特許第6807179号(P6807179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6807179樹脂組成物及びそれを用いた複合樹脂組成物、これらの製造方法並びに複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807179
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びそれを用いた複合樹脂組成物、これらの製造方法並びに複合体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20201221BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20201221BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20201221BHJP
   C08K 5/03 20060101ALI20201221BHJP
   C08G 59/44 20060101ALI20201221BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20201221BHJP
   C08G 59/04 20060101ALI20201221BHJP
   C08K 5/34 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C08L77/00
   C08L1/02
   C08K5/20
   C08K5/03
   C08G59/44
   C08G59/62
   C08G59/04
   C08K5/34
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-138774(P2016-138774)
(22)【出願日】2016年7月13日
(65)【公開番号】特開2018-9095(P2018-9095A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年5月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 裕明
(72)【発明者】
【氏名】荘所 大策
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−168914(JP,A)
【文献】 特開2013−185068(JP,A)
【文献】 特開2008−248053(JP,A)
【文献】 特開2014−162880(JP,A)
【文献】 特開2017−031246(JP,A)
【文献】 特開2019−085584(JP,A)
【文献】 特開2016−079369(JP,A)
【文献】 特開2016−079370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/14
C08K3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と、セルロースナノ繊維と、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物と、溶媒とを含む樹脂組成物であって、前記溶媒が、アミド類を含む樹脂組成物。
【請求項2】
アミド類の割合が、ポリアミド樹脂とセルロースナノ繊維との総量100重量部に対して、30〜350重量部である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド樹脂とセルロースナノ繊維との割合が、前者/後者(重量比)=10/90〜90/10である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
セルロースナノ繊維が未修飾セルロースナノ繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物が、下記式(1)で表される化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化1】
(式中、環Zはアレーン環、Xは下記式(2−1)、(2−2)、又は(2−3)で表される基を示し、nは1〜3の整数、R及びRは置換基を示し、pは0又は1以上の整数、kは0〜4の整数を示す。)
【化2】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基、Rはアルキレン基、m1及びm2はそれぞれ0又は1以上の整数を示す)。
【請求項6】
式(1)中、Xが式(2−2)で表される基である請求項5記載の樹脂組成物。
【請求項7】
9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物の割合が、ポリアミド樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部である請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物の割合が、セルロースナノ繊維100重量部に対して0.1〜50重量部である請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアミド樹脂と、セルロースナノ繊維と、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物と、アミド類を含む溶媒とを含む樹脂組成物の製造方法であって、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物の存在下、アミド類を含む溶媒と、ポリアミド樹脂と、セルロースとを含む組成物を混練して樹脂組成物を製造する方法。
【請求項10】
9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物が請求項5〜8のいずれかに記載の化合物である請求項記載の方法。
【請求項11】
ポリアミド樹脂と、このポリアミド樹脂中に分散している未修飾セルロースナノ繊維と、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物とを含む複合樹脂組成物。
【請求項12】
未修飾セルロースナノ繊維の平均繊維径が1〜750nmであり、最大繊維径が2000nm以下である請求項11記載の複合樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂組成物からアミド類を含む溶媒を除去して複合樹脂組成物を製造する方法。
【請求項14】
請求項11又は12記載の複合樹脂組成物と、樹脂とを含む複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂中にセルロースナノ繊維が分散した樹脂組成物及び複合樹脂組成物及び複合体並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物由来の繊維であるセルロースは、環境負荷が小さく、持続型資源であるとともに、高い弾性率及び強度、低い線膨張係数などの優れた特性を有する。特に、微細化したセルロースナノ繊維(セルロースナノファイバー)は、樹脂の補強剤として有用であり、樹脂にセルロースナノ繊維が分散した樹脂組成物が知られている。
【0003】
特開2005−42283号公報(特許文献1)には、脂肪族ポリエステル系樹脂にパルプ及び/又はセルロース系繊維を均一に微細分散させて、高い剛性及び強度を有する複合材料を製造する方法が記載されている。この複合材料の製造方法として、一次壁及び二次壁外層を傷つけたパルプ(前処理パルプ)と、脂肪族ポリエステルとをセルロース非晶領域膨潤剤(水、エチレングリコール、エタノールなどの解繊助剤)の存在下で溶融混練し、このセルロース非晶領域膨潤剤(解繊助剤)を分離する方法が記載されている。さらに、この文献の実施例では、脂肪族ポリエステルを180℃で溶融し、溶融した脂肪族ポリエステルと、前処理パルプと水(セルロース非晶領域膨潤剤)との混合液とを混練し、この混練物から水を除去して複合材料を製造すること、さらには、脂肪族ポリエステル100重量部に対する前処理パルプ及び水の使用割合が、それぞれ20〜30重量部、80〜100重量部であることが記載されている。
【0004】
しかし、この方法では、パルプの一次壁及び二次壁外層に傷をつける処理工程が必要であり、生産効率が十分ではない。また、セルロース非晶領域膨潤剤(解繊助剤)として水やアルコール類を使用すると、混練過程で脂肪族ポリエステルが加水分解され、分子量が低下し易いため、力学的特性(例えば、強度など)を十分に向上できない。
【0005】
