(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から髄内釘による大腿骨近位部の骨折を治療するための治療方法として、髄内固定法が知られている。この髄内固定法は、大腿骨の近位端から髄内腔に髄内釘を差し込むとともに、固定ボルト等により該髄内釘を大腿骨に固定して行われる。髄内釘は、
図14に示すように、途中の屈曲部を境にして近位部101とこの近位部101より長い遠位部102とを備えたロッド状のネイル103と、このネイル103の遠位部102に設けられる骨部への係合手段であるロッキングスクリュ−104と、ネイル103の屈曲部近傍の近位部101に斜めに貫設された貫通孔105と、骨頭部91にねじ込まれるスクリュー106が先端に設けられかつ貫通孔105に挿入されるラグスクリュー107(骨接合具)とを有している。
【0003】
大腿骨近位部骨折時の治療のためには、まず、ネイル103が大腿骨90の内腔(骨髄腔)へ近位部側から打ち込まれる。そして、大腿骨90の内腔およびネイル遠位部102を貫通してロッキングスクリュ−104が通されてネイル103が大腿骨内腔の所定位置に固定される。次に、ネイル103の貫通孔105を通してラグスクリュー107の先端のスクリュー106が骨頭部91にねじ込まれ骨頭部91に固定され、ラグスクリュー107が骨頭部91を骨折部92に押し付けるように手前側に引き寄せられる。また、必要に応じて、ラグスクリュー106が打ち込まれた骨頭部91が骨折部92に対し回転しないようにするために、ラグスクリュー106とは別の第2のラグスクリューが骨頭部91に打ち込まれる。
【0004】
また、大腿骨近位部骨折の治療に関しては、上述の髄内釘を用いずにラグスクリュー107のみを用いて、予め形成された骨孔を通して、ラグスクリュー107の先端のスクリュー106を骨頭部91にねじ込んで該骨頭部91を固定する場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のラグスクリュー(骨接合具)を用いた骨接合においては、時間の経過とともにラグスクリューが、その軸方向に移動してしまうという問題があった。特に、ラグスクリューが進入方向側に移動した場合、ラグスクリューによる骨折部の固定が不安定になり、接合すべき骨同士が離間してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、骨内に設置したラグスクリューが、その進入方向側に移動することを効果的に抑制して、接合すべき骨同士が離間することを防止することができる骨接合具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、一方端及び他方端が開口する筒状のスリーブと、先端部及び後端部を有する長尺状の軸本体、並びに、前記軸本体の先端部に設けられるスクリュー部を有するラグスクリューとを備える骨接合具であって、前記ラグスクリューは、前記後端部を挿入方向先端側として、前記スリーブの一方端側から他方端側に向けて該スリーブの内腔に挿入可能に構成されており、前記ラグスクリューが前記スリーブの一方端側から他方端側への向きに移動することを可能とする一方で、前記ラグスクリューが前記スリーブの他方端側から一方端側への向きに移動することを防止するラチェット手段を備え
ており、前記ラチェット手段は、前記スリーブに形成され、該スリーブの内腔側に突出する爪部材と、前記ラグスクリューの前記軸本体の表面の少なくとも一部領域に形成され、前記爪部材と係合するラチェット歯列とを備え、前記スリーブは、前記スリーブの外周面及び内周面を貫通し、該スリーブの軸方向に沿って延びる複数のスリットを備えており、各スリットは、前記スリーブの周方向に沿って所定間隔あけた状態で、かつ、前記スリーブの軸方向位置に関して同位置に形成されており、前記爪部材は、前記各スリット同士の間に配置されていること特徴とする骨接合具により達成される。
【0010】
また、前記爪部材は、前記スリーブの内面に形成されることが好ましい。
【0011】
また、前記爪部材は、前記スリーブの内面の周方向に沿って延びて形成されることが好ましい。
【0012】
また、前記ラチェット歯列は、前記軸本体の軸方向に沿って複数配置されるラチェット歯を備えており、各ラチェット歯は、前記軸本体の周方向に沿って延びて形成されていることが好ましい。
