【実施例】
【0135】
実施例1
材料及び方法
動物モデル
本研究に使用した動物は、CBAB6F1(C57Bl/6j×CBA/caのF1雑種)であった。これらの動物を、国内法令に従い、ブリュッセル自由大学(プロジェクト番号:09-216-1)の倫理委員会の同意により、収容して繁殖させた。
【0136】
小胞状卵胞由来の未熟な卵丘細胞−卵母細胞複合体(COC)及び大胞状卵胞による排卵前のCOCの収集
未熟なCOCの収集のため、卵胞発生の第一波のコンパクトなCOCを、事前の性腺刺激ホルモン投与をせずに青春期前(pre-pubertal)のマウス(19日齢〜21日齢)の小胞状卵胞から集めた。排卵前のCOC(対照)の収集のため、2.5 IUのウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(ChorionicGonadotropin)(eCG、Folligon、オランダ国オスのIntervet)による48時間の初回刺激の後、青春期前の雌性マウス(25日齢〜27日齢)の大胞状卵胞を穿刺してコンパクトなCOCを集めた。収集培地は、10 %の熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)と、100 IU/mlペニシリンと、100 μg/mlストレプトマイシン(いずれもベルギー国ヘントのLife Technologies製)とを含み、収集及び培養前の取り扱いの間に減数分裂再開を予防するため200 μMの3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX、ドイツ国シュネルドルフのSigma)を補充した、Leibovitz L-15からなった。
【0137】
COCの培養
COC(前IVM相及びIVM相)の培養のための基本培養培地は、α-MEM、2.5 %FBS(いずれもベルギー国ヘントのLifeTechnologies製)及び5 ng/mLインスリン、5 ug/mLアポトランスフェリン、5 ng/mL亜セレン酸ナトリウム(いずれもドイツ国シュネルドルフのSigma製)で構成された。
【0138】
前IVM実験のため、CNP-22をPhoenix Europe(ドイツ国カールスルーエ)から、17-β-エストラジオールをSigma(ドイツ国シュネルドルフ)から、増殖分化因子9(GDF9)をR&Dsystems Europe(英国オクソン)から得た。
【0139】
IVMを含む実験のため、組み換え表皮増殖因子(r-EGF)(ドイツ国マンハイムのRoche)、及び組み換えマウスエピレギュリン(EREG)(英国オクソンのR&D systems Europe)を、排卵刺激として使用し、18時間培養を続けた。
【0140】
言及される場合、組み換え卵胞刺激ホルモン(FSH)(スイス国ジュネーブのMerck-Serono)を前IVM及びIVMの培地に添加した。
【0141】
減数分裂再開の評価
規定の時間点で、口で制御するファインボア(fine bore)ガラスピペットを使用してコンパクトな又は拡大した卵丘細胞から卵母細胞を機械的に取り除いた。減数分裂再開を、ホフマンモジュレーションコントラストシステム(日本国東京のNikon)を備えた倒立顕微鏡下で核成熟ステージを判断することにより分析した。核成熟を、GV(卵核胞期)、GVBD(GVが不可視のとき)、PB(囲卵腔で第1極体が観察される)又はDEG(卵母細胞が変性されたとき)として採点した。
【0142】
卵母細胞のクロマチン配置の評価
卵母細胞のクロマチン配置を、前IVM培養の前後に卵核胞卵母細胞で評価した。簡潔には、減数分裂再開の判断の後、GV卵母細胞を5分間の10 μg/mL Hoechst33258(Sigma、ドイツ国シュネルドルフ)で染色した。核小体のクロマチン配置を蛍光顕微鏡(IX70、Olympus)の下で分析した。クロマチン配置を、核小体のまわりのクロマチン凝集のパターンにより核小体を取り囲まない(NSN)段階、核小体を取り囲む(SN)段階、又は移行(NSN/SN)段階として分類した[27-29]。これらの卵母細胞のうちのいくつかの直径を、ヘキストで染色する前に記録した。
【0143】
体外受精の手順(IVF)
卵母細胞の発生能を評価する最終試験では、前IVM+IVM培養期間の後、体外受精(IVF)に続いて胚盤胞期までの胚培養を行った。この実験について、100 ng/mLのEREGをトリガーとして減数分裂再開に使用した。
【0144】
