(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807250
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20060101AFI20201221BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20201221BHJP
B01D 61/48 20060101ALI20201221BHJP
B01D 61/54 20060101ALI20201221BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
C02F1/469
C02F1/42 A
B01D61/48
B01D61/54 500
B01D61/58
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-39132(P2017-39132)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-143922(P2018-143922A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慶介
(72)【発明者】
【氏名】合庭 健太
(72)【発明者】
【氏名】日高 真生
【審査官】
関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−113281(JP,A)
【文献】
特開2012−239965(JP,A)
【文献】
特開2010−042324(JP,A)
【文献】
特開2002−011476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/469
B01D 61/48
B01D 61/54
B01D 61/58
C02F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電気式脱イオン水製造装置と、前記第1の電気式脱イオン水製造装置の下流側で前記第1の電気式脱イオン水製造装置に直列に接続された第2の電気式脱イオン水製造装置と、を有し、
前記第1の電気式脱イオン水製造装置は、第1の陽極室と、第1の陰極室と、前記第1の陽極室と前記第1の陰極室との間に位置する第1の脱塩室と、前記第1の脱塩室の両側に位置する一対の第1の濃縮室と、を有し、前記第1の脱塩室は第1の中間膜によって、アニオン交換体が単床で充填された第1の陽極側小脱塩室と、前記第1の陽極側小脱塩室と直列に接続された第1の陰極側小脱塩室とに区画され、
前記第2の電気式脱イオン水製造装置は、第2の陽極室と、第2の陰極室と、前記第2の陽極室と前記第2の陰極室との間に位置する第2の脱塩室と、前記第2の脱塩室の両側に位置する一対の第2の濃縮室と、を有し、前記第2の脱塩室は第2の中間膜によって、アニオン交換体が単床で充填された第2の陽極側小脱塩室と、前記第2の陽極側小脱塩室と直列に接続された第2の陰極側小脱塩室とに区画され、
前記第1の陰極側小脱塩室は一部にカチオン交換体が単床で充填され、残りにアニオン交換体が単床で充填され、前記第2の陰極側小脱塩室は一部にカチオン交換体が単床で充填され、残りにアニオン交換体が単床で充填され、
前記第1の脱塩室の出口水が前記第2の脱塩室と前記一対の第2の濃縮室とに供給され、前記一対の第2の濃縮室の出口水が前記第1の電気式脱イオン水製造装置の上流側に戻される、水処理装置。
【請求項2】
第1の電気式脱イオン水製造装置と、前記第1の電気式脱イオン水製造装置の下流側で前記第1の電気式脱イオン水製造装置に直列に接続された第2の電気式脱イオン水製造装置と、を有し、
前記第1の電気式脱イオン水製造装置は、第1の陽極室と、第1の陰極室と、前記第1の陽極室と前記第1の陰極室との間に位置する第1の脱塩室と、前記第1の脱塩室の両側に位置する一対の第1の濃縮室と、を有し、前記第1の脱塩室は第1の中間膜によって、アニオン交換体が単床で充填された第1の陽極側小脱塩室と、前記第1の陽極側小脱塩室と直列に接続された第1の陰極側小脱塩室とに区画され、
