(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
冷間プレス成形で製造される角形鋼管は、一般に、鋼板を冷間加工によりコの字形状に曲げて2つの部材を形成、または1枚の鋼板を箱型に曲げた後、端部同士を突き合わせて溶接することにより製造する。鋼板を90°に曲げて形成した角部の曲率半径を小さくすれば、角形鋼管の幅や厚さを変えることなく、断面積や断面係数、断面二次モーメントを大きくすることができ、角形鋼管の荷重支持能力や変形抵抗能力を向上させることができる。曲げ荷重に対しては、単位質量当たりの荷重支持能力と変形抵抗能力も増加させることができる。さらには、角部の曲率が冷間プレス成形で製造される角形鋼管よりも小さい冷間ロール成形で製造される角形鋼管との接合も容易になる。
【0003】
一方、プレスによる曲げ成形で角形鋼管を製造する場合は、冷間ロール成形に比べて、角部の曲率半径を小さくすることが難しい。更に、高強度鋼板を用いて角形鋼管を製造する場合、90°曲げを行うと角部に表面疵が発生したり、角部の靱性が劣化する等の問題がある。これらの問題に対し、例えば、特許文献1では、所定の化学組成を有する鋼に適切な焼き入れ及び焼き戻し処理を施すことにより、角形鋼管に加工する際の表面疵の発生を抑制する鋼板及びその製造方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、鋼板の化学成分組成を適正に調整すると共に、ミクロ組織中のベイナイトの面積分率を適切に制御し、且つ各部に応じた特性を規定することによって、冷間加工ままの状態で所定の強度(355MPa以上の降伏強度、520MPa以上の引張強度)と、低降伏比の両立を達成すると共に、角部における高い衝撃吸収特性と組成変形能を確保する角形鋼管が提案されている。
【0005】
また、特許文献3では、鋼板の熱間圧延をAr
3点以上の温度で行い、その後室温以上700℃以下まで、冷間成形後の辺部に対応する部位に対しては板厚中心の冷却速度が1℃/s以上50℃/s以下の加速冷却を行い、角部に対応する部位に対しては、前記辺部よりも30%以上遅い冷却速度に調整することにより、各部位の材質差を低減する角形コラム用鋼板の製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4では、炭素当量、溶接割れ感受性組成、溶接熱影響部靭性指標が所定の範囲内になるように鋼板の化学成分組成を調整して鋼板の金属組織及び結晶粒の粒径を制御している。更に、降伏強さ、引張強さ、降伏比、および一様伸びと、更に2mmVノッチシャルピー値、特に−40℃および−10℃でのシャルピー値を一定の水準に設定している。特許文献4では、これらの条件によって、角形鋼管の端部と相手材との溶接部の靭性を保持し、大きな曲げモーメントが発生した際に応力集中に伴う溶接部からの脆性破壊のおそれを少なくし得る角形鋼管用厚鋼板が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4に記載の発明によれば、所定の強度を備え且つ角形鋼管に加工する際の表面疵の発生を抑制する角形鋼管を製造することは可能である。しかし、特許文献1〜4には、角部の外面の曲率半径を鋼板の板厚tの2.5倍未満に形成することによって、角形鋼管の断面係数と断面二次モーメントを大きくして、曲げ荷重に対する単位質量当たりの荷重支持能力と変形抵抗能力を向上させるという技術的思想が開示も示唆も一切なされていない。
【0009】
また、角形鋼管の角部の曲率半径を小さくすると、頂部が大きく変形するので、角部の表面疵の発生や靱性の劣化がする割れが問題になる。特に、鋼板の板厚が増加すると靱性が低下するため、板厚が50mm程度になると角形鋼管の角部の靱性低下が顕著になる。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、角部の外面の曲率半径が鋼板の板厚tの2.5倍未満であって、角部の靱性が良好な降伏強度で295N/mm
2級や325N/mm
2級などの角形鋼管を提供することである。
