特許第6807094号(P6807094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6807094クロザピン又はその誘導体の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法及び薬剤投与量判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807094
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】クロザピン又はその誘導体の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法及び薬剤投与量判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20201221BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20201221BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/5513 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/554 20060101ALI20201221BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALN20201221BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
   C12Q1/68ZNA
   A61K31/551
   A61P25/18
   A61K31/5513
   A61K31/554
   !C12Q1/6827 Z
   !C12N15/12
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-92152(P2016-92152)
(22)【出願日】2016年4月29日
(65)【公開番号】特開2017-195862(P2017-195862A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年4月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第25回日本医療薬学会年会講演要旨集(平成27年10月23日発行、平成27年10月30日頒布)第25回日本医療薬学会年会事務局発行、第207頁「21−6−O12−19」欄に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149168
【弁理士】
【氏名又は名称】若山 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】赤嶺 由美子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 昌朋
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−509200(JP,A)
【文献】 特表2011−511845(JP,A)
【文献】 CECCON, F.,,"Clozapine clinical response variability in schizophrenic patients: plasmatic levels and CYP450 1A2 and P glycoprotein genetic polymorphysms relation.",2ND WORKSHOP PH.D. SCHOOL OF MEDICAL SCIENCES UNIVERSITY OF INSUBRIA,2012年 3月 8日,p.16,URL,www.dbsm.uninsubria.it/dottbcm/phD_cmb/files.pdf/phDDay2012.pdf
【文献】 YAMASAKI, Y., et al.,"Pharamacogenetic characterization of sulfasalazine disposition based on NAT2 and ABCG2 (BCRP) gene polymorphisms in humans.",CLINICAL PHARMACOLOGY & THERAPEUTICS,2008年 7月,Vol.84, No.1,pp.95-103
【文献】 TAKAHASHI, N., et al.,"Influence of CYP3A5 and drug transporter polymorphisms on imatinib trough concentration and clinical response among patients with chronic phase chronic myeloid leukemia.",JOURNAL OF HUMAN GENETICS,2010年,Vol.55,pp.731-737
【文献】 赤嶺由美子、外6名,「Clozapine体内動態への薬剤トランスポータならびに薬物代謝酵素遺伝子多型の影響」,日本医療薬学会年会講演要旨集,2015年10月23日,Vol.25th,p.207,[21-6-O12-19]
【文献】 WANG, J.S., et al.,"Antipsychotic drugs inhibit the function of breast cancer resistance protein.",BASIC CLIN. PHARMACOL. TOXICOL.,2008年10月,Vol.103, No.4,pp.336-341,doi: 10.1111/j.1742-7843.2008.00298.x.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に由来するABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出し、
検出された前記塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである場合には、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を前記被験者に投与すると前記薬剤の血中濃度を上昇させるリスクがあると判定する
ことを含む血中薬剤濃度上昇リスク判定方法。
【請求項2】
前記1種又は2種以上の薬剤がクロザピンである、請求項1に記載の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法。
【請求項3】
前記被験者が統合失調症の患者である、請求項1又は2に記載の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法。
【請求項4】
被験者から採取された生体試料中のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸と、
検出された前記塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである前記被験者は、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を投与すると、前記薬剤の血中濃度が上昇するリスクが高いことを記載した説明書と
を含む血中薬剤濃度上昇リスク判定キット。
【請求項5】
被験者から採取された生体試料中のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸と、
検出された前記塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである前記被験者に対しては、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を投与する際に、前記薬剤の投与量を減らすべきであることを記載した説明書と
を含む薬剤投与量判定キット。
【請求項6】
被験者から採取された生体試料中のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸と、