特開2014−227639号公報(特許文献2)には、所定の繊維幅を有する微細セルロース繊維と、必要に応じて樹脂(第1の樹脂)とを、アミド、尿素及びその誘導体などの塩基性含窒素化合物(解繊助剤)を含む水溶液に浸漬させ、前記水溶液から引き上げた後、乾燥させることにより得られる微細セルロース繊維含有材料、及びこの微細セルロース繊維含有材料と樹脂(第2の樹脂)とを混練することにより得られる複合材料が記載されている。この文献には、微細セルロース繊維を塩基性含窒素化合物(解繊助剤)で処理すると、微細セルロース繊維同士の結合力が弱くなり、この処理済みの微細セルロース繊維(微細セルロース含有材料)と、樹脂(第2の樹脂)とを混練すると、微細セルロース繊維同士の間に樹脂(第2の樹脂)が入りこみやすくなるため、樹脂(第2の樹脂)に対する微細セルロースの分散性を向上できるとともに機械的物性を向上できることが記載されている。さらに、この文献の実施例では、微細セルロース繊維及び第1の樹脂として、微細セルロース繊維とポリエチレンエマルションとを混抄して、微細セルロースコンポジットシート(シート)を調製し、このシートを50%尿素水溶液中に含浸させ、引き上げ、乾燥させることによって、シートの総量100重量部に対し、10重量部の尿素を含むセルロース繊維含有シートを製造し、この微細セルロース繊維含有シートと、第2の樹脂として線状低密度ポリエチレンとを100〜140℃で溶融混練して複合材料を製造していること、さらにはこの複合材料の外観を観察したところ、黄色〜茶褐色の着色が見られたことが記載されている。
【0006】
しかし、この方法では、予め微細化処理した微細セルロース繊維を使用するだけでなく、微細セルロース繊維とポリエチレンエマルションとを混抄する工程が必要であり、生産効率が十分でない。また、この方法では、吸湿性の高い尿素が残存したセルロース繊維含有シートを用いて複合材料を形成しているため、この複合材料の成形体は、吸水により機械的物性変化(例えば、強度低下、剛性低下など)が生じ易いとともに、第2の樹脂として尿素と相溶性の低いポリエチレン系樹脂を使用しているため、残存尿素による機械的物性の低下が生じる可能性がある。さらにこの方法でも、着色(黄変)が十分に改善されているといえず、さらなる改善が求められる。
【0007】
特開2013−185068号公報(特許文献3)には、セルロースナノファイバーをカチオン変性させた変性セルロースナノファイバーと、熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物が記載されている。この文献には、カチオン変性により、セルロースナノファイバー同士が、水素結合によって凝集するのを抑制できること、さらには、変性セルロースナノファイバーと、樹脂とを混合すると、変性セルロースナノファイバーが樹脂中で均一に分散されるため力学的特性、耐熱性、表面平滑性、外観などが優れることが記載されている。また、この文献には、樹脂として、セルロース系材料との親和性が高いという理由から、ポリアミド樹脂を用いることが好ましいことが記載されており、この文献の実施例では、変性セルロースナノファイバーとポリアミド11粉体とを混合してスラリーを形成し、このスラリーを乾燥させて粉砕した複合粉体と、ポリアミド11ペレットとを170℃以上で溶融混練して樹脂組成物(複合材料)を製造することが記載されている。
【0008】
しかし、この文献では、セルロース(原料セルロース)を予め微細化処理したり、セルロースナノファイバーをカチオン変性処理させたり、スラリー液を調製し、乾燥及び粉砕して複合粉体を形成したりするなど、混練以外に多くの工程を必要とし、煩雑であり、生産効率が十分でない。また、この方法では、セルロースナノファイバーの表面の水酸基が変性されるため、ポリアミドとセルロースナノファイバーの表面に有する水酸基との水素結合点が減少し、ポリアミドとセルロースナノファイバーとの界面強度が低下する虞がある。
【0009】
なお、この文献の比較例では、カチオン変性されていないセルロースナノファイバーとポリアミド11とを組み合わせて調製した樹脂組成物が記載されているが、この樹脂組成物では、未処理のセルロースナノファイバーを使用しているため、セルロースナノファイバーの分散性が十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−42283号公報(特許請求の範囲、[0012]、[0054]、実施例)
【特許文献2】特開2014−227639号公報(特許請求の範囲、[0021]、[0025]、実施例)
【特許文献3】特開2013−185068号公報(特許請求の範囲、[0020]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、セルロースナノ繊維がポリアミド樹脂中に均一に分散され、樹脂(例えば、ポリアミド樹脂)に対し、優れた特性(例えば、強度、靱性、剛性、耐熱性など)を付与できる樹脂組成物、複合樹脂組成物、及び複合体並びにこれらの製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、予めセルロース(原料セルロース)に特別な処理(前処理)を施さなくても、セルロースナノ繊維がポリアミド樹脂中に分散された樹脂組成物、複合樹脂組成物、及び複合体並びにこれらの製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、加水分解などに伴って樹脂の物性が低下することがない樹脂組成物、複合樹脂組成物、及び複合体並びにこれらの製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、着色を抑制可能な樹脂組成物、複合樹脂組成物、及び複合体並びにこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、アミド類(アミド系溶媒)を含む溶媒と、ポリアミド樹脂と、セルロース(原料セルロース又はセルロース繊維)とを含む組成物を混練すると、アミド類(アミド系溶媒)がセルロースの解繊剤として作用するため、セルロースをミクロフィブリル化させてセルロースナノ繊維とし、このセルロースナノ繊維がポリアミド樹脂に均一に分散した樹脂組成物を形成できるとともに、この樹脂組成物を用いた複合樹脂組成物及び複合体の特性(例えば、強度、剛性、耐熱性など)を大きく向上できること、さらには、アミド類(アミド系溶媒)がポリアミド樹脂の可塑剤としても作用するため、複合樹脂組成物の調製温度(又は混練温度)を低下でき、熱履歴に伴う着色を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と、セルロースナノ繊維と、溶媒とを含み、この溶媒がアミド類(アミド系溶媒)を含む。アミド類の割合は、ポリアミド樹脂とセルロースナノ繊維との総量100重量部に対して、30〜350重量部であってもよい。ポリアミド樹脂とセルロースナノ繊維との割合は、前者/後者(重量比)=10/90〜90/10であってもよい。
【0017】
セルロースナノ繊維は、未修飾セルロースナノ繊維であってもよい。本発明の樹脂組成物は、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物をさらに含んでもよい。9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物は、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【0018】
【化1】
【0019】
(式中、環Zはアレーン環、Xは下記式(2−1)、(2−2)、又は(2−3)(例えば、(2−2))で表される基を示し、nは1〜3の整数、R及びRは置換基を示し、pは0又は1以上の整数、kは0〜4の整数を示す。)
【0020】
【化2】
【0021】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基、Rはアルキレン基、m1及びm2はそれぞれ0又は1以上の整数を示す)。
【0022】
9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物の割合は、ポリアミド樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部であってもよく、セルロースナノ繊維100重量部に対して0.1〜50重量部であってもよい。
【0023】
本発明は、アミド類(アミド系溶媒)を含む溶媒と、ポリアミド樹脂と、セルロースとを含む組成物を混練して樹脂組成物を製造する方法を含む。本発明の製造方法は、前記9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物の存在下、前記組成物を混練してもよい。
【0024】
本発明は、ポリアミド樹脂と、このポリアミド樹脂中に分散している未修飾セルロースナノ繊維とを含有する複合樹脂組成物を含む。未修飾セルロースナノ繊維の平均繊維径は、1〜750nmであってもよく、最大繊維径は、2000nm以下であってもよい。本発明の複合樹脂組成物は、さらに9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物を含んでもよい。
【0025】
未修飾セルロースナノ繊維の平均繊維径は、1〜750nmであってもよく、最大繊維径は、2000nm以下であってもよい。本発明の複合樹脂組成物は、さらに9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物を含んでいてもよい。
