特許第6806895号(P6806895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6806895L−アルギニンを生産するコリネバクテリウム属微生物及びこれを用いたL−アルギニン生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806895
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】L−アルギニンを生産するコリネバクテリウム属微生物及びこれを用いたL−アルギニン生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20201221BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20201221BHJP
   C12P 13/10 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C12N15/31
   C12N1/21ZNA
   C12P13/10 B
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-522936(P2019-522936)
(86)(22)【出願日】2018年12月18日
(65)【公表番号】特表2020-504598(P2020-504598A)
(43)【公表日】2020年2月13日
(86)【国際出願番号】KR2018016115
(87)【国際公開番号】WO2019124932
(87)【国際公開日】20190627
【審査請求日】2019年4月26日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0175046
(32)【優先日】2017年12月19日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒュン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】オ、ヘナ
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ビョン フーン
(72)【発明者】
【氏名】カン、ミン ギョン
【審査官】 松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−023147(JP,A)
【文献】 特開2007−043947(JP,A)
【文献】 特表2014−517681(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/154182(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0086464(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0076409(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0087201(KR,A)
【文献】 NCBI Open Reading Frame Viewer<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/orffinder/>による配列番号2のヌクレオチド配列の検索画面の写し,2020年 5月18日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/31
C12N 1/21
C12P 13/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質が不活性化された、L−アルギニンを生産するコリネバクテリウム属微生物。
【請求項2】
前記タンパク質が、配列番号2の塩基配列からなる遺伝子によってコードされる、請求項1に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項3】
前記微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項1に記載のコリネバクテリウム属微生物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の微生物を培地で培養する段階を含む、L−アルギニンを生産する方法。
【請求項5】
前記培養する段階の後、前記微生物または培地からL−アルギニンを回収する段階をさらに含む、請求項4に記載のL−アルギニンを生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、L−アルギニンを生産するコリネバクテリウム属微生物及びこれを用いてL−アルギニンを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−アルギニンは、植物の種子やニンニク中に遊離状態で含有されており、アミノ酸類強化剤としても用い、医薬品、食品などにも広く利用されている。医薬用としては、肝機能促進剤、脳機能促進剤、男性不妊治療剤、総合アミノ酸製剤などに使われており、食品用としては、かまぼこ添加剤、健康飲料添加剤、高血圧患者の食塩代替用に最近脚光を浴びている物質である。
【0003】
コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum )は、L−アミノ酸生産に多く利用されているグラム陽性の微生物である。L−アルギニンの生産のためにコリネバクテリウム属菌株で、主にL−アルギニン生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させたり、またはL−アルギニンの生合成に不要な遺伝子を除去するような目的物質特異的なアプローチが主に用いられている(特許文献1)。しかし、それでも効率的かつ高収率でL−アルギニンを生産できる方法に対する研究の必要性が台頭している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10−1102263号
【特許文献2】米国公開特許番号2002−0045223
【特許文献3】韓国特許登録番号0791659
【特許文献4】韓国特許登録番号第10−0924065号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Vehary Sakanyan, et al, Microbiology, 142:9-108, 1996
【非特許文献2】Karlin and Altschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)