検出された前記塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである前記被験者に対しては、クロザピンの1日あたりの経口投与量を前記被験者の体重1kgあたり3.0〜5.6mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、オランザピンの1日あたりの経口投与量を前記被験者の体重1kgあたり0.15〜0.28mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、又は、クエチアピンの1日あたりの経口投与量を前記被験者の体重1kgあたり3.9〜7.3mgの範囲内の所定の量にすべきと記載した説明書と
を含む薬剤投与量判定キット。
【請求項7】
前記説明書が、さらに、検出された前記塩基の遺伝子型がC/Cである前記被験者に対しては、クロザピンの1日あたりの経口投与量を前記被験者の体重1kgあたり5.9〜9.0mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、オランザピンの1日あたりの経口投与量を前記被験者の体重1kgあたり0.30〜0.45mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、又は、クエチアピンの1日あたりの経口投与量を前記被験者の体重1kgあたり7.7〜11.7mgの範囲内の所定の量にすべきと記載している、
請求項に記載の薬剤投与量判定キット。
【請求項8】
前記説明書が、さらに、前記被験者にクロザピンを投与した後、前記被験者から採取された血液中のクロザピンの濃度を測定する方法を記載している、請求項5〜7のいずれか1項に記載の薬剤投与量判定キット。
【請求項9】
前記説明書が、前記被験者から採取された血液中のクロザピンの濃度が、下側閾値よりも低い場合には、クロザピンの投与量を増やすべきであると記載し、上側閾値よりも血中クロザピン濃度が高い場合には、クロザピンの投与量を減らすべきであると記載しており、
前記下側閾値として、300〜400ng/mlの範囲より選択される値が記載されており、前記上側閾値として、700〜900ngの範囲より選択される値が記載されている、請求項8に記載の薬剤投与量判定キット。
【請求項10】
前記血液中のクロザピンの濃度を測定する方法が、HPLCを用いた測定方法である、請求項8又は9に記載の薬剤投与量判定キット。
【請求項11】
前記HPLCを用いた測定方法が、前記被験者の血液由来の血漿成分に、内部標準としてドキセピンを加えて、HPLCにより測定を行う方法である、請求項10に記載の薬剤投与量判定キット。
【請求項12】
前記HPLCを用いた測定方法が、HPLCの移動相として、アセトニトリルを含む溶媒を用いる方法である、請求項10又は11に記載の薬剤投与量判定キット。
【請求項13】
クロザピンを有効成分とする統合失調症治療剤において、
ABCG2遺伝子の421番目の塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである統合失調症の患者に対して、前記患者の体重1kgあたり3.0〜5.6mgの範囲内の所定の量のクロザピン1日あたり経口投与することを特徴とする、
統合失調症治療剤。
【請求項14】
クエチアピンを有効成分とする統合失調症治療剤において、
ABCG2遺伝子の421番目の塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである統合失調症の患者に対して、前記患者の体重1kgあたり3.9〜7.3mgの範囲内の所定の量のクエチアピン1日あたり経口投与することを特徴とする、
統合失調症治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者のABCG2遺伝子の一塩基多型(SNP)を検出することにより、統合失調症の治療薬であるクロザピン又はその誘導体を被験者に投与した場合に、血中の薬剤濃度が上昇するリスクを判定する方法及びその方法に使用するキットに関する。また、本発明は、被験者のABCG2遺伝子の一塩基多型(SNP)を検出することにより、クロザピン又はその誘導体の好適な投与量を判定する方法及びその方法に使用するキットに関する。さらに、本発明は、統合失調症の患者のABCG2遺伝子の一塩基多型(SNP)の遺伝子型に応じて投与量を定めた、テーラーメード医療を可能とする統合失調症の治療剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
クロザピン(Clozapine)は、治療抵抗性を示す統合失調症の最も有効な治療薬の一つであるが、無顆粒球症、てんかん発作、心筋炎等の重篤な副作用を引き起こすリスクがある治療薬である。これらの副作用のうち、無顆粒球症は、白血球が危険な水準まで減少してしまう致命的な副作用である。クロザピンは、この致命的な副作用により一度は自主的に販売が停止されたが、他の精神病薬が効かない治療抵抗性の統合失調症にも効果があることから、使用が再開されたものである。したがって、クロザピンの投与を受けている患者は、重篤な副作用を回避するため、定期的な血球数のモニタリングが必要となる。
【0003】
クロザピンの血中濃度と治療効果や副作用との関係について検証がされており、クロザピンの血中濃度が250ng/mL以下になると統合失調症が再発してしまい、750ng/mL以上となると薬物中毒となるリスクがあり、1000ng/mL以上となると中枢神経に悪影響を及ぼして、てんかん発作や精神錯乱等の症状が現れるリスクがあることが報告されている。このため、クロザピンの投与を受けている場合には、治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring,TDM)として、血中のクロザピン濃度を測定することが推奨されている(非特許文献1)。
【0004】
クロザピンは有効性の高い統合失調症の治療薬であるが、クロザピンに化学構造が類似する誘導体からなる治療薬として、オランザピン(Olanzapine)とクエチアピン(Quetiapine)が開発されており、いずれも統合失調症の治療薬として用いられている。オランザピンとクエチアピンは、クロザピンと比較すると副作用が弱いものの、無顆粒球症等の重篤な副作用を引き起こし得る治療薬である。
【0005】
クロザピンは、経口投与された後、すみやかに吸収されて肝臓で代謝される。クロザピンの代謝には、代謝酵素であるCYP1A2とCYP3Aとが関わっている。CYP1A2は、クロザピンをN−脱メチル化してN−デスメチルクロザピン(N-desmethylclozapine)とする代謝において重要な役割を果たし、また、CYP3Aは、クロザピンをN−酸化してクロザピン−N−オキシド(clozapine-N-oxide)とする代謝において重要な役割を果たしている。クロザピンのN−脱メチル化には、代謝酵素CYP2D6も一部関わっている。N−デスメチルクロザピンは、クロザピンと同様の薬理作用を有する活性代謝物である一方、クロザピン−N−オキシドは、薬理作用が格段に低い非活性代謝物である。
【0006】
最近の研究では、クロザピンの薬物動態にトランスポーターが関わっていることが報告されている(非特許文献2及び3)。非特許文献2には、P糖タンパク質(P-glycoprotein; P-gp)がクロザピンの薬物動態に影響することが報告されている。P糖タンパク質は、ABCB1遺伝子によりコードされるタンパク質であり、ABCスーパーファミリーに属し、ATPのエネルギー依存的に細胞外排出を行うトランスポーターである。このP糖タンパク質は、3435番目の塩基に一塩基多型(SNP)を有しているが、クロザピンを投与した患者のうち、この一塩基多型(SNP)において遺伝子型がT/Tの患者は、そうでない遺伝子型である患者と比較して血中クロザピン濃度が1.6倍高いことが非特許文献2に報告されている。
また、非特許文献3には、P糖タンパク質をコードするABCB1遺伝子の3435番目の一塩基多型(SNP)の遺伝子型がCCである患者は、遺伝子型がCT又はTTである患者よりも多量のクロザピン投与が必要であることが報告されている。
【0007】
クロザピンは、BCRP(Breast cancer resistance protein)に作用することも報告されている。BCRPは、ABCG2遺伝子によりコードされるタンパク質であり、こちらもABCスーパーファミリーに属するトランスポーターである。クロザピンはBCRPの阻害剤として作用することがin vitro系での実験で示されている(非特許文献4)。
【0008】
