特許第6806985号(P6806985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6806985-熱可塑性樹脂組成物 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806985
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20201221BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20201221BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08L1/02
   C08J5/04CEP
   C08J5/04CES
【請求項の数】7
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-1858(P2016-1858)
(22)【出願日】2016年1月7日
(65)【公開番号】特開2017-122177(P2017-122177A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082647
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 義久
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴章
(72)【発明者】
【氏名】大川 淳也
(72)【発明者】
【氏名】松末 一紘
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−227535(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/176033(WO,A1)
【文献】 特開2012−214563(JP,A)
【文献】 特開2017−019976(JP,A)
【文献】 特開2016−094538(JP,A)
【文献】 特開2014−122289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08J,B29B,D21B〜J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径の標準偏差(σ)が20nm以下であるセルロースナノファイバーと、相溶化剤と、熱可塑性樹脂とを含み、前記セルロースナノファイバーの水分散液、前記相溶化剤、及び粉末状の前記熱可塑性樹脂が混合されてなり、
前記セルロースナノファイバーとしてフリーネスが120ml以下となるまで叩解処理し、かつこの叩解処理に先立って酵素処理したものが用いられ、
前記セルロースナノファイバーの水分散液の疑似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μmで、ピークの半値幅が15μm以下であり、
前記セルロースナノファイバー及び相溶化剤を含まないブランク品と比較した場合、JIS K7171:2008に準拠した曲げ強度が1.10倍以上であり、
JIS K7161:2014に準拠した引張強度試験において、引張破断伸びの保持率が70%以上を保持する、
ことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
ここで前記引張破断伸びの保持率とは、(前記セルロースナノファイバー及び前記相溶化剤を含む熱可塑性樹脂組成物の引張破断伸び÷ブランクの引張破断伸び)×100(%)で算出された値である。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーは、平均繊維径が4〜500nmである、
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーは、結晶化度が50〜90%である、
請求項1又は請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーは、保水度が500%以下である、
請求項1〜3いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーは、前記ピーク値が一つであり、かつ5μm以上である、
請求項1〜4いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーは、パルプ粘度が1.5cps以上である、
請求項1〜5いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記相溶化剤は、無水マレイン酸、無水イコタン酸、無水シトラコン酸、及び無水クエン酸の中から選択された1種以上を含む変性物であり、
前記粉末状の熱可塑性樹脂、前記相溶化剤、及び前記セルロースナノファイバーの固形分での配合質量割合が40〜98.9:0.1〜10:1〜50である、請求項1〜6いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂の補強材としては、炭素繊維やガラス繊維等が使用されていた。しかしながら、炭素繊維は、燃え難いためサーマルリサイクルに不向きである、価格が高いとの問題を有している。また、ガラス繊維は、サーマルリサイクルにおける廃棄の問題を有している。さらに、炭素繊維やガラス繊維は剛直であるが、破断に至るまでの伸びが小さい脆性材料であり、樹脂と複合した際に機械的強度は増大するものの、熱可塑性樹脂の延性を消失させてしまう側面を持っている。
【0003】
そこで、近年、比較的安価で、かつサーマルリサイクルの問題を有しない植物繊維を熱可塑性樹脂の補強材として使用する技術の研究が進められている。植物繊維は、炭素繊維やガラス繊維のように人工的に繊維状に合成して使用するのではなく、植物の持つ構造の微小繊維構造単位までほぐして使用するものであるため安価であり、補強効果も優れている。また、サーマルリサイクルの問題に関しては、炭素繊維やガラス繊維は焼却時に灰として残存するため、灰による炉内配管閉塞や、埋立て処理等の問題が生じるのに対し、植物繊維は灰としてほとんど残らないため、炉内配管閉塞や、埋立て処理等の問題が生じない。
【0004】
そして、現在では、植物繊維を微細化して得られるセルロースナノファイバーを熱可塑性樹脂の補強材として使用する提案がされている。このセルロースナノファイバーを補強材として使用した熱可塑性樹脂組成物は、鋼鉄の5分の1の軽さで同等の強度を有するともいわれている。
【0005】
しかしながら、補強材としてセルロースナノファイバーを使用する場合、セルロースナノファイバーは分散液として熱可塑性樹脂と混合することになるところ、熱可塑性樹脂と混合したセルロースナノファイバーの水分を除去するに際し、当該セルロースナノファイバーが多糖類の水酸基に由来する分子間水素結合により不可逆的に凝集する。したがって、セルロースナノファイバーを補強材として使用しても、熱可塑性樹脂中における当該セルロースナノファイバーの分散性が悪いことを原因として、熱可塑性樹脂の補強効果が十分に発揮されず、熱可塑性樹脂の延性を低下させているとの問題がある。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1〜3は、セルロースミクロフィブリルを表面修飾する技術を開示している。しかしながら、表面修飾剤は、水中で失活するとの問題を有している。また、水中では反応が非常に遅いため、有機溶媒下で処理しなければならず、溶媒処理の問題が生じる。すなわち、有機溶媒を使用すると、各工程で大気中に有機溶媒を飛散させないための対策や、溶媒処理設備の新設等が必要になり、製造コストが上昇する。
【0007】
また、特許文献4は、熱可塑性樹脂と混練するに先立って、セルロースファイバーを乾燥、分級する技術を開示している。しかしながら、セルロースファイバー自体が親水性であるため、疎水性である熱可塑性樹脂との界面での接合性が悪く、分散性に問題が生じ、これを原因とする補強効果の問題を解決することができない。
【0008】
さらに、特許文献5は、パルプ繊維を微細化するにあたって、ホモジナイザー、石臼式摩擦機、リファイナー等の装置を使用する技術を開示している。しかしながら、この方法によっても、補強効果、特に熱可塑性樹脂の補強効果の均一性が不十分であることが知見された。
【0009】
また、特許文献6は、竹パルプを高圧水流のみで解繊し、この解繊によって得た微細繊維を含有量が10質量%となるように熱可塑性樹脂に複合する技術を開示している。この技術による熱可塑性樹脂組成物は、もとの熱可塑性樹脂の1.2倍の曲げ弾性率となり、竹パルプに替えてLBKPを同様に処理して得た熱可塑性樹脂組成物よりも補強効果が高いとされている。しかしながら、この技術は、竹パルプの嵩比重が小さいことに起因する集荷効率の問題、チップ状に加工する際にチッパーのカッター刃摩耗が広葉樹や針葉樹材より早いことや、蒸解時に発生する大量のシリカによる配管閉塞等によって連続蒸解釜によるパルプ化が難しいため、バッチ式蒸解釜で生産すると当業者においてはされており、生産性が著しく低下する問題、竹生産区域が限られることによる供給が不安定になる問題を有している。
【0010】
一方、非特許文献1は、無機フィラーを熱可塑性樹脂に混錬した際の機械的強度と延性(伸び)との相関について開示している。この文献は、無機フィラーのアスペクト比(フィラーの長さをフィラーの幅で除した値)が小さいほど熱可塑性樹脂の機械的強度は低くなるが、熱可塑性樹脂の延性は高くなるとの傾向を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012−229350号公報
【特許文献2】特開2012−214563号公報
【特許文献3】特表平11−513425号公報
【特許文献4】特開2010−089483号公報
【特許文献5】特開2009−029927号公報
【特許文献6】特開2013−245346号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Polymer46 (2005) 6325-6334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする主たる課題は、比較的安価で、かつサーマルリサイクルの問題や溶媒処理の問題等が生じず、しかも強度が強く、延性を維持する熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。より好ましくは、自動車内装材や玩具等の延性を保持しつつ機械的強度の大きいことが必須物性である技術分野に適する熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、次のとおりである。
(請求項1記載の手段)
平均繊維径の標準偏差(σ)が20nm以下であるセルロースナノファイバーと、相溶化剤と、熱可塑性樹脂とを含み、前記セルロースナノファイバーの水分散液、前記相溶化剤、及び粉末状の前記熱可塑性樹脂が混合されてなり、
前記セルロースナノファイバーとしてフリーネスが120ml以下となるまで叩解処理し、かつこの叩解処理に先立って酵素処理したものが用いられ、
