【実施例】
【0033】
次に実施例等を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、動物実験は、学校法人東京薬科大学において、倫理委員会の承認の下、動物実験の研究ガイドラインを遵守して行われた。
【0034】
<細胞培養>
以下の実施例において、使用した細胞の培養は以下の通りにして行った。
メラノーマ細胞株である4種類の細胞株(SK−MEL−28細胞、Colo829細胞、HT144細胞、及びA375細胞)、及び前立腺がん細胞株であるDU145細胞は、ATCC(American Type Culture Collection)より分譲されたものを用いた。前立腺がん細胞株であるPC3細胞は、JCRB細胞バンク(独立行政法人医薬基盤研究所)より分譲されたものを用いた。HEK293細胞とHeLa細胞は、非特許文献12に記載のものを用いた。これらの細胞は、37℃、5%CO
2存在下、10%ウシ胎児血清を含有させたRPMI 1640培地(インビトロジェン社製)中で培養した。
【0035】
[実施例1]
がん細胞の悪性化と個体発生時に重要な役割を果たすEMTの共通性に着目し、神経冠の発生に関与する遺伝子群に対するヒト型siRNAライブラリーを作製し、RNA干渉法を利用して、BRAF
V600E変異を有するメラノーマ細胞株におけるE−カドヘリンの発現抑制作用を有する遺伝子を探索した。
【0036】
<RNA干渉による、E−カドヘリン発現量に対する影響の測定>
まず、神経冠細胞の形成・分化に必須であり、かつ、がん細胞における詳細な分子機構が解明されていない遺伝子を26個選別し、各遺伝子についてそれぞれRNA干渉を行い、E−カドヘリンの発現量に対する影響を調べた。具体的には、各遺伝子に対して2種類のsiRNA(キアゲン社製)をそれぞれ導入した細胞のE−カドヘリンを、蛍光免疫染色法により検出し、その発現量を定量した。この結果、26個の遺伝子のうち、Zic5、BMPER、TES、SULF1、SULF2、及びSOX10の6個の遺伝子が、siRNA導入により発現を抑制した細胞において、SK−MEL−28細胞及びColo829細胞の両方において、E−カドヘリンの発現量が、ネガティブコントロールsiRNAを導入した細胞に比べて1.5倍以上に上昇した。
【0037】
<ウェスタンブロット法によるZic5遺伝子の発現確認>
メラノーマ及びメラノサイトにおけるZic5遺伝子の発現量をタンパク質レベルで確認するため、メラノーマ細胞株であるA375細胞、HT144細胞、COLO829細胞、及びSK−MEL−28細胞、並びにヒト正常メラノサイト(NHM)におけるZic5遺伝子の発現量を、ウェスタンブロット法によって調べた。GAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)を内部コントロールとして使用した。ウェスタンブロット法は、抗ZIC5抗体(Aviva systems biology社製)及び抗GAPDH抗体(Cell Signaling社製)を用いて、カネマルらの方法(非特許文献13参照。)に準じて行った。
【0038】
各細胞のGAPDHを内部標準としたZic5タンパク質の発現量の定量結果を
図1に示す。
図1中、下段が各細胞のウェスタンブロットの結果であり、上段がウェスタンブロットで検出された各バンドの染色強度に基づいて算出されたZic5タンパク質の発現量(相対値)である。その結果、Zic5遺伝子の発現量は、ヒト正常メラノサイトに比べて、全てのメラノーマ細胞株において高いことが確認できた。
【0039】
<ヒトメラノーマ組織切片のZIC5染色>
また、ヒトメラノーマの患者組織切片であって、良性母斑(Benign nevus)の組織切片18枚、がん組織部位(Melanoma)の組織切片56枚、及び転移部位(Metastasis)の組織切片26枚が含まれている組織マイクロアレイ(US Biomax社から購入)に対して、抗ZIC5抗体(Aviva systems biology社製)を用いて免疫組織染色を行い、ヒトメラノーマ臨床検体におけるZic5タンパク質の発現を調べた。免疫染色像を、
図2の上段に示す。この結果、良性母斑に比べて、がん組織部位や転移部位では、Zic5遺伝子の発現レベルが有意に亢進していることがわかった。
【0040】
また、各組織切片の染色像を、染色強度に基づいて4段階(0〜3)にスコア化した。各スコアの染色強度を
図2下段に示し、各スコアの結果を
図3に示す。
図3の左図は、良性母斑、がん組織部位、及び転移部位の染色像のZic5発現量スコアであり、
図3の右図は、ステージごとのZic5発現量スコアである。この結果、Zic5遺伝子の発現は、メラノーマのステージが進行するほど高くなる傾向がみられた。
【0041】
これらの結果から、スクリーニングにより得た候補遺伝子Zic5は、E−カドヘリンの発現を制御し、メラノーマの進行に関与する可能性が示唆された。
【0042】
[実施例2]
メラノーマ細胞におけるZic5遺伝子の役割を解明するため、メラノーマ細胞株SK−MEL−28細胞を用いて、Zic5遺伝子安定過剰発現株を作製し、転移関連遺伝子について調べた。
【0043】
<Zic5遺伝子安定発現株の作製>
まず、ヒトZic5遺伝子のORFのcDNAをPCRにより増幅し、得られた増幅産物を発現用プラスミドベクターpFlag−CMV−4(Sigma社製)にサブクローニングし、Flag標識されたZIC5(Flag−ZIC5)を発現するための発現ベクター(Flag−ZIC5発現ベクター)を調製した。得られたFlag−ZIC5発現ベクターを、リポフェクタミン試薬「リポフェクタミン2000」(インビトロジェン社製)を用い、製品添付のプロトコールに従ってSK−MEL−28細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション後の細胞を薄く播き、800μg/mLのG418(インビトロジェン社製)を含有する培地中で10日間培養し、Zic5遺伝子安定発現株を選抜した。
対照として、Flag−ZIC5発現ベクターに代えてFlagペプチドのみを発現させる空ベクター(pFlag−CMV−4)を用いた以外は同様にしてトランスフェクション及びG418選抜を行い、Flag安定発現株を得た。
【0044】
Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株(コントロール細胞)の細胞の形態を、顕微鏡観察により調べたところ、Zic5遺伝子安定発現株は、コントロール細胞と比較して樹状突起の数が減少していることが観察された(図示せず。)。
【0045】
<ウェスタンブロット法によるE−カドヘリン発現量の測定>
Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株のE−カドヘリンのタンパク質量を、GAPDHを内部標準としたウェスタンブロット法により測定した。ウェスタンブロット法は、抗Flag抗体(Sigma社製)、抗E−カドヘリン抗体(BDバイオサイエンス社製)、及び抗GAPDH抗体(Cell Signaling社製)を用いて、カネマルらの方法(非特許文献13参照。)に準じて行った。測定は、2回の独立した試行により行った。
【0046】
各抗体により染色されたバンドを
図4に示す。上段(「Flag」)が抗Flag抗体で染色されたバンドであり、中段(「E−cad」)が抗E−カドヘリン抗体で染色されたバンドであり、下段(「GAPDH」)が抗GAPDH抗体で染色されたバンドである。Flag−ZIC5が発現しているZic5遺伝子安定発現株(図中、「Flag−ZIC5」)では、コントロール細胞(図中、「pFlag」)に比べて顕著にE−カドヘリンの発現が抑制されていた。
【0047】
<qRT−PCRによるE−カドヘリン量の測定>
Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株のCDH1遺伝子(E−カドヘリンをコードする遺伝子)のmRNA量を、qRT−PCRにより測定した。GAPDH遺伝子のmRNA量を内部標準とした。測定は、2回の独立した試行により行った。
まず、各細胞の総RNAを回収し、これを鋳型として逆転写反応を行い、cDNAを合成した。総RNAの回収には市販のキット「ReliaPrep RNA Cell Miniprep System」(プロメガ社製)を用い、逆転写反応には市販のキット「High Capacity cDNA Reverse Transcription kit」(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、それぞれ製品添付のプロトコールに従って行った。