【非特許文献3】Methods Enzymol., 183, 63, 1990
【非特許文献4】J Bacteriol. 2002Dec;184(23):6602-14
【非特許文献5】Appl. Microbiol. Biothcenol.(1999) 52:541-545)
【非特許文献6】Moore, S., Stein, W. H., Photometric ninhydrin method for use in the chromatography of amino acids. J. Biol. Chem.1948, 176, 367-388
【非特許文献7】van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、L−アルギニンを高効率で生産できる微生物を開発しようと鋭意研究した結果、コリネバクテリウム属微生物に機能が未知のタンパク質をコードする遺伝子が欠損した微生物の場合、L−アルギニンの生産収率が増加するという事実を確認し、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願の一つの目的は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質が不活性化されたL−アルギニン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を提供することにある。
【0008】
本出願のもう一つの目的は、前記微生物を用いたL−アルギニンの生産方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0009】
本出願のL−アルギニンを生産する微生物は、L−アルギニンを高い効率で生産できる。また、製造されたL−アルギニンは、動物飼料または動物飼料添加剤だけでなく、人間の食品や食品添加剤、医薬品などの様々な製品に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
これを具体的に説明すると、次のとおりである。一方、本出願で開示された各説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用できる。すなわち、本出願で開示された様々な要素のすべての組み合わせが本出願のカテゴリに属する。また、下記記述された具体的な叙述によって、本出願のカテゴリが制限されるとは見られない。
【0011】
前記のような目的を達成するために、本出願は一つの様態として、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質が不活性化されたL−アルギニンを生産するコリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0012】
本出願において、用語、「L−アルギニン」(L-Arginine)は、すべての生物体に存在する条件付きの必須アミノ酸であり、C14の化学式を有するL−アミノ酸を意味する。L−アルギニンは、微生物の中でも、主にコリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物によって生産されると知られているが、これらは細胞内アルギニンによってフィードバック阻害(feedback inhibition)を受けると知られており(非特許文献1)、高収率のL−アルギニンを生産するには限界があると知られている。本発明者らは、驚くべきことに機能が知られていない配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質を不活性化させる場合、L−アルギニン生産が増加することを確認し、新しいL−アルギニン生産用微生物を提供することになった。
【0013】
本出願において、用語、「配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質」は、コリネバクテリウム属微生物に内在的に存在するタンパク質や、機能が知られてない推定上のタンパク質(hypothetical protein)を意味する。その例として、前記配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質は配列番号1のアミノ酸配列に(必須で)構成されたものであってもよいが、これに制限されない。
【0014】
また、本出願で「特定の配列番号で構成されるタンパク質」と記載されている場合でも、当該配列番号のアミノ酸配列からなるタンパク質と同一あるいは相応する活性を有する場合であれば、当該配列番号のアミノ酸配列前後の無意味な配列を追加または自然的に発生しうる突然変異、あるいはそのサイレント突然変異(silent mutation)を除くものではなく、このような配列追加あるいは突然変異を有する場合でも、本願の範囲内に属することが自明である。
【0015】
一つの具体例として、前記配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質は、前記配列番号1と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。前記配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質は、前記配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも80%以上、具体的には、83%以上、84%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、または97%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質を含んでもよい。前記配列と相同性を有する配列として、実質的に配列番号1のアミノ酸配列と同一または相応する生物学的活性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換、または付加されたアミノ酸配列を有する場合も、本出願のカテゴリに含まれるのは自明である。
【0016】
併せて、前記配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質は、配列番号2のポリヌクレオチド配列を含む遺伝子によってコードされるものであってもよい。また、配列番号2のポリヌクレオチド配列で必須的に構成されるか、構成されている遺伝子によってコードされるものであってもよいが、これに制限されない。
【0017】
また、本出願の前記タンパク質は、前記配列番号2に記載したポリヌクレオチド配列だけでなく、配列番号2と少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチド配列を含む遺伝子によってコードされてもよい。
