【実施例】
【0047】
[Vリブドベルトの作製]
以下に、実施例に基づいて本発明に係るVリブドベルト1をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、実施例に係るVリブドベルト1に用いた原料、各物性における測定方法及び評価方法を以下に示す。なお、特にことわりのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0048】
[原料]
EPDM:三井化学(株)製「EPT2060M」
ナイロン短繊維:66ナイロン、平均繊維径27μm、平均繊維長3mm
綿短繊維:デニム、平均繊維径13μm、平均繊維長6mm
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」、平均粒径28nm
含水シリカ:東ソー・シリカ(株)製「Nipsil VN3」
パラフィン系オイル(軟化剤):出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW−90」
有機過酸化物:日油(株)製「パークミルD−40」
加硫促進剤A:テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)
加硫促進剤B:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド(CBS)
共架橋剤:p,p’−ジベンジルキノンジオキシム、大内新興化学工業(株)製「バルノックDGM」
心線:1,000デニールのPET繊維を2×3の撚り構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で諸撚りしたトータルデニール6,000のコードを接着処理した撚糸コード、心線径1.0mm。
【0049】
[Vリブドベルトの製造]
表1に示す圧縮層形成用のゴム組成物及び接着層形成用のゴム組成物を、それぞれバンバリーミキサーなどの公知の方法を用いてゴム練りを行い、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定の厚みを有する圧縮層形成用シート及び接着層形成用シートを作製した。
【0050】
また、伸張層11に用いる外被布として、綿繊維とポリエチレンテレフタレート繊維を重量比で50:50の混撚糸を使用したワイドアングルの平織帆布(厚み0.63mm)を用いた。この帆布をRFL液に浸漬した後、150℃で2分間熱処理して接着処理帆布とした。さらに、この接着処理帆布に、接着層形成用シート(厚み0.5mm)を積層した伸張層用積層体を作製した。
【0051】
【表1】
【0052】
次に、以下のような公知の方法を用いてVリブドベルト1を作成した。先ず、予め所定の溝形状に対応した突条を、内周面に設けた円筒母型(ゴム型)を成形した。次に、表面が平滑な円筒状成形モールドに伸張層用積層体(外被布がモールド側に、接着層形成用シートが外周側に位置するように)を巻きつけ、この伸張層用積層体の外周に芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、さらに接着層形成用シート、圧縮層形成用シートを順次巻き付けて未加硫成形体を形成した。そして、上記円筒母型(ゴム型)を未加硫成形体の外周側に被せて、さらにその外周側に加硫用ジャケットを成形体の上から被せた状態で、前記成形モールドを加硫缶に設置し、温度180℃、圧力0.9MPaの条件で30分間その後、成形モールドから脱型して、外周面に所定の溝形状(溝18)が転写された筒状の加硫スリーブを得た。そして、この加硫スリーブの外周面(圧縮層12)を研削ホイールにより所定の間隔で研削して複数のリブ13を形成した後、カッターを用いて、Vリブドベルト長手方向Mに所定の幅でカットして、個々のVリブドベルト1に仕上げた。
【0053】
(Vリブドベルトの寸法)
得られたVリブドベルト1は、
図6及び表2に示すように、心線中央[2]からVリブドベルト背面[1]までの距離aを1.00mm、心線底部[3]からVリブドベルト背面[1]までの距離bを1.50mm、リブ底部[4]からVリブドベルト背面[1]までの距離cを2.30mm、リブ先端部[5]からVリブドベルト背面[1]までの距離dを4.30mm、リブピッチeを3.56mm、心線底部[3]からリブ底部[4]までの距離hを0.80mm、リブ先端部[5]からリブ底部[4]までの距離iを2.00mm、リブ先端部[5]から心線底部[3]までの距離jを2.80mmに調整した。