【0011】
また、本発明が解決しようとする課題は、角部の外面の曲率半径が2.5t未満になるように鋼板にプレス曲げ加工を行って製造しても、外気温0℃のような厳しい環境下において角形鋼管の角部の外面に割れを生じない単位質量当たりの断面係数と断面二次モーメントが高い角形鋼管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、厚板の熱加工制御プロセス(THERMO-MECHANICAL CONTROL PROCESS、以下、「TMCP」という。)及び造船用高延性鋼の厚板の伸び改善技術に着目し、鋼板の金属組織の硬質相及びフェライトの平均結晶粒径を制御することにより、鋼板の曲げ加工時の製造歩留まりや曲げ部の機械的性質を向上できることを見出した。
【0013】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0014】
[1]平板部分と角部とからなる角形鋼管において、成分組成は、質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.001〜0.10%を含有し、N:0.005%以下に制限し、残部がFe及び不純物からなり、下記式(1)によって求められる炭素当量Ceqが0.42以下であり、金属組織は、面積率で40%以上のフェライトと残部が硬質相からなり、前記硬質相は、パーライト、島状マルテンサイト、セメンタイト及びフェライトサイドプレートの1種又は2種以上からなり、前記フェライトの平均結晶粒径は20μm以下であり、前記硬質相の板厚方向の平均結晶粒径は10μm以下であり、前記平板部分の板厚tが15〜50mm、全伸びが21%以上であり、前記角部は、外面の曲率半径が2.5t未満であり、250℃で1時間保持する時効処理を施した後の0℃における角部のシャルピー吸収エネルギーが70J以上であることを特徴とする角形鋼管。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5 ・・・(1)
[2]前記硬質相のうち、パーライトの面積率が20〜40%であることを特徴とする上記[1]に記載の角形鋼管。
[3]成分組成は、質量%で、P:0.020%以下、S:0.005%以下に制限することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の角形鋼管。
[4]成分組成は、更に、質量%で、Nb:0.10%以下、V:0.50%以下、Ti:0.05%以下、Zr:0.05%以下、Ta:0.10%以下、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Mo:1.0%以下、Cu:1.0%以下、B:0.0050%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする上記[1]〜[3]の何れかに記載の角形鋼管。
[5]成分組成は、更に、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.05%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする[1]〜[4]の何れかに記載の角形鋼管。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、角部の外面の曲率半径が2.5t未満になるように、鋼板のプレス曲げ加工を行うことにより角形鋼管を製造することができる。また、本発明の角形鋼管は、外気温0℃のような厳しい環境下であってもその角部の外面に割れを生じないので、製造時期や予熱などを検討する必要が無く、生産効率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の角形鋼管は、平板部分の全伸びが21%以上であり、角部の外面の曲率半径が2.5t未満であり、250℃で1時間保持する時効処理を施した後の0℃におけるシャルピー吸収エネルギーが70J以上である。本発明の角形鋼管は、鋼板をコの字状、または箱型に冷間曲げ加工し、端部同士を突き合わせて溶接して製造され、断面形状は略正方形であり、4つの角部を有し、角部を繋ぐ平坦部のうち、一辺と対向する他片とに溶接部を有している。
まず、本発明の角形鋼管の組成限定理由について説明する。なお、特に断わらない限り質量%は、単に%で記す。
【0018】
C:0.05〜0.20%
Cは、強度の向上に有効である。C量を増やすことによって、鋼の強度を高めることができるため、Cの含有量の下限を0.05%とする。一方、C量が0.20%を超えると、硬質相が増加して鋼の強度が高くなりすぎ、また、例えば、250℃で1時間保持する時効処理を施した後など、ひずみ時効による影響が大きくなり、靭性を劣化させるので、上限を0.20%とする。また、強度を確保する観点から、C量の下限を好ましくは0.10%以上にするとよい。強度を過剰に上昇させず、靱性を確保する観点からは、C量の上限を好ましくは0.17%、より好ましくは0.16%、確実に靭性を確保するためには0.14%以下にすることが好ましい。
【0019】
Si:0.05〜1.0%
Siは、脱酸剤として有効である。脱酸剤としての効果を得るためには、Si量は0.05%以上が好ましい。また、Siは固溶強化によって強度を高める元素であるので、Si量は0.10%以上が好ましい。Si量は、1.0%を超えると、靭性を損なうので、上限を1.0%とする。靱性を確保する観点からは、Si量を0.50%以下にすることが好ましく、0.30%以下がより好ましい。
【0020】
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、鋼の焼入れ性を高める元素である。本発明では、強度及び靱性を確保するために、0.5%以上のMnを含有させる。しかし、Mn量が過剰になると、強度が過度に高くなり、靱性が劣化するので、上限を2.0%とする。強度を確保する観点からは、Mn量を1.0%以上にすることが好ましい。靱性を確保する観点からは、Mn量を1.5%以下にすることが好ましい。
【0021】
Al:0.001〜0.10%
Alは、脱酸剤として有効である。脱酸剤としての効果を得るためには、0.001%以上のAlを含有させることが好ましい。脱酸の効果を高めるためには、Al量は0.005%以上が好ましく、0.01%以上がより好ましい。Al量は、0.10%を超えると、介在物が増加して、延性や靭性を損なうので、0.10%以下に制限する。靱性を確保する観点からは、Al量を0.06%以下にすることが好ましい。
【0022】
N:0.005%以下
Nは不可避的に鋼中に存在するが、N量が多すぎると、TiNやAlNが過度に増大して表面疵、角部形成後の靱性劣化等の弊害が生じるおそれがある。これに加えて、例えば、250℃で1時間保持する時効処理を施した後など、ひずみ時効後の靭性を劣化させるので、上限を0.005%とする。さらに、介在物の生成を抑制する観点から、N量の上限は、好ましくは0.004%である。下限は特に設定しないが、脱Nのコストや経済性を考慮し、0.001%とすることが好ましい。
【0023】
P:0.02%以下
Pは、不純物であり、含有量の上限を0.02%とする。P量の低減により、靭性が向上することから、P量は0.015%以下が好ましく、0.010%以下がより好ましい。P量は少ない方が好ましいので、下限は設けない。特性とコストのバランスから、通常は、0.001%以上が含有される。
【0024】
S:0.005%以下
Sは、不純物であり、含有量の上限を0.005%とする。S量の低減により、熱間圧延によって延伸化するMnSを低減し、靭性を向上させることができることから、S量は0.003%以下が好ましく、0.002%以下がより好ましい。S量は少ない方が好ましいので、下限は設けない。特性とコストのバランスから、通常は、0.0001%以上が含有される。
【0025】
本発明においては、さらに、炭窒化物の形成、鋼の焼入れ性の向上や介在物の形態制御により、強度や靱性を高めるために、Nb、V、Ti、Zr、Ta、Cr、Ni、Mo、Cu、B、Ca、Mg、REMの1種又は2種以上を含有させることができる。以下の説明において好ましい下限値を記載するが、各元素の含有量が好ましい下限値未満であっても、鋼の特性に悪影響は及ぼさない。
【0026】
Nb:0.10%以下
Nbは、再結晶温度を低下させる元素であり、熱間圧延を行う際に、オーステナイトの再結晶を抑制して組織の微細化に寄与するので、0.001%以上を含有させてもよい。Nb量が0.10%を超えると粗大な析出物によって靭性が劣化することがあるので、0.10%以下が好ましい。靭性確保の観点から、上限は0.07%にすることが好ましく、より好ましい上限は、0.05%である。一方、下限は組織微細化効果を確実にするため、下限は、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%、さらに好ましくは0.02%とするとよい。
【0027】
V:0.50%以下
Vは、炭化物、窒化物を生成し、析出強化によって鋼の強度を向上させる元素であり、強度を効果的に上昇させるために、0.01%以上を含有させることが好ましい。Vを過剰に添加すると、炭化物及び窒化物が粗大化し、靭性の劣化をもたらすことがあるため、V量の上限は0.50%が好ましく、さらに好ましくは0.10%とする。
【0028】
Ti:0.05%以下
Tiは、Nと結合してTiNとしてスラブ中に微細に析出し、加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制するので、圧延組織の微細化に有効である。また、TiNが鋼中に存在すると、溶接時に熱影響部の粗大化を抑制する。このため、Tiは母材及び溶接部の靭性を改善する上で有用な元素である。これらの効果を得るためにTiの含有量を0.005%以上にすることが好ましい。より好ましくはTi量を0.010%以上とする。一方、0.05%を超えてTiを含有させると溶接部の靭性を劣化させため、Ti含有量は0.05%以下が好ましい。より好ましくはTi量を0.030%以下、さらに好ましくは0.020%以下とする。
【0029】
Zr:0.05%以下
Zrは、NbやTiなどと同様に炭窒化物を形成してCr炭窒化物の形成を抑制し耐食性を向上させるため、必要に応じて0.01%以上で添加する。また、0.05%を超えて含有させてもその効果は飽和し、大型酸化物の形成により表面疵の原因になることがあるため、0.05%以下を添加することが好ましい。Ti,Nbに較べると高価な元素でありため製造コストを考慮すると、Zrの下限を0.02%とし、上限を0.05%とすることが望ましい。
【0030】
Ta:0.10%以下
Taは、Zr等と同様に炭窒化物を形成してCr炭窒化物の形成を抑制し耐食性を向上させる効果を有しており、必要に応じて0.01%以上で添加する。また、0.05%を超えて含有させてもその効果は飽和し、大型酸化物の形成により表面疵の原因になることがあるため、0.05%以下を添加することが好ましい。Ti,Nbに較べると高価な元素でありため製造コストを考慮すると、Taの下限を0.02%とし、上限を0.10%とすることが望ましい。
【0031】
Cr:1.0%以下
Crは、強度の向上に有効な元素であり、0.05%以上を含有させることが好ましい。Crを過度に含有させると、溶接性が劣化することがあるので、1.0%を上限とすることが好ましく、より好ましくは0.5%以下である。
【0032】
Ni:1.0%以下
Niは、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、靭性の向上にも寄与する。強度を向上させるためには、Ni量を0.05%以上にすることが好ましい。また、Niは高価な元素であるため、上限は1.0%以下とすることが好ましく、0.30%以下とすることがより好ましい。
【0033】
Mo:1.0%以下
Moは、鋼の高強度化に寄与する元素であり、0.05%以上を含有させることが好ましい。ただし、Moは高価な元素であり、1.0%を上限とすることが好ましい。より好ましいMo量の上限は0.30%以下であり、さらに好ましくは0.10%以下とする。
【0034】
Cu:1.0%以下
Cuは、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、固溶強化にも寄与するので、0.05%以上を含有させても良い。Cuを過度に添加すると鋼板の表面性状を損なうことがあるため、上限は1.0%以下とすることが好ましい。経済性の観点から、Cu量のより好ましい上限は0.30%以下である。
【0035】
B:0.0050%以下
Bは鋼管の焼入れ性及び強度を向上する効果を有する元素であるので、0.0003%以上を含有させても良い。より好ましくはB量を0.0005%以上とする。但し、一定量以上のBを添加しても効果が飽和するため、上限を0.0050%とすることが好ましい。より好ましくはB量を0.0030%以下、さらに好ましくは0.0020%以下とする。
【0036】
Ca:0.01%以下;Mg:0.01%以下、
Ca、Mgは、硫化物系介在物の形態を制御し、靭性を向上させ、さらに、溶接部の酸化物を微細化して溶接部の靭性を向上させるので、一方、又は双方を0.001%以上含有させることが好ましい。Ca、Mgを過剰に含有させると、酸化物や硫化物が大きくなり靭性に悪影響を及ぼすので、Ca量及びMg量のそれぞれの上限は0.01%以下が好ましく、0.005%がより好ましい。
【0037】
REM:0.05%以下
REMも、前記したCa、Mgと同様に硫化物系介在物の形態を制御し、靭性を向上させ、さらに、溶接部の酸化物を微細化して溶接部の靭性を向上させるので、Ca及び/又はMgとともに、或いは単独で0.001%以上含有させることが好ましい。REMを過剰に含有させると、酸化物や硫化物が大きくなり靭性に悪影響を及ぼすので、REM量の上限は0.05%とすることが好ましい。なお、REMのうちY、Ceが特に好ましい。
【0038】
Ceq:0.42以下
炭素当量Ceqは、C、Mn、Cu、Ni、V、Mo、Crの含有量[質量%]から、下記式(1)によって求める。炭素当量Ceqは焼入れ性の指標であり、強度の指標としても使用されることがあるが、靱性を確保するため0.42以下にすることが必要である。Ceqが0.42を超えると、硬質相が増加して、角形鋼管の平板部分の全伸びが21%未満となり、また、角部の0℃におけるシャルピー吸収エネルギーが70J未満になるおそれがある。また、Ceqが0.42を超えると、本発明の角形鋼管を製造する目的でサブマージアーク溶接した際に、当該溶接部分の強度が維持できない場合がある。これらの効果を確実にするため、Ceqは0.40以下が好ましく、0.38以下がより好ましいく、0.35以下がさらに好ましい。一方、強度を確保するために、Ceqは0.28以上が好ましい。
【0039】
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5 ・・・(1)
【0040】
ここで、C、Mn、Cr、Mo、V、Ni、Cuは各元素の含有量[質量%]である。なお、Cr、Mo、V、Ni、Cuは、本発明においては選択的に含有させる元素であり、これらの元素を含まない場合は、上記式(1)ではその元素を0として計算する。
【0041】
本発明に係る角形鋼管の成分組成を上述したとおり、一定の範囲に制御し、且つCeqを0.42以下とすることによって、降伏強度として325N/mm
2を確保することができる。
【0042】
本発明に係る角形鋼管の成分組成の、以上説明した以外の残部は、鉄、及び不純物である。ここで、不純物とは、原材料に含まれる、あるいは製造の過程で混入する成分であり、意図的に鋼に含有させたものではない成分のことをいう。
【0043】
具体的には、P、S、O、Sb、Sn、W、Co、As、Pb、Bi及びHがあげられる。このうち、P及びSは、上述のとおり、それぞれ、0.020%以下、0.005%以下となるように制御する必要がある。Oは0.006%以下となるように制御することが好ましい。
【0044】
その他の元素については、通常、Sb、Sn、W、Co、及びAsは0.1%以下、Pb及びBiは0.005%以下、Hは0.0004%以下の不純物としての混入があり得るが、通常の範囲であれば、特に制御する必要はない。
【0045】
次に、本発明の角形鋼管の金属組織について説明する。
【0046】
本発明に係る角形鋼管は、フェライトを主体し、残部を硬質相とする組織構造を有し、降伏強度を確保するためフェライトを微細化させる。硬質相とは、フェライト以外の相であり、パーライト、島状マルテンサイト、セメンタイト及びフェライトサイドプレートの1種又は2種以上からなる。特に、角部における靱性を確保するために、フェライトの面積率、フェライト及び硬質相の平均結晶粒径は重要である。
【0047】
本発明の角形鋼管を構成するフェライトの平均結晶粒径は20μm以下である。フェライトの平均結晶粒径が20μmを超えると、角形鋼管の平板部分の全伸びが21%未満となり、角部の外面の曲率半径が2.5t未満になるように角形鋼管を製造する際、当該角部の外面に表面割れが生じるおそれがある。好ましくはフェライトの平均結晶粒径を15μm以下とする。フェライトの平均結晶粒径の下限は特に限定しないが、製造コストの観点から、1μm以上であってもよい。
【0048】
また、フェライトの面積率は、靭性を確保し、降伏比を向上させるために、40%以上が必要となる。フェライトの面積率が40%未満の場合、角形鋼管の平板部分の全伸びが21%未満となり、角部の外面の曲率半径が2.5t未満になるように角形鋼管を製造する際、当該角部の外面に表面割れが生じるおそれがある。フェライトの面積率の上限は、降伏比を低下させるために、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましい。
【0049】
また、本発明の角形鋼管は、フェライトを除いた残部がパーライト、島状マルテンサイト、セメンタイト及びフェライトサイドプレートのうち少なくとも1種を含む硬質相で構成される。ここで、島状マルテンサイトは、オーステナイト−マルテンサイト混成物(MA)とも称される非常に硬質の相であり、フェライトサイドプレートは、ベイナイト及びウィッドマンステッテンフェライトの総称である。ベイナイトとウィッドマンステッテンフェライトとは、光学顕微鏡では判別が難しいが、セメンタイトの析出形態が異なるため、電子顕微鏡によって判別することができる。ベイナイトはセメンタイトが粒内に析出しており、ウィッドマンステッテンフェライトは粒内にはセメンタイトは析出していない点で相違している。
【0050】
前記硬質相は角形鋼管の平板部分の全伸び率を低下させ、角部の靱性を低下させるため、できるだけ少なく、平均結晶粒径は小さい方がよい。前記硬質相の板厚方向の平均結晶粒径が10μm超の場合、角形鋼管の平板部分の全伸びが21%未満となり、また、冷間加工によるプレス曲げ加工成形ままあるいは250℃で1時間保持する時効処理を施した後の角部の0℃におけるシャルピー吸収エネルギーが70J未満になるおそれがある。
【0051】
フェライト及び硬質相の平均結晶粒径、フェライトの面積率は、加工前の母材或いは加工後の平板部分の表面から所定の深さ(例えば、6mm)の断面を、圧延方向に平行方向に採取し、光学顕微鏡を用いて当該断面を測定することにより求めることができる。フェライト及び硬質相の平均結晶粒径、フェライトの面積率の測定は、JIS G 0551:2013に従って、或いは当該規格に準じた方法により測定される。例えば、加工前の母材或いは加工後の平板部分の表面から所定の深さ(例えば、6mm或いは板厚の1/4)から組織観察用試験片を採取し、当該試験片の圧延方向断面を研磨、ナイタール腐食を施した後、当該断面の組織を、光学顕微鏡を用いて観察し、1視野以上について撮像し、画像処理して、切断法でフェライト及び硬質相の平均結晶粒径、フェライトの面積率を算出するものとする。
【0052】
ここで、フェライトの形態はほぼ粒状であり、観察する方向によって平均結晶粒径はほとんど変化しないので、単に平均結晶粒径と称する。これに対して、硬質相の形態は粒状でない場合、例えば、板状、針状などの形態であることが多いので、圧延方向に平行な板厚断面で板厚方向の平均結晶粒径を測定する。
【0053】
硬質相のパーライト、島状マルテンサイト、セメンタイト及びフェライトサイドプレートは光学顕微鏡で判別することができるので、それぞれの面積率は画像処理による算出が可能である。なお、硬質相のうち、パーライトは、島状マルテンサイト、セメンタイト及びフェライトサイドプレートに比べて軟質であり、靱性に及ぼす悪影響が小さい。パーライトの面積率は、強度を高めるために、20%以上であってもよい。一方、靱性を確保するためには、パーライトの面積率は40%以下が好ましい。
【0054】
次に、本発明の角形鋼管の製造方法について説明する。
【0055】
まず、上記に示した本発明範囲の組成を有する溶湯から連続鋳造により熱間圧延素材となるスラブを製造する。 次いで、このようにして得られた素材(スラブ)を用いてTMCPにより鋼板を製造し、冷間成形及び溶接を施して、本発明の角形鋼管を製造することができる。
【0056】
具体的には、まず、前記スラブについて、1000〜1300℃に再加熱後、900℃以下での累積圧下率を35%以上、圧延仕上温度を870℃未満とする。再加熱の温度が1300℃超であったり、900℃以下での累積圧下率が35%未満であったり、圧延仕上温度が870℃以上であると、フェライト相、硬質相の微細化が不十分になる。なお、後述の冷却開始温度がAr
3温度以上であることが好ましいので、これに対応して、圧延仕上温度もAr
3温度以上であることが好ましい。より好ましくは820℃以上である。
【0057】
圧延後、鋼板は、平均冷却速度5℃/s以上の冷却速度で600℃未満の温度まで、圧延に引き続いて加速冷却を行う。好ましくは加速冷却の停止温度を590℃以下、より好ましくは580℃以下とする。加速冷却の停止温度は、フェライトの面積率を40%以上とし、靱性を確保するために、500℃超が好ましい。好ましくは510℃以上、より好ましくは520℃以上とする。なお、冷却開始温度については特に規定しないが、Ar
3温度以上でかつ、圧延が終了して速やかに冷却を開始することが望ましい。圧延に引き続いて加速冷却された鋼板は、その後、350〜500℃の温度域で焼戻し処理を行うことで強靱化の調整を行ってもよい。
【0058】
さらに、鋼板を角形状に冷間成形し、端部同士をサブマージアーク溶接して鋼管とする。鋼板の成形する方法にはUOE法、JCO法等が適用される。また、溶接法にはアーク溶接、レーザー溶接等が使用可能である。現状サブマージドアーク溶接が最も一般的である。
【0059】
上述した成分組成と製造条件により、本発明の角形鋼管の金属組織は、フェライトの面積率が40%以上、残部がパーライト、島状マルテンサイト、セメンタイト、フェライトサイドプレートのうち少なくとも1種を含む硬質相で構成される。また、前記フェライトの平均結晶粒径は20μm以下であり、前記硬質相の板厚方向の平均結晶粒径は10μm以下になる。そのため、21%以上の全伸びと325N/mm
2以上の降伏強度を確保することができ、外面の曲率半径が2.5t未満になるように角部を形成しても、当該角部は十分な靱性を有しており、当該外面にひび割れが生じない。
【0060】
また、冷間ロール成形で製造される本発明の角形鋼管と、プレスによる曲げ成形で製造された本発明の角形鋼管との継手部分を平滑にして応力集中を回避すれば、溶接部及びその近傍における破断の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0061】
表1に示す化学組成A〜Rを有する鋼をそれぞれ真空溶解炉にて溶製し、得られたスラブを表2の条件にてTMCPにより鋼素材とした。尚、表1の炭素当量Ceqは、上記式(1)で規定される値であり、Ceqのパラメータとなる元素成分が添加されていない場合、当該元素成分の含有量を0として計算する。また、表2において、加熱温度は加熱炉の設定温度、圧延終了温度、水冷開始温度、水冷停止温度及び焼戻温度は鋼板の表面温度を測定した値である。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
表2の条件にて製造された鋼No.A〜Pをそれぞれ冷間加工してコの字状の形状とし、端部を溶接して角形鋼管No.1〜32を製造した。このとき、角部は、当該外側の曲率半径が板厚t(mm)に対して2.4倍或いは2倍になるようにプレス曲げ加工を行った。
【0065】
得られた各角形鋼管について、鋼管のフェライト相及び硬質相の面積分率、角部の靱性vE
0及び表面割れの有無を下記の方法で評価するとともに、平坦部の降伏強度、引張強度、全伸びを下記の方法で評価した。
【0066】
[鋼管のフェライト相及び硬質相の面積分率、並びに、平均結晶粒径の測定方法]
加工後の平板部分の表面から6mmの断面を、圧延方向に平行方向に採取し、光学顕微鏡を用いて当該断面を観察し、当該断面を画像解析することにより、フェライト相及び硬質相の面積分率及び平均結晶粒径を測定した。その結果を表3−1に示す。尚、表3−1中、「P」はパーライト相を、「MA」は島状マルテンサイト相を、「Fe
3C」はセメンタイト相を意味する。
【0067】
[平坦部及び角部の靭性vE
0の測定方法]
平坦部の衝撃試験片はJIS Z 2242のVノッチ試験片とし、これにより0℃のシャルピー吸収エネルギーvE
0の評価を行った。これらの試験片を採取する場合、試験片の中心が外表面から1/4となるようにした(側面ノッチ)。ただし、試験片の中心が外表面から1/4となるように採取できない場合には、なるべくこれに近い位置から採取した。角部の靭性vE
0は、JIS Z 2242に従って測定した。角部の靭性vE
0も同様に、JIS Z 2242に従って測定した。
【0068】
すなわち、まず、冷間加工によるプレス曲げ加工成形ままおよび250℃で1時間保持する時効処理を施した後の、
図1に示す鋼管角部45°の位置の外面側から
図2に示すように曲げ半径R(mm)を有する角部外面側から内側に6mmの箇所を中心として、一辺が10mmのシャルピー試験片を管軸方向に3本採取し、鋼管の厚さ方向にVノッチの切り込み(断面ノッチ)を施した。これらのシャルピー試験片を用いてシャルピー衝撃試験を行ない、温度0℃下でのシャルピー吸収エネルギーvE
0を測定し、その平均値を求めた。合格基準は70J以上とした。
【0069】
[平坦部及び角部の降伏強度、引張強度及び降伏比の評価方法]
図1に示す角形鋼管の平坦部について外面側から鋼板の1/4t(t:板厚)の位置における管軸方向に、JIS Z 2241の1A号試験片を採取してJIS Z 2241の要領で引張試験を行ない(測定温度:25℃)、鋼管平坦部の降伏強度、引張強度及び降伏比を測定した。
【0070】
図1に示す角部についても、外面側から鋼板の1/4t(t:板厚)の位置における管軸方向に、JIS Z 2241 4号試験片を採取してJIS Z 2241の要領で引張試験を行ない(測定温度:25℃)、鋼管平坦部の降伏強度、引張強度及び降伏比を測定した。ただし、試験片の中心が外表面から1/4となるように採取できない場合には、なるべくこれに近い位置から採取した。合格基準は、平坦部、角部とも、325N/mm
2以上の降伏強度とした。
【0071】
また、鋼管角部の表面性状を評価するために、浸透探法によって表面割れの有無を確認した。これらの結果を下記表3−2及び表3−3に示す。
【0072】
【表3-1】
【0073】
【表3-2】
【0074】
【表3-3】
【0075】
これらの結果から、本発明で規定する条件で製造した鋼管No.1〜16のものは、本発明で規定する要件を満足するものであり、いずれも角部におけるシャルピー吸収エネルギーvE
0が、250℃で1時間保持する時効処理を施した後においても70Jを上回っており、良好な靭性を発揮している。また、角部の外面の曲率半径が板厚の2倍になる曲げ加工を行っても、当該外面に表面割れが生じておらず、良好な曲げ加工が可能であることが示された。
【0076】
これに対して、鋼管No.17〜32の比較例では、成分が本発明の範囲外であり、平坦部の降伏点又は耐力が不足したり、角部の外面の曲率半径が板厚の2.5倍未満(2.4倍及び2倍)になる曲げ加工を行った場合、当該外面に表面割れが生じたり、角部におけるシャルピー吸収エネルギーvE
0が70Jを下回る等の問題が生じた。