(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6806994
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】テンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
F16H7/08 B
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-216932(P2016-216932)
(22)【出願日】2016年11月7日
(65)【公開番号】特開2018-76878(P2018-76878A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】中田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】榑松 勇二
(72)【発明者】
【氏名】小郷 敏孝
【審査官】
山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−172435(JP,A)
【文献】
特開2015−135178(JP,A)
【文献】
実開平01−058848(JP,U)
【文献】
特開2007−218371(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104913014(CN,A)
【文献】
特開2009−002373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後方側に開口したプランジャ穴を有するプランジャと、前記プランジャを収容する前方側に開口したプランジャ収容穴を有するハウジングと、前記プランジャ穴内に配置され、前記ハウジングおよび前記プランジャの間に形成された内側空間を前方側の第1高圧油室および後方側の貯留油室に区画するチェックバルブと、前記貯留油室内に配置されたインナースリーブと、前記第1高圧油室内に配置され前記プランジャを前方側に向けて付勢する付勢手段と、前記ハウジングに揺動可能に支持され、前記プランジャに係合するラチェットとを備えたテンショナであって、
前記ハウジングには、前記プランジャ収容穴の外側に形成され前記プランジャ収容穴に開口して連通する第2高圧油室と、前記第2高圧油室および前記ハウジングの外部に連通するユニット設置部とが形成され、
前記ユニット設置部には、前記第2高圧油室内のオイル圧が高まった時に前記第2高圧油室内のオイルを外部にリリーフするリリーフユニットが設置され、
前記プランジャ穴の内周面および前記インナースリーブの外周面の間隙が、前記第1高圧油室と前記第2高圧油室との間を連通させるオイル流路の一部として機能し、
前記チェックバルブは、前記プランジャ穴に挿入される被挿入部材を有し、
前記被挿入部材の外周面には、オイル用凹溝が形成され、
前記チェックバルブは、前記プランジャの周方向における、前記第2高圧油室の周方向位置と前記オイル用凹溝との周方向位置とが合うように、前記プランジャ穴内に設置されていることを特徴とするテンショナ。
【請求項2】
前記インナースリーブの後端には、前記インナースリーブの内周側と外周側とを連通させる後端側連通溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記インナースリーブの前端には、前記インナースリーブの内周側と外周側とを連通させる前端側連通溝が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行するチェーンやベルト等に適正張力を付与するテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーン等の張力を適正に保持するためにテンショナを用いることが慣用されており、例えば、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンをテンショナレバーによって摺動案内を行うチェーンガイド機構において、チェーン等の張力を適正に保持するために、テンショナによってテンショナレバーを付勢するものが公知である。
【0003】
公知のテンショナ110は、
図6に示すように、前方側に開口したプランジャ収容穴131を有するハウジング130と、プランジャ収容穴131に摺動自在に挿入されるプランジャ120と、プランジャ120を前方側に向けて付勢するコイルばね(
図6では図示しない)とを備えている。このようなテンショナ110では、プランジャ収容穴131とプランジャ120との間に形成された高圧油室111にオイルが供給され、高圧油室111内のオイルによってプランジャ120を前方側に向けて付勢するとともに、プランジャ120の往復動に伴ってプランジャ120とプランジャ収容穴131の間の僅かな隙間をオイルが流れ、その流路抵抗によってプランジャ120の往復動を減衰させるダンピング効果を得ている。
