(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
蒸気加湿器は、一般に蒸気を気流中に噴霧拡散させて空気に取り込み加湿を行う。ただ、このような蒸気加湿器を例えば空調機器に設けた場合、気流中に噴霧された蒸気が空気に取り込まれるまでに空調機器のファンやフィルタ等に触れると、これらに対する水滴の衝突や蒸気の凝縮による結露が生じ、加湿効果が低下するだけではなく空調機器の水漏れの原因にもなる。
そのため、蒸気加湿器を他の機器と組み合わせて用いる場合は、装置全体の小型化や設計の自由度を向上させるためには、この蒸気の移動距離、つまり、蒸気加湿器から他の機器間において、噴霧された蒸気が空気に取り込まれるまでの距離(加湿吸収距離という)を低減することが必要である。
【0003】
加湿吸収距離を低減する一つの方法として、蒸気加湿器から噴霧した蒸気を迂回させることで加湿吸収距離を低減することが行われている。例えば、特許文献1には、
図9に示すように、蒸気を噴霧する噴霧孔101aを備えた蒸気噴霧管101と負圧領域を形成する拡散箱102を気流中で対向配置した加湿器が記載されている。拡散箱102は、図示のように断面凹形状の溝形部材であり、その溝底102aを気流の上流側にして配置することで、溝内に空気の渦流が形成される。
この加湿器では、蒸気噴霧管101から溝内の空気の渦流に向けて蒸気を噴霧して拡散させ、渦流中で拡散させた蒸気を、渦流と共に拡散箱102から気流中に拡散する。これにより、蒸気は気流内に直接噴霧するよりも加湿吸収距離を短縮することができる。
【0004】
また、文献に記載されたものではないが、
図10に示すように、蒸気加湿器を、断面凹形状の溝形部材である蒸気受けカバー202と、蒸気受けカバーの溝内に配置され、噴霧孔201aを備えた蒸気噴霧管201と、蒸気受けカバー202の開口部に対向して開口部より幅広の板状の蒸気拡散カバー203で構成することも考えられる。
この蒸気加湿器では、蒸気拡散カバー203を気流の上流側にして配置し、蒸気噴霧管201は蒸気を蒸気受けカバー202の溝の底壁202aに向けて噴霧する。ここでは、蒸気受けカバー202から気流とは反対向きに出てくる蒸気を、気流と直交方向に配置した蒸気拡散カバー203に沿って拡散させてから気流中に拡散する。蒸気噴霧管201から噴霧した蒸気を、このように複雑な経路を経て気流中に拡散させている。
ただ、いずれの加湿器においても、一旦気流中に放出された蒸気は、そのまま気流中を拡散していくだけで、その後の加湿吸収距離の短縮は行っていないし、行うことも不可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の分解斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の概略構成を示す水平断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気流及び蒸気拡散範囲のイメージを示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気受けカバーに設けられたスリットの作用を示す図であって、
図4Aはスリットがある場合の蒸気拡散範囲及び蒸気流のイメージ、
図4Bはスリットがない場合(比較例)の蒸気拡散範囲のイメージを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気受けカバーに設けられた凝縮水飛散防止板の作用を示す図であって、
図5Aは凝縮水飛散防止板がある場合の凝縮水の動きのイメージ、
図5Bは凝縮水飛散防止板がない場合(比較例)の凝縮水の動きのイメージを示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る蒸気加湿器に蒸気噴霧管に設けられた噴霧孔の配置を示す図であって、
図6Aはスリットの長手方向に対する千鳥状の配置、
図6Bはスリットの長手方向の両側の位置を揃えた配置(比較例)を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気受けカバーに設けられた天蓋及び底蓋の作用を示す図であって、
図7Aは天蓋及び底蓋がある場合の蒸気拡散範囲のイメージ、