【0013】
また、前記各ラチェット歯は、環状に形成されていることが好ましい。
【0015】
また、前記各スリットは、前記スリーブの軸方向に沿って延びるスリット本体と、前記スリーブの一方端側に配置される一端部と、前記スリーブの他方端側に配置される他端部とを備えており、前記各スリットの前記一端部及び前記他端部の少なくともいずれか一方は、前記スリット本体の幅寸法よりも大きい幅寸法を備えるように構成されていることが好ましい。
【0016】
また、前記スリーブの他方端には、前記スリーブの外表面から径方向外方に突出する拡径部が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、骨内に設置したラグスクリューが、その進入方向側に移動することを効果的に抑制して、接合すべき骨同士が離間することを防止することができる骨接合具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る骨接合具を示す概略構成平面図である。
【
図2】
図1に示す骨接合具が有するラグスクリューの概略構成斜視図である。
【
図3】
図1に示す骨接合具が有するラグスクリューの概略構成断面図である。
【
図5】
図1に示す骨接合具が有するスリーブの概略構成平面図である。
【
図6】
図1に示す骨接合具が有するスリーブの概略構成断面図である。
【
図7】(a)は、
図5の矢視A方向から見た側面図であり、(b)は、
図5の矢視B方向から見た側面図であり、(c)は、
図5のC−C断面を示す断面図であり、(d)は、
図7(c)のD−D断面を示す断面図である。
【
図9】
図7(d)の矢視E方向からみた概略構成平面図である。
【
図10】(a)は、髄内釘が大腿骨内部に挿入された状態を示す説明図であり、(b)は、髄内釘における骨接合具挿入孔を介して本発明に係る骨接合具が大腿骨内部に挿入された状態を示す説明図である。
【
図11】(a)(b)共に、本発明に係る骨接合具の作用を説明するための説明図である。
【
図12】本発明に係る骨接合具の変形例を示す概略構成平面図である。
【
図13】(a)は、本発明に係る骨接合具の変形例を示す概略構成平面図であり、(b)は、F−F断面を示す概略構成断面図である。
【
図14】従来の骨接合具を用いた大腿骨近位部の骨折治療法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る骨接合具について、添付図面を参照して説明する。なお、各図は、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。
図1は、本発明に係る骨接合具1を示す概略構成平面図である。この骨接合具1は、ラグスクリュー2とスリーブ3とを備えている。
【0020】
ラグスクリュー2は、
図2の概略構成斜視図、
図3の概略構成断面図に示すように、先端部21a及び後端部21bを有する長尺状の軸本体21と、該軸本体21の先端部21aの外周面に設けられるスクリュー部22とを備えている。このラグスクリュー2は、骨折により分離した骨折片(大腿骨の骨頭部)を大腿骨(転子部)に固定するための固定用接続具であり、軸本体21の先端部に設けられるスクリュー部22が大腿骨骨頭部にねじ込まれ、大腿骨骨頭部および大腿骨頚部に進入した状態で配置される。ラグスクリュー2は、チタン合金やステンレス等の生体親和性を有する金属材料により形成されることが好ましい。また、ラグスクリュー2における軸本体21は、略円柱に形成されており、その軸方向中央部に、スリーブ3との間での位置規制用のストッパ部23が設けられている。このストッパ部23は、軸本体21の外表面から径方向外側に突出するリング状構造として構成されており、軸本体21の後端部21bから挿入されるスリーブ3の一方端3aが当接するように構成されている。
【0021】
また、ラグスクリュー2の軸本体21の表面の少なくとも一部領域には、後述の爪部材31と係合するラチェット歯列24が形成されている。具体的には、上記ストッパ部23と後端部21bとの間の領域において、ラチェット歯列24が形成されている。このラチェット歯列24は、
図2や
図4の要部拡大図に示すように、複数のラチェット歯25を備えて構成されており、各ラチェット歯25は、軸本体21の軸方向に沿って、所定間隔をあけて配置されている。
【0022】
