特許第6806910号(P6806910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806910
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20201221BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20201221BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20201221BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20201221BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20201221BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20201221BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20201221BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20201221BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20201221BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20201221BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20201221BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20201221BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   B60K6/485
   B60K6/543
   B60W10/10 900
   B60W20/00
   F16H63/50
   F16H61/662
   F16H61/02
   F16H59/74
   F16H59/68
   F16H59/14
   B60L50/16
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-539120(P2019-539120)
(86)(22)【出願日】2018年8月6日
(86)【国際出願番号】JP2018029423
(87)【国際公開番号】WO2019044397
(87)【国際公開日】20190307
【審査請求日】2020年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2017-163536(P2017-163536)
(32)【優先日】2017年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 宗桓
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/013238(WO,A1)
【文献】 特開2014−004870(JP,A)
【文献】 特開2006−321391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−20/50
B60K 6/20− 6/547
B60L 1/00−58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者からの駆動力要求に応じてエンジン、及びモータで発生させたトルクを動力伝達部に伝達可能な車両の制御装置であって、
前記駆動力要求に応じて前記モータの出力を制御するモータ制御部と、前記動力伝達部の伝達容量を目標値に基づき制御する伝達容量制御部と、を含む制御部、
を備え、
前記制御部は、前記駆動力要求に基づき前記モータの出力を増加する場合に、前記動力伝達部の伝達容量が前記目標値の所定値以内に収束し、前記動力伝達部の伝達容量の安定が検知されると、前記モータの出力を増加
前記制御部は、前記モータの出力を増加するにあたっては、
前記エンジンの出力と前記モータの出力とを駆動力に用いる要求であるモータアシスト要求に基づき、前記動力伝達部の伝達容量を増加させ、
前記モータアシスト要求の発生時からの経過時間に基づき、前記モータの出力増加開始を決定し、前記経過時間が基準時間を超えた後でかつ、前記動力伝達部の伝達容量の安定が検知されると、前記モータの出力を増加する、
車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記動力伝達部の伝達容量は、油圧によって可変とされ、
前記制御部は、前記経過時間が前記基準時間を超えた場合に、前記モータの出力増加開始を決定し、
