特許第6807629号(P6807629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807629
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】鉄化合物担持酸化チタン光触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20201221BHJP
   B01J 27/128 20060101ALI20201221BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20201221BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20201221BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J27/128 M
   B01J35/10 301J
   B01J37/02 101Z
   B01J37/02 101C
   B01J37/34
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-223952(P2016-223952)
(22)【出願日】2016年11月17日
(65)【公開番号】特開2018-79432(P2018-79432A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(73)【特許権者】
【識別番号】390018740
【氏名又は名称】日本アエロジル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久義
(72)【発明者】
【氏名】山下 行也
(72)【発明者】
【氏名】石黒 慶
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−063473(JP,A)
【文献】 特開2006−341250(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/046020(WO,A1)
【文献】 特許第6010718(JP,B1)
【文献】 特開2001−287996(JP,A)
【文献】 特開2012−153591(JP,A)
【文献】 SUN, Q. et al.,Journal of Hazardous Materials,NL,2012年 6月 5日,Vol.229-230,pp.224-232
【文献】 RIYAS, S. et al.,British Ceramic Transactions,英国,2004年,Vol.103,p.23-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン表面に鉄化合物を担持した構成を有する光触媒であって、前記酸化チタンの比表面積(BET法測定による)が7〜55m2/gの範囲であり、前記酸化チタンがルチル型とアナターゼ型とが50/50を越え、95/5以下(前者/後者(X線回折ピーク強度比))の範囲で混在した結晶型を有することを特徴とする光触媒。
【請求項2】
反応容器(容量:200mL)の中に、当該光触媒200mgを仕込み、メタノールガス(空気希釈、800体積ppm)で前記反応容器内を満たした状態で、25℃において、24時間光照射(光源:405nmLED、照度:2.5W/m2)を行った際の前記反応容器中における二酸化炭素の生成量(濃度換算)が300体積ppm以上である、請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
酸化チタン基準での、鉄元素含有量が50〜2000ppm、塩素原子含有量が50〜1400ppmであり、鉄元素含有量/塩素原子含有量(重量比)が1.50以下である、請求項1又は2に記載の光触媒。
【請求項4】
ルチル型とアナターゼ型とが50/50を越え、95/5以下(前者/後者(X線回折ピーク強度比))の範囲で混在した結晶型を有し、比表面積(BET法測定による)が7〜55m2/gの範囲である酸化チタンに塩化鉄(III)を担持させる工程を経て請求項1〜3の何れか1項に記載の光触媒を得る、光触媒の製造方法。
【請求項5】
酸化チタンに塩化鉄(III)を担持させる際に励起光を照射する、請求項4に記載の光触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか1項に記載の光触媒を含むコーティング液。
【請求項7】