次いで、得られたcDNAを鋳型とし、リアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCRは、市販のキット「THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix」(東洋紡社製)とサーマルサイクラー「CFX96」(バイオ・ラッド社製)を用いて行った。使用したプライマーを表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
各細胞のCDH1遺伝子のmRNA量は、GAPDH遺伝子のmRNA量によりノーマライズした。Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株のCDH1遺伝子のmRNAの相対発現量の平均値(n=3)を
図5に示す。この結果、Zic5遺伝子安定発現株では、E−カドヘリンの発現が減少することが示された。
【0050】
<Zic5遺伝子発現抑制のE−カドヘリン発現量への影響>
Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株のZic5遺伝子をRNA干渉により抑制した場合のCDH1遺伝子のmRNA量を、qRT−PCRにより測定した。
Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株に対して、表2に記載のsiZIC5#2又はネガティブコントロールsiRNA(siNeg#1)を実施例1と同様にして導入した。siRNA導入後の細胞のCDH1遺伝子のmRNA量を、GAPDH遺伝子のmRNA量を内部標準とし、前記と同様にしてqRT−PCRにより測定した。
【0051】
【表2】
【0052】
各細胞のCDH1遺伝子のmRNAの相対発現量の平均値(n=3)を
図6に示す。この結果、Zic5遺伝子安定発現株におけるE−カドヘリンの発現減少は、RNA干渉によるZic5遺伝子発現抑制により回復することが示された。
【0053】
<内在性のZIC5の機能>
内在性のZIC5の役割を明らかにするため、メラノーマ細胞株SK−MEL−28細胞とA375細胞を用いて、RNA干渉によるZic5遺伝子の発現抑制の影響を検討した。
各細胞に対して、表2に記載のsiZIC5#1、siZIC5#2、siNeg#1、又はsiNeg#2を実施例1と同様にして導入した。siRNA導入後の細胞のZic5遺伝子、CDH1遺伝子、TYRP1遺伝子、TYR遺伝子、及びMMP2遺伝子のmRNA量を、GAPDH遺伝子のmRNA量を内部標準とし、前記と同様にしてqRT−PCRにより測定した。なお、Zic5遺伝子のmRNA量の定量には、表3に記載のプライマーを使用した。
【0054】
【表3】
【0055】
siZIC5#2又はsiNeg#2を導入した細胞の透過光画像を比較したところ、Zic5遺伝子の発現抑制により、A375細胞の形態変化が観察された(図示せず。)。
また、各細胞のZic5遺伝子、CDH1遺伝子、TYRP1遺伝子、TYR遺伝子、及びMMP2遺伝子のmRNAの相対発現量の平均値(n=3)を調べた(図示せず。)。各細胞のZic5遺伝子及びCDH1遺伝子の測定結果を
図7に示す。SK−MEL−28細胞とA375細胞のいずれにおいても、siZIC5#1又はsiZIC5#2を導入した細胞ではZic5遺伝子のmRNAの相対発現量は顕著に減少していることが確認された。また、siZIC5#1又はsiZIC5#2を導入した細胞では、CDH1遺伝子、TYRP1遺伝子、及びTYR遺伝子の発現上昇とMMP2遺伝子の発現低下が引き起こされていた。これらの結果から、Zic5遺伝子は、メラノーマ細胞において、E−カドヘリンの抑制、細胞の脱分化の促進、細胞外基質分解酵素(MMP2)の発現亢進を引き起こす因子であると考えられた。
【0056】
[実施例3]
ZIC5により引き起こされたE−カドヘリンの発現低下、脱分化、細胞外基質分解酵素 (MMP2)の発現亢進は、いずれも転移性メラノーマの特徴である。従って、次に、ZIC5がメラノーマ細胞の悪性形質である、運動能、浸潤能、増殖能に与える影響について検討を行った。
【0057】
<スクラッチアッセイ>
運動能を調べるため、無血清条件下でのスクラッチアッセイを行った。
具体的には、Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株を培養し、コンフルエントの細胞を黄色チップの先端で削った(スクラッチ)後、無血清培地中で培養した。スクラッチから24時間経過後の細胞では、Flag安定発現株細胞と比較し、Zic5遺伝子安定発現株では、移動細胞数が増加していた(図示せず。)。
【0058】
<Transwell Migrationアッセイ>
運動能を調べるため、血清入り条件下におけるTranswell Migrationアッセイを行った。
具体的には、Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株を、孔径8μmのインサート(BDバイオサイエンス社製)を入れた24ウェルプレートにまき、10%FBS含有RPMI1640培地中で培養し、移動した細胞数を計数した。計数結果を
図8(上段)に示す。この結果、Flag安定発現株に比べて、Zic5遺伝子安定発現株では、移動細胞数が有意に増加していた。
【0059】
メラノーマの運動性の亢進に重要な因子として、Myosin light chain 2(MLC2)が知られている。MLC2はリン酸化を受け活性化し、アクトミオシン収縮を促進することによって細胞運動を促進していることが知られている(非特許文献14及び15参照。)。そこで、各細胞のリン酸化MLC2(ppMLC2)、MLC2、及びGAPDHのタンパク質量を、ウェスタンブロット法により測定した。ウェスタンブロット法は、抗ppMLC2抗体、抗MLC2抗体、及び抗GAPDH抗体(いずれもCell Signaling社製)を用いて、カネマルらの方法(非特許文献13参照。)に準じて行った。
【0060】
各細胞のウェスタンブロットの結果を
図8の下段に示す。この結果、Zic5遺伝子安定発現株では、Flag安定発現株に比べてMLC2のリン酸化が亢進していることが明らかになった。
【0061】
内在性のZic5遺伝子をsiRNAにより発現抑制した際のメラノーマ細胞の運動能について、Transwell Migrationアッセイを行い検証した。具体的には、メラノーマ細胞株SK−MEL−28細胞とA375細胞に、表2に記載のsiZIC5#1、siZIC5#2、siNeg#1、又はsiNeg#2を実施例1と同様にして導入した。各siRNAを導入した細胞に対して、前記と同様にしてTranswell Migration アッセイを行い、移動した細胞数を計数した。計数結果を
図9(上段)に示す。この結果、両細胞とも、Zic5遺伝子の発現抑制により細胞移動率の減少が観察された。また、SK−MEL−28細胞にsiRNAを導入した細胞について、ppMLC2、MLC2、及びGAPDHのタンパク質量を、ウェスタンブロット法により測定した。SK−MEL−28細胞のウェスタンブロットの結果を
図9の下段に示す。この結果、Zic5遺伝子の発現抑制によりppMLC2の減少も確認された。
【0062】
<Transwell Invasion アッセイ>
Transwell Invasion アッセイを、60μL(2.5mg/mL)のBD Matrigel Basement Membrane Matrix Growth Factor Reduced(BDバイオサイエンス社製)が添加された細胞培養インサートを用いて、ヒラノらの方法(非特許文献16)の方法に準じて行った。マトリゲルに浸潤した細胞数を計数した。計数結果を
図10に示す。この結果、Zic5遺伝子の発現抑制による細胞浸潤率の低下が観察された。
【0063】
<MLC2リン酸化抑制下におけるTranswell Migrationアッセイ>
MLC2リン酸化抑制の細胞移動性に対する影響を調べた。具体的には、Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株に対して、ROCK阻害剤(Y27632)処理をした状態又は未処理の状態で、前記の通りTranswell Migrationアッセイを行い、移動した細胞数を計数した。計数結果を
図11に示す。この結果、Zic5遺伝子の過剰発現による移動細胞の増加は、ROCK阻害剤処理によるMLC2リン酸化の抑制によって部分的に抑制できた。
【0064】
また、各細胞のppMLC2、MLC2、及びGAPDHのタンパク質を、前記と同様にしてウェスタンブロット法により測定した。この結果、ROCK阻害剤未処理のZic5遺伝子安定発現株で検出されたppMLC2のバンドが、ROCK阻害剤処理のZic5遺伝子安定発現株ではほとんど検出されず、ROCK阻害剤処理により、Zic5遺伝子安定発現株で亢進していたMLC2のリン酸化は、ROCK阻害剤処理により抑制されていた(図示せず。)。
