特許第6806959号(P6806959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6806959ダイオキシン類の催奇形性予防および阻止剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806959
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】ダイオキシン類の催奇形性予防および阻止剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/065 20060101AFI20201221BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALI20201221BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20201221BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
   A61K31/065ZNA
   A61P39/02
   A61K31/7032
   !C12Q1/68
   !C12N15/09
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-256605(P2016-256605)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-108948(P2018-108948A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年12月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔電気通信回線〕 〔ウェブサイトの掲載日〕 平成28年7月15日 〔ウェブサイトのアドレス〕 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27427306
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】716005715
【氏名又は名称】山本 彩未
(73)【特許権者】
【識別番号】517003484
【氏名又は名称】山本 順司
(72)【発明者】
【氏名】徳永 彩未
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 Yakugaku zasshi,2007年,Vol.127, Suppl.4,pp.120-122
【文献】 Nutr Cancer,2012年,Vol.64, No.7,pp.1008-1019
【文献】 IOSR J Pharm,2013年,Vol.3,pp.18-24
【文献】 Food Chem Toxicol,2016年 7月15日,Vol.96,pp.160-166
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61P 1/00−43/00
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00−1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セコイソラリシレシノール(SECO) およびその植物リグナン前駆体であるセコイソラリシレシノールジグルコシド (SDG) の少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とするダイオキシン類の毒性を予防および阻止するための剤。
【請求項2】
前記毒性は催奇形性であることを特徴とする請求項1に記載の剤。
【請求項3】
ダイオキシン類の毒性を予防および阻止するためのセコイソラリシレシノール (SECO) およびその植物リグナン前駆体であるセコイソラリシレシノールジグルコシド (SDG) の少なくとも1つの使用。
【請求項4】
前記毒性は催奇形性であることを特徴とする請求項3に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類の毒性、特に催奇形性を予防および阻止するために使用する用途および剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴミ焼却場を最大の汚染源として環境中に蓄積し続けているダイオキシン類は、難分解性・生物濃縮性・猛毒であり、ほ乳類、鳥類、魚類等において種々の毒性を誘発することが示唆されている環境汚染物質である。実験動物を用いた研究および産業事故後の人体曝露の報告によると、ダイオキシン類は経皮毒性、神経毒性、免疫毒性、発癌性、催奇形性、生殖毒性、発生毒性を含む種々の毒性影響を誘発することが示唆されている (例えば非特許文献1、2、3、4)。ダイオキシン類は性ホルモンと一部構造が類似していて、年々増加している乳癌、子宮内膜症、前立腺癌、精巣癌、生殖能低下等の原因として疑われている。さらに、ダイオキシン類は、母親の年齢が高いほどへその緒を通じて胎児に移行する量が高くなる傾向が示唆されているが、これは、上述したようにダイオキシン類が体内でも分解されにくく、年齢が高い人程蓄積量が高くなっているためと考えられており、自然発生先天異常との相関が指摘されている。出産年齢が高くなっている現代では特に重要な問題である。
【0003】
これらの毒性影響のほとんどは、ダイオキシン類とダイオキシン受容体 (AhR) との間の相互作用を通して発現される。ダイオキシン類が体内に入ると、体細胞質内に存在しているAhRに結合した後、核内へ移行、AhR核移行因子 (ARNT) とヘテロ二量体を形成することにより、DNA結合型へのAhRの形質転換 (活性化) が引き起こされる。このヘテロ二量体は、DNAのダイオキシン応答因子 (DREs) に結合し、チトクロームP450 (CYP) サブファミリー等の薬物代謝酵素を含む一連の遺伝子の発現を誘導する。中でも最もよく特徴づけられた応答は、CYP1A1遺伝子の発現誘導である。CYP1Asは、アリール炭化水素を遺伝毒性代謝物に代謝する酵素で、この毒性代謝物は、DNAに結合し突然変異を引き起こし、結果として種々の毒性誘発につながる。
