特許第6807151号(P6807151)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807151
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/06 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   H01B7/06
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-215930(P2015-215930)
(22)【出願日】2015年11月2日
(65)【公開番号】特開2016-92009(P2016-92009A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2018年10月22日
【審判番号】不服2020-960(P2020-960/J1)
【審判請求日】2020年1月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-224549(P2014-224549)
(32)【優先日】2014年11月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594180232
【氏名又は名称】株式会社三機コンシス
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】松本 正秀
【合議体】
【審判長】 辻本 泰隆
【審判官】 脇水 佳弘
【審判官】 ▲吉▼澤 雅博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−191811(JP,A)
【文献】 実公昭48−28070(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B7/06
D04B1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向である所定方向X及び長手方向に直交する方向Yの両方の方向に伸張させることができる電線であって、
前記所定方向に延びる複数の導電線と、繊維が編み込まれてなり、前記繊維によって該導電線を保持する編物とを有し、
複数の前記導電線は、前記所定方向に対して直交する前記方向に各々振幅する波形を有し、前記波形の位相が前記所定方向にずれて配置され、前記導電線同士は相互に交差して前記波形同士が接触し、前記波形が前記所定方向にそれぞれ連ねられることにより、前記所定方向に延びており
前記編物を構成する前記繊維は、導電性を有する導電性繊維であり、複数の前記導電線は、導電性の前記編物の表面に重ねて編み込まれ、前記導電性繊維には縮れが形成されており、前記導電性繊維は、前記導電線における前記所定方向Xに隣り合う前記波形同士をつなぎ合わせている、ことを特徴とする電線。
【請求項2】
前記導電性繊維がたて編みされている、請求項に記載の電線。
【請求項3】
前記所定方向に延びる1本又は2本以上の補助導電線を、さらに備え、
前記補助導電線は、前記所定方向に対して直交する方向に振幅する波形をなして少なくとも2本の前記導電線同士をつないでいる、請求項1又は2に記載の電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線に関し、さらに詳しくは、縦方向及び横方向の両方向に伸張させることができる電線に関する。
【背景技術】
【0002】
長手方向に伸張させることができる電線は、従来からOA機器や産業機械の配線に用いられている。こうした伸縮性を有する電線は、種々の構成のものがこれまでに提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1により提案されている伸縮電線は、ロボットやウェアラブル電子機器等の配線に用いられている。この伸縮電線は、伸縮性芯部と、伸縮性芯部の外周に捲回及び/又は編組された導体線で構成される導体部と、導体部の外周に形成された弾性樹脂で構成される第一外部被覆層と、第一外部被覆層の外周に形成された繊維で構成される第二外部被覆層とによって構成されている。
【0004】
その一方で、織物や編物の分野では、織物や編物に導電性を持たせることが行われるようになっている。
【0005】
特許文献2には、導電性織編物が提案されている。この導電性織編物は、長手方向に沿って配置される複数本の経糸と、経糸に編まれる複数本の緯糸と、長手方向に沿って配置されて織られる少なくとも一本の導電線とが面状に織られることにより構成されている。そして、導電線は経糸及び/または緯糸に編まれ、導電性織編物に一体に拘束される導電線織り区間と、導電線が経糸及び/または緯糸に編まれずに、導電性織編物の外部に所定の長さだけ露出する導電線露出区間と、を有するように構成されている。なお、特許文献2では、導電線を波状の構造に折り込むことも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−82050号公報