前記セルロースナノファイバーの水分散液の疑似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μmで、ピークの半値幅が15μm以下であり、
前記セルロースナノファイバー及び相溶化剤を含まないブランク品と比較した場合、JIS K7171:2008に準拠した曲げ強度が1.10倍以上であり、
JIS K7161:2014に準拠した引張強度試験において、引張破断伸びの保持率が70%以上を保持する、
ことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
ここで前記引張破断伸びの保持率とは、(前記セルロースナノファイバー及び前記相溶化剤を含む熱可塑性樹脂組成物の引張破断伸び÷ブランクの引張破断伸び)×100(%)で算出された値である。
【0015】
(請求項2記載の手段)
前記セルロースナノファイバーは、平均繊維径が4〜500nmである、
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
(請求項3記載の手段)
前記セルロースナノファイバーは、結晶化度が50〜90%である、
請求項1又は請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
(請求項4記載の手段)
前記セルロースナノファイバーは、保水度が500%以下である、
請求項1〜3いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0018】
(請求項5記載の手段)
前記セルロースナノファイバーは、前記ピーク値が一つであり、かつ5μm以上である、
請求項1〜4いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0019】
(請求項6記載の手段)
前記セルロースナノファイバーは、パルプ粘度が1.5cps以上である、
請求項1〜5いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0020】
(請求項7記載の手段)
前記相溶化剤は、無水マレイン酸、無水イコタン酸、無水シトラコン酸、及び無水クエン酸の中から選択された1種以上を含む変性物であり、
前記粉末状の熱可塑性樹脂、前記相溶化剤、及び前記セルロースナノファイバーの固形分での配合質量割合が40〜98.9:0.1〜10:1〜50である、請求項1〜6いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0021】
(参考となる特性)
原料となる植物繊維がパルプ繊維であると、得られる熱可塑性樹脂組成物を安価とすることができ、また、サーマルリサイクルの問題を避けることができる。しかも、有機溶媒下でセルロース等の水酸基を化学修飾する表面修飾剤を使用する必要がなく、溶媒処理の問題を避けることができる。
【0022】
パルプ繊維から得たセルロースナノファイバーは、微小かつ比表面積が大きく、表面に多くの水酸基を有しており、親水性である。したがって、濾水性や脱水性が悪く、また、本来、疎水性である熱可塑性樹脂との接合性が悪く、補強効果、特に曲げ強度等の機械的強度が劣る傾向にある。しかしながら、パルプ繊維を微細化処理してセルロースナノファイバーとするにあたって、当該微細化処理を水流、特に高圧水流で解繊する(好ましくはパルプ繊維を所定の幅まで解す)と、セルロースナノファイバーの保水度を低く抑えることができ、熱可塑性樹脂との接合性を改善することができる。
【0023】
なお、本発明者等は、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)について、水流で解繊する処理以外の方法、具体的には、グラインダーを使用して解繊する処理方法で微細化処理を行い、この微細化処理後における繊維の保水度を調べた。結果、微細化処理にともなって保水度が大幅に上昇してしまうことが分かった。
【0024】
もっとも、単に微細化処理した繊維(セルロースナノファイバー)は、熱可塑性樹脂との混練時に繊維同士が絡み合って凝集してしまい、補強効果が十分に発揮されないとの問題が残る。しかるに、微細化処理に先立ってパルプ繊維を叩解処理し、平均繊維長が揃うように、特に所定の繊維長に揃うように切断しておくと、当該繊維が凝集し難くなる。
【0025】
なお、保水度が低いと、濾水性や、脱水性、乾燥性、熱可塑性樹脂中における分散性等が向上する。結果、熱可塑性樹脂組成物の強度も向上する。また、脱水性が向上すると、例えば、セルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂を混錬して脱水する際のエネルギーを削減することができ、製造コストの点で有利である。
【0026】
ただし、上記微細化処理は、平均繊維径が4nm未満になるまで行うと、製造コストが増加してしまうため、平均繊維径が4nm以上となる範囲で行うのが好ましい。また、平均繊維径が500nm以下になるまで微細化処理すると脱水性が向上し、得られる熱可塑性樹脂組成物の曲げ強度や引張り弾性率等の機械的強度が向上する。
【0027】
本発明者等は、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)(平均繊維径10〜50μm)、及び広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を微細化処理して得たセルロースナノファイバー(平均繊維径500nm以下)を、熱可塑性樹脂(PP及びMAPP)の粉末と、後述するマスターバッチ法や固相せん断法ではなく、単に熱をかける乾燥を行った後に混練する試験を行った。結果、得られた熱可塑性樹脂組成物の曲げ強度及び引張り強度は、「広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)」<「セルロースナノファイバー」となる傾向にあった。
【0028】
セルロースナノファイバーの結晶化度が50%未満であると、熱可塑性樹脂との相溶性に問題はないものの、繊維自体の強度が低下するため、熱可塑性樹脂組成物の強度が劣る傾向にある。他方、セルロースナノファイバーの結晶化度が90%を超えると、分子内の強固な水素結合割合が多くなり繊維自体は剛直となるが、熱可塑性樹脂との相溶性が低下し、熱可塑性樹脂組成物の強度が劣る傾向にある。
【0029】
セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線におけるピーク値が1つのピークであることは、繊維長及び繊維径の均一性が高いことを意味し、乾燥や分散が均一に進むことになる。また、繊維径や繊維長の均一性が高いと、熱可塑性樹脂組成物の補強効果が強く、補強効果の均一性も向上する。
【0030】
セルロースナノファイバーのピーク値を5μm未満とするには微細化処理を長時間行う必要があり、製造コストの増加につながる。他方、ピーク値が25μmを超えていると、微細化処理が不十分であり、繊維径や繊維長の均一性が劣る傾向にある。
【0031】
前処理で叩解処理に先立って、又は同時に酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、セルロースナノファイバーの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。この点、セルロースナノファイバーの保水度が低いほど熱可塑性樹脂への分散性が向上し、セルロースナノファイバーの均質性が高いほど熱可塑性樹脂組成物の破壊要因となる欠点が減少すると考えられ、結果として熱可塑性樹脂の延性を保持することができる強度の大きい熱可塑性樹脂組成物が得られると考えられる。
【0032】
熱可塑性樹脂にフィラー状の補強材を配合する場合、アスペクト比が大きいほど機械的強度の補強効果は高く、延性(伸び)が低下することが知られている。しかしパルプ繊維から得られるセルロースナノファイバーを補強材とした場合は、繊維の均質性を高めることで熱可塑性樹脂組成物の破壊要因となる欠点が減少すると考えられることから、アスペクト比を小さくした場合の補強効果低減を相殺することが可能となる。
【0033】
具体的には、セルロースナノファイバーの水分散液の疑似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μmで、ピークの半値幅が15μm以下であり、かつセルロースナノファイバーの平均繊維径の標準偏差値が20nm以下であると、セルロースナノファイバーのアスペクト比が小さくても機械的強度が高く、延性(伸び)の低下が最低限に留まる熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0034】
また、酵素処理や酸処理、酸化処理により、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解され、結果、叩解処理や後段の微細化処理のエネルギーを低減することができ、繊維の均質性や分散性を向上することができる。しかも、分子鎖が整列していて剛直かつ保水度の低いと考えられるセルロース結晶領域の繊維全体に占める割合が上がると、分散性が向上し、アスペクト比は減少すると見られるものの、延性を保持しつつ機械的強度の大きい熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0035】
また、アルカリ処理を施すことで、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、叩解処理におけるセルロースナノファイバーの分散を促進する効果がある。なお、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができるが、製造コストの観点から、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によると、比較的安価で、かつサーマルリサイクルの問題や溶媒処理の問題等が生じず、しかも強度が強く、延性を維持する熱可塑性樹脂組成物となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】熱可塑性樹脂組成物の製造工程のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、発明を実施するための形態を説明する。
本形態の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂及び植物繊維であるセルロースナノファイバーを含有し、更に相溶化剤が添加されている。
【0039】
(パルプ繊維)
セルロースナノファイバーは、パルプ繊維を微細化(解繊)処理して得ることができる。原料となる繊維としては、植物由来の繊維、動物由来の繊維、微生物由来の繊維等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、少なくとも植物繊維であるパルプ繊維を使用するのが好ましい。
【0040】
植物由来の繊維としては、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0041】
