(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光学フィルタの一種として、基板の一方向に沿ってスペクトル特性が線形に変化する線形可変フィルタ(LVF)が知られている。LVFは、高屈折率材料からなる薄膜と低屈折率材料からなる薄膜を交互に重ね合わせた多層膜である干渉フィルタを、その膜厚が一定の勾配で変化するように透明基板上に形成することで実現される。入射位置に応じて透過波長の異なる分光フィルタを用い、異なる位置を透過した光を線状に配列された受光素子でそれぞれ検出することによって、小型の分光測光装置を実現することができる。
【0003】
ところで、干渉によるバンドパスフィルタ(BPF)は一般に、主透過波長の両側に副透過帯が現れるため、その副透過帯を遮断するためのカットフィルタと組み合わせて用いられる。
図2において、
図2(A)のBPFは主透過波長λTの短波長側に副透過帯TS、長波長側に副透過帯TLを有する。
図2(B)の短波長カットフィルタ(SCF)は遮断帯CSを有する。
図2(C)の長波長カットフィルタ(LCF)は遮断帯CLを有する。これらのBPF、SCFおよびLCFを組み合わせることで、
図2(D)に示す分光フィルタ(SF)が得られ、主透過波長λTの光のみが透過する。
【0004】
線形可変BPFは、短波長側にある副透過帯TSを遮断する線形可変SCFおよび長波長側にある副透過帯TLを遮断する線形可変LCFと組み合わせることによって、入射位置に応じた主透過波長λTの光だけを透過させる線形可変分光フィルタとすることができる。
【0005】
このとき、線形可変BPFといずれかのカットフィルタが異なる基板上に形成されていたり、同じ基板の反対面に形成されていると、異なるフィルタ間での多重反射が問題となる。
【0006】
図11は、線形可変BPFと線形可変LCFの間の多重反射を示したものである。線形可変分光フィルタ50では、透明基板51の上面に線形可変BPF54が、下面に線形可変LCF56が形成されている。A点におけるBPF54の主透過波長をλ1とすると、分光フィルタ50の上方から入射した波長λ1の光は(実線で示した)、A点でBPF54を透過し、B点でLCF56を透過して、分光フィルタ50の下方に抜ける。一方、A点におけるBPF54の長波長側の副透過帯に含まれる波長λ2の光は(破線で示した)、A点でBPF54を透過し、B点でLCF56に反射され、C点でBPF54に反射され、以後両フィルタ間で繰り返し反射されて、LCF56を透過できるD点から下方に出射する。BPF54の主透過波長がλ2となるE点は
図11のさらに右方に位置するので、本来ならE点の下方に出射することが期待される波長λ2の光がD点から下方に出射することになり、測定に誤差が生じる。
【0007】
異なるフィルタ間の多重反射の問題に対して、特許文献1には、線形可変BPFを、別の基板上に形成された線形可変SCFまたは線形可変LCFに対して傾けて配置し、多重反射した光を2つのフィルタの間から逃がして後方の受光部に到達しないようにした分光ユニットが記載されている。また、特許文献1には、断面がくさび型の基板の片面に線形可変BPF、他の面に線形可変LCFまたは線形可変SCFを形成して、多重反射した光が後方の受光部に到達しないようにした分光ユニットが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、透明基板の片面に線形可変BPF、線形可変SCFおよび線形可変LCFを形成した可変光学フィルタが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、2枚の基板を互いに傾けて精度よく配置・固定するための手間がかかるという問題があった。また、くさび型の基板を面精度よく製造するにはコストがかかるという問題があった。
【0011】
