(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806771
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】有機金属塩組成物、その調製方法および潤滑油添加剤組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 129/28 20060101AFI20201221BHJP
C10M 129/40 20060101ALN20201221BHJP
C10M 129/32 20060101ALN20201221BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20201221BHJP
C10N 10/08 20060101ALN20201221BHJP
C10N 10/10 20060101ALN20201221BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20201221BHJP
C10N 10/16 20060101ALN20201221BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20201221BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20201221BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
C10M129/28
!C10M129/40
!C10M129/32
C10N10:02
C10N10:08
C10N10:10
C10N10:12
C10N10:16
C10N20:00 Z
C10N30:00 A
C10N30:00 Z
C10N30:06
【請求項の数】18
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-520655(P2018-520655)
(86)(22)【出願日】2016年6月27日
(65)【公表番号】特表2018-521208(P2018-521208A)
(43)【公表日】2018年8月2日
(86)【国際出願番号】FI2016050463
(87)【国際公開番号】WO2017005967
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2019年6月19日
(31)【優先権主張番号】15175674.9
(32)【優先日】2015年7月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518006064
【氏名又は名称】アブ・ナノル・テクノロジーズ・オイ
【氏名又は名称原語表記】AB NANOL TECHNOLOGIES OY
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】バローズ,オーブレイ
(72)【発明者】
【氏名】エクマン,ケネス
(72)【発明者】
【氏名】フォン・ハールトマン,ソフィア
(72)【発明者】
【氏名】レンピアイネン,サムリ
(72)【発明者】
【氏名】フォン・クノルリング,ヨハン
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−140172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのC13〜C22モノカルボン酸の一つの金属の塩と、
少なくとも一つのC4〜C12分岐鎖モノカルボン酸と、を含む有機金属塩組成物であって、
アメリカ石油協会によって分類される炭化水素油I、II、IIIおよびIV群のすべてにおいて0.1重量%を超える炭化水素油中溶解度を有する有機金属塩組成物。
【請求項2】
前記I、II、IIIおよびIV群の炭化水素油中の溶解度が0.5重量%を超える請求項1に記載の有機金属塩組成物。
【請求項3】
前記少なくとも一つのC4〜C12分岐鎖モノカルボン酸は飽和されている請求項1に記載の有機金属塩組成物。
【請求項4】
前記少なくとも一つのC4〜C12分岐鎖モノカルボン酸は、メチルまたはエチルである少なくとも一つのアルキル基を含む請求項1に記載の有機金属塩組成物。
【請求項5】
前記少なくとも一つのC4〜C12分岐鎖モノカルボン酸が2−エチルヘキサン酸である請求項3に記載の有機金属塩組成物。
【請求項6】
前記C13〜C22モノカルボン酸がオレイン酸である請求項1に記載の有機金属塩組成物。
【請求項7】
前記少なくとも一つのC13〜C22モノカルボン酸の金属塩がオレイン酸銅である請求項1に記載の有機金属塩組成物。
【請求項8】
有機金属塩が18〜24℃の前記範囲内の温度で少なくとも一週間、前記炭化水素油中に可溶性である請求項1に記載の有機金属塩組成物。
【請求項9】
前記II、IIIおよびIV群の基油において炭化水素油の有機金属塩組成物に対する比が100:1〜200:1で前記炭化水素油中に可溶性である請求項1に記載の有機金属塩組成物。
【請求項10】
C13〜C22カルボン酸を、炭酸銀、炭酸金、炭酸パラジウム、炭酸銅、炭酸コバルト、炭酸鉛、炭酸スズ、炭酸ビスマス、炭酸モリブデン、炭酸チタン、炭酸タングステンおよび炭酸ニッケルからなる群から選択される金属炭酸塩と反応させるステップと、
塩組成物の総質量の2〜20重量%の前記範囲内の重量でC4〜C12分岐鎖モノカルボン酸を添加するステップと、を含む有機金属塩組成物を調製するための方法。
【請求項11】
前記金属炭酸塩が銅または炭酸コバルトを含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
カルボン酸の炭酸塩反応物質の金属に対するモル比が1:1〜20:1の前記範囲内である請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
