(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807535
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】線維芽細胞増殖剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20201221BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20201221BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20201221BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20201221BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20201221BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20201221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20201221BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K36/185
A61P17/00
A61P17/16
A61P43/00 107
A61K131:00
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-20766(P2017-20766)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2018-115143(P2018-115143A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2020年1月18日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日(ウェブサイトの掲載日) 平成28年11月1日 ウェブサイトのアドレス https://cosme2017.tems−system.com/exhiSearch/CT/jp/Details?id=C%2F2G3Fs18FE%3D&type=8
(73)【特許権者】
【識別番号】500081990
【氏名又は名称】ビーエイチエヌ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512127073
【氏名又は名称】有限会社エール
(72)【発明者】
【氏名】田中 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】野崎 勉
(72)【発明者】
【氏名】石原 健夫
(72)【発明者】
【氏名】倉本 哲
【審査官】
田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−519353(JP,A)
【文献】
特表2001−518910(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/157485(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 36/00−36/9068
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクラ(Abelmoschus esculentus)の完熟した種子の蛋白質分解酵素による加水分解物から得た水溶性成分を有効成分として含有してなる線維芽細胞増殖剤。
【請求項2】
蛋白質分解酵素がアルカリ性プロテアーゼ及び/又は中性プロテアーゼである請求項1に記載の線維芽細胞増殖剤。
【請求項3】
蛋白質分解酵素がアルカリ性プロテアーゼである請求項1に記載の線維芽細胞増殖剤。
【請求項4】
オクラ(Abelmoschus esculentus)の完熟した種子を蛋白質分解酵素で加水分解し、該加水分解物から採取した水溶性成分を含有せしめることを特徴とする線維芽細胞増殖剤の製造方法。
【請求項5】
蛋白質分解酵素がアルカリ性プロテアーゼ及び/又は中性プロテアーゼである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