また、各ラチェット歯25は、軸本体21の周方向に沿って延びて形成されている。特に本実施形態においては、軸本体21の周方向に沿って一周する環状に形成されている。各ラチェット歯25は、
図4の要部拡大図に示すように、軸本体21の先端部21a側に設けられる係合段差面25aと、軸本体21の後端部21b側に設けられる傾斜面25bと、係合段差面25a及び傾斜面25bとを接続するスライド表面部25cとを備えており、断面視ノコ歯状に構成されている。スライド表面部25cは、軸本体21の最外面に相当する部分であり、軸本体21の先端部21a側における該スライド表面部25cの端縁が、係合段差面25aに接続しており、軸本体21の後端部21b側における該スライド表面部25cの端縁が、傾斜面25bに接続している。係合段差面25aは、軸本体21の軸方向に対して垂直な面として形成されており、軸本体21の先端部21a側を向く面として構成されている。傾斜面25bの一方の端縁はスライド表面部25cに接続しており、他方の端縁は、隣り合うラチェット歯25が有する係合段差面25aの軸本体21の中心方向側に配置される端縁に接続するように構成されている。つまり、傾斜面25bは、軸本体21の先端部21a側から後端部21b側に向かうに従い、軸本体21の軸中心側に向かって傾斜するように形成されている。このようなラチェット歯25は、ラグスクリュー2の軸本体21における所定位置の表面を切削加工等により溝を形成することができる。なお、この溝は、傾斜面25b及び係合段差面25aとにより形成されるラチェット溝26となる。
【0023】
また、係合段差面25aと傾斜面25bとにより構成されるラチェット溝26に後述の爪部材31が配置されることにより、ラグスクリュー2がスリーブ3の一方端21a側から他方端21b側への向きに移動することを可能とする一方で、ラグスクリュー2がスリーブ3の他方端21b側から一方端21a側への向きに移動すること防止した状態を作り出すことが可能となる。ここで、本実施形態においては、係合段差面25aと傾斜面25bとにより構成されるラチェット溝26に関し、軸本体21の先端部21a側から順に形成されるラチェット溝26同士の間隔(軸本体21の軸方向に沿う方向の間隔)は、略同一寸法となるように構成されているが、最も軸本体21の後端部21b側に形成される一のラチェット溝26aに関しては、他のラチェット溝26同士の間隔よりも大きい間隔をあけて配置するように構成されている。
【0024】
スリーブ3は、
図5の概略構成平面図や、
図6の概略構成断面図、
図5の矢視A方向から見た側面図である
図7(a)、
図5の矢視B方向から見た側面図である
図7(b)、
図5のC−C断面を示す
図7(c)、
図7(c)のD−D断面を示す
図7(d)に示すように、一方端3a及び他方端3bが開口する筒状(円筒状)の形態を有しており、該スリーブ3の内腔側に突出する爪部材31と、該スリーブ3の外周面及び内周面を貫通し、該スリーブ3の軸方向に沿って延びる複数のスリット32とを備えて構成されている。また、スリーブ3の他方端には、該スリーブ3の外表面から径方向外方に突出する拡径部33が設けられている。なお、スリーブ3の一方端3a側の外表面形状は、僅かに先細となるようにテーパ―状となるように形成されている。また、スリーブ3の外表面の最大直径寸法は、ラグスクリュー2の先端部21aに形成されるスクリュー部22の最大径と略同一寸法、或いは、僅かに小さい寸法、又は、僅かに大きい寸法として構成される、
【0025】
このスリーブ3は、チタン合金やステンレス等の生体親和性を有する金属材料により形成されることが好ましい。また、スリーブ3の内周面の形状は、断面視円形に形成されており、ラグスクリュー2の軸本体21の直径より僅かに大きい径を有するように構成されている。なお、ラグスクリュー2は、その後端部21bを挿入方向先端側として、スリーブ3の一方端3a側から他方端3b側に向けて該スリーブ3の内腔に挿入される。また、スリーブ3は、その一方端3a側の開口縁が、ラグスクリュー2の軸本体21の表面に形成されるストッパ部23に当接して、スリーブ3が、当該ストッパ部23を超えて、ラグスクリュー2の先端部21a側に移動できないように構成されている。
【0026】