有機金属塩を60℃まで加熱し、前記C4〜C12分岐鎖モノカルボン酸を激しく混合しながら添加する請求項10〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記有機金属塩組成物を作製するための有機金属塩および前記C4〜C12分岐鎖モノカルボン酸の重量比が5:1〜50:1である請求項10〜13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
任意にさらなる添加剤成分と組み合わせた、請求項1に記載の前記有機金属塩組成物を含む潤滑油添加剤組成物。
【請求項16】
第一金属成分および第二金属成分と、
前記第一金属成分および任意に前記第二金属成分を含む粒子と、を含む活性複合体をさらに含む請求項15に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項17】
前記潤滑油添加剤組成物が、0.1重量%を超える、前記I、II、IIIまたはIV群の炭化水素油中の溶解度を有する請求項15または16に記載の潤滑油添加剤組成物。
【請求項18】
潤滑された面の摩擦および摩耗を低減するための請求項1〜9および15〜17のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規有機金属塩組成物、および前記有機金属塩組成物を含む潤滑油添加剤組成物に関する。さらに、本発明は前記有機金属塩組成物を製造する方法に関する。さらに詳細には、本発明は、周囲温度より低い融点を有し、液体形態の前記組成物の使用を可能にする有機金属塩組成物に関する。前記有機金属組成物は、摩擦を低減し、摩耗保護を提供する潤滑油添加剤における成分として有用であり、また様々な炭化水素油中に可溶性である。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸から調製される有機金属塩は、しばしば油およびグリース中に組み込まれて、特別な性質を有する潤滑組成物を提供する(例えば非特許文献1:Synthetic Lubricants And High-Performance Functional Fluids, Edited by Leslie R. Rudnick and Ronald L. Shubkin, CRC Press 1999を参照)。特に、飽和および不飽和カルボン酸塩は、潤滑油中の周知の摩擦低減添加剤である(非特許文献2:Spikes, H.A. “Boundary Lubrication and Boundary Films.” Proc. 19th Leeds-Lyon Symposium on Tribology, Leeds, Sept. 1992; Thin Films in Tribology, ed. D Dowson et al., Elsevier 1993)。前記有機金属塩は、非特許文献3:(the Fuels and Lubricants Handbook:Technology Properties Performance and Testing Edited by George E Totten, Steven R. Vestbrook, Rajesh Shah(2003))で記載されているように異なる金属元素に基づき得る。銅系添加剤は、潤滑剤におけるそれらの有効性のために、多くの場合、好ましい。ジチオリン酸銅、ジチオカルバミン酸銅、スルホン酸銅、カルボン酸銅、アセチルアセトン銅、銅フェネート、ステアリン酸銅およびパルミチン酸銅を含む数種の銅化合物は有意に低い摩擦および摩耗を示した。カルボン酸銅、例えばオレイン酸銅は、抗酸化剤としても使用されてきた(エンジンオイル抗酸化剤として特許文献1(英国特許第2,056,482号明細書)および特許文献2(欧州特許第92946号明細書))。銅系有機金属化合物は、多機能添加剤として使用して液体潤滑剤またはグリース、燃料、切削液、および油圧油中の摩擦および摩耗を軽減する場合に最大の利点を提供することができる。銅系潤滑油添加剤および潤滑油配合技術におけるあらゆる前記進歩にもかかわらず、さらにいっそう優れた摩耗保護および環境上有益な特性、例えば減少した排気物質を提供する潤滑油添加剤が依然として必要とされる。
【0003】
潤滑油添加剤として有用な有機金属塩は多種多様な反応経路によって合成することができる。金属カルボン酸塩、特に長鎖不飽和または飽和脂肪酸に基づく金属塩は、通常、金属炭酸塩を脂肪酸と反応させることによって調製される。オレイン酸銅を作製する周知の一方法は、オレイン酸を炭酸銅とともに加熱することである(特許文献3:米国特許第1,013,538号明細書)。別のプロセスは、オレイン酸ナトリウムおよび前記所望の金属の無機可溶性塩、例えば塩化銅の等モル濃度の水溶液を混合することによる。結果として金属オレイン酸塩が析出し、それを次いで濾過し、洗浄し、そして乾燥させる;(非特許文献4:Ratoi, M., Bovington, C. and Spikes, H. (2000) Mechanism of metal carboxylate friction modifier additive behaviour;International Tribology Conference,Nagasaki,JP)。
【0004】
潤滑剤配合物に添加した場合に前記所望の特性を提供し付与するための潤滑油添加剤の前記設計および開発は予測不可能で困難なプロセスである。さらに、金属カルボン酸塩添加剤の前記物理的性質、溶解度および性能は、そのような有機金属化合物の前記化学構造だけでは予測または決定できない。これらの因子は簡単な構造と活性の関係に従わない(非特許文献5:Kenbeek, D., Buenemann, T., and Rieffe, H., Review of Organic Friction Modifiers - Contribution to Fuel Efficiency, SAE Technical Paper 2000-01-1792,2000)。
【0005】