これらの結果から、ZIC5はメラノーマ細胞の運動能を促進する因子であり、その一因としてMLC2のリン酸化の亢進があることが明らかになった。
【0065】
<細胞増殖アッセイ>
細胞増殖アッセイを行い、Zic5遺伝子の細胞増殖に対する影響について検討した。
細胞増殖アッセイは、ウェルあたり1,000〜2,000個の細胞となるように96ウェルプレートにまいたA375細胞及びSK−MEL−28細胞に、表2に記載のsiZIC5#1、siZIC5#2、siNeg#1、又はsiNeg#2を実施例1と同様にして導入した。各siRNAを導入した細胞の細胞数を、経時的に測定した。細胞数の計数は、細胞核をヘキスト33342(同仁化学研究所製)染色し、各ウェルの総細胞数をIN Cell Analyzer 2000(GEヘルスケア社製)により計数した。各細胞の細胞数の平均値(n=3)を
図12に示す。この結果、A375細胞及びSK−MEL−28細胞のいずれにおいても、ZIC5#1又はsiZIC5#2を導入した細胞では、細胞の増殖が鈍く、Zic5遺伝子の発現抑制によりメラノーマ細胞の増殖率が低下することが明らかになった。また、同じ傾向が、Colo829細胞とHT144細胞においても観察された(図示せず。)。
【0066】
また、Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株を9日間培養し、経時的にMTTアッセイを行い、生存している細胞の相対数を測定した。測定結果を
図13に示す。図中、「△」は、細胞がコンフルエントになった時点を示す。この結果、Zic5遺伝子安定発現株では、細胞密度が高くなっても増え続ける現象が観察された。
【0067】
<細胞周期解析>
Zic5遺伝子が、細胞周期に与える影響について、A375細胞に表2に記載のsiZIC5#2又はsiNeg#2を実施例1と同様にして導入した細胞に対して、細胞周期解析を行うことにより調べた。
細胞周期解析は、まず、24時間無血清培地で培養した後、10%FBS含有培地で24時間培養した。次いで、細胞を固定してPI(propidium iodide)染色した後、フローサイトメトリー解析(SH800,ソニー社製)を行った。得られたデータは、解析ソフトウェアFlowJo(トミーデジタルバイオロジー社製)により解析した。この結果、Zic5遺伝子の発現が抑制された細胞では、subG1期の細胞が増大していた。siZIC5#1又はsiNeg#1を導入した細胞でも同様の結果が得られた。subG1期の細胞数の割合(%)を
図14に示す。統計学的差異は、Student’s t−test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。
【0068】
これらの結果から、Zic5遺伝子はメラノーマ細胞の増殖に促進的に働く因子であることが明らかになった。
【0069】
[実施例4]
ここまでの結果より、Zic5遺伝子がメラノーマ細胞の細胞増殖、移動能、浸潤能を促進することが確認されたため、生体内におけるメラノーマの増殖・転移について検討を行った。
【0070】
<shZic5株及びshNeg株の作製>
転移能の高いA375細胞に、Zic5遺伝子に対するshRNA導入プラスミドを安定的に組み込んだshZic5株、ネガティブコントロールshRNA導入プラスミドを組み込んだネガティブコントロール株(shNeg株)を作製した。
shNeg株は、A375細胞に、shRNA発現用ベクターであるpSIREN−RetroQ−ZsGreen(クロンテック社製)を導入し、shZic5−1株又はshZic5−2株は、pSIREN−RetroQ−ZsGreenに下記表4に記載の塩基配列を標的とするZic5用shRNAを組み込んだものを導入した。shRNAの導入は、プラスミドの導入と同様にして行った。shRNAを導入した細胞を限界希釈後、GFP陽性クローンを単離し、安定発現株とした。
【0071】
【表4】
【0072】
<生体内におけるZic5遺伝子の発現抑制とヒトメラノーマ細胞の増殖及び転移>
10,000,000個のshNeg株、shZic5−1株又はshZic5−2株を0.1mLのPBSで懸濁した細胞懸濁液を、5週齢のBalb/c nu/nuヌードマウス(クレア社から購入)の皮下に注射した。皮下注射後、3〜4日ごとに、形成された腫瘍組織の大きさ(V)を下記式に基づいて計測した。式中、「A」は腫瘍組織の最大径であり、「B」は腫瘍組織の最小径である。
V = 1/2(A×B
2)
【0073】
測定結果を
図15に示す。
図15(A)は計測された腫瘍組織の大きさVの結果であり、
図15(B)は移植から34日目の腫瘍組織の重量である。統計学的差異は、Dunnett’s multiple comparison of means test(***:P<0.001)により求めた。この結果、shZic5−1株又はshZic5−2株を移植した場合には、生体内腫瘍組織がほとんど大きくならず、顕著な腫瘍増殖率の抑制が確認された。また、摘出した腫瘍の重さを測定した結果、shNeg株と比較してshZic5−1株及びshZic5−2株において、腫瘍重量が著しく低下していることが明らかとなった。すなわち、Zic5遺伝子の発現を抑制することにより、生体内においても腫瘍の増殖が抑制されることがわかった。
【0074】
<肺転移能の測定>
shNeg株、shZic5−1株又はshZic5−2株を、6週齢のBalb/c nu/nuヌードマウス(クレア社から購入)の尾静脈に注射して移植し、移植から2.5か月目に、肺転移能を調べた。具体的には、肺に形成された結節の数を測定した。さらに、マウス肺におけるヒトメラノーマ細胞の浸潤度を定量するため、マウス肺組織中のヒトGAPDH遺伝子のmRNA量を測定した。なお、ヒトGAPDH遺伝子のmRNA量は、qRT−PCRにより測定し、マウスGAPDH遺伝子のmRNA量によってノーマライズした。
【0075】
測定結果を
図16に示す。
図16(A)は、肺に形成された結節の数を測定した結果であり、
図16(B)は、これらの肺における、マウスGAPDH遺伝子のmRNA量によってノーマライズされたヒトGAPDH遺伝子のmRNA量の測定結果を示す。統計学的差異は、Mann−Whitney’s U−testにより求めた。この結果、肺における腫瘍形成数は、shZic5−1株又はshZic5−2株を移植したマウスにおいて著しく減少していた。また、マウス肺に含まれるヒトGAPDH遺伝子のmRNA量は、shNeg株と比較し、shZic5−1株又はshZic5−2株を注入したマウスで有意な減少が見られた。これらの結果から、ZIC5は、メラノーマ細胞の転移を促進する因子であることが示唆された。
【0076】
[実施例5]
ZIC5はC2H2タイプのジンクフィンガードメインを持つZic familyに属しており、このファミリーにはZic1−5が存在している。Zic1−3は転写因子としての機能やターゲット遺伝子が報告されているが、Zic4とZic5については転写因子としての機能やターゲット遺伝子に関しての報告がない。しかし、マウスZic5ジンクフィンガードメイン(Zic5 ZF)は、他のZicと同様にGli binding sequence(GBS)やいくつかのGBS変異導入配列に結合する能力があることが示されている(非特許文献17参照。)。
【0077】
ZIC5により発現変動する遺伝子のプロモーター領域について検討したところ、E−カドヘリンのプロモーター領域にマウスZic5 ZFが結合する配列GGGCGGTが存在していた。そこで、ZIC5がE−カドヘリンプロモーターに結合し、転写調節する可能性について、ゲルシフトアッセイ(electrophoretic mobility shift assay、EMSA)により検証した。
【0078】
図17に、EMSAに用いたオリゴヌクレオチドプローブの塩基配列のアラインメント図を示す。図中、四角で囲まれた領域が推定ジンクフィンガードメイン結合配列である。また、図中、「M5」は、GBSに一塩基置換変異をいれたもの、「pCDH1」はヒトCDH1遺伝子のプロモーター領域(E−カドヘリンプロモーター)、である。
【0079】
<EMSA>
具体的には、まず、ヒトZIC5のジンクフィンガードメインを、下記表5に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー及びリバースプライマーによってPCR増幅し、pGEX−6P(アマシャム・ファルマシア社製)にサブクローニングし、GSTと融合したZIC5 ZF(GST−ZIC5 ZF)発現用ベクターを調製した。当該GST−ZIC5 ZFを大腸菌BL21株に導入し、発現させたGST−ZIC5 ZFをグルタチオンセファロースビーズ(GEヘルスケア社製)を用いて精製した。
【0080】
【表5】
【0081】
精製したGST−ZIC5 ZFを、