前記基準時間は、前記油圧を発生させる油について必要油量がより確保されてないほど長く設定される、
車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記制御部は、前記経過時間が前記基準時間を超えた場合に、前記モータの出力増加開始を決定し、
前記基準時間は、前記エンジン及び前記モータと、前記動力伝達部とを結ぶ動力伝達経路に設けられた摩擦締結要素の差回転が大きいほど長く設定される、
車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記制御部は、前記エンジン及び前記モータと、前記動力伝達部とを結ぶ動力伝達経路に設けられた摩擦締結要素が締結されている場合には、前記経過時間に関わらず、前記モータの出力増加開始を決定する、
車両の制御装置。
【請求項5】
運転者からの駆動力要求に応じてエンジン、及びモータで発生させたトルクを動力伝達部に伝達可能な車両の制御方法であって、
前記駆動力要求に応じて前記モータの出力を制御することと、
前記動力伝達部の伝達容量を目標値に基づき制御することと、
を含み、
前記駆動力要求に基づき前記モータの出力を増加する場合に、前記動力伝達部の伝達容量が前記目標値の所定値以内に収束し、前記動力伝達部の伝達容量の安定が検知されると、前記モータの出力を増加し、
前記モータの出力を増加するにあたっては、
前記エンジンの出力と前記モータの出力とを駆動力に用いる要求であるモータアシスト要求に基づき、前記動力伝達部の伝達容量を増加させ、
前記モータアシスト要求の発生時からの経過時間に基づき、前記モータの出力増加開始を決定し、前記経過時間が基準時間を超えた後でかつ、前記動力伝達部の伝達容量の安定が検知されると、前記モータの出力を増加する、
車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2016/013238には、モータアシストを行う場合に、モータトルクのばらつきを考慮してセカンダリプーリ圧を増加させ、無段変速機の伝達トルク容量を増加させた後に、モータトルクを増加する技術が開示されている。
【発明の概要】
【0003】
セカンダリプーリ圧において、実圧は目標圧に対してオーバーシュートしたりアンダーシュートしたりすることがある。そして、実圧が目標圧に対してアンダーシュートすると、無段変速機の伝達トルク容量が小さくなり、無段変速機で滑りが発生する虞がある。
【0004】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、駆動力要求に基づきモータの出力を増加する場合に、動力伝達部で滑りが発生することを防止可能な車両の制御装置及び車両の制御方法を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のある態様の車両の制御装置は、運転者からの駆動力要求に応じてエンジン、及びモータで発生させたトルクを動力伝達部に伝達可能な車両の制御装置であって、前記駆動力要求に応じて前記モータの出力を制御するモータ制御部と、前記動力伝達部の伝達容量を目標値に基づき制御する伝達容量制御部と、を含む制御部、を備え、前記制御部は、前記駆動力要求に基づき前記モータの出力を増加する場合に、前記動力伝達部の伝達容量が前記目標値の所定値以内に収束し、前記動力伝達部の伝達容量の安定が検知されると、前記モータの出力を増加する構成とされる。前記制御部は、前記モータの出力を増加するにあたっては、前記エンジンの出力と前記モータの出力とを駆動力に用いる要求であるモータアシスト要求に基づき、前記動力伝達部の伝達容量を増加させ、前記モータアシスト要求の発生時からの経過時間に基づき、前記モータの出力増加開始を決定し、前記経過時間が基準時間を超えた後でかつ、前記動力伝達部の伝達容量の安定が検知されると、前記モータの出力を増加する構成とされる。
【0006】
本発明の別の態様によれば、運転者からの駆動力要求に応じてエンジン、及びモータで発生させたトルクを動力伝達部に伝達可能な車両の制御方法であって、前記駆動力要求に応じて前記モータの出力を制御することと、前記動力伝達部の伝達容量を目標値に基づき制御することと、を含み、前記駆動力要求に基づき前記モータの出力を増加する場合に、前記動力伝達部の伝達容量が前記目標値の所定値以内に収束し、前記動力伝達部の伝達容量の安定が検知されると、前記モータの出力を増加する、車両の制御方法が提供される。当該車両の制御方法は、前記モータの出力を増加するにあたっては、前記エンジンの出力と前記モータの出力とを駆動力に用いる要求であるモータアシスト要求に基づき、前記動力伝達部の伝達容量を増加させ、前記モータアシスト要求の発生時からの経過時間に基づき、前記モータの出力増加開始を決定し、前記経過時間が基準時間を超えた後でかつ、前記動力伝達部の伝達容量の安定が検知されると、前記モータの出力を増加するように構成される。
【0007】