図7Bは天蓋及び底蓋がない場合(比較例)の蒸気拡散範囲のイメージを示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気噴霧管に設けられた噴霧孔の角度と蒸気流との関係を示す図であって、
図8Aは蒸気噴霧管の中心線に対する円周角が60°、つまり噴霧孔の蒸気噴霧管の中心からみたそれぞれの角度が基準面に対して30°の場合の蒸気流のイメージ、
図8Bは円周角が90°の場合(比較例)、つまり噴霧孔の蒸気噴霧管の中心からみたそれぞれの角度が基準面に対してそれぞれ45°の蒸気流のイメージを示す図である。
【
図9】従来の蒸気加湿器の一例の概略構成を示す水平断面図である。
【
図10】従来の蒸気加湿器の他の一例の概略構成を示す水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
〈蒸気加湿器の概略構成〉
図1は、本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の分解斜視図であり、
図2は本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の概略構成を示す水平断面図である。
【0011】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る蒸気加湿器1は、概略的には、蒸気噴霧管11、蒸気受けカバー12及び蒸発拡散カバー13から成っている。蒸気噴霧管11は噴霧孔11aが設けられた管体であり、また、蒸気受けカバー12は、三方が閉じ、一方が開いた開口部となる断面凹形状の溝形部材として構成されており、また、蒸気拡散カバー13は、蒸気受けカバー12の開口部に対向して配置され、開口部の開口幅よりも幅広の板状体から成っている。
【0012】
蒸気噴霧管11の周面には、長手方向(
図1の上下方向)には複数の噴霧孔11aが配置されている。噴霧孔11aの配置は任意であるが、本実施形態では、
図6を参照して後述するように、蒸気噴霧管11の中心に対してそれぞれ一定の円周角で千鳥状に対称配置されている。また、蒸気噴霧管11の上端はキャップ11bにより塞がれており、蒸気噴霧管11の下端は蒸気供給管(図示せず)から蒸気が供給される。
【0013】
蒸気受けカバー12は、両側壁12c及び両側壁12cと連結した底面からなる断面凹形状の溝形部材であり、溝の底壁12dの幅方向中央にはその長手方向の全体に亘って伸びるスリット12aが形成されている。また両側壁内面には、その長手方向全体に亘って伸びる断面がL字状の凝縮水飛散防止板12bが、L字の一片が蒸気受けカバー12の両側壁12cに取り付けられ、他片が両側壁部から内方に突出するように配置されている。凝縮水飛散防止板12bは、蒸気受けカバー12内に生じた凝縮水を受け止め、開口部から外部に出るのを抑えるためのものである。
蒸気受けカバー12の上端、下端にはそれぞれ天蓋16、底蓋17が被せてある。スリット12a、凝縮水飛散防止板12b、天蓋16及び底蓋17の作用については、それぞれ
図4、
図5、
図7を参照して後述する。
【0014】
蒸気噴霧管11には、蒸気噴霧管11を蒸気受けカバー12中に配置したときの位置決めを行うための管保持板14、15が、その上下の適宜の位置に取り付けられている。管保持板14、15は例えば
図1に示すように、蒸気受けカバー12断面凹形状の溝形状に合わせた矩形の板体である。管保持板14、15には蒸気噴霧管11の断面形状に対応した形状の孔、例えば丸孔が設けられており、孔に蒸気噴霧管11を挿通することで蒸気噴霧管11が位置決めされる。
【0015】
ここでは、孔の位置は矩形の板体の中心ではなく蒸気受けカバー12の底壁寄りの位置となっているが、要は、蒸気噴霧管11の蒸気受けカバー中における位置に合わせて孔の位置を決めればよく、図示のものに限定されない。
また、蒸気噴霧管11を蒸気受けカバー12中に収容するときは、その溝の底壁に対して、千鳥状に対称配置された噴霧孔11aの基準面(
図8を参照して後述する仮想面P)が直交する配置とする。これにより、蒸気は噴霧孔11aから噴霧した蒸気は蒸気受けカバー12の底壁に対して同じ傾斜角度で噴霧される。
【0016】