IVFのための培地は、M16培地、3 %ウシ血清アルブミン画分V(BSA)(いずれもドイツ国シュネルドルフのSigma製)、及び非必須アミノ酸(ベルギー国ヘントのLife Technologies)からなった。胚培養培地は、M16培地、並びに必須及び非必須アミノ酸(ベルギー国ヘントのLife Technologies)からなった。
【0145】
卵丘細胞卵母細胞複合体を種々の条件から収集し、IVF培地中で1回洗浄した。CBAB6F1の雄から得られた受精能獲得精子(最終希釈2×10
6精子/mL)を使用して、IVF培地中で体外受精を行った。37℃、5%CO2、5 %O2、及び湿度100 %で3.5時間の共インキュベーションの後、予定接合子(presumptive zygotes)を剥離して2回洗浄し、胚培養のため油で覆われた20 μLの胚培養培地(Irvine Scientific、ベルギー国シントデアイスウェストレムのAlere)において、5 %CO2、5%O2及び湿度100 %中37℃にて10〜15の接合子の群で培養した。卵割(2細胞)比率を、IVFの24時間後に採点した。5日目に胚盤胞発生及び孵化を記録した。
【0146】
また、100 ng/mLのEREGと共に18時間のIVMを経る、20日齢のマウスの小胞状卵胞に由来する未熟なCOCの能力を評価した。
【0147】
invivoで成長した卵母細胞(対照)を25日齢〜27日齢の雌から得て、2.5 IUのウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG、Folligon
(商標))で48時間の後、2.5 IUのhCG(Chorulon
(商標))で14時間(いずれもオランダ国Intervet製)に亘り初回刺激を行った。これらの卵母細胞を同じ精子試料で受精させ、卵母細胞/胚をIVM卵母細胞と全く同じ条件下で培養した。
【0148】
統計学的分析
別段の言及がなければ、結果を平均±SDとして示す。種々のin vitro条件間のIVF後の卵母細胞の減数分裂再開(1つの減数分裂期当たり)、クロマチン配置及び胚発生の比率の差を、分散分析に続くテューキー多重比較検定、p<0.05によって判断した。2つの条件を比較する場合、減数分裂再開の比率を比較するため、独立t検定を使用した。統計学的分析を行う前にパーセンテージデータを変換した(逆正弦)。
【0149】
結果
CNPは、効率的に減数分裂停止を維持し、EGFR依存性の減数分裂再開を遅延させる
性腺刺激ホルモン初回刺激マウス(26日齢〜27日齢)から回収された排卵前COCを、0 nM(対照)、1 nM、10 nM、100 nMのCNP-22の存在下で、4ng/mLのEGFと組み合わせて18時間に亘って培養に置いた。
【0150】
CNP-22は、減数分裂停止の維持に対して用量依存効果を有した。100 nM及び10 nMの用量では、培養終了時のGV率は、1 nM及び対照の比率より有意に高かった(96 %、93 %、48 %及び0 %)(
図1A)。
【0151】
EGFの存在下で、PB比率に対するCNP-22の用量依存効果が観察された。10 nM及び100 nMのCNP-22の用量では、多くの卵母細胞がGVBD期のままであり、したがって、PB率は、対照及び1 nMのCNP-22(それぞれ98 %及び92 %)と比較して有意に低い(それぞれ35 %及び15 %)のままであった(
図1B)。10nM及び100 nMのCNP処理で観察されたGVBD卵母細胞の比率がより高いため、減数分裂再開のより遅いプロセスの可能性を探るため追跡実験を行った。
【0152】
性腺刺激ホルモン初回刺激マウスから回収された排卵前のCOCを、25 nMのCNP-22+4 ng/mLのEGFの不在下(対照)、又は存在下で培養に置き、減数分裂成熟を2時間、4時間及び6時間に判断した。減数分裂再開は対照群では2時間〜6時間増加したのに対し、同じ期間内に、CNP-22+EGFで処理した群では誘導されたGVBDはほとんどなかった(11 %以下)(
図2A)。さらに、24時間に亘ってCNP-22+EGF培地に置かれたCOCは、CNP-22のみに対して同じ期間培養したCOCよりも有意に高い数値でPB卵母細胞(93 %)を高発生した(
図2B)。
【0153】
概して、これらのデータは、CNP-22が少なくとも24時間減数分裂停止を維持することができ、EGFRシグナル伝達が、より遅い速度ではあるが(対照に対して6時間の遅延)、CNPによって減数分裂停止状態に維持されるCOCにおいて減数分裂再開を誘導することができることを示唆する。