【0018】
具体的には、前記配列番号1と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードしうるポリヌクレオチド配列であれば、本出願のカテゴリに含まれるが、前記タンパク質は前記配列番号2のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも80%以上、具体的には、83%以上、84%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、または97%以上の相同性を有するポリヌクレオチド配列を含む遺伝子によってコードされてもよい。また、遺伝暗号の縮退性(genetic code degeneracy)に起因して、同一アミノ酸配列をコードする前記配列の変異体も、本出願に含まれてもよい。
【0019】
本出願において、用語、「相同性」は、与えられたアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と一致する程度を意味し、パーセンテージで表示されうる。本明細書で、与えられたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列と同一または類似の活性を有するその相同性配列が「%相同性」と表示される。
【0020】
前記アミノ酸またはヌクレオチド配列に対する相同性は、例えば、文献によるアルゴリズムBLAST [参照:非特許文献2]やPearsonによるFASTA(参照:非特許文献3)を用いて決定してもよい。これらのアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0021】
本出願において、用語、「不活性化」は、前記タンパク質の発現が親菌株、野生型菌株、または変形前の菌株に比べて全く発現されてないか、または発現されてもその活性がないか、減少されたことを意味する。この時、前記減少は、前記タンパク質をコードする遺伝子の変異、欠損などによってタンパク質の活性が本来の微生物が有しているタンパク質の活性に比べて減少した場合と、それをコードする遺伝子の発現阻害または翻訳(translation)阻害などで細胞内で全体的なタンパク質の活性程度が野生型菌株または変形前の菌株に比べて低い場合、これらの組み合わせも含む概念である。
【0022】
本出願では、前記タンパク質の不活性化がL−アルギニンの生産性と関連することを最初に究明した。
【0023】
本出願において、前記不活性化は、当該分野でよく知られている様々な方法の適用で達成されうる。前記方法の例として、1)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の全体または一部を欠失させる方法;2)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の発現が減少するように発現調節配列の変形;3)前記タンパク質の活性が除去または弱化されるようにタンパク質をコードする前記遺伝子配列の変形;4)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入;5)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前段にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加して2次構造物を形成させ、リボソーム(ribosome)の付着を不可能にする方法;6)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のポリヌクレオチド配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆方向に転写されるプロモーターを付加する方法(Reverse transcription engineering、RTE)などがあり、これらの組み合わせでも達成されうるが、これに特に制限されるものではない。
【0024】
具体的には、前記発現調節配列を変形する方法は、当該分野でよく知られている様々な方法の適用で達成されてもよい。前記方法の例として、前記発現調節配列の活性をさらに弱化するようにポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせで発現調節配列上の変異を誘導して行うか、さらに弱い活性を有するポリヌクレオチド配列に交替することにより行うことができる。前記発現調節配列には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と解読の終結を調節する配列を含むが、これに限定されるものではない。
【0025】
また、前記遺伝子配列を変形する方法は、前記酵素の活性をさらに弱化するように遺伝子配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせで配列上の変異を誘導して行うか、さらに弱い活性を有するように改良された遺伝子配列または活性がないように改良された遺伝子配列に交替することにより行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0026】
また、前記タンパク質をコードする前記遺伝子の一部または全体を欠失させる方法は、微生物内の染色体挿入用ベクターを介して染色体内の内在的目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを一部のヌクレオチド配列が欠失されたポリヌクレオチドまたはマーカー遺伝子に交替することによって行われてもよい。これらのポリヌクレオチドの一部または全体を欠失させる方法の一例として、相同組換えによってポリヌクレオチドを欠失させる方法を用いてもよいが、これに限定されない。
【0027】
また、前記遺伝子の一部または全体を欠損させる方法は、紫外線などの光や化学物質を用いて突然変異を誘発し、得られた突然変異体から目的遺伝子が欠損した菌株を選別して行うことができる。前記遺伝子欠損の方法には、DNA組換え技術による方法が含まれる。前記DNA組換え技術には、例えば、目的遺伝子と相同性があるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列またはベクターを前記微生物に注入して相同組換え(homologous recombination)が起こるようにしてなる。また、前記注入されるヌクレオチド配列またはベクターには、優性選別マーカーを含みうる。
【0028】