木材パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)、古紙パルプ(DIP)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。これらのパルプは、製紙用途で使用されているパルプであり、これらのパルプを使用することで、既存設備を有効に活用することができる。
【0042】
なお、広葉樹クラフトパルプ(LKP)は、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプ(NKP)は、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
【0043】
また、古紙パルプ(DIP)は、雑誌古紙パルプ(MDIP)であっても、新聞古紙パルプ(NDIP)であっても、段古紙パルプ(WP)であっても、その他の古紙パルプであってもよい。
【0044】
さらに、機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0045】
(前処理工程)
パルプ繊維は、物理的又は化学的手法によって、好ましくは物理的及び化学的手法によって、前処理するのが好ましい。微細化処理に先立って物理的手法や化学的手法によって前処理することで、微細化処理の回数を大幅に減らすことができ、微細化処理のエネルギーを大幅に削減することができる。
【0046】
物理的手法による前処理としては、叩解処理が好ましい。パルプ繊維を叩解処理しておくと、パルプ繊維が切り揃えられるため、熱可塑性樹脂との混練時に繊維同士が絡み合って凝集するとの問題が解決される。
【0047】
この叩解処理は、パルプ繊維のフリーネスが120ml以下となるまで行うのが好ましく、110ml以下となるまで行うのがより好ましく、100ml以下となるまで行うのが特に好ましい。
【0048】
叩解処理は、例えば、リファイナーやビーター等を使用して行うことができる。
【0049】
化学的手法による前処理としては、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。
【0050】
ただし、酵素処理を行うのが好ましく、加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を行うのがより好ましい。
【0051】
ここで、酵素処理について、詳細に説明する。
酵素処理は、セルロース系繊維を微細化し易くするために行う。酵素としては、セルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましく、両者を併用するのがより好ましい。
【0052】
セルラーゼ系酵素は、水共存下でセルロースの分解を引き起こす酵素である。
【0053】
セルラーゼ系酵素としては、トリコデルマ(Trichoderma、糸状菌)属、アクレモニウム(Acremonium、糸状菌)属、アスペルギルス(Aspergillus、糸状菌)属、ファネロケエテ(Phanerochaete、担子菌)属、トラメテス(Trametes、担子菌)属、フーミコラ(Humicola、糸状菌)属、バチルス(Bacillus、細菌)属、スエヒロタケ(Schizophyllum、担子菌)属、ストレプトミセス(Streptomyces、細菌)属、シュードモナス(Pseudomonas、細菌)属、等が産生する酵素を例示することができる。
【0054】
これらのセルラーゼ系酵素は、試薬や市販品として購入可能である。例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラ−ゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、セルラーゼ系酵素GC220(ジェネンコア社製)等を例示することができる。
【0055】
これらのセルラーゼ系酵素の中でも糸状菌セルラーゼ系酵素が好ましく、糸状菌セルラーゼ系酵素の中でもトリコデルマ菌(Trichoderma reesei、あるいはHyporea jerorina、糸状菌の一種である子嚢菌)が産生するセルラーゼ系酵素が好ましい。これらのセルラーゼ系酵素は、種類が豊富で、産生性も高い。
【0056】
セルラーゼ系酵素は、加水分解反応機能を有する触媒ドメインの高次構造に基づく糖質加水分解酵素ファミリー(Glycoside Hydorolase Families:GHファミリー)に分類される。また、セルラーゼ系酵素はセルロース分解特性によってエンド型グルカナーゼ(endo−glucanase:EG)とセロビオヒドラーゼ(cellobiohydrolase:CBH)に分類される。
【0057】
EGは、セルロースの非晶部分や可溶性セロオリゴ糖、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体に対する加水分解性が高く、それらの分子鎖を内側からランダムに切断し、重合度を低下させるが、結晶性を有するセルロースミクロフィブリルとの反応性が低い。
【0058】
これに対して、CBHは、セルロースの結晶部分も分解し、セロビオースを与える。CBHは、セルロース分子の末端から加水分解し、エキソ型あるいはプロセッシブ酵素とも呼ばれる。なお、EGは、非プロセッシブ酵素とも呼ばれる。
【0059】
本形態において、セルラーゼ系酵素としては、EG及びCBHのいずれも使用することができる。それぞれを単体で使用しても、EG及びCBHを混合して使用してもよい。また、ヘミセルラーゼ系酵素と混合して用いてもよい。EG及びCBHを好適に組み合わせることで、セルロースナノファイバーの結晶化度を調節することができる。
【0060】
ヘミセルラーゼ系酵素とは、水共存下でヘミセルロースの分解を引き起こす酵素である。
【0061】
ヘミセルラーゼ系酵素としては、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)等を例示することができる。また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼもヘミセルラ−ゼ系酵素として使用することができる。ヘミセルラーゼ系酵素を産生する微生物は、セルラーゼ系酵素も産生する場合が多い。
【0062】
ヘミセルロースは、植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で木材の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。針葉樹の2次壁では、グルコマンナンが主成分であり、広葉樹2次壁では4−O−メチルグルクロノキシランが主成分である。そのため、針葉樹の漂白クラフトパルプ(NBKP)から微細繊維状セルロースを得るためにはマンナーゼを使用するのが好ましく、広葉樹の漂白クラフトパルプ(LBKP)の場合はキシラナーゼを使用するのが好ましい。
【0063】
パルプに対する酵素の添加量は特に限定されるものではなく、酵素の種類や、木材の種類(針葉樹か広葉樹か)、機械パルプの種類等によって適宜調整して添加することができる。ただし、酵素は原料パルプに対して0.1質量%〜3質量%を添加するのが好ましく、0.3質量%〜2.5質量%を添加するのがより好ましく、0.5質量%〜2質量%を添加するのが特に好ましい。添加量が0.1質量%未満では、酵素による効果が低下するおそれがある。他方、添加量が3質量%を超えるとセルロースが糖化され、微細繊維の収率が低下するおそれがあり、また、過剰に添加しても、添加量の増大に見合う効果の向上が認められない。
【0064】
セルラーゼ系酵素処理時のパルプのpHは、酵素反応の反応性の点から、弱酸性領域(pH=3.0〜6.9)であることが好ましい。他方、ヘミセルラ−ゼ系酵素処理時のパルプのpHは、弱アルカリ性領域(pH=7.1〜10.0)であることが好ましい。
【0065】
酵素処理時の温度は特に限定されるものではないが、セルラーゼ系酵素やヘミセルラーゼ系酵素の処理時の温度は、30℃〜70℃であるのが好ましく、35℃〜65℃であるのがより好ましく、40℃〜60℃であるのが特に好ましい。酵素処理時の温度が下限値以上であれば、酵素活性が低下しにくく、処理時間の長期化を防止することができる。また、上限値以下であれば、酵素の失活を防止することができる。
【0066】
酵素処理時間は、酵素の種類、温度、pH等によって調整することができる。酵素処理時間は、0.5〜24時間であるのが好ましい。処理時間が0.5時間未満では酵素処理の効果がほとんど出ないおそれがある。24時間以下であると酵素によりセルロース繊維の分解による繊維長の短小化を抑制でき、樹脂に配合した際の強度向上効果を充分に得ることができる。
【0067】
酵素処理した後には酵素を失活させたほうが好ましい。酵素を失活させないと、酵素反応が進み繊維の糖化が進んで収率が低下したり、繊維長が短くなり過ぎたりして好ましくない。
【0068】
酵素を失活させる方法としては、アルカリ水溶液(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH11以上)を添加する方法、80〜100℃の熱水を添加する方法が挙げられる。
【0069】
以上のほか、前処理としては、例えば、リン酸エステル化処理、アセチル化処理、シアノエチル化処理等の薬品処理を例示することができる。
【0070】
なお、物理処理及び化学処理は、同時に行うことも、別々に行うこともできる。
【0071】
(微細化処理工程)
パルプ繊維は、叩解処理等の前処理を行った後、微細化(解繊)処理する。この微細化処理により、パルプ繊維は、ミクロフィブリル化し、セルロースナノファイバーとなる。
【0072】
微細化処理は、例えば、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等のリファイナー、各種バクテリア等の中から1種又は2種以上の手段を選択使用して行うことが考えられる。
【0073】
しかるに、本形態においては、水流、特に高圧水流で微細化する装置・方法を使用して行う。この装置・方法によると、セルロースナノファイバーの寸法均一性、分散均一性が非常に高いものとなり、最終的に得られる熱可塑性樹脂の強度、特に曲げ強度が強いものとなる。
【0074】
この点、例えば、回転する砥石間で磨砕するグラインダーを使用すると、繊維を均一に微細化するのが難しく、一部に解れない繊維塊が残ってしまい、最終的に得られる熱可塑性樹脂組成物の強度が不均一になってしまうおそれがある。そのため、特に肉厚の薄い熱可塑性樹脂組成物の成形体においては、成形不良、強度不足が生じるおそれがある。
【0075】
なお、グラインダーとしては、例えば、増幸産業株式会社のマスコロイダー等が存在する。また、高圧水流で微細化する装置としては、例えば、株式会社スギノマシンのスターバースト(登録商標)や、吉田機械興業株式会社のナノヴェイタ\Nanovater(登録商標)等が存在する。
【0076】
本発明者等は、回転する砥石間で磨砕する方法と、高圧水流で微細化する方法とで、それぞれパルプ繊維を微細化し、得られた各繊維を顕微鏡観察する試験を行った。結果、高圧水流で微細化する方法で得られた繊維は、繊維幅が均一であった。したがって、熱可塑性樹脂への複合を想定した場合には、高圧水流で微細化する方法で得られた繊維を使用した方がより均一に補強効果が発揮されることが分かった。