【0154】
未熟なCOCの長期のCNP誘導性減数分裂停止は、培養環境中のエストラジオールの存在に依存する
上に記載される研究と同様に、未熟なCOC(高度に減数分裂上/発生上、無能力)を用いる追試を行った。かかるCOCを(材料及び方法に記載されるように)小胞状卵胞から回収し、48時間培養に置いた。結果は、CNP-22が48時間ではなく24時間に亘る減数分裂停止を維持することができることを示したことから(データは示されていない)、CNP-22への反応性がE2、FSH及びGDF9による培地補充によって支持される研究を計画した。
【0155】
未熟なCOCを、19日齢〜20日齢の雌性マウスの小胞状卵胞から回収し、25 nMのCNP-22の存在下、及び10nMの17-β-エストラジオールの存在下又は不在下で48時間培養に置き、さらに、2.5 mIU/mL又は5 mIU/mLのFSH、及び/又は、50ng/mLのGDF9の更なる添加の効果を評価した。
【0156】
25nM CNP(単独)の存在下で培養されたCOCの卵母細胞は、減数分裂停止を優勢に維持することができず、結果的に、48時間の培養の後、GV率はCOCの総数の26 %を占めるにすぎなかった。対照的に、25 nMのCNP-22及び10 nMの17-β-エストラジオール(E2)の存在下で培養されたCOCの卵母細胞の大半は、効率的にFSH又はGDF9の補充にかかわらず、GV期で維持された(89 %以上、
図3)。
【0157】
卵母細胞クロマチン凝縮、卵母細胞直径及びEGFR排卵シグナル伝達に対するCOC反応性の状態に対するFSH及びGDF9の補充の効果
未熟なCOCを雌性マウス(19日齢〜20日齢)の小胞状卵胞から回収し、25 nM CNP-22及び10 nM 17-β-エストラジオールの存在下、2.5 mIU/mL FSH、又は2.5 mIU/mL FSH+50 ng/mLGDF9を添加して、48時間の培養に置いた(前IVM条件)。これらの前処理に続いて、EGFを含む培地による18時間の排卵刺激を行った(IVM条件)。
【0158】
前IVM処理の前後の卵母細胞のクロマチン凝縮の分析は、48時間の培養の間に卵母細胞のクロマチンが優勢な核小体を取り囲まない(NSN)分散配置から核小体を取り囲む(SN)凝縮配置へとシフトしたことを明らかにした。実際、前IVMの前に、卵母細胞の34 %は移行性のNSN/SN配置(66%のNSN)を有していたのに対し、前IVMの後、卵母細胞の68%以上は、各条件においてSNパターンを示した(
図4A)。2.5 mIU/mL FSH+50 ng/mL GDF9の存在下で培養した卵母細胞において、有意ではないがより大きな絶対量のSNパターン(86 %)が観察された。
【0159】
さらに、FSHを含む培地(GDF9を含まない)中での前IVM培養の後に得られた卵母細胞は、FSHを含まない培地で培養された卵母細胞よりも有意に大きな平均径に達した。結果的に、卵胞(前IVMの前の)から単離した直後、卵母細胞は、71.9±2.1 μmの直径を示し、48時間の培養後の卵母細胞の直径は次の通りであった:CNP+E2、CNP+E2+FSH、及びCNP+E2+FSH+GDF9に対して、それぞれ72.1±1.7 μm、73.5±1.7 μm、及び73.3±1.4 μm(
図4B)。
【0160】
前IVMの後、減数分裂再開のためEGFによりいくつかのCOCを刺激し、それらのPB率を18時間後に評価した。IVM培地中のCNPの存在による減数分裂再開の遅延により(先の実験を参照されたい:CNPは効率的に減数分裂停止を維持し、EGFR依存性減数分裂再開を遅延させる)、実践的な理由のため、現在の実験では、CNPをIVM培地から除いた。3つの培養条件に由来する卵母細胞は、減数分裂再開の高い比率を示し、PB率は、CNP+E2、CNP+E2+FSH、及びCNP+E2+FSH+GDF9に対して、それぞれ79 %、78 %、及び82 %のPB率であった。
【0161】
CNP、FSH及びGDF9の存在下での前IVMは、卵母細胞及び胚の質を改善する
前IVMに続いてIVM培養期間を経る、卵母細胞の発生能を調べた。卵母細胞を体外受精させ、胚を5日目まで培養した。
【0162】
この実験のため、IVM相の間、減数分裂のトリガーとしてEREGを使用し、CNP及びGDF9を前IVM培地に添加するのみで、IVM培地からは除いた。
【0163】
