特許第6807585号(P6807585)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807585
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】構造体の製造方法及び構造体
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20201221BHJP
   B23K 20/00 20060101ALI20201221BHJP
   B23K 20/24 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   H01L21/52 C
   B23K20/00 310L
   B23K20/24
【請求項の数】21
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-520304(P2019-520304)
(86)(22)【出願日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2018019972
(87)【国際公開番号】WO2018216763
(87)【国際公開日】20181129
【審査請求日】2019年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-103175(P2017-103175)
(32)【優先日】2017年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永口 悠二
(72)【発明者】
【氏名】瀬山 耕平
(72)【発明者】
【氏名】中村 智宣
(72)【発明者】
【氏名】菊地 広
(72)【発明者】
【氏名】島津 武仁
(72)【発明者】
【氏名】魚本 幸
【審査官】 小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−168503(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0305298(US,A1)
【文献】 特開2012−238699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
B23K 20/00
B23K 20/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材を接合した構造体の製造方法であって、
少なくとも一つの前記部材の表面に液状樹脂を塗布する工程と、
塗布された前記液状樹脂の表面張力により、前記液状樹脂の表面を平滑化する工程と、
前記液状樹脂を硬化して樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層の表面に金属薄膜を形成する工程と、
他の前記部材の表面に前記金属薄膜を形成する工程と、
少なくとも一つの前記部材の前記金属薄膜と他の前記部材の前記金属薄膜とを密着して接合する工程と、
を含むことを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体の製造方法であって、
前記樹脂層は弾性を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の構造体の製造方法であって、
前記部材は半導体であることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の構造体の製造方法であって、
前記部材は半導体であることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の構造体の製造方法であって、
少なくとも一つの前記半導体は、表面から所定高さ突出した複数の電極を有し、
前記液状樹脂を複数の前記電極の間に塗布して、前記液状樹脂の表面張力により、前記液状樹脂の表面を平滑化するとともに、複数の前記電極の先端面と前記液状樹脂の表面とを同一面とすることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の構造体の製造方法であって、
少なくとも一つの前記半導体は、表面から所定高さ突出した複数の電極を有し、
前記液状樹脂を複数の前記電極の間に塗布して、前記液状樹脂の表面張力により、前記液状樹脂の表面を平滑化するとともに、複数の前記電極の先端面と前記液状樹脂の表面とを同一面とすることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の構造体の製造方法であって、
少なくとも一つの前記部材の前記金属薄膜は、原子拡散接合により他の前記部材の前記金属薄膜と接合することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載の構造体の製造方法であって、
前記部材は、半導体を形成した半導体チップであり、
前記液状樹脂は、前記半導体チップの表面または前記半導体チップの裏面またはその両方に塗布され、