【0026】
本発明は、前記樹脂組成物からアミド類を含む溶媒を除去して複合樹脂組成物を製造する方法を含む。
【0027】
本発明は、前記複合樹脂組成物と樹脂とを含有する複合体を含む。
【0028】
なお、本明細書において、溶媒を含む樹脂組成物を単に「樹脂組成物」といい、この樹脂組成物から溶媒が除去された樹脂組成物を「複合樹脂組成物」という。
【発明の効果】
【0029】
本発明の樹脂組成物は、アミド類がセルロースの解繊剤として作用するため、セルロース(原料セルロース)に特別な処理(前処理)をしなくても、簡便にセルロース(原料セルロース)をミクロフィブリル化させてセルロースナノ繊維とし、このセルロースナノ繊維をポリアミド樹脂に均一に分散できる。また、この樹脂組成物を用いると、複合樹脂組成物及び複合体の力学的特性(例えば、強度、靱性、剛性など)や耐熱性などを大きく向上できる。また、解繊助剤としてアミド類を使用しているため、加水分解などに伴って、ポリアミド樹脂の物性を損なうことがない。さらに、アミド類がポリアミド樹脂の可塑剤としても作用するため、過度に複合樹脂組成物を形成するための調製温度(混練温度)を高くする必要がなく、熱履歴に伴う着色を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、実施例1で得られた樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡写真である。
図2図2は、実施例2で得られた樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡写真である。
図3図3は、実施例3で得られた樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの走査型電子顕微鏡写真である。
図4図4は、実施例2〜3及び比較例1の複合体(ペレット)の射出成形品の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の樹脂組成物(マスターバッチ又は樹脂補強剤)は、ポリアミド樹脂と、セルロースナノ繊維と、アミド類を含有する溶媒とを含み、ポリアミド樹脂にセルロースナノ繊維が分散した組成物である。
【0032】
[ポリアミド樹脂]
ポリアミド樹脂は、優れた力学的特性(例えば、引張強さ(強度)及び衝撃強さ(剛性)など)を有し、セルロースナノ繊維との高い親和性を有する観点から有利である。
【0033】
ポリアミド樹脂(PA)としては、ホモポリアミド、ホモポリアミド成分が共重合したコポリアミドなどが例示できる。ホモポリアミドとしては、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂(例えば、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612など)、脂環族ポリアミド樹脂(例えば、ジアミノメチルシクロヘキサンとアジピン酸との重合体など)、半芳香族ポリアミド樹脂又は芳香族ポリアミド樹脂(例えば、トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との重合体、ポリアミドMXD(例えば、キシリレンジアミンとアジピン酸との重合体など)が例示できる。コポリアミドとしては、例えば、コポリアミド6/66、コポリアミド6/11、コポリアミド6/12、コポリアミド66/12などの脂肪族ポリアミド樹脂などが例示できる。これらのポリアミド樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
これらのポリアミド樹脂の中でも、通常、脂肪族ポリアミド樹脂(ホモポリアミド、コポリアミド)が用いることが多い。これらの脂肪族ポリアミド樹脂の中でも、融点が低い観点からポリマーの主鎖にC6−16アルキレン基を有する脂肪族ポリアミド樹脂(特に、主鎖にC10−14アルキレン基を有するポリアミド樹脂(例えば、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6/11、ポリアミド66/12など))が好ましい。
【0035】
ポリアミド樹脂は、結晶性又は非晶性であってもよく、透明性ポリアミド樹脂(非晶性透明ポリアミド樹脂)であってもよい。ポリアミド樹脂としては、複合体(複合材料又はコンパウンド)及びその成形品の機械的特性の観点から、通常、結晶性樹脂を用いる場合が多い。
【0036】
ポリアミド樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)において、ポリスチレン換算で、5000〜1000000の範囲から選択でき、例えば10000〜800000(例えば、15000〜100000)、好ましくは20000〜600000(例えば、23000〜70000)、さらに好ましくは25000〜500000(例えば、30000〜50000)程度であってもよい。
【0037】
ポリアミド樹脂の融点は、例えば、250℃以下(例えば、100〜250℃)、好ましくは220℃以下(例えば、120〜220℃)、さらに好ましくは200℃以下(例えば、150〜190℃程度)であってもよい。
【0038】
[セルロースナノ繊維]
セルロースナノ繊維(又はセルロースナノファイバー)は、セルロース(原料セルロース又は繊維径がマイクロメータサイズ以上のセルロース繊維、例えばパルプ)の平均繊維径をナノオーダーまで微細化(又はミクロフィブリル化)したセルロース繊維である。なお、ここでいうセルロースナノ繊維は、未修飾セルロースナノ繊維であってもよく、修飾セルロースナノ繊維であってもよい。修飾セルロースの場合には、ポリアミドとの水素結合性を損なわないという観点より、修飾量が低い方が好ましい。
【0039】
前記セルロースとしては、リグニン、ヘミセルロースなどの非セルロース成分の含有量が少ないパルプ、例えば、植物由来の原料セルロース{例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビなど}、動物由来のセルロース原料(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース原料(ナタデココに含まれるセルロースなど)などから製造されたパルプなどが例示できる。これらのセルロースは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロースのうち、植物由来のセルロース原料であるのが好ましく、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維由来のパルプ(例えば、コットンリンターパルプ)由来のセルロースなどであるのがさらに好ましい。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ないことからパルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。
【0040】
なお、セルロース(原料セルロース)は、結晶性が高いのが好ましく、セルロースナノ繊維の結晶化度は、例えば、40〜100%(例えば、50〜100%)、好ましくは60〜95%、さらに好ましくは70〜90%(特に75〜90%)程度であってもよく、通常、結晶化度が60%以上であってもよい。また、セルロースの結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型などが例示でき、弾性率などに優れたI型結晶構造が好ましい。
【0041】
セルロースナノ繊維は、ミクロフィブリル化物であるのが好ましく、セルロースナノ繊維のカナディアンフリーネス値(カナダ標準濾水度)は、0.1重量%濃度のスラリー液を用いて測定したとき、0〜200ml、好ましくは0〜100ml、さらに好ましくは0〜50ml程度であってもよい。カナディアンフリーネス値が小さいほど、フィブリル化の度合いが大きいことを示す。すなわち、カナディアンフリーネス値は、繊維の分岐による繊維同士の絡み合いに関連して、濾過性能の指標でもある。カナディアフリーネス値は、JIS P8121「パルプの濾水度試験法;カナダ標準型」に準拠して測定した値である。
【0042】
セルロースナノ繊維(例えば、未修飾セルロースナノ繊維)の平均繊維径は、1〜1000nmの広い範囲から選択でき、例えば、1〜750nm(例えば、2〜750nm)、好ましくは5〜500nm、さらに好ましくは10〜300nm(例えば、15〜250nm)程度であってもよく、特に50〜200nm(例えば、55〜150nm)程度であってもよく、例えば、200〜900nm、好ましくは300〜800nm、さらに好ましくは350〜700nm程度であってもよい。平均繊維径が大きすぎると、樹脂組成物の強度などの特性が低下する虞がある。なお、セルロースナノ繊維の最大繊維径は、例えば、2000nm以下(例えば、最小繊維径が10nmであり、最大繊維径が2000nm)、好ましくは1500nm以下(最小繊維径が15nmであり、最大繊維径が1500nm)、さらに好ましくは1000nm以下(例えば、最小繊維径が20nmであり、最大繊維径が1000nm)、特に750nm以下(例えば、最小繊維径が25nmであり、最大繊維径が750nm)、通常、500nm以下(例えば、最小繊維径が50nmであり、最大繊維径が500nm)であってもよい。なお、セルロースナノ繊維は、繊維径がマイクロメータサイズのセルロース繊維を実質的に含んでいない場合が多い。
