特許第6807651号(P6807651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807651
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/08 20060101AFI20201221BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B08B3/08 Z
   C11D7/50
【請求項の数】6
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-72828(P2016-72828)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-177082(P2017-177082A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青柳 功
(72)【発明者】
【氏名】吉田 瑞穂
【審査官】 永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−283191(JP,A)
【文献】 特開2010−174106(JP,A)
【文献】 特許第6630219(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/08
C11D 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤(A)相と、水(B)相の2相からなる洗浄剤組成物に、物理力を付加してW/Oマクロエマルションを形成し、形成したW/Oマクロエマルションに被洗浄物を浸漬して洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程後、有機溶剤(A)に、前記洗浄剤組成物が付着した前記被洗浄物を浸漬して水切りする水切り工程と、
前記水切り工程後、有機溶剤(A)に、前記水切り工程で使用する有機溶剤(A)が付着した前記被洗浄物を浸漬して濯ぐ濯ぎ工程と、
を含み、
前記W/Oマクロエマルションとは、前記洗浄剤組成物に2分間超音波を照射し、5分静置した後に2相分離し、2相分離した上相である前記有機溶剤(A)相の濁度が500NTU以上のものであり、
前記有機溶剤(A)相は、水を付着させた目開き63μmのステンレスメッシュを浸漬した際、5秒以内に水滴を除去することを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄工程で使用する前記洗浄剤組成物、および前記水切り工程で使用する前記水(B)を含む前記有機溶剤(A)相から、比重差、膜分離、電界、遠心力、解乳化剤、および/または吸着剤により前記水(B)を分離する水分離工程を含み、
前記水分離工程で前記水(B)を除去した有機溶剤(A’)を、洗浄工程または水切り工程で再使用することを特徴とする請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記水分離工程で前記水(B)を分離した有機溶剤(A’)を蒸留する蒸留工程を含み、
前記蒸留工程で前記水(B)を除去した有機溶剤(A’’)を、洗浄工程または水切り工程で再使用することを特徴とする請求項2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記有機溶剤(A)相は、沸点が130〜350℃の炭化水素(A1)と、沸点が130〜350℃で、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の混合物であり、
前記水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の下記式(1)で表されるノルマルヘキサンと水との間の分配係数Xが、5.0以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の洗浄方法。
X=Co/Cw (1)
(ここで、Coはノルマルヘキサン中の前記水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の濃度(質量%)であり、Cwは水相中の前記極性有機化合物(A2)の濃度(質量%)である)
【請求項5】
前記有機溶剤(A)相は、沸点が130〜350℃の炭化水素(A1)と、沸点が130〜350℃で、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)と、沸点が130〜350℃で、水酸基を有する極性有機化合物(A3)の混合物であり、
前記水酸基を有しない極性有機化合物(A2)および前記水酸基を有する極性有機化合物(A3)の下記式(1)で表されるノルマルヘキサンと水との間の分配係数Xが、5.0以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の洗浄方法。
X=Co/Cw (1)
(ここで、Coはノルマルヘキサン中の前記水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の濃度(質量%)であり、Cwは水相中の前記極性有機化合物(A2)の濃度(質量%)である)
【請求項6】
前記炭化水素(A1)は、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、シクロパラフィンおよびテルペン類から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項4または5に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄方法、特に、自動車、機械、精密機器、電気、電子、光学等の各種工業分野において扱われる部品、石油精製プラントや化学プラント等の各種工場の配管や装置、自動車や産業機械等を解体した部品、日常生活で使用される金属製品や樹脂製品や繊維品等の種々の物品の洗浄に使用される洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、機械、精密機器、電気、電子、光学等の各種工業分野において扱われる部品の加工の際、(i)鉱物油等を主体とする油性加工油、(ii)鉱物油等に界面活性剤を加えて水に乳化させた水溶性加工油、(iii)研磨剤等の微粒子などが使用されている。切削や研削加工などを中心に水溶性加工油が多く使用されているが、複数の加工工程を経て製造される部品は、工程毎に使用される加工油が異なることがある。加工後の部品の表面には油性加工油、水溶性加工油、微粒子と加工屑等の有機から無機までの様々な汚れが混ざった状態で付着している場合が多い。また、石油精製プラントや化学プラント等の各種工場の配管や装置、自動車や産業機械等を解体した部品、日常生活で使用される金属製品、樹脂製品、および繊維品等の種々の物品等にも、グリース、プラスチック、機械油、コールタール、粘土、砂、脂肪質等の有機から無機まで様々な汚れが複合して付着している。
【0003】
このような有機から無機までの様々な汚れが複合して付着した物品を洗浄する場合には、トリクロロエチレンや塩化メチレン等の塩素系溶剤、水系洗浄剤、水系洗浄剤に水溶性溶剤を配合した準水系洗浄剤、炭化水素系洗浄剤、イソプロパノールなどのアルコール系洗浄剤、グリコールエーテル系洗浄剤等が使用されている。しかしながら、いずれにおいても、有機から無機まで様々な汚れが複合して付着した部品に対して、洗浄力、乾燥性、安全性、経済性、有害性等の要求項目を全て満たすことはできていない。
【0004】