BCRPをコードするABCG2遺伝子には多数の一塩基多型が存在しているが、これらの一塩基多型のうち、ABCG2遺伝子の421番目の塩基における多型に関しては、ガン細胞株を用いた実験により、塩基がCではなくAの場合に抗ガン剤への耐性が低下することが報告されている(非特許文献5)。また、抗ガン剤であるイマチニブを投与した患者において、ABCG2遺伝子の421番目の塩基がAである場合に、C/Cの患者と比較して血中のイマチニブ濃度が高いことが報告されている(非特許文献6)。また、特許文献1には、動物細胞を用いた実験により、ABCG2遺伝子の421番目の塩基がCではなくAの場合には、トポイソメラーゼ阻害剤の細胞外への排出能力が低下することが記載されている。
しかしながら、いずれの先行技術文献においても、クロザピンの薬物動態とABCG2遺伝子の421番目の一塩基多型についての関連性については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−529618号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Hiemke C 外26名、Pharmacopsychiatry誌、2011年発行、Vol.44、No.6、pp.195-235
【非特許文献2】Eveline Jaquenoud Sirot 外8名、Journal of Clinical Psychopharmacology誌(略号 J Clin Psychopharmacol)、2009年発行、Vol.29、No.4、pp.319-326
【非特許文献3】Giorgio Consoli 外9名、Pharmacogenomics誌、2009年発行、Vol.10、No.8、pp.1267-1276
【非特許文献4】Jun-Sheng Wang 外5名、Basic & Clinical Pharmacology & Toxicology誌(略号 Basic Clin Pharmacol Toxicol)、2008年発行、Vol.103、No.4、pp.336-341
【非特許文献5】Yasuo Imai 外7名、Molecular Cancer Therapeutics誌(略号 Mol Cancer Ther)、2002年発行、Vol.1、pp.611-616
【非特許文献6】Naoto Takahashi 外10名、Journal of Human Genetics誌(略号 J Hum Genet)、2010年発行、Vol.55、pp.731-737
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
クロザピンは重篤な副作用を引き起こすリスクがあるため、クロザピンを投与した後に血中濃度を測定することが推奨されているが、クロザピンを投与すること自体にリスクがあるとも考えられるため、クロザピンを投与する前に血中濃度が上昇するリスクを判定できることが望ましい。従来、P糖タンパク質をコードするABCB1遺伝子の一塩基多型(SNP)が、血中クロザピン濃度と関係することが報告されているが、血中濃度上昇のリスクを判定するためには十分な指標となるものではなかった。
そこで、本発明は、クロザピン又はその誘導体の血中濃度上昇リスクを判定する方法を開発するとともに、最適な投与量を決定する薬剤投与量判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究し、クロザピンの血中濃度と関連性のある遺伝子多型を探索した結果、ABCG2遺伝子の421番目の塩基における一塩基多型(SNP)が有意な関連性を示し、当該多型において遺伝子型がC/A又はA/Aである被験者にクロザピンを投与すると、血中のクロザピン濃度が有意に高くなりやすいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、血中薬剤濃度上昇リスク判定方法に関する第1の発明と、血中薬剤濃度上昇リスク判定キットに関する第2の発明と、薬剤投与量判定キットに関する第の発明と、統合失調症治療に関する第の発明を提供する。
第1の発明は、血中薬剤濃度上昇リスク判定方法に関する発明であり、i)被験者に由来するABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出し、ii)検出された前記塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである場合には、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を被験者に投与すると薬剤の血中濃度を上昇させるリスクがあると判定することを含むことを特徴とする。
第1の発明においては、薬剤がクロザピンであることが好ましい。
また、前記いずれかの血中薬剤濃度上昇リスク判定方法においては、被験者が統合失調症の患者であることが好ましい。
第2の発明は、血中薬剤濃度上昇リスク判定キットに関する発明であり、i)被験者から採取された生体試料中のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸と、ii)検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである被験者は、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を投与すると、薬剤の血中濃度が上昇するリスクが高いことを記載した説明書とを含むことを特徴とする。
第2の発明においては、薬剤がクロザピンであることが好ましい。
また、前記いずれかの血中薬剤濃度上昇リスク判定方法においては、被験者が統合失調症の患者であることが好ましい
第3の発明は、薬剤投与量判定キットに関する発明であり、i)被験者から採取された生体試料中のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸と、ii)検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである被験者に対しては、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を投与する際に、薬剤の投与量を減らすべきであることを記載した説明書とを含むことを特徴とする。
の発明においては、薬剤投与量判定キットが、i)被験者から採取された生体試料中のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸と、ii)検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである被験者に対しては、クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり3.0〜5.6mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、オランザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり0.15〜0.28mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、又は、クエチアピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり3.9〜7.3mgの範囲内の所定の量にすべきと記載した説明書とを含むキットであってもよい。
この場合には、説明書が、さらに、検出された塩基の遺伝子型がC/Cである被験者に対しては、クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり5.9〜9.0mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、オランザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり0.30〜0.45mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、又は、クエチアピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり7.7〜11.7mgの範囲内の所定の量にすべきと記載していることが好ましい。
前記のいずれかの薬剤投与量判定キットにおいては、薬剤がクロザピンであることが好ましい。
薬剤がクロザピンである薬剤投与量判定キットにおいては、さらに、被験者にクロザピンを投与した後、被験者から採取された血液中のクロザピン濃度を測定する方法を説明書に記載していることが好ましい。
この場合には、説明書が、被験者から採取された血液中のクロザピンの濃度が、下側閾値よりも低い場合には、クロザピンの投与量を増やすべきであると記載し、上側閾値よりも血中クロザピン濃度が高い場合には、クロザピンの投与量を減らすべきであると記載しており、下側閾値として、300〜400ng/mlの範囲より選択される値が記載されており、上側閾値として、700〜900ngの範囲より選択される値が記載されていることが好ましい。