【0054】
また、後述の各試験で用いたVリブドベルト1の圧縮層12(内周面)には、傾斜角度θを20°で、ベルト長さ100mmあたり15本となるようにランダムな間隔でU字形状の溝18を設けた。
【0055】
【表2】
【0056】
[曲げ応力のシミュレーション解析]
Vリブドベルト1が屈曲されることにより発生する応力をFEM解析した。ここでは屈曲性を確認するための解析なので、圧縮層12に設ける溝18(スリット)は斜めにせず(傾斜角度θ=0°)、間隔P=7.0mmで設けたモデルを含む3タイプ(A、B、C)のVリブドベルト1について解析した。
図8に3タイプのVリブドベルト1を示す。
(A)溝18がない場合
(B)U字形状の溝18(底R=0.4mm、溝の深さ=2.0mm、側面角度(K)=0°)を設けた場合
(C)溝幅が広がる形状の溝18(底R=1.0mm、溝の深さ=2.0mm、側面角度(K)=15°)を設けた場合
【0057】
上記3タイプ(A、B、C)のVリブドベルト1を屈曲させることにより発生する応力をFEM解析する方法としては、
図7に示すように、外径55mm、V溝角度40°のプーリに、3タイプ(A、B、C)のVリブドベルト1の1リブ分の一部を直線で作成したものを、プーリに発張力T0で、それぞれ90°巻き掛け(一端を固定、他端にDW荷重)、プーリを回転させ、有効張力を発生させ、これにより発生する応力をFEM解析している。なお、隣のリブとの境界面を面内拘束させている。
【0058】
上記手法により、3タイプ(A、B、C)のVリブドベルト1を屈曲させたときの、Vリブドベルト長手方向Mの変形量からVリブドベルト1に生じる応力を解析した。その結果、
図8に示すように、溝18がない場合に比べ、溝18を入れると圧縮層12(特にリブ先端付近)に生じる応力が低減される。また、
図8に示すように、リブ底付近では、溝18を入れても変形量が大きく応力が残るが、(C)タイプの溝18に比べ、(B)タイプのU字形状の方が応力の程度は低減されている(※幅広の溝18でもU字形状なら同じ効果がある)。
【0059】
従って、U字形状の溝18を設けることでベルト屈曲による応力が低減される。その結果、Vリブドベルト1の内部発熱が抑制され、発熱によるゴムの劣化の抑制効果で、Vリブドベルト1の耐久寿命の向上に繋がる。
【0060】
[心線下側付近にかかる歪みエネルギーのシミュレーション解析]
上記のように、U字形状の溝18(タイプB)を設けることで、ベルト屈曲により圧縮層12(特にリブ先端付近)に生じる応力が低減されるが、曲げ変形による応力が集中する部位が溝18の底部付近(底R付近)に移動する。特に、溝18の底Rに近い接着層15の芯体14下側付近に変形応力(歪み応力)が集中する。芯体14付近が変形応力(歪み応力)を受けると、芯体14と接着層15との界面で剥離が生じやすくなり、Vリブドベルト1の端部に露出する芯体14においては、その剥離によってVリブドベルト1から抜け出すポップアウト現象が生じるおそれがある。
【0061】
そのため、溝18の幅と深さについては、芯体14のポップアウトへの耐性を考慮する必要がある。そこで、溝18の幅と深さとを変量したVリブドベルト1について、FEM解析によりベルト屈曲時に接着層15の芯体14(特に、両端部の芯体14)下側付近に発生する歪み応力を算出した(
図9参照)。
【0062】
表3では、幅1.4mm、深さ1.5mmのU字形状の溝18を設けた場合の歪み応力を100とした相対指数で表示した。
【0063】
【表3】
【0064】
その結果、芯体14下側に生じる歪み応力は、溝18の幅が広いほど低減され、溝18の深さが小さいほど低減される。この低減効果の度合は、溝18の幅よりも溝18の深さの方が大きい。
【0065】
溝18の幅と溝18の深さとの組み合わせでは、表3では、溝の幅1.1mm〜1.6mm且つ溝の深さ2mmの範囲で歪み応力が大きいことから、溝18の深さは1.8mm以下が好ましいと判断した。また、溝の深さ2mmの場合は、溝の幅は1.7mmが好ましいと判断した。
【0066】
[フリクションロス(トルクロス)の測定]
