(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
骨格となるクッション側フレームを有するシートクッションに対して同じく骨格となるバック側フレームを有するシートバックを傾動変位可能に支持する車両用シートのリクライニング装置であって、
上記クッション側フレームおよびバック側フレームのうちいずれか一方のフレームに固定されて内歯を有する第1部材と、
上記クッション側フレームおよびバック側フレームのうち他方のフレームに固定され、上記第1部材の内歯と噛み合いつつ当該内歯よりも歯数が少ない外歯を有する外歯車状の第2部材と、
上記第1部材の中心部に同軸状に且つ回転可能に挿入支持されて、その回転操作により第1部材および第2部材のうちいずれか一方の部材を他方の部材の軸心周りに公転させる駆動部材と、
上記第1部材と第2部材との間に介装されて、当該両部材同士の相対回転のロックおよびアンロックを司るロック部材と、
上記ロック部材をロック方向に付勢する付勢部材と、
上記駆動部材の回転操作と協働する中間部材と、
上記第2部材と重合配置されて当該第2部材との間に少なくとも上記付勢部材を収容しているカバー部材と、
を備えていて、
上記カバー部材が重合配置される第2部材の外側面にカバー部材側に向かって突出する突起部が第2部材の同心円上に複数個形成されていて、
それらの複数の突起部の内周側にカバー部材が凹凸嵌合をもって圧入固定されているとともに、
上記複数の突起部の外周側に、第2部材が固定されることなる他方のフレーム側の取付穴が嵌め合わされ、
上記複数の突起部の内周側とカバー部材との凹凸嵌合がセレーション嵌合であることを特徴とする車両用シートリクライニング装置。
上記他方のフレーム側の取付穴の内周には、隣接する突起部同士の間に嵌り込んでカバー部材の外周面に少なくとも近接する係合部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両用シートリクライニング装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された車両用シートリクライニング装置では、内歯車の一側面において蓋部材を内側にして当該蓋部材と他方のフレームとが重ねて配置されているため、双方のフレーム同士のなす間隔(オフセット量)がとかく大きくなる傾向にある。そのため、双方のフレーム間に倒れが生じて車両用シートリクライニング装置にこじり力が作用し、車両用シートリクライニング装置の強度もしくは耐久性が低下するおそれがある。
【0008】
また、内歯車の一側面において蓋部材と他方のフレームとが重ねて配置されているが故に、関節部を含む双方のフレーム同士のなす間隔が大きくなり、車室内の他の構造物との関係においてレイアウト的な制約を受けたり与えたりすることになって好ましくない。
【0009】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、従来の構造のように蓋部材と他方のフレームとを重ねて配置することなしに所期の機能を発揮できるようにし、もって車両用シートリクライニング装置の耐久性もしくは強度の向上を図りつつ、関節部を含む双方のフレーム同士のなす間隔を小さくすることが可能な車両用シートリクライニング装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、骨格となるクッション側フレームを有するシートクッションに対して同じく骨格となるバック側フレームを有するシートバックを傾動変位可能に支持する車両用シートのリクライニング装置であって、上記クッション側フレームおよびバック側フレームのうちいずれか一方のフレームに固定されて内歯を有する第1部材と、上記クッション側フレームおよびバック側フレームのうち他方のフレームに固定され、上記第1部材の内歯と噛み合いつつ当該内歯よりも歯数が少ない外歯を有する外歯車状の第2部材と、上記第1部材の中心部に同軸状に且つ回転可能に挿入支持されて、その回転操作により第1部材および第2部材のうちいずれか一方の部材を他方の部材の軸心周りに公転させる駆動部材と、上記第1部材と第2部材との間に介装されて、当該両部材同士の相対回転のロックおよびアンロックを司るロック部材と、上記ロック部材をロック方向に付勢する付勢部材と、上記駆動部材の回転操作と協働する中間部材と、上記第2部材と重合配置されて当該第2部材との間に少なくとも上記付勢部材を収容しているカバー部材と、を備えている。