有機から無機までの様々な汚れが付着した物品の洗浄用として、非芳香族炭化水素とアルキル化芳香族炭化水素とを混合した水不混和性有機溶剤と、水と、からなる2相の洗浄剤に、機械力を加えてマクロエマルション状態に分散させた状態で洗浄を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、炭化水素系洗浄油に1〜10%の水を添加し、減圧下で超音波照射することにより乳化させて洗浄を行う方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1では、マクロエマルションとすることにより有機から無機までの汚れを洗浄できるものの、特許文献1のマクロエマルションの安定性は極めて悪いため(30秒以内に分離)、洗浄力に劣るものである。一方、特許文献2では、特許文献1と同様に有機から無機までの汚れを洗浄できるものの、使用する炭化水素系洗浄油の限定はなく、洗浄性等が特に優れるものではない。また、特許文献1および2では、洗浄後の水切り、およびすすぎについて何ら考慮されていないため、洗浄槽から持ち込まれる水分がすすぎ工程でも十分に除去することができず、水シミが残りやすいという問題を有している。
【0006】
一方、水溶性汚れが付着した物品の洗浄用として、炭化水素と、水に微溶な極性化合物と、飽和水分量以下の水分とを含む洗浄剤組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3では、水分を配合することにより、有機から無機までの汚れを洗浄可能であるものの、配合する水分量は飽和水分量以下であるために、乾固した水溶性汚れ、特に、乾固した水溶性汚れに含まれる無機成分の溶解力は充分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−318096号公報
【特許文献2】特開平9−104992号公報
【特許文献3】特開2007−283191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、有機から無機までの幅広い汚れ、特に乾固した水溶性汚れ等の洗浄し難い汚れが洗浄可能であるとともに、洗浄後に水シミの発生を抑制することができ、かつ、繰り返し使用が可能な洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、有機溶剤(A)相と、水(B)相の2相からなる洗浄剤組成物に、物理力を加えることにより安定したW/Oマクロエマルションを形成して洗浄工程を行い、有機溶剤(A)相からなる水切り工程と、濯ぎ工程を行うことにより、有機から無機までの幅広い汚れが洗浄可能であるとともに、水切り性に優れ、洗浄後の水シミの発生も抑制できる洗浄方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の洗浄方法は、有機溶剤(A)相と、水(B)相の2相からなる洗浄剤組成物に、物理力を付加してW/Oマクロエマルションを形成し、形成したW/Oマクロエマルションに被洗浄物を浸漬して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程後、前記有機溶剤(A)相に前記被洗浄物を浸漬して水切りする水切り工程と、前記水切り工程後、前記有機溶剤(A)相に前記被洗浄物を浸漬して濯ぐ濯ぎ工程と、を含み、前記有機溶剤(A)相は、水を付着させた目開き63μmのステンレスメッシュを浸漬した際、5秒以内に水滴を除去することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の洗浄方法は、上記発明において、前記洗浄剤組成物に、2分間超音波を照射し、5分間静置した後に、2相分離した上相である前記有機溶剤(A)相の濁度が500NTU以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の洗浄方法は、上記発明において、前記洗浄工程で使用する前記洗浄剤組成物、および前記水切り工程で使用する前記水(B)を含む前記有機溶剤(A)相から、比重差、膜分離、電界、遠心力、解乳化剤、および/または吸着剤により前記水(B)を分離する水分離工程を含み、前記水分離工程で前記水(B)を除去した有機溶剤(A’)を、洗浄工程または水切り工程で再使用することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の洗浄方法は、上記発明において、前記水分離工程で前記水(B)を分離した有機溶剤(A’)を蒸留する蒸留工程を含み、前記蒸留工程で前記水(B)を除去した有機溶剤(A’’)を、洗浄工程または水切り工程で再使用することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の洗浄方法は、上記発明において、前記有機溶剤(A)相は、沸点が130〜350℃の炭化水素(A1)と、沸点が130〜350℃、かつ水に微溶な極性有機化合物(A2)の混合物であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の洗浄方法は、上記発明において、前記極性有機化合物(A2)の下記式(1)で表されるノルマルヘキサンと水との間の分配係数Xが、5.0以上であることを特徴とする。
X=Co/Cw (1)
(ここで、Coはノルマルヘキサン中の前記極性有機化合物(A2)の濃度(質量%)であり、Cwは水相中の前記極性有機化合物(A2)の濃度(質量%)である)
【0016】
また、本発明の洗浄方法は、上記発明において、前記炭化水素(A1)は、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、シクロパラフィンおよびテルペン類から選ばれる1種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる洗浄方法は、物理力の付加によりW/Oマクロエマルションを形成した洗浄剤組成物により洗浄工程を行い、洗浄剤組成物の水(B)を除いた有機溶剤(A)により、水切り工程、濯ぎ工程を行うことにより、有機から無機までの幅広い汚れの洗浄を可能とするとともに、水切り性に優れ、水シミの発生を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明にかかる洗浄方法について詳細に説明する。
【0019】
まず、第1の実施形態にかかる洗浄方法について説明する。本発明の洗浄方法は、有機溶剤(A)相と、水(B)相の2相からなる洗浄剤組成物に、物理力を付加してW/Oマクロエマルションを形成し、形成したW/Oマクロエマルションに被洗浄物を浸漬して洗浄する洗浄工程と、洗浄工程後、有機溶剤(A)相に被洗浄物を浸漬して水切りする水切り工程と、水切り工程後、有機溶剤(A)相に被洗浄物を浸漬して濯ぐ濯ぎ工程と、を含み、有機溶剤(A)相は、水を付着させた目開き63μmのステンレスメッシュを浸漬した際、5秒以内に水滴を除去することを特徴とする。
【0020】
まず、洗浄工程について説明する。洗浄工程で使用する洗浄剤組成物は、有機溶剤(A)相と、水(B)相の2相からなる。洗浄工程は、2相に分離した洗浄剤組成物に物理力を付加して、W/Oマクロエマルションを形成し、形成したW/Oマクロエマルションに被洗浄物を浸漬して洗浄する。洗浄剤組成物への物理力の付加は、攪拌、揺動、超音波、エアバブリングなどにより行う。
【0021】
洗浄工程は、攪拌、揺動、超音波、エアバブリングなどの物理力を組み合せて使用することが好ましい。超音波の使用条件は、例えば発振周波数:20〜100kHz、洗浄剤組成物1L当たりの発振出力:10〜200Wが好ましい。エアバブリングでは、微細な気泡を、好ましくはガス:洗浄剤組成物の体積比を1:1〜5:1で通気することが好ましい。エアバブリングは、洗浄剤組成物に溶解しない汚れを気泡と共に上昇させ、分離できる点で好ましい。また、浸漬洗浄後に、スプレーによる洗浄を行っても構わない。その際、圧力は、例えば0.5〜10kg/cmGが好ましい。
【0022】