【0077】
ここで、高圧水流による解繊処理について、詳細に説明する。
高圧水流による解繊は、パルプ分散液を増圧機で、例えば30MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上、特に好ましくは220MPa以上に加圧し、細孔直径50μm以上のノズルから噴出させ、圧力差が、例えば、30MPa以上、好ましくは80MPa以上、より好ましくは90MPa以上となるように減圧する方式で行うと好適である。この圧力差で生じるへき開現象により、パルプ原料を解繊する。高圧条件の圧力が低い場合や、高圧から減圧条件への圧力差が小さい場合には、解繊効率が下がり、所望の繊維径とするための繰り返し噴出回数が多く必要となるおそれがある。
【0078】
高圧水流による解繊を行う装置としては、高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーとは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でスラリーを吐出できる能力を有するホモジナイザーである。パルプ繊維に対して高圧ホモジナイザーで処理することで、パルプ繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーションなどが作用し、解繊が効果的に生じる。これにより、微細化工程の処理回数を低減(短縮化)でき、セルロースナノファイバーの製造効率をより高めることができる。
【0079】
前処理工程を経ることによってパルプ繊維が十分に柔軟化されていると、パルプ繊維に対して高圧ホモジナイザーで処理することで、パルプ繊維同士の衝突等が作用し、解繊が効果的に生じる。これにより、微細化工程の処理回数をより低減でき、セルロースナノファイバーの生産性をより高めることができる。
【0080】
高圧ホモジナイザーとしては、スラリーを一直線上で対向衝突させるのが好ましい。具体的には、例えば、この一例である対向衝突型高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー/MICROFLUIDIZER(登録商標)、湿式ジェットミル)においては、加圧されたスラリーが合流部で対向衝突するように2本の上流側流路が形成されている。スラリーは合流部で衝突し、衝突したスラリーは下流側流路から流出する。上流側流路に対して下流側流路は垂直に設けられており、上流側流路と下流側流路とでT字型の流路を形成している。このような対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いることで、高圧ホモジナイザーから与えられるエネルギーを衝突エネルギーに最大限に変換することができ、より効率的なパルプ繊維の解繊が生じる。
【0081】
以上の微細化処理は、得られるセルロースナノファイバーの、例えば、平均繊維径、保水度、結晶化度、擬似粒度分布のピーク値、触手試験結果、パルプ粘度等が、所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
【0082】
なお、セルロースナノファイバーは、セルロースやセルロースの誘導体からなる繊維である。通常のセルロースナノファイバーは、強い水和性を有し、水系媒体中において水和することで安定的に分散状態(分散液の状態)を維持する。セルロースナノファイバーを構成する単繊維は、水系媒体中において複数条が集合して繊維状をなす場合もある。通常のセルロースナノファイバーの平均繊維径(単繊維の直径平均)は、4〜2,000nmである。また、平均繊維長は、1〜5,000μmである。
【0083】
(平均繊維径)
セルロースナノファイバーの平均繊維径(単繊維の直径平均)は、4〜500nmであるのが好ましく、6〜450nmであるのがより好ましく、10〜400nmであるのが特に好ましい。平均繊維径が4〜500nmであれば、熱可塑性樹脂との相溶性及び熱可塑性樹脂組成物の補強効果に優れる。
【0084】
具体的には、平均繊維径を4nm未満にすると、パルプ繊維に過度の機械的エネルギーがかり、繊維自体の強度が低下する。結果、熱可塑性樹脂組成物の補強効果に劣る傾向がある。また、微細化処理の時間が長くなり、製造コストの増加につながる。他方、平均繊維径が500nmを超えると、微細化が不十分で繊維の分散性に劣る傾向がある。繊維の分散性が不十分であると、熱可塑性樹脂組成物の補強効果に劣る傾向がある。
【0085】
本形態においては、直径が500μmを超える単繊維を含有してもよいが、全繊維に対する直径が500nmを超える単繊維の割合は、70質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以下であるのが特に好ましい。直径が500nmを超える単繊維の割合が70質量%以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の補強効果に優れる。
【0086】
(平均繊維径の標準偏差(値))
セルロースナノファイバーの平均繊維径の標準偏差(σ)は、20nm以下であるのが好ましく、15nm以下であるのがより好ましく、10nm以下であるのが特に好ましい。
【0087】
平均繊維径の標準偏差が小さいということは、セルロースナノファイバーの平均繊維径がより均一化していることを示している。セルロースナノファイバーの平均繊維径の標準偏差が20nm以下であると、セルロースナノファイバーの繊維径が均一化されているため、熱可塑性樹脂との混練時に凝集するとの問題が解決され、機械的強度の向上と延性(伸び)を維持する効果を発揮する。なお、平均繊維径の標準偏差は、例えば、パルプ繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0088】
(平均繊維長)
セルロースナノファイバーの平均繊維長(単繊維の長さ)は、1〜5,000μmであるのが好ましく、2〜4,000μmであるのがより好ましく、3〜3,000μmであるのが特に好ましい。平均繊維長が5,000μm以下であると、熱可塑性樹脂との混練時に繊維同士が絡み合って凝集するとの問題が解決される。なお、平均繊維長は、例えば、パルプ繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0089】
(アスペクト比)
本形態において、アスペクト比とは、平均繊維長を平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど熱可塑性樹脂中において引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多い分熱可塑性樹脂の延性が低下するものと考えられる。無機フィラーを熱可塑性樹脂に混錬した場合、フィラーのアスペクト比が大きいほど引張強度が向上するが、引張破断伸びは著しく低下する(非特許文献1参照)。
【0090】
樹脂の延性をある程度保持しつつ機械的強度を向上させるためには、アスペクト比が2〜1,300,000であるのが好ましく、4〜700,000であるのがより好ましく、7〜300,000であるのが特に好ましい。
【0091】
(保水度)
セルロースナノファイバーの保水度は、500%以下であるのが好ましく、490%以下であるのがより好ましく、480%であるのが特に好ましい。保水度が500%を超えると、濾水性や乾燥性、熱可塑性樹脂との相溶性が劣る傾向にある。
【0092】
また、熱可塑性樹脂組成物の補強効果を優れたものとするためには、セルロースナノファイバーを十分に乾燥し、熱可塑性樹脂への均一な分散を行う必要がある。しかるに、セルロースナノファイバーは凝集性が高いため、乾燥処理や熱可塑性樹脂との混練処理等に際して凝集し易い。そこで、セルロースナノファイバーの保水度を500%以下とし、濾水性や乾燥性、熱可塑性樹脂との相溶性を優れたものとすることで、乾燥処理や熱可塑性樹脂との混練処理等に際する凝集を抑制することができ、熱可塑性樹脂組成物の補強効果を十分なものとすることができる。なお、保水度は、例えば、パルプ繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0093】
(結晶化度)
セルロースナノファイバーの結晶化度は、50%以上であるのが好ましく、55%以上であるのがより好ましく、60%以上であるのが特に好ましい。結晶化度が50%未満であると、熱可塑性樹脂との相溶性は向上するものの、繊維自体の強度が低下するため、熱可塑性樹脂組成物の補強効果に劣る傾向がある。
【0094】
他方、セルロースナノファイバーの結晶化度は、90%以下であるのが好ましく、88%以下であるのがより好ましく、86%以下であるのが特に好ましい。結晶化度が90%を超えると、分子内の強固な水素結合割合が多くなり繊維自体は剛直となるが、熱可塑性樹脂との相溶性が低下し、熱可塑性樹脂組成物の補強効果に劣る傾向がある。また、セルロースナノファイバーの化学修飾がし難くなる傾向もある。なお、結晶化度は、例えば、パルプ繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
【0095】
(ピーク値)
セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、セルロースナノファイバーは、繊維長及び繊維径の均一性が高く、乾燥性に優れる。また、繊維径や繊維長の均一性が高いと、熱可塑性樹脂組成物の補強効果が高く、補強効果の均一性にも優れる。
【0096】
ナノファイバーのピーク値は、5μm以上であるのが好ましく、7μm以上であるのがより好ましく、9μm以上であるのが特に好ましい。ピーク値を5μm未満とするにはセルロースナノファイバーの微細化処理を長時間行う必要があり、製造コストの増加につながる。
【0097】
他方、セルロースナノファイバーのピーク値は、25μm以下であるのが好ましく、23μm以下であるのがより好ましく、21μm以下であるのが特に好ましい。ピーク値が25μmを超えていると、微細化が不十分であり、繊維径や繊維長の均一性に劣る傾向がある。
【0098】
(半値幅)
セルロースナノファイバーの水分散液の疑似粒度分布曲線におけるピーク値の半値幅とは、累積頻度75%のときの粒径から累積頻度25%のときの粒径を引いた値(μm)である。例えば、マッピングした擬似粒子が1,000個であれば、小さい方から750個目の大きさを持つ擬似粒子の粒径から250個目の大きさを持つ擬似粒子の粒径を引いたものが、ここでいうピーク値の半値幅である。
【0099】
繊維状のサンプルを粒度分布で計測した場合、繊維状のものを球状と捉えて粒径を算出するため、アスペクト比の大きいものほど半値幅が大きくなる。酵素処理等で繊維を切断して繊維長を揃えることで、粒度分布の半値幅は減少すると考えられる。
【0100】
半値幅が15μm以下であれば、セルロースナノファイバーは、繊維長及び繊維径の均一性が高い上、樹脂と配合した際に樹脂の延性をある程度保持しつつ補強効果を得ることができるアスペクト比に調製されていると考えられる。
【0101】