前記第2の電気式脱イオン水製造装置は、第2の陽極室と、第2の陰極室と、前記第2の陽極室と前記第2の陰極室との間に位置する第2の脱塩室と、前記第2の脱塩室の両側に位置する一対の第2の濃縮室と、を有し、前記第2の脱塩室は第2の中間膜によって、アニオン交換体が単床で充填された第2の陽極側小脱塩室と、前記第2の陽極側小脱塩室と直列に接続された第2の陰極側小脱塩室とに区画され、
前記第1の陰極側小脱塩室は一部にカチオン交換体が単床で充填され、残りにアニオン交換体が単床で充填され、前記第2の陰極側小脱塩室はカチオン交換体が単床で充填され、
前記第1の脱塩室の出口水が前記第2の脱塩室と前記一対の第2の濃縮室とに供給され、前記一対の第2の濃縮室の出口水が前記第1の電気式脱イオン水製造装置の上流側に戻される、水処理装置。
【請求項3】
前記一対の第2の濃縮室の出口水のほう素濃度が、前記一対の第2の濃縮室の出口水の戻り位置における被処理水のほう素濃度より低い、請求項1または2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記第1の脱塩室と前記第2の脱塩室はそれぞれ、被処理水の流れる方向に関し最下流側にアニオン交換体が単床で充填されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記第1の脱塩室の前記最下流側に単床で充填されたアニオン交換体を流れる被処理水の通水方向と、当該アニオン交換体と隣接する前記第1の濃縮室の濃縮水の通水向きが逆方向であり、前記第2の脱塩室の前記最下流側に単床で充填されたアニオン交換体を流れる被処理水の通水方向と、当該アニオン交換体と隣接する前記第2の濃縮室の濃縮水の通水向きが逆方向である、請求項4に記載の水処理装置
【請求項6】
前記第1の電気式脱イオン水製造装置の上流側に位置し、直列に接続された2つの逆浸透膜装置を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記2つの逆浸透膜装置の間に位置する脱炭酸用薬注設備、または前記2つの逆浸透膜装置の間、上流側もしくは下流側に位置する脱炭酸膜もしくは脱炭酸塔を有する、請求項6に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記第1の電気式脱イオン水製造装置に供給される被処理水の流量をRin、前記第2の電気式脱イオン水製造装置の前記第2の脱塩室の出口水の流量をRout、前記一対の第2の濃縮室から前記第1の電気式脱イオン水製造装置の上流側に戻される出口水の流量をRretとするとき、Rout/(Rin−Rret)で求められる水回収率が85%以上、95%以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項9】
前記第2の電気式脱イオン水製造装置の消費電力が前記第1の電気式脱イオン水製造装置の消費電力より小さい、請求項1から8のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項10】
前記一対の第1の濃縮室の出口水を処理し、前記第1の電気式脱イオン水製造装置の上流側に戻す脱塩装置を有する、請求項1から9のいずれか1項に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水処理装置に関し、特に電気式脱イオン水製造装置が直列に接続された水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超純水の要求水質は年々厳しくなり、電子産業界ではほう素濃度を50ng/L以下まで低減することが要求されている。一方、超純水製造用途で広く用いられている逆浸透膜では一部のほう素しか除去できず、pHなどの条件にも依存するものの、低い場合には除去率が50%以下になることもある。そのため、逆浸透膜装置を2段直列に接続した場合(以下、2段ROという)の処理水(透過水)のほう素濃度は10〜30μg/L程度になることが多い。従って、ほう素を上記濃度まで低減するためには2段ROで処理した後、イオン交換樹脂などによるほう素の吸着除去が必要となる。しかし、ほう素濃度50ng/L以下の高純度の処理水を連続的に製造する場合、イオン交換樹脂の交換頻度が高くなり、ランニングコストが高くなる傾向がある。