また、洗浄工程で使用する洗浄剤組成物は、有機から無機までの様々な汚れに対する洗浄力を高める観点から、乳化安定性に優れることが好ましい。洗浄剤組成物の乳化安定性は、洗浄剤組成物に所定条件下で超音波を照射し、静置後の有機溶剤(A)相の濁度で判断することができる。例えば、20℃の洗浄剤組成物に2分間超音波を照射し(HONDA W−113、出力100W、周波数28kHz)、5分間静置した後の有機溶剤(A)相の濁度が500NTU以上であれば、乳化安定性に優れ、所望の洗浄能力を発揮しうる。
【0023】
本発明の洗浄工程で使用する洗浄剤組成物として、2つの形態の洗浄剤組成物を例示することができる。第1の実施形態にかかる洗浄剤組成物は、有機溶剤(A)相として、沸点130〜350℃の炭化水素(A1)を20〜60質量部と、沸点130〜350℃の水に微溶であって、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)を40〜80質量部含み、水(B)を有機溶剤(A)の合計100質量部に対し1.0〜100質量部の割合で含む。
【0024】
第1の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、炭化水素(A1)は、20〜60質量部配合される。この炭化水素(A1)の配合量が60質量部を越えると無機成分に対する洗浄能力が低下し、逆に、配合量が20質量部未満の場合には有機成分に対する洗浄能力が低下するおそれがある。炭化水素(A1)は、30〜60質量部配合されることが好ましい。
【0025】
炭化水素(A1)の沸点は、130〜350℃である。炭化水素(A1)の沸点が130℃未満である場合、引火点が室温よりも低く安全上好ましくない。また、炭化水素(A1)の沸点が350℃を超える場合、高粘度のため、被洗浄物の隙間部分に洗浄剤が浸透し難く、洗浄残りが発生しやすくなり、洗浄剤として好ましくない。また、炭化水素(A1)の沸点が350℃を超えると、後述する洗浄剤組成物の蒸留工程の際に、汚れ成分中の有機成分と、炭化水素(A1)との分離がしにくくなるため好ましくない。炭化水素(A1)の沸点は、好ましくは150〜330℃であり、より好ましくは170〜310℃である。
【0026】
第1の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、沸点130〜350℃の炭化水素(A1)として、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、シクロパラフィンおよびテルペン類から選ばれる1種以上であることが好ましい。炭化水素(A1)としては、炭素数9〜20のノルマルパラフィン、炭素数9〜20のイソパラフィン、炭素数9〜20のシクロパラフィン、リモネン等のテルペン類などが好適に使用される。
【0027】
第1の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)は、40〜80質量部配合される。水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の配合量が80質量部を越えると有機成分に対する洗浄能力が低下し、逆に、配合量が40質量部未満の場合には無機成分に対する洗浄能力が低下するおそれがある。水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の配合量は、40〜70質量部であることが好ましい。
【0028】
水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の沸点は、130〜350℃である。水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の沸点が130℃未満である場合、引火点が室温よりも低く安全上好ましくない。また、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の沸点が350℃を超える場合、高粘度のため、被洗浄物の隙間部分に洗浄剤が浸透し難く、洗浄残りが発生しやすくなり、洗浄剤として好ましくない。また、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の沸点が350℃を超えると、後述する洗浄剤組成物の蒸留工程の際に、汚れ成分中の有機成分と、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)との分離がしにくくなるため好ましくない。水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の沸点は、好ましくは150〜330℃であり、より好ましくは170〜310℃である。
【0029】
水酸基を有しない極性有機化合物(A2)は水に微溶である。水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の下記式(1)で表されるノルマルヘキサンと水との間の分配係数X(25℃)は、5.0以上であることが好ましい。
【0030】
X=Co/Cw (1)
(ここで、Coはノルマルヘキサン中の水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の濃度(質量%)であり、Cwは水相中の水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の濃度である)
【0031】
水酸基を有しない極性有機化合物(A2)は、25℃における分配係数Xが5.0以上、より好ましくは10.0以上である。分配係数Xが5.0未満の場合には、水とのW/Oマクロマルションを形成させる際に、極性有機化合物(A2)が水相へ移行してしまい、洗浄剤組成物中の極性有機化合物(A2)の量が低減して洗浄能力が低下するために好ましくない。
【0032】
水酸基を有しない極性有機化合物(A2)としては、エーテル類、ケトン類、アルデヒド類、エステル類、多価アルコール類、アミン類、及びラクタム類からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。これらの例として、エーテル類としては、ジブチルエーテル、フェネトール、2−メチルアニソール、ジイソアミルエーテル、3−メチルアニソール、4−メチルアニソール、エチルベンジルエーテルなど、ケトン類としては、メシチルオキシド、エチル−n−ブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、メチル−n−アミルケトン、2−メチルシクロヘキサノン、3−メチルシクロヘキサノン、4−メチルシクロヘキサノン、メチル−n−ヘキシルケトン、ホロン、アセトフェノンなど、アルデヒド類としては、2,3−ジメチルペンタアルデヒド、テトラヒドロベンズアルデヒド、イソホロンなど、エステル類としては、イソ吉草酸エチル、酢酸イソアミル、プロピオン酸ブチル、酢酸アミル、プロピオン酸イソアミル、酪酸ブチル、酢酸シクロヘキシル、マロン酸ジメチル、イソ吉草酸イソアミル、安息香酸メチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチル、シュウ酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、セバシン酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、ステアリン酸ブチル、セバシン酸ジブチルなど、多価アルコール類としては、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート、エチレングリコールジブチルエーテル、2−(2−エチルヘキシルオキシ)エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテルなど、アミン類としては、ジイソブチルアミン、ヘプチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジアミルアミン、トリ−1−ブチルアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジフェニルアミンなど、ラクタム類としては、δ−バレロラクタム、1−オクチル−2−ピロリドンなどが挙げられ、中でもメチル−n−ヘキシルケトン、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチル−3−エトキシプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネートが好ましく用いられる。