基材表面に請求項1〜3の何れか1項に記載の光触媒を含むコーティング層を備えた光触媒塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄化合物担持酸化チタン光触媒、その製造方法、前記光触媒を含むコーティング液、並びに前記光触媒を含むコーティング層を備えた光触媒塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンに紫外線を照射すると強い酸化力を有するラジカルが発生して、有機化合物(例えば、汚れ、悪臭ガス等)の酸化・分解、無機化合物(例えば、NOx、NH3等)の酸化、ウィルス、細菌、カビ等の死滅、不活性化などに効果を発揮することから、近年、環境浄化、脱臭、防汚、抗菌、防カビなどに応用が進められている。しかし、酸化チタンは太陽光の照射下では優れた光触媒能を発揮できるが、白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源に含まれる紫外線量は4%程度と少なく、大部分が可視光線と赤外線で構成されていることから、このような光源下では十分な光触媒能を発揮することができないという問題があった。
【0003】
上記問題を解決する方法としては、酸化チタンに窒素や特定の金属(例えば、鉄化合物等)を担持させることにより、可視光応答性を付与する方法が知られている。特許文献1には、ルチル型とアナターゼ型が混在した結晶型を有する酸化チタン(ルチル型とアナターゼ型の混合割合(X線回折ピーク強度比)=約20/80、商品名「AEROXIDE TiO2 P25」、日本アエロジル(株)製)をFe(acac)3溶液中に浸漬させて、酸化チタン表面にFe(acac)3錯体を担持させ、その後、焼成により前記Fe(acac)3錯体を酸化鉄とすることで得られる酸化鉄担持酸化チタンは、優れた可視光応答性を有し、可視光線、紫外線の何れを照射した場合にも優れた光触媒活性を示すことが記載されている。しかし、未だ光触媒活性の点で不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−153591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、可視光線及び紫外線の何れに対しても優れた応答性を有する、高活性な光触媒を提供することにある。
本発明の他の目的は、可視光線及び紫外線の何れに対しても優れた応答性を有する、高活性な光触媒の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、可視光線及び紫外線の何れに対しても優れた応答性を有する、高活性な光触媒を含むコーティング液を提供することにある。
本発明の他の目的は、可視光線及び紫外線の何れに対しても優れた応答性を有する、高活性な光触媒を含むコーティング層を備えた光触媒塗装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、酸化チタンに鉄化合物を担持させて得られる光触媒について、ルチル型とアナターゼ型とが特定の割合で混在した結晶型を有する酸化チタンを使用すると、可視光線や紫外線の照射による光触媒活性が向上すること、更に、鉄化合物を担持する際に励起光の照射を行うと、可視光線や紫外線の照射による光触媒活性が飛躍的に向上することを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0007】
尚、本明細書において、「体積ppm」と記載した以外の「ppm」は「重量ppm」である。
【0008】
すなわち、本発明は、酸化チタン表面に鉄化合物を担持した構成を有する光触媒であって、前記酸化チタンの比表面積(BET法測定による)が7〜55m2/gの範囲であり、前記酸化チタンがルチル型とアナターゼ型とが30/70〜95/5(前者/後者(X線回折ピーク強度比))の範囲で混在した結晶型を有することを特徴とする光触媒を提供する。
【0009】
本発明は、また、反応容器(容量:200mL)の中に、当該光触媒200mgを仕込み、メタノールガス(空気希釈、800体積ppm)で前記反応容器内を満たした状態で、25℃において、24時間光照射(光源:405nmLED、照度:2.5W/m2)を行った際の前記反応容器中における二酸化炭素の生成量(濃度換算)が300体積ppm以上である、前記の光触媒を提供する。
【0010】
本発明は、また、酸化チタン基準での、鉄元素含有量が50〜2000ppm、塩素原子含有量が50〜1400ppmであり、鉄元素含有量/塩素原子含有量(重量比)が1.50以下である、前記の光触媒を提供する。
【0011】
本発明は、また、ルチル型とアナターゼ型とが30/70〜95/5(前者/後者(X線回折ピーク強度比))の範囲で混在した結晶型を有し、比表面積(BET法測定による)が7〜55m2/gの範囲である酸化チタンに塩化鉄(III)を担持させる工程を経て前記の光触媒を得る、光触媒の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、また、酸化チタンに塩化鉄(III)を担持させる際に励起光を照射する、前記の光触媒の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記の光触媒を含むコーティング液を提供する。
【0014】