爪部材31は、スリーブ3に形成され、該スリーブ3の内腔側に突出する形態を有し、上述の複数のラチェット歯25を備えるラチェット歯列24と係合する部材である。本実施形態においては、爪部材31は、スリーブ3の軸方向中央部領域であって、スリーブ3の内面においてその表面から該スリーブ3の内腔側に突出するようにして形成されている。また、爪部材31は、スリーブ3の内面の周方向に沿って延びるように形成されている。爪部材31は、
図8の要部拡大図に示すように、スリーブ3の他方端3b側に配置される爪部係合段差面31aと、スリーブ3の一方端3a側に配置される爪部傾斜面31bとを備えている。爪部係合段差面31aは、スリーブ3の軸方向に対して垂直な面として形成されており、スリーブ3の他方端3b側を向く面として形成されている。爪部傾斜面31bの一方の端縁は、爪部係合段差面31aに接続しており、他方の端縁は、スリーブ3の内面に接続するように構成されている。つまり、爪部傾斜面31bは、スリーブ3の一方端3a側から他方端3b側に向かうに従い、スリーブ3の軸中心側に向かって傾斜するように形成されている。
【0027】
各スリット32は、上述のように、スリーブ3の外周面及び内周面を貫通し、該スリーブ3の軸方向に沿って延びる形態を有しており、また、各スリット32は、スリーブ3の周方向に沿って所定間隔あけた状態で、かつ、スリーブ3の軸方向位置に関して同位置に形成されている。本実施形態においては、特に、各スリット32は、スリーブ3の軸方向中央部領域に形成されている。ここで、上述の爪部材31は、各スリット32同士の間に配置されている。
【0028】
また、各スリット32は、
図7(d)の矢視E方向からみた概略構成平面図である
図9に示すように、スリーブ3の軸方向に沿って延びるスリット本体32aと、スリーブ3の一方端3a側に配置される一端部32bと、スリーブ3の他方端3b側に配置される他端部32cとを備えている。スリット本体32aの幅寸法(スリーブ3の周方向に沿う方向の寸法)は、その長手方向に沿って略同一寸法となるように形成されており、各スリット32の他端部32cは、スリット本体32aの幅寸法よりも大きい幅寸法を備えるように形成されている。本実施形態においては、当該スリット32の他方端部32cの形態として、スリット本体32aの幅寸法よりも大きい直径寸法を有する円形状の孔として形成している。
【0029】
拡径部33は、上述のように、スリーブ3の他方端3aに配置される部材であり、該スリーブ3の外表面から径方向外方に突出するように構成されている。この拡径部33は、スリーブ3の他方端の表面から該スリーブ3の径方向外方に向けて張り出す環状体として形成されている。この拡径部33は、本発明に係る骨接合部1を大腿骨に設置する際に、大腿骨の表面に当接する部分となる。
【0030】
次に、髄内釘を用いた髄内固定法を例に採り、本実施形態に係る骨接合具1を用いた骨頭部骨折治療手術に関する操作手順の一例を説明する。まず、術者は、手術前の準備として、患者の健肢側をX線写真で撮影を行い、患者に適した髄内釘を選択する。そして、その髄内釘を、従来から公知のターゲットデバイスに装着しておく。また、患者を仰臥位にして、患肢側を牽引した状態で患者を固定する。そして、術者は、放射線撮像装置により患肢を撮像しながら患者の大腿骨の骨折部の整復を行う。
【0031】
次に、大腿骨近傍の皮膚を切開し、そこから髄内釘用のガイドワイヤーを大腿骨に刺入し、当該ガイドワイヤーを案内にして、ドリルで大腿骨に穿孔を形成し、大腿骨を開窓する。そして、ターゲットデバイスに接続した髄内釘を、開窓部に挿入する。このとき、髄内釘にガイドワイヤーを通し、これを案内にして髄内釘を差し入れていく。なお、大腿骨にドリルで穿孔して大腿骨の内腔(骨髄腔)へ挿入するときに、骨盤が邪魔になるので、内腔に対して大腿骨の近位部側からやや斜めに髄内釘は挿入される。
図10(a)に髄内釘Zが大腿骨内部に挿入された状態を示す。
【0032】
一方、本発明に係る骨接合具1に関し、ラグスクリュー2の後端部21bを挿入方向先端側として、スリーブ3の一方端3a側から他方端3b側に向けて該スリーブ3の内腔に挿入し、ラグスクリュー2とスリーブ3とを一体化しておく。この時、スリーブ3が備える爪部材31が、ラグスクリュー2が備える各ラチェット歯25により形成されるラチェット溝26のうち、最も後端部側に配置されるラチェット溝26aに係合するまで、ラグスクリュー2をスリーブ3の内腔に挿入する(
