(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転軸(23)にその径方向外向きに延設され、この回転軸(23)と一体に軸周りに回転可能な延設部材(48)を有し、前記押圧部材(15B)が、前記延設部材(48)に当接可能とした請求項1から3のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置。
【背景技術】
【0002】
電動ブレーキ装置は、電動モータの回転駆動力をギアを介して回転軸に伝達し、この回転軸の回転を運動変換機構によって直動部材の軸方向の移動に変換し、この直動部材とともに軸方向に移動する摩擦パッドをブレーキディスクに押さえ付けることによって制動力を発揮する。この電動ブレーキ装置に用いられる電動モータは、車両に搭載されたバッテリから電力の供給を受けて駆動するため、バッテリの充電量の異常低下、センサ故障、電気配線の断線等のトラブルが生じると、ブレーキ機能を発揮できないという問題がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1に示すように、上記のトラブルが生じたときのフェールセーフ機構を備えた電動ブレーキ装置が採用されることがある(本文献の
図4等参照)。この電動ブレーキ装置においては、前記直動部材として、回転軸を囲むように配置された外輪部材が採用されている。また、前記運動変換機構として、回転軸に外接するとともに外輪部材に内接する複数の遊星ローラと、これらの遊星ローラを自転可能かつ公転可能に支持するキャリアと、外輪部材の内周に設けられた螺旋凸条と、この螺旋凸条と係合するように遊星ローラの外周に設けられた円周溝とを有する遊星ローラ機構を採用することができる。この回転軸の外周には、キャリアを軸方向の後方から支持する鍔部が形成されている。
【0004】
バッテリから供給された電力によって、電動モータが正常に駆動しているときは、この電動モータの回転駆動力が減速機構を介して回転軸に伝達され、この回転軸が軸周りに回転する。回転軸が軸周りに回転すると、この回転軸に外接する遊星ローラが、回転軸との転がり接触によってローラ軸を中心に自転しつつ、回転軸を中心に公転する。外輪部材に設けられた螺旋凸条と遊星ローラに設けられた円周溝は係合しているため、遊星ローラの回転に伴って、外輪部材と遊星ローラは軸方向に相対移動する。ここで、遊星ローラを支持するキャリアは軸方向への移動が規制されており、これにより、遊星ローラの回転に伴って、外輪部材は軸方向の前方側に移動し、この外輪部材と一体に軸方向に移動可能に設けられた摩擦パッドによって、ブレーキディスクが押さえ付けられる。
【0005】
その一方で、バッテリの充電量の異常低下等のトラブルによって、電動モータが正常に駆動しないときは、運転者の操作力(ブレーキペダルの踏み込み力)によって、ワイヤケーブルが引っ張られ、これによってカム部材が回動する。このカム部材が回動すると、その回動角度に対応して、カム面がリンク部材を介してスライド部材を軸方向前方に移動する。そして、このスライド部材が、球体を介して回転軸を軸方向前方に押圧する。
【0006】
回転軸がスライド部材に押圧されて軸方向前方に移動すると、この回転軸の外周に設けられた鍔部がキャリアに当接し、このキャリアによって支持された遊星ローラとともに軸方向前方に移動する。遊星ローラが軸方向前方に移動すると、この螺旋凸条及び円周溝を介して係合する外輪部材も軸方向前方に移動する。そして、この外輪部材の移動に伴って、摩擦パッドも軸方向前方に移動してブレーキディスクが押さえ付けられる。
【0007】
このように、フェールセーフ機構を設けることにより、電動モータが正常に駆動しない等のトラブルが生じた場合でも、運転者の操作力によって制動力を発揮させることができ、常に安全性が確保される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に係る電動ブレーキ装置は、回転軸に設けた鍔部とキャリアを接触させることによって、回転軸の回転を抑制しつつ、このキャリアを軸方向前方に押圧しているが、外輪部材に設けられた螺旋凸条のリード角と、遊星ローラに設けられた円周溝との間の角度が大きい場合、両者の係合部で滑りが発生する虞がある。滑りが発生すると、キャリアが回転軸とともに軸周りに回転して、外輪部材を軸方向前方に押圧する押圧力が抜けて、制動力が不足する可能性がある。