【0004】
ここで、高圧油室111内のオイル圧を適切に維持するために、高圧油室111内のオイル圧が高まった時に高圧油室111内のオイルをプランジャ120外に排出する機構を設けることが知られており、このような機構の一態様として、
図6に示すように、プランジャ120の内部および外部を連通させるリリーフ孔124をプランジャ120に設けるとともに、オリフィス部材170をプランジャ120内に配置することが知られている。
このオリフィス部材170の外周面には螺旋状の溝が形成されており、このオリフィス部材170をプランジャ穴121内に圧入嵌合し、プランジャ穴121の内周面とオリフィス部材170の溝との間隙でリリーフ孔124からのオイルの流出量を調節する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−12569号公報
【特許文献2】特開2002−327810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このようなオリフィス部材170をプランジャ120の前端側に設置したテンショナ110では、
図6に示すように、プランジャ120の前端側を鉛直方向の下向きに配置した場合、エンジン停止中に、高圧油室111(プランジャ穴121)内のオイルがリリーフ孔124から漏れ出してしまうことがある。そして、この場合、エンジン再始動時に、高圧油室111内にオイルが供給されるまで間は油圧が効かないことになるため、プランジャ120によってチェーンを良好に保持することができず、異音が発生してしまう等の問題が生じる。
【0007】
また、オリフィス部材170をプランジャ120の前端側に設置したテンショナ110では、チェーンからプランジャ120が後方側へ強い押し戻しを受けた場合、高圧油室111内は極度の高圧となり、プランジャ120が後方側へ戻ることができず、結果として、チェーンが張った状態となってしまうという問題もある。また、この問題を回避するために、オイル流出性を向上させた場合、僅かな力でもプランジャ120は後方側へ押し戻されてしまい、チェーンが暴れてしまうという問題が生じることになる。
【0008】
また、他の案として、
図7に示すように、プランジャ120の前端側に、上述したオリフィス部材170の代わりにリリーフバルブ機構170を設置することも知られている(例えば、特許文献1を参照)。このリリーフバルブ機構170は、シート部171に密着可能に着座するバルブ部材172を有し、高圧油室111内のオイル圧が高まった時に、オイル圧によってバルブ部材172を移動させ、高圧油室111内のオイルを外部にリリーフするように構成されている。
【0009】
ところが、このようなリリーフバルブ機構170を用いた場合においても、チェーンからプランジャ120が後方側へ強い押し戻しを受けた際に、高圧油室111内のオイルがリリーフバルブ機構170によってプランジャ120の外部に排出され、オイル排出後は一時的に高圧油室内にオイルの無い状態となるため、チェーンを良好に保持することができなくなってしまうという問題がある。
【0010】
更に他の案として、
図8に示すように、プランジャ120の前端側以外の箇所に、上述したリリーフバルブ機構170等を設置することも考えられる(例えば、特許文献2を参照)。この
図8に示す例では、プランジャ120の前端側を鉛直方向の下向きに配置した場合においても、エンジン停止中に、高圧油室111(プランジャ穴121)内のオイルがプランジャ120の外部に漏れ出してしまうことを防止できる。
【0011】
しかしながら、この
図8に示す例においても、チェーンからプランジャ120が後方側へ強い押し戻しを受けた際に、高圧油室111内のオイルがリリーフバルブ機構170によってプランジャ120の外部に排出され、オイル排出後は一時的に高圧油室内にオイルの無い状態となってしまうという問題については、解消することはできない。
【0012】
そこで、本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡素な構成で、第1高圧油室内のオイル圧を安定させ、チェーンを良好に保持することが可能なテンショナを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、後方側に開口したプランジャ穴を有するプランジャと、前記プランジャを収容する前方側に開口したプランジャ収容穴を有するハウジングと、前記プランジャ穴内に配置され、前記ハウジングおよび前記プランジャの間に形成された内側空間を前方側の第1高圧油室および後方側の貯留油室に区画するチェックバルブと、前記貯留油室内に配置されたインナースリーブと、前記第1高圧油室内に配置され前記プランジャを前方側に向けて付勢する付勢手段と
、前記ハウジングに揺動可能に支持され、前記プランジャに係合するラチェットとを備えたテンショナであって、前記ハウジングには、
前記プランジャ収容穴の外側に形成され前記プランジャ収容穴に