ここで、血液中のクロザピン濃度を測定する方法としては、HPLCを用いた測定方法が好ましく、より好ましくは、被験者の血液由来の血漿成分に、内部標準としてドキセピンを加えて、HPLCにより測定を行う方法が好ましく、また、HPLCを用いて測定を行う場合には、HPLCの移動相として、アセトニトリルを含む溶媒を用いることが好ましい。
また、前記いずれかの薬剤投与量判定キットにおいては、被験者が統合失調症の患者であることが好ましい。
の発明は、統合失調症治療剤に関する発明であり、i)クロザピンを有効成分とする統合失調症治療剤において、ii)ABCG2遺伝子の421番目の塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである統合失調症の患者に対して、患者の体重1kgあたり3.0〜5.6mgの範囲内の所定の量のクロザピン1日あたり経口投与することを特徴とする、統合失調症治療剤を提供する。
また、第の発明の統合失調症治療剤は、i)クエチアピンを有効成分とする統合失調症治療剤において、ii)ABCG2遺伝子の421番目の塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである統合失調症の患者に対して、患者の体重1kgあたり3.9〜7.3mgの範囲内の所定の量のクエチアピン1日あたり経口投与することを特徴とする、統合失調症治療剤を提供する。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明に係る血中薬剤濃度上昇リスク判定方法及び第2の発明に係る血中薬剤濃度上昇リスク判定キットは、ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出することにより、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を被験者に投与した場合に、これらの薬剤の血中濃度が上昇するリスクを判定することができるので、これらの薬剤の投与により副作用を引き起こすリスクを把握することができるという効果を奏する
第3の発明に係る薬剤投与量判定キットは、ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出し、検出された塩基の遺伝子型に応じて被験者に投与すべき薬剤の量を判定するので、クロザピン、オランザピン又はクエチアピンの投与による副作用の発生リスクを低下させることができるという効果を奏する。
の発明に係る統合失調症治療薬は、クロザピン又はクエチアピンを有効成分としており、統合失調症の患者のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出して、検出された塩基の遺伝子型に応じて、適した量の薬剤を1日あたり経口投与されるように用いられるので、副作用の発生リスクを低下させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.血中薬剤濃度上昇リスク判定方法
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法は、i)被験者に由来するABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出し、ii)検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである場合には、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を被験者に投与すると薬剤の血中濃度を上昇させるリスクがあると判定することを含む方法である。
【0016】
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法は、後記実施例に記載した実験により得られた知見に基づく発明である。実施例では、クロザピンを投与している統合失調症の患者に対して、ABCG2遺伝子の421番目の塩基の遺伝子型を検出するとともに、血中クロザピン濃度を測定し、クロザピン投与量に対する血中クロザピン濃度の比(C/D)を求めた。ここで、C/Dの値は、クロザピンを投与した場合に血中クロザピン濃度がどれほど上昇しやすいかを示す指標となる値である。その結果、C/Cの遺伝子型を有する患者よりも、C/A又はA/Aの遺伝子型を有する患者の方がC/Dの値が有意に高いことが明らかとなった。また、かかる一塩基多型(SNP)だけでなく、他の遺伝子多型や、年齢、体重、肝機能/腎機能検査値も含めて多変量解析を行ったところ、C/Dに対して有意な相関が認められたのは、ABCG2遺伝子の421番目の塩基における一塩基多型(SNP)だけであった。
【0017】
ABCG2遺伝子がコードするBCRPは、ABCスーパーファミリーに属するトランスポーターであり、肝実質細胞、腎近位尿細管等でも発現が認められていることから、体内の不要物質を胆汁、尿へ排出することに関わっているトランスポーターであると考えられている。
ABCG2遺伝子の421番目の塩基がC(シトシン)からA(アデニン)に変化すると、ABCG2遺伝子がコードするBCRPの141番目のアミノ酸残基がグルタミンからリジンに変化するアミノ酸変異が生じる。
したがって、ABCG2遺伝子の421番目の塩基がCからAに変化することにより、BCRPのタンパク質が変異してクロザピン排出機能が低下することにより、血中のクロザピン濃度が上昇すると考えられる。ここで、オランザピンとクエチアピンは、クロザピンに構造が類似する誘導体であることから、クロザピンと同様にBCRPにより排出されると考えられ、BCRPによる排出機能の低下により血中濃度が上昇してしまうのである。
【0018】
本発明において「クロザピン」とは、IUPAC命名法に従えば、8−クロロ−11−(4−メチル−1−ピペラジニル)−5H−ジベンゾ[b,e][1,4]ジアゼピンと命名される化合物であり、次の構造式で示される化合物であり、その塩を含む。
【0019】
【化1】
【0020】
本発明において「オランザピン」とは、IUPAC命名法に従えば、2−メチル−4−(4−メチル−1−ピペラジニル)−10H−チエノ[2,3−b][1,5]ベンゾジアゼピンと命名される化合物であり、次の構造式で示される化合物であり、その塩を含む。
【0021】
【化2】
【0022】
本発明において「クエチアピン」とは、IUPAC命名法に従えば、2−[2−[4−(ジベンゾ[b,f][1,4]チアゼピン−11−イル)ピペラジノ]エトキシ]エタノールと命名される化合物であり、次の構造式で示される化合物であり、その塩を含む。
【0023】
【化3】
【0024】
上記構造式に示されるように、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンは、化学構造が互いに類似している。
【0025】
尚、クロザピンは、CYP1A2等によって、同様の薬学活性を有するN−デスメチルクロザピンに代謝されるが、その化学構造は以下のとおりである。
【0026】
【化4】
【0027】
本発明において、「被験者」とは、遺伝子型を検出する対象となるヒトを意味し、ヒトであれば人種は特に限定されず、モンゴロイド、コーカソイド、ネグロイド、オーストラロイドのいずれであっても、血中薬剤濃度上昇リスクを判定することができる。しかしながら、ABCG2遺伝子の421番目の塩基がC(シトシン)ではなくA(アデニン)となっている人の割合は、中国人と日本人で高いことから(非特許文献6)、モンゴロイドを被験者とすることが、本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法において、より意義があるといえる。
また、本発明は、統合失調症の治療薬であるクロザピン、オランザピン及びクエチアピンの血中薬剤濃度上昇リスクを判定する方法であることから、「被験者」とは、統合失調症の患者であることが好ましい。
【0028】
本発明において「ABCG2遺伝子」とは、ABCスーパーファミリーに属するトランスポーターであるBCRP(Breast cancer resistance protein)をコードする遺伝子であり、後記配列表の配列番号1に示される塩基配列を有する遺伝子である。