一方、特許文献2に記載されたように、基板の片面にすべてのフィルタを形成すれば多重反射の問題は解消できる。しかし、線形可変BPF、線形可変SCFおよび線形可変LCFのすべてを積層して形成すると全体が厚くなり、内部応力によって多層膜の構造が破壊されたり、基板からフィルタが剥離しやすくなるという問題があった。
【0012】
線形可変分光フィルタにおける線形可変LCFは、分光フィルタの全体で、BPFの主透過波長λTを透過させながら、λTより長波長側を遮断する必要がある。このため、分光フィルタの長波長側(透過波長が長い側)の部分では、使用波長範囲を長波長側へ超えて、無用に広い波長範囲を遮断することになり、厚さが過大になる。
【0013】
図12は、線形可変BPFの主透過波長λTとその長波長側の副透過帯TL、線形可変LCFの遮断帯CLを示したものである。
図12(A)において、分光フィルタの短波長側の端部では、LCFは使用波長範囲(λP〜λQ)の広い範囲を遮断する必要がある。LCFは必ず主透過波長λTを透過させる必要があるので、
図12(B)に示したフィルタの中央付近や
図12(C)に示したフィルタの長波長側の端部では、遮断帯CLは長波長側へ大きく広がり、図中のハッチングした波長範囲が無用に遮断されることになる。
【0014】
カットフィルタは遮断する光の波長に比例して厚くなるので、線形可変分光フィルタにおけるフィルタ厚さの問題は、長波長の光を遮断するLCFで特に問題となり、赤外線分光のためのフィルタではさらに大きな問題となる。また、フィルタを構成する層の数を増やして分光特性を向上させたい場合にも問題となる。
【0015】
本発明は上記を考慮してなされたものであり、異なるフィルタ間の多重反射の問題がなく、かつ分光特性を犠牲にすることなく全体の厚さを減少させた線形可変分光フィルタを提供することを目的とする。また、かかる分光フィルタを用いた分光測光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的のために、本発明は、透明基板の片面にBPF層、SCF層、LCF層を形成し、分光フィルタの長波長側の部分で、LCF層の遮断帯CLが長波長側に無用に延びるのを抑え、厚さの増加を抑える。
【0017】
具体的には、本発明の分光フィルタは、透明基板と、前記透明基板の第1面に形成されたバンドパスフィルタ層、短波長カットフィルタ層および長波長カットフィルタ層とを有する。
前記バンドパスフィルタ層は、基板の第1方向に沿って、第1端から第2端に向かうにしたがって厚さが一定の勾配で大きくなることにより主透過波長λTが長くなる線形可変フィルタ層である。
前記短波長カットフィルタ層は、前記第1端と前記第2端の間の全域において、その遮断帯CSが前記バンドパスフィルタ層の前記主透過波長λTを透過し、該主透過波長λTより短波長側にある副透過帯TSを遮断する可変フィルタ層である。
前記長波長カットフィルタ層は、前記第1端と前記第2端の間の全域において、その遮断帯CLが前記バンドパスフィルタ層の前記主透過波長λTを透過し、該主透過波長λTより長波長側にある副透過帯TLを遮断する可変フィルタ層である。
さらに、前記長波長カットフィルタ層は、ある波長領域の光を遮断する多層膜スタックを一つの基本スタックとして、複数の基本スタックを有している。
そして、前記複数の基本スタックのうち、前記第1端近傍において前記遮断帯CLのうち最も短波長側の領域を遮断する第1基本スタックは、前記第1端と前記第2端の間の全域において、前記バンドパスフィルタ層との厚さ比が一定である。このことにより、前記第1端と前記第2端の間の全域において、前記バンドパスフィルタ層の前記主透過波長λTを透過し、少なくとも前記副透過帯TLの最も短波長側の領域を遮断する線形可変フィルタ層である。
そして、前記第1端近傍において前記遮断帯CLのうち最も長波長側の領域を遮断する第2基本スタックは、前記第1方向に沿って、前記第1端から前記第2端に向かうにしたがって厚くなり、当該第2基本スタックと前記バンドパスフィルタ層との厚さ比が前記第1端における当該厚さ比より小さい部分を有する可変フィルタ層である。