図10に示すように、直径55mmの駆動(Dr)プーリと、直径55mmの従動(Dn)プーリで構成される2軸走行試験機にVリブドベルト1(リブ13の数6個、長さ1100mm)を巻き掛け、100〜900N/ベルト1本の張力範囲でVリブドベルト1に所定の初張力を付与し、従動プーリ無負荷で駆動プーリを2000rpmで回転させたときの駆動トルクと従動トルクとの差をトルクロスとして算出した。表4に、675N/ベルト1本の初張力を付与したときのトルクロスを示した。
【0067】
なお、この測定で求められるトルクロスは、Vリブドベルト1の屈曲損失によるトルクロス以外に、試験機の軸受けに起因するトルクロスも含まれている。そのため、Vリブドベルト1としてのトルクロスが実質0と考えられる金属ベルト(材質:マルエージング鋼)を予め走行させておき、このときの駆動トルクと従動トルクとの差が軸受けに起因するトルクロス(軸受け損失)と考え、Vリブドベルト1を走行させて算出したトルクロス(Vリブドベルト1と軸受けの二つに起因するトルクロス)から軸受けに起因するトルクロスを差し引いた値をVリブドベルト1単体に起因するトルクロスとして求めた。ここで、差し引くトルクロス(軸受け損失)は所定の初張力で金属ベルトを走行させたときのトルクロス(例えば、初張力500N/ベルト1本でVリブドベルト1を走行させた場合、この初張力で金属ベルトを走行させたときのトルクロス)である。このVリブドベルト1のトルクロスが小さいほど省燃費性に優れていることを意味する。自動車エンジンでの省燃費性の観点から、トルクロスの目安として、0.29N・m以下に低減していることが好ましい。
【0068】
【表4】
【0069】
溝18を入れないVリブドベルト1のトルクロスは0.375N・mであった。溝18を入れた表4のVリブドベルト1については、0.30N・m以上を示した枠ではトルクロスが大きく、トルクロス低減に効果が充分ではなかった。トルクロスが0.28〜0.29N・mの水準に低減しているのは、溝の幅1.7mm且つ溝の深さ1.2mm、溝の幅1.2mm以上且つ溝の深さ1.3〜1.8mmの範囲、溝の幅1.6mm以上且つ溝の深さ2.0mm、のVリブドベルト1であった。この範囲を、トルクロス低減効果のある最適な溝18(スリット)の深さと幅の範囲と判断した。
【0070】
なお、トルクロスは自動車の燃費と関係があり、例えば、軽自動車の場合、トルクロス0.05N・mの低下は、燃費で約0.1%の向上に貢献する。トルクロス0.01N・mの低下(燃費で0.02%の低下に相当)に繋がるのは、自動車分野での省燃費化に対して貢献に値する水準である。
【0071】
[Vリブドベルト1のリブ13表面の温度測定]
上記のフリクションロス測定の試験において、Vリブドベルト1のリブ13表面の温度を測定した。測定は、表面温度計(FLIR SYSTEMS社製SC620)を用い、(A)溝のないVリブドベルト1と、(B)トルクロス低減効果のあった溝18の深さ1.5mm、溝18の幅1.4mm [傾斜角度θ=20°、ランダム間隔(15本/ベルト100mm)、U字形状]のVリブドベルト1とを比較した。
【0072】
測定結果を
図11に示す。上記の溝18を設けたVリブドベルト1(B)の表面温度(46.4℃)は、溝18のないVリブドベルト1(A)の表面温度(67.6℃)と比較して約21℃の温度低下をすることが確認できた。
【0073】
[ベルト耐久走行試験]
上記試験で用いた寸法形状のVリブドベルト1を、高温低張力逆曲げ試験機にて耐久走行を行い、ベルト温度推移と、耐久寿命を検証した(寿命の目標は200hr以上)。
【0074】
[耐久性試験(高温低張力逆曲げ試験)の方法]
高温低張力逆曲げ試験は、
図12に示すように、駆動プーリ(Dr,直径120mm)、アイドラープーリ(Id,直径85mm)、従動プーリ(Dn,直径120mm)、そしてテンションプーリ(Ten,直径45mm)を順に配置して構成した試験機の各プーリにVリブドベルト1(リブ13の数6個、長さ1100mm)を掛架し、Vリブドベルト1のテンションプーリへの巻き付け角度を90度に、アイドラープーリへの巻き付け角度を120度にして雰囲気温度120℃、駆動プーリの回転数4900rpm、ベルト張力40kgf/3リブの試験条件で、駆動プーリに荷重を付与してVリブドベルト1を走行させ、また従動プーリには負荷12PSを与えて走行させた。