【0011】
その上で、上記カバー部材が重合配置される第2部材の外側面にカバー部材側に向かって突出する突起部が第2部材の同心円上に複数個形成されていて、それらの複数の突起部の内周側にカバー部材が凹凸嵌合をもって圧入固定されているとともに、上記複数の突起部の外周側に、第2部材が固定されることなる他方のフレーム側の取付穴が嵌め合わされていることを特徴とするものである。
【0012】
より具体的には
、上記複数の突起の内周側とカバー部材との凹凸嵌合はセレーション嵌合とする。
【0013】
同様にして、請求項
2に記載のように、上記複数の突起部は周方向に長い円弧状のものであって、その円弧状の突起部の内周面のうち周方向の一部に予めセレーション部が形成されているものとする。
【0014】
また、他方のフレームと第2部材との結合をより強固なものにするためには、請求項
3に記載のように、上記他方のフレーム側の取付穴の内周には、隣接する突起部同士の間に嵌り込んでカバー部材の外周面に少なくとも近接する係合部が形成されていることが望ましい。
【0015】
さらに、第2部材に対するカバー部材の着座をより確実なものとするためには、請求項
4に記載のように、上記第2部材の外側面のうち複数の突起部の内周側に相当する位置には当該突起部の長手方向に沿って溝部が形成されていることが望ましい。
【0016】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、第2部材に形成された突起部の内周側にカバー部材が、外周側に他方のフレームがそれぞれ位置して、実質的にカバー部材と他方のフレームとが軸方向の同じ位置で径方向に並んで配置されるかたちとなるので、カバー部材と他方のフレームとを重ねて配置する必要はなくなる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、第2部材の外側面側に配置されるカバー部材と他方のフレームとを重ねて配置する必要がなくなるので、双方のフレーム同士の離間距離を小さくできる。そのため、車両用シートリクライニング装置に作用するこじり力を小さくして、車両用シートリクライニング装置の耐久性もしくは強度の向上に寄与することができる。
【0018】
また、双方のフレーム同士の離間距離が小さくなることで関節部を含む双方のフレーム同士のなす間隔を小さくしてその小型化を図ることができ、車室内の他の構造物との関係においてレイアウト的な制約を緩和することができる。
【0019】
請求項
3に記載の発明によれば、他方のフレーム側の取付穴の内周には、隣接する突起部同士の間に嵌り込んでカバー部材の外周面に少なくとも近接する係合部が形成されているため、他方のフレーム側の取付穴とカバー部材との間の隙間の発生を抑制して、異物の侵入を防止する上で有利となる。
【0020】
請求項
4に記載の発明によれば、第2部材の外側面のうち複数の突起部の内周側に相当する位置には当該突起部の長手方向に沿って溝部が形成されているため、カバー部材を圧入する際に突起部の根元部まで確実に圧入することができる。これにより、カバー部材の浮き上がりを未然に防止でき、カバー部材の着座位置精度が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜14は本発明に係る車両用シートリクライニング装置を実施するためのより具体的な形態を示していて、特に
図1は本発明に係る車両用シートリクライニング装置が適用される車両用シートの一例を示し、
図2は
図1に示した車両用シートの骨格となるフレームの要部を示している。
【0023】
図1に示す車両用シート1は、周知のように、乗員の座部となるシートクッション2と同じく背もたれ部として機能するシートバック3とからなり、シートクッション2の後部にシートバック3が傾動変位可能に支持されている。そして、シートクッション2に対するシートバック3の回転中心上にダイヤル4が設けられていて、このダイヤル4の回転操作によりシートクッション2に対するシートバック3の姿勢(角度)が調整可能となっている。なお、シートバック3の姿勢調整用のダイヤル4以外にも、シートクッション2には車両用シート1の前後位置調整のための操作レバー5aと、シートクッション2の前後の高さ位置調整のためのダイヤル5b,5cがそれぞれ設けられている。