【0033】
第1の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、水(B)は、有機溶剤(A)の合計100質量部に対して、1.0〜100質量部の割合で配合される。水(B)の配合量が有機溶剤(A)の合計100質量部に対して1.0質量部未満の場合には、洗浄し難い汚れ、例えば、乾固した無機汚れを満足に洗浄することはできない。乾固した無機汚れを除去するためには、無機汚れを洗浄剤組成物中に浮遊している水滴(マクロエマルション)に溶解させる必要があるためと考えられる。また、水(B)の配合量が、有機溶剤(A)の合計100質量部に対して100質量部を超えても洗浄力は向上せず、廃水量が増加するために好ましくない。第1の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、水(B)の配合量は、有機溶剤(A)の合計100質量部に対して、好ましくは2.0〜50質量部であり、さらに好ましくは3.0〜30質量部である。
【0034】
なお、静置の際、有機溶剤(A)相と水(B)相とに2相分離するものでなければ、水(B)を、有機溶剤(A)の合計100質量部に対して、1.0〜100質量部の割合で含むものであっても、本発明の第1の実施形態にかかる洗浄剤組成物に当たるものではない。多量の水(B)が、有機溶剤(A)に添加され、静置の際2相分離せず水(B)と有機溶剤(A)が相溶するものは、マクロエマルションを形成せず、洗浄力に劣るためである。第1の実施形態にかかる洗浄剤組成物は、洗浄の際、物理力の付加、例えば、攪拌、搖動、超音波照射によりW/Oマクロエマルションを形成することにより、有機から無機までの幅広い汚れが洗浄可能となる。
【0035】
第2の実施形態にかかる洗浄剤組成物は、有機溶剤(A)として、沸点130〜350℃の炭化水素(A1)を20〜80質量部と、沸点130〜350℃の水に微溶であって、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)を10〜78質量部と、沸点130〜350℃の水に微溶であって、水酸基を有する極性有機化合物(A3)を2〜10質量部含み、水(B)を有機溶剤(A)の合計100質量部に対し1.0〜100質量部の割合で含む。
【0036】
第2の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、炭化水素(A1)は、20〜80質量部配合される。この炭化水素(A1)の配合量が80質量部を越えると無機成分に対する洗浄能力が低下し、逆に、配合量が20質量部未満の場合には有機成分に対する洗浄能力が低下するおそれがある。炭化水素(A1)は、30〜80質量部配合されることが好ましい。
【0037】
第2の実施形態にかかる炭化水素(A1)の沸点、および好適に使用される化合物の例示は、第1の実施の形態と同様である。
【0038】
第2の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)は、10〜78質量部配合される。水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の配合量が78質量部を越えると有機成分に対する洗浄能力が低下し、逆に、配合量が10質量部未満の場合には無機成分に対する洗浄能力が低下するおそれがある。水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の配合量は、10〜70質量部であることが好ましい。
【0039】
第2の実施形態にかかる水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の沸点、水に微溶の概念および好適に使用される化合物の例示は、第1の実施の形態と同様である。
【0040】
第2の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、水酸基を有する極性有機化合物(A3)は、2〜10質量部配合される。水酸基を有する極性有機化合物(A3)の配合量が10質量部を越えると、物理力によりW/Oマクロエマルションを形成した後、静置して2相分離させる際の水分離性(以下、「エマルション分離性」ともいう)が低下する。また、配合量が2質量部未満の場合にはW/Oマクロエマルションの安定性(以下、「エマルション安定性」ともいう)が低下する。水酸基を有する極性有機化合物(A3)の配合量は、2〜8質量部であることが好ましい。
【0041】
水酸基を有する極性有機化合物(A3)の沸点は、130〜350℃である。水酸基を有する極性有機化合物(A3)の沸点が130℃未満である場合、引火点が室温よりも低く安全上好ましくない。また、水酸基を有する極性有機化合物(A3)の沸点が350℃を超える場合、高粘度のため、被洗浄物の隙間部分に洗浄剤が浸透し難く、洗浄残りが発生しやすくなり、洗浄剤として好ましくない。また、水酸基を有する極性有機化合物(A3)の沸点が350℃を超えると、後述する洗浄剤組成物の蒸留工程の際に、汚れ成分中の有機成分と、水酸基を有する極性有機化合物(A3)との分離がしにくくなるため好ましくない。水酸基を有する極性有機化合物(A3)の沸点は、好ましくは150〜330℃、より好ましくは170〜310℃である。
【0042】
水酸基を有する極性有機化合物(A3)は水に微溶である。水酸基を有する極性有機化合物(A3)の下記式(1)で表されるノルマルヘキサンと水との間の分配係数X(25℃)は、5.0以上であることが好ましい。
【0043】
X=Co/Cw (1)
(ここで、Coはノルマルヘキサン中の水酸基を有する極性有機化合物(A3)の濃度(質量%)であり、Cwは水相中の水酸基を有する極性有機化合物(A3)の濃度である)
【0044】
水酸基を有する極性有機化合物(A3)は、25℃における分配係数Xが5.0以上、より好ましくは10.0以上である。分配係数Xが5.0未満の場合には、水とのマクロマルションを形成させる際に、極性有機化合物(A3)が水相へ移行してしまい、洗浄剤組成物中の極性有機化合物(A3)の量が低減して、洗浄能力、エマルション安定性およびエマルション分離性が低下するために好ましくない。
【0045】
水酸基を有する極性有機化合物(A3)としては、アルコール類より選ばれる1種以上であることが好ましい。これらの例として、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチルブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−ヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−オクタノール、1−ノナノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、1−デカノールなどが挙げられ、中でも1−ヘプタノール、2−エチルヘキサノール、1−オクタノール、ベンジルアルコールが好ましく用いられる。
【0046】