本発明は、また、基材表面に前記の光触媒を含むコーティング層を備えた光触媒塗装体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光触媒は、紫外線域から可視光線域の広い波長範囲の光を吸収することにより、価電子帯にホール、伝導帯に励起電子を生成し、光触媒表面に付着した種々の物質を酸化、或いは還元して、環境浄化、脱臭、防汚、抗菌、又は防カビ効果を発現する。そのため、本発明の光触媒は、太陽光だけでなく、白熱灯、蛍光灯、及びLEDライト等の通常の生活空間における紫外線量の少ない光源を利用して優れた光触媒能を発揮することができ、車内や屋内等の従来は光触媒能を十分に発揮することが困難であった空間において環境浄化等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例及び比較例で得られた光触媒の光触媒活性を示す図である。
図2】実施例及び比較例で得られた光触媒の光触媒活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[光触媒]
本発明の光触媒は、酸化チタン表面に鉄化合物を担持した構成を有する光触媒であって、前記酸化チタンの比表面積(BET法測定による)が7〜55m2/gの範囲であり、前記酸化チタンがルチル型とアナターゼ型とが30/70〜95/5(前者/後者(X線回折ピーク強度比))の範囲で混在した結晶型を有することを特徴とする。
【0018】
本発明における酸化チタンは、ルチル型とアナターゼ型とが混在した結晶型を有する。本発明における酸化チタンは、更にその他の型(例えば、ブルッカイト型等)も含んでいても良いが、全酸化チタンのX線回折ピーク強度におけるルチル型のX線回折ピーク強度とアナターゼ型のX線回折ピーク強度の合計の占める割合は、例えば60%以上、好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。尚、上限は100%である。すなわち、その他の型の含有割合(2種以上含有する場合はその合計含有割合)は、例えば40%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下、最も好ましくは10%以下である。
【0019】
前記酸化チタンにおけるルチル型とアナターゼ型の混合割合(前者/後者(X線回折ピーク強度比))は30/70〜95/5であり、触媒活性がより向上する観点から、好ましくは35/65〜90/10、特に好ましくは40/60〜85/15、最も好ましくは50/50を超え、85/15以下、とりわけ好ましくは50/50を超え、80/20以下である。ルチル型とアナターゼ型の混合割合が上記範囲を外れると、触媒活性が低下するため好ましくない。
【0020】
尚、本発明において、酸化チタンにおけるルチル型とアナターゼ型の混合割合は、X線回折ピーク強度比によって示される。そして、X線回折ピーク強度比はルチル型結晶およびアナターゼ型結晶の最強回折線の強度比から算出することができ、例えば、X線回折装置としてCuの管球を用いた場合は、2θ=25.3°付近と2θ=27.4°付近に見られる両者の回折線のピークトップの比から算出することができる。
【0021】
ルチル型とアナターゼ型とが上記範囲で混在した結晶型を有する酸化チタンの比表面積(BET法測定による)は7〜55m2/gの範囲であり、好ましくは7m2/g以上、50m2/g未満、より好ましくは10〜45m2/g、特に好ましくは10〜30m2/g、最も好ましくは10m2/g以上、30m2/g未満である。比表面積が上記範囲の酸化チタンは、高活性面の露出量が多く、優れた光触媒能を発揮することができる。尚、酸化チタンの比表面積は、窒素吸着法によって求められる。
【0022】
酸化チタンの比表面積が上記範囲を下回ると、反応物質を吸着する能力が低下して光触媒能が低下する傾向がある。一方、酸化チタンの比表面積が上記範囲を上回ると、励起電子とホールの分離性が低下し、光触媒能が低下する傾向がある。
【0023】
本発明の光触媒において、酸化チタン表面に担持する鉄化合物は、鉄イオン、鉄単体、鉄塩、鉄酸化物、鉄水酸化物、鉄錯体等のいずれの状態であってもよい。
【0024】
本発明の光触媒における、酸化チタン基準での鉄元素含有量は、例えば50〜2000ppmであり、上限は、好ましくは1500ppm、より好ましくは1000ppm、更に好ましくは800ppm、特に好ましくは500ppm、最も好ましくは400ppm、とりわけ好ましくは300ppmである。また、下限は、好ましくは100ppm、更に好ましくは150ppm、特に好ましくは200ppmである。鉄元素含有量が上記範囲を上回ると、励起電子が有効に作用せず、光触媒能が低下する傾向がある。一方、鉄元素含有量が上記範囲を下回ると、可視光応答性が低下する傾向がある。
【0025】