本出願において、用語、「L−アルギニンを生産する微生物」または「L−アルギニン生産能を有する微生物」は、自然的にL−アルギニン生産能を有している微生物またはL−アルギニンの生産能のない親菌株にL−アルギニンの生産能が付与された微生物を意味する。例えば、前記L−アルギニンの生産能は配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質の活性を不活性化及び/またはL−アルギニン生合成酵素をコードする遺伝子の発現を増進させて付与してもよい。
【0029】
ここで、L−アルギニン生合成酵素の例は、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N−アセチルグルタメートキナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ (argF)、 アルギニノコハク酸シンテターゼ(argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argH)、及びカルバモイルリン酸シンテターゼを含む。これらのアルギニン生合成酵素は、Argオペロン(argCJBDFRGH)上に存在して、argRによってコードされたアルギニンリプレッサーによって調節される(非特許文献4)。したがって、アルギニンリプレッサーの弱化(特許文献2)、または前記生合成関連遺伝子中の1つ以上の遺伝子を過発現させることにより、L−アルギニン生産能力を付与しうる。
【0030】
本出願で、前記L−アルギニンを生産する微生物は、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質が不活性化された微生物であって、本出願の目的上、前記微生物は配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質が不活性化されてL−アルギニンを生産しうる微生物であればいずれも可能である。具体例としては、エシェリキア (Escherichia)属、セラチア(Serratia)属、エルウィニア(Erwinia)属、エンテロバクテリア(Enterobacteria)属、サルモネラ(Salmonella)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属またはコリネバクテリウム(Corynebacterium)属などの微生物菌株が含まれてもよく、具体的には、コリネバクテリウム属微生物であってもよい。本出願の目的上、前記微生物はL−アルギニンを生産するコリネバクテリウム属微生物であってもよい。
【0031】
前記「L−アルギニンを生産するコリネバクテリウム属微生物」は、天然型または変異を介してL−アルギニン生産能を有しているコリネバクテリウム属微生物を意味する。コリネバクテリウム属微生物がL−アルギニンを生産できることは、すでに知られていたが、その生産能が著しく低く、生産メカニズムに作用する遺伝子やメカニズムの原理が明らかにされていない状態である。したがって、本出願のL−アルギニンを生産するコリネバクテリウム属微生物は、天然型微生物自体または外部L−アルギニン生産メカニズムと関連する遺伝子の活性を強化したり、不活性させて向上されたL−アルギニン生産能を有するようになったコリネバクテリウム属微生物を意味する。
【0032】
本出願において、「コリネバクテリウム属微生物」は、すべてのコリネバクテリウム属微生物を含んでもよい。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum )、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・マリス(Corynebacterium maris)、コリネバクテリウム・ルブリカンティス(Corynebacterium lubricantis)、コリネバクテリウム・ドサネンス(Corynebacterium doosanense)、 コリネバクテリウム・ピロサム(Corynebacterium pilosum)、コリネバクテリウム・シスタイティディス(Corynebacterium cystitidis)、コリネバクテリウム・ウテレキー(Corynebacterium uterequi)、コリネバクテリウム・レナーレ(Corynebacterium renale)またはブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム (Brevibacterium lactofermentum)であってもよく、より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよい。
【0033】
本出願は、本出願に係る前記微生物を培地で培養する段階を含む、L−アルギニン生産方法を提供する。
本出願に係る前記微生物は、先に説明したとおりである。
本出願の方法において、コリネバクテリウム属微生物の培養は、当業界で知られている任意の培養条件及び培養方法が用いられてもよい。
【0034】
本出願において、用語、「培養」は、微生物を適当に人工的に調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願でコリネバクテリウム属微生物を用いてL−アルギニンを培養する方法は、当業界に広く知られている方法を用いて行ってもよい。具体的には、前記培養は、バッチ工程、注入バッチまたは反復注入バッチ工程(fed batch or repeated fed batch process)で連続式で培養してもよいが、これに制限されるものではない。
【0035】
培養に用いられる培地は、適切な方法で特定菌株の要件を満たす必要がある。コリネバクテリウム菌株に対する培養培地は公知となっている(例えば、Manual of Methods for General Bacteriology by the American Society for Bacteriology、Washington D.C.、USA、1981)。
【0036】
培地で用いられてもよい糖源としては、ブドウ糖、サッカロース、乳糖、果糖、マルトース、でん粉、セルロースのような糖及び炭水化物、大豆油、ひまわり油、ヒマシ油、ココナッツ油のようなオイル及び脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの物質は、個別的に、または混合物として用いられてもよく、これに限定されるものではない。
【0037】
用いられてもよい窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆ミール、及び尿素または無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も個別的に、または混合物として用いられてもよく、これに限定されるものではない。