【0010】
そこで、この発明は、電動ブレーキ装置のフェールセーフ機構を確実に機能させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、この発明においては、電動モータと、前記電動モータの回転駆動力によって軸周りに回転する回転軸と、前記回転軸の軸方向に移動可能に設けられた直動部材と、前記回転軸の回転を前記直動部材の軸方向の移動に変換する運動変換機構と、前記直動部材の軸方向の一方側に設けられ、前記直動部材の軸方向への移動とともに軸方向に移動する摩擦パッドと、運転者の操作力によって、前記回転軸の軸周りの回転を阻止しつつ、前記回転軸を軸方向の前記一方側に押圧して、前記回転軸と前記直動部材を一体に軸方向の前記一方側に移動させる押圧機構と、を有する電動ブレーキ装置を構成した。
【0012】
このように、回転軸の回転を阻止すると、押圧機構によって直動部材を押圧する際に回転軸が不用意に回転して押圧力が抜けるのを確実に防止することができる。このため、電動ブレーキ装置のフェールセーフ機構を確実に機能させることができる。
【0013】
前記構成においては、前記押圧機構が、前記回転軸と面接触してこの回転軸の軸周りの回転を摩擦力によって阻止しつつ、軸方向に移動して前記回転軸を軸方向の前記一方側に押圧する、軸周りに回り止めされた押圧部材を有する構成とすることができる。
【0014】
このようにすると、簡便な構成で回り止め作用を確実に発揮させることができる。
【0015】
前記押圧部材を有する構成においては、前記押圧機構が、運転者の操作力によって回動するカム部材と、前記カム部材の回動に応じて軸方向に移動して、前記押圧部材を軸方向に移動させるリンク部材と、をさらに有する構成とすることができる。
【0016】
あるいは、前記押圧機構が、軸方向の一方の面に、周方向に沿って深さが変化する傾斜溝が形成された前記押圧部材として機能する直動ディスクと、前記直動ディスクに形成された前記傾斜溝に対向するように、前記直動ディスクとの間に軸方向に間隔をもって配置され、前記直動ディスクと対向する面に、周方向に沿って深さが変化する傾斜溝が形成された、運転者の操作力によって回動する回動ディスクと、前記直動ディスクに形成された前記傾斜溝と、前記回動ディスクに形成された前記傾斜溝と、によって転動可能に保持された転動体と、をさらに有し、前記直動ディスクと前記回動ディスクとの間の相対回転により、前記転動体が前記両傾斜溝内を転動し、前記間隔が広がることで、前記直動ディスクを軸方向に移動させる構成とすることもできる。
【0017】
このように、押圧機構を構成することにより、運転者の操作力に基づく回動を、押圧部材の軸方向の移動にスムーズに変換することができ、速やかに制動力を発揮させることができる。
【0018】
また、前記押圧部材を有する各構成においては、前記押圧機構が、前記押圧部材を軸方向の前記一方側とは逆向きの他方側へ付勢する付勢部材をさらに有する構成とすることができる。
【0019】
このように、付勢部材で押圧部材を他方側に付勢することによって、運転者の操作力が作用していないときには、回転軸と押圧部材を確実に離間させて、回転軸の回転損失が生じないようにすることができる。
【0020】
前記押圧部材を有する各構成においては、前記回転軸にその径方向外向きに延設され、この回転軸と一体に軸周りに回転可能な延設部材を有し、前記押圧部材が、前記延設部材に当接可能とした構成とすることができる。
【0021】
このようにすると、回転軸の外径よりも大径の延設部材に押圧部材を当接させることにより、この押圧部材による回り止め作用を一層向上することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係る電動ブレーキ装置は、回転軸と直動部材を一体に軸方向の一方側に移動させる押圧機構に、この回転軸が軸周りに回転するのを阻止する機能を持たせたので、この押圧機構によって直動部材を押圧する際に回転軸が回転して押圧力が抜けるのを確実に防止することができる。このため、電動ブレーキ装置のフェールセーフ機構を確実に機能させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明に係る電動ブレーキ装置の第一実施形態を
図1から