図17に記載の塩基配列からなり、ビオチン標識されたオリゴヌクレオチドからなる3種のプローブ(北海道システムサイエンス社製)(配列番号15〜17)とそれぞれ結合バッファー(40mM Tris−HCl、pH8.0、7mM MgCl
2、3mM DTT、0.1mg/mL ウシ血清アルブミン、90mM NaCl、及び150ng poly(dI−dC))中でインキュベートし、形成された複合体を6%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(泳動バッファー:0.5×TBEバッファー(pH8))により分離した。分離した複合体は、HRP(西洋ワサビパーオキシダーゼ)標識したストレプトアビジンで検出した。電気泳動したゲルをHRP標識ストレプトアビジンで染色して検出したバンドパターンを
図18に示した。
【0082】
図18に示すように、ヒトZic5 ZFは、マウスZic5 ZFと同様にGBSには結合するが変異を導入したM5には結合しないことが明らかになった。さらに、予想Zic5 ZF結合配列を含むE−カドヘリンプロモーター配列との結合も確認できた。この結果、ヒトZic5 ZFも、マウスZic5 ZFと同様の特性があり、E−カドヘリンプロモーター領域中の配列に結合し得ることが明らかになった。
【0083】
<クロマチン免疫沈降(ChIP)法>
次に、細胞内でヒトZic5(全長)がE−カドヘリンプロモーター領域に結合することを確認するため、ChIP法を行った。
具体的には、HeLa細胞にHAタグ標識Zic5(Zic5−HA)を強制発現させた後、1%ホルムアルデヒド溶液にて4℃、3時間処理して細胞を固定させた後、グリシンを終濃度125mMとなるように添加して10分間置き、反応を終了させた。次いで、当該細胞を2%FBS含有PBSで洗浄した後に、ライシスバッファー(5mM PIPES(pH8.0)、85mM KCl、0.5% NP−40)で可溶化し、得られたライセートにMNase(タカラ社製)を添加して30分間、37℃で処理した。MNase処理後のライセートを10,000rpmで4℃、10分間遠心分離処理し、上清を回収した。
当該上清をChIP希釈用バッファー(50mM Tris−Hcl(pH8)、167mM NaCl、1.1% Triton X−100)で希釈した後、マウスIgG又は抗HA抗体(シグマ社製)を添加し、4℃で一晩、免疫沈降を行った。形成された免疫複合体をプロテインA/Gビーズで回収し、RIPAバッファー(100mM Tris−HCl(pH8.0)、300mM NaCl、2mM EDTA(pH8.0)、2% Triton X−100、0.2% SDS、0.2% デオキシコール酸ナトリウム)とLiClバッファー(10mM Tris−HCl(pH8.0)、0.25M LiCl、1mM EDTA(pH8.0)、0.5% NP−40、0.5% デオキシコール酸ナトリウム)で洗浄した。得られたタンパク質−DNA複合体は、65℃で4時間加熱処理して逆クロスリンクし、次いでプロテイナーゼK処理した後、PCR精製キット(キアゲン社製)によりDNAを精製した。得られたDNAサンプルは、表6に記載のプライマーを用いてPCR増幅して定量した。ネガティブコントロールは、E−カドヘリンと同染色体上で下流に存在する領域とした。
【0084】
【表6】
【0085】
定量結果を
図19(左図)に、各DNAの電気泳動図を
図19(右図)に、それぞれ示す。この結果、Zic5−HAを強制発現させた細胞に対して抗HA抗体で免疫沈降を行ったサンプルでのみ、E−カドヘリンプロモーター領域の共沈が確認できた。E−カドヘリンと同染色体上で下流に存在するネガティブコントロール領域のDNAは検出されなかったことから、Zic5−HAとE−カドヘリンプロモーター領域の共沈の特異性が確認できた。
【0086】
<ルシフェラーゼレポーターアッセイ>
実際にZIC5がE−カドヘリンプロモーターの活性を制御するかを調べるために、E−カドヘリンプロモーター下にルシフェラーゼを繋いだプラスミドを作製し、ルシフェラーゼアッセイを行った。
具体的には、まず、下記表7に記載のpCDH1フォワードプライマーとpCDH1リバースプライマーとを用いてCDH1プロモーター領域をPCR増幅し、pGL3−basicベクター(プロメガ社製)のXhoI−NcoI領域にサブクローニングして、ルシフェラーゼレポーターコンストラクト(pCDH1−Luc)を作製した。また、インターナルコントロールとして、Renilla luciferaseのphRL−TKプラスミド(プロメガ社製)を用いた。
【0087】
HEK293細胞に、pCDH1−LucとphRL−TKを、リポフェクタミン2000(インビトロジェン社製)を用いてトランジェントに発現させた。ルシフェラーゼ活性は、Dual−luciferase Reporter Assay System(プロメガ社製)を用いて測定した。統計学的差異は、Student’s t−test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。測定結果(n=3)を
図20に示す。この結果、E−カドヘリンプロモーターの活性はZic5強制発現下では低下することが示された。
【0088】
ZIC5によるE−カドヘリンプロモーター活性の抑制が
図17で示した予想ZIC5結合配列を介して行われているのかを検証するために、E−カドヘリンプロモーターの予想Zic5結合配列中に一塩基置換変異を導入し、ルシフェラーゼアッセイを行った。
図21に、導入した一塩基置換変異の塩基配列を示す。変異体GBS−mutはZic5 ZFが結合することが確認されている変異体であり、変異体M5−mutはZic5 ZFが結合しないことが確認されている変異体である。レポーターコンストラクトに、
図21に示す一塩基置換変異を導入した変異体GBSmut及びM5mutを、表7に記載のプライマーを用いて作製した。
【0089】
【表7】
【0090】
作製した変異体を用いて、前記と同様にしてルシフェラーゼレポーターアッセイを行った。測定結果(n=3)を
図22に示す。この結果、ZIC5の強制発現によりGBS−mutを導入したプロモーターの活性は抑制されたが、M5−mutを導入したプロモーターの活性は抑制されなかった。以上の結果より、ZIC5はE−カドヘリンプロモーター上のGGGCGGT配列を認識して結合し、そのプロモーター活性を抑制することが明らかとなった。
【0091】
[実施例6]
以上の結果より、ZIC5がE−カドヘリンの発現を調節する転写因子として機能することが明らかになったが、E−カドヘリンの発現制御だけではZIC5によるメラノーマの形質変化を説明できない。そこで、ZIC5による遺伝子発現変化を網羅的に調べるために、マイクロアレイ解析を行った。
【0092】
<マイクロアレイ解析>
A375細胞又はSK−MEL−28細胞に、表2に記載のsiZIC5又はsiNegを実施例1と同様にして導入した。siRNA導入から48時間後に細胞を回収し、RNAを抽出した。各サンプルのトータルRNA1μgを用いて、GeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Array(Affymetrix社製)に対して、製品添付のプロトコールに従ってマイクロアレイを行った。定量のノーマライズは、アレイデータから得られたRNA発現量に従って行った。ヒートマップ可視化はMev(MultiExperiment Viewer)を用いて行った。経路解析は、DAVID(非特許文献18)を用いて行った。
【0093】
A375細胞及びSK−MEL−28細胞においてZic5を発現抑制した際に、どちらの細胞においても1.5倍以上発現上昇する遺伝子は913個、半分以下に発現低下する遺伝子は302個同定された。これらの変動遺伝子が関連する現象について調べるため、 経路解析を行ったところ、Glioma、Focal adhesion、Tight junctionに関連する遺伝子が多く含まれていることが分かった(図示せず。)。
【0094】
<Focal adhesion関連因子との関係の解析>
Focal adhesionにおいて活性化されるFocal adhesion kinase(FAK)のリン酸化はメラノーマの悪性度と関連づけられているため(非特許文献19参照。)、ZIC5によるFAKの変化を検証した。さらに、Zic5発現抑制による変動遺伝子の中でFocal adhesionに関連する遺伝子の中から、ITGA6(Integrin, alpha 6)とPDGFD(platelet derived growth factor D)に着目し、細胞内における変化を調べた。具体的には、siZIC5又はsiNegを導入したA375細胞について、ウェスタンブロットにより、リン酸化FAK(pFAK)、総FAK(FAK)、ITGA6、pro−PDGFD、及びβ−アクチンの量を調べた。ウェスタンブロットは、抗pFAK抗体(Signalway Antibody社製)、抗FAK抗体(Acris社製)、抗β−アクチン抗体(シグマ社製)、抗ITGA6抗体(GeneTex社製)、及び抗PDGFD抗体(Santa Cruz社製)を用いた以外は前記と同様にして行った。この結果、Zic5発現抑制細胞においては、FAKのリン酸化が著しく減少していることが明らかになった。また、ITGA6とpro−PDGFDの発現量も減少している傾向が観察された(図示せず。)。