【特許文献2】特表2013−517389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1により提案されている伸縮電線は、長手方向にしか伸縮しない。また、この伸縮電線は、上記のように芯部の周囲に導体部を巻いた構造であるため、芯部を太くしなければ伸縮率を大きくすることができない。また、この伸縮電線の構造では、衣料を構成する繊維に伸縮電線をそのまま接続することができず、接続するために特殊な加工が必要である。
【0008】
一方、特許文献2により提案されている導電性織編物は、素地をなす布地が縦方向に直線状に延びる経糸と横方向に直線状に延びる緯糸とで構成された織物である。導電線はこうした織物に織り込まれている。そのため、この導電性織編物は、縦方向及び横方向の両方の方向にほとんど伸縮しない。そのため、この導電性織編物を伸縮可能な電線として利用することは困難である。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、様々な産業分野で用いることができ、長手方向及び長手方向に直交する方向の両方の方向に伸張させることができる電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る電線は、所定方向に延びる複数の導電線と、繊維が編み込まれてなり、前記繊維によって該導電線を保持する編物とを有し、複数の前記導電線は、前記所定方向に対して直交する方向に各々振幅する波形を有し、該波形が前記所定方向にそれぞれ連ねられることにより、前記所定方向に延びていることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、複数の導電線が、所定方向に対して直交する方向に各々振幅する波形を有し、波形が所定方向にそれぞれ連ねられることにより、所定方向に延びているので、電線に引張力を加えたときに、波形の間隔が所定方向に広がることによって電線を伸張させることが可能である。また、導電線は編物により保持されているので、所定方向に対して直交する方向に引張力を加えた場合にも、編物の伸縮性を利用して所定方向に対して直交する方向にも自由に伸張させることが可能である。
【0012】
本発明に係る電線において、前記編物を構成する前記繊維は、導電性を有する導電性繊維であり、前記導電性繊維には縮れが形成されており、前記導電性繊維は、前記導電線における前記所定方向に隣り合う前記波形同士をつなぎ合わせている。
【0013】
この発明によれば、縮れた導電性繊維が、導電線における所定方向に隣り合う波形同士をつなぎ合わせているので、電線に引張力を加えたときに、導電性繊維の縮れの伸びを利用することによって電線を所定方向及び所定方向に直交する方向のいずれの方向にも伸張させることができる。また、電線が伸張した場合でも、導電性繊維が導電線における所定方向に隣り合う波形同士をつなぎ合わせているので、抵抗値が極端に増加することを抑制することができる。
【0014】
本発明に係る電線において、前記導電線同士は相互に交差して接触している。
【0015】
この発明によれば、前記導電線同士は相互に交差して接触しているので、導電線が長手方向の途中で物理的に切れてしまった場合でも、電気的な断線が生じることを抑制することが可能である。
【0016】
本発明に係る電線において、前記所定方向に延びる1本又は2本以上の補助導電線を、さらに備え、前記補助導電線は、前記所定方向に対して直交する方向に振幅する波形をなして少なくとも2本の前記導電線同士をつないでいる。
【0017】
この発明によれば、補助導電線が導電線同士をつないでいるので、補助導電線を設けていない電線に比べ、電線の抵抗値を低減することができる。
【0018】
本発明に係る電線において、前記導電性繊維は、前記導電線の前記所定方向に直交する方向の両側で編まれている。
【0019】
この発明によれば、導電性繊維が、導電線により形成された波形の間隔が極端に広がること、及び波形が極端に変形することを防止することができる。そのため、電線に大きな引張力が加わった場合でも、導電線が断線することを防止することができる。
【0020】
なお、本発明に係る電線において、前記導電性繊維をたて編みして構成するとよい。
【0021】
この発明によれば、布地部は導電性繊維をたて編みして構成しているので、よこ編みして構成する場合に比べて導電性を高くすることができる。なお、導電性繊維を編み込んで電線を製造する場合、導電性繊維をよこ編みしてもたて編みしても製造することができる。ただし、この発明のように導電性繊維をたて編みして電線を構成した場合、導電性繊維をよこ編みして構成する場合に比べて、より効率よく構成させることができ、コストを抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、様々な産業分野で用いることができる、長手方向及び長手方向に直交する方向の両方の方向に伸張する電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る電線の一実施形態を模式的に示した説明図である。
