(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
pn接合で発生する電界により、i層部で発生するキャリアをより速く移動させるためには、光吸収層に印加される電界はより大きく、かつより均一であるのが望ましい。しかしながら、p型半導体層に添加(ドープ)されるp型不純物(ドーパント)が多量に光吸収層へ拡散する場合に、半導体光素子に電圧を印加すれば、光吸収層に印加される電界強度がより不均一となってしまう。それゆえ、半導体光素子の素子特性が劣化するという問題が生じてしまう。
【0006】
従来、p型半導体層から光吸収層へのp型不純物の拡散を抑制する試みがなされている。引用文献1に、光吸収層の上部に配置される第1の上部クラッド層と第2の上部クラッド層との間に、不純物拡散防止層を設ける構造を有する電界吸収型光変調器が開示されている。かかる不純物拡散防止層がp型半導体層から光吸収層へのp型不純物の拡散を抑制している。
【0007】
また、半導体光素子の素子特性向上には、素子の抵抗や容量を低減させるのが有効である。素子の抵抗低減の観点では、特に抵抗が高くなるp型半導体層のp型不純物濃度を増大させることが考えられる。しかしながら、p型半導体層のp型不純物濃度を増大させると、p型半導体層からp型不純物の光吸収層への拡散が増大する場合が発生し、半導体光素子の素子特性を劣化させてしまう。それゆえ、p型不純物の拡散の影響を抑制する技術の開発が望まれる。
【0008】
発明者らは、上記課題に鑑みて、pin構造を有する半導体光素子におけるp型不純物の振る舞いについて、詳細に検討し、その結果、以下の知見を得ている。製造工程において、InP基板上に、n型半導体層、光吸収層、p型半導体層と、順に積層している。そして、前述の通り、素子作製後のp型不純物の濃度プロファイルを調べると、p型半導体のp型不純物は、光吸収層へ拡散し、さらに、n型半導体層へも拡散していることが分かる。しかしながら、p型不純物の濃度プロファイルは、光吸収層とn型半導体層との界面付近にピークを有している。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みて、かかる知見に基づいてなされたものであり、本発明は、p型半導体層に添加されるp型不純物が光吸収層へ拡散してもなお、光吸収層におけるp型不純物の濃度が抑制される半導体光素子及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る半導体光素子は、InP基板と、前記InP基板の上面に接して配置され、積層方向に沿って少なくとも一部はn型不純物が添加される、第1半導体層と、前記第1半導体層の上面に接して配置される、光吸収層と、前記光吸収層の上面に接して配置され、積層方向に沿って少なくとも一部はp型不純物が添加される、第2半導体層と、を備え、前記第1半導体層において、前記InP基板との界面である第1界面におけるn型不純物濃度は、前記光吸収層との界面である第2界面におけるn型不純物濃度より高く、前記第1半導体層は、前記第1界面のn型不純物濃度より低く、前記第2界面のn型不純物濃度よりもn型不純物濃度が高い部分を含み、前記第2界面におけるp型不純物濃度と比較して、前記第1半導体層は、より高いp型不純物濃度となる部分を含む。
【0011】
(2)上記(1)に記載の半導体光素子であって、前記第1半導体層において、n型不純物濃度は、積層方向に沿って前記第1界面から前記第2界面へ、単調減少又は等しく変化してもよい。
【0012】
(3)上記(2)に記載の半導体光素子であって、前記第1半導体層の少なくとも一部において、n型不純物濃度は、積層方向に沿って前記第1界面から前記第2界面へ、階段状に減少してもよい。
【0013】
(4)上記(2)に記載の半導体光素子であって、前記第1半導体層の少なくとも一部において、n型不純物濃度は、積層方向に沿って前記第1界面から前記第2界面へ、連続的に単調減少してもよい。
【0014】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の半導体光素子であって、前記第1半導体層の前記第2界面におけるn型不純物濃度は、n型不純物が意図的に添加されていない濃度であってもよい。
【0015】
(6)上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の半導体光素子であって、前記第1半導体層の前記第1界面におけるn型不純物濃度は、1×10
18cm
−3以上であってもよい。
【0016】
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の半導体光素子であって、前記第2半導体層に添加されるp型不純物は、Be,Mg,Znからなる群より選択される1又は複数であり、前記第1半導体層におけるp型不純物は、前記第2半導体層に添加されるp型不純物と同一であってもよい。
【0017】
(8)上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の半導体光素子であって、前記光吸収層は、2以上の井戸層を含む量子多重井戸層であり、前記光吸収層の前記第2界面の側は、前記量子多重井戸層に含まれる前記井戸層のうち、前記InP基板側に最も近くに配置される前記井戸層であり、前記光吸収層の前記第2半導体層との界面である第3界面の側は、前記量子多重井戸層に含まれる前記井戸層のうち、前記InP基板側配置される井戸層から最も遠く配置される前記井戸層であり、電界吸収型光変調器として機能してもよい。
【0018】
(9)上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の半導体光素子であって、ホトダイオードとして機能してもよい。
【0019】
(10)本発明に係る半導体光素子の製造方法は、InP基板の上面に、積層方向に沿って少なくとも一部にn型不純物を添加して、第1半導体層を積層する、第1半導体層積層工程と、前記第1半導体層の上面に、光吸収層を積層する、光吸収層積層工程と、と、前記光吸収層の上面に、積層方向に沿って少なくとも一部にp型不純物を添加して、第2半導体層を積層する、第2半導体層積層工程と、を備え、前記第1半導体層積層工程において、前記InP基板との界面である第1界面から前記光吸収層との界面である第2界面へ、n型不純物を、単調減少又は等しくなるよう添加し、前記第1半導体層の一部において、前記第1界面に添加するn型不純物より少なく、前記第2界面に添加するn型不純物よりも多い、前記n型不純物を添加する、ことを特徴とする、半導体光素子の製造方法であってもよい。
