特許第6806970号(P6806970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806970
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】細胞免疫療法用培養培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20201221BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20201221BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C12N1/00 F
   C12N5/078
   G01N33/68
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-517405(P2017-517405)
(86)(22)【出願日】2015年6月10日
(65)【公表番号】特表2017-522902(P2017-522902A)
(43)【公表日】2017年8月17日
(86)【国際出願番号】EP2015062992
(87)【国際公開番号】WO2015189301
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2018年6月11日
(31)【優先権主張番号】102014211052.1
(32)【優先日】2014年6月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520415557
【氏名又は名称】ポリバイオセプト ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ガイヤー、 ヤーコブ
(72)【発明者】
【氏名】マエウレアー、マーカス
(72)【発明者】
【氏名】ドドオ、 アーネスト
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−275662(JP,A)
【文献】 特開2003−235548(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0017539(US,A1)
【文献】 特表2002−519640(JP,A)
【文献】 Bone Marrow Transplant. (Mar-2014) vol.49, Suppl.1, p.S153(PH-P113)
【文献】 細胞培養カタログ2012-2013 (2012) ライフテクノロジーズジャパン株式会社, p.133
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 − 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のドナーから得られた第1の血液製剤中の品質因子であるエストラジオール、コルチゾール、IGF−1、インスリン、及びSHBGの濃度を測定する工程、
c)測定された前記品質因子の濃度を、前記品質因子について予め定められた濃度範囲と比較する工程、ここで前記予め定められた濃度範囲は、前記血液製剤の体積基準で
エストラジオールについて65pmol/l以上、
コルチゾールについて190nmol/l以上、
IGF−1について100μg/l以上、
インスリンについて7.2mlE/l以上、
SHBGについて31nmol/l未満
である、
d)前記品質因子について測定された濃度が前記予め定められた範囲内にある場合には、リンパ球培養培地用に前記第1の血液製剤を選択し、ここでさらに前記第1の選択された血液製剤を第1の加工血液製剤に変換してもよく、前記場合以外の場合には、前記第1の血液製剤を選択しない工程
を含み、
異なるドナーに由来する、2つ以上の血液製剤を用いて前記工程)〜d)が行われ、前記選択された血液製剤又は加工血液製剤を組み合わせて培養培地を形成する、
2以上のドナーに由来する血液製剤の混合物を含むリンパ球培養培地を作製する方法。
【請求項2】
)2以上のドナーから得られた血液製剤の第1の混合物中の品質因子であるエストラジオール、コルチゾール、IGF−1、インスリン、及びSHBGの濃度を測定する工程、
c)測定された前記品質因子の濃度を、前記品質因子について予め定められた濃度範囲と比較する工程、ここで前記予め定められた濃度範囲は、前記血液製剤の体積基準で
エストラジオールについて65pmol/l以上、
コルチゾールについて190nmol/l以上、
IGF−1について100μg/l以上、
インスリンについて7.2mlE/l以上、
SHBGについて31nmol/l未満
である、
d)前記品質因子に対して測定された前記濃度が前記予め定められた範囲内にある場合には、リンパ球培養培地用に前記第1の混合物を選択し、前記場合以外の場合には、前記第1の混合物を選択しない工程
を含む、2以上のドナーに由来する混合血液製剤を含むリンパ球培養培地を作製する方法。
【請求項3】
前記血液製剤が全血、血漿、血清、及びそれらのサブセットから選択される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