塗布された前記液状樹脂は、その表面粗さが他の前記部材の表面粗さに比べて小さくなるように平滑化されること、
を特徴とする構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項4に記載の構造体の製造方法であって、
前記部材は、半導体を形成した半導体チップであり、
前記液状樹脂は、前記半導体チップの表面または前記半導体チップの裏面またはその両方に塗布され、
塗布された前記液状樹脂は、その表面粗さが他の前記部材の表面粗さに比べて小さくなるように平滑化されること、
を特徴とする構造体の製造方法。
【請求項10】
複数の部材を接合した構造体の製造方法であって、
複数の前記部材の表面に液状樹脂をそれぞれ塗布する工程と、
塗布された前記液状樹脂の表面張力により、前記液状樹脂の表面を平滑化する工程と、
前記液状樹脂を硬化して樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層の表面に金属薄膜を形成する工程と、
複数の前記部材の前記金属薄膜を互いに密着して接合する工程と、
を含むことを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の構造体の製造方法であって、
前記樹脂層は弾性を有することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の構造体の製造方法であって、
前記部材は半導体であることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の構造体の製造方法であって、
前記部材は半導体であることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項12に記載の構造体の製造方法であって、
少なくとも一つの前記半導体は、表面から所定高さ突出した複数の電極を有し、
前記液状樹脂を複数の前記電極の間に塗布して、前記液状樹脂の表面張力により、前記液状樹脂の表面を平滑化するとともに、複数の前記電極の先端面と前記液状樹脂の表面とを同一面とすることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の構造体の製造方法であって、
少なくとも一つの前記半導体は、表面から所定高さ突出した複数の電極を有し、
前記液状樹脂を複数の前記電極の間に塗布して、前記液状樹脂の表面張力により、前記液状樹脂の表面を平滑化するとともに、複数の前記電極の先端面と前記液状樹脂の表面とを同一面とすることを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項16】
請求項10〜15のいずれか一項に記載の構造体の製造方法であって、
少なくとも一つの前記部材の前記金属薄膜は、原子拡散接合により他の前記部材の前記金属薄膜と接合することを特徴とする構造体の製造方法。
【請求項17】
請求項12に記載の構造体の製造方法であって、
前記部材は、半導体を形成した半導体チップであり、
前記液状樹脂は、前記半導体チップの表面または前記半導体チップの裏面またはその両方に塗布され、
塗布された前記液状樹脂は、その表面粗さが他の前記部材の表面粗さに比べて小さくなるように平滑化されること、
を特徴とする構造体の製造方法。
【請求項18】
請求項13に記載の構造体の製造方法であって、
前記部材は、半導体を形成した半導体チップであり、
前記液状樹脂は、前記半導体チップの表面または前記半導体チップの裏面またはその両方に塗布され、
塗布された前記液状樹脂は、その表面粗さが他の前記部材の表面粗さに比べて小さくなるように平滑化されること、
を特徴とする構造体の製造方法。
【請求項19】
複数の部材の各表面に金属薄膜をそれぞれ形成して、前記金属薄膜を介して前記部材が接合された構造体であって、
少なくとも一つの前記部材と前記金属薄膜との間に設けられ、表面が平滑化された樹脂層を有することを特徴とする構造体。
【請求項20】
請求項19に記載の構造体であって、
前記樹脂層は弾性を有することを特徴とする構造体。
【請求項21】
請求項19に記載の構造体であって、
少なくとも一つの前記部材は半導体チップであり、
前記樹脂層は、その表面粗さが接合される相手の前記部材の表面粗さより小さいことを特徴とする構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の製造方法及び構造体に関し、特に、原子拡散接合方法により製造された構造体の製造方法及び構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の部材を接合して構造体を製造することが行われている。例えば、半導体素子と基板とを接合(積層)して半導体装置を製造することが行われている。特許文献1には、基板の表面の電極を覆うように基板の表面に樹脂層を形成して、樹脂層を溶融させつつ基板の電極に半導体素子を接合する接合方法が記載されている。この製造方法によれば、基板の電極と半導体素子との間に異物が入り込むことを抑制することができる。