〈蒸気流及び蒸気拡散範囲〉
次に、以上の構成を有する蒸気加湿器1の概略動作を説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気流及び蒸気拡散範囲のイメージを示す図である。
【0017】
図は、蒸気加湿器1を、蒸気拡散カバー13が気流の上流側になるように、配置した状態を示している。この状態で、蒸気供給管(図示せず)から蒸気噴霧管11に蒸気を供給すると、蒸気は、噴霧孔11aから蒸気受けカバー12の底壁12dに向かって斜めに噴霧される。噴射された蒸気は、蒸気受けカバー12の内面に沿って開口部に向かって(つまり、気流とは逆方向に)流れる。蒸気は、開口部から出た後、蒸気拡散カバー13により遮られた負圧領域において、拡散を続け、その後気流と合流してさらに拡散される。つまり、蒸気は、蒸気受けカバー12内及び蒸気拡散カバー13上で拡散された後気流に合流するため、均等に拡散され、周囲の空気との接触面積が増大するため空気への蒸気の取り込みは促進される。図中A1は、蒸気拡散範囲を示したものである。
【0018】
なお、蒸気受けカバー12内において、蒸気受けカバー12の内面と接触した噴霧蒸気は凝縮水となるが、後述するように、凝縮水は、凝縮水飛散防止板12bにより捕捉されるため、蒸気受けカバー12の外部への飛散が防止される。また、蒸気拡散カバー13により拡散された蒸気流の一部はスリット12aにより誘引されることで、噴霧蒸気拡散範囲A1の幅が拡大して、その結果、加湿吸収距離が短縮される。
【0019】
次に蒸気加湿器1の動作を具体的に説明する。
〈スリットの作用〉
図4は、本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気受けカバーに設けられたスリットの作用を示す図で、
図4Aはスリットがある場合の蒸気拡散範囲及び蒸気流のイメージ、
図4Bはスリットがない場合(比較例)の蒸気拡散範囲のイメージを示す図である。ただし、
図4Aに示す蒸気加湿器は凝縮水飛散防止板12bを備えておらず、その分
図3に示す溝の側壁よりも幅が短くなっている。また、
図4Bに示す蒸気加湿器は
図10に示す蒸気加湿器と同じである。
【0020】
図4Aに示す蒸気加湿器の場合、噴霧孔11aから噴霧された蒸気流a2は、蒸気受けカバー12及び蒸気拡散カバー13で拡散された後気流中に拡散され、蒸気流a3となる。また、気流中に拡散された蒸気流の一部は、スリット12aを通して蒸気受けカバー内に発生した負圧により誘引効果が生じ、蒸気流a4のように引き込まれる。これにより蒸気拡散範囲A2は、その全体が蒸気受けカバー12側に引き寄せられた状態になる。それによって周囲の空気との接触面積が増大し、加湿吸収距離が短縮される。
【0021】
これに対し、
図4Bに示す蒸気加湿器では、噴霧孔201aから噴霧された蒸気流a5は蒸気拡散カバー203により気流中に拡散されるだけであるため、その蒸気拡散範囲A3は
図4Aの蒸気拡散範囲A2と比較して縦長に延びた形状であり、明らかに加湿吸収距離が長いことが分かる。
図4Aに示す蒸気加湿器と
図4Bに示す蒸気加湿器の加湿吸収距離等の測定結果を下記の表1に示す。
【0023】
ここで、加湿吸収距離とは前述したとおり、気流中に噴霧された蒸気が空気に取り込まれるまでの距離である。ここでは、噴霧蒸気が完全に消える蒸気噴霧管11からの距離とした。また、飽和効率とは飽和点(相対湿度100%)に対してどこまで加湿できたかを示す指標である。また、加湿前空気温度、風速は、気流の蒸気拡散カバー13の上流側での測定値である。この表に示すように、スリットを設けたことで、加湿吸収距離が約9%短くなっており、スリットによる加湿吸収距離の短縮効果が確認できた。
【0024】
〈凝縮水飛散防止板の作用〉
図5は、本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気受けカバーに設けられた凝縮水飛散防止板の作用を示す図であって、
図5Aは凝縮水飛散防止板がある場合の凝縮水の動きのイメージ、
図5Bは凝縮水飛散防止板がない場合(比較例)の凝縮水の動きのイメージを示す図である。
【0025】