【0003】
これに対し、電気式脱イオン水製造装置(以下、EDIという)は連続通水処理が可能であり、かつ90%以上のほう素除去率を達成できるため、2段ROの後段に設置するほう素除去装置として非常に適している。
【0004】
特許文献1、2には、ほう素濃度を低減するため、2段のEDIを直列に接続した水処理装置が開示されている。特許文献1に開示される水処理装置では、1段目のEDIの脱塩室はアニオン交換体が単床で、またはアニオン交換体とカチオン交換体が混床で充填され、2段目のEDIの脱塩室はアニオン交換体とカチオン交換体が混床で充填される。1段目のEDIの脱塩室の出口水は2段目のEDIの脱塩室と濃縮室に供給され、濃縮室の出口水は系外に放出される。特許文献2に開示される水処理装置では、EDIの脱塩室にアニオン交換体もしくはカチオン交換体が単床で、またはアニオン交換体とカチオン交換体が混床で充填される。2段目のEDIの脱塩室の出口水が2段目のEDIの濃縮室に供給され、濃縮室の出口水が1段目のEDIの上流に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−191080号公報
【特許文献2】特開2012−139687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される水処理装置は、濃縮室の出口水が系外に放出されるため、処理水の回収率(水処理装置に供給される水量のうち処理水として取り出される水の割合)が低い。特許文献2に開示される水処理装置は、濃縮室の出口水が上流側のEDIに戻されるため、処理水の回収率は改善されている。しかし、個々のEDIにおける回収率は80%程度と低いため、水処理装置全体の処理水の回収率を改善することが困難である。
【0007】
本発明は、複数のEDIが直列で接続され、ほう素の除去効率と処理水の回収率が改善された水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水処理装置は、第1の電気式脱イオン水製造装置と、第1の電気式脱イオン水製造装置の下流側で第1の電気式脱イオン水製造装置に直列に接続された第2の電気式脱イオン水製造装置と、を有している。第1の電気式脱イオン水製造装置は、第1の陽極室と、第1の陰極室と、第1の陽極室と第1の陰極室との間に位置する第1の脱塩室と、第1の脱塩室の両側に位置する一対の第1の濃縮室と、を有し、第1の脱塩室は第1の中間膜によって、アニオン交換体が単床で充填された第1の陽極側小脱塩室と、第1の陽極側小脱塩室と直列に接続された第1の陰極側小脱塩室とに区画されている。第2の電気式脱イオン水製造装置は、第2の陽極室と、第2の陰極室と、第2の陽極室と第2の陰極室との間に位置する第2の脱塩室と、第2の脱塩室の両側に位置する一対の第2の濃縮室と、を有し
、第2の脱塩室は第2の中間膜によって、アニオン交換体が単床で充填された第2の陽極側小脱塩室と、第2の陽極側小脱塩室と直列に接続された第2の陰極側小脱塩室とに区画されている。第1の脱塩室の出口水が第2の脱塩室と一対の第2の濃縮室とに供給され、一対の第2の濃縮室の出口水が第1の電気式脱イオン水製造装置の上流側に戻される。
一態様では、第1の陰極側小脱塩室は一部にカチオン交換体が単床で充填され、残りにアニオン交換体が単床で充填され、第2の陰極側小脱塩室は一部にカチオン交換体が単床で充填され、残りにアニオン交換体が単床で充填されている。他の態様では、第1の陰極側小脱塩室は一部にカチオン交換体が単床で充填され、残りにアニオン交換体が単床で充填され、第2の陰極側小脱塩室はカチオン交換体が単床で充填されている。
【発明の効果】