【0003】
また、近年では、上記の接合方法の他に原子拡散接合による部材の接合方法が知られている。原子拡散接合方法は、対向する一対の部材の各対向面に金属薄膜をそれぞれ形成し、この金属薄膜を互いに密着して原子拡散を生じさせることにより部材間を接合する接合方法である。この原子拡散接合方法は、常温接合が可能であるので、部材を加熱せずに接合が可能であり、熱膨張率が異なる異種材料の部材の接合にも適用することができる。また、原子レベルで接合しているので、接着剤が不要であり、強度、信頼性、耐久性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−168503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子拡散接合方法は、部材の表面に形成された金属薄膜を介して部材間を接合しているので、金属薄膜を互いに密着させる必要がある。すなわち、金属薄膜を形成する薄膜形成面が平滑である必要がある。
【0006】
このため、部材の薄膜形成面が平滑ではない場合、例えば、部材の薄膜形成面が粗面である場合には、部材の薄膜形成面を平滑にするために、部材の表面(薄膜形成面)を研磨する研磨処理等が必要になり、この研磨処理が煩雑であり、またコストも発生する。さらに、部材を接合する金属薄膜の間に異物が存在すると、部材の金属薄膜の密着が困難になるので、原子拡散接合による接合も困難になる。
【0007】
そこで、本発明では、部材の薄膜形成面が平滑ではない場合でも、原子拡散接合による接合を行うことを目的とする。また、部材の金属薄膜の間に異物が存在する場合でも、原子拡散接合による接合を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構造体の製造方法は、複数の部材を原子拡散接合した構造体の製造方法であって、少なくとも一つの部材の表面に液状樹脂を塗布する工程と、塗布された液状樹脂の表面張力により、液状樹脂の表面を平滑化する工程と、液状樹脂を硬化して樹脂層を形成する工程と、樹脂層の表面に金属薄膜を形成する工程と、他の部材の表面に金属薄膜を形成する工程と、少なくとも一つの部材の金属薄膜と他の部材の金属薄膜とを密着して原子拡散接合する工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の構造体の製造方法は、複数の部材を原子拡散接合した構造体の製造方法であって、複数の部材の表面に液状樹脂をそれぞれ塗布する工程と、塗布された液状樹脂の表面張力により、液状樹脂の表面を平滑化する工程と、液状樹脂を硬化して樹脂層を形成する工程と、樹脂層の表面に金属薄膜を形成する工程と、複数の部材の金属薄膜を互いに密着して原子拡散接合する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の構造体の製造方法において、樹脂層は弾性を有することとしてもよいし、部材は半導体としてもよい。
【0011】
また、本発明の構造体の製造方法において、少なくとも一つの半導体は、表面から所定高さ突出した複数の電極を有し、液状樹脂を複数の電極の間に塗布して、液状樹脂の表面張力により、液状樹脂の表面を平滑化するとともに、複数の電極の先端面と液状樹脂の表面とを同一面としてもよい。
【0012】
また、本発明の構造体の製造方法において、部材は、半導体を形成した半導体チップであり、液状樹脂は、半導体チップの表面または半導体チップの裏面またはその両方に塗布され、塗布された液状樹脂は、その表面粗さが他の部材の表面粗さに比べて小さくなるように平滑化されること、としてもよい。
【0013】
また、本発明の構造体は、複数の部材の各表面に金属薄膜をそれぞれ形成して、金属薄膜を介して部材が原子拡散接合された構造体であって、少なくとも一つの部材と金属薄膜との間に設けられ、表面が平滑化された樹脂層を有することを特徴とする。また、樹脂層は弾性を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の構造体において、少なくとも一つの部材は半導体チップであり、樹脂層は、その表面粗さが接合される相手の部材の表面粗さより小さいこととしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、部材の薄膜形成面が平滑ではない場合でも、簡易な方法で平滑な薄膜形成面を得ることができ、原子拡散接合による接合を行うことができる。また、部材の金属薄膜の間に異物が存在する場合でも、原子拡散接合による接合を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態の構造体の概略構成図である。
図2】第1の実施形態の構造体の製造工程図である。
図3A】基板表面が粗面である場合の従来の構造体を示す模式図である。
図3B】基板表面が粗面である場合の第1の実施形態の構造体を示す模式図である。
図4】第2の実施形態の構造体の模式図である。
図5】第2の実施形態の構造体の製造工程図である。