【0020】
(11)上記(10)に記載の半導体光素子の製造方法であって、前記第1半導体層積層工程において、前記第1半導体層の少なくとも一部に、前記前記第1界面から前記第2界面へ、前記n型不純物を階段状に減少するよう添加してもよい。
【0021】
(12)上記(10)に記載の半導体光素子の製造方法であって、前記第1半導体層積層工程において、前記第1半導体層の少なくとも一部に、前記前記第1界面から前記第2界面へ、前記n型不純物を連続的に単調減少するよう添加されていてもよい。
【0022】
(13)上記(10)乃至(12)のいずれかに記載の半導体光素子の製造方法であって、前記第1半導体層積層工程において、前記第2界面の部分に、n型不純物を添加しなくてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、p型半導体層に添加されるp型不純物が光吸収層へ拡散してもなお、光吸収層におけるp型不純物の濃度が抑制される半導体光素子及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0026】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の斜視図である。半導体光変調器集積レーザ1の構造を説明するために、光導波路の中心を貫く延伸方向と基板の積層方向とを含む断面と、該延伸方向に垂直な方向と該積層方向とを含む断面とを示すよう、一部が仮想的に取り除かれている。
【0027】
図1に示す通り、当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1は、光変調器部2と、レーザ部3と、光変調器部2とレーザ部3とを光学的に接続する光導波路部4と、を備えている。光変調器部2は電界吸収型光変調器(EA変調器)として機能し、レーザ部3は分布帰還型(Distributed Feedback:DFB)レーザとして機能する。レーザ部3は、連続光を出射する光源であれば、DFBレーザに限定されることはなく、他のレーザであってもよい。
【0028】
半導体光変調器集積レーザ1の光変調器部2は、n型InP基板11と、InP基板11の上面に接して配置され、積層方向に沿って少なくとも一部はn型不純物が添加される、第1半導体層12と、第1半導体層12の上面に接して配置される、光吸収層13と、光吸収層13の上面に接して配置され、積層方向に沿って少なくとも一部はp型不純物が添加される、第2半導体層14と、p型InGaAsコンタクト層15と、パッシベーション膜16と、上部電極17と、を含んでいる。n型InP基板11の裏面全体に、下部電極18が配置されている。
【0029】
半導体光変調器集積レーザ1のレーザ部3は、n型InP基板11と、第1半導体層12と、レーザ部多重量子井戸層21と、内部に回折格子層22を含む第2半導体層14と、レーザ部p型コンタクト層24と、パッシベーション膜16と、レーザ部上部電極25と、を含んでいる。半導体光変調器集積レーザ1の光導波路部4は、n型InP基板11と、第1半導体層12と、導波路層20と、第2半導体層14と、を含んでいる。当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1は、光変調器部2の第1半導体層12に添加するn型不純物(ドーパント)に特徴があり、レーザ部3及び光導波路部4の構成は、公知の構成から適切に選択すればよい。
【0030】
半導体光変調器集積レーザ1は、メサストライプ構造を有し、メサストライプ構造の両側をFeドープInP埋め込み層26で埋め込んだ埋め込みヘテロ構造(BH構造)を有している。パッシベーション膜16は、光変調器部2とレーザ部3各々の上側電極とp型InGaAsコンタクト層15との接触部分を除き、半導体光変調器集積レーザ1の上面全体に配置される。
【0031】
図2は、当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の光変調器部2の構造を示す図であり、
図1に示す領域Aを模式的に表したものである。前述の通り、n型InP基板11上に、第1半導体層12と、光吸収層13と、第2半導体層14と、p型InGaAsコンタクト層15とが、順に接して配置される。
図2に示す通り、n型InP基板11上に、(高濃度の)n型InPクラッド層101(n型濃度1×10
18cm
−3、膜厚50nm)と、n型光ガイド層102と、多重量子井戸層103と、p型光ガイド層106と、p型InPクラッド層107(p型濃度1×10
18cm
−3、膜厚2000nm)と、p型InGaAsコンタクト層15(p型濃度1×10
19cm
−3、膜厚300nm)とが、順に接して配置される。多重量子井戸層103は、意図的に不純物が添加されていないi層であり、2以上の井戸層104と、障壁層105と、が交互に重ねて繰り返される多重量子井戸層である。また、p型InGaAsコンタクト層15に添加されるp型不純物は、亜鉛(Zn)である。ここで、多重量子井戸層103の井戸層104及び障壁層105はInGaAsP系半導体層によって構成され、多重量子井戸層103の上下にそれぞれ配置されるp型光ガイド層106及びn型光ガイド層102も、InGaAsP系半導体層によって構成される。
【0032】
当該実施形態に係る光吸収層13は、光導波路を透過する光を吸収する半導体層であり、本明細書において、光吸収層が多重量子井戸層である場合に、光吸収層は、多重量子井戸層に含まれる2以上の井戸層のうち、最下層に位置する井戸層(基板側に最も近くに配置される井戸層)から最上層に位置する井戸層(基板から最も遠くに配置される井戸層)と定義する。その定義により、当該実施形態に係る第1半導体層12は、n型InPクラッド層101と、n型光ガイド層102と、最下層に位置する障壁層105(アンドープ、膜厚10nm)と、によって構成される。すなわち、第1半導体層12の一部であるn型InPクラッド層101及びn型光ガイド層102は、n型不純物が添加されており、障壁層105はi層である。n型光ガイド層102は、高濃度n型InGaAsP光ガイド層(n型濃度1×10
18cm
−3、膜厚100nm)と、低濃度n型InGaAsP光ガイド層(アンドープ、膜厚100nm)と、がn型InP基板11から離れる方向へ順に積層され構成される。なお、当該実施形態において、n型不純物はシリコン(Si)である。