図8に示す。この電動ブレーキ装置は、電動モータ10と、電動モータ10の回転駆動力によって軸周りに回転する回転軸23、回転軸23の軸方向に移動可能に設けられた直動部材24、回転軸23の回転を直動部材24の軸方向の移動に変換する運動変換機構25、直動部材24の軸方向の一方側に設けられ、直動部材24の軸方向への移動とともに軸方向に移動する摩擦パッド13、及び、運転者の操作力によって、回転軸23の軸周りの回転を阻止しつつ、回転軸23を軸方向前方に押圧して、回転軸23と直動部材24を一体に軸方向の一方側に移動させる押圧機構15を主要な構成要素としている。以下においては、軸方向の一方側のことを前方と、この一方向とは逆向きの他方側のことを後方と称する。
【0025】
この電動ブレーキ装置は、通常時は、運転者のブレーキ操作に伴って電動モータ10を駆動することにより制動力を発揮する。その一方で、電動モータ10が正常に駆動しない等のトラブルが生じたときには、運転者の操作力によって制動力を得るフェールセーフ機構を備えている。以下において、この電動ブレーキ装置について詳しく説明する。
【0026】
この電動ブレーキ装置は、
図1〜
図3に示すように、車輪(図示せず)と一体に回転するブレーキディスク11と、ブレーキディスク11を間にして軸方向に対向する一対の摩擦パッド12、13と、摩擦パッド12、13を移動させるための電動モータ10とを有し、この電動モータ10から伝達する動力で摩擦パッド12、13をブレーキディスク11に押さえ付けることにより、制動力を発生させる。また、この電動ブレーキ装置は、何らかのトラブルによって電動モータ10による制動力が発揮できない状態においても制動力の発生を可能とするため、運転者の操作力で引っ張られるように設けられたワイヤケーブル14と、そのワイヤケーブル14の一端に接続された押圧機構15とを有する。
【0027】
この電動ブレーキ装置は、ブレーキディスク11を間にして軸方向に対向する一対の対向部16、17をブレーキディスク11の外径側に位置するブリッジ18で連結した形状のキャリパボディ19を有する。キャリパボディ19の一方の対向部16とブレーキディスク11の間に摩擦パッド12が配置され、他方の対向部17とブレーキディスク11の間に摩擦パッド13が配置されている。各摩擦パッド12、13は、キャリパボディ19に取り付けられたパッドピン(図示せず)やキャリパブラケット21に設けたスライド部(図示せず)に案内され、ブレーキディスク11の軸方向に移動可能に支持されている。
【0028】
図4に示すように、キャリパボディ19は、車輪を支持するナックル(図示せず)にボルト20(
図2参照)で固定されたキャリパブラケット21に取り付けた一対のスライドピン22で、ブレーキディスク11の軸方向に移動可能に支持されている。これにより、
図2等に示す摩擦パッド13が軸方向前方に移動してブレーキディスク11に押さえ付けられたときに、ブレーキディスク11から受ける反力によってキャリパボディ19が軸方向後方に移動し、このキャリパボディ19の移動によって、反対側の摩擦パッド12もブレーキディスク11に押さえ付けられるようになっている。
【0029】
図2に示すように、キャリパボディ19の一方の対向部17は、軸方向の前後両端が開口した円筒状のキャリパハウジング17Aと、キャリパハウジング17Aの軸方向後方の端部から軸方向と直角な方向(ブレーキディスク11と平行な方向)に延びるキャリパフランジ17Bとからなる。
【0030】
キャリパハウジング17Aには、回転軸23と、回転軸23を囲むように配置された直動部材24として機能する外輪部材(以下において直動部材24と同じ符号を付する。)と、回転軸23の回転を外輪部材24の軸方向移動に変換する運動変換機構25として機能する遊星ローラ機構(以下において、運動変換機構25と同じ符号を付する。)とが組み込まれている。外輪部材24の軸方向前方に、摩擦パッド13が配置されている。
【0031】
キャリパフランジ17Bには、電動モータ10が取り付けられている。電動モータ10と回転軸23の間には、電動モータ10の回転を回転軸23に減速して伝達する減速機構26が設けられている。減速機構26は、キャリパハウジング17Aの軸方向後方の端部開口とキャリパフランジ17Bの側面とを覆うように設けられたカバー27内に収容されている(
図4参照)。
【0032】
図4、
