特許第6807443号(P6807443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6807443大型2ストロークユニフロー掃気式ガス燃料エンジンおよび過早点火またはディーゼルノックを低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807443
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】大型2ストロークユニフロー掃気式ガス燃料エンジンおよび過早点火またはディーゼルノックを低減する方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/20 20160101AFI20201221BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20201221BHJP
   F02M 26/16 20160101ALI20201221BHJP
   F02M 26/23 20160101ALI20201221BHJP
   F02M 26/37 20160101ALI20201221BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20201221BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20201221BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   F02M26/20
   F02M26/05
   F02M26/16
   F02M26/23
   F02M26/37 301
   F02M21/02 P
   F02D43/00 301N
   F02D43/00 301Y
   F02D45/00 368A
【請求項の数】25
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-191625(P2019-191625)
(22)【出願日】2019年10月21日
(65)【公開番号】特開2020-70804(P2020-70804A)
(43)【公開日】2020年5月7日
【審査請求日】2020年6月19日
(31)【優先権主張番号】PA201870710
(32)【優先日】2018年10月31日
(33)【優先権主張国】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】キエントルプ ニールス
(72)【発明者】
【氏名】フルト ヨーアン
(72)【発明者】
【氏名】モルク クリスチャン
【審査官】 北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−133413(JP,A)
【文献】 特開2013−133708(JP,A)
【文献】 特開2010−106856(JP,A)
【文献】 実開昭58−146852(JP,U)
【文献】 特開2012−154188(JP,A)
【文献】 特開2010−121628(JP,A)
【文献】 特開平06−257520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/20
F02D 43/00
F02D 45/00
F02M 21/02
F02M 26/05
F02M 26/16
F02M 26/23
F02M 26/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダライナ(1)と、ピストン(10)と、シリンダカバー(22)とで区切られた燃焼室と、
前記シリンダライナ(1)に配置された掃気空気ポート(18)と、
前記シリンダカバー(22)に配置されて排気弁(4)によって制御される排気ガス排気口と、
加圧ガス燃料の供給源(40)から受けたガス燃料をガス燃料弁(30)を介して前記燃焼室内に給気する、前記シリンダライナ(1)に配置された1つ以上のガス燃料給気用開口(34)と、
前記燃焼室に接続されて燃焼ガス弁(26)によって制御される燃焼ガス排気口と、
前記燃焼ガス弁(26)の排気口から
前記ガス燃料弁(30)の給気口、または
専用燃焼ガス噴射弁(36)の給気口まで延びた燃焼ガス流路と、を備え、
前記エンジンは、
前記ガス燃料を給気し、これと同時に、または順次に、またはオーバラップして燃料噴射の際に前記燃焼ガスを前記燃焼室内に噴射して、前記燃料噴射の際に前記燃焼室内に噴射される物質の運動量を高めるように構成され、
前記ガス燃料と前記燃焼ガスは混合気として少なくとも1つの前記燃料弁(30)から同時に前記燃焼室内に噴射される
大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気式内燃エンジン。
【請求項2】
シリンダライナ(1)と、ピストン(10)と、シリンダカバー(22)とで区切られた燃焼室と、
前記シリンダライナ(1)に配置された掃気空気ポート(18)と、
前記シリンダカバー(22)に配置されて排気弁(4)によって制御される排気ガス排気口と、
加圧ガス燃料の供給源(40)から受けたガス燃料をガス燃料弁(30)を介して前記燃焼室内に給気する、前記シリンダライナ(1)に配置された1つ以上のガス燃料給気用開口(34)と、
前記燃焼室に接続されて燃焼ガス弁(26)によって制御される燃焼ガス排気口と、
前記燃焼ガス弁(26)の排気口から
前記ガス燃料弁(30)の給気口、または
専用燃焼ガス噴射弁(36)の給気口まで延びた燃焼ガス流路と、を備え、
前記エンジンは、
前記ガス燃料を給気し、これと同時に、または順次に、またはオーバラップして燃料噴射の際に前記燃焼ガスを前記燃焼室内に噴射して、前記燃料噴射の際に前記燃焼室内に噴射される物質の運動量を高めるように構成され、
前記ガス燃料と前記燃焼ガスは少なくとも1つの前記燃料弁(30)のノズルの複数のノズル穴から同時に噴射される
大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気式内燃エンジン。
【請求項3】
前記燃焼ガス流路は、燃焼ガス受け(27)と、前記燃焼ガス弁(26)と前記燃焼ガス受け(27)の給気口とを接続する燃焼ガス供給用導管(48)とを含む、請求項1又は2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記燃焼ガス流路は、背圧を生成することによって燃焼ガス流の安定な制御を確保する燃焼ガス制御弁(28)を含む、請求項1から3のいずれかに記載のエンジン。
【請求項5】
前記燃焼ガス流路は、好ましくは前記燃焼ガス受け(27)の下流に配置された、燃焼ガスを洗浄する湿式スクラバー(29)を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項6】