【0024】
また、
図2に示すように、シートクッション2の骨格となるクッション側フレーム2aにはブラケット6が、シートバック3の骨格となる図示外のバック側フレームにはブラケット7がそれぞれ設けられている。そして、後述するように、これらの双方のブラケット6,7同士は関節部として機能することになるヒンジユニット8を介して相対回転可能に連結されている。なお、一方のブラケット6はクッション側フレーム2aの一部として、他方のブラケット7は図示外のバック側フレームの一部としてそれぞれ機能することになる。
【0025】
図3〜8はシートクッション2とシートバック3との関節部として機能することになるヒンジユニット8の詳細を示していて、
図3はその正面図を、
図4は
図3の左側面図を、
図5は
図3の右側面図をそれぞれ示している。また、
図6は
図4のA−A線に沿った断面図を、
図7は
図3に示したヒンジユニット8の分解斜視図をそれぞれ示している。なお、
図6では、
図3には図示されていない
図2の双方のブラケット6,7も図示している。
【0026】
図3〜6に示すように、ヒンジユニット8は全体として所定厚みの円盤状形状をなしている。このヒンジユニット8は、
図6,7に示すように、大きく分けて、内歯9aが形成された第1部材としての内歯車部材9と、内歯9aに噛み合う外歯10aが形成された第2部材としての外歯車部材10と、内歯車部材9と外歯車部材10との相対回転をロックするロック機構の構成要素とともに外歯車部材10の内側に配置される駆動部材としての回転軸11と、外歯車部材10に重ねて配置されるカバー部材としてのカバー12と、噛み合い状態とした内歯車部材9と外歯車部材10の双方に跨るように双方の歯車部材9,10の周縁部に嵌め合わされる連結環13と、から形成される。
【0027】
内歯車部材9は、
図6,7に示すように、中心部に外歯車部材10側に向かってボス部14が突出形成されているとともに、外周側に内歯9aが形成された円環プレート状のものであって、側面には外歯車部材10とは反対側に向かって突出する円弧状の三つの嵌合突起部9bが同心円上に等ピッチで形成されている。この嵌合突起部9bはいわゆる押し抜きによって成形されたものであるために、内歯車部材9のうち外歯車部材10と対向する面側には嵌合突起部9bに相当する位置に環状凹部9cが形成されている。同様に、内歯車部材9の内歯9aもいわゆる押し抜きによって成形されたものであるために、内歯9aの裏面側に当該内歯9aに相当する外歯状の歯形痕9d(
図5参照)が形成されている。
【0028】
外歯車部材10は、中心部にボス部14よりも十分に大きく且つカバー12側に向かって突出する環状フランジ部10bが形成された円環プレート状のものであって、環状フランジ部10bの内周が取付穴となっているとともに、側面のうち径方向の中間部には内歯車部材9側に向かって突出する外歯10aが形成されている。外歯10aの数は内歯9aのそれよりも例えば一枚少ない数となっている。この外歯10aは押し抜きによって成形されたものであるために、外歯車部材10の側面のうちカバー12と対向する部位には外歯10aに相当する位置に内歯状の歯形痕10d(
図7参照)が形成されている。また、外歯車部材10の側面のうち内歯状の歯形痕10dの外周側には、カバー12側に向かって突出する円弧状の三つの嵌合突起部10cが同心円上に等ピッチで形成されている。なお、三つの嵌合突起部10cもいわゆる押し抜きによって整形されたものであるために、各嵌合突起部10cの裏面側には当該嵌合突起部10cに対応する環状凹部10e(
図6参照)が形成されている。
【0029】
そして、内歯9aと外歯10aとが噛み合うように内歯車部材9と外歯車部材10とを重ね合わせるとともに、双方の歯車部材9,10の周縁部に連結環13を嵌め合わせた上で、その連結環13に例えばロール成形によるかしめ加工を施すことにより、双方の歯車部材9,10同士が相対回転可能に拘束される。その結果、内歯車部材9のボス部14は外歯車部材10における環状フランジ部10bの取付穴内に同心状に位置することになる。
【0030】