【0038】
用いられてもよいリン源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウムを含有する塩が含まれてもよい。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有してもよい。最後に、前記物質に加えて、アミノ酸及びビタミンのような必須成長物質が用いられてもよい。また、培養培地に適切な前駆体が用いられてもよい。前記された原料は、培養過程で培養物に適切な方法によって回分式または連続式で添加されうる。
【0039】
前記微生物の培養中の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアのような基礎化合物またはリン酸または硫酸のような酸化合物を適切な方法で用いて培養物のpHを調節してもよい。また、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。好気状態を維持するために培養物内に酸素または酸素含有気体(例えば、空気)を注入してもよい。培養物の温度は、通常20℃〜45℃、具体的には、25℃〜40℃であってもよい。培養時間は、所望のL−アミノ酸の生成量が得られるまで続けてもよいが、具体的には、10〜160時間であってもよい。
【0040】
本出願の方法において、培養はバッチ工程、注入バッチ及び反復注入バッチ工程のような連続式または回分式で行うことができる。これらの培養方法は、当業界によく知られており、当業者によって選択される任意の方法を用いてもよい。
【0041】
培養物からのL−アルギニン分離は、当業界に知られている通常の方法によって分離してもよい。これらの分離方法には、遠心分離、ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、及び結晶化などの方法が利用されうる。例えば、培養物を低速遠心分離してバイオマスを除去し、得られた上澄み液をイオン交換クロマトグラフィーを介して分離してもよいが、これに限定されるものではない。
【0042】
本出願の方法において、前記培養する段階の後、前記微生物または培地からL−アルギニンを回収する段階をさらに含んでもよい。
前記回収段階は、精製工程を含んでもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本出願の実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本出願を例示的に説明するためのもので、本出願の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1:トランスポゾンを用いたランダム突然変異のライブラリ製作
L−アルギニン生産能が増加された菌株を得るために、下記の方法でベクターライブラリを製作した。
まず、EZ−Tn5TM<R6Kγori/KAN−2>Tnpトランスポソーム TM Kit(Epicentre)を用いて、得られたプラスミドをコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P(特許文献3)を親菌株にして電気パルス法(非特許文献5)で形質転換し、カナマイシン(25mg/l)が含まれた複合平板培地に塗抹して、約20,000個のコロニーを確保した。
<複合平板培地(pH 7.0)>
ブドウ糖10g、ペプトン10g、牛肉抽出物5g、酵母抽出物5g、脳心臓浸出液(Brain Heart Infusion)18.5g、NaCl 2.5g、尿素2g、ソルビトール91g、寒天20g(蒸留水1L基準)
【0045】
実施例2:トランスポゾンを用いたランダム突然変異ライブラリのスクリーニング
前記実施例1で確保された約20,000個のコロニーをそれぞれ300μlの下記の選別培地に接種して、96ディープウェルプレート(96-deep well plate)で30℃、1000rpmで約24時間培養した。
<選別培地(pH 8.0)>
ブドウ糖10g、硫酸アンモニウム(ammonium sulfate)5.5g、MgSO7HO 1.2g、KHPO 0.8 g、KHPO 16.4g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1mg、パントテン酸カルシウム2mg、ニコチン酸アミド2mg( 蒸留水1L基準 )
培養液で生産されたL−アルギニンの生産量を分析するために、ニンヒドリン方法を用いた(非特許文献6)。
培養が完了した後、培養上澄み液10μlとニンヒドリンの反応溶液190μlとを65℃で30分間反応させた後、波長570nmで分光光度計(spectrophotometer)で吸光度を測定し、対照区であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P菌株と比較して高い吸光度を示す変異菌株として約60余種のコロニーを選別した。その他コロニーは、対照区として用いられたコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P菌株と類似または減少した吸光度を示すことが確認された。
前記選別された60余種の菌株を前記と同様の方法で再培養した後にニンヒドリンの反応を繰り返し行い、結果的に親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの菌株に比べてL−アルギニン生産能の向上された上位10種の突然変異株を選別した。
【0046】
実施例3:選別されたランダム突然変異株のL−アルギニン生産能の分析
前記実施例2で選抜した10種の突然変異株を対象に、L−アルギニン生産能が再現性よく増加された菌株を最終選別するために、下記の培地を用いたフラスコ培養を行った。培養が完了した後、HPLCを用いて培養液内のL−アルギニン濃度を分析し、各突然変異株のL−アルギニン生産濃度を表1に示した。
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖6%、硫酸アンモニウム3%、第1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水塩0.2%、CSL(トウモロコシ浸漬液)1.5%、NaCl1%、酵母抽出物0.5%、ビオチン100mg/l、CaCO3%( 蒸留水1L基準 )。
【0047】
【表1】
【0048】
選別した10種の変異株の中でL−アルギニン生産能が有意に改善された菌株としてKCCM10741P/mt−10を最終選別した。
【0049】
実施例4:最終選別株でのL−アルギニン生産能増加の原因究明