【0075】
[耐久性試験(高温低張力逆曲げ試験)の結果]
上記の試験において、(A)溝のないVリブドベルト1と、(B)トルクロス低減効果のあった溝18の深さ1.5mm、幅1.4mm [傾斜角度θ=20°,ランダム間隔(15本/ベルト100mm)、U字形状]のVリブドベルト1とを、耐久走行させて比較した。耐久走行において表面温度計(FLIR SYSTEMS社製SC620)で測定したVリブドベルト1のリブ13の表面温度の推移を
図13に示す。走行の初期では、高い初張力でプーリに巻き掛かっているためプーリへの接触が強く、摩擦熱の影響で表面温度が高くなったが、走行の経過に伴い張力が安定してくると、溝18を設けたVリブドベルト1の表面温度は、溝18のないVリブドベルト1と比較して低く推移した。その結果、溝18のないVリブドベルト1は447時間で寿命となったが、溝18を設けたVリブドベルト1は750時間まで走行して寿命となった。溝18を設けることで、走行中のVリブドベルト1のゴムの熱による劣化が抑制され、耐久寿命が向上することが分かる。
【0076】
[伝達性能試験]
(A)溝18のないVリブドベルト1と、(B)トルクロス低減効果のあった溝18の深さ1.5mm、幅1.4mm [傾斜角度θ=20°,ランダム間隔(15本/ベルト100mm)、U字形状]のVリブドベルト1とについて、下記の方法で伝達性能を比較した。
【0077】
[伝達性能試験の方法]
図14に示すように、直径120mmの駆動(Dr.)プーリと、直径120mmの従動(Dn.)プーリで構成される2軸走行試験機にVリブドベルト1(リブ13の数6個、長さ1100mm)を巻き掛け、初張力(200、300N/ベルト1本の2水準)をVリブドベルト1に付与した後、駆動プーリ回転数2000rpm、室温雰囲気の条件で従動プーリの負荷(従動トルク)を上げていき、従動プーリに対するVリブドベルト1のスリップ率が2%になったときの従動トルクを測定した。従動トルクの数値が高いほどVリブドベルト1の伝達性能が優れていることを意味する。測定は、Vリブドベルト1ベルトに注水(300ml/分で1分間)した場合(WET)と、注水しない場合(DRY)について、それぞれ行った(
図14参照)。
【0078】
[伝達性能試験の結果]
伝達性能試験の結果を
図15に示す。これによれば、DRY、WETのいずれの環境下においても、溝18を設けたVリブドベルト1と、溝18がないVリブドベルト1とは大きな差がなく、同じ水準の伝達性能を維持できることが分かった。
【0079】
[耐発音性試験]
図10に示す、直径55mmの駆動(Dr)プーリと、直径55mmの従動(Dn)プーリで構成される2軸走行試験機にVリブドベルト1(リブ13の数6個、長さ1100mm)を巻き掛け、600N/ベルト1本の初張力を付与し、従動プーリ無負荷で駆動プーリを5000rpmで回転させて走行させたときに生じる発音を測定した。
【0080】
溝18を設けたVリブドベルト1については、U字形状で深さ1.5mm、幅1.4mmの溝18を、15本/ベルト100mmの間隔で配置した。
【0081】
試験ベルト:(A)溝なし
(B)直角溝(傾斜角度θ=0°,等間隔)
(C)斜め溝(傾斜角度θ=20°,等間隔)
(D)斜めランダム溝(傾斜角度θ=20°,ランダムな間隔)
【0082】
耐発音性試験の結果を
図16に示す。なお、(D)斜めランダム溝では、傾斜角度θ=10,30°でも同様の結果を得ている。
【0083】
(A)溝なしのベルトに対して、Vリブドベルト1の内周側の圧縮層12に溝18(スリット)を設けたVリブドベルト1では、溝18の配置周期に応じた大きな信号(ピーク)が見られ、大きな騒音が生じている。これは、リブ13が不連続的にプーリに出入りするため、出入りによる特有の動作音(不連続リブの調和音のピーク)が生じたものである。
【0084】
騒音のレベルは、(B)直角溝(幅方向に対して平行(θ=0°)に配置)の場合が特に大きく、幅方向に対して傾斜(θ=10〜30°)させて配置した(C)斜め溝では、周期的な大きな信号(ピーク)は見られるものの全体的な騒音のレベルが低くなっている。これは、(B)直角溝ではVリブドベルト幅方向Nに存在する複数の不連続リブのプーリへの出入りが同時に起こるのに対して、幅方向に対して傾斜させると不連続リブの出入りが一方の端部から他方の端部へと順次進むので、全体としての騒音のレベルは低減されるためである。