開口して連通する第2高圧油室と、前記第2高圧油室および前記ハウジングの外部に連通するユニット設置部とが形成され、前記ユニット設置部には、前記第2高圧油室内のオイル圧が高まった時に前記第2高圧油室内のオイルを外部にリリーフするリリーフユニットが設置され、前記プランジャ穴の内周面および前記インナースリーブの外周面の間隙が、前記第1高圧油室と前記第2高圧油室との間を連通させるオイル流路の一部として機能
し、前記チェックバルブは、前記プランジャ穴に挿入される被挿入部材を有し、前記被挿入部材の外周面には、オイル用凹溝が形成され、前記チェックバルブは、前記プランジャの周方向における、前記第2高圧油室の周方向位置と前記オイル用凹溝との周方向位置とが合うように、前記プランジャ穴内に設置されていることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0014】
本請求項1に係る発明によれば、第1高圧油室に加えて、ハウジングに第2高圧油室を形成するとともに、第2高圧油室の外側にリリーフユニットを設置することにより、チェーンからプランジャが後方側へ強い押し戻しを受け、第1高圧油室内のオイル圧が高まった場合に、第1高圧油室に連通する第2高圧油室内のオイルをリリーフユニットから排出することが可能であるため、プランジャの前端側にリリーフユニットを設けた場合とは異なり、プランジャの前端側を鉛直方向の下向きに配置した場合であっても、エンジン停止中に、第1高圧油室内のオイルがプランジャの外部に漏れ出てしまうことを防止できる。
また、第1高圧油室と第2高圧油室との間を連通させるオイル流路の一部として、プランジャ穴の内周面およびインナースリーブの外周面の間隙を利用することにより、当該間隙は充分な狭さおよび充分な長さで形成することが容易であるため、ハウジング等に複雑な加工を施すことなく、簡素な構成で、オイル流路の流路抵抗を充分に確保することができる。これにより、チェーンからプランジャが後方側へ強い押し戻しを受けた場合でも、第1高圧油室から第2高圧油室側へ圧力を逃して、第1高圧油室の過剰なオイル圧の上昇を防ぎつつも、第1高圧油室内から大量のオイルが抜けることを回避して、第1高圧油室内に充分なオイルを残留させることができ、第1高圧油室内のオイル圧を安定させることができる。
【0015】
本請求項
1に係る発明によれば、プランジャ穴に
挿入される被
挿入部材の外周面に、オイル用凹溝を形成し、プランジャ穴の内周面とオイル用凹溝との間の間隙をオイル流路の一部として機能させることにより、チェックバルブによって第1高圧油室から貯留油室にオイルが逆流することを回避しつつも、チェックバルブ(被
挿入部材)の外周側で第1高圧油室から第2高圧油室へオイルを流動させることができる。
本請求項
1に係る発明によれば、第2高圧油室の周方向位置とオイル用凹溝との周方向位置とを合わせることにより、第1高圧油室内の圧力を円滑に第2高圧油室に逃がすことができ、また、プランジャに係合するラチェットによってプランジャが回り止めされるため、第2高圧油室とオイル用凹溝との間の位置関係がずれることを抑制できる。
本請求項
2に係る発明によれば、インナースリーブの後端に、インナースリーブの内周側と外周側とを連通させる後端側連通溝が形成されていることにより、第1高圧油室から第2高圧油室に向かうオイルの一部や、外部に排出されようとする第2高圧油室内のオイルの一部を、後端側連通溝を通じて、貯留油室に回収することができるとともに、第1高圧油室を経由することなく、後端側連通溝を通じて、貯留油室から第2高圧油室へオイルを直接供給することができる。
本請求項
3に係る発明によれば、インナースリーブの前端に、インナースリーブの内周側と外周側とを連通させる前端側連通溝が形成されていることにより、第1高圧油室から第2高圧油室に向かうオイルの一部を、前端側連通溝を通じて、貯留油室に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るテンショナを示す斜視図。
【
図3】チェーンからプランジャが後方側へ強い押し戻しを受けた場合のオイルの流れを模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に係るテンショナ10について、図面に基づいて説明する。
【0018】
まず、テンショナ10は、自動車エンジンのタイミングシステム等に用いられるチェーン伝動装置に組み込まれるものであり、エンジンブロックに取り付けられ、複数のスプロケットに掛け回された伝動チェーンの弛み側にテンショナレバーを介して適正な張力を付与し、走行時に生じる振動を抑止するものである。
【0019】
テンショナ10は、
図1や