【0004】
ある合成フラボノイド: 例えばα-ナフトフラボン (非特許文献5)、3’-メトキシ-4’-ニトロフラボン (非特許文献6)、3’,4’-ジメトキシフラボン (非特許文献7) は、AhRの形質転換を抑制することが知られている。また、天然フラボノイド: 例えばgalangin、kaempferol (特許文献1)、新規フラボノイド化合物 (特許文献2) もAhRの形質転換を抑制することが報告されている。非特許文献5〜7の合成フラボノイドはそれ自体に強い毒性があることから、日常的に摂取できるものではない。また、特許文献1、2は、in vitro (試験管内での抽出細胞等を用いた人工的な) 実験のみを扱ったものであり、in vivo (実験動物を用いて生体の反応を見る) 実験は扱っておらず、フラボノイドの摂取はダイオキシンにより引き起こされるAhR依存性の作用を単一細胞レベルにおいて減じる可能性を暗示するが、その可能性の暗示は単一細胞レベルのみに限定される。つまり、何重ものフィードバック機構等きわめて複雑な諸過程を含む生体レベルにおいてダイオキシンの毒性抑制が実際に起こり得るのか、生体レベルにおいての具体的な効果については全く検討・言及しておらず、不明である。さらに、ダイオキシン類により生じる形態異常・機能異常等の先天異常を実際に効果的に予防ないし阻害する化合物を報告した例はこれまでにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−348382号公報
【特許文献2】特開2004−123728号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Van den Berg, M. et al.: “The 2005 World Health Organization reevaluation of human and Mammalian toxic equivalency factors for dioxins and dioxin-like compounds.” Toxicol. Sci. vol. 93, 2006, p. 223-241.
【非特許文献2】Safe, S. H.: “Polychlorinated biphenyls (PCBs): environmental impact, biochemical and toxic responses, and implications for risk assessment.” Crit. Rev. Toxicol. vol. 24, 1994, p. 87-149.
【非特許文献3】Agency for Toxic Substances and Disease Registry (ATSDR). 2000. Toxicological profile for Polychlorinated Biphenyls (PCBs). Atlanta, GA: U.S. Department of Health and Human Services, Public Health Service.
【非特許文献4】Eum, S.Y. et al.: “Lipid rafts regulate PCB153-induced disruption of occludin and brain endothelial barrier function through protein phosphatase 2A and matrix metalloproteinase-2.” Toxicol Appl Pharmacol. vol. 287, 2015, p. 258-266.
【非特許文献5】Gasiewicz, T.A. et al.: “Alpha-naphthoflavone acts as an antagonist of 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin by forming an inactive complex with the Ah receptor.” Mol. Pharmacol. vol. 40, 1991, p. 607-612.
【非特許文献6】Nazarenko, D.A. et al.: “In vivo antagonism of AhR-mediated gene induction by 3’-methoxy-4’-nitroflavone in TCDD-responsive lacZ mice.” Toxicol. Sci. vol. 61, 2001, p. 256-264.
【非特許文献7】Lee, J.E. et al.: “3’,4’-Dimethoxyflavone as an aryl hydrocarbon receptor antagonist in human breast cancer cells.” Toxicol. Sci. vol. 58, 2000, p. 235-242.
【非特許文献8】Wang, L.Q. et al.: “Human intestinal bacteria capable of transforming secoisolariciresinol diglucoside to mammalian lignans, enterodiol and enterolactone.” Chem. Pharm. Bull. vol. 48, 2000, p. 1606-1610.
【非特許文献9】Thompson, L.U. Flaxseed, lignans and cancer. In: Flaxseed in Human Nutrition. (S.C. Cunnane, S.C. and Thompson, L.U., eds.), AOSC Press, Champaign, IL, 1995, p. 219-236.
【非特許文献10】Peterson, R.E. et al.: “Developmental and reproductive toxicity of dioxins and related compounds: cross-species comparisons.” Crit. Rev. Toxicol. vol. 23, 1993, p. 283-335.
