【実施例】
【0103】
略語:
Hb ヘモグロビン
OEC 酸素平衡曲線
PO
2 酸素分圧
Hb O
2 酸素と結合したヘモグロビン
LPS リポ多糖
FiO
2 吸入酸素分画
PK 薬物動態学
PD 薬物動力学
BALF 気管支肺胞洗浄液
ALI 急性肺損傷
ARDS 急性呼吸窮迫症候群
【0104】
合成例
2,6−ジヒドロキシベンズアルデヒドの製造
(INT−1)
【化6】
3000mL3口丸底フラスコにAlCl
3(240g、1.80mol、3.00当量)のジクロロメタン(1200mL)中溶液を入れた。0℃にて、該反応混合物に2,6−ジメトキシベンズアルデヒド(100g、601.78mmol、1.00当量)のジクロロメタン(800ml)中溶液を滴下した。得られた溶液を室温で一夜撹拌し、次いで、希HCl(2M)200mLでクエンチした。得られた溶液をジクロロメタン(2×200mL)で抽出した。合わせた有機層を真空濃縮した。残留物を、溶離液として酢酸エチル/石油エーテル(1:200〜1:50)を用いてシリカゲルカラムに適用して、2,6−ジヒドロキシベンズアルデヒド40g(48%)を黄色の固体として得た。
1HNMR (300MHz, DMSO-d
6) δ 11.25(s, 2H), 10.25(s, 1H), 7.36(m, 1H), 6.36 (d, J=8.4Hz 2H); MS (ESI) m/z 139 [M+H]
+。
【0105】
実施例1(化合物6)
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(6−メトキシニコチノイル)ピペ
リジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドの合成
【化7】
【0106】
工程1:
50mL丸底フラスコに6−メトキシピリジン−3−カルボン酸(613mg、4.0mmol、1.00当量)、ジクロロメタン(20mL)、(2S)−ピペ
リジン−2−イルメタノール(461mg、4.0mmol、1.00当量)、DIEA(1.03g、8.0mmol、2.00当量)およびHATU(1.67g、4.39mmol、1.10当量)の溶液を入れた。得られた溶液を室温で2時間撹拌した。濃縮後、残留物をEA 100mLで抽出し、ブライン(3×30mL)で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空濃縮した。残留物をシリカゲルカラムで精製し、酢酸エチル/石油エーテル(1:2)で溶離した。これにより、[(2S)−1−[(6−メトキシピリジン−3−イル)カルボニル]ピペ
リジン−2−イル]メタノール550mg(55%)を白色固体として得た。
【0107】
工程2:
窒素の不活性雰囲気でパージし、維持した25mL丸底フラスコに、0℃で撹拌しながら、[(2S)−1−[(6−メトキシピリジン−3−イル)カルボニル]ピペ
リジン−2−イル]メタノール(420mg、1.68mmol、1.00当量)、テトラヒドロフラン(10mL)および2,6−ジヒドロキシ−ベンズアルデヒド(278mg、2.02mmol、1.20当量)の溶液を入れ、PPh
3(529mg、2.02mmol、1.20当量)およびDTAD(465mg、2.02mmol、1.20当量)を順次添加した。得られた溶液を室温で16時間撹拌した。濃縮後、残留物をシリカゲルカラムによって精製し、酢酸エチル/石油エーテル(1:1)で溶離して、粗生成物(130mg)を得、さらに、分取TLCによって精製し、DCM/EA(2:1)で溶離した。これにより、2−ヒドロキシ−6−[[(2S)−1−[(6−メトキシピリジン−3−イル)カルボニル]ピペ
リジン−2−イル]メトキシ]ベンズアルデヒド86.1mg(14%)を黄色固体として得た。
LC-MS (ESI) m/z: C
20H
22N
2O
5の計算値: 370.15; 測定値: 371[M+H]
+。Rt: 1.88分。
1H NMR (300 MHz, CDCl
3): δ 11.98 (s, 1H), 10.29 (s, 1H), 8.30 (s, 1H), 7.75 (d, J =8.7 Hz, 1H), 7.42 (t, J =8.4 Hz, 1H), 6.86 (d, J =8.7 Hz, 1H), 6.57 (d, J =8.1 Hz, 1H), 6.42 (d, J =7.2 Hz, 1H), 5.05 (brs, 1H), 4.39-4.33 (m, 1H), 4.23-4.21 (m, 1H), 4.09-4.06 (m, 4H), 3.17-3.14 (m, 1H), 2.00-1.57 (m, 6H)。
【0108】
実施例2(化合物8)
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メトキシイソニコチノイル)ピペ
リジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドの合成
【化8】
【0109】
工程1:
50mL丸底フラスコに2−メトキシイソニコチン酸(1.00g、6.5mmol、1.00当量)、ジクロロメタン(15mL)、(2S)−ピペ
リジン−2−イルメタノール(827mg、7.2mmol、1.1当量)、DIEA(1.7g、13.0mmol、2.00当量)およびHATU(3.70g、9.75mmol、1.50当量)の溶液を入れた。得られた溶液を室温で2時間撹拌した。濃縮後、残留物をEA 100mLに溶解し、ブライン(3×30mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空濃縮した。残留物をシリカゲルカラムによって精製し、ジクロロメタン/メタノール(15:1)で溶離した。これにより、(S)−(2−(ヒドロキシメチル)ピペ
リジン−1−イル)(2−メトキシピリジン−4−イル)メタノン800mg(50%)を淡黄色固体として得た。
【0110】
工程2:
窒素の不活性雰囲気でパージし、維持した25mL丸底フラスコに、0℃で撹拌しながら、(S)−(2−(ヒドロキシメチル)ピペ
リジン−1−イル)(2−メトキシピリジン−4−イル)メタノン(300mg、1.2mmol、1.00当量)および2,6−ジヒドロキシベンズアルデヒド(497mg、3.6mmol、3.0当量)のトルエン(10mL)中溶液を入れた。上記溶液にPPh
3(943.2mg、3.6mmol、3.0当量)を添加し、次いで、DTAD(828mg、3.6mmol、3.0当量)を添加した。得られた溶液を室温で16時間撹拌した。濃縮後、残留物を以下の条件で分取HPLCによって精製した。
カラム:Waters XBridge C18 19*150 mm、5μm;移動相:H
2O(10mM NH
4HCO
3+0.05%アンモニアの緩衝液である)およびCH
3CNを5分間で15%〜45%アセトニトリルの勾配で、次いで5分間で45%〜75%;流速:15mL/分;検出器UV波長:254nm。これにより、(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メトキシイソニコチノイル)ピペ
リジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド129mg(29%)を淡黄色固体として得た。LC-MS (ESI) m/z: C
20H
22N
2O
5の計算値: 370.15; 測定値: 371[M+H]
+。 Rt: 1.82分。
1H NMR (300 MHz, CDCl
3): δ 12.00 (s, 1H), 10.34 (br. s, 1H), 8.25 (d, J =5.1 Hz 1H), 7.42 (br. s, 1H), 6.84 (d, J =4.8 Hz, 1H), 6.71 (s, 1H), 6.60 (d, J=8.4 Hz, 1H), 6.46 (br. s, 1H), 5.31 (br. s, 1H), 4.33-4.22 (m, 2H), 3.98 (s, 3H), 3.58 (br. s, 1H), 3.12 (br. s, 1H), 1.94-1.57 (m, 6H)。
【0111】
実施例3(化合物9)
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メチルイソニコチノイル)ピペ
リジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドの合成
【化9】
【0112】
工程1:
50mL丸底フラスコに2−メチルピリジン−4−カルボン酸(548mg、4.00mmol、1.00当量)、(2S)−ピペ
リジン−2−イルメタノール(460mg、3.99mmol、1.00当量)、DIEA(1.29g、9.98mmol、2.50当量)およびHATU(1.67g、4.39mmol、1.10当量)のジクロロメタン(20mL)中溶液を入れた。得られた溶液を室温で30分間撹拌した。濃縮後、残留物をEA 200mLに溶解した。次いで、ブライン(3×20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空濃縮して、残留物を得た。該粗物をシリカゲルカラムによって精製し、ジクロロメタン/メタノール(10:1)で溶離した。これにより
、[(2S)−1−[(2−メチルピリジン−4−イル)カルボニル]−ピペ
リジン−2−イル]メタノール
426mg(46%、97% ee)を黄色固体として得た。
【0113】
工程2:
窒素の不活性雰囲気でパージし、維持した100mL丸底フラスコに、0℃で撹拌しながら、[(2S)−1−[(2−メチルピリジン−4−イル)カルボニル]ピペ
リジン−2−イル]メタノール(426mg、1.82mmol、1.00当量)および2,6−ジヒドロキシベンズアルデヒド(753mg、5.45mmol、3.00当量)のトルエン(30mL)中溶液を入れた。0℃にて、上記溶液にPPh
3(1.43g、5.45mmol、3.00当量)を添加し、次いで、DTAD(1.25g、5.43mmol、3.00当量)を添加した。得られた溶液を室温で16時間撹拌した。濃縮後、残留物をシリカゲルカラムによって精製し、ジクロロメタン/酢酸エチル(1:1)で溶離して、粗生成物を得、以下の条件で分取HPLCによって精製した。
カラム:Waters XBridge C18 19*150 mm、5μm;移動相:H
2O(10mM NH
4HCO
3+0.05%アンモニアの緩衝液である)およびCH
3CNを8分間で42%〜46%アセトニトリルの勾配;流速:20mL/分;検出器UV波長:254nm。これにより、2−ヒドロキシ−6−[[(2S)−1−[(2−メチルピリジン−4−イル)カルボニル]ピペ
リジン−2−イル]メトキシ]ベンズアルデヒド90.6mg(14%)を淡黄色固体として得た。LC-MS (ESI) m/z: C20H22N2O4の計算値: 354; 測定値: 355[M+H]
+。Rt: 1.00分。
1H NMR (300 MHz, CDCl
3): δ 11.99 (s, 1H), 10.34 (s, 1H), 8.58 (d, J=5.1 Hz, 1H), 7.43-7.40 (m, 1H), 7.12 (s, 1H), 7.05 (d, J=4.8 Hz, 1H), 6.59 (d, J=8.7 Hz, 1H), 6.48 (br., 1H), 5.34 (br., 1H), 4.38-4.05 (m, 2H), 3.55 (br., 1H), 3.10 (br., 1H), 2.61 (s, 3H), 1.96-1.64 (m, 6H)。
【0114】
実施例4(化合物10)
2−ヒドロキシ−6−((3−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピラジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドの合成
【化10】
【0115】
工程1:
3−クロロピラジン−2−カルボン酸(2.97g、18.73mmol、1当量)をテトラヒドロフラン(75mL)に溶解した。該溶液を氷浴中にて撹拌し、トリエチルアミン(5.2mL、37.5mmol、2当量)を添加し、次いで、クロロギ酸メチル(1.74mL、22.5mmol、1.2当量)を滴下した。30分後、反応物を濾過し、固体をさらなるテトラヒドロフラン(10mL)ですすいだ。テトラヒドロフラン溶液を氷浴中にて撹拌し、水素化ホウ素ナトリウム(1.4g、37.5mmol、2当量)の水(3mL)中懸濁液を添加した。1時間後、反応物に塩化アンモニウム飽和水溶液(100mL)を添加し、該混合物を酢酸エチル(2×100mL)で抽出した。合わせた有機相を塩化ナトリウム飽和水溶液(25mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過および蒸発の後、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(5〜70%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製して、(3−クロロピラジン−2−イル)メタノール(0.84g、31%)をかすかに着色した油状物として得た。
【0116】
工程2:
(3−クロロピラジン−2−イル)メタノール(0.6g、4.15mmol、1当量)を1,4−ジオキサン(16mL)および水(5mL)に溶解した。該溶液および反応容器をN
2ガス流でパージした。1−イソプロピル−5−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−1H−ピラゾール(1.08g、4.57mmol、1.1当量)、[1,1'−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム (II)(0.3g、0.41mmol、0.1当量)および炭酸カリウム(0.57g、4.15mmol、1当量)を添加し、反応物をヒートブロック中にて100℃で撹拌した。1時間後、反応はTLC(35%酢酸エチル/ヘキサン)によって完了したと判断された。反応混合物を25℃に冷却し、酢酸エチル(100mL)および重炭酸ナトリウム飽和水溶液(100mL)の混合物に溶解した。相を分取し、水相を酢酸エチル(50mL)でもう1度抽出した。合わせた有機相を塩化ナトリウム飽和水溶液(50mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過および蒸発の後、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(5〜70%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製して、(3−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピラジン−2−イル)メタノール(0.53g、59%)を淡黄色油状物として得た。