図2に示すように、円筒状のプランジャ20と、プランジャ20を収容する前方側に開口したプランジャ収容穴31を有するハウジング30と、プランジャ収容穴31内に配置され、ハウジング30およびプランジャ20の間に形成された内側空間を前方側の第1高圧油室11および後方側の貯留油室12に区画するチェックバルブ40と、貯留油室12内に摺動可能に配置されたインナースリーブ50と、第1高圧油室11内に配置されプランジャ20を前方側に向けて付勢する付勢手段としてのコイルばね60と、後述するハウジング30のユニット設置部35に設置されるリリーフバルブユニット70と、ハウジング30に揺動可能な状態で取り付けられるラチェット80と、プランジャ20の突出を一時的に制止するために用いられるストッパレバー90およびストッパピン91とを備えている。
【0020】
プランジャ20は、
図2に示すように、後方側に開口したプランジャ穴21と、後端側に形成されたプランジャ底部22と、その外周面に形成されたラチェット80に係合するためのラック歯23とを有している。
【0021】
ハウジング30は、
図1や
図2に示すように、円筒状のプランジャ収容穴31と、後方側に形成されたハウジング底部32と、ハウジング底部32に形成され外部から貯留油室12にオイルを供給するためのハウジング油供給孔33と、プランジャ収容穴31の後端側においてプランジャ収容穴31に開口して連通する第2高圧油室34と、第2高圧油室34およびハウジング30の外部に開口して連通するユニット設置部35と、エンジンブロックに取り付けるための取り付け孔36とを有している。
第2高圧油室34(およびユニット設置部35)は、
図2に示すように、プランジャ20の進退方向(前後方向)に対して90°以下(本実施形態では約40°)の角度を成す方向に延びるように形成されている。
【0022】
チェックバルブ40は、貯留油室12から第1高圧油室11へのオイルの流入を許容するとともに、第1高圧油室11から貯留油室12へのオイルの逆流を阻止するものであり、
図2に示すように、その中央に貫通孔を有したシート部材41と、シート部材41の前端部に密着可能に着座する球状のバルブ部材42と、バルブ部材42の移動を規制するリテーナ43と、バルブ部材42とリテーナ43との間に配置されバルブ部材42を後方側(シート部材41側)に向けて付勢するスプリング44とを有している。なお、スプリング44は、必須の構成要素ではなく、実施形態によっては設けなくてもよい。
【0023】
リテーナ43は、
図2に示すように、プランジャ穴21に
挿入される被
挿入部材として構成され、リテーナ43の外周面には、
図4に示すように、前後方向に延びるオイル用凹溝43aが形成され、また、リテーナ43の底部には、前後方向に貫通する貫通孔43bが形成されている。
チェックバルブ40は、
図2に示すように、プランジャ20の周方向における、第2高圧油室34の周方向位置とオイル用凹溝43aとの周方向位置とが合うように、プランジャ穴21内に設置されている。
【0024】
インナースリーブ50は、鉄等の金属から形成され、
図2や
図5に示すように、その内部が貯留油室12として機能する円筒状の筒状本体部51と、筒状本体部51の前端に形成されたスリーブ底部52と、スリーブ底部52に形成されたオイル孔53と、インナースリーブ50の後端に形成され、インナースリーブ50の内周側と外周側とを連通させる計4箇所の後端側連通溝54と、スリーブ底部52(インナースリーブ50の前端)に形成され、インナースリーブ50の内周側と外周側とを連通させる計4箇所の前端側連通溝55とを有している。
【0025】
インナースリーブ50は、
図2に示すように、スリーブ底部52を前方側に向けた状態で、プランジャ穴21内に配置されている。インナースリーブ50は、プランジャ底部22とスリーブ底部52との間に配置されたコイルばね60によって後方側に向けて付勢され、筒状本体部51の後端側が、ハウジング底部32の前面に接触している。
【0026】
コイルばね60は、
図2に示すように、第1高圧油室11内に伸縮自在に収納され、具体的には、プランジャ底部22の後面とスリーブ底部52の前面との間に配置されている。
【0027】
リリーフバルブユニット70は、第2高圧油室34内のオイル圧が高まった時に第2高圧油室34内のオイルを外部にリリーフするものであり、
図2に示すように、その中央に貫通孔を有したシート部材71と、シート部材71に密着可能に着座する球状のバルブ部材72と、バルブ部材72の移動を規制するリテーナ73と、バルブ部材72とリテーナ73との間に配置されバルブ部材72をシート部材71側に向けて付勢するスプリング74と、リテーナ73に取り付けられスプリング74を支持するスプリング支持部材75とを有している。なお、スプリング74やスプリング支持部材75は、必須の構成要素ではなく、実施形態によっては設けなくてもよい。
【0028】
ラチェット80は、
図2に示すように、プランジャ20のラック歯23に係合可能なラチェット爪部81を有し、ラチェット爪部81がラック歯23に係合するように付勢バネ82によって付勢され、プランジャ20の後方側への動きを規制するように構成されている。ラチェット80は、ラック歯23に対するラチェット爪部81の係合によって、ハウジング30に対するプランジャ20の回転を規制する回転止め手段としても機能する。