前記燃焼ガス流路は、前記燃焼ガスを冷却する燃焼ガス冷却器(39)であって、好ましくは前記湿式スクラバー(29)の下流に配置された、燃焼ガス冷却器(39)を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項7】
前記燃焼ガス流路は遮断弁(38)を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項8】
前記燃焼ガス流路は、前記燃焼ガス流路を前記燃料弁(30)の前記給気口または前記燃焼ガス噴射弁(36)の前記給気口に接続する燃焼ガス供給用導管(37)を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項9】
前記燃焼ガス排気口は前記シリンダカバー(22)と前記シリンダライナ(1)の上部とのいずれかに配置される、請求項1からのいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項10】
前記エンジンは、前記排気弁(4)に先立って、またはそれと同時に、またはその後に前記燃焼ガス弁(26)を開けるように構成される、請求項1からのいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項11】
前記ガス燃料と前記燃焼ガスは少なくとも1つの前記燃料弁(30)の内部で混合される、請求項に記載のエンジン。
【請求項12】
前記ガス燃料と燃焼ガスとは少なくとも1つの前記燃料弁(30)の上流で混合される、請求項に記載のエンジン。
【請求項13】
前記燃焼ガスを前記燃料弁(30)または前記燃焼ガス噴射弁(36)に供給する燃焼ガス供給用導管(37)と、前記ガス燃料を前記加圧ガス燃料供給源(40)から前記燃料弁(30)に供給する独立した供給用導管(41)とを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項14】
燃料噴射の際に前記燃焼室内に噴射される燃焼ガスの量を制御するように構成された制御装置を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項15】
前記燃料弁(30)は前記シリンダライナ(1)の外周にわたって均等に配置される、請求項1から14のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項16】
前記燃料弁(30)は前記シリンダライナ(1)の長さ方向の中央位置に配置される、請求項1から15のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項17】
前記ガス燃料の噴射と前記燃焼ガスの噴射との両方が、前記シリンダカバー(22)に向かう前記ピストン(10)のストロークの間で、好ましくはピストン(10)が掃気空気ポートを通過した後、さらに好ましくは排気弁(4)が閉じられるときまたはその直前に開始される、請求項1から16のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項18】
点火を開始する点火装置を好ましくは上死点(TDC)またはその近傍に有する、請求項1から17のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項19】
ノックセンサを有し、前記ノックセンサからの信号に応じて、添加される燃焼ガスの量を制御するように構成される、請求項1から18のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項20】
過早点火またはディーゼルノックが前記ノックセンサにより検出されたとき、燃料噴射の際に噴射される燃焼ガスの質量を増やすように構成される、請求項19に記載のエンジン。
【請求項21】
所定期間もしくは所定のエンジン回転数の間、前記ノックセンサにより過早点火またはディーゼルノックが検出されなかったとき、燃料噴射の間に噴射される燃焼ガスの質量を減らすように構成される、請求項19または20に記載のエンジン。
【請求項22】
各専用燃焼ガス噴射弁(36)が前記ガス燃料弁(30)のいずれかに近接して前記シリンダライナに配置される、請求項1から21のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項23】
大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気式内燃エンジンの燃焼室内でのガス燃料と掃気空気との混合を促進することにより過早点火またはディーゼルノックを回避または低減する方法であって、前記エンジンは、
シリンダライナ(1)と、ピストン(10)と、シリンダカバー(22)とで区切られた燃焼室と、
シリンダライナ(1)に配置された掃気空気ポート(18)と、
前記シリンダカバー(22)に配置されて排気弁(4)によって制御される排気ガス排気口と、
加圧ガス燃料の供給源(40)から燃料弁を介して受けたガス燃料を前記燃焼室内に給気する、前記シリンダライナ(1)に配置された少なくとも1つのガス燃料給気用開口(34)と、
前記燃焼室に接続されて燃焼ガス弁(26)によって制御される燃焼ガス排気口と、
前記燃焼ガス弁(26)の排気口から
前記ガス燃料弁(30)の給気口、または
1つ以上の専用燃焼ガス噴射弁(36)の給気口まで延びた燃焼ガス流路と、を備え、
前記方法は、前記給気用開口(34)を用いて前記ガス燃料を給気し、これと同時に、または順次に、またはオーバラップして、前記給気用開口(34)または前記1つ以上の専用燃焼ガス噴射弁(36)を用いて前記燃焼ガスを前記燃焼室内に噴射することによって、燃料噴射の間に前記燃焼室内に噴射される物質の運動量を増やすことを含み、ここで前記ガス燃料と前記燃焼ガスは混合気として少なくとも1つの前記燃料弁(30)から同時に前記燃焼室内に噴射される、方法。
【請求項24】
大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気式内燃エンジンの燃焼室内でのガス燃料と掃気空気との混合を促進することにより過早点火またはディーゼルノックを回避または低減する方法であって、前記エンジンは、
シリンダライナ(1)と、ピストン(10)と、シリンダカバー(22)とで区切られた燃焼室と、
シリンダライナ(1)に配置された掃気空気ポート(18)と、
前記シリンダカバー(22)に配置されて排気弁(4)によって制御される排気ガス排気口と、
加圧ガス燃料の供給源(40)から燃料弁を介して受けたガス燃料を前記燃焼室内に給気する、前記シリンダライナ(1)に配置された少なくとも1つのガス燃料給気用開口(34)と、
前記燃焼室に接続されて燃焼ガス弁(26)によって制御される燃焼ガス排気口と、
前記燃焼ガス弁(26)の排気口から
前記ガス燃料弁(30)の給気口、または
1つ以上の専用燃焼ガス噴射弁(36)の給気口まで延びた燃焼ガス流路と、を備え、
