(L/mol)であり、下記の(2)式により算出される。また、(2)式における試料1g当たりのOSC量(標準状態)は、上述のOSC性能の評価による昇温還元後、5%水素/アルゴン雰囲気下からアルゴン雰囲気下に切り換え600℃でTPR曲線のTCD Signalの値が一定になるまで雰囲気置換処理を行い、その後100%酸素パルスを飽和するまで試料に導入することで実験的に得られたものである。また、(2)式において、上記試料はCe
aZr
(1−a)O
2であり、aは試料Ce
aZr
(1−a)O
2に含有されたCeの量の割合である。
Ce利用率(%)=各試料のCe1mol当たりのOSC量(L/mol)÷6.2(L/mol)×100% ・・・(1)
Ce1mol当たりのOSC量(L/mol)=(140.116×a+91.22×(1−a)+32)×試料1g当たりのOSC量(L/g)÷a ・・・(2)
(XRDの左右幅比)
たとえば、比較例品3の回折パターンである
図6に示すような粉末X線回折(XRD)パターンにおいて、X線強度が最大となる点(ピーク)を通る縦線を中心線L1とし、左右のそれぞれの傾きがたとえば移動平均で零となる2点をそれぞれ通る縦軸を左端線L2および右端線L3とし、傾きが零となる2点を通る直線である基線L4(底線)上において、中心線L1と左端線L2との間の長さおよび中心線L1と右端線L3との間の長さの比を、左右幅比とした。
【0027】
(実施例品1)
以下において、助触媒10の実施例品1(ランタンドープジルコニアコアの表面にセリアジルコニアシェルが固着された複合酸化物(酸化物重量比でLa:Zr:Ce=10:70:20))の製造方法を
図2、
図3を用いて説明する。
図2は、コア粉末すなわちコア12の合成方法を示し、
図3は、
図2において合成されたコア粉末すなわちコア12の表面に、シェル14を合成する方法を示している。なお、試薬はいずれも和光純薬製を用いているがこれに限定されない。
【0028】
図2では、先ず、溶解工程P1および第1攪拌工程P2において、蒸留水234mlにオキシ塩化ジルコニウム八水和物83.79gを溶解するとともにその溶解液に30%過酸化水素水を157.94g加えた後、硝酸ランタン六水和物を17.1g添加して攪拌する。なお、これらオキシ塩化ジルコニウム八水和物、過酸化水素、および硝酸ランタン六水和物は、アンモニア水を入れる前までのどの工程に入れてもよい。次に、第1沈殿物生成工程P3において、攪拌中の液に25〜28%アンモニア水を添加して第1沈殿物を生成させ、スラリー状態とする。この沈殿生成時の溶液のpHは10〜14程度である。第1水熱処理工程P4において、上記の攪拌を中止した上でスラリーをテフロン(登録商標)製容器に移し、オートクレーブを用いて180℃−5時間の水熱処理を行う。続く第1ろ過・洗浄工程P5において、水熱処理後のスラリーをろ過および洗浄して沈殿物を回収し、第1乾燥工程P6において80℃で24時間乾燥する。そして、第1仮焼工程P7において、スラリーの乾燥後の粉末を乳鉢で粉砕し(ほぐし)て団粒のない均一な粉体とした後、750℃−3時間の第1仮焼を行って反応させ、仮焼粉すなわちコア粉末を得る。なお、上記第1攪拌工程P2において、過酸化水素水は必ずしも加えられなくてもよい。また、上記第1水熱処理工程P4および第1仮焼工程P7は必ずしも設けられていなくてもよい。
【0029】
図3では、混合工程P8において、上記仮焼粉30g、蒸留水90g、オキシ塩化ジルコニウム八水和物26.16g、硝酸二アンモニウムセリウム31.85gを、ジルコニアボール300gを収容する1Lのボールミル容器に入れ、ボールミルにより粉砕を18時間行う。次いで、第2攪拌工程P9において、上記ボールミル後のスラリーに30%過酸化水素水を13.8g加え、このスラリーを28%アンモニア水300gに加えて18時間攪拌する。次に、第2沈殿物生成工程P10において、上記攪拌液に28%アンモニア水を添加して第2沈殿物を生成させ、スラリー状態とする。続く第2水熱処理工程P11において、上記のスラリーをテフロン製容器に移し、オートクレーブを用いて180℃−5時間の水熱処理を行う。第2ろ過・洗浄工程P12において、水熱処理後のスラリーをろ過および洗浄して沈殿物を回収し、第2乾燥工程P13において80℃で24時間乾燥する。