(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807599
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】工作機械の誤差同定方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/404 20060101AFI20201221BHJP
B23Q 15/22 20060101ALI20201221BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20201221BHJP
G01B 5/24 20060101ALI20201221BHJP
G01B 5/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
G05B19/404 G
B23Q15/22
B23Q17/00 Z
G01B5/24
G01B5/00 A
G01B5/00 P
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-34560(P2017-34560)
(22)【出願日】2017年2月27日
(65)【公開番号】特開2018-142064(P2018-142064A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2019年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000212566
【氏名又は名称】中村留精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】中村 嘉克
【審査官】
谷川 啓亮
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−519137(JP,A)
【文献】
特開2016−155185(JP,A)
【文献】
特表2013−533970(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0253871(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 − 19/46
B23Q 15/00 − 23/00
G01B 5/00 − 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X,Y,Z軸方向に並進制御された直線3軸と、それぞれB,C軸回転制御された回転2軸とからなる5軸制御工作機械において、C軸側に基準球を設置し、B軸側にタッチプローブを取り付けるステップと、
C軸を固定した状態でB軸角度を所定角度毎に割り出しながら基準球中心位置を計測する計測第1ステップと、
前記タッチプローブの測定点の旋回半径を変えて前記計測第1ステップと同様に基準球中心位置を計測する計測第2ステップと、
B軸を固定した状態でC軸角度を所定角度毎に割り出しながら基準球中心位置を計測する計測第3ステップと、
前記基準球のZ方向初期位置を変えて前記計測第3ステップと同様に基準球中心位置を計測する計測第4ステップとを有することを特徴とする工作機械の誤差同定方法。
【請求項2】
X,Y,Z軸方向に並進制御された直線3軸と、それぞれB,C軸回転制御された回転2軸とからなる5軸制御工作機械において、C軸側に基準球を設置し、B軸側にタッチプローブを取り付けるステップと、
B軸を0〜−90°の範囲にて割り出し旋回させながらその間にC軸が1回転するように割り出しながら基準球中心位置を計測する同時計測第1ステップと、
前記タッチプローブの測定点の旋回半径を変えて前記同時計測第1ステップと同様に基準球中心位置を計測する同時計測第2ステップと、前記基準球のZ方向初期位置を変えて前記同時計測第1ステップと同様に基準球中心位置を計測する同時計測第3ステップとを有することを特徴とする工作機械の誤差同定方法。
【請求項3】
前記タッチプローブは、測定点の旋回半径が異なる複数のスタイラスを有し、又はC軸側のZ方向位置が異なる複数の基準球を用いて測定することで自動計測を可能にした請求項1又は2記載の工作機械の誤差同定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターニングセンタ等の数値制御工作機械の幾何誤差の同定及び補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直線3軸と回転2軸で構成される5軸制御工作機械には、13種類の幾何誤差があることは、例えば特許文献1等にも記載されているように公知である。
また、回転軸を割り出しながら基準球の中心位置をタッチプローブにて計測することで、幾何誤差を同定することも公知である。
【0003】
特許文献1には、13種類の幾何誤差のうち、回転軸の中心位置誤差4つ,回転軸の傾き誤差4つ,直線軸の直角度2つを同時に同定することができる同定方法を開示している。
しかし、同公報に関する同定方法は、例えば
図1に示したターニングセンタモデルにおいて
図5に示す13種類のうち、例えばα
ZY,β
XB,γ