図6A】金属薄膜間に異物が入り込んだ場合における従来の構造体を示す模式図である。
図6B】金属薄膜間に異物が入り込んだ場合における第2の実施形態の構造体を示す模式図である。
図7】第2の実施形態の構造体の変形例を示す概略構成図である。
図8】第3の実施形態の構造体の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、第1の実施形態について、図1〜3を参照して説明する。図1に示すように、第1の実施形態における構造体1は、一対の部材としての基体10,20を原子拡散接合方法によって互いに接合して構成されている。なお、ここでは、一対の基体10,20を備える構造体1について説明するが、基体は複数であってもよい。
【0018】
構造体1は、一方側の基体10と、基体10の接合側面に設けられた樹脂層11と、樹脂層11の表面に設けられた金属薄膜12と、他方側の基体20と、基体20の接合側面に設けられた金属薄膜21とを備えている。基体20は、基体10を接合する相手の部材である。
【0019】
基体10の接合側面は粗面である。基体10,20の材質としては、各種の金属、合金の他に、Si基板等の半導体、ガラス、セラミックス、樹脂等を使用することができる。また、基体10,20は,金属同士の接合のように同一材質間の接合に限られず、例えば、金属とセラミックスとの接合や、チップICとSi基板との接合のように、異種材質間の接合を行うことも可能である。基体10,20の形状は特に限定されず、例えば、平板状のものや複雑な立体形状のものを使用することができる。基体10は、例えば、半導体を形成した半導体チップでもよい。また、基体20は、半導体を形成したSi基板(シリコン基板)あるいは半導体チップでもよい。
【0020】
樹脂層11は、基体10の接合側面に所定の厚さで形成されている。樹脂層11は、液状樹脂を基体10の接合側面にスピンコートにより塗布して硬化することによって形成されている。樹脂層11の特性として金属薄膜12との接合相性がよい材質の樹脂を選択する必要があり、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、または、エポキシ樹脂等を使用することができる。
【0021】
金属薄膜12は、スパッタリングによる成膜方法によって樹脂層11の表面に数nm〜数百nmの膜厚で形成されている。また、金属薄膜21も同様の成膜方法により基体20の表面に数nm〜10nmの膜厚で形成されている。なお、スパッタリングの他に、PVD、CVD、真空蒸着による成膜方法を用いてもよい。また、金属薄膜12,21の材料としては、例えば、Au、Ag等の金属を使用することができる。
【0022】
次に、構造体1の製造について図2を参照して説明する。まず、図2における工程S1において基体10を準備する。基体10の接合側面は粗面になっている。このような粗面である場合、この粗面を平滑面とするために研磨処理する必要があるが、第1の実施形態では研磨処理を行わず、この粗面の状態で使用する。
【0023】
工程S2では、基体10の粗面に液状樹脂11aを塗布する。塗布された液状樹脂11aは、粗面を埋めるとともに、液状樹脂11aの表面張力によって液状樹脂11aの表面を平滑化する。すなわち、塗布直後では、液状樹脂11aに表面張力が作用して、液状樹脂11aの表面が平滑になる。液状樹脂11aの表面が平滑化したことを確認した後に、基体10及び液状樹脂11aを加熱して、液状樹脂11aを硬化して樹脂層11を形成する。
【0024】
工程S3では、樹脂層11が形成された基体10を真空容器内に配置し、樹脂層11の表面にスパッタリングによって金属薄膜12を形成する。
【0025】
一方、工程S4において基体20を準備して、工程S5において基体20を真空容器内に配置し、基体20の表面にスパッタリングによって金属薄膜21を形成する。なお、基体20の表面は基体10の表面のような粗面ではなく表面の平滑化は必要ないので、基体10のように液状樹脂の塗布は行わない。
【0026】
そして、工程S6において、真空容器から基体10及び基体20をそれぞれ取り出して、基体10を上下反転して金属薄膜12の面を下方に向けて、この金属薄膜12を基体20の金属薄膜21に重ね合わせる。この重ね合わせた状態において、基体10に荷重を付与して、基体10の金属薄膜12と基体20の金属薄膜21とを密着させる。この密着状態により金属薄膜12,21は原子拡散によって互いに接合する。原子拡散接合によって、金属薄膜12,21は、原子レベルで金属結合あるいは分子間結合することにより強固に接合する。金属薄膜12,21が強固に接合することによって構造体1が構成される。
【0027】
また、基体10の表面Ra(算術平均粗さ)と、樹脂層11の表面Raとを比較すると、樹脂層11の表面Raは基体10の表面Raよりも小さい。すなわち、樹脂層11の表面は、平滑化されているのでその表面Raは小さく、基体10の表面は粗面であるので、その表面Raは大きい。このため、樹脂層11の表面Ra<基体10の表面Raの関係となっている。また、樹脂層11の表面Raは、平滑化によって、表面が平滑で表面の平滑化が不要な基体20の表面Raよりも小さくなっている。