そして、第2仮焼工程P14において、スラリーの乾燥後の粉末を乳鉢で粉砕し(ほぐし)て団粒のない均一な粉体とした後、800℃−3時間の第2仮焼を行って反応させ、コア12の周囲にシェル14が外殻状に担持された所謂コアシェル構造を有する実施例品1の粉末を得る。この粉末は、たとえば平均一次粒子径が7nmの粒子である。このように製造された実施例品1は、シェルの主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=50:50であり、シェルに含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、15重量%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は45m
2/gであり、Ce利用率は97%であった。また、XRDの左右幅比は57:43であった。なお、第2攪拌工程P9において、過酸化水素水は必ずしも加えられなくてもよい。また、上記第2水熱処理工程P11は必ずしも設けられていなくてもよい。
【0030】
(実施例品2)
助触媒10の実施例品2(ランタンドープジルコニアコアの表面にセリアジルコニアシェルが固着された複合酸化物(酸化物重量比でLa:Zr:Ce=10:80:10))の製造方法を説明する。実施例品2は、
図2および
図3に記載されているものと略同様の工程を経て製造されるが、ジルコニアとセリアとの割合を実施例品1に対して変化させるために、
図3において、混合工程P8において加えられるオキシ塩化ジルコニウム八水和物が39.24g、硝酸二アンモニウムセリウムが15.94gである点、第2攪拌工程P9においてスラリーに添加される30%過酸化水素水が20.78gである点で、実施例品1に対して相違する。このように製造された実施例品2は、シェルの主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=25:75であり、シェルに含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、11重量%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は41m
2/gであり、Ce利用率は99%であった。また、XRDの左右幅比は68:32であった。
【0031】
(実施例品3)
助触媒10の実施例品3(ランタンドープジルコニアコアの表面にセリアジルコニアシェルが固着された複合酸化物(酸化物重量比でLa:Zr:Ce=10:67:23))の製造方法を説明する。実施例品3は、
図2および
図3に記載されているものと略同様の工程を経て製造されるが、
図2の第1仮焼が650℃である点、ジルコニアとセリアとの割合を実施例品1に対して変化させるために、
図3において、混合工程P8において加えられるオキシ塩化ジルコニウム八水和物が22.23g、硝酸二アンモニウムセリウムが36.62gである点、第2攪拌工程P9においてスラリーに添加される30%過酸化水素水が11.73gである点で、実施例品1に対して相違する。このように製造された実施例品3は、シェルの主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=58:42であり、シェルに含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、18重量%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は41m
2/gであり、Ce利用率は96%であった。また、XRDの左右幅比は59:41であった。
【0032】
(実施例品4)
助触媒10の実施例品4(ランタンドープジルコニアコアの表面にセリアジルコニアシェルが固着された複合酸化物(酸化物重量比でLa:Zr:Ce=14:70:16))の製造方法を説明する。実施例品4は、
図2および
図3に記載されているものと略同様の工程を経て製造されるが、
図2の第1仮焼が800℃である点、ジルコニアとセリアとの割合を実施例品1に対して変化させるために、