前記方法は、前記給気用開口(34)を用いて前記ガス燃料を給気し、これと同時に、または順次に、またはオーバラップして、前記給気用開口(34)または前記1つ以上の専用燃焼ガス噴射弁(36)を用いて前記燃焼ガスを前記燃焼室内に噴射することによって、燃料噴射の間に前記燃焼室内に噴射される物質の運動量を増やすことを含み、ここで前記ガス燃料と前記燃焼ガスは少なくとも1つの前記燃料弁(30)のノズルの複数のノズル穴から同時に噴射される、方法。
【請求項25】
エンジン負荷が高い場合のみ、好ましくはエンジン負荷が前記エンジンの最大連続定格の60%より大きい場合のみ、さらに好ましくはエンジン負荷が前記エンジンの最大連続定格の70%より大きい場合のみ、前記燃焼ガスが噴射される、請求項23又は24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型2ストロークガス燃料内燃エンジンに関し、特にシリンダライナに配置された燃料弁から噴射されるガス燃料で動くクロスヘッドを備えた大型2ストロークユニフロー掃気式内燃エンジンに関する。
【背景】
【0002】
クロスヘッドを備えた大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気式内燃エンジンは、例えば、大型外航船の推進用エンジンや発電所の1次側可動子として使用されている。サイズだけでなく、この2ストローク内燃エンジンの構成は他の各種内燃エンジンと種々異なっている。また、このエンジンの排気弁の重量は最大400kgであり、ピストンの径は最大100cmであり、燃焼室の最大動作圧は通常数百バールである。このような高い圧力レベルと大型のピストンサイズに伴う力は莫大なものになる。
【0003】
シリンダライナの長さ方向の内側に配置された燃料弁によって噴射されたガス燃料で動作する大型2ストロークターボ過給式内燃エンジン、すなわち排気弁の閉弁時付近で開始するピストンの上昇行程の間にガス燃料を噴射するエンジンは、燃焼室内でガス燃料と掃気空気との混合気を圧縮して、例えばパイロット給油などの時限点火手段により上死点(TDC)またはその近傍で圧縮された混合気を点火する。
【0004】
シリンダライナに配置された燃料弁を用いたこのタイプのガス噴射は、圧縮圧力が比較的低いときにガス燃料が噴射されるので、ピストンが上死点(TDC)に近づくときに(すなわち、燃焼室内の圧縮圧力が最大またはその近傍のときに)ガス燃料を噴射する大型2ストロークターボ過給式内燃エンジンと比べたとき、著しく低い燃料噴射圧を使用することができるという利点がある。後者のタイプのエンジンは、既に高圧となっている最大燃焼圧よりも著しく高い燃料噴射圧を必要とする。この著しく高圧のガス圧力に耐えることができる燃料系は、ガス燃料のもつ揮発性とそのような高圧での作用(燃料系の鋼部品の内部を通じた拡散など)に起因して高価かつ複雑なものになる。
【0005】
したがって、圧縮行程の間にガス燃料を噴射するエンジンの燃焼供給系は、TDCまたはその近傍でガス燃料を噴射するエンジンに比べると著しく低価格である。
【0006】
しかし、圧縮行程の間にガス燃料を噴射すると、ピストンがガス燃料と掃気空気との混合気を圧縮する結果、過早点火および/またはディーゼルノックのリスクが生じる。
【0007】
過早点火またはディーゼルノックに伴う問題は、燃焼室内の燃料充填をできるだけ均一にすることによって低減することができる。しかし、掃気空気とガス燃料との均一な充填の実現は困難である。これは、排気弁が上死点に近づくときからのエンジンサイクルの期間は通常70度から90度のクランクシャフト角の範囲であり、例えば4ストロークエンジンで利用可能なエンジンサイクルの期間に比べて短いために、そのような均一な充填を実現するために利用できるエンジンサイクルの期間はきわめて短いものでしかないことによる(4ストロークエンジンでは、ガス燃料と充填する空気とを実際には吸気系で混合することができる、もしくは少なくとも吸気弁の開弁位相の大半の期間(通常40度から160度のクランクシャフト角の期間)で混合することができる)。
【0008】
このように均一な充填を実現するために利用できるエンジンサイクルの期間が比較的短いことが、大型2ストロークディーゼルエンジンにおいて過早点火またはディーゼルノックを回避することの困難さを増している。
【0009】
燃焼室へのガス燃料と掃気空気との不均一な充填は過早点火またはディーゼルノックのリスクを高め、結果としてエンジンに重大な損傷をもたらす恐れがある。
【0010】
従来技術では、以下の方法でエンジンにおける過早点火またはディーゼルノックの問題の解決が図られている。
【0011】
ある公知の大型ユニフロー掃気式2ストロークエンジンは、シリンダライナ内を動くピストンと、排気弁を備えたシリンダヘッドと、シリンダライナ内で周方向に配置された掃気空気ポートとを備えている。数個の燃料噴射弁が、掃気空気ポートの上方でシリンダライナの適所に周方向に配置されている。燃料は、TDCより少なくとも90度手前のクランク角で噴射される。
【0012】
また、ある公知の大型ユニフロー掃気式2ストロークエンジンでは、ガス燃料が掃気ポートから燃焼室に流入する空気中に噴射される。さらに、水噴射ノズルがシリンダヘッドに設けられている。燃料と空気との混合気の温度を下げるために、圧縮時に水が燃焼室内に噴射されて、過早点火またはディーゼルノックが防止されるようになっている。
【0013】
しかし、以上の解決法は、大型2ストローク圧縮点火式内燃エンジンにおける過早点火またはディーゼルノックを有効には防ぎ得ないことがわかっている。
【0014】
特開第2012−154188号に開示された2ストロークエンジンは、シリンダとて、シリンダ内を摺動するピストンと、シリンダのストローク方向の一端部に設けられ、シリンダ内で生じた排気ガスを排気するために開閉される排気ポートと、シリンダのストローク方向の他端部側の内周面に設けられ、ピストンの摺動動作に応じてシリンダ内に活性ガスを吸引する掃気ポートと、シリンダの内周面において燃料ガスを噴射する燃料噴射弁と、噴射された燃料ガスと衝突するように不活性物質を噴射する不活性物質噴射弁と、を備えている。このようにエンジンの動作時に少量の不活性物質を低圧で噴射することにより二酸化窒素の放出が低減される。燃焼室内で燃料ガスの濃度が局部的に高い領域では不活性物質が多めに供給され、燃料ガスの濃度が低い領域では不要な不活性物質の供給が抑制される。これにより少量の不活性物質で窒素酸化物が低減され、シリンダライナの内部が高温になったときに燃料ガスの点火時期のずれによって生じる過早点火またはディーゼルノックが低減される。しかし、燃料ガスと衝突するように少量の不活性物質を噴射することでは、過早点火またはディーゼルノックの問題は十分には解決しない。また、特開第2012−154188号に提案されたエンジンは加圧不活性ガスの供給を必要とするが、不活性ガス源について実行可能な解は示されていない。
【0015】
このため、過早点火またはディーゼルノックに関する問題を解決または少なくとも軽減するためには、このような大型2ストロークターボ過給式内燃エンジンにおける燃料噴射を改善する必要がある。
【摘要】
【0016】