【0085】
更に、(D)溝の間隔をベルト周内でランダム(不規則)にしたVリブドベルト1では、周期的な大きな信号(ピーク)も低減されており、溝18を斜めで、ランダムに配置するのが効果的であると云える。
【0086】
次に、(D)斜めランダム溝(傾斜角度θ=20°,ランダムな間隔)について、U字形状の溝の深さと幅とを変量した場合の音圧レベルの違いを測定した。
【0087】
【表5】
【0088】
表5のVリブドベルト1では、音圧レベルが70.00dB以上を示す枠部は音圧レベルが大きく、騒音低減効果が不充分であった。従って、音圧レベルが充分に低減しているのは、溝の幅1.2mm以下且つ溝の深さ1.2mm、溝の幅1.6mm以下且つ溝の深さ1.3〜1.8mmの範囲、溝の幅1.2mm以下且つ溝の深さ2.0mm、のVリブドベルト1であった。この範囲を、騒音低減効果のある最適な溝(スリット)の深さと幅の範囲と判断した。
【0089】
[総合的な評価]
以上の結果から、トルクロス低減(省燃費性)、騒音低減(耐発音性)、耐久寿命、耐ポップアウト性、伝達性能の要求に対して、バランス良く適応できる溝18(スリット)の深さと幅の設計範囲としては、例えば、リブ高さi=2.0mmのVリブドベルト1の場合、溝18の深さが1.3〜1.8mm(リブ高さiの65〜90%)、溝18の幅が1.2〜1.6mm、溝18の深さ/溝幅の値が0.81〜1.5の範囲と云える。
【0090】
また、例えば、リブ高さi=2.9mmのVリブドベルト1の場合、溝18の深さが1.88〜2.61mm(リブ高さiの65〜90%)、溝18の幅が1.2〜1.6mm、溝18の深さ/溝幅の値が1.175〜2.175の範囲と云える。
【0091】
上記構成のように、Vリブドベルト1の内周側の圧縮層12に溝18(スリット)を入れることで、Vリブドベルト1の屈曲性が向上し、圧縮層12を曲げるのに要する応力(圧縮応力)を低減させることができる。その結果、屈曲損失が低減し、トルクロスの低減に寄与する。
ただし、圧縮層12に溝18を設けることで、圧縮層12に設けられたリブ13が不連続的にプーリ(駆動プーリ2や従動プーリ3)に出入りするため、出入りによる特有の動作音(不連続リブの調和音のピーク)が溝18の間隔周期に応じて発生し大きな騒音となる場合がある。特に溝18をVリブドベルト1のVリブドベルト幅方向Nに対して平行(θ=0°)に配置すると、Vリブドベルト1のVリブドベルト幅方向Nに存在する複数の不連続リブ13のプーリへの出入りが同時に起こるため、全体的な騒音のレベルが高くなるが、Vリブドベルト幅方向Nに対して傾斜(θ=10〜30°)させて配置することで、不連続リブ13の出入りが一方の端部から他方の端部へと順次進むので(不連続リブ13のプーリへの出入りが分散する)、全体としての騒音レベルを低減させることができる。
溝18をVリブドベルト1のVリブドベルト幅方向Nに対して傾斜させて配置することで全体の騒音レベルは低減されるが、不連続リブ13の調和音のピーク騒音が依然として残る場合がある。そこで、溝18の間隔P(ピッチパターンP)をVリブドベルト1周内で不規則(ランダム)にすることで、調和音のピーク騒音も低減することができる。
また、溝18の形状をV字形状ではなく、U字形状にすることで、屈曲したときにリブ根元(リブ13底)部付近に発生する圧縮応力を低減することができる。その結果、Vリブドベルト1の内部発熱を低減することができる。
また、溝18の幅が狭すぎると、Vリブドベルト1の屈曲損失の低減が不充分となり、一方で、溝18の幅が広すぎると、騒音レベルが高くなってしまう。また、溝18の深さが小さすぎると、Vリブドベルト1の屈曲損失の低減が不充分となり、一方で、溝18の深さが大きすぎると、Vリブドベルト1の屈曲時に心線付近にかかる歪みエネルギーが大きくなり、芯体14のポップアウトに繋がる場合がある。そこで、溝18の深さをリブ高さiの65〜90%の範囲、溝18の幅を1.2〜1.6mmの範囲、溝18の深さ/溝18の幅の値を0.81〜2.2の範囲にすることで、伝達性能を維持しつつ、トルクロス低減、騒音低減、歪みエネルギーの低減(耐ポップアウト)、ベルトの内部発熱の低減(ゴム硬度の上昇が抑制される)による耐久性の向上を実現することができる。