【0095】
A375細胞及びHT144細胞に、表2に記載のsiZIC5又はsiNegを実施例1と同様にして導入した場合のPDGFD遺伝子の発現量を、表10に示すプライマーを用いてqRT−PCRを行うことにより調べた。各細胞のPDGFD遺伝子のmRNA量は、ACTB(β−アクチン)遺伝子のmRNA量によりノーマライズした。PDGFD遺伝子の相対mRNA発現量(siNegを導入した細胞の発現量を1とする。)(n=3)を算出した結果を
図23に示す。統計学的差異は、Student’s t−test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、PDGFDの遺伝子発現は、Zic5遺伝子発現抑制により著しく減少した。
【0096】
また、Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株の細胞におけるPDGFD遺伝子の発現量を同様にして調べた。PDGFD遺伝子の相対mRNA発現量(siNeg#1を導入した細胞の発現量を1とする。)(n=3)を算出した結果を
図24に示す。統計学的差異は、Dunnett’s multiple comparison of means test(***:P<0.001)により求めた。この結果、Zic5遺伝子安定発現株におけるPDGFD遺伝子の相対mRNA発現量は、Flag安定発現株と比較して高く、Zic5遺伝子過剰発現により、PDGFDの遺伝子発現が亢進することが確認された。
【0097】
また、A375細胞及びSK−MEL−28細胞に、表1に記載のsiNeg#1と、表8に記載のsiPDGFD#1及びsiPDGFD#2とを実施例1と同様にして導入し、PDGFD遺伝子の発現抑制の影響を調べた。この結果、いずれの細胞においても、siPDGFD#1又はsiPDGFD#2を導入した細胞では形態が変化していた(図示せず。)。すなわち、メラノーマ細胞株におけるPDGFDの発現抑制は細胞の形態変化を誘発することがわかった。
【0098】
【表8】
【0099】
また、siRNA導入後の各細胞の細胞数を経時的に計数し、siRNA導入後1日目の細胞数を1とした相対細胞数を算出し、増殖性を調べた。この結果、siPDGFGDを導入した細胞では、siZic5を導入した細胞と同様に、細胞増殖が抑制されており、メラノーマ細胞株におけるPDGFD遺伝子の発現抑制により、細胞増殖が抑制されることがわかった(図示せず。)。PDGFD遺伝子の発現抑制による細胞増殖の抑制は、Colo829細胞及びHT144細胞においても観察された(図示せず。)。さらに、A375細胞については、各細胞の細胞周期を調べた。各細胞のG1期、S期、及びG2M期にある細胞の割合の平均値(SD)(%)を表9に示す。統計学的差異は、Dunnett’s multiple comparison of means test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、A375細胞では、PDGFD遺伝子の発現抑制により、S期とG2M期の細胞の割合が減少していた。
【0100】
【表9】
【0101】
また、siPDGFD#1、siPDGFD#2、又はsiNeg#1を導入したA375細胞について、細胞数を継時的に計数した。各細胞の、siNeg#1を導入した細胞数を1とした相対細胞数を
図25に示す。統計学的差異は、Dunnett’s multiple comparison of means test(**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、A375細胞では、PDGFD遺伝子の発現抑制により、細胞増殖率の低下が引き起こされた。
【0102】
A375細胞及びHT144細胞に、表2に記載のsiZIC5又はsiNegを実施例1と同様にして導入した場合のITGA6遺伝子の発現量を、表10に示すプライマーを用いてqRT−PCRを行うことにより調べた。各細胞のITGA6遺伝子のmRNA量は、ACTB(β−アクチン)遺伝子のmRNA量によりノーマライズした。ITGA6遺伝子の相対mRNA発現量(siNegを導入した細胞の発現量を1とする。)(n=3)を算出した結果を
図26に示す。統計学的差異は、Student’s t−test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、ITGA6の遺伝子発現は、Zic5遺伝子発現抑制により著しく減少した。
【0103】
また、Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株の細胞におけるITGA6遺伝子の発現量を同様にして調べた。ITGA6遺伝子の相対mRNA発現量(siNeg#1を導入した細胞の発現量を1とする。)(n=3)を算出した結果を
図27に示す。この結果、Zic5遺伝子安定発現株におけるITGA6遺伝子の相対mRNA発現量は、Flag安定発現株と比較して高く、Zic5遺伝子過剰発現により、ITGA6の遺伝子発現が亢進することが確認された。
【0104】
また、A375細胞にラットIgG又は抗ITGA6抗体の抗体溶液(20μg/mL)で72時間処理した後の細胞数を計数した。ラットIgGで処理した細胞の細胞数を1とした相対細胞数(n=3)の結果を
図28に示す。統計学的差異は、Student’s t−test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、抗ITGA6抗体によりITGA6を中和した細胞では、細胞増殖の低下が引き起こされた。また、siITGA6の導入によりITGA6遺伝子の発現を抑制した細胞でも、細胞増殖の低下が引き起こされた(図示せず)。一方で、ITGA6遺伝子の発現抑制は、細胞移動率にはさほど影響は観察されなかった(図示せず)。
【0105】
また、ヒトITGA6遺伝子のcDNAをプラスミドpcDNAに組み込んだhITGA6発現用ベクターをトランスフェクションし、G418処理により選抜したhITGA6過剰発現株と、空ベクターであるpcDNAをトランスフェクションし、G418処理により選抜したpcDNA株(ネガティブコントロール)に対して、表2に記載のsiZIC5又はsiNegを実施例1と同様にして導入した場合の細胞数を計数した。この結果、hITGA6過剰発現株では、siZIC5導入による細胞数の低下を部分的に回復することが示された(図示せず。)。
【0106】
また、Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株の細胞に、表1に記載のsiNeg#1と表8に記載のsiPDGFD#1を実施例1と同様にして導入した細胞について、実施例2と同様にしてTranswell Migrationアッセイを行い、移動細胞数を計数した。移動細胞数は、総生存細胞数でノーマライズした。各細胞の、siNeg#1を導入した細胞の移動細胞数を1とした相対細胞数(n=3)を
図29に示す。統計学的差異は、tukey’s multiple comparison of means test(**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、siPDGFD#1を導入した細胞では、Zic5遺伝子の過剰発現による細胞移動数の増加が完全に抑制されていた。この結果から、ZIC5は、PDGFDの発現を介して細胞移動を制御していることが示唆された。
【0107】
また、表1に記載のsiNeg#1、表8に記載のsiPDGFD#1、siPDGFD#2、siITGA6#1を実施例1と同様にして導入した細胞に対して、pFAK、総FAK、及びβ−アクチンの量をウェスタンブロットにより調べた。この結果、PDGFDやITGA6の発現抑制は、Zic5の発現抑制と同様にFAKのリン酸化を低下させたことから、Focal adhesionへの関与が確認できた(図示せず。)。
【0108】
【表10】
【0109】
[実施例7]
ZIC5が、BRAF阻害剤(PLX4032, vemurafenib)(Selleckchem社製)に対する感受性に変化を与えるかについて、検証を行った。
【0110】