図5に示すように、減速機構26は、電動モータ10のロータ軸10Aと一体に軸周りに回転する第一ギア26Aと、第一ギア26Aと噛み合う第二ギア26Bと、第二ギア26Bと一体に軸周りに回転する、この第二ギア26Bよりも歯数が少ない第三ギア26Cと、第三ギア26Cと噛み合い回転軸23と一体に軸周りに回転する第四ギア26Dとを有する。電動モータ10の回転は、これらの複数のギア26A、26B、26C、26Dを介して順次減速して伝達され、回転軸23に入力される。
【0033】
図3に示すように、遊星ローラ機構25は、回転軸23に外接すると同時に外輪部材24に内接する複数の遊星ローラ25Aと、これらの遊星ローラ25Aを自転可能かつ公転可能に支持するキャリア25Bと、外輪部材24の内周に設けられた螺旋凸条25Cと、螺旋凸条25Cと係合するように遊星ローラ25Aの外周に設けられた円周溝25Dとを有する。
【0034】
図6に示すように、複数の遊星ローラ25Aは、周方向に等間隔となるように配置されている。各遊星ローラ25Aは、回転軸23の外周および外輪部材24の内周にそれぞれ転がり接触している。回転軸23の遊星ローラ25Aに対する接触部分は円筒面である。そして、回転軸23が回転したとき、遊星ローラ25Aは、ローラ軸25B
4を中心に自転しながら、回転軸23を中心に公転する。すなわち、遊星ローラ25Aは、回転軸23の外周から受ける回転力によって自転し、これに伴い、遊星ローラ25Aは外輪部材24の内周を転がって公転する。
【0035】
外輪部材24の内周の螺旋凸条25Cは、円周方向に対して斜めに延びる螺旋状の凸条である。一方、遊星ローラ25Aの外周の円周溝25Dは、円周方向に対して平行に延びる溝である。この実施形態では遊星ローラ25Aの外周にリード角が0度の円周溝25Dを設けているが、円周溝25Dのかわりに、螺旋凸条25Cと異なるリード角をもつ螺旋溝を設けてもよい。
【0036】
図3に示すように、外輪部材24は、キャリパハウジング17Aの内面で軸方向に移動可能に支持されている。キャリパハウジング17Aの内面の外輪部材24に対する接触部分は円筒面である。外輪部材24は、摩擦パッド13の背面に形成された凸部28と係合する凹部29を有し、この凸部28と凹部29の係合によって、キャリパハウジング17Aに対して回り止めされている。
【0037】
キャリア25Bは、遊星ローラ25Aを間にして軸方向に対向する一対のキャリアプレート25B
1、25B
2と、周方向に隣り合う遊星ローラ25Aの間を軸方向に延びてキャリアプレート25B
1、25B
2同士を連結する連結部25B
3と、各遊星ローラ25Aを自転可能に支持するローラ軸25B
4とを有する。各キャリアプレート25B
1、25B
2は回転軸23を貫通させる環状に形成され、その内周には回転軸23の外周に摺接する滑り軸受30がそれぞれ装着されている。
【0038】
各ローラ軸25B
4の両端部は、一対のキャリアプレート25B
1、25B
2にそれぞれ形成された長孔31で外輪部材24の半径方向に移動可能に支持されている。さらに、各ローラ軸25B
4の両端部には、周方向に間隔をおいて配置されたすべての遊星ローラ25Aのローラ軸25B
4に外接するように弾性リング32が掛け渡されている。この弾性リング32は、各遊星ローラ25Aを回転軸23の外周に押さえ付けることにより、遊星ローラ25Aと回転軸23の間の滑りを防止している。
【0039】
外輪部材24の軸方向後方には、磁気式荷重センサ33が設けられている。この磁気式荷重センサ33は、軸方向前方から荷重が入力されてたわみを生じるフランジ部材33Aと、フランジ部材33Aを軸方向後方から支持する支持部材33Bと、磁束を発生する磁気ターゲット33Cと、磁気ターゲット33Cが発生する磁束を検出する磁気センサ33Dとからなる。
【0040】
フランジ部材33Aは、鉄などの金属で形成された円環板状の部材である。支持部材33Bは、鉄などの金属で形成され、フランジ部材33Aの外周縁に嵌め込まれている。この支持部材33Bの外周縁は、キャリパハウジング17Aの内面で移動不能に支持されている。この支持部材33Bの内周側には、フランジ部材33Aの内径側に対向するように円筒部33Eが連設されている。円筒部33Eの内周には、複数の軸受34が軸方向に間隔をおいて装着されており、回転軸23と磁気式荷重センサ33は、軸周りに相対回転可能となっている。磁気ターゲット33Cは、フランジ部材33Aの内周に固定されている。磁気センサ33Dは、磁気ターゲット33Cと径方向に対向するように支持部材33Bの円筒部33Eの外周に固定されている。
【0041】
各遊星ローラ25Aとその軸方向後方のキャリアプレート25B