【非特許文献11】Brinkworth, L.C. et al.: “CYP1A induction and blue sac disease in early developmental stages of rainbow trout (Oncorhynchus mykiss) exposed to retene.” J. Toxicol. Environ. Health A. vol. 6, 2003, p. 627-646.
【非特許文献12】Walker, M.K. et al.: “2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) toxicity during early life stage development of lake trout (Salvelinus namaycush).” Can. J. Fish. Aquat. Sci. vol. 48, 1991, p. 875-883.
【非特許文献13】Henry, T.R. et al.: “Early life stage toxicity of 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin in zebrafish (Danio rerio).” Toxicol. Appl. Pharmacol. vol. 142, 1997, p. 56-68.
【非特許文献14】Jonsson, M.E. et al.: “Role of AHR2 in the expression of novel cytochrome P450 1 family genes, cell cycle genes, and morphological defects in developing zebra fish exposed to 3,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl or 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin.” Toxicol. Sci. vol. 100, issue 1, 2007, p. 180-193.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、未だ満足にダイオキシン類の種々の毒性を生体レベルにおいて安全に予防ないし阻害する方法はない状況であり、ダイオキシン類と自然発生先天異常との相関が指摘されている現状において、ダイオキシン類の種々の毒性、特に催奇形性を生体レベルにおいて効果的に予防ないし阻害する方法が必要とされていた。
【0008】
本発明の目的は、日常的に安全に摂取できるダイオキシン類の毒性、特に催奇形性を効果的に予防および阻止するための剤を初めて提供することである。
本発明の他の目的は、上記のダイオキシン類の催奇形性予防および阻止剤、ダイオキシン類の他の毒性予防および阻止剤を有効成分として含有する新規組成物、機能性食品、新規用途を初めて提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記の目的を達成するためのセコイソラリシレシノール(secoisolariciresinol, SECO) およびその植物リグナン前駆体であるセコイソラリシレシノールジグルコシド (secoisolariciresinol diglucoside, SDG) の新規用途を初めて提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明を極めて独創的にしている要素の一つは、非公知の独自の解析法により、その構造等から推測したセコイソラリシレシノール (SECO) の潜在的なAhR拮抗能に着眼した点であり、鋭意研究を重ねた結果、SECOが生体レベルにおいてダイオキシン類の毒性、特に催奇形性を予防および阻止できることを初めて見出すことに成功し、本発明を完成するに至った。
本発明は、セコイソラリシレシノール (SECO) およびその植物リグナン前駆体であるセコイソラリシレシノールジグルコシド (SDG) の少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とするダイオキシン類の催奇形性予防および阻止剤、ダイオキシン類の他の毒性予防および阻止剤によって達成される。