【0033】
また、当該実施形態に係る第2半導体層14は、最上層に位置する障壁層105と、p型光ガイド層106と、p型InPクラッド層107と、が順に積層され構成される。すなわち、第2半導体層14の一部であるp型光ガイド層106及びp型InPクラッド層107はp型不純物が添加されており、障壁層105はi層である。なお、当該実施形態に係る第2半導体層14に添加(ドープ)するp型不純物(ドーパント)は亜鉛(Zn)である。
【0034】
図3は、当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の光変調器部2のバンド及び原子濃度を示す概略図である。横軸xは、
図2に矢印で示す、光吸収層13の途中から下方へn型InP基板11の上部に至るまでの位置であり、
図3は、それぞれの位置におけるバンドエネルギー(上図)と原子濃度プロファイル(下図)とを、示している。
図3の下図は、n型不純物及びp型不純物(n型ドーパント及びp型ドーパント)の原子濃度プロファイルを、実線及び破線で、それぞれ示している。
図3の上図に示す通り、光吸収層13において、障壁層105のバンドエネルギーが井戸層104より高く、障壁層として機能している。第1半導体層12において、下方から上方にかけて、バンドエネルギーは段階的に低くなっている。すなわち、n型InPクラッド層101のバンドエネルギーはn型InP基板11のバンドエネルギーと等しく、n型光ガイド層102のバンドエネルギーはより低く、障壁層105のバンドエネルギーは、さらに低くなっている。
【0035】
n型不純物(ドーパント)の濃度プロファイルは、
図3の下図にn型濃度(濃度は任意)として示されており、設計とほぼ同じプロファイルとなっており、n型InP基板11のn型濃度が最も高く、第1半導体層12において、n型InPクラッド層101及び高濃度n型InGaAsP光ガイド層がそれより低く、低濃度n型InGaAsP光ガイド層及び障壁層105は、バックグラウンドレベルとほぼ等しい程度まで低くなっている。第1半導体層12よりn型不純物は光吸収層13へほとんど拡散しないので、光吸収層13のn型濃度はバックグラウンドレベルとほぼ等しい程度まで低くなっている。n型不純物がかかる濃度プロファイルとなっていることにより、
図3の下図に示す通り、p型不純物(ドーパント)の濃度プロファイルは、第1半導体層12において、高濃度n型InGaAsP光ガイド層と低濃度n型InGaAsP光ガイド層の界面又はその近傍で、ピークを有している。光吸収層13において、
図3の下図はあくまで概略図であるが、p型濃度プロファイルはバックグラウンドレベルに近い程度まで低くなっている。
【0036】
ここで、n型InP基板11と第1半導体層12との界面を第1界面、第1半導体層12と光吸収層13との界面を第2界面、光吸収層13と第2半導体層14との界面を第3界面と、それぞれ定義する。
【0037】
当該実施形態に係る第1半導体層12において、第1界面(n型InPクラッド層101の第1界面に接する部分)におけるn型不純物濃度は、第2界面(障壁層105の第2界面に接する部分)におけるn型不純物濃度より高く、第1半導体層12は、第1界面のn型不純物濃度より低く、第2界面のn型不純物濃度より高い部分を含む。ここでは、高濃度n型InGaAsP光ガイド層と低濃度n型InGaAsP光ガイド層の界面(及び/又はその近傍)がそれに該当する。当該実施形態において、n型不純物濃度は、積層方向に沿って第1界面から第2界面へ(上向きに)、単調減少又は等しく変化しており、特に、当該実施形態は、第1半導体層12において階段状に減少している。よって、当該実施形態は、第1半導体層12の少なくとも一部において、階段状に減少する場合となっている。当該実施形態に係る第1半導体層12のように、第1界面から第2界面に亘って、階段状に減少するのがさらに望ましい。第1半導体層12の第2界面は、アンドープの障壁層105である。よって、第2界面の上下において、n型不純物濃度は実質的に一致するので、第1半導体層12の第2界面におけるn型不純物はn型不純物が意図的に添加されていない濃度であるのが、さらに望ましく、当該実施形態では、アンドープの障壁層105が配置されている。なお、本明細書において、単調減少は、階段状における段差部分の急激な減少を含んでいる。実際の濃度プロファイルにおいて、かかる段差部分では微分係数の絶対値は非常に大きな値を持つが無限大には発散しないからである。
【0038】
第2半導体層14に含まれるp型不純物(ドーパント)が、光吸収層13へ拡散し、さらに第1半導体層12へ拡散する。当該実施形態では、n型InP基板11へのp型不純物の拡散はほとんどなくバックグラウンドレベルであり、第1半導体層12において、p型不純物濃度は、積層方向に沿って第1界面から第2界面へ(上向きに)、第1界面におけるバックグラウンドレベルから徐々に増加し、ピーク値に達し、その後、徐々に減少し、第2界面におけるバックグラウンドレベルに達している。当該実施形態では、光吸収層13のp型不純物濃度の平均濃度は、1×10
16cm
−3である。
【0039】
第2界面又はその近傍でp型不純物濃度はピークを形成せず、第1半導体層12の内部、第2界面よりも下方(n型InP基板11側)において、p型不純物濃度はピークを形成する。よって、第2界面におけるp型不純物濃度と比較して、第1半導体層12は、より高いp型不純物濃度となる部分を含んでいる。p型不純物濃度のピークが第2界面より下方へ位置することにより、p型不純物が光吸収層13へ拡散してもなお、光吸収層13におけるp型不純物の濃度が抑制されている。
【0040】
以下、発明者らが得ている知見に基づき、本発明の原理について考察する。
【0041】
図4は、本発明にかかる不純物(ドーパント)の濃度プロファイルを示す概略図である。図の横軸は、第2半導体層14の途中から下方へ第1半導体層12の内部へ及ぶ位置を示しており、図の縦軸は、原子濃度である。本発明に係るn型不純物及びp型不純物(n型ドーパント及びp型ドーパント)の原子濃度プロファイルを、実線及び破線で、それぞれ示している。
図4は、本発明に係る半導体光素子のn型及びp型濃度に加えて、比較のために、従来技術に係る半導体光素子のn型及びp型濃度を示している。
【0042】