インターロイキン6(IL−6)、インターフェロン−γ(IFNγ)、インターロイキン1受容体アゴニスト(IL−1RA)、インターロイキン5(IL−5)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、腫瘍壊死因子(TNFα)、CCL5(RANTES)、インターロイキン2(IL−2) インターロイキン1b(IL−1b)、エオタキシン、塩基性FGF、上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF−88)、C−X−Cモチーフケモカイン10(CXCL−10)、インターロイキン13(IL−13)、インターロイキン4(IL−4)、MCP1、インターロイキン8(IL−8)、MIP1a、インターロイキン10、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、インターロイキン15(IL−15)、インターロイキン7(IL−7)、インターロイキン12p70(IL12p70)、インターロイキン17a(IL−17a)、インターロイキン9(IL−9)、及びインターロイキン21(IL−21)からなる群から選択される、さらなる品質因子の濃度が前記工程b)において測定される、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記予め定められた濃度範囲が、前記血液製剤の体積基準で
CCL5について3ng/ml未満、
エオタキシンについて500pg/ml未満、
PDGF−88及びCXCL−10について100pg/ml未満、
IL−10について200pg/ml未満、
IL−13について50pg/ml未満、
IL−1b、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL12p70、IL−15、IL−17a、IL−21、塩基性FGF、EGF、IFNγ、GCSF、GM−CSF、MCP1、MIP1a、MIP1b、PDGF、IL−1RA、及びTNFαについて20pg/ml未満、
エストラジオールについて75pmol/l以上、
コルチゾールについて210nmol/l以上、及び/又は
IGF−1について130μg/l以上
である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記予め定められた濃度範囲は、前記血液製剤の体積基準で
エストラジオールについて85pmol/l以上、
コルチゾールについて220nmol/l以上、
IGF−1について140μg/l以上、及び/又は
SHBGについて29nmol/l未満
である、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
)第1のドナーから得られた血液製剤中の品質因子であるエストラジオール、コルチゾール、IGF−1、インスリン、及びSHBGの濃度を測定すること、
c)測定された前記品質因子の濃度を、前記品質因子について予め定められた濃度範囲と比較すること、ここで前記予め定められた濃度範囲は、前記血液製剤の体積基準で
エストラジオールについて65pmol/l以上、
コルチゾールについて190nmol/l以上、
IGF−1について100μg/l以上、
インスリンについて7.2mlE/l以上、
SHBGについて31nmol/l未満
である、
)前記品質因子について測定された濃度が前記予め定められた範囲内にある場合は、血漿又は血清の提供に対して前記ドナーを選択し、前記場合以外の場合には、前記第1のドナーを選択しないこと、
を含むドナーの選択を含む、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質基準の高い細胞培養培地、特に免疫細胞の成長及び増殖のための細胞培養培地、及び作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性細胞免疫療法と呼ばれる新たな治療クラスは、がんの治療に対して最も有望な前進の1つである。活性免疫療法は、身体自身の免疫細胞を使用して抗原特異的抗腫瘍効果を促進する目的で患者の免疫系を賦活する。このため、免疫細胞をin−vitroで培養して細胞数を増加し、分化を誘導する。
【0003】
in−vitroでの細胞培養では、制御された温度、細胞付着のための基体、及び適切な成長培地、並びに正しいpH及び浸透圧を保持するインキュベーター等の幾つかの基本的な環境要求を満たさなければならない。
【0004】
細胞培養培地製剤は文献において十分に説明され、多数の培地が商業的に入手可能である。細胞培養培地は、一般的には、適切なエネルギー源、及び細胞周期を調節する化合物を含む。典型的な培養培地は、アミノ酸、ビタミン、無機塩、グルコース、並びに増殖因子、ホルモン、及び付着因子の供給源としての血清である補足物で構成される。栄養素に加えて、培地はpH及び浸透圧の保持も補助する。
【0005】
細胞培養培地製剤は文献において十分に説明され、多数の培地が商業的に入手可能である。免疫細胞、特にリンパ球の培養及び増殖(expansion)の場合、典型的には細胞培養培地は、免疫細胞に対して身体の自然環境に類似した環境を提供することから、血清又は血漿に由来する。
【0006】
しかしながら、現状の培養培地中で増殖されるリンパ球の増殖速度及び活性は、まだ十分ではない。さらに、リンパ球増殖結果の量、質及び生存能力に関する予測できる結果は、今のところまれであり、必要とされる品質を識別するために幾つかのバッチの血清を検査する必要があることが通常である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、従来技術の少なくとも1つの不利益を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特に、使用される細胞培養培地の品質が、細胞免疫療法でのリンパ球の増殖プロセスの結果に対して大きな影響を有するという知見に基づく。特に、本発明者らは、リンパ球の増殖に関して細胞培養培地の品質を決定する多様な品質因子を規定した。本発明者らは、エストラジオール、コルチゾール、IGF−1、インスリン、及びSHBG等の品質因子が特定の既定濃度で存在しなければならないことを決定することができた。個々の品質因子に対して決定された基準を満たす細胞培養培地は、哺乳動物細胞、特に免疫系の細胞の培養結果を改善する。
【0009】
したがって、本発明は、
a)少なくとも第1のドナーに由来する第1の血液製剤(blood product)を提供する工程、
b)前記第1の血液製剤中の少なくとも1つの品質因子の濃度を測定する工程、