蛋白質分解酵素がアルカリ性プロテアーゼである請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の線維芽細胞増殖剤を皮膚に塗布又は経口で摂取することを特徴とする、皮膚のトラブル改善、老化症状回復及び/又は美肌促進のための美容方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オクラの完熟種子を酵素処理した加工物を有効成分として含有してなる線維芽細胞増殖剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、表皮、真皮及び皮下組織から構成されている。表皮は、外界と接し、角質層、顆粒層、有棘層及び基底層からなり、基底層で産生された角化細胞(ケラチノサイト)が分裂を繰り返しながら有棘細胞、顆粒細胞を経て角質細胞となって皮膚表面を覆い、古くなった角質細胞は垢となって剥離する。角化細胞が基底層から角質層に至るまでの期間(約14日間)及び角質細胞として皮膚表面を保護する期間(約14日間)の合計を、皮膚の新陳代謝としてターンオーバーという。真皮組織は、細胞が少なく、主にコラーゲンやエラスチン等の蛋白質、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸等のムコ多糖類といった細胞外成分で占められており、マトリックス構造を形成して細胞及び皮膚組織の支持、細胞間隙における保水、皮膚の潤滑性と柔軟性の保持、紫外線、乾燥環境、機械的刺激や損傷、微生物感染等の外的因子から皮膚組織を保護する等の役割を担っている。これらの細胞外成分は線維芽細胞により産生される(非特許文献1)。
【0003】
線維芽細胞によって産生される前記細胞外マトリックス成分は、日常的に、活性酸素や微生物の影響あるいは紫外線照射を受けて変性し分解されて、肌のシワ、シミ、ソバカス、かさつき、肌荒れ等の皮膚トラブルを誘発する。又、加齢にともない生体の諸機能が低下し、組織は老化し、皮膚組織中のヒアルロン酸等の細胞外成分の含量も減少することが知られている(非特許文献2)。皮膚組織中のヒアルロン酸やコラーゲン等の含量が減少すると、乾燥肌、肌荒れ、弾力性や柔軟性の低下、張りや艶の減少、シワ・たるみ・くすみの増加等の皮膚トラブルや肌の老化症状をひき起こす。したがって、若々しく健康な肌(以下、美肌ということがある。)を保つためには前記細胞外マトリックス成分を補給することが必要であり、このためには真皮組織中の前記成分産生細胞である線維芽細胞を増強させることが望ましい。
【0004】
皮膚繊維芽細胞の増強物質を探索する試みとして、これまでにハイビスカス抽出物(特許文献1)、L−アスコルビン酸及びその誘導体(特許文献2)、アーモンド、セイヨウタンポポ、センブリ、ホップ等の抽出物(特許文献3)、コラーゲン加水分解トリペプチド(特許文献4)、ローズマリー抽出物(特許文献5)、α−D−グルコピラノシルグリセロール(特許文献6)、特定アミノ酸配列を有するポリペプチド(特許文献7)等が提案されている。
【0005】
これら成分や抽出物は、例えば、化粧料や外用剤に配合して皮膚に適用される可能性が開示されているが、経皮吸収の点で難点があり、皮膚洗浄時には容易に洗い流される等のために前記皮膚トラブルに対する効果が持続せず、皮膚組織の生理的機能を本質的に改善するものではなかった。又、ペプチド類を経口摂取する場合には胃腸内で変質や分解を受けるリスクがあり、実用面において有効性を発現し得るものは数少なかった。更には、併用する原料や成分によっては実用製品の色調、風味、物性等に影響を及ぼし、安定性や使用面、コスト面等の点でも必ずしも満足できるものではなかった。したがって、前述した皮膚トラブルや肌の老化症状を改善して美肌を促進し得る、実効性のある素材が求められていた。
【0006】
後述するオクラについては、次のようなことが知られている。すなわち、オクラ(学名:アオイ科トロロアオイ属に属する(
Abelmoschus esculentus)は、「gambo(オクラ)」というスペイン語の名前で米国及び東インドにもたらされたアフリカ起源の植物である。2,000年以上も前からその果実である莢(さや)を食用に供するために裁培されてきた歴史をもつ。
【0007】
オクラは、世界の数多くの地域、一般的には、インド、マレーシア、フィリピン、アメリカ(中西部)、地中海、アフリカ等の熱帯〜温帯地域で生育している。野菜として未熟なままで食べられる果実(莢)は、細長く、緑色で、先細り型のものである。これらは繊細な風味と粘液質の食感を有する。
【0008】
オクラを加工して得られるエキスや成分を産業的に利用する試みとして、オクラ抽出物を含むヒアルロン酸合成促進剤及び該剤を配合する化粧料や飲食品(特許文献8)、オクラ種子由来のオリゴペプチド及び特定植物抽出物を含有する老化防止用皮膚外用剤(特許文献9)、オクラ種子の抽出物の加水分解物を利用する皮膚化粧料(特許文献10)等が提案されている。しかしながら、オクラの完熟種子を酵素処理して得られる水溶性成分が線維芽細胞を増強させることを記載したものは見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−295928号公報
【特許文献2】特表平10−509735号公報
【特許文献3】特開平10−36279号公報