図5Aに示すように、蒸気受けカバー12に凝縮水飛散防止板12bが設けられている場合は、噴霧孔11aから噴霧された噴霧蒸気が液化した凝縮水b1は、気流a6によって矢印c1のように運ばれる。しかし、凝縮水飛散防止板12bにより捕捉されるため、蒸気受けカバー12の開口部から外部に飛散しない。なお、凝縮水飛散防止板12bにより捕捉された凝縮水b1は下方に流れて排出される。
【0026】
これに対して、蒸気受けカバー12に凝縮水飛散防止板12bが設けられていない場合は、
図5Bに示すように、凝縮水b1は、気流a6によって矢印c1に示すように運ばれ、矢印c2に示すように蒸気受けカバー12の開口部から外部に飛散してしまう。
【0027】
〈噴霧孔の配置〉
図6は、本発明の実施形態に係る蒸気加湿器に蒸気噴霧管に設けられた噴霧孔の配置を示す図であって、
図6Aはスリットの長手方向に対する千鳥状の配置、
図6Bはスリットの長手方向の両側の位置を揃えた配置(比較例)を示す図である。
【0028】
図6A、
図6Bに示す蒸気加湿器においては、蒸気供給管20から蒸気噴霧管11に供給された蒸気は噴霧孔11aから噴霧される。
図6Aに示す蒸気加湿器では、噴霧孔11aをスリット12aを挟んで垂直方向に千鳥状に配置している。したがって、同一仕様の加湿量となる同一孔個数での条件下で、千鳥状に配置した場合の噴霧孔の間隔L1は
図6Bに示すように噴霧孔11aがスリット12aを挟んで垂直方向に位置を揃えて配置した場合の間隔L2と比べて、垂直方向の間隔が短くなる。このため、蒸気噴霧管11の垂直方向の湿度分布を均等化することができる。
【0029】
〈天蓋及び底蓋の作用〉
図7は、本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気受けカバーに設けられた天蓋及び底蓋の作用を示す図であって、
図7Aは天蓋及び底蓋がある場合の蒸気拡散範囲のイメージ、
図7Bは天蓋及び底蓋がない場合(比較例)の蒸気拡散範囲のイメージを示す図である。
【0030】
図7Bに示すように、天蓋及び底蓋が無い場合は、蒸気受けカバー12の上端及び下端で蒸気漏れが発生するため、蒸気拡散範囲A5で示すように垂直方向に蒸気むらが発生してしまう。つまり、蒸気噴霧管11の垂直方向が均一に加湿されない。
【0031】
これに対して、
図7Aに示すように、天蓋16及び底蓋17がある場合は、蒸気受けカバー12の上端及び下端での蒸気漏れが防止されるため、蒸気拡散範囲A4に示すように垂直方向の蒸気むらが発生しない。つまり、蒸気噴霧管11の垂直方向が均一に加湿される。
【0032】
〈噴霧孔の角度〉
図8は、本発明の実施形態に係る蒸気加湿器の蒸気噴霧管に設けられた噴霧孔の角度と蒸気流との関係を示す図であって、
図8Aは蒸気噴霧管の中心線に対する円周角が60°、つまり噴霧孔の蒸気噴霧管の中心からみたそれぞれの角度が基準面に対して30°の場合の蒸気流のイメージ、
図8Bは円周角が90°の場合(比較例)、つまり噴霧孔の蒸気噴霧管の中心からみたそれぞれの角度が基準面に対してそれぞれ45°の蒸気流のイメージを示す図である。ここで、基準面Pは蒸気噴霧管11の横断方向周面において隣接する噴霧孔11aの中間位置と蒸気噴霧管11の中心線11cを通る仮想面である。
【0033】
図8Aに示すように、角度が60°の場合、噴霧孔11aから噴霧された蒸気流a7が蒸気受けカバー12の内面に衝突するまでの移動距離が、
図8Bに示す角度が90°の場合に噴霧孔11aから噴霧された蒸気流a8が蒸気受けカバー12の内面に衝突するまでの移動距離よりも長いため、蒸気が再凝縮しにくくなる。したがって、加湿効率が向上し、加湿吸収距離を短縮することができる。
【0034】
最後に、蒸気噴霧管11、蒸気受けカバー12、蒸気拡散カバー13の各寸法の一例を示す。
蒸気噴霧管11:直径30mm、蒸気噴霧管11の軸心に対する噴霧孔11aの角度差:60°
蒸気受けカバー12:幅80mm、奥行130mm、スリット幅10mm
蒸気拡散カバー13:幅250mm、蒸気受けカバー12の開口部との距離:30mm
【0035】
なお、噴霧孔11aの孔数、孔径、加湿器の高さは設計仕様により決定する。孔径を変化させることで、噴霧孔1つ当たりの加湿量を変化させることができる。すなわち、例えば径を拡大することで、スケールの詰まりを改善し、噴霧孔1つ当たりの加湿量を増やすことができる。