具体的には、まず、SK−MEL−28細胞を用いて、前記と同様にしてZic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株(コントロール細胞)を製造した。
Zic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株に対して、それぞれ、PLX4032を終濃度10μMで48時間処理し、処理後の細胞数を計数した。なお、PLX4032はDMSOに溶解させた溶液として用い、等量のDMSOを添加したもの(DMSO処理)をコントロールとした。Flag安定発現株をPLX4032処理した細胞(図中、「PLX4032」欄が「+」、以下の実施例において同様)又はDMSO処理した細胞(図中、「PLX4032」欄が「−」、以下の実施例において同様)の細胞数を1とした相対細胞数(n=3)の結果を
図30に示す。統計学的差異は、tukey’s multiple comparison of means test(**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、PLX4032処理による細胞数の低下は、Zic5遺伝子安定発現株では緩和された。また、これらの細胞について、PLX4032処理後のアポトーシス細胞の割合をFITC標識Annexin V(MBL社製)を用いて検出した。各細胞におけるAnnexin Vポジティブ細胞(Annexin Vで染色された細胞)の割合(%)(n=3)の結果を
図31に示す。この結果、PLX4032処理によるアポトーシスの誘導は、Zic5遺伝子過剰発現により有意に減少することが示された。
【0111】
なお、Annexin Vポジティブ細胞の割合は、次のようにして測定した。まず、各細胞にFITC標識Annexin V(MBL社製)とヘキスト33342を添加して40分間インキュベートした。次いで、インキュベート後の細胞の染色状態を、イメージングサイトメーター「IN Cell Analyzer 2000」(GEヘルスケア社製)のDAPIフィルターとFITCフィルターを使用して解析した。DAPI染色された全細胞(DAPIポジティブ細胞)に対するAnnexin Vで染色された細胞(Annexin Vポジティブ細胞)の割合(%)は、IN Cell Analyzer Workstation 3.7(GEヘルスケア社製)により決定した。統計学的差異は、tukey’s multiple comparison of means test(**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。
【0112】
次に、内在性のZIC5、及び下流因子であるPDGFD及びITGA6の発現抑制が、PLX4032による細胞増殖の低下やアポトーシスの誘導に及ぼす影響について検討した。まず、A375細胞に、表1に記載のsiNeg、siZIC5、表8に記載のsiPDGFD、又はsiITGA6を実施例1と同様にして導入した後、DMSO又はPLX4032溶液(5μMにDMSOに溶解させた溶液)で48時間処理した。次いで、処理後の細胞にFITC標識Annexin V(MBL社製)とヘキスト33342を添加して40分間インキュベートした。インキュベート後の各細胞におけるAnnexin Vポジティブ細胞の割合(%)(n=3)の結果を
図32に示し、siNegを導入した細胞の細胞数を1とした相対細胞数(n=3)の結果を
図33に示す。なお、Annexin Vポジティブ細胞の割合の統計学的差異は、Dunnett’s multiple comparison of means test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、PLX4032によるアポトーシスの誘導は、Zic5、PDGFD、ITGA6の発現抑制により相乗的に亢進されること、及びPLX4032処理による細胞数の減少は、Zic5、PDGFD、ITGA6の発現抑制により促進されること、が明らかになった。Colo829細胞においても、同様の結果が得られた(図示せず。)。
【0113】
また、A375細胞を、ラットIgG又は抗ITGA6抗体の抗体溶液(20μg/mL)と共に、DMSO又はPLX4032溶液(10μMに溶解させた溶液)で48時間処理した。処理後の各細胞におけるAnnexin Vポジティブ細胞の割合(%)(n=3)の結果を
図34に示す。統計学的差異は、Student’s t−test(***:P<0.001)により求めた。この結果、抗ITGA6抗体によりITGA6を中和した細胞において、PLX4032と相乗的にアポトーシスを誘導できることが明らかになった。また、siZIC5及びsiPDGFDをそれぞれ導入した細胞においても、PLX4032と相乗的にアポトーシスを誘導できた(図示せず。)。
【0114】
また、実施例6で作製したZic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株に、表1に記載のsiNeg又は表8に記載のsiPDGFDを実施例1と同様にして導入した細胞と、ラットIgG又は抗ITGA6抗体の抗体溶液(20μg/mL)を添加した細胞を、それぞれPLX4032溶液(5μMにDMSOに溶解させた溶液)で48時間処理した。これらの細胞のAnnexin Vポジティブ細胞の割合(%)(n=3)の結果を
図35に示す。統計学的差異は、tukey’s multiple comparison of means test(**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、Zic5遺伝子の過剰発現によるアポトーシスの抑制作用は、PDGFDを発現抑制することによって完全になくなること(
図35(左図)、ITGA6の中和抗体処理により部分的になくなること(
図35(右図)が明らかになった。
【0115】
また、A375細胞に、表2に記載のsiNeg又はsiZIC5を実施例1と同様にして導入した後、DMSO、UO126(Cell Signaling社製)溶液(10μMにDMSOに溶解させた溶液)、又はオキサリプラチン(シグマアルドリッチ社製)溶液(20μMにDMSOに溶解させた溶液)で48時間処理した。処理後の各細胞におけるAnnexin Vポジティブ細胞の割合(%)(n=3)の結果を
図36に示す。統計学的差異は、tukey’s multiple comparison of means test(**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、Zic5によるアポトーシスの抑制作用は、MEK阻害剤であるUO126や白金製剤であるオキサリプラチンで処理した細胞でも、PLX4032処理の場合と同様の結果が得られた。
【0116】
また、A375細胞に、表1に記載のsiNeg、siZIC5、表8に記載のsiPDGFD、siITGA6を実施例1と同様にして導入した後、DMSO又はPLX4032溶液(5μMに溶解させた溶液)で24時間処理した後における、リン酸化Stat3(pStat3)、総Stat3(Stat3)、及びβ−アクチンの量をウェスタンブロットにより調べた。この結果、PLX4032処理の有無にかかわらず、ZIC5又はITGA6のノックダウンによってStat3のリン酸化が抑制されたが、PDGFDがノックダウンされた細胞では、PLX4032処理の場合のみStat3のリン酸化が抑制された(図示せず。)。
【0117】
実施例6で作製したZic5遺伝子安定発現株とFlag安定発現株を、DMSO、又はStat3阻害剤WP1066(サンタクルズ社製)溶液(10μMに溶解させた溶液)で24時間処理したところ、Zic5によるアポトーシスの抑制作用は、Stat3阻害剤処理により完全に抑制された(図示せず。)。
【0118】
これらの結果から、ZIC5は、下流因子PDGFDやITGA6によるStat3の活性化を介して、メラノーマ細胞のアポトーシスを抑制し、薬剤耐性に寄与すると考えられ、これらの分子の抑制が治療効果の向上につながることが期待できる。
【0119】
[実施例8]
次に、生じてしまったVemurafenib耐性株に対して、Zic5遺伝子及び下流因子PDGFD、ITGA6が治療標的になる可能性を検討した。
【0120】
まず、A375細胞を用いてVemurafenib耐性株を5種類(vemR−1〜5)作製した。各細胞株を、Vemurafenib(PLX4032)0、2、又は4μMで48時間処理した後の細胞数を計数し、PLX4032未処理(PLX4032濃度が0μM)の場合の細胞数を1とする相対細胞数を算出した。結果を
図37に示す。vemR−1〜5では、A375細胞よりも、PLX4032処理による細胞の減少幅が小さく、Vemurafenib耐性を有することが確認された。
【0121】