【0009】
アニオン交換体はカチオン交換体と比べて電気抵抗が高いため、脱塩室にカチオン交換体が充填されている場合、電流がカチオン交換体に優先的に流れ、アニオン成分であるほう素の除去効率が低下する。本発明では、第1の脱塩室が第1の陽極側小脱塩室と、第1の陽極側小脱塩室と直列に接続された第1の陰極側小脱塩室と、に区画され、第1の陽極側小脱塩室にアニオン交換体が単床で充填されている。アニオン交換体だけが充填された第1の陽極側小脱塩室では電流の偏流がなく、ほう素を効率的に除去することができるため、第1の脱塩室の出口水のほう素濃度を効率的に下げることができる。また、第1の脱塩室の出口水は第2の電気式脱イオン水製造装置の第2の脱塩室と一対の第2の濃縮室とに供給されるが、上述のとおり、第1の脱塩室の出口水のほう素濃度が下がっているため、第2の濃縮室の出口水のほう素濃度の上昇が抑えられる。従って、第2の濃縮室の出口水を第1の電気式脱イオン水製造装置の上流側に戻すことで、第2の電気式脱イオン水製造装置の処理水の回収率を改善することができる。
【0010】
このように、本発明によれば、複数のEDIが直列で接続され、ほう素の除去効率と処理水の回収率が改善された水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1、第2の実施形態に係る水処理装置の概略構成図である。
【
図2】A−KAタイプのEDIの概略構成図である。
【
図3】ほう素イオンの動きを説明するための模式図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る水処理装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態に係る水処理装置を説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る水処理装置の概略構成を示している。水処理装置1は直列に接続された複数の電気式脱イオン水製造装置(以下、EDI)2を有している。直列に接続されたEDIの間にタンクやポンプが設置されていてもよい。複数のEDIを総称してEDIセット3という。EDIの数は限定されず、2以上の任意の数のEDIを直列に接続することができる。以下の説明は、便宜上最終段とその一つ前段のEDIを対象としており、一つ前段のEDIを第1のEDI2a、最終段のEDI、すなわち第1のEDI2aの下流側で第1のEDI2aに直列に接続されたEDIを第2のEDI2bという。しかし、第1のEDI2aと第2のEDI2bは直列に接続された複数のEDIから任意に選択することができ、最終段を除く任意のEDIを第1のEDI2a、これより後段の任意のEDIを第2のEDI2bとすることができる。
【0014】
本実施形態では、第1のEDI2aと第2のEDI2bは同一の構成を有している。
図2に第1及び第2のEDI2a,2bの概略構成を示す。
図2に示すEDIをA−KAタイプと呼ぶことがある。以下の説明で、陽極室、陰極室、脱塩室、濃縮室、アニオン交換膜、カチオン交換膜、中間膜、陽極側小脱塩室、陰極側小脱塩室などが第1のEDI2aのものである場合、冒頭に「第1の」を、符号にaを付けることがあり、第2のEDI2bのものである場合、冒頭に「第2の」を付け、符号にbを付けることがある。例えば、第1のEDI2aの脱塩室6は第1の脱塩室6aという。また、陽極室9と陰極室10を総称して電極室8という場合がある。
【0015】
第1及び第2のEDI2a,2bは、陽極(図示せず)を備えた陽極室9と、陰極(図示せず)を備えた陰極室10と、陽極室9と陰極室10との間に位置する複数の脱塩室6及び濃縮室7と、を有している。一例では、10個の脱塩室6と11個の濃縮室7が陽極室9と陰極室10との間に配置される。陽極室9にはカチオン交換膜kを介して濃縮室7が隣接し、陰極室10にはアニオン交換膜aを介して濃縮室7が隣接しており、濃縮室7と脱塩室6が交互に配置されている。従って、第1及び第2のEDI2a,2bは、陽極室9、濃縮室7、脱塩室6、濃縮室7、脱塩室6、・・・濃縮室7、陰極室10の順で配置されている。一つの濃縮室7はその両側で隣接する脱塩室6で共用されている。第1及び第2のEDI2a,2bは、一つの脱塩室6とその両側に位置する一対の濃縮室7を最小単位として備えており、