ほとんどの潤滑剤組成物は基油を含む。一般的に、この基油は炭化水素油または炭化水素油の組み合わせである。前記炭化水素油はアメリカ石油協会によってI、II、IIIまたはIV群に分類されている。これらのうち、前記I、II、およびIII群油は天然の鉱油である。I群油は、分別蒸留された石油で構成され、これは耐酸化性などの特性を向上するため、そしてワックスを除去するために溶媒抽出プロセスでさらに精製される。II群油は、水素化分解してさらに精錬および生成した分別蒸留された石油から構成される。III群油は、II群油に類似した特性を有し、IIおよびIII群はどちらも高度に水素処理された油であり、これはそれらの物理的性質を改善するために様々なステップに供されている。III群油はII群油よりも高い粘度指数を有し、II群油をさらに水素化分解することによるか、または水素異性化されたスラックワックスを水素化分解することにより調製され、これは多くの前記油一般に用いられる前記脱ろうプロセスの副生成物である。IV群油は合成炭化水素油であり、これはポリアルファオレフィン(PAO)とも称する。
【0006】
前記様々な基油の前記潤滑特性を修飾するために、添加剤がしばしば用いられる。これらの添加剤には、例えば、摩耗防止剤、摩擦軽減添加剤、抗酸化剤、分散剤、界面活性剤、極圧添加剤、および腐食防止剤として機能するように設計された材料が含まれる。すべての添加剤が広範囲の基油中に可溶性であることが非常に望ましい。良好な添加剤溶解度は、前記配合された潤滑剤が、分離または沈殿を形成する傾向がなく安定であることを保証するために重要である。前記添加剤が適切に機能し、有効に作用することを可能にするためには、それらが適切に可溶化されることを確実にするのも重要である。これらの組成物の配送、貯蔵、および/または比較的長期の使用を可能にするために、添加剤溶解度は広範囲の温度および他の条件にわたって維持されるのが望ましい。しかしながら、これらの望ましい品質を達成することが、全体的性能を犠牲にしたものであってはならない。残念なことに、少なくとも一つの利益として、例えば摩擦軽減または摩耗に対する保護を提供するいくつかの添加剤は、溶解度が低く、したがって商業的価値が限定されるというという欠点がある。
【0007】
当業者は潤滑剤配合物中の溶解度が低い添加剤を試み配置するための別の解決策を開発することを試みた。一つのアプローチは、前記潤滑剤組成物中一つ以上の補助基油(co-base oil)、例えば合成エステルまたは植物油を含めることであった。例えば、エステルを、この目的のためにポリアルファオレフィンを有する補助基油として使用した。残念なことに、そのようなエステルは、加水分解安定性が不十分であることが多く、したがって、前記溶解度問題の救済策を達成するための全体的性能における許容できない犠牲であり得る。
【0008】
低溶解度の前記問題を解決するための別のアプローチは、高レベルの亜鉛、硫黄、および/またはリンを含有する別の潤滑油添加剤を使用することであった。これらの潤滑油添加剤は、摩擦軽減および摩耗保護の点で適切な性能を提供することができる。しかしながら、それらは多くの場合、低リン、低硫黄および低硫酸化灰分技術に基づいた前記優れたより望ましい添加剤と比べて有効性が低い。
【0009】
前記先行技術はまた、それらの構造に応じて、金属表面間の直接的接触を防止することによって機械的に摩擦を低減し、摩耗保護を提供する不溶性潤滑油添加剤群があることも示す。このように機能する添加剤の例は、二硫化モリブデンおよびTeflon(登録商標)フルオロカーボンポリマー(PTFE)である。これらの添加剤は、グリース組成物で効果的に使用することができるが、それらは潤滑油組成物においては有効ではない。前記潤滑剤は、不溶性物質の凝集および沈殿に起因して安定性が乏しい欠点があることが判明している。その結果、前記性能は時間とともに劣化し、特に摩擦および摩耗の点で許容できなくなる。
【0010】
低溶解度を有する添加剤のさらに別の群は、例えば銅合金などの金属粉末からなる。これらは摩擦および摩耗を低減するとされる。それらは潤滑剤中に分散された場合、前記摩擦表面上に金属層を形成することができる。前記摩擦層は物理的および化学的プロセスにより前記金属表面上に堆積される。それは可動部品の前記金属表面上の前記摩擦状態を改善し、前記表面の前記負荷抵抗を増加させる。しかしながら、これらの潤滑剤組成物は不溶性物質の凝集および沈殿のために安定性が乏しいという欠点があることが判明している。その結果、それらの性能も時間とともに劣化し、特に摩擦および摩耗の点で許容できなくなる。
【0011】
摩擦および摩耗を低減するために有用な好ましい潤滑油添加剤群は有機金属塩に基づくものである。例は、非特許文献6(Lubricant Additives:Chemistry and Applications, Second Edition, edited by Leslie R. Rudnick, CRC Press, 2009)に記載され、この文献は開示の目的のために参照することによって援用される。それは、例えば多くの銅およびモリブデン化合物を含み、具体例は、オレイン酸銅、サリチル酸銅、ナフテン酸銅、およびナフテン酸モリブデンである。これらの添加剤は、個別に、または好ましくは他の化合物と組み合わせて使用する場合、非常に有効な摩擦低減剤および摩耗防止剤として機能することができる。この材料群の前記欠点は、それらがほとんどの場合に周囲温度で固体であり、特に、II、IIIおよびIV群(PAO)のような、より飽和度の高いパラフィン系水素化分解または合成基油において使用される場合に限定された油溶性を有することである。これは、高性能自動車、工業用およびオフハイウェイ潤滑剤におけるこれらの添加剤の前記使用を制限する。
【0012】
前記先行技術は有用な添加剤組成物が利用可能であることを示しているが、重大な短所があることも示している。特に、II、IIIおよびIV群(PAO)のような、より飽和度の高いパラフィン系水素化分解または合成基油で使用される場合に可溶性である高性能潤滑油添加剤組成物が引き続き必要とされている。これらの重要な改善は本発明において達成される。