また、本発明の光触媒における、酸化チタン基準での塩素原子含有量は、例えば50〜1400ppmであり、上限は、好ましくは1200ppm、より好ましくは1000ppm、更に好ましくは900ppm、特に好ましくは800ppm、最も好ましくは750ppm、とりわけ好ましくは700ppmである。また、下限は、好ましくは100ppm、より好ましくは200ppm、更に好ましくは400ppm、特に好ましくは500ppm、最も好ましくは550ppm、とりわけ好ましくは600ppmである。塩素原子含有量が上記範囲を外れると、触媒活性が低下する傾向がある。
【0026】
更に、本発明の光触媒における、酸化チタン基準での鉄元素含有量/塩素原子含有量(重量比)は、例えば1.50以下、好ましくは1.40以下、更に好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.6以下、最も好ましくは0.5以下、とりわけ好ましくは0.4以下である。尚、下限は、例えば0.05、好ましくは0.1、特に好ましくは0.2、最も好ましくは0.25、とりわけ好ましくは0.3である。
【0027】
更に、本発明の光触媒は鉄化合物以外の遷移金属化合物を担持していても良いが、酸化チタンに担持される遷移金属化合物全量に占める鉄化合物の割合(金属元素換算)は、例えば80重量%以上、好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。すなわち、酸化チタンに担持される遷移金属化合物全量に占める、鉄化合物以外の遷移金属化合物の割合(金属元素換算)は、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。他の遷移金属化合物の担持量が上記範囲を上回ると、本発明の効果が得られにくくなる傾向がある。
【0028】
[光触媒の製造方法]
本発明の光触媒は、例えば、ルチル型とアナターゼ型とが30/70〜95/5(前者/後者(X線回折ピーク強度比))の範囲で混在した結晶型を有し、酸化チタンの比表面積(BET法測定による)は7〜55m2/gの範囲である酸化チタンに塩化鉄(III)を担持させる工程を経て製造することができる。
【0029】
本発明の光触媒の製造に使用する酸化チタンは、ルチル型とアナターゼ型とが混在した結晶型を有し、ルチル型とアナターゼ型の混合割合(前者/後者(X線回折ピーク強度比))は30/70〜95/5であり、好ましくは35/65〜90/10、特に好ましくは40/60〜85/15、最も好ましくは50/50を超え、85/15以下、とりわけ好ましくは50/50を超え、80/20以下である。
【0030】
ルチル型とアナターゼ型とが混在した結晶型を有する酸化チタンは、例えば、四塩化チタンをバーナー中で燃焼させる方法(気相法)にて製造することができる。また、気相法で製造されたルチル型とアナターゼ型とが混在した結晶型を有する酸化チタンをさらに高温で焼成して、アナターゼ型の一部をルチル型へ変換させることにより、ルチル型とアナターゼ型の混合割合を調整することができる。
【0031】
その他、アナターゼ型酸化チタンを気相にて500℃以上の温度で燃焼させてその一部をルチル型へ変換することにより製造することができ、燃焼時間を調整することでルチル型とアナターゼ型の割合をコントロールすることができる。尚、アナターゼ型酸化チタンは、周知慣用の方法(例えば、下記(I)〜(III)の方法)で製造することができる。
(I)チタンテトライソプロポキシドを600〜800℃の温度での熱分解反応に付す方法(気相法)
(II)ゾル−ゲル法で得られた非晶質酸化チタンを、300〜600℃の温度で焼成する方法(液相法)
(III)オートクレーブ中、チタンアルコキシドを250〜300℃で水熱処理する方法(水熱法)
【0032】
酸化チタンに塩化鉄(III)を担持させる方法としては、例えば、酸化チタンに塩化鉄(III)を含浸させる含浸法により行うことができる。
【0033】
含浸は、具体的には、酸化チタンの水懸濁液中に塩化鉄(III)水溶液を添加することにより行うことができる。塩化鉄(III)水溶液中の塩化鉄(III)濃度は、例えば10〜80重量%程度である。含浸時間としては、例えば1〜48時間程度、好ましくは3〜24時間、特に好ましくは3〜12時間である。塩化鉄(III)水溶液濃度や含浸時間を調整することにより、得られる光触媒の鉄元素含有量や塩素原子含有量をコントロールすることができる。
【0034】
さらに、本発明においては、酸化チタンに塩化鉄(III)を含浸させる際、系内に犠牲剤を添加することが好ましい。犠牲剤を添加することにより、酸化チタンの表面に効率よく鉄化合物を担持させることができる。犠牲剤としては、それ自体が電子を放出しやすい有機化合物を使用することが好ましく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸等のカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエタノールアミン(TEA)等のアミン等を挙げることができる。
【0035】