c)測定された品質因子の濃度を、前記品質因子について予め定められた濃度範囲と比較する工程、
d)前記品質因子について測定された濃度が前記予め定められた範囲内にある場合には、細胞培養培地用に前記第1の血液製剤を選択し、ここでさらに前記第1の選択された血液製剤を第1の加工血液製剤に変換してもよく、前記予め定められた範囲内にない場合は、前記第1の血液製剤を選択しない工程、
を含む、2以上のドナーに由来する血液製剤の混合物を含む細胞培養培地を作製する方法を提供する。
本発明は、細胞培養培地の体積に基づいて、
3ng/ml未満の濃度のCCL5、
500pg/ml未満の濃度のエオタキシン、
100pg/ml未満の濃度のPDGF−88及び/又はCXCL−10、
200pg/ml未満の濃度のIL−10、
50pg/ml未満の濃度のIL−13、
20pg/ml未満の濃度のIL−1b、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL12p70、IL−15、IL−17a、IL−21、塩基性FGF、EGF、IFNγ、GCSF、GM−CSF、MCP1、MIP1a、MIP1b、PDGF、IL−1RA、及び/又はTNFα、
少なくとも65pmol/l、好ましくは少なくとも75pmol/l、より好ましくは少なくとも85pmol/lの濃度のエストラジオール、
少なくとも190nmol/l、好ましくは210nmol/l、より好ましくは220nmol/lの濃度のコルチゾール、
少なくとも80μg/l、好ましくは少なくとも120μg/l、より好ましくは少なくとも140μg/lの濃度のIGF−1、及び/又は
31nmol/l未満、好ましくは29nmol/l未満の濃度のSHBG
を含む細胞培養培地を更に含む。
最後に、本発明は細胞を培養するための細胞培養培地の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、細胞培養免疫療法に対しては、細胞培養培地に関してより一層高い品質基準を満たさなければならないことを見出した。実施例に示されるように、各品質因子における差異は、リンパ球懸濁物の結果において著しい変化をもたらす。特に、品質因子が予め定められた範囲にある培地により、免疫細胞の成長、増加(proliferation)又は増殖(expansion)は細胞の増殖速度、生存率及び活性の増加をもたらす。これらの品質因子の識別により、特に免疫療法用の細胞集団のための改善された細胞培養培地の作製方法が特定できる。
【0011】
したがって、本発明は、
a)第1のドナーに由来する第1の血液製剤を少なくとも提供する工程、
b)前記第1の血液製剤中の少なくとも1つの品質因子の濃度を測定する工程、
c)測定された品質因子の濃度を、前記品質因子について予め定められた濃度範囲と比較する工程、
d)前記品質因子について測定された濃度が前記予め定められた範囲内にある場合には、細胞培養培地用に前記第1の血液製剤を選択し、ここでさらに前記第1の選択された血液製剤を第1の加工血液製剤に変換してもよく、前記場合以外の場合には、前記第1の血液製剤を選択しない工程、
を含む、2以上のドナーに由来する血液製剤の混合物を含む細胞培養培地を作製する方法を提供する。
【0012】
本発明による方法は、リンパ球増殖のための因子と組み合わせて、細胞を強力に増加させ且つ増殖されたリンパ球の活性を高める、高品質な細胞培養培地を提供する。さらに、上記方法は、T細胞等のリンパ球のin vitro増殖を促進する、品質が常に一定である細胞培養培地の提供を保証する。
【0013】
本明細書における「細胞培養培地」又は「成長培地」は、動物又は植物の細胞の成長を支持するように設計された液体又はゲルである。成長培地の、pH、グルコース濃度、増殖因子及び他の栄養素の存在は変化し得る。細胞培養培地には2つのクラス、すなわち、血液製剤系培地及び合成培地がある。
【0014】
本発明によれば、「血液製剤系培地」は少なくとも1つの血液製剤を含有する。
【0015】
本明細書における「合成培地」は、化学的に明確な培地である。かかる培地は血液製剤等のいかなる天然由来のブロス(broth)も含まない。代わりに、全ての構成成分が規定の濃度で上記培地に添加されている。
【0016】
本明細書における「血液製剤」は、哺乳動物の全血、又は全血のサブセット、特に血漿、血清又は更に血漿及び血清のサブセットを指す。
【0017】
本明細書における「加工血液製剤」は、血漿、血清及びそれらのサブセットを含む。
【0018】
本明細書における「血漿」は、哺乳動物の血液血漿を指す。血漿は、通常全血中に血液細胞を懸濁状態で保持する青白い(pale white)、時に黄色の血液の液体成分である。血漿は、大半は水であり、溶解したタンパク質、グルコース、凝血因子、電解質、ホルモン、及び二酸化炭素を含有する。血液血漿を、血液から、例えば抗凝固剤を含有する新鮮血の遠心分離によって調製することができ、ここで血液細胞は遠心分離管の底に落ちる。この際の上清が血液血漿である。
【0019】
本明細書における「血清」は、凝固因子を含まない血液血漿である。
【0020】
本明細書における「凝固因子」は、「凝血因子」とも呼ばれ、フィブリノゲン、プロトロンビン、又は第VII因子等の様々なタンパク質を含む。
【0021】
本明細書における「全血のサブセット」は、全血の一部の構成成分を含む全血に由来する溶液又は懸濁物を指す。血漿及び血清は全血のサブセットである。
【0022】
本明細書における「ドナー」は、それらから血液製剤が得られる、哺乳動物、特にヒトを指す。提供物は、全血(WB)であってもよく、又はアフェレーシスによって回収される全血の特定の構成成分であってもよい。
【0023】
本明細書における「アフェレーシス」は、ドナーの血液を1つの特定の構成要素を分離して残りを循環系に戻す装置を通過させる、医療技術である。例えば、血漿アフェレーシスは、血液血漿のみの回収をもたらし、全ての他の成分をドナーに戻す。
【0024】