【0043】
また、本発明では、セルロース(原料セルロース又はセルロース繊維)にアミド類を含む樹脂溶液を浸透又は含浸させた状態で混練し、セルロース(原料セルロース又はセルロース繊維)に直接的に剪断力が作用するのを抑制できるためか、セルロース(原料セルロース又はセルロース繊維)の長手方向の切断を抑制でき、繊維長が比較的長い繊維を得ることができる。すなわち、セルロースナノ繊維の平均繊維長は、0.01〜500μm程度の範囲から選択でき、例えば、1μm以上(例えば、5〜300μm)、好ましくは10μm以上(例えば、20〜200μm)、さらに好ましくは30μm以上(特に50〜150μm)であってもよい。
【0044】
セルロースナノ繊維の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は、例えば、5以上(例えば、5〜10000程度)、好ましくは10以上(例えば10〜5000程度)、さらに好ましくは100以上(例えば100〜1000程度)であってもよい。アスペクト比が小さすぎると、樹脂の補強性が低下する虞がある。
【0045】
セルロースナノ繊維とポリアミド樹脂との割合は、前者/後者(重量比)=1/99〜99/1(例えば、5/95〜90/10)の広い範囲から選択でき、例えば、10/90〜90/10(例えば、15/85〜80/20)、好ましくは20/80〜80/20(例えば、25/75〜75/25)、さらに好ましくは30/70〜70/30(例えば、40/60〜60/40)、特に30/70〜50/50程度であってもよく、例えば、10/90〜80/20、好ましくは20/80〜70/30、さらに好ましくは25/75〜60/40程度としてもよい。セルロースナノ繊維の割合(含有量)は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、5〜1000重量部(例えば、50〜1000重量部)の広い範囲から選択でき、例えば、10〜900重量部(例えば、20〜800重量部)、好ましくは30〜700重量部(例えば、50〜600重量部)、さらに好ましくは60〜500重量部(例えば、65〜400重量部)、特に70〜350重量部(例えば、80〜300重量部)程度、通常、90〜250重量部程度であってもよく、例えば、50〜200重量部、好ましくは75〜125重量部程度としてもよい。
【0046】
セルロースナノ繊維の割合(含有量)が小さすぎると、混練プロセスにおけるセルロース繊維のナノ化が十分に進行しにくくなり平均繊維径が大きくなる虞があり、逆に大きすぎると、溶媒除去に伴ってセルロースナノ繊維同士が水素結合を介して強く凝集をしやすく、再度混練等に供した際に凝集塊がほぐれにくく、分散性が低下する虜がある。
【0047】
(修飾セルロースナノ繊維又は変性セルロースナノ繊維)
セルロースナノ繊維は、少なくとも一部の官能基又は反応性基(例えば、水酸基など)が修飾処理(例えば、カチオン化処理、アニオン化処理など)された修飾セルロースナノ繊維(又は変性セルロースナノ繊維)であってもよいが、これらの修飾処理を施さなくても、ポリアミド樹脂にセルロースナノ繊維を均一に分散できるため、セルロースナノ繊維は、これらの修飾処理が施されていない未修飾セルロースナノ繊維であるのが好ましい。
【0048】
カチオン化又はアニオン化処理するためのカチオン化剤(又はアニオン化剤)としては、例えば、セルロースナノ繊維の水酸基と結合(反応)可能な官能基(例えば、エポキシ基など)を有するカチオン性ポリマー(又はアニオン性ポリマー)であってもよい。カチオン性ポリマー(又はアニオン性ポリマー)の割合は、例えば、セルロースナノ繊維100重量部に対して、1重量部以下(例えば、0.9重量部以下)、好ましくは0.5重量部以下、さらに好ましくは0.1重量部以下であってもよい。
【0049】
(改質剤又は添加剤)
本発明は、さらに改質剤を含んでもよい。改質剤としては、例えば、フルオレン化合物(9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物)などが例示できる。
【0050】
このようなフルオレン化合物(9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物)は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有し、カルボキシル基又はその反応性誘導体、エポキシ基及びヒドロキシル基から選択された少なくとも一種の反応性基を有している。前記カルボキシル基の反応性誘導体としては、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、酸ハライド基(酸クロライド基、酸ブロマイド基などのハロホルミル基)などが例示できる。エポキシ基は、オキシラン環を含む限り、グリシジル基であってもよい。
【0051】
代表的なフルオレン化合物としては、下記式(1)で表される。
【0052】
【化3】
【0053】
[式中、環Zはアレーン環、Xは下記式(2−1)、(2−2)、又は(2−3)で表される基を示し、nは1〜3の整数、R及びRは置換基を示し、pは0又は1以上の整数、kは0〜4の整数を示す]。
【0054】
【化4】
【0055】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基、Rはアルキレン基、m1及びm2はそれぞれ0又は1以上の整数を示す)。
【0056】
前記式(1)において、環Zで表されるアレーン環として、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが例示でき、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環(縮合多環式炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
【0057】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン(例えば、ナフタレンなどの縮合二環式C10−16アレーン)環、縮合三環式アレーン(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが例示できる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが例示でき、特に、ナフタレン環が好ましい。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよい。
【0058】
環集合アレーン環としては、ビアレーン環、例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(1−フェニルナフタレン環、2−フェニルナフタレン環など)などのビC6−12アレーン環、テルアレーン環、例えば、テルフェニレン環などのテルC6−12アレーン環などが例示できる。好ましい環集合アレーン環としては、ビC6−10アレーン環、特にビフェニル環などが例示できる。
【0059】
前記式(1)において、Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基が例示できる。好ましいアルキル基は、C1−4アルキル基、特にC1−2アルキル基である。m1は0又は1以上の整数(例えば1〜6、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2程度)であってもよい。m1は、通常0又は1〜2であってもよい。
【0060】
アルキレン基Rには、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が含まれ、直鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基(好ましくは直鎖状C2−4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状C2−3アルキレン基、特にエチレン基)が例示でき、分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、プロピレン基、1,2−ブタンジイル基、1,3−ブタンジイル基などの分岐鎖状C3−6アルキレン基(好ましくは分岐鎖状C3−4アルキレン基、特にプロピレン基)などが例示できる。
【0061】
オキシアルキレン基(OR)の数m2は、0又は1以上の整数(例えば0〜15、好ましくは0〜10)程度の範囲から選択でき、例えば0〜8(例えば1〜8)、好ましくは0〜5(例えば1〜5)、さらに好ましくは0〜4(例えば1〜4)、特に0〜3(例えば1〜3)程度であってもよく、通常0〜2(例えば0又は1)であってもよい。なお、m2が2以上である場合、アルキレン基Rの種類は、同一又は異なっていてもよい。また、置換基Rの種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0062】
