特許第6806828号(P6806828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806828
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】連結力を低減した計時器伝動機構
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/02 20060101AFI20201221BHJP
   G04B 13/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   G04B19/02 A
   G04B13/00
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-45588(P2019-45588)
(22)【出願日】2019年3月13日
(65)【公開番号】特開2019-174457(P2019-174457A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2019年3月13日
(31)【優先権主張番号】18163966.7
(32)【優先日】2018年3月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504341564
【氏名又は名称】モントレー ブレゲ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ツァウク
【審査官】 榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 スイス国特許発明第216001(CH,A5)
【文献】 特開2016−109680(JP,A)
【文献】 特表2014−525574(JP,A)
【文献】 特表2008−534942(JP,A)
【文献】 特表2006−502385(JP,A)
【文献】 特開2013−142701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 13/00
G04B 13/02
G04B 19/02
G04C 3/00
G04C 3/14
G04F 7/00 − 13/06
G04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自由に回転するように搭載された少なくとも1つの遊星歯車セット(3)と、差動機構(10)の入力または出力を形成する少なくとも3つの主歯車セットとを含む少なくとも1つの前記差動機構(10)を含む、計時器ムーブメント(500)と一体化して配列された計時器伝動機構(100)であって、前記3つの主歯車セットは、フレーム(60)、第1の列と協働するように配列された第1の歯車セット(1)、および第2の列と協働するように配列された第2の歯車セット(2)により形成され、前記3つの主歯車セットのうち1つだけは、直接、またはその他の2つの主歯車セットの一方と永続的にかみ合う、もしくは前記その他の2つの主歯車セットの一方と一体に回転する、少なくとも1つの中間歯車セット(8)を通して、前記その他の2つの主歯車セットと永続的にかみ合う少なくとも1つの前記遊星歯車セット(3)を支え、前記差動機構(10)は、前記第1の歯車セット(1)および前記第2の歯車セット(2)を連結位置に運動学的に接続し、かつ前記第1の歯車セット(1)および前記第2の歯車セット(2)を分離位置に運動学的に分離することができ、前記伝動機構(10)は、前記計時器ムーブメント(500)に備わったアクチュエータと協働するように、および/またはユーザが動作させるように配列された、前記伝動機構(100)に備わった選択器(30)により制御手段(20)に与えられた位置に応じて、前記差動機構(10)を連結するために前記3つの主歯車セットのうち1つだけをロックするように配列された、または前記差動機構(10)を分離するために前記フレーム(60)、前記第1の歯車セット(1)、および前記第2の歯車セット(2)を完全に解放するように配列された、前記制御手段(20)をさらに備え、前記制御手段(20)は、ロックする歯車セットに係合トルクまたは摩擦トルクを加えるように配列された弾性戻し手段(40)により、前記差動機構(10)が前記連結位置にロックされる前記3つの主歯車セットのいずれでもよい前記ロックする歯車セットに戻り、前記係合トルクまたは前記摩擦トルクは、前記ロックする歯車セットとは別個の前記その他の主歯車セットの一方から他方へ伝達されるトルクが、前記係合トルクまたは前記摩擦トルクよりも高いとき、安全分離機能を可能にするように較正される計時器伝動機構(100)であって、前記ロックする歯車セットは、1つの回転方向で安全な分離機能を可能にするために、ウルフティース(wolf teeth)を伴う外部歯部を含むことを特徴とする計時器伝動機構(100)。