これらの態様によれば、実圧が目標圧に対してアンダーシュートすることに起因して、動力伝達部の伝達容量が低下しても、伝達容量が前記目標値の所定値以内に収束し、伝達容量の安定が検知されてからモータの出力を増加する。このため、駆動力要求に基づきモータの出力を増加する場合に、動力伝達部で滑りが発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、車両の概略構成図である。
図2図2は、実施形態で行う制御の一例をフローチャートで示す図である。
図3A図3Aは、基準時間と油量収支との関係を示す図である。
図3B図3Bは、基準時間とロックアップクラッチの差回転との関係を示す図である。
図4図4は、実施形態で行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、車両100の概略構成図である。
【0011】
車両100は、エンジン1と、モータジェネレータ2と、トルクコンバータ3と、変速機4と、油圧制御回路5と、オイルポンプ6と、エンジンコントローラ7と、変速機コントローラ8とを備える。車両100では、エンジン1で発生したトルク(以下、エンジントルクTeと言う。)が、トルクコンバータ3、変速機4、終減速装置9、差動装置10を経て車輪11に伝達される。
【0012】
車両100は、駆動源としてエンジン1及びモータジェネレータ2を有するハイブリッド車両として構成される。車両100では、モータジェネレータ2で発生したトルク(以下、モータトルクTmと言う。)をベルト12などを介してエンジン1の出力軸に伝達するモータアシストを行うことができる。モータアシスト時には、エンジントルクTeとモータトルクTmとが車輪11に伝達される。
【0013】
エンジン1は、発生させたエンジントルクTeを車輪11に伝達して車両100を走行させるとともに、エンジントルクTeの一部をベルト12などを介してエアコン用の圧縮機14、モータジェネレータ2に伝達可能となっており、これらを駆動できる。
【0014】
モータジェネレータ2は、バッテリ15からの電力供給を受けて回転駆動する電動機としての機能と、外力により回転して発電する発電機としての機能とを有する。モータジェネレータ2は、インバータ16を介してバッテリ15に接続されている。モータアシストを行う場合、モータジェネレータ2は電動機として機能する。エンジン1により駆動されている場合、または回生制御が行われている場合、モータジェネレータ2は発電機として機能する。
【0015】
トルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ3aを有しており、ロックアップクラッチ3aが完全に締結されると、トルクコンバータ3の入力軸と出力軸とが直結し、入力軸と出力軸とが同速回転する。ロックアップクラッチ3aは、エンジン1及びモータジェネレータ2で構成される駆動源と、変速機4とを結ぶ動力伝達経路に設けられた摩擦締結要素を構成する。当該動力伝達経路において、モータジェネレータ2、エンジン1及び変速機4は、この順に配置される。
【0016】
変速機4は、無段変速機40と、副変速機構50とを備える。
【0017】
無段変速機40は、プライマリプーリ41と、セカンダリプーリ42と、ベルト43とを備える。無段変速機40では、プライマリプーリ41に供給される油圧(以下、プライマリプーリ圧Ppriと言う。)と、セカンダリプーリ42に供給される油圧(以下、セカンダリプーリ圧Psecと言う。)とが制御されることで、各プーリ41、42とベルト43との接触半径が変更され、変速比が変更される。
【0018】
無段変速機40では、ベルト滑りが発生しないように伝達トルク容量(伝達容量)が制御される。本実施形態では、セカンダリプーリ圧Psecを制御することで伝達トルク容量が制御され、伝達トルク容量はセカンダリプーリ圧Psecが高くなると大きくなる。したがって、伝達トルク容量は、セカンダリプーリ圧Psecによって可変とされる。無段変速機40は、動力伝達部を構成する。動力伝達部は具体的には、ベルト43で構成されていると把握されてもよい。
【0019】
副変速機構50は前進2段・後進1段の有段変速機構である。副変速機構50は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構と、ラビニョウ型遊星歯車機構を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素であるLowブレーキ51、Highクラッチ52、及びRevブレーキ53を備える。これらの摩擦締結要素への供給油圧を調整して締結・解放状態を変更すると、副変速機構50の変速段が変更される。
【0020】
変速機4は、無段変速機40の変速比と副変速機構50の変速段とが変更されることで、変速機4全体としての変速比が変更される。
【0021】