図2はこの最小単位である脱塩室6と一対の濃縮室7を示している。脱塩室6はアニオン交換膜aを介して陽極側の濃縮室7と隣接しており、カチオン交換膜kを介して陰極側の濃縮室7と隣接している。濃縮室7と電極室8との間の膜を省略し、電極室8が濃縮室7を兼ねてもよい。電極室8と脱塩室6の間にある濃縮室7を省略し、電極室8が脱塩室6と隣接していてもよい。その場合、電極室8に隣接する脱塩室6は濃縮室7の間に配置される脱塩室6と構造が異なることがあり、電極室8と脱塩室6の間に配置される膜は適宜変更してもよい。
【0016】
脱塩室6はさらに中間膜mによって、陽極側小脱塩室61と陰極側小脱塩室62とに区画されている。陽極側小脱塩室61と陰極側小脱塩室62は直列に接続されている。具体的には、陽極側小脱塩室61の出口部が陰極側小脱塩室62の入口部に配管で接続されており、陽極側小脱塩室61が陰極側小脱塩室62の上流側にある。中間膜mは、アニオン交換膜、カチオン交換膜、アニオン交換膜とカチオン交換膜とが貼り合わされたバイポーラ膜のいずれであってもよい。陽極側小脱塩室61にはアニオン交換体Aが単床で充填されている。すなわち陽極側小脱塩室61にはカチオン交換体Kが充填されていない。陰極側小脱塩室62は、被処理水の流れる方向に関して上流側にカチオン交換体Kが単床で、下流側にアニオン交換体Aが単床で充填されている。アニオン交換体A及びカチオン交換体Kとしては、それぞれアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が好適に利用できる。陽極側小脱塩室61に充填されたアニオン交換体Aと陰極側小脱塩室62に充填されたアニオン交換体Aは同じ種類のアニオン交換体であるが、別の種類のアニオン交換体であってもよい。
【0017】
再び
図1を参照すると、EDIセット3の上流側には、イオン成分や不純物を除去する2つの逆浸透膜装置4a,4b(2段RO)が直列に設けられている。逆浸透膜4a,4bの間、あるいは逆浸透膜4bとEDIとの間にタンクやポンプを設置してもよい。被処理水に含まれるほう素は2段ROによって10〜30μg/Lまで除去される。2つの逆浸透膜装置4a,4bの間には、苛性ソーダ(NaOH)などのアルカリ薬剤を被処理水に注入するための脱炭酸用薬注設備5が設けられている。炭酸は逆浸透膜装置では除去できないため、苛性ソーダで予めイオン化して、2段目の逆浸透膜装置4bで除去する。1段目の逆浸透膜装置4aの前段で苛性ソーダを注入すると硬度成分が析出してしまう。1段目の逆浸透膜装置4aで硬度成分を除去した後に苛性ソーダを注入することで、硬度成分と炭酸を除去することができる。脱炭酸用薬注設備5の代わりに脱炭酸膜または脱炭酸塔を設けることもできる。脱炭酸膜は疎水性の微細孔を介して水とガスを接触させ、水中の溶存ガスを水相から気相へと移動し除去する装置である。脱炭酸塔は酸注入によりpHを下げることで炭酸イオン、重炭酸イオンを炭酸ガスに転換し、充填塔に空気を吹き込むことで水中の炭酸を除去する装置である。脱炭酸膜及び脱炭酸塔は硬度の影響を受けないため、逆浸透膜装置4aの前段にも設置できる。また、設備を小型化するため、脱炭酸膜や脱炭酸塔をより流量の少ない2段目の逆浸透膜装置4bの後段に設置してもよい。
【0018】
水処理装置1は以下のように作動する。被処理水は2つの逆浸透膜装置4a,4bによって各種イオン成分と炭酸を除去され、ほう素濃度も下げられてEDIセット3に流入する。被処理水は各EDIでほう素を含む残りのイオン成分を除去され、第1のEDI2aに供給される。被処理水は第1のEDI2aの第1の脱塩室6aの陽極側小脱塩室61のアニオン交換体A、陰極側小脱塩室62のカチオン交換体K、陰極側小脱塩室62のアニオン交換体Aの順に通過し、アニオン成分とカチオン成分が除去される。アニオン成分であるほう素も除去され、ほう素濃度が低下した処理水が得られる。一対の第1の濃縮室7aの出口水は、第1の電極室8aの出口水とともに系外に放出される。第1のEDI2aの処理水、すなわち第1のEDI2aの脱塩室6の出口水はさらに第2のEDI2bに供給され、同様に第2の脱塩室6bの陽極側小脱塩室61のアニオン交換体A、陰極側小脱塩室62のカチオン交換体K、陰極側小脱塩室62のアニオン交換体Aの順に通過し、アニオン成分とカチオン成分が除去され、ほう素濃度がさらに低下した処理水が得られる。