【0117】
工程3:
(3−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピラジン−2−イル)メタノール(0.308g、1.41mmol、1当量)をジクロロメタン(4ml)に溶解し、氷浴中にて撹拌した。塩化チオニル(2.05mL、28.2mmol、20当量)をゆっくりと添加し、該反応混合物を2時間かけて20℃まで撹拌した。次いで、反応物を蒸発させて残留物を得、トルエン(20mL)に再溶解し、蒸発乾固させた。蒸発、溶解および蒸発のサイクルをさらに2回繰り返した。得られた5−(3−(クロロメチル)ピラジン−2−イル)−1−イソプロピル−1H−ピラゾール−1−イウムクロライド残留物を直接次工程で使用した。
【0118】
工程4:
2−ヒドロキシ−6−(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(0.15g、0.823mmol、1当量)をN,N−ジメチルホルムアミド(5mL)に溶解した。5−(3−(クロロメチル)ピラジン−2−イル)−1−イソプロピル−1H−ピラゾール−1−イウムクロライド(0.247g、0.905mmol、1.1当量)および炭酸カリウム(0.45g、3.3mmol、4当量)を添加し、反応物をヒートブロック中にて60℃で2時間撹拌した。反応物を冷却し、酢酸エチル(100mL)および水(50mL)の混合物中に注いだ。相を分取し、水相をさらに酢酸エチル(2×50mL)で抽出した。合わせた有機相を水(25mL)、塩化ナトリウム飽和水溶液(25mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。濃縮後、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(5〜80%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製して、2−((3−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピラジン−2−イル)メトキシ)−6−(メトキシメトキシ)ベンズアルデヒド(0.22g、70%)をオフホワイト色の固体として得た。
【0119】
工程5:
2−((3−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピラジン−2−イル)メトキシ)−6−(メトキシメトキシ)−ベンズアルデヒド(0.22g、0.575mmol、1当量)を乾燥THF(3mL)に溶解した。次いで、該反応物に濃HCl(0.19mL、2.3mmol、4当量)をゆっくりと添加した。3時間後、反応は、TLC(シリカゲル、50%酢酸エチル/ヘキサン)によって決定されたように完全であり、酢酸エチル(50mL)および重炭酸ナトリウム水溶液(25mL)中に注いだ。相を分取し、水相をさらに酢酸エチル(2×30mL)で抽出した。合わせた有機相を塩化ナトリウム飽和水溶液(20mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過および蒸発の後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(5〜70%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製し、水/アセトニトリルから凍結乾燥させた後、2−ヒドロキシ−6−((3−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピラジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド(0.127g、65%)をオフホワイト色の固体として得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 11.94 (s, 1H), 10.23 (dd, J = 0.59, 1.33 Hz, 1H), 8.74 (d, J = 2.41 Hz, 1H), 8.66 (d, J = 2.41 Hz, 1H), 7.61 (dd, J = 0.41, 1.90 Hz, 1H), 7.38 (t, J = 8.40 Hz, 1H), 6.56 (dt, J = 0.64, 8.50 Hz, 1H), 6.46 (d, J = 1.91 Hz, 1H), 6.40 (dd, J = 0.69, 8.30 Hz, 1H), 5.26 (s, 2H), 4.68 (hept, J = 6.67 Hz, 1H), 1.48 (d, J = 6.61 Hz, 6H)。
13C NMR (101 MHz, CDCl
3) δ 194.01, 163.71, 160.87, 149.32, 144.06, 143.43, 138.46, 138.25, 110.85, 107.81, 102.18, 69.25, 51.14, 22.83。MS (ESI) m/z 339 [M+H]
+。
【0120】
生物学的実施例
実施例1
化合物の特徴付け
本明細書に記載の代表的な化合物を、ヘモキシメトリー(hemoximetry)を用いてヘモグロビン酸素親和性を増加させる能力について試験した。血液(20%または40%Hct)を種々の濃度の化合物と共にインキュベートし、次いで、ヘモキシメトリーを行った。化合物で処理した血液の酸素平衡曲線を、Hemox Analyzerを用いて、Hemox緩衝液中、37℃でO
2平衡試料の脱酸素化によって得た。血液試料をヘモキシメーター試料チャンバーに移し、最初に圧縮空気で飽和させ、次いで、純窒素で脱酸素した。等吸収点(570nm)およびデオキシHb(560nm)に対応する波長における吸光度を試料O
2分圧(pO
2)の関数として記録した。脱酸素化の間、pO
2およびパーセントO
2飽和度値を収集して、OECおよびp50値(HbがO
2で50%飽和したO
2の分圧)を得た。p50値は、非線形回帰分析を使用して計算した。本明細書に記載の化合物は、
図1B、1E、1H、IK、1N、1Q、1T、1W、1Z、1ACおよび1AEに見られるようにヘモグロビン酸素親和性を用量依存的に増加させた。
【0121】
ボーア(Bohr)効果:組織への酸素送達は、血液のpHの変化(ボーア効果)および赤血球中の2,3−ジホスホグリセリン酸の濃度の増加を介して、ヘモグロビン−O
2親和性の減少によって媒介された。ARDSまたは急性肺損傷などの病的状態によって引き起こされる低酸素症に関して、呼吸性アシドーシスは、血液のpHの低下をもたらし、それによってヘモグロビン−O