【0013】
約55℃の融点を有するオレイン酸銅はI群基油中に著しく可溶性であるが、II、III、およびIV群基油中では溶解度が限定されることが判明している。このことにより、オレイン酸銅がそれ自身で、または他の好適な成分と組み合わせて、II、IIIおよびIV群の高品質基油を必要とする多くの用途のための潤滑剤を配合することが防げられる。
【0014】
特許文献4(米国特許第5,994,277号)では、クランク室潤滑剤の前記抗酸化特性を改善するための組成物が開示されている。前記組成物は、三つの基本的成分、すなわち、銅、モリブデンおよび一つ以上の油溶性芳香族アミンを含む。前記銅は、C
8〜C
18脂肪酸の塩の前記形態で添加することができる。前記モリブデンを好ましくは油溶性カルボン酸モリブデンの前記形態で添加する。前記芳香族アミンまたは芳香族アミンの混合物はアルキル化ジフェニルアミンであり得る。前記銅をオレイン酸銅として添加し、前記モリブデンを2−エチルヘキサン酸モリブデンとして添加する一例を挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】英国特許第2,056,482号明細書
【特許文献2】欧州特許第92946号明細書
【特許文献3】米国特許第1,013,538号明細書
【特許文献4】米国特許第5,994,277号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Synthetic Lubricants And High-Performance Functional Fluids, Edited by Leslie R. Rudnick and Ronald L. Shubkin, CRC Press 1999
【非特許文献2】Spikes, H.A. “Boundary Lubrication and Boundary Films.” Proc. 19th Leeds-Lyon Symposium on Tribology, Leeds, Sept. 1992; Thin Films in Tribology, ed. D Dowson et al., Elsevier 1993
【非特許文献3】the Fuels and Lubricants Handbook:Technology Properties Performance and Testing Edited by George E Totten, Steven R. Vestbrook, Rajesh Shah(2003)
【非特許文献4】Ratoi, M., Bovington, C. and Spikes, H. (2000) Mechanism of metal carboxylate friction modifier additive behaviour;International Tribology Conference,Nagasaki,JP
【非特許文献5】Kenbeek, D., Buenemann, T., and Rieffe, H., Review of Organic Friction Modifiers - Contribution to Fuel Efficiency, SAE Technical Paper 2000-01-1792,2000
【非特許文献6】Lubricant Additives:Chemistry and Applications, Second Edition, edited by Leslie R. Rudnick, CRC Press, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、前述の欠点を排除することである。
【0018】
本発明の具体的な目的は、潤滑油添加剤として、および/または潤滑油添加剤組成物において摩擦および摩耗を低減するために有用であり、また様々な濃度で様々な条件下で四種の炭化水素基油(I〜IV群)すべてにおいて改善された溶解度を有する有機金属塩組成物を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、他の好適な成分と組み合わせた有機金属塩からなる添加剤組成物であって、様々な濃度で様々な条件下で、四種の炭化水素基油(I〜IV)のすべてにおいて改善された溶解度を有する添加剤組成物を提供することである。溶解度を視覚的に評価し、前記組成物は、前記基油と完全に混和性である場合に可溶性とみなされ、貯蔵に際して分離しないか、または沈殿もしくはゲルを形成しない。
【0020】
この添加剤組成物は摩擦および燃料ならびに/またはエネルギー消費を低減する。さらに、前記潤滑油添加剤組成物は、摩耗保護の増大、油ドレイン間隔およびグリース交換間隔の延長、メンテナンスの軽減、および稼働寿命の改善を可能にする。
【0021】
本発明のさらなる目的は、機械システムの長寿命動作の保証、機械的部品の接触疲労損傷からの保護、高載荷能力の提供、機械部品の前記摩耗の低減、および前記摩擦表面の水素摩耗からの保護の提供が可能であり、選択的移動によって摩耗および損傷の前記自己回復を可能にする、II、IIIおよびIV群(PAO)のような飽和およびパラフィン系水素化分解または合成基油と配合された、船舶、自動車、工業およびあらゆる他のオフハイウェイ用途のための高性能潤滑剤およびグリースの前記開発である。これは、本発明の添加剤組成物を含む新規潤滑剤組成物で摩擦表面を保護することによって達成される。
【0022】
これらの改善は、環境上の問題なしに達成されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
発明の概要
本発明の前記目的に関して、長鎖カルボン酸はC
13〜C
22である。
【0024】
本発明の前記目的に関して、短鎖モノカルボン酸はC
6よりも短い。短鎖分岐モノカルボン酸はしたがって四または五個の炭素原子を有する。
【0025】
本発明の前記目的に関して、中鎖モノカルボン酸はC
6〜C
12である。
【0026】