図3において、混合工程P8において加えられる硝酸二アンモニウムセリウムが25.48gである点、硝酸ランタン六水和物を5.32gを更に加える点、第2攪拌工程P9においてスラリーに添加される30%過酸化水素水が13.8gである点で、実施例品1に対して相違する。このように製造された実施例品4は、シェルの主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=44:56であり、シェルに含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、14重量%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は41m
2/gであり、Ce利用率は97%であった。また、XRDの左右幅比は63:37であった。
【0033】
(実施例品5)
助触媒10の実施例品5(ランタンドープジルコニアコアの表面にネオジムドープセリアジルコニアシェルが固着された複合酸化物(酸化物重量比でNd:La:Zr:Ce=5:5:70:20))の製造方法を説明する。実施例品5は、
図2および
図3に記載されているものと略同様の工程を経て製造されるが、ジルコニアとセリアとの割合を実施例品1に対して変化させるために、
図2の第1攪拌工程P2において硝酸ランタン六水和物を8.56gを加える点、
図3において、混合工程P8において加えられるオキシ塩化ジルコニウム八水和物が28.53g、硝酸二アンモニウムセリウムが34.75である点、硝酸ネオジム六水和物を5.65gを更に加える点、第2攪拌工程P9においてスラリーに添加される30%過酸化水素水が15.06gである点で、実施例品1に対して相違する。このように製造された実施例品5は、シェルの主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=50:50であり、シェルに含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、16重量%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は43m
2/gであり、Ce利用率は97%であった。また、XRDの左右幅比は58:42であった。
【0034】
(実施例品6)
助触媒10の実施例品6(ランタンドープジルコニアコアの表面にイットリウムドープセリアジルコニアシェルが固着された複合酸化物(酸化物重量比でY:La:Zr:Ce=7:3:60:30))の製造方法を説明する。実施例品6は、
図2および
図3に記載されているものと略同様の工程を経て製造されるが、ジルコニアとセリアとの割合を実施例品1に対して変化させるために、
図2の第1攪拌工程P2において硝酸ランタン六水和物を8.56gを加える点、
図2の第1仮焼が常温(焼成なし)である点、蒸留水が180gである点、
図3において、混合工程P8において加えられるオキシ塩化ジルコニウム八水和物が71.32gである点、硝酸二アンモニウムセリウムが86.87である点、塩化イットリウム六水和物を12.02gを更に加える点、第2攪拌工程P9においてスラリーに添加される30%過酸化水素水が37.64gである点で、実施例品1に対して相違する。このように製造された実施例品5は、シェルの主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=60:40であり、シェルに含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、19重量%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は41m
2/gであり、Ce利用率は95%であった。また、XRDの左右幅比は56:44であった。
【0035】
(実施例品7)
助触媒10の実施例品7(イットリウムドープジルコニアコアの表面にセリアジルコニアシェルが固着された複合酸化物(酸化物重量比でY:Zr:Ce=2:68:30))の製造方法を説明する。まず、コア粉末を作成するために、塩酸に酸化イットリウムを溶解して0.1mol/lの酸化イットリウム溶液を作成する。次いで蒸留水234mlにオキシ塩化ジルコニウム八水和物83.79gを溶解する。その溶液に30%過酸化水素水を157.94gを加えた後、0.1mol/lの酸化イットリウム溶液を149ml加え攪拌し、28%アンモニア水を加え、沈殿物を生成する。この沈殿物を含むスラリーをテフロン製容器に移し、オートクレーブを用いて180℃−5時間の水熱処理を行った後、ろ過により沈殿物を回収且つ洗浄し、80度で24時間乾燥させ、乳鉢で粉砕した後に、750℃−3時間の第1仮焼を行う。