2親和性を減少させ、酸素摂取を減少させる可能性がある。本明細書に記載の化合物は、
図1C、1F、1I、1L、1O、1R、1U、1X、1AAおよび1AFに見られるような、酸性(低pH)条件下での酸素親和性を高めた。
【0122】
活性化された白血球から放出される反応性酸素種(ROS)は、IPFを有する患者の肺損傷および線維性変化を引き起こす。驚くべきことに、本明細書に記載の化合物1は、好中球およびマクロファージを含有するインビトロ実験系において、抗酸化活性(
図1AGおよび1AH)および抗炎症活性(
図1AI、1AJおよび1AK)を示した。前述のアルデヒド化合物、5−ヒドロキシメチル−2−フルフラール(5−HMF)は、この活性を示さない(
図1AGおよび1AH)。かくして、本明細書に記載の化合物はまた、患者における炎症の有害作用を阻害する方法を提供し得る。全身性炎症性サイトカイン(腫瘍壊死αおよびインターロイキン−6)の減少はまた、ヘモグロビン−O
2親和性の増加による低酸素血症の緩和の有益な効果を補う広い抗炎症効果を発揮する可能性を有する。
【0123】
実施例2
低酸素症マウスモデルに対する耐性
この研究は、低酸素状態の間に健康なマウスの肺におけるO
2輸送に及ぼすHb O
2親和性の増加の効果を評価するために行った。これに関して、Hb O
2親和性を増加させる化合物1の効果は、極度の低酸素状態に曝された健康なマウス(肺損傷なし)において研究された。この動物モデルでは、マウスを低酸素状態に曝すことにより、肺における取り込みに利用可能なO
2の量が減少し、O
2の分圧(pO
2)が正常値よりも低下する肺疾患に関連する肺低酸素血症の前臨床モデルが提供される。この動物モデルはまた、低下したO
2分圧の環境(例えば高地でのO
2分圧)への曝露の状態を模倣する。
【0124】
研究:
雄性C57BLマウスに、無傷の微小血管床を直接的に視覚化するための背面の皮下脂肪ウィンドーチャンバー(dorsal skinfold window chamber)を取り付けた(Yalcin & Cabrales 2012)。該ウィンドーチャンバーを移植した後、動脈(頸動脈)カテーテル移植(PE50チュービング)の2回目の手術を受ける前に、動物を少なくとも2日間回復させたままにした。回収の2日後、マウスに化合物1(70または140mg/kg)またはビヒクルのみを経口投与し、Hb O
2親和性をヘモキシメトリーによって決定した。投与2時間後に、意識のあるマウスを、縦スリットを備えた拘束チューブに入れ、そこから突き出たウィンドーチャンバーが観察のための顕微鏡ステージを提供した。この構成では、管内へのガス流速(0.2L/分)が綿フィルター障壁によって拡散される。酸素正常状態(21%O
2)のベースライン測定は、マウスを拘束して1時間以内に完了した。次いで、O
2濃度を15、10および5%に低下させることによって、動物を段階的低酸素状態に曝した。動物を各低酸素レベルで30分間保持した。測定前に各々新しい低酸素レベルで15分間馴化させた。低酸素状態の間、全身および微小血管の血行動態、血液ガス、血中乳酸塩、O
2の組織分圧(PO
2)、組織低酸素および低酸素に対する耐性の変化を評価した。各時点で、適切な収縮期血圧(BP)を有するマウスを生存数としてカウントし、重度の低血圧(BP≦60mmHg)マウスを非生存としてカウントし、安楽死させた。
【0125】
全身パラメータの測定:
頸動脈カテーテルからMAP(平均動脈圧)および心拍数(HR)を連続的に記録した。Hctは、ヘパリン処理した毛細管チューブに採取した遠心分離動脈血試料から測定した。動脈血をヘパリン処理したガラス毛細管(50μL)に集め、直ちにPO
2、PCO
2、塩基過剰およびpHについて分析した。動脈Hb飽和度は、CO−Oximeterを用いて測定した。
【0126】
血中酸素平衡曲線:
Hemox Analyzer(TCS Scientific Corporation, New Hope, PA)を用いて、37℃でHemox緩衝液中でのO
2平衡試料の脱酸素化によってマウス血液の酸素平衡曲線を得た。血液試料をヘモキシメーター試料チャンバーに移し、最初に圧縮空気で飽和させ、次いで、純窒素で脱酸素した。等吸収点(570nm)およびデオキシHb(560nm)に対応する波長における吸光度を、試料O
2分圧(pO
2)の関数として記録した。脱酸素化の間、pO
2およびパーセントO
2飽和度値を収集して、OECおよびp50値(HbがO
2で50%飽和したO
2の分圧)を得た。p50値は、非線形回帰分析を使用して計算した。
【0127】
微小血管組織PO
2:
高分解能非侵襲性微小血管PO
2測定は、リン光消光顕微鏡法(phosphorescence quenching microscopy)(PQM)を用いて行った。組織PO
2は、機能性毛細血管の間の領域で測定した(Yalcin & Cabrales 2012)。微小循環中のHb O
2飽和度は、測定されたO
2平衡曲線を用いて計算される。
【0128】
組織低酸素領域:
組織低酸素は、生存組織の低酸素ゾーンに結合したピモニダゾールについての免疫組織化学染色により研究した。マウスに、低酸素マーカーHypoxyprobe−1(ピモニダゾール40mg/kg)およびPBS(全容量100μL)で希釈した5mg/kg Hoechst 33342のボーラス腹腔内注射(IP)注射を施した。当該研究の最後に、マウスを安楽死させ、組織を組織学的に抽出した。切片を、ピモニダゾールに対するモノクローナル抗体で染色する。ピモニダゾール抗体染色部位およびヘキスト(Hoechst)の画像を記録した。結果は、ピモニダゾールとヘキスト(Hoechst)の共局在化による総細胞面積に対するピモニダゾール染色面積の比として報告される。
【0129】
分析および結果:
PK/PD分析:
化合物1 70mg/kgまたは140mg/kgを投与したマウスからの血液の薬物動態分析により、計算された化合物1 Hb占有率がそれぞれ約30および60%であることが判明した。%Hb占有率=100×[化合物1の血中濃度(mM)]/[(Hct/100)×5mM]。ヘモキシメトリーを用いて、投与マウスからの全血における化合物1のPD効果を決定した。化合物1(青色および赤色の線)またはビヒクルのみ(黒色の線)を投与したマウスから得られた全血の代表的な酸素平衡曲線(OEC)を
図2Aに示す。OECの左シフトは、対照(ビヒクルのみ)と比較して化合物1の用量依存的なHb O
2親和性の増加を示す。
【0130】
動脈血O
2飽和度の変化:
図2Cは、低酸素時のPaO
2の変化(
図2B)に対するSaO
2の変化を示す。動脈血O
2分圧(PaO
2)は、低酸素レベルの増加とともに減少した。全ての動物は同じレベルの低酸素に曝されていたので、PaO
2は化合物1処置マウスおよび対照マウスにおいて同じであった(
図2B)。動脈血酸素飽和度(SaO
2)は低酸素の増加とともに減少した。しかしながら、化合物1は、低酸素時に対照と比べてSaO
2を用量依存的に増加させ、化合物1が低酸素中にO
2摂取を増加させることを示した(
図2C)。
【0131】
低酸素の間の血中乳酸塩と血液のpHの変化:
図2Dおよび2Eは、低酸素状態における血中乳酸塩および血液のpHの変化を示す。