本発明は、一態様において、一つの金属および少なくとも一つの長鎖モノカルボン酸(脂肪酸としても知られる)であって、2〜20重量%の範囲内の量の少なくとも一つの短もしくは中分岐鎖モノカルボン酸と組み合わせたものから誘導される有機金属塩組成物を提供して、I、II、IIIまたはIV群の炭化水素油中で改善された溶解度を有する有機金属塩組成物を製造する。前記溶解度は全ての前記炭化水素油群中で0.1重量%を超え、好ましくは0.5重量%を超える。
【0027】
別の態様において、本発明は、一つの金属および少なくとも一つの長鎖モノカルボン酸(脂肪酸としても知られる)であって、2〜20重量%の範囲内の量の少なくとも一つの短もしくは中分岐鎖モノカルボン酸と組み合わせたものから誘導される有機金属塩組成物を調製して、I、II、IIIまたはIV群の炭化水素油中で改善された溶解度を有する有機金属塩組成物を製造する方法を提供する。前記溶解度は、全ての前記炭化水素油基中で0.1重量%を超え、好ましくは0.5重量%を超える。
【0028】
さらに別の態様において、本発明は、一つの金属および少なくとも一つの長鎖モノカルボン酸であって、2〜20重量%の前記範囲内の量の少なくとも一つの短もしくは中分岐鎖モノカルボン酸と組み合わせたものから誘導される有機金属塩組成物を含む潤滑油添加剤組成物を提供し、前記潤滑油添加剤組成物は、周囲温度条件下で安定な液体であり、凝固、分離、ゲル形成または沈殿発生の傾向が低い。
【0029】
前記潤滑油添加剤組成物は、他の好適な成分と配合することができ、摩擦の低減および前記燃料および/またはエネルギー消費の低減ならびに排出削減に至る。好ましくは、本発明による前記潤滑油添加剤組成物は、多量のリンまたは硫黄系化合物を含まない潤滑剤の前記開発を可能にする。さらに、前記潤滑油添加剤組成物は、摩耗保護の増大、油ドレイン間隔およびグリース交換間隔の延長、およびメンテナンスの軽減ならびに稼働寿命の延長を可能にする。
【0030】
本発明による前記潤滑油添加剤組成物の際立った特性は、実際の機械操作条件下で優れた摩耗保護を提供するために設計されていることである。標準的実験室ベンチ、リグおよびエンジン試験を用いて開発され評価された多くの先行技術の抗摩耗剤には問題がある。そのような試験における前記摩耗率は1〜10マイクロメートル/時の範囲内である。これは、迅速に結果を示す試験を提供するために行われる。しかしながら、作動中の装置の実際の摩耗率は、1〜10ナノメートル/時の範囲内である。これは数段低い。その結果、これら工業的試験の多くは実際の機械動作条件を表すものではない。またその結果、前記先行技術の抗摩耗剤は、標準的試験で非常に良好な結果を出していても、必ずしも前記現場で有効な摩耗保護をもたらすとは限らない。
【0031】
実際の現場動作条件を表すものではない前記標準検査では非現実的に高い摩耗率で異なる非定型の摩耗メカニズムが起こる。正常な条件で作動することが知られている他の重要な抗摩耗メカニズムは高摩耗率では起こらない。例えば、第三体形成は起こり得ない。前記第三体は直ちに破壊され、確立されるようになることはできない。しかしながら、第三体形成は前記本発明を含む多くの新世代高性能抗摩耗剤で重要な機能である。高摩耗率では表面付近の相互混合も起こり得ない。
【0032】
正常な摩耗率での前記潤滑環境は、混合潤滑下で抗摩耗剤と前記金属表面との間で重大な相互作用が起こることを可能にする。これは、ドイツのフラウンホーファー研究機構で行われた研究で実証されている。前記研究は、前記本発明によって提供される前記優れた摩耗保護も確認している。前記改善された性能は、特に第三体形成および金属機械部品の前記表面付近への添加剤の相互混合に起因することが判明している。これは、他の先行技術と比べて本発明における前記技術の前記有効性および優位性を実証するものである。
【0033】
発明の詳細な説明
本発明において有用な長鎖モノカルボン酸と短もしくは中分岐鎖モノカルボン酸から誘導される前記有機金属塩組成物は、それらの一般化された調製経路およびそれらの構造の特定の共通した態様の両方によって特徴づけることができる。
【0034】
本発明における前記有機金属塩の前記調製における前記第一ステップは、概して、金属炭酸塩、例えば炭酸銅と少なくとも一つの長鎖モノカルボン酸、例えばオレイン酸との前記反応を含む。前記カルボン酸と前記炭酸塩反応物質の前記金属との前記モル比が1:1〜20:1の範囲であり得るように広範囲の前記カルボン酸の前記割合を用いることができる。
【0035】
本発明で使用する前記中間有機金属塩は、さらに詳細には、C
13〜C
22の前記範囲内のモノカルボン酸と前記選択された金属炭酸塩との前記反応から誘導することができる。前記酸の例としては、飽和モノカルボン酸、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸が挙げられる。好ましくは、リノレン酸、リノール酸およびオレイン酸などの不飽和酸を使用すべきである。飽和および不飽和分岐モノカルボン酸、例えばイソステアリン酸も使用することができる。任意に、ナフテン酸または合成カルボン酸を使用することができる。
【0036】
前記金属炭酸塩は、銀、金、パラジウム、銅、コバルト、鉛、スズ、ビスマス、モリブデン、チタン、タングステンおよびニッケルのうちの一つを金属元素として含む。さらに好ましくは、前記金属炭酸塩は銅またはコバルトを含み、最も好ましくは銅を含む。
【0037】
第二ステップにおいて、一つ以上の長鎖モノカルボン酸から誘導される有機金属塩、例えばオレイン酸銅を、少なくとも一つの短もしくは中分岐鎖モノカルボン酸、例えば2−エチルヘキサン酸と反応させることによって前記有機金属塩組成物を調製する。まず、前記カルボン酸塩を液体形態になるまで約60℃に加熱する。前記短もしくは中分岐鎖モノカルボン酸を激しく混合しながら添加する。広範囲の前記割合の前記短もしくは中分岐鎖モノカルボン酸を用いて、前記有機金属塩と前記短もしくは中分岐鎖モノカルボン酸の前記重量比が2:1〜50:1の範囲になり得るようにすることができる。5:1〜20:1の前記範囲内の比が好ましく、10:1〜20:1の前記範囲が最も好ましい。