第2の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、水(B)を、有機溶剤(A)の合計100質量部に対して、1.0〜100質量部の割合で含む。水(B)が有機溶剤(A)の合計100質量部に対して1.0質量部未満の場合には、洗浄し難い汚れ、例えば、乾固した無機汚れを満足に洗浄することはできない。乾固した無機汚れを除去するためには、無機汚れを洗浄剤組成物中に浮遊している水滴(マクロエマルション)に溶解させる必要があるためと考えられる。また、水(B)の配合量が、有機溶剤(A)の合計100質量部に対して100質量部を超えても洗浄力は向上せず、廃水量が増加するために好ましくない。第2の実施形態にかかる洗浄剤組成物において、水(B)の配合量は、有機溶剤(A)の合計100質量部に対して、好ましくは2.0〜50質量部、さらに好ましくは3.0〜30質量部である。
【0047】
なお、静置の際、有機溶剤(A)相と水(B)相とに2相分離するものでなければ、水(B)を、有機溶剤(A)の合計100質量部に対して、1.0〜100質量部の割合で含むものであっても、本発明の第2の実施形態にかかる洗浄剤組成物に当たるものではない。多量の水(B)が、有機溶剤(A)に添加され、静置の際2相分離せず水(B)と有機溶剤(A)が相溶するものは、マクロエマルションを形成せず、洗浄力に劣るためである。第2の実施形態にかかる洗浄剤組成物は、洗浄の際、物理力の付加、例えば、攪拌、搖動、超音波照射によりW/Oマクロエマルションを形成することにより、有機から無機までの幅広い汚れが洗浄可能となる。
【0048】
本発明の第1の実施の形態、および第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物は、洗浄性エマルション安定性およびエマルション分離性に優れるため、本発明の洗浄方法に好適に使用することができる。洗浄工程、およびのちに説明する水切り工程で、比重差により有機溶剤(A)相と水(B)相とを分離する場合には、第1の実施の形態、および第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物を使用することが好ましいが、その他の分離法により水(B)を分離する場合には、エマルション分離性が多少劣る洗浄剤組成物、例えば、炭化水素(A1)を60質量部より多く含む洗浄剤組成物を使用することもできる。
【0049】
本発明の第1の実施の形態、および第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物の有機溶剤(A)相の密度は、0.95g/cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.70〜0.90g/cmである。有機溶剤(A)相の密度が0.95g/cmを超えると、後述する水切り工程での水切り性が低下して、被洗浄物への同伴により水切り工程から濯ぎ工程へ持ち込まれる水量が多くなり、濯ぎ工程でも十分に水切りできずに水シミを発生する虞がある。
【0050】
本発明の第1の実施の形態、および第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物の水(B)相のpHは1.5以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましい。pHを1.5以下とすることにより、研磨工程やプレス工程で部品に付着する汚れ(以下、「スマット」という)の洗浄能力が格段に向上する。これは、洗浄剤組成物との接触により、スマット中の無機酸化物粒子のゼータ電位が正に荷電し、無機酸化物粒子の凝集が抑制、すなわち、無機酸化物粒子の分散性が向上するためと考えられる。また、pHを1.5以下とすることによって無機酸化物粒子を溶解し得る副次的な効果もある。
【0051】
本発明の第1の実施の形態、および第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物の水(B)相のpHを1.5未満とするためには、洗浄剤組成物に酸を配合することが好ましい。洗浄剤組成物に配合する酸としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸やスルファミン酸、シュウ酸等の有機酸の何れも使用できる。
【0052】
本発明の第1の実施の形態、および第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の炭化水素類や水に可溶なエステル類、アルコール類、ケトン類、ラクタム類などの配合成分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤などの慣用の添加剤を含めることができる。本発明で特定される成分以外の含有量は、合計で10質量%未満、特には2質量%未満であることが好ましい。
【0053】
紫外線吸収剤および酸化防止剤としては、洗浄剤の長期保存などにおける安定性の向上に役立ち、紫外線吸収剤としては例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系などを使用でき、酸化防止剤としては例えばフェノール系、アミン系、硫黄系、リン系など、本発明の洗浄剤組成物に溶解するものはいずれも使用できる。フェノール系酸化防止剤を50〜1000ppm添加することが特に好ましい。
【0054】
次に、水切り工程について説明する。水切り工程は、第1の実施の形態、または第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物から水(B)を除いた有機溶剤(A)の混合物中に、洗浄工程を終了した被洗浄物を浸漬することにより行う。洗浄工程に、第1の実施の形態にかかる洗浄剤組成物を用いる場合は、炭化水素(A1)と、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)とを、洗浄工程で使用する洗浄剤組成物と同様の配合比で相溶する有機溶剤(A)相中に被洗浄物を浸漬して水切りを行う。洗浄工程に、第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物を用いる場合は、炭化水素(A1)と、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)と、水酸基を有する極性有機化合物(A3)とを、洗浄工程で使用する洗浄剤組成物と同様の配合比で混合した有機溶剤(A)相中に被洗浄物を浸漬して水切りを行う。水切り工程では、持ち込まれる水(B)と、有機相とを速やかに分離して、水切り性を向上するために、水切り工程では、有機相に攪拌、超音波、エアバブリング等の物理力を付加しないことが好ましい。なお、W/Oマクロエマルションを形成しない程度の揺動は、水切り性を向上する点で好ましい。水切り工程で使用する有機溶剤(A)相は、必ずしも洗浄工程で使用する有機溶剤(A)相と同種、同一割合の有機溶剤(A)相とする必要はないが、ランニングコストや液の管理面から、洗浄工程で使用する有機溶剤(A)相と同種、同一割合の有機溶剤(A)相とすることが好ましい。
【0055】
本発明の第1の洗浄方法において、洗浄効率を向上するために、水切り工程において被洗浄物から速やかに水分を除去することが好ましい。物理力を付加せずに被洗浄物から速やかに水分を除去するためには、第1の実施の形態、および第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物の有機溶剤(A)相、すなわち、炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)とが相溶した有機溶剤(A)相、または、炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)と水酸基を有する極性有機化合物(A3)が相溶した有機溶剤(A)相の水切り性が高いことが好ましい。有機溶剤(A)相の水切り性は、水切り性試験により判断することができる。例えば、水を付着させた目開き63μmのステンレスメッシュを有機溶剤(A)相に浸漬した際、5秒以内に水滴を落下除去できれば、水切り性に優れ、洗浄効率を向上でき、水シミの発生を抑制できる。