尚、配列表の配列番号1においては、ABCG2遺伝子の塩基配列の他に、その塩基配列がコードするタンパク質も塩基配列のコドンに対応させて記載してある。そして、配列番号1の421番目の塩基は、一塩基多型(SNP)となる塩基であり、C又はAであり、C又はAであることを示す塩基のIUPAC表記である「m」で示されている。421番目の塩基がC(シトシン)である場合には、141番目のアミノ酸がグルタミンとなり、421番目の塩基がA(アデニン)である場合には、141番目のアミノ酸がリジンとなる。
【0029】
尚、ABCG2遺伝子の421番目の塩基にある一塩基多型(SNP)は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のSNPデータベース(dbSNP)上において、「rs2231142」の番号が付与されている一塩基多型(SNP)である。
【0030】
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法において、「被験者に由来するABCG2遺伝子」とは、被験者の細胞に含まれるABCG2遺伝子を意味し、「ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出する」とは、ABCG2遺伝子の421番目の塩基がA(アデニン)であるかC(シトシン)であるかという違いを検出することや、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)のいずれであるかを決定することを含む、SNPタイピングを行うことを意味する。
ここで、ヒトのABCG2遺伝子は、2つの相同染色体(第4染色体)の同一の遺伝子座に存在しており、2つの対立遺伝子が存在する。したがって、SNPタイピングにより、2つの対立遺伝子の塩基の組み合わせが遺伝子型として検出される。例えば、C/C、C/A、A/Aといった遺伝子型を検出することができる。この検出においては、C又はAがどちらの対立遺伝子に由来するものであるかを決定することは必須でない。
【0031】
本発明において、「ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出する」ために使用するSNPタイピング法としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、PCR−RFLP法、インベーダー法、TaqMan(登録商標)法、ダイレクト・シークエンス法、RCA法、質量分析計を用いたSNPタイピング法、DNAチップを用いたSNPタイピング法等を用いることができる。
【0032】
これらのSNPタイピング法のうち、「PCR−RFLP法」とは、Polymerase Chain Reaction−Restriction Fragment Length Polymorphismの略である。簡単に説明すると、PCR−RFLP法とは、SNPが制限酵素認識配列と重なっている場合には、一塩基の違いによって、制限酵素で切断させる場合とされない場合に分かれることを利用して、SNPをタイピングする方法である。PCR−RFLPでは、標的配列をPCR法により増幅した後、増幅核酸を制限酵素で処理し、電気泳動してバンドを確かめることにより、遺伝子型を特定することができる。
【0033】
また、SNPタイピング法のうち、「インベーダー法」とは、インベーダープローブ、アレルプローブと名付けられる2種の核酸プローブを用い、被験者由来の標的核酸にこれらのプローブをハイブリダイゼーションさせて特殊な構造を形成し、この特殊な構造を認識して切断するcleavaseという酵素を用いることにより、一塩基多型(SNP)をタイピングする方法である。インベーダー法については、例えば、Lyamichevらの論文(Lyamichev V. 外11名、Nature Biotechnology 誌、1999年発行、Vol.17、No.3、pp.292-296)や、特許第4016050号等を参照して、実施することができる。
インベーダー法においては、一塩基多型(SNP)を含む標的核酸は、SNPの位置を境界として第1の部位と第2の部位に分けられる。インベーダープローブは、標的核酸の第1の部位に相補的な配列を有するポリヌクレオチドである。そして、アレルプローブは、標的核酸の第2の部位に相補的な配列を有するとともに、その5´末端には、標的核酸とは無関係の配列を有するフラップと呼ばれる部分を含むポリヌクレオチドである。インベーダープローブとアレルプローブが、標的核酸に第1の部位と第2の部位にハイブリダイズすると、SNPの位置にインベーダープローブの3´末端が侵入して、特殊な構造を形成する。この特殊な構造は、clevaseという酵素により認識され、フラップ部分が切断される。遊離したフラップはあらかじめ標識しておくことにより検出することができる。また、フラップの検出には、蛍光色素と消光物質(クエンチャー)で標識されたFRETプローブを用いて検出することもできる。アレルプローブのSNP位置に対応する塩基が、標的核酸のSNP位置の塩基と相補的である(マッチする)場合には上記のような反応が生じるが、相補的でない(マッチしない)場合には上記のような反応が生じない。このため、SNP位置の塩基をタイピングすることが可能となる。
【0034】
SNPタイピング法のうち、「Taqman法」とは、Taqmanプローブと名付けられる核酸プローブを用いて、被験者由来の標的核酸を増幅することにより、一塩基多型(SNP)をタイピングする方法である。Taqman法については、例えば、Livakらの論文(Kenneth J. Livak、Genetic Analysis: Biomolecular Engineering 誌(略号 Genet Anal)、1999年発行、Vol.14、No.5-6、pp.143-149)を参照して、実施することができる。
Taqman法においては、蛍光色素と消光物質(クエンチャー)により標識したTaqmanプローブを用い、SNP位置を含む標的核酸にTaqmanプローブをハイブリダイズさせて、標的核酸を増幅するように設計したプライマーでPCRを行うと、プライマーからの伸長反応が進むと同時にTaqポリメラーゼの5´ヌクレアーゼ活性によりハイブリダイズしたTaqmanプローブが切断される。この切断により蛍光色素が消光物質(クエンチャー)と離れて蛍光が生じる。TaqmanプローブのSNP位置に対応する塩基が、標的核酸のSNP位置の塩基と相補的である(マッチする)場合には上記のような反応が生じるが、相補的でない(マッチしない)場合には上記のような反応が生じない。このため、SNP位置の塩基をタイピングすることが可能となる。
【0035】
SNPのタイピングは、例えば、これらに限定されるわけではないが、被験者から採取された血液、口腔粘膜、唾液、毛根等の生体試料を用いて行うことができる。また、SNPタイピングを行うにあたっては、ABCG2遺伝子を予め増幅することもできる。遺伝子を増幅する方法としては、これらに限定されるわけではないが、例えば、PCR法、LAMP法、SDA法等を用いることができる。
【0036】
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法は、被験者から得られたABCG2遺伝子の421番目の塩基の一塩基多型(SNP)に関する情報を用い、統計学的データに基づく本発明の知見に照らして、一塩基多型の遺伝子型がC/A又はA/Aであることは、クロザピン又はその誘導体の血中濃度を上昇させるリスクを示すものであると分析し、リスクを判定するものである。したがって、本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法は、「人間を診断する方法」には該当しない。
【0037】
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法によれば、ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出することにより、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を被験者に投与した場合に、これらの薬剤の血中濃度が上昇するリスクを判定することができる。これらの薬剤の血中濃度の上昇は、副作用を引き起こす可能性の増大に直結することから、本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法によれば、これらの薬剤の投与により副作用を引き起こすリスクを把握することができるという効果を奏する。
【0038】
2.血中薬剤濃度上昇リスク判定キット