【0038】
飽和短または中分岐鎖モノカルボン酸が本発明において好ましい。それらは少なくとも一つの分岐アルキル基と、4〜11個の炭素原子(C
4〜C
11)、好ましくは6〜10個の炭素原子(C
6〜C
10)、最も好ましくは8個の炭素原子(C
8)を含まなければならない。例としては、2−エチルヘキサン酸、2−メチル酪酸、2−エチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、5−メチルヘキサン酸、4−メチルオクタン酸、4−メチルノナン酸、さらに好ましくは2−エチル−酪酸および2−エチルヘキサン酸、最も好ましくは2−エチルヘキサン酸が挙げられる。
【0039】
好ましくは、前記潤滑油添加剤は、初期混合の後かつ少なくとも一週間、前記炭化水素基油中に可溶性である。本明細書中で溶解度試験のために使用する温度は室温を含み、室温は本明細書に関しては18〜24℃である。
【0040】
潤滑油添加剤として用いられる通常の有機金属塩は典型的にはII、IIIまたはIV群炭化水素油中にあまり可溶性ではない。これは、以前には低い性能の従来型添加剤しか配備することができなかった多くの用途で本発明の前記優れた添加剤および潤滑剤を使用できることを意味する。
【0041】
驚くべきことにそして意外にも、本発明の前記プロセスによって得られる前記有機金属塩組成物、例えば2−エチルヘキサン酸と反応したオレイン酸銅は、有機金属塩の短または中分岐鎖モノカルボン酸に対する前記重量比が5:1〜50:1の前記範囲内にある場合に、室温で液体であることが判明した。例えば、オレイン酸銅および2−エチルヘキサン酸銅の前記個々の化合物はどちらも室温で固体であるので、このことは特に驚くべきことである。本発明による前記有機金属塩組成物を含む前記添加剤は改善された取り扱い特性を有する。
【0042】
重要なことには、本発明による前記有機金属塩組成物は他の好適な成分と配合して、I、II、IIIまたはIV群炭化水素油中で改善された溶解度を有する潤滑油添加剤組成物を得ることができることが判明し、これはまた、摩擦の低減および燃料および/またはエネルギー消費の低下ならびに排出削減も提供する。本発明による前記潤滑油添加剤組成物は、多量のリンまたは硫黄系化合物を含まない潤滑剤の前記開発を可能にする。さらに、前記潤滑油添加剤組成物は、摩耗保護の増大、油ドレイン間隔およびグリース交換間隔の延長、およびメンテナンスの軽減ならびに稼働寿命の延長を可能にする。
【0043】
本発明の前記有機金属塩組成物は、第一金属成分および第二金属成分を含む活性複合体と組み合わせることができる。粒子、好ましくはナノ粒子を形成して、潤滑油添加剤組成物を提供し、前記粒子は金属形態の前記第一金属成分を含む。前記第二金属成分は前記第一金属成分中の前記金属元素を還元することができる。前記第二金属成分は前記第一金属成分中の前記金属元素の前記酸化還元電位に影響を及ぼすことができなければならない。前記活性複合体はリガンドとして機能する成分を含まなければならない。前記リガンドは界面活性剤または分散剤のいずれかであり得、例は、スクシンイミド、ポリエトキシル化獣脂アミドおよびジエタノールアミンである。前記活性複合体は、前記第一金属成分および任意に前記第二金属成分を含む粒子を含まなければならない。前記活性複合体は、前記第一金属成分中の前記金属元素の酸化形態の前記溶解度を改善する少なくとも一つの化合物、例えばジエチレングリコールのエポキシ樹脂またはエポキシ化ジプロピレングリコールを含まなければならない。加えて、前記活性複合体はまた、少なくとも一つの還元剤、例えば、ジフェニルアミンまたはヘキサデシルアミンも含む。好ましくは、前記第二金属成分中の前記金属元素および前記第一金属成分中の前記金属元素の前記標準電極電位の前記差は、各金属元素の前記金属形態および前記第一安定酸化段階に基づいて少なくとも0.2Vである。好ましくは、前記第一金属成分は、金、銀、銅、パラジウム、スズ、コバルト、亜鉛、ビスマス、マンガンおよび/またはモリブデンを含み、特に好ましくは銅および/またはコバルトを含み、さらに好ましくは銅を含む。好ましくは、前記第二金属成分はスズ、ビスマス、亜鉛、および/またはモリブデン、特に好ましくはスズ、ビスマスおよび/または亜鉛、さらに好ましくはスズを含む。また好ましくは、第二金属成分を含む前記粒子は金属形態の前記第一金属成分を含む。
【0044】
前記第一および任意に前記第二金属成分を含む前記粒子は、1〜10000nmの前記範囲内、好ましくは5〜1000nmの前記範囲内、さらに好ましくは10〜500nmの前記範囲内、特に好ましくは15〜400nmの前記範囲内の直径を示す。
【0045】
好ましくは、前記潤滑油添加剤組成物は、前記第一金属成分から誘導される可溶性金属化合物を含む。好ましくは、この潤滑油添加剤組成物は金属メッキを形成できる。この潤滑油添加剤組成物は、I、II、IIIまたはIV炭化水素油中で0.1重量%超、好ましくはすべての前記炭化水素油群において0.5重量%超の溶解度を有する。
【0046】
前記活性複合体の前記製造において、一つ以上のアルコールは有利には還元剤、溶媒および/または共溶媒として用いられる。好ましくは、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基でアルキル化されたグリコール、例えばジエチレングリコールなどのエーテル基を含むアルコールを使用することができる。さらに、1〜20個の炭素原子、好ましくは4〜12個の炭素原子を有するアルコール、例えばオクタノールが存在するのが有利である。
【0047】
好ましくは、前記有機金属塩組成物の前記活性複合体に対する前記重量比は10000:1〜1:1の前記範囲内である。
【0048】
前記関連活性複合体およびそれらの本発明による有機金属塩組成物との組み合わせの前記調製を下記実施例12でさらに説明する。前記活性複合体を得るためのプロセスは、参照することにより本明細書中で援用する国際出願PCT/EP2015/060811号明細書でさらに詳細に開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0049】