したがって、シリンダライナの燃料弁から噴射されたガス燃料で動く大型ユニフロー掃気式2ストロークターボ過給式エンジンであって、圧縮行程の間にガス燃料を噴射し、過早点火またはディーゼルノックを防止または少なくとも低減することが可能なエンジンを提供することを目的とする。
【0017】
上記およびその他の目的は、独立請求項の特徴により達成される。さらなる実施態様が、従属請求項と、発明の説明と、図面とにより明らかにされる。
【0018】
第1態様によれば、大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気式内燃エンジンが提供される。このエンジンは、
シリンダライナと、ピストンと、シリンダカバーとで区切られた燃焼室と、
前記シリンダライナに配置された掃気空気ポートと、
前記シリンダカバーに配置されて排気弁によって制御される排気ガス排気口と、
加圧ガス燃料の供給源から受けたガス燃料をガス燃料弁を介して前記燃焼室内に給気する、前記シリンダライナに配置された1つ以上のガス燃料給気用開口と、
前記燃焼室に接続されて燃焼ガス弁によって制御される燃焼ガス排気口と、
前記燃焼ガス弁の排気口から
前記ガス燃料弁の給気口、または
専用燃焼ガス噴射弁の給気口まで延びた燃焼ガス流路と、を備え、
前記エンジンは、
前記ガス燃料を給気し、これと同時に、または順次に、またはオーバラップして燃料噴射の際に前記燃焼ガスを前記燃焼室内に噴射して前記燃料噴射の際に前記燃焼室内に噴射される物質の運動量を高めるように構成される。
【0019】
燃焼ガスを噴射する目的は、燃焼室内に噴射された物質の発熱量を変化させない反応性物質を噴射することによって、該噴射物質の運動量を高めることにある。運動量を高めることによってガス燃料と掃気空気との混合が促進され、それにより充填の均一度が増すと共に過早点火またはディーゼルノックのリスクが下がる。
【0020】
燃焼ガスは反応性物質であるが、燃焼室内に噴射された物質の発熱量は変化させない。ただし、燃焼ガスの噴射によって運動量が付加されて噴射物質の全運動量が増すことで、ノックまたは早期燃焼のリスクが下がる。
【0021】
運動量(p)は対象物の質量m(kg)と速度v(m/s)との積で表される(p=mv(kg・m/s))。
【0022】
したがって、燃料噴射の際に燃焼室に噴射された物質の全運動量は、噴射された燃料の質量と速度との積と、噴射された燃焼ガスの質量と速度との積とを合わせたものになる。
【0023】
噴射されたガス燃料の速度は音速により制限される。したがって、噴射されたガス燃料の速度を無限に高めることはできない。1回噴射の間または1エンジンサイクル当たりに噴射されるガス燃料の質量はエンジン負荷により決定される。したがって、エンジン負荷を変えることなくガス燃料の噴射質量を変えることは不可能であり、大半の動作条件において、エンジン負荷によってガス燃料の噴射量が決定され、その逆はない。このため、ガス燃料が音速に達した後は、噴射されたガス燃料の運動量をそれ以上高めることは通常不可能である。
【0024】
しかし、本発明者は、ガス燃料の噴射に加えて燃焼ガスを噴射することで噴射質量を増やして、1回の噴射の間に噴射される物質の運動量を高めることにより、噴射ガス燃料の運動量を高めることができるという知見を得た。すなわち、追加のガス(特に燃焼ガス)の高速噴射によって上記運動量が高められるということである。
【0025】
また、本発明者は、追加の燃焼ガスによって圧縮時の燃焼室内の燃料充填温度が下がり、さらにそれによって過早点火またはディーゼルノックのリスクが下がるという知見を得た。
【0026】
噴射物質の運動量を高めるためにガス燃料と共に噴射される燃焼ガスは、燃焼室から取得された燃焼ガスである。この燃焼ガスは高圧の燃焼室から取得され、それにより燃焼ガスを燃焼室内に噴射し戻すのに必要なポンピング作動力が軽減される。
【0027】
さらに、燃料噴射の際の燃焼室内への燃焼ガスの噴射は排気ガスと燃焼ガスの再循環の形で行われるので、燃焼室内の混合気の酸素濃度が下がる。それにより燃焼温度が下がって窒素酸化物(NOx)の生成量が減少する。
【0028】
さらに、燃焼室内の酸素濃度が低下すること自体もまた過早点火またはディーゼルノックを低減する。
【0029】
このように、3つの作用により過早点火またはディーゼルノックが低減される。1つめは酸素濃度の低下、2つめは温度の低下である。3つめは燃料噴射の間に噴射される物質の運動量の増加であり、これにより掃気空気とガス燃料との混合が促進され、燃焼室内の混合気がより均一になる。これによっても過早点火またはディーゼルノックが低減される。混合気が不均一であると過早点火またはディーゼルノックが発生しやすくなるためである。
【0030】
過早点火またはディーゼルノックを発生しにくくすることで圧縮圧力を上げることができ、エネルギ出力と燃料効率との面で有利になる。
【0031】
さらに、過早点火またはディーゼルノックのリスクの低減はガス燃料の噴射圧力を下げることで促進することができ、それによりガス燃料供給系の作製および運転の費用が低減される。
【0032】
第1態様の可能な第1実施態様によれば、前記燃焼ガス流路は、燃焼ガス受けと、前記燃焼ガス弁と前記燃焼ガス受けの給気口とを接続する燃焼ガス供給用導管とを含む。
【0033】
第1態様の可能な第2実施態様によれば、前記燃焼ガス流路は、背圧を生成することによって燃焼ガス流を安定に制御できるようにする燃焼ガス制御弁を含む。
【0034】
第1態様の可能な第3実施態様によれば、前記燃焼ガス流路は、好ましくは前記燃焼ガス受けの下流に配置された、前記燃焼ガスを洗浄する湿式スクラバーを含む。
【0035】
第1態様の可能な第4実施態様によれば、前記燃焼ガス流路は、好ましくは前記湿式スクラバーの下流に配置された、前記燃焼ガスを冷却する燃焼ガス冷却器を含む。
【0036】
第1態様の可能な第5実施態様によれば、前記燃焼ガス流路は遮断弁を含む。
【0037】
第1態様の可能な第6実施態様によれば、前記燃焼ガス流路は、前記燃焼ガス流路を前記燃料弁または前記燃焼ガス弁に接続する燃焼ガス供給用導管を含む。
【0038】
第1態様の可能な第7実施態様によれば、前記燃焼ガス排気口は前記シリンダカバーと前記シリンダライナの上部とのいずれかに配置される。
【0039】
第1態様の可能な第8実施態様によれば、前記エンジンは、前記排気弁に先立ってまたはそれと同時に前記燃焼ガス弁を開けるように構成される。
【0040】
第1態様の可能な第9実施態様によれば、前記ガス燃料と前記燃焼ガスは混合気として少なくとも1つの前記燃料弁から同時に前記燃焼室内に噴射される。
【0041】
第1態様の可能な第10実施態様によれば、前記ガス燃料と前記燃焼ガスは少なくとも1つの前記燃料弁の内部で混合される。
【0042】
第1態様の可能な第11実施態様によれば、前記ガス燃料と燃焼ガスとは少なくとも1つの前記燃料弁の上流で混合される。
【0043】
第1態様の可能な第12実施態様によれば、前記ガス燃料と前記燃焼ガスは少なくとも1つの前記燃料弁のノズルの複数のノズル穴から同時に噴射される。
【0044】