理解を容易にするために、従来技術に係る半導体光素子において、第1半導体層では、積層方向に沿って一定のn型不純物濃度となるよう設計し、積層されている。第2半導体層でも同様に、第3界面から少なくとも所定の高さまで一定のp型不純物濃度となるよう設計し、積層されている。素子作製後、Si等のn型不純物はほとんど拡散しないため、ほぼ設計通りの濃度プロファイルが得られる。これに対して、第2半導体層に添加(ドープ)されるp型不純物は、光吸収層へ拡散し、さらに、第1半導体層へも拡散する。前述の通り、p型不純物は第2界面付近に蓄積し、第2界面又はその近傍にp型不純物濃度はピークを形成する。光吸収層において、第2界面から上方へ、p型不純物濃度のピークの裾が広がるので、光吸収層のp型不純物濃度の上昇を招いている。
【0043】
第2界面又はその近傍に発生するp型不純物濃度のピークの起源について、発明者らが検討したところ、以下の知見を得ている。非特許文献1の記載によれば、p型不純物濃度のピークは、p型不純物とn型不純物との相互作用に起因するとされる。よって、
図4に示すp型不純物の濃度プロファイルにおけるピークは、マイナス(負)に帯電したアクセプター(受容)原子が拡散し、かかるアクセプター原子が、プラスに帯電したドナー(供与)原子と電気的に相互作用して蓄積することによるものと推測される。ここで、従来のn型半導体層のn型不純物のドーピング濃度は、素子に広く使用されている1×10
18cm
−3以上としている。
【0044】
これに対して、
図4に示す本発明の一例に係る半導体光素子では、第1半導体層12におけるn型不純物の濃度プロファイルは、積層方向に沿って第1界面から第2界面へ階段状に減少している。p型不純物とn型不純物との相互作用によるp型不純物濃度のピークは、第2界面付近には形成されず、第1半導体層12の内部であって、第2界面よりも下方に(InP基板側に)形成される。p型不純物濃度のピークの裾が上方へ広がるが、光吸収層におけるp型不純物濃度を、従来技術に係る半導体光素子と比べて低減することが可能となる。光吸収層はi層(アンドープ層)であり、i層のキャリア濃度は、通常1×10
16cm
−3以下のn型である。素子作製後のi層の不純物濃度の観点で言えば、光吸収層は、n型不純物が低濃度に添加(ドープ)されたと、広義に解釈し得る。
【0045】
図4に示す本発明の一例に係る半導体光素子では、第1半導体層12におけるn型不純物の濃度プロファイルは、3段階となっており、3段階の不純物濃度を、第2界面から第1界面へかけて、それぞれ第1濃度、第2濃度、及び第3濃度とする。第1濃度及び第2濃度は十分に低いため、拡散してきたp型不純物と第1濃度/第2濃度のn型不純物との相互作用が小さい。それゆえ、第2界面と、第1濃度から第2濃度に急峻に変化する位置には、p型不純物濃度はピークを形成しない。これに対して、第3濃度は十分に高く、p型不純物と第3濃度のn型不純物との相互作用が大きい。それゆえ、第2濃度から第3濃度に急峻に変化する位置又はその近傍に、p型不純物濃度はピークを形成する。
【0046】
引用文献1では、光吸収層の上部に配置されるp型半導体層に不純物拡散防止層を設け、p型半導体層に添加(ドープ)されるp型不純物の光吸収層へ拡散自体を抑制している。よって、光吸収層とn型半導体層との界面やn型半導体層の内部におけるp型不純物の濃度は低減されており、本発明の問題が発生しにくい構造となっている。これに対して、本発明に係る半導体光素子では、第1半導体層に含まれるp型不純物が、光吸収層及び第1半導体層へ拡散することを許容しつつ、p型不純物濃度のピークを第2界面より第1半導体層の内部へ(InP基板側へ)移動させることにより、光吸収層におけるp型不純物濃度の上昇を抑制しており、従来技術とは技術的思想が全く異なっている。
【0047】
特許文献2乃至5に、n型半導体層において、活性層に近接した部分のn型不純物濃度を低減させる構造を有するGaAs系の半導体レーザが開示されている。特許文献2乃至5のいずれも、n型半導体層のうち、活性層に近い側のn型不純物濃度を低減させることにより、活性層と高濃度のn型半導体層(n型ドープ層)とが隣接していた場合に生じる問題を解決するためのものである。特許文献2では、高濃度にn型不純物が添加されるとき、AlGaInP層が結晶的に劣化することが問題であった。特許文献3では、高濃度に添加(ドープ)されるp型クラッド層、及びn型クラッド層から、活性層内へp型、又はn型不純物が拡散することが問題であった。特許文献4及び5では、高濃度のn型半導体層に添加されるn型不純物自体の拡散が問題であった。特許文献2乃至5のいずれにも、第2半導体層に添加されるp型不純物が、第1半導体層において高濃度に添加されるn型不純物と相互作用してトラップされることにより、光吸収層の不純物濃度が上昇するとの本発明の課題について記載はなく、特許文献2乃至5のいずれに記載の課題は、本発明の課題とは全く異なっており、特許文献2乃至5に開示されるGaAs系の半導体レーザでは、光吸収層とn型半導体層との界面やn型半導体層の内部におけるp型不純物の濃度は低減されており、本発明の問題が発生しにくいものと考えられる。引用文献1と同様に、引用文献2乃至5のいずれに記載のGaAs系の半導体レーザは、そもそも光吸収層を有しておらず、本発明とは全く異なる構造を有している。以上、本発明の原理について説明した。
【0048】
以下に、当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の製造方法について記述する。当該実施形態において、半導体層の成長方法として、有機金属気相成長(MOVPE:Metal-organic vapor phase epitaxy)法を用いる。ここで、キャリアガスとして、水素を用いる。III族元素の原料は、トリエチルガリウム(TEG)、トリメチルインジウム(TMI)を用いる。V族元素の原料には、アルシン(AsH
3)とフォスフィン(PH
3)を用いる。また、n型不純物(ドーパント)の原料には、ジシラン(Si
2H
6)を、p型不純物(ドーパント)の原料には、ジメチル亜鉛(DMZn)を用いている。埋め込み層に添加する鉄(Fe)の有機金属の原料として、フェロセンを用いる。なお、結晶成長法は、MOVPE法のみに限定されるものではなく、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、化学ビーム成長(CBE:Chemical Beam Epitaxy)法、有機金属分子線エピタキシー(MOMBE:Metal-organic Molecular Beam Epitaxy)法などの手法においても、半導体光変調器集積レーザ1の半導体構造を作製できる場合は、適当な方法を採用することが出来る。また、III族、V族、不純物(ドーパント)、その他の原料についても、上記のものに限定されることはなく、広く適用することが出来る。