2との間には、遊星ローラ25Aを自転可能に支持するスラスト軸受35が組み込まれている。また、遊星ローラ25Aの軸方向後方のキャリアプレート25B
2と磁気式荷重センサ33(フランジ部材33A)との間には、キャリアプレート25B
2と一体に公転するスラスト板36と、スラスト板36を公転可能に支持するスラスト軸受37とが組み込まれている。
【0042】
外輪部材24が軸方向前方に移動して、ブレーキディスク11が摩擦パッド12、13によって押し付けられると、軸方向後方への反力として、キャリアプレート25B
2、スラスト軸受37を介して、磁気式荷重センサ33のフランジ部材33Aに軸方向後方に向かう軸方向荷重が入力される。そして、この軸方向荷重によって、フランジ部材33Aが軸方向後方にたわみ、このたわみに伴って、磁気ターゲット33Cと磁気センサ33Dが軸方向に相対変位する。すると、この相対変位に対応して磁気センサ33Dの出力信号が変化する。この出力信号の大きさと、フランジ部材33Aに入力される軸方向荷重の大きさとの関係を予め把握しておくことにより、磁気センサ33Dの出力信号に基づいて、フランジ部材33Aにかかる軸方向荷重の大きさを検出することができる。
【0043】
磁気式荷重センサ33は、スラスト板36、スラスト軸受37を介して、キャリアプレート25B
2を軸方向に支持することで、キャリア25Bの軸方向後方への移動を規制している。また、軸方向前方のキャリアプレート25B
1は、回転軸23の軸方向前端に装着した止め輪38で軸方向前方への移動が規制されている。したがって、キャリア25Bは、軸方向前方と軸方向後方の移動がいずれも規制され、キャリア25Bに保持された遊星ローラ25Aも軸方向移動が規制された状態となっている。
【0044】
回転軸23の外周には、キャリア25Bを軸方向後方から支持する鍔部39が形成されている。鍔部39は、軸方向後方のキャリアプレート25B
2の軸方向後方に対向するように配置され、回転軸23が軸方向前方に移動したときに、鍔部39がキャリアプレート25B
2を軸方向前方に押し動かすようになっている。鍔部39は、回転軸23と継ぎ目のない一体構造となるように形成してもよく、回転軸23の外周に別部材を固定して形成してもよい。また、鍔部39とキャリアプレート25B
2の間にスラスト軸受を組み込んでもよい。また、鍔部39は、スラスト板36を介してキャリア25Bを軸方向後方から支持するようにしてもよく、磁気式荷重センサ33やスラスト軸受37等を介してキャリア25Bを軸方向後方から支持するように構成することも可能である。
【0045】
外輪部材24の軸方向前方の端部には、外輪部材24の軸方向前端の開口を閉塞するシールカバー40が取り付けられている。このシールカバー40は、外輪部材24の内部に異物が侵入するのを防止している。また、軸方向に伸縮可能に形成された筒状のベローズ41の一端が、外輪部材24の軸方向前方の端部に固定され、ベローズ41の他端が、キャリパハウジング17Aの軸方向前方の開口縁部に固定されている。ベローズ41は、外輪部材24とキャリパハウジング17Aの摺動面間に異物が侵入するのを防止している。
【0046】
この遊星ローラ機構25は、電動モータ10を回転させると、電動モータ10の回転が減速機構26を介して回転軸23に入力され、遊星ローラ25Aが自転しながら公転する(
図3参照)。このとき、螺旋凸条25Cと円周溝25Dのリード角の差によって外輪部材24と遊星ローラ25Aが軸方向に相対移動するが、遊星ローラ25Aはキャリア25Bとともに軸方向の移動が規制されているので、遊星ローラ25Aは軸方向に移動せず、外輪部材24が軸方向に移動する。ここで、外輪部材24が軸方向前方に移動する方向の回転が電動モータ10から回転軸23に入力されたときは、外輪部材24が摩擦パッド13を押圧することにより、
図1に示す摩擦パッド12、13がブレーキディスク11に押さえ付けられて、ブレーキディスク11と一体に回転する車輪に制動力が負荷される。また、外輪部材24が軸方向後方に移動する方向の回転が電動モータ10から回転軸23に入力されたときは、
図1に示す摩擦パッド12、13がブレーキディスク11から離反して、車輪に対する制動力が解除される。
【0047】