次に、上記のようにして得たコア粉末を用いてシェルの作成を行う。まず、上記のコア粉末20g、蒸留水90g、オキシ塩化ジルコニウム八水和物39.23g、硝酸二アンモニウムセリウム47.78g、ジルコニアボール300gを、1L容器に入れボールミルを18時間おこなう。ボールミル後のスラリーに30%過酸化水素水20.4gを加え、このスラリーを28%アンモニア水に加えて沈殿物を生成する。この沈殿物を含むスラリーを1L容器に300gのジルコニアボールとともに収容し18時間ボールミルを行う。ボールミルの後、スラリーをテフロン製容器に移し、オートクレーブを用いて180℃−5時間の水熱処理を行う。ろ過により上記沈殿物を回収し且つ洗浄し、80度−24時間乾燥させ、乳鉢で粉砕した後に、800℃−3時間の第2仮焼を行う。その後、1000℃−12時間の耐久試験を行う。
このように製造された実施例品7は、シェルの主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=50:50であり、シェルに含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、15重量%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は41m
2/gであり、Ce利用率は98%であった。また、XRDの左右幅比は57:43であった。
【0036】
(比較例品1)
助触媒の比較例品1は、以下のように製造される。すなわち、ジルコニアゾルとセリアゾルを、酸化物重量比がZr:Ce=65:35となるように混合し、硝酸水溶液を添加してpH3まで下げた後、28%アンモニア水を添加してpH11まで上げて沈殿物を生成し、次いで、そのスラリー中から沈殿物を回収して乾燥した後、800℃−3時間の焼成を行って比較例品1を得た。このように製造された比較例品1は、ジルコニアゾルが使用されたものであって、ジルコニアコアの表面にセリアが固着された複合酸化物であり、シェルの主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=100:0であり、シェルに含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、28重量%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は20m
2/gであり、Ce利用率は72%であった。
【0037】
(比較例品2)
助触媒の比較例品2は、以下のように製造される。先ず、
図2と同様の方法によりコア粉末を得る。次いで、上記のコア粉末上記仮焼粉30g、蒸留水90g、硝酸二アンモニウムセリウム15.94gを、ジルコニアボール300gを収容する1Lのボールミル容器に入れ、ボールミルにより粉砕を12時間行う。次いで、第2攪拌工程P9において、上記ボールミル後のスラリーを28%アンモニア水300gに加え、第2沈殿物生成工程P10において、上記攪拌の後のスラリーをボールミルにより粉砕を12時間行う。続く第2ろ過・洗浄工程P12において、スラリーをろ過および洗浄して沈殿物を回収し、第2乾燥工程P13において80℃で24時間乾燥する。そして、第2仮焼工程P14において、スラリーの乾燥後の粉末を乳鉢で粉砕して団粒のない均一な粉体とした後、800℃−3時間の仮焼を行って反応させ、コアの周囲にシェルが担持された比較例品2の粉末を得る。この比較例品2の製造に際しては、
図3に対して、混合工程P8においてオキシ塩化ジルコニウム八水和物26.16gが用いられず、第2攪拌工程P9においてスラリーを30%過酸化水素水を13.8gに加えることがなく、しかも第2水熱処理工程P11が用いられていない。このようにして得られた比較例品2は、ジルコニア粉が使用されたものであって、ジルコニアコアの表面にセリアが固着された複合酸化物であり、シェルの主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=100:0であり、シェルに含まれるセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合は、48重量%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は34m