図11(a)に示す状態)。ここで、ラグスクリュー2の軸本体21に形成されるラチェット歯列24と、スリーブ3が有する爪部材31とで構成されるラチェット手段の作用により、ラグスクリュー2がスリーブ3の一方端3a側から他方端3b側への向きに移動することは可能である一方で、ラグスクリュー2がスリーブ3の他方端3b側から一方端3a側への向きに移動することは防止される。
【0033】
次いで、髄内釘Zにおける骨接合具挿入孔Z1内を通るように骨接合具1を大腿骨90に差し込み、スリーブ3の内側でラグスクリュー2を回転させて、その先端のスクリュー部22が、大腿骨骨頭部91位置に到達するまで骨接合具1を進入させる。ラグスクリュー2とスリーブ3とは、一のラチェット溝26に爪部材31が係合した状態であるが、スリーブ3に対してラグスクリュー2は、回転自在の状態となるため、大腿骨内でのラグスクリュー2の移動に伴って、ラグスクリュー2に係合するスリーブ3も移動していくことになる。
【0034】
ラグスクリュー2のスクリュー部22が、大腿骨骨頭部位置に到達した後、スリーブ3をラグスクリュー2側に押し込んで、大腿骨の表面にスリーブ3の後端部3bに設けられる拡径部33を当接させる。ここで、
図10(b)に髄内釘Zにおける骨接合具挿入孔Z1を介して骨接合具1が大腿骨内部に挿入された状態を示す。なお、スリーブ3をラグスクリュー2側に押し込む場合、ラグスクリュー2の軸本体21に形成されるラチェット歯列24と、スリーブ3が有する爪部材31とで構成されるラチェット手段の作用により、スリーブ3は、ラグスクリュー2の後端部21b側から先端部21a側に移動することが可能となる(
図11(b)に示す状態)。
【0035】
このように、ラグスクリュー2のスクリュー部22が、大腿骨骨頭部位置に到達したのち、スリーブ3をラグスクリュー2側に押し込んで、大腿骨の表面にスリーブ3の後端部に設けられる拡径部33を当接させる状態を形成した後は、ラグスクリュー2の軸本体21に形成されるラチェット歯列24と、スリーブ3が有する爪部材31とで構成されるラチェット手段の作用により、ラグスクリュー2が、スリーブ3の他方端3b側から一方端3a側への向きに移動することを効果的に防止することができるため、時間の経過とともに、ラグスクリュー2が、その進入方向側に移動することが規制され、ラグスクリュー2による固定が不安定になることが防止されて、接合すべき骨同士が離間してしまうことを極めて効果的に抑制することが可能となる。
【0036】
また、本実施形態においては、スリーブ3の他方端3aには、スリーブ3の外表面から径方向外方に突出する拡径部33が設けられており、この拡径部33が、大腿骨の表面に当接するように構成しているため、この拡径部33がストッパとなって、ラグスクリュー2及びスリーブ3が一体的となってラグスクリュー2の進入方向側に移動することを効果的に規制することができる。
【0037】
また、本実施形態においては、スリーブ3の外周面及び内周面を貫通し、該スリーブ3の軸方向に沿って延びる複数のスリット32を備えるように構成し、爪部材31は、各スリット32同士の間に配置されるように構成している。このような構成により、スリーブ3をラグスクリュー2側に押し付けてスリーブ3を移動させる際の、操作性を向上させることができる。具体的に説明すると、複数のスリット32をスリーブ3に形成することにより、スリット32同士の間のスリーブ3構成部分(爪部材31が配置されている部分)の剛性が低下し、当該部分のスリーブ3の径方向に沿った弾性変形を容易な状態とすることができる。その結果、スリーブ3をラグスクリュー2側に押し付ける際の押圧力が小さくても、ラチェット歯25における傾斜面25bを爪部材31がスムーズに乗り越えことが可能となり、術者の操作性が向上する。
【0038】
また、上記実施形態においては、各スリット32は、スリーブ3の軸方向に沿って延びるスリット本体32aと、スリーブ3の一方端3a側に配置される一端部32bと、スリーブ3の他方端3b側に配置される他端部32cとを備えており、各スリット32の他端部32cは、スリット本体32aの幅寸法よりも大きい幅寸法を備えるように構成している。このような構成を採用することにより、スリット32同士の間のスリーブ構成部分(爪部材31が配置されている部分)の剛性をより一層低下させることが可能となり、スリーブ3をラグスクリュー2側に押し付ける際の押圧力がより一層小さいものであっても、スムーズにスリーブ3をラグスクリュー2側に移動させることが可能となる。なお、各スリット32の一端部32b及び他端部32cの両方に関し、スリット本体32aの幅寸法よりも大きい幅寸法を備えるように構成してもよく、或いは、各スリット32の一端部32bに関して、スリット本体32aの幅寸法よりも大きい幅寸法を備えるように構成してもよい。