前IVM及びIVM培養期間の後、全ての処理に由来する卵丘細胞は、EREGに応答して、豊富な膨張及び粘液分泌期を示した。
【0164】
2細胞(受精)率は、種々の処理で差はなかった(CNP+E2、CNP+E2+FSH、及びCNP+E2+FSH+GDF9に対して、それぞれ60 %、54 %及び56 %)。CNP+E2条件との比較では、5日目の胚盤胞/2細胞の比率は、FSH又はFSH+GDF9を含む培地で培養された卵母細胞でより高く、後者については有意であった(
図5)。
【0165】
参照として、1)IVM(前IVM培養なし)を経る未熟なCOCの能力、及び2)eCGに続いてhCGによる卵巣過剰刺激後のin vivoで成長した卵母細胞の能力を
図5Cに表す。
【0166】
実施例2
上述の実験は、本発明による受精能獲得培地の使用が、減数分裂停止状態に卵母細胞を維持するだけでなく、IVMを経るかかるCOCの能力に影響せずにそのようにすることを示す。しかしながら、受精能獲得培養中の卵母細胞発生能が大きく改善されたことから、ホスホジエステラーゼ(PDE、減数分裂再開中の卵母細胞内のcAMPの分解を担う酵素)に対する効果によってCNPの作用を有することから、CNPの作用は排他的に考慮することができない。したがって、「低」用量のCNP(特に1 nM〜50 nMのCNPの濃度範囲において)では、卵母細胞及び卵丘細胞の間の良好な伝達の維持により、卵母細胞の発生能の改善において更なる効果(追加的効果)を有すると仮定した。
【0167】
cAMP調節因子の存在下では(具体的には、PDE3阻害剤を使用する成熟前の培養において)、COCを培養する場合、長期培養中の卵丘細胞−コロナと卵母細胞との間の分離の問題は、PDE阻害剤法の制限として明確に報告されている(Nogueira et al.,2003、Nogueira et al., 2006、Vanhoutteet al., 2009a)。
【0168】
CNPを含む受精能獲得培地が実際に卵丘細胞−卵母細胞連結を持続させることを実証するため、CBAB6F1マウス(上記)の初期胞状卵胞に由来する卵丘細胞−卵母細胞複合体(COC)をCOCの培養用の基本培養培地に置き、CNP、及び比較物として、2つのよく知られているホスホジエステラーゼ阻害剤であるPDE3-I(Org9935及びシロスタミド)に暴露した。
【0169】
材料及び方法
動物モデル
本研究に使用した動物は、CBAB6F1(C57Bl/6j×CBA/caのF1雑種)であった。これらの動物を、国内法令に従い、ブリュッセル自由大学(プロジェクト番号:14-216-1)の倫理委員会の同意により、収容して繁殖させた。
【0170】
COCの培養
COC(前IVM相及びIVM相)の培養のための基本培養培地は、α-MEM、2.5 %FBS(いずれもベルギー国ヘントのLifeTechnologies製)及び5 ng/mLインスリン、5 ug/mLアポトランスフェリン、5 ng/mL亜セレン酸ナトリウム(いずれもドイツ国シュネルドルフのSigma製)で構成された。受精能獲得培地は、10 nM E2 17-β-エストラジオールと組み合わせて25 nM CNP、又は1 μMOrg9935若しくは1 μMシロスタミドのいずれかを補充した基本培地からなった。CNPをPhoenix Europe(ドイツ国カールスルーエ)から得て、シロスタミドをEnzo Life Sciences(ベルギー国アントウェルペン)から得た。実験の目標がCNPとPDE3阻害剤との間に明確な潜在的な能力の差を作ることであったため、FSHの干渉の可能性を回避することは決定的であり、したがって、後者を受精能獲得培地から除いた。FSHの存在下で試験した場合、後者は、それ自体をPDE3阻害剤の存在下でより一層明白である上記接続に寄与させ、卵母細胞及び卵丘細胞の周囲層の間の接続に対するCNPの効果をマスキングした(データは示されていない)。
【0171】
染色及び画像分析
透明帯を貫通する突起(TZP、卵母細胞と接続する顆粒膜細胞からの膜性の膨張)は、テキサスレッド−ファロイジン又はActin green(商標)でFアクチンを蛍光標識することにより証明され、透明帯(矢印)を通り抜けるフィラメントとして見えた。
【0172】
結果
3つの化合物が卵母細胞の減数分裂停止を維持することができたのに対し、予想外にも、CNPが、卵母細胞と卵丘細胞の周囲層との間の双方向性の伝達に必須の透明帯を貫通する突起を保持することができる因子であることが明らかになった(
図6及び
図7)。