【特許文献4】特開2002−255847号公報
【特許文献5】特開2004−137217号公報
【特許文献6】特開2004−331578号公報
【特許文献7】特開2006−265221号公報
【特許文献8】特開2004−51533号公報
【特許文献9】特開2008−74757号公報
【特許文献10】特開2007−197325号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】服部道広、「スキンケアの科学」、第6頁〜第14頁及び第15頁〜第83頁、(株)裳華房、1997年2月25日発行
【非特許文献2】Maria O.Longas等、“Evidence for structural change in dermatan sulfate and hyaluronic acid with aging”(オランダ)、1987年、Carbohydr.Res.、第159巻、第127頁〜第136頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
かかる現状に鑑み、本発明は、紫外線、活性酵素、加齢等を起因とする代謝機能の低下によってもたらされる皮膚組織中のヒアルロン酸やコラーゲン等の低減を回復させ、皮膚組織の本来の機能を改善し、乾燥肌、肌荒れ、弾力性や柔軟性の低下、張りや艶の減少、シワ・たるみ・くすみの増加等の皮膚トラブルを予防及び/又は改善し、更には美肌を促進するための皮膚外用剤、飲食品、医薬品等の組成物に利用することができる、安全かつ安定な線維芽細胞増殖剤及びその製造方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明者らは、皮膚の線維芽細胞を増強する素材とその加工方法について鋭意検討を重ねた結果、完熟したオクラ種子を特定の酵素で加水分解処理した加工物が有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の特徴は、オクラ(
Abelmoschus esculentus)の完熟した種子の蛋白質分解酵素による加水分解物から得た水溶性成分を有効成分として含有してなる線維芽細胞増殖剤にある。
ここで、前記蛋白質分解酵素は、アルカリ性プロテアーゼ及び/又は中性プロテアーゼであることが望ましく、更には、アルカリ性プロテアーゼであることがより望ましい。
【0014】
本発明の他の特徴は、オクラ(
Abelmoschus esculentus)の完熟した種子を蛋白質分解酵素で加水分解し、該加水分解物から採取した水溶性成分を含有せしめる線維芽細胞増殖剤の製造方法にある。
なお、前記蛋白質分解酵素は、アルカリ性プロテアーゼ及び/又は中性プロテアーゼであることが望ましく、アルカリ性プロテアーゼであることがさらに望ましい。
【0015】
本発明のさらに他の特徴は、前記の線維芽細胞増殖剤を皮膚に塗布又は経口で摂取する、皮膚のトラブル改善、老化症状回復及び/又は美肌促進のための美容方法にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るオクラの完熟種子の酵素分解物から採取した水溶性成分は、品質安定性に優れ、皮膚の線維芽細胞に対して毒性が認められず安全性が高く、線維芽細胞の増殖を促進する効果を奏する。このため、皮膚組織の線維芽細胞によるコラーゲン及び/又はヒアルロン酸の産生を増強し、皮膚のターンオーバーを促して皮膚のシワ、シミ、くすみ、ソバカス及びたるみ等の皮膚トラブルを改善し、更には美肌を促進することが可能となる。又、損傷を受けた皮膚の再生を促進して肌の健康維持に寄与することが期待できる。
かかる効果は、本発明の線維芽細胞増殖剤を皮膚に塗布又は接触させること、或は、経口的に摂取又は投与することによって顕著に発現される。
したがって、本発明の線維芽細胞増殖剤はとりわけ皮膚外用剤、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の分野において、前記剤の態様のままで又は前記分野の従来の各種製品に配合した形態で、皮膚改善のために有効利用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。まず、本発明の線維芽細胞増殖剤は、生体組織とりわけ皮膚の真皮組織中に存在する線維芽細胞の増殖を促進させる作用を有するものであり、前記オクラの完熟した種子の酵素分解物から得られる水溶性成分を有効成分として含有してなることを特徴とする。
【0018】
オクラは、一般に、形状による分類では、アーリーファイブ、ベターファイブ、グリーンソード等と称せられる5角莢種、クリムソン、スパインレス等と呼ばれている8角莢種、エメラルド等として知られている丸オクラがあり、これらの他に、平城グリーン、ダビデの星、ピークファイブ、島オクラ、八丈オクラ、まるみちゃん、レディーフィンガー等の名称で流通しているものが知られている。色の分類では、緑色が最も多いが、紅色のベニー、白色の白オクラ等を例示することができる。本発明に係るオクラは、これらの種類に制限はなく、任意のものを使用することが可能である。