【0018】
本発明の分光測光装置は、本発明の分光フィルタと、前記第1方向に沿って複数の受光素子が配列され、前記分光フィルタを透過した光を受光するリニアアレイ型光センサとを有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の分光フィルタによれば、パンドパスフィルタ層、短波長カットフィルタ層および長波長カットフィルタ層のすべてが透明基板の片面に形成されるので、異なるフィルタ間での多重反射の問題がない。また、最も厚い長波長カットフィルタ層について、長波長側の第2端近傍での最大厚さを従来の物より小さくすることで、分光特性を犠牲にすることなく、内部応力による膜構造の破壊や、基板からのフィルタ層の剥離が生じにくい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書中で「フィルタ」、「フィルタ層」、「基本スタック」はいずれも、一つの分光学的な機能を有する多層膜の意味で用いられる。また、「フィルタ」は、基板とその基板上に形成されたかかる多層膜を合わせた物を指す場合にも用いられる。
【0022】
本発明の第1実施形態の分光フィルタを
図1〜
図8に基づいて説明する。
【0023】
図1において、本実施形態の分光フィルタ10は、透明基板11と、その第1面12に形成された短波長カットフィルタ(SCF)層15、バンドパスフィルタ(BPF)層14、長波長カットフィルタ(LCF)層16とを有する。各フィルタ層14、15、16は干渉多層膜からなる。各フィルタ層を積層する順番は特に限定されない。BPF層、SCF層およびLCF層はいずれも、基板のX方向(第1方向)に沿って、第1端xAから第2端xBに向かうにしたがって厚くなる。分光フィルタ10は、第1端xAから第2端xBに向かうにしたがって透過波長が長くなる線形可変分光フィルタである。
図1中の破線は、従来の線形可変分光フィルタの厚さを示している。
【0024】
透明基板11の種類は特に限定されず、所要の光学特性を有する石英ガラス板、硼珪酸ガラス板などを好適に用いることができる。透明基板の第1面12と第2面13は平行である。
【0025】
BPF層14は、特定の波長λTを透過する透過帯域の狭いバンドパスフィルタである。BPF層は
図2(A)に示したように、主透過波長λTの光を透過し、λTの長波長側に副透過帯TLと、λTの短波長側に副透過帯TSを有する。
【0026】
このようなBPF層14は、主透過波長をλTとして、光学的厚さλT/2の誘電体スペーサ層を、光学的厚さλT/4の高屈折率膜と低屈折率膜を交互に積層した干渉ミラー層で挟むことによって実現できる。
【0027】
BPF層14は、透明基板11のX方向に沿って、第1端xAから第2端xBに向かうにしたがって一定の勾配で厚くなる。これにより、X方向に沿った位置xの変化に比例して主透過波長が移動する。すなわち、BPF層は線形可変フィルタ層である。
【0028】
SCF層15は、
図2(B)に示したように、BPF層14の主透過波長λTを透過し、短波長側の副透過帯TSを抜ける光を遮断帯CSによって遮断する。
【0029】
SCF層15は、遮断したい波長の4分の1の光学的膜厚を有する高屈折率膜と低屈折率膜を交互に積層した干渉多層膜、いわゆるλ/4膜によって実現できる。膜の層数を大きくすることによって、遮断できる波長範囲が拡がる。さらに、ある波長に対するλ/4膜を一つの基本スタックとして、遮断する波長範囲が異なる複数の基本スタックを重ねることによって遮断帯CSを拡げることができる。つまり、
図3(A)において広い遮断帯CSを得たい場合は、
図3(B)に示すようにλ1を中心波長とする基本スタック(実線)とλ2を中心波長とする基本スタック(破線)を重ね合わせるのである。このとき分光特性のリップル低減等の調整のために、基本スタックの境界部に他の薄膜が挿入されていたり、境界部の膜厚が最適化されていたりしてもよい。
【0030】