図2Dに示すように、アシドーシスを示す10%および5%O
2低酸素の間、対照マウスにおいて、動脈血pHは実質的に減少した。対照的に、化合物1を投与したマウスにおいて、低酸素状態の間、動脈血pHは正常であり、化合物1がアシドーシスを減少させることを示した。これの裏付けとして、化合物1は、極度の低酸素(5%O
2)の間、対照と比較して乳酸塩レベルを低下させた(
図2E)。したがって、Hb O
2親和性を増加させることにより、化合物1は、対照と比べた血中乳酸塩レベルの低下によって証明されるように、低酸素状態の間の組織へのO
2送達を改善した。
【0132】
低酸素曝露の間の平均動脈圧(MAP)および心拍数(HR)の変化:
図2Fおよび2Gは、低酸素への曝露の間の平均動脈圧(MAP)および心拍数(HR)の変化を示す。低酸素状態の間、MAPおよび心拍数(HR)は対照マウスで減少したが、化合物1投与マウスは用量依存的に高い平均BP(
図2F)およびHR(
図2G)を維持した。したがって、Hb O
2親和性の増加は、低酸素状態の間、組織へのO
2送達の増加をもたらし、低酸素状態に調整するのに必要な血圧およびHRの変化を系統的に最小化する。
【0133】
組織低酸素および生存:
図2Hおよび2Iはそれぞれ、低酸素状態の間のマウスの組織低酸素および生存の程度を示す。
図2Hに示されるように、化合物1は、極度の低酸素状態の間、対照と比べて、ピモニダゾールによって陽性に染色された低酸素組織を減少させた。さらに、極度の低酸素状態の間、適切な収縮期BPを有するマウスを生存数としてカウントし、重度の低血圧(BP≦60mmHg)のマウスを非生存としてカウントし、安楽死させた。
図2Iに示すように、対照マウスはいずれも5%O
2低酸素への1時間暴露後に生存していたが、化合物1 70mg/kgを投与したマウスの16%および化合物1 140mg/kgを投与したマウスの83%は5%O
2低酸素への1.5時間暴露後に生存していた。これらのデータは、化合物1が極度の低酸素状態の間、マウスの組織酸素化および生存を改善したことを示す。
【0134】
この研究は、ヘモグロビンのO
2親和性を増加させる化合物が動脈O
2飽和度を増加させ、低酸素状態の間の組織への酸素送達を改善することを示している。組織レベルでは、局所環境は、乳酸アシドーシスの減少、心血管機能の改善、そして最終的には生存によって測定されるように、改善された酸素化を導く効率的なO
2抽出を可能にする。
【0135】
実施例3
急性肺損傷(ALI)マウスモデル
この研究は、急性低酸素状態に対するHb O
2親和性の増加の影響を評価するために実施した。これに関して、Hb O
2親和性を増加させる化合物1の効果を、極度の低酸素にさらされたリポ多糖誘発性急性肺損傷のマウスモデルにおいて研究した。この動物モデルは再現性があり、ヒトALI/ARDSの好中球炎症反応を捕らえる(Matute-bello, G., Frevert, C.W. & Martin, T.R., 2008. Animal models of acute lung injury)。低酸素負荷と組み合わせて、動物におけるLPS誘発性ALIは、ALIに関連する低酸素血症を減少させる可能性がある潜在的薬物の効果を調べるための前臨床モデルを提供する(Matute-bello et al. 同上)(Vuichard, D. et al., 2005. Hypoxia aggravates lipopolysaccharide-induced lung injury. Clinical and Experimental Immunology, 141(2), pp.248-260)。
【0136】
研究:
成体の8〜10週齢雄性C57BL/6Jマウス(Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME)をイソフルランで麻酔し、直接気管内注射によってPBS 100μL中のLPS(Sigma, St. Louis, MO)100μLを注射した。24時間後、低酸素チャンバーに配置する2時間前に経口強制飼養(oral gavage)によって、マウスに化合物1(ジメチルアセトアミド、ポリエチレングリコール400(PEG400)および40%キャビトロンをそれぞれ1:5:4の比で配合した70または140mg/kg)またはビヒクルのみ(5μL/g)を投与した。マウスを10または5%O
2に4時間暴露した。酸素飽和度(SaO
2)を、低酸素曝露の間、ベースラインおよび時間ごとに、パルスオキシメーター(STARR Life Sciences, Oakmont, PA)を用いて測定した。低酸素暴露の間、マウスを連続的にモニターし、15分毎に瀕死のチェックを行った。死亡までの時間を、瀕死状態になるまでの時間によって評価した。マウスは、仰臥位に置かれたときに自分自身を正すことができなかった場合、瀕死の状態にあると判断された。
【0137】
低酸素チャンバー内で心臓穿刺により採血した。低酸素環境(Abaxis, Union City, CA)内でi−STATポータブルアナライザーを使用して、血液ガスを測定した。残りの血液試料をヘモキシメトリーおよび薬物動態解析に使用した。試料採取のために、マウスをペントバルビタール過量で安楽死させた。生理食塩水900μLで気管支肺胞洗浄(BAL)を行った。後眼窩穿刺により採血し、次いで、回転させて血漿を回収した。肺を除去し、急速冷凍した。さらなる研究まで、すべての試料を−80℃で保存した。DiffQuikでサイトスピンを染色した後、BAL炎症細胞数および差異を手動で決定した。Pierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific, Waltham, MA)を用いてBALタンパク質を測定した。
【0138】
分析および結果
PK/PD分析:
化合物1 70mg/kgまたは140mg/kgを投与したマウスからの血液のPK分析は、それぞれ、約19%および27%の化合物1 Hb占有率を示した。%Hb占有率=100×[化合物1の血中濃度(mM)]/[(Hct/100)×5mM]。ヘモキシメトリーを使用して、上記のように投与したマウスからの全血における化合物1のPD効果を決定した。化合物1(青色および赤色系)またはビヒクルのみ(黒色系)を投与したマウスから得られた全血の代表的な酸素平衡曲線(OEC)を
図3Aに示す。OECの左シフトは、対照(ビヒクルのみ)と比較して、化合物1の用量依存的なHb O
2親和性の増加を示す。
【0139】
LPS誘発性肺損傷:
LPS 100μgでの処置は、無LPS対照群と比較して、BALFにおける総細胞数の増加によって証明されるように、炎症を誘導した(
図3B)。さらに、LPS処置動物由来のBALFは、LPS誘発性肺損傷と一致する典型的な炎症マーカーである好中球(
図3C)およびマクロファージ(
図3D)を含有していた。しかしながら、LPS処理群対(無LPS)対照群のBALFにおいて総タンパク質の大きな差異は観察されず(
図3E)、急性肺損傷のこのモデルにおいて有意な肺胞毛細血管損傷がないことが確認された。化合物1は、炎症または肺損傷に対して有意な効果がなかった。
【0140】
末梢動脈O
2飽和の変化:
MouseOxを用いて、低酸素状態の間、末梢動脈の酸素飽和度(SpO
