【実施例】
【0043】
以下、本出願の実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本出願を例示的に説明するためのもので、本出願の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1:トランスポゾンを用いたランダム突然変異のライブラリ製作
L−アルギニン生産能が増加された菌株を得るために、下記の方法でベクターライブラリを製作した。
まず、EZ−Tn5
TM<R6Kγori/KAN−2>Tnpトランスポソーム
TM Kit(Epicentre)を用いて、得られたプラスミドをコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P(特許文献3)を親菌株にして電気パルス法(非特許文献5)で形質転換し、カナマイシン(25mg/l)が含まれた複合平板培地に塗抹して、約20,000個のコロニーを確保した。
<複合平板培地(pH 7.0)>
ブドウ糖10g、ペプトン10g、牛肉抽出物5g、酵母抽出物5g、脳心臓浸出液(Brain Heart Infusion)18.5g、NaCl 2.5g、尿素2g、ソルビトール91g、寒天20g(蒸留水1L基準)
【0045】
実施例2:トランスポゾンを用いたランダム突然変異ライブラリのスクリーニング
前記実施例1で確保された約20,000個のコロニーをそれぞれ300μlの下記の選別培地に接種して、96ディープウェルプレート(96-deep well plate)で30℃、1000rpmで約24時間培養した。
<選別培地(pH 8.0)>
ブドウ糖10g、硫酸アンモニウム(ammonium sulfate)5.5g、MgSO
47H
2O 1.2g、KH
2PO
4 0.8 g、K
2HPO
4 16.4g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1mg、パントテン酸カルシウム2mg、ニコチン酸アミド2mg( 蒸留水1L基準 )
培養液で生産されたL−アルギニンの生産量を分析するために、ニンヒドリン方法を用いた(非特許文献6)。
培養が完了した後、培養上澄み液10μlとニンヒドリンの反応溶液190μlとを65℃で30分間反応させた後、波長570nmで分光光度計(spectrophotometer)で吸光度を測定し、対照区であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P菌株と比較して高い吸光度を示す変異菌株として約60余種のコロニーを選別した。その他コロニーは、対照区として用いられたコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P菌株と類似または減少した吸光度を示すことが確認された。
前記選別された60余種の菌株を前記と同様の方法で再培養した後にニンヒドリンの反応を繰り返し行い、結果的に親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの菌株に比べてL−アルギニン生産能の向上された上位10種の突然変異株を選別した。
【0046】
実施例3:選別されたランダム突然変異株のL−アルギニン生産能の分析
前記実施例2で選抜した10種の突然変異株を対象に、L−アルギニン生産能が再現性よく増加された菌株を最終選別するために、下記の培地を用いたフラスコ培養を行った。培養が完了した後、HPLCを用いて培養液内のL−アルギニン濃度を分析し、各突然変異株のL−アルギニン生産濃度を表1に示した。
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖6%、硫酸アンモニウム3%、第1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水塩0.2%、CSL(トウモロコシ浸漬液)1.5%、NaCl1%、酵母抽出物0.5%、ビオチン100mg/l、CaCO
33%( 蒸留水1L基準 )。
【0047】
【表1】
【0048】
選別した10種の変異株の中でL−アルギニン生産能が有意に改善された菌株としてKCCM10741P/mt−10を最終選別した。
【0049】
実施例4:最終選別株でのL−アルギニン生産能増加の原因究明
本実施例では、前記実施例3から最終選別された突然変異株を対象にトランスポゾンのランダムな挿入によって欠損された遺伝子を同定した。
KCCM10741P/mt−10のゲノムDNAを抽出し切断した後に連結して大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)が含まれているLB固体培地に塗抹した。形質転換されたコロニーの20種を選別した後、未知の遺伝子の一部が含まれたプラスミドを獲得し、EZ−Tn5
TM<R6Kγori/KAN−2>Tnpトランスポソーム
TM Kitのプライマー1(配列番号3)及びプライマー2(配列番号4)を用いて塩基配列を分析した。その結果、前記欠失されて不活性化された遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列をコードする配列番号2のヌクレオチド配列であることを確認した。
プライマー1(配列番号3):ACCTACAACAAAGCTCTCATCAACC
プライマー2(配列番号4):CTACCCTGTGGAACACCTACATCT
これにより、前記配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質の不活性化の際に、L−アルギニン生産能に影響があるかどうかを確認するために、前記遺伝子を欠損候補遺伝子として選別した。
【0050】
実施例5:配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子欠損のための組換えベクター製作
本実施例では、配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子の不活性化とL−アルギニン生産の影響を確認するために、前記実施例4で選別された前記遺伝子をコリネバクテリウムL−アルギニン生産菌株の染色体上で欠損させるための組換えプラスミドを製作した。
まず、コリネバクテリウム属微生物の染色体上で前記遺伝子を欠損させうる組換えベクターを製作するために、下記表2に示したようなプライマー3〜6を合成した。
【0051】
【表2】
【0052】
具体的には、前記遺伝子のORF部位(配列番号2)を欠損するために、5’末端と3’末端にXhoI制限酵素部位を有するようにプライマー3(配列番号5)、プライマー4(配列番号6)、プライマー5(配列番号7)、プライマー6(配列番号8)を合成した。前記プライマー3、プライマー4、プライマー5、及びプライマー6を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの染色体DNAを鋳型にしてPCRを行った。その結果、前記遺伝子がコードするタンパク質が、コードされる部分の前後に該当するDNA断片が、それぞれ500bpずつ増幅されることを確認した。このとき、PCR条件は、変性95℃で5分間変性させた後、94℃/30秒変性、56℃/30秒アニーリング、72℃/1分重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を通して行った。次に、コリネバクテリウム・グルタミカム内で複製が不可能なpDZベクター(特許文献4)にXhoI制限酵素の処理後、前記収得したPCR産物をフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングは、In−Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(Clontech)を用いて行い、これを大腸菌DH5αに形質転換して、カナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。
PCRを介して前記目的の遺伝子が挿入されたプラスミドで形質転換されたコロニーを選別した後、プラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、このプラスミドをpDZ−ΔRS1と命名した。
【0053】
実施例6:配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子が欠損したコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの製作及びそのL−アルギニン生産能の評価
代表的なL−アルギニン生産コリネバクテリウム属菌株であるKCCM10741P菌株を基に、前記配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子が欠損した菌株を製作して、そのL−アルギニン生産能を評価した。