BS等の幾何誤差の同定が不充分である問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−155185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、5軸制御工作機械における精度の高い幾何誤差の同定方法及びそれによる補正の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る工作機械の誤差同定方法は、X,Y,Z軸方向に並進制御された直線3軸と、それぞれB,C軸回転制御された回転2軸とからなる5軸制御工作機械において、C軸側に基準球を設置し、B軸側にタッチプローブを取り付けるステップと、C軸を固定した状態でB軸角度を所定角度毎に割り出しながら基準球中心位置を計測する計測第1ステップと、前記タッチプローブの測定点の旋回半径を変えて前記計測第1ステップと同様に基準球中心位置を計測する計測第2ステップと、B軸を固定した状態でC軸角度を所定角度毎に割り出しながら基準球中心位置を計測する計測第3ステップと、前記基準球のZ方向初期位置を変えて前記計測第3ステップと同様に基準球中心位置を計測する計測第4ステップとを有することを特徴とする。
【0007】
このように、計測第2ステップにてタッチプローブの測定点の旋回半径を変えることと、計測第4ステップにて基準球のZ方向の初期位置を変えて計測することで、13種類の幾何誤差が全て同定できるとともに、幾何誤差の影響を構造要素毎に分離して同定できる。
【0008】
本発明においては、必ずしも13種類の幾何誤差の同定が必要でない場合に、例えば上記計測第2ステップ又は計測第4ステップのうち、一方のみを実行してもよい。
【0009】
本発明は、X,Y,Z軸方向に並進制御された直線3軸と、それぞれB,C軸回転制御された回転2軸とからなる5軸制御工作機械において、C軸側に基準球を設置し、B軸側にタッチプローブを取り付けるステップと、B軸を0〜−90°の範囲にて割り出し旋回させながらその間にC軸が1回転するように割り出しながら基準球中心位置を計測する同時計測第1ステップと、前記タッチプローブの測定点の旋回半径を変えて前記同時計測第1ステップと同様に基準球中心位置を計測する同時計測第2ステップと、前記基準球のZ方向初期位置を変えて前記同時計測第1ステップと同様に基準球中心位置を計測する同時計測第3ステップとを有するようにしてもよい。
【0010】
ここで、タッチプローブは測定点の旋回半径が異なる複数のスタイラスを有し、自動計測を可能にすることもできる。
又は、
図1のモデルにてC軸側のZ方向位置が異なる複数の基準球を用いて測定する方法でもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、回転2軸の旋回角度を一定間隔で割り出しながら、基準球の中心位置(座標)をタッチプローブにより計測する際に、基準球のZ方向初期位置とタッチプローブの測定点の旋回半径を変えることで、13種類の幾何誤差の全てが同定できる。
また、同定する目的によっては、基準球のZ方向の初期位置を変えることと、タッチプローブの測定点の旋回半径を変えることの一方を採用してもよい。
幾何誤差の変化を計測することで、幾何誤差の影響を構造要素毎に分離して同定できるので、その補正により加工精度の向上が容易になる。
また、誤差同定の自動化を図ることで、工作機械のメンテナンスが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】5軸制御ターニングセンタのモデル図を示す。
【
図2】2主軸対向ターニングセンタのモデル図を示す。
【
図6】幾何誤差の同定シミュレーション結果を示す。
【
図7】(a)は測定データ(1)、(b)は測定データ(2)、(c)は測定データ(3)を示す。
【
図8】(a)は測定データ(1)と(2)の差分を示す。(b)は測定データ(1)と(3)との差分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る幾何誤差の同定方法にて、以下具体的に説明する。
図1,2に工作機械のモデルを模式的に示し、
図2のL,R、2主軸対向ターニングセンタにおいて、L側の主軸の端面に
図3に示すように基準球1を設置し、B軸側にタッチプローブ2を取り付ける。
タッチプローブ2には、旋回半径の異なるスタイラス2a〜2cが取り付けられた例になっている。
この種の工作機械は、主軸にてワークを保持し、B軸制御された工具主軸にツールを取り付け加工に供される。
【0014】
幾何誤差がない場合において、工作物側座標系の原点をC軸端面中心とし、工具側座標系の原点をB軸と工具主軸の交点とする。
基準球をL側に取り付けた場合,基準球中心位置計測値[X’Y’Z’]
T[mm]は、次式で表せる。
【数1】
工具側座標系でのスタイラス位置:[L
x 0 L
z]
T[mm]
基準球初期位置:[x
0 0 z
0]
T[mm]
b:B軸角度 [°],c:C軸角度 [°]
【0015】
<4軸動作で計測する場合>
B軸固定、C軸回転で基準球中心位置を計測する場合、基準球中心位置計測値[X
c’Y
c’Z
c’]
T[mm]は、式(1)より次のように表せる。
ここでは、b=0°,L
z=0mmとする。
【数2】
式(2)において、基準球初期位置[x
0 0 z
0]
T→[x
0+x
1 0 z
0+z
1]
Tと変化させたとき、基準球中心位置計測値の差分[ΔXc’ΔYc’ΔZc’]
T[mm]は次式で表せる。
【数3】
C軸固定、B軸回転で基準球中心位置を計測する場合、基準球中心位置計測値[X