本実施例では、前記実施例3から最終選別された突然変異株を対象にトランスポゾンのランダムな挿入によって欠損された遺伝子を同定した。
KCCM10741P/mt−10のゲノムDNAを抽出し切断した後に連結して大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/l)が含まれているLB固体培地に塗抹した。形質転換されたコロニーの20種を選別した後、未知の遺伝子の一部が含まれたプラスミドを獲得し、EZ−Tn5TM<R6Kγori/KAN−2>TnpトランスポソームTM Kitのプライマー1(配列番号3)及びプライマー2(配列番号4)を用いて塩基配列を分析した。その結果、前記欠失されて不活性化された遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列をコードする配列番号2のヌクレオチド配列であることを確認した。
プライマー1(配列番号3):ACCTACAACAAAGCTCTCATCAACC
プライマー2(配列番号4):CTACCCTGTGGAACACCTACATCT
これにより、前記配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質の不活性化の際に、L−アルギニン生産能に影響があるかどうかを確認するために、前記遺伝子を欠損候補遺伝子として選別した。
【0050】
実施例5:配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子欠損のための組換えベクター製作
本実施例では、配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子の不活性化とL−アルギニン生産の影響を確認するために、前記実施例4で選別された前記遺伝子をコリネバクテリウムL−アルギニン生産菌株の染色体上で欠損させるための組換えプラスミドを製作した。
まず、コリネバクテリウム属微生物の染色体上で前記遺伝子を欠損させうる組換えベクターを製作するために、下記表2に示したようなプライマー3〜6を合成した。
【0051】
【表2】
【0052】
具体的には、前記遺伝子のORF部位(配列番号2)を欠損するために、5’末端と3’末端にXhoI制限酵素部位を有するようにプライマー3(配列番号5)、プライマー4(配列番号6)、プライマー5(配列番号7)、プライマー6(配列番号8)を合成した。前記プライマー3、プライマー4、プライマー5、及びプライマー6を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの染色体DNAを鋳型にしてPCRを行った。その結果、前記遺伝子がコードするタンパク質が、コードされる部分の前後に該当するDNA断片が、それぞれ500bpずつ増幅されることを確認した。このとき、PCR条件は、変性95℃で5分間変性させた後、94℃/30秒変性、56℃/30秒アニーリング、72℃/1分重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を通して行った。次に、コリネバクテリウム・グルタミカム内で複製が不可能なpDZベクター(特許文献4)にXhoI制限酵素の処理後、前記収得したPCR産物をフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングは、In−Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(Clontech)を用いて行い、これを大腸菌DH5αに形質転換して、カナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。
PCRを介して前記目的の遺伝子が挿入されたプラスミドで形質転換されたコロニーを選別した後、プラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、このプラスミドをpDZ−ΔRS1と命名した。
【0053】
実施例6:配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子が欠損したコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの製作及びそのL−アルギニン生産能の評価
代表的なL−アルギニン生産コリネバクテリウム属菌株であるKCCM10741P菌株を基に、前記配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子が欠損した菌株を製作して、そのL−アルギニン生産能を評価した。
具体的には、前記実施例5で製作した組換えプラスミドpDZ−ΔRS1を染色体上での相同組換えにより、L−アルギニン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pに形質転換させた(非特許文献7)。
以降、4%のスクロースを含む固体平板培地で2次組換えを行った。2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、プライマー3とプライマー6を用いてPCR法により前記遺伝子が欠損した菌株を確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカム「KCCM10741P−RS1」と命名した。
L−アルギニン生産能を分析するために、親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P菌株と前記製作したコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P−RS1菌株を下記の方法で培養した。
下記の種培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pと実施例6で製作した菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P−RS1とを接種して、30℃で20時間、200rpmで振とう培養した。その後、生産培地24mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃で72時間の間、200rpmで振とう培養した。前記種培地と生産培地の組成は、それぞれ下記の通りである。
<種培地(pH 7.0)>
ブドウ糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KHPO4g、KHPO8g、MgSO・7HO0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1mg、パントテン酸カルシウム2mg、ニコチン酸アミド2mg(蒸留水1L基準)