図7では、平均ピクセル強度を、透明帯を通り抜ける陽性アクチン染色(TZP)を定量する手段として使用した。画像分析は、ImageJを用いて行われ、卵母細胞と卵丘細胞との間に輪郭が描かれた目的の領域(Region of Interest:ROI)、すなわち透明帯が位置する領域の平均ピクセル強度の計算で構成された。画像分析の後、透明帯を貫通する突起(TZP)によって、CNPに暴露されたCOCが卵母細胞及び卵丘細胞の間の連結性をより良好に保持したことが観察された。
図7(A)では、Org9935をPDE3に対する阻害剤として使用し、アクチンフィラメントをテキサスレッド結合ファロイジンで証明し、一方、
図7(B)では、シロスタミドをPDE3に対する阻害剤として使用し、アクチンフィラメントをActin green(商標)で証明した。CNP群及びPDE3i群を、パネルAに対するP値0.0082及びパネルBに対するP値<0.0001により、マンホイットニー検定を使用して、統計学的に比較した。
【0173】
実施例3
先の結果が、CNPがCOCにおける卵母細胞と卵丘細胞との間の連結性を増強することを実証することから、以下の結果は、初期胞状卵胞から培養されたかかるCOCの発生能にCNPが影響を及ぼすかどうかを判断することを目標とした。この研究では、初期胞状卵胞に由来するマウスの卵丘細胞に囲まれた卵母細胞の発生能に対する、受精能獲得培養中に存在するCNP及びPDE3Iの差動効果を評価した。実験の目標がCNPとPDE3阻害剤との間に明確な潜在的な能力の差をつくることであったため、FSHの干渉可能性を回避することは決定的であり、したがって、この実験においても後者は受精能獲得培地から除いた。
【0174】
設定:
未熟な卵丘細胞−卵母細胞複合体を、初期胞状卵胞(刺激されていない19日齢〜20日齢のマウスに由来)から単離した。実施例2と同様、CNP又はシロスタミド(PDE3阻害剤)のいずれかの存在下で48時間の間、COCを基本培養培地に置いた。
【0175】
2つの参照対照を含んだ:
1)受精能獲得培養を行わない対照条件をIVMの前に行うもの、
2)標準的なin-vivo対照、すなわち26日齢〜27日齢のマウスに由来する完全に成長した成熟卵母細胞。これらのCOCは、23日齢〜24日齢のマウスに対する48時間のPMSGに続くhCGの投与によって得られた(IVFプロトコル)。
【0176】
受精能獲得培養に続いて、COCを表皮増殖因子(EGF)の存在下で成熟させ、体外受精させた。受精後の胚発生を評価した。
【0177】
各条件の下での卵母細胞能力の獲得を、それらの成熟能、受精能(2細胞率)、及び良質な胚盤胞(胚培養の5日目までに)の産生能によって評価した。
【0178】
統計学的分析
CNP群とシロスタミド群との間の受精及び胚盤胞形成の比率の差を、カイ2乗によって評価した。
【0179】
結果
両方の処理の受精率に対して差が観察されなかったのに対し(
図8(A)を参照されたい)、1つの受精卵当たりの形成された胚盤胞の量は、CNPの存在下での受精能獲得培養の後で有意に高かった(
図8(B)を参照されたい)。
【0180】
実施例2及び実施例3の結論
PDE阻害剤とCNPを比較するこれらの2つの補足的研究における卵母細胞及び胚の質に対して観察された予期しない差は、CNPに起因する可能性がある。これらの結果は、CNPが3型ホスホジエステラーゼの調節により媒介したものを越えて延長する作用を有することを示唆する。PDE3の作用の阻害の他に、CNPは、卵母細胞と卵丘細胞との間の物理的な連結性を増加させ、卵母細胞の最終的な発生(細胞質の成熟)を完了するのに必須の因子の獲得を増強する。
【0181】
実施例4
実施例1では、CNP-22が減数分裂停止の維持に対して用量依存性の効果を有したことが実証された。以下の研究では、より広いCNP範囲を含む更なる実験を行った。
【0182】
設定:
この更なる実施例で使用される材料及び方法は、適宜、実施例1で使用される材料及び方法と共通する。24日齢〜26日齢のマウスに由来する卵丘細胞−卵母細胞複合体を、ウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG、Folligon、オランダ国オスのIntervet)刺激の48時間後に、in vivoで成長させた胞状卵胞から単離した。22日齢〜24日齢の時、マウスに2.5IUのeCGを注射した。少なくとも2つの卵丘細胞の層を有する無傷のCOCを、以下の用量のCNPの存在下で18時間に亘り培養に置いた:
−対照(CNPなし)
*
−0.1nM
**
−1nM
−10nM
−50nM
**
−100nM
−1μM
**
*CNPが培養培地中に存在しない、対照条件。
**0.1 nM、50nM及び1 μMの試験した新たな用量(特許請求の範囲に含まれる)。
【0183】
実施例1において提供されたマウスにおける先の用量実験に従って、COCを収集し、培養した。
【0184】
統計学的分析
卵母細胞の減数分裂再開(1つの減数分裂期当たり)の比率の差を、分散分析に続いてテューキーの多重比較検定、p<0.01によって評価した。統計学的分析を行う前にパーセンテージデータを変換した(逆正弦)。
【0185】
結果:
概して、本補足実験は、CNP-22が減数分裂停止の維持に対して用量依存性効果を有していることを確認した。卵母細胞の減数分裂停止を、倒立顕微鏡下で無傷の卵核胞(GV)の存在によって確認した。
【0186】
図9Aは、1 nM、10 nM、50 nM及び100 nMによる用量が80 %以上の比率(それぞれ、80 %、98 %、94 %及び87 %)で卵母細胞の減数分裂停止を維持することを示す。しかしながら、CNPのない対照条件と比較して、10 nM及び50 nMの用量だけが有意に高かった(それぞれ、98 %、94 %対50 %、p<0.01)。
【0187】
卵核胞崩壊(GVBD)期での卵母細胞の割合では、有意差は記録されなかった(
図9B)。
【0188】
1nM、10 nM、50 nM及び100 nMのCNP用量で第一極体(PB率、
図9C)を突出する卵母細胞の低い割合又は欠如(CNPのない対照条件と比較して有意差のある最後の3つ、p<0.001)は、これらの用量において、CNPが卵母細胞の減数分裂停止の維持により強力な効果を示すという知見と一致した。
【0189】
予想外にも、0.1 nMの非常に低い用量のみならず、1 μMの非常に高用量もGV期で停止された卵母細胞の維持において最適下限であることが実証された。
【0190】
結論:
概して、これらのデータは、1 nMから100 nMに及ぶ用量間隔で80%超の比率で排卵前の卵母細胞においてCNP-22が減数分裂停止を維持することができることを示唆し、全ての卵母細胞をGV期における停止状態に維持するために使用されるCNPの望ましい用量は、10 nM〜50 nM、より好ましくは10nM〜25 nMの用量となるという特許請求の範囲と一致する。そのため、この挙動は、用量を増加させることが卵母細胞を連続的に停止させたままにしたPDE3阻害剤の使用とは異なる。
【0191】
実施例5
上述のCNPの効果は、CNP-22にそれ自身制限されないことを裏付けるため、、これらの効果がCNP類縁体によって再現され得るかどうかを試験する追加実験を行った。CNP類縁体であるCNP-53の効果を試験する追加実験を行った。CNP-22と同様、CNP-53は、53個のアミノ酸配列を含むC型ナトリウム利尿ペプチドの主な内因性形態のうちの1つである。
【0192】
設定:
この更なる実施例で使用される材料及び方法は、代わりにCNP-53を使用することを除いて、適宜、実施例4で使用される材料及び方法と共通する。24日齢〜25日齢のマウスに由来する卵丘細胞−卵母細胞複合体を、eCG刺激の48時間後に、in vivoで成長させた胞状卵胞から単離した。22日齢〜23日齢の時、マウスに2.5IUのeCGを注射した。無傷のCOCを、以下の用量のCNP-53の存在下で18時間に亘り培養に置いた:
−対照(CNPなし)
*
−0.1nM
−1nM
−10nM
−50nM
−100nM
−1μM
−対照 25 nM CNP-22
*
*2つの対照条件を含んだ:1)25 nMのCNP-22(既知であり、減数分裂停止を維持するために先の実験で使用した標準用量)、2)CNPが培養培地中に存在しない対照条件。
【0193】
統計学的分析
卵母細胞の減数分裂再開(1つの減数分裂期当たり)の比率の差を、分散分析に続いてテューキーの多重比較検定、p<0.001によって評価した。統計学的分析を行う前にパーセンテージデータを変換した(逆正弦)。
【0194】
結果:
CNP-22を使用する補足実験で見出された結果に類似して、CNP-53は、卵母細胞の減数分裂停止の維持に対して予想外の(最大の)用量依存性効果を有することを実証した。
【0195】