さらに、本発明は、ダイオキシン類の毒性、特に催奇形性を予防および阻止するためにSECOおよびその植物リグナン前駆体であるSDGの少なくとも1つを使用することによって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、(1) セコイソラリシレシノール(SECO) およびその植物リグナン前駆体であるセコイソラリシレシノールジグルコシド (SDG) の少なくとも1つを有効成分として含有するダイオキシン類の催奇形性予防および阻止効果、ダイオキシン類の他の毒性予防および阻止効果を有する新規組成物、機能性食品、新規用途を提供することができる、(2) この化合物は、ダイオキシン類摂取による催奇形性を予防および阻止することができる、(3) この化合物は、ダイオキシン類摂取による他の毒性を予防および阻止することができる、(4) この化合物は、日常的に安全に摂取することができる、(5) この化合物は、たとえダイオキシン類を既に体内に取り込んでしまってから摂取したとしても、ダイオキシン類の毒性、特に催奇形性の予防および阻止効果を発揮することができる、という効果を奏する。

本発明の更なる特徴と利点とは、図面と共に以下に記載される詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ダイオキシン類と関連がある種々の毒性影響に対するSECOの効果を解析した結果を示す。
図2】ダイオキシン類の催奇形性に対するSECO投与効果を解析した結果を示す。
図3】ダイオキシン類およびSECO投与後80 hpf ・120 hpfにおけるゼブラフィッシュ胚の代表写真を示す。
図4】ゼブラフィッシュ胚の処理および心嚢浮腫の評価の実験デザインを示す。
図5】ダイオキシン類の催奇形性に対する異なる時間でのSECO投与効果を解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の剤は、ダイオキシン類が誘発する種々の毒性を生体レベルにおいて予防および阻止することができる。なかでも、ダイオキシン類と自然発生先天異常との相関が指摘されている現状において重要な問題となっている催奇形性に対し、多大な予防および阻止効果を有することが示された。
【0014】
ダイオキシン類とは、化学構造が異なる化合物群 (ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン (PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン (PCDFs)、コプラナーポリ塩化ビフェニル (Co-PCBs) ) の総称をいう。これらには、塩素の結合する位置や数によって多くの異性体が存在し、AhRとの間の相互作用を通して発現される類似した毒性を示す。
【0015】
毒性とは、急性的・慢性的に生体に悪影響を及ぼす性質をいう。本発明で言うダイオキシン類の毒性は特に限定されないが、経皮毒性、神経毒性、免疫毒性、発癌性、催奇形性、生殖毒性、発生毒性、遺伝毒性、神経発達毒性、発達障害毒性等が挙げられる。
【0016】
催奇形性とは、発生過程に作用して形態異常・機能異常を含む先天異常を生じさせる性質をいう (岩波理化学辞典)
【0017】
本発明において使用するセコイソラリシレシノール (SECO) の化学構造式は下記化1、その植物リグナン前駆体であるセコイソラリシレシノールジグルコシド (SDG) の化学構造式は下記化2で示される。
【化1】
【化2】

【0018】
セコイソラリシレシノール (SECO) およびその植物リグナン前駆体であるセコイソラリシレシノールジグルコシド (SDG) は、天然の成分として見いだされる。本発明で有効成分として使用されるSECOは、ほ乳類等の生体内に存在する腸内細菌によりSDGが代謝される過程で生じるより高い生理活性を有する代謝産物としても知られている (非特許文献8)。SDGは、SECO等の生理活性植物リグナンの前駆体として利用することが効果的であることが報告されている (たとえば非特許文献9)。したがって、本発明では、好適には、SECOが使用されるが、これに制限されるものではなく、その植物リグナン前駆体であるSDGを使用することが可能である。
【0019】
SECOおよびその植物リグナン前駆体であるSDGを得る方法は、特に限定されず、化学合成により得ることができる他、亜麻仁等の天然物から公知の方法で抽出、精製して得ることができる。
【0020】
本発明のSECOおよびその植物リグナン前駆体であるSDGの少なくとも1つを有効成分として含有する剤は、薬学的に許容される担体等とともに任意の形態に製剤化して経口または非経口投与することができる。