<生産培地(pH 7.0)>
ブドウ糖6%、硫酸アンモニウム3%、第1リン酸カリウム0.1%、硫酸マグネシウム7水塩0.2%、CSL(トウモロコシ浸漬液)1.5%、NaCl1%、酵母抽出物0.5%、ビオチン100 mg/L(蒸留水1L基準 )。
培養終了後、HPLCによりL−アルギニンの生産量を測定し、分析したL−アルギニンの濃度を表3に示した。
【0054】
【表3】
【0055】
前記結果のように、L−アルギニン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pから前記遺伝子を欠損させたKCCM10741P−RS1の場合、親菌株に比べてL−アルギニン生産能が平均25%増加することを確認した。
前記KCCM10741P−RS1菌株をCA06−2830と命名し、2017年12月15日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korea Culture Center of Microorganisms、KCCM)に寄託し、受託番号KCCM12187Pを与えられた。
したがって、コリネバクテリウム属微生物で配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子を欠損させることにより、L−アルギニン生産能を向上させうることを確認した。
【0056】
実施例7:配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子の弱化のための組換えベクター製作
コリネバクテリウム属菌株の染色体上で配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子を弱化させうる組換えベクターの製作のために、前記遺伝子の開始コドンをTGからTTGに置換して弱化させるようにし、そのための断片を製作するために下記表4に示したようなプライマー3、及びプライマー7〜9を合成した。
【0057】
【表4】
【0058】
前記遺伝子のORF部位(配列番号2)を増幅するために、5’末端と3’末端にXhoI制限酵素部位を有するようにプライマー3(配列番号5)、プライマー7(配列番号9)、プライマー8(配列番号10)、プライマー9(配列番号11)を合成した。プライマー3、プライマー7、プライマー8、及びプライマー9を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの染色体DNAを鋳型にしてPCRを行った。このとき、PCR条件は、変性95℃で5分間変性後、94℃/30秒変性、56℃/30秒アニーリング、72℃/1分重合を30回繰り返した後、72℃で7分間重合反応を通して行った。次に、コリネバクテリウム・グルタミカム内で複製が不可能なpDZベクター(特許文献4)をXhoI制限酵素処理した後、前記で得られたPCR産物をフュージョンクローニングした。フュージョンクローニングは、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kit(Clontech)を用いて行い、これを大腸菌DH5αに形質転換して、カナマイシン(25mg/l)が含まれたLB固体培地に塗抹した。
PCRを介して前記目的の遺伝子が挿入されたプラスミドに形質転換されたコロニーを選別した後、プラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、このプラスミドをpDZ−ΔRS2と命名した。
【0059】
実施例8:配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子が弱化されたコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pの製作及びそのL−アルギニン生産能の評価
前記実施例7で製作された組換えプラスミドpDZ−ΔRS2を染色体上の相同組換えによりL−アルギニン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pに形質転換させた(非特許文献7)。
以降、4%のスクロースを含む固体平板培地で2次組換えを行った。2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、プライマー3とプライマー9を用いて塩基配列を分析し配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子の開始コドンがTTGで置換された菌株を確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P−RS2と命名した。
L−アルギニン生産能を分析するために、親菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741Pと前記製作されたコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10741P−RS2菌株とを、前記実施例6と同様の方法で培養した後、HPLCを用いてL−アルギニンの生産量を測定し、分析したL−アルギニンの濃度を下記表5に示した。
【0060】
【表5】
【0061】
前記の結果のように、L−アルギニン生産菌株であるKCCM10741Pを対象に配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子を弱化させた場合、L−アルギニン生産能が平均12%増加することを確認した。
したがって、コリネバクテリウム属微生物で配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子の発現を弱化させることにより、L−アルギニン生産能を向上させることを確認した。
前記結果を総合すると、配列番号2のヌクレオチド配列を含む遺伝子が欠損または弱化された菌株は、L−アルギニン生産能が増加することが分かり、これは微生物で前記遺伝子がコードするタンパク質の活性を不活性化させて、L−アルギニンを大量生産できることを示唆する。
以上の説明から、本願が属する技術分野の当業者は、本願がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施されうることを理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないものと理解しなければならない。本願の範囲は、前記詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【0062】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]