第1態様の可能な第13実施態様によれば、前記エンジンは、前記燃焼ガスを前記燃料弁または前記燃焼ガス噴射弁に供給する燃焼ガス供給用導管と、前記ガス燃料を加圧ガス燃料供給源から前記燃料弁に供給する独立した供給用導管とを含む。
【0045】
第1態様の可能な第14実施態様によれば、前記エンジンは、燃料噴射の際に前記燃焼室内に噴射される燃焼ガスの量を制御するように構成された制御装置を含む。
【0046】
第1態様の可能な第15実施態様によれば、前記燃料弁は前記シリンダライナの外周にわたって均等に配置される。
【0047】
第1態様の可能な第16実施態様によれば、前記燃料弁は前記シリンダライナの長さ方向の中央位置に配置される。
【0048】
第1態様の可能な第17実施態様によれば、前記ガス燃料と前記燃焼ガスとの同時、または順次、またはオーバラップした噴射は、前記シリンダカバーに向かう前記ピストンのストロークの間に、好ましくはピストンが掃気空気ポートを通過した後、さらに好ましくは排気弁が閉じられるときまたはその直前に開始される。
【0049】
第1態様の可能な第18実施態様によれば、前記エンジンが、点火を開始する点火装置を好ましくは上死点(TDC)またはその近傍に含む。
【0050】
第1態様の可能な第19実施態様によれば、前記エンジンはノックセンサを含み、前記ノックセンサからの信号に応じて燃焼ガスの添加量を制御するように構成される。
【0051】
第1態様の可能な第20実施態様によれば、前記エンジンは、過早点火またはディーゼルノックが前記ノックセンサにより検出されたとき、燃料噴射の際に噴射される燃焼ガスの質量を増やすように構成される。
【0052】
第1態様の可能な第21実施態様によれば、前記エンジンは、所定期間または所定のエンジン回転数の間前記ノックセンサによりノックが検出されなかったとき、燃料噴射の間に噴射される燃焼ガスの質量を減らすように構成される。
【0053】
第1態様の可能な第23実施態様によれば、各専用燃焼ガス弁が前記ガス燃料弁のいずれかに近接して前記シリンダライナに配置される。
【0054】
第1態様の可能な第25実施態様によれば、各専用燃焼ガス噴射弁が1つ以上のノズル穴を備えたノズルを有する。
【0055】
第1態様の可能な第26実施態様によれば、掃気空気が燃焼ガスに添加されて、掃気空気と燃焼ガスとの混合気が燃料噴射の際に噴射される。
【0056】
第1態様の可能な第27実施態様によれば、前記燃焼ガス噴射弁が前記シリンダライナの長さ方向の中央位置に配置される。
【0057】
第1態様の可能な第28実施態様によれば、前記エンジンは、前記ガス燃料を前記燃料給気用開口を用いて給気し、前記燃焼ガスを前記燃料給気用開口または前記専用燃焼ガス噴射弁を用いて噴射し、前記燃焼室へのガス燃料の給気と燃焼ガスの噴射とは燃料噴射の際に同時に、または順次に、またはオーバラップして行われて、それにより前記燃料噴射の際に前記燃焼室内に噴射される物質の運動量が増すように構成される。
【0058】
第1態様の可能な第29実施態様によれば、前記シリンダライナが、前記燃焼ガス噴射弁に接続された、1つ以上の燃焼ガス噴射用開口を有する。
【0059】
第2態様によれば、大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気式内燃エンジンの燃焼室内でのガス燃料と掃気空気との混合を促進することにより過早点火またはディーゼルノックを回避または低減する方法であって、前記エンジンは、
シリンダライナと、ピストンと、シリンダカバーとで区切られた燃焼室と、
前記シリンダライナに配置された掃気空気ポートと、
前記シリンダカバーに配置されて排気弁によって制御される排気ガス排気口と、
燃料弁を介して加圧ガス燃料の供給源から受けたガス燃料を前記燃焼室内に給気する、前記シリンダライナに配置された少なくとも1つのガス燃料給気用開口と、
前記燃焼室に接続されかつ燃焼ガス弁によって制御される燃焼ガス排気口と、
前記燃焼ガス弁の排気口から
前記ガス燃料弁の給気口、または
1つ以上の専用燃焼ガス噴射弁の給気口まで延びた燃焼ガス流路と、を備え、
前記方法は、前記給気用開口を用いて前記ガス燃料を給気し、これと同時に、または順次に、またはオーバラップして、前記給気用開口または前記1つ以上の専用燃焼ガス噴射弁を用いて前記燃焼ガスを前記燃焼室内に噴射することによって、燃料噴射の間に前記燃焼室内に噴射される物質の運動量を増やすこと、を含む方法が提供される。
【0060】
第2態様の可能な第1実施態様によれば、エンジン負荷が高い場合のみ、好ましくはエンジン負荷が前記エンジンの最大連続定格の60%より大きい場合のみ、さらに好ましくはエンジン負荷が前記エンジンの最大連続定格の70%より大きい場合のみ、前記燃焼ガスが噴射される。
【0061】
第2態様の可能な第2実施態様によれば、各専用燃焼ガス弁が、前記ガス燃料弁のいずれかに近接して前記シリンダライナに配置される。
【0062】
上記およびその他の態様は、以下に述べる実施形態により明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
以下に述べる本開示の細部において、各態様と、各実施形態と、各実施態様とが図に示した実施形態例を参照してより詳細に説明される。
図1図1は、一実施形態例に係る大型2ストロークディーゼルエンジンの正面図である。
図2図2は、図1の大型2ストロークエンジンの側面図である。
図3図3は、図1の大型2ストロークエンジンを図式的に表示した図である。
図4図4は、一実施形態例に係るシリンダフレームとシリンダライナとを、シリンダカバーと、それに嵌合した排気弁と、TDCとBDCとの両方の位置で示したピストンと共に示す断面図である。
図5図5は、図4のシリンダライナの部分断面図である。
図6図6は、図5の線分VI−VI'に沿ったシリンダライナであって、ガス燃料と噴射される燃焼ガスとが同一の燃料弁から燃焼室に供給される実施形態に係る燃料弁構成を備えたシリンダライナの断面図である。
図7-9】図7は、ガス燃料と噴射される燃焼ガスとが燃料弁に供給される前に混合される実施形態に係る、燃料供給源と燃料弁構成との側面図である。図8は、ガス燃料と噴射される燃焼ガスとが燃料弁内で混合される実施形態に係る、燃料供給源と燃料弁構成との側面図である。図9は、ガス燃料と燃焼ガスとが燃料弁のノズルに供給される前に混合されない実施形態に係る、燃料供給源と燃料弁構成との側面図である。
図10図10は、燃焼ガス噴射弁の側面図である。
図11図11は、図5の線分VI−VI'に沿ったシリンダライナであって、ガス燃料と燃焼ガスとが別々の弁から燃焼室に供給される、別の実施形態に係る燃料弁構成を備えたシリンダライナの断面図である。
図12図12は、ガス交換と燃料噴射サイクルとを示すグラフである。
【詳細説明】
【0064】