犠牲剤の添加量は適宜調整することができ、例えば、酸化チタンの0.5〜20.0重量%程度、好ましくは1.0〜5.0重量%である。犠牲剤は過剰量を使用してもよい。
【0036】
本発明においては、酸化チタン表面に塩化鉄(III)を担持(若しくは、吸着)させる際に励起光を照射することが好ましい。励起光を照射すると、酸化チタンの表面の特定部位に担持された鉄イオンが選択的に剥がれることにより、酸化反応と還元反応の反応場が空間的に大きく引き離され、励起電子とホールの分離性が高められ、励起電子とホールの再結合及び逆反応の進行が極めて低く抑制されるためか、より一層優れた光触媒能を発揮することができる光触媒が得られる。
【0037】
励起光の照射は、例えば、紫外線等の、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することにより行うことができる。紫外線を照射する場合は、例えば、中・高圧水銀灯、UVレーザー、UV−LED、ブラックライト等の紫外線露光装置を使用することができる。励起光の照射量としては、例えば0.1〜300mW/cm2程度、好ましくは0.5〜100mW/cm2である。励起光の照射時間としては、例えば1〜48時間程度、好ましくは3〜36時間、特に好ましくは6〜36時間である。
【0038】
上記工程を経て得られた本発明の光触媒は、周知慣用の方法で精製することが好ましいく、特に、上記工程を経て得られた本発明の光触媒を、水懸濁液の上澄み液の電気伝導度が300μS/cm以下(例えば0.5〜300μS/cm)、好ましくは250μS/cm以下、特に好ましくは200μS/cm以下となるまで繰り返し水洗することが好ましい。水懸濁液の電気伝導度が上記範囲となるまで水洗することにより、光触媒に含まれる不純物[例えば、酸化チタンに含まれる未反応原料(チタン化合物)、鉄化合物(例えば、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)等の3価の鉄化合物等)、反応中間体(例えば、2価の鉄化合物等)]を分離・除去することができ、光触媒能を一層向上させることができる。
【0039】
上記水洗に使用する水としては、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等を挙げることができる。
【0040】
水洗処理方法としては、例えば、水に分散−水洗−遠心分離を、遠心分離後の上澄み液の電気伝導度が上記範囲となるまで繰り返し行う方法や、濾過膜を使用して濾過液(若しくは透過液)の電気伝導度が上記範囲になるまで繰り返し膜濾過する方法が挙げられる。膜濾過には、全量ろ過方式とクロスフロー方式(濾過膜面に平行に被処理水を流し、流れの側方で濾過する方式)が含まれる。本発明においては、特に、クロスフロー方式により膜濾過することが、本発明の光触媒の結晶構造及び分散性を維持しつつ、イオン性不純物の含有量を低減することができる点で好ましい。
【0041】
上記方法により得られる本発明の光触媒は非常に優れた光触媒活性を有し、反応容器(容量:200mL)の中に、当該光触媒200mgを仕込み、メタノールガス(空気希釈、800体積ppm)で前記反応容器内を満たした状態で、25℃において、24時間光照射(光源:405nmLED、照度:2.5W/m2)を行った際の前記反応容器中における二酸化炭素の生成量(濃度換算)は、例えば300体積ppm以上、好ましくは400体積ppm以上、より好ましくは500体積ppm以上、特に好ましくは650体積ppm以上、最も好ましくは700体積ppm以上、とりわけ好ましくは760体積ppm以上である。尚、上限は1000ppm程度である。
【0042】
本発明の光触媒は紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲において優れた応答性を有し、上述の通り優れた光触媒能を発揮することができるため、屋外だけでなく、屋内や車内等の紫外線量が低い環境下において、環境浄化や家電製品の高機能化等に応用が可能である。
【0043】
[コーティング液]
本発明のコーティング液は、任意の塗布対象物に塗布することで、当該塗布対象物表面に上記光触媒を含むコーティング層を形成する用途に用いられるものであり、少なくとも上記光触媒を含む。本発明のコーティング液は、上記光触媒の他に、例えば、バインダー樹脂、着色顔料、分散媒等を必要に応じて適宜含有することができる。
【0044】
本発明のコーティング液を、例えば、スプレー、刷毛、ローラー、グラビア印刷等を使用して塗布し、その後、乾燥及び/又は硬化させることによってコーティング層を形成することができる。
【0045】
[光触媒塗装体]
本発明の光触媒塗装体は、基材表面に前記光触媒を含むコーティング層を1層又は2層以上備えることを特徴とする。
【0046】
コーティング層の厚み(2層以上有する場合はその総厚み)としては、例えば0.1〜1μm程度である。
【0047】