(パルプ粘度)
セルロースナノファイバーのパルプ粘度は、1.5cps以上であるのが好ましく、2.0cps以上であるのがより好ましい。パルプ粘度が1.5cps未満であると、セルロースナノファイバーの重合度が低いことに起因して、分散液を熱可塑性樹脂と混練した際に、熱可塑性樹脂組成物の補強効果が劣る傾向にある。
【0102】
また、セルロースナノファイバーのパルプ粘度は、7.0cps以下であるのが好ましく、6.5cps以下であるのがより好ましい。パルプ粘度が7.0cpsを超えると、セルロースナノファイバーの分散液を熱可塑性樹脂と混練した際に、セルロースナノファイバーの凝集を十分に抑制できず、熱可塑性樹脂組成物の補強効果が劣る傾向にある。
【0103】
(触手試験)
触手試験とは、微細化処理進行のファクターとなる試験であり、濃度を2質量%としたセルロースナノファイバー水分散液1mLを人差し指に乗せ、当該分散液を親指と人差し指とで挟み、20回親指を周回させた場合において、親指と人差し指との間に繊維状物が残存するか否かについて目視にて確認する試験である。
【0104】
微細化処理は、この触手試験において、繊維状物が残存しないように行うのが好ましい。繊維状物が残存すると、セルロースナノファイバーの繊維径や繊維長の均一性が劣る傾向にある。
【0105】
なお、発明者等は、種々の試験・検討を行い、この触手試験によると、微細化処理の進行を迅速に確認にすることができ、製造効率を向上することができるとの認識に至った。
【0106】
(その他の繊維)
セルロースナノファイバーには、ミクロフィブリルセルロース、ミクロフィブリル状微細繊維、微少繊維セルロース、ミクロフィブリル化セルロース、スーパーミクロフィブリルセルロース等と称される各種微細繊維の中から1種又は2種以上を含ませることができ、また、これらの微細繊維が含まれていてもよい。また、これらの微細繊維を更に微細化した繊維をも含ませることもでき、また、含まれていてもよい。
【0107】
また、以上のほか、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物材料に由来する繊維を含ませることもでき、含まれていてもよい。
【0108】
(分散液)
微細化処理して得られたセルロースナノファイバーは、水系媒体中に分散して分散液とする。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましいが、一部が水と相溶性を有する他の液体である水系媒体も好ましく使用することができる。他の液体としては、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
【0109】
(固形分濃度)
分散液の固形分濃度は、1.0質量%以上であるのが好ましく、1.5質量%以上であるのがより好ましく、2.0質量%以上であるのが特に好ましい。また、分散液の固形分濃度は、70質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以下であるのが特に好ましい。
【0110】
(B型粘度)
セルロースナノファイバーの濃度を1質量%(w/w)とした場合における分散液のB型粘度は、1,300cps以下であるのが好ましく、1,200cps以下であるのがより好ましく、1,100cps以下であるのが特に好ましい。分散液のB型粘度が1,300cpsを超えると、セルロースナノファイバーの分散液と熱可塑性樹脂とを混練するために、つまりセルロースナノファイバーを熱可塑性樹脂中に分散させるために、大きなエネルギーが必要となり、製造コストの増加につながる。
【0111】
他方、分散液のB型粘度は10cps以上であるのが好ましく、30cps以上であるのがより好ましく、50cps以上であるのが特に好ましい。分散液のB型粘度が10cps未満であると、セルロースナノファイバーの重合度が低いことに起因して、分散液を熱可塑性樹脂と混練した際に、熱可塑性樹脂組成物の補強効果が劣る傾向にある。
【0112】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステル樹脂や芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、メタアクリレート、アクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0113】
ただし、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。また、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンを使用するのが好ましい。さらに、ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等を例示することができ、芳香族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート等を例示することができるが、生分解性を有するポリエステル樹脂(単に「生分解性樹脂」ともいう。)を使用するのが好ましい。
【0114】
生分解性樹脂としては、例えば、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、カプロラクトン系脂肪族ポリエステル、二塩基酸ポリエステル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0115】
ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体や、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、ポリ乳酸、乳酸と乳酸を除く上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体を使用するのが好ましく、ポリ乳酸を使用するのが特に好ましい。
【0116】
この乳酸としては、例えば、L−乳酸やD−乳酸等を使用することができ、これらの乳酸を単独で使用しても、2種以上を選択して使用してもよい。
【0117】
カプロラクトン系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリカプロラクトンの単独重合体や、ポリカプロラクトン等と上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0118】
二塩基酸ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0119】
生分解性樹脂は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0120】
熱可塑性樹脂には、無機充填剤が、好ましくはサーマルリサイクルに支障が出ない割合で含有されていてもよい。当該無機充填剤としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族〜第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。
【0121】
具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、シリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレーワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン等を例示することができる。
【0122】
以上の無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよい。
【0123】
(その他の原料)
熱可塑性樹脂組成物の原料には、後述する相溶化剤の他、例えば、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、ラジカル捕捉剤、発泡剤等の中から1種又は2種以上を選択して、本発明の効果を阻害しない範囲で添加することができる。
【0124】
これらの原料は、セルロースナノファイバーの分散液と熱可塑性樹脂との混練の際に併せて混練しても、両者の混練物に混練しても、その他の方法で混練してもよい。ただし、製造効率の面からは、セルロースナノファイバーの分散液と熱可塑性樹脂との混練の際に併せて混練するのが好ましい。
【0125】
(配合割合)
セルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂の配合割合は、セルロースナノファイバーが1質量部以上、熱可塑性樹脂が99質量部以下であるのが好ましく、セルロースナノファイバーが2質量部以上、熱可塑性樹脂が98質量部以下であるのがより好ましく、セルロースナノファイバーが3質量部以上、熱可塑性樹脂が97質量部以下であるのが特に好ましい。
【0126】
また、セルロースナノファイバーが50質量部以下、熱可塑性樹脂が50質量部以上であるのが好ましく、セルロースナノファイバーが40質量部以下、熱可塑性樹脂が60質量部以上であるのがより好ましく、セルロースナノファイバーが30質量部以下、熱可塑性樹脂が70質量部以上であるのが特に好ましい。ただし、セルロースナノファイバーの配合割合が3〜10質量部であると、熱可塑性樹脂組成物の強度、特に曲げ強度及び引張り弾性率の強度を著しく向上させることができる。
【0127】
なお、最終的に得られる熱可塑性樹脂組成物に含まれるセルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂の含有割合は、通常、セルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂の上記配合割合と同じとなる。
【0128】
(脱水・乾燥処理工程)
セルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂は、脱水処理及び乾燥処理する。ただし、両者を一緒に脱水処理及び乾燥処理するのが好ましい。両者を一緒に処理することで、大量かつ効率的な処理が可能となる。なお、脱水処理及び乾燥処理は、それぞれ別の工程・装置で行うこともできるが、同一の工程・装置で行うこともでき、同一の工程・装置で行う方が効率的である。
【0129】
脱水・乾燥処理には、例えば、凍結乾燥機、減圧乾燥機、加熱乾燥機、静置乾燥機、スプレードライ、ニーダー、二軸混練機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0130】
ただし、脱水・乾燥処理には、凍結乾燥機、加熱乾燥機、ニーダー、二軸混練機の中から1種又は2種以上を選択して使用するのが好ましく、凍結乾燥機又は加熱乾燥機を使用するのがより好ましい。凍結乾燥機、加熱乾燥機、ニーダー又は二軸混練機を使用すると、セルロースナノファイバーを凝集させずに乾燥することができる。また、特に、ニーダー、二軸混練機を使用してセルロースナノファイバーを熱可塑性樹脂とともに加熱攪拌しながら脱水・乾燥すると、大量かつ効率的な処理が可能になる。
【0131】