【0019】
本発明では、前記オクラの完熟した種子を原料とする。完熟した種子とは、植物体が成長した果実(莢)から収穫或いは自然発生的に飛散する種子を指し、濃緑色〜黒褐色で、大きさが直径5mm前後のもので、播種により発芽する能力を有するものである。これに対して、未熟な種子は、成長途上にある莢の中に包含されており、白色〜黄白色の約2〜4mm径のものであり、通常は、莢とともに食用に供せられる。オクラの完熟種子は、オクラを栽培するために種苗会社から市販されており、本発明ではこれを用いるのが簡便である。
【0020】
オクラの完熟種子は、粗粉砕ないしは微粉砕し、水を加えて分散液とした後、蛋白質分解酵素を添加(完熟種子に対して約0.1〜約5質量%、より好ましくは約0.5〜約2質量%)して、常温ないしは適宜に加熱(約30〜約90℃、より好ましくは約40〜約60℃)し、静置ないしは適宜に撹拌しながら、約10分〜数日間、より好ましくは30分〜数時間、加水分解処理を行わせる。次いで、この処理物を加熱処理して前記酵素を失活させ、遠心分離、濾過等の常法で処理して水不溶物を除去し、より望ましくは常温付近もしくはそれ以下の低温で濃縮及び乾燥処理あるいは凍結乾燥処理することにより、本発明に係る水溶性成分を製造することができる。なお、この水溶性成分を産業上利用するに当たって殺菌処理が必要な場合は、加熱にともない水不溶物を生じることがあるため、非加熱下でメンブレンフィルターによる濾過等の殺菌処理を選択することが望ましい。
【0021】
ここで、前記蛋白質分解酵素としては、基本的にはあらゆる種類やタイプのものを使用することができるが、とりわけアルカリ性プロテアーゼ及び/又は中性プロテアーゼであることが望ましく、更には、アルカリ性プロテアーゼであることがより一層望ましい。アルカリ性プロテアーゼは、概ねpH8以上で活性を発現するものをいうが、pH6.5〜12程度で作用を示すであれば使用することができる。中性プロテアーゼは、概ねpH6〜8で活性を有するものをいうが、pH5〜8程度で作用を示すものであれば差し支えない。また、これらの両プロテアーゼは各々が1種のみならず2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
アルカリ性プロテアーゼの例として「プロチンSD−AY10」、「プロテアーゼP「アマノ」3SD」、「プロレザー(登録商標)FG−F」(以上は天野エンザイム(株)製)、「アルカラーゼ(登録商標)2.4LFG」(ノボザイムズ社製)、「オリエンターゼ(登録商標)22BF」(エイチビィアイ(株)製)、「アロアーゼ(登録商標)XA−10」(ヤクルト薬品工業(株)製)、「スミチーム(登録商標)MP」(新日本化学工業(株)製)、「ビオプラーゼOP、SP−20FG、AL−15FG、30G、APL−30及び30L」(ナガセケムテックス(株)製)、「OPTIMASE(登録商標)PR89L」、「MALTIFECT(登録商標)PR6L」(以上はダニスコUS社製)、「プロティナーゼK」、「キモトリプシン」(以上はロシュ社製)等を挙げることができる。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
中性プロテアーゼの例として「Flavourzyme(登録商標)」、「PROTAMEX(登録商標)MG」、「Neutrase」(以上はノボザイムズ社製)、「パンチダーゼ(登録商標)P及びMP」、「アロアーゼ(登録商標)AP−10、NP−10及びNS」(以上はヤクルト薬品工業(株)製)、「ヌクレイシン(登録商標)」、「オリエンターゼ(登録商標)10NL及び90N」(以上はエイチビィアイ(株)製)、「プロチンP」(大和化成(株)製)、「プロテアーゼA「アマノ」G」、「パパインW40」、「ブロメラインF」(以上は天野エンザイム(株)製)、「スミチーム(登録商標)LP及びLPL」(新日本化学工業(株)製)、「食品用精製パパイン」、「デナチームAP」(以上はナガセケムテックス(株)製)、「トリプシン」(ロシュ社製)等を挙げることができる。本発明はこれらの例示に何ら制限されるものではない。
【0024】
前述のように処理して得られる本発明に係る水溶性成分は、オクラの完熟種子に含まれる蛋白質、多糖蛋白複合体、多糖等が加水分解を受けて生じた種々様々な成分(ペプチド類、アミノ酸類、オリゴ糖類、単糖ないしはオリゴ糖類とペプチド又はアミノ酸との結合体等)を含有する複雑な組成物である。これらの構成要素は、解析するには多大な労力と時間を必要とするため、現時点では明確ではない。
【0025】