図7に示すように、押圧機構15は、回転軸23の軸方向後端に対向して軸方向に移動可能に設けられた押圧部材15Bと、回転軸23の軸方向に直交する軸線まわりに回動可能に支持されたカム部材15Aと、押圧部材15Bとカム部材15Aの間に組み込まれたリンク部材15Cと、ワイヤケーブル14の一端に設けられたワイヤエンド金具が接続されるワイヤレバー15Dとを有する(本図(a)参照)。ワイヤレバー15Dの一端はカム部材15Aに連結されており、ワイヤレバー15Dの他端に接続されたワイヤケーブル14が引っ張られたときに、ワイヤレバー15Dとカム部材15Aとが一体に回動するようになっている(本図(b)参照)。
【0048】
押圧部材15Bは、カバー27に設けられた軸方向に延びるガイド孔42の内面で摺動可能に支持されている。押圧部材には軸方向に延びる突条が、ガイド孔42の内面には突条を軸方向にガイドするガイド溝がそれぞれ形成されており、これにより、押圧部材15Bは、カバー27に対し回り止めされる。押圧部材15Bの軸方向後方の端面には、リンク部材15Cの一端を受け支える凹部15B
1が形成されている。カム部材15Aの外周には、カム面15A
1が形成されている。カム面15A
1は、ワイヤケーブル14の引っ張り操作によりカム部材15Aが回動したときに、その回動角度に応じて、リンク部材15Cを介して押圧部材15Bを軸方向前方に押圧する形状をもつように形成されている。押圧部材15Bの軸方向前方の端面、及び、回転軸23の軸方向後方の端面は、いずれも平坦面状に加工されている。また、ワイヤレバー15Dには、ワイヤケーブル14の引っ張り操作によるワイヤレバー15Dの回動方向とは反対の方向にワイヤレバー15Dを付勢するリターンスプリング15Eが取り付けられている(
図3参照)。
【0049】
この押圧機構15は、運転者の操作力によって
図7に示すワイヤケーブル14が引っ張られると、その引張力によってカム部材15Aが回動し、このカム部材15Aの回動角度に応じて、カム面15A
1がリンク部材15Cを介して押圧部材15Bを軸方向前方に押し動かす。その結果、押圧部材15Bの軸方向前方の端面が、回転軸23を軸方向前方に押圧する。このとき、平坦面状とした回転軸23の軸方向後方の端面と、押圧部材15Bの軸方向前方の端面が面接触する。
【0050】
このように、両端面を面接触させると、カバー27に対し回り止めされた押圧部材15Bとの間の摩擦力によって、回転軸23の軸周りの回転が阻止される。このように、回転軸23の回転を阻止することにより、電動モータ10の失陥等のトラブルによって、フェールセーフ機構が作用した場合において、外輪部材24に設けられた螺旋凸条25Cのリード角と、遊星ローラ25Aに設けられた円周溝25Dとの間の角度が大きい場合であっても、両者の係合部で滑りが発生するのを防止することができ、フェールセーフ機構を確実に機能させることができる。
【0051】
また、
図8に示すように、押圧部材15Bを軸方向後方(回転軸23から離れる方向)に付勢する付勢部材15Fとして機能する解除スプリング(以下において、付勢部材15Fと同じ符号を付する。)をカバー27内に設けた構成とすることもできる。このように、解除スプリング15Fを設けることにより、運転者の操作力が作用していないときには、回転軸23と押圧部材15Bを確実に離間させて(本図(a)参照)、回転軸23の回転損失が生じないようにする一方で、運転者の操作力が作用しているときには、押圧部材15Bを解除スプリング15Fの付勢力に抗して軸方向前方に付勢して、回転軸23と押圧部材15Bの端面同士を接触させた状態とし(本図(b)参照)、両端面間に摩擦力を作用させることができる。
【0052】
図1に示すように、運転者の足で操作されるブレーキペダル43には、ワイヤケーブル14の端部に設けられたワイヤエンド金具が接続されるワイヤコネクタ部44と、クラッチ機構45とが取り付けられている。ブレーキペダル43は、支点軸46を中心に揺動可能に支持されている。ブレーキペダル43には、ブレーキペダル43の踏み込み量を検出するストロークセンサ(図示せず)が取り付けられている。ワイヤコネクタ部44は、ブレーキペダル43の支点軸46と同じ位置に揺動中心をもつように揺動可能に支持されている。ここで、ワイヤコネクタ部44は、ブレーキペダル43がワイヤコネクタ部44とは切り離して揺動可能となるように、ブレーキペダル43とは独立して揺動可能とされている。
【0053】