前記式(1)において、基Xの置換数nは、環Zの種類に応じて、同一又は異なって1以上の整数であればよく、例えば1〜4、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1又は2、特に1であってもよい。なお、置換数nは、それぞれの環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0063】
なお、基Xは、環Zの適当な位置に置換でき、例えば、環Zがベンゼン環である場合には、フェニル基の2−、3−、4−位(特に、3−位及び/又は4−位)に置換している場合が多く、環Zがナフタレン環である場合には、ナフチル基の5〜8−位である場合が多く、例えば、フルオレンの9−位に対してナフタレン環の1−位又は2−位が置換し(1−ナフチル又は2−ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5−位、2,6−位などの関係(特にnが1である場合、2,6−位の関係)で基Xが置換している場合が多い。また、nが2以上である場合、置換位置は、特に限定されない。また、環集合アレーン環Zにおいて、基Xの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9−位に結合したアレーン環及び/又はこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環Zの3−位又は4−位がフルオレンの9−位に結合していてもよく、ビフェニル環Zの4−位がフルオレンの9−位に結合しているとき、基Xの置換位置は、2−、3−、2’−、3’−、4’−位のいずれであってもよく、通常、2−、3’−、4’−位、好ましくは2−、4’−位(特に2−位)に置換していてもよい。
【0064】
前記式(1)において、置換基Rとしては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル(トリル)基、ジメチルフェニル(キシリル)基など)、ビフェニル基、ナフチル基などのC6−12アリール基]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基など)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−10アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(例えば、チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基など)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基など)、アシル基(例えば、アセチル基などのC1−6アシル基など)、ニトロ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジC1−4アルキルアミノ基など)、ジアルキルカルボニルアミノ基(例えば、ジアセチルアミノ基などのジC1−4アルキル−カルボニルアミノ基など)などが例示できる。
【0065】
これらの置換基Rのうち、代表的には、ハロゲン原子、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが例示できる。好ましい置換基Rとしては、アルキル基(メチル基、エチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基など)、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基など)、特に、アルキル基(特に、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−3アルキル基)が好ましい。なお、置換基Rがアリール基であるとき、置換基Rは、環Zとともに、前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換基Rの種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
【0066】
置換基Rの係数pは、環Zの種類などに応じて適宜選択でき、例えば、0〜8程度の整数であってもよく、0〜4の整数、好ましくは0〜3(例えば、0〜2)の整数、特に0又は1であってもよい。特に、pが1である場合、環Zがベンゼン環、ナフタレン環又はビフェニル環、置換基Rがメチル基であってもよい。
【0067】
置換基Rとして、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)などが例示できる。
【0068】
これらの置換基Rのうち、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基(特に、メチル基などのC1−3アルキル基)、カルボキシル基又はC1−2アルコキシ−カルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましい。置換数kは0〜4(例えば、0〜3)の整数、好ましくは0〜2の整数(例えば、0又は1)、特に0である。なお、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよく、kが2以上である場合、置換基Rの種類は互いに同一又は異なっていてもよく、フルオレン環の2つのベンゼン環に置換する置換基Rの種類は同一又は異なっていてもよい。また、置換基Rの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2−位乃至7−位(2−位、3−位及び/又は7−位など)であってもよい。
【0069】
式(2−1)で表される基Xを有する具体的なフルオレン化合物としては、n=1、p=k=0、m1=0である9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−カルボキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−カルボキシ−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−カルボキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシC6−10アリール)フルオレン;n=1、p=k=0、m1=1〜3である9,9−ビス(カルボキシアルキル−アリール)フルオレン化合物、例えば、9,9−ビス(4−(カルボキシメチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−カルボキシエチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−(カルボキシメチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−(カルボキシメチル)−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−(カルボキシメチル)−1−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシC1−6アルキルC6−10アリール)フルオレンなどが例示できる。これらのフルオレン化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0070】