本発明では、前記水溶性成分が、後述するように、皮膚の線維芽細胞を顕著に増殖する作用を有するため、これをそのまま、又は、適宜に公知の賦形剤(デキストリン、セルロース、微粒二酸化ケイ素、ゼラチン、低級アルコール、水等)を併用して液体状、粉末状、顆粒状、カプセル状の形態に加工処理することにより、本発明の線維芽細胞増殖剤を製造すればよい。この場合、前記水溶性成分と前記賦形剤の割合(質量比)は任意であるが、100〜約20:0〜約80が望ましく、100〜約50:0〜約50が更に望ましい。前記水溶性成分の割合が前記下限値を下回ると本発明の所望の効果を発現しないことがある。
【0026】
本発明の線維芽細胞増殖剤は、これを皮膚へ塗布又は外用する或いは経口で摂取又は投与して、皮膚の前記トラブルを改善し、老化症状を回復し、更には、美肌を促進するための美容方法として利用することができる。
【0027】
参考までに、この適切な態様は、本発明の線維芽細胞増殖剤を固体状、ゲル状、ペースト状又は液体状の形態となし、皮膚外用剤、飲食品、医薬品、医薬部外品等とすることが可能であり、あるいは、これらの製品を製造するために利用される公知の添加物(界面活性剤、結合剤、酸化防止剤、保湿剤、防腐剤、着色剤、香料等)や本発明の趣旨に反しない素材(線維芽細胞増殖促進作用、コラーゲン及び/又はヒアルロン酸産生促進作用、皮膚老化防止作用、美肌促進作用等が公知の素材)を適宜に併用して常法により前記各種製品とすることが可能である。
【実施例】
【0028】
次に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、以下において、特記しない限り部や%は質量基準である。
【0029】
製造例1
鹿児島県指宿産オクラの完熟種子をミルで粗粉砕し、この100部に蒸留水300部を加えて撹拌しながら58℃に加熱して分散液(pH7.5)を調製し、これに蛋白質分解酵素として「オリエンターゼ22BF」(エイチビィアイ(株)製、商品名、アルカリ性プロテアーゼ)1部を添加して5時間ゆるやかに撹拌を続けた。この後、酵素を失活させ(80℃で30分間)、不溶物を遠心分離で除去し、凍結乾燥して水溶性成分(試料1)を得た。
【0030】
比較製造例1
製造例1において、完熟種子を未熟種子に代えたことを除き同様に処理して水溶性成分(比較試料1)を得た。
【0031】
比較製造例2
製造例1において、酵素を失活させた後、更に、90℃で1時間加熱処理を行ったことを除いて同様に処理して水溶性成分(比較試料2)を得た。
【0032】
製造例2
製造例1において、蛋白質分解酵素として「アロアーゼXA−10」(ヤクルト薬品工業(株)製、商品名、アルカリ性プロテアーゼ)を使用したこと以外は同様に処理して水溶性成分(試料2)を得た。
【0033】
製造例3
製造例1において、55℃に加熱して分散液を調製したこと及び蛋白質分解酵素として「オリエンターゼ90N」(エイチビィアイ(株)製、商品名、中性プロテアーゼ)を使用したこと以外は同様に処理して水溶性成分(試料3)を得た。
【0034】
製造例4
製造例1において、55℃に加熱して分散液を調製したこと及び蛋白質分解酵素として「アロアーゼNP−10」(ヤクルト薬品工業(株)製、商品名、中性プロテアーゼ)を使用したこと以外は同様に処理して水溶性成分(試料4)を得た。
【0035】
製造例5
製造例1において、55℃に加熱して分散液を調製したこと及び蛋白質分解酵素として「パパインW40」(天野エンザイム(株)製、商品名、中性プロテアーゼ)を使用したこと以外は同様に処理して水溶性成分(試料5)を得た。
【0036】
製造例6
製造例1において、50℃に加熱して分散液を調製したこと及び蛋白質分解酵素として「プロテアーゼA「アマノ」G」(天野エンザイム(株)製、商品名、中性プロテアーゼ)を使用したこと以外は同様に処理して水溶性成分(試料6)を得た。
【0037】
製造例7
製造例1において、45℃に加熱して分散液を調製したこと及び蛋白質分解酵素として「パンチダーゼP」(ヤクルト薬品工業(株)製、商品名、中性プロテアーゼ)を使用したこと以外は同様に処理して水溶性成分(試料7)を得た。
【0038】
試験例
前記製造例で得た各試料が皮膚線維芽細胞の増殖作用に及ぼす影響を以下に述べる方法で調べた。
【0039】
試験例1:線維芽細胞増殖作用(その1)
ペトリディッシュ(φ10cm)で、正常ヒト成人皮膚線維芽細胞(クラボウ(株)製、NHDF(NB)。以下、単に細胞という。)を10%ウシ胎児血清(第一化学薬品(株)製)添加D−MEM培地(シグマ社製、低グルコース)に2×10
5個播き、サブコンフルエント(約80%密度)になるまで4日間培養した。次いで、培地を除去し、細胞をPBS5mLで2回洗浄し、更に0.02%EDTA溶液5mLで洗浄した後、0.25%トリプシン溶液(ナカライテスク(株)製)5mLを用いて細胞を回収し、遠心分離(4℃、1,000rpm、5分)して上清を除き、PBSで2回洗浄して細胞を得た。この細胞を前記条件下で繰り返し培養して継代培養した。