本明細書における、ドナーから「血液製剤を得ること」は、特に血液をドナーの静脈から直接採取することによって、ドナーから血液を回収する動作を指す。
【0025】
本明細書における「サイトカイン」は、細胞シグナル伝達において重要な幅広く大雑把なカテゴリーの小さなタンパク質(約5〜20kDa)である。サイトカインは細胞によって放出され、他の細胞の行動に影響を与える。また、サイトカインは、自己分泌シグナル伝達に関与することができる。サイトカインとして、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、腫瘍壊死因子、及び増殖因子が挙げられる。
【0026】
また、「臨床的に有用なリンパ球」は、抗原編集された(antigen−edited)リンパ球を指す。臨床的に有用なという用語は、リンパ球の下位集団に対しても使用される。特に、好ましい臨床的に有用なリンパ球は、臨床的に有用なT細胞又は抗原編集されたT細胞である。
【0027】
本発明による「臨床的に有用な抗原」は、疾患に関連する抗原である。したがって、臨床的に有用な抗原は腫瘍関連抗原TAA、病原体関連抗原(PAA)、又は自己抗原であり得る。腫瘍反応性リンパ球はTAAに特異的であり、TAAと相互作用する。感染性疾患反応性リンパ球はPAAに特異的であり、PAAと相互作用し、自己免疫疾患反応性リンパ球は自己抗原に特異的であり、自己抗原と相互作用する。
【0028】
本発明によれば、「抗原」(Ag)は、それぞれ適応免疫応答の受容体、TCRまたは抗体の標的としての機能を果たす、あらゆる構造体である。抗原は、特に、タンパク質、多糖類、脂質、およびその部分構造(ペプチド等)である。脂質及び核酸は、タンパク質又は多糖と組み合わされた場合に、特に抗原性を示す。
【0029】
1人のドナー又は複数のドナーに由来する血液製剤の提供は、血液製剤を得るプロセスを含まない。
【0030】
本発明によれば、品質因子は、血液中に見られ得る任意の構成成分であってもよく、その濃度は免疫系の細胞及び幹細胞等の感受性の高い細胞株の成長及び特性に影響を及ぼす。
【0031】
免疫系の細胞として、B細胞、T細胞、NK細胞、単球、樹状細胞、顆粒球、及び血小板が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
血液由来培地は、1人のドナーから別のドナーへ変わると含有物にばらつきがあるという不利益を有する。
【0033】
本明細書における「病原体関連因子」は、血液中の病原体の存在を識別する因子である。一般的に検査される病原体は、例えば、抗トリパノソーマ・クルージ、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、パルボウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、E型肝炎ウイルス(HEV)、並びにヒト免疫不全ウイルス1型及び2型(HIV−1、HIV−2)である。病原体関連因子に対する検査は、感染した血液製剤の使用のリスクを最小化する。品質因子は病原体関連因子ではないことが好ましい。
【0034】
ヒト血液ドナーは、ボランティアのドナー及びモニターされた職業的ドナーを含む。いずれのドナーも健康な個体でなくてはならない。さらに、ヒト血液ドナーは、年齢、体重、及び食餌等の特定の基準を満たさなければならない。モニターされた職業的血液ドナーが登録される。登録においては、ドナー及び提供される血液試料に関する様々なデータが記録される。
【0035】
第1の血液製剤の提供は、特に、血液製剤の血液バッグキット、バッグ、容器(container)、容器(vessel)、又はマルチウェルプレートへの移動を含む。ある一つの実施形態によれば、第1のドナーに由来する第1の血液製剤を血液バッグキットに移す。
【0036】
ある一つの実施形態によれば、第1のドナーに由来する第1の血液製剤をマルチウェルプレートに移す。マルチウェルプレートは、特に、24ウェルプレート、48ウェルプレート、96ウェルプレート、又は192ウェルプレートである。マルチウェルプレートは多数のウェルを有するプレートである。ウェルの数は限定されない。
【0037】
品質因子の濃度の測定について、様々な方法が当該技術分野で知られている。本発明のある実施形態によれば、品質因子は、比濁分析、計濁法、及びELISAから選択される方法によって測定される。比濁計は、液体又は気体コロイド中に懸濁された粒子の濃度を測定する計器である。
【0038】
比濁分析(及び計濁法)は、Euronorm EN 27027(German DIN−Norm the ISO Norm 7027と同じ)に規定される。比濁計は、光線及び光源の片側に設置された光検出器を用いることによって懸濁された粒子を測定する。比濁計では、血液製剤の試料に対して品質因子に特異的な抗体を添加する。その後、抗体と品質因子との相互作用は、光の片側散乱を引き起こす関与をもたらす。したがって、増加又は減少のいずれかを識別することができる。比濁法では、片側散乱光の増加を測定する。計濁法では前方散乱光の減少を測定する。比濁測定の結果は、ネフェロメ濁度単位(NTU)として与えられ、品質因子の規定の濃度値とのNTU曲線による較正によって、品質因子の濃度値に関連付けられる。
【0039】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)は、抗原の存在及び品質を決定するための固相アッセイであり、特にサンドイッチELISAを使用することができる。病原体関連因子の存在は、特に、PCRに基づく方法によって特定される。
【0040】
品質因子の測定された濃度を品質因子の予め定められた濃度範囲と比較することは、特定の品質因子に対する測定から得られた読み出された情報を得て、その品質因子の値が予め定められた範囲の範囲内にあるかどうかを確認することを意味する。検査を検査装置又は検査装置に接続された装置によって自動で行ってもよい。または、測定を行う人によって手動で比較を行うことができる。