外歯車部材10における環状フランジ部10bの取付穴の内周には円環状のカラー15が嵌め合わされ、そのカラー15と内歯車部材9のボス部14との間にロック部材としての円弧状で且つくさび状の一対のロックピース16が左右対称に対向するように配置される。各ロックピース16の外周面は外歯車部材10側におけるカラー15の内周面に接触し、各ロックピース16の内周面はボス部14の外周面に接触することになる。また、各ロックピース16は
図7の下端部側から上端部側に向かって幅寸法が大きくなるように徐変していて、上端部にはそれぞれに切欠部16aが形成されている。
【0031】
カラー15内の一対のロックピース16の対向間隙内を通して駆動部材としての回転軸11が内歯車部材9のボス部14に回転可能に挿入支持される。回転軸11の中心部にはボス部14の内側に嵌り込む小径軸部11a(
図6参照)が形成されていて、その内周に
図1に示したダイヤル4側の図示外のスプライン軸部と凹凸嵌合するスプライン穴部11bが形成されている。さらに、回転軸11の一部には一対のロックピース16の下端部同士の間に嵌り込む異形軸部11c(
図6,7参照)が突出形成されているとともに、径方向外側に突出する一対のアーム部11dが形成されている。なお、この回転軸11も左右対称形状のものである。
【0032】
そして、先に述べたように、カラー15とボス部14との間に介在している一対のロックピース16は円弧状で且つくさび状のものであることから、これら一対のロックピース16と、ボス部14に挿入支持されている回転軸11とは、所定量だけ偏心していることになる。
【0033】
図6,7に示した一対のロックピース16と回転軸11との間には、中間部材としてばね鋼で形成された板ばね状のフックスプリング17が介装される。このフックスプリング17には、
図7に示すように、一対の内側押圧片17aと、一対の起立係止片17bと、ばね受け座を兼ねた一対の段付き係止片17cのほか、一対の比較的長いリーフ係止片17d(後述する
図10参照)とがそれぞれに折り曲げ形成されていて、全体として左右対称形状となっている。
【0034】
そして、フックスプリング17の正規組付状態では、後述する
図10に示すように、一対の内側押圧片17aがそれぞれのロックピース16に当接して当該ロックピース16を内歯車部材9に押し付ける役目をする一方、回転軸11側のアーム部11dが起立係止片17bにそれぞれ係止されることになる。また、根元部17eから折り曲げられた一対のリーフ係止片17dはその先端部が外歯車部材10側の環状フランジ部10bの外周に圧接することになる。
【0035】
さらに、
図7に示すように、フックスプリング17の上から付勢部材としてのロックスプリング18が重ねて配置される。このロックスプリング18はワイヤ状のばね鋼線材をほぼ円形に折り曲げて形成したいわゆる線細工ばねであり、最大直径部よりも内側に一対のフック部18aが折り曲げ形成されている。そして、後述する
図10に示すように、一対のフック部18aがフックスプリング17の穴部17fを通してそれぞれのロックピース16の切欠部16aに係止され、その上でカバー12によりロックスプリング18の位置および姿勢が規制される。そして、カラー15、ロックピース16、フックスプリング17およびロックスプリング18に回転軸11を加えたそれぞれの要素により、内歯車部材9と外歯車部材10との相対回転をロックするロック機構が形成されている。
【0036】
図7に示したカバー12は、中心部に軸穴12aが形成されているとともに、周縁部に外フランジ部12bが環状に形成されたいわゆる浅皿状のものであり、外フランジ部12bの外周面の直径は外歯車部材10側の三つの嵌合突起部10cの内周側に圧入し得る大きさに予め設定されている。そして、上記三つの嵌合突起部10cの内周側への圧入嵌合をもって外歯車部材10の側面に重ね合わせた上で、例えば各嵌合突起部10cと外フランジ部12bの双方にまたがるように溶接を施すことにより、カバー12が外歯車部材10の側面に不離一体に固定される。これにより、
図3,4に示すように、カバー12のおける軸穴12aの周縁部が回転軸11の側面に相対回転可能に当接するとともに、ロックスプリング18やフックスプリング17等がカバー12で覆われて隠蔽されている。なお、各嵌合突起部10cとカバー12側の外フランジ部12bとの位置関係の詳細については後述する。