以下の詳細な説明において、実施形態例の大型2ストローク低速ターボ過給式内燃クロスヘッドエンジンを参照して内燃エンジンを説明する。図1図2図3は、クランクシャフト8とクロスヘッド9とを備えた大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンの一実施形態を示す。図1図2はそれぞれ正面図と側面図である。図3は、図1図2の大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンをその吸気系と排気系と併せて図式的に示したものである。この実施形態例では、エンジンは4つのシリンダを1列に有している。大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンは通常、エンジンフレーム11に支持された、4から14のシリンダを1列に有している。このエンジンは、例えば、船舶の主エンジンや発電所の発電機駆動用の定置エンジンとして使用される。このエンジンの全出力は、例えば、1,000kWから110,000kWの範囲にある。
【0065】
本実施形態例では、このエンジンは、シリンダライナ1の下部の掃気ポート18とシリンダライナ1の頂部の中央排気弁4とを備えた、2ストロークユニフロー掃気型エンジンである。掃気空気は、ピストンが掃気ポート18より下方にあるときに、掃気空気受け2から個々のシリンダ1の掃気ポート18を通じて送られる。ガス燃料と燃焼ガスとは、ピストンが上昇中でかつ燃料弁30または燃焼ガス噴射弁36を通過する前に、燃料弁30から噴射される(一実施形態(図11)では、燃焼ガスは専用燃焼ガス噴射弁36によって噴射され、各専用燃焼ガス噴射弁36は好ましくはシリンダライナ1内の燃料弁30に近接している)。好ましくは燃料弁30と燃焼ガス噴射弁36の両方共に、シリンダライナの外周の周りに均等に配置されて、シリンダライナ1の長さ方向のほぼ中央部に配置される。これにより、ガス燃料の噴射(および燃焼ガスの噴射)は、圧縮圧力が比較的低いとき、すなわち、ピストンがTDCに達するときの圧縮圧力より著しく低いときに起きる。
【0066】
シリンダライナ1内のピストン10により、充填されたガス燃料と、噴射燃焼ガスと、掃気空気とが圧縮される。圧縮は、TDC点火またはその近傍で起こり、例えば、パイロット油燃料弁50からのパイロット油(または任意の他の適当な点火液)の噴射によりトリガされる。パイロット油燃料弁50は好ましくはシリンダカバー22に配置される。点火後燃焼が起こり、排気ガスが生成される。パイロット油燃料弁50の代わりにまたはそれに加えて、例えば、予燃焼室や、レーザ点火や、グロープラグ(いずれも非図示)などの別方式の点火装置を用いて点火を開始することもできる。
【0067】
排気弁4が開くと、排気ガスはシリンダ1に付随した排気ダクトを通って排気ガス受け3に流入し、第1排気用導管19を通ってターボ過給機5のタービン6に進み、タービン6から第2排気用導管中を通り、エコノマイザ20を経て排気口21から大気中に流出する。タービン6は、シャフトを介して、空気吸入口12から外気を供給されるコンプレッサ7を駆動する。コンプレッサ7は、掃気空気受け2に通じる掃気空気用導管13に加圧掃気空気を供給する。導管13内の掃気空気は、掃気空気冷却用の中間冷却器14を通過する。
【0068】
冷却された掃気空気は電気モータ17により駆動される補助ブロワ16を経て進む。補助ブロワ16は、ターボ過給機5のコンプレッサ7が掃気空気受け2に十分な圧力を供給しないとき、すなわち、エンジンが低負荷または部分負荷状態のときに、掃気空気流を加圧する。エンジン負荷が高いときは、ターボ過給機のコンプレッサ7が十分な加圧掃気空気を供給し、その後補助ブロワ16は逆止弁15を介して迂回される。
【0069】
燃焼ガスは、燃焼ガス弁26によって制御される排気口を通じて燃焼室から抽気される。排気口と燃焼ガス弁26とは好ましくはシリンダカバー20に配置される。燃焼ガス弁26は電子制御装置(図示せず)によって制御され、燃焼ガス弁26の開弁のタイミングと長さは、動作条件、すなわち燃焼室に噴射し戻す必要のある燃焼ガスの量に従って決定される。好ましくは、燃焼ガス弁26は、燃焼ガス噴射時のシリンダ圧力より高い圧力で燃焼ガスを抽気するために、排気ガス弁と同時にまたはそれより前に開弁される。
【0070】
エンジンは、燃焼ガス弁26の排気口から燃料弁30の給気口または専用燃焼ガス噴射弁36の給気口まで延びた燃焼ガス流路を備えている。
【0071】
燃焼ガス流路は、抽気された燃焼ガスを燃料弁30または専用燃焼ガス噴射弁36に供給する働きをする。専用燃焼ガス噴射弁36は、燃焼室内へのガス燃料の噴射と同時に、または順次に、またはオーバラップして燃焼ガスを燃焼室に噴射する。
【0072】
燃焼ガス流路は、燃焼ガスを回収して抽気プロセスでの圧力変動を最小にする燃焼ガス受け27と、必要な背圧の生成により再循環燃焼ガス量の安定な制御を確保する制御弁28と、二酸化硫黄(SO)と煤煙粒子とが必要な程度まで除去されるように再循環燃焼ガスを洗浄する湿式スクラバー29と、再循環燃焼ガスを掃気空気と同温度まで冷却する燃焼ガス冷却器39と、燃焼ガス再循環系44の休止の間に系を閉鎖して湿式スクラバー29に対して緊密にする遮断弁38と、スクラバー水の洗浄と煤煙粒子と清浄水との分離を行う水処理系45とを含む。燃焼ガス流路はさらに、燃焼ガス供給用導管48と燃焼ガス供給用導管37とを含む。一実施形態では、燃焼ガス供給用導管48は、燃焼ガス弁26の排気口と燃焼ガス受け27の給気口とを接続すると共に、燃焼ガス受け27の排気口と湿式スクラバー29の給気口とを接続する。燃焼ガス供給用導管48には(好ましくは燃焼ガス受け27と湿式スクラバー29との間に)制御弁28が配置されている。また、燃焼ガス流路は、燃焼ガス供給用導管37を含む。一実施形態において、燃焼ガス供給用導管37は、湿式スクラバー29の排気口を燃焼ガス冷却器39の給気口に接続すると共に、燃焼ガス冷却器39の排気口を燃料弁30の給気口または専用燃焼ガス噴射弁36の給気口に接続する。一実施形態において、遮断弁38は、燃焼ガス冷却器39と燃料弁30または専用燃焼ガス噴射弁36の給気口との間で燃焼ガス供給用導管37内に設置されている。
【0073】
燃焼ガス弁26はエンジンのシリンダごとに1つだけ設けられてもよいし複数設けられてもよい。
【0074】
一実施形態において、燃焼ガス受け27はエンジンの全てのシリンダの燃焼ガス弁26に接続され、その結果燃焼ガス流路は燃焼ガス受け27から遮断弁38まで一連なりになっている。すなわち、燃焼ガス流路は、燃焼ガス受け27と、制御弁28と、湿式スクラバー29と、燃焼ガス冷却器39と、遮断弁38とをいずれも1つだけ含む。
【0075】
ガスが洗浄系に入る前に安定な圧力を得るために、約700℃の高温燃焼ガスが燃焼ガス弁26によって燃焼室から抽気されて燃焼ガス受け27内に供給され、燃焼ガス受け27内で燃焼ガス弁26の開閉によって生じる圧力変動が低減される。効率的な洗浄プロセスのためには、スクラバー内が安定な圧力状態であることが好ましい。
【0076】