vemR−1〜5細胞及びA375細胞に対して、DMSO又はPLX4032溶液(5μMに溶解させた溶液)で48時間処理した後における、リン酸化AKT(Ser473)(pAKT)、総AKT(AKT)、リン酸化ERK1/2(Thr202/204)(pERK)、総ERK1/2(ERK)、及びβ−アクチンの量をウェスタンブロットにより調べた。ウェスタンブロットは、抗pAKT抗体(Cell Signaling社製)、抗AKT抗体(Cell Signaling社製)、抗pERK抗体(Cell Signaling社製)、抗ERK抗体(Cell Signaling社製)、及び抗β−アクチン抗体(シグマ社製)を用いた以外は前記と同様にして行った。結果を
図38に示す。この結果、vemR−1〜5細胞では、ERKの再活性化が観察された。
【0122】
vemR−1〜5細胞及びA375細胞に対して、表1に記載のsiNeg、siZIC5、又は表8に記載のsiPDGFDを実施例1と同様にして導入した。siRNA導入から3日後の各細胞の細胞数を計数し、A375細胞にsiNegを導入した細胞の細胞数を1とした場合の相対細胞数(n=3)を算出した。統計学的差異は、Student’s t−test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。結果を
図39に示す。いずれの細胞においても、siRNA導入によりZIC5又はPDGFDの発現を抑制すると、細胞数が減少し、増殖率が低下した。
【0123】
[実施例9]
HT144細胞を用いて、同様にしてVemurafenib耐性株を3種類(vemR−1〜3)作製した。各細胞株を、Vemurafenib(PLX4032)0、4、又は8μMで48時間処理した後の細胞数を計数し、PLX4032未処理(PLX4032濃度が0μM)の場合の細胞数を1とする相対細胞数を算出した。結果を
図40に示す。
【0124】
vemR−1〜3細胞及びHT144細胞に対して、DMSO又はPLX4032溶液(5μMにDMSOに溶解させた溶液)で48時間処理した後における、pAKT、AKT、pERK、ERK、及びβ−アクチンの量を実施例8と同様にしてウェスタンブロットにより調べた。結果を
図41に示す。この結果、vemR−1〜3細胞では、AKTとERKの両方の再活性化が観察された。
【0125】
vemR−1〜3細胞及びHT144細胞に対して、表1に記載のsiNeg、siZIC5、表8に記載のsiPDGFD、siITGA6を実施例1と同様にして導入した。siRNA導入から3日後の各細胞の細胞数を計数し、HT144細胞にsiNegを導入した細胞の細胞数を1とした場合の相対細胞数(n=3)を算出した。統計学的差異は、Dunnett’s multiple comparison of means test(***:P<0.001)により求めた。結果を
図42に示す。いずれの細胞においても、siRNA導入によりZIC5、PDGFD、又はITGA6の発現を抑制すると、細胞数が減少し、増殖率が低下した。
【0126】
実施例8及び実施例9の結果から、メラノーマ治療において生じてしまったBRAF阻害剤耐性細胞に対しても、Zic5、PDGFD、ITGA6の抑制が治療に有効であることが示唆された。
【0127】
[実施例10]
<ヒト前立腺がんにおけるZic5遺伝子の発現>
データベース検索により、Zic5遺伝子の発現が転移性前立腺がんにおいて亢進していることが示唆されていた(GDS2546)。そのため、ヒト前立腺がんの臨床組織におけるZic5遺伝子の発現について、免疫組織染色法により検討した。具体的には、ヒト前立腺がんの組織切片73枚、非前立腺がんの組織切片7枚(いずれも、US Biomax社から購入)に対して、抗ZIC5抗体(Aviva systems biology社製)を用いて免疫組織染色を行った。各臨床組織切片の抗Zic5抗体による染色像を、染色強度に基づいて4段階(0〜3)にスコア化した。
図43に、非がん切片とがん切片のスコア(左図)、グリーソン分類によるグレード3、4、又は5の切片のスコア(中図)、グレード2又は3の切片のスコア(右図)を示す。統計学的差異は、非がん切片とがん切片のスコアはMann−Whitney‘s U−testにより、グリーソン分類及びグレードにより分類した切片のスコアはFisher’s exact testにより、それぞれ求めた。この結果、非がん部とがん部ではその発現に有意な差が見られなかったが、グレードの進行した前立腺がんにおいてZic5遺伝子の発現が亢進していることが示唆された。
【0128】
<ヒト前立腺がんにおけるZic5遺伝子の発現抑制の影響>
ヒト前立腺がん細胞株DU145細胞を用いてZic5発現抑制の影響を調べた。
まず、DU145細胞に、表2に記載のsiZIC5#1、siZIC5#2、siNeg#1、又はsiNeg#2を実施例1と同様にして導入し、導入後0、2、又は3日後の細胞数を計数した。各細胞の相対細胞数(導入後0日目(導入前)の細胞の細胞数を1とする。)(n=3)を算出した結果を
図44に示す。統計学的差異は、tukey’s multiple comparison of means test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、DU145細胞では、siRNA導入によるZic5遺伝子発現抑制により、細胞増殖率が低下することが明らかになった。
【0129】
DU145細胞又はPC細胞に、表2に記載のsiZIC5#1又はsiNeg#1を実施例1と同様にして導入し、導入後の細胞について実施例7と同様にしてFITC標識Annexin V(MBL社製)を用いて染色し、各細胞におけるAnnexin Vポジティブ細胞の割合(%)(n=3)を算出した。統計学的差異は、Student’s t−test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。結果を
図45に示す。この結果、siZIC5#1導入細胞ではAnnexin Vポジティブ細胞の割合が増大しており、Zic5遺伝子発現抑制によりアポトーシスが誘導されることも明らかになった。
【0130】
DU145細胞に、表2に記載のsiZIC5#1又はsiNeg#1を実施例1と同様にして導入し、導入後の各細胞のZic5遺伝子、PDGFD遺伝子、及びITGA6遺伝子のmRNA発現量を、実施例6と同様にしてqRT−PCRを行うことにより調べた。各細胞のZic5遺伝子等のmRNA発現量は、ACTB(β−アクチン)遺伝子のmRNA発現量によりノーマライズした。各遺伝子の相対mRNA発現量(siNeg#1を導入した細胞の発現量を1とする。)(n=3)を算出した結果を
図46に示す。統計学的差異は、Student’s t−test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、PDGFD遺伝子及びITGA6の遺伝子発現は、Zic5遺伝子発現抑制により著しく減少した。
【0131】
DU145細胞に、表8に記載のsiPDGFD#1、siPDGFD#2、又はsiITGA6#1を実施例1と同様にして導入し、導入後0、2、又は3日後の細胞数を計数した。各細胞の相対細胞数(導入後0日目(導入前)の細胞の細胞数を1とする。)(n=3)を算出した結果を
図47に示す。統計学的差異は、tukey’s multiple comparison of means test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、DU145細胞の細胞増殖率は、siRNA導入によるPDGFD遺伝子発現抑制によって低下したが、ITGA6遺伝子発現抑制によってはほとんど影響しなかった。
【0132】
さらに、DU145細胞に、表8に記載のsiPDGFD#1、siPDGFD#2、又はsiITGA6#1を実施例1と同様にして導入した後、DMSO、又はdocetaxel(シグマアルドリッチ社製)溶液(5nMに溶解させた溶液)で24時間処理した。処理後の各細胞におけるAnnexin Vポジティブ細胞の割合(%)(n=3)の結果を
図48に示す。統計学的差異は、tukey’s multiple comparison of means test(***:P<0.001、**:P<0.01、*:P<0.05)により求めた。この結果、Zic5及びPDGFDのノックダウンでは、docetaxelにより誘導されるアポトーシスが顕著に増大していた。ITGA6のノックダウンでは、さほどの影響は観察されなかった。
【0133】
これらの結果から、前立腺がん細胞において、Zic5遺伝子の下流でPDGFD遺伝子やITGA6遺伝子の発現が制御されていること、PDGFD遺伝子の発現抑制は細胞増殖率を低下させること、Zic5遺伝子及びPDGFD遺伝子の発現抑制は、Docetaxelによるアポトーシス誘導を亢進すること、が明らかになった。これらのことから、Zic5遺伝子及びPDGFD遺伝子の抑制は、前立腺がんの治療に対しても有効であることが示唆された。