【0037】
図4〜6に示すように、内歯車部材9の側面には三つの嵌合突起部9bが形成されていて、外歯車部材10の側面には同様に三つの嵌合突起部10cが形成されていることは先に述べた通りである。
【0038】
その一方、
図8に示すように、
図2に示したクッション側フレーム2a側のブラケット6には、
図4,7に示した外歯車部材10側の嵌合突起部10cの外周面に嵌り得る大きさの円形の取付穴6aが形成されている。また、その取付穴6aの内周面には外歯車部材10側の隣り合う嵌合突起部10c同士の間に嵌り込む係合部6bが三箇所に突出形成されている。そして、ブラケット6側の係合部6bを有する取付穴6aと外歯車部材10側の三つの嵌合突起部10cとの回転方向での位相を合わせつつ両者を凹凸嵌合させるべく嵌め合わせることで両者の相対回転が不能となる。その上で、例えば取付穴6aの内周面と三箇所の嵌合突起部10cの外周面の両者にまたがるように溶接を施すとともに、ブラケット6側の係合部6bとカバー12の外フランジ部12bの両者にまたがるように溶接を施すことで、ヒンジユニット8の外歯車部材10とクッション側フレーム2a側のブラケット6とが不離一体に連結固定されることになる。
【0039】
同様にして、
図9に示すように、バックフレーム側のブラケット7には、軸穴7aとともに、
図5,6に示した内歯車部材9側の三箇所の嵌合突起部9bに嵌り得る大きさの円弧状の三つの嵌合穴7bが同心円上に形成されている。そして、ブラケット7側の三つの嵌合穴7bと内歯車部材9側の三つの嵌合突起部9bとの回転方向での位相を合わせつつ両者を凹凸嵌合させるべく嵌め合わせることで両者の相対回転が不能となる。その上で、例えば三箇所の嵌合穴7bと嵌合突起部9bとの嵌合部位の両者にまたがるように溶接を施すことで、ヒンジユニット8の内歯車部材9とバックフレーム側のブラケット7とが不離一体に連結固定されることになる。
【0040】
このようなヒンジユニット8を主要素として形成された車両用リクライニングシートでは、
図1に示したダイヤル4を回転操作しない時には、
図10に示す中立状態であるところのロック状態を自己保持している。すなわち、
図10は
図6に示したヒンジユニット8のカバー12を取り外した拡大側面図を示している。同図に示すロック状態では、内歯車部材9のボス部14に嵌め合わされた回転軸11に対し、一対のくさび状のロックピース16の介在により外歯車部材10が所定量だけ偏心している。そのため、上記偏心量が最も大きくなる位置にて内歯車部材9の内歯9aに対し外歯車部材10の一部の外歯10aのみが噛み合っている。
【0041】
また、回転軸11側の一対のアーム部11dがフックスプリング17側の起立係止片17bにそれぞれ係合しているとともに、ロックスプリング18のばね力をもって双方のロックピース16の上端部同士を互いに離間させる方向にそれそれのロックピース16を付勢している。同時に、フックスプリング17における一対の段付き係止片17cの先端部が外歯車部材10における歯形痕10dのいずれかの歯形にそれぞれに係合する。
【0042】
そして、一対のロックピース16はそのくさび効果がより大きくなる方向にロックスプリング18にて付勢されているため、内歯車部材9と外歯車部材10との噛み合い状態を保ったままで、双方の歯車部材9,10同士が相対回転不能にロックされている。このロック状態は、
図1に示したダイヤル4を回転操作しないかぎり自己保持される。
【0043】
その一方、
図1に示したシートクッション2に対するシートバック3の角度を調整するべくダイヤル4を回転操作し、そのダイヤル4とスプライン結合されている
図10の回転軸11が例えば矢印a方向に回転すると、回転軸11側の一方のアーム部(
図10の右側のアーム部)11dがそれに係合している起立係止片17bを介してフックスプリング17を矢印a方向に回転させる。このフックスプリング17のa方向の回転に伴い、フックスプリング17を下方に押し下げて一対の段付き係止片17cの先端部が歯形痕10dから外れる。そして、回転軸11における異形軸部11cの一方の端部(
図10の左側の端部)が一方(左側)のロックピース16に当接してこれを押し上げることでアンロック状態となる。
【0044】
回転軸11の回転に伴い、