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定キットは、i)被験者から採取された生体試料中のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸と、ii)検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである被験者は、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を投与すると、薬剤の血中濃度が上昇するリスクが高いことを記載した説明書、とを含むことを特徴とする。
【0039】
本発明において、「被験者から採取された生体試料」とは、これらに限定されるわけではないが、例えば、被験者から採取された血液、口腔粘膜、唾液、毛根等を用いることができる。
【0040】
本発明において、「ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸」とは、これらに限定されるわけではないが、例えば、核酸プローブ又は核酸プライマーである。「核酸」は、検出に使用するSNPタイピング方法に応じて、後記配列表の配列番号1で示されるABCG2遺伝子の421番目の塩基の周辺配列に基づいて適宜設計したものを用いることができる。
例えば、SNPタイピング方法として、PCR−RFLP法を用いる場合には、ABCG2遺伝子の421番目の塩基を含む標的配列を増幅するための核酸プライマーを設計して用いることができる。
また、例えば、SNPタイピング方法としてインベーダー法を使用する場合には、核酸プローブとして、インベーダープローブとアレルプローブを設計する。インベーダープローブとして、ABCG2遺伝子の431番目の塩基から3´側の配列に相補的な配列を有するポリヌクレオチドを設計する。また、アレルプローブとして、ABCG2遺伝子の431番目の塩基から5´側の配列に相補的な配列を含むポリペプチドを設計し、そのポリペプチドの5´側にABCG2遺伝子とは無関係な配列のポリペプチドからなるフラップを設ける。インベーダープローブのSNPに対応する位置の塩基は、任意の塩基とすることができる。また、アレルプローブのSNPに対応する位置の塩基は、G(グアニン)又はT(チミン)を用いる。ここで、G(グアニン)を用いた場合には、C(シトシン)を検出する核酸プローブとすることができ、また、T(チミン)を用いた場合には、A(アデニン)を検出する核酸プローブとすることができる。
【0041】
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定キットに含まれる「説明書」は、検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである被験者は、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を投与すると、薬剤の血中濃度が上昇するリスクが高いことを記載したものである。
さらに、この説明書は、検出された遺伝子型がC/Cである被験者は、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を投与すると、薬剤の血中濃度が上昇するリスクが少ないことを記載していることが好ましい。
【0042】
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定キットに含まれる「説明書」は、さらに他の記載を含んでいてもよく、例えば、これらに限定されるわけではないが、核酸を用いてABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するためのプロトコールや、キットの保存方法等を記載していてもよい。
【0043】
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定キットによれば、ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出することにより、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を被験者に投与した場合に、これらの薬剤の血中濃度が上昇するリスクを判定することができる。これらの薬剤の血中濃度の上昇は、副作用を引き起こす可能性の増大に直結することから、本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定キットによれば、これらの薬剤の投与により副作用を引き起こすリスクを把握することができるという効果を奏する。
【0044】
3.薬剤投与量判定方法
本発明の薬剤投与量判定方法は、i)被験者から採取された生体試料中に含まれるABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出し、ii)検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである場合には、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を被験者に投与する際に、薬剤の投与量を減らすべきであると判定することを含むことを特徴とする。
本発明の薬剤投与量判定方法において、「被験者から採取された生体試料中に含まれるABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出」するためには、前記「1.血中薬剤濃度上昇リスク判定方法」で説明したものと同様の手法を用いることができる。
【0045】
尚、本発明の薬剤投与量判定方法は、「被験者から採取された生体試料」を分析して、好ましい薬剤の投与量を判定する方法であるため、「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」には該当しない。
【0046】
また、本発明の薬剤投与量判定方法においては、検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである場合には、クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり3.0〜5.6mgの範囲内の所定の量であると判定し、オランザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり0.15〜0.28mgの範囲内の所定の量であると判定し、又は、クエチアピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり3.9〜7.3mgの範囲内の所定の量であると判定することを含むことが好ましい。
また、検出された塩基の遺伝子型がC/Cである場合には、クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり5.9〜9.0mgの範囲内の所定の量であると判定し、オランザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり0.30〜0.45mgの範囲内の所定の量であると判定し、又はクエチアピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり7.7〜11.7mgの範囲内の所定の量であると判定することを含むことが好ましい。
【0047】
本発明において、「〜の範囲内の所定の量」とは、「〜」で記述される数値範囲内のうち、特定の量又は特定の範囲の量であると判定することを意味する。
例えば、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり3.0〜5.6mgの範囲内の所定の量であると判定し」とは、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり4.5mgであると判定する」ことや、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり4.0〜5.0mgと判定する」ことを含む。また、被験者の体重を、例えば、50kgと仮定して、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を225mgであると判定する」ことや、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を200〜250mgであると判定する」ことも含む。
【0048】
本発明の薬剤投与量判定方法において、薬剤としてクロザピンを用いる場合には、さらに、被験者にクロザピンを投与した後、被験者から採取された血液中のクロザピンの濃度を測定し、その濃度に応じて、最適なクロザピン投与量を判定することが好ましい。