図10Aは、1 nM、10 nM、50 nM及び100 nMのCNP-53用量が、CNPを含まない対照条件と比較して有意に高い比率で減数分裂が停止した状態に卵母細胞を維持し(それぞれ66 %、98 %、72 %及び69 %対18 %、p<0.001)、CNP-22対照に匹敵する(75 %、p<0.01)ことを示した。
【0196】
卵核胞崩壊(GVBD)期での卵母細胞の割合では、有意差は記録されなかった(
図10B)。
【0197】
1nM、10 nM、50 nM及び100 nMの用量で第一極体(PB期)を突出する卵母細胞の割合は、CNPのない対照条件と比較して有意差があり(p<0.001)、これらの特定の用量では、卵母細胞減数分裂停止の維持においてCNP-53がより強力な効果を示すという知見と一致した(
図10C)。
【0198】
予想外にも、0.1 nMの非常に低い用量のみならず、1 μMの非常に高用量もGV期で停止された卵母細胞の維持において最適下限であることが実証された。
【0199】
結論:
全体として、これらのデータは、CNP-22に匹敵し、CNP-53は高い比率で排卵前の卵母細胞において減数分裂停止を維持することができることを示す。さらに、CNP-53が効率的な用量は、CNP-22のものに類似し、すなわち1 nM、10 nM、50 nM及び100 nMであり、全ての排卵前の卵母細胞において減数分裂停止を維持するのに最適な10nM〜50 nMの用量範囲を含む、1 nM〜100nMのCNPの範囲において異なる発現をしている。
【0200】
実施例6
前臨床試験の結果によれば、本発明の受精能獲得培地は、小卵胞に由来する卵母細胞の成熟に確かに予期しない効果を有する。この研究では、本出願の受精能獲得培地を使用するIVM方法が、卵母細胞の発生可能性に対する効果を有するかどうか、それらが受精可能な卵母細胞をもたらすかどうかについて、また、それらの胚盤胞形成可能性が増加するかどうかについて判断した。
【0201】
患者集団:
研究(N=15)に含まれるIVM治療を受ける患者は、研究胚の作製のため、卵母細胞の一部を寄贈することを承諾し、次の特徴を有した:年齢37歳未満、ロッテルダム基準(RotterdamESHRE/ASRM-Sponsored PCOS consensus workshop Group, 2004)による多嚢胞性卵巣症候群(PCO又はPCOS)の病歴。
【0202】
卵母細胞回収に先立つ最後の超音波スキャンにおいて患者が30以上の卵胞を有した場合、これらの一部(通常5個〜10個)を新たなIVM法に割り付け、残りを患者の治療の一環として日常的な臨床のIVMプロトコルに割り付けた。
【0203】
全ての患者は、600 IUのHP-hMG(FerringPharmaceuticals SA製の高度に精製されたヒト下垂体性性腺刺激ホルモン)の累積投与量からなる個別化された刺激プロトコルを受けた。
【0204】
患者が超音波スキャンで10 mm〜12 mmの範囲の平均径を有する少なくとも1つの代表的な卵胞を示すとすぐに、最後のHP-hMG注射の42時間後に卵子吸引(OPU)を計画した。
【0205】
この原理証明研究では、15の同胞の症例を募った:
実験的治療=COC受精能獲得(本発明による受精能獲得培地を使用する)+IVM
日常的な臨床群=従来のIVM(Origio
(商標)IVM方法論、VUB適応)
【0206】
未熟な卵母細胞の回収、受精能獲得培養、IVM及びICSI
70mmHgの吸引圧で17ゲージ単一内腔針を用いて2 mm〜10 mmの卵胞から卵丘細胞−卵母細胞複合体(COC)を回収し、25 IU/mlのヘパリン(Heparin Leo、ベルギー国のLeo Pharma)を補充した50 μMのIBMX(Sigma)を含む「収集培地」へと収集した。
【0207】
収集の際の卵胞吸引物を収集培地中に即座に希釈した(1本のチューブ当たり3 mlの収集培地で予め満たす)。収集チューブの内容物を汚染している血球から濾過し(Falconセルストレーナー、70 mmメッシュサイズ)、COCを培養皿から収集し、最大1時間に亘り収集培地中に保持した。その後、COCを洗浄し、各ウェルが25 nM CNPを含む「新たな受精能獲得培養培地」(すなわち、本発明による受精能獲得培地)500 μlを含有する、4ウェルIVFディッシュ(Nunc、デンマーク国のThermo Fisher Scientific)中、1ウェル当たり最大10個のCOCの群で、37℃、空気中6 %のCO2で培養した。
【0208】