油圧制御回路5は、複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路5は、変速機コントローラ8からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換える。また、油圧制御回路5は、変速機コントローラ8からの変速制御信号に基づき、オイルポンプ6で発生した油圧から必要なライン圧PLを調製し、これを無段変速機40、副変速機構50、トルクコンバータ3の各部位に供給する。本実施形態では、無段変速機40におけるセカンダリプーリ圧Psecはライン圧PLに等しい。
【0022】
変速機コントローラ8は、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ20からの信号、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ21からの信号、シフトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ22からの信号、車速VSPを検出する車速センサ23からの信号、変速機4の油温を検出する油温センサ24からの信号、エンジン1、モータジェネレータ2の制御を司るエンジンコントローラ7からのエンジントルクTe、モータトルクTmに関した信号などが入力される。
【0023】
ところで、セカンダリプーリ圧Psecにおいて、実圧Psec_Aは目標圧Psec_Tに対してオーバーシュートしたりアンダーシュートしたりすることがある。そして、実圧Psec_Aが目標圧Psec_Tに対してアンダーシュートすると、伝達トルク容量が小さくなり、無段変速機40、具体的にはベルト43で滑りが発生することが懸念される。
【0024】
このような事情に鑑み、本実施形態ではコントローラ30が次に説明する制御を行う。
【0025】
図2は、コントローラ30が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。コントローラ30は、本フローチャートの処理を実行するように構成されることで、制御部を有した構成とされる。本フローチャートにおいて、ステップS10、ステップS12の処理は、具体的にはエンジンコントローラ7によって行われ、それ以外の処理は、具体的には変速機コントローラ8によって行われる。
【0026】
ステップS1で、コントローラ30は、モータジェネレータ2及び無段変速機40にフェールがないか否か、つまりこれらが正常か否かを判定する。モータジェネレータ2にフェールがないか否かについては、エンジンコントローラ7から取得するフェール情報に基づき判定することができる。ステップS1では、車両100にフェールがないか否かが判定されてもよい。ステップS1で肯定判定であれば、処理はステップS2に進む。
【0027】
ステップS2で、コントローラ30は、モータアシスト要求の有無を判定する。モータアシスト要求は、エンジン1の出力とモータジェネレータ2の出力とを駆動力に用いる要求であり、モータアシスト条件が成立している場合に発生する。当該駆動力は具体的には、車両駆動力である。
【0028】
モータアシスト条件は例えば、アクセル開度APO、車速VSPを含む車両の運転状態で規定された動作点が、予め設定されたモータアシスト領域にあることを含む。このようなモータアシスト条件の成立、不成立は、運転者からの駆動力要求に応じて変化する。具体的にはモータアシスト条件が成立すると、運転者からの駆動力要求に応じて、エンジン1、及びモータジェネレータ2で発生させたトルクが無段変速機40に伝達されることになる。
【0029】
ステップS2の判定は具体的には、変速機コントローラ8で行うことができ、モータアシスト要求の情報は、エンジンコントローラ7から変速機コントローラ8に入力することができる。ステップS2で肯定判定であれば、処理はステップS3に進む。
【0030】
ステップS3で、コントローラ30は、タイマーを始動させる。これにより、モータアシスト要求発生時からの経過時間Tpが計測される。
【0031】
ステップS4で、コントローラ30は、セカンダリプーリ圧Psecの増大を行う。これにより、無段変速機40の伝達トルク容量が増大する。セカンダリプーリ圧Psecの増大は、モータアシストに対し十分な伝達トルク容量、つまりベルト滑りが発生しない伝達トルク容量を確保するために行われる。
【0032】
ステップS5で、コントローラ30は、油量収支が十分か否かを判定する。油量収支は、セカンダリプーリ圧Psecを発生させる油についての油量収支(必要なセカンダリプーリ圧Psecを発生させるのに必要な油量と、オイルポンプ6が供給できる油量との関係)であり、変速機4の油温、エンジン回転速度Ne、油の劣化に依存する。具体的には油量収支は、変速機4の油温が高いほど低下する。また、油量収支は、エンジン回転速度Neが低いほど低下し、油が劣化するほど低下する。
【0033】