図2図1に示した電線を部分的に拡大し、模式的に示した説明図である。
図3】補助導電線を備えた電線を部分的に拡大し、模式的に示した説明図である。
図4】4本の導電線からなる電線を部分的に拡大し、模式的に示した説明図である。
図5】補助導電線を備えた電線を部分的に拡大し、模式的に示した説明図である。
図6図5とは異なる形態の補助導電線を備えた電線を部分的に拡大し、模式的に示した説明図である。
図7】導電線が所定方向にずれた形態で配置された電線を模式的に示した説明図である。
図8】電線を製造する過程で形成される電線の群を示す説明図である。
図9】非導電性繊維が編み込まれた非導電性編物を有する第1タイプの電線の構造を説明するための平面図である。
図10】非導電性繊維が編み込まれた非導電性編物を有する第2タイプの電線の構造を説明するための平面図である。
図11】非導電性繊維が編み込まれた非導電性編物を有する第3タイプの電線の構造を説明するための平面図である。
図12】非導電性繊維が編み込まれた非導電性編物と導電線とからなる第4タイプの電線の構造を説明するための示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態につて図面を参照しながら説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の記載や図面にのみ限定されるものではない。
【0025】
[基本構成]
本発明に係る電線1は、図1及び図2に示すように、所定方向Xに延びる複数の導電線10と、繊維20が編み込まれてなり、繊維20によって導電線10を保持する編物30とを有している。複数の導電線10は、所定方向Xに対して直交する方向Yに各々振幅する波形を有し、波形が所定方向Xにそれぞれ連ねられることにより、所定方向Xに延びている。
【0026】
以下、電線1の具体的な構成について、適宜に図面を参照して説明する。
【0027】
(導電線)
導電線10は、図1及び図2に示すように、2本設けられており、構造的に並列をなして配置されている。各導電線10は、図1及び図2の符号Xで表した所定方向(以下、「所定方X」という。)にそれぞれ延びている。また、各導電線10は所定方向に直交する方向(以下、「方向Y」又は「Y方向」という。)に振幅するようにして波形をそれぞれなしている。2本の導電線10は、相互に隣り合う導電線10同士が相互に交差して接触している。導電線同士は、X方向の複数の位置で交差している。
【0028】
2本の導電線10は、各導電線10の振幅の中心同士の位置が一定の距離だけ離れて配置されている。各導電線10の振幅の中心同士の距離は、導電線10が形成している波形の振幅と同じか又は短い。また、波形の位相が所定方向Xにずれて配置さている。2本の導電線10は、各導電線10の振幅の中心同士の距離と、波形の位相とがこのように構成されているので、2本の導電線10が交差することによって、波形同士が接触する。なお、特に図面には示していないが、導電線10は、波形の頂点同士が接触するように配置してもよい。
【0029】
導電線10は、上記のように、相互に隣り合う導電線10同士が接触しているので、導電線10と導電性繊維20との接触不足が部分的に生じても、導電線10に流れる電流を分散して流すことができる。また、各導電線10の振幅の中心同士の距離(Y方向の距離)は、導電線10が形成している波形の振幅と同じか又は短いので、隣り合う導電線10同士は、確実に接触する。
【0030】
この導電線10は、一般的な導電線に用いられる材料で構成されている。導電線10を構成する材料としては、例えば、銅又は銅合金等を挙げることができる。また、導電線10は、例えば、繊維からなる芯線の外周に銅線を撚糸して形成してもよい。
【0031】
なお、この導電線10は、導電性繊維20よりも相対的に太く、多くの電流を流すことができる材料で構成されていれば、上記のものには限定されない。例えば、導電線10は、銅線等に導電材に導電性のめっきをした構造、非導電材に導電性メッキをした構造のものを用いることができる。また、導電線10は、それ自体に伸縮性を備えていることは必要ない。
【0032】
導電性繊維20は、図2に示すように、導電線10の所定方向Xに隣り合う波形同士をつなぎ合わせている。具体的に、導電性繊維20は、導電線10のY方向の両側で編み込まれることによって、導電線10の波形同士をつなぎ合わせることにより、導電線10を保持している。ただし、導電性繊維20は、導電線10が配置されたY方向の範囲に編み目が形成されるように編み込んでもよい。導電性繊維20が導電線10のY方向の両側で編まれた部分は、後述する導電性編物30の一部を構成する。この導電性繊維20には縮れが形成されている。そのため、導電性繊維20は、その長手方向に伸縮する。