SCF層15は、透明基板11のX方向に沿って、第1端xAから第2端xBに向かうにしたがって厚くなり、それに伴って遮断帯CSが長波長側に移動する可変フィルタである。SCF層は、第1端xAと第2端xBの間の全域で、BPF層の主透過波長λTを透過しつつ、短波長側の副透過帯TSを遮断帯CSによって遮断するように分光特性が移動する。好ましくは、
図4を参照して、第1端xAと第2端xBの間の全域でSCF層15の厚さtsxとBPF層14の厚さtbxとの比(tsx/tbx)が一定の線形可変フィルタ層である。これにより、SCF層に所要の上記分光特性が得られるし、後述する成膜時の補正板等をBPF層と共用できるので製造が容易になる。
【0031】
また、層の厚さの変化に関し、ある点x(x>xA)における「厚さ増加率」を
厚さ増加率={(tx−tA)/tA}・{1/(x−xA)}
と定義することができる。ここで、txは位置xでの層の厚さ、tAは位置xA(第1端)での層の厚さである。厚さ増加率をこのように定義すると、厚さの勾配が一定であれば、厚さ増加率は一定となる。また、2つの層の厚さ比が一定であれば、2つの層の厚さ増加率は等しくなる。例えば、第1端xAと第2端xBの間の全域でSCF層15の厚さとBPF層14の厚さとの比tsx/tbxが一定である場合は、第1端xAと第2端xBの間の全域でSCF層の厚さ増加率とBPF層の厚さ増加率は等しい。
【0032】
LCF層16は、
図2(C)に示したように、BPF層14の主透過波長λTを透過し、長波長側の副透過帯TLを抜ける光を遮断帯CLによって遮断する。
【0033】
LCF層16は、SCF層15と同様に、λ/4膜によって実現される。LCF層は、SCF層より長波長の光を遮断するために、SCF層より厚く形成される。
【0034】
LCF層16も、SCF層15と同様に、透明基板11のX方向に沿って、第1端xAから第2端xBに向かうにしたがって厚くなり、第1端xAと第2端xBの間の全域においてBPF層14の主透過波長λTを透過しつつ、長波長側の副透過帯TLを遮断帯CLによって遮断するように分光特性が移動する。ただし、その厚さの変化に特徴を有する。
【0035】
図6にLCF層16の断面構造を示す。本実施形態のLCF層は2つの基本スタックを有する。
図5を参照して、第1端xA近傍において遮断帯CLのうち短波長側の領域を遮断する第1基本スタック17は遮断帯C1Lを有し、長波長側の領域を遮断する第2基本スタック18は遮断帯C2Lを有する。第1基本スタックと第2基本スタックを構成する材料や層数は異なっていてもよいが、好ましくは同じ高屈折率材料と低屈折率材料を用いて、同じ層数で形成される。製造が容易になるからである。以下において、第1基本スタックと第2基本スタックは同じ材料、層数で、厚さのみが異なるとして説明する。
【0036】
第1基本スタック17は、第1端と第2端の間の全域において、BPF層14との厚さ比t1x/tbxが一定である。つまり、第1基本スタックは第1端xAから第2端xBに向かうにしたがってBPF層14と等しい一定の厚さ増加率で厚くなる。これにより、第1端と第2端の間の全域において、BPF層の主透過波長λTを透過し、少なくとも副透過帯TLの短波長側の領域を遮断する。
【0037】
第2基本スタック18は、第1端xAから第2端xBに向かうにしたがって一定の勾配で厚くなり、本実施形態では第2端における厚さt2Bは第1基本スタックの厚さt1Bと等しい。第2基本スタック18とBPF層14との厚さ比t2x/tbxは、第1端xAにおける当該厚さ比t2A/tbAより小さい。厚さ増加率を用いて言い換えると、第2基本スタックの厚さ増加率はBPF層の厚さ増加率より小さい。これにより、
図6に破線で示した従来の線形可変LCFより厚さが抑えられる。
【0038】
次に、
図6に示したLCF層16の膜構造による作用を
図7に基づいて説明する。
図7において、分光フィルタの使用波長範囲はλP〜λQである。