素材からみた前記基材としては、例えば、各種プラスチック材料[例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のα−オレフィンをモノマー成分とするオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル;酢酸ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド;ポリアミド(ナイロン)、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン等]、ゴム材料(例えば、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム等)、金属材料(例えば、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス等)、紙質材料(例えば、紙、紙類似物質等)、木質材料(例えば、木材、MDF等の木質ボード、合板等)、繊維材料(例えば、不織布、織布等)、革材料、無機材料(例えば、石、コンクリート等)、ガラス材料、磁器材料等の各種の素材を挙げることができる。
【0048】
用途からみた前記基材としては、例えば、レンズ(例えば、眼鏡やカメラのレンズ等)、プリズム、自動車や鉄道車両等の乗物部材(窓ガラス、照明灯カバー、バックミラー等)、建築部材(例えば、外壁材、内壁材、窓枠、窓ガラス等)、機械構成部材、交通標識等の各種表示装置、広告塔、遮音壁(道路用、鉄道用等)、橋梁、ガードレール、トンネル、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、照明器具、浴室用品、浴室部材(例えば、鏡、浴槽等)、台所用品、台所部材(例えば、キッチンパネル、流し台、レンジフード、換気扇等)、空調、トイレ用品、トイレ部材(例えば、便器等)等の抗菌、防カビ、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚効果が期待される物品や、前記物品表面に貼着させるためのフィルム、シート、シール等を挙げることができる。
【0049】
本発明の光触媒塗装体は、上記光触媒を含むコーティング層を有するため、太陽光の照射環境下はもちろん、白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間の低照度環境下でも、優れた抗菌、防カビ、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚等の効果を発揮することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0051】
調製例1
四塩化チタンをバーナー中で燃焼させ、酸化チタン(30)[比表面積:45m2/g、ルチル型とアナターゼ型の混合割合(X線回折ピーク強度比):30/70)が混在した結晶型を有する]を製造した。
【0052】
調製例2
四塩化チタンをバーナー中で燃焼させ、酸化チタン(50)[比表面積:30m2/g、ルチル型とアナターゼ型の混合割合(X線回折ピーク強度比):50/50]を製造した。
【0053】
調製例3
調製例1で得られた酸化チタン(30)を大気中、電気炉で1000℃で90分加熱することにより、酸化チタン(71)[比表面積:20m2/g、ルチル型とアナターゼ型の混合割合(X線回折ピーク強度比):71/29]を製造した。
【0054】
実施例1(参考例とする)
調製例1で得られた酸化チタン(30)10gとイオン交換水90gを撹拌混合して懸濁液を得た。
得られた懸濁液に、塩化鉄(III)水溶液(塩化鉄(III)濃度:38重量%)0.15gを添加し、25℃にて30分間撹拌した。その後、メタノール2.3g(酸化チタンの23重量%に相当)を添加し、更に6時間撹拌した。
その後、懸濁液を、上澄み液の電気伝導度が200μS/cm以下となるまで水洗を行う粉体洗浄に付し、高速遠心沈降機(遠心力:20000G、遠心時間:10〜20分)を用いて粉体を沈降させた。
沈降した粉体を分取し、真空乾燥機を用いて60℃で乾燥を行って乾燥粉体を得た。
得られた乾燥粉体を乳鉢ですり潰して、光触媒(1)(Fe/酸化チタン(30)、酸化チタンに対して、鉄元素含有量:1820ppm、塩素原子含有量:1310ppm、鉄元素含有量/塩素原子含有量:1.39)を得た。
【0055】
実施例2
調製例1で得られた酸化チタン(30)に代えて、調製例3で得られた酸化チタン(71)を使用した以外は実施例1と同様にして、光触媒(2)(Fe/酸化チタン(71)、酸化チタンに対して、鉄元素含有量:1740ppm、塩素原子含有量:1270ppm、鉄元素含有量/塩素原子含有量:1.37)を得た。
【0056】
実施例3(参考例とする)
懸濁液に、塩化鉄(III)水溶液とメタノールを添加した後、10Wのブラックライトを用いて紫外線(UV)を6時間照射(UV照射量:10mW/cm2)した以外は実施例1と同様にして、光触媒(3)(Fe/酸化チタン(30)(UV)、酸化チタンに対して、鉄元素含有量:230ppm、塩素原子含有量:650ppm、鉄元素含有量/塩素原子含有量:0.35)を得た。