【請求項2】
前記選択器(30)は、前記選択器(30)の角度位置に従って、前記制御手段(20)に備わったレバー(21)の角度位置を修正するように配列された少なくとも1つの列歯車(31)を含み、前記レバー(21)は、前記レバー(21)の位置に応じて、前記ロックする歯車セットに備わった周囲の歯部を動けなくする、または解放するように配列された第1のビーク(22)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の伝動機構(100)。
【請求項3】
前記計時器ムーブメント(500)に備わったアクチュエータにより、および/またはユーザにより、動作させられるように配列され、かつ連結位置または分離位置に前記制御手段(20)をロックするように配列された、機械式ロック手段(50)をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の伝動機構(100)。
【請求項4】
前記フレーム(60)、前記第1の歯車セット(1)、および前記第2の歯車セット(2)は、同じ差動方向に平行な軸を中心に枢動するように配列されることを特徴とする、請求項1に記載の伝動機構(100)。
【請求項5】
各前記遊星歯車セット(3)は、前記差動方向に平行な軸を中心に枢動するように配列されることを特徴とする、請求項4に記載の伝動機構(100)。
【請求項6】
各前記遊星歯車セット(3)は、前記差動方向に垂直な軸を中心に枢動するように配列されることを特徴とする、請求項4に記載の伝動機構(100)。
【請求項7】
各前記遊星歯車セット(3)は、前記差動方向に対して垂直ではない、傾いた軸を中心に枢動するように配列されることを特徴とする、請求項4に記載の伝動機構(100)。
【請求項8】
前記ロックする歯車セットは、前記フレーム(60)であることを特徴とする、請求項1に記載の伝動機構(100)。
【請求項9】
前記フレーム(60)は、丸穴車(6)であることを特徴とする、請求項1に記載の伝動機構(100)。
【請求項10】
前記少なくとも1つの遊星歯車セット(3)は、前記第1の歯車セット(1)または前記第2の歯車セット(2)により支えられ、前記第2の歯車セット(2)と、または対応する前記第1の歯車セット(1)と、少なくとも一体に回転する心軸(5)の歯部(4)と永続的にかみ合い、前記丸穴車(6)と永続的にかみ合うことを特徴とする、請求項9に記載の伝動機構(100)。
【請求項11】
前記差動機構(10)は、少なくとも1つの外転サイクロイド列を含み、前記第1の歯車セット(1)は、遊星キャリアを形成し、前記第2の歯車セット(2)は、内部遊星歯車を形成し、前記丸穴車(6)は、外部遊星歯車を形成し、前記第2の歯車セット(2)および前記第1の歯車セット(1)に同軸であり、各前記遊星歯車(3)は、前記第1の歯車セット(1)と前記第2の歯車セット(2)の間に、または前記第1の歯車セット(1)と前記伝動機構(100)に備わったフレーム(7)との間に制限されることを特徴とする、請求項10に記載の伝動機構(100)。
【請求項12】
前記フレーム(7)は、前記第2の歯車セット(2)と一体化していることを特徴とする、請求項11に記載の伝動機構(100)。
【請求項13】
前記差動機構(10)は、追加の外転サイクロイド列を伴う二重連結システムを含み、そこでは、第3の歯車セット(91)は、遊星キャリアを形成し、前記第2の歯車セット(2)は、内部遊星歯車を形成し、丸穴車(96)は、外部遊星歯車を形成し、前記第2の歯車セット(2)および前記第3の歯車セット(91)に同軸であり、各二次遊星歯車(93)は、前記第3の歯車セット(91)と前記フレーム(7)の間に制限されること、ならびに前記制御手段(20)は、前記レバー(21)を含み、前記レバー(21)は、前記ロックする歯車セットに備わった周囲の歯部を前記レバー(21)の位置に応じて動けなくする、または解放するように配列された第1のビーク(22)を含み、かつ前記レバー(21)の遠位端部に第2のビーク(28)を含む前記第2のアーム(29)を含むことを特徴とする、請求項11に記載の伝動機構(100)。