図7には、BPF層14の主透過波長λTとその長波長側の副透過帯TL、LCF層の遮断帯CLを示した。遮断帯CLは第1基本スタック17による遮断帯C1L(実線)と第2基本スタック18による遮断帯C2L(破線)が合成されたものである。
【0039】
図7(A)において、分光フィルタ10の第1端xAでは、遮断帯CLは主透過波長λTの長波長側からλQまでの広い範囲を遮断する必要がある。
【0040】
図7(B)において、分光フィルタの中央付近では、主透過波長λTはλPとλQのほぼ中間の値を取る。第1基本スタックは、BPF層との厚さ比が一定である(BPF層と厚さ増加率が等しい)ことにより、主透過波長λTを透過し、遮断帯C1Lは厚さの増加に比例して長波長側へ移動し、λQを長波長側へ超えて拡がる。第2基本スタックはBPF層との厚さ比が第1端xAでの厚さ比より小さい(BPF層より厚さ増加率が小さい)ので、遮断帯C2Lの移動量は第1基本スタックの遮断帯C1Lより小さく、「ゆっくりと」長波長側へ移動する。これにより、第1基本スタックの遮断帯C1Lと第2基本スタックの遮断帯C2Lの重なりが大きくなる。
【0041】
図7(C)において、分光フィルタの第2端xBでは、第2基本スタックの厚さt2Bは第1基本スタックの厚さt1Bと等しくなり、遮断帯C2Lは遮断帯C1Lと重なる。本実施形態によってもハッチングした波長範囲が無用に遮断されることになるが、従来例の
図12(C)と比較すると、無用に遮断される波長範囲が狭いことが分かる。
【0042】
第2基本スタック18の厚さが許容される範囲を
図8に基づいて説明する。
図8の横軸は分光フィルタ10上のX方向での位置、縦軸は第2基本スタックの厚さを示す。厚さtの記号において、添え字1は第1基本スタック、2は第2基本スタック、Aは第1端、Bは第2端を意味する。
【0043】
第1端xAにおいて、第2基本スタック18は第1基本スタック17より長波長側を遮断するので、厚さt2Aはt1Aより大きい(t2A>t1A)。第1端xAから第2端xBまでの全域で主透過波長λTとλQの間を遮断するには、第2基本スタックの厚さt2は第1端xAにおける厚さt2A以上であることを要する。すなわち
t2x≧t2A
であって、t2xは
図8の直線Gよりも上側にあることを要する。
【0044】
第2基本スタックが第1基本スタックより薄くなると、主透過波長λTを遮断してしまうので、第1端xAから第2端xBまでの全域で、第2基本スタックの厚さt2xは第1基本スタックの厚さt1x以上であることを要する。すなわち、
t2x≧t1x
であって、t2xは
図8の直線Hより上側にあることを要する。
【0045】
一方、第2基本スタックが厚すぎると、第1基本スタックの遮断帯C1Lと第2基本スタックの遮断帯C2Lの間隔が開いてLCF層16の遮断帯CLが分離するおそれがある。したがって第2基本スタックと第1基本スタックとの厚さ比t2x/t1xが第1端における厚さ比t2A/t1A以下であることを要する。第1基本スタックとBPF層14の厚さ比t1x/tbxはxに依らず一定であるから、言い換えると、第2基本スタックとBPF層との厚さ比t2x/tbxが第1端における厚さ比t2A/tbA以下であることを要する。あるいは、第2基本スタックの厚さ増加率はBPF層の厚さ増加率より小さい。すなわち、
t2x/t1x≦t2A/t1A、t2x/tbx≦t2A/tbA
であって、t2xは
図8の直線Iより下側にあることを要する。
【0046】
以上より、本実施形態の線形可変分光フィルタが機能するためには、第2基本スタックの厚さt2xが
図8中で、直線Gまたは直線Hの大きい方と、直線Iとに挟まれた領域にあることを要する。
【0047】
第2基本スタック18の厚さt2xが第1端と第2端の間の全域で直線I上にある場合、このLCF層16は従来の線形可変フィルタに他ならず、本実施形態の目的とする厚さ低減効果が得られない。厚さ低減効果を得るためには、第2基本スタックとBPF層との厚さ比t2x/tbxが、第1端xAと第2端xBの間の少なくとも一部分において、第1端における当該厚さ比t2A/tbAより小さいことを要する。つまり、第2基本スタックの厚さ増加率が、第1端xAと第2端xBの間の少なくとも一部分において、BPF層の厚さ増加率より小さいことを要する。