2/gであり、Ce利用率は66%であった。また、XRDの左右幅比は53:47であった。
【0038】
(比較例品3)
助触媒の比較例品3は、以下のように製造される。先ず、オキシ塩化ジルコニウム八水和物83.79を蒸留水234mlに溶解し、それに30%過酸化水素水を157.94g加えた後、硝酸ランタン六水和物を17.11g加える。さらに、硝酸二アンモニウムセリウムを81.68gを加えて攪拌する。その後、アンモニア水を600ml加えて沈殿物を生成する。攪拌をやめ、スラリーをテフロン製容器へ移し、オートクレーブを用いて180℃−5時間の水熱処理を行う。水熱処理後のスラリーをろ過および洗浄し、回収した沈殿物を80℃−24時間乾燥させる。乾燥後の粉末を乳鉢で粉砕し(ほぐし)、800℃−3時間の仮焼を行う。このようにして得られた比較例品3は、コアシェル構造ではなく、均一固溶体粒子であり、1000℃耐久焼成後の比表面積は40m
2/gであり、Ce利用率は80%であった。
【0039】
上記実施例品1〜実施例品7は、助触媒10に示すように、ジルコニアを主成分とするコア12の表面にセリアジルコニアのシェル14が固着されたコアシェル構造を持ち、コア12は正方晶の結晶構造を有し、シェル14はセリア:ジルコニアが酸化物重量比で25:75〜60:40の範囲の組成比を有し、シェル14のセリアのうちジルコニアと固溶していないセリアの割合が10〜20重量%の範囲内であって、TPR曲線においてピークを示す温度Tczが低く、且つ高いセリウム利用率を有する。
【0040】
昇温還元法により得られた還元ガスの熱伝導度の経時変化曲線(TPR曲線)を示す
図4において、(a)は実施例品1〜実施例品7のうちの代表例として実施例品1のTPR曲線を示し、(b)は比較例品1〜比較例品3のうちの代表例として比較例品2のTPR曲線を示す。実施例品1および比較例品2は500度〜600度の範囲でTPR曲線のピークをそれぞれ示すが、実施例品1は比較例品2に対して還元ガスの熱伝導度が高く、高い酸素吸蔵放出能(OSC)を有する。
【0041】
本発明者等は、理学電機社製のX線解析装置RINT−TTRIIIを用い、50kV、50mA、2θ=2°という条件下でCu−Kα線を用いて、測定対象となる上記助触媒試料(実施例品および比較例品)の粉末X線回折(XRD)を行った。
図5、
図6、
図7、
図8、
図9はそのX線回折の回折パターンを示している。
【0042】
図5の(a)は実施例品1〜実施例品3のうちの代表例として実施例品1の回折パターンを示し、
図5(a)において、実施例品1の回折パターンにおける29°、34°、49°、59°、62°のピークは黒丸印で示す正方晶ジルコニア由来のピークに帰属することができる。
図5(b)は、2θ=30°付近における、上記実施例品1の回折パターン(1点鎖線)とその実施例品1に使用したコアの回折パターン(実線)とを重ねて示す図である。
図5(b)には、互いに隣接するセリア由来のピークとジルコニア由来のピークが相互に結びつき、たとえば2θ=30°のセリア由来のピークがジルコニア由来のピークに結びついてほぼ見られなくなっていて1つのピークを形成しており、セリアとジルコニアとが相互に固溶していることが示されている。実施例品1は、ジルコニアに比較して、ピークの回折角が小さい側の裾野が広がっている特徴がある。このような特徴は、回折パターンの他のピークにおいても同様である。
【0043】
図7は、比較例品2の回折パターンを示している。
図7中の黒菱印のピークは、酸化セリウム(セリア)の回折パターンに帰属される。黒菱印のピークと黒丸印で示される正方晶ジルコニア由来のピークとは相互に結びついておらず、セリアとジルコニアとの固溶が進んでいない状態が示されている。
【0044】
図8は、比較例品3の回折パターンを示している。
図8中の黒逆三角印は、セリアジルコニア固溶体のピークを示している。これにより、比較例品3は、セリアジルコニアの均一固溶体から構成されていることが示される。
【0045】
図9は、
図5(a)に示される実施例品1の回折パターン(1点鎖線)、
図7に示される比較例品2の回折パターン(破線)、および、
図8に示される比較例品3の回折パターン(実線)を共通の横軸(回折角軸)上に相互に重ねたものであって、回折角2θ=30°付近を取り出して示す図である。
図9において、実線で示される実施例品1の回折パターンは、