湿式スクラバー29内で再循環燃焼ガスは再循環清浄水によって洗浄される。再循環清浄水は、好ましくは水とSO並びに三酸化硫黄(SO)との反応の間に生成した硫酸を中和するためにNaOHが添加される。スクラバー水の蒸発によって、温度は湿式スクラバー29内において90℃付近で平衡温度に達する。スクラバー水の蒸発分は10%から20%のみであり、残りの汚れたスクラバー水はスクラバーから排出されて、水処理系45の一部であるバッファタンクに回収される。水処理系45は、汚れたスクラバー水を洗浄し、スクラバーに清浄な再循環スクラバー水を供給する。水処理系45は、スラッジ排出部46と清浄水排出部47とを備えており、清浄水排出部47からスクラバーに清浄水が供給されてもよい。
【0077】
洗浄された再循環燃焼ガスは次に燃焼ガス冷却器39で冷却される。冷却の間にかなりの量の水が燃焼ガス冷却器39内で凝縮する。
【0078】
一実施形態において、再循環燃焼ガスは約35℃から40℃の掃気空気温度まで冷却される。
【0079】
一実施形態において、再循環燃焼ガスがコンプレッサ7から送られる冷却された掃気空気と混合され、混合された燃焼ガスと掃気空気とが燃料弁30または専用燃焼ガス噴射弁36に供給されて、燃料噴射時にガス燃料と同時に、または順次に、またはオーバラップして噴射される。掃気空気は掃気空気供給ダクト52を通じて供給され、掃気空気の量は掃気空気弁53によって制御される。掃気空気弁53を用いて燃焼ガス供給用導管37への掃気空気の供給が遮断される。または、図示されていない独立した遮断弁が掃気空気供給ダクト52に設けられる。
【0080】
再循環燃焼ガスの量の制御は、燃焼ガス弁26の開閉時のタイミングによって行うことができる。これにより異なるモード(すなわち、燃焼ガス再循環に関する国際海事機関(IMO)の2次規制および3次規制モード)での動作が可能になる。さらに、再循環燃焼ガスの量を負荷範囲全域にわたって変化させることができる。
【0081】
一実施形態において、燃焼ガス弁26は、排気弁4が開口を開始する前に、35度から50度の開口を始める。一般的な大型2ストロークインフロー掃気式クロスヘッド内燃エンジンでは、このときの圧力は約15バールから30バールの範囲にある。
【0082】
ガス燃料によってエンジンが動作する一実施形態では、予燃焼またはディーゼルノックを避けるために燃焼ガスの量を少なくする必要がある。すなわち、燃焼ガス噴射弁を低いシリンダ圧力で後から開弁させる。
【0083】
燃焼ガス弁26の開弁長さは燃焼ガス弁26の寸法と数とに依存する。開弁時間および期間は再循環燃焼ガスの必要量に基づいて変化する。
【0084】
図12は、掃気ポート18(吸気ポート)と、排気弁4と、ガス弁(ガス燃料弁30と燃焼ガス噴射弁36)とのそれぞれの開弁期間と閉弁期間とをクランク角の関数として示したグラフである。グラフが示すように、ガス燃料と燃焼ガスとを噴射する期間はきわめて短く、そのためにガス燃料が燃焼室内で掃気空気と混合される時間がきわめて短い。ガス燃料と噴射燃焼ガスとはこのきわめて短い期間内に噴射されなければならない。
【0085】
噴射される燃焼ガスはかなりの量であり、また噴射圧力は高い。これは、大きい運動量の噴射燃焼ガスを得るために、比較的高速で噴射される比較的大量の燃焼ガスを得るためである。
【0086】
噴射された燃焼ガスの運動量が噴射されたガス燃料の運動量と組み合わさって、ガス燃料単独の運動量よりも著しく大きい合計運動量が生じる。
【0087】
噴射される燃焼ガスは反応性物質であるが発熱量を全く有さないので、燃焼室に噴射される全物質の発熱量は単独で燃焼室に噴射されるガス燃料の発熱量と実質的に違わない。
【0088】
1回のエンジンサイクルで噴射されるガス燃料の量は、エンジン負荷によって決定される。1回のエンジンサイクルで噴射される燃焼ガスの量は、噴射されたガス燃料の速度(この速度はガス燃料の噴射圧力と、燃料弁のノズルと、ノズル穴の形状とに関係する)に依存すると共に、特定の種類のガス燃料で動く特定のエンジンの過早点火またはディーゼルノックを防ぐ必要性に依存し、簡単な試行錯誤によって決定することができる。
【0089】
燃焼ガスはエンジンサイクルごとに噴射されることが好ましい。エンジン負荷が低い場合、通常は過早点火またはディーゼルノックのリスクがきわめて低い。したがって、一実施形態では、エンジン負荷が高い場合(例えば、エンジンの最大連続定格の60%から70%を超える場合)、燃焼ガスだけが燃焼室に噴射される。
【0090】
一実施形態において、エンジンは図示されていないノックセンサを備え、添加される燃焼ガスの量はノックセンサからの信号に応じて制御される。すなわち、過早点火またはディーゼルノックが検出されたときに噴射される燃焼ガスの量(質量)を増やす(過早点火またはディーゼルノックが検出されないときはしばらくしてから燃焼ガスの量を減らす)。
【0091】
一実施形態において、燃焼ガスは、ガス燃料との混合気としてガス燃料と同時に噴射される。あるいは、1つのノズルの別々のノズル穴または1つの燃料弁の別々のノズルを通じてガス燃料弁30から別々に噴射される。
【0092】
一実施形態において、燃焼ガスは、専用燃焼ガス噴射弁36から単独で、ガス燃料と同時に、順次に、またはオーバラップして噴射される。
【0093】
図4図5図6は、大型2ストローククロスヘッドエンジンに通常使用されるシリンダライナ1を示す。シリンダライナ1は、エンジンサイズに応じて、シリンダ内径は通常250mmから1,000mmの範囲で、またこれに対応するシリンダ長は通常1,000mmから4,500mmの範囲で、種々のサイズに作製される。
【0094】
図4に示したシリンダライナ1は、気密界面を介してシリンダカバー22がシリンダライナ1の頂部に配置された状態でシリンダフレーム23に搭載されている。図4では、ピストン10は下死点(BDC)と上死点(TDC)とで破線で示されているが、これら2つの位置は同時には起こり得ず、クランクシャフト8の180度回転分隔たっていることは言うまでもない。シリンダライナ1は、シリンダ油穴25とシリンダ油路24とを備えており、ピストン10がシリンダ油路24を通過する際にシリンダ油路24によってシリンダ潤滑油が供給され、次に来るピストンリング(図示せず)がシリンダライナ1の滑走面にわたってシリンダ潤滑油を行き渡らせる。
【0095】
図示の実施形態では、壁49の最も薄い部分はシリンダライナ1の底部、すなわち、掃気ポート18の下方の部分になる。シリンダライナ1の壁49の最も厚い部分はシリンダライナ1の軸方向の上部になる。シリンダライナ1は、その軸方向中央部の周囲で厚さが急激に変化しており、この変化部分がシリンダをシリンダフレーム23上に載置させるショルダの働きをしている。シリンダカバー22は、引付けボルトから加えられる大きな力でシリンダライナ1の上面に押し付けられている。
【0096】
パイロット油弁50(通常シリンダごとに2つ以上)またはパイロット油弁50を備えた予燃焼室がシリンダカバー22に搭載されて、図示されていないパイロット油源に接続される。一実施形態において、パイロット油噴射のタイミングは図示されていない電子制御装置によって制御される。
【0097】