油量収支が十分か否かは例えば、変速機4の油温、エンジン回転速度Ne、総走行距離を含む車両の運転状態で規定された動作点が、予め設定された油量収支十分領域にあるか否かで判定することができる。セカンダリプーリ圧Psecを発生させる油についての油量収支は例えば、当該油を供給するオイルポンプ6での油量収支とすることができる。
【0034】
ステップS5で肯定判定であれば、処理はステップS6に進む。ステップS5で否定判定であれば、油量収支が不十分、つまり必要な油量が確保されていないと判断され、処理はステップS7に進む。
【0035】
ステップS6で、コントローラ30は、ロックアップクラッチ3aが完全ロックアップ状態、つまり完全締結状態か否かを判定する。完全ロックアップ状態か否かは例えば、ロックアップクラッチ3aの差回転がゼロか否かで判定することができる。ステップS6で否定判定であった場合、処理はステップS7に進む。
【0036】
ステップS7で、コントローラ30は、基準時間Tsを決定する。基準時間Tsは、モータアシストを開始する基準となる時間であり、経過時間Tpが基準時間Tsを超えるとモータアシストが開始される。
【0037】
図3Aは、基準時間Tsと油量収支との関係を示す図であり、図3Bは、基準時間Tsとロックアップクラッチ3aの差回転との関係を示す図である。図3Aでは油量収支に応じた基準時間Tsの変化を、図3Bではロックアップクラッチ3aの差回転に応じた基準時間Tsの変化を傾向としてそれぞれ示す。
【0038】
図3Aに示すように、基準時間Tsは具体的には、油量収支が低い(必要な油量が確保されていないと判断)ほど長くなるように設定される。「油量収支が低い」とは、「油量収支が高い」状態に比べ、必要な油量がより確保されていない状態である。また、図3Bに示すように、基準時間Tsは、ロックアップクラッチ3aの差回転が大きいほど長くなるように設定される。
【0039】
つまり、基準時間Tsは、油量収支と、ロックアップクラッチ3aの差回転とに応じて可変とされる。基準時間Tsは例えば、マップデータ等で予め設定することができる。基準時間Tsは例えば一定値であってもよい。但しこの場合には、状況によっては基準時間Tsが必要以上に長くなり得る。
【0040】
図2に戻り、ステップS8で、コントローラ30は、経過時間Tpが基準時間Tsを超えたか否かを判定する。ステップS8で否定判定であれば、処理はステップS8に戻る。ステップS8で肯定判定であれば、処理はステップS9に進む。
【0041】
つまり、ステップS8で肯定判定されるまでの間は、ステップS9以降に処理が進まず、モータアシストが行われないので、モータアシストの開始は決定されていない状態となる。その一方で、ステップS8で肯定判定されると、処理がステップS9に進むことで、このような状態から脱する結果、経過時間Tpに基づきモータアシストの開始が決定されることになる。
【0042】
ステップS6で肯定判定であった場合も、処理はステップS9に進む。この場合、ステップS8の判定は行われない。
【0043】
つまり、ロックアップクラッチ3aが締結されている場合には、経過時間Tpが基準時間Tsを超えているか否かに関わらず、処理をステップS9に進めることができる。結果、この場合には、経過時間Tpが基準時間Tsを超えているか否かに関わらず、モータアシストの開始が決定されることになる。
【0044】
ステップS9で、コントローラ30は、実圧Psec_Aの安定が検知されたか否かを判定する。実圧Psec_Aの安定が検知されたか否かは例えば、実圧Psec_Aと目標圧Psec_Tとの差分の大きさが、予め設定された所定値α以下であるか否かで判定できる。セカンダリプーリ圧Psecの安定は具体的に言えば、本ステップに示されるように実圧Psec_Aの安定である。
【0045】
ここで、ステップS9の処理は、前述した通り、ステップS6又はステップS8の肯定判定に続いて行われる。このため、モータアシストの開始を決定することとは換言すれば、本実施形態においてモータアシストを行うために必要とされるセカンダリプーリ圧Psecの安定の検知を許可すること、といえる。モータアシストの開始を決定することとは、セカンダリプーリ圧Psecの安定の検知をすでに行っている場合に、検知の結果を無効とせず有効にすること、を含む。ステップS9で否定判定であれば、処理はステップS9に戻る。ステップS9で肯定判定であれば、処理はステップS10に進む。
【0046】
ステップS10で、コントローラ30は、変速機4のモータアシスト許可の有無を判定する。モータアシスト許可条件は例えば、無段変速機40の伝達トルク容量が十分であること、したがって、実圧Psec_Aがベルト滑りを発生させない大きさであることを含む。モータアシスト許可条件は、変速機4の油温、ロックアップクラッチ3aの状態、副変速機構50の状態、変速機4のレンジの状態等の条件をさらに含んでもよい。
【0047】
ステップS10の判定は具体的には、エンジンコントローラ7で行うことができ、モータアシスト許可情報は、モータアシスト許可条件が成立した場合に、変速機コントローラ8からエンジンコントローラ7に入力することができる。ステップS10で否定判定であれば、処理はステップS10に戻る。ステップS10で肯定判定であれば、処理はステップS11に進む。