図5(b)にも示されるように正方晶ジルコニアの回折パターンと似ているが、ピークの裾野が低回折角側へ広がっている。1点鎖線で示される比較例品2の回折パターンでは、正方晶ジルコニア由来のピークと酸化セリウム(セリア)由来のピークとが離れて表れていて、固溶していないセリアの存在が多いと推定される。2点鎖線で示される比較例品3の回折パターンでは、正方晶ジルコニア由来のピークと酸化セリウム(セリア)由来のピークとの間にピークが表れていて、ほとんどのセリアが固溶していることが推定される。
【0046】
図10は、上記の実施例品1〜実施例品7、比較例品1〜比較例品3のそれぞれの、コア平均一次粒子径(nm)、シェルにおけるCeO
2とZrO
2との重量比、全組成(酸化物重量比)、酸素放出特性のピークを示す温度Tcz(℃)、シェルのセリアのうち、ジルコニアと固溶していない割合(重量%)、1000℃耐久焼成後の比表面積(m
2/g)、および、セリウム利用率(%)を示す図表である。
図10において、実施例品1〜実施例品7は、コア平均一次粒子径が5〜50nmである。また、実施例品1〜実施例品7は、比較例品1〜比較例品3に対して、固溶していない割合が10〜20%であり、1000℃耐久焼成後の比表面積が41(m
2/g)以上であって相対的に大きく、Ce利用率が95%以上であって相対的に大きい。
【0047】
コア平均一次粒子(ジルコニア)の径dとコアの比表面積Rsとの関係は、次の(3)式によって示される。(3)式において、一次粒子の表面積をS、質量をM、ジルコニアの密度をρとしている。
Rs=S/M=6/ρ×d ・・・ (3)
ジルコニアの密度ρを6(g/cm
3)としたとき、(3)式からジルコニアの粒子径がd=1μmの場合は、比表面積Rsは1m
2/gであるから、ジルコニアの粒子径がd=5nmの場合は、比表面積Rsは200m
2/gであると推定される。すなわち、コア平均一次粒子径が5〜50nmであるとき、コアの比表面積は20〜200m
2/gであると推定される。
【0048】
また、
図10において、実施例品1〜実施例品7のXRDでは、30°付近のピークが割れておらず単一のピークを示すが、左右非対称の形をしており、左右幅比は55:45〜70:30となっている。比較例品1および2のXRDでは、30°付近のピークが割れている。比較例品3は割れていないが、左右幅比が51:49である。XRDでは、30°付近にはジルコニア由来のピークが存在し、28.5°付近にはセリア由来のピークが存在し、セリアとジルコニアとが固溶すると、それら28.5°付近と30°付近との間にピークが検出される。比較例品2では、ジルコニア由来のピークとセリア由来のピークがそれぞれ存在していることから、セリアとジルコニアとの固溶はあまり進んでいないと推察される。一方、比較例品3では、セリアとジルコニアとがほぼすべて固溶しているため、左右幅比が51:49となっている。実施例品1では、固溶していないセリアが少量存在しているため、ピークが低角側に広がるので、固溶していないセリアの存在量に応じてピークの左右幅比が変わる。セリアのジルコニアと固溶していない割合が高い場合には、セリア粒子同士が結合して大きな粒子となり、比表面積が小さくなってCe利用率が低下する。
【0049】
上述のように、本実施例の助触媒10によれば、シェル14の主成分であるセリアジルコニアの組成比は、酸化物重量比でセリア:ジルコニア=25:75〜60:40の範囲内とされ、シェル14に含まれるセリアのうちのジルコニアと固溶していない割合は、10から20重量%の範囲内とされているので、酸素放出特性すなわち還元ガスの熱伝導度の経時変化曲線(TPR曲線)においてピークを示す温度Tczが低くなり、且つCe利用率が高い助触媒が得られる。
【0050】
また、本実施例の助触媒10によれば、コア12は、酸素の移動が容易な正方晶の結晶構造を有している。セリアジルコニアを主成分とするシェル14を担持するコア12が正方晶の結晶構造であるために、高い耐久性が得られる。また、コア12は酸素の移動し易い正方晶の結晶構造であることから、高い酸素吸蔵放出能が得られ、且つCe利用率が高くなる。
【0051】