実施例
〔実施例1:本発明による修飾された有機金属塩の調製〕
本発明の前記修飾有機金属塩は、金属塩、好ましくは金属炭酸塩であって、前記金属が銅である金属塩を、脂肪酸と、好ましくはオレイン酸と反応させて、前記金属カルボン酸塩の前記金属含有量が8〜9重量%の前記範囲内の前記最終塩の金属濃度を提供するようにし、その後、分岐短または中鎖モノカルボン酸を前記金属カルボン酸塩に添加することによって調製することができる。前記炭酸銅および前記オレイン酸を無酸素環境中で16時間150℃にて反応させる。前記反応後、2−エチルヘキサン酸を前記オレイン酸銅に前記混合物の前記総質量の7.5%の割合で添加する。この結果、室温で液体であり、10℃の融点を有する銅系有機金属塩組成物が得られ、その一方で、前記分岐短または中鎖モノカルボン酸を含まない8〜9%の前記範囲内の金属含有量を有するオレイン酸銅は55℃の融点を有する。前記融解温度を視覚的に測定した。前記金属含有量をMP−AESでの分析によって検証した。
【0050】
〔実施例2:融点が添加した短鎖分岐有機酸の前記量によってどのように影響を受けるか〕
2−エチルヘキサン酸を前記修飾有機金属塩の前記総質量の11.25%の量で、8〜9%の前記範囲内の金属含有量を有するオレイン酸銅に添加することによって本発明にしたがって修飾有機金属塩を調製した。11.25%の2−エチルヘキサン酸の前記添加によって前記修飾有機金属塩の前記融解温度が4℃まで低下し、その一方で、7.5%の2−エチルヘキサン酸を含有する実施例1の修飾有機金属塩は10℃の融点を有し、オレイン酸銅のみからなる有機金属塩は55℃の融点を有する。前記融解温度を視覚的に測定した。
【0051】
〔実施例3:融点が添加された短鎖分岐有機酸の前記量によってどのように影響を受けるか〕
前記修飾有機金属塩の前記総質量の15%の量で2−エチルヘキサン酸を、8〜9%の前記範囲内の金属含有量を有するオレイン酸銅に添加することによって、修飾有機金属塩を本発明にしたがって調製した。15%の2−エチルヘキサン酸の前記添加によって、前記修飾有機金属塩の前記融解温度が低下して0℃より低くなり、一方、11.25%の2−エチルヘキサン酸を含む実施例2の修飾有機金属塩は4℃の融点を有し、7.5%の2−エチルヘキサン酸を含む実施例1の修飾有機金属塩は10℃の融点を有し、オレイン酸銅のみからなる有機金属塩は55℃の融点を有する。前記融解温度を視覚的に測定した。
【0052】
〔実施例4:融点が分岐短または中鎖モノカルボン酸の前記金属カルボン酸塩および前記量の金属含有量によりどのように影響を受けるか〕
分岐短または中鎖モノカルボン酸の前記金属含有量および前記含有量がどのように前記修飾有機金属塩の前記融解温度に影響を及ぼすかを判定するために、2〜9%の前記範囲内の金属含有量および1〜10%の前記範囲内の2−エチルヘキサン酸を有するオレイン酸銅を含有する本発明による修飾有機金属塩を調製した。前記融解温度を視覚的に測定し、表1に記載する。前記金属含有量をMP−AESでの分析によって検証した。
【0054】
〔実施例5:本発明による他の有機金属塩の調製〕
金属カルボン酸塩は、金属炭酸塩をオレイン酸と真空下、150℃で16時間反応させることによって調製した。使用した前記金属炭酸塩は次炭酸ビスマスおよび炭酸コバルトであった。前記金属オレイン酸塩の重量基準の前記金属含有量は5〜10%であった。前記有機金属塩の前記融解温度が0℃以下に達するまで、2−エチルヘキサン酸を前記有機金属塩の総質量の5%、10%および15%で添加した。前記融解温度を表2に記載する。
【0056】
〔実施例6:II群基油中の本発明の前記有機金属塩組成物の溶解度〕
実施例1、2および3で調製した本発明の銅系修飾有機金属塩をII群基油に0.3〜3.0%の前記範囲の濃度でブレンドした。14週間前記サンプルを追跡することによって溶解度を視覚的に測定した。前記結果を表3で提示する。前記修飾有機金属塩は、前記サンプルの相分離または不透明性が観察されない場合は可溶性とみなした。
【0058】
II群基油中のオレイン酸銅の前記溶解度は0.3%より低い。本発明によると、2−エチルヘキサン酸のオレイン酸銅への前記添加の結果、前記ベースストック中の溶解度が改善された有機金属塩組成物を得る。
【0059】
〔実施例7:III群基油中の本発明の溶解度〕
実施例1、2および3で調製した本発明の銅系修飾有機金属塩をIII群基油に0.3%〜3%の前記範囲の濃度でブレンドした。前記サンプルを12週間追跡することによって溶解度を視覚的に測定した。前記結果を表4に提示する。前記修飾有機金属塩は、前記サンプルの相分離または不透明性が観察されない場合は可溶性であるとみなした。
【0061】
オレイン酸銅はIII群基油中に不溶性である。本発明によると、2−エチルヘキサン酸のオレイン酸銅への前記添加の結果、前記ベースストック中の溶解度が改善された修飾有機金属塩が得られる。
【0062】
〔実施例8:IV群基油中の本発明の溶解度〕
実施例1、2および3で調製した本発明の銅系修飾有機金属塩をII群基油中に0.3〜3.0%の前記範囲内の濃度でブレンドした。前記サンプルを14週間追跡することによって溶解度を視覚的に測定した。前記結果を表5に提示する。前記修飾有機金属塩は、前記サンプルの相分離または不透明性が観察されない場合は可溶性とみなした。
【0064】
オレイン酸銅はIV群基油中に不溶性である。本発明によると、2−エチルヘキサン酸のオレイン酸銅への前記添加の結果、前記ベースストック中の溶解度が改善された修飾有機金属塩が得られる。
【0065】
〔実施例9:分岐長鎖モノカルボン酸をオレイン酸銅に添加することによる有機金属塩組成物の調製〕