【0028】
図3A図3Bを参照して、構造体1による効果について説明する。図3A図3Bは、接合側面が粗面である基体を、原子拡散により接合する場合の模式図である。図3Aは、従来の構造体100の場合を示し、図3Bは、第1の実施形態の構造体1の場合を示している。
【0029】
図3Aにおいて、従来の構造体100の構成について簡単に説明する。構造体100は、接合面が粗面である基体110と、基体110の粗面に形成された金属薄膜111と、基体120と、基体120の表面に形成された金属薄膜121とを備えている。そして、金属薄膜111,121を重ね合わせて原子拡散接合することにより構造体100を構成している。
【0030】
構造体100では、基体110の粗面は平滑性が低いので、この粗面に形成する金属薄膜111の表面の平滑性も低くなる。このため、金属薄膜111,121を密着させることが困難になり、金属薄膜111,121を原子拡散によって接合することも困難になる。その結果接合不良となる。
【0031】
これに対して、図3Bに示すように、構造体1では、基体10の粗面を樹脂層11で埋めており、かつ、この樹脂層11の表面は平滑面であるので、金属薄膜12の表面も平滑面である。このため、金属薄膜12,21を密着させることができ、金属薄膜12,21を原子拡散によって接合することができる。
【0032】
このように、基体10の粗面を平滑面とするための研磨処理が不要になり、研磨処理の作業を省くことができ、コストを抑制することができる。また、基体10が粗面であっても原子拡散による接合を行うことができ、原子拡散による接合部材の適用範囲を広げることができる。
【0033】
なお、基体20の金属薄膜21を形成する面が粗面である場合、基体20と金属薄膜21との間に樹脂層11を形成してもよい。この場合には、図2において、工程S4と工程S5との間に工程S2と同様の工程を行う。
【0034】
次に、第2の実施形態について図4〜6を参照して説明する。第2の実施形態では、構造体2の基体30の接合側面は平滑面であり、樹脂層31の特性が樹脂層11の特性と異なっている。その他の構成は、第1の実施形態の構造体1と同様である。このため、図4において、図1と同様の構成については同符号を付して、その説明を省略する。
【0035】
樹脂層31は、基体30の接合側面(平滑面)に所定の厚さで形成されている。樹脂層31は、液状の樹脂を基体30の接合側面にスピンコートにより塗布して硬化することによって形成されている。樹脂層31の特性として金属薄膜12との接合相性がよい材質の樹脂を選択する必要があり、また、硬化後に弾性を有する材質を選択する必要がある。このような樹脂として、例えば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、またはエポキシ樹脂等を使用することができる。
【0036】
構造体2の製造について図5を参照して説明する。図5における工程S11において、基体30を準備する。
【0037】
工程S12では、基体30の接合側面に液状樹脂31aを塗布する。液状樹脂31aの材料としては硬化後も弾性を有する樹脂材料を使用する。塗布された液状樹脂31aは、液状樹脂31aの表面張力によって液状樹脂31aの表面が平滑になる。液状樹脂31aの表面が平滑化したことを確認した後に、基体30及び液状樹脂31aを加熱して、液状樹脂31aを硬化して樹脂層31を形成する。なお、樹脂層31は、硬化後も弾性を有している。
【0038】
工程S13では、樹脂層31が形成された基体30を真空容器内に配置し、樹脂層31の表面にスパッタリングによって金属薄膜12を形成する。
【0039】
工程S14、S15では、工程S4、S5と同様に基体20に金属薄膜21を形成する。続いて、工程S16において、基体30を上下反転して金属薄膜12の面を下方に向けて、この金属薄膜12を基体20の金属薄膜21に重ね合わせる。この重ね合わせた状態において、基体30に荷重を付与して、基体30の金属薄膜12と基体20の金属薄膜21とを密着させる。この密着状態により金属薄膜12,21は原子拡散によって互いに接合する。原子拡散接合によって、金属薄膜12,21は、原子レベルで金属結合あるいは分子間結合することにより強固に接合する。金属薄膜12,21が強固に接合することによって構造体2が構成される。
【0040】
図6A図6Bを参照して、構造体2による効果について説明する。図6A図6Bは、金属薄膜間に異物Dが入り込んだ場合を説明する模式図である。図6Aは従来の構造体200の場合を示し、図6Bは第2の実施形態の構造体2の場合を示している。
【0041】
図6Aにおいて、従来の構造体200は、基体210と、基体210の表面に形成された金属薄膜211と、基体220と、基体220の表面に形成された金属薄膜221とを備えている。そして、金属薄膜211,221を重ね合わせて原子拡散接合することにより構造体200を構成している。
【0042】