2)を測定した。低酸素状態の間、毎時間各群についてSpO
2を測定した。各群の低酸素曝露の4時間の間の平均SpO
2を
図3Fに示す。一般に、SpO
2は、低酸素状態の間、すべての群で減少した。しかしながら、10%および5%の低酸素の間、SpO
2は対照(またはビヒクル)マウスと比較して化合物1投与マウスで高かった。例えば、5%O
2低酸素の間、70mg/kgまたは140mg/kgの化合物1は、それぞれ、SpO
2を対照値の22%または31%増加させた。したがって、化合物1は、低酸素の間、対照と比較してSpO
2を増加させ、化合物1が急性肺損傷の存在下、低酸素の間、O
2摂取を増加させることを示した。
【0141】
生存:
曝露低酸素状態の間、マウスを連続的にモニターし、瀕死のチェックを15分毎に行った。死亡までの時間は、瀕死状態になるまでの時間によって評価された。マウスは、仰臥位に置かれたときに自分自身を正すことができなかった場合、瀕死の状態にあると判断された。
図3Gに示されるように、4時間の5%O
2低酸素曝露後に、対照マウスの45%が生存していたが、70mg/kg化合物1投与マウスの60%および140mg/kg化合物1投与マウスの86%が生き残った。したがって、化合物1は、極度の低酸素に曝されている間の急性肺損傷を有するマウスの生存を用量依存的に改善した。
【0142】
この研究は、ヘモグロビンのO
2親和性を増加させる化合物が、肺損傷の存在下で低酸素状態の間にO
2取り込みおよび組織へのO
2送達を改善し、それにより、O
2送達を改善し、しばしば肺損傷をさらに悪化させる過剰O
2の必要性を最小化するための新しい治療戦略を提供する。
【0143】
実施例4
ブレオマイシン誘発性低酸素血症および肺線維症マウスモデル
この研究は、増加したHb O
2親和性がIPFに関連する低酸素症を改善し得るかどうかを評価するために実施された。化合物1は、ブレオマイシン誘発性低酸素血症および線維症マウスモデルにおいて評価した。動物におけるブレオマイシン誘発性肺線維症は、IPFに関連する低酸素血症を低下させる可能性がある潜在的薬物の効果を調べるための前臨床モデルを提供する。この研究では、動脈の酸素飽和度(SaO
2)をモニタリングすることによって低酸素血症を判定し、組織病理学的評価ならびに気管支肺胞洗浄液(BALF)中のコラーゲンおよび白血球濃度の測定によって肺線維症の重篤度を評価した。
【0144】
研究:
48匹の7〜8週齢C57B/L6雄性マウスをSimonsen Laboratory, Gilroy, CAから得た。研究の開始前にマウスに耳のタグを付け、体重測定を行った。動物を4つの群に分け、各群に12匹の動物を入れた。
全てのマウスの体重を研究の間毎日記録した。第2群、第3群および第4群の動物に、中咽頭経路を介して3U/kg硫酸ブレオマイシンUSP(Teva Pharmaceuticals)を7日間投与した(Walters, D. M. and S. R. Kleeberger (2008). “Mouse models of bleomycin-induced pulmonary fibrosis.” Curr Protoc Pharmacol Chapter 5: Unit 5 46.参照)。第1群の動物には中咽頭経路を介して生理食塩水を投与した。
【0145】
化合物1(ジメチルアセトアミド:ポリエチレングリコール400(PEG400):40%キャビトロンを1:5:4の比で配合)を、低用量(初日に50mg/kg、続いて毎日40mg/kg/日)または高用量(初日に150mg/kg、続いて毎日85mg/kg)で、ブレオマイシン処置マウスに経口強制飼養により8日目から15日目まで1日1回投与した。第1群の動物には、経口強制飼養によりビヒクルを投与した。投与量は200μLであった。15日目に試験動物を最終投与の4時間後に屠殺した。
【0146】
ヘモキシメトリーおよび薬物動態(PK)のための試料を、投薬レジメンの最後の投薬の4時間後に採取した。ハンクス平衡塩培地(HBSS)1mlを用いて肺を洗浄することにより、動物の肺からBAL液を回収した。各動物から肺を採取し、計量した。次いで、それらを10%NBF約0.5mLで膨張させ、その後の組織病理学的分析のためにホルマリン容器に固定した。
【0147】
分析および結果:
PK/PD:
PK:
化合物1の血中および血漿中濃度を、最後の投与の4時間後にLC−MSによって決定した。標準およびQC血液試料の両方を37℃で1時間プレインキュベートした。インキュベーション後、試料の状態と適合するように、標準およびQC試料をすべて2倍容量の水で希釈した。プレインキュベーションなしで、血漿標準およびQCが進行していた。すべての試料について、血液または血漿試料10μLを、2mL96ウェルプレート中のクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3)240μLと混合した。混合物を10分間ボルテックスした。内部標準、アセトニトリル中200ng/mLの2−ヒドロキシ−6−((2−(1−(プロパン−2−イル−d
7)−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド)500μLを全試料に加え、混合物を20分間ボルテックスした。試料プレートを4000rpmで10分間遠心分離した。上清10μLを注入プレートに移し、水中50%のアセトニトリル190μLで希釈した後、LCMSに注入した。化合物1および2−ヒドロキシ−6−((2−(1−(プロパン−2−イル−d
7)−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドを、Thermo Aquasil C18カラム(2.1×20.5μm)。移動相勾配を、0.0−0.5分の移動相A(水中0.1%ギ酸)および15%移動相B(100%アセトニトリル中0.1%ギ酸)の混合物でプログラムし、0.5−1.5分で95%移動相Bに変え、1.5−1.8分で95%移動相Bを保持した。1.9分で、移動相は15%移動相Bに戻り、そこに1.9−2.5分で保持された。m/z 341→203生成物イオン(化合物1)のピーク面積を、m/z 345→159生成物イオンの2−ヒドロキシ−6−((2−(1−(プロパン−2−イル−d
7)−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イ)メトキシ)ベンズアルデヒドのものに対して陽イオンモードで測定した。分析範囲は、血液試料で50〜100000ng/mL、血漿試料で50〜5000ng/mLであった。化合物1の低用量レジメンおよび高用量レジメンを有するブレオマイシン処置マウスは、それぞれ計算されたHb占有率の18.0%および36.7%を達成した。平均血液/血漿濃度比は、RBC/血漿比102:1に相当する22:1であった。化合物1の高いRBC/血漿比は、赤血球への化合物1の優先的な分配を示した(表12)。
【0148】
ヘモグロビン占有率:
化合物1によるヘモグロビン占有率は、RBC中の化合物1の濃度をRBC中のHb濃度(5mM)で割ることによって計算した。RBCは、以下の式を使用して、全血および血漿濃度データから計算した:
【数1】