式(2−2)で表されるエポキシ基含有基Xを有する具体的なフルオレン化合物としては、n=1、p=k=0、m2=0である9,9−ビス(グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−グリシジルオキシ−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−グリシジルオキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン;n=1、p=k=0、m2=1〜5である9,9−ビス(グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(4−(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−グリシジルオキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−(2−グリシジルオキシエトキシ)−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−(2−グリシジルオキシエトキシ)−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン;n=1、p=1、k=0、m2=0である9,9−ビス(アルキル−グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−メチル−4−グリシジルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン;n=1、p=1、k=0、m2=1〜5である9,9−ビス(アルキル−グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−メチル−4−(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−グリシジルキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン;n=1、p=1、k=0、m2=0である9,9−ビス(アリール−グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−フェニル−4−グリシジルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン;n=1、p=1、k=0、m2=1〜5である9,9−ビス(アリール−グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−フェニル−4−(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン;n=2、p=0、k=0、m2=0である9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3,4−ジ(グリシジルオキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ)C6−10アリール)フルオレン;n=2、p=0、k=0、m2=1〜5である9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3,4−ジ(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシ)C6−10アリール)フルオレンなどが例示できる。これらのフルオレン化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0071】
なお、前記式(2−2)で表されるエポキシ含有基Xを有するフルオレン化合物は、単量体であってもよく、多量体(例えば、二量体、三量体など)であってもよいが、黄変(着色)を十分に抑制する観点から多量体を含まないのが好ましい。グリシジル基を有するフルオレン化合物は、通常、少なくとも単量体を含む場合が多く、例えば、単量体、二量体及び三量体の混合物などであってもよい。
【0072】
また、式(2−3)で表されるヒドロキシル含有基Xを有する具体的なフルオレン化合物としては、前記式(2−3)で表される基Xを有するフルオレン化合物に対応する化合物(グリシジルオキシ基をヒドロキシル基に代えた化合物)などが例示できる。
【0073】
これらのフルオレン化合物のうち、好ましいフルオレン化合物としては、例えば、9,9−ビス(グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(C1−4アルキル−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(C1−4アルキル−グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(C6−10アリール−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(C6−10アリール−グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ)C6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシ)C6−10アリール)フルオレンなどの前記式(2−2)で表される基Xを有するフルオレン化合物の単量体、及び多量体(二量体、三量体など);9,9−ビス(ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(ジヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(ジヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ)C6−10アリール)フルオレンなどの前記式(2−3)で表される基Xを有するフルオレン化合物などが例示できる。なお、「(ポリ)C2−4アルコキシ」とは、C2−4アルコキシ基の繰り返し数m2が1以上の整数であることを意味する。
【0074】
本発明では、フルオレン化合物を改質剤又は添加剤として樹脂組成物に含めることにより、さらに優れた分散性(又は親和性)を発現でき、機械的強度などの特性を向上できる。特に式(2−2)で表されるエポキシ含有基Xを有するフルオレン化合物であれば、靱性を十分に向上できるため有利である。一方、式(2−1)又は(2−3)で表される基Xを有するフルオレン化合物であれば、機械的強度の特性を向上できるとともに、これらの化合物を添加しても粘度の上昇を抑制できるため、セルロースナノ繊維と同様の程度まで着色を抑制できるため有利である。
【0075】
なお、分散性を高めるためには、フルオレン化合物を含んでいればよく、必ずしもセルロースナノ繊維にフルオレン化合物を修飾させる形態でなくてもよいが、フルオレン化合物で修飾又は結合した形態であってもよい。
【0076】
さらに、セルロースのミクロフィブリル化過程で、繊維間に作用する水素結合を緩和できるためか、セルロースナノ繊維の平均繊維径を小さくすることもできる。また、セルロースナノ繊維は、フルオレン化合物の結合割合が少量であっても、前記分散性(又は親和性)向上効果や繊維径低減効果を有効に発現できる。
【0077】
9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有する化合物の割合は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、例えば、0.1〜30重量部(例えば、0.5〜25重量部)、好ましくは1〜25重量部、さらに好ましくは5〜20重量部(例えば、10〜20重量部)程度であってもよく、セルロースナノ繊維100重量部に対して0.1〜50重量部、好ましくは1〜40重量部(例えば3〜30重量部)、さらに好ましくは5〜25重量部(例えば、10〜20重量部)程度であってもよい。フルオレン化合物の割合が多すぎると、複合樹脂組成物及び複合体の機械的特性が低下する虞があり、逆に少なすぎると、フルオレン化合物によるセルロースナノ繊維の分散性を向上させる効果が小さくなる虞がある。
【0078】
[溶媒]
本発明の樹脂組成物は、セルロースの非晶領域(非晶部)を膨潤可能な溶媒としてアミド類(アミド系溶媒)を含む。セルロースの非晶領域(非晶部)を膨潤可能な溶媒とは、セルロース(又はセルロース繊維)の表面の水酸基と水素結合可能な低分子化合物である。通常、セルロースナノ繊維と樹脂との複合体(複合材料又はコンパウンド)を形成(調製)する場合に、前記低分子化合物として水、アルコール類(特に水)を使用することが多い。しかし、セルロースナノ繊維とポリアミド樹脂との複合体(複合材料又はコンパウンド)を形成(調製)する場合にこれらの低分子化合物(水、アルコール類)を使用すると、混練過程でポリアミド樹脂が加水(アルコリシス)分解され、分子量が低下することで、力学的特性が低下する虞がある。これに対し、本発明では、セルロースの非晶領域(非晶部)を膨潤可能な溶媒としてアミド類(アミド系溶媒)を含んでおり、ポリアミド樹脂の分解反応が起きないため、ポリアミド樹脂の物性を維持できる。また、アミド類(アミド系溶媒)は、セルロースの解繊剤として作用するため、パルプのような繊維径の大きなセルロース原料を用いてもセルロースナノ繊維をポリアミド樹脂に均一に分散できるとともに、ポリアミド樹脂の可塑剤としても作用するため、樹脂組成物で形成(調製)された複合樹脂組成物(マスターバッチ又は樹脂補強剤)、この樹脂組成物の複合体又はその成形品の着色(黄変)を抑制できるという利点も備える。
【0079】
アミド類としては、例えば、脂肪族アミド、芳香族又は複素環式アミド(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンなどのピロリドン類など、N−メチルカプロラクタムなどのカプロラクタム類など)などが例示できる。これらのアミド類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのアミド類の中でも、通常、脂肪族アミドを用いることが多い。
【0080】