具体的には、前記実施例5で製作した組換えプラスミドpDZ−ΔRS1を染色体上での相同組換えにより、L−アルギニン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pに形質転換させた(非特許文献7)。
以降、4%のスクロースを含む固体平板培地で2次組換えを行った。2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、プライマー3とプライマー6を用いてPCR法により前記遺伝子が欠損した菌株を確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカム「KCCM10741P−RS1」と命名した。
L−アルギニン生産能を分析するために、親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P菌株と前記製作したコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P−RS1菌株を下記の方法で培養した。
下記の種培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pと実施例6で製作した菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P−RS1とを接種して、30℃で20時間、200rpmで振とう培養した。その後、生産培地24mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃で72時間の間、200rpmで振とう培養した。前記種培地と生産培地の組成は、それぞれ下記の通りである。
<種培地(pH 7.0)>
ブドウ糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KH
2PO
44g、K
2HPO
48g、MgSO
4・7H
2O0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1mg、パントテン酸カルシウム2mg、ニコチン酸アミド2mg(蒸留水1L基準)
<生産培地(pH 7.0)>
ブドウ糖6%、硫酸アンモニウム3%、第1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水塩0.2%、CSL(トウモロコシ浸漬液)1.5%、NaCl1%、酵母抽出物0.5%、ビオチン100 mg/L(蒸留水1L基準 )。
培養終了後、HPLCによりL−アルギニンの生産量を測定し、分析したL−アルギニンの濃度を表3に示した。
【0054】
【表3】
【0055】
前記結果のように、L−アルギニン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pから前記遺伝子を欠損させたKCCM10741P−RS1の場合、親菌株に比べてL−アルギニン生産能が平均25%増加することを確認した。
前記KCCM10741P−RS1菌株をCA06−2830と命名し、2017年12月15日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korea Culture Center of Microorganisms、KCCM)に寄託し、受託番号KCCM12187Pを与えられた。
したがって、コリネバクテリウム属微生物で配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子を欠損させることにより、L−アルギニン生産能を向上させうることを確認した。
【0056】
実施例7:配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子の弱化のための組換えベクター製作
コリネバクテリウム属菌株の染色体上で配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子を弱化させうる組換えベクターの製作のために、前記遺伝子の開始コドンを
GTGからTTGに置換して弱化させるようにし、そのための断片を製作するために下記表4に示したようなプライマー3、及びプライマー7〜9を合成した。
【0057】
【表4】
【0058】
前記遺伝子のORF部位(配列番号2)を増幅するために、5’末端と3’末端にXhoI制限酵素部位を有するようにプライマー3(配列番号5)、プライマー7(配列番号9)、プライマー8(配列番号10)、プライマー9(配列番号11)を合成した。プライマー3、プライマー7、プライマー8、及びプライマー9を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの染色体DNAを鋳型にしてPCRを行った。このとき、PCR条件は、変性95℃で5分間変性後、94℃/30秒変性、56℃/30秒アニーリング、72℃/1分重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を通して行った。次に、コリネバクテリウム・グルタミカム内で複製が不可能なpDZベクター(特許文献4)をXhoI制限酵素処理した後、前記で得られたPCR産物をフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングは、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(Clontech)を用いて行い、これを大腸菌DH5αに形質転換して、カナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。
PCRを介して前記目的の遺伝子が挿入されたプラスミドに形質転換されたコロニーを選別した後、プラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、このプラスミドをpDZ−ΔRS2と命名した。
【0059】
実施例8:配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子が弱化されたコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの製作及びそのL−アルギニン生産能の評価
前記実施例7で製作された組換えプラスミドpDZ−ΔRS2を染色体上の相同組換えによりL−アルギニン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pに形質転換させた(非特許文献7)。
以降、4%のスクロースを含む固体平板培地で2次組換えを行った。2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、プライマー3とプライマー9を用いて塩基配列を分析し配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子の開始コドンがTTGで置換された菌株を確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P−RS2と命名した。
L−アルギニン生産能を分析するために、親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pと前記製作されたコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P−RS2菌株とを、前記実施例6と同様の方法で培養した後、HPLCを用いてL−アルギニンの生産量を測定し、分析したL−アルギニンの濃度を下記表5に示した。
【0060】
【表5】
【0061】
前記の結果のように、L−アルギニン生産菌株であるKCCM10741Pを対象に配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子を弱化させた場合、L−アルギニン生産能が平均12%増加することを確認した。
したがって、コリネバクテリウム属微生物で配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子の発現を弱化させることにより、L−アルギニン生産能を向上させることを確認した。
前記結果を総合すると、配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子が欠損または弱化された菌株は、L−アルギニン生産能が増加することが分かり、これは微生物で前記遺伝子がコードするタンパク質の活性を不活性化させて、L−アルギニンを大量生産できることを示唆する。
以上の説明から、本願が属する技術分野の当業者は、本願がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものと理解しなければならない。本願の範囲は、前記詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【0062】