具体的には、300〜400ng/mlの範囲より選択される下側閾値よりも血中クロザピン濃度が低い場合には、クロザピンの投与量を増やすべきであると判定し、700〜900ng/mlの範囲より選択される上側閾値よりも血中クロザピン濃度が高い場合には、クロザピンの投与量を減らすべきであると判定することを含むことが好ましい。
例えば、下側閾値を350ng/mlとし、上側閾値を800ng/mlとした場合について説明すると、血中クロザピン濃度の測定値が、350〜800ng/mlの範囲内であれば、薬剤の投与量は正しいと判定される。そして、血中クロザピン濃度の測定値が、350ng/ml未満であれば、クロザピンの投与量を増やすべきであると判定し、血中クロザピン濃度の測定値が、800ng/mlよりも大きい場合には、クロザピンの投与量を減らすべきであると判定する。
【0049】
ここで、血液中の薬剤の濃度を測定する方法としては、一定の正確性をもって薬剤の濃度を測定できる方法であれば如何なる方法を用いることもでき、これらに限定されるわけではないが、例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いた測定方法や、免疫吸着法を用いた測定方法を用いることができる。
【0050】
本発明の薬剤投与量判定方法によれば、ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出し、検出された塩基の遺伝子型に応じて被験者に投与すべき薬剤の量を判定するので、クロザピン、オランザピン又はクエチアピンの投与による副作用の発生リスクを低下させることができるという効果を奏する。
【0051】
4.薬剤投与量判定キット
本発明の薬剤投与量判定キットは、i)被験者から採取された生体試料中のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸と、ii)検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである被験者に対しては、クロザピン、オランザピン及びクエチアピンからなる群から選択される1種又は2種以上の薬剤を投与する際に、薬剤の投与量を減らすべきであることを記載した説明書とを含むことを特徴とする。
【0052】
また、本発明の薬剤投与量判定キットは、i)被験者から採取された生体試料中のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸と、ii)検出された塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである被験者に対しては、クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり3.0〜5.6mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、オランザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり0.15〜0.28mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、又は、クエチアピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり3.9〜7.3mgの範囲内の所定の量にすべきと記載した説明書とを含むものであってもよい。
【0053】
この場合には、説明書が、さらに、検出された塩基の遺伝子型がC/Cである被験者に対しては、クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり5.9〜9.0mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、オランザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり0.30〜0.45mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し、又は、クエチアピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり7.7〜11.7mgの範囲内の所定の量にすべきと記載していることが好ましい。
【0054】
本発明の薬剤投与量判定キットにおける「被験者から採取された生体試料」とは、前記2.で記載したものを用いることができる。
また、本発明の薬剤投与量判定キットにおける「ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するために使用する核酸」についても、前記2.で記載したものを用いることができる。
【0055】
本発明の薬剤投与量判定キットにおける「説明書」において、「〜の範囲内の所定の量にすべきと記載し」とは、「〜」で記述される数値範囲内のうち、特定の量又は特定の範囲の量を記載することを意味する。
例えば、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり3.0〜5.6mgの範囲内の所定の量にすべきと記載し」とは、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり4.5mgにすべき」旨を記載することや、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を被験者の体重1kgあたり4.0〜5.0mgにすべき」旨を記載することを含む。また、被験者の体重を、例えば、50kgと仮定して、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を225mgにすべき」旨を記載することや、「クロザピンの1日あたりの経口投与量を200〜250mgにすべき」旨を記載することも含む。
【0056】
本発明の薬剤投与量判定キットに含まれる「説明書」は、さらに他の記載を含んでいてもよく、例えば、これらに限定されるわけではないが、核酸を用いてABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出するためのプロトコールや、キットの保存方法等を記載していてもよい。
【0057】
本発明の薬剤投与量判定キットによれば、ABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出し、検出された塩基の遺伝子型に応じて被験者に投与すべき薬剤の量を判定するので、クロザピン、オランザピン又はクエチアピンの投与による副作用の発生リスクを低下させることができるという効果を奏する。
【0058】
5.統合失調症治療剤
本発明の統合失調症治療剤は、i)有効成分がクロザピンである場合には、ii)ABCG2遺伝子の421番目の塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである統合失調症の患者に対しては、患者の体重1kgあたり3.0〜5.6mgの範囲内の所定の量のクロザピンが1日あたり経口投与され、iii)塩基の遺伝子型がC/Cである統合失調症の患者に対しては、患者の体重1kgあたり5.9〜9.0mgの範囲内の所定の量のクロザピンが1日あたり経口投与されるように用いられることを特徴とする。
【0059】
また、本発明の統合失調症治療剤は、i)有効成分がオランザピンである場合には、ii)ABCG2遺伝子の421番目の塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである統合失調症の患者に対しては、患者の体重1kgあたり0.15〜0.28mgの範囲内の所定の量のオランザピンが1日あたり経口投与され、iii)塩基の遺伝子型がC/Cである統合失調症の患者に対しては、患者の体重1kgあたり0.30〜0.45mgの範囲内の所定の量のオランザピンが1日あたり経口投与されるように用いられることを特徴とする。
【0060】
さらに、本発明の統合失調症治療剤は、i)有効成分がクエチアピンである場合には、ii)ABCG2遺伝子の421番目の塩基の遺伝子型がC/A又はA/Aである統合失調症の患者に対しては、患者の体重1kgあたり3.9〜7.3mgの範囲内の所定の量のクエチアピンが1日あたり経口投与され、iii)塩基の遺伝子型がC/Cである統合失調症の患者に対しては、患者の体重1kgあたり7.7〜11.7mgの範囲内の所定の量のクエチアピンが1日あたり経口投与されるように用いられることを特徴とする。
【0061】