凍結乾燥機を使用する場合は、セルロースナノファイバーの凝集を防ぐという観点から、水やt−ブタノールを使用することができる。水を使用すると、溶媒処理の問題が生じないとの利点がある。また、t−ブタノールを使用すると、短時間での処理が可能となる、エネルギー効率に優れる、セルロースナノファイバーの凝集をより確実に防止することができるとの利点がある。
【0132】
加熱乾燥機としては、例えば、バンバリーミキサー、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ニーダー、固相せん断押出機、ラボプラストミル、遊星攪拌装置等の回転摩擦等により加熱及び攪拌ができる装置(加熱攪拌機)の中から1種又は2種以上を選択して使用するのが好ましい。
【0133】
なお、脱水・乾燥処理は、後述する「マスターバッチ法」においては、熱可塑性樹脂を溶融させて行い、「固相せん断法」においては、熱可塑性樹脂を溶融させないで行い、熱可塑性樹脂及びセルロースナノファイバーを単に混錬する場合は、溶融させて行っても、溶融させないで行ってもよい。
【0134】
ただし、マスターバッチ法及び固相せん断法においては、セルロースナノファイバーの分散液を、熱可塑性樹脂と共に脱水・乾燥処理するに先立って、遠心分離機や濾布が備わる連続濾過装置等で7〜15%の固形分濃度に濃縮しておくのが好ましい。予め濃縮しておくことで、乾燥、又は脱水及び乾燥の時間を短縮することができる。
【0135】
(混練処理工程)
脱水・乾燥処理を経たセルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂は、混練処理する。
【0136】
この混練処理には、例えば、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0137】
混練処理の温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移点以上溶融点以下であり、熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、80〜220℃とするのが好ましく、90〜210℃とするのがより好ましく、100〜200℃とするのが特に好ましい。
【0138】
また、混練処理の時間は、1〜180分とするのが好ましく、2〜100分とするのがより好ましく、3〜20分とするのが特に好ましい。
【0139】
(相溶化剤)
混練したセルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂には、相溶化剤を添加するのが好ましい。相溶化剤を添加すると、セルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂の相溶を助けることができ、得られる熱可塑性樹脂組成物の強度、特に曲げ強度を向上することができる。
【0140】
相溶化剤としては、ポリマー主鎖に酸無水物基を側鎖にもつ構造のものを使用するのが好ましい。
【0141】
酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水クエン酸等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができ、無水マレイン酸を使用するのが好ましい。
【0142】
熱可塑性樹脂、相溶化剤及びセルロースナノファイバーの固形分での配合質量割合は、相溶化剤を添加しない場合は、40〜99:0〜10:1〜50であるのが好ましく、相溶化剤を添加する場合は、40〜98.9:0.1〜10:1〜50であるのが好ましく、52〜97.5:0.5〜8:2〜40であるのがより好ましく、65〜96:1〜5:3〜30であるのが特に好ましい。
【0143】
(マスターバッチ法)
次に、図1を参照しつつ、熱可塑性樹脂及びセルロースナノファイバーを原料とし、相溶化剤を添加して熱可塑性樹脂組成物を製造する方法であるが、得られる熱可塑性樹脂組成物の強度が著しく向上する方法(単に「マスターバッチ法」ともいう。)について説明する。
【0144】
このマスターバッチ法においては、まず、パルプ繊維(P)を、叩解処理、酵素処理等の前処理(10)した後、微細化処理(20)してセルロースナノファイバーを得、このセルロースナノファイバーを水(W)と混ぜて分散液(CNF)とする。
【0145】
なお、上記叩解処理、酵素処理等の前処理(10)に先だって予め水(W)を添加することもできる。
【0146】
次に、この分散液(CNF)と熱可塑性樹脂、好ましくは低融点熱可塑性樹脂(Rx)とを脱水・乾燥処理(30x)し、一次混練処理(40x)する。そして、この一次混練物に熱可塑性樹脂(Ry)、更に相溶化剤(Rz)を添加し、二次混練処理(50x)及び成形処理(60)して熱可塑性樹脂組成物(S)を得る。
【0147】
ここで、分散液(CNF)及び低融点熱可塑性樹脂(Rx)の混練に関しては、まず、低融点熱可塑性樹脂(Rx)を溶融し、この溶融した低融点熱可塑性樹脂(Rx)に分散液(CNF)を徐々に添加するのが好ましい。
【0148】
なお、一次混錬物に、低融点熱可塑性樹脂(Rx)とは別に熱可塑性樹脂(Ry)を添加(配合)するのは次の理由からである。すなわち、低融点熱可塑性樹脂(Rx)は、ナノファイバーを分散させる基質としての役割を担う。また、低融点熱可塑性樹脂(Rx)とナノファイバーとを複合した一次混練物は、着色や補強等を目的とする、いわゆるマスターバッチとしての役割を担う。そして、このマスターバッチと熱可塑性樹脂(Ry)とを所望の配合率となるように混練することで、目的とする熱可塑性樹脂組成物を得ることができるのである。
【0149】
熱可塑性樹脂(Ry)の配合割合は、質量基準で低融点熱可塑性樹脂(Rx)100質量部に対し、100〜10,000質量部とするのが好ましく、200〜10,000質量部とするのがより好ましく、300〜10,000質量部とするのが特に好ましい。
【0150】
マスターバッチ法は、脱水・乾燥処理(30x)及び一次混練処理(40x)に際して低融点熱可塑性樹脂(Rx)等の熱可塑性樹脂を溶融させる点に1つの特徴がある。
【0151】
マスターバッチ方法において、脱水・乾燥処理(30x)の温度は、熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜設定する。例えば、熱可塑性樹脂として低融点熱可塑性樹脂(Rx)である低融点ポリプロピレン(融点90℃)を使用する場合は、90〜130℃とするのが好ましく、90〜120℃とするのがより好ましく、90〜110℃とするのが特に好ましい。
【0152】
なお、通常のポリプロピレン(融点160℃)を使用する場合は、160〜220℃とするのが好ましく、160〜210℃とするのがより好ましく、160〜200℃とするのが特に好ましい。
【0153】
また、脱水・乾燥処理(30x)の時間は、80〜1200分とするのが好ましく、90〜1100分とするのがより好ましく、100〜1000分とするのが特に好ましい。
【0154】
さらに、脱水・乾燥処理(30x)の装置としては、例えば、ニーダー、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等(減圧式混練機のように乾燥時間を短縮できる装置も含む)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0155】
一次混練処理(40x)の温度も、熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜設定する。例えば、熱可塑性樹脂として低融点熱可塑性樹脂(Rx)である低融点ポリプロピレン(融点90℃)を使用する場合は、90〜130℃とするのが好ましく、90〜120℃とするのがより好ましく、90〜110℃とするのが特に好ましい。
【0156】
一次混練処理(40x)の時間は、1〜100分とするのが好ましく、2〜80分とするのがより好ましく、3〜60分とするのが特に好ましい。
【0157】
一次混練処理(40x)の装置としては、例えば、ニーダー、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等(減圧式混練機のように乾燥時間を短縮できる装置も含む)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0158】
相溶化剤(Rz)を添加した後の二次混練処理(50x)の温度は、一次混練処理(40x)の後に添加した熱可塑性樹脂(Ry)の種類に応じて適宜設定する。例えば、熱可塑性樹脂(Ry)として低融点ではない熱可塑性樹脂、例えば、ポリプロピレン(融点160℃)を使用する場合は、160〜220℃とするのが好ましく、160〜210℃とするのがより好ましく、160〜200℃とするのが特に好ましい。
【0159】
二次混練処理(50x)の時間は、1〜180分とするのが好ましく、2〜80分とするのがより好ましく、3〜20分とするのが特に好ましい。
【0160】
二次混練処理(50x)の装置としては、例えば、ニーダー、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等(減圧式混練機のように乾燥時間を短縮できる装置も含む)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0161】
成形処理(60)の温度は、160〜220℃とするのが好ましく、160〜210℃とするのがより好ましく、160〜200℃とするのが特に好ましい。
【0162】
成形処理(60)の時間は、1〜200分とするのが好ましく、1〜190分とするのがより好ましく、1〜180分とするのが特に好ましい。
【0163】
成形処理の装置としては、例えば、射出成形機、吹込成形機、中空成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、押出成形機、真空成形機、圧空成形機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0164】
(固相せん断法)
次に、図1を参照しつつ、以上のマスターバッチ法とは異なるが、得られる熱可塑性樹脂組成物の強度が著しく向上する方法(単に「固相せん断法」ともいう。)について説明する。
【0165】
この固相せん断法においては、まず、パルプ繊維(P)を、前処理(10)した後、微細化処理(20)してセルロースナノファイバーを得、このセルロースナノファイバーを水(W)と混ぜて分散液(CNF)とする。なお、前処理(10)に先だって予め水(W)を添加することもできる。
【0166】
次に、この分散液(C)と熱可塑性樹脂(Ry)とを脱水・乾燥処理(30y)し、固相せん断処理(40y)する。そして、この固相せん断物に相溶化剤(Rz)を添加し、混練処理(50y)及び成形処理(60)して熱可塑性樹脂組成物(S)を得る。
【0167】
この固相せん断法は、脱水・乾燥処理(30y)に際して熱可塑性樹脂を溶融させない点に1つの特徴がある。また、この固相せん断法においては、脱水・乾燥処理(30y)及び固相せん断処理(40y)を経る過程で、セルロースナノファイバーが水分を蒸発されつつ熱可塑性樹脂にめり込まされ、分散される。これにより、セルロースナノファイバーが熱可塑性樹脂(Ry)中に点在し、セルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂の乾燥混合粉末が得られる点にも特徴がある。