脂肪族アミドとしては、例えば、N−モノ又はジ置換されてもよいモノアシルアミン類(例えば、N−モノ又はジ置換されてもよいC1−8アシルアミン類(例えば、ホルムアミド類(例えば、ホルムアミド、N−モノ又はジC1−4アルキルホルムアミド(例えば、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなど)、アセトアミド類(例えば、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのN−モノ又はジC1−4アセトアミドなど)などのN−モノ又はジ置換されてもよいC1−4アシルアミン類など)などが例示できる。これらの脂肪族アミドは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0081】
これらの脂肪族アミドの中でも、ポリアミド樹脂の溶解性に優れ、解繊助剤及び可塑剤として効率よく作用する観点から、好ましくはN−モノ又はジ置換されてもよいC1−4アシルアミン、さらに好ましくはN−モノ又はジ置換されてもよいホルムアミド又はアセトアミド、特にN,N−ジC1−4アルキルC1−3アシルアミン(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミドなど)であってもよい。
【0082】
溶媒は、アミド類単独であってもよく、アミド類と他の溶媒(アミド類を除く溶媒)との組み合わせであってもよい。他の溶媒としては、セルロースの非晶領域(非晶部)を膨潤可能であり、ポリアミド樹脂を溶解可能な溶媒であるスルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0083】
アミド類と他の溶媒との割合は、前者/後者(重量比)=100/0〜50/50の広い範囲から選択でき、例えば、100/0〜70/30、好ましくは100/0〜90/10(例えば、99.9/0.1〜90/10)、さらに好ましくは100/0〜95/5(例えば、99/1〜95/5)程度であってもよい。
【0084】
溶媒(特にアミド類単独)の割合は、ポリアミド樹脂及びセルロースナノ繊維の各成分100重量部に対して、1〜800重量部(例えば、10〜750重量部)の広い範囲から選択でき、例えば、50〜700重量部、好ましくは100〜600重量部、さらに好ましくは150〜500重量部(例えば、200〜400重量部)程度であってもよい。また、溶媒(特にアミド類単独)の割合は、ポリアミド樹脂とセルロースナノ繊維との総量100重量部に対して、1〜400重量部(例えば、10〜380重量部)の広い範囲から選択でき、例えば、30〜350重量部、好ましくは50〜300重量部、さらに好ましくは70〜250重量部(例えば、150〜200重量部)程度であってもよく、例えば、80〜250重量部、好ましくは100〜200重量部程度としてもよい。
【0085】
溶媒(特にアミド類単独)の割合が高すぎると、セルロース原料のナノ化の進行とともに、系の粘度が高くなってしまうため、得られるセルロースナノ繊維の断片化が進行し、アスペクト比が小さくなってしまう他、セルロースの解繊(又はナノ化)が十分でなくなる虜がある。また、溶媒(特にアミド類単独)の割合が低すぎると、セルロースの解繊(又はナノ化)が十分でなくなる虞がある。
【0086】
[樹脂組成物(又は混練組成物)の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、アミド類を含む溶媒と、ポリアミド樹脂と、セルロース(原料セルロース又は繊維径がマイクロメータサイズ以上のセルロース繊維、例えば、パルプ)とを含む組成物を混練することにより製造できる。この方法では、アミド類がセルロースの解繊剤として作用するため、混練に伴って大きな剪断が作用し、効率よくセルロース繊維を解繊しつつ、ナノオーダーレベルまでミクロフィブリル化でき、セルロースナノ繊維を樹脂に均一に分散できる。このため、予めセルロースに微細化処理を施したり、セルロースの表面の水酸基に修飾処理を施したりしなくてもセルロースナノ繊維をポリアミド樹脂中に分散できる。また、セルロースナノ繊維の分散液(スラリー液)の調製、セルロースナノ繊維と樹脂とのエマルジョンの調製などが不要であり、混練という一段階の操作で前記樹脂組成物を調製できるという利点も備える。
【0087】
セルロースは、セルロースナノ繊維の項で例示のセルロース(原料セルロース又はセルロース繊維)を使用できる。このセルロース(原料セルロース)の平均繊維径は、種類に応じて選択でき、例えば、1μm〜1mm、好ましくは5〜500μm(例えば、10〜300μm)、さらに好ましくは20〜100μm(特に、30〜50μm)程度であってもよい。また、セルロースの平均繊維長は、例えば、0.1〜100mm、好ましくは0.5〜50mm(例えば、0.5〜30mm)、さらに好ましくは1〜10mm(特に、1〜5mm)程度であってもよい。
【0088】
ポリアミド樹脂と溶媒(特にアミド類単独)との割合は、樹脂組成物の項で例示した割合であればよく、セルロース(原料セルロース又はセルロース繊維)と溶媒(特にアミド類単独)との割合もまた、樹脂組成物の項で例示したセルロースナノ繊維の割合に対応すればよい。
【0089】
混練は、例えば、ポリアミド樹脂とアミド類を含む溶媒とセルロース(原料セルロース又はセルロース繊維)とを混練できれば、特に限定されないが、通常、ポリアミド樹脂とアミド類を含む溶媒との樹脂溶液とセルロースとを混練することが多い。混練は、慣用の方法、例えば、ミキシングローラ、ニーダ、バンバリーミキサー、押出機(一軸又は二軸押出機など)などにより行うことができ、高い剪断力が作用可能なニーダ、二軸押出機などを好適に使用してもよい。
【0090】
混練工程は、空気中又は不活性ガス(窒素、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下、開放系で行ってもよく、通常、密閉した混練系で行う場合が多い。
【0091】
好ましい態様としては、加熱下、例えば、アミド類の気化(又は蒸発)を抑制するために、アミド類の沸点よりも低い温度(例えば、40〜150℃、好ましくは60〜130℃、さらに好ましくは70〜120℃程度)で一定時間混練する方法などが挙げられる。この方法では、繊維径が小さなセルロースナノ繊維を樹脂に短時間で均一分散できる。混練時間は、特に限定されないが、本発明の方法では、短時間で樹脂組成物を得られることが多いため、混練時間は、例えば1分〜5時間、好ましくは3分〜3時間、さらに好ましくは5分〜1時間(特に8〜30分)程度であってもよい。
【0092】
本発明の樹脂組成物は、アミド類が可塑剤として作用するため、複合樹脂組成物を調製するための調製温度(混練温度)を高くする必要がなく、熱履歴に伴う着色を抑制できる。
【0093】
なお、混練工程において、各成分は、複数回に分けて混練系に添加してもよい。例えば、樹脂溶液とセルロース原料とを少なくとも含む組成物を混練し、さらにポリアミド樹脂及び/又は改質剤などを加えてもよい。
【0094】
混練後、慣用の乾燥方法(例えば、熱風乾燥、減圧乾燥など)により、樹脂組成物を得てもよい。
【0095】
[複合樹脂組成物及びその製造方法]
本発明の複合樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と、セルロースナノ繊維とを含む。本発明の複合樹脂組成物は、前記樹脂組成物からアミド類を有する溶媒を除去すること(溶媒除去工程)により得られ、前記セルロースナノ繊維の形態(例えば、寸法サイズ、フィブリル構造など)を維持してもよい。本発明において、複合樹脂組成物もマスターバッチ又は樹脂補強剤であってもよい。アミド類を含む溶媒は、例えば、混練過程でベント部より減圧ベントすることにより除去できる。
【0096】
また、所定濃度のセルロースナノ繊維を含む複合樹脂組成物を調製するために、溶媒除去工程の前後で、樹脂組成物をポリアミド樹脂で希釈して濃度調整してもよい。例えば、前記樹脂組成物から溶媒を除去すると混練できない場合がある。このような場合、ポリアミド樹脂を添加してセルロースナノ繊維の濃度を調整し、混練可能としてもよい。また、溶媒は、ポリアミド樹脂を添加して、混練しつつ除去してもよい。一方、樹脂組成物から溶媒を除去しても混練可能である場合、溶媒は、樹脂組成物の混練過程で減圧して除去してもよく、必要によりポリアミド樹脂を添加して混練しつつ、溶媒を減圧して除去してもよい。このように、本発明の複合樹脂組成物は、通常、溶媒を除去した系で混練可能であってもよい。混練は、前記前駆体組成物の製造方法における混練工程で例示した方法であってもよく、混練装置、混練温度、混練時間なども前記前駆体組成物の製造方法における混練工程で例示した混練温度、混練時間であってもよい。
【0097】
ポリアミド樹脂で希釈して濃度を調整した複合樹脂組成物のセルロースナノ繊維の割合(含有量)は、ポリアミド樹脂及びセルロースナノ繊維の総量に対して、例えば、1〜90重量%、好ましくは5〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%程度であってもよく、例えば、25〜70重量%(例えば、25〜65重量%)、好ましくは30〜60重量%(例えば、30〜55重量%)、さらに好ましくは40〜50重量%程度としてもよい。
【0098】
[複合体及びその製造方法]