【0057】
実施例4(参考例とする)
調製例1で得られた酸化チタン(30)に代えて、調製例2で得られた酸化チタン(50)を使用して懸濁液を得、得られた懸濁液に、塩化鉄(III)水溶液とメタノールを添加した後、10Wのブラックライトを用いて紫外線(UV)を6時間照射(UV照射量:10mW/cm2)した以外は実施例1と同様にして、光触媒(4)(Fe/酸化チタン(50)(UV)、酸化チタンに対して、鉄元素含有量:220ppm、塩素原子含有量:630ppm、鉄元素含有量/塩素原子含有量:0.35)を得た。
【0058】
実施例5
調製例1で得られた酸化チタン(30)に代えて、調製例3で得られた酸化チタン(71)を使用して懸濁液を得、得られた懸濁液に、塩化鉄(III)水溶液とメタノールを添加した後、10Wのブラックライトを用いて紫外線(UV)を6時間照射(UV照射量:10mW/cm2)した以外は実施例1と同様にして、光触媒(5)(Fe/酸化チタン(71)(UV)、酸化チタンに対して、鉄元素含有量:210ppm、塩素原子含有量:620ppm、鉄元素含有量/塩素原子含有量:0.34)を得た。
【0059】
比較例1
調製例1で得られた酸化チタン(30)に代えて、酸化チタン(20)(ルチル型とアナターゼ型が混在した結晶型を有する酸化チタン、ルチル型とアナターゼ型の混合割合(X線回折ピーク強度比):20/80、比表面積:50m2/g、商品名「AEROXIDE TiO2 P25」、日本アエロジル(株)製)を使用した以外は実施例1と同様にして、光触媒(7)(Fe/酸化チタン(20)、酸化チタンに対して、鉄元素含有量:2120ppm、塩素原子含有量:1500ppm、鉄元素含有量/塩素原子含有量:1.41)を得た。
【0060】
<鉄元素含有量の測定方法>
光触媒の鉄元素含有量は、以下の方法で測定した。
光触媒約20mgを精秤し、硫酸1mLを加えた後、砂浴上で加熱溶解した。溶解後、少量の超純水を加えてリフラックスした後、これをIWAKI製PP容器にて20mLにメスアップし、更に0.2μmフィルター処理を施してサンプルを調製し、これをICP発光分析(ICP発光分析装置:(株)リガク製、CIROS)に付した。
また、光触媒を加えなかった以外は前記と同様にして得られたサンプルをブランクとして使用した。検量線用の標準液は、SPEX社製ICP−MS用混合標準液XSTC−22を同濃度の硫酸水溶液にて希釈調整したものを使用した。
【0061】
<塩素原子含有量の測定方法>
光触媒の塩素原子含有量は、下記条件で測定した。
燃焼条件
使用機器:ダイアインスツルメンツ製AQF−100
サンプル:約20mg
燃焼プログラム:2
吸収液:H22150ppm
内部標準液:酒石酸5ppm
吸収液量:10mL
イオンクロマト条件
使用機器:DIONEX ICS−2000(低濃度分析モード)
本カラム:AS−12
プレカラム:AG−12
溶離液:3.0mM K2CO3+0.3mM EPM
サプレッサー:ASRS(リサイクルモード)
流速:1.2mL/分
検出器:電気伝導度検出器
カラム温度:35℃
注入量:100μL
【0062】
<光触媒活性評価方法(メタノール酸化法)>
光触媒(1)〜(7)、及び酸化チタン(20)の光触媒活性は、メタノールを酸化し、生成するCO2量を測定することによりで光触媒活性を評価した。
すなわち、光触媒約200mgをガラス製皿に広げ、反応容器(容量:200mL、ANALYTIC−BARRIER、ジーエルサイエンス(株)製)の中に入れ、真空状態にした後、メタノールガス(空気希釈;800体積ppm)125mLを反応容器内に吹き込んだ。メタノールガスの光触媒への吸着が平衡に達した後、25℃で光照射(光源:405nmLED、照度:2.5W/m2)を行った。
光照射開始24時間後における反応容器内のCO2濃度をメタナイザー(商品名「MT221」、GLサイエンス(株)製)が付属した水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ(商品名「GC−14B」、島津製作所製)を使用して測定し、光照射開始前における反応用器内のCO2濃度を差し引いた値を、CO2の生成量とした。結果を図1、2に示す。
【0063】
図1、2より、ルチル型とアナターゼ型とが30/70〜95/5(前者/後者(X線回折ピーク強度比))の範囲で混在した結晶型を有する酸化チタンに鉄化合物を担持してなる本発明の光触媒は、ルチル型とアナターゼ型の混合割合が前記範囲を外れる酸化チタンに鉄化合物を担持してなる光触媒に比べて、触媒活性に優れることが分かる。
また、ルチル型とアナターゼ型の混合割合は、前記範囲内においてルチル型の含有割合が上がると、触媒活性が向上する傾向があることが分かる。
更に、鉄化合物担持の際に励起光を照射して得られる光触媒は、励起光を照射することなく得られた光触媒に比べて飛躍的に触媒活性が向上することが分かる。
図1
図2