構造体200において、金属薄膜211,221を重ね合わせる際に、金属薄膜211,221の間に異物Dが入り込むと、異物Dが障害となって金属薄膜211,221を重ね合わせることが困難になり、金属薄膜211,221を密着させることが困難になる。このため、金属薄膜211,221を原子拡散によって接合することも困難になり、その結果接合不良となる。
【0043】
これに対して、図6Bに示すように、第2の実施形態の構造体2では、金属薄膜12,21の間に異物Dが入り込んだ状態で、金属薄膜12,21を重ね合わせると異物Dの形状に応じて樹脂層31が弾性変形する。そして、異物Dを包み込んだ状態で、金属薄膜12,21が互いに密着する。すなわち、異物D以外の金属薄膜12,21の部分で、金属薄膜12,21は互いに密着する。
【0044】
異物D以外の金属薄膜12,21の部分は、十分な重ね合わせ面積を有しているので、金属薄膜12,21を原子拡散によって接合することができ、異物Dが入り込んでも、構造体2を得ることができる。
【0045】
また、金属薄膜12,21の表面の平滑性が低くても樹脂層31が弾性変形することにより、金属薄膜12,21が互いに密着するので、金属薄膜12,21を原子拡散によって接合することができる。
【0046】
次に、第2の実施形態の変形例について図7を参照して説明する。図7に示すように、第2の実施形態の変形例を示す構造体3では、樹脂層22が基体20側にも形成されている。すなわち、基体20の接合側面に樹脂層22が形成されている。樹脂層22の材質としては、樹脂層31と同様に硬化後に弾性を有する材料を使用する。
【0047】
このように、基体30,20の両方に樹脂層31,22を形成することによって、金属薄膜12,21の間に異物Dが入り込んだ場合、異物Dの形状に応じて樹脂層31、22が弾性変形するので、第2の実施形態と同様に、異物Dを包み込んだ状態で、金属薄膜12,21が互いに密着して、金属薄膜12,21を原子拡散接合方法によって接合することができる。
【0048】
また、樹脂層31,22により弾性変形量が増加するので、より大きな異物Dにも対応することができ、また、金属薄膜12,21の互いの面への追従性を向上でき、金属薄膜12,21の密着性を向上することができる。
【0049】
次に、第3の実施形態について図8を参照して説明する。第3の実施形態では構造体が半導体装置4である。図8に示すように、半導体装置4は、基板40と、チップ部品50と、チップ部品50の電極51の間に設けられる樹脂層52と、基板40とチップ部品50とを接続する金属薄膜42,53とを備えている。チップ部品50は、例えば、半導体を形成した半導体チップである。
【0050】
基板40は、Si基板(シリコン基板)である。基板40には複数の電極41が埋設されている。チップ部品50の下面には、この下面から所定高さ突出する複数の電極51が設けられている。複数の電極51は、基板40に設けられた電極41にそれぞれ対応するように配置されている。
【0051】
電極51の間には、第1の実施形態における液状樹脂11aと同様の液状樹脂が塗布されており、電極51の先端面と液状樹脂の表面とが同一面となっている。チップ部品50の電極51の間に液状樹脂を塗布して、この液状樹脂の表面張力によって、液状樹脂の表面が平滑となる。そして、この平滑面は、電極51の先端面と同一面となる。この状態で液状樹脂を硬化することによって樹脂層52が形成される。
【0052】
チップ部品50の電極51の先端面及び樹脂層52の表面には、第1の実施形態における金属薄膜12と同様の金属薄膜53が形成されている。また、基板40の表面にも、第1の実施形態における金属薄膜12と同様の金属薄膜42が形成されている。そして、チップ部品50の電極51と基板40の電極41とを対向させて、金属薄膜42,53を原子拡散によって接合することにより、チップ部品50と基板40とが接合されて半導体装置4が構成される。
【0053】
このように、チップ部品50の電極51の間に樹脂層52を形成することによって、金属薄膜53を形成する面積を拡大することができ、チップ部品50と基板40とをより強固に原子拡散接合することができる。
【0054】
以上説明した各実施形態は、2つの基体を原子拡散接合によって接合することとして説明したが、これに限らず、例えば、半導体チップの表面と裏面とに液状樹脂を塗布、硬化させて両面に樹脂層を形成し、その上に金属薄膜を形成した中間チップ部品を複数段に積層し、その両端に半導体チップの表面または裏面に液状樹脂を塗布、硬化させて一方の面に樹脂層を形成し、その上に金属薄膜を形成した端部チップ部品を積層して原子拡散接合を行い、半導体チップを複数段に積層した構造体としてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1,2,3 構造体、4 半導体装置、10,20,30,40 基体、11,22,31,52 樹脂層、11a,31a 液状樹脂、12,21,42,53 金属薄膜、41,51 電極、50 チップ部品。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8