本発明の複合体(複合材料)は、前記複合樹脂組成物(マスターバッチ)と樹脂(第2の樹脂)とを含んでおり、混練(又は混合)により得ることができる。複合体は、例えば、複合樹脂組成物と第2の樹脂とを混練(又は混合)することで調製してもよい。また、複合体は、樹脂組成物と第2の樹脂とを混練(又は混合)し、溶媒を除去してもよい。
【0099】
樹脂(第2の樹脂)は、親和性の点から、ポリアミド樹脂であるのが好ましい。このポリアミド樹脂は、樹脂組成物を構成するポリアミド樹脂と異なるポリアミド樹脂であってもよいが、親和性の点から、同一のポリアミド樹脂が好ましい。
【0100】
複合体において、セルロースナノ繊維の割合(含有量)は、樹脂補強剤(マスターバッチ)を構成するポリアミド樹脂と第2の樹脂とセルロースナノ繊維との総量に対して、例えば、1〜30重量%、好ましくは2〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%程度であってもよい。
【0101】
混練温度としては、例えば、樹脂(ポリアミド樹脂及び第2の樹脂)の融点(又は軟化点)以上の温度(又は融点以上セルロースの分解温度以下の温度)であればよく、例えば、150〜300℃、好ましくは170〜250℃、さらに好ましくは180〜230℃程度であってもよい。混練時間は、例えば、30秒〜1時間、好ましくは1分〜30分、さらに好ましくは2分〜10分程度であってもよい。
【0102】
複合体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などにより成形してもよい。複合体の成形品は、二次元的構造(フィルム、シート、板など)に限らず、三次元的構造(例えば、管、棒、チューブ、中空品など)などであってもよい。また、成形品は、ハウジング、ケーシングなどであってもよい。
【0103】
なお、本発明の樹脂組成物、複合樹脂組成物、複合体は、必要により、種々の添加剤、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、帯電防止剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、耐衝撃改良剤、流動性改良剤、補強材(充填剤など)、着色剤、滑剤、離型剤、色相改良剤、分散剤、抗菌剤、防腐剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0105】
(測定機器)
走査型電子顕微鏡(FE−SEM):日本電子(株)製「JIM−6700F」
【0106】
(実施例1)
3mm角程度のチップ状に裁断したGP Cellulose社製フラッフパルプ(Grade4800)100重量部に対し、ポリアミド12(ダイセル・エボニック社製ダイアミドL1940、以下PAと称する)100重量部、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液200重量部、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン(以下、BPFG)15重量部とをニーダ(「KRCニーダS1」、(株)栗本鐵工所製)で、混練温度130℃、吐出量30g/分、滞留時間4分、回転数300rpmの条件で、混練することにより、樹脂組成物1を調製した。
【0107】
さらに、この樹脂組成物1を二軸押出機(テクノベル社製)で、シリンダー温度100〜130℃、回転数600rpmの条件で混練することで、DMFを32重量%含む、パルプ分率(セルロースナノ繊維の含有量)31.6重量%のPA/CNF(ポリアミド/セルロースナノ繊維)マスターバッチ1(ペレット)を得た。
【0108】
得られたマスターバッチ1中のCNFの繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)観察結果を図1に示す。図1の結果から明らかなように、樹脂組成物1中のセルロースナノ繊維は、ナノサイズの繊維が略均一に分散しており、平均繊維径が367nmであった。なお、平均繊維径は、SEM画像からランダムに繊維を選定し、算術平均した値を示す。以下の実施例2〜3、比較例1も同様である。
【0109】
得られたPA/CNFマスターバッチ1及びPAを用いて、二軸押出機(テクノベル社製)にて、シリンダー温度140〜180℃、回転数180rpmの条件で混練しながら真空ベント処理により溶媒を除去することにより、パルプ分率(セルロースナノ繊維の含有量)が10重量%である複合体を調製した。
【0110】
(実施例2)
ニーダによる混練過程で、BPFGに代えて、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEF)を添加する以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物2を調製した。
【0111】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物2を用いる以外は実施例1と同様にして、DMFを34.0重量%含み、パルプ分率(セルロースナノ繊維の含有量)30.7重量%のPA/CNF(ポリアミド/セルロースナノ繊維)マスターバッチ2(ペレット)を得た。
【0112】
得られたマスターバッチ2中のCNFの繊維の走査型電子顕微鏡観察結果を図2に示す。図2の結果から明らかなように、樹脂組成物2中のセルロースナノ繊維は、ナノサイズの繊維が略均一に分散しており、平均繊維径が566nmであった。
【0113】
PA/CNFマスターバッチ1に代えて、PA/CNFマスターバッチ2を用いる以外は、実施例1と同様にして、パルプ分率(セルロースナノ繊維の含有量)が10重量%である複合体を調製した。
【0114】
(実施例3)
ニーダによる混練過程で、BPFGを添加しないこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物3を調製した。
【0115】
樹脂組成物1に代えて樹脂組成物3を用いる以外は実施例1と同様にして、DMFを36.3重量%含み、パルプ分率(セルロースナノ繊維の含有量)31.9重量%のPA/CNFマスターバッチ3(ペレット)を得た。
【0116】
得られたマスターバッチ3中のCNFの繊維の走査型電子顕微鏡観察結果を図3に示す。図3の結果から明らかなように、樹脂組成物3中のセルロースナノ繊維は、ナノサイズの繊維が略均一に分散しており、平均繊維径が664nmであった。
【0117】
PA/CNFマスターバッチ1に代えて、PA/CNFマスターバッチ3を用いる以外は、実施例1と同様にして、パルプ分率(セルロースナノ繊維の含有量)が10重量%である複合体を調製した。
【0118】
(比較例1)
実施例1のフラッフパルプ(Grade4800)100重量部に対し、PA、233重量部を二軸押出機(テクノベル社製)で、シリンダー温度170〜190℃、回転数180rpmの条件で溶融混練し、パルプ分率30重量%のPA/CF(ポリアミド/セルロース繊維)マスターバッチ4(ペレット)を得た。得られたPA/CFマスターバッチ4及びPAを用いて、二軸押出機(テクノベル社製)にて、シリンダー温度170〜180℃、回転数180rpmの条件で混練することにより、パルプ分率(セルロース繊維の含有量)が10重量%である複合体を調製した。
【0119】
実施例1、2、3、比較例1で得られた複合体を、それぞれ、ハイブリッド式射出成型機(日精樹脂工業(株)製)により多目的試験片(JISK7139、タイプA1)を成形し、実施例2、3、及び比較例1については下記基準により外観を評価した。
【0120】
○:乳白色〜淡黄色
×:黄色〜茶褐色。
【0121】
図4にそれぞれの射出成型品の外観の写真を示すとともに、評価結果を表1に示す。
【0122】
また、多目的試験片から、荷重たわみ温度(HDT)測定用試験片(80mm×10mm×4mm)を調製した。そして、JIS K 7161に従って引張試験片の引張試験特性(最大点強度、伸度、弾性率)を、JIS K 7171に従って曲げ試験片の曲げ特性(曲げ強度、曲げ弾性率)を、JIS K 7191に従って、HDT測定を行った。結果を表1に示す。
【0123】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の樹脂組成物、複合樹脂組成物(マスターバッチ又は樹脂補強剤)及び複合体は、幅広い用途、樹脂(ポリアミド樹脂)の補強材、添加剤、フィルムやシートの材料などとして利用できる。また、複合体(複合材料)は、靱性、強度、弾性率などのバランスの優れた特性を備えるため、例えば、種々の樹脂成形品[例えば、電気・電子部品の梱包材料、建築資材(壁材など)、土木資材、農業資材、包装資材(容器、緩衝材など)、生活資材(日用品など)など]、液晶ディスプレイ基板や太陽電池基板などの種々の材料;光学シート、などの他;高い強度を有するため、自動車部品(ボディ、フード、ドア、ドライブシャフトなど)、スポーツ用品(ゴルフシャフト、テニスラケットフレームなど)、レジャー用品(釣り竿など)などにも利用できる。また、各種分野の成形部材(例えば、ケーシング、ハウジングなどの成形体)に利用できる。
図1
図2
図3
図4