このクラッチ機構45として、通電時に切り離し状態となり、通電停止時に連結状態となるように構成された逆作動型の電磁クラッチを採用することができる。このように、逆作動型の電磁クラッチを採用することにより、クラッチ機構45への通電が停止したときに、クラッチ機構45が連結状態になるので、電動ブレーキ装置が電源を喪失したときにも、制動力を確保することができる。このクラッチ機構45は、ストロークセンサ、磁気式荷重センサ33、電動モータ10に電力を供給するバッテリの充電量を検知するバッテリセンサ(図示せず)等の各センサの検知結果に基づいて、ブレーキ制御部(図示せず)によって制御される。
【0054】
上述したように、この電動ブレーキ装置は、電動モータ10が動作しない状態においても、運転者の操作力でワイヤケーブル14を引っ張ることにより回転軸23を軸方向前方に押圧し、回転軸23と外輪部材24とを一体に軸方向前方に移動させることで、摩擦パッド13をブレーキディスク11に押さえ付けることが可能である。そのため、電気的失陥が生じたときにも、制動力を発生させることができる。
【0055】
しかも、回転軸23の軸方向後方の端面と、押圧部材15Bの軸方向前方の端面を面接触させたので、カバー27に対し回り止めされた押圧部材25Bとの摩擦力によって、回転軸23の軸周りの回転が阻止される。このため、外輪部材24に設けられた螺旋凸条25Cのリード角と、遊星ローラ25Aに設けられた円周溝25Dとの間の角度が大きい場合であっても、両者の係合部で滑りが発生するのを防止することができ、フェールセーフ機構を確実に機能させることができる。
【0056】
この実施形態においては、回転軸23の軸方向後方の端面と、押圧部材25Bの軸方向前方の端面をいずれも平坦面状としたが、両端面の間で十分な摩擦力が発揮される限りにおいてこの端面形状は限定されず、例えば、一方の端面を凹曲面とし、他方の端面をこの凹曲面と同じ曲率を有する凸曲面とすることもできる。
【0057】
この電動ブレーキ装置は、電気的失陥が生じたときに、電気的失陥が生じていないときと同様、運転者がブレーキペダル43を操作することで制動力を発生することが可能である。そのため、電気的失陥の発生時の操作性に優れる。
【0058】
この発明に係る電動ブレーキ装置の第二実施形態(要部)を
図9から
図12に示す。この電動ブレーキ装置は、第一実施形態に係る電動ブレーキ装置と基本構成は同じであるが、押圧機構15の構成が異なっている。この押圧機構15は、
図9に示すように、回転軸23の軸方向後方に配置された、第一実施形態における押圧部材15Bに対応する直動ディスク15Gと、直動ディスク15Gの軸方向後方に対向して配置された回動ディスク15Hと、直動ディスク15Gと回動ディスク15Hの間に設けられた転動体15Iであるボール(以下において、転動体15Iと同じ符号を付する。)と、ワイヤケーブル14の一端が接続されたワイヤレバー15Dとを有する。直動ディスク15Gは、第一実施形態における押圧部材15Bと同様に軸周りに回り止めされた状態で軸方向に移動可能に支持されている。回動ディスク15Hは、スラスト軸受47で軸方向後方への移動が規制された状態で回動可能に支持されている。
【0059】
図10に示すように、回動ディスク15Hの直動ディスク15Gに対する対向面には、周方向に間隔をおいて複数の傾斜溝15H
1が形成されている。同様に、直動ディスク15Gの回動ディスク15Hに対する対向面にも、周方向に間隔をおいて複数の傾斜溝15G
1が形成されている(
図9参照)。
【0060】
図11(a)、(b)に示すように、傾斜溝15G
1は、最深部15G
2から一方の周方向に向かって次第に浅くなるように形成され、傾斜溝15H
1は、最深部15H
2から他方の周方向に向かって次第に浅くなるように形成されている。ボール15Iは、この両傾斜溝15G
1、15H
1の間に組み込まれている。
【0061】
図9に示すように、ワイヤレバー15Dの一端は回動ディスク15Hに連結されており、ワイヤレバー15Dの他端に接続されたワイヤケーブル14が引っ張られたときに、ワイヤレバー15Dと回動ディスク15Hが一体に回動するようになっている。ワイヤレバー15Dには、ワイヤケーブル14の引っ張り操作によるワイヤレバー15Dの回動方向とは反対の方向にワイヤレバー15Dを付勢するリターンスプリング15Eが取り付けられている。
【0062】
この押圧機構15は、ワイヤケーブル14を引っ張ると、
図11(b)に示すように、ワイヤケーブル14に作用する引張力によって回動ディスク15Hが回動し、これに伴いボール15Iが傾斜溝15G
1、15H
1内を最深部15G
2、15H