その方法および薬剤の形態等は特に制限されないが、経口投与する場合は、例えば飲料、食品、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、タブレット剤等として投与でき、非経口投与する場合は、例えば注射剤、点滴剤として投与できる。
SECO、SDGに対する安全性等は、これまで多くの論文で確認されている。
【0021】
本発明のSECOおよびその植物リグナン前駆体であるSDGの少なくとも1つを有効成分として含有する剤の、有効成分の含有パターンとしては、有効成分としてSECOおよびSDGの両者を共に含有するパターン、有効成分としてSECOのみを含有するパターン、有効成分としてSDGのみを含有するパターンがある。
【0022】
ダイオキシン類は我々の日常生活の至る所に溢れかえっており、我々は知らず知らずの内に摂取している。摂取されたダイオキシン類は体内に蓄積されていき、種々の毒性影響を誘発する可能性があるほか、へその緒を通じて移行し胎児にも重大な影響 (形態異常・機能異常を含む先天異常) を及ぼす。本発明の剤は、ヒトに投与することができる。
【0023】
本発明の剤はまた、養殖飼料に配合することができる。養殖飼料とは、魚類、貝類、甲殻類等の餌をいう。本発明の養殖飼料の形態は特に限定されるものではなく、例えば粉末、顆粒等が挙げられる。
本発明の剤はまた、これらの水棲生物に餌として投与する以外にも、水棲生物が胚の初期段階にあるとき、胚を培養している培養槽の培養液中に混合溶解させることによって投与することもできる。
【0024】
本発明の剤はまた、繁殖を希望する家畜を含む、家畜の家畜飼料に配合することができる。家畜飼料とは、牛、豚、鶏、馬等の餌をいう。本発明の家畜飼料の形態は特に限定されるものではなく、例えばペレット、粉末、顆粒等が挙げられる。
【0025】
本発明の剤はまた、繁殖を希望するペットを含む、ペットのペットフードに配合することができる。ペットフードとは、犬、猫、ハムスター、リス、鳥、観賞魚等の餌をいう。本発明のペットフードの形態は特に限定されるものではなく、例えばペレット、ビスケット、カプセル、粉末、顆粒等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
次に実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0027】
動物においては一般に、胚形成期が全ライフサイクル中で最も化学物質の影響を受けやすく、魚類胚はダイオキシン類に最も感受性の高い生物のひとつである (たとえば非特許文献10、11)。魚類胚においてダイオキシン類によってもたらされる特徴的な形態・機能異常は、心嚢浮腫、頭蓋顔面奇形である (たとえば非特許文献12、13、14)。また、魚類胚は化学物質に対し、液体中に混合することによって完全に曝露させることが可能なため、その影響を高感度に検出することができる。本実施例1〜3では、形態・機能異常を観察するモデルとして、発達中のゼブラフィッシュ胚 (ゼブラフィッシュ (学名: Danio rerio) は、急速な発達、透明性、生産性等の利点のために胎生学、発生生物学における最も重要な脊椎動物モデル種である) を用い、ダイオキシン類の毒性、特に催奇形性に対するSECOの予防および阻止効果を検討した。ダイオキシン類としては、最も強力なAHR作用薬の一つである3,3',4,4',5-Pentachlorobiphenyl (3,3',4,4',5-ペンタクロロビフェニル, PCB126) を用い、ダイオキシン類への曝露により生じる形態・機能異常としては、心嚢浮腫に焦点をあてた。心嚢浮腫は、血管発達障害による心機能障害、腎機能障害と共に見られる異常な表現型である。
【実施例1】
【0028】
[ダイオキシン類と関連がある種々の毒性影響に対するSECOの効果の解析]
1. 材料および方法
(1)ゼブラフィッシュの飼育
本発明で使用したTubingen long fin (TL) ゼブラフィッシュは、マサチューセッツ総合病院 (Massachusetts General Hospital) のMark Fishman研究室の施設から入手したTLsゼブラフィッシュとオレゴン大学 (Eugene, OR, USA) リソースセンター (Zebrafish International Resource Center) から入手した卵から飼育したTLsゼブラフィッシュとをウッズホール海洋研究所のゼブラフィッシュ施設にて掛け合わせて生まれた子孫であり、当施設で飼育維持している。