【0033】
導電性繊維20は、芯線と、その芯線の表面に形成された導電層とで構成されている。芯線は、例えば、合成繊維、天然繊維及び合成繊維と天然繊維との混合繊維で構成されている。
【0034】
導電層は、例えば、芯線の表面にめっき(無電解又は電解)をしたり、又は箔を巻いたりして構成されている。導電層を構成する材料としては、金、銀、銅、アルミ、錫、ニッケル銅、及びそれらの合金等の導電性が高いものが好ましい。
また、導電層は、直径が芯線よりも細い導電性を有する線を螺旋状に巻き付けることによって構成することもできる。
【0035】
(編物)
編物30は、導電線10の所定方向Xに直交する方向Yの両側に設けられており、導電線10を保持している。ただし、編物30は導電線10のY方向の両側だけに設けることには限定されず、導線10のY方向の両側に加えて導線10が配置された領域にも編物30が配置されるように構成してもよい。
【0036】
この編物30は、導電性繊維20が編み込まれることにより構成されており、導電線10に接続されている。以下、導電性繊維20で編み込まれてなる編物を導電性編物30という。この導電性編物30を構成する導電性繊維20は、方向Yの両側で導電線10の各波形同士をX方向に接続するようにして編み込まれている。
【0037】
導電性編物30の編み方には、導電性繊維20をたて編みしたり、よこ編みしたりすることによって形成することができ、特に限定はない。ただし、導電性編物30は導電性繊維20をたて編みして構成した場合、よこ編みして構成する場合に比べて導電性を高くすることができる。すなわち、導電性編物30は、導電性繊維20をたて編みし、複数のループが電線1の延びる方法、すなわち、X方向に連なるように編んだ場合、よこ編みし、複数のループが複数のループが電線1の延びる方法、すなわち、X方向に連なるように編んだ場合よりも導電性を高くすることができる。
【0038】
また、導電性繊維20をたて編みして電線を構成した場合、導電性繊維をよこ編みして構成する場合に比べて効率よく構成させることができ、かつコストを抑制することが可能になる。たて編みとしては、例えば、トリコット編み及びラッセル編みを挙げることができる。
【0039】
この導電性編物30は、導電線10が所定方向Xに伸張することを許容しつつ、導電線10の所定方向Xの動きを拘束する機能を有しており、導電線10が所定方向Xに大きく伸張することを防止している。なお、導電性編物30は、導電線10の所定方向Xに直交する方向Yの両側に設けることには限定されず、Y方向において、導電線10の両側に設けると共に、導電線10が配置された範囲にも設けることができる。
【0040】
以上の構成を有する電線1Aは、複数の導電線10が波形をなして所定方向Xに延びているので、電線1Aを所定方向Xに引っ張った場合、波形の間隔が所定方向Xに広がる。導電線10の波形同士を接続している導電性繊維20は、縮れを有しているので、その長手方向に自由に伸縮する。そのため、電線1Aに所定方向Xの引張力を加えたとき、電線1Aは、所定方向に伸張する。そして、電線1Aに加えられた引張力を解除したとき、電線1Aは、元の長さに戻る。
【0041】
一方、電線1Aは、波形をなして所定方向Xに延びる複数の導電線10が並列に配置されて構成されているので、電線1AをY方向に引っ張った場合、波形がY方向に変形し、電線1AはY方向に広がる。そして、電線1Aに加えられたY方向の引張力を解除したとき、電線1AのY方向の寸法は元に戻る。
【0042】
なお、波形をなす導電線10が所定方向Xに伸張したとき、波形同士の間隔が広がるため、所定方向Xの抵抗は増加する。また、波形をなす導電線10がY方向に伸張したとき、波形の間隔が広がるように変形し、その変形に伴ってY方向の抵抗は増加する。しかしながら、この電線1Aでは、導電線10の波形が導電性繊維20によって接続されている。そのため、導電性繊維20が導電線10の隣り合う波形同士に電流を流すので、電線1Aが所定方向Xに伸張した場合やY方向に伸張した場合でも、所定方向Xの抵抗値及びY方向の抵抗値の極端な増加は、防止される。
【0043】
以上、電線1が導電線10及び導電性繊維20からなる導電性編物30で構成されている場合を例に説明した。しかしながら、電線1は、図3に示すように、導電線10及び導電性編物30の他に、補助導電線15を編み込んで構成することもできる。
【0044】
(補助導電線)