b’Y
b’Z
b’]
T[mm]は、式(1)より次のように表せる。
ここでは、c=0°とする。
【数4】
式(4)において、工具側座標系での測定点位置を[L
x 0 0]
T→[L
x+l
x 0 l
z]
Tと変化させたとき、基準球中心位置計測値の差分[ΔX
b’ΔY
b’ΔZ
b’]
T[mm]は次式で表せる。
【数5】
式(2)〜(5)を用い、以下の手順(基準球をL側に取り付けた場合)で幾何誤差を同定する。
1.C軸を固定し、B軸角度を一定間隔で割り出しながら基準球中心位置の計測データ(i)を得る。この時、B軸は0〜−90°の範囲で動かす。
2.タッチプローブの測定点を旋回半径の異なる位置に変え、手順1と同様の動作で基準球中心位置の計測データ(ii)を得る。データ(i)と(ii)の差を取ったものをデータ(i)’とする。
3.B軸を固定し、C軸角度を一定間隔で割り出しながら基準球中心位置の計測データ(iii)を得る。この時、C軸はちょうど1回転するように動かす。
4.基準球のZ方向初期位置を変え、手順3と同様の動作で基準球中心位置の計測データ(iv)を得る。データ(iii)と(iv)の差を取ったものをデータ(iv)’とする。
5.データ(iv)’と式(3)及び以下の公式(イ)より、幾何誤差α
CZ,β
CZが求まる。
【数6】
6.手順5の結果を式(2)に代入し、データ(iii)と上記の公式(イ)から幾何誤差α
ZY,γ
YXが求まる。
7.式(5)をデータ(ii)’へフィッティングさせることにより、幾何誤差β
ZY,β
XB,γ
BSが求まる。
8.手順5,6,7の結果を式(4)に代入したものを,データ(i)へフィッティングさせることにより、幾何誤差δx
CZ,δy
CZ,δx
BS,δz
BS,α
XB,γ
XBが求まる。
【0016】
<5軸動作で計測する場合>
B軸が0〜―90°の範囲で動かす間にC軸がちょうど1回転するように動かす。
すなわち、
【数7】
が成り立つように動作させる(c
0:基準球を取り付け後に球初期位置のY座標が0になるようにC軸を回転させる角度)。
したがって、式(1)より、基準球中心位置計測値[X
1’Y
1’Z
1’]
T[mm]は、次式で表せる。
ここでは、c
0=0°とする。
【数8】
式(7)において、[x
0 0 z
0]
T→[x
0+x
1 0 z
0+z
1]
Tと変化させたとき、基準球中心位置計測値の差分[ΔX
1’ΔY
1’ΔZ
1’]
T[mm]は次式で表せる。
【数9】
式(7)において、工具側座標系での測定点位置を[L
x 0 0]
T→[L
x+l
x 0 l
z]Tと変化させたとき、基準球中心位置計測値の差分[ΔX
2’ΔY
2’ΔZ
2’]
T[mm]は次式で表せる。
【数10】
式(7)〜(9)を用い、以下の手順(基準球をL側に取り付けた場合)で幾何誤差を同定する。
1.式(6)が成り立つようにB軸角度、C軸角度を一定間隔で割り出し、基準球中心位置の計測データ(i)を得る。
2.タッチプローブの測定点を、旋回半径の異なる位置に変え,手順1と同様の動作で基準球中心位置の計測データ(ii)を得る。データ(i)と(ii)の差を取ったものをデータ(ii)’とする.
3.基準球のZ方向初期位置を変え、手順1と同様の動作で基準球中心位置の計測データ(iii)を得る。データ(i)と(iii)の差を取ったものをデータ(iii)’とする。
4.データ(iii)’と式(8)より、幾何誤差α
CZ,β
CZが求まる。
5.式(9)をデータ(ii)’へフィッティングさせることにより、幾何誤差β
ZY,β
XB,γ
BSが求まる。
6.手順4,5の結果を式(7)へ代入したものを、データ(i)へフィッティングさせることにより、幾何誤差δx
CZ,δy
CZ,δx
BS,δz
BS,α
ZY,γ
YX,α
XB,γ
XBが求まる。
【0017】
以上はL側に基準球を取り付けた場合の幾何誤差同定手順を示したが、R側に取り付けた場合でも同様の手法により幾何誤差を同定できる。
【0018】
次に、ターニングセンタの簡易CADモデルを用いて、幾何誤差同定シミュレーションを行った。
図6の表中、設定値に示すように各幾何誤差の値を上記簡易モデルに与えた。
具体的には、タッチプローブ測定点と基準球中心を一致させた状態で、B軸,C軸角度を与え、X,Y,Z軸上のスライド位置座標を測定した。
図2に示したL側のC軸端面中心を原点とするXYZ座標で測定した。
その際に、基準球の位置をS1;[80,0,50],S2;[80,0,100]に設定し、タッチプローブ測定点の位置(B軸と工具主軸の交点から見た座標)をP1;[−300,0,0],P2;[−280,0,−20]とした。
【0019】
図7(a)に、測定点P1と基準球S1を一致させて、B軸,C軸角度を同時に割り出した場合の測定データ(1)を示す。
(b)に測定点P1と基準球S2を一致させて、B軸,C軸角度を同時に割り出した場合の測定データ(2)を示す。
(c)に測定点P2と基準球S1を一致させて、B軸,C軸角度を同時に割り出した場合の測定データ(3)を示す。
なお、C軸角度は、B軸角度値の−4倍となる。
図8(a)に、測定データ(1)−(2)の差分を示し、(b)に測定データ(1)−(3)の差分を示す。
これらの値に基づいて、同定した値を
図6の表の同定値として示す。
この結果、同定誤差が小さいことが検証できた。
【符号の説明】
【0020】
1 基準球
2 タッチプローブ
2a スタイラス