エアレーションおよび濾過された再循環システム水 (28.5°C) の入った10L水槽で、雌雄2:1の比、密度≦5 fish/LのTLゼブラフィッシュを飼育した (Aquatic HabitatTMsystem)。システム水は、Instant OceanTM (Instant Ocean Inc., Boston, MA, USA) (60 mg/l)、重炭酸ナトリウム (50 mg/l)、硫酸カルシウム (8.5 mg/l)、Freshwater EssentialsTM (Kent Marine Inc., Acworth, GA, USA) (53 μl/l) を蒸留水に溶かした溶液を用いた。ゼブラフィッシュには、ブラインシュリンプ (学名: Artemia salina) を1日に2回、Omega One flakes (OmegaSea Ltd., Sitka, AK, USA) を1日に1回給餌した。
【0029】
(2)採卵
TLゼブラフィッシュの胚を雌30匹、雄15匹の繁殖グループから得た。受精胚 (〜100個) は50 mL 0.3×Danieau's solutionの入った20 cmガラスペトリ皿に移し、28°Cで培養した。
【0030】
(3)曝露
SECO (≧95.0%, Sigma-Aldrich Chemical Co. Inc., St. Louis, MO, USA) およびPCB126 (Ultra Scientific Inc., North Kingston, RI, USA) はそれぞれDMSOに溶解させ、原液を作製した。各投与群につきTLゼブラフィッシュの受精胚 (11個) を3 mL 0.3× Danieau's solutionの入った10 mLガラス瓶に移し培養した。7 hpf (hours post fertilizaition, 受精後時間) においてSECO: 50-200 μM およびDMSO: 0.2%になるようにSECOまたはDMSOをガラス瓶に投与した。8 hpfにおいて、PCB126: 10 nMおよびDMSO: 0.08%になるようにPCB126またはDMSOをガラス瓶に投与した。このような条件下において、28°Cで24時間胚を培養した。その後、胚をDanieau's solutionで数回洗浄し、3 mL 0.3× Danieau's solutionの入った新しい10 mLガラス瓶に移した。死んだ胚は除去した (死亡率は通常1ガラス瓶あたり1個以下であった)。再びSECO: 50-200 μM およびDMSO: 0.2%になるように新しいSECOまたはDMSOを投与した。胚をさらに18時間培養した。その後3 mL 0.3× Danieau's solutionの入った新しい10 mLガラス瓶に胚を移し培養を続けた。
【0031】
(4)CYP1A1mRNAの定量
(3)の方法による胚の処理後、80 hpfにおいて、各ガラス瓶ごとにすべての胚をまとめ、液体窒素中で凍結させ、RNA分離に使用するまで-80°Cで保存した。RNA STAT-60TM (Tel-Test Inc., Friendswood, TX, USA) を用いてRNAを分離した後、TURBO DNA-free kit (Ambion Inc., Austin, TX, USA) を用いてDNase処理した。RNAの量と質は、NanoDrop ND-1000 (NanoDrop Technologies Inc., Wilmington, DE, USA) を用いて分光光度法で決定した。Omniscript Reverse Transcriptase kit (Qiagen Inc., Valencia, CA, USA)、random hexamer primers (Operon Biotechnologies Inc., Huntsville, AL, USA)、RNasin RNase inhibitor (Promega Co., Madison, WI, USA) を用いてcDNAを合成した。ゼブラフィッシュのCYP1A1およびβ-actin (内在性コントロール) のcDNAの遺伝子特異的プライマーは外部委託 (Operon Biotechnologies Inc) により合成した。プライマーペアは以下のとおりである。CYP1A1センスプライマー: 5′-GCATTACGATACGTTCGATAAGGAC-3′ (配列表配列番号:1)、CYP1A1アンチセンスプライマー: 5′-GCTCCGAATAGGTCATTGACGAT-3′ (配列表配列番号:2)。