補助導電線15は、図3に示すように、所定方向Xに延びている。この補助導電線15は、所定方向Xに対して直交する方向Yに振幅する波形をなしている。補助導電線15のY方向の振幅は、導電線10の振幅よりも大きい。そのため、この補助導電線15は、2本の導電線10同士をつないでいる。補助導電線15が形成する波形の波長は、必要に応じて、導電線10が形成する波形の波長より長く形成することも、短く形成することもできる。また、補助導電線15が形成する波形の波長と導電線10が形成する波形の波長とを同じに形成することもできる。
【0045】
この補助導電線15は、電線1Bに電流を流したときに、2本の導電線10で電線1Aを構成した場合よりも、発生する抵抗値を低減する。
【0046】
補助導電線15を設けて電線1Bを構成した場合、導電性繊維20は、導電線10の波形同士をつなぐだけでなく、導電線10の波形と補助導電線15の波形とをつないでいる。また、必要に応じて、導電性繊維20は、補助導電線15の波形同士もつなぐ。
【0047】
また、導電性編物30は、導電性編物30を構成している導電性繊維20を導電線10につなぐだけでなく、導電性編物30を構成している導電性繊維20を補助導電線15にもつなぐことにより電線1を構成する。
【0048】
[3本以上の導電線を有する電線]
以上、電線1を構成する導電線10が2本の場合を例にして説明した。しかし、電線1は、3本以上の導電線10を用いて構成することもできる。図4は、4本の導電線10を用いて電線1Cを構成した場合を示している。なお、3本以上の導電線10で構成された電線1Cは、図1図3を参照して説明した電線1A,1Bとは、導電線10の本数が異なるだけで、基本的な構成は、同様である。そのため、3本以上の導電線10で構成された電線1Cについては、図1図3を参照して説明した電線1とは異なる構成について詳細に説明し、同じ構成については、各図面に、図1図3で使用した符号と同じ符号を図面に付して簡単に説明する。
【0049】
図4に示した電線1Cは、4本の導電線10と、導電性繊維20と、導電性編物30とで構成されている。4本の導電線10を用いて電線1Cを構成する場合においても、図4に示すように、導電線10は構造的に並列に配置され、所定方向Xに延びるようにして構成される。また、複数の導電線10は、所定方向Xに対して直交する方向Yに各々振幅する波形をなし、隣り合う導電線10同士が交わっている。なお、この電線1Cについても、導電線の波形の頂点同士を接触させてもよい。
【0050】
導電性繊維20は、図4に示すように、導電線10の所定方向Xに隣り合う波形同士をつなぎ合わせている。また、導電性繊維20には縮れが形成されている。
【0051】
導電性編物30は、導電線10の所定方向Xに直交する方向Yの両側に設けられている。この導電性編物30は、導電性繊維20が編み込まれて導電線10に接続されている。導電性編物30の編み方は、特に限定はないがたて編みで編み込むことが好ましい。
【0052】
3本以上の導電線10を有する電線1は、補助導電線15を編み込んで構成することもできる。図5は、補助導電線15を編み込んで構成された電線1Dの一例を示している。
【0053】
図5に示した電線1Dは、1本の補助導電線15を有している。この補助導電線15は、所定方向Xに対して直交する方向Yに振幅する波形をなして所定方向Xに延びている。補助導電線15の振幅は4本の導電線10の振幅より大きく形成されており、4本の導電線10に接続されている。なお、補助導電線15が形成する波形の波長は、必要に応じて、導電線10が形成する波形の波長より長く形成することも、短く形成することもできる。また、補助導電線15が形成する波形の波長と導電線10が形成する波形の波長とを同じに形成することもできる。
【0054】
図6に示した電線1Eは、2本の補助導電線15を編み込んで形成されている。2本の補助導電線15のうち一方の補助導電線15は、図6の上側に位置する2本の導電線10をつないでいる。これに対し、他方の補助導電線15は、図6の下側に位置する2本の導電線10をつないでいる。
【0055】
2本の補助導電線15が形成する波形の波長は、同じ長さに形成したり、異なる長さに形成したりすることができる。また、補助導電線15が形成する波形の波長は、必要に応じて、導電線10が形成する波形の波長より長く形成することも、同じ長さに形成することも、又は短く形成することもできる。
【0056】
補助導電線は、3本以上設けることもできる。例えば、3本の補助導電線を設ける場合、1本の補助導電線15は、図5に示した電線1Dと同じ形態に設けて、4本の導電線10をつなぐように配置する。他の2本の補助導電線15は、図6に示した電線1Eと同じ形態に設け、導電線10を2本ずつつなぐように配置する。
【0057】
導電線10を3本以上設けて電線1を形成する場合、図7に示すように、導電線10の位相が所定方向Xにずらして配置することによって構成することもできる。
【0058】