【0134】
[実施例11]
PDHFD遺伝子の発現やその下流のシグナル因子であるFAK及びSTAT3等の活性が、Zic5遺伝子の発現に与える影響を調べた。
【0135】
<PDGFD遺伝子の発現抑制のZic5遺伝子に対する影響>
A375細胞に、表1に記載のsiNegと表8に記載のsiPDGFDを実施例1と同様にして導入してRNA干渉を行い、得られた細胞ついて、PDGFD遺伝子とZic5遺伝子の発現量を、GAPDHを内部標準としたウェスタンブロット法により測定した。ウェスタンブロット法は、抗ZIC5抗体(Aviva systems biology社製)、抗PDGFD抗体(Santa Cruz社製)、及び抗GAPDH抗体(Cell Signaling社製)を用いて、カネマルらの方法(非特許文献13参照。)に準じて行った。
【0136】
各抗体により染色されたバンドを
図49に示す。上段(「ZIC5」)が抗ZIC5抗体で染色されたバンドであり、中段(「pro−PDGFD」)が抗PDGFD抗体で染色されたバンドであり、下段(「GAPDH」)が抗GAPDH抗体で染色されたバンドである。siPDGFD導入によりpro−PDGFDの発現が抑制された細胞では、ZIC5の発現も抑制されていた。
【0137】
<PDGFD遺伝子の過剰発現のZic5遺伝子に対する影響>
ヒトPDGFD遺伝子のcDNAをプラスミドpcDNAに組み込んだhPDGFD発現用ベクターをトランスフェクションし、G418処理により選抜したhPDGFD過剰発現株と、空ベクターであるpcDNAをトランスフェクションし、G418処理により選抜したpcDNA株(ネガティブコントロール)について、ウェスタンブロットにより、リン酸化FAK(pFAK)、リン酸化STAT3(pSTAT3)、総STAT3(STAT3)、ZIC5、pro−PDGFD、及びβ−アクチンの量を調べた。ウェスタンブロットは、抗pFAK抗体(Signalway Antibody社製)、抗pSTAT3抗体(Cell Signaling社製)、STAT3抗体(BD Biosciences社製)、抗ZIC5抗体(Aviva systems biology社製)、抗PDGFD抗体(Santa Cruz社製)、及び抗β−アクチン抗体(シグマ社製)を用いた以外は前記と同様にして行った。
【0138】
各抗体により染色されたバンドを
図50に示す。この結果、hPDGFD過剰発現株においては、pro−PDGFDのみならずZIC5の発現も著しく亢進していることが明らかになった。
【0139】
<FAK阻害剤処理のZic5遺伝子に対する影響>
A375細胞を、FAK阻害剤I(Calbiochem社製)濃度が0、1、2.5、又は5μMである培地中で24時間処理した後、ウェスタンブロットにより、ZIC5、pro−PDGFD、pERK、及びβ−アクチンの量を調べた。ウェスタンブロットは、抗ZIC5抗体(Aviva systems biology社製)、抗PDGFD抗体(Santa Cruz社製)、抗pERK抗体(Cell Signaling社製)、及び抗β−アクチン抗体(シグマ社製)を用いた以外は前記と同様にして行った。
【0140】
各抗体により染色されたバンドを
図51に示す。この結果、FAK阻害剤処理により、pERK量には変化が見られなかったが、ZIC5とpro−PDGFDは、FAK阻害剤の濃度依存的に発現量の低下が確認された。
【0141】
<Stat3阻害剤処理のZic5遺伝子に対する影響>
A375細胞を、Stat3阻害剤WP1066(サンタクルズ社製)濃度が0、1、1.5、2、2.5、3、又は4μMである培地中で24時間処理した後、ウェスタンブロットにより、ZIC5、pro−PDGFD、pSTAT3、STAT3、及びGAPDHの量を調べた。ウェスタンブロットは、抗ZIC5抗体(Aviva systems biology社製)、抗PDGFD抗体(Santa Cruz社製)、抗pSTAT3抗体(Cell Signaling社製)、STAT3抗体(BD Biosciences社製)、及び抗GAPDH抗体(Cell Signaling社製)を用いた以外は前記と同様にして行った。
【0142】
各抗体により染色されたバンドを
図52に示す。この結果、Stat3阻害剤処理により、STAT3量は変化せず、pSTAT3量は、Stat3阻害剤の濃度依存的に発現量の低下が確認された。さらに、pro−PDGFD量とZIC5量も、pSTAT3と同様に、Stat3阻害剤の濃度依存的に発現量が低下した。
【0143】
<IL−6処理のZic5遺伝子に対する影響>
A375細胞を、インターロイキン−6(IL−6)(Novus Biologicals社製)濃度が0、10、又は20ng/mLである培地中で24時間処理した後、ウェスタンブロットにより、ZIC5、pro−PDGFD、pSTAT3、STAT3、及びGAPDHの量を調べた。ウェスタンブロットは、抗ZIC5抗体(Aviva systems biology社製)、抗pERK抗体(Cell Signaling社製)、抗pSTAT3抗体(Cell Signaling社製)、STAT3抗体(BD Biosciences社製)、及び抗GAPDH抗体(Cell Signaling社製)を用いた以外は前記と同様にして行った。
【0144】
各抗体により染色されたバンドを
図53に示す。この結果、IL−6処理により、STAT3量及びpERK量は変化せず、pSTAT3量は、IL−6の濃度依存的に発現量の増大が確認された。さらに、ZIC5量も、pSTAT3と同様に、IL−6の濃度依存的に発現量が増大した。
【0145】
これらの結果から、ZIC5により正に制御されるPDGFD、FAK、STAT3のシグナルは、ZIC5の発現を正に制御していることが示唆され、これらの因子が、ポジティブフィードバックループを形成していることが示唆された。
【0146】
[実施例12]
実施例8で作製したVemurafenib耐性株(vemR−3細胞)について、ZIC5及びPDGFDの発現抑制の影響を調べた。
【0147】
<ZIC5及びPDGFDの発現抑制のアポトーシスへの影響>
vemR−3細胞に、表1に記載のsiNeg#1、siNeg#2、表2に記載のsiZIC5#1、又は表8に記載のsiPDGFD#1を、それぞれ実施例1と同様にして導入してRNA干渉を行い、得られた細胞ついて、実施例7と同様にしてアポトーシス細胞の割合をFITC標識Annexin V(MBL社製)を用いて検出した。各細胞におけるAnnexin Vポジティブ細胞の割合(%)(n=3)の結果を
図54に示す。この結果、siZIC5#1を導入した細胞とsiPDGFD#1を導入した細胞の両方とも、Annexin Vポジティブ細胞の割合が顕著に増大しており、vemR−3細胞では、ZIC5の発現を抑制したり、PDGFDの発現を抑制することによってアポトーシスが誘導されることがわかった。
【0148】
<ZIC5及びPDGFDの発現抑制とERKの活性化への影響>
vemR−3細胞に、表1に記載のsiNeg#1、siNeg#2、表2に記載のsiZIC5#1、又は表8に記載のsiPDGFD#1を、それぞれ実施例1と同様にして導入してRNA干渉を行い、得られた細胞ついて、実施例7と同様にしてBRAF阻害剤PLX4032処理又はDMSO処理を行った後に、ウェスタンブロット法によりpERKの量を調べた。ウェスタンブロット法は、抗ZIC5抗体(Aviva systems biology社製)、抗PDGFD抗体(Santa Cruz社製)、抗pERK抗体(Cell Signaling社製)、抗ERK抗体(Cell Signaling社製)、及び抗GAPDH抗体(Cell Signaling社製)を用いて、カネマルらの方法(非特許文献13参照。)に準じて行った。
【0149】
各抗体により染色されたバンドを
図55に示す。図中、「PLX4032処理」が、「+」はPLX4032処理を行った細胞の結果を、「−」はDMSO処理を行った細胞の結果を、それぞれ示す。また、「siZIC5」が、「+」はsiZIC5#1を導入した細胞の結果を、「−」はsiNeg#1を導入した細胞の結果をそれぞれ示す。「siPDGFD」が、「+」はsiPDGFD#1を導入した細胞の結果を、「−」はsiNeg#2を導入した細胞の結果をそれぞれ示す。vemR−3細胞では、PLX4032処理によるERKの不活性化(pERK量の減少)は引き起こされなかったが、ZIC5の発現を抑制したり、PDGFDの発現を抑制すると、pERK量が低下した。
【0150】
これらの結果から、ZIC5/PDGFDが形成するポジティブフィードバックシグナルが、Vemurafenib耐性株におけるMEK/ERKシグナルの異常活性化に寄与していると考えられた。