【0056】
濯ぎ工程は、第1の実施の形態、または第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物から水(B)を除いた有機溶剤(A)の混合物中に、水切り工程を終了した被洗浄物を浸漬することにより行う。洗浄工程に、第1の実施の形態にかかる洗浄剤組成物を用いる場合は、炭化水素(A1)と、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)とを、洗浄工程で使用する洗浄剤組成物と同様の配合比で相溶する有機溶剤(A)相中に被洗浄物を浸漬して濯ぎ工程を行う。洗浄工程に、第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物を用いる場合は、炭化水素(A1)と、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)と、水酸基を有する極性有機化合物(A3)とを、洗浄工程で使用する洗浄剤組成物と同様の配合比で混合した有機溶剤(A)相中に被洗浄物を浸漬して濯ぎ工程を行う。
【0057】
水切り工程の有機相を、後述する蒸留工程等により厳密に管理する場合や、被洗浄物の清浄度の要求があまり高くない場合は、濯ぎ工程を必ずしも行う必要はない。しかしながら、水切り工程で被洗浄物に付着した有機溶剤(A)相中には、継続使用により、洗浄工程から汚れの各成分が混入するおそれがあり、濯ぎ工程を行わない場合、被洗浄物に水切り工程で使用する有機溶剤(A)相に混入した汚れ成分が残ってシミとなる場合があるため、濯ぎ工程を行うことが好ましい。濯ぎ工程で使用する有機溶剤(A)相は、必ずしも洗浄工程および水切り工程で使用する有機溶剤(A)相と同種、同一割合の有機溶剤(A)相とする必要はないが、ランニングコストや液の管理面から、洗浄工程および水切り工程で使用する有機溶剤(A)相と同種、同一割合の有機溶剤(A)相とすることが好ましい。
【0058】
洗浄工程、水切り工程、濯ぎ工程、いずれの工程も洗浄時間は、15秒間〜2時間、特に30秒間〜20分間が好ましく、汚れを除去するための最適の時間を適宜設定すればよい。また、洗浄温度は、汚れを除去するための最適の温度を適宜設定すればよく、20〜130℃が好ましい。なお、洗浄剤組成物の有機溶剤(A)相の飽和水分量は温度により変動するため、洗浄工程の洗浄温度は、静置の際、有機溶剤(A)相と水(B)相とが2相分離し、物理力を付加した際、W/Oマクロエマルションを形成する温度で行うことが好ましい。なお、洗浄温度により、有機溶剤(A)相と水(B)相とが2相分離しない場合には、水(B)をさらに添加すればよい。
【0059】
従来使用されているマクロエマルション系の洗浄方法では、洗浄後水で濯ぎを行うか(特許文献1:特開平1−318096号)、炭化水素系洗浄油で濯ぎを行っている(特許文献2:特開平9−104992号)。マクロエマルション洗浄剤により洗浄後、水で濯ぎ工程を行う場合、油シミの発生や、廃液処理コストが大きいという問題を有している。一方、炭化水素系洗浄油、特に、水切り性を考慮して選択されていない炭化水素系洗浄油により濯ぎ工程を行うと、水シミが発生するおそれが高い。本発明の洗浄方法は、水切り性の高い有機溶剤(A)相により水切り工程、およびその後の濯ぎ工程を行うため、水シミの発生を抑制でき、また、洗浄剤組成物の有機溶剤(A)とその後の水切り工程および濯ぎ工程で使用する有機溶剤(A)が同一であるため、リサイクル性にも優れている。
【0060】
本発明の洗浄方法では、(1)洗浄工程、(2)水切り工程、(3)濯ぎ工程を、別々の洗浄槽で行うことが好ましいが、(1)洗浄工程と、(2)水切り工程とを、1つの洗浄槽で行うこともできる。1つの洗浄槽で(1)洗浄工程と、(2)水切り工程とを行う場合、(1)洗浄工程で攪拌、揺動、超音波、エアバブリングなどの物理力を付加して洗浄を行った後、物理力の供給を停止して、洗浄剤組成物を有機溶剤(A)相と水(B)相とに分離した後、上相の有機溶剤(A)相に被洗浄物を浸漬して水切り工程を行えばよい。
【0061】
本発明の洗浄方法では、洗浄工程で使用する洗浄剤組成物、および水切り工程で使用する水(B)を含む有機溶剤(A)相から、比重差、膜分離、電界、遠心力、解乳化剤、吸着剤により水(B)を分離する水分離工程を含むことが好ましい。水分離工程で水(B)を除去した有機溶剤(A’)は、洗浄工程または水切り工程で再使用することができ、バッチ処理または連続処理で、洗浄工程で使用する洗浄剤組成物、および水切り工程で使用する水(B)を含む有機溶剤(A)相から水(B)を分離することにより、洗浄力および水切り性を保持することができる。
【0062】
比重差により水(B)を分離するためには、洗浄槽、または水切り槽の外部に配管およびポンプを介して水分離槽を配置、または洗浄槽および水切り槽から洗浄剤組成物および水(B)を含む有機溶剤(A)を抜き出して水分離槽に供給し、水分離槽で水(B)を分離した有機溶剤(A’)を、洗浄槽、または水切り槽に循環、または供給して水(B)を分離した有機溶剤(A’)を再使用すればよい。また、洗浄槽、または水切り槽を一時的に静置して下相の水(B)を抜き取った後に、残りの洗浄液を再使用することもできる。
【0063】
膜分離により水(B)を分離する技術として、例えば、特開平8−309351号公報、特開平5−57314号公報等を例示することができる。洗浄槽、または水切り槽の外部に配管およびポンプを介して膜モジュールを配置、または洗浄槽および水切り槽から洗浄剤組成物および水(B)を含む有機溶剤(A)を抜き出して膜モジュールに供給し、膜モジュールにて水(B)を分離した有機溶剤(A’)を、洗浄槽、または水切り槽に循環、または供給して水(B)を分離した有機溶剤(A’)を再使用すればよい。
【0064】
電界により水(B)を分離する技術として、例えば、特開平2014−147913号公報、特開平2008−49267号公報等を例示することができる。洗浄槽、または水切り槽の外部に解乳化装置を配置、または洗浄槽および水切り槽から洗浄剤組成物および水(B)を含む有機溶剤(A)を抜き出して解乳化装置に供給し、解乳化装置にて水(B)を分離した有機溶剤(A’)を、洗浄槽、または水切り槽に循環、または供給して水(B)を分離した有機溶剤(A’)を再使用すればよい。また、洗浄槽、または水切り槽に一時的に静置して電界をかけて合一・沈降させた水(B)を抜き取った後に、残りの洗浄液を再使用することもできる。
【0065】
遠心分離により水(B)を分離する技術として、例えば、特開平5−57314号公報、特開平11−137906号公報、特開平10−273693号公報、特開平8−92571号公報等を例示することができる。洗浄槽、または水切り槽の外部に配管およびポンプを介して遠心分離器を配置、または洗浄槽および水切り槽から洗浄剤組成物および水(B)を含む有機溶剤(A)を抜き出して遠心分離器に供給し、遠心分離器にて水(B)を分離した有機溶剤(A’)を、洗浄槽、または水切り槽に循環、または供給して水(B)を分離した有機溶剤(A’)を再使用すればよい。
【0066】
解乳化剤により水(B)を分離する技術として、例えば、特開2004−049936号公報、特開平11−137906号公報、特開平9−217072号公報、特開平9−208957号公報等を例示することができる。洗浄槽および水切り槽から洗浄剤組成物および水(B)を含む有機溶剤(A)を抜き出して水分離槽に供給し、水分離槽内に解乳化剤を供給して水(B)を分離した有機溶剤(A’)を、洗浄槽、または水切り槽に供給して水(B)を分離した有機溶剤(A’)を再使用すればよい。また、洗浄槽、または水切り槽を一時的に静置して解乳化剤を添加して合一・沈降させた水(B)を抜き取った後に、残りの洗浄液を再使用することもできる。