図7に示した電線1Fは、4本の導電線10により構成されている。4本の導電線は、2本の導電線10が構造的に並列をなして配置された導電線10の組が所定方Xにずれて配置されることによって構成されている。図7に示した構造の電線1Fは、一方の導電線10の組を、他方の導電線10の組の補助導電線15として機能させることができる。また、この電線1Fは、4本の導電線10を並列に配置して構成された電線1に比べ、Y方向の寸法を小さくすることができる。
【0059】
[製造方法]
以上の構成を有する電線1は、次のようにして製造される。
【0060】
導電性繊維20を編み込んで、Y方向に一定の幅を有する導電性編物30を形成する。編み方は、特に限定されない。また、複数の導電線10を波形に編み込む。導電線10の波形は、導電性編物30を構成している導電性繊維20により接続させる。また、複数の導電線10は、相互に並列をなすように編み込む。その際、隣り合う導電線10同士が波形の位置で相互に交わったり、接触したりして、つながれるように編み込む。
【0061】
なお、電線10を量産する場合、低廉なコストで製造することができるので、導電性繊維20をたて編みで形成することが好ましい。また、電線1を多数の電線1を製造する場合、図8に示すように、複数の電線1が並列に並ぶようにして電線1の群を形成する。その後、導電性編物30を導電線10同士の間の位置で所定方向Xに沿って切り離す。切り離す方法は特に限定がなく、例えば刃物で導電性編物30を裁断する。また、電線10を構成する導電性編物30の導電性繊維20を布地から抜き取ることにより、電線を切り離してもよい。さらに、電線10同士を水溶性繊維でつなぎ合わせるように編み込んで電線10の群を形成し、電線10の群を水に浸漬して水溶性繊維を溶かすことにより電線10同士を切り離してもよい。
【0062】
[非導電性繊維を編み込んだ編物が更に設けられた形態]
以上、導電性繊維20が編み込まれた導電性編物30と導電線10とにより構成された電線1について説明した。電線は、導電性編物30及び導電線10の他に、非導電性繊維40が編み込まれた非導電性編物50を設けて構成することもできる。図9から図12を参照し、非導電性編物50、導電性編物30及び導電線10により構成された電線2について説明する。
【0063】
図9に示した電線2Aは、非導電性編物50を設けて構成された第1タイプの電線を示している。この電線2Aは、非導電性繊維40が編み込まれてなる非導電性編物50、導電性繊維20が編み込まれてなる導電編物30、及び導電線10により構成されている。
【0064】
非導電性編物50を構成する非導電性繊維40は、例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、水溶性繊維等の非導電性の繊維により構成されている。非導電性編物50は、こうした非導電性繊維40が編み込まれることにより構成されている。非導電性繊維40の編み方は特に限定がなく、例えば、たて編み、よこ編み等の編み方により編み込まれている。
【0065】
導電性編物30は、非導電性編物50の一面側に導電性繊維20を重ねて編み込むことにより構成されている。具体的に、導電性編物30は、非導電性編物50のY方向に一定の間隔を空けており、X方向に延びる一対の帯状をなすようにして編み込まれている。
【0066】
導電性編物30を構成する導電性繊維20は、例えば、図2を参照して説明した電線1に用いられる導電性繊維20と同様の構成である。また、導電性繊維20の編み方についても、図2を参照して説明した電線1を構成する導電性編物30と同様である。
【0067】
導電線10は、導電性編物30の表面に重ねて編み込まれている。具体的に、導電線10は、Y方向に一定の間隔を空けて配置されている一対の導電性編物30の間で一方の導電性編物30と他方の導電性編物30と連絡させて編み込まれている。編み込まれた導電線10は、Y方向に振幅し、X方向に延びるように形成されて波形をなしている。そして、この導電線10の振幅した頂部、すなわち、Y方向の両側は、導電性編物30を構成する導電性繊維20により保持されている。
【0068】
図9に示した電線2Aでは、導電線10が3本用いられている。3本の導電線10は、相互に交差しており、交差した部分で相互に接触している。
【0069】
なお、図9に示した電線2Aは、非導電性編物50、導電性編物30及び導電線10が電線2Aの厚さ方向に重ね合わされて構成されている。すなわち、図9に示した電線2Aは、導電性繊維20が非導電性編物50の一面側に編み込まれることによって、導電性編物30が非導電性編物50に重ね合わされ、且つ、導電線10が導電性編物30の表面に編み込まれることによって重ね合わされて構成されている。しかしながら、電線2Aは、特に図面には示していないが、非導電性編物50、導電性編物30及び導電線を平面的に編み込むことにより構成することもできる。
【0070】
具体的に、電線2Aは、平行をなす一対の帯状の非導電性編物50と、一対の非導電性編物50の内側に配置され、平行をなす一対の帯状の導電性編物20と、一対の導電性編物20同士の間にて導電性編物20を連絡する波形をなす導電線10とにより構成される。