【0048】
ステップS11で、コントローラ30は、モータアシスト終了判定を行う。モータアシスト終了判定は、モータアシスト要求がないか否かで判定できる。モータアシスト要求がないことは、エンジンコントローラ7からのモータアシスト要求の情報に基づき、変速機コントローラ8で判定できる。ステップS11で否定判定であれば、処理はステップS12に進む。
【0049】
ステップS12で、コントローラ30は、モータアシストを行う。これにより、駆動力要求に応じてモータジェネレータ2の出力が制御される。モータアシストでは具体的には、駆動力要求に基づきモータジェネレータ2の出力が増加される。ステップS12の後には、処理はステップS11に戻る。ステップS11で肯定判定であれば、処理はステップS13に進む。ステップS1、ステップS2で否定判定であった場合も、処理はステップS13に進む。
【0050】
ステップS13で、コントローラ30は、モータアシストを禁止する。ステップS13の処理は具体的には、変速機コントローラ8で行うことができ、モータアシストを禁止した、という情報は、変速機コントローラ8からエンジンコントローラ7に入力できる。これにより、エンジンコントローラ7は、モータアシストを終了させることができる。
【0051】
ステップS13で、コントローラ30はさらに、セカンダリプーリ圧Psecの増大を終了する。これにより、モータアシストに応じた伝達トルク容量の増大が終了する。セカンダリプーリ圧Psecの増大は、モータアシストが完全に終了した後に終了することができる。ステップS13の後には、本フローチャートの処理は終了する。
【0052】
ステップS10で否定判定であった場合、コントローラ30は例えば、モータアシスト要求があるか否かを判定し、肯定判定であった場合にステップS10に戻り、否定判定であった場合にステップS13に進むようにしてもよい。ステップS8、ステップS9についても同様である。
【0053】
図4は、図2に示すフローチャートに対応するタイミングチャートの一例を示す図である。タイミングT1では、アクセル開度APOが上昇し、これに応じてエンジン回転速度Ne、エンジントルクTeが上昇する。
【0054】
タイミングT1では、ロックアップクラッチ3aは解放されている。このため、エンジン回転速度Neが上昇しても、トルクコンバータ3のタービン回転速度Ntは直ちには上昇しない。タービン回転速度Ntは、エンジントルクTeが二点破線で示す必要トルクになると上昇し始める。
【0055】
エンジントルクTeが上昇するタイミングT1では、目標圧Psec_Tも上昇する。また、目標圧Psec_Tが上昇することで、実圧Psec_Aも上昇する。
【0056】
タイミングT2では、モータアシスト条件が成立し、モータアシスト要求が発生する。但し、タイミングT2では、モータアシスト許可条件は成立していない。モータアシスト制御状態につき、「準備」はこのような状態を示す。
【0057】
タイミングT2では、発生したモータアシスト要求に基づき、目標圧Psec_Tが増大されることで、実圧Psec_Aが増大される。つまり、セカンダリプーリ圧Psecの増大が行われる。これにより、モータアシストに備えて無段変速機40の伝達トルク容量が増加される。セカンダリプーリ圧Psecの増大は、実圧Psec_Aが次第に大きくなるように行われる。
【0058】
タイミングT2では、エンジン回転速度Ne及びタービン回転速度Ntからわかるように、ロックアップクラッチ3aはスリップ状態になっており、締結されていない。このため、タイミングT2からは、経過時間Tpが増加する。無段変速機40の変速比は、タイミングT2後から次第にHIGH側に変更され、小さくなる。
【0059】
タイミングT3では、目標圧Psec_Tが一定になる。実圧Psec_Aは、一定となった目標圧Psec_Tに対しオーバーシュートした後、アンダーシュートする。このような実圧Psec_Aの変動は、次第に収束する。
【0060】
タイミングT4では、経過時間Tpが基準時間Tsを超える。さらに、タイミングT4では、実圧Psec_Aと目標圧Psec_Tとの差分の大きさが所定値α以下になっており、実圧Psec_Aの安定が検知される。モータアシスト制御状態につき、「許可」はこのような状態を示す。
【0061】
上記の結果、タイミングT4からはモータアシストが開始され、これによりモータトルクTmが上昇する。モータトルクTmは、タイミングT4から次第に上昇する。タイミングT4からは、モータトルクTmを上昇させる分、エンジントルクTeを低下させる協調制御が行われる。これにより、モータトルクTmを上昇させても、エンジントルクTe及びモータトルクTmで必要トルクを維持することができる。
【0062】
タイミングT5からは、モータトルクTm及びエンジントルクTeが定常状態になる。モータアシスト制御状態につき、「定常」はこのような状態を示す。