【0067】
吸着剤により水(B)を分離するためには、洗浄槽、または水切り槽の外部に配管およびポンプを介して活性炭等の吸着剤を充填したモジュールを配置、または洗浄槽および水切り槽から洗浄剤組成物および水(B)を含む有機溶剤(A)を抜き出して吸着剤モジュールに供給し、吸着剤モジュールで水(B)を分離した有機溶剤(A’)を、洗浄槽、または水切り槽に循環、または供給して水(B)を分離した有機溶剤(A’)を再使用すればよい。
【0068】
その他、抽出、非イオン界面活性剤、浮上分離、凝集剤を用いた沈降分離等によって、洗浄剤組成物および水(B)を含む有機溶剤(A)から、水(B)を除去してもよい。なお、上記の水分離工程で水(B)を分離した有機溶剤(A’)を洗浄工程で再使用する場合は、物理力によりW/Oマクロエマルションを形成する割合まで水(B)を適宜添加して使用することが好ましい。
【0069】
上記の方法により水(B)を除去した有機溶剤(A’)を、そのまま洗浄槽、または水切り槽に使用してもよいが、持ち込まれた汚れを除去するために、水分離工程で水(B)を分離した有機溶剤(A’)を蒸留工程により蒸留することが好ましい。被洗浄物に付着した汚れ中の有機成分は有機溶剤(A)、および有機溶剤(A’)相中に、無機成分は水(B)相中に溶解している。汚れの無機成分を除去するためには、水分離工程で汚れを含む水(B)を分離すればよく、有機溶剤(A)、および有機溶剤(A’)相中に溶解する汚れの有機成分を分離するには、汚れ中の有機成分の揮発性が低いことから、蒸留により有機溶剤(A’’)の回収を行う。蒸留により有機溶剤(A’’)と揮発性の低い汚れ中の有機成分との分離を行うことができ、これにより、系外に排出する廃棄物量の低減が可能となるとともに、清浄度の高い有機溶剤(A’’)の回収ができる。
【0070】
蒸留工程は、上記水分離装置で水(B)を分離した有機溶剤(A’)を取り出してバッチで行うほか、洗浄槽および水切り槽に配管を介して接続された上記水分離装置の下流に設けて連続して洗浄剤組成物等の蒸留を行うこともできる。蒸留工程により汚れを除去した洗浄剤組成物は、洗浄工程、水切り工程、濯ぎ工程で再使用すればよい。なお、洗浄工程で再使用する場合は、物理力によりW/Oマクロエマルションを形成する割合まで水(B)を適宜添加して使用することが好ましい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明にかかる洗浄方法を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明の洗浄方法は、下記の実施例により限定して解釈されるものではない。
【0072】
(1)水酸基を有しない極性有機化合物(A2)、水酸基を有する極性有機化合物(A3)の分配係数X
表1に示す水酸基を有しない極性有機化合物(A2)、水酸基を有する極性有機化合物(A3)の分配係数Xの測定を実施した。分配係数Xの算出は、25℃においてノルマルヘキサン80質量部と極性有機化合物20質量部を混合した組成物に、100質量部の蒸留水を添加し、よく振り混ぜた後、1時間静置し、ノルマルヘキサン相と水相に分離した。ノルマルヘキサン相中の極性有機化合物の量をガスクロマトグラフにより定量し、分配係数Xを算出した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
(2)洗浄試験1
水溶性切削油(JXエネルギー製ユニソルブルCS)を蒸留水で10倍に希釈して10質量%水溶液を調製し、爪付波型保持器を水溶性切削油10質量%中に1分間浸漬後、取り出して40℃で3時間乾燥し、水溶性切削油を付着させ被洗浄物とした。汚れの付着量は概略15mg/個であった。100mLビーカーに洗浄剤組成物を70〜100mL入れ、その中に先に調整した被洗浄物1個を浸漬し、超音波洗浄機(HONDA W−113、出力100W、周波数28kHz)を用い、20℃にて、3分間洗浄を行った(洗浄工程)。洗浄工程後、被洗浄物の水切り工程を行った。水切り工程には、洗浄工程で使用した洗浄剤組成物の水(B)を含まない有機溶剤(A)相を別の100mLビーカーに注ぎ、有機溶剤(A)相に洗浄工程後の被洗浄物を30秒間揺動しながら浸漬して水切り工程を行った。水切り工程後、被洗浄物の濯ぎ工程を行った。濯ぎ工程には、洗浄工程で使用した洗浄剤組成物の水(B)を含まない有機溶剤(A)相を別の100mLビーカーに注ぎ、有機溶剤(A)相に水切り工程後の被洗浄物を30秒間揺動しながら浸漬して濯ぎ工程を行った。その後、80℃にて2時間乾燥した。乾燥後の被洗浄物に付着している油分量を測定した。洗浄性の評価は被洗浄物に付着している油分量が1.0mg/個未満を○、1.0mg/個以上を×とした。
【0075】
(3)洗浄試験2
洗浄試験1で使用した水溶性切削油(JXエネルギー製ユニソルブルCS)を蒸留水で2倍に希釈して50質量%水溶液を調製し、洗浄試験1と同様にして水溶性切削油を付着させ被洗浄物とした。付着量は概略80mg/個であった。この被洗浄物を洗浄試験1と同様の工程で洗浄を行った。洗浄性の評価も洗浄試験1と同様である。
【0076】
(4)洗浄試験3
SUS430系のワークをバレル研磨し、表面に黒いスマットが付着しているものを被洗浄物とした。この被洗浄物を洗浄試験1と同様の工程(乾燥は、70℃、20分)で洗浄を行った。洗浄性の評価は、ワーク上に、残留物なし(○)、残留物が僅かにあり(△)、残留物が顕著にあり(×)を目視で判断した。
【0077】
(5)洗浄試験4
ステンレス鋼板に食用なたね油(日清製)を滴下し、140℃で6時間加熱後に室温で放冷したものを被洗浄物とした。この被洗浄物を洗浄試験1と同様の工程(乾燥は、70℃、20分)で洗浄を行った。洗浄性の評価は、ワーク上に残留物なし(○)、残留物が僅かにあり(△)、残留物が顕著にあり(×)を目視で判断した。
【0078】
(6)洗浄試験5
スライドガラスに指紋を付着させて室温で30分間静置したものを被洗浄物とした。この被洗浄物を洗浄試験1と同様の工程(洗浄工程、25℃、1分、乾燥は、70℃、20分)で洗浄を行った。洗浄性の評価は、ワーク上に残留物なし(○)、残留物が僅かにあり(△)、残留物が顕著にあり(×)を目視で判断した。
【0079】
(7)コーティング試験
洗浄試験3にて、スマットの残留がない(評価が○)ワークに、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングし、外観を目視観察した。ピンホールや膜剥離がないものを○、ピンホールや膜剥離があるものを×とした。
【0080】
(8)乳化安定性試験
本発明にかかる洗浄剤組成物の乳化安定性につき、下記の試験を行った。100mLガラス瓶に所定の割合で配合した炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)、または炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)と水酸基を有する極性有機化合物(A3)80gと水(B)8gを入れ、手でよく振り混ぜた後に、超音波洗浄機(HONDA W−113、出力100W、周波数28kHz)を用い、20℃にて、2分間の超音波照射を行った。室温で5分間静置後の上相の有機相の濁度を測定し、濁度が500NTU以上であれば○(W/Oマクロエマルションの安定性が高い)、室温で5分間静置後の上相の有機溶剤(A)相の濁度が500NTU未満であれば×(W/Oマクロエマルションの安定性が低い)と判定した。濁度は、濁度計(商品名:携帯用濁度計2100P型、製造会社名:セントラル科学(株))を用いて測定した。
【0081】
(9)水切り性試験