【0048】
好ましくは、第2基本スタックの厚さt2xが、第1端xAと第2端xBの間の全域で、第2端での第1基本スタックの厚さt1Bと、従来の線形可変LCFにおける第2端での第2基本スタックの厚さt2A・(t1B/t1A)の平均以下である。すなわち、
t2x≦{(t1A+t2A)/2}・(t1B/t1A)
であって、t2xは
図8の直線Jより下側にある。特に好ましくは、第2端における第2基本スタックの厚さt2Bが、第1基本スタックの厚さt1Bと一致する。この場合は、第2端において第1基本スタックと第2基本スタックの遮断する波長範囲が一致して、
図7(C)に示した分光特性が得られる。
【0049】
好ましい厚さ分布の一例として、
図8における折れ線Kでは、第2基本スタックは、第1端xAから所定位置xFまではBPF層との厚さ比を一定に保ちながら厚くなり、xFから第2端xBまでは厚さは増加せず一定である。すなわち、
t2x/tbx=一定 (xA≦x≦xF)
t2x=一定 (xF≦x≦xB)
【0050】
好ましい厚さ分布の他の例として、
図8における直線Lでは、第2基本スタックの厚さは、第1端xAから第2端xBに向かうにしたがって、一定の勾配で大きくなる。このとき、第2基本スタックとBPF層の厚さ比t2x/tbxは第1端における当該厚さ比t2A/tbAより小さく、第2基本スタックの厚さ増加率は第1端と第2端の間の全域で一定であってBPF層の厚さ増加率より小さい。この厚さ分布によれば、製造工程におけるロバスト性が向上する。厚さが設計値から多少ずれても、BPF層の主透過波長λTを遮断せず、使用波長の上限λQ近傍を遮断するので、LCF層としての機能を維持できる。
図8の直線Mは、第2基本スタックが一定の厚さ増加率で大きくなり、第2端における厚さt2Bが第1基本スタックの厚さt1Bと一致している。
【0051】
なお、第1基本スタックと第2基本スタックの構成材料または層数が異なる場合は、第2基本スタックの好ましい態様は分光特性に基づいて定められる。好ましくは、第1基本スタックの遮断帯C1Lと第2基本スタックの遮断帯C2Lは、第2端xBにおいて、それぞれが遮断する波長範囲が互いに半分以上重なる。特に好ましくは、第1基本スタックの遮断帯C1Lと第2基本スタックの遮断帯C2Lは、第2端xBにおいて一致する。
【0052】
本実施形態の分光フィルタの使用波長範囲は、適当な透過スペクトルを有する透明基板を採用することにより、200nm〜10000nmとすることができる。しかし、使用波長範囲の下限、すなわち第1端xAにおけるBPF層14の主透過波長は、好ましくは700nm以上であり、より好ましくは900nm以上である。光学フィルタは対象とする光の波長に比例して厚くなるので、赤外線を対象とする場合にフィルタ厚さが大きな問題となりやすいからである。一方、使用波長範囲の上限、すなわち第2端xBにおけるBPF層の主透過波長は、好ましくは2500nm以下であり、より好ましくは1800nm以下である。使用波長の上限が大きすぎると、本実施形態の構造によっても、フィルタ層の内部応力が過大となる可能性があるからである。
【0053】
本実施形態は、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、LCF層16の基本スタックの数は2ではなく、3以上であってもよい。その場合、第1端xAにおいて、第1基本スタックが遮断する波長範囲と第2基本スタックが遮断する波長範囲の間をその他の基本スタックが遮断するようにして、LCF層全体として、第1端と第2端の間の全域においてBPF層の主透過波長λTを透過し、副透過帯TLを遮断すればよい。他の基本スタックの厚さ増加率はBPF層と等しくてもよいし、好ましくは、第2基本スタックと同様に厚さ増加率がBPF層より小さな部分を設けてもよい。