【0168】
脱水・乾燥処理(30y)の際の温度は、熱可塑性樹脂(Ry)の種類に応じて適宜設定する。例えば、熱可塑性樹脂(Ry)としてポリプロピレン(融点160℃)を使用する場合は、50〜160℃とするのが好ましく、55〜155℃とするのがより好ましく、60〜150℃とするのが特に好ましい。
【0169】
脱水・乾燥処理(30y)の時間は、1〜300分とするのが好ましく、2〜270分とするのがより好ましく、3〜240分とするのが特に好ましい。
【0170】
脱水・乾燥処理(30y)の装置としては、例えば、簡易攪拌装置、ニーダー、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等(減圧式混練機のように乾燥時間を短縮できる装置も含む)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0171】
セルロースナノファイバーと熱可塑性樹脂(Ry)とが接触する面積が広いほど固相せん断処理(40y)の効率が良いことから、熱可塑性樹脂(Ry)の形状は、平均粒子径1〜1,000μmの粉末状としておくのが好ましい。
【0172】
固相せん断処理(40y)の温度も、熱可塑性樹脂(Ry)の種類に応じて適宜設定する。例えば、熱可塑性樹脂(Ry)としてポリプロピレン(融点160℃)を使用する場合は、脱水・乾燥処理(30y)の場合と同様に、50〜160℃とするのが好ましく、55〜155℃とするのがより好ましく、60〜150℃とするのが特に好ましい。
【0173】
固相せん断処理(40y)の時間は、1〜180分とするのが好ましく、2〜170分とするのがより好ましく、3〜160分とするのが特に好ましい。
【0174】
固相せん断処理(40y)の装置としては、例えば、ニーダー、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等(減圧式混練機のように乾燥時間を短縮できる装置も含む)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0175】
相溶化剤(Rz)を添加した後の混練処理(50y)は、熱可塑性樹脂(Ry)としてポリプロピレン(融点160℃)を使用する場合は、160〜220℃とするのが好ましく、160〜210℃とするのがより好ましく、160〜200℃とするのが特に好ましい。
【0176】
混練処理(50y)の時間は、1〜180分とするのが好ましく、2〜80分とするのがより好ましく、3〜20分とするのが特に好ましい。
【0177】
混練処理(50y)の装置としては、例えば、ニーダー、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等(減圧式混練機のように乾燥時間を短縮できる装置も含む)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0178】
(成形処理)
相溶化剤を添加したセルロースナノファイバー及び熱可塑性樹脂(混練物)は、必要により再度混練処理を行った後、所望の形状に成形する。なお、混練物にはセルロースナノファイバーが分散しているが、成形加工性に優れている。
【0179】
成形の大きさや厚さ、形状等は、特に限定されず、例えば、シート状、ペレット状、粉末状、繊維状等とすることができる。
【0180】
成形処理(60)の際の温度は、熱可塑性樹脂(Ry)としてポリプロピレン(融点160℃)を使用する場合は、160〜220℃とするのが好ましく、160〜210℃とするのがより好ましく、160〜200℃とするのが特に好ましい。
【0181】
成形処理(60)の時間は、1〜200分とするのが好ましく、1〜190分とするのがより好ましく、1〜180分とするのが特に好ましい。
【0182】
成形処理(60)の装置としては、例えば、射出成形機、吹込成形機、中空成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、押出成形機、真空成形機、圧空成形機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0183】
成形処理は、公知の成形方法によることができ、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等によることができる。また、混練物を紡糸して繊維状にし、前述した植物材料等と混繊してマット形状、ボード形状とすることもできる。混繊は、例えば、エアーレイにより同時堆積させる方法等によることができる。
【0184】
なお、この成形処理は、混練処理に続いて行うことも、混練物をいったん冷却し、破砕機等を使用してチップ化した後、このチップを押出成形機や射出成形機等の成形機に投入して行うこともできる。
【0185】
(用語の定義、測定方法等)
明細書中の用語は、特に断りのない限り、以下のとおりである。
【0186】
(平均繊維径)
固形分濃度0.01〜0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t−ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5000倍、10000倍又は30000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
【0187】
(平均繊維径の標準偏差)
上記平均繊維径算出法で、100本の繊維の幅を計測し、その100本の繊維幅の測定値から標準偏差(σ)を求めた値である。
【0188】
(平均繊維長)
平均繊維径の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
【0189】
(アスペクト比)
上記平均繊維長を平均繊維幅(径)で除した値である。
【0190】
(保水度)
JAPAN TAPPI No.26:2000に準拠して測定する。
【0191】
(結晶化度)
JIS−K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。
なお、セルロースナノファイバーは、非晶質部分と結晶質部分とを有し、結晶化度は、セルロースナノファイバー全体における結晶質部分の割合を意味することになる。
【0192】
(ピーク値)
ISO−13320(2009)に準拠して測定する。より詳細には、粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を使用してセルロースナノファイバーの水分散液における体積基準粒度分布を調べる。そして、この分布からセルロースナノファイバーの中位径を測定する。この中位径をピーク値とする。
【0193】
(半値幅)
上記粒度分布の累積頻度75%のときの粒径から累積頻度25%のときの粒径を引いた値(μm)である。
【0194】
(パルプ粘度)
JIS−P8215(1998)に準拠して測定する。なお、パルプ粘度が高いほどセルロースの重合度が高いことを意味する。
【0195】
(B型粘度)
固形分濃度1%のセルロースナノファイバーの水分散液について、JIS−Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定する。B型粘度はスラリーを攪拌させたときの抵抗トルクであり、高いほど攪拌に必要なエネルギーが多いことを意味する。
【0196】
(フリーネス)
JIS P8121−2:2012に準拠して測定した値である。
【実施例】
【0197】
次に、本発明の実施例を示し、本発明の作用効果を明らかにする。
(実施例1)
ニーダー等でほぐした含水率70%以上の製紙用広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)に、対乾燥パルプ1質量%となる量の多糖類加水分解酵素(ジェネンコア社製、CX7L)と、パルプ濃度が10質量%となる量の水を投入し、50℃で5時間反応させた。反応後は、105℃で5分間酵素を失活させ、パルプを水で数回ろ過洗浄した後、水を加え、2質量%水分散液とした。この水分散液は、ナイアガラビーターを使用してフリーネスが100ml以下となるまで叩解処理し、更にジェットミル(常光株式会社製)を使用して微細化処理した(5パス)。
【0198】
以上により、擬似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μm、保水度が500%以下の2〜3質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)が得られた。そこで、更にこの分散液を、遠心分離機(9,000rpm)で10分間処理し、7〜15質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)を得た。この分散液は、ポリプロピレン粉末(日本ポリプロ製ノバテックPP射出成型グレードMA3、粒径500μm程度)、及び当該7〜15質量%セルロースナノファイバースラリーが、乾燥質量比で90:5となるように500mlビーカーに投入し、プロペラ式加熱攪拌機(70℃、300rpm)を使用して2時間攪拌し、水分率が5〜10%になるまで乾燥させた(乾燥処理)。
【0199】
そして、更にニーダー(東洋精機製ラボプラストミル、70℃、60rpm)を使用して1時間、固相せん断処理し、セルロースナノファイバー及びポリプロピレンの乾燥混合粉末を得た。
【0200】
この乾燥混合粉末は、当該乾燥混合粉末及びマレイン酸変性ポリプロピレン粉末(化薬アクゾ製カヤブリッド、相溶化剤)が乾燥質量比で95:5となるように500mlビーカーに投入し、混合した。このようにして得た混合粉末は、二軸混練機(45rpm、180℃)を使用して混練処理し、セルロースナノファイバー5質量%配合のポリプロピレン(熱可塑性組成物)を得た。この熱可塑性組成物は、ペレッターを使用して、2mm径、2mm長の円柱状ペレットとした。このペレットは、180℃で、ダンベル型試験片(掴み具間距離20mm、幅3.9mm、厚さ1.97mm)と直方体試験片(長さ59mm、幅9.6mm、厚さ3.8mm)とに射出成形した。
【0201】
(比較例1)
ニーダー等でほぐした製紙用広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)の2質量%水分散液23Lを、ナイアガラビーターを使用してフリーネスが100ml以下となるまで叩解処理し、更にジェットミル(常光株式会社製)を使用して微細化処理した(10パス)。これにより、擬似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μm、保水度が500%以下の2〜3質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)が得られた。そこで、更にこの分散液を、遠心分離機(9,000rpm)で10分間処理し、7〜15質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)を得た。この分散液は、実施例1と同様に、乾燥処理、固相せん断処理、混練処理、射出成型した。