【0049】
n型InP基板11の上面に、第1半導体層12を積層し(第1半導体層積層工程)、続いて、第1半導体層12の上面に、光吸収層13を積層する(光吸収層積層工程)。実際には、n型InP基板11の上面に、n型InPクラッド層101と、n型光ガイド層102と、多重量子井戸層103と、p型光ガイド層106と、p型InPキャップ層と、を積層する。なお、多重量子井戸層103の最下層の障壁層105の積層は、第1半導体層積層工程に含まれ、最上層の障壁層105の積層は、後述する第2半導体層積層工程に含まれる。p型InPキャップ層は、積層した半導体層を保護するために形成される。第1半導体層積層工程において、所望の濃度ファイルとなるよう、n型不純物の原料であるジシラン(Si
2H
6)を流量を調整する。前述の通り、n型光ガイド層102は、高濃度n型InGaAsP光ガイド層と低濃度n型InGaAsP光ガイド層とからなる。n型光ガイド層102を形成する工程において、InGaAsP系半導体層を形成する4元素の原料ガスの流量の割合を一定とし、n型不純物の原料ガスの流量を(高濃度に添加するための)第1の値から(低濃度に添加するための)第2の値に急峻に変化させている。なお、多重量子井戸層103の最下層の障壁層105には、n型不純物を添加していない。
【0050】
ウエハの所望の場所(光変調器部2となる領域)にマスクパターンを形成し、これをエッチングマスクとして、レーザ部3及び光導波路部4となる領域にある、p型InPキャップ層と、p型光ガイド層106と、多重量子井戸層103と、を除去する。次に、ウエハを成長炉内に導入し、レーザ部多重量子井戸層21と、p型InGaAsP光ガイド層と、回折格子層22と、p型InPキャップ層と、をバットジョイント(BJ:Butt-joint)再成長する。なお、レーザ部多重量子井戸層21は、InGaAsP系半導体層である。なお、本工程にて、レーザ部3及び光導波路部4となる領域において、さらにn型光ガイド層102を除去したり、さらにn型光ガイド層102とn型InPクラッド層101とを除去したりしても構わない。その際は、必要に応じてレーザ部3となる領域にあるn型クラッド層やn型光ガイド層をレーザ部多重量子井戸層21の下部に成長させればよい。
【0051】
さらに、先のマスクパターンを除去した後、光変調器部2となる領域とレーザ部3となる領域とに再度BJマスクを形成し、エッチングにより光導波路部4となる領域にあるp型InPキャップ層と、回折格子層22と、p型InGaAsP光ガイド層と、レーザ部多重量子井戸層21と、を除去する。
【0052】
次に、光導波路部4となる領域に、InGaAsPからなる導波路層20と、p型InGaAsP光ガイド層と、p型InPキャップ層と、をBJ再成長する。ここでは、光変調器部2及びレーザ部3の2箇所と同時にBJ接続している。なお、本工程にて、光導波路部4となる領域において、さらにn型光ガイド層102を除去したり、さらにn型光ガイド層102とn型InPクラッド層101とを除去したりしても構わない。その際は、必要に応じて光導波路部4となる領域にあるn型クラッド層やn型光ガイド層を導波路層20の下部に成長させればよい。
【0053】
ウエハを成長炉から取り出した後マスクを除去し、回折格子層22を所望の波長が得られるようにエッチングをして回折格子を形成する。その後、ウエハを炉体内に導入し、ウエハ全面に、亜鉛(Zn)が添加(ドープ)されるp型InPクラッド層、p型コンタクト層とを、順に形成する(第2半導体層積層工程)。なお、p型コンタクト層は、p型不純物としてZnが添加されるInGaAs系半導体層である。光変調器部2となる領域において、p型InPクラッド層はp型InPクラッド層107であり、p型コンタクト層はp型InGaAsコンタクト層15である。また、レーザ部において、p型コンタクト層はレーザ部p型コンタクト層24である。
【0054】
以上説明した半導体多層構造に、メサストライプマスクを形成し、エッチングによりメサストライプ構造以外の部分を除去した後、適切な前処理を行い、FeドープInP埋め込み層26にて埋めこみ成長を行う。なお、出射光の反射による戻り光を防ぐため、光変調器部2側の光の出射端は、FeドープInP層により埋め込まれており、いわゆる窓構造となっている。光導波路部4となる領域にあるp型コンタクト層を除去し、光変調器部2とレーザ部3とを素子分離した後、通常の素子作製方法を用いてパッシベーション膜16を全面に形成し、メサストライプ構造の上面に形成されるパッシベーション膜16のうち、光変調器部2の上部電極17となる領域やレーザ部3のレーザ部上部電極25となる領域とに重なる部分を除去する。そして、光変調器部2の上部電極17、レーザ部3のレーザ部上部電極25、及び下部電極18などの形成を施し、素子として完成する。このようにして作製した当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1は、25G動作時の変調特性が良好であり、消光カーブも急峻であった。以上、当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の製造方法について説明した。
【0055】
なお、ここでは半導体光変調器集積レーザ1は、メサストライプ構造の両脇を半絶縁性の埋め込み半導体層で埋め込むBH構造を有しているが、これに限定されることはない。当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1が、埋め込み行程を行わないリッジ構造を有していても、当該実施形態に係る効果は得られる。また、当該実施形態では、多重量子井戸層103の上に、p型半導体層(p型光ガイド層106)が直接積層されているが、これに限定されることもない。例えば、多重量子井戸層103の上に、低濃度のp型半導体層が積層されてもよいし、p型半導体層と多重量子井戸層103との間にアンドープの半導体層を配置してもよい。
【0056】
近年のインターネット人口の爆発的増大により、情報伝送の急速な高速化および大容量化が求められており、今後も光通信が重要な役割を果たすと考えられる。光通信に用いられる光源には、主として半導体レーザ素子が用いられている。伝送距離10km程度までの短距離用途向けには、半導体レーザを直接電気信号で駆動する直接変調方式が用いられている。一方、伝送距離10kmを超えるような長距離の光通信向けには、半導体レーザを直接変調することのみでは対応できないため、連続発振させた半導体レーザと光変調器を集積した半導体光変調器集積レーザが用いられおり、かかるレーザに当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1は最適である。