【0054】
また、例えば、SCF層15が複数の基本ブロックを有する場合には、LCF層と同様に、一部の基本スタックの厚さ増加率を調整してもよい。ただし、SCF層については、かかる調整によって厚さ低減効果が得られることはない。
【0055】
本実施形態の分光フィルタの製造方法は特に限定されず、真空蒸着など各種公知の成膜法を用いて高屈折率膜と低屈折率膜を交互に積層することで製造できる。高屈折率材料としてはTiO
2、ZrO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5など、低屈折率材料としてはSiO
2、MgF
2など、それぞれ公知の誘電体を好適に用いることができる。そして、材料の蒸発源と基板の間にスリット型マスク等の補正板を配置して、補正板の形状や基板と補正板の位置関係を調整して膜厚勾配を与えることで、可変フィルタを形成することができる。本実施形態の分光フィルタでは、第2基本スタック形成時に補正板の形状や位置を変更することで、第1基本スタックその他のフィルタ層と膜厚勾配を変えることができる。
【0056】
本発明の第2実施形態の分光フィルタを
図9に基づいて説明する。
【0057】
本実施形態の分光フィルタ20では、第1実施形態の分光フィルタ10の透明基板11の第2面13に、所定の波長範囲より長波長および/または短波長の光を遮断する固定フィルタ層21が形成されている。固定フィルタとは、フィルタの位置によらず分光特性が変わらないフィルタをいう。好ましくは、固定フィルタ層21は所定の波長範囲より長波長の光を遮断する。より好ましくは、固定フィルタ層21は所定の波長範囲より長波長および短波長の光を遮断する。
【0058】
一般に、線形可変分光フィルタを用いる場合には、まず用途に応じて必要な波長範囲が定まり、その所要波長範囲の全域に感度を有する受光素子が選択される。その結果、分光フィルタのカットフィルタ層(LCF層およびSCF層)は所要波長範囲だけでなく、受光素子が感度を有する波長範囲の全域を遮断する必要がある。遮断範囲が広がるほどカットフィルタ層、特にLCF層が厚くなることは、前述のとおりである。本実施形態の分光フィルタ20では、カットフィルタ層に入射する光またはカットフィルタ層を抜けた光のうち、所要波長範囲外の光を固定フィルタ層21で遮断することにより、カットフィルタ層の厚さを抑えることができる。
【0059】
固定フィルタ層21は、分光フィルタ20の使用波長範囲外の光を遮断する。固定フィルタ層は、好ましくは2000nm以上の光を遮断し、より好ましくは1900nm以上の光を遮断する。一方、固定フィルタ層は、好ましくは600nm未満の光を遮断し、より好ましくは800nm未満の光を遮断する。これらの光を遮断しても、赤外線膜厚計や液体成分計等の有用な用途に使用することができる。
【0060】
本発明の第3実施形態の分光測光装置を
図10に基づいて説明する。
【0061】
図10において、本実施形態の分光測光装置40は、被測定光が進む光路上に、光学系41と、第2実施形態の分光フィルタ20と、リニアアレイ型の光センサ42をこの順に備える。
【0062】
光学系41は、シリンドリカルレンズ等を組み合わせることにより、被測定光をシート状に変換して光センサに入射させる。
【0063】
分光フィルタ20は上記第2実施形態で説明した物である。分光フィルタとして上記第1実施形態の分光フィルタ10を用いる場合は、固定フィルタ層21の代わりに、他の基板上に形成された固定フィルタを、光路上の分光フィルタ10の前または後に配置することが好ましい。
【0064】
光センサ42は、受光素子が線状に配列されたリニアアレイ型の光センサである。受光素子の種類は、分光測光装置の使用目的に応じて選択できる。例えば、InGaAs、PbS、PbSe、InSb、HgCdTe(MCT)などの受光素子を用いることができる。