【0029】
このようにして得られた本実施形態のテンショナ10では、第1高圧油室11に加えて、ハウジング30に第2高圧油室34を形成するとともに、第2高圧油室34の外側にリリーフバルブユニット70を設置することにより、チェーンからプランジャ20が後方側へ強い押し戻しを受け、第1高圧油室11内のオイル圧が高まった場合に、第1高圧油室11に繋がった第2高圧油室34内のオイルがリリーフバルブユニット70から排出される。
これにより、プランジャ20の前端側にリリーフバルブユニット70を設けた場合とは異なり、プランジャ20の前端側を鉛直方向の下向きに配置した場合であっても、エンジン停止中に、第1高圧油室11内のオイルがプランジャ20の外部に漏れ出てしまうことを防止できる。
【0030】
また、
図3に示すように、第1高圧油室11と第2高圧油室34との間を連通させるオイル流路の一部として、プランジャ穴21の内周面およびインナースリーブ50の外周面の間隙を利用することにより、当該間隙は充分な狭さおよび充分な長さで形成することが容易であるため、ハウジング30等に複雑な加工を施すことなく、簡素な構成で、オイル流路の流路抵抗を充分に確保することができる。
これにより、チェーンからプランジャ20が後方側へ強い押し戻しを受けた場合でも、第1高圧油室11から第2高圧油室34側へ圧力を逃して、第1高圧油室11の過剰なオイル圧の上昇を防ぎつつも、第1高圧油室11内から大量のオイルが抜けることを回避して、第1高圧油室11内に充分なオイルを残留させることができ、第1高圧油室11内のオイル圧を安定させることができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【0032】
例えば、上述した複数の実施形態の各構成を、任意に組み合わせてテンショナを構成しても何ら構わない。
また、上述した実施形態では、テンショナが自動車エンジン用のタイミングシステムに組み込まれるものとして説明したが、テンショナの具体的用途はこれに限定されない。
また、上述した実施形態では、テンショナがテンショナレバーを介して伝動チェーンに張力を付与するものとして説明したが、プランジャの先端で直接的に伝動チェーンの摺動案内を行い、伝動チェーンに張力を付与するようにしてもよい。
さらに、伝動チェーンによる伝動機構に限らず、ベルト、ロープ等の類似の伝動機構に適用されてもよく、長尺物に張力を付与することが求められる用途であれば、種々の産業分野において利用可能である。
また、上述した実施形態では、プランジャを収容するハウジングが、エンジンブロック等に取り付けられる所謂ハウジングであるものとして説明したが、ハウジングの具体的態様は、上記に限定されず、ハウジングに形成されたボディ穴内に挿入される円筒状の所謂スリーブであってもよい。
また、上述した実施形態では、チェックバルブのバルブ部材の移動を規制するリテーナが、プランジャ穴に
挿入される被
挿入部材であるものとして説明したが、被
挿入部材の具体的態様はこれに限定されず、例えば、バルブ部材を着座させるシート部材を被
挿入部材として構成してもよい。
また、上述した実施形態では、第2高圧油室内のオイルを外部にリリーフするリリーフユニットが、バルブ部材を有したリリーフバルブユニットとして構成されているものとして説明したが、リリーフユニットの具体的態様は、第2高圧油室内のオイル圧が高まった時に第2高圧油室内のオイルを外部にリリーフするものであれば、如何なるものでもよく、例えば、リリーフユニットを
図6に示すようなオリフィスから構成してもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 ・・・ テンショナ
11 ・・・ 第1高圧油室
12 ・・・ 貯留油室
20 ・・・ プランジャ
21 ・・・ プランジャ穴
22 ・・・ プランジャ底部
23 ・・・ ラック歯
30 ・・・ ハウジング
31 ・・・ プランジャ収容穴
32 ・・・ ハウジング底部
33 ・・・ ハウジング油供給孔
34 ・・・ 第2高圧油室
35 ・・・ ユニット設置部
36 ・・・ 取り付け孔
40 ・・・ チェックバルブ
41 ・・・ シート部材
42 ・・・ バルブ部材
43 ・・・ リテーナ(被
挿入部材)
43a ・・・ オイル用凹溝
43b ・・・ 貫通孔
44 ・・・ スプリング
50 ・・・ インナースリーブ
51 ・・・ 筒状本体部
52 ・・・ スリーブ底部
53 ・・・ オイル孔
54 ・・・ 後端側連通溝
55 ・・・ 前端側連通溝
60 ・・・ コイルばね(付勢手段)
70 ・・・ リリーフバルブユニット(リリーフユニット)
71 ・・・ シート部材
72 ・・・ バルブ部材
73 ・・・ リテーナ
74 ・・・ スプリング
75 ・・・ スプリング支持部材
80 ・・・ ラチェット
81 ・・・ ラチェット爪部
82 ・・・ 付勢バネ
90 ・・・ ストッパレバー
91 ・・・ ストッパピン