【請求項14】
各前記外転サイクロイド列は、ギア駆動機構だけを含むことを特徴とする、請求項11に記載の伝動機構(100)。
【請求項15】
少なくとも1つの前記外転サイクロイド列は、少なくとも1つの摩擦駆動機構を含むことを特徴とする、請求項11に記載の伝動機構(100)。
【請求項16】
前記差動機構(10)は、外転サイクロイド列を有する少なくとも1つの連結機構を含むことを特徴とする、請求項1に記載の伝動機構(100)。
【請求項17】
前記伝動機構(100)は、球形差動機構(10)を伴い、かつフレームロッキングを伴う単一連結システムを含み、前記フレームロッキングは、前記第1の歯車セット(1)と前記第2の歯車セット(2)の間に制限された前記フレーム(60)を含み、前記3つの主歯車セットの枢動軸に平行な差動方向に垂直な軸を有する各前記遊星歯車セット(3)が自由に回転するのを誘導するためのハブ(61)を支え、各前記遊星歯車セット(3)は、前記第1の歯車セット(1)および前記第2の歯車セット(2)と永続的にかみ合うことを特徴とする、請求項1に記載の伝動機構(100)。
【請求項18】
前記伝動機構(100)は、2つの太陽歯車を有する差動機構(10)を伴い、かつフレームロッキングを伴う単一連結システムを含み、前記フレームロッキングは、前記第1の歯車セット(1)と前記第2の歯車セット(2)の間に制限された前記フレーム(60)を含み、前記3つの主歯車セットの枢動軸に平行な差動方向に平行な軸を有する各前記遊星歯車セット(3)が自由に回転するのを誘導するためのハブ(61)を支え、各前記遊星歯車セット(3)は、前記その他の2つの主歯車セットの一方と永続的にかみ合う、または前記その他の2つの主歯車セットの一方と一体に回転する、前記中間歯車セット(8)と永続的にかみ合うことを特徴とする、請求項1に記載の伝動機構(100)。
【請求項19】
計時器ムーブメント(500)であって、請求項1に記載の少なくとも1つの伝動機構(100)を含む計時器ムーブメント(500)。
【請求項20】
計時器(1000)であって、請求項19に記載の少なくとも1つのムーブメント(500)を含む、および/または請求項1に記載の少なくとも1つの伝達機構(100)を含む計時器(1000)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの差動機構を含む、計時器ムーブメントに一体化されるように配列された計時器伝動機構であって、前記少なくとも1つの差動機構は、自由に回転するように搭載された少なくとも1つの遊星歯車と、前記差動機構の入力および出力を形成する少なくとも3つの主歯車セットとを含み、3つの主歯車セットは、フレーム、第1の列と協働するように配列された第1の歯車セット、および第2の列と協働するように配列された第2の歯車セットにより形成され、前記3つの主歯車セットの1つだけは、直接、またはその他の2つの主歯車セットの一方と永続的にかみ合う、もしくは前記その他の2つの主歯車セットの一方と一体に回転する、少なくとも1つの中間歯車セットを通して、前記その他の2つの主歯車セットと永続的にかみ合う少なくとも1つの前記遊星歯車を支え、前記差動機構は、前記第1の歯車セットおよび前記第2の歯車セットを連結位置に運動学的に接続し、かつ前記第1の歯車セットおよび前記第2の歯車セットを分離位置に運動学的に分離することができる計時器伝動機構に関する。
【0002】
本発明はまた、少なくとも1つのそのような伝動機構を含む計時器ムーブメントに関する。
【0003】
本発明はまた、少なくとも1つのそのようなムーブメントを含む、および/または少なくとも1つのそのような伝動機構を含む計時器、詳細にはウオッチに関する。
【0004】
本発明はまた、少なくとも1つのそのような伝動機構を含む計時器ムーブメントに関する。
【0005】
本発明は、機械式計時器機構の分野に関する。
【背景技術】
【0006】
時計製作技術では多くの場合、連結機能を使用してきた。
【0007】