【0057】
光変調器部2では、素子に逆バイアスを印加して、レーザ部3で発生する光を光吸収層13で吸収することで光信号の変調を行っている。多重量子井戸のp型不純物濃度が低いために、多重量子井戸の各層に印可される電界強度が均一となり、光吸収層13で発生したキャリアを高速で排出し、高速動作をすることが出来ている。
【0058】
[第2の実施形態]
図5は、本発明の第2の実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の光変調器部2の構造を示す図である。当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の光変調器部2は、第1半導体層12、及び第2半導体層14の構造が第1の実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1と異なっているが、それ以外については、第1の実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1と同じ構造をしている。
【0059】
第1の実施形態及び第2の実施形態においてともに、多重量子井戸層103は、井戸層104と、障壁層105と、が交互に重ねて繰り返されている。第1の実施形態に係る多重量子井戸層103では、2以上の井戸層104のうち最下層となる井戸層104のさらに下側に障壁層105が配置されるのに対して、第2の実施形態に係る多重量子井戸層103では、最下層となる井戸層104が多重量子井戸層103の最下層であり、最下層となる井戸層104の下側に障壁層105が配置されていない。よって、当該実施形態に係る第1半導体層12は、第1の実施形態と異なり、最下層の障壁層105を含んでいない。第1半導体層12と光吸収層13との界面である第2界面は、n型光ガイド層102(第1半導体層12側)と、多重量子井戸層103における最下層となる井戸層104と、の界面である。さらに、後述する通り、第1半導体層12のn型不純物濃度の分布が第1の実施形態と異なっている。
【0060】
第1半導体層12は、n型InP基板11側から、(高濃度)n型InPクラッド層101(n型濃度1×10
18cm
−3、膜厚100nm)と、n型光ガイド層102と、によって構成されるが、n型光ガイド層102は、低濃度n型InGaAsP光ガイド層(n型濃度3×10
17cm
−3、膜厚100nm)と、アンドープのInGaAsP光ガイド層(n型濃度1×10
15cm
−3、膜厚100nm)で構成される。
【0061】
当該実施形態に係る第2半導体層14に添加(ドープ)されるp型不純物(ドーパント)はマグネシウム(Mg)である点が、第1の実施形態と異なっているが、第2半導体層14のそれ以外の構造は第1の実施形態と同じである。なお、p型不純物の原料として、シクロペンタジエニルマグネシウム(Cp
2Mg)を用いている。
【0062】
図6は、当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の光変調器部2のバンド及び原子濃度を示す概略図である。
図6の横軸及び縦軸は、
図3と同様である。
図6の上図に示す通り、第1半導体層12において、下方から上方にかけて、バンドエネルギーは段階的に低くなっている。しかし、n型InPクラッド層101の膜厚が100nmで、n型光ガイド層102の膜厚が200nmなので、バンドエネルギーが段階的に低下する箇所が、第1実施形態と異なっている。
【0063】
第1の実施形態と同様に、当該実施形態において、n型不純物濃度は、積層方向に沿って第1界面から第2界面へ(上向きに)、単調減少又は等しく変化しており、特に、当該実施形態では、第1半導体層12において階段状に減少している。よって、当該実施形態は、第1半導体層12の少なくとも一部において、階段状に減少する場合となっている。第1の実施形態と同様に、当該実施形態に係る第1半導体層12のように、第1界面から第2界面に亘って、階段状に減少するのがさらに望ましい。
図6の下図に示す通り、n型不純物(ドーパント)の濃度プロファイルは、n型InP基板11のn型濃度が最も高く、第1半導体層12において、n型InPクラッド層101がそれより低く、低濃度n型InGaAsP光ガイド層がn型InPクラッド層101よりさらに低く、アンドープInGaAsP光ガイド層が低濃度n型InGaAsP光ガイド層がさらに低くなっており、バックグラウンドレベルとなっている。そして、光吸収層13はでは、同じくバックグラウンドレベルとなっている。すなわち、第2半導体層12において、n型不純物の濃度プロファイルは、第1界面から第2界面へかけて3段階の階段状となっている。
【0064】
これに対して、第1半導体層12におけるn型不純物濃度のプロファイルに応じて、
図6の下図に示す通り、p型不純物の濃度プロファイルは、第1半導体層12において、n型InPクラッド層101とn型光ガイド層102(低濃度n型InGaAsP光ガイド層)の界面又はその近傍で、ピークを有している。すなわち、第1半導体層12において、p型不純物の濃度プロファイルは、第1半導体層12の内部であって、第2界面よりも下方に(InP基板側に)ピークを形成する。かかるピークが出現する当該界面よりも上方には、n型不純物濃度が急峻に変化する、低濃度n型InGaAsP光ガイド層とアンドープInGaAsP光ガイド層との界面が存在する。かかる界面の上下はともにInGaAsP半導体層であり、半導体層を構成する多元素は一致している。連続する工程でn型不純物の原料ガスの流量のみを変化して積層しているので、界面の上下で、エネルギーバンドは一定であり、組成や波長組成がともに同一である。
【0065】
当該実施形態に係る光変調器部2においても、n型InP基板11に存在するp型不純物濃度のピークの裾が上方へ広がるが、p型不純物濃度のピークが第2界面よりも下方に位置することにより、光吸収層13におけるp型不純物濃度を大幅に低減でき、その平均濃度は、1×10
16cm
−3である。当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1は、25G動作時の変調波形の改善が実現している。
【0066】