また、本実施例の自動車排ガス浄化用助触媒の製造方法は、(a)オキシ塩化ジルコニウム八水和物(水溶性ジルコニウム塩)および硝酸ランタン六水和物(水溶性ランタン塩)を蒸留水に溶解する溶解工程P1と、(b)溶解工程P1により得られた液にアンモニア水や水酸化カリウム等(沈殿剤)を加えて第1沈殿物を生成させる第1沈殿物生成工程P3と、(c)第1沈殿物生成工程P3により得られた第1沈殿物に水熱処理を加える第1水熱処理工程P4と、(d)第1水熱処理工程P4により水熱処理された第1水熱反応物の乾燥物を仮焼し、コア粉末を得る第1仮焼工程P7と、(e)前記コア粉末と、蒸留水、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(水溶性ジルコニウム塩)および硝酸二アンモニウムセリウム(水溶性セリウム塩)と混合する混合工程P8と、(f)混合工程P8により得られた混合液にアンモニア水や水酸化カリウム等(沈殿剤)を加えて第2沈殿物を生成させる第2沈殿物生成工程P10と、(g)第2沈殿物生成工程P10により生成された第2沈殿物に水熱処理を加える第2水熱処理工程P11と、(h)第2水熱処理工程P11により水熱処理された第2水熱反応物の乾燥物を仮焼し、ジルコニアを主成分とするコアの表面にセリアジルコニアを主成分とするシェルが固着された粒子を得る第2仮焼工程P14とを、含む。このことから、自動車排ガス浄化用の助触媒10が好適に得られる。
【0052】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0053】
本実施例の助触媒10は、触媒活性物質である白金14と共にハニカム状の触媒装置本体に担持されるが、白金14に代えて例えば、パラジウム、ロジウム等の触媒が使用されても良い。
【0054】
また、本実施例の助触媒10において、前述の実施例品1の溶解工程P1では、水溶性ジルコニウム塩として「オキシ塩化ジルコニウム八水和物」が用いられ、水溶性ランタン塩として「硝酸ランタン六水和物」が用いられていたが、それらは例示であり、実施例7の様に、他のものが用いられてもよい。要するに、溶解工程P1では、水溶性ジルコニウム塩と共に、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジムのうちの少なくとも1種の水溶性塩が溶解され得る。また、第1沈殿物生成工程P3および第2沈殿物生成工程P10では、沈殿剤としてアンモニア水や水酸化カリウム等が用いられていたが、それらは例示であり、他のものが用いられてもよい。また、混合工程P8では、水溶性ジルコニウム塩としてオキシ塩化ジルコニウム八水和物が用いられ、水溶性セリウム塩として硝酸二アンモニウムセリウムが用いられていたが、それらは例示であり、他のものが用いられてもよい。
【0055】
また、前述の
図2の第1仮焼工程P7では、750℃−3時間の焼成条件が用いられ、
図3の第2仮焼工程P14では、800℃−3時間の焼成条件が用いられたが、それらは例示であり、それらの温度よりも低い温度、例えば300℃、400℃という温度が、1時間或いは2時間という焼成時間が用いられてもよい。
【0056】
また、前述の
図3の混合工程P8において、ボールミルの混合時間は18時間であったが、これよりも短い時間、例えば1時間或いは2時間であってもよい。
【0057】
また、前述の
図2の第1水熱処理工程P4、および、
図3の第2水熱処理工程P11において、処理条件はそれぞれ180℃−5時間であったが、これよりも低い温度、短い時間であってもよい。
【0058】
また、前述の
図2のコア製造工程、
図3のシェル製造工程において、希土類元素等が添加されることにより、コア或いはシェルに希土類元素等の他の元素が含まれていてもよい。
【0059】
また、前述の実施例品1では、混合工程P8において、水溶性ジルコニウム塩である「オキシ塩化ジルコニウム八水和物」と、水溶性セリウム塩である「硝酸二アンモニウムセリウム」とが用いられたが、実施例品4から6の様に「硝酸ランタン六水和物」、「硝酸ネオジム六水和物」、「塩化イットリウム六水和物」がさらに用いられたり、「プラセオジム」の水溶性塩が用いられても同様な結果が得られる。要するに、混合工程P8では、水溶性ジルコニウム塩および水溶性セリウム塩と共に、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジムのうちの少なくとも1種の水溶性塩がさらに混合され得る。
【0060】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。