巻きおよび時間設定の機構では、たとえば、スライドピニオンは、りゅうずが位置T1(巻き)から位置T2(時間設定)へ動くときにこの連結および分離の機能を、りゅうずが位置T2から位置T1へ戻るときに分離および連結の機能を、同様に遂行する。この特定の事例では、巻き機構は時間設定機構を連結するときに分離され、かつ時間設定機構は巻き機構を連結するときに分離されるので、二重連結が存在する。
【0008】
クロノグラフ機構では、開始/停止の機能は、連結(開始)および分離(停止)の機構により遂行される。クロノグラフ連結は、2つの歯車の歯部が一緒に/離れて動く係合/離脱によって、半径方向であってもよい。クロノグラフ連結はまた、同軸に枢動する2つの歯車がばねにより接触した状態で保持される、またはフォークシステムにより離して保持されるとき、軸方向であっても、垂直であってもよい。
【0009】
これらの複雑な機構は、高トルクを伝達することができない、費用がかかり壊れやすい構成要素を組み込む。
【0010】
さらに、これらの公知の連結機構は、連結を動作させるためにかなりの力を必要とし、これは、いくつかの構成要素が不必要に大きい寸法を有することを意味する。
【0011】
AUDESMARS PIGUETの名義の欧州特許出願公開第3021175(A1)号明細書は、計時器のための、特にクロノグラフウオッチのための、外転サイクロイド列を伴うラトラパンテ(rattrapante)またはスプリットセコンド機器を開示しており、機器は、スプリットセコンド針を支え、かつ計時器の回転軸を中心に自由に回転するように搭載された、スプリット・セコンド・ピニオンを備える。機器は、計時器のエネルギー源に運動学的に接続することができる入力歯車と、少なくとも1つの遊星歯車により入力歯車に運動学的に接続され、かつスプリット・セコンド・ピニオンとかみ合う第1の出力歯車と、前記少なくとも1つの遊星歯車により入力歯車に運動学的に接続された第2の出力歯車と、第1の出力歯車または第2の出力歯車をロックするための制御レバーとを備える差動歯車とを備える差動装置を含み、その結果、第2の出力歯車が計時器のエネルギー源に運動学的に接続されたとき、制御レバーにより解放される第1の出力歯車および第2の出力歯車のうちどちらでも入力歯車により駆動可能であり、したがって、スプリットセコンド針をロックする、またはそれに対応して解放することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3021175(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、連結および分離の機能を遂行するように動く構成要素の数を制限する、前述の機構の代替解決手段を提供することを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために、本発明は、請求項1に記載の計時器伝動機構に関する。
【0015】
本発明はまた、少なくとも1つのそのような伝動機構を含む計時器ムーブメントに関する。
【0016】
本発明はまた、少なくとも1つのそのようなムーブメントを含む、および/または少なくとも1つのそのような伝動機構を含む計時器、詳細にはウオッチに関する。
【0017】
本発明の他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下の詳細な記述を読むと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による単一連結機構の概略の平面図を示す。
図2】主要な接触点を通る図1の機構の概略の横断面図を表す。
図3】本発明による二重連結機構の概略の平面図を表す。
図4】上部については図4のAAに沿った図を、下部については図4のBBに沿った図を表す図3の機構の主要な接触点を通る概略の横断面図を表す。
図5】そのような伝動機構を含み、かつ別のそのような伝動機構をさらに含むムーブメント500を含む計時器、とりわけウオッチを表す構成図である。
図6】球形差動歯車およびフレームロッキングを伴う単一連結機構の、主要な接触点を通る概略の横断面図を表す。
図7】2つの太陽歯車およびフレームロッキングを伴う差動歯車を伴う単一連結機構の主要な接触点を通る概略の横断面図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、計時器ムーブメント500と一体化するように配列され、かつ少なくとも1つの差動機構10を含む、計時器伝動機構100に関する。
【0020】