【0063】
タイミングT6では、モータアシスト要求がなくなる。このため、タイミングT6からは、モータアシストを完全に終了すべく、モータトルクTmを低下させる分、エンジントルクTeを上昇させる協調制御が開始される。モータアシスト制御状態につき、「協調」はこのような状態を示す。モータトルクTmは、タイミングT6から次第に低下される。そして、モータアシストが完全に終了すると、モータアシストに応じた実圧Psec_Aの増大も完全に終了される。
【0064】
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0065】
コントローラ30は、運転者からの駆動力要求に応じてエンジン1、及びモータジェネレータ2で発生させたトルクを無段変速機40に伝達可能な車両100の制御装置を構成する。コントローラ30は、駆動力要求に応じてモータジェネレータ2の出力を制御するモータ制御部を構成するエンジンコントローラ7と、無段変速機40の伝達トルク容量を制御する伝達容量制御部を構成する変速機コントローラ8と、を含み、モータアシストを行う場合に、無段変速機40の伝達トルク容量の安定が検知されると、モータアシストを行う構成とされる。
【0066】
このような構成によれば、実圧Psec_Aが目標圧Psec_Tに対してアンダーシュートすることに起因して、無段変速機40の伝達トルク容量が低下しても、伝達トルク容量の安定が検知されてからモータアシストを行う。このため、駆動力要求に基づきモータアシストを行う場合に、無段変速機40で滑りが発生することを防止できる。
【0067】
コントローラ30は、モータアシスト要求に基づき無段変速機40の伝達トルク容量を増加させる。また、コントローラ30は、モータアシスト要求の発生時からの経過時間Tpに基づきモータアシストの開始を決定する。
【0068】
このような構成によれば、モータアシスト要求に基づき伝達トルク容量を増加させた上で、モータアシストの開始を決定するにあたり、経過時間Tpに基づき決定を行うので、モータアシストの開始決定が容易である。
【0069】
コントローラ30は、経過時間Tpが基準時間Tsを超えた場合に、モータアシストの開始を決定し、基準時間Tsは、油量収支が低いほど長く設定される。
【0070】
このような構成によれば、油量収支が低く伝達トルク容量が上がり難いときはモータアシストの開始を遅らせることで、ベルト滑りを防止できる。
【0071】
ロックアップクラッチ3aが締結されていない場合、モータアシストにより意図しない回転の吹け上がりが発生する結果、ロックアップクラッチ3aで締結ショックや耐久性低下が発生し得る。このため、ロックアップクラッチ3aが締結されていない場合には、モータアシストを禁止することも考えられる。
【0072】
本実施形態では、コントローラ30は、経過時間Tpが基準時間Tsを超えた場合に、モータアシストの開始を決定し、基準時間Tsは、ロックアップクラッチ3aの差回転が大きいほど長く設定される。
【0073】
このような構成によれば、ロックアップクラッチ3aの差回転が大きいときはモータアシストの開始を遅らせることで、ロックアップクラッチ3aが締結されていない場合でも、モータアシストを禁止せずに済む。このため、モータアシストを禁止する場合よりも、エンジン1の燃費向上を図ることができる。
【0074】
コントローラ30は、ロックアップクラッチ3aが締結されている場合には、経過時間Tpに関わらず、モータアシストの開始を決定する。
【0075】
このような構成によれば、ロックアップクラッチ3aが締結されている場合には、モータアシストを最大限早く開始できるので、その分、エンジン1の燃費向上を図ることができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0077】
上述した実施形態では、車両100が、無段変速機40と副変速機構50とを備える場合について説明した。しかしながら、車両100は、無段変速機40を備える構成であればよく、例えば副変速機構50の代わりに前後進切替機構を備える構成であってもよい。
【0078】
上述した実施形態では、コントローラ30がモータアシストを開始する場合を例にして説明した。しかしながら、このような場合の代わりに例えば、モータアシスト中にモータトルクTmが増加される場合が対象とされてもよい。
【0079】
上述した実施形態では、エンジンコントローラ7及び変速機コントローラ8、つまり複数のコントローラからなるコントローラ30が制御部を構成する場合について説明した。しかしながら、制御部は例えば、単一のコントローラで実現されてもよい。
【0080】
本願は2017年8月28日に日本国特許庁に出願された特願2017−163536に基づく優先権を主張しこの出願のすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図4