図2に示したクッション側フレーム2aに固定されている外歯車部材10に対して、当該外歯車部材10との噛み合い状態を維持しつつ、その噛み合い位置が順次移動するかたちで、内歯車部材9が回転軸11の回転方向は逆方向に公転するかたちなる。これにより、
図1に示したシートクッション2に対するシートバック3の角度(姿勢)が変化することになる。
【0045】
すなわち、互いに噛み合っている内歯車部材9と外歯車部材10とでは、先に述べたように、内歯車部材9の内歯の数は外歯車部材10の外歯の数よりも多いので、外歯車部材10の周りを内歯車部材9が一回転公転したときに初めて双方の歯車部材9,10同士の歯数差分だけ内歯車部材9、ひいてはその内歯車部材9に固定されている
図2のブラケット7を有するシートバック3が回転軸11の回転方向とは逆方向に回転(傾動変位)したことになる。これはいわゆる不思議歯車機構を用いた減速機と同じ原理で、ダイヤル4の回転量に対して大きな減速比で内歯車部材9が逆方向に回転することを意味している。
【0046】
そして、
図1に示したダイヤル4への回転操作力を解除すると、直ちに
図10のロック状態に移行することなる。なお、先の説明から明らかなように、ダイヤル4の回転操作量の割にはシートバック3の傾動変位量は小さいので、多くの場合にはダイヤル4を握り直しながらその回転操作を複数回繰り返すものとする。また、ダイヤル4、ひいてはそのダイヤル4とスプライン結合されている回転軸11を上記とは逆方向に回転操作した場合には、内歯車部材9と外歯車部材10との相対回転方向が逆になるだけで、基本的な挙動は上記の場合と全く同様である。
【0047】
ここで、
図6,7に示したように、外歯車部材10の側面において三箇所の嵌合突起部10cの内周側にカバー12の外フランジ部12bを圧入した上で、溶接によりカバー12を外歯車部材10に固定してあることは先に述べた通りである。
【0049】
カバー12の圧入に際して、本実施の形態では単なる圧入ではなく、
図11〜14に示すように、外歯車部材10における各嵌合突起部10cの内周面のうち長手方向の中間部分に凹凸部としてセレーション部(雌セレーション部)19を予め形成してある。このセレーション部19の歯形の先端部は、
図13に示すように、嵌合突起部10cの内周面よりもわずかに内周側に突出している。ただし、
図13では、わかりやすくするためにセレーション部19の歯形の突出量を誇張して描いている。また、外歯車部材10の側面のうち各嵌合突起部10cの内側根元部に相当する位置に、当該外歯車部材10の側面よりも一段低い溝部としての凹溝20を嵌合突起部10cと同等の長さにわたって形成してある。これらのセレーション部19および凹溝20は、
図12,14に示すように、例えば外歯車部材10における環状凹部10eでの押し抜きによって嵌合突起部10cを突出形成する際に、同時に印圧成形される。さらに、三箇所の嵌合突起部10cの内側に配置されるカバー12の外フランジ部12bの外径は、各嵌合突起部10cのうちセレーション部19以外の部分では容易に嵌り得る大きさに予め設定されている。
【0050】
したがって、三箇所に嵌合突起部10cが形成された外歯車部材10の側面にカバー12を重ね合わせるようにして圧入するにあたっては、カバー12に予め形成してある外フランジ部12bの外周面をそれぞれの嵌合突起部10cの内周面に合致させた上で、その外フランジ部12bが外歯車部材10の側面に着座するようにカバー12全体を外歯車部材10に対して押し込むものとする。
【0051】
この場合、カバー12側の外フランジ部12bにはセレーション部が予め形成されていないので、カバー12を圧入する際に外フランジ部12bの外周面には各嵌合突起部10c側のセレーション部19が転写されるかたちで当該セレーション
部19に噛み合うかたちのセレーション部が同時成形される。これにより、外歯車部材10の側面に着座するように各嵌合突起部10cの内周側に圧入されたカバー12はいわゆる鋸歯状の凹凸嵌合をもって、すなわち、カバー12の外フランジ部12bが各嵌合突起部10c側のセレーション部19と凹凸嵌合することで回転不能に拘束されることになる。そして、セレーション部19と外フランジ部12
bの外周面の一部のみが圧入されているだけであるため、圧入時の抵抗を小さくでき、組付性が向上することになる。
【0052】