22時間〜26時間の受精能獲得培養の後、COCを十分に洗浄し、100 ng/mlのヒト組み換えアンフィレギュリン(rhAREG)及び100 mIU/mlの組み換えFSH(Gonal-F)を含むIVF培地に移し、同じインキュベーター条件で30時間インキュベートして、in vitro減数分裂成熟を生じさせた。
【0209】
IVM培養の30時間後、実体顕微鏡下で卵母細胞をそれらの卵丘細胞層から機械的、また酵素的にヒアルロニダーゼ(Cook Medical)を使用して取り除き、卵母細胞の成熟を倒立顕微鏡下で判断した。
【0210】
研究群に含まれる成熟した卵母細胞(PB突出)に共通のドナーに由来する精子をマイクロインジェクションし、胚発生をICSI後5日目(最終的には6日目)まで評価した。
【0211】
受精及び胚の発生を、標準的な評価時点で記録した。良好な形態を有し、移行可能とされる3日目の胚[(割球(少なくとも5細胞)の数、断片化の比率(最大20 %)、割球の多重核形成の証拠なし、及び/又は初期の胚細胞緊密化(compaction)に基づく]を「良質な胚」(GQE)と分類した。
【0212】
結果:
図11及び
図12は、欧州ICSIデータ(正常に刺激されたサイクルに由来する)及び、UZBrussel(2014-2015)において日常的に適応されるIVMに対して、「新たな受精能獲得培養+IVM」の結果と、同胞の卵母細胞に対する「日常的なIVM」とを比較している。
【0213】
第1のデータセット(通常のICSI(Megaset))は、HP-hMGで過剰排卵され、大きな卵胞からそれらの卵母細胞を収集した374名の患者における、公開された従来の日常的なICSIの結果である(Megaset
(商標)Study:(出所:Devroeyet al. Fertil Steril 2012 Mar;97(3):561-71)。
【0214】
第2のデータセット(正:dataset)(従来のIVM(Origio))は、Origio
(商標) IVM培地を使用して、従来のIVM治療を受けた413名の患者からのUZBrusselデータである。
【0215】
最終及び第3のデータセット(COC受精能獲得+IVM)は、Origio
(商標) IVM培地を用いて処理したそれらの同胞卵母細胞と比較した、「新たな受精能獲得培養+IVM」(本特許出願の方法)による結果である。
【0216】
受精能獲得培養法(すなわち本発明による受精能獲得培地)の適用は、ヒトIVMに先立って、未熟なCOCの培養に関して重要な利益、すなわち、より高い核成熟率、並びにより高い良質な3日目の胚及び胚盤胞の収率を示した。
【0217】
図11中の矢印(1)は、卵母細胞の成熟率が従来のIVMと比較して高度に改善されることを示す。
図11中の矢印(2)は、受精率が通常のICSIサイクル又は従来のIVMと等しいことを示す。
図11中の矢印(3)は、従来のIVMよりも、初期のCOCの数当たりの3日目の良質な胚(GQE D3)の収率がほぼ2倍高く、大きな卵胞ICSIサイクルに由来する成熟卵母細胞から得られた良質な胚の比率に匹敵することを示す。
【0218】
図12中の矢印(4)は、受精卵(2PN)数当たり又はMII卵母細胞当たりのいずれかでの、培養5日目又は6日目の良質な胚盤胞の収率を指している。「受精能獲得培養」による結果は、従来のIVMによる結果よりわずかに高い。しかしながら、3日目の発生学が有望な場合のみ(3日目において4以上優れた胚)、従来のIVM胚盤胞が更に成長するという事実は、それらの結果に確かに影響する。したがって、同じアプローチがCNPに適用される場合(斑点の白色棒グラフ)、結果は、他の群のどれよりもはるかに優れている。
【0219】
図12中、矢印(5)は、CNP群において、初期のCOC数当たりの、培養5日目又は6日目の良質な胚盤胞の収率を指し、従来のIVMより高く(その群における正の選択バイアスにもかかわらず)、通常のICSIサイクルに更に匹敵する。ここでも、3日目における4以上のGQEの指針がCNP群に当てはまり、全ての群で最も良好な結果を生じた。
【0220】
結論
IVM治療の一部としての「新たな受精能獲得培養」培養工程の適用は、in-vivoで成長させた(刺激後の大きな卵胞から得られる)卵母細胞に類似する程度までの小卵胞に由来する卵母細胞の成熟を増強する。このより高い成熟の効果は、初期胚発生の間持続され、従来のIVMと比較して、2倍の量の良質な胚をもたらす。初期胚発生中のかかる持続効果の達成は期待を超えており、現在用いられているIVM法と比較すると、柔軟なIVM法を作り出すものである。