[第3の実施形態]
第1及び第2の実施形態に係る光変調器部2の多重量子井戸層103はInGaAsP系半導体層によって構成され、多重量子井戸層103の上下にそれぞれ配置されるp型光ガイド層106及びn型光ガイド層102も、InGaAsP系半導体層によって構成される。これに対して、本発明の第3の実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の光変調器部2の多重量子井戸層103の井戸層104及び障壁層105は、ともにInGaAlAs系半導体層によって構成され、多重量子井戸層103の上下にそれぞれ配置されるp型光ガイド層106及びn型光ガイド層102も、InGaAlAs系半導体層である。すなわち、当該実施形態にかかる光変調器部2の第1半導体層12、光吸収層13、及び第2半導体層14それぞれの少なくとも一部の構造が、第1及び第2の実施形態とは異なる材料系半導体によって実現されている。さらに、第1半導体層12におけるn型不純物の濃度プロファイルが後述する通り、第1及び第2の実施形態と異なっている。それ以外については、当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の光変調器部2と同じ構造をしている。
【0067】
当該実施形態に係る光変調器部2の構造は、
図2に示す第1の実施形態に係る光変調器部2の構造に対応しており、n型InP基板11上に、n型InPクラッド層101(n型濃度1.5×10
18cm
−3、膜厚50nm)と、n型光ガイド層102(膜厚200nm)と、多重量子井戸層103と、p型光ガイド層106と、p型InPクラッド層107と、p型InGaAsコンタクト層15と、が順に接して配置される。なお、多重量子井戸層103における最下層の障壁層105はアンドープであり、膜厚が10nmである。なお、InGaAlAs系半導体層の積層には、Alの有機金属原料として、トリメチルアルミニウム(TMA)を用いている。
【0068】
図7は、当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1の光変調器部2のバンド及び原子濃度を示す概略図である。
図7の横軸及び縦軸は、
図3及び
図6と同様である。
図7の上図に示す通り、バンドエネルギーは、構成する材料が異なることによる違いを除いて、
図3の上図に示す第1の実施形態と同様である。
【0069】
第1及び第2の実施形態と同様に、当該実施形態において、n型不純物濃度は、積層方向に沿って第1界面から第2界面へ(上向きに)、単調減少又は等しく変化している。しかしながら、当該実施形態では、第1半導体層12において、第1半導体層12(n型光ガイド層102)の途中から連続的に(傾斜的に)減少し、バックグラウンドレベルに達し、その後、バックグランドレベルを維持して第2界面に至っている。よって、第1半導体層12の少なくとも一部において、n型不純物濃度は、積層方向に沿って前記第1界面から前記第2界面へ、連続的に単調減少する場合となっている。なお、当該実施形態では、第1半導体層12の一部において、n型InP基板11のn型不純物濃度と同程度の高濃度からバックグランドレベルに連続的に変化している。p型不純物濃度のピークをより下方へ位置させるという観点では、第1半導体層12の第2界面におけるn型不純物が意図的に添加されていない濃度であるのが望ましく、当該実施形態では、アンドープの障壁層105が配置されている。第1半導体層12におけるn型不純物のかかる濃度ファイルは、n型光ガイド層102を形成する際に、n型不純物の原料であるジシラン(Si
2H
6)の流量を調整することにより、n型不純物濃度を下方から上方へ1.5×10
18cm
−3から1×10
16cm
−3へ連続的に変化させることが出来る。
【0070】
これに対して、第1半導体層12におけるn型不純物濃度のプロファイルに応じて、
図7の下図に示す通り、p型不純物の濃度プロファイルは、第1半導体層12において、n型光ガイド層102の内部の位置にピークを有している。すなわち、第1半導体層12において、p型不純物の濃度プロファイルは、第1半導体層12の内部であって、第2界面よりも下方に(InP基板側に)にピークを形成する。
【0071】
n型光ガイド層102において、かかるピークよりも上方には、n型不純物濃度が連続的に減少している。かかる部分はInGaAlAs系半導体層であり、半導体層を構成する多元素は一致している。連続する工程でn型不純物の原料ガスの流量のみを変化して積層しているので、かかる部分のエネルギーバンドは一定であり、かかる部分における組成や波長組成がともに同一である。
【0072】
当該実施形態に係る光変調器部2においても、n型InP基板11に存在するp型不純物濃度のピークの裾が上方へ広がるが、光吸収層13におけるp型不純物濃度を大幅に低減できており、その平均濃度は、8×10
15cm
−3である。当該実施形態に係る半導体光変調器集積レーザ1は、10G動作時の変調特性が良好であり、消光カーブも急峻である。
【0073】
以上、本発明に係る半導体光素子として、半導体光変調器集積レーザについて説明したが、これに限定されることはない。以下に、本発明に係る半導体光素子が、受光素子として機能する場合について説明する。
【0074】
[第4の実施形態]
図8は、本発明の第4の実施形態に係るPINホトダイオード50の断面図である。鉄(Fe)が添加(ドープ)される半絶縁性InP基板51の上に、n型InPコンタクト層52(n型濃度1×10
18cm
−3、膜厚100nm)と、n型InGaAlAsクラッド層53と、アンドープInGaAs光吸収層54(800nm)、p型InGaAlAsクラッド層55(p型濃度1×10
18cm
−3、膜厚100nm)、p型InGaAsコンタクト層56と、が順に接して積層される。かかる半導体多層構造は、円錐台形状に外側が除去されている。かかる半導体多層構造の上面には、パッシベーション膜57が形成されるとともに、所定の形状にスルーホールが設けられ、スルーホールを通して、p型電極61がp型InGaAsコンタクト層56と、n型電極62がn型InPコンタクト層52と、それぞれ電気的に接続されている。ここで、第1半導体層は、n型InPコンタクト層52と、n型InGaAlAsクラッド層53と、によって構成され、第2半導体層はp型InGaAlAsクラッド層55によって構成される。第1半導体層(n型InGaAlAsクラッド層53)に添加されるn型不純物が以下に示す例による濃度プロファイルの分布をとることにより、当該実施形態に係るPINホトダイオード50においても、第1乃至第3の実施形態と同様に、第1半導体層において、p型不純物の濃度プロファイルは、第1半導体層の内部であって、第2界面よりも下方に(InP基板側に)形成される。