【0071】
次に、図10を参照して、非導電性編物50を備えた第2タイプの電線2Bについて説明する。
【0072】
第2タイプの電線2Bは、第1タイプの電線1と同様に、非導電性繊維40が編み込まれてなる非導電性編物50、導電性繊維20が編み込まれてなる導電編物30、及び導電線10により構成されている。
【0073】
非導電性繊維40は、第1タイプの電線1に用いられている非導電性繊維40と同様である。また、非導電性編物50の構成も、第1タイプの電線1を構成する非導電性編物50と同様である。
【0074】
導電性編物30は、非導電性編物50の一面側に重ね合わせ、非導電性編物50に編み込まれている。この導電性編物30は、Y方向に一定の幅をなし、X方向に延びる1本の帯状をなしている。導電性編物30の編み方は、図2を参照して説明した電線1を構成する導電性編物30の編み方と同様である。また、導電性繊維20も、図2を参照して説明した電線1を構成する導電性編物30の導電性繊維20と同様である。
【0075】
導電線10は、導電性編物30の表面に編み込まれており、導電性編物30を構成する導電性繊維20により保持されている。この導電線10は、Y方向に振幅し、X方向に延びる波形をなしている。波形の頂部、すなわち、導電線10のY方向の両端は、導電性編物30のY方向の両端よりも中心側に位置している。
【0076】
図10に示した電線2Bに関しても、導電線10が3本用いられている。3本の導電線10は、相互に交差しており、交差した部分で相互に接触している。
【0077】
次に、図11を参照して、非導電性編物50を備えた第3タイプの電線2Cについて説明する。
【0078】
第3タイプの電線2Cは、導電線10の編み込み方が第2タイプの電線2Bとは異なっている。ただし、第3タイプの電線2Cのその他の構成は、第2タイプの電線2Bの構成と同様である。そのため、この第3タイプの電線2Cについては、導電線10の編み方のみを説明し、その他の構成については、図10の第2タイプの電線2Bを構成する各構成に付した符号と同様の符号を付して説明を省略する。
【0079】
導電線10は、複数用いられている。図11に示した例では、導電線10が3本用いられている。3本の導電線10は、Y方向に振幅し、X方向に延びるようにして導電性編物30に編み込まれ、導電性編物30を構成する導電性繊維20により保持されている。また、3本の導電線10は、相互に接触しないように、互いに間隔を空けて導電性編物30に編み込まれている。
【0080】
次に、図12を参照して、非導電性編物50と導電線10とで構成された第4タイプの電線2Dについて説明する。
【0081】
第4タイプの電線2Dは、図12に示すように、非導電性繊維40が編み込まれた非導電性編物50と、複数の導電線10とにより構成されている。なお、非導電性編物50の構成、及びこの非導電性編物50を構成する非導電性繊維40の構成は、第1タイプから第3タイプの電線2Cに用いられている非導電性編物50の構成、及び非導電性繊維40の構成と同様である。そのため、非導電性編物50の構成、及び非導電性繊維40の構成の説明は、ここでは省略する。
【0082】
導電線10は、複数用いられており、各導電線10がY方向に振幅し、X方向に延びるようにして導電性編物30に編み込まれている。図12に示した第4タイプの電線2Dの例では、導電線10は3本用いられている。3本の導電線10は、相互に接触することがないように、互いに間隔を空けて配置されている。
【0083】
第4タイプの電線2Dは、各導電線10が、互いに間隔を空けて導電性を有しない非導電性繊維40からなる非導電性編物50に直接編み込まれているので、導電性10同士が相互に絶縁されている。そのため、第4タイプの電線2Dは、各導電線10にそれぞれ異なる電気信号を流すなどして、各導電線10を別系統の配線として用いることができる。
【0084】
以上に説明した電線1,2は、例えば、OA機器や産業機械に用いる様々なケーブルとして用いることができる。OA機器としては、例えば、USB(Universal Serial Bus)を挙げることができる。また、電線1の導電性編物30を矩形状に形成し、導電線10、導電性繊維20及び補助導電線15を導電性編物30の対向する側縁の部分に設けた場合、この構成物を布ヒータ及び布ヒータの電極として用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
1,1A,1B,1C,1D,1E 電線
2,2A,2B,2C,2D 電線
10 導電線
15 補助導電線
20 導電性繊維
30 導電性編物
40 非導電性繊維
50 非導電性編物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12