【0019】
上述の過程において、第1のEDI2aに供給される被処理水(すなわちその前段のEDIまたは2段目の逆浸透膜装置4bの処理水)は第1の脱塩室6aだけでなく、第1の濃縮室7aと第1の電極室8aにも供給される。
図3に示すように、図中右側の陰極側の脱塩室で除去されたほう素は、実線で示すように、アニオン交換膜を通って濃縮室に移動する。濃縮室とその左側の脱塩室の間はカチオン交換膜で仕切られているため、アニオン成分であるほう素は濃縮室から陽極側の脱塩室に移動しないはずである。しかし、濃縮室のほう素濃度が高いため、一部のほう素が破線で示すようにカチオン交換膜を通って陽極側の脱塩室に拡散する。陽極側の脱塩室の出口近傍で陽極側の脱塩室に拡散したほう素は、Lを付した破線で示すように、陽極側の脱塩室で充分に処理されることなく流出するため、ほう素の除去効率が低下する。しかし、前段のEDI2(または2段目の逆浸透膜装置4b)の出口水を第1のEDI2aの第1の濃縮室7aに供給することで、第1のEDI2aの第1の濃縮室7aのほう素濃度が抑制され、第1の濃縮室7aから第1の脱塩室6aに拡散するほう素の量を抑えることができる。また、第1の脱塩室6aは、被処理水の流れる方向に沿った最下流側にアニオン交換体Aが単床で充填されている。従って、第1の脱塩室6aの出口近傍で第1の脱塩室6aに拡散したほう素をアニオン交換体Aで捕捉し、第1の脱塩室6aの出口水のほう素濃度の上昇を抑えることができる。すなわち、第1の濃縮室7aから第1の脱塩室6aに漏れ出したほう素を、第1の脱塩室6aの最下流に充填されたアニオン交換体Aで除去することができる。また、最下流のアニオン交換体Aに通水される被処理水の向きと、隣接する濃縮室7の濃縮水の通水の向きを互いに逆向きにしているため、濃縮水の濃縮倍率の低い領域が第1の脱塩室6aの最下流側に隣接することになり、ほう素の処理水への拡散をより抑えることが可能となる。
【0020】
第2のEDI2bに流入する被処理水、つまり第1のEDI2aの第1の脱塩室6aの出口水も、第2の脱塩室6bだけでなく第2の濃縮室7bと第2の電極室8bにも供給される。一方、第2のEDI2bの第2の濃縮室7bの出口水は回収され、第1のEDI2aの上流側に戻される。これは、第2の濃縮室7bの出口水のほう素濃度が、戻り位置における被処理水のほう素濃度より低いためである。すなわち、第2の濃縮室7bの出口水のほう素濃度は第2の脱塩室6bの出口水のほう素濃度と比べれば高いが、第2のEDI2bに流入する被処理水のほう素濃度がすでに十分低下しているため、第2の濃縮室7bの出口水は十分に清浄である。従って、第2の濃縮室7bの出口水を再利用することで、ほう素の除去効率への影響を抑えながら処理水の回収率を高めることができる。第2の濃縮室7bの出口水は第1のEDI2aとその前段のEDIの間に戻されるが、第1のEDI2aの上流側のいずれかのEDIの入口側または逆浸透膜装置4aもしくは4bの前段に戻すこともできる。換言すれば、第2の濃縮室7bの出口水は、第2の濃縮室7bの出口水よりほう素濃度が高い任意の位置に戻すことができる。
【0021】
第2のEDI2bに流入する被処理水のほう素濃度が十分に低い理由の一つが第1のEDI2aの構成にある。前述のように、第1のEDI2aの陽極側小脱塩室61にはアニオン交換体Aが単床で充填されている。一般にアニオン交換体Aはカチオン交換体Kより電気抵抗が高い。このため、アニオン交換体Aとカチオン交換体Kの混床、あるいは単床充填されたアニオン交換体Aと単床充填されたカチオン交換体Kとが積層された構成の場合、電流がカチオン交換体Kに優先的に流れ、アニオン交換体Aの除去効率が低下する。これに対し、本実施形態では第1のEDI2aの陽極側小脱塩室61にアニオン交換体Aだけが充填されているため、電流の偏流が生じない(100%の電流がアニオン交換体Aに流れる)。従って、アニオン交換体Aの除去効率が低下しない。