ここで、C
b=化合物1の血中濃度(μg/mL)
C
b=化合物1化合物1の血漿中濃度(μg/mL)
Hct=ヘマトクリット値(0.21)
【0149】
ヘモキシメトリーPD
ヘモキシメトリー測定(PD分析)はHemox Analyzer(TCS Scientific Corporation, New Hope, PA)で行った。試料をヘモキシメーター試料チャンバーに移し、最初に圧縮空気で飽和させ、次いで、純窒素で脱酸素した。等吸収点(570nm)およびデオキシHb(560nm)に対応する波長における吸光度を、試料O
2分圧(pO
2)の関数として記録した。脱酸素化の間、pO
2および%O
2飽和度値を収集して、OECおよびp50値(Hbが50%飽和したO
2の分圧)を得た。p50値は、非線形回帰分析を用いて計算される。
図4Bに示すように、化合物1で処置したマウスは、用量応答様式でOECにおいて有意な左シフトを示し、より高いHb−酸素結合親和性を示した。
【0150】
動脈血液ガスと酸素飽和度:
低酸素症はIPFの特徴であり、低酸素症の存在および重症度を評価するために酸素飽和度測定をしばしば臨床的に使用する。化合物1で処置したマウスにおける低酸素症に対する応答を、最初に動脈酸素飽和度(SaO
2)を測定することによって評価した。ブレオマイシンまたは生理食塩水滴下注入後7日目および14日目に、全血GEM OPLコ−オキシメーター(Instrumentation Laboratory, MA)を用いて動脈酸素飽和度(SaO
2)を測定するために、尾動脈からの動脈血50μLを使用した。尾動脈から血液100μLをさらに採取し、i−STAT Handheld Blood Analyzer(ABBOTT)を用いて動脈血液ガスを、CG4+カートリッジを用いて測定した。各マウスについて、SaO
2および動脈酸素分圧(pO
2)を測定した。
図4Cに示されるように、化合物1で処置した群はともに、7日目の化合物1処置の前にSaO
2の減少を示し、その後、7日間連続の化合物1による処置(低用量:8日目50mg/kg;9〜15日目毎日40mg/kg;高用量:8日目150mg/kg;9〜15日目毎日85mg/kg)の後に対照値に戻った。対照的に、ビヒクル処置マウスの動脈酸素化レベルは、試験中ずっと低下した(
図4C)。動脈血液ガス(ABG)も7日目および14日目に分析した(
図4C)。データは平均±SEMとして表す。7日目に、ブレオマイシン処置マウスにおいて、動脈酸素分圧(pO
2)が有意に低下し、肺ガス交換の障害を示した。ビヒクル処置したブレオマイシンマウスにおいて、pO
2は14日目にさらに低下した。化合物1の処置は、pO
2の増加、またはpO
2のさらなる低下の予防を示し、疾患の進行に有益な効果を示唆した(
図4D)。まとめると、これらの知見は、化合物1処置が低酸素血症を有意に改善し、マウスの生理学的改善を導くことを示している。
【0151】
BAL液白血球分析:
このブレオマイシンモデルでは、マウスは広範囲の肺線維症および肺炎症を発症する;したがって、肺炎症細胞の表現型に対する化合物1の処置の効果を試験した。BAL液を1,000rpm、4℃で5分間遠心分離した。BAL細胞ペレットを1xPharmalyse緩衝液(BD Bioscience)2mlに懸濁してRBCを溶解させた。PBS+2%FBSを加えて溶解反応を停止させ、細胞を再び遠心分離した。血球計およびトリパンブルー排除法を用いて細胞ペレット中の白血球を計数した。
【0152】
化合物1による処置は、15日目にBAL液中で回収された全炎症細胞の有意な減少により明らかなように、炎症の減少と関連した(
*、P<0.05;低用量:8日目50mg/kg;9日目〜15日目毎日40mg/kg;高用量:8日目150mg/kg、9日目〜155日目毎日85mg/kg)(
図4E)。この知見は、化合物1の処置がこのモデルにおいて肺の炎症を減弱させることを示している。
【0153】
BAL液コラーゲン分析:
抗低酸素血症および抗炎症効果に加えて、化合物1処置は線維性病変の改善を示した。ブレオマイシンの単回投与をマウスに施すことにより、肺線維症を誘導した。製造者の指示(Biocolor Ltd, Carrick Fergus, UK)に従ってSircolコラーゲン色素結合アッセイを用いて、BALF上清中の全可溶性コラーゲンを定量することによって、コラーゲン含量を決定した。化合物1の処置は、肺におけるコラーゲンタンパク質の有意な減少をもたらした(
*、P<0.05;低用量:8日目50mg/kg;9日目〜15日目毎日40mg/kg;高用量:8日目150mg/kg;9〜15日目毎日85mg/kg)(
図4F)。これらの結果は、化合物1が、ブレオマイシンマウスモデルにおける肺線維症を減弱させることを示している。
【0154】
肺重量測定:
肺を各動物から収穫し、15日目に計量した。ビヒクル対照を投与したブレオマイシンマウスの肺は、化合物1処置マウスからの肺よりも有意に重く(
**、P<0.01)、処置動物における線維性疾患の減少を示唆する(
図4G)。これらの結果は、化合物1が、ブレオマイシンマウスモデルにおける肺線維症を減弱させることを確認している。
【0155】
組織病理学的分析:
病理組織学的分析は、Seventh Wave Laboratories, Chesterfield, MOで行った。肺試料を処理し、各マウスの全ての葉を1つのパラフィンブロックに包埋した。4つの主要葉の冠状切片をMassonのTrichromeで染色した。各動物について、20X対物レンズおよび10Xまたは40X接眼レンズ(200Xまたは800X)を使用して、連続した肺野をラスタパターンで検査した。改変Ashcroftスコア(Hubner et al. 2008)を各フィールドについて記録した。線維性指数は、改変Ashcroftフィールドスコアの合計を検査したフィールドの数で割ったものとして計算された。
【0156】
15日目のマウスからの肺切片をMassonのトリクロームで染色してコラーゲン沈着(青色)を視覚化した。ビヒクル処理されたブレオマイシン肺は線維性であり、広範なコラーゲン沈着、肺胞間隔膜の濃厚化、およびコラーゲンによる肺胞空間の喪失を有していた(
図4H)。対照的に、化合物1処理肺(低用量:8日目50mg/kg;9〜15日目毎日40mg/kg;高用量:8日目150mg/kg;9〜15日目毎日85mg/kg)はコラーゲン沈着の減少を示していた;多くの肺胞は、中隔線維症を示さず、ブレオマイシン暴露のない肺では実質に似ていた(
図4H)。形態学的線維症を定量化するためのAshcroftスコアリングを実施し、化合物1処置は全スコアを約50%改善した(
**、P<0.01;
図4I)。これらの結果は、化合物1がこのブレオマイシンマウスモデルにおいて肺線維症を阻害することを示唆している。
【0157】
本明細書に記載の他の化合物は、上記と同様に評価することができることが理解されるべきである。
【0158】
本開示は、本明細書において広くかつ一般的に記載されている。包括的な開示の範囲内となるより狭い種および亜属のグループの各々も、本発明の一部を形成する。さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュ群に関して記載されている場合、当業者は、本発明がマーカッシュ群のメンバーの任意の個々のメンバーまたはサブグループに関しても記載されることを認識するであろう。