本発明にかかる洗浄剤組成物の水切り性につき、下記の試験を行った。ステンレスメッシュ(3cm×3cm、目開き63μm)を蒸留水に浸漬して取り出し、水切り性試験用試料とする。所定の割合で配合した炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)、または炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)と水酸基を有する極性有機化合物(A3)80gと水(B)8gとの混合物に、超音波洗浄機(HONDA W−113、出力100W、周波数28kHz)を用い、20℃にて、2分間の超音波照射を行い、室温で1日静置後の上相の有機溶剤(A)相を水切り試験に使用する。有機溶剤(A)相の中に、先に調製したステンレスメッシュを垂直に浸漬させて、メッシュ表面に付着していた水が玉状になって落下し終わるまでの時間を測定した。5秒以内に水が落下し終われば○、5秒以内に水が落下し終わらなければ×と判定した。
【0082】
(実施例1〜3)
100mLガラス瓶を用いて、炭化水素(A1)としてノルマルドデカン40.0質量部、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)として3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート60.0質量部、水(B)として所定の質量部の蒸留水からなる洗浄剤組成物を調製した。この洗浄剤組成物を手で振り混ぜた後に全量を100mLビーカーに移し、洗浄試験1および洗浄試験2を行った結果、洗浄後の被洗浄物に付着していた油分量は1.0mg/個未満であり、洗浄は良好に行われた。さらに、洗浄試験3、洗浄試験4、および、洗浄試験5を行った。いずれも洗浄後の残留物は「なし」、または、「僅かにあり」であり、洗浄は良好に行われた。
【0083】
(比較例1〜2)
100mLガラス瓶を用いて、炭化水素(A1)としてノルマルドデカン40.0質量部、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)として3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート60.0質量部、水(B)として所定の質量部の蒸留水からなる洗浄剤組成物を調製した。この洗浄剤組成物を手で振り混ぜた後に全量を100mLビーカーに移し、洗浄試験1〜洗浄試験5を行った。洗浄剤組成物は1相でありW/Oマクロエマルションが形成されなかった。
【0084】
(比較例3〜5)
100mLガラス瓶を用いて、炭化水素(A1)としてノルマルデカン80.0質量部、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)として3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート20.0質量部、水(B)として所定の質量部の蒸留水からなる洗浄剤組成物を調製した。この洗浄剤組成物を手で振り混ぜた後に全量を100mLビーカーに移し、洗浄試験1〜洗浄試験5を行った。比較例3の洗浄剤組成物は水切り性試験の結果が×であった。比較例4および5は1相でありW/Oマクロエマルションが形成されなかった。いずれの比較例も洗浄性が低いことが確認された。
【0085】
【表2】
【0086】
(実施例4〜10)
100mLガラス瓶を用いて、炭化水素(A1)としてノルマルドデカン40質量部、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)として3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート60質量部、水(B)としてリン酸を添加して所定のpHに調整した蒸留水17.6質量部から成る洗浄剤組成物を調製した。この洗浄剤組成物を手で振り混ぜた後に全量を100mLビーカーに移し、洗浄試験1〜洗浄試験5を行い、洗浄は良好に行われた。なお、洗浄試験3のバレル研磨後のスマットの洗浄性は、pHが低い方が良好であることが確認された。さらに、洗浄試験3で残留物なしのワーク(実施例8〜10)にDLCコーティングを実施した。コーティング膜にはピンホールや膜剥離は認められず、コーティングは良好に行われた。洗浄剤の調製に使用した水のpHは、pH計にて測定した。
【0087】
【表3】
【0088】
(実施例11)
100mLガラス瓶を用いて、炭化水素(A1)としてノルマルデカン70.0質量部、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)として3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート20.0質量部、水酸基を有する極性有機化合物(A3)として2−エチルヘキサノール10.0質量部、水(B)として蒸留水17.6質量部からなる洗浄剤組成物を調製した。この洗浄剤組成物を手で振り混ぜた後に全量を100mLビーカーに移し、洗浄試験1〜洗浄試験5を行い、洗浄は良好に行われた。
【0089】
(実施例12)
100mLガラス瓶を用いて、炭化水素(A1)としてノルマルデカン70.0質量部、水酸基を有しない極性有機化合物(A2)として3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート28.0質量部、水酸基を有する極性有機化合物(A3)として2−エチルヘキサノール2.0質量部、水(B)として蒸留水17.6質量部からなる洗浄剤組成物を調製した。この洗浄剤組成物を手で振り混ぜた後に全量を100mLビーカーに移し、洗浄試験1〜洗浄試験5を行い、洗浄は良好に行われた。
【0090】
(比較例6)
100mLガラス瓶を用いて、炭化水素(A1)としてノルマルデカン80.0質量部、水酸基を有する極性有機化合物(A3)として2−エチルヘキサノール20.0質量部、水(B)として蒸留水17.6質量部からなる洗浄剤組成物を調製した。この洗浄剤組成物を手で振り混ぜた後に全量を100mLビーカーに移し、洗浄試験1〜洗浄試験5を行った。この洗浄剤組成物は水切り性試験の結果が×であり、洗浄性に劣ることが確認された。
【0091】
【表4】
【0092】
(比較例7〜11、実施例13〜42)
炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の種類および配合割合、または炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)と水酸基を有する極性有機化合物(A3)の種類および配合割合を替えて、水(B)を配合しない有機相について乳化安定性試験、水分離性試験および水切り性試験を行った。試験結果を表5〜表11に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
【表6】
【0095】
【表7】
【0096】
【表8】
【0097】
【表9】
【0098】
【表10】
【0099】
【表11】
【0100】
比較例7〜11、実施例13〜42の結果より、本発明の第1の実施の形態にかかる洗浄剤組成物の炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)の配合割合、または第2の実施の形態にかかる洗浄剤組成物の炭化水素(A1)と水酸基を有しない極性有機化合物(A2)と水酸基を有する極性有機化合物(A3)の配合割合を満たさない場合、乳化安定性は良好であっても、水切り性を満足しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の洗浄方法は、自動車、機械、精密機器、電気、電子、光学等の各種工業分野において扱われる部品、石油精製プラントや化学プラント等の各種工場の配管や装置、自動車や産業機械等を解体した部品、日常生活で使用される金属製品や樹脂製品等の種々の物品の洗浄に有用であり、研磨工程後やプレス工程後のスマット洗浄に好適に使用され、PVDコーティング加工、特に表面の清浄性が要求されるDLCコーティングの洗浄方法として好適である。