【0022】
被処理水の流れは
図2の逆でもよく、陰極側小脱塩室62のアニオン交換体A、陰極側小脱塩室62のカチオン交換体K、陽極側小脱塩室61のアニオン交換体Aの順に流してもよい。この場合も、陽極側小脱塩室61にアニオン交換体Aが単床で充填され、しかも脱塩室6の、被処理水の流れる方向に沿った最下流側にアニオン交換体Aが単床で充填されているため、
図2に示す構成と同様の効果が得られる。
【0023】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は第2のEDI2bの脱塩室6の構成だけが異なり、その他は第1の実施形態と同じである。具体的には、
図4に示すように、第2のEDI2bの陽極側小脱塩室61(第2の陽極側小脱塩室61b)にはアニオン交換体Aが単床で充填されており、陰極側小脱塩室62(第2の陰極側小脱塩室62b)にはカチオン交換体Kが単床で充填されている。第2の陽極側小脱塩室61bと第2の陰極側小脱塩室62bは直列に接続されており、第2の陰極側小脱塩室62bが第2の陽極側小脱塩室61bの上流側にある。このようなEDI2をK−Aタイプと呼ぶことがある。被処理水は第2の陰極側小脱塩室62bのカチオン交換体K、第2の陽極側小脱塩室61bのアニオン交換体Aの順で通過する。本実施形態でも、第1のEDI2aに供給される被処理水は第1の脱塩室6aと第1の濃縮室7aと第1の電極室8aとに供給され、第1の濃縮室7aと第1の電極室8aの出口水は系外に放出され、第1の脱塩室6aの出口水は第2のEDI2bの第2の脱塩室6bと第2の濃縮室7bと第2の電極室8bとに供給される。第2のEDI2bの第2の脱塩室6bの出口水は処理水となり、第2の濃縮室7bの出口水は第1のEDI2aの上流側に戻され、第2の電極室8bの出口水は系外に放出される。本実施形態でも、第2の陽極側小脱塩室61bにアニオン交換体Aが単床で充填され、かつ被処理水の流れる方向に沿った最下流側にアニオン交換体Aが単床で充填されている。また、最下流のアニオン交換体Aに通水される被処理水の向きと、隣接する濃縮室7の濃縮水の通水の向きを互いに逆向きにしている。このため第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0024】
(第3の実施形態)
図5に第3の実施形態の水処理装置101の概略構成を示す。第3の実施形態の水処理装置101は、第1のEDI2aの第1の濃縮室7aの出口水を処理し、第1のEDI2aの上流側に戻す脱塩装置11を有している点を除き、第1及び第2の実施形態と同じである。脱塩装置11としては、EDI、イオン交換樹脂塔やカートリッジ型のイオン交換樹脂装置などを用いることができる。第1のEDI2aの第1の濃縮室7aの出口水が再利用されるため、水処理装置全体の処理水の回収率がさらに改善される。脱塩装置11で処理した出口水の戻り位置は、第2の濃縮室7bの出口水の戻り位置と同じでもいいし、第2の濃縮室7bの出口水の戻り位置の上流側または下流側であってもよい。また、第2のEDI2bの構成は前述したA−KAタイプとK−Aタイプのいずれでもよい。
【0025】
(実施例)
実施例1では第1の実施形態の水処理装置1に被処理水を供給した。EDIの総数は2つであり、脱塩室は第1のEDI2a、第2のEDI2bとも
図2に示すA−KAタイプとした。2段RO透過水の導電率は3μS/cm,炭酸濃度は3mg/L、ほう素濃度は25μg/Lであり、EDIの運転電流は第1のEDI2a、第2のEDI2bとも2.5Aとした。脱塩室と濃縮室と電極室のセルのイオン交換樹脂が充填される部分の形状はいずれも280mm×160mm×8mmとした。表1に結果を示す。表中の点A〜Gは