本発明は、以下の態様および実施態様を含む。
[1] 肺疾患に罹患している患者における低酸素症の治療における使用のための、以下のものから選択される化合物:
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(6−メトキシニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メトキシイソニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メチルイソニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
2−ヒドロキシ−6−((3−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピラジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−ニコチノイルピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
3−クロロ−2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)−ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((5−オキソ−1−フェニルピロリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(6−メチルニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;および
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メチルニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;または
その薬学的に許容される塩。
[2] 肺疾患が特発性肺線維症である、[1]に記載の使用のための化合物。
[3] 化合物が2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒドである、[1]または[2]に記載の使用のための化合物。
[4] 2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド500〜1000mg/日が治療に用いられる、[3]に記載の使用のための化合物。
[5] 600〜900mg/日が単回投与として治療に用いられる、[3]または[4]に記載の使用のための化合物。
[6] 化合物が、13.37°、14.37°、19.95°および23.92°2θ(各々、±0.2°2θ)から選択される少なくとも2つの粉末X線回折ピーク(Cu Kα線)によって特徴付けられる結晶性形態IIである、[2]に記載の使用のための化合物。
[7] 特発性肺疾患の治療における使用のための、以下のものから選択される化合物:
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(6−メトキシニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メトキシイソニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メチルイソニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
2−ヒドロキシ−6−((3−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピラジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−ニコチノイルピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
3−クロロ−2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)−ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((5−オキソ−1−フェニルピロリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(6−メチルニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;および
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メチルニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;または
その薬学的に許容される塩。
[8] 特発性肺疾患に罹患している患者における線維症の治療における使用のための、以下のものから選択される化合物:
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(6−メトキシニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メトキシイソニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メチルイソニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
2−ヒドロキシ−6−((3−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピラジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−ニコチノイルピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
3−クロロ−2−ヒドロキシ−6−((2−(1−イソプロピル−1H−ピラゾール−5−イル)ピリジン−3−イル)メトキシ)−ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((5−オキソ−1−フェニルピロリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(6−メチルニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;および
(S)−2−ヒドロキシ−6−((1−(2−メチルニコチノイル)ピペリジン−2−イル)メトキシ)ベンズアルデヒド;または
その薬学的に許容される塩。
[9] 以下のものから選択される化合物:
【化11】
【化12】
【化13】
または
【化10】
またはその立体異性体、またはその各々の薬学的に許容される塩、または上記のものの各々の薬学的に許容される溶媒和物。
[10] [9]に記載の化合物、および少なくとも1種類の薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。