β-actin センスプライマー: 5′-CAACAGAGAGAAGATGACACAGATCA-3′ (配列表配列番号:3), β-actinアンチセンスプライマー: 5′-GTCACACCATCACCAGAGTCCATCAC-3′ (配列表配列番号:4)。iQ SYBR Green Supermix (Bio-Rad Laboratories Inc., Hercules, CA, USA) および iCycler iQ Real-Time PCR Detection System (Bio-Rad Laboratories Inc.) を用いてリアルタイムPCR増幅を行った。PCR反応混合物は、iQ SYBR Green Supermix、プライマー (5 pmolセンスプライマーおよび5 pmolアンチセンスプライマー)、cDNA (0.1 μgトータルRNA由来) で構成された。各サンプルの遺伝子を、次のプロトコールによって2連で解析した: 95°Cで4.5分; 95°Cで15秒; 62°Cで1分 (40サイクル)。比較CT法(ΔΔCT法)により遺伝子発現量の定量を行った。
【0032】
2. 試験結果
ダイオキシン類は生体内でAhRを介し、チトクロームP450 (CYP) サブファミリー等の薬物代謝酵素を含む一連の遺伝子の発現を誘導する。中でも最もよく特徴づけられた応答はCYP1A1遺伝子の発現誘導である。CYP1Asは薬物を代謝する過程で効率的に活性酸素を発生することから、DNAに酸化的損傷を与え遺伝子変異を生じさせたり、多くの発癌前駆物質の活性化を行ったりすることが報告されており、CYP1Asの誘導は、発癌性、免疫毒性、催奇形性、生殖毒性、発生毒性を含む種々の毒性影響と関連があるとされている。したがって、CYP1Asの発現量はダイオキシン類の毒性影響の指標になると考えられている。
PCB126によって誘導されるCYP1A1遺伝子発現に対するSECOの効果をリアルタイムRT-PCRで解析した結果を図1に示す。SECOは、PCB126によって誘導されるCYP1A1発現を、構成的レベルは変化させることなく阻止した。
以上の結果から、SECOはダイオキシン類と関連がある種々の毒性影響に対する予防および阻止効果を有することが明らかとなった。
【実施例2】
【0033】
[ダイオキシン類の催奇形性に対するSECO投与効果の解析]
1. 材料および方法
実施例1と同様に(1)ゼブラフィッシュの飼育、(2)採卵、(3)曝露を行った。
【0034】
(4)心嚢浮腫の評価
80 hpfおよび104 hpfにおいて、それぞれの胚の側面画像を倒立顕微鏡下でデジタルカメラを用いて撮影し、以下の心嚢浮腫の評価法に従って解析した。
画像ソフトウェア (Adobe Photoshop) を用いて、ゼブラフィッシュ胚における心嚢浮腫の重篤度を心嚢の面積分析により定量化した。倒立顕微鏡下でデジタルカメラにより胚の側面画像を得た後、Photoshop画像上で同倍率にて心膜腔を円で囲み、面積をピクセルで得た。
【0035】
2. 試験結果
心嚢浮腫は、ダイオキシン曝露されたゼブラフィッシュ胚において、約72 hpfで発達開始し、受精後約8-10日で死亡が起こるまで重篤度が増加する (非特許文献13)。それ故、ダイオキシンにより引き起こされる心嚢浮腫におけるSECOの効果を80 hpfおよび104 hpfにおいて評価した。ゼブラフィッシュ胚において、PCB126により引き起こされる心嚢浮腫に対するSECO投与効果を解析した結果を図2図3に示す。SECO (50-200 μM) はPCB126曝露の1時間前に予め投与した。PCB126 はコントロール群 (DMSO) に比較して、時間依存的に心臓付近に激しい浮腫(心嚢浮腫)を引き起こすことが観察された (#P < 0.05, ##P < 0.01)。SECOには、200 μMという高濃度でも心嚢浮腫を引き起こす効果はなかった。SECOは、投与量依存的にPCB126によって引き起こされる心嚢浮腫の形成を阻止する顕著な能力を示した。80 hpfでは、50 μM SECOはPCB126によって引き起こされる心嚢浮腫を約87%阻止する傾向にあった (P < 0.1)。より高い投与量(100 μMおよび200 μM) のSECO は、PCB126の影響を完全に阻止した(*P < 0.05)。104 hpfでは、PCB126により引き起こされる心嚢浮腫の阻止におけるSECOの効果は、それぞれ、40.0% (50 μM, P < 0.1)、55.0% (100 μM, *P < 0.05) 、59.3% (200 μM, *P < 0.05) で、弱まった。本実施例では、実験の都合上SECOの濃度は200 μMまでの使用であったが、心嚢浮腫の重篤度に応じてSECOの濃度を上昇させることにより、より完全な心嚢浮腫の阻止が期待できる。