本発明の統合失調症治療剤は、クロザピン、オランザピン又はクエチアピンを有効成分とし、用途及び用法を限定した治療剤に関する発明である。
本発明の統合失調症治療剤において、「〜の範囲内の所定の量」とは、前記3.のとおり、「〜」で記述される数値範囲内のうち、特定の量又は特定の範囲の量であると判定することを意味する。
【0062】
本発明の統合失調症治療剤においては、有効成分の他に、これらに限定されるわけではないが、例えば、賦形剤、安定化剤、保存剤、溶解補助剤などを加えて適宜混合することにより製剤としてもよい。
【0063】
本発明の統合失調症治療薬によれば、クロザピン、オランザピン又はクエチアピンを有効成分としており、統合失調症の患者のABCG2遺伝子の421番目の塩基を検出して、検出された塩基の遺伝子型に応じて、適した量の薬剤を1日あたり経口投与されるように用いられるので、副作用の発生リスクを低下させることができるという効果を奏する。
【0064】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0065】
(血中クロザピン濃度の測定)
インフォームドコンセントを得た38名の統合失調症である被験者(男性13名、女性25名)を対象として血中クロザピン濃度の測定を行った。
【0066】
38名の被験者は、少なくとも4週間にわたり継続的にクロザピンの経口投与を受けた。クロザピンは、ノバルティスファーマ社製のクロザリル(Clozaril)を用いた。クロザピンの投与量は、1日あたり100〜600mgの範囲で固定し、午前9時及び/又は午後9時の1日1回又は2回の投与とした。被験者に対しては、クロザピン以外の薬剤としては、1日あたり200〜800mgのリチウム、1日あたり600〜1200mgのバルプロ酸(valproate)、1日あたり16〜24mgのブロナンセリン(blonanserin)が投与されていた。
血液サンプルを午前8時30分の時点で採取し、その血漿成分を−20℃で保存した。血漿中のクロザピン及びN−デスメチルクロザピンの濃度は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて、紫外線(UV)検出法により測定した。簡単にその方法について説明すると、200μlの血漿に、内部標準(IS)として三環系の化合物である1μgのドキセピン(doxepin)を加え、800μlの水で希釈して、30秒間ボルテックスミキサーを用いて懸濁し、混合液とした。事前にアセトニトリルと水で活性化させたOASIS(登録商標)HLB extraction cartridgeに、この混合液をロードした。このカートリッジを1mlの40%アセトニトリル水溶液で洗浄した後、1.0mlの100%アセトニトリルで溶出した。ロータリーエバポレーター(IWAKI社製)を用いて、70℃下に減圧して、溶出液を蒸発乾固させた。蒸発乾固した残留物を50μlの移動相となる液体に溶解させ、30秒間ボルテックスした。この溶解液から30μlを分取して、HPLC装置に注入した。HPLCシステムとして、島津製作所社製Nexeraを使用した。HPLCのカラムは、C18 STR ODS−II(150mm × 内径4.6mm、粒子径5μm、信和化工社製)を分析カラムとして使用した。HPLCの移動相として、0.5МKHPO、アセトニトリル、酢酸を65:35:0.1の容積比で混合したものを用いた。カラムの温度は40℃とし、流速は0.5ml/分とした。波長を254nmにセットしたUV検出器を用いてピークを検出した。クロザピンとN−デスメチルクロザピンの定量は、ピーク面積に基づいて行った。
【0067】
(遺伝子多型のタイピング)
QIAamp Blood Kit(Qiagen社製)を用いて、被験者から採取した抹消血試料からDNAを抽出し、使用するまで−80℃で保存した。ABCB1遺伝子のエキソン26のC及びTの対立遺伝子(3435C>T)について、Cascorbiらの論文(Cascorbi I 外9名、Clinical Pharmacology & Therapeutics誌(略号:Clin Pharmacol Ther)、2001年発行、Vol.69、No.3、pp.169-174)に記載されたPCR−RFLP法を用いて、遺伝子型を特定する操作を行った。ABCG2遺伝子の421番目の塩基がC又はAである遺伝子多型については、Kobayashiらの論文(Kobayashi D 外12名、Drug Metabolism & Disposition誌(略号Drug Metab Dispos)、2005年発行、Vol.33、No.1、pp.94-101)に記載されたPCR−RFLP法を用いて遺伝子型を特定した。解析した異なる遺伝子座の遺伝子頻度は全て、ハーディ・ワインベルグの法則に従うものとした。
【0068】
(血中クロザピン濃度と遺伝子多型との関係)
前記のとおり測定した被験者の血中クロザピン濃度と、被験者の遺伝子多型との関係を統計学的に分析した結果を次の表1及び表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
血中クロザピン濃度と遺伝子多型との関係の統計学的な分析において、分布の評価には、シャピロ−ウィルク検定(The Shapiro-Wilk test)を用いた。グループ間の相関を評価するためにスピアマンの順位相関係数(The Spearman’s rank correlation coefficient)を用い、その結果を相関係数(r)で表した。また、グループ間の差を検定するために、クラスカル・ワオリスの検定(Kruskal-Wallis tests)とマン・ホイットニーのU検定(Mann-Whitney U tests)を用いた。クロザピン及びN−デスメチルクロザピンのC値(血中濃度)を、クロザピンの投与量で補正し、C/投与量(C/D)の中央値を統計学的な分析に用いた。単変量解析での因子の影響を評価するために、段階式線形重回帰分析を行った。統計学的分析には、SPSS(Version 20.0、SPSS社製)を用いた。P値が0.05より小さな差である場合には、統計学的に有意であるとした。
表1に示すように、血中クロザピン濃度/クロザピン投与量(C/D)の値は、ABCG2遺伝子の421番目の一塩基多型における遺伝子型がC/Cである被験者に比べて、遺伝子型がC/A又はA/Aである被験者の方が有意に高かった(P値=0.024)。しかしながら、表2に示すように、血中N−デスメチルクロザピン濃度/クロザピン投与量の値や、血中N−デスメチルクロザピン濃度/血中クロザピン濃度の値は、ABCG2遺伝子の421番目の一塩基多型における遺伝子型がC/Cでも、C/A又はA/Aでも、有意な違いは見られなかった。
そして、表1に示すように、ABCB1遺伝子の一塩基多型(3435C>T)は、血中クロザピン濃度/クロザピン投与量の値や、血中N−デスメチルクロザピン濃度/クロザピン投与量の値とは相関していなかった。また、表2に示すとおり、血中N−デスメチルクロザピン濃度/血中クロザピン濃度についても、ABCB1遺伝子の一塩基多型による有意差は見られなかった。
【0072】
(多変量解析)
前記の遺伝子多型のみならず、年齢、体重、血液検査データを含めて多変量解析を行った結果、ABCG2遺伝子の421番目の塩基における一塩基多型のみが、血中クロザピン濃度/クロザピン投与量に対して有意に相関していた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法は、被験者から得られたABCG2遺伝子の421番目の塩基の一塩基多型(SNP)に関する情報を用い、統計学的データに基づく本発明の知見に照らして、一塩基多型の遺伝子型がC/A又はA/Aであることは、クロザピン又はその誘導体の血中濃度を上昇させるリスクを示すものであると分析し、リスクを判定するものである。したがって、本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定方法は、「人間を診断する方法」には該当せず、臨床検査等の分野で産業上有用な発明である。
また、本発明の薬剤投与量判定方法は、「被験者から採取された生体試料」を分析して、好ましい薬剤の投与量を判定する方法であるため、「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」には該当せず、臨床検査等の分野で産業上有用な発明である。
さらに、本発明の血中薬剤濃度上昇リスク判定キット、薬剤投与量判定キット及び統合失調症治療剤は、臨床検査薬及び医薬等の分野で産業上有用な発明である。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]