この差動機構10は、自由に回転するように搭載された少なくとも1つの遊星歯車3と、差動機構10の入力または出力を形成する少なくとも3つの主歯車セットとを含む。これらの3つの主歯車セットは、フレーム60、第1の列と協働するように配列された第1の歯車セット1、および第2の列と協働するように配列された第2の歯車セット2により形成される。これらの3つの主歯車セットのうち1つだけは、直接、またはその他の2つの主歯車セットの一方と永続的にかみ合う、もしくはその他の2つの主歯車セットの一方と一体に回転する、少なくとも1つの中間歯車セット8を通して、その他の2つの主歯車セットと永続的にかみ合う少なくとも1つのそのような遊星歯車3を支える。
【0021】
この差動機構10は、第1の歯車セット1および第2の歯車セット2を連結位置に運動学的に接続し、かつ第1の歯車セット1および第2の歯車セット2を分離位置に運動学的に分離することができる。
【0022】
本発明によれば、伝動機構100はまた、制御手段20を含み、制御手段20は、差動機構10を連結するために、これらの3つの主歯車セットのうち1つだけをロックするように配列される、または伝動機構100に備わり、かつ計時器ムーブメント500に備わったアクチュエータと協働するように、および/またはユーザにより動作させられるように、もしくはそのようなアクチュエータと協働するだけではなくユーザにより動作させられるように配列された選択器30により制御手段20に与えられる位置に応じて差動機構10を分離するために、フレーム60、第1の歯車セット1、および第2の歯車セット2を完全に解放するように配列される。
【0023】
より詳細には、これらの制御手段20は、ロックする歯車セットに戻る。このロックする歯車セットは、このロックする歯車セットに係合トルクまたは摩擦トルクを加えるように配列された弾性戻し手段40により差動機構10が連結位置でロックされる3つの主歯車セットのいずれであってもよく、係合トルクまたは摩擦トルクは、このロックする歯車セットを形成しないその他の主歯車セットの一方から他方へ伝達されるトルクが係合トルクまたは摩擦トルクよりも高いとき、安全分離機能を可能にするように較正される。
【0024】
図に示す限定しない実施形態では、この選択器30は、選択器30の角度位置に従って、制御手段20に備わったレバー21の角度位置を修正するように配列された少なくとも1つの列歯車31を含む。このレバー21は、レバー21の位置に応じて、ロックする歯車セットに備わった周囲の歯部を動けなくする、または解放するように配列された第1のビーク22を含む。
【0025】
有利には、ロックする歯車セットは、1つの回転方向で安全な分離機能を可能にするために、ウルフティース(wolf teeth)を伴う外部歯部を含む。
【0026】
詳細には、伝動機構100は、計時器ムーブメント500に備わったアクチュエータにより、および/またはユーザにより、動作させられるように配列され、かつ連結位置もしくは分離位置でこれらの制御手段20をロックするように配列された、機械式ロック手段50をさらに含む。
【0027】
特定の限定しない一実施形態では、フレーム60、第1の歯車セット1、および第2の歯車セット2は、同じ差動方向に平行な軸を中心に枢動するように配列される。
【0028】
一変形形態では、各遊星歯車セット3は、この差動方向に平行な軸を中心に枢動するように配列される。
【0029】
別の変形形態では、各遊星歯車セット3は、差動方向に垂直な軸を中心に枢動するように配列される。
【0030】
さらに別の変形形態では、各遊星歯車セット3は、差動方向に対して垂直ではない、傾いた軸を中心に枢動するように配列される。
【0031】
特定の限定しない一実施形態では、この遊星歯車セット3は、遊星ピニオンである。図7の特定の事例では、遊星歯車セットは、ピニオンおよび歯車から構成される。
【0032】
特定の事例では、詳細には図6および図7に示す実施形態では、差動機構10が連結位置にロックされる前記3つの主歯車セットのいずれであってもよいロックする歯車セットは、フレーム60である。
【0033】
特定の一実施形態では、図で分かるように、このフレーム60は、丸穴車6である。
【0034】
より詳細には、少なくとも1つの遊星歯車セット3または各遊星歯車セット3は、第1の歯車セット1または第2の歯車セット2により支えられ、第2の歯車セット2または対応する歯車セット1と少なくとも一体に回転する心軸5の歯部4と永続的にかみ合い、少なくとも1つの遊星歯車3または各遊星歯車3は、前記丸穴車6と永続的にかみ合う。