図1に示されている。表中の水回収率は、第1のEDI2aに供給される被処理水の流量をRin、第2のEDI2bの第2の脱塩室6bの出口水の流量をRout、一対の第2の濃縮室7bから第1のEDI2aの上流側に戻される出口水の流量をRretとするとき、Rout/(Rin−Rret)で求められる(点A,E,Fの流量をそれぞれF
A,F
E,F
FとするとF
E/(F
A−F
F)である)。第1のEDI2aの濃縮室出口水(C点)のほう素濃度は約300μg/L、第2のEDI2bの濃縮室出口水(F点)のほう素濃度は約3μg/Lであった。水処理装置全体のほう素除去率は99.97%であり、水回収率は89%以上であった。
【0027】
実施例2は、第2のEDI2bの脱塩室が
図4に示すK−Aタイプであることを除き、実施例1と同じである。第1のEDI2aの濃縮室出口水(C点)のほう素濃度は約300μg/L、第2のEDI2bの濃縮室出口水(F点)のほう素濃度は約3μg/Lであった。水処理装置全体のほう素除去率は99.98%であり、水回収率は89%以上であった。処理水のほう素濃度は実施例1の約2/3であった。水回収率は、第1のEDI2aの濃縮室の流量などを調整することで、85%以上、95%の範囲で調整可能である。脱塩室と濃縮室と電極室の流量は、これらの入口に弁を設けることで調整することができる。また、表3に示すように、実施例1,2とも、第2のEDI2bの消費電力が第1のEDI2aの消費電力より小さかった。
【0030】
表4には比較例として、混床式の一般的なEDIで得られた結果を示す。濃縮水出口水のほう素濃度は約300μg/Lであり、実施例1,2と同等であった。ほう素除去率は85.2%であった。このEDIを実施例1,2と同様に2段直列で連結して水処理装置を構築することを想定してみる。ほう素濃度が低くなるとほう素の除去が困難となるため、第2のEDI2bのほう素除去率は第1のEDI2aより低くなることが予想される。仮に、第1のEDI2aと第2のEDI2bで同等のほう素除去率(85.2%)を達成できたとしても、処理水のほう素濃度は550ng/L、水処理装置全体のほう素除去率は97.8%程度と考えられ、実施例1,2と比較して低い値になる。
【0032】
実施例2の第2のEDI2b(ほう素除去率98.1%)を比較例のEDIの後段に用いて水処理装置を構築した場合も、処理水のほう素濃度は70ng/L、水処理装置全体のほう素除去率は99.7%程度になると考えられ、実施例と比較して低い値になる。実施例1の第1のEDI2a(ほう素除去率99.0%)を比較例のEDIの後段に用いて水処理装置を構築した場合も、処理水のほう素濃度は37ng/L、水処理装置全体のほう素除去率は99.9%程度になると考えられ、実施例と比較して低い値になる。
【0033】
さらに、第1のEDI2aとして比較例のEDIを用いて、第2のEDI2bの水回収率を、実施例と同様に設定して運転を行うと、第2のEDI2bの濃縮水には、第1のEDI2aの処理水の約11倍の濃度のほう素が含まれることになる。比較例の結果より算出すると、第2のEDI2bの濃縮水のほう素濃度は3700×11=40700ng/L=40.7μg/Lとなり、供給水のほう素濃度25μg/Lの1.6倍程度高い値になる。そのため、比較例のEDIを第1のEDI2aに採用した水処理装置では、第2のEDI2bの濃縮水を再利用することが困難である。水処理装置全体の処理水の回収率は82%になり、実施例よりも低くなる。
【符号の説明】
【0034】
1 水処理装置
2 電気式脱イオン水製造装置(EDI)
2a 第1のEDI
2b 第2のEDI
3 EDIセット
4a,4b逆浸透膜装置
5 脱炭酸用薬注設備
6 脱塩室
6a 第1の脱塩室
6b 第2の脱塩室
61 陽極側小脱塩室
62 陰極側小脱塩室
7 濃縮室
7a 第1の濃縮室
7b 第2の濃縮室
8 電極室
8a 第1の電極室
8b 第2の電極室
9 陽極室
10 陰極室
a アニオン交換膜
k カチオン交換膜
m 中間膜
A アニオン交換体
K カチオン交換体