【0041】
本発明による品質因子としてはサイトカイン又は幾つかのサイトカインが好ましい。品質因子は一群のサイトカインであってもよい。さらに、品質因子は全てのサイトカインであってもよい。実施例に示されるように、様々なサイトカインについて、その存在が規定の範囲外、すなわち特定の閾値を上回ると、免疫系の細胞又は幹細胞の成長及び/又は増殖の能力に関して培地の品質が著しく減じることが特定された。特に、免疫療法用の品質で増殖されたリンパ球を得ることができない。
【0042】
したがって、ある一つの実施形態によれば、品質因子はサイトカインである。しかしながら、免疫系の細胞を成長、特に増殖させる能力に関して増殖培地の品質に強く影響を及ぼす他の構成成分が見いだされている。
【0043】
興味深いことに、規定の範囲外の品質因子を含む培地、すなわち、選択されない培地でも、組換えタンパク質発現のための細胞の成長に有用な可能性がある。同定されている更なる品質因子は、エストラジオール、コルチゾール、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、インスリン、及びインスリン様増殖因子1(IGF−1)である。
【0044】
更なる品質因子は具体的には言及されない場合があるが、標準的な細胞株の成長に必ずしも影響を及ぼさなくても、リンパ球の成長及び増殖に関して培地の品質に影響を及ぼす可能性がある。本発明の一つの実施形態によれば、少なくとも1つの品質因子はエストラジオール、コルチゾール、SHBG、インスリン、及びIGF−1からなる群から選択される。
【0045】
様々なサイトカインがあり、その存在が予め定められた範囲外であれば、その血液製剤は選択されない。1つの品質因子はRANTESとしても知られている、CCL5である。CCL5の予め定められた範囲は5ng/ml未満、特に3ng/ml未満である。
【0046】
全ての濃度値はISO7027による比濁法によって定義される。したがって、上限は5ng/ml、特に3ng/mlであり、品質因子につい定義される全ての濃度は血液製剤の体積(volume)に基づく。
【0047】
更なる品質因子はサイトカインであるエオタキシンである。エオタキシンの予め定められた範囲は、800pg/ml未満、特に500pg/mlである。別の品質因子はPDGF−88である。PDGF−88の予め定められた範囲は、150pg/ml未満、特に100pg/ml又はである。更なる品質因子はCXCL−10である。CXCL−10の予め定められた範囲は、150pg/ml未満、特に100pg/ml未満である。更なる品質因子はサイトカインIL−10である。IL−10の予め定められた範囲は200pg/ml未満である。別の品質因子はサイトカインIL−13である。IL−13の予め定められた範囲は80pg/ml未満、特に50pg/ml未満である。更なる品質因子はIL−1bである。IL−1bの予め定められた範囲は30pg/ml未満、特に20pg/ml未満である。更なる品質因子はIL−2である。別の品質因子はIL−4である。IL−5は別の品質因子である。IL−7は別の品質因子である。また、IL−8は別の品質因子である。更なる品質因子はIL−9である。また、本発明によれば、IL−12p70は品質因子である。別の品質因子はIL−15である。本発明による一つの品質因子はIL−17aである。IL−21は別の品質因子である。更なる品質因子は塩基性FGFである。上皮増殖因子(EGF)は更なる品質因子である。別の品質因子はインターフェロンガンマ(IFNγ)である。顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)は本発明による別の品質因子である。顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)は本発明による更なる品質因子である。さらに、MCP1が品質因子として特定された。別の特定された品質因子はMIP1aである。また、MIP1bもそうである。更なる品質因子はPDGFである。さらにIL−1RAは別の品質因子であり、腫瘍壊死因子α(TNFα)は別の品質因子である。これらの因子は全てヒト血液中に存在し得る既知のサイトカインである。
【0048】
IL−1b、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL12p70、IL−15、IL−17a、IL−21、塩基性FGF、EGF、IFNγ、GCSF、GM−CSF、MCP1、MIP1a、MIP1b、PDGF、Il1RA、及びTNFαの因子については、30pg/ml未満、特に20pg/ml未満である。
【0049】
上に列挙される全てのサイトカインは、培養、特にリンパ球、免疫細胞、又は同じく幹細胞の増殖に影響を及ぼすことが分かった。したがって、これらのサイトカインは、特定の上限までのみ許容される。他の品質因子は、少なくともある程度まで血液製剤中に含まれる必要がある。
【0050】
ある一つの実施形態によれば、品質因子はエストラジオールである。エストラジオールは、少なくとも65pmol/lの濃度で血液製剤中に存在しなければならない。エストラジオールの好ましい濃度は少なくとも75pmol/lである。エストラジオールの濃度は少なくとも85pmol/lであることがより好ましい。
【0051】
本発明のある一つの実施形態によれば、品質因子はコルチゾールである。コルチゾールの予め定められた範囲は、少なくとも190nmol/l、好ましくは少なくとも210nmol/l、より好ましくは少なくとも220nmol/lである。
【0052】
本発明の一つの実施形態によれば、品質因子はインスリン様増殖因子1(IGF−1)である。ある一つの実施形態によれば、IGF−1の予め定められた範囲は少なくとも100μg/l、好ましくは少なくとも130μg/l、より好ましくは少なくとも140μg/lである。
【0053】