【0035】
さらにより詳細には、図1および図2で分かるように、この差動機構10は、第1の歯車セット1が遊星キャリアを形成し、かつ第2の歯車セット2が内部遊星歯車を形成し、かつ丸穴車6が外部遊星歯車を形成して、第2の歯車セット2および第1の歯車セット1に同軸の、少なくとも1つの外転サイクロイド列を含む。この外転サイクロイド列の各遊星歯車3は、第1の歯車セット1と第2の歯車セット2の間に、または第1の歯車セット1と伝動機構100に備わったフレーム7との間に制限され、このフレームは、図に詰め込みすぎないようにするために示されていない。特定の事例では、このフレーム7は、第2の歯車セット2と一体化している。
【0036】
単一差動システムを使用することに限定しているわけではない。実際に、類似の手法で、差動遊星歯車および2つのりゅうず、2つの太陽歯車を伴う差動歯車、球形または他の差動歯車を使用することができる。ロック機能のために丸穴車6を使用することに限定しているわけではなく、実際に、必要とされる伝達比に応じて、これらの差動列の一方または他方の入力または出力に対してロック機能を遂行することが有利な場合がある。
【0037】
いくつかの段階を含む、特に各段階が外転サイクロイド列を伴う差動機構10に、本発明の原理を適用することができる。
【0038】
より詳細には、時計製作技術では、一般に二重連結機構を使用する。
【0039】
図1による2つの単一連結機構を組み合わせることにより、出力1での連結、中立位置、および出力2での連結という機能を得ることができる。中立位置は、必須ではない。2つの連結機構を別個に制御することができる。
【0040】
図3および図4は、第3の歯車セット91が遊星キャリアを形成し、かつ第2の歯車セット2が内部遊星歯車を形成し、かつ丸穴車96が外部遊星歯車を形成し、第2の歯車セット2および第3の歯車セット91に同軸であり、かつ二次遊星歯車93が第3の歯車セット91とフレーム7の間に制限される、追加の外転サイクロイド列を伴う、そのような二重連結機構を示す。制御手段20は、レバー21を含み、レバー21は、ロックする歯車セットに備わった周囲の歯部をレバー21の位置に応じて動けなくする、または解放するように配列された第1のビーク22を有し、かつレバー21の遠位端部に第2のビーク28を有する第2のアーム29を含む。
【0041】
特定の一実施形態では、図に示すように、少なくとも1つの外転サイクロイド列、およびより詳細には各外転サイクロイド列は、ギア駆動機構だけを備える。
【0042】
別の特定の実施形態では、少なくとも1つの外転サイクロイド列、およびより詳細には各外転サイクロイド列は、少なくとも1つの摩擦駆動機構を含む。
【0043】
図6は、球形差動機構10およびフレームロッキングを伴う単一連結機構を含み、かつ第1の歯車セット1と第2の歯車セット2の間に制限されたそのようなフレーム60を含み、かつ3つの主歯車セットの枢動軸に平行な差動方向に垂直な軸を有する各遊星歯車3が自由に回転するのを誘導するためのハブを支える、伝動機構100を示す。各遊星歯車セット3は、第1の歯車セット1および第2の歯車セット2と永続的にかみ合う。
【0044】
図7は、2つの太陽歯車およびフレームロッキングを伴う差動機構10を伴う単一連結システムを含み、かつ第1の歯車セット1と第2の歯車セット2の間に制限されたそのようなフレーム60を含み、かつ3つの主歯車セットの枢動軸に平行な差動方向に平行な軸を有する各遊星歯車3が自由に回転するのを誘導するためのハブ61を含む、伝動機構100を示す。各遊星歯車セット3は、その他の2つの主歯車セットの一方と永続的にかみ合う、またはその他の2つの主歯車セットの一方と一体に回転する中間歯車セット8と、永続的にかみ合う。
【0045】
より詳細には、差動機構10は、第1の列と協働するように配列された第1の歯車セット1および第2の列と協働するように配列された第2の歯車セット2により形成された少なくとも2つの入力または出力を含み、第1の歯車セット1および第2の歯車セット2を連結位置に運動学的に接続し、かつ第1の歯車セット1および第2の歯車セット2を分離位置に運動学的に分離することができる。
【0046】
したがって、本発明は、2つの入力が列の回転を伝達する役割を果たし、一方では、第3の入力が伝達を連結および分離する役割を果たす差動列を含む。