【0039】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、スリーブ3は、複数のスリット32を備えるように構成されているが、このようなスリット32を省略してスリーブ3を構成してもよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、スリット32の他端部32cは、スリット本体32aの幅寸法よりも大きい幅寸法を備えるように構成されているが、このような構成を採用せず、スリット32の他方端部32cが、スリット本体32aの幅寸法と同一な寸法となるように構成してもよい。
【0041】
また、上記実施形態においては、スリット32の他端部32cの形状として、
図9に示すように、スリット本体32aの幅寸法よりも大きい直径寸法を有する円形状に形成しているが、このような円形状に限定されるものでは無く、例えば、
図12に示すように、矩形状の輪郭を有するようにスリット32の他方端部32cを構成してもよい。
【0042】
また、上述では、髄内釘Zを用いた髄内固定法を例に採り、本実施形態に係る骨接合具1を用いた骨頭部骨折治療手術の操作手順の一例について説明したが、本発明に係る骨接合具1は、髄内釘Zを用いた髄内固定法にのみ適用可能なものでは無く、髄内釘Zを用いずに骨接合具1のみを用いて骨折部を固定することもできる。例えば、上述のようにラグスクリュー2とスリーブ3とを一体化した状態の骨接合具1において、スリーブ3の内側においてラグスクリュー2を回転させて骨頭部にスクリュー部22をねじ込みながら、スクリュー部22が、大腿骨骨頭部位置に到達するまで骨接合具1を進入させ、その後、スリーブ3をラグスクリュー2側に押し込んで、大腿骨の表面にスリーブ3の後端部に設けられる拡径部33を当接させることにより、骨頭部骨折治療を行うこともできる。
【0043】
また、上記実施形態においては、スリーブ3に形成される各スリット32は、スリーブ3の軸方向位置に関して同位置となるように形成されているが、このような構成に限定されず、例えば、複数のスリット32を、複数の組に分け、各組に含まれるスリット32については、スリーブ3の軸方向位置に関して同位置となるように構成する一方、各組に関しては、形成されるスリーブ3の軸方向位置が異なるように構成してもよい。
【0044】
また、上記実施形態においては、スリーブ3に形成され、該スリーブ3の内腔側に突出する爪部材31と、ラグスクリュー2の軸本体21の表面の少なくとも一部領域に形成され、爪部材31と係合するラチェット歯列24とによりラチェット手段を構成しているが、このような構成に特に限定されず、例えば、スリーブ3の内面にラチェット歯列を形成し、ラグスクリュー2の軸本体21の表面から、その径方向外方に突出する爪部材を形成することにより、ラチェット手段を構成することもできる。
【0045】
また、上記実施形態においては、ラチェット手段の一部を構成する爪部材31は、スリーブ3の内面から該スリーブ3の内腔側に突出するようにして形成されているが、このような構成に特に限定されない。例えば、
図13(a)の要部拡大平面図や、そのF−F断面を示す
図13(b)の概略構成断面図に示すように、スリーブ3の外周面及び内周面を貫通するコ字状のスリット35を形成して、片持ち板バネ状の舌片部36を構成し、この舌片部36の先端をスリーブ3の内腔側に湾曲変形させることにより爪部材37を形成するようにしてもよい。なお、この舌片部36の先端を湾曲変形させて構成される爪部材37の先端の形態は、スリーブ3の他方端3b側に配置される爪部係合段差面37aと、スリーブ3の一方端3a側に配置される爪部傾斜面37bとを備えるように構成される。ここで、爪部係合段差面37aは、スリーブ3の軸方向に対して垂直な面として形成されており、スリーブ3の他方端3b側を向く面として形成されている。また、爪部傾斜面37bは、スリーブ3の一方端3a側から他方端3b側に向かうに従い、スリーブ3の軸中心側に向かって傾斜するように形成されている。