2から浅くなる方向に転がるので、回動ディスク15Hの回動角度に応じて回動ディスク15Hと直動ディスク15Gの軸方向の間隔が拡大する。ここで、回動ディスク15Hは、軸方向後方への移動が規制されているので、直動ディスク15Gが軸方向前方に移動し、この直動ディスク15Gによって回転軸23が軸方向前方に押されて移動する。
【0063】
図9に示す押圧機構15では、回転軸23が直動ディスク15Gで直接押圧されるようにしたが、
図12に示すように、回転軸23にその径方向外向きに延設され、この回転軸23と一体に軸周りに回転する延設部材48であるギア(第四ギア26D)に、その軸方向から直動ディスク15Gを押圧するようにしてもよい。この延設部材48は回転軸23の外径よりも大径なので、この延設部材48と押圧部材15B(直動ディスク15G)を当接させることにより、回転軸23と押圧部材15B(直動ディスク15G)を当接させた場合と比較して、回転軸23の回り止め作用を一層向上することができる。この構成は、第一実施形態に係る電動ブレーキ装置に適用することもできる。
【0064】
この発明に係る電動ブレーキ装置の第三実施形態(要部)を
図13に示す。この電動ブレーキ装置は、第一及び第二実施形態と異なり、電動モータ10の回転が入力される回転軸23の回転を摩擦パッド13を押圧する直動部材24の軸方向移動に変換する運動変換機構25として、送りねじ機構(以下において、運動変換機構25と同じ符号を付する。)を採用している。
【0065】
この送りねじ機構25は、回転軸23と一体に形成されたねじ軸25Eと、ねじ軸25Eを囲むように設けられた直動部材24として機能するナット25Fと、ねじ軸25Eの外周に形成されたねじ溝25Gとナット25Fの内周に形成されたねじ溝25Hの間に組み込まれた複数のボール25Iと、ナット25Fのねじ溝25Hの終点から始点にボールを戻すリターンチューブ(図示せず)とを有する。
【0066】
ナット25Fは、キャリパハウジング17A内に、このキャリパハウジング17Aに対して回り止めされた状態で軸方向に移動可能に設けられている。ねじ軸25Eの軸方向後方端部には、径方向外向きにフランジ25E
1が形成されている。このフランジ25E
1の軸方向後方には、スラスト軸受49が設けられている。このスラスト軸受49は、キャリパハウジング17A内に固定された軸受支持部材50によって支持されるとともに、軸受34によって、回転軸23との間で軸周りに相対回転可能となっている。ねじ軸25Eに形成されたフランジ25E
1が、軸受支持部材50で支持されるスラスト軸受49に当接することにより、ねじ軸25Eの軸方向後方側への移動が制限される。
【0067】
電動モータ10を回転させると、電動モータ10の回転が減速機構26を介して回転軸23に入力され、回転軸23の回転に伴ってナット25Fが軸方向前方に移動し、このナット25Fの軸方向前方に設けられた摩擦パッド13がブレーキディスク11に押し付けられる。その一方で、電動モータ10の失陥等のトラブルが生じ、運転者の操作力によってワイヤケーブル14が引っ張られると、その引張力によってカム部材15Aが回動し、このカム部材15Aの回動角度に応じて、カム面15A
1がリンク部材15Cを介して押圧部材15Bを軸方向前方に押し動かす。その結果、押圧部材15Bの軸方向前方の端面が、回転軸23を軸方向前方に押圧する。このとき、平坦面状とした回転軸23の軸方向後方の端面と、押圧部材15Bの軸方向前方の端面が面接触する。
【0068】
このように、両端面を面接触させると、回転軸23とカバー27に対し回り止めされた押圧部材15Bとの間の摩擦力によって、回転軸23の軸周りの回転が阻止される。このように、回転軸23の回転を阻止することにより、電動モータ10の失陥等のトラブルによって、フェールセーフ機構が作用した場合において、ねじ軸25Eに形成されたねじ溝25Gと、ナット25Fに形成されたねじ溝25Hとの間でボール25Iを介した滑りが発生するのを防止することができ、フェールセーフ機構を確実に機能させることができる。
【0069】
上記の各実施形態に係る電動ブレーキ装置はあくまでも例示であって、電動ブレーキ装置のフェールセーフ機構を確実に機能させる、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、運動変換機構25、押圧機構15の構成、各構成部材の形状、配置、素材等を適宜変更することもできる。