周囲温度よりも低い融解温度を有する分岐長鎖カルボン酸を含む修飾有機金属塩が得られる前記可能性を調査するために、前記修飾有機金属塩の前記総質量の1〜7%、10%および15%の量でイソステアリン酸を、8〜9%の前記範囲内の金属含有量を有するオレイン酸銅に添加することによって、修飾有機金属塩を調製した。前記イソステアリン酸を激しく混合しながら60℃に加熱したオレイン酸銅に添加した。前記サンプルを15分間撹拌して確実に均一にした。前記サンプルは、前記サンプルの前記温度が周囲温度に達すると凝固した。
【0066】
〔実施例10:前記有機金属塩組成物のトライボロジー効果〕
前記有機金属塩組成物の前記トライボロジー効果をボール・オン・スリー・プレートシステムでのトライボロジー試験で実証した。本発明の有機金属塩組成物は、オレイン酸銅を8重量%の2−エチルヘキサン酸と60〜70℃で激しく混合しながら混合することによって調製した。前記組成物をChevron Taro 30 DP 40に0.3%、1%および3%の濃度で添加し、15分間撹拌しながら60〜70℃に加熱した。前記均質油混合物を周囲条件で冷却させた。Anton Paar回転式レオメータを使用したトライボロジー測定によって前記サンプルを試験した。
【0067】
前記測定は、前記サンプルの平坦化および一定の測定条件を保証するためにならし運転期間で始める。これは1200rpmで30分間実施する。ならし運転後、摩擦挙動を前記「Striebeck相」で次の10分間測定する。前記測定レジメは0rpmで開始し、前記速度を前記10分間で3000rpmまで増加させる。前記垂直抗力は6Nであり、前記温度は前記測定全体にわたって100℃である。前記プレート上の前記摩耗痕を、光学顕微鏡を使用し、摩擦分析後に画像化ソフトウェアを使用して分析することによって、摩耗を測定する。
【0068】
実施例11および12において、摩擦および摩耗試験に以下のパラメータを使用する:
垂直抗力F
N 6N
温度 100℃
ならし運転期間 1200rpm、30分
Striebeck相 0〜3000rpm、10分
【0072】
前記トライボロジー測定から、本発明の前記組成物は前記摩擦および摩耗挙動に対して有利な影響を及ぼすことが明らかになった。
【0073】
〔実施例11:前記潤滑油添加剤組成物のトライボロジー効果〕
ボール・オン・スリー・プレートシステムでのトライボロジー試験において前記潤滑油添加剤組成物の前記トライボロジー効果を示すために、活性複合体を還元性付加物に添加した。本発明の組成物は、国際出願第PCT/EP2015/060811号明細書に記載されている活性複合体を実施例9で調製した前記有機金属塩組成物に2.35重量%の割合で60〜70℃での激しい混合下で添加することによって調製した。本発明の前記組成物をChevron Taro 30 DP 40に0.3%、1%および3%の濃度で添加し、撹拌下で60〜70℃に15分間加熱した。前記均質油混合物を周囲条件で冷却させた。実施例9で記載した前記条件にしたがってAnton Paar回転式レオメータを使用したトライボロジー測定により前記サンプルを試験した。前記結果を表8および表9に提示する。
【0076】
前記トライボロジー測定から、本発明の前記組成物が前記摩擦および摩耗挙動に対して有利な影響を及ぼすことは明らかになる。
【0077】
〔実施例12:活性複合体と前記発明による有機金属塩組成物との組み合わせの調製〕
a)銅に基づく有機金属塩組成物
前記活性複合体の前記調製は3工程プロセスを含む。
【0078】
前記第一ステップは塩化銅(II)溶液の調製である。ジエチレングリコール(約3.5kg)を、スターラーおよび加熱能力を備えたガラス内張容器に入れた。これを約40℃に加熱し、塩化銅(0.357kg)を撹拌しながらゆっくりと添加して、確実に前記物質を全体として溶解させた。C−5Aスクシンイミド(2.1kg)を次いで撹拌するが加熱しないでゆっくりと添加した。ジフェニルアミン(1.72kg)を次に少量ずつ添加し、前記混合物を撹拌して確実に均一にした。最後に、DEG−1エポキシ樹脂(1.86kg)を添加し、充分に撹拌した。
【0079】
前記第二ステップは塩化スズ(IV)溶液の調製である。スターラーおよび加熱能力を備えた別のガラス内張容器中で、塩化スズ(IV)五水和物(4.2kg)を、前記混合物を約40℃で撹拌することによって、オクタノール(約9.8kg)中に溶解させた。
【0080】
前記第三ステップは前記活性複合体の作製である。スターラーおよび冷却能力を備えた別のガラス内張容器中で、前記で調製した前記塩化スズ(IV)溶液を、これもまた前記で調製した前記塩化銅(II)溶液に撹拌しながら添加した。前記塩化スズ(IV)溶液を少量ずつ添加し、前記温度は50℃より低く維持されなければならない。前記添加が完了した後、前記混合物をさらなる期間撹拌して、確実に均質にした。
【0081】
前記活性化複合体(3グラム)を、スターラーおよび加熱能力を備えたガラス内張容器中で、実施例1にしたがって調製した銅系有機金属塩組成物(125グラム)の溶液に添加した。前記混合物の前記温度を約60℃で維持し、さらなる期間撹拌して、確実に均一にする。
【0082】
b)コバルトに基づく有機金属塩組成物
本発明による修飾された有機金属塩は、炭酸コバルトをオレイン酸と反応させて、前記金属カルボン酸塩の前記金属含有量が8〜9重量%の前記範囲内の前記最終塩の金属濃度となるようにし、その後、2−エチルヘキサン酸を前記金属カルボン酸塩に添加することによって調製する。炭酸コバルト六水和物およびオレイン酸を無酸素環境中で16時間、150℃にて反応させる。前記反応後、2−エチルヘキサン酸を前記混合物の前記総質量の10%の割合で前記オレイン酸コバルトに添加する。この結果、室温で液体であり、15℃の融点を有するコバルト系有機金属塩組成物を得る。前記融点を視覚的に測定した。前記金属含有量をMP−AESでの分析によって検証した。
【0083】
前記活性複合体の調製を上記のように実施する。
【0084】
上記で作製した前記活性複合体(3グラム)を、スターラーおよび加熱能力を備えたガラス内張容器中の前記コバルト系有機金属塩組成物(125グラム)に添加する。前記混合物の前記温度を約60℃で維持し、そしてさらなる期間撹拌して確実に均一にする。