本発明による細胞培養培地が満たさなければならない様々な更なるパラメーターが存在する。特に、標準的な培養因子が予め定められた範囲内に存在する。したがって、上記方法は、標準的な培養因子を測定すること、及びそれらと予め定められた範囲を比較することを更に含む。
【0054】
標準的な培養因子としては、タンパク質、グルコース、非タンパク質窒素、尿素窒素、アミノ酸窒素、クレアチニン、クレアチン、尿素、総脂質、トリグリセリド、コレステリン、脂質、エステル化成分、リン脂質、脂肪酸、有機酸、ピルビン酸、クエン酸、ケトンが挙げられる。
【0055】
細胞培養培地の総体積を基準とした前記予め定められた範囲は、タンパク質については60.080.0g/l、グルコースについては4.5mmol/l〜5.5mmol/l、非タンパク質窒素については15mmol/l〜30mmol/l、尿素窒素については3.5mmol/l〜7.0mmol/l、アミノ酸窒素については3.0mmol/l〜5.0mmol/l、クレアチニンについては70.0μmol/l〜140.0μmol/l、クレアチンについては25.0μmol/l〜70.0μmol/l、尿素については3.0μmol/l〜5.0μmol/l、総脂質については4.5g/l〜8.5g/l、トリグリセリドについては0.6mmol/l〜2.4mmol/l、コレステリンについては4.0mmol/l〜6.5mmol/l、脂質については0.3mmol/l〜0.4mmol/l、エステル化成分については0.7mmol/l〜0.8mmol/l、リン脂質については2.0mmol/l〜3.0mmol/l、脂肪酸については0.3mmol/l〜0.9mmol/l、有機酸については4.0mmol/l〜6.0mmol/l、ピルビン酸塩については0.1mmol/l〜0.2mmol/l、クエン酸塩については0.1mmol/l〜0.2mmol/l、及び/又はケトンについては0.3mmol/l〜0.5mmol/lである。
【0056】
本発明のある一つの実施形態によれば、上記工程は、2つ以上の血液製剤を用いて行われ、選択された血液製剤又は加工血液製剤を合わせて培養培地を形成する。1人のドナーからは、一度に約200ml〜500mlの血液製剤が得られるに過ぎない。したがって、細胞の培養のため、数人のドナーの幾つかの血液製剤を合わせなければならない。細胞培養培地の作製に対しては、選択された血液製剤のみを使用する。
【0057】
もし選択されない試料において、血液製剤中の1又は複数の品質因子が、適用可能であれば、品質因子の上限値の30%未満、より好ましくは20%未満、最も好ましくは10%未満で上限を超える場合、該血液製剤は一時的に選択されない血液製剤とされる。さらに、もし選択されない試料において、血液製剤中の1又は複数の品質因子が、適用可能であれば、品質因子の上限値の30%未満、より好ましくは20%未満、最も好ましくは10%未満で下限を超える場合、該血液製剤は一時的に選択されない血液製剤とされる。一時的に選択されない血液製剤は、該選択されない血液製剤と少なくとも1つの選択された血液製剤を混合して規定の範囲内の品質因子を有する混合された血液製剤を得ることができるのであれば、選択された血液製剤となる場合がある。そうでなければ、一時的に選択されない血液製剤は、選択されない血液製剤となる。
【0058】
また、製品の混合物中の少なくとも1つの品質因子の濃度を決定することができる。したがって、本発明は、
【0059】
a)2以上のドナーに由来する血液製剤の第1の混合物を少なくとも提供する工程、
b)前記第1の混合物中の少なくとも1つの品質因子の濃度を測定する工程、
c)測定された品質因子の濃度を、前記品質因子について予め定められた濃度範囲と比較する工程、
d)前記品質因子に対して測定された前記濃度が前記予め定められた範囲内にある場合には、細胞培養培地用に前記第1の混合物を選択し、前記場合以外の場合には、前記第1の混合物を選択しない工程
を含む、2以上のドナーに由来する血液製剤の混合物を含む細胞培養培地を作製する方法を更に提供する。
【0060】
また、上記混合物に血液製剤を添加して培養培地を形成する前に血液製剤において直接に品質因子の濃度を測定することが好ましい。また、様々な血液製剤の混合物をスクリーニングし、これらが品質因子によって決定される要求を満たすかどうかを確認することが可能である。
【0061】
血液製剤を、選択後、及び、最終製品すなわち細胞培養培地への添加前に、加工血液製剤へと変換することができる。血液製剤を加工することは、ある一つの種類の血液製剤を別の種類の血液製剤とすることを意味する。例えば、測定され選択された血液製剤は全血であり、その後さらに血漿へと変換される。または、測定され選択された血液製剤は全血であり、加工血液製剤は血清である。別の選択肢では、選択された血液製剤は血漿であり、加工血液製剤は血清である。別の選択肢では、選択された血液製剤は血漿であり、加工血液製剤は血清のサブセットである。また、選択された血液製剤が血清であり、加工血液製剤は血清がサブセットであってもよい。
【0062】
提供される血液製剤は血漿であることが好ましい。血漿は、例えば免疫系の細胞の培養に頻繁に使用される。さらに、ドナーから血漿アフェレーシスによって容易に血漿を回収することができる。したがって、血漿はまた加工血液製剤でもある。血漿を使用することは、更なる加工工程を必要としないという利点を有する。そのようにして、加工工程を省く。
【0063】
2以上の品質因子を検査することが好ましく、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20の品質因子を検査する。より多くの品質因子を検査することは、高度に活性なリンパ球の培養及び増殖に対するより高い品質基準を実際に満たす最終細胞培養培地を得る機会を増す。しかしながら、1つの試料において大量の因子を検査することはまた、プロセスの複雑化を増すことにもなる。したがって、15未満、12未満、10未満、8未満、6未満の品質因子を検査することが好ましい。