【0202】
(比較例2)
ニーダー等でほぐした含水率70%以上の製紙用広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)に、対乾燥パルプ1質量%となる量の多糖類加水分解酵素(ジェネンコア社製、CX7L)と、パルプ濃度が10質量%となる量の水を投入し、50℃で5時間反応させた。反応後は、105℃で5分間酵素を失活させ、パルプを水で数回ろ過洗浄した後、水を加え、2質量%水分散液とした。この水分散液は、ナイアガラビーターを使用してフリーネスが100ml以下となるまで叩解処理し、更にグラインダー(増幸産業株式会社のマスコロイダー)を使用して微細化処理した。これにより、擬似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μm、保水度が500%以下の2〜3質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)が得られた。そこで、更にこの分散液を、遠心分離機(9,000rpm)で10分間処理し、粒度分布体積平均径が20μm以下の7〜15質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)を得た。この分散液は、実施例1と同様に、乾燥処理、固相せん断処理、混練処理、射出成型した。
【0203】
(比較例3)
ニーダー等でほぐした製紙用広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)の2質量%水分散液23Lを、ナイアガラビーターを使用してフリーネスが100ml以下となるまで叩解処理し、更にグラインダー(増幸産業株式会社のマスコロイダー)を使用して微細化処理した。これにより、擬似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μm、保水度が500%以下の2〜3質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)が得られた。そこで、更にこの分散液を、遠心分離機(9,000rpm)で10分間処理し、粒度分布体積平均径が20μm以下の7〜15質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)を得た。この分散液は、実施例1と同様に、乾燥処理、固相せん断処理、混練処理、射出成型した。
【0204】
(比較例4)
ニーダー等でほぐした製紙用晒機械パルプ(BTMP)の2質量%水分散液23Lを、ナイアガラビーターを使用してフリーネスが100ml以下となるまで叩解処理し、更にグラインダー(増幸産業株式会社のマスコロイダー)を使用して微細化処理した。これにより、擬似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μm、保水度が500%以下の2〜3質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)が得られた。そこで、更にこの分散液を、遠心分離機(9,000rpm)で10分間処理し、粒度分布体積平均径が20μm以下の7〜15質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)を得た。この分散液は、実施例1と同様に、乾燥処理、固相せん断処理、混練処理、射出成型した。
【0205】
(比較例5)
ニーダー等でほぐした製紙用広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)の2質量%水分散液23Lを、ナイアガラビーターを使用してフリーネスが100ml以下となるまで叩解処理し、更にジェットミル(常光株式会社製)を使用して微細化処理した(10パス)。これにより、擬似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μm、保水度が500%以下の2〜3質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)が得られた。そこで、更にこの分散液を、遠心分離機(9,000rpm)で10分間処理し、7〜15質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)を得た。次に、105℃に調節したニーダー(東洋精機製のラボプラストミル)に低融点ポリプロピレン(出光興産製のエルモーデュS901、融点約80℃)を投入して溶融させた。次いで、低融点ポリプロピレン及びセルロースナノファイバーの乾燥質量比が50:50となるように上記7〜15質量%セルロースナノファイバーの分散液を徐々に投入して水分を蒸発させた。分散液の投入が完了した後、80rpmで20分間乾燥・分散し、50%セルロースナノファイバー配合マスターバッチを得た。このマスターバッチは、ペレッターを使用して2mm径、2mm長の円柱状にカットし、二軸混練機に投入しやすいペレットを得た。次に、ポリプロピレンのペレット(日本ポリプロ製のノバテックPP射出成型グレードMA3、融点158℃)、上記マスターバッチのペレット、相溶化剤としてのマレイン酸変性ポリプロピレンのペレット(三洋化成工業製のユーメックス1010)を乾燥質量比が80:20:1となるように500mlビーカーに投入して混合した。このペレット混合物を180℃に調製した二軸混練機にて45rpmで混練し、セルロースナノファイバー10質量%配合ポリプロピレンを得た。このポリプロピレンをペレッターで2mm径、2mm長の円柱状にカットし、セルロースナノファイバー10質量%配合ポリプロピレンのペレットを得た。このペレットは、実施例1と同様に射出成型した。
【0206】
(比較例6)
ニーダー等でほぐした製紙用広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)の2質量%水分散液23Lを、ナイアガラビーターを使用してフリーネスが100ml以下となるまで叩解処理し、更にグラインダー(増幸産業株式会社のマスコロイダー)を使用して微細化処理した。これにより、擬似粒度分布曲線におけるピーク値が5〜25μm、保水度が500%以下の2〜3質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)が得られた。そこで、更にこの分散液を、遠心分離機(9,000rpm)で10分間処理し、粒度分布体積平均径が20μm以下の7〜15質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)を得た。この分散液は、比較例5と同様の方法で、セルロースナノファイバー10質量%配合ポリプロピレンのペレットを得た。このペレットは、実施例1と同様に射出成型した。
【0207】
(比較例7)
まず、比較例4と同様の方法で7〜15質量%セルロースナノファイバースラリー(分散液)を得た。この分散液は、比較例5と同様の方法で、セルロースナノファイバー10質量%配合ポリプロピレンのペレットを得た。このペレットは、実施例1と同様に射出成型した。
【0208】
(比較例8)
ポリプロピレンのペレット(日本ポリプロ製のノバテックPP射出成型グレードMA3、融点158℃)を、実施例1記載のと同様に射出成型した。
【0209】
(比較例9)
ポリプロピレン粉末(日本ポリプロ製ノバテックPP射出成型グレードMA3、粒径500μm程度)、マレイン酸変性ポリプロピレン粉末(化薬アクゾ製カヤブリッド、相溶化剤)が乾燥質量比で90:5となるように500mlビーカーに投入し、混合した。この混合粉末は、二軸混練機(45rpm、180℃)を使用して混練処理し、次いでこのポリプロピレンをペレッターで2mm径、2mm長の円柱状にカットし、相溶化剤配合ポリプロピレンのペレットを得た。このペレットは、実施例1と同様に射出成型した。
【0210】
(評価方法)
各試験片について、曲げ試験及び引張り試験を行った結果を表1に示した。評価方法は、以下の通りとした。
【0211】
(曲げ試験:弾性率及び強度)
直方体試験片について、JIS K7171:2008(プラスチック−曲げ特性の求め方)に準拠して測定した。なお、数値が大きいほど弾性率、強度が強い(高い)ことを意味する。
【0212】
(引張り試験:弾性率、強度、伸び)
ダンベル型試験片について、JIS K7161:2014(プラスチック−引張特性の試験方法)に準拠して測定した。なお、数値が大きいほど弾性率、強度、伸びが強い(高い)ことを意味する。
【0213】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、以上の通り、従来の熱可塑性樹脂よりも強度が強くなる(増強効果)。したがって、従来から熱可塑性樹脂が使用されていた用途に使用することができるだけでなく、従来、強度不足により使用が見合わされていた用途にも使用することができる。好適には自動車内装材や玩具等の延性を保持しつつ機械的強度の大きい素材が必須物性である熱可塑性樹脂に用いられる。理由として外部から力を受けた際にすぐに破断するものを材料に用いた場合、鋭利な破断面が人身に接触し負傷する危険があるためである。
【0215】
具体的には、例えば、自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等、
パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等、
携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等、
携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品、オフィス機器、玩具、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等、
建築物、家具等の内装材、外装材、構造材等、
文具等の事務機器等、
その他、包装体、トレイ等の収容体、保護用部材、パーティション部材等、
として使用することができる。
以上のうち、自動車用途としては、内装材、インストルメントパネル、外装材等を例示することができる。具体的には、例えば、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、ドアトリム、シート構造材、コンソールボックス、ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー、カウリング等を例示することができる。
また、建築物、家具用途としては、ドア表装材、ドア構造材、机、椅子、棚、箪笥等の各種家具の表装材等を例示することができる。
【符号の説明】
【0216】
10…前処理、20…微細化(解繊)処理、30x,30y…乾燥処理、40x…(一次)混練処理、40y…固相せん断処理、50…相溶化剤添加処理、60…(二次)混練処理、70…成形処理、C…分散体、P…パルプ繊維、Rx…低融点ポリプロピレン、Ry…低融点ポリプロピレン以外のポリプロピレン、Rz…相溶化剤、W…水。
図1