各燃料弁30は、該弁30のノズルがシリンダライナ1の内面と実質的に面一でかつ後端がシリンダライナ1の外壁から突出した状態で、シリンダライナ1に取り付けられている。通常、1つか2つ(場合によっては3つか4つ)の燃料弁30が、各シリンダライナ1の適所に周方向に配置される形で、シリンダライナ1に設けられている。一実施形態において、燃料弁30はシリンダライナ1の長さ方向のほぼ中央に配置される。
【0098】
図5図6にシリンダライナ1と燃料弁30とをより詳しく示す。この実施形態では、シリンダライナ1は4つの燃料弁30を備えている。図6に示した燃料弁30は径方向を向いているが、燃料弁30をシリンダライナ1に対して他の角度で配置することもできることは明らかである。この実施形態では、エンジンは専用燃焼ガス噴射弁36を有さず、燃焼ガスはガス燃料弁30によって噴射される。
【0099】
図6は、燃料噴射弁30の高さでのシリンダライナ1の断面図であり、ガス燃料供給用導管41を介して各ガス燃料弁30の給気口に接続された加圧ガス燃料供給源40を含むガス燃料供給系を模式的に示した図である。ガス燃料弁30の給気口は燃焼ガス供給用導管37にも接続されている。
【0100】
一実施形態では、燃料弁30はガス燃料と燃焼ガスとの共通(混合)供給源に接続されている。
【0101】
図7に示した燃料弁30は、1本の供給ライン42を介して加圧燃料源40と燃焼ガス抽気/再循環系44との両方に接続されている。供給ライン42は、燃焼ガス供給用導管37とガス燃料供給用導管41との両方が接続された混合点に接続されている。一実施形態では、図示されていない弁を設けてガス燃料と燃料弁30に供給された燃焼ガスとの所望の割合が確保される。共通導管32によって混合気がガス燃料弁30の給気用開口34に移送される。混合気は給気用開口34から燃焼室内に給気される。燃料弁30は、例えば、電子制御装置による制御下で混合気を燃焼室に時限噴射する手段を備えている。
【0102】
図7の実施形態の一変形において、ガス燃料と燃焼ガスとは混合されず、ガス燃料と噴射燃焼ガスとのいずれかを先にして(実質的に途切れることなく)順次燃料弁30に供給されて順次噴射される。
【0103】
図8に示される別の実施形態では、ガス燃料源40が専用供給ライン41によって燃料弁30の専用ポートに接続される。ガス燃料が専用導管31によって燃料弁30内の混合点33に導かれる。燃焼ガス抽気/再循環系44が、燃焼ガス供給用導管37によって燃料弁30の専用ポートに接続される。専用導管35が燃焼ガスを燃料弁30内部の混合点33に導く。混合点33でガス燃料と燃焼ガスが混合され、混合気が共通導管32によって混合点33から給気用開口34に移送される。ガス燃料が給気用開口34から燃焼室に給気される。燃料弁30は、例えば、電子制御装置の制御下で混合気を燃焼室に時限噴射する手段を備えている。
【0104】
図9に示される別の実施形態では、ガス燃料源40が専用供給ライン41によって燃料弁30の専用ポートに接続されている。専用導管31がガス燃料を第1ノズル39に導く。燃焼ガス抽気/再循環系44が、燃焼ガス供給用導管37によって燃料弁30の専用ポートに接続されている。専用導管35が燃焼ガスを燃焼ガス給気用開口51に導く。給気用開口34からガス燃料が燃焼室に給気され、燃焼ガス給気用開口51から燃焼ガスが燃焼室内に噴射される。燃料弁30は、例えば、電子制御装置の制御下でガス燃料と燃焼ガスとを燃焼室内に時限噴射する手段を備えている。
【0105】
図11に示される別の実施形態では、シリンダライナ1が、ガス燃料を噴射する専用燃料弁30と、燃焼ガスを燃焼室内に噴射する専用燃焼ガス噴射弁36とを備えている。
【0106】
専用燃焼ガス噴射弁36は、該弁36の燃焼ガス噴射用開口51がシリンダライナ1の内面と実質的に面一でかつ後端がシリンダライナ1の外壁から突出した状態で、シリンダライナ1に取り付けられている。通常、1つか2つ(場合によっては3つか4つ)の専用燃焼ガス噴射弁36が、各シリンダライナ1の適所に周方向に均等に配置される形で、各シリンダライナ1に設けられている。一実施形態において、専用燃焼ガス噴射弁36はシリンダライナ1の長さ方向のほぼ中央で、好ましくは専用ガス燃料弁30に近接して配置される。
【0107】
加圧ガス燃料供給源40は(本実施形態では4つの)ガス燃料弁30に接続され、燃焼ガス抽気/再循環系44は(本実施形態では4つの)専用燃焼ガス噴射弁36に接続される。ガス燃料弁30と燃焼ガス噴射弁36とは、例えば、電子制御装置の制御下でガス燃料と燃焼ガスとを燃焼室内に時限噴射する手段を備えている。図11では燃料弁30と燃焼ガス噴射弁36とは密接した対として示されているが、この配置はあくまでも一例であって、燃料弁30と燃焼ガス噴射弁36とは対にして配置する必要はなく、もっと広い間隔を置いて配置することも可能なことは明らかである。
【0108】
図10は、燃焼ガスを燃焼室内に噴射する少なくとも1つの燃焼ガス噴射用開口51を備えた燃焼ガス噴射弁36の側面図である。図示の燃焼ガス噴射弁36はその近接端が燃焼ガス供給用導管37に接続されている。
【0109】
一実施形態において、燃焼ガスの圧力は図示されていないコンプレッサによって適当な噴射圧力まで高められる。燃焼ガスは既に加圧されているので、空気またはガスの圧力を噴射圧力まで高めるのに必要なエネルギは、この噴射圧力までの加圧を大気圧から始めた場合に比べて少ない。
【0110】
一実施形態において、混合時間を長めにするために、排気弁が閉じる前にガス燃料が給気される。燃焼ガスの噴射タイミングはこれに応じて調整される。
【0111】
図示されていない一実施形態において、シリンダが、独立したパイロット液(パイロット油)噴射系からのパイロット噴射によって燃料補給される、点火用の予燃焼室を備えている。
【0112】
図示されていない一実施形態において、ガス燃料が1つのガス燃料弁から複数のガス燃料給気用開口に供給され、さらにこのガス燃料給気用開口から燃焼室に給気される。
【0113】
一実施形態では、エンジンが複数のシリンダを有しており、その内の1つ以上のシリンダは請求の範囲に規定されたとおりに動作するが、残りのシリンダは燃焼室内に燃焼ガスを噴射することなく動作する。あるいは、残りのシリンダは液体燃料で動作する。
【0114】
本明細書において種々の態様と実施態様とを種々の実施形態との関連で説明した。しかし、図面と、明細書と、添付した特許請求の範囲とを検討することにより、本開示の各実施形態の種々の他の変形は、特許請求された主題の実施に際して当業者によって理解され実行される。特許請求の範囲において、用語「備える(含む)」は他の要素や工程を排除するものではない。1つのプロセッサまたはその他の装置が、特許請求の範囲に列挙された複数の項目の機能を満たすこともある。複数の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されていることは、これらの手段の組合せを有効に使用することはできないことを示すものではない。
【0115】
特許請求の範囲に使用された参照符号は、発明の技術的範囲を制限する意味のものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-9】
図10
図11
図12