【0047】
より詳細には、図1図4で分かるように、差動機構10は、第1の歯車セット1により支えられ、かつ第2の歯車セット2と少なくとも一体に回転する心軸5の歯部4と永続的にかみ合う、少なくとも1つの遊星歯車セット3を含む。この少なくとも1つの遊星歯車セット3は、差動機構10の別の入力または出力を形成する丸穴車6と永続的にかみ合う。この場合、制御手段20は、そのような選択器30により制御手段20に与えられる位置に応じて、差動機構10を連結するために丸穴車6をロックするように、または差動機構10を分離するために丸穴車6を完全に解放するように配列される。
【0048】
図に示す特定の実施形態に限定せずに、一方の端部に第1のビーク22を有するレバー21を含む選択器30および制御手段20が、この第1のビーク22を介して差動列の外部丸穴車6の歯部をロックするとき、入力2に加えられる回転は、出力1に伝達される。
【0049】
選択器30および制御手段20が差動列の外部丸穴車6の歯部を分離するとき、入力2に加えられた回転は、差動丸穴車6に伝達され、差動丸穴車6は、もはやロックされることなく、次いで、自由に回転して、出力1へトルクを伝達することをやめることができる。
【0050】
この限定しない実施例では、このオン/オフ機能は、選択器30の角度位置に応じて、制御手段20に備わったレバー21の角度位置を修正するように配列された少なくとも1つの列歯車31を含む選択器30により制御される。シャトル、レバー、または他のものなどの、他の代替制御手段を使用することができる。
【0051】
図1および図3に示す実施形態では、ロック機能は、この場合、フレーム7に、またはプレート、ブリッジなどに接続される、制御ばねの形をとる弾性戻し手段40により間接的に達成され、それにより、伝達されるトルクが、制御機器に対する丸穴車6の歯部のトルクよりも高くなる場合、安全分離機能の可能性が提供される。その結果、制御手段20は、係合トルクまたは摩擦トルクを丸穴車6に加えるように配列された弾性戻し手段40により差動機構10を連結するために、丸穴車6に戻り、この係合トルクまたは摩擦トルクは、歯車セット1から歯車セット2へ、またはその逆も同様に伝達されるトルクが、係合トルクまたは摩擦トルクよりも高いとき、安全分離機能を可能にするために較正される。
【0052】
有利な一変形形態では、図3で分かるように、丸穴車6は、1つの回転方向で安全分離機能を可能にするために、ウルフティースを伴う外部歯部を含む。
【0053】
本発明はまた、少なくとも1つのそのような伝動機構100を含む計時器ムーブメント500に関する。
【0054】
本発明はまた、少なくとも1つのそのようなムーブメント500を含む、および/または少なくとも1つのそのような伝動機構100を含む計時器1000、詳細にはウオッチに関する。
【0055】
要するに、本発明は、すでに公知の解決手段の代替解決手段を構成し、詳細には垂直連結システムの締め具と比較して、連結および分離の機能を遂行するために動く構成要素の数を制限するという利点を有する。
【0056】
本発明により、連結および分離の機能を遂行するために必要な応力(力および/またはトルク)を制限することが可能になる。
【0057】
本発明は、特に摩擦ばねがトルクを提供する垂直クロノグラフ連結構造の場合、より高いトルクの伝達を確実にするサイズを有することができる。
【0058】
本発明は、単一連結機構を、巻きおよび時間設定機構、すなわち機能1/機能2などの、オン/オフクロノグラフ連結機構および二重連結機構のようにすることができるようにする。
【0059】
本発明はまた、安全分離機能に伴うしきい値トルクを計算することができるようにする。
【符号の説明】
【0060】
1 第1の歯車セット
2 第2の歯車セット
3 遊星歯車セット
4 歯部
5 心軸
6 丸穴車
7 フレーム
8 中間歯車セット
10 差動機構
20 制御手段
21 レバー
22 第1のビーク
28 第2のビーク
29 第2のアーム
30 選択器
31 列歯車
40 弾性戻し手段
50 機械式ロック手段
60 フレーム
61 ハブ
91 第3の歯車セット
93 二次遊星歯車
96 丸穴車
100 計時器伝動機構
500 計時器ムーブメント
1000 計時器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7