【0040】
96穴細胞培養プレート(0.32cm
2、旭テクノグラス(株)製)を用い、前記継代培養細胞をヒト皮膚線維芽細胞増殖用低血清培地(クラボウ(株)製、皮膚線維芽細胞基礎培地(106S)500mLに低血清増殖添加剤(LSGS)10mLを添加した培地)中に1×10
4個/ウェル播種し、37℃で24時間培養した。次いで、培地を除去し、終濃度が3〜1,000μg/mLの設定値となるように各試験試料を加えたサンプル200μLを前記2%LSGS‐106S培地に添加して、5日間培養した。この後、MTT溶液(チアゾリルブルーテトラゾリウムブロマイド(シグマ社製、試薬)を濃度5mg/mLで溶解したPBS)を30μL加えて37℃で1時間培養した。培地をデカンテーションで完全に除去した後、ホルマザン溶液(25%(v/v)0.45M酢酸緩衝液(pH4.5)、25%(v/v)N,N−ジメチルホルムアミド、10%(w/v)n−ドデシル硫酸ナトリウムを含む。pH4.5)を150μL加えて撹拌した。室温で1夜放置後、590nmにおける吸光度を測定した。
【0041】
前記吸光度の値から細胞の増殖率(%)={1−(試験試料を添加した場合の吸光度−ブランクの吸光度)/(試験試料を添加しない場合の吸光度−ブランクの吸光度)}×100を算出して細胞の増殖度合いを評価した。なお、前記方法において、D−MEM培地及びヒト皮膚繊維芽細胞増殖用低血清培地はペニシリン(終濃度100IU/mL)及びストレプトマイシン(終濃度0.1mg/mL)を添加したものとし、細胞培養はすべてCO
2インキュベーター(37℃、5%CO
2強化気相下)で行った。試験試料は前記製造例で得た試料1、比較試料1及び比較試料2とした。
【0042】
この結果を表1に示す。同表において、皮膚繊維芽細胞の増殖度合は、同時に実施した対照試験(試料添加しない場合)の値を100としたときの相対値で表した。同表のデータから、完熟種子を酵素処理した場合(試料1)は線維芽細胞の高い増殖促進活性を示したこと、しかし、同様に酵素処理後、更に加熱処理した場合(比較試料2)は増殖度合いが低下することを確認した。また、未熟種子を同様に酵素処理した場合(比較試料1)は、添加濃度が少ないときは僅かな増殖促進活性を認めたが、多くなると促進活性は認められず、線維芽細胞は死滅しており、同細胞に対する毒性が発現することが明らかになった。
【0043】
【表1】
【0044】
試験例2:線維芽細胞増殖作用(その2)
本試験例では、種々の蛋白質分解酵素で処理して得られた水溶性成分が皮膚線維芽細胞の増殖作用に及ぼす影響を調べた。ここで、線維芽細胞の増殖度合いの評価は試験例1と同じ方法で実施した。また、試験試料は前記製造例に記載の試料1、試料2〜7とし、比較試料3としてオクラ種子由来の市販品(商品名:「MYOXINOL LS9736」、山川貿易(株)製)を用いた。
【0045】
この結果を表2に示す。同表において、皮膚繊維芽細胞の増殖度合は、同時に実施した対照試験(試料添加しない場合)の値を100としたときの相対値で表した。同表のデータから、蛋白質分解酵素としてアルカリ性プロテアーゼを使用した場合(試料1、試料2)は、線維芽細胞の増殖促進作用が強く、中性プロテアーゼを使用した場合(試料3〜試料7)でも高い作用を示すことが明らかになった。一方、オクラ種子由来の市販品(比較試料3)そのものの線維芽細胞増殖促進作用は、試料1〜試料7と比較して小さかった。
【0046】
【表2】
【0047】
試作例1
前記水溶性成分(試料1)70部とデキストリン30部を常法により十分に撹拌混合し、均一な粉末状の線維芽細胞増殖剤を作成した。この剤は、経口摂取することにより、肌荒れ改善、肌のハリ、ツヤ等の向上のために使用することができる。
【0048】
試作例2
前記水溶性成分(試料4)5部を精製水20部に溶解して液体状の線維芽細胞増殖剤を作成した。この剤とスクワラン5部、セチルアルコール2部、グリセリン5部、ソルビタンモノステアラート2部、ポリオキシレン(20)ソルビタンモノオレアート4部及び精製水57部を常法により均一に乳化してクリーム状組成物を作成した。この組成物は、皮膚に塗布することにより、乾燥肌の改善、肌の弾力性や柔軟性の向上等のために使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
オクラの完熟種子から得られる水性成分は、安全性が高く、皮膚の線維芽細胞増殖促進作用を有するため、これを皮膚に塗布又は接触させることにより、皮膚の本来の生理機能を回復させ、皮膚トラブルの改善、美肌の促進、皮膚損傷の早期回復等に役立つ皮膚外用剤としての有効利用が可能となり、更には、経口的に摂取又は投与することによって、飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等の分野においても有効利用が可能となる。