【0064】
本発明のある一つの実施形態によれば、検査される品質因子の数は、2〜6の範囲、好ましくは3〜5の範囲、好ましくは4である。既知の品質因子の特定のサブセットは、その細胞培養培地がリンパ球の増殖又は幹細胞の培養に適格な細胞培地である高い可能性を見出すのに十分であることが分かった。試料全体が高品質試料であるとの指標を提供することを示した品質因子は、SHBG、IGF−1、CCL5、及びIL−6である。したがって、品質因子はSHBGであることが好ましい。また、品質因子としてIGF−1が好ましい。同様に、CCL5は好ましい品質因子である。また、IL−6も好ましい品質因子である。本発明のある一つの実施形態によれば、検査される品質因子は、SHBG、IGF−1、CCL5、及びIL−6で全部である。
【0065】
また、品質因子に対する検査は、好適なドナー、特にモニターされる職業的ドナーの選択に使用されてもよい。モニターされる職業的ドナーは、定期的に血液製剤の提供を行い、登録に記録される。
【0066】
本発明による方法を用いて、血液ドナーを高品質の血液製剤の提供に適していると識別することができる。したがって、本発明による方法は、ドナーのレベルに対して更なる選択工程を提供する。
【0067】
ある一つの実施形態によれば、上記方法は、
a)前記ドナーに由来する血液製剤を提供すること、
b)第1のドナーの血液製剤中の少なくとも1つの品質因子の濃度を測定すること、
c)測定された品質因子の濃度を、前記品質因子について予め定められた濃度範囲と比較すること、
d)血漿プールにおける濃度値(if the concentration value for the plasma pool)、前記品質因子について測定された濃度が予め定められた範囲内にある場合は、血漿又は血清の提供用に前記ドナーを選択し、前記場合以外の場合には、前記第1のドナーを選択しないこと、を含むドナー選択を含む。
選択されないドナーは、高品質血液製剤に関する登録から除外される。
【0068】
また、本発明は、体積基準で
3ng/ml未満の濃度のCCL5、
500pg/ml未満の濃度のエオタキシン、
100pg/ml未満の濃度のPDGF−88及び/又はCXCL−10、
200pg/ml未満の濃度のIL−10、
50pg/ml未満の濃度のIL−13、
20pg/ml未満の濃度のIL−1b、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL12p70、IL−15、IL−17a、IL−21、塩基性FGF、EGF、IFNγ、GCSF、GM−CSF、MCP1、MIP1a、MIP1b、PDGF、IL−1RA、及び/又はTNFα、
少なくとも65pmol/l、好ましくは少なくとも75pmol/l、より好ましくは少なくとも85pmol/lの濃度のエストラジオール、
少なくとも190nmol/l、好ましくは少なくとも210nmol/l、より好ましくは少なくとも220nmol/lの濃度のコルチゾール、
少なくとも100μg/l、好ましくは少なくとも130μg/l、より好ましくは少なくとも140μg/lの濃度のIGF−1、及び/又は
31nmol/l未満、好ましくは29nmol/l未満の濃度のSHBG、
を含む細胞培養培地に関する。
上記培地は、安定しており且つ再現可能な結果を出せる制御された人工の環境におけるT細胞の培養及び増殖に必要な栄養素を提供する。
【0069】
細胞培養培地は、本発明による作製方法によって得られた培地であることが好ましい。ある一つの実施形態によれば、細胞培養培地は、少なくとも1つの血液製剤、特に血漿及び/又は血清を含む。血液製剤は血清であることがより好ましい。更なる実施形態によれば、細胞培養培地は2以上のドナーに由来する血液製剤を含む。2以上のドナーに由来する血液製剤は、血清及び/又は血漿から選択されることが好ましい。2以上のドナーに由来する製剤は血清であることがより好ましい。代替的な実施形態によれば、細胞培養培地は合成培地である。
【0070】
本発明による細胞培養培地が満たさなければならない様々な更なるパラメーターが存在する。特に、標準的な培養因子は予め定められた範囲内にある。標準的な培養因子としては例えば、タンパク質、グルコース、非タンパク質窒素、尿素窒素、アミノ酸窒素、クレアチニン、クレアチン、尿素、総脂質、トリグリセリド、コレステリン、脂質、エステル化成分、リン脂質、脂肪酸、有機酸、ピルビン酸、クエン酸、ケトンが挙げられる。
【0071】
したがって、本発明の細胞培養培地は、
60.080.0g/lの濃度のタンパク質、
4.5mmol/l〜5.5mmol/lの濃度のグルコース、
15mmol/l〜30mmol/lの濃度の非タンパク質窒素、
3.5mmol/l〜7.0mmol/lの濃度の尿素窒素、
3.0mmol/l〜5.0mmol/lの濃度のアミノ酸窒素、
70.0μmol/l〜140.0μmol/lの濃度のクレアチニン、
25.0μmol/l〜70.0μmol/lの濃度のクレアチン、
3.0μmol/l〜5.0μmol/lの濃度の尿素、
4.5g/l〜8.5g/lの濃度の総脂質、
0.6mmol/l〜2.4mmol/lの濃度のトリグリセリド、
4.0mmol/l〜6.5mmol/lの濃度のコレステリン、
0.3mmol/l〜0.4mmol/lの濃度の脂質、
0.7mmol/l〜0.8mmol/lの濃度のエステル化成分、
2.0mmol/l〜3.0mmol/lの濃度のリン脂質、
0.3mmol/l〜0.9mmol/lの濃度の脂肪酸、
4.0mmol/l〜6.0mmol/lの濃度の有機酸、
0.1mmol/l〜0.2mmol/lの濃度のピルビン酸塩、
0.1mmol/l〜0.2mmol/lの濃度のクエン酸塩、及び/又は
0.3mmol/l〜0.5mmol/lの濃度のケトン
を更に含む。
【0072】
細胞培養培地は、上に言及される全てのパラメーターを満たすことが好ましい。ある一つの実施形態によれば、細胞培養培地は、