なお、各嵌合突起部10c側のセレーション部19はそれぞれの嵌合突起部10cの内周面の全長にわたって形成されていても良いが、カバー12の圧入時の抵抗が大きくなるので、
図11,13に示したように、各嵌合突起部10cの長手方向の中央部に所期の目的を達成できる程度に形成されていることが望ましい。また、各嵌合突起部10cの内周面とカバー12側の外フランジ部12bの外周面とがいわゆる凹凸嵌合できる構造であれば、その凹凸嵌合のための手段は必ずしもセレーション部に限定されるものではない。例えば、各嵌合突起部10cの内周面に予め単一の突起部が形成されていて、カバー12の圧入時にその単一の突起部が転写されるかたちで、カバー12側の外フランジ部12bの外周面に突起部に噛み合う凹部が形成されるものとしても良い。ただし、成形または加工の容易性等を考慮すると、凹凸嵌合のための手段は上記セレーション部19であること
が望ましい。
【0053】
その一方、各嵌合突起部10cの内側に外歯車部材10の側面よりも一段低い凹溝20が予め形成されていることにより、カバー12側の外フランジ部12bを各嵌合突起部10cの根元部まで確実に圧入することができ、カバー12の圧入完了状態において外フランジ部12bの周縁部が浮き上がったり、めくれ上がることがない。
【0054】
また、外歯車部材10における各嵌合突起部10cの内側へのカバー12の圧入に関連して、
図2,6に示すように、外歯車部材10における各嵌合突起部10cの外周側には、
図8に示したブラケット6側の係合部6bを有する取付穴6aが凹凸嵌合するかたちでカバー12と同心状に嵌め合わされ、外歯車部材10の側面に着座するように重ね合わされることは先に述べた通りである。
【0055】
この場合において、
図2,8に示したブラケット6側の取付穴6aの内周面が各嵌合突起部10cの外周面側に密着する一方、隣り合う嵌合突起部10c同士の間の空間に取付穴6a側の係合部6bが入り込んで当該空間を埋めるとともに、各係合部6bの先端面が圧入されたカバー12の外フランジ部12bの外周面に密着もしくは近接している。なお、係合部6bを含む取付穴6aの周縁部と各嵌合突起部10cとが溶接接合され、同様にカバー12における外フランジ部12bの周縁部と各嵌合突起部10cとが溶接接合されることもまた先に述べた通りである。
【0056】
これにより、
図6に示すように、外歯車部材10の側面において内周側に重ね合わされたカバー12と外周側に重ね合わされたブラケット6とが軸方向の同じ位置で径方向に並んで配置されているかたちとなる。そのため、カバー12の上にブラケット6が重ねて配置されている従来の構造に比べて、
図6に示すように、双方のブラケット6,7同士のなす離間距離Pを小さくすることができる。
【0057】
その結果として、車両用シートリクライニング装置のこじり力を小さくして、車両用シートリクライニング装置の耐久性もしくは強度の向上の寄与することができることになる。また、双方のブラケット6,7同士の離間距離Pが小さくなることで関節部を含む双方のフレーム同士のなす間隔を小さくしてその小型化を図ることができ、車室内の他の構造物との関係においてレイアウト的な制約を緩和することができるようになる。
【0058】
さらに、外歯車部材10の側面のうち外部に露出する部分は、
図6に示すように、実質的に各嵌合突起部10cの先端面とカバー12側の軸穴12aから臨む回転軸11の端面の一部のみとなる。そのため、カバー12やブラケット6の内側に溶接時のスパッタや異物が侵入するのを防止して、ヒンジユニット8の作動安定性を長期にわたって維持する上で有利となる。
【0059】
ここで、上記実施の形態では、ヒンジユニット8における内歯車部材9をバック側フレームのブラケット7に固定し、外歯車部材10をクッション側フレーム2a側のブラケット6に固定しているが、ブラケット6,7同士の相対位置関係は逆であっても良い。すなわち、互いに噛み合っている内歯車部材9と外歯車部材10との公転回転は相対的なものであることから、内歯車部材9をクッション側フレーム2aのブラケット6に、外歯車部材10をクッション側フレームのブラケット7にそれぞれ固定するようにしても所期の目的を達成することができる。また、ブラケット6はクッション側フレーム2aと一体に、ブラケット7はバック側フレームと一体にそれぞれ形成されていても良い。