以上の結果から、SECOはダイオキシン類の催奇形性に対する予防および阻止効果を有することが明らかとなった。
【実施例3】
【0036】
[ダイオキシン類の催奇形性に対する異なる時間でのSECO投与効果の解析]
1. 材料および方法
実施例1と同様に(1)ゼブラフィッシュの飼育、(2)採卵を行った。
【0037】
(3)曝露
ゼブラフィッシュ胚の処理および心嚢浮腫の評価の実験デザインを図4に示す。SECOおよびPCB126はそれぞれDMSOに溶解させ、原液を作製した。各投与群につきTLゼブラフィッシュの受精胚 (11個) を3 mL 0.3× Danieau's solutionの入った10 mLガラス瓶に移し培養した。7, 8, 9, 24 hpfにおいてSECO: 200 μM およびDMSO: 0.2%になるようにSECOまたはDMSOをガラス瓶に投与した。すべての投与群に対し、8 hpfにおいてPCB126: 10 nMおよびDMSO: 0.08%になるようにPCB126またはDMSOをガラス瓶に投与した。このような条件下において、28°Cで32 hpfまで胚を培養した。その後、胚をDanieau's solutionで数回洗浄し、3 mL 0.3× Danieau's solutionの入った新しい10 mLガラス瓶に移した。死んだ胚は除去した (上記のように、死亡率は通常1ガラス瓶あたり1個以下であった)。再びSECO: 200 μM およびDMSO: 0.2%になるように新しいSECOまたはDMSOを投与した。胚をさらに18時間培養した。その後3 mL 0.3× Danieau's solutionの入った新しい10 mLガラス瓶に胚を移し培養を続けた。
【0038】
(4)心嚢浮腫の評価
80 hpfにおいて、それぞれの胚の側面画像を倒立顕微鏡下でデジタルカメラを用いて撮影し、以下の心嚢浮腫の評価法に従って解析した。
画像ソフトウェア (Adobe Photoshop) を用いて、ゼブラフィッシュ胚における心嚢浮腫の重篤度を心嚢の面積分析により定量化した。倒立顕微鏡下でデジタルカメラにより胚の側面画像を得た後、Photoshop画像上で同倍率にて心膜腔を円で囲み、面積をピクセルで得た。
【0039】
2. 試験結果
たとえPCB126曝露後にSECOを投与したとしても、SECOが心嚢浮腫に対する阻止効果を発揮するかどうかを検証するために、SECOをPCB126の曝露前、同時、もしくは曝露後に投与したときのPCB126により引き起こされる心嚢浮腫に対する阻止効果を比較した。ゼブラフィッシュ胚に200 μM SECOを10 nM PCB126曝露の1時間前 (-1)、同時 (0)、1時間後 (1)、16時間後 (16) に投与し、80 hpfにおいて心嚢浮腫の重篤度を評価した。結果を図5に示す。80 hpfにおいて、200 μM SECOをPCB126曝露の1時間前に予め投与した場合、PCB126により引き起こされる心嚢浮腫は顕著に阻止された。200 μM SECOをPCB126と同時共投与した場合および200 μM SECOをPCB126曝露の1時間後に投与した場合もまた同様に、心嚢浮腫を阻止した。その阻止効果は、200 μM SECOをPCB126曝露の16時間後に投与した場合もなお顕著であった。
以上の結果から、たとえダイオキシン類が既に体内に入ってしまってからSECOを摂取したとしても、催奇形性の予防および阻止効果は十分に発揮されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上詳述したように、本発明は、ダイオキシン類の毒性、特に催奇形性を予防および阻止するために使用する用途および剤に関するものであり、本発明により、セコイソラリシレシノール (SECO) およびその植物リグナン前駆体であるセコイソラリシレシノールジグルコシド (SDG) の少なくとも1つを有効成分として含有するダイオキシン類の催奇形性予防および阻止効果、ダイオキシン類の他の毒性予防および阻止効果を有する新規組成物、機能性食品、機能性食品素材 (たとえば食品添加物、栄養補助食品、栄養剤、治療用食品、健康食品等)、新規用途を医療、健康業界のみならず、漁業業界、養殖業界、畜産e業界、ペット業界等幅広い産業分野に対して提供することができる。

本発明は、詳しく前述したような特徴や具体例に制限されるものではなく、本発明の精神から逸脱することなく実施されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]