29nmol/l未満の濃度のSHBG、
100μg/l以上の濃度のIGF−1、
20pg/ml未満の濃度のIL−6、及び
3ng/ml未満の濃度のCCL5のいずれか1つを含む。
更なる実施形態によれば、細胞培養培地は、
29nmol/l未満の濃度のSHBG、
100μg/l以上の濃度のIGF−1、
20pg/ml未満の濃度のIL−6、及び
3ng/ml未満の濃度のCCL5を含む。
【0073】
本発明による細胞培養培地は、血液製剤の混合物からなってもよい。該細胞培養培地は、血液製剤の混合物に加えて更なる構成成分を含むことが好ましい。好ましい実施形態によれば、更なる構成成分は水、NaCl、PBS、DTT、TCEP、及び2−メルカプトエタノールから選択される。
【0074】
本発明による細胞培養培地は、様々な種々の細胞を培養するのに適している。したがって、本発明は、細胞を培養するための上記細胞培養培地の使用を更に提供する。主な利点は、不死細胞株の培養以外に、患者から得られた細胞、特に免疫系の細胞又は幹細胞の培養にも成功し得ることである。
【0075】
本発明による培地、特に本発明による方法によって得られた培地により、リンパ球のより高い増殖速度が見られる。本明細書における「増殖(expansion)」又は「クローン増殖(clonal expansion)」は、もとは単一の細胞に由来する娘細胞の産生を意味する。リンパ球のクローン増殖では、全ての子孫は同じ抗原特異性を共有する。
【0076】
さらに、本発明による培養培地により、細胞培養において総細胞数が増加し得る。特に、同じ抗原特異性を有するリンパ球の増殖された娘細胞の総数の増加が増加し得る。
【0077】
したがって、使用のある一つの実施形態によれば、細胞は免疫系の細胞、特にリンパ球である。リンパ球は患者から得られることが好ましい。ある一つの実施形態によれば、リンパ球を上記細胞培養培地中で成長、増加(proliferated)及び/又は増殖(expanded)させる。
【0078】
ある一つの実施形態によれば、培養培地は腫瘍に由来するT細胞の増殖に使用される。増殖は、IL−2、IL−15、及びIL−21のサイトカインカクテルの使用を含むことが好ましい。本発明によれば、IL−2、IL−15、及びIL−21の組成物は、「サイトカインカクテル」とも呼ばれる。
【0079】
本明細書における「インターロイキン2」又は「IL−2」は、配列番号1によって定義されるヒトIL−2、及びその機能的等価物を指す。本明細書における「インターロイキン15」又は「IL−15」は、ヒトIL15及びその機能的等価物を指す。本明細書における「インターロイキン21」又は「IL−21」はヒトIL−21及びその機能的等価物を指す。
【0080】
本発明による細胞培養培地、好ましくは本発明による方法によって得られた培地は、IL−2、IL−15及び/又はIL−21のサイトカイン混合物と組み合わせてリンパ球を増殖することに特に適している。本発明による細胞培養培地は、好ましくはこのサイトカインの混合物と組み合わせて、成長速度を増し、増殖した細胞の総数を増加させるのみならず、細胞プロファイルも改善する。特に、CD45RA/CCR7表現型によって定義される成熟及び分化が改善される。最後に、サイトカインIL−2、IL−15及びIL−21の混合物を用いてのリンパ球の増殖では、臨床的に有用なリンパ球、特にT細胞の生存率を増加させる。
【0081】
能動細胞免疫療法では、成長及び増殖の速度が増加すると、患者に由来するリンパ球を得て患者に標準的なリンパ球を再導入するまでの時間が減少する。(臨床的に有用な)リンパ球の生存率が増加すると、能動的な免疫療法製剤の治療的効果が増加する。
【0082】
上の記載及び関連する図面において提示される教示の利益を有する、本明細書において述べられた本発明について、多くの改変及び他の実施形態が、本発明が関連する技術分野の当業者には思い浮かぶであろう。したがって、本発明は開示される具体的な実施形態に限定されず、改変及び他の実施形態は添付の特許請求の範囲に含まれると意図されることが理解されるべきである。具体的用語が本明細書で採用されるが、それらは総称的及び記述的な意味においてのみ使用され、限定の目的で使用されるものではない。
【実施例】
【0083】
実施例1−種々の細胞培養培地中におけるリンパ球の増殖
NY−ESO−1で感作された健康なドナーに対してアフェレーシスを行った。血液成分の分離の後、白血球を含有する製剤をその余から分離した。
1000U/mlのIL−2、10ng/mlのIL−15、及び10ng/mlのIL−21を含む培地M1中に細胞を懸濁した。培地は、更に10μmolのNY−ESO−1ペプチドを含有した。細胞は、良好に増殖し、4日後に10/mlの濃度に達した。
同時に、同じプロトコルに従って培地M2中でリンパ球を増殖させた。顕著なリンパ球の増殖は検出されなかった。
【0084】
実施例2−細胞培養培地の組成の分析
標準的な検査では、細胞培養培地間で何らの相違も明らかにならなかった。比濁法及び表1において構成成分として列挙される物質に対する抗体を使用して、培地M1及び培地M2をより詳しく分析した。
【0085】
【表1】
【0086】
実施例3−異なるドナーの血漿の分析
細胞培養培地の分析からの結果によれば、モニターされた異なる職業的ドナーに由来する血漿試料を得て、エストラジオール、コルチゾール、インスリン、及びIGF−1の濃度について分析した。結果を表2に提示する。
【0087】
【表2】

本発明の方法によれば、血漿試料P1〜P3を選択しない。血漿試料P5をリンパ球の培養に選択する。
【0088】
実施例4−異なるドナーの血漿の分析
血漿選択を確認するため、その後、血漿試料P1〜P5を細胞培養のために調製した。NY−ESO−1で感作された健康なドナーの末梢血から得られたリンパ球を上に記載されるプロトコルに従って培養した。P5に由来する細胞培養培地での増殖は、培地M1での増殖に匹敵した(実施例1を参照されたい。)