【0075】
n型InGaAlAsクラッド層53は、n型濃度が異なる複数の層によって構成されている。第1の例において、n型InGaAlAsクラッド層53は、下方から上方へ、高濃度n型InGaAlAsクラッド層(n型濃度1×10
18cm
−3、膜厚70nm)と、アンドープInGaAlAsクラッド層(膜厚30nm)とが、下方から上方へ重ねて配置される多層である。第2の例において、n型InGaAlAsクラッド層53は、下方から上方へ、高濃度n型InGaAlAsクラッド層(n型濃度1×10
18cm
−3、膜厚50nm)と、低濃度InGaAlAsクラッド層(n型濃度1×10
16cm
−3、膜厚30nm)とが、下方から上方へ重ねて配置される多層である。
【0076】
当該実施形態においても、第1半導体層(n型InGaAlAsクラッド層53)において、p型不純物の濃度プロファイルは、第1半導体層の内部であって、第2界面よりも下方に(InP基板側に)形成される。p型不純物濃度のピークの裾が上方へ広がるが、光吸収層(アンドープInGaAs光吸収層54)におけるp型不純物濃度を低減できている。
【0077】
以上、本発明の実施形態に係る半導体光素子、及びその製造方法について説明した。本発明は、上記実施形態に限定されることなく、広く適用できることは言うまでもない。EA変調器に限定されず、他の変調器であってもよいし、PINホトダイオードに限定されず、他のホトダイオードであっても、さらに他の受光素子であってもよい。以下、本発明に係る半導体光素子において望ましい構造について考察する。
【0078】
上記実施形態では、第2半導体層に添加されるp型不純物として、ZnとMgを示したが、これに限定されることはなく、ベリリウム(Be)であってもよい。第2半導体層に添加されるp型不純物は、Be,Mg,Znからなる群より選択される1又は複数であるのが望ましい。第1半導体層におけるp型不純物は、第2半導体層に添加されるp型不純物と同一である。
【0079】
第1半導体層において、n型不純物濃度が第1界面側から第2界面側へ変化する部分について考察する。n型不純物濃度が階段状に減少する場合、当該階段状に減少する1又は複数の部分のうち、少なくとも1つの部分は、ヘテロ界面が出現しないのが望ましい。かかる部分の前後において、半導体層を構成する多元素が同一であるのが望ましい。多元素の組成(各元素の割合)が実質的に同一であるのがさらに望ましい。組成波長が実質的に同一であるのがさらに望ましい。かかる部分を形成する工程において、半導体層を構成する多元素の原料ガスの流量の割合を一定とし、n型不純物の原料ガスの流量を急峻に変化することで、かかる部分を形成することができる。
【0080】
n型不純物濃度が連続的に単調減少する場合、かかる部分には、ヘテロ界面が出現しないのが望ましい。よって、かかる部分において、半導体層を構成する多元素が同一であるのが望ましい。多元素の組成が実質的に同一であるのがさらに望ましい。組成波長が実質的に同一であるのがさらに望ましい。かかる部分を形成する工程において、半導体層を構成する多元素の原料ガスの流量の割合を一定とし、n型不純物の原料ガスの流量を急峻に変化することで、かかる部分を形成することができる。
【0081】
発明者らが詳細に検討の結果、n型不純物とp型不純物との相互作用は、n型濃度が1×10
18cm
−3と同等かそれ以上になると、強くなる傾向があるとの知見を得ている。よって、第1半導体層の第1界面におけるn型不純物濃度は1×10
18cm
−3以上が望ましい。第1半導体層のn型不純物濃度は、第1界面から第2界面へ単調減少又は等しく変化するので、第1半導体層の第2界面におけるn型不純物濃度は1×10
18cm
−3未満が望ましく、5×10
17cm
−3以下がさらに望ましい。
【0082】
第1半導体層において、n型不純物とp型不純物との相互作用が強くなるn型不純物濃度(以下、臨界濃度とする)と比べて十分に低いn型不純物領域や、より高いn型不純物領域に、ヘテロ界面が存在していてもp型濃度プロファイルへ与える影響は小さい。なお、ここで「十分に低い」とは臨界濃度の50%以下が望ましい。しかしながら、臨界濃度又はそれ以下であっても近傍のn型不純物領域において、ヘテロ界面が存在していると、p型不純物がかかる界面にトラップされやすくなり、第1半導体層におけるp型不純物がピークを形成する位置がより上方(第2界面側)となり得る。それゆえ、かかる領域において、ヘテロ界面が出現しないように、半導体層を構成する多元素の原料ガスの流量の割合を一定とし、n型不純物の原料ガスの流量を変化させて、半導体層を積層させるのが望ましい。第2の実施形態において、n型InGaAsP光ガイド層102における低濃度n型InGaAsP光ガイド層とアンドープInGaAsP光ガイド層との界面がこれに該当し、ヘテロ界面とはなっていない。また、第3の実施形態において、n型InGaAlAs光ガイド層におけるn型不純物濃度が連続的に変化する部分がこれに該当し、かかる部分にヘテロ界面は出現していない。これらの構造は、出現するp型不純物濃度のピークをより下方へ位置することに寄与している。
【0083】
第1半導体層のうち、積層方向に沿って第2界面から下方へ30nm以上の領域は、n型不純物を意図的に添加しない(アンドープ)又は臨界濃度に比べて十分に低いのが望ましい。ここで、「十分に低い」とは臨界濃度の50%以下が望ましい。第1半導体層のうち、積層方向に沿って第2界面から下方へ30nm以上の領域は、5×10
17cm
−3以下がさらに望ましい。第1半導体層のうち、積層方向に沿って第2界面から下方へ30nm以上の領域は、アンドープであるのがさらに望ましい。
【0084】
かかる領域が長くなれば、p型不純物のピークを第2界面より下方に出現させることが出来るが、素子特性に影響を及ぼすことになる。それゆえ、素子特性の劣化抑制のために、第1半導体層内の素子抵抗を1Ω以下に低減することが望ましい。かかる領域における平均抵抗率をρn、素子長さをL、素子のメサ幅wとするとき、かかる領域の上限膜厚tは、t=(w・L)/ρnで求まる値以下であるのが望ましい。典型的な半導体光素子において、上限膜厚tは500nm程